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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】鋳鉄接種剤及び鋳鉄接種剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 1/10 20060101AFI20230221BHJP
   B22F 1/06 20220101ALI20230221BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20230221BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20230221BHJP
   B22F 1/12 20220101ALI20230221BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20230221BHJP
   B22F 1/16 20220101ALI20230221BHJP
   C22C 37/04 20060101ALN20230221BHJP
【FI】
C21C1/10 101
B22F1/06
B22F1/00 T
C22C30/00
B22F1/12
B22F1/14 500
B22F1/16
C22C37/04 Z
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020536542
(86)(22)【出願日】2018-12-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-18
(86)【国際出願番号】 NO2018050326
(87)【国際公開番号】W WO2019132670
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-10-14
(31)【優先権主張番号】20172063
(32)【優先日】2017-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NO
(73)【特許権者】
【識別番号】518170804
【氏名又は名称】エルケム エイエスエイ
【氏名又は名称原語表記】ELKEM ASA
【住所又は居所原語表記】Drammensveien 169, 0277 OSLO NORWAY
(74)【代理人】
【識別番号】100194113
【弁理士】
【氏名又は名称】八木田 智
(72)【発明者】
【氏名】オット,エマニュエル
(72)【発明者】
【氏名】クヌスタ,オッドヴァール
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103418757(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103484749(CN,A)
【文献】国際公開第99/029911(WO,A1)
【文献】堀江 皓 他1名,薄肉球状黒鉛鋳鉄の黒鉛粒数に及ぼすビスマスの影響,鋳物,60巻3号,日本,1988年,p.173-178
【文献】津村 治 他4名,厚肉球状黒鉛鋳鉄の黒鉛形状に及ぼす希土類元素とアンチモンの影響,鋳物,67巻8号,日本,1995年,p.540-545
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 1/00
B22F 1/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状黒鉛を有する鋳鉄の製造のための接種剤であって、前記接種剤が、
微粒子フェロシリコン合金の総重量を100として、
40~80重量%のSi、
0.02~8重量%のCa、
0~5重量%のSr、
0~12重量%のBa、
0~15重量%の希土類金属、
0~5重量%のMg、
0.05~5重量%のAl、
0~10重量%のMn、
0~10重量%のTi、
0~10重量%のZr、
残部のFe及び通常量の不可避不純物
からなる微粒子フェロシリコン合金を含み、
前記接種剤が、更に、接種剤の総重量に基づいて、
0.1~15重量%の粒径10~150μmの微粒子Sbと、
0.1~15重量%の粒径1~10μmの微粒子Bi
総量0.1~5重量%の、微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、又は
総量0.1~5重量%の、微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物
のうちの少なくとも1つと
を含有し、
その残部が前記微粒子フェロシリコン合金から成る接種剤。
【請求項2】
前記フェロシリコン合金が、45~60重量%のSiを含む、請求項1に記載の接種剤。
【請求項3】
前記フェロシリコン合金が、60~80重量%のSiを含む、請求項1に記載の接種剤。
【請求項4】
前記希土類金属が、Ce、La、Y及び/又はミッシュメタルを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の接種剤。
【請求項5】
0.5~8重量%の微粒子Sbを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の接種剤。
【請求項6】
0.1~10%の微粒子Biを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の接種剤。
【請求項7】
0.5~3%の、微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又は0.5~3%の、微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の接種剤。
【請求項8】
前記微粒子Sb、並びに微粒子Bi、及び/又は微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又は微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物のうちの少なくとも1つの総量が、前記接種剤の総重量に基づいて最大で20重量%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の接種剤。
【請求項9】
前記微粒子フェロシリコン合金及び前記微粒子Sb、並びに微粒子Bi、及び/又は微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又は微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物のうちの少なくとも1つの、混合された混合物の形態である、請求項1~8のいずれか一項に記載の接種剤。
【請求項10】
前記微粒子Sb、並びに微粒子Bi、及び/又は微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又は微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物のうちの少なくとも1つが、微粒子フェロシリコン系合金上のコーティング化合物として存在する、請求項1~9のいずれか一項に記載の接種剤。
【請求項11】
