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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20230221BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020178638
(22)【出願日】2020-10-26
(65)【公開番号】P2022069787
(43)【公開日】2022-05-12
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】盛山 智
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-147157(JP,A)
【文献】国際公開第2019/049826(WO,A1)
【文献】特開2020-140793(JP,A)
【文献】国際公開第2017/199884(WO,A1)
【文献】特開2016-031922(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 4/62
H01M 4/139
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電箔と、前記集電箔の表面上に積層された電極合材層と、を有する電極の製造方法において、
バインダ及び分散剤を含むことなく、複数の活物質粒子と導電材である複数のカーボンナノチューブと溶媒とを含む湿潤粉体、を作製する湿潤粉体作製工程と、
前記集電箔の表面上に、前記湿潤粉体作製工程において作製した前記湿潤粉体を膜状に付着させる成膜工程と、
前記集電箔の表面上に付着させた膜状の前記湿潤粉体を乾燥させることで、前記集電箔の表面上に前記電極合材層を形成する乾燥工程と、を備え、
前記湿潤粉体作製工程は、
前記溶媒の存在下で前記活物質粒子と前記カーボンナノチューブを圧縮しつつ擦り合わせることによって、前記カーボンナノチューブが前記湿潤粉体の全体にわたって分散するとともに、表面が前記溶媒で濡れた隣り合う前記活物質粒子同士が、前記カーボンナノチューブによって接続された態様の前記湿潤粉体を作製する
電極の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電極の製造方法であって、
前記湿潤粉体作製工程では、前記導電材として前記カーボンナノチューブのみを含む前記湿潤粉体を作製し、
前記乾燥工程では、前記導電材として前記カーボンナノチューブのみを含む前記電極合材層を形成する
電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、集電箔と、集電箔の表面上に積層された電極合材層と、を有するリチウムイオン二次電池用電極の製造方法が開示されている。具体的には、まず、導電材である複数のカーボンナノチューブと、分散剤と、溶媒(分散媒)とを混合して、カーボンナノチューブ分散液を作製する。次いで、このカーボンナノチューブ分散液に、複数の活物質粒子を混合して、電極スラリーを作製する。その後、この電極スラリーを集電箔の表面に塗布し、乾燥させることで、リチウムイオン二次電池用電極となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-200804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、カーボンナノチューブは凝集し易いため、分散剤を添加することなく、導電材としてカーボンナノチューブを用いた電極スラリーを作製した場合は、複数のカーボンナノチューブが溶媒中で泳動して凝集してしまい、カーボンナノチューブをスラリー中で分散させることができない。このため、特許文献1のように、導電材としてカーボンナノチューブを用いた電極スラリーを作製する場合は、カーボンナノチューブをスラリー中で分散させるために、分散剤を添加する必要があった。しかしながら、分散剤は電気抵抗が高いため、分散剤を含有する電極ペーストを用いて作製した電極では、電極合材層の体積抵抗率が高くなる傾向にあった。これにより、電池の内部抵抗が高くなることがあった。
【0005】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、電極合材層の体積抵抗率を小さくすることができる電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
