IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ロケット フレールの特許一覧

特許7231618改善された風味を有するエンドウタンパク質、生産方法、及び産業用途
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】改善された風味を有するエンドウタンパク質、生産方法、及び産業用途
(51)【国際特許分類】
   A23J 1/14 20060101AFI20230221BHJP
   A23L 33/185 20160101ALI20230221BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
A23J1/14
A23L33/185
A61K38/16
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020515209
(86)(22)【出願日】2018-09-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-19
(86)【国際出願番号】 FR2018052261
(87)【国際公開番号】W WO2019053387
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2021-09-02
(31)【優先権主張番号】1758570
(32)【優先日】2017-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】591169401
【氏名又は名称】ロケット フレール
【氏名又は名称原語表記】ROQUETTE FRERES
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】アリーヌ ルコック
(72)【発明者】
【氏名】マティアス イベール
(72)【発明者】
【氏名】フランク ドブーヴリ
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04022919(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0226810(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0226811(US,A1)
【文献】特表2013-528378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23J 1/00-7/00
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-メチルブタナール含量が、3000ppbを超えることを特徴とする、エンドウタンパク質。
【請求項2】
ベンズアルデヒド含量が、60ppbを超えることを特徴とする、請求項1に記載のエンドウタンパク質。
【請求項3】
以下の段階:
a)70℃~90℃の温度で、水溶液中のエンドウを処理して、水/エンドウ懸濁液を得ること;
b)段階a)で得られた懸濁液の熱処理であって、前記懸濁液の温度を70℃~90℃で2~4分間維持すること;
c)段階b)で得られた前記懸濁液のエンドウを冷却させること;
d)段階c)から得られた前記エンドウを水性媒体中で粉砕して、粉砕されたエンドウの水性懸濁液を取得すること;
e)段階d)から得られた前記水性懸濁液からタンパク質を抽出すること
を含むエンドウタンパク質の抽出方法。
【請求項4】
前記冷却段階c)が、段階a)及びb)で使用される排出後に新しい水溶液中で実施されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記段階a)の水溶液のpHを8~10に調節することを特徴とする、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記段階d)の終了時に粉砕されたエンドウの水性懸濁液のpHを8~10に調節することを特徴とする、請求項3~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1又はのいずれか一項に記載のエンドウタンパク質又は請求項3~6のいずれか1項に記載の方法により得られるエンドウタンパク質の食品又は医薬組成物への使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、風味が改善されたエンドウタンパク質、湿式粉砕を含むその製造方法、及び食品組成物又は医薬組成物におけるこれらタンパク質の使用である。