前記微粒子フェロシリコン合金及び前記微粒子Sb、並びに微粒子Bi、及び/又は微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又は微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物のうちの少なくとも1つの、混合物から作製される凝集体の形態である、請求項1~10のいずれか一項に記載の接種剤。
【請求項12】
前記微粒子フェロシリコン合金及び前記微粒子Sb、並びに微粒子Bi、及び/又は微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又は微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物のうちの少なくとも1つの、混合物から作製されるブリケットの形態である、請求項1~11のいずれか一項に記載の接種剤。
【請求項13】
請求項1~12に記載の接種剤を製造する方法であって、
微粒子フェロシリコン合金の総重量を100として、
40~80重量%のSi、
0.02~8重量%のCa、
0~5重量%のSr、
0~12重量%のBa、
0~15重量%の希土類金属、
0~5重量%のMg、
0.05~5重量%のAl、
0~10重量%のMn、
0~10重量%のTi、
0~10重量%のZr、
残部のFe及びの通常量の不可避不純物
からなる微粒子ベース合金を準備することと、
前記微粒子ベースに、接種剤の総重量に基づいて、
0.1~15重量%の微粒子Sb
0.1~15重量%の微粒子Bi
総量0.1~5重量%の、微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、又は
総量0.1~5重量%の、微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物
のうちの少なくとも1つと
を添加して前記接種剤を製造することと
を含む、方法。
【請求項14】
前記微粒子Sb、並びに微粒子Bi、及び/又は微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又は微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物のうちの少なくとも1つが、前記微粒子ベース合金と混合される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記微粒子Sb、並びに微粒子Bi、及び/又は微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又は微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物のうちの少なくとも1つが、前記微粒子ベース合金と混合される前に、混合される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
球状黒鉛を有する鋳鉄の製造における請求項1~12に記載の接種剤の、鋳造前、鋳造と同時、又は鋳型内接種剤として、前記接種剤を前記鋳鉄溶融物に添加することによる、使用。
【請求項17】
微粒子フェロシリコン系合金及び前記微粒子Sb、並びに微粒子Bi、及び/又は微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又は微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物のうちの少なくとも1つが、混合された混合物として、前記鋳鉄溶融物に添加される、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
微粒子フェロシリコン系合金と、
前記微粒子Sb
微粒子Bi、及び/又は
微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又は
微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物
のうちの少なくとも1つとが、
別個ではあるが同時に、前記鋳鉄溶融物に添加される、請求項16に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状黒鉛を有する鋳鉄の製造のためのフェロシリコン系接種剤、及び接種剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳鉄は、典型的には、キュポラ又は誘導炉で製造され、一般に2~4%の炭素を含有する。炭素は、鉄と密接に混合され、凝固した鋳鉄において炭素がとる形態は、鉄鋳の特性及び性質にとって非常に重要である。炭素が炭化鉄の形態をとる場合、鋳鉄は白鋳鉄と称され、硬質かつ脆性である物理的特性を有し、これは、ほとんどの用途で望ましくない。炭素が黒鉛の形態をとる場合、鋳鉄は軟質であり、機械加工可能である。
【0003】
黒鉛は、鋳鉄において、層状、芋虫状、又は球状の形態で発生し得る。球状の形状が、最も高強度で最も延性のある種類の鋳鉄を産み出す。
【0004】
黒鉛がとる形態、並びに黒鉛対炭化鉄の量は、鋳鉄の凝固中に黒鉛の形成を促進する特定の添加剤で制御することができる。これらの添加剤は、ノジュラライザー(nodulariser)及び接種剤と称され、鋳鉄への添加は、それぞれノジュール化(nodularisation)及び接種と称される。鋳鉄製造では、多くの場合、特に薄い切片での炭化鉄の形成が課題である。より厚い鋳造の切片における遅い冷却と比較して、急速に薄い切片を冷却することによって、炭化鉄の形成がもたらされる。鋳鉄製品中の炭化鉄の形成は、「チル」と称される。チルの形成は、「チル深さ」を測定することによって定量化される。また、チルを防止し、かつ、チル深さを低減する接種剤の力は、特にねずみ鋳鉄における、接種剤の力を測定して比較する便利な方法である。ノジュラー鉄では、接種剤の力は、通常、黒鉛ノジュール数密度(nodule number density)を用いて測定され比較される。
【0005】
業界が発展するにつれ、より強い材料が必要とされている。これは、Cr、Mn、V、Moなどの炭化物促進元素でのより多くの合金化、並びにより薄い鋳造切片及びより軽量の鋳造の設計を意味する。したがって、チル深さを低減し、ねずみ鋳鉄の機械加工性を改善し、かつ延性鋳鉄中の黒鉛球状体の数密度を増加させる接種剤を開発する一定の必要性が存在する。接種の正確な化学的性質及びメカニズム、並びに接種剤が異なる鋳鉄溶融物中で機能する理由が完全には理解されていないため、新規な改善された接種剤を業界に提供するために多くの研究が行われている。
【0006】
カルシウム及び特定の他の元素は、炭化鉄の形成を抑制し、黒鉛の形成を促進すると考えられる。接種剤の大部分はカルシウムを含有する。これらの炭化鉄抑制剤の添加は、通常、フェロシリコン合金の添加によって促進され、おそらくは、最も広く使用されるフェロシリコン合金は、70~80%のケイ素を含有する高ケイ素合金、及び45~55%のケイ素を含有する低ケイ素合金である。接種剤中に通常存在してもよく、鋳鉄中の黒鉛の核形成を刺激するためにフェロシリコン合金として鋳鉄に添加される元素は、例えばCa、Ba、Sr、Al、希土類金属(RE)、Mg、Mn、Bi、Sb、Zr及びTiである。
【0007】
