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▶ ナロッデン、サロモンの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】心不全および心臓虚血再灌流障害の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/522 20060101AFI20230221BHJP
   A61B 18/18 20060101ALI20230221BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20230221BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230221BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20230221BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230221BHJP
   A61K 38/29 20060101ALI20230221BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20230221BHJP
   A61K 31/4985 20060101ALI20230221BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20230221BHJP
   A61K 31/045 20060101ALI20230221BHJP
   A61K 31/40 20060101ALI20230221BHJP
   C07D 487/04 20060101ALN20230221BHJP
   C07D 473/06 20060101ALN20230221BHJP
   C07D 207/16 20060101ALN20230221BHJP
   C07D 471/04 20060101ALN20230221BHJP
   C07J 53/00 20060101ALN20230221BHJP
【FI】
A61K31/522
A61B18/18
A61P9/04
A61P9/10
A61K45/06
A61P43/00 121
A61K38/29
A61K35/28
A61K31/4985
A61K31/519
A61K31/045
A61K31/40
C07D487/04 145
C07D473/06
C07D207/16
C07D471/04 117N
C07J53/00
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2019528748
(86)(22)【出願日】2017-11-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-09
(86)【国際出願番号】 GB2017053473
(87)【国際公開番号】W WO2018096319
(87)【国際公開日】2018-05-31
【審査請求日】2021-01-29
(31)【優先権主張番号】1619861.6
(32)【優先日】2016-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】519186196
【氏名又は名称】ナロッデン、サロモン
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ナロッデン、サロモン
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0297470(US,A1)
【文献】Ito, Yoshitaka et al.,Coronary Artery Disease,2010年08月,Vol. 21, No.5,pp. 304-311
【文献】J. Vainer et al.,Netherlands Heart Journal,2016年03月02日,Vol. 24, No.5,pp.343-349
【文献】Ihara, Madoka et al.,American Journal of Physiology: Heart and Circulatory Physiology,2015年05月15日,Vol. 308, No. 10,pp. H1287-H1297
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の
(a)心不全の治療もしくは予防、または
(b)心臓虚血再灌流障害の治療
における使用のための、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害剤を含有する医薬組成物であって、
(a)前記被験者は、体外心臓衝撃波療法を受けており、前記DPP-4阻害剤または前記医薬組成物は、前記衝撃波療法を行った後に投与される、あるいは、(b)前記被験者は、体外心臓衝撃波療法を受けるものであり、前記DPP-4阻害剤および/または前記医薬組成物は、前記衝撃波療法を行う前、行うのと同時、および/または行った後に投与されるものであり、
前記DPP-4阻害剤は、シタグリプチン、リナグリプチン、ビルダグリプチン、サキサグリプチン、アログリプチン、ゲミグリプチン、アナグリプチン、テネリグリプチン、トレラグリプチン、デュトグリプチン、または、オマリグリプチンである、医薬組成物。
【請求項2】
前記DPP-4阻害剤または前記医薬組成物は、個別的、同時的、または順次的な使用または投与のために、幹細胞を動員するのに適した薬理的作用薬との複合製剤として提供される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記幹細胞を動員するのに適した薬理的作用薬は、副甲状腺ホルモンまたはその断片である、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記副甲状腺ホルモンの断片は、テリパラチドを含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記DPP-4阻害剤または前記医薬組成物は、前記衝撃波療法を行う前に投与され、かつ、投与は、前記衝撃波療法が終わるまで継続される、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記幹細胞を動員するのに適した薬理的作用薬は、前記衝撃波療法を行う少なくとも8時間前に投与される、請求項2~5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記DPP-4阻害剤は、個別的、同時的、または順次的な使用または投与のために、幹細胞との複合製剤として提供される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記幹細胞は、骨髄由来の単核細胞に由来するものである、または骨髄由来の単核細胞を含むものである、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記幹細胞は、前記衝撃波療法を行う少なくとも8時間前に投与される、請求項6または7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記DPP-4阻害剤は、リナグリプチン、アナグリプチン、テネリグリプチン、トレラグリプチン、または、オマリグリプチンである、請求項1~9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記心不全は、慢性心不全または梗塞後心不全である、請求項1~10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記衝撃波療法は、約0.05~0.25mJ/mm2のエネルギーを有する衝撃波のパルスを加えることを含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記衝撃波療法は、衝撃波を少なくとも約500パルス加えることを含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記衝撃波療法は、1回分として、衝撃波を約500~2000パルス加えることを含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記衝撃波療法は、心臓周期の等容性収縮期中および/または等容性弛緩期中に、衝撃波のパルスを加えることを含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記衝撃波のパルスの焦点は、心臓の特定の領域を標的としている、請求項1~15のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記標的とされる心臓の領域は、心エコー検査(エコー)による可視化および/または心電図(ECG)によるパターン認識によって決定される、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記標的とされる心臓の領域は、磁気共鳴映像法によって決定される、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項19】
標的とされる心臓の特定の領域は、瘢痕組織を含む、請求項16~18のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記1回分の衝撃波のパルスは、2回以上に分けて加えられる、請求項1~19のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記DPP-4阻害剤は、リナグリプチンである、請求項1~20のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項22】
キットまたは製品であって、
(i)DPP-4阻害剤または前記DPP-4阻害剤を含む組成物と、
(ii)幹細胞を動員する薬理的作用薬、または前記薬理的作用薬および少なくとも1つの薬学的に許容される担体、希釈剤、もしくは賦形剤を含む医薬組成物とを含み、被験者の
(a)心不全の治療もしくは予防、または
(b)心臓虚血再灌流障害の治療
に、同時に、順次的に、または個別に用いられる複合製剤として使用され、(a)前記被験者は、体外心臓衝撃波療法を受けており、前記DPP-4阻害剤および/または前記薬理的作用薬は、前記衝撃波療法を行った後に投与される、あるいは、(b)前記被験者は体外心臓衝撃波療法を受けるものであり、前記DPP-4阻害剤および/または前記薬理的作用薬は、前記衝撃波療法を行う前、行うのと同時、および/または行った後に投与されるものであり、
前記DPP-4阻害剤は、シタグリプチン、リナグリプチン、ビルダグリプチン、サキサグリプチン、アログリプチン、ゲミグリプチン、アナグリプチン、テネリグリプチン、トレラグリプチン、デュトグリプチン、または、オマリグリプチンである、キットまたは製品。
【請求項23】
前記キットまたは製品は、心不全の治療用の追加的な薬剤もしくはグルコース、または前記追加的な薬剤および少なくとも1つの薬学的に許容される担体、希釈剤、もしくは賦形剤を含む医薬組成物を含む、請求項22に記載のキットまたは製品。
【請求項24】
(a)前記DPP-4阻害剤は、リナグリプチン、アナグリプチン、テネリグリプチン、トレラグリプチン、または、オマリグリプチンであり、
(b)前記幹細胞を動員する薬理的作用薬は、請求項3または4において定義されたものであり、および/または
(c)前記衝撃波療法は、請求項13~20のいずれかにおいて定義されたものである、請求項22または23に記載のキットまたは製品。
【請求項25】
前記DPP-4阻害剤は、リナグリプチンである、請求項22~24のいずれか1項に記載のキットまたは製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓疾患、特に心不全および心臓虚血再灌流障害の治療または発症予防における体外心臓衝撃波療法の使用に関する。特に、本発明は、薬剤(agents)、特にジペプチジルペプチダーゼ-4の阻害剤(DPP-4阻害剤)、および該薬剤を含む医薬組成物に関し、また、心不全や心臓虚血再灌流障害などの心疾患の治療または発症予防のための、衝撃波療法と組み合わせたこれらの使用に関する。これらの薬剤は、単独で有効であってもよいし、幹細胞動員剤(stem cell mobilizing agents)、特に副甲状腺ホルモンなどの傍分泌因子や、骨髄由来の単核細胞、特に造血前駆細胞などの幹細胞といった治療効果のある他の薬剤と組み合わせた場合に有効であってもよい。また、体外心臓衝撃波療法を単独で、または前記使用のための該薬剤と組み合わせて行うことを含む、治療法が提供される。これらの薬剤は、前記療法のための医薬品(medicaments)の製造または調製に用いられてもよい。
【背景技術】
【0002】
心不全は、英国の人口の1~2%に発症し、年齢とともに増加する(65歳未満で1%、75~84歳で6~7%、85歳を超えると12~22%)。英国における心不全の主な原因は、冠状動脈疾患(心不全患者の約70%)によるものであり、診断後の平均余命は3年で、これは多くの悪性腫瘍よりも悪く、心不全患者の約14%が診断後6ヶ月以内に亡くなっている。
【0003】
心不全は、入院数の5%、NHS予算の1~2%を占める。本症候群は、多大な保健上の負担および経済的な負担をもたらすだけでなく、生活の質にも悪影響を及ぼす。以後25年にわたって市民が年齢を重ねるにつれ、心不全による入院が50%増加すると推定されている。
【0004】