【背景技術】
【0002】
1日に必要なタンパク質摂取量は、食品摂取量の12%~20%である。これらのタンパク質は、動物由来の製品(食肉、魚、卵、乳製品)及び植物性製品(穀類、マメ科の植物、海藻)の双方により供給される。
【0003】
しかし、工業国では、タンパク質摂取は、主に動物由来のタンパク質の形態である。しかし、多くの研究では、動物由来のタンパク質の過剰消費は、植物性タンパク質の不足を招き、これは、癌及び心血管疾患増加の原因の1つである。
【0004】
さらに、動物タンパク質は、特に牛乳又は卵由来のタンパク質についてのそれらのアレルギー源性と、集約農業の悪影響に関連する環境の双方に関して、多くの問題を呈している。
【0005】
従って、製造者からは、動物由来の化合物の問題を呈することなく、有利な栄養及び機能性を有する、植物由来のタンパク質に対する需要がますます高まっている。
【0006】
1970年代以降、エンドウは、特に、動物飼料用のタンパク質資源、また、ヒトが消費するための食品用のタンパク質資源としても、最も広く、ヨーロッパ、主にフランスで開発されているマメ科種子植物である。エンドウは、約27重量%のタンパク質を含有する。「エンドウ」という用語は、本明細書において、その最も広範な意味で考慮され、特に、あらゆる野生型の多様な「スムース・ピー(smooth pea)」並びにあらゆる多様な突然変異型の「スムース・ピー(smooth pea)」及び「リンクルド・ピー(wrinkled pea)」を、前記多様なエンドウが一般的に意図される用途(ヒトの摂取用の食品、動物栄養及び/又は他の用途)とは無関係に含む。エンドウタンパク質、主としてエンドウグロブリンは、抽出され、多年にわたり工業的に経済的に利用されてきた。エンドウタンパク質抽出方法の例として、欧州特許第1 400 537号明細書が挙げられる。この方法では、水の非存在下で種子を粉砕する(「乾式粉砕」法)ことにより、粉体を取得する。続いて、この粉体を水に懸濁させて、そこからタンパク質を抽出する。
【0007】
その紛れもない資質にもかかわらず、エンドウから抽出されるタンパク質には、動物性タンパク質と比較して、「豆様臭」又は「野菜様臭」などの望ましくない風味という問題がある。この風味は、多くの産業用途、特に食品用途において紛れもない障害となっている。
【0008】
いくつかの研究の後、これらの不要な風味の主な原因の1つは、特に、タンパク質の抽出工程中、エンドウ種子に存在する脂質に対する内部リポキシゲナーゼの作用に続くアルデヒド及び/又はケトン(特に、ヘキサナール)の合成から生じることが明らかに立証されている。サポニン及び3-アルキル-2-メトキシピラジンもまた、これらの不要な風味を発生する化合物のカテゴリーである(“Flavor aspects of pulse ingredients”,Wibke S.U.Roland,2017)。
【0009】
当業者は、従って、市販のエンドウタンパク質の風味を改善すると共に、それに中性風
味を戻すことを可能にするいくつかの解決法を開発している。第1の解決法は、この目的のために選択された化学的化合物の添加による風味のマスキングに基づく:この解決法は、ユーザが必ずしも導入を望まず、調節及び/又はアレルギー性障害の原因となり得る化合物をその処方に導入することをユーザに要求する。もう1つの解決法は、米国特許第4,022,919号明細書及び国際公開第015267号パンフレットに記載されており、これは、1970年代から、水蒸気を用いた前記エンドウタンパク質の処理によって、改善された風味を有するタンパク質の取得が可能になることを教示している。それでもなお、この方法は、熱変性によって生じるタンパク質の機能的性質の改変のリスク(例えば、可溶性の喪失又はその水和容量の増加)、並びに使用前に必要な精製段階を追加する必要性について、批判され得る。そのため、これらの解決法は、有効となり得るが、タンパク質のエンドユーザは、エンドウタンパク質の実用性を改変しやすい追加的精製作業を実施することが求められる。従って、当業者は、その抽出工程中に、改善された風味のエンドウタンパク質を直接且つ単純に取得することを極めて明瞭に追求してきた。
【0010】