電箔と、前記集電箔の表面上に積層された電極合材層と、を有する電極であって、前記電極合材層は、バインダ及び分散剤を含むことなく、複数の活物質粒子及び導電材である複数のカーボンナノチューブを含み、前記カーボンナノチューブが当該電極合材層の全体にわたって分散しており、隣り合う前記活物質粒子同士が、前記カーボンナノチューブによって接続されている電極が好ましい。
【0007】
上述の電極では、電極合材層が、バインダ及び分散剤を含むことなく、複数の活物質粒子及び複数のカーボンナノチューブを含んでいる。そして、この電極合材層では、カーボンナノチューブが当該電極合材層の全体にわたって分散しており、且つ、隣り合う活物質粒子同士が、導電材であるカーボンナノチューブによって接続(連結)されている。このように、電極合材層において、電気抵抗の高いバインダ及び分散剤を含有させず、且つ、隣り合う活物質粒子同士をカーボンナノチューブによって接続する構造にすることで、電極合材層の体積抵抗率を小さくすることができる。従って、このような電極合材層を有する電極を用いることで、電池を低抵抗化する(電池の内部抵抗を小さくする)ことができる。
【0008】
なお、カーボンナノチューブは強い結着性を有するので、バインダを用いなくても、カーボンナノチューブによって活物質粒子同士を接合(結着)することができる。また、電極合材層は、カーボンナノチューブに加えて、アセチレンブラックなどの他の導電材を含んでいても良い。
【0009】
本発明の態様は、集電箔と、前記集電箔の表面上に積層された電極合材層と、を有する電極の製造方法において、バインダ及び分散剤を含むことなく、複数の活物質粒子と導電材である複数のカーボンナノチューブと溶媒とを含む湿潤粉体、を作製する湿潤粉体作製工程と、前記集電箔の表面上に、前記湿潤粉体作製工程において作製した前記湿潤粉体を膜状に付着させる成膜工程と、前記集電箔の表面上に付着させた膜状の前記湿潤粉体を乾燥させることで、前記集電箔の表面上に前記電極合材層を形成する乾燥工程と、を備え、前記湿潤粉体作製工程は、前記溶媒の存在下で前記活物質粒子と前記カーボンナノチューブを圧縮しつつ擦り合わせることによって、前記カーボンナノチューブが前記湿潤粉体の全体にわたって分散するとともに、表面が前記溶媒で濡れた隣り合う前記活物質粒子同士が、前記カーボンナノチューブによって接続された態様の前記湿潤粉体を作製する電極の製造方法である。
【0010】
上述の製造方法では、湿潤粉体作製工程において、バインダ及び分散剤を含むことなく、複数の活物質粒子と導電材である複数のカーボンナノチューブと溶媒(液体)とを含む湿潤粉体を作製する。詳細には、この湿潤粉体作製工程では、溶媒(液体)の存在下で、活物質粒子とカーボンナノチューブを圧縮しつつ擦り合わせることによって、湿潤粉体として、「カーボンナノチューブが湿潤粉体の全体にわたって分散するとともに、表面が溶媒で濡れた隣り合う活物質粒子同士がカーボンナノチューブによって接続された態様」の湿潤粉体を作製する。
【0011】
このように、上述の製造方法では、従来(例えば、特許文献1)の製造方法とは異なり、スラリーを作製するのではなく、湿潤粉体作製工程において、スラリーよりも固形分率の高い(すなわち、溶媒含有率が低い)湿潤粉体を作製することで、カーボンナノチューブが溶媒中で泳動し難くなるので、カーボンナノチューブが凝集し難くなる。このため、分散剤を添加しなくても、カーボンナノチューブを湿潤粉体の全体にわたって分散させることができる。これにより、湿潤粉体の全体にわたって、表面が溶媒で濡れた隣り合う活物質粒子同士がカーボンナノチューブによって接続された態様の湿潤粉体を得ることができる。
【0012】
上述の製造方法では、その後、成膜工程において、集電箔の表面上に、湿潤粉体作製工程において作製した湿潤粉体を膜状に付着させる。その後、乾燥工程において、集電箔の表面上に付着させた膜状の湿潤粉体を乾燥させることで、集電箔の表面上に電極合材層(膜状の湿潤粉体が乾燥したもの)を形成する。
【0013】
このようにして製造した電極の電極合材層は、バインダ及び分散剤を含むことなく、複数の活物質粒子及び複数のカーボンナノチューブを含んでいる。そして、この電極合材層では、カーボンナノチューブが当該電極合材層の全体にわたって分散しており、且つ、隣り合う活物質粒子同士が、導電材であるカーボンナノチューブによって接続(接合)されている。このように、電極合材層において、電気抵抗の高いバインダ及び分散剤を含有させず、且つ、隣り合う活物質粒子同士をカーボンナノチューブによって接続する構造にすることで、電極合材層の体積抵抗率を小さくすることができる。従って、このような電極合材層を有する電極を用いることで、電池を低抵抗化する(電池の内部抵抗を小さくする)ことができる。
【0014】