通常、冠状動脈性心臓疾患は、心筋梗塞(心臓発作)を引き起こし、心臓発作の患者を治療するための初回血管形成術やステントによって、患者の生存可能性は上昇するが、現実には心不全の罹患率は上昇している。この心不全の罹患率の上昇は、部分的には、最終的な梗塞面積の50%、および急性心不全の症状の25%を再灌流障害が占めるという事実に起因すると考えられる。
【0005】
薬物療法および電気生理学的介入の進歩にもかかわらず、鬱血性(慢性)心不全患者の多くは症状を呈したままであり、生活の質が低下し、予後は容認できないほど悪い。心臓移植または循環補助装置の埋め込みなどの根治治療が考慮され得る場合もあるが、利用可能な臓器は不足しており、心臓移植患者の10年生存率は約50%でしかない。
【0006】
心臓発作を起こした場合は、心筋梗塞によって心臓組織が極度な酸素不足に陥り、続く治療(例えば、閉塞の除去またはバイパス)によって組織の再灌流、ひいては心臓細胞への酸素の再供給が可能になる。しかしながら、細胞が極度な酸素不足に曝露された後、酸素が再供給された場合には、組織内の細胞の一部は、ある特定のストレス閾値を超えることになり、これによって、アポトーシスとして知られるプログラム細胞死の不可逆的なプロセスが開始される。細胞は、構造的に無傷である場合もあるが、長くは生存しないので、制御された様式で体内から取り除かれることになる。したがって、この「ストレス」状態は、心臓発作を起こした場合に共通であり、酸素不足/酸素の再供給によるストレス閾値を越えた心筋中の心筋細胞が瘢痕組織と入れ替わって、いわゆる心臓虚血再灌流障害が起こる。生存している心筋組織が失われることによって、心臓のポンプ機能が損なわれ、極端な状況では、心不全が引き起こされる。上述したように、このような患者の予後は悪い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
心臓の恒常性は、多分化能心臓幹細胞によって維持されており、この発生的柔軟性の可能性は、梗塞を起こした組織を、生存可能な前駆細胞を用いて再構成することによって、ヒトの心不全を予防および治療することに大いに期待を持たせる。実際、細胞療法によって、心筋梗塞の後、機能の改善を行うことができる。例えば、静脈注射、冠動脈内注射、経心内膜注射、および心筋内注射などの種々の外科的方法によって、不全心臓に幹細胞が直接投与されている。しかしながら、心臓機能の改善について今日までに観察されたのは、わずかである。これは、心臓内にとどまる細胞が少ないこと、細胞の生存性が低いこと、および/または1回の投与では、左心室の機能の持続的な改善を促進するには不十分であるという事実によるものであり得る。また、このような侵襲的な手法には、特に、侵襲的な心臓手術に関連する潜在的に致死の合併症のような、多くの欠点が存在する。実際、幹細胞の外科的投与は、部分的には幹細胞の産生プロセスのために、高価で、多くの時間を必要とする。
【0008】
したがって、心不全に対して新規の治療的アプローチが必要とされる。特に、心臓発作患者における心筋細胞死を阻止する方法は、有利には、心不全の可能性を低下させ、心不全患者または心不全の恐れがある患者の予後を改善し得る。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に至る研究において、驚くべきことに、低酸素心筋細胞を低エネルギー衝撃波に曝露することによって、アポトーシスから救うことができるということが判明した。特に、発明者は、低酸素心筋細胞を衝撃波で処理することによって、プロテインキナーゼB(Aktとしても知られている)のリン酸化、すなわち活性化が亢進することを立証した。Aktは、アポトーシスの重要な調節物質であり、活性化されたAktは、Bcl-2ファミリーの一員であるBad、Bax、カスパーゼ-9、GSK-3、およびFoxO1などの種々のアポトーシス促進タンパク質をリン酸化して阻害する。しかしながら、PI3K/Akt経路の阻害剤(LY294002)を適用した場合、衝撃波を利用することによる抗アポトーシス効果に影響はなく、すなわち、衝撃波による処理の抗アポトーシス効果は、PI3K/Akt経路とは無関係である(実施例5を参照)。さらに、発明者は、抗アポトーシス性であることが知られているSDF1の発現は、衝撃波に曝露された心筋細胞において増加しないということを証明した。しかしながら、興味深いことに、全心臓組織を衝撃波処理すると、SDF1、MCP1、ANG1、VEGF-A、NOS3、およびTAC-1などの種々の抗アポトーシス性タンパク質が増加する。これらの知見によって、発明者は、種々の心疾患、特に低酸素状態後の正常酸素状態による損傷、すなわち、心臓虚血再灌流障害の治療において、衝撃波療法を用いる、種々の心疾患の治療のための新規療法を提案するに至った。
【0010】
したがって、本発明は、概して、心臓組織(例えば、心筋細胞)内の細胞のアポトーシス(すなわち、細胞死)を低減または最小限に抑制する方法および薬剤に関する。より具体的には、本発明は、心臓細胞、特に、心筋細胞のアポトーシスを阻害、予防、または最小限に抑制するための、衝撃波療法(すなわち、体外心臓衝撃波療法)の単独での使用、または他の治療法、特に、薬物療法または薬理療法と組み合わせた使用(本明細書においては「組み合わせ療法」または「複合療法」と称する)に関する。さらに、このような治療法および薬剤は、心臓組織および心臓機能を修復および/または回復するために、細胞療法と組み合わせられてもよい。
【0011】
例えば、本発明は、補助治療として体外心臓衝撃波療法を行うことによって、特に冠動脈形成術およびステント植え込み術と並行して急性心筋梗塞を起こした被験者(subjects)を治療する方法を提供する。心筋梗塞が起こった後、可能な限り早く本発明の体外心臓衝撃波療法を開始することが有利である。しかしながら、急性血管再生に適さない、または該手順に対して禁忌である、遅れて入院した患者の場合は、本発明の体外心臓衝撃波療法は単独で用いられてもよい。理論に拘束されることを望むものではないが、本発明の体外心臓衝撃波療法は、アポトーシスを防止することで残りの心筋細胞の進行的な減少を遅らせ得るものであり、すなわち、梗塞が確定されている患者において、有利には、心不全の可能性を予防、低減、または最小限に抑制し得る。
【0012】
したがって、最も広義には、本発明は、心臓組織における細胞のアポトーシスを低減、予防、または最小限に抑制する方法であって、該心臓組織に衝撃波療法を行うことを含む、方法を提供することとみなすことができる。特に、本発明は、心臓組織(例えば、心臓)における心筋細胞のアポトーシスを低減、予防、または最小限に抑制する方法であって、該心臓組織(例えば、心臓)に衝撃波療法を行うことを含む、方法を提供する。
【0013】
別の観点では、本発明は、心臓組織における細胞のアポトーシスを低減、予防、または最小限に抑制するのに用いる衝撃波療法に関する。特に、本発明は、心臓組織(例えば、心臓)における心筋細胞のアポトーシスを低減、予防、または最小限に抑制するのに用いる衝撃波療法であって、該心臓組織(例えば、心臓)に衝撃波療法を行うことを含む、衝撃波療法に関する。
【0014】
上述したように、本発明の衝撃波療法は、インビトロにおける心筋細胞に対する抗アポトーシス療法として、例えば、インビトロにおける心筋細胞のアポトーシスを予防、低減、または最小限に抑制するのに有効であることがわかった。そのため、本発明は、インビトロ(例えば、人工組織または合成組織を生産するための心筋細胞の培養などの培養)またはエキソビボ(例えば、被験者から取り出された心臓組織、例えば、移植のための、心臓または弁などの心臓組織)における心筋細胞のアポトーシスを予防、低減、または最小限に抑制する新規の方法および手段を提供するものとみなされてもよい。
【0015】
特に好ましい態様において、本発明は、インビボ、すなわち被験者における、心筋細胞のアポトーシスを予防、低減、または最小限に抑制する新規の方法および手段を提供する。例えば、本発明は、例えば心臓虚血再灌流障害および/または心不全を低減、予防、または最小限に抑制するために、あるいは別の観点では、心不全患者の予後を改善するために、心筋梗塞を起こした被験者を治療するのに用いられる、心筋細胞のアポトーシスを予防、低減、または最小限に抑制する方法および手段を提供する。この点において、衝撃波療法は、インビボ(すなわち、治療を受ける被験者)における細胞(例えば、心筋細胞)の生存能力に影響を及ぼすために、インビボにおいて行われる必要はないということが明らかであろう。したがって、本発明の好ましい実施形態では、衝撃波療法は被験者の体外で行われ、すなわち、衝撃波は非侵襲的に加えられる。別の観点では、本発明の衝撃波療法は、好ましくは体外心臓衝撃波療法である。
【0016】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、心臓虚血再灌流障害を治療、予防、または最小限に抑制する方法であって、体外心臓衝撃波療法を必要としている被験者に対して体外心臓衝撃波療法を行うことを含む、方法を提供するものとみなされてもよい。したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、心不全を患う被験者、または心不全の恐れがある被験者の予後を改善する方法であって、該被験者に体外心臓衝撃波療法を行うことを含む、方法を提供するものとみなされてもよい。上述したように、血管形成療法およびステント植え込み療法と組み合わせて、本方法を用いることができる。
【0017】
別の観点では、本発明は、心臓虚血再灌流障害を治療、予防、または最小限に抑制するのに用いられる体外心臓衝撃波療法を提供する。したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、心不全を患う被験者、または心不全の恐れがある被験者の予後を改善するのに用いられる体外心臓衝撃波療法を提供するものとみなされてもよい。
【0018】
また別の実施形態では、本発明は、心臓虚血再灌流障害を治療、予防、または最小限に抑制するための体外心臓衝撃波療法の使用を提供する。したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、心不全を患う被験者、または心不全の恐れがある被験者の予後を改善するための体外心臓衝撃波療法の使用を提供するものとみなされてもよい。
【0019】
上述したように、発明者は、心臓組織を衝撃波に曝露することによって、種々のケモカイン、特に、SDF-1(間質細胞由来因子1、C-X-Cモチーフケモカイン12(CXCL12)としても知られている)、MCP1(単球走化性タンパク質1、CCL2としても知られている)、P物質、およびIGF1(インスリン様成長因子1)などの生存促進性ケモカインの分泌が増加する、すなわち、衝撃波によって、心臓組織において生存促進性の「セクレトーム」が増加するということを立証した。特に、このセクレトームは、1つ以上のケモカインを含有する、細胞由来の小胞などの1つ以上のエキソソームの形態であってもよいと考えられる。生存促進性セクレトーム(またはエキソソーム)の増加では、心筋細胞に対する衝撃波の抗アポトーシス効果を説明できないが、これらの生存促進性ケモカインの増加によって、心臓虚血および再灌流に関連するストレス状態にさらされた心臓細胞の生存性が、向上し得ると考えられる。しかしながら、特に、ケモカインの代謝回転が速いということは、衝撃波療法によって増加した生存促進性セクレトームは一過性のものであるということを意味しており、これは、上述した衝撃波療法の効果を最大化するためには、衝撃波による処理を繰り返し行う必要があるということを意味する。しかしながら、いくつかの例においては、衝撃波療法の繰り返しは、実現困難である、または実現困難になる場合がある。一般に、診療所を繰り返し定期的に訪れることは、患者および医療従事者の双方にとって負担となるので、その必要がないことが好ましい。また、衝撃波による処理の繰り返しが不快感をもたらし、治療を行わなくなる場合があり、治療の全体的な効能が低下する場合がある。
【0020】
ケモカインの代謝回転の速さは、ケモカインの分解および/または失活の結果である。インビボにおけるケモカインの分解には、アデノシンデアミナーゼ結合タンパク質2または分化抗原群26(CD26)としても知られているジペプチジルペプチダーゼIV(DPP-IVまたはDPP-4)などの種々の酵素が関わっている。DPP-4は、ほとんどの細胞種においてその表面に発現される抗原性酵素である。内在性膜糖タンパク質であり、ポリペプチドのN末端からジペプチドであるX-プロリンを切断するセリンエキソペプチダーゼである。したがって、DPP-4の基質の範囲は幅広く、SDF-1、MCP1、P物質、およびIGF1も含まれる。
【0021】
そのため、発明者は、衝撃波療法によって誘導されたケモカインの分解および/または失活を低減、予防、または最小限に抑えるために、すなわち、衝撃波療法によってもたらされた心臓組織の生存促進性セクレトーム(1つ以上のエキソソームの形態であってもよい)の半減期を引き延ばすために、有利には、衝撃波療法を1つ以上のプロテアーゼ阻害剤と組み合わせてもよいということを確認した(本明細書においては「組み合わせ療法」または「複合療法」と称する)。例えば、DPP-4阻害剤は当該技術分野において周知されており、上述した衝撃波療法およびその使用と容易に組み合わせることができる。したがって、DPP-4阻害剤は、上述した方法および使用における衝撃波療法の効果を増強し得る、すなわち、心臓組織、特に心筋細胞に対する衝撃波の抗アポトーシス効果を増強または向上し得るものであり、これによって、心臓虚血再灌流障害の治療を改善する、あるいは心臓虚血および再灌流による心臓組織、特に心筋の損傷を最小限に抑制または予防し、例えば、心不全を患う被験者、または心不全の恐れがある被験者の予後をさらに改善する。特に、複合療法(組み合わせ療法)は、最終的な梗塞のサイズを低減し、かつ/または心不全の進行を予防、阻害、もしくは抑制するように機能し得る。そのため、いくつかの実施形態では、本発明は、心不全を治療もしくは予防する方法、または心臓虚血再灌流障害を治療する方法であって、必要とする被験者に対して、体外心臓衝撃波療法を行うことと、DPP-4阻害剤または該阻害剤を含む医薬組成物を投与することとを含む、方法を提供し、該方法では、該阻害剤または組成物は、該衝撃波療法を行う前、行うのと同時、および/または行った後に投与される。したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、心不全を患う被験者、または心不全の恐れがある被験者の予後を改善する方法であって、必要とする被験者に対して、体外心臓衝撃波療法を行うことと、DPP-4阻害剤または該阻害剤を含む医薬組成物を投与することとを含む、方法を提供し、該方法では、該阻害剤または組成物は、該衝撃波療法を行う前、行うのと同時、および/または行った後に投与される。