いくつかの有望な解決法が探求されており、そうしたものとして、限定されないが、より少ないリポキシゲナーゼを含むエンドウ栽培品種の選択、或いはタンパク質の抽出前のエンドウの前発芽が挙げられる。さらに近年では、国際公開第2017/120597号パンフレットを挙げることができ、これは、塩類の添加によるエンドウタンパク質の沈殿、数回の洗浄作業及び遠心分離による回収を含む製法を記載している。多量の水(エンドウの量の最大30倍に及び得る)を使用する複雑な工程にもかかわらず、「エンドウ」及び「苦い」風味はエンドウタンパク質中に依然として存在する(グラフ18A、B及びCを参照)。リポキシゲナーゼ及びサポニンは、温度感受性であることから、恐らく浸漬段階と組み合わされる湿潤環境での加熱(或いは、「ブリーチング」工程と称される)、又は乾燥加熱(或いは、「トースティング」工程と称される)から構成される抽出段階中の更なる加熱処理の追加が、作用を及ぼしたことは明らかである。これらの異なる解決法は、関連するダイズ部門でよく知られている。エンドウ部門について重要な問題は、工業的に経済的使用をするために、分解させてはならないエンドウデンプンの保存にある。ダイズは、デンプンを含まない:そのため、ダイズ部門では、デンプンの問題を懸念することなく、リポキシゲナーゼを阻害するために、非常に高い加熱温度を使用することができる。
【0011】
従って、調節熱処理と浸漬を組み合わせた使用が、エンドウ部門の最も適切な解決法であると考えられる。例えば、国際公開第2015071499号パンフレットを挙げることができ、これは、40℃で、乳酸菌と一緒に浸漬することを含む方法を教示する。それにもかかわらず、これらの解決法は、依然として十分ではない。この方法は、乳酸発酵のために複雑であり、且つ大量の水を消費するが、やはり完全に中性風味のエンドウタンパク質を取得することはできない(cf.表10、この表には、各抽出物中のエンドウの臭い及び/又は味を掲載する)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
出願人によって、これらのニーズを満たすべく研究に取りかかると共に、本発明を開発するに到った。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の主題は、3000ppbを超える、好ましくは4000ppbを超える、より優先的には5000ppbを超える3-メチルブタナール含量を有するエンドウタンパク質である。
【0014】
本発明の第2の主題は、以下の段階:
a)70℃~90℃、優先的には75℃~85℃、より優先的には80℃の温度で、水溶液中のエンドウを処理して、水/エンドウ懸濁液を得ること;
b)段階a)で得られた懸濁液の熱処理であって、前記懸濁液の温度を2~4分間、優先的には3分間維持すること;
c)段階b)で得られた懸濁液のエンドウを好ましくは10℃未満の温度まで冷却させること;
d)段階c)から得られたエンドウを水性媒体中で粉砕して、粉砕されたエンドウの水性懸濁液を取得すること;
e)段階d)から得られた水性懸濁液からタンパク質を抽出すること
を含むエンドウタンパク質の抽出方法である。
【0015】
本発明の第3の主題は、本発明の方法により得られたエンドウタンパク質である。
【0016】
本発明の第4の主題は、食品又は医薬組成物への本発明の方法により得られたエンドウタンパク質の使用である。
【0017】
「エンドウ」という用語は、本特許出願において、あらゆる野生型の多様な「スムース・ピー(smooth pea)」並びにあらゆる多様な突然変異型の「スムース・ピー(smooth pea)」及び「リンクルド・ピー(wrinkled pea)」を意味するものとして理解すべきである。
【0018】
「水」という用語は、本特許出願において、産業的環境、特に食品処理産業及び医薬品産業で使用することができるあらゆるタイプの水を意味するものとして理解すべきである。非限定的に、脱塩水、飲料水及び脱炭酸水を挙げることができる。
【0019】
「タンパク質」という用語は、本特許出願において、ペプチド結合により互いに連結されたアミノ酸残基の配列から構成される1つ又は複数のポリペプチド鎖から形成される高分子を意味するものとして理解すべきである。エンドウタンパク質に特に関連して、本発明は、より具体的に、グロブリン(エンドウタンパク質の約50~60%)及びアルブミン(20~25%)に関する。エンドウグロブリンは、主として3つのサブファミリー:レグミン、ビシリン及びコンビシリンに区分される。
【0020】
「風味」という用語は、本特許出願において、人が、食品を摂取するときに体験する全ての口腔及び鼻腔感覚を意味するものとして理解すべきである。この風味は、訓練を受けた官能検査パネルを用いて、又はこれらの感覚を引き起こすことがわかっている化合物の化学分析により分析及び定量することができる。
【0021】