炭化物形成の抑制は、接種剤の核形成の性質に関連する。核形成の性質により、接種剤によって形成される核の数が理解される。形成された核の数が多いと、黒鉛ノジュール数密度が増加するため、接種有効性が向上し、炭化物抑制が向上する。更に、高い核形成速度はまた、接種後の溶融鉄の持続的な保持時間中に、接種効果の衰退に対するよりも良好な耐性を与えることができる。接種の衰退は、核集団の合体及び再溶液によって説明することができ、これにより、潜在的核形成部位の総数が減少する。
【0008】
米国特許第4,432,793号は、ビスマス、鉛及び/又はアンチモンを含有する接種剤を開示している。ビスマス、鉛及び/又はアンチモンは、高い接種力を有し、核の数の増加をもたらすことが知られている。これらの要素はまた、球状化阻害要素であることも知られており、鋳鉄中のこれらの要素の存在の増加は、黒鉛の球状黒鉛構造の変性を引き起こすことが知られている。米国特許第4,432,793号による接種剤は、フェロシリコン中で合金化された、0.005%~3%の希土類、並びに0.005%~3%の、金属元素のビスマス、鉛及び/又はアンチモンのうちの1つを含有するフェロシリコン合金である。
【0009】
米国特許第5,733,502号によれば、上記の米国特許第4,432,793号による接種剤は、合金が製造される時点でビスマス、鉛及び/又はアンチモン収率を改善し、これらの元素が、鉄-ケイ素相中で不良な可溶性を呈する場合に、これらの元素を合金内で均質に分布させる助けとなるいくつかのカルシウムを常に含有する。しかしながら、保管中、製品は崩壊する傾向があり、粒度測定は、増加した量の微粒子に向かう傾向がある。粒度測定の減少は、接種剤の粒界で収集されたカルシウム-ビスマス相の大気水分によって引き起こされる崩壊に関連した。米国特許第5,733,502号では、ビスマス-マグネシウム二元相、並びにビスマス-マグネシウム-カルシウム三元相は、水によって侵されないことが見出された。この結果は、高ケイ素フェロシリコン合金接種剤でのみ達成され、低ケイ素FeSi接種用では、製品は保存中に崩壊した。したがって、米国特許第5,733,502号による接種用のフェロシリコン系合金は、0.005~3重量%の希土類、0.005~3重量%のビスマス、鉛及び/又はアンチモン、0.3~3重量%のカルシウム並びに0.3~3重量%のマグネシウムを含有し、Si/Fe比は2を超える。
【0010】
米国特許出願公開第2015/0284830号は、0.005~3重量%の希土類及び0.2~2重量%のSbを含有する、濃厚な鋳鉄部分を処理するための接種合金に関する。この米国特許出願公開第2015/0284830号は、フェロシリコン系合金中の希土類に依存するとき、濃厚な部分の安定化された球状部分を伴い、純粋なアンチモンの液体鋳鉄への添加の欠点を伴わずに、アンチモンが、有効な接種を可能にすることを発見した。米国特許出願公開第2015/0284830号による接種剤は、典型的には、鋳鉄並びにノジュラライザー処理を事前調整するための、鋳鉄浴の接種の文脈で使用されるものと記載されている。米国特許出願公開第2015/0284830号による接種剤は、65重量%のSi、1.76重量%のCa、1.23重量%のAl、0.15重量%のSb、0.16重量%のRE、7.9重量%のBa、及び残部の鉄を含有する。
【0011】
国際公開第95/24508号からは、核形成速度の増加を示す鋳鉄接種剤が知られている。この接種剤は、カルシウム及び/又はストロンチウム及び/又はバリウム、4%未満のアルミニウム、並びに0.5~10%の、1つ以上の金属酸化物の形態である酸素を含有するフェロシリコン系接種剤である。しかしながら、国際公開第95/24508号による接種剤を使用して形成された核の数の再現性は、むしろ低いことが判明した。場合によっては、多数の核が鋳鉄において形成されるが、他の例では、形成された核の数は、むしろ低い。国際公開第95/24508号による接種剤は、上記の理由のために、実際にはほとんど使用されていないことが見出された。
【0012】
国際公開第99/29911号からは、硫黄の、国際公開第95/24508号の接種剤への添加が、鋳鉄の接種において正の効果を有し、核の再現性を増加させることが知られている。
【0013】
国際公開第95/24508号及び国際公開第99/29911号では、酸化鉄、FeO、Fe及びFeは好ましい金属酸化物である。これらの特許出願に記載されている他の金属酸化物は、SiO、MnO、MgO、CaO、Al、TiO及びCaSiO、CeO、ZrOである。好ましい金属硫化物は、FeS、FeS、MnS、MgS、CaS及びCuSからなる群から選択される。米国特許出願公開第2016/0047008号では、液体鋳鉄を処理するための微粒子接種剤であって、一方では、液体鋳鉄中の易融性材料(fusible material)で作製された担体粒子、他方では、黒鉛の発芽及び成長を促進する材料で作製され、担体粒子の表面に不連続な様式で配置され、分散された表面粒子を含み、表面粒子は、それらの直径d50が支持粒子の直径d50の1/10以下であるような粒度分布を呈している、微粒子接種剤が知られている。米国特許出願公開第2016/0047008号の接種剤の目的は、とりわけ、鋳鉄の基本的な組成に対する異なる厚さ及び低感度を有する鋳鉄部分の接種であると示されている。
【0014】
したがって、黒鉛ノジュール数密度が増加して接種有効性が向上する、改善された核形成特性を有し、多数の核を形成する接種剤を提供することが望まれている。別の要望は、高性能の接種剤を提供することである。更なる要望は、接種後の溶融鉄の持続的な保持時間中に、接種効果の低下に対するより良好な耐性を与えることができる接種剤を提供することである。上記の要望のうちの少なくともいくつかは、本発明、並びに以下の説明において明らかとなる他の利点を満たす。
【発明の概要】
【0015】
国際公開第99/29911号による先行技術の接種剤は、高性能の接種剤であると考えられ、これは延性鋳鉄に多数のノジュールを与える。ここで、国際公開第99/29911号の接種剤への酸化アンチモン並びに酸化ビスマス、酸化鉄及び/又は硫化鉄の少なくとも1つの添加は、驚くべきことに、本発明にかかる接種剤を鋳鉄に添加する際に、鋳鉄中の核の数又はノジュール数密度を著しく高めることが判明している。
【0016】
第1の態様では、本発明は、球状黒鉛を有する鋳鉄の製造のための接種剤に関し、この接種剤は、40~80重量%のSi、0.02~8重量%のCa、0~5重量%のSr、0~12重量%のBa、0~15重量%の希土類金属、0~5重量%のMg、0.05~5重量%のAl、0~10重量%のMn、0~10重量%のTi、0~10重量%のZr、残部の通常量のFe及び不可避不純物(incidental impurities)からなる微粒子フェロシリコン合金を含み、この接種剤は、更に、接種剤の総重量に基づいて、0.1~15重量%の微粒子Sb、並びに0.1~15重量%の微粒子Bi、0.1~5重量%の、微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、又は0.1~5重量%の、微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物のうちの少なくとも1つを含有する。
【0017】
一実施形態では、フェロシリコン合金は、45~60重量%のSiを含む。接種剤の別の実施形態では、フェロシリコン合金は、60~80重量%のSiを含む。
【0018】