【0022】
別の観点では、本発明は、被験者の
(a)心不全の治療もしくは予防、または
(b)心臓虚血再灌流障害の治療
における使用のための、DPP-4阻害剤、または該阻害剤を含有する医薬組成物を提供し、該被験者は、体外心臓衝撃波療法を受けており、該阻害剤または組成物は、該衝撃波療法を行う前、行うのと同時、および/または行った後に投与される。したがって、本発明は、心不全を患う被験者、または心不全の恐れがある被験者の予後を改善するのに用いられる、DPP-4阻害剤、または該阻害剤を含有する医薬組成物を提供し、該被験者は、体外心臓衝撃波療法を受けており、該阻害剤または組成物は、該衝撃波療法を行う前、行うのと同時、および/または行った後に投与される。
【0023】
さらなる実施形態では、本発明は、被験者の
(a)心不全の治療もしくは予防、または
(b)心臓虚血再灌流障害の治療
のための医薬品の製造における、DPP-4阻害剤、または該阻害剤を含有する医薬組成物の使用を提供し、該被験者は、体外心臓衝撃波療法を受けており、該医薬品は、該衝撃波療法を行う前、行うのと同時、および/または行った後に投与される。したがって、本発明は、心不全を患う被験者、または心不全の恐れがある被験者の予後を改善するための医薬品の製造における、DPP-4阻害剤、または該阻害剤を含有する医薬組成物の使用を提供し、該被験者は、体外心臓衝撃波療法を受けており、該阻害剤または組成物は、該衝撃波療法を行う前、行うのと同時、および/または行った後に投与される。
【0024】
有利には、発明者は、衝撃波による処理とDPP-4阻害剤による治療法との組み合わせが、心臓組織における血管形成を促進するようにも機能し、これは、心不全(例えば、慢性虚血性心臓疾患もしくは慢性心筋虚血)または心臓虚血再灌流障害を患う被験者の治療に特に有利な場合があるということも確認した。
【0025】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、被験者の心臓組織における血管形成を誘導(例えば、増加または改善)する方法であって、該被験者に対して、体外心臓衝撃波療法を行うことと、DPP-4阻害剤または該阻害剤を含む医薬組成物を投与することとを含む、方法を提供し、該方法では、該阻害剤または組成物は、該衝撃波療法を行う前、行うのと同時、および/または行った後に投与される。特に好ましい実施形態では、被験者は、心不全(例えば、慢性虚血性心臓疾患もしくは慢性心筋虚血)または心臓虚血再灌流障害を患う。
【0026】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、被験者の心臓組織における血管形成を誘導することによって該被験者の心不全(例えば、慢性虚血性心臓疾患もしくは慢性心筋虚血)を治療もしくは予防する、または心臓虚血再灌流障害を治療する、方法を提供し、該方法は、必要とする被験者に対して、体外心臓衝撃波療法を行うことと、DPP-4阻害剤または該阻害剤を含む医薬組成物を投与することとを含み、該方法では、該阻害剤または組成物は、該衝撃波療法を行う前、行うのと同時、および/または行った後に投与される。
【0027】
別の観点では、本発明は、被験者(例えば、心不全(例えば、慢性虚血性心臓疾患もしくは慢性心筋虚血)または心臓虚血再灌流障害を患う被験者)の心臓組織における血管形成を誘導するのに用いられる、DPP-4阻害剤または該阻害剤を含有する医薬組成物を提供し、該被験者は、体外心臓衝撃波療法を受けており、該阻害剤または組成物は、該衝撃波療法を行う前、行うのと同時、および/または行った後に投与される。したがって、本発明は、被験者の心臓組織における血管形成を誘導することによって該被験者の心不全(例えば、慢性虚血性心臓疾患もしくは慢性心筋虚血)を治療もしくは予防する、または心臓虚血再灌流障害を治療するのに用いられる、DPP-4阻害剤または該阻害剤を含有する医薬組成物を提供し、該被験者は、体外心臓衝撃波療法を受けており、該阻害剤または組成物は、該衝撃波療法を行う前、行うのと同時、および/または行った後に投与される。
【0028】
さらなる実施形態では、本発明は、被験者(例えば、心不全(例えば、慢性虚血性心臓疾患もしくは慢性心筋虚血)または心臓虚血再灌流障害を患う被験者)の心臓組織における血管形成を誘導する医薬品の製造における、DPP-4阻害剤または該阻害剤を含有する医薬組成物の使用を提供し、該被験者は、体外心臓衝撃波療法を受けており、該医薬品は、該衝撃波療法を行う前、行うのと同時、および/または行った後に投与される。したがって、本発明は、被験者の心臓組織における血管形成を誘導することによって該被験者の心不全(例えば、慢性虚血性心臓疾患もしくは慢性心筋虚血)を治療もしくは予防する、または心臓虚血再灌流障害を治療する、医薬品の製造における、DPP-4阻害剤または該阻害剤を含有する医薬組成物の使用を提供し、該被験者は、体外心臓衝撃波療法を受けており、該阻害剤または組成物は、該衝撃波療法を行う前、行うのと同時、および/または行った後に投与される。
【0029】
被験者の心臓組織における血管形成を誘導するための上述した方法および使用は、心不全を患う被験者、または心不全の恐れがある被験者の予後を改善するのに用いられてもよいということは明らかであろう。
【0030】
幹細胞は、心臓発作および/または心不全、特に、虚血再灌流障害による心不全を患う患者に有利であり得る抗アポトーシス効果を有する傍分泌因子を分泌することも知られている。しかしながら、上述したように、幹細胞の心臓への投与は、非常に侵襲的かつ高価であり、とどまる細胞は少ない。また、上述した衝撃波療法(複合療法を含む)は、心筋梗塞による心臓組織の損傷、例えば心臓虚血再灌流障害による損害を最小限に抑制し得るが、駆出率の改善という観点からいえば、心臓に機能的有益性をもたらすものではなく、すなわち、上述した衝撃波療法は、心臓機能の回復、または心筋梗塞による損傷、例えば心臓虚血再灌流障害による損害の修復を、行うものではない。
【0031】
したがって、発明者は、心筋梗塞に関連したストレス状態、例えば虚血再灌流障害の結果死んでしまった心臓細胞、特に心筋細胞と入れ替わることができる幹細胞または前駆細胞を被験者に提供することによって、上述した本発明の方法および使用をさらに増強し得るということを、さらに確認した。この点において、衝撃波に曝露された際に心臓組織において誘導される生存促進性セクレトーム(1つ以上のエキソソームの形態であってもよい)は、損傷した組織に幹細胞を誘因または動員するように機能し得、これによって、心臓内にとどまる細胞を増大させ、損傷した組織の効果的な修復を可能にする(すなわち、失われた心臓機能を、少なくともいくらかは回復させる)。換言すると、本発明の衝撃波療法は、幹細胞が心臓組織内にとどまることを促進または増強し、その後、心臓組織内での該細胞の生着を促進または増強する環境を提供するものとみなされてもよい。上述したように、幹細胞は、例えば静脈注射、冠動脈内注射、経心内膜注射、および/または心筋内注射によって、心臓組織に直接投与され得るが、以下の説明から、本発明によって、幹細胞の侵襲的投与の必要性が排除されることは明らかであろう。
【0032】
この点において、幹細胞が心臓組織内にとどまることを促進または増強する環境を提供することに加えて、本発明の衝撃波療法によって誘導される心臓組織セクレトーム(1つ以上のエキソソームの形態であってもよい)は、心臓以外の箇所から幹細胞を誘因または動員するように、例えば、血液中に存在する幹細胞を誘因または動員するように、機能し得る。換言すると、本発明の方法は、幹細胞の心臓へのホーミングを促進し得る。これによって、幹細胞を非侵襲的に、すなわち、末梢血循環系への注入などの心臓以外の箇所への注入によって、投与することが可能になり得る。したがって、本発明は、開心術を不要とし、例えば、冠状動脈血液供給へのカテーテルを用いて、幹細胞を心臓へ直接注入することは、必要ではない。
【0033】
有利には、本発明は、内因性の幹細胞、例えば、治療を受ける被験者の血液中に存在する幹細胞の使用を支持する。したがって、いくつかの実施形態では、本発明の衝撃波療法によって、末梢循環系における幹細胞の心臓組織への非侵襲的なホーミング(すなわち、動員およびその後の生着)がもたらされる。この点において、例えば、以下でより詳しく述べる副甲状腺ホルモンなどの薬理学的幹細胞動員剤を用いて、血液中に存在する幹細胞の数を増加させることが有用な場合がある。
【0034】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明の方法は、該被験者に対して、副甲状腺ホルモンまたはその断片などの薬理学的幹細胞動員剤を投与することをさらに含んでいてもよい(いわゆる組み合わせ療法)。
【0035】
別の観点では、阻害剤(例えば、DPP-4阻害剤)または該阻害剤を含む医薬組成物が、被験者への個別的、同時的、または順次的な使用または投与のために、副甲状腺ホルモンまたはその断片などの薬理学的幹細胞動員剤との複合製剤として提供される(いわゆる組み合わせ療法)。したがって、またさらなる実施形態では、本発明は、被験者への個別的、同時的、または順次的な使用または投与のための、副甲状腺ホルモンまたはその断片などの薬理学的幹細胞動員剤との複合製剤の製造における、阻害剤(例えば、DPP-4阻害剤)または該阻害剤を含む医薬組成物の使用を提供する(いわゆる組み合わせ療法)。
【0036】
ある被験者(すなわち、患者)においては、被験者から(例えば、治療開始前に)幹細胞を採取し、例えば、以下でより詳しく述べる衝撃波療法の前の最適な時に、被験者に(例えば、末梢循環系への注入によって)該細胞を投与することが有利な場合がある。例えば、被験者が、幹細胞を動員するのに用いられる副甲状腺ホルモンなどの薬剤に応答しない場合、またはこのような薬剤が禁忌である場合、被験者から幹細胞を採取または取得することが必要な場合がある。ある実施形態においては、投与前に、インビトロにおいて幹細胞集団を増殖させること(すなわち、インビトロにおいて、被験者の内因性の幹細胞を培養すること)が有用な場合がある。このような増殖方法は、当該技術分野において周知されている。
【0037】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明の方法は、前記被験者に幹細胞を投与することをさらに含んでいてもよい(いわゆる組み合わせ療法)。特に、本方法は、投与前に、被験者(例えば、治療を受ける被験者)から幹細胞を取得または採取し、場合によっては、インビトロにおいて幹細胞集団を増殖させるステップを含んでいてもよい。
【0038】
別の観点では、阻害剤(例えば、DPP-4阻害剤)または該阻害剤を含む医薬組成物が、被験者への個別的、同時的、または順次的な使用または投与のために、幹細胞との複合製剤として提供される(いわゆる組み合わせ療法)。したがって、またさらなる実施形態では、本発明は、被験者への個別的、同時的、または順次的な使用または投与のための、幹細胞との複合製剤の製造における、阻害剤(例えば、DPP-4阻害剤)または該阻害剤を含む医薬組成物の使用を提供する(いわゆる組み合わせ療法)。
【0039】
したがって、いくつかの実施形態では、幹細胞を前記被験者から取得し、場合によっては、投与前にインビトロにおいて増殖させる。したがって、いくつかの実施形態では、幹細胞は、例えば自家幹細胞(autogeneic stem cells)などの、外因性の幹細胞である。
【0040】
またさらなる実施形態では、幹細胞は、副甲状腺ホルモンまたはその断片などの、幹細胞を動員するのに適した薬理的作用薬と組み合わせて用いられてもよい(いわゆる組み合わせ療法)。
【0041】
いくつかの例では、供与被験者由来の幹細胞を用いることが望ましい場合、または必要な場合がある。したがって、いくつかの実施形態では、本方法は、治療を受ける被験者への投与前に、供与被験者から幹細胞を取得または採取し、場合によっては、インビトロにおいて幹細胞集団を増殖させるステップを含んでいてもよい。したがって、いくつかの実施形態では、幹細胞は、外因性の供与幹細胞、すなわち、同種幹細胞である。
【0042】
被験者から取得または採取した幹細胞は、即時の投与には適さない場合がある、すなわち、投与前に、幹細胞を改変することが必要または有利な場合があるということは、明らかであろう。例えば、上記のように、投与用の幹細胞の数を増やすためにインビトロにおいて幹細胞を増殖させる、または培養することが有用な場合がある。追加または代替として、投与前に、異なる幹細胞種を単離または分離することが有用な場合がある。さらに、いくつかの実施形態では、本発明の方法および使用において用いるのにより適したものとなるように細胞の分化を起こさせるように、幹細胞を処理してもよく、例えば、本発明の治療法において特に有利な場合がある、以下で述べるようなM2cマクロファージ細胞などの細胞種へと細胞の分化を起こさせるように、幹細胞を処理してもよい。例えば、幹細胞を採取または取得するステップは、被験者(例えば、治療を受ける被験者または供与被験者)から骨髄由来の単核細胞などの血液前駆細胞を単離することと、インビトロにおいて、以下でより詳しく述べる好ましい幹細胞または幹細胞集団に適した条件下で該細胞を培養することとを含んでいてもよい。しかしながら、いくつかの実施形態では、血液前駆細胞はインビトロにおいて分化せず、すなわち、いくつかの実施形態では、本発明の方法および使用における投与用の幹細胞は、骨髄由来の単核細胞などの血液前駆細胞である。