本発明の様々な主題は、以下に続く本発明の詳細な説明においてよりよく理解されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の主題であるエンドウタンパク質は、特定の化学的化合物を特定の含量で有するエンドウタンパク質である。従って、本発明のエンドウタンパク質は、3000ppbを超える、好ましくは4000ppbを超える、より優先的には5000ppbを超える3-メチルブタナール含量を呈示する。
【0023】
好ましい実施形態によれば、エンドウタンパク質は、さらに、特定のベンズアルデヒド含量を呈示し得る。従って、本発明のエンドウタンパク質は、特に、60ppbを超える、好ましくは70ppbを超えるベンズアルデヒド含量を呈示する。
【0024】
本発明のエンドウタンパク質は、乾物の重量に対して、75~95重量%のタンパク質を含有し得る。本発明のエンドウタンパク質の乾物含量は、乾燥前の前記エンドウタンパク質の重量に対して、90~99.5重量%であり得る。当業者には周知である、タンパク質の含量を定量するためのあらゆる参照検定方法を使用することができる。好ましくは、総窒素を検定して(%/粗生成物で)、その結果に係数6.25を掛ける。植物性タンパク質の分野で公知の方法は、タンパク質が、平均16%の窒素を含有するという観測結果に基づく。当業者には周知のあらゆる乾物検定方法を使用することができる。
【0025】
本発明のエンドウタンパク質は、特に、後述する方法を用いて取得することができる。
【0026】
本発明のエンドウタンパク質の主題である方法は、エンドウタンパク質の抽出方法である。
【0027】
本発明の方法は、温度が70℃~90℃の水溶液中で、エンドウを処理して、水/エンドウ懸濁液を得る、段階a)を含む。
【0028】
水溶液は、任意選択で、添加剤、特に消泡剤又は静菌化合物などを含み得る水として理解されよう。
【0029】
段階a)で使用されるエンドウは、事前に、当業者には周知の段階、例えば、特に、洗浄(石、昆虫の死骸、土壌残渣などの不要な粒子の除去)、或いはまた「剥離」と呼ばれる公知の段階によるエンドウの外側繊維(外側セルロースさや)の除去を経ていてもよい。
【0030】
段階a)でのエンドウ/水溶液の量の比は、特に、水溶液が全てのエンドウを覆うように選択することができる。優先的に、水溶液/エンドウの重量比は、1~2である。
【0031】
段階a)での水溶液の温度は、70℃~90℃、優先的には75℃~85℃、より優先的には80℃である。加熱は、浸漬熱交換器など、当業者には周知の任意の装置を用いて実施することができる。
【0032】
段階a)での水溶液のpHは、8~10、優先的には9に調節することができる。pHは、酸及び/又は塩基、例えば、水酸化ナトリウム又は塩酸の添加によって調節することができる。必要ではないが、緩衝剤溶液の使用が考えられる。
【0033】
本発明の方法は、段階a)で得られた水/エンドウ懸濁液の温度を70℃~90℃に2~4分間、優先的には3分間維持することにより実施される熱処理の段階b)を含む。温度は、浸漬熱交換器など、当業者には周知の任意の装置を用いて維持することができる。
【0034】
水/エンドウ懸濁液の熱処理は、優先的に、機械的攪拌、例えば、電動式攪拌機の使用により、或いはまたポンプ及び再循環ループを用いた水溶液の再循環の下で実施される。
【0035】
本発明の方法は、段階b)で得られた水/エンドウ懸濁液を冷却する段階c)を含む。これは、段階b)の終了時に、エンドウはまだ高温に達する恐れがあり、これは、目的とする特定の温度感受性化合物、特に、デンプン、さらにはビタミンに対しても有害となり得るためである。
【0036】
好ましい実施形態によれば、冷却段階c)は、段階a)及びb)で使用される排出工程後に新しい水溶液中で実施する。従って、冷却は、具体的に、2つの段階で実施することができる:まず初めに、エンドウを、当業者には周知の任意の技術、例えば、濾過又は遠
心分離などにより水溶液から分離した後、所定量の低温水溶液(その温度は、5℃~8℃)中に、最大10℃のエンドウの目標温度に到達させることができる時間にわたってそれらを浸漬する。温度を下げるために、任意選択で、冷却システム、例えば、浸漬チューブ熱交換システムを同時に使用することが可能である。このようにして得られた水/エンドウ懸濁液を段階d)に直接使用することができる。
【0037】
エンドウの目標温度:10℃は、具体的には、赤外線温度計を用いて、又はエンドウの内部にプローブ温度計を導入することによって測定することができる。
【0038】
別の方式は、冷却システムを用いた水/エンドウ懸濁液の直接冷却から成る。エンドウの到達目標温度は、やはり最大10℃である。
【0039】