なお、上述の湿潤粉体作製工程は、公知のロールミルや二軸混練機を用いて行うことができる。例えば、活物質粒子とカーボンナノチューブと溶媒をロールミルに投入することで、溶媒存在下で、活物質粒子とカーボンナノチューブが圧縮されつつ擦り合わされて、上述の湿潤粉体を作製することができる。
【0015】
また、湿潤粉体作製工程では、溶媒の添加量を、溶媒によって活物質粒子の表面が濡れて、溶媒によってカーボンナノチューブと活物質粒子が液架橋する程度の量にするのが好ましい。これにより、カーボンナノチューブが溶媒中で泳動して凝集することを防止できる。また、湿潤粉体作製工程では、カーボンナノチューブに加えて、アセチレンブラックなどの他の導電材を含む湿潤粉体を作製するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態にかかる電極(正極)の部分拡大断面図である。
図2】実施形態にかかる電極の製造方法の流れを示すフローチャートである。
図3】実施形態にかかる湿潤粉体の部分拡大断面図である。
図4】実施形態で使用するロール成膜装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<実施形態>
以下、本発明を具体化した実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。本実施形態は、リチウムイオン二次電池の正極19(電極)、及びその製造に、本発明を適用したものである。本実施形態では、正極19の正極合材層18(電極合材層)を形成するための湿潤粉体6の材料として、複数の正極活物質粒子13(活物質粒子)と、導電材である複数のカーボンナノチューブ11と、溶媒15とを使用する。なお、本実施形態では、正極活物質粒子13として、リチウム遷移金属複合酸化物(具体的には、LiNi1/3Mn1/3Co1/32 )の粒子を用いている。また、溶媒15として、NMP(N-メチルピロリドン)を用いている。
【0018】
本実施形態では、上記の各材料を混合して、湿潤粉体6を作製する。この湿潤粉体6を集電箔7の表面上に膜状に付着させ(塗布し)、その後、集電箔7の表面上の湿潤粉体6を乾燥させることにより、正極19を製造する。つまり、本実施形態では、湿潤粉体6を作製する湿潤粉体作製工程と、その湿潤粉体6を集電箔7の表面に膜状に付着させる成膜工程と、集電箔7の表面上に付着させた膜状の湿潤粉体6を乾燥させる乾燥工程とを行って、正極19を製造する。
【0019】
図1は、本実施形態にかかる正極19の部分拡大断面図である。図1に示すように、正極19は、集電箔7と、集電箔7の表面上に積層された正極合材層18とを有する。正極合材層18は、バインダ及び分散剤を含むことなく、複数の正極活物質粒子13及び導電材である複数のカーボンナノチューブ11を含んでいる。そして、正極合材層18では、カーボンナノチューブ11が当該正極合材層18の全体にわたって分散しており、且つ、隣り合う正極活物質粒子13同士が、導電材であるカーボンナノチューブ11によって接続(連結)されている(図1参照)。
【0020】
このように、正極合材層18において、電気抵抗の高いバインダ及び分散剤を含有させず、且つ、隣り合う正極活物質粒子13同士をカーボンナノチューブ11によって接続する構造にすることで、正極合材層18の体積抵抗率を小さくすることができる。従って、このような正極合材層18を有する正極19を用いることで、電池を低抵抗化する(電池の内部抵抗を小さくする)ことができる。なお、カーボンナノチューブ11は強い結着性を有するので、バインダを用いなくても、カーボンナノチューブ11によって正極活物質粒子13同士を接合(結着)することができる。
【0021】
次に、本実施形態にかかる電極(正極19)の製造方法について、詳細に説明する。図2は、実施形態にかかる電極(正極19)の製造方法の流れを示すフローチャートである。まず、ステップS1(湿潤粉体作製工程)において、複数の正極活物質粒子13と複数のカーボンナノチューブ11と溶媒15(NMP)とを混合して、湿潤粉体6を作製する。
【0022】
具体的には、複数の正極活物質粒子13と複数のカーボンナノチューブ11と溶媒15を、公知のロールミル(図示なし)に投入することで、溶媒15の存在下で、正極活物質粒子13とカーボンナノチューブ11を圧縮しつつ擦り合わせる。このようにすることで、正極活物質粒子13の表面が溶媒15で濡れると共に、カーボンナノチューブ11が湿潤粉体6(混合物)の全体にわたって分散して、表面が溶媒15で濡れた隣り合う正極活物質粒子13同士がカーボンナノチューブ11によって接続された態様の湿潤粉体6(図3参照)を作製することができる。図3は、湿潤粉体6の部分拡大断面図である。