【0043】
以下の実施例においてより詳しく述べるように、発明者は、血管内皮細胞を衝撃波に曝露することによって、SDF-1の遺伝子発現が素早くかつ一時的に上昇するということを確認した。SDF-1の最大発現が見られるのは、衝撃波への曝露から2~6時間の間、すなわち約4時間後であり、24時間の時点でベースライン水準まで戻っている。類似の発現パターンが、心臓線維芽細胞におけるVEGFAおよびMCP1の場合でも観察され、この場合、最大発現が観察されるのは、衝撃波への曝露から約3時間後である。しかしながら、衝撃波への曝露によって線維芽細胞におけるSDF-1の発現は上昇するが、衝撃波への曝露から少なくとも24時間後まで最大発現が見られないといった、発現の抑制がある。
【0044】
上述したように、衝撃波療法によって誘導されるセクレトーム(1つ以上のエキソソームの形態であってもよい)は、幹細胞を心臓組織に動員し、これらが該組織にとどまることを増強するように作用し得ると考えられる。そのため、いくつかの実施形態では、衝撃波療法の前に、幹細胞および/または幹細胞の薬理学的動員剤を投与することが有利な場合がある。例えば、幹細胞および/または幹細胞の薬理学的動員剤は、衝撃波療法の少なくとも8時間前、例えば、衝撃波療法の少なくとも12時間前、少なくとも16時間前、少なくとも20時間前、少なくとも24時間前に、投与されてもよい(すなわち、このような投与のためのものであってもよい)。いくつかの実施形態では、幹細胞および/または幹細胞の薬理学的動員剤は、衝撃波療法の少なくとも24時間前、少なくとも30時間前、少なくとも36時間前、少なくとも42時間前、または少なくとも48時間前に投与されてもよい(すなわち、このような投与のためのものであってもよい)。
【0045】
いくつかの実施形態では、衝撃波療法の直後、すなわち、衝撃波療法を行った後できるだけすぐに、幹細胞および/または幹細胞の薬理学的動員剤を投与することが有用な場合がある。これは、上述した前投与に追加されてもよいし、別実施形態とされてもよい。すなわち、いくつかの実施形態では、幹細胞および/または幹細胞の薬理学的動員剤は、衝撃波療法の前に投与されない。衝撃波療法の直後の、または衝撃波療法を行った後できるだけすぐの投与とは、衝撃波療法が完了した後、数分または数時間以内、例えば、衝撃波療法完了後、すなわち、1回分、例えば500~2000パルスの衝撃波療法の完了後、5分以内、10分以内、15分以内、20分以内、30分以内、45分以内、60分以内、90分以内、または120分以内を意味する。例えば、衝撃波療法完了後、1時間以内、2時間以内、3時間以内、4時間以内、5時間以内、6時間以内、7時間以内、8時間以内、9時間以内、10時間以内、11時間以内、または12時間以内に、投与が行われてもよい。さらに以下で述べるように、いくつかの実施形態では、1回分(dose)の衝撃波療法の(例えば500~2000)パルスは、2回(session)以上にわたって加えられてもよく、すなわち、1回分の衝撃波療法は、中断されてもよい。したがって、いくつかの実施形態では、幹細胞および/または幹細胞の薬理学的動員剤は、衝撃波療法の途中、例えば、1回分の衝撃波を加えることを中断している間に、投与されてもよい。
【0046】
「衝撃波療法」および「体外衝撃波療法」(ESWT)なる語は、本明細書において交換可能に用いられ、音波に類似した、典型的には電磁コイルで発生する機械的エネルギー(音響圧力波)の高振幅パルスを加えることをいう。特に、ESWTとは、「低エネルギー」衝撃波の使用のことをいう。この点において、「高エネルギー」衝撃波は、腎結石の非侵襲的な治療である、「体外衝撃波砕石術」(ESWL)で用いられるものとして定義されてもよい。したがって、本発明で用いられる「低エネルギー」衝撃波は、ESWLで用いられる衝撃波とは異なるものである。
【0047】
したがって、低エネルギー衝撃波は、約0.01~0.50mJ/mm2(約0.1~5Bar)のエネルギーを有する衝撃波として定義されてもよい。対照的に、高エネルギー衝撃波は、少なくとも0.85mJ/mm2(約8.5Bar)のエネルギーを有する衝撃波として定義されてもよい。したがって、好ましい実施形態では、本発明で用いられる低エネルギー衝撃波は、約0.01~0.45mJ/mm2、例えば、0.02~0.40、0.03~0.35、0.04~0.30、または0.05~0.25mJ/mm2(約0.1~4.5Bar、例えば、0.2~4、0.3~3.5、0.4~3.0、または0.5~2.5Bar)のエネルギーを有する。例えば、本発明で用いられる低エネルギー衝撃波は、約0.05、0.10、0.15、0.2、または0.25mJ/mm2(約0.5、1、1.5、2、または2.5Bar)のエネルギーを有する。
【0048】
当該技術分野において公知の適切な手段を用いて、低エネルギー衝撃波を加え得る。例えば、デュオリス(DUOLITH)(登録商標)SD1砕石機などの電気水力学体外衝撃波砕石機を用いて、衝撃波療法を行い得る。
【0049】
実施例には、放射状衝撃波を発生する装置を用いて、インビトロにおいて衝撃波を加えることが記載されている。放射状衝撃波は、広い表面積にわたって広がり、そのため、深部組織を貫通することはない。したがって、放射状衝撃波は、典型的には、筋筋膜性疼痛症候群などの表面に近い病変の治療に利用される。そのため、放射状衝撃波は、深部貫通が必要とされないインビトロにおける実験に特に適している。対照的に、本発明の方法および使用は、典型的には、心臓などの深部組織を貫通できる収束衝撃波を発生することができる装置を用いる。収束衝撃波の焦点は、組織の特定の領域を標的とすることができるほどに小さい。放射状衝撃波および収束衝撃波のいずれも、類似の生物学的応答、すなわち、細胞および組織において類似の応答を生じる「圧力波」である。したがって、本発明との関連において、放射状衝撃波と収束衝撃波との間の主な相違は、貫通する組織の深さに関する。そのため、本発明の好ましい態様では、本発明の方法および使用において用いられる衝撃波は、収束衝撃波である。
【0050】
「体外」なる語は、体の外部で衝撃波を発生させ、例えばパッドから、皮膚を介して伝達させることを意味する。
【0051】
衝撃波療法は、低エネルギー衝撃波を複数パルス加えることを含む。例えば、いくつかの実施形態では、衝撃波療法(すなわち、1回分の低エネルギー衝撃波)は、衝撃波を少なくとも約500パルス、例えば、衝撃波を少なくとも750パルス、少なくとも1000パルス、少なくとも1100パルス、少なくとも1200パルス、少なくとも1300パルス、少なくとも1400パルス、少なくとも1500パルス、少なくとも1600パルス、少なくとも1700パルス、少なくとも1800パルス、少なくとも1900パルス、または少なくとも2000パルス、加えることを含む。したがって、いくつかの実施形態では、衝撃波療法は、約500~2000パルス、例えば、600~1900パルス、700~1800パルス、800~1700パルス、900~1600パルス、または1000~1500パルス加えることを含む。
【0052】
本発明で用いられる衝撃波療法は、体外心臓衝撃波療法であり、これは、以下でより詳しく述べるように、衝撃波を心臓組織に集中させることを意味する。特に、衝撃波のパルスは、心臓周期の等容性収縮期中および/または等容性弛緩期中に伝えられる(すなわち、加えられる)。したがって、いくつかの実施形態では、衝撃波療法は、心臓周期の等容性収縮期中および/または等容性弛緩期中に、衝撃波のパルス(すなわち、1以上のパルス)を加えることを含む。
【0053】
等容性(等容)収縮期は、心室が容積を変化することなく(等容的に)収縮する、収縮早期における時間である。収縮時のこの短い期間は、心臓の弁がすべて閉じた瞬間に発生する。
【0054】
等容性弛緩時間(IVRT)期とは、心臓周期において、大動脈弁が閉じてから、僧帽弁が開くことで流入が開始するまでの期間のことをいう。
【0055】
衝撃波の複数パルスが、心拍数に応じて、等容性収縮期中および/または等容性弛緩期中に伝えられてもよいということは明らかであろう。そのため、治療期間(すなわち、1回分の衝撃波、例えば500~2000パルスを伝える(加える)のに必要な時間)は、治療を受ける被験者の心拍数に依存するであろう。それにもかかわらず、いくつかの実施形態では、衝撃波のすべてのパルス(例えば、500~2000パルス)が、4時間以内、好ましくは3時間または2時間以内、例えば1時間以内に加えられることが好ましい。いくつかの例では、例えば患者の不快感のために、1回で衝撃波のすべてのパルス(すなわち、1回分の衝撃波のパルス)を加えることが不可能な場合がある。したがって、いくつかの実施形態では、衝撃波のパルスは、複数回に分けて加えられ、すなわち、500~2000パルスが、複数回にわたって加えられる。好ましくは、すべての回を上記の期間内、すなわち、4時間以内に行う。
【0056】
衝撃波のパルスは、心臓の罹病部位または罹病領域(例えば、梗塞を起こした組織)およびその周辺の心臓組織に伝えられる(すなわち、加えられる)。いくつかの実施形態では、衝撃波のパルスの焦点は、心臓組織の特定領域、すなわち、罹病部位を標的としてもよい。
【0057】
ある状況下、例えば、被験者が心筋梗塞を起こしているような深刻な状況の場合には、罹病(梗塞)部位の正確な位置を判定する、すなわち、罹病部位を位置付けるのに十分な時間はない。したがって、いくつかの実施形態では、罹病部位または病変(例えば、梗塞)部位の位置は、一般的に、心電図(ECG)によるパターン認識および/または心エコー検査(エコー)による可視化(すなわち、心臓の超音波検査図である、心臓エコー)を用いて判定され得る。したがって、いくつかの実施形態では、衝撃波療法の標的とされる心臓(すなわち、心臓組織)の領域(すなわち、衝撃波のパルスの焦点が標的とする領域)は、心エコー検査(エコー)による可視化および/またはECGによるパターン認識によって決定される。
【0058】
ある場合、例えば、慢性的な状況(例えば、心不全を患う被験者の治療)の場合、または心筋梗塞が起こってから患者の状態が安定した後では、心臓の罹病部位(例えば、梗塞を起こした組織および/または瘢痕組織)の位置は、心臓の磁気共鳴映像法(MRI)を用いて正確に判定され得る。特に、危険な状態にある領域や救命指標を決定したり、他の機能的指標を測定したりするために、心臓のMRIを用い得る。心臓のMRIは、理想を言えば、心筋梗塞が起こった後できるだけすぐに、例えば、心筋梗塞が起こった後1週間以内に行われるべきである。
【0059】
したがって、いくつかの実施形態では、衝撃波療法の標的とされる心臓(すなわち、心臓組織)の領域(すなわち、衝撃波のパルスの焦点が標的とする領域)は、MRIによって決定される。換言すると、本発明は、心臓組織の罹病部位のサイズを判定する、すなわち、梗塞を起こした組織、例えば、瘢痕組織の面積および/または体積を判定または評価するステップを含んでいてもよい。
【0060】
本発明の治療方法および使用の効能を評価するために、心臓のMRIを用い得る。したがって、いくつかの実施形態では、本方法は、治療の効能の判定および/または被験者の予後の判定を行うために、本発明に係る治療を行った後、被験者の心臓のMRIを行うステップをさらに含んでいてもよい。このようなステップは、適切な時間間隔で、例えば、日に一度、週に一度、月に一度、および/または年に一度、行われてもよい。
【0061】
以下でより詳しく述べるように、心不全は進行性の疾患である。したがって、被験者(例えば、慢性心不全を患う被験者)の中には、場合によっては本明細書で述べる薬理学的治療と組み合わせて衝撃波による処理を繰り返し行うことの恩恵を受ける者もいる。例えば、いくつかの実施形態では、衝撃波による処理(すなわち、複数回分の衝撃波のパルス)は、1週間に一度よりも多く、例えば、1週間に二度または三度行われてもよい。また、1週間に一度行われる治療は、例えば、最大6ヶ月まで毎週、2週間毎、毎月、または2ヶ月毎に、繰り返されたり周期的に行われたりしてもよい。さらに、これらの周期は、特に、残された心筋細胞の生存性が危険な状態にある梗塞が確定した患者において、例えば、有益な効果を維持するために、例えば、四半期に一度、半年に一度、年に一度など、繰り返されてもよい。上記したように、心臓のMRIを用いて治療の効能を観察し得、また、適切な治療のスケジュールは治療を受ける被験者次第であるが、これは当業者の認識の範囲内である。
【0062】
本発明の複合療法で用いられるDPP-4阻害剤は、衝撃波療法を行う前、行うのと同時、および/または行った後に投与されてもよい。特に好ましい実施形態では、DPP-4阻害剤の投与は、衝撃波療法を行う前に開始され、衝撃波療法が終了するまで行われる。従って、例えば、衝撃波療法が数週間または数ヶ月にわたって行われる場合、DPP-4阻害剤は、その期間にわたって継続的に被験者に投与され、例えば、衝撃波による処理を行っている期間中、日に一度または週に一度、DPP-4阻害剤が被験者に投与されてもよい。好ましくは、DPP-4阻害剤は、衝撃波療法の開始前に投与され、その効果を最大化するために、衝撃波療法を行った後も継続してもよい。例えば、DPP-4阻害剤の投与は、最初に衝撃波のパルスを加える数週間前、例えば、1~4週間、1~3週間、または1~2週間前に開始されてもよく、最後に衝撃波のパルスを加えてから数週間または数ヶ月、例えば、最後に衝撃波のパルスを加えてから1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、または6ヶ月など、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも5週間、または少なくとも6週間、継続されてもよい。