本発明の方法は、段階c)から得られたエンドウを水性媒体中で粉砕して、粉砕されたエンドウの水性懸濁液を取得する段階d)を含む。エンドウは、段階c)から直接得られる水溶液で完全に覆うことができる。別の方式は、水溶液の部分的又は完全な排出に続いて、例えば、粉砕の開始後に、粉砕行程中非連続的様式で、又は粉砕工程全体を通して連続的に、新しい水溶液を添加しながらエンドウを粉砕することから成る。
【0040】
粉砕は、当業者には周知である任意のタイプの適切な技術、例えば、ビーズミル、コニカルミル、ヘリカルミル、又はロータ/ロータシステムにより実施する。
【0041】
粉砕中に、前記懸濁液の重量に対して、15~25重量%の乾物(DM)、優先的には20重量%のDM含量を示す粉砕エンドウの水性懸濁液を当該段階の終了時に取得するために、粉砕工程中に、水を連続的に又は非連続的に添加する。
【0042】
粉砕の終わりに、pHを確認することができる。好ましくは、段階d)の終了時に粉砕エンドウの水性懸濁液のpHを8~10に調節し;優先的には、pHを9に調節する。pH補正は、酸及び/又は塩基、例えば、水酸化ナトリウム又は塩酸の添加によって実施することができる。
【0043】
本発明の方法は、段階d)の水性懸濁液からのタンパク質の抽出の段階e)を含む。前記抽出は、任意のタイプの適切な方法、例えば、特に、タンパク質の等電pHでの沈殿、或いはまた加熱によるそれらの熱凝固によって実施することができる。ここでの目標は、段階d)の水性懸濁液の他の成分から有利なエンドウタンパク質を分離することである。こうした方法の例は、例えば、本出願人の欧州特許第1,400,537号明細書のセクション127~セクション143に提示されている。
【0044】
タンパク質の抽出は、優先的に、当業者には周知の任意の技術を用いて乾燥することにより達成することができる。非限定的に、凍結乾燥又は噴霧が挙げられる。優先的には、乾燥前に、タンパク質のpHを、酸及び/又は塩基、例えば、塩酸又は水酸化ナトリウムなどの添加により7に補正する。
【0045】
本発明の別の主題は、本発明の抽出方法により得ることができるエンドウタンパク質である。本発明の方法に従って得られるエンドウタンパク質は、有利には、中性風味を呈示する。
【0046】
本発明の方法で得られるエンドウタンパク質は、乾物の重量に対して、タンパク質の75~95重量%を含有し得る。本発明の方法により得られるエンドウタンパク質の乾物含量は、乾燥させる前の前記エンドウタンパク質の重量に対して、90~99.5重量%であり得る。当業者には周知である、タンパク質の含量を定量するための任意の参照検定方
法を使用することができる。好ましくは、総窒素を検定して(%/粗生成物で)、その結果に係数6.25を掛ける。植物性タンパク質の分野で公知の方法は、タンパク質が、平均16%の窒素を含有するという観測結果に基づく。また、当業者には周知の任意の乾物検定方法を使用することもできる。
【0047】
風味を定量する目的で、第1の解決法は、官能食味検査パネルの使用から成る。特定の風味の存在及び/若しくは非存在を定性分析並びに/又は定量するために、いくつかの標準化されたプロトコルがある。本発明に関連して用いられる一プロトコルを実施例2に説明する。
【0048】
これらの不要な風味をエンドウタンパク質中に導入することがわかっている化合物を検定することにより、風味の改善を評価することも可能である。これらの化合物を、例えば、非限定的に、挙げることができる:
・ヘキサナール;
・サポニン;
・3-アルキル-2-メトキシピラジン;
・3-メチルブタナール;
・ベンズアルデヒド。
【0049】
本発明に関連して用いられるこれらの様々な化合物の含量を定量することを可能にする方法を実施例4に説明する。
【0050】
本発明の別の主題は、本発明の方法により得られるエンドウタンパク質の食品又は医薬組成物への使用である。
【0051】
従って、その中性風味によって、こうしたエンドウタンパク質には、多くの産業用途、特に食品加工又は医薬品産業、並びに動物栄養において特定の利点がある。
【0052】
食品組成物は、ヒト又は動物の摂食を目的とする組成物を意味することが理解される。食品組成物という用語は、食品及び栄養補助食品を意味することを含む。医薬組成物は、治療での使用が意図される組成物を意味することが理解される。
【0053】
以下に示す実施例は、本特許出願の範囲を限定することなく、それをよりよく説明することを可能にする。
【実施例
【0054】
実施例1:本発明によるエンドウタンパク質の調製