一実施形態では、希土類金属としては、Ce、La、Y及び/又はミッシュメタルが挙げられる。一実施形態では、フェロシリコン合金は、最大で10重量%の希土類金属を含む。一実施形態では、フェロシリコン合金は、0.5~3重量%のCaを含む。一実施形態では、フェロシリコン合金は、0~3重量%のSrを含む。更なる実施形態では、フェロシリコン合金は、0.2~3重量%のSrを含む。一実施形態では、フェロシリコン合金は、0~5重量%のBaを含む。更なる実施形態では、フェロシリコン合金は、0.1~5重量%のBaを含む。一実施形態では、フェロシリコン合金は、0.5~5重量%のAlを含む。一実施形態では、フェロシリコン合金は、最大で6重量%のMn及び/又はTi及び/又はZrを含む。一実施形態では、フェロシリコン合金は、1重量%未満のMgを含む。
【0019】
一実施形態では、接種剤は、0.5~10重量%の微粒子Sbを含む。
【0020】
一実施形態では、接種剤は、0.1~10%の微粒子Biを含む。
【0021】
一実施形態では、接種剤は、0.5~3%の、微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又は0.5~3%の、微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物を含む。
【0022】
一実施形態では、微粒子Sb、並びに微粒子Bi、及び/又は微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又は微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物のうちの少なくとも1つの総量(酸化物化合物/硫化物化合物の合計)は、接種剤の総重量に基づいて最大で20重量%である。別の実施形態では、微粒子Sb、並びに微粒子Bi、及び/又は微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又は微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物のうちの少なくとも1つの総量は、接種剤の総重量に基づいて最大で15重量%である。
【0023】
一実施形態では、接種剤は、微粒子フェロシリコン合金及び微粒子Sb、並びに微粒子Bi、及び/又は微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又は微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物のうちの少なくとも1つの、混合された混合物の形態、具体的には、ブレンド又は機械的/物理的にミックスされた混合物の形態である。
【0024】
一実施形態では、微粒子Sb、並びに微粒子Bi、及び/又は微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又は微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物のうちの少なくとも1つは、微粒子フェロシリコン系合金上のコーティング化合物として存在する。
【0025】
一実施形態では、微粒子Sb、並びに微粒子Bi、及び/又は微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又は微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物のうちの少なくとも1つは、結合剤の存在下、微粒子フェロシリコン系合金と混合、具体的には、機械的にミックス又はブレンドされる。
【0026】
一実施形態では、接種剤は、微粒子フェロシリコン合金及び微粒子Sb、並びに微粒子Bi、及び/又は微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又は微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物のうちの少なくとも1つの、混合物から、結合剤の存在下で作製される凝集体の形態である。
【0027】
一実施形態では、接種剤は、微粒子フェロシリコン合金及び微粒子Sb、並びに微粒子Bi、及び/又は微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又は微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物のうちの少なくとも1つの、混合物から、結合剤の存在下で作製されるブリケットの形態である。
【0028】
一実施形態では、微粒子フェロシリコン系合金及び微粒子Sb、並びに微粒子Bi、及び/又は微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又は微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物のうちの少なくとも1つが、別個であるが同時に、液体鋳鉄に添加される。
【0029】
第2の態様では、本発明は、本発明による接種剤を製造する方法に関し、この方法は、40~80重量%のSi、0.02~8重量%のCa、0~5重量%のSr、0~12重量%のBa、0~15重量%の希土類金属、0~5重量%のMg、0.05~5重量%のAl、0~10重量%のMn、0~10重量%のTi、0~10重量%のZr、残部の通常量のFe及び不可避不純物を含む微粒子ベース合金を準備することと、微粒子ベースに、接種剤の総重量に基づいて、0.1~15重量%の微粒子Sb、並びに0.1~15重量%の微粒子Bi、及び/又は0.1~5重量%の、微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又は0.1~5重量%の、微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物のうちの少なくとも1つを添加して当該接種剤を製造することと、を含む。
【0030】
本方法の一実施形態では、微粒子Sb、並びに微粒子Bi、及び/又は微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又は微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物のうちの少なくとも1つが、微粒子ベース合金と混合、具体的には、機械的にミックス又はブレンドされる。
【0031】
本方法の一実施形態では、微粒子Sb、並びに微粒子Bi、及び/又は微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又は微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物のうちの少なくとも1つが、微粒子ベース合金と混合される前に、機械的に混合される。
【0032】
本方法の一実施形態では、微粒子Sb、並びに微粒子Bi、及び/又は微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又は微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物のうちの少なくとも1つが、結合剤の存在下、微粒子ベース合金と、混合、具体的には、機械的にミックス又はブレンドされる。本方法の更なる実施形態では、混合された、具体的に、機械的にミックス又はブレンドされた微粒子ベース合金、微粒子Sb、並びに微粒子Bi、及び/又は微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又は微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物のうちの少なくとも1つが、更に、結合剤の存在下、凝集体又はブリケットへと形成される。