【0063】
「DPP-4阻害剤」または「DPP-4拮抗薬」なる語は、DPP-4の活性または作用を直接的または間接的に阻害、低減、または遮断することができる薬剤のことをいう。例えば、直接阻害剤は、DPP-4と直接相互作用してDPP-4の活性または作用を阻害、低減、または遮断する薬剤を含む。このような薬剤は、競合阻害、不競合阻害、非競合阻害、または混合型阻害によって作用し得る。間接阻害剤は、DPP-4と直接相互作用することはない。したがって、例えば、間接阻害剤は、DPP-4酵素をコードする遺伝子の発現を低減することによって、DPP-4の活性または作用を阻害、低減、または遮断し得る。好ましい実施形態では、DPP-4阻害剤は、DPP-4の活性または作用を直接的に阻害、低減、または遮断する。
【0064】
いくつかの好ましい実施形態では、DPP-4阻害剤なる語は、DPP-4の活性を直接遮断する経口血糖降下薬の分類のことをいう。典型的には、DPP-4阻害剤は、グルカゴン様ペプチド1(GLP1)の分解を遮断するために用いられ、糖尿病の治療に利用される。DPP-4阻害剤としては、シタグリプチン、リナグリプチン、ビルダグリプチン、サキサグリプチン、ゲミグリプチン、アナグリプチン、テネリグリプチン、アログリプチン、トレラグリプチン、デュトグリプチン、オマリグリプチン、およびルペオールが挙げられる。したがって、いくつかの実施形態では、本発明で用いられるDPP-4阻害剤は、シタグリプチン、リナグリプチン、ビルダグリプチン、ゲミグリプチン、アナグリプチン、テネリグリプチン、トレラグリプチン、デュトグリプチン、オマリグリプチン、ルペオール、またはこれらの組み合わせであってもよい。特に好ましい実施形態では、本発明で用いられるDPP-4阻害剤は、シタグリプチン、リナグリプチン、またはこれらの組み合わせであってもよい。いくつかの特に好ましい実施形態では、本発明で用いられるDPP-4阻害剤は、アログリプチンでもサキサグリプチンでもない。
【0065】
有機塩および無機塩(例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、エタノールアミン、ジエタノールアミンとの塩や、メグルミン、塩化物、炭酸水素塩、リン酸塩、硫酸塩、および酢酸塩の対イオンとの塩)を含む、このような化合物の塩もまた含まれる。薬学的および/または生理学的に許容される適切な塩は、薬学文献によく説明されている。さらに、これらの塩のうちのいくつかは、水、またはエタノールなどの有機溶媒と、溶媒和物を形成してもよい。このような溶媒和物も、本発明の範囲に含まれる。
【0066】
本明細書における「幹細胞」および「前駆細胞」なる語は、特殊化した細胞へと分化することができる未分化の生物細胞、すなわち、全能性細胞、多能性細胞、または多分化能細胞のことをいう。好ましい実施形態では、幹細胞は、非胚性幹細胞である。特に、本発明で用いられる幹細胞または前駆細胞は、心臓幹細胞および/または心筋細胞へと分化することができる。幹細胞を動員する薬剤を被験者に投与する実施形態では、幹細胞または前駆細胞は、末梢循環系、すなわち血液から採取または動員される。同様に、投与前に被験者から幹細胞または前駆細胞を採取または取得する実施形態では、典型的には、幹細胞または前駆細胞は、治療を受ける被験者または供与被験者の末梢循環系、すなわち血液から採取または取得される。しかしながら、幹細胞または前駆細胞が、骨髄などの適切な他の組織から採取または取得されてもよいということは明らかであろう。したがって、いくつかの実施形態では、幹細胞または前駆細胞は、骨髄由来の単核細胞に由来する、または骨髄由来の単核細胞を含む。
【0067】
「骨髄由来の単核細胞」(BM-MNC)なる語は、造血前駆細胞、リンパ球系細胞(リンパ球(例えば、T細胞)および形質細胞)、単球、およびマクロファージを含む細胞集団のことをいう。理論に拘束されることを望むものではないが、M2マクロファージおよび造血前駆細胞は、例えば、虚血再灌流障害によって損傷したまたは死んだ心筋細胞の、救助や修復、またはそのような心筋細胞の入れ替わりの促進において、一緒に作用し得ると考えられる。また、T細胞は、本発明の衝撃波療法(複合療法を含む)を行った後に、心臓組織へと誘因(動員)されると仮定され、これによって、細胞の生存を促す環境が作り出される。
【0068】
したがって、好ましい実施形態では、幹細胞集団、または幹細胞の組み合わせを用いることが有用な場合があり、すなわち、幹細胞または前駆細胞は、造血前駆細胞と、場合によってはリンパ球系細胞(リンパ球、例えばT細胞)、単球、およびマクロファージから選択される1種以上の細胞とを含む細胞集団を含む。いくつかの例では、BM-MNCのサブセットを用いることが有用な場合がある。したがって、いくつかの実施形態では、幹細胞または前駆細胞は、造血前駆細胞および場合によってはマクロファージ、特にM2マクロファージであり、または造血前駆細胞および場合によってはマクロファージ、特にM2マクロファージを含む。
【0069】
「M2マクロファージ」(選択的活性化マクロファージとも称する)なる語は、概して、創傷の治癒および組織の修復のような建設的なプロセスにおいて機能するマクロファージのことをいう。また、M2マクロファージは、IL-10のような抗炎症性サイトカインを産生することによって、免疫系を損なうことを止め得る。M2マクロファージは、高濃度のIL-10およびTGF-ベータ、ならびに低濃度のIL-12を産生する。特に、M2マクロファージは、均一な集団を構成せず、M2a、M2b、およびM2cというカテゴリーにさらに細分されることが多い。M2aマクロファージは、例えば寄生虫に対する、Th2型免疫応答に関与する。M2bマクロファージは、免疫調整を行うと考えられており、IL-1、LPSおよび免疫複合体によって誘導される。M2cマクロファージは、IL-10およびTGF-bの存在下で誘導される。これは、非活性状態または抗炎症性と称されることも多く、組織の修復および再構築に関わることが知られている。また、大量のIL-10およびTGF-ベータを産生し、CD163、CD206、RAGE、および他のスカベンジャー受容体などの複数の受容体を発現する。したがって、いくつかの実施形態では、M2マクロファージは、M2cマクロファージである。
【0070】
「薬理学的幹細胞動員剤」なる語は、被験者の末梢循環系において直接的または間接的に、幹細胞数を誘導、増強、または増加させることができる薬剤のことをいう。特に、薬理学的幹細胞動員剤は、造血幹細胞動員剤であってもよい。副甲状腺ホルモン、G-CSF、アンセスチム、モゾビル、プレリキサフォル、およびステムゲンなどの種々の薬剤が当該技術分野において公知であり、本発明の方法および使用において、このような薬剤のうちのいずれを用いてもよい。好ましい実施形態では、薬理学的幹細胞動員剤は、副甲状腺ホルモンまたはその断片である。
【0071】
副甲状腺ホルモン(PTH)は、パラトルモンまたはパラチリンとも呼ばれるが、副甲状腺によって分泌されるホルモンである。PTHは、副甲状腺の主細胞によって、プロホルモンである84個のアミノ酸を含有するポリペプチドとして分泌される。特に、有効なホルモン-受容体相互作用には、もっぱら、プロホルモンのN末端の34個のアミノ酸が必要となる。したがって、本発明の使用において用いられるPTHの断片は、少なくともPTHのN末端の34個のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、断片は、テリパラチドを含むか、またはテリパラチドからなる。テリパラチドは、PTHのN末端の34個のアミノ酸からなる、PTHの組み換え型である。
【0072】
「生着」なる語は、宿主(host)の体内に移植した組織が組み込まれることをいう。したがって、本発明との関連において、生着とは、治療を受ける被験者の心臓組織に幹細胞が組み込まれることをいう。幹細胞は、治療を受ける被験者の体内に由来するものであってもよく、例えば、副甲状腺ホルモンなどの幹細胞動員剤を投与した結果、動員されたものであってもよい。あるいは、幹細胞は、外因性のものであってもよく、すなわち、別途投与されたものであってもよく、例えば、治療を受ける被験者または供与被験者から取得または採取され、場合によってはインビトロにおいて改変され、その後、治療を受ける被験者に投与されてもよい。
【0073】
本明細書における「心不全」なる語は、心臓機能の悪化、具体的には、ポンプ作用の低下(収縮不全)または流入の低下(弛緩不全)のいずれかによる心室機能の悪化(心室機能不全)で特徴付けられる症状のことをいう。収縮不全は、心室の収縮機能不全の症状として説明され得る。心室が十分に空にならないという症状が見られる。弛緩不全は、心室への流入に対する抵抗として説明され得る。したがって、心不全は、心室の症状または心室不全の症状として観察され得る。
【0074】
心不全は、左心不全(左心室の関与または機能不全)であっても、右心不全(右心室の関与または機能不全)であってもよく、あるいは、心臓の両側(右心室と左心室の両方)が関与していてもよい。心不全は、心臓の心筋層の機能の悪化を含意する。したがって、いくつかの実施形態では、本発明の治療方法および使用は、心臓の心筋層の機能を改善する治療法とみなされてもよい。しかしながら、特に、ある患者においては、特に心不全の初期段階(phase)において、駆出率(以下で述べる)が正常パラメータ内、例えば、50%以上、すなわち50~70%であり得る。例えば、種々の代償機構によって、駆出率がすぐに低下しないように、心拍出量が増加し得る(例えば、前負荷、後負荷、全身血管抵抗、または他の代償機構による)。したがって、本発明のいくつかの実施形態では、治療方法および使用は、心臓の心筋層の機能を維持する治療法とみなされてもよい。
【0075】
特に、慢性型の心不全(すなわち、慢性心不全)が懸念される。
【0076】
したがって、心不全を、心臓の血液送出能を低下させる症状に起因し得る病気として定義することができる。多くの場合、その原因は、冠状動脈の血流の低下に起因する心筋層の収縮性の低下である(例えば、冠状動脈疾患(CAD)または冠状動脈虚血性疾患に起因する心不全)が、心臓弁の損傷、心臓周辺への外圧、原発性心筋症(例えば、特発性拡張型心筋症)、または心臓のポンプ機能を低下させる他の異常によっても、十分量の血液を送り出せなくなることがあり得る。上記のように、慢性心不全が特に懸念される。
【0077】
したがって、虚血性心臓疾患(虚血性心筋症)、特に、慢性虚血性心臓疾患(例えば、慢性心筋虚血)に起因または由来する心不全は、本発明の範囲に含まれる。よって、本発明の方法および使用によって治療される心不全は、慢性心不全または虚血性心不全である。特に好ましい実施形態では、本発明の方法および使用によって治療される心不全は、例えば、心筋梗塞に起因する、心臓虚血再灌流障害の結果起こるものである。
【0078】
上述したように、心臓虚血再灌流障害とは、虚血または酸素不足(無酸素状態、低酸素状態)が生じている期間を経た後、心臓組織への血液供給が回復した際に引き起こされる心臓組織の損傷のことをいう。循環の回復および急速な酸素濃度の上昇(すなわち、正常酸素状態または高酸素症)が、正常機能を回復せず、むしろ酸化的ストレスの誘導による炎症および酸化損傷を引き起こすという状態が、虚血が生じている期間中、血液からの酸素および栄養が欠如することによってもたらされる。このことは、ひいては、心筋細胞のアポトーシス、およびそれに続く心臓の心筋層の損傷を引き起こし得る。
【0079】
「低酸素状態」とは、典型的には1~5%O2の範囲となる、低酸素分圧状態のことをいい、血管新生不良が原因で腫瘍の中央領域で多く見られる。「無酸素状態」とは、酸素の実質的な欠乏のことをいい、例えば、酸素分圧が0.1%O2未満などの0.5%O2未満である。「正常酸素状態」とは、酸素分圧が10~21%のことをいう。「高酸素状態」とは、酸素分圧が21%を超えることをいう。
【0080】
心不全は、2つの様式で、すなわち、(1)心拍出量の低下、または(2)左心または右心の後の静脈における血液のせき止め、によって顕在化し得る。心臓は、ユニット全体として不全を生じることもあり得るし、その左側または右側が、他方とは独立して不全を生じることもあり得る。いずれの場合も、心不全によって循環系の鬱血が引き起こされ、過去には鬱血性心不全と呼ばれていたこともある。
【0081】
心不全は、急性心不全(短期で不安定)および慢性心不全(長期で比較的安定)の二相に分類され得る。この2つへの分類を正確に定義することは難しいが、一般的に、急性心不全は、心臓が損傷を受けるとすぐに生じる不全段階であり(すなわち、急に発症し、経過は短い)、例えば、心拍出量の突然の低下など、心臓機能および循環における不安定性に関連している。急性期が死に至るほど重大でなければ、身体の交感神経反射がすぐに活性化されて、心臓機能の突然の消失を補償することができる。このような補償は、多くの場合、非常に有効かつ急速であり得るので、被験者が落ち着いたままであれば、被験者に対する目立った影響を感じることはない。
【0082】
急性心臓発作が起こって最初の数分が経過した後、長い二次状態が始まる。これは、腎臓による体液の保持と、数週間から数ヶ月の期間にわたって、心臓状態が安定化する時点まで心臓が進行的に回復することとによって特徴付けられる。この安定期は、慢性心不全として知られている。心臓は、補償を行い安定化するが、なお弱っており、また、次第にさらに弱っていく場合がある。
【0083】
したがって、心不全の急性期は比較的速く終わるが、心不全の慢性期に伴う安定性は、およそ数ヶ月かけて進展し得る。一般的に、3ヶ月よりも長く、より好ましくは6ヶ月よりも長く、心不全の症状を呈する患者は、この3ヶ月または6ヶ月の間にさらなる急性心不全の症状が生じない場合は、慢性心不全を患っているとみなされ得る。
【0084】