0.8kgのエンドウを使用する。まず初めに、破砕(外側さやとエンドウ種子の機械的分離)及び外皮除去(圧縮空気を用いた外側さやとエンドウ種子の分別)により、エンドウの外側繊維を種子から分離する。エンドウを80℃に加熱した1.6リットルの脱イオン水を含む容器内に配置する。80℃の温度を3分間維持する。メッシュサイズ:2mmの篩での濾過により、エンドウを水溶液から分離する。続いて、1.6リットルの脱イオン水を含む第2の容器内にエンドウを5分間配置し、その温度を7℃に調節する。この冷却は、エンドウの温度が10℃以下になるまで継続する。メッシュサイズ:2mmの篩での濾過により、エンドウを水溶液から分離する。水の吸収により重量が1.3kgとなったエンドウをRobot Coupe Blixer 4VV型の粉砕機チャンバー内に導入する。エンドウの粉砕を最大速度で1.5分間実施する。次に、やはり最大速度で粉砕しながら、2.7リットルの脱イオン水を3分かけて添加する。最後に、粉砕を0.5分間継続する。終了時に、20%DM含量を示す均質な水/エンドウ粉砕生成物を取得する。この粉砕生成物を5000gで5分間遠心分離する。タンパク質が濃縮している上
清をpH5に調節した後、60℃で10分間加熱することにより、タンパク質をフロキュレートさせる。5000gで5分間の遠心分離によりタンパク質フロックを回収する。塩酸を用いてそのpHを7に補正することができるように、流体懸濁体の取得を可能にする容量の水にフロックを再懸濁させる。続いて、このフロックを凍結乾燥させる。81%タンパク質/DM及び95%DM含量を示すエンドウタンパク質を取得する。この最終生成物を「実施例1による本発明のエンドウタンパク質」と呼ぶ。
【0055】
比較実施例1:従来技術の国際公開第2015071499号パンフレットによるエンドウタンパク質の調製
0.8kgのエンドウを使用する。まず、破砕(外側さやとエンドウ種子の機械的分離)及び外皮除去(圧縮空気を用いた外側さやとエンドウ種子の分別)により、エンドウの外側繊維を種子から分離する。次に、10cfuの発酵乳酸杆菌(Lactobacillus fermentum)株を含有する飲料水中での乳酸発酵にエンドウを付す。m当たり400kgのエンドウを含む40℃の密閉チャンバーにおいて、脱ガスすることなく、4.2のpHに達するまで、発酵を嫌気性モードで実施する。続いて、濾過によりエンドウを発酵媒体から分離した後、同等量の脱イオン水ですすぐ。エンドウをRobot Coupe Blixer 4VV型の粉砕機チャンバー内に導入する。エンドウの粉砕を最大速度で1.5分間実施する。次に、やはり最大速度で粉砕しながら、終了時に約20%DMに達するように、所定量の脱イオン水を3分かけて添加する。最後に、粉砕を0.5分間継続する。均質な水/エンドウ粉砕生成物を取得する。約20%DMの含量を示すこの粉砕生成物を5000gで5分間遠心分離する。タンパク質が濃縮している上清を75℃で15秒間加熱する。続いて、上清をpH4.7に調節することにより、タンパク質の等電点フロキュレーションを達成する。5分間の5000gでの遠心分離によりタンパク質フロックを回収する。最終生成物を凍結乾燥させ、この生成物を「比較実施例1による従来技術のエンドウタンパク質」と呼ぶ。
【0056】
比較実施例2:従来技術の国際公開第2017120597号パンフレットによるエンドウタンパク質の調製
攪拌機付き容器内で90gのNutralys(登録商標)S85F(市販のエンドウタンパク質分離物)を750gの飲料水と混合する。6N水酸化ナトリウムの添加によりpHを9に調節し、混合物を5分間攪拌する。30mMのCaCl濃度を達成するために、十分な量の4M CaClを添加する。続いて、6N塩酸でpHを4.6に調節する。溶液を2200gで5分間遠心分離する。上清を取り出し、ペレットを、その15倍の重量に相当する量の水を導入することにより洗浄する。溶液を2200gで5分間遠心分離する。ペレットを回収した後、凍結乾燥する。最終生成物を「比較実施例2による従来技術のエンドウタンパク質」と呼ぶ。
【0057】
実施例2:エンドウタンパク質の風味を識別することを可能にする官能検査パネルの方法
パネルは、水中のエンドウタンパク質の食味検査の専門家である30人から構成される。
【0058】
0.3重量%のショ糖を含むEvian(登録商標)銘柄の水に5重量%で生成物を懸濁させ、ハンドブレンダーを用いて均質化した。
【0059】
続いて、これらを室温でパネリストに提供する。
【0060】
食味検査条件は、以下の通りであった:
-官能分析研究室内で:個別の食味検査室、白い壁、静かな雰囲気(集中力を高めるため);
-白色光(生成物の厳密に同じ外観を得るため);
-午前又は午後の終わりに(最も高い感覚能力であるために);