【0033】
別の態様では、本発明は、鋳造前、鋳造と同時、又は鋳型内接種剤として接種剤を鋳鉄溶融物に添加することによる、球状黒鉛を有する鋳鉄の製造において上に定義した接種剤の使用に関する。
【0034】
接種剤の使用の一実施形態では、微粒子フェロシリコン系合金及び微粒子Sb、並びに微粒子Bi、及び/又は微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又は微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物のうちの少なくとも1つが、混合、具体的には、機械的/物理的にミックス又はブレンドされた混合物として、鋳鉄溶融物に添加される。
【0035】
接種剤の使用の一実施形態では、微粒子フェロシリコン系合金及び微粒子Sb、並びに微粒子Bi、及び/又は微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又は微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物のうちの少なくとも1つが、別個にではあるが同時に、鋳鉄溶融物に添加される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】実施例1の溶融物Wの鋳鉄サンプルにおけるノジュール数密度(1mm当たりのノジュール数、略記N/mm)を示す図である。
図2】実施例2の溶融物Xの鋳鉄サンプルにおけるノジュール数密度(1mm当たりのノジュール数、略記N/mm)を示す図である。
図3】実施例3の溶融物AGの鋳鉄サンプルにおけるノジュール数密度(1mm当たりのノジュール数、略記N/mm)を示す図である。
図4】実施例4の鋳鉄サンプルにおけるノジュール数密度(1mm当たりのノジュール数、略記N/mm)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明によれば、球状黒鉛を有する鋳鉄の製造のために、高強力な接種剤が提供される。接種剤は、微粒子酸化アンチモン(Sb)と合わされたFeSiベース合金を含み、また、酸化ビスマス(Bi)、酸化鉄(Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物)、及び硫化鉄(FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物)から選択される少なくとも1つの他の微粒子金属酸化物及び/又は微粒子金属硫化物も含む。本発明による接種剤は、製造が容易であり、かつそれは、接種剤中のビスマス及びアンチモンの量を制御し多様にすることが容易である。複雑かつ高価な合金化工程は回避され、したがって、接種剤は、Sb及び/又はBiを含有する従来技術の接種剤と比較して、より低コストで製造することができる。
【0038】
球状黒鉛を有する延性鋳鉄を製造する製造プロセスでは、鋳鉄溶融物は、通常、接種処理の前に、例えばMgFeSi合金を使用することによって、ノジュラライザーで処理される。ノジュール化処理は、それが沈殿し、続いて成長するときに、黒鉛の形態をフレークからノジュールへ変更するという目的を有する。これがなされる方法は、界面黒鉛/溶融物の界面の界面エネルギーを変化させることによる。Mg及びCeが、界面エネルギーを変化させる元素であり、MgがCeよりも効果的であることが知られている。Mgがベース鉄溶融物に添加されると、最初に酸素及び硫黄と反応し、ノジュール化(nodularising)効果を有することになるのは「遊離マグネシウム」のみである。ノジュール化反応は激しく、溶融物の撹拌をもたらし、表面上に浮遊するスラグを生成する。溶融物中に既に存在した(原材料によって導入された)黒鉛についての、及び上部のスラグの一部であり除去された他の包含物についての核形成部位のほとんどにおいて、激しい反応がもたらされることになる。しかしながら、ノジュール化処理中に生成されたいくつかのMgO及びMgS包含物は、依然として溶融物中に存在する。これらの包含物は、そのような良好な核形成部位ではない。
【0039】
接種の主要な機能は、黒鉛の核形成部位を導入することによって炭化物形成を防止することである。核形成部位を導入することに加えて、接種はまた、包含物に層(Ca、Ba又はSr)を添加することにより、ノジュール化処理中に形成されたMgO及びMgS包含物を核形成部位へと変換する。
【0040】
本発明によれば、微粒子FeSiベース合金は、40~80重量%のSiを含むべきである。純粋なFeSi合金は、弱い接種剤であるが、活性元素のための一般的な合金担体であり、溶融物中の良好な分散を可能にする。したがって、接種剤用の様々な既知のFeSi合金組成物が存在する。FeSi合金接種剤中の従来の合金元素としては、Ca、Ba、Sr、Al、Mg、Zr、Mn、Ti及びRE(特にCe及びLa)が挙げられる。合金元素の量は多様であってもよい。通常、接種剤は、ねずみ鉄、圧密鉄、及び延性鉄の製造において異なる要件を提供するように設計される。本発明による接種剤は、約40~80重量%のケイ素含有量を有するFeSiベース合金を含んでもよい。合金元素は、約0.02~8重量%のCa、約0~5重量%のSr、約0~12重量%のBa、約0~15重量%の希土類金属、約0~5重量%のMg、約0.05~5重量%のAl、約0~10重量%のMn、約0~10重量%のTi、約0~10重量%のZr、残部の通常量のFe及び不可避不純物を含むことができる。
【0041】
FeSiベース合金は、60~80%のケイ素を含有する高ケイ素合金であっても、45~60%のケイ素を含有する低ケイ素合金であってもよい。ケイ素は、通常、鋳鉄合金中に存在し、かつ溶液から炭素を押し出し、黒鉛の形成を促進する鋳鉄中の黒鉛安定化元素である。FeSiベース合金は、例えば0.2~6mmのような接種剤の従来の範囲内にある粒径を有するべきである。FeSi合金の、微粉などの、より小さい粒径がまた本発明においても適用されて接種剤を製造してもよいことに留意されたい。FeSiベース合金の非常に小さな粒子を使用する場合、接種剤は、凝集体(例えば、顆粒)の形態であってもブリケットの形態であってもよい。本発明の接種剤の凝集体及び/又はブリケットを調製するために、Sb粒子、並びに追加の微粒子Bi、及び/又はFe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又はFeS、FeS、Feうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物が、結合剤の存在下、混合によって、具体的には機械的なミックス又はブレンドによって微粒子フェロシリコン合金と混合され、続いて既知の方法に従って粉末混合物の凝集体化が行われる。結合剤は、例えば、ケイ酸ナトリウム溶液であってもよい。凝集体は、好適な製品サイズを有する顆粒であってもよく、又は必要な最終製品サイズに破砕されてふるい分けされてもよい。
【0042】