したがって、このことは、被験者間で症状は大きく異なるが、心不全を患う被験者、特に慢性心不全を患う被験者では、特徴的に、心臓機能、特に心室機能が低下しているということを意味する。心臓の動作低下の最も一般的な症状は、収縮不全である。したがって、心不全は、収縮期心不全であってもよい。例えば、このような被験者は、心不全を患ったことのない「健常」被験者と比較すると、心室の駆出率の低下、特に、左心室の駆出率(LVEF)の低下を示す。健常者では、左心室の駆出率は、通常、60%よりも高い(典型的には55%~70%の間)が、45%未満、特に40%未満の駆出率は、収縮不全とみなされる。したがって、45%未満、特に40%未満のLVEFは、心不全、特に慢性心不全を患う被験者における低下した心臓機能に特徴的である。典型的には、駆出率が35%~45%であると、心臓機能の悪化が軽度であるとみなされ得る。駆出率が25%~35%であると、心臓機能の悪化が中度であるとみなされ得る。駆出率が25%未満であると、心臓機能の悪化が重度であるとみなされ得る。駆出率が15%未満である被験者は、末期の心不全であるとみなされ得、心臓移植の候補となる場合がある。駆出率が5%未満である被験者は、長期にわたって生存することは期待されない。
【0085】
駆出率が比較的維持されている(例えば、左心室EF>40%)か、または正常であるが、心室への流入、例えば、左心室への流入が低下する、弛緩不全は、収縮不全ほど一般的ではない。
【0086】
本発明に係る治療の好ましい被験者は、LVEFが40%未満(LVEF<0.40)である被験者を含む。いくつかの実施形態では、被験者は、LVEFが35%未満(LVEF<0.35)である被験者と定義されてもよい。しかしながら、上記のように、初期の心不全である被験者の中には、LVEFが正常、例えば、45%以上であるものもいる場合がある。したがって、いくつかの実施形態では、本発明に係る治療の被験者は、LVEFが60%未満(LVEF<0.60)である、好ましくは、50%未満(LVEF<0.50)または45%未満(LVEF<0.45)などの55%未満(LVEF<0.55)である被験者を含む。
【0087】
心不全で見られる心臓機能の低下の他の特徴としては、右心室の駆出率の低下、運動能力の低下、心拍出量の低下肺動脈圧の上昇や心拍数の上昇、および血圧の低下などの、血行動態変数の悪化が含まれる。
【0088】
ニューヨーク心臓病学会(NYHA)による分類システムでは、心臓疾患は、疾患の重症度に応じて4種類に分類される。NYHAの分類Iには、心臓病を患っているが、それに伴う身体活動の制限がない、例えば、通常の身体活動によって息切れ、疲労、または心悸亢進が見られない患者が含まれる。分類IIには、心臓病を患っており、それに伴い身体活動が少し制限される、例えば、通常の身体活動によって息切れ、疲労、または心悸亢進が見られるが、安静時には安定している患者が含まれる。分類IIIには、心臓病を患っており、それに伴い身体的動作が著しく制限される、例えば、通常未満の身体活動によって息切れ、疲労、または心悸亢進が見られるが、安静時には安定している患者が含まれる。分類IVには、心臓病を患っており、不快感なく身体活動を行うことが不可能である、例えば、いかなる身体活動によっても息切れ、疲労、または心悸亢進が見られ、安静時であっても症状が残る場合がある患者が含まれる。
【0089】
すべての分類の心不全を治療または発症予防するのに本発明を用い得るが、特に分類II~IVまたは分類III~IVの被験者に用い得る。したがって、患者または被験者は、分類I~IVのうちのいずれか1つ以上に分類されていてもよいが、好ましくは、分類II~IVまたはIII~IVである。
【0090】
したがって、原因または病因にかかわりなく、いずれの種類であっても心不全を治療または予防(発症予防)するのに本発明を用い得る。また、心不全に対する心臓の抵抗力を上昇させ得る。したがって、すでに罹患している心不全、症状を示す心不全、または明らかな心不全、特に、慢性心不全を治療するのに本発明を用い得るが、初期心不全または無症候性である心不全を含む、急性心不全または進行または進展している心不全も含まれる。また、心不全の発症を予防または抑制する、あるいは心不全の進展を予防、制限、または低減する、例えば、心不全が進展する程度または度合いを低減または制限する、あるいは、心臓の心不全に対する罹患性を低減するのにも、本発明を用い得る。したがって、例えば、末期の心不全の進展を抑制し得る。よって、別の観点では、心不全を患う被験者、または心不全の恐れがある被験者の予後を改善するのに、本発明を用い得る。
【0091】
上記のように、本発明によって治療される心不全、特に、慢性心不全は、原因がどのようなものであってもよく、例えば、原発性疾患に起因するものであってもよいし、他の疾患に続発する二次疾患であってもよい。本発明の一実施形態では、治療される心不全は、特発性拡張型心筋症(IDCM)および/または冠状動脈虚血性疾患(冠状動脈疾患-CAD)のいずれかに続発する慢性心不全である。
【0092】
特に、さらに好ましい実施形態では、本発明によって治療される心不全は、梗塞後心不全または虚血性心不全である。
【0093】
本発明によって治療され得る他の種類の心不全としては、高血圧性心不全などの、後負荷が絶えず増加することで誘導される心不全が挙げられる。例えば上記のように他の原因で起こる心不全は、本発明の範囲に含まれる。
【0094】
上述したように、本発明によって治療される被験者は、心不全の症状を呈していてもよい。心不全の症状は、上記挙げたものであり、また、体重増加、足および足首または腹部の腫脹、顕著な頸動脈、食欲不振、消化不良、吐き気および嘔吐、活動に伴うまたは横になった後の息切れ、睡眠困難、疲労、脱力感または失神性めまい、動悸、不整脈または頻脈、注意力または集中力の減退、咳、尿量の減少、ならびに夜間における排尿の必要性を挙げ得るが、これらの症状のすべてが心不全に伴わなくてもよいし、これらの症状のいずれも心不全に伴わなくてもよい。
【0095】
明らかであってもよい心不全の他の特徴としては、駆出率(LVおよび/またはRV)の低下、運動能力の低下、および上記挙げたような血行動態変数の悪化が挙げられる。
【0096】
被験者は、ベータ遮断薬、ACE阻害剤、ARB、アルドステロン拮抗薬、利尿薬、抗高血圧薬、強心配糖体、アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害剤(ARNI)組み合わせ療法(例えば、バルサルタン/サクビトリル)などの標準的な薬理学的治療を含む、心不全の標準的な治療を受けていてもよい。特に、被験者は、ベータ遮断薬の投薬を受けていてもよいし、受けていなくてもよい。例えば、被験者は、BNP、例えば組み換えBNPまたはその類似体もしくは誘導体などのNPR-A作動薬、あるいは他のナトリウム利尿ペプチドまたはその類似体もしくは誘導体を用いた治療を受けていてもよい。
【0097】
心不全の進展または進行は、心室再構築、特に、左心室の拡張終期体積および収縮終期体積の漸進的な増加、壁の薄肉化、および心室形状の細長形状から球状への変化として顕在化する、左心室再構築に伴うものであってもよい。このプロセスは、通常、駆出率の連続的な低下に伴うものである。本発明の一実施形態では、再構築、特に心室再構築、好ましくは左心室再構築が、低減または予防され得る。
【0098】
再構築は、心室機能不全、特に、左心室機能不全をもたらし得る。本発明の別実施形態では、心室機能不全が治療または予防される。
【0099】
本明細書における「治療」は、治療を受けている疾患(この語は、あらゆる疾患、病気、または異常を含む)またはその1つ以上の症状(例えば、心不全またはその症状)を、治療前の疾患または症状と比較して、低減、緩和、改善、または排除することをいう。治療は、心臓の機能または動作、特に、心室の機能または動作、さらには、左心室の機能または動作の改善または向上を含み得る。
【0100】
本明細書における「発症予防」または「予防」は、例えば、疾患もしくは疾患の発症、またはその1つ以上の症状を、発症予防的治療または予防的治療を行う前の疾患または症状と比較して、抑制、制限、または低減することをいう。したがって、発症予防は、疾患または症状の発生または進展の完全な予防と、疾患または症状の進展または進行の低減または制限との両方を明白に含む。
【0101】
治療または発症予防の被験者または患者は、ヒト被験者であってもよいし、非ヒト動物の被験者であってもよいが、好ましくは哺乳類であり、例えば、ヒト、または、ネズミ、ラット、ブタ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ウサギ、ウマ、ウシ、サルなどの家畜もしくは飼育動物が挙げられる。最も好ましくは、被験者はヒト被験者である。
【0102】
大部分の心臓疾患の形態の本質を考えると、本発明による「治療」によって、問題となる心不全が完全に治癒することは、期待されない。むしろ、本発明による「治療」は、心不全に関連する症状のうちのいずれかを改善または緩和することを含み、また、患者の生活の質を改善することと、最終的に寿命を延ばし生存性を改善することとをも含む、すなわち、予後を改善することも含む。
【0103】
また、本発明による治療は、心臓の機能性を改善または向上すること、換言すると、心臓の機能または動作を長期的に改善または向上することも含む。特に、本発明による治療によって、心不全に関連する症状および機能的パラメータのうちのいずれか1つ以上、特に、心室機能、とりわけ左心室機能に関する症状およびパラメータが改善または向上し得る。
【0104】
心不全において心臓機能が改善したことに関連する症状およびパラメータで重要なのは、心室の駆出率、特に左心室の駆出率(LVEF)の改善である。これは、当該技術分野において周知および文書化されている標準的な方法、例えば、心エコー検査(「エコー」、すなわち、心臓の超音波検査図である、心臓エコー)、心電図(ECG)、ECG同期ラジオアイソトープ心室造影法(MUGAスキャン)、血管造影法、または磁気共鳴映像法(MRI)によって評価することができ、通常は、被験者の安静時に行われる。LVEFの改善は、心不全患者の生存性の改善に関連していることが見出された。したがって、これは、本発明によって治療された被験者において改善される重要かつ有益なパラメータである。RVEFが向上する場合もある。
【0105】
LVEFの改善は、心臓機能の全体的な改善において特に重要であるが、心臓の動作に関連する他の多くのパラメータが、本発明によって改善され得る。このうちの1つとして、全体的な臨床状態の有意な改善、ひいては、NYHA機能分類によって評価されるような臨床成績の有意な改善が挙げられる。換言すると、患者のNYHA機能分類は、本発明による治療を行った後、下がり得る。このような臨床評価は、通常、熟練の心臓専門医によって行われ得る。
【0106】
他のパラメータとしては、例えば、最大酸素摂取量および最大作業負荷によって測定されるような運動能力が挙げられる。上記のように、運動能力の低下は、多くの心不全患者にとって不便で、潜在的に衰弱させる症状である。運動能力を測定する方法は、当該技術分野において周知および文書化されている。例えば、電気制動式自転車型エルゴメーターを用いて、運動試験を行うことができる。例示的なプロトコルでは、運動量を20Wから開始し、疲労困憊(ペダルを踏む速度を60rpmで一定に維持できなくなるものとして定義する)するまで、2分おきに20Wずつ上昇させていく。例えば、EOS/SPRINTシステムを用いて、酸素摂取量(VO2)を測定することができる。最大VO2を、観察された最高VO2とする。運動試験の別の例としては、6分歩行試験が挙げられ、この試験では、患者は、標準化された状況下で6分間可能な限り長い距離を歩くように求められ、歩行距離が、運動能力の測定値を表す。
【0107】
心臓機能の改善を示すために、血行動態心エコー検査のパラメータおよびその変数を評価することもできる。例えば、心臓機能の改善は、肺毛細血管閉塞圧および/または肺動脈圧の低下、ならびに/あるいは最大心拍数、最大収縮期血圧、および僧帽弁速度減速時間の増加によって示され得る。好都合には、熟練の心臓専門医によって行われる心エコー検査によって、心エコー検査の変数を測定し得、また、好都合には、標準的な技術による右側心臓カテーテル法によって、血行動態変数を評価することができる。
【0108】
評価し得る別の重要な変数は、Nt-proANPまたはNt-proBNPの血漿中濃度である。Nt-proANPまたはNt-proBNPの濃度が上昇すること、または一般的に高濃度であることは、心臓機能不全のマーカーとして認識されてきた。また、過去において、Nt-proANPの濃度は、心不全において肺動脈圧と相関し、心不全患者の予後について重要な情報を与えることが示されてきた。当該技術分野において周知および文書化されている多くの方法、例えば放射性免疫測定法によって、血液試料中のNt-proANPまたはNt-proBNPの濃度を測定することができる。免疫測定法を行う前に、当該技術分野において周知および文書化されている方法によって、患者から再度採取した血液試料から血漿が分離される。
【0109】
上述した被験者の症状、パラメータおよび/または予後の「改善」または「向上」は、問題となるパラメータを、治療を行っていない個人における相当するパラメータと比較した際の、または問題となるパラメータを、同一の個人における初期時点での相当するパラメータと比較(例えば、「ベースライン」濃度と比較)した際の測定可能な改善または向上を含む。好ましくは、改善または向上は、統計的に有意である。特に好ましくは、症状、パラメータ、および/または予後の改善または向上は、懸念される患者の健康の改善、より好ましくは、生存期間の延長と相関する。
【0110】
パラメータの相違の統計的有意性を求める方法は、当該技術分野において周知および文書化されている。例えば、本明細書においては、スチューデントのt検定またはマン-ホイットニーのU順位和検定などの両側有意検定を用いた統計的な比較が0.05未満の確率値を示す場合に、パラメータが概して有意であるとみなす。