-生成物を3桁のコードにより名称をマスクする(コードが生成物の評価に影響を与えないようにするため);
-生成物をランダムな順で提供する(順序及び持続性効果を防止するため)。
【0061】
生成物を比較するために使用される方法は、Free-Choice Profiling(Williams and Langron,1984)であった。これは、順次等級付けを行うことにより、生成物を互いに比較するものであり:パネリストは、生成物を別の生成物から識別する上で最も重要と思われる記述語を選択し、以下の表に示すように、これらの記述語に従って生成物を等級付けする:
【0062】
【表1】
【0063】
パネリストに提示された記述語のリストは以下の通りであった:
【0064】
【表2】
【0065】
実施例3:様々なタンパク質の比較の結論
実施例2に記載される方法を用いて実施される官能検査評価を以下の表にまとめる。
【0066】
試験した生成物は、実施例1に従って製造したエンドウタンパク質と、比較実施例1及び2、並びに2つの市販のタンパク質:Nutralys(登録商標)S85F及びPisane(登録商標)B9である。
【0067】
【表3】
【0068】
本発明の方法により得られるエンドウタンパク質は、比較実施例のエンドウタンパク質及び試験した市販のエンドウタンパク質のものよりはるかに低い「エンドウ」風味及び「苦い」風味を呈示することが認められる。従って、本発明のエンドウタンパク質は、中性風味であることから、食品又は医薬組成物に有利に導入することができる。
【0069】
実施例4:エンドウタンパク質中の3-メチルブタナール及びベンズアルデヒドの含量を定量するためのITEX GC/MSによる分析方法
In-Tube Extraction(ITEX)に続いて、質量分析法(GC/MS)と組み合わせたガスクロマトグラフィーにより、エンドウタンパク質中の揮発性有機化合物の含量を定量することができる。
【0070】
まず初めに、一連の下記段階によって化合物の抽出を実施する:
1.分析対象のエンドウタンパク質0.5gと、10mlのアセトン/水(80/20)混合物を15mlバイアル中に導入する
2.攪拌を周囲温度(約20~25℃)で30分間実施した後、混合物を静置して沈殿させることにより分離させる
3.0.45μmフィルター上での濾過により上清液相をヘッドスペースタイプの10mlバイアル内に回収する
4.窒素気流下で、アセトン/水相を乾燥まで蒸発させる
5.ヘッドスペースバイアルを密閉する
【0071】
続いて、ITEX GC/MSによる分析を実施する。使用する市販の装置は、ITEXオプションと共にCTC CombiPalオートサンプラーを装備したBruker
Scion SQ 456-GC GC/MSである。
【0072】
ITEX分析パラメータは、以下の通りである:
・シリンジ温度 100℃
・トラップ温度 40℃
・インキュベーション温度 100℃
・攪拌速度 500rpm
・抽出容量 1000μl
・抽出回数(抽出ストローク)200
・抽出速度 1000μl/s
・プルアップ遅延 2000ms
・脱着温度 300℃
・脱着速度 100μl/s
・注入速度 100μl/s
・トラップ洗浄温度 300℃
・トラップ洗浄時間 20分
【0073】
GC/MS分析パラメータは、以下の通りである:
・カラムVf-Wax 30m*0.25mm;df 0.25μm
・Prog T℃:50℃で3分、230℃まで5℃/分、230℃で20分
・スプリットモードインジェクター1:10 250℃
・ヘリウム:1ml/分
【0074】
最後に、3-メチルブタナール及びベンズアルデヒドを選択的に計量することにより、GC/MSクロマトグラムで得られたデータの統合を実施する。これを実施するために、これらの生成物の標準サンプルを使用し、当業者の一般的知識に従って手順を実施する。
【0075】
市販のサンプル及び本特許出願の既述の実施例で得られたサンプルを用いて取得した結果を以下の表に表示する:
【0076】
【表4】
【0077】
実施例3の官能分析の結果と、ITEX GC/MS分析により得られた結果を相関させることによって、本発明に従って得られたサンプルが、唯一、3000ppbを超える3-メチルブタナール含量及び60ppbを超えるベンズアルデヒド含量を呈示することが明らかである。
【0078】
従って、高い含量の3-メチルブタナール及びベンズアルデヒドを呈示するタンパク質は、比較実施例のエンドウタンパク質及び試験した市販のエンドウタンパク質と比較して
、特に「苦い」風味及び「エンドウ」風味に関して、優れた官能特性を有することが明らかである。