様々な異なる包含物(硫化物、酸化物、窒化物、及びケイ酸塩)を、液体状態で形成することができる。IIA族元素(Mg、Ca、Sr、及びBa)の硫化物及び酸化物は、非常に類似した結晶相及び高融点を有する。IIA族元素は、液体鉄中に安定な酸化物を形成することが知られており、したがって、これらの元素に基づく接種剤及びノジュラライザーが有効な酸化防止剤であることが知られている。カルシウムは、フェロシリコン接種剤中の最も一般的な微量元素である。本発明によれば、微粒子FeSi系合金は、約0.02~約8重量%のカルシウムを含む。いくつかの用途では、FeSiベース合金中に低含有量、例えば、0.02~0.5重量%のCaを有することが望ましい。カルシウムがビスマス(及びアンチモン)の収率を向上させるために必要な元素と見なされる、合金化ビスマス及び/又はアンチモンを含有する従来の接種剤フェロシリコン合金と比較して、本発明による接種剤中に、溶解性目的のためのカルシウムは不要である。他の用途では、Ca含有量はより高くてもよく、例えば0.5~8重量%であり得る。高レベルのCaは、スラグ形成を増加させ得るが、通常は所望されない。複数の接種剤は、FeSi合金中に約0.5~3重量%のCaを含む。FeSiベース合金は、最大で約5重量%のストロンチウムを含むべきである。0.2~3重量%のSr量が、典型的には好適である。バリウムが、FeSi接種合金中に最大で約12重量%の量で存在してもよい。Baは、接種後の溶融鉄の持続的な保持時間中の接種効果の減衰に対するより良好な耐性を与えること、より広い温度範囲にわたってより良好な効率を与えることが知られている。多くのFeSi合金接種剤は、約0.1~5重量%のBaを含む。バリウムがカルシウムと共に使用される場合、その2つは一緒に作用して、等量のカルシウムよりも大きなチルの低減をもたらすことができる。
【0043】
マグネシウムが、FeSi接種合金中に最大で約5重量%の量で存在してもよい。しかしながら、通常、Mgが延性鉄の製造のためのノジュール化処理に添加されるため、接種剤中のMgの量は低くてもよく、例えば最大で約0.1重量%であってもよい。マグネシウムがビスマス含有相を安定化させるために必要な元素と見なされる、合金化ビスマスを含有する従来の接種剤フェロシリコン合金と比較して、本発明による接種剤中に、安定化目的のためのマグネシウムは不要である。
【0044】
FeSiベース合金は、最大で15重量%の希土類金属(RE)を含んでもよい。REは、少なくともCe、La、Y及び/又はミッシュメタルを含む。ミッシュメタルは、典型的にはおよそ50%のCe及び25%のLaを、少量のNd及びPrと共に含む希土類元素の合金である。最後に重希土類金属(heavier rare earth metal)は、多くの場合、ミッシュメタルから除去され、ミッシュメタルの合金組成は、約65%Ce及び約35%La、並びに微量のNd及びPrなどのより重いRE金属であってもよい。黒鉛のノジュールカウント数、及びSb、Pb、Bi、Tiなどの破壊元素(subversive element)を含有する延性鉄におけるノジュール度を回復するためにREの添加が使用されることが多い。一部の接種剤では、REの量は、最大で10重量%である。場合によっては、過剰なREが、塊状の黒鉛配合物へと至らせる場合がある。したがって、一部の用途では、REの量は、少なく、例えば、0.1~3重量%であるべきである。好ましくは、REは、Ce及び/又はLaである。
【0045】
アルミニウムがチル低減剤として強い効果を有することが報告されている。Alは、多くの場合、延性鉄の製造のために、FeSi合金接種剤中でCaと組み合わされる。本発明では、Al含有量は、最大で約5重量%、例えば0.1~5重量%であるべきである。
【0046】
ジルコニウム、マンガン及び/又はチタンがまた、多くの場合、接種剤中に存在する。上述の元素と同様に、Zr、Mn及びTiは、黒鉛の核形成プロセスにおいて重要な役割を果たし、凝固中に不均質な核形成事象の結果として形成されると想定される。FeSiベース合金中のZrの量は、最大で約10重量%、例えば最大で6重量%であってもよい。FeSiベース合金中のMnの量は、最大で約10重量%、例えば最大で6重量%であってもよい。FeSiベース合金中のTiの量はまた、最大で約10重量%、例えば最大で6重量%であってもよい。
【0047】
アンチモン及びビスマスは、高い接種力を有し、核の数の増加をもたらすことが知られている。しかしながら、溶融物中のSb及び/又はBiのような少量の元素(破壊元素とも呼ばれる)の存在は、ノジュール度を低下させる可能性がある。この負の効果は、Ce又は他のRE金属を使用することによって中和することができる。本発明によると、微粒子Sbの量は、接種剤の総量に基づいて0.1~15重量%であるべきである。いくつかの実施形態では、Sbの量は、0.1~8重量%である。高いノジュールカウント数はまた、接種剤が、接種剤の総重量に基づいて0.2~7重量%の微粒子Sbを含有するときにも観察される。
【0048】
SbをFeSi系合金接種剤と共に導入することは、反応物を、溶融物中に浮遊するMg包含物及び「遊離」Mgを有する既に存在している系に添加することである。接種剤の添加は激しい反応ではなく、Sb収率(溶融物中に残存するSb/Sb)が高いものであると予想される。Sb粒子は、小さい粒径、すなわちミクロンサイズ(例えば、10~150μm)を有するべきであり、これにより、鋳鉄溶融物中に導入されたときに、Sb粒子の非常に迅速な融解又は溶解が起きる。有利には、Sb粒子は、微粒子FeSiベース合金、並びに、微粒子Bi、及び/又はFe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又はFeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物のうちの少なくとも1つと、接種剤を鋳鉄溶融物中に添加する前に、物理的/機械的に混合される。
【0049】
SbをFeSi合金と合金化する代わりに、Sb粒子の形態であるSbを添加することにより、いくつかの利点を提供する。Sbは強力な接種剤であるが、酸素がまた、接種剤の性能にとって重要である。別の利点は、接種剤組成物の良好な再現性及び柔軟性であり、その理由は、接種剤中の微粒子Sbの量及び均質性が容易に制御されるためである。接種剤の量を制御し、接種剤の均質な組成を有することの重要性は、アンチモンが通常のppmレベルで添加されるという事実を考慮すると明らかである。不均質な接種剤を添加することは、鋳鉄中の接種元素の誤った量をもたらし得る。なおも別の利点は、FeSi系合金中でアンチモンを合金化することを含む方法と比較して、よりコスト効果的な接種剤の製造である。
【0050】
微粒子Biの量は、存在する場合、接種剤の総量に基づいて0.1~15重量%であるべきである。いくつかの実施形態では、Biの量は、0.1~10重量%であり得る。Biの量はまた、接種剤の総重量に基づいて約0.5~約8重量%であり得る。Biの粒径は、ミクロンサイズ、例えば、1~10μmであるべきである。
【0051】