【0111】
したがって、心臓機能の改善、特に、心不全における心臓機能を改善するのに、本発明の方法および使用を用い得る。より具体的には、長期にわたって、とりわけ心不全において、心室機能、特に左心室機能(例えば、LVEF)を向上するのに、本発明の方法および使用を用い得る。
【0112】
本発明によって、Nt-proANPまたはNt-proBNPの血漿中濃度が低下し得る。上記のように、Nt-proANPまたはNt-proBNPの血漿中濃度の低下は、心臓の機能および動作の改善の指標である。本明細書における「低下」は、問題となるパラメータを、治療を行っていない個人における相当するパラメータと比較した際の、または問題となるパラメータを、同一の個人における初期時点での相当するパラメータと比較(例えば、「ベースライン」濃度と比較)した際の測定可能な低下を含む。好ましくは、上述したように、低下は統計的に有意である。特に好ましくは、Nt-proANPまたはNt-proBNPの濃度の低下は、懸念される患者の健康感覚の改善、より好ましくは、生存期間の延長と相関する。
【0113】
一態様では、本発明の衝撃波療法(複合療法を含む)を行う前に、患者または被験者が、心不全の治療または発症予防を必要としているのか(例えば、心不全を患っているのか、または心不全が進展する恐れがある、もしくは心不全を起こしやすいのか)を、確認してもよい。
【0114】
上述したような、心不全である、または心不全の恐れがあることを示す症状および/またはパラメータに基づいて、このような確認を行うことができる。
【0115】
上述したように、心臓の動作は、本発明の衝撃波療法(複合療法を含む)を行った後、向上し得る。このように、上で示し説明した本発明の種々の態様は、本発明の衝撃波療法(複合療法を含む)を行った後、心臓機能または心不全もしくはその症状を改善するために治療を受けている被験者を評価することをさらに含んでいてもよい。上述したように、この評価は、上述したような、心臓の動作または機能、特に心室、とりわけ左心室の動作または機能の改善の評価であってもよいし、心不全における症状またはパラメータの改善の評価であってもよい。
【0116】
心不全が進展する恐れがある、または心不全を起こしやすい場合は、被験者は、心不全の危険因子のうちの1つ以上の因子について評価されてもよい。例えば、これらは、虚血性疾患、あるいは冠状動脈疾患、心筋症、高血圧、弁膜症、先天性心臓障害、もしくはその他の素因的状態などの症状、または上述もしくは上記した当該技術分野で公知の因子であってもよい。
【0117】
本発明の衝撃波療法(複合療法を含む)を行った後、被験者は、心不全の進展、または心不全の危険因子のうちの1つ以上について評価されてもよい。
【0118】
本発明の衝撃波療法を、DPP-4阻害剤などの薬理的作用薬および/または幹細胞の動員剤(例えば、副甲状腺ホルモン)と組み合わせて用いる場合、薬理的作用薬は、好都合には、本発明に係る使用のための医薬組成物に配合される。医薬組成物とは、DPP-4阻害剤などの薬理的作用薬(すなわち、薬理的活性剤または薬理的活性成分)および/または幹細胞の動員剤(例えば、副甲状腺ホルモン)を、少なくとも1つの薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤とともに含む組成物のことをいう。したがって、例えば、本発明は、被験者における心不全を治療または予防(発症予防)するのに、あるいは、心臓虚血再灌流障害を治療するのに用いられる医薬組成物を提供するものとみなされてもよく、該被験者は、体外心臓衝撃波療法を受けており、該組成物は、少なくとも1つの薬学的に許容される担体とともにDPP-4阻害剤を含み、該衝撃波療法を行う前、行うのと同時、および/または行った後に投与される。
【0119】
このような組成物における活性成分(薬理的作用薬、すなわち、薬理的活性剤または薬理的活性成分)の適切な含有量は、当該技術分野において慣例的な原理および手順にしたがって求められてもよく、当業者によって容易に求められ得る。したがって、例えば、このような組成物中の活性成分は、製剤の0.05重量%~99重量%を占めてもよく、例えば、0.1%~1.0%、または約0.5%であってもよい。製剤中の活性成分の濃度は、製剤の種類による。例えば、腸溶性製品(例えば、タブレットおよびカプセル)は、典型的には、5重量%~50重量%の活性成分を含むことができ、一方、非経口製剤では、通常、活性成分はより低濃度であり、例えば、注射溶液中では、活性成分は0.1重量%~3重量%などである。
【0120】
「薬学的に許容される」とは、その成分が、組成物中の他の成分と共存可能であり、かつ受容者にとって生理学的に許容されるものでなければならないということを意味する。
【0121】
医薬組成物は、当該技術分野において公知であり、文献に広く記載されている従来の方法のいずれかにしたがって、製剤化され得る。したがって、粉末剤、小袋剤、カシェー剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、溶液剤、シロップ剤、軟膏、滅菌済注射用溶液剤、滅菌包装済粉末剤などの、経口投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、またはその他の投与に適した、またはこれらの投与に適するようにできる、伝統的なの生薬製剤を製造するために、活性成分(例えば、DPP-4阻害剤)は、場合によっては他の活性物質とともに、1つ以上の従来の担体、希釈剤、および/または賦形剤と混合される。活性成分(例えば、副甲状腺ホルモン)を含む医薬組成物は、患者への点滴または注射に適した形態で調製され得る。このような点滴または注射は、好ましくは、筋肉内(i.m.)で行われるものであるが、皮下(s.c.)または静脈内(i.v.)で行われてもよい。
【0122】
好ましくは、DPP-4阻害剤を含む組成物は、経口投与に適応させた形態で提供されてもよい。例えば、薬学的形態は、活性成分(例えば、DPP-4阻害剤)を、場合によっては1つ以上の不活性な従来の担体および/または希釈剤とともに含有する、単味タブレット剤もしくはコーティングタブレット剤、カプセル剤、懸濁剤、および溶液剤を含み得る。
【0123】
好ましくは、幹細胞を動員する薬理的作用薬(例えば、副甲状腺ホルモン)を含む組成物は、非経口投与、特に、筋肉内投与または腹腔内投与に適応させた形態で提供されてもよい。例えば、薬学的形態は、場合によっては1つ以上の不活性な従来の担体および/または希釈剤とともに、滅菌済注射用溶液剤または滅菌済注射用懸濁剤を含み得る。
【0124】
適切な担体、賦形剤、および希釈剤としては、例えば、ラクトース、デキストロース、スクロース、マルトース、グルコース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アラビアゴム、リン酸カルシウム、アグリネート(aglinates)、トラガントゴム、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水シロップ、水、水/エタノール、水/グリコール、水/ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、メチルセルロース、オキシ安息香酸メチル、オキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ミネラルオイル、または固い脂肪などの脂肪性物質、あるいはこれらの適切な混合物が挙げられる。組成物は、平滑剤、湿潤剤、乳化剤、懸濁化剤、保存剤、甘味剤、香味剤などを追加的に含んでいてもよい。本発明の組成物は、当該技術分野において周知されている手順を採用することによって、患者への投与後、活性成分を急速に、または徐放的に、または遅延的に、放出するように製剤化されていてもよい。
【0125】
可溶化剤および/または安定化剤、例えば、シクロデキストリン(CD)α、β、γ、およびHP-βシクロデキストリンが用いられてもよい。
【0126】
適切な用量は、患者毎に異なるが、患者の体重、年齢、および性別、投与形態、ならびに症状の重さ、また治療に用いられる特定の活性成分に応じて、医師が決定できる。経口投与(例えば、DPP-4阻害剤)の例示的な単位用量は、1~250mgの活性成分を含有し得るが、これはもちろん、用いられる特定の拮抗薬などに応じて変化してもよいということは、理解されるであろう。例えば、シタグリプチンの単位用量は、100mgの範囲内、例えば、75~125mgであってもよく、一方、リナグリプチンの単位用量は、5mgの範囲内、例えば、1~10mgであってもよい。経口投与の場合の1日の用量は、例えば、約0.01~10mg/kg/日の範囲、例えば、0.1~2mg/kg/日などの0.1~5mg/kg/日であってもよい。例えば、70kgの成人であれば、1日の用量は1~700mgまたは0.7~700mgであり、より一般的には、1~350mgまたは7~350mg、例えば7~140mgである。非経口投与(例えば、静脈内投与または筋肉内投与)(例えば、副甲状腺ホルモン)の場合、例示的な単位用量は、0.1μg~100μgであり、例えば、1~40μg、2~35μg、3~40μg、4~35μg、または5~25μgなどの0.1μg~50μg、例えば20μgであってもよい。非経口投与の場合の1日の用量は、例えば、約0.001~1μg/kg/日の範囲、例えば、0.001~0.3μg/kg/日などの0.001~0.5μg/kg/日であってもよい。例えば、70kgの成人であれば、1日の用量は0.01~70μgまたは0.07~70μgであり、より一般的には、0.07~35μgまたは0.7~35μg、例えば0.7~21μgである。
【0127】
本発明によって治療された患者で見られる改善は、各患者に応じて、数日後に見られてもよいし、数週間後に見られてもよいし、数ヶ月後に見られてもよい。いったん最初の改善が見られると、続く数週間および数ヶ月にわたって、改善が継続して起こってもよい。上述したように、望まれるだけ長く、または必要なだけ長く、治療を継続することができる。
【0128】
本発明の衝撃波療法(組み合わせ療法を含む)は、心不全の他の治療薬の代わりに行われてもよいし、その使用に加えて(すなわち、組み合わせて)行われてもよい。したがって、心不全を治療することが知られている他の薬(drugs)は、上述した医薬組成物に含まれていてもよいし、関係する薬にとって適切な様式で、別途投与されてもよい。
【0129】
心不全の治療のための適切な追加的または補助的な薬または薬剤は、当該技術分野において周知および文書化されており、心疾患を治療するのに用いられる公知の薬を含む。例えば、利尿薬、血管拡張剤、ジゴキシンまたはジギトキシンなどの強心剤、あるいは、抗凝固剤、β遮断薬、アンジオテンシンII遮断薬、アンジオテンシン転換酵素阻害剤、アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害剤(ARNI)組み合わせ療法(例えば、バルサルタン/サクビトリル)、またはアルドステロン拮抗薬などの他の化合物が用いられる。
【0130】
いくつかの実施形態では、治療を受ける被験者に、糖、例えばグルコースを投与することが有用な場合がある。特に、本発明の組み合わせ療法では、グルカゴン様ペプチドI(GLP-I)の分解を遮断するDPP-4阻害剤を用いる。GLP-Iは、グルカゴンの放出を阻害しつつ、インスリンの分泌を上昇させ、これによって、グルコースの血漿中濃度を低下させる。このため、いくつかの実施形態では、治療を受ける被験者に投与される補助的または追加的な薬剤は、グルコースである。
【0131】
追加的または補助的な薬または薬剤は、本発明の複合衝撃波療法で用いられる活性剤(例えば、DPP-4阻害剤および/または副甲状腺ホルモンなどの幹細胞の薬理学的動員剤)と並行して、例えば、それと同時に、または順次に、またはそれから別途間隔をあけて、投与するために、別途製剤化されてもよい。
【0132】
したがって、追加的または補助的な薬または薬剤は、本発明の複合衝撃波療法で用いられる活性剤とともに、キットの形態で提供されてもよい。このようなキットは、例えば、それぞれが本発明の複合衝撃波療法で用いられる活性剤および追加的または補助的な薬または薬剤のための(例えば、これらを含む、または含有する)個別の容器を、場合によっては使用説明書とともに含んでいてもよい。
【0133】
例えば、本発明は、
(i)DPP-4阻害剤、または該阻害剤および少なくとも1つの薬学的に許容される担体、希釈剤、もしくは賦形剤を含む医薬組成物と、
(ii)副甲状腺ホルモンまたはその断片などの、幹細胞を動員する薬理的作用薬、または該薬理的作用薬および少なくとも1つの薬学的に許容される担体、希釈剤、もしくは賦形剤を含む医薬組成物と、場合によっては、
(iii)心不全の治療用の薬剤もしくはグルコースなどの追加的な薬剤、または該追加的な薬剤および少なくとも1つの薬学的に許容される担体、希釈剤、もしくは賦形剤を含む医薬組成物と、
を含むキットまたは製品を提供するものとみなされてもよい。
【0134】
いくつかの実施形態では、上述したキットまたは製品の(i)~(iii)で定義される成分は、被験者の
(a)心不全の治療もしくは予防、または
(b)心臓虚血再灌流障害の治療
に、同時に、順次的に、または個別に用いられる複合製剤として提供され、該被験者は、体外心臓衝撃波療法を受けており、該(i)および(ii)、ならびに場合によっては(iii)は、該衝撃波療法を行う前、行うのと同時、および/または行った後に投与される。
【0135】
疑問を回避するために、本明細書における「本発明の衝撃波療法」なる語は、特に断らない限り、体外心臓衝撃波療法を単独で行う治療と、組み合わせ治療(すなわち、DPP-4阻害剤および/またはPTHなどの幹細胞の動員剤および/または幹細胞と組み合わせた体外心臓衝撃波療法)との両方のことをいう。