【0023】
なお、本実施形態のステップS1(湿潤粉体作製工程)では、溶媒15の添加量を、「溶媒15によって正極活物質粒子13の表面が濡れて、溶媒15によってカーボンナノチューブ11と正極活物質粒子13が液架橋する量」にしている。これにより、カーボンナノチューブ11が溶媒15中で泳動して凝集することを防止している。具体的には、湿潤粉体6のNV(固形分率)が重量比で約80%となるように、溶媒15(NMP)を添加している。具体的には、溶媒15以外の成分、すなわち正極活物質粒子13とカーボンナノチューブ11が固形分(不揮発成分)であり、これらの合計重量が、湿潤粉体6の全体重量(正極活物質粒子13とカーボンナノチューブ11と溶媒15の合計重量)に対して、約80wt%となるようにしている。
【0024】
本実施形態では、上述のように、ステップS1(湿潤粉体作製工程)において、バインダ及び分散剤を含むことなく、正極活物質粒子13と複数のカーボンナノチューブ11と溶媒15とを含む湿潤粉体6を作製する。詳細には、溶媒15の存在下で、正極活物質粒子13とカーボンナノチューブ11を圧縮しつつ擦り合わせることによって、「カーボンナノチューブ11が湿潤粉体6の全体にわたって分散するとともに、表面が溶媒15で濡れた隣り合う正極活物質粒子13がカーボンナノチューブ11によって接続された態様」の湿潤粉体6を作製する。
【0025】
このように、本実施形態では、従来(例えば、特許文献1)とは異なり、スラリーを作製するのではなく、湿潤粉体作製工程において、スラリーよりも固形分率の高い(すなわち、溶媒含有率が低い)湿潤粉体6を作製することで、カーボンナノチューブ11が溶媒15中で泳動し難くなるので、カーボンナノチューブ11が凝集し難くなる。このため、分散剤を添加しなくても、カーボンナノチューブ11を湿潤粉体6の全体にわたって分散させることができる。これにより、湿潤粉体6の全体にわたって、表面が溶媒15で濡れた隣り合う正極活物質粒子13がカーボンナノチューブ11によって接続された態様の湿潤粉体6を得ることができる。
【0026】
次に、ステップS2(成膜工程)に進み、集電箔7の表面上に、ステップS1(湿潤粉体作製工程)で作製された湿潤粉体6を膜状に付着させる。具体的には、ステップS1(湿潤粉体作製工程)で作製された湿潤粉体6を、対向するロール(第1ローラ1と第2ローラ2)の間隙に通すことによって膜状にし、膜状にされた湿潤粉体6を集電箔7の表面上に付着させる(図4参照)。なお、本実施形態では、図4に示すロール成膜装置20を用いて、ステップS2(成膜工程)を行う。
【0027】
ロール成膜装置20は、図4に示すように、第1ローラ1と第2ローラ2と第3ローラ3の、3つのローラを有している。これら3つのローラ1~3は、水平に並べて配置され、互いに平行に設けられている。また、第1ローラ1と第2ローラ2とは、わずかに間隔を置いて対面している。同様に、第2ローラ2と第3ローラ3とも、わずかに間隔を置いて対面している。第1ローラ1と第3ローラ3とは対面していない。さらに、第1ローラ1と第2ローラ2との対面箇所の上側には、仕切り板4と5が、ローラの幅方向(軸方向、図4において紙面に直交する方向)に離間して配置されている。
【0028】
また、これら3つのローラ1~3の回転方向は、図4において矢印で示すように、隣り合う(対面する)2つのローラの回転方向が互いに逆方向となるように、すなわち、対面する2つのローラが互いに順方向回転となるように設定されている。そして、第1ローラ1と第2ローラ2との対面箇所では、これらのローラの表面が回転により下向きに移動するようになっている。また、第2ローラ2と第3ローラ3との対面箇所では、これらのローラの表面が回転により上向きに移動するようになっている。また、回転速度に関して、回転によるローラの表面の移動速度が、第1ローラ1において最も遅く、第3ローラ3において最も速く、第2ローラ2ではそれらの中間となるように設定されている。
【0029】
このようなロール成膜装置20では、第1ローラ1と第2ローラ2との対面箇所の上に位置する仕切り板4と5の間の収容空間内に、ステップS1において作製した湿潤粉体6が投入される。また、第3ローラ3には、集電箔7が掛け渡されている。集電箔7は、金属箔(アルミニウム箔)であり、第3ローラ3の回転と共に、第2ローラ2と第3ローラ3との対面箇所を通って、図4の右下から右上へと搬送されるようになっている。また、第2ローラ2と第3ローラ3との対面箇所には、集電箔7が通されている状態で、さらに第2ローラ2と集電箔7との間に若干の隙間があるようにされている。すなわち、第2ローラ2と第3ローラ3との間の隙間(集電箔7が存在していない状態での隙間)は、集電箔7の厚さより少し広い。