BiをFeSi合金と合金化する代わりに、存在する場合、Biの形態であるBiを添加することは、いくつかの利点を有する。Biがフェロシリコン合金中で不良な溶解度を有するため、溶融したフェロシリコンに対する添加したBi金属の収率は低く、それにより、Bi含有FeSi合金接種剤のコストが増加する。更に、元素Biの密度が高いため、鋳造中及び凝固中に均質な合金を得ることは、困難であり得る。別の困難は、FeSi系接種剤中の他の元素と比較して、低い融解温度に起因する、Bi金属の揮発性(volatile nature)であり、存在する場合、Biを、酸化物としてFeSiベース合金と一緒に添加することは、従来の合金化プロセスと比較しておそらく低い生産コストで製造することが容易な接種剤を提供し、Biの量は容易に制御され、再現可能である。更に、FeSi合金に合金化する代わりに、存在する場合、Biが酸化物として添加される場合、例えば、より小さい製品シリーズのために、接種剤の組成を多様化することが容易である。更に、Biは高い接種力を有することが知られているが、酸素がまた本発明の接種剤の性能にとって重要であるため、Biを酸化物として添加することの別の利点を提供する。
【0052】
微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、又はこれらの混合物の総量は、存在する場合、接種剤の総量に基づいて0.1~5重量%であるべきである。いくつかの実施形態では、Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、又はこれらの混合物の量は、0.5~3重量%であり得る。Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、又はこれらの混合物の量はまた、接種剤の総重量に基づいて約0.8~約2.5重量%でもあり得る。冶金分野などの工業用途のための市販の酸化鉄製品は、異なる種類の酸化鉄化合物及び相を含む組成物を有し得る。酸化鉄の主な種類は、Fe、Fe及び/又はFeO(FeII及びFeIII、酸化鉄(II、III)の他の混合酸化物相を含む)であり、これらは全て、本発明による接種剤中で使用することができる。工業用途のための市販の酸化鉄製品は、微量の(重要ではない)他の金属酸化物を不純物として含んでもよい。
【0053】
微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、又はこれらの混合物の総量は、存在する場合、接種剤の総量に基づいて0.1~5重量%であるべきである。いくつかの実施形態では、FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、又はこれらの混合物の量は、0.5~3重量%であり得る。FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、又はこれらの混合物の量はまた、接種剤の総重量に基づいて約0.8~約2.5重量%でもあり得る。冶金分野などの工業用途用の市販の硫化鉄製品は、異なる種類の硫化鉄化合物及び相を含む組成物を有し得る。硫化鉄の主な種類は、FeS、FeS及び/又はFe(硫化鉄(II、III)、FeS、Fe)であり、FeS、Fe1+xS(x>0~0.1)及びFe1-yS(y>0~0.2)の非化学量論的な相を含み、これらは全て、本発明による接種剤中で使用することができる。工業用途のための市販の硫化鉄製品は、微量の(重要ではない)他の金属硫化物を不純物として含んでもよい。
【0054】
Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又はFeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物を鋳鉄溶融物中に添加する目的のうちの1つは、酸素及び硫黄を溶融物中に意図的に添加することであり、これはノジュールカウント数を増加させるのに寄与することがある。
【0055】
Sb粒子、並びに当該微粒子酸化Bi、及び/又は酸化/硫化Feのいずれかの総量が、接種剤の総重量に基づいて最大で約20重量%でなければならないことが理解されるべきである。FeSiベース合金の組成は、規定された範囲内で多様であってもよく、当業者であれば、合金元素の量が最大で100%になると分かることも理解されるべきである。複数の従来の系接種合金が存在し、当業者であれば、これらに基づいてFeSiベース組成物をどのように多様にするかを分かるであろう。
【0056】
本発明による接種剤の鋳鉄溶融物への添加率は、典型的には約0.1~0.8重量%である。当業者であれば、添加率を、元素のレベルに依存して調整することになり、例えば高Bi及び/又はSbを有する接種剤は、典型的にはより低い添加率を必要とするであろう。
【0057】
本発明の接種剤は、本明細書で定義される組成を有する微粒子FeSiベース合金を提供することと、当該微粒子ベースに、微粒子Sb、並びに微粒子Bi、及び/又は微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又は微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物のうちの少なくとも1つを、添加して本発明の接種剤を製造することによって製造される。Sb粒子並びに微粒子Bi及び/又は微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又は微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物のうちの少なくとも1つは、FeSiベース合金粒子と機械的/物理的に混合されてもよい。粒子及び/又は粉末材料を混合する、具体的にはミックス/ブレンドするための任意の好適なミキサーが用いられてもよい。混合は、好適な結合剤の存在下で実施することができるが、但し、結合剤の存在は必須ではないことに留意されたい。Sb粒子並びに微粒子Bi及び/又は微粒子Fe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又は微粒子FeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物のうちの少なくとも1つを、FeSiベース合金粒子と混合して、具体的には、ブレンドして、均質に混合された接種剤を提供してもよい。Sb粒子及び当該追加の硫化物/酸化物粉末をFeSiベース合金粒子と混合、具体的にはブレンドすると、FeSiベース合金粒子上に安定なコーティングを形成することができる。しかしながら、Sb粒子、及び任意の他の当該微粒子酸化物/硫化物を、微粒子FeSiベース合金と混合する、具体的には、ミックス及び/又はブレンドすることが、接種効果を達成するために必須ではないことに留意されたい。微粒子FeSiベース合金及びSb粒子、及び当該微粒子酸化物/硫化物のうちのいずれかは、別個にではあるが同時に、液体鋳鉄に添加されてもよい。接種剤はまた、鋳型内接種剤として添加されてもよい。FeSi合金の接種剤粒子、Sb粒子、並びに当該微粒子酸化Bi及び/又は酸化/硫化Feのいずれかはまた、存在する場合、一般的に既知の方法に従って凝集体又はブリケットへと形成され得る。
【0058】
以下の実施例は、Sb粒子並びにBi及び/又はFe、Fe、FeOのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物、及び/又はFeS、FeS、Feのうちの1つ以上、若しくはこれらの混合物のうちの少なくとも1つを、FeSiベース合金粒子と共に添加することは、国際公開第99/29911号の先行技術による接種剤と比較して、接種剤が鋳鉄に添加されたときのノジュール数密度の増加をもたらす。ノジュールカウント数が多いほど、所望の接種効果を達成するのに必要な接種剤の量の低減が可能になる。
【実施例
【0059】