【0136】
以下の限定的でない実施例と、以下の図面とを参照して、本発明をさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0137】
図1図1は、種々の処理条件下において、ラットの生存している心筋細胞の百分率を表す棒グラフを示す(エラーバーは、標準偏差を表す。****:p≦0.001、ns:有意差なし)。
図2図2は、種々の衝撃波による処理を行ってから4時間後の、ヒト心室組織における(A)SDF-1遺伝子発現および(B)MCP-1遺伝子発現の相対量(倍率変化)を表す棒グラフを示す(*:p>0.05、**:p≦0.05、***:p≦0.001、およびp≦0.0001)。
図3図3は、種々の衝撃波による処理を行ってから4時間後の、ヒト心室組織における(A)ANGP-1(アンジオポエチン)遺伝子発現および(B)VEGFA(血管内皮増殖因子A)遺伝子発現の相対量(倍率変化)を表す棒グラフを示す(*:p>0.05、**:p≦0.05、***:p≦0.001、およびp≦0.0001)。
図4図4は、種々の衝撃波による処理を行ってから4時間後の、ヒト心室組織における(A)NOS-3(一酸化窒素合成酵素3)遺伝子発現および(B)TAC-1(タヒキニン前駆体1)遺伝子発現の相対量(倍率変化)を表す棒グラフを示す(*:p>0.05、**:p≦0.05、***:p≦0.001、およびp≦0.0001)。
図5図5は、種々の衝撃波による処理を行った後の、(A)ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)および(B)ヒト心臓線維芽細胞における経時的なSDF-1遺伝子発現の相対量(倍率変化)を表すグラフを示す(*:p>0.05、**:p≦0.05、***:p≦0.001、およびp≦0.0001)。
図6図6は、種々の衝撃波による処理を行った後の、ヒト心臓線維芽細胞における経時的な(A)VEGFA遺伝子発現および(B)MCP-1(単球走化性タンパク質1)遺伝子発現の相対量(倍率変化)を表すグラフを示す(*:p>0.05、**:p≦0.05、***:p≦0.001、およびp≦0.0001)。
図7図7は、種々の条件下におけるラット心筋細胞でのAKTリン酸化の相対量(倍率変化)を表す棒グラフを示し、(A)は、標準化されたp-AKT308の相対変化を示し、(B)は、p-AKT308とリン酸化されていないAKTとの比率の相対変化を示す。
図8図8は、種々の衝撃波による処理を行ってから4時間後の、ラット心筋細胞における(A)SDF-1遺伝子発現および(B)VEGFA遺伝子発現の相対量(倍率変化)を表す棒グラフを示す。
図9図9は、実施例7で説明する以下の処理に供したラット心臓由来の凍結組織切片の顕微鏡写真を示す:(A)処理しない、(B)体外心臓衝撃波療法を行い、毎日水を強制投与する、(C)体外心臓衝撃波療法を行い、毎日DPP4iを強制投与する、(D)毎日DPP4iを強制投与する。円は、SDF-1が存在する証拠となる茶色の沈着物領域を示す。
図10図10は、実施例7で説明する以下の処理に供したラット心臓の固定後の顕微鏡写真を示す:(A)処理しない、(B)体外心臓衝撃波療法を行い、毎日水を強制投与する、(C)体外心臓衝撃波療法を行い、毎日DPP4iを強制投与する、(D)毎日DPP4iを強制投与する。
【0138】
図2~6および8のエラーバーは、95%信頼区間(CI)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0139】
[実施例]
実施例1:低酸素状態によって誘導されたラット心筋細胞のアポトーシスにおよぼす衝撃波による処理の効果
初代ラット心筋細胞を、ランゲンドルフ法によって単離した。この方法では、摘出した心臓を、逆行的に、大動脈を通して、酸素飽和低カルシウム溶液およびコラゲナーゼ溶液で潅流した。その後、心臓をさいころ状に切り、コラゲナーゼ溶液中で攪拌して細胞を遊離させた。細胞を洗浄し、その後、低速遠心分離およびラミニンコート培養プレート(ペトリディッシュ)への付着によって、心筋細胞のポジティブ選択を行った。
【0140】
ラット心筋細胞を、極度な低酸素状態に30分間曝露した(0% O2、100% N2)。正常酸素状態に戻してすぐに、衝撃波による処理(1バールまたは2バールで1000パルス)を受ける群を処理した。超音波ゲルを連結した、スイス・ドラークラスト(Swiss Dolarclast)(EMS)衝撃波システムのハンドピース上の衝撃波付与装置と直接接触させることによって、ペトリディッシュの下側から衝撃波を伝えた。特に、外因性SDFを受け入れる群は、正常酸素状態に戻した際に衝撃波による処理を受けなかった。棒状細胞および丸形細胞(棒状細胞が生細胞である)の数を、衝撃波による処理またはSDFによる処理を行ってから24時間後に三連で数えることによって、細胞の生存性を評価した。結果を図1に示す。この結果は、低酸素状態後すぐに衝撃波療法を用いた事後調節を行うことによって、未処理のコントロールと比べて、心筋細胞の生存性が向上することを示しており、このことは、衝撃波療法が虚血再灌流障害を減弱するということを示唆している。
【0141】
実施例2:ヒト心室組織における遺伝子発現におよぼす衝撃波による処理の効果
摘出したヒト心臓の心室組織を小片に切り分け、24ウェルプレート内のM199培地中で個別に培養した。1.5mLエッペンドルフチューブ内のM199培地に組織片を一時的に入れることによって、種々の衝撃波条件への曝露を行った。超音波ゲルを用いて、実施例1に記載の衝撃波付与装置をチューブに直接連結した。その後、インキュベータ(37℃、5% CO2)内の培地に組織片をそれぞれ戻し、4時間後に、RNA-レイター(Later)中、-80℃で保存した。各バッチにおいて、電動ホモジナイザーを用いて、トリゾール中で試料を完全に均質化した。クロロホルムおよび市販のスピンカラムを用いて、RNAを精製した。ナノドロップ分光光度計を用いて、RNAの質を検査し、逆転写反応を行った。アプライド・バイオシステムズ(商標)7900HTファスト・リアルタイムPCRシステムにおいて、タックマン遺伝子発現マスターミックスのタックマン・プローブを用いて、SDF1(間質細胞由来因子1)、VEGFA(血管内皮増殖因子A)、MCP1(単球走化性タンパク質1)、ANGP1(アンジオポエチン)、TAC1(タヒキニン前駆体1)、およびNOS3(一酸化窒素合成酵素3)の遺伝子発現を、GAPDHで標準化して評価した。ΔΔCT法によって、倍率変化を計算した。結果を図2~4に示す。これらの結果は、測定したすべての遺伝子で、未処理のコントロールと、4時間後のものとの間に、統計的有意差があることを示している。
【0142】
実施例3:内皮細胞およびヒト心臓線維芽細胞におけるSDF-1遺伝子発現におよぼす衝撃波による処理の効果
コラゲナーゼを用いて、ヒト心臓の心室組織を解離させ、10%FCSを添加したDMEM中で、単一細胞の懸濁液を洗浄し、播種し、培養した。ヒトの臍帯からHUVECを採取し、EGM2中で培養した。継代数が3~5の細胞を実験に用いた。
【0143】
実施例1で説明したように、ヒト心臓線維芽細胞およびHUVECを衝撃波による処理に供し、各時点が来ると、培地を除去し、トリゾールを用いて細胞を溶解させた。衝撃波による処理を行った後、様々な時点において、実施例2で説明した方法にしたがってSDF1遺伝子発現を測定した。結果を図5に示す。
【0144】
ヒト心臓線維芽細胞では、SDF1遺伝子発現は、24時間の時点で増加し続けていたが、HUVECでは、SDF1遺伝子発現は、2~6時間の間に最大発現に到達し、衝撃波による処理を行ってから24時間以内にベースラインレベルまで戻った。これらの結果は、衝撃波による処理によって、特に心臓線維芽細胞において、持続的なSDF1遺伝子発現が誘導されることを示している。
【0145】
実施例4:ヒト心臓線維芽細胞における遺伝子発現におよぼす衝撃波による処理の効果
実施例3で説明した方法にしたがってヒト心臓線維芽細胞を取得し、これを、実施例1で説明したように、衝撃波による処理に供した。衝撃波による処理を行った後、実施例2で説明した方法にしたがって、様々な時点においてVEGFAおよびMCP1の遺伝子発現を測定した。結果を図6に示す。これらの結果は、VEGFAおよびMCP1の遺伝子発現が、SDF1とは対照的に、3時間の時点までに急速に上昇し、24時間の時点までにベースラインレベルまで戻るということを示している。このデータは、線維芽細胞におけるSDF1発現は、内皮細胞におけるSDF1発現よりも24時間遅れており、血管内組織から心臓組織へと、時間的および空間的な勾配を生じるということを示している。
【0146】
実施例5:ラット心筋細胞におけるAKTリン酸化におよぼす衝撃波による処理の効果
ラット心筋細胞を標準的な条件で培養し、衝撃波による処理(1バールで1000パルス)、外因性SDFによる処理、またはPI3キナーゼ阻害剤(LY294002)による処理に供した。様々な時点において、ウェスタンブロットを用いてAKTリン酸化を測定し、コントロールとしてロードした汎AKTおよびCOX IVを用いて標準化した。
【0147】
結果を図7に示す。これらの結果は、衝撃波で処理した細胞において、AKTリン酸化が上昇することを示している。しかしながら、この効果は、PI3キナーゼ阻害剤(LY294002)によって阻害されなかった。このことは、衝撃波によるAKTのリン酸化は、AKT経路の活性化剤であるホスファチジルイノシトール3-キナーゼとは無関係であることを示している。
【0148】
実施例6:ラット心筋細胞におけるSDF-1遺伝子発現におよぼす衝撃波による処理の効果
実施例1の方法にしたがって、ラット心筋細胞を培養し、衝撃波による処理(1バールまたは2バールで1000パルス)に供した。実施例2で説明したように、処理の4時間後に、SDF1およびVEGFAの遺伝子発現を測定した。結果を図8に示す。これらの結果は、SDF1およびVEGFAの遺伝子発現で、未処理のコントロールと衝撃波条件との間に統計的有意差はないということを示している。このことは、心筋細胞に対する衝撃波の抗アポトーシス効果は、SDF1およびVEGFAなどの抗アポトーシス因子とは無関係であることを示している。
【0149】
実施例7:ラットの心臓におよぼす衝撃波およびDPP-4阻害剤(DPP4i)による処理の効果
オスのルイスラット(250~275g)を4日間、以下の処理に供した:(1)処理しない、(2)4日のうちの2日目に体外心臓衝撃波処理を行い、毎日水を強制経口投与する、(3)4日のうちの2日目に体外心臓衝撃波処理を行い、毎日DPP4iを強制経口投与する、(4)毎日DPP4iを強制経口投与する。
【0150】
一般的な麻酔下(100% O2中、1.5~2%のイソフルラン)で、衝撃波による処理(ストーツ・メディカル デュオリス(登録商標)SD1装置を用いて、4Hzで、0.25mJ/mm2×1000パルス)を行った。指による触診および超音波ゲルを連結した心エコー検査によって位置を特定した心臓を標的として、連続的に衝撃波を加えた。
【0151】
DPP4阻害剤(リナグリプチンを、1mg/mL溶液としてラット1匹あたり3mg送達)または水を、強制投与用の針を用いて、腹部に直接投与した。
【0152】
動物を選別し、実験開始から4日後に、心臓を摘出した。リン酸緩衝生理食塩水で心臓から血液を洗い流し、4%パラホルムアルデヒド中で一晩固定し、30%スクロース中で一晩凍結防止を行い、その後、クライオスタットを用いた凍結切片作成のために、OCTに包埋した。
【0153】
トリス緩衝生理食塩水+トゥイーン中1%BSAを用いてブロッキングを行った切片に対して、ウサギ抗ラットSDF1一次抗体およびヤギ抗ウサギHRP結合(西洋ワサビペルオキシダーゼ結合)二次抗体を用いて、免疫組織科学検査を行った。ヘマトキシリンを用いて組織切片を対比染色し、HRPの発色検出用に3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)基質を用いた。DABは、HRP存在下で、茶色の不溶性物質を生じる。エタノール系列を用いて切片を脱水し、DPX-ニューおよびキシレン代替物を溶媒として用いてマウントした。明視野光学顕微鏡を用いて切片を可視化した。
【0154】
結果を図9に示す。ここでは、処理1~4を、それぞれ図9A~9Dに示している。参照を容易にするために、SDF-1が存在する証拠となる茶色の不溶性反応生成物の沈着物を、円で囲んでいる。体外衝撃波療法によってSDF-1が誘導され(図9Bおよび9Cを参照)、未処理のラット(図9A)またはDPP4iのみで処理されたラット(図9D)由来の心臓組織では、茶色の沈着物は観察されないということが認められた。また、DPP4iで処理されたラットでは、衝撃波またはDPP4iのみで処理されたラットと比較して、SDF-1が有意に増加した。これらの結果は、衝撃波による処理およびDPP4iによる処理を組み合わせると、心臓組織におけるSDF-1の存在に対して相加効果よりも大きな効果をおよぼすということを示している。
【0155】
図10は、4%パラホルムアルデヒドで一晩インキュベートした後のラットの心臓の外観を示しており、A)は通常のコントロール、B)は衝撃波のみで処理されたもの、C)は衝撃波およびDPP4iで処理されたもの、D)はDPP4iのみで処理されたものである。衝撃波およびDPP4iで処理されたラット由来の心臓は、衝撃波のみで処理されたラット由来の心臓と比較して、非常に顕著な血管を有していることが認められた。未処理のラット由来の心臓、およびDPP4iのみで処理されたラット由来の心臓は、非常に似ている。DPP4iは、衝撃波によって誘導される血管形成プロセスを増強し、DPP4i単独では、中立的効果を有すると結論づけられた。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10