【0030】
ステップS2(成膜工程)では、ロール成膜装置20の仕切り板4と5の間の収容空間内に、ステップS1で作製した湿潤粉体6を投入する。投入された湿潤粉体6は、第1ローラ1と第2ローラ2との対面箇所の隙間内に供給され、第1ローラ1及び第2ローラ2の回転により、両ローラの間の隙間を通過して膜状となる(図4参照)。
【0031】
膜状となった湿潤粉体6(これを湿潤粉体膜8という)は、その後、第1ローラ1よりも移動速度の速い第2ローラ2の表面に担持されて、第2ローラ2の回転と共に搬送されていく。すると、第2ローラ2と第3ローラ3との対面箇所において、集電箔7と湿潤粉体膜8とが出会う。これにより、湿潤粉体膜8が、第2ローラ2から、より移動速度の速い第3ローラ3と共に回転している集電箔7の表面上に転写される(付着する)。これにより、集電箔7上に湿潤粉体膜8が形成された、湿潤粉体膜付き集電箔9が得られる。
【0032】
その後、ステップS3(乾燥工程)に進み、集電箔7の表面上に付着させた膜状の湿潤粉体6(湿潤粉体膜8)を乾燥させることで、集電箔7の表面上に正極合材層18(膜状の湿潤粉体6が乾燥したもの)を形成する。具体的には、図示しない乾燥装置によって、湿潤粉体膜付き集電箔9を乾燥させる(湿潤粉体膜8を乾燥させる)。これにより、湿潤粉体膜8(湿潤粉体6)に含まれている溶媒15が除去されて(蒸発して)、湿潤粉体膜8が正極合材層18(電極合材層)になる(図1参照)。これにより、集電箔7の表面上に正極合材層18を有する正極19が得られる。なお、湿潤粉体膜8(正極合材層18)は、集電箔7の片面のみに形成するようにしても良いし、両面に形成するようにしても良い。
【0033】
このようにして製造した正極19の正極合材層18は、バインダ及び分散剤を含むことなく、複数の正極活物質粒子13及び複数のカーボンナノチューブ11を含んでいる。そして、この正極合材層18では、カーボンナノチューブ11が当該正極合材層18の全体にわたって分散しており、且つ、隣り合う正極活物質粒子13同士が、導電材であるカーボンナノチューブ11によって接続(接合)されている。このように、正極合材層18において、電気抵抗の高いバインダ及び分散剤を含有させず、且つ、隣り合う正極活物質粒子13同士をカーボンナノチューブ11によって接続する構造にすることで、正極合材層18の体積抵抗率を小さくすることができる。従って、このような正極合材層18を有する正極19を用いることで、電池を低抵抗化することができる。
【0034】
作製した正極19は、その後、負極及びセパレータと組み合わされて、電極体を形成する。次いで、この電極体に端子部材を取り付けた後、電池ケース内に電極体及び電解液を収容する。これにより、リチウムイオン二次電池が完成する。
【0035】
<比較形態>
従来の製造方法によって、比較形態にかかる正極を作製した。具体的には、まず、導電材である複数のカーボンナノチューブ11と、分散剤と、溶媒15(分散媒)とを混合して、カーボンナノチューブ分散液を作製する。なお、カーボンナノチューブ11として、実施形態と同等のカーボンナノチューブ11を用いている。また、分散剤は、ナフチル基含有アクリル樹脂、ビニルアルコール樹脂、及びエタンジオール変性ビニルアルコール樹脂の3種類の分散剤から選択した1種または複数種の分散剤を用いるのが好ましい。なお、本比較形態では、分散剤として、ナフチル基含有アクリル樹脂を用いている。また、溶媒15として、実施形態と同等のNMP(N-メチルピロリドン)を用いている。
【0036】
次いで、このカーボンナノチューブ分散液に、複数の正極活物質粒子13と溶媒15(NMP)とバインダを混合して、正極スラリーを作製する。なお、正極活物質粒子13として、実施形態と同等のリチウム遷移金属複合酸化物(具体的には、LiNi1/3Mn1/3Co1/32 )の粒子を用いている。また、バインダとして、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)を用いている。また、正極スラリーの固形分率を、約50wt%としている。具体的には、溶媒15(NMP)以外の成分、すなわち、正極活物質粒子13とカーボンナノチューブ11とバインダと分散剤が固形分(不揮発成分)であり、これらの合計重量が、正極スラリーの全体重量に対して、約50wt%となるようにしている。その後、この正極スラリーを集電箔7の表面に塗布し、乾燥させることによって、正極を作製した。
【0037】
比較形態にかかる正極は、集電箔7と、集電箔7の表面上に積層された正極合材層とを有する。比較形態の正極合材層は、正極活物質粒子13及びカーボンナノチューブ11の他に、バインダ(PVDF)と分散剤(ナフチル基含有アクリル樹脂)を含んでいる。なお、正極合材層中のバインダの有無は、例えば、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)やエネルギー分散型X線分析(EDX)によって確認することが可能である。また、正極合材層中の分散剤の有無は、例えば、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析や赤外分光分析によって確認することが可能である。
【0038】
なお、カーボンナノチューブは凝集し易いため、分散剤を添加することなく、導電材としてカーボンナノチューブを用いた正極スラリーを作製した場合は、複数のカーボンナノチューブが溶媒中で泳動して凝集してしまい、カーボンナノチューブをスラリー中で分散させることができない。このため、比較形態のように、導電材としてカーボンナノチューブを用いた正極スラリーを作製する場合は、カーボンナノチューブをスラリー中で分散させるために、分散剤を添加する必要がある。
【0039】
<正極合材層の体積抵抗率の比較>
実施形態にかかる正極19の正極合材層18と、比較形態にかかる正極の正極合材層とについて、それぞれ、体積抵抗率(Ω・cm)を測定した。この結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示すように、比較形態の正極合材層では、体積抵抗率が2.940(Ω・cm)であった。これに対し、実施形態の正極合材層18では、体積抵抗率が0.079(Ω・cm)となり、比較形態に比べて極めて小さい値になった。このように、比較形態の正極合材層に比べて、実施形態の正極合材層18の体積抵抗率を小さくすることができた理由は、正極合材層18において、電気抵抗の高いバインダ及び分散剤を含有させることなく、隣り合う正極活物質粒子13同士をカーボンナノチューブ11によって接続する構造にすることができたからである。このような正極合材層18を有する正極19を用いることで、リチウムイオン二次電池の内部抵抗を小さくすることができる。
【0042】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0043】
例えば、実施形態では、本発明にかかる電極として、正極を例示した。しかしながら、本発明を、負極に適用するようにしても良い。さらに、実施形態では、本発明にかかる電極の製造方法として、正極を製造する方法を例示した。しかしながら、本発明を、負極の製造方法に適用するようにしても良い。
【0044】
また、実施形態では、ステップS1(湿潤粉体作製工程)において、湿潤粉体6の固形分率を約80wt%とした。しかしながら、湿潤粉体の固形分率はこの値に限定されるものではない。但し、湿潤粉体の固形分率(換言すれば、溶媒の含有率)は、溶媒によって活物質粒子の表面が濡れて、溶媒によってカーボンナノチューブと活物質粒子が液架橋する値にするのが好ましい。具体的には、湿潤粉体の固形分率は、70~90wt%の範囲内の値とするのが好ましい。
【0045】
また、実施形態では、ロールミルを用いて湿潤粉体6を作製したが、公知の二軸混練機を用いて湿潤粉体を作製するようにしても良い。より具体的には、溶媒存在下で、活物質粒子とカーボンナノチューブを圧縮しつつ擦り合わせて、カーボンナノチューブが湿潤粉体の全体に分散するとともに、表面が溶媒で濡れた隣り合う活物質粒子同士がカーボンナノチューブによって接続された態様の湿潤粉体を作製することが可能な装置であれば、いずれの装置であっても良い。
【0046】
また、実施形態では、導電材としてカーボンナノチューブ11のみを含む正極合材層18(電極合材層)を有する正極19(電極)を示した。しかしながら、電極合材層は、カーボンナノチューブに加えて、アセチレンブラックなどの他の導電材を含んでいても良い。さらには、実施形態では、湿潤粉体作製工程において、導電材としてカーボンナノチューブのみを含む湿潤粉体を作製した。しかしながら、カーボンナノチューブに加えて、アセチレンブラックなどの他の導電材を含む湿潤粉体を作製するようにしても良い。
【符号の説明】
【0047】
6 湿潤粉体
7 集電箔
8 湿潤粉体膜(膜状の湿潤粉体)
11 カーボンナノチューブ
13 正極活物質粒子(活物質粒子)
15 溶媒
18 正極合材層(電極合材層)
19 正極(電極)
20 ロール成膜装置
S1 湿潤粉体作製工程
S2 成膜工程
S3 乾燥工程
図1
図2
図3
図4