ノジュール密度を決定するために、全ての試験サンプルをマイクロ構造に関して分析した。ASTM E2567-2016による各試験から、1つの引張バーにおいて微細構造を調べた。粒度限度を>10μmに設定した。引張サンプルを、ISO 1083-2004による標準的な鋳型内でΦ28mm鋳造し、マイクロ構造分析の標準的実践に従って切断及び調製した後に、自動画像解析ソフトウェアの使用により評価した。ノジュール密度(ノジュール数密度とも示される)は、1mm当たりのノジュールの数(ノジュールカウント数とも示される)であり、N/mmと略記される。
【0060】
以下の実施例で使用する酸化鉄は、指示(製造業者によって供給される)を伴う市販の磁鉄鉱(Fe);Fe>97.0%、SiO<1.0%であった。市販の磁鉄鉱製品は、おそらくはFe及びFeOなどの他の酸化鉄形態を含む。市販の磁鉄鉱中の主な不純物は、上記のようにSiOであった。
【0061】
以下の実施例で使用する硫化鉄は、市販のFeS製品であった。市販品の分析により、FeS及びごく少量(insignificant amount)の通常の不純物に加えて、他の硫化鉄化合物/相の存在が示されていた。
【0062】
実施例1
タンディッシュカバー処理レードル中の1.05重量%のMgFeSiノジュール化合金を添加することによりマグネシウムで処理した、275kgの溶融鋳鉄の1つのレードルから3回の接種試験を実施した。0.9重量%のスチールチップをカバーとして使用した。MgFeSiノジュール化合金は、以下の組成を有していた:46.2重量%のSi、5.85重量%のMg、1.02重量%のCa、0.92重量%のRE、0.7重量4%のAl、残部の通常量の鉄及び不可避不純物。
【0063】
3つの異なる接種剤を使用した。3つの接種剤は、フェロシリコン合金、重量%で、以下を含有する接種剤Aからなる:74.2%重量のSi、0.97重量%のAl、0.78重量%のCa、1,55重量%のCe、残りの通常量の鉄及び不可避不純物である。接種剤Aの一部に、1.2重量%のSb及び1重量%のFeSを微粒子形態で添加し、機械的に混合して本発明の接種剤を得た。接種剤Aの別の部分に、1.2重量%のSb、1重量%のFeS及び2重量%のFeを添加し、機械的に混合して本発明の接種剤を得た。接種剤Aの別の部分に、1重量%のFeS及び2重量%のFeを添加し、機械的に混合した。これは、国際公開第99/29911号に記載の接種剤である。
【0064】
MgFeSi処理温度は1550℃であり、注ぎ温度は1387~1355℃であった。注ぎレードルを満たしてから注ぐまでの保持時間は、全ての試験について1分であった。接種剤を、0.2重量%の量で鋳鉄溶融物に添加した。
【0065】
全ての処理のための最終鋳鉄化学組成は、3.5~3.7重量%のC、2.3~2.5重量%のSi、0.29~0.33重量%のMn、0.009~0.011重量%のS、0.04~0.05重量%のMgであった。
【0066】
表1は、使用した接種剤の概要を示す。酸化アンチモン、酸化鉄及び硫化鉄の量は、接種剤の総重量に基づいた硫化物/酸化物化合物の百分率である。
【0067】
【表1】
【0068】
結果を図1に示す。図1から分かるように、結果は、Sb含有接種剤で処理された鋳鉄が、従来技術の接種剤で処理された同じ鋳鉄溶融物と比較して、より高いノジュール数密度を有するという点で、非常に重要な傾向を示す。
【0069】
実施例2
タンディッシュカバー処理レードル中の1.2~1.25重量%のMgFeSiノジュール化合金を添加することによってマグネシウムで処理した、275kgの溶融鋳鉄の1つのレードルから2つの接種試験を実施した。0.9重量%のスチールチップをカバーとして使用した。MgFeSiノジュール化合金は、以下の組成を有していた:46重量%のSi、4.33重量%のMg、0.69重量%のCa、0.44重量%のRE、0.44重量%のAl、残部の通常量の鉄及び不可避不純物である。
【0070】
2つの異なる接種剤を使用した。2つの接種剤は、実施例1で指定したものと同じ組成を有する、フェロシリコン合金、接種剤Aからなる。接種剤Aの一部に、1.2重量%のSb及び1.11重量%のBiを微粒子形態で添加し、機械的に混合して本発明の接種剤を得た。接種剤Aの別の部分に、1重量%のFeS及び2重量%のFeを添加し、機械的に混合した。これは、国際公開第99/29911号に記載の接種剤である。
【0071】
MgFeSi処理温度は1500℃であり、注ぎ温度は1398~1392℃であった。注ぎレードルを満たしてから注ぐまでの保持時間は、全ての試験について1分であった。接種剤を、0.2重量%の量で鋳鉄溶融物に添加した。
【0072】
全ての処理のための最終鋳鉄化学組成は、3.5~3.7重量%のC、2.3~2.5重量%のSi、0.29~0.33重量%のMn、0.009~0.011重量%のS、0.04~0.05重量%のMgであった。
【0073】
表2は、使用した接種剤の概要を示す。酸化アンチモン、酸化ビスマス、酸化鉄及び硫化鉄の量は、接種剤の総重量に基づく。
【0074】
【表2】
【0075】
結果を図2に示す。図2から分かるように、結果は、Sb及びBi含有接種剤で処理された鋳鉄が、従来技術の接種剤で処理された同一の鋳鉄溶融物と比較して、より高いノジュール数密度を有するという点で、非常に重要な傾向を示す。
【0076】
実施例3
タンディッシュカバー処理レードル中の1.25重量%のMgFeSiノジュール化合金を添加することによってマグネシウムで処理した、275kgの溶融鋳鉄の1つのレードルから2つの接種試験を実施した。MgFeSiノジュール化合金は、以下の組成を有していた:46重量%のSi、4.33重量%のMg、0.69重量%のCa、0.44重量%のRE、0.44重量%のAl、残部は通常量の鉄及び不可避不純物である。
【0077】
2つの異なる接種剤を使用した。第1の接種剤(本発明による)は、68.2重量%のSi、0.93重量%のAl、0.95重量%のCa、0.94重量%のBa、残部の通常量の鉄及び不可避不純物を含有する、フェロシリコン合金、接種剤Bからなる。接種剤Bの一部に、1.2重量%のSb及び1.11重量%のBiを微粒子形態で添加し、機械的に混合して本発明の接種剤を得た。第2の接種剤は、実施例1で指定したものと同じ組成を有する、フェロシリコン合金、接種剤Aからなる。接種剤Aの一部に、1重量%のFeS及び2重量%のFeを添加し、機械的に混合した。これは、国際公開第99/29911号に記載の接種剤である。
【0078】
MgFeSi処理温度は1500℃であり、注ぎ温度は1390~1362℃であった。注ぎレードルを満たしてから注ぐまでの保持時間は、全ての試験について1分であった。接種剤を、0.2重量%の量で鋳鉄溶融物に添加した。
【0079】
全ての処理のための最終鋳鉄化学組成は、3.5~3.7重量%のC、2.3~2.5重量%のSi、0.29~0.33重量%のMn、0.009~0.011重量%のS、0.04~0.05重量%のMgであった。
【0080】
表3は、使用した接種剤の概要を示す。酸化アンチモン、酸化ビスマス、酸化鉄及び硫化鉄の量は、接種剤の総重量に基づく。
【0081】
【表3】
【0082】
結果を図3に示す。図3から分かるように、結果は、Sb及びBi含有接種剤で処理された鋳鉄が、従来技術の接種剤で処理された同一の鋳鉄溶融物と比較して、より高いノジュール数密度を有するという点で、非常に重要な傾向を示す。
【0083】
実施例4
溶融物275kgを製造し、タンディッシュカバーレードル中、1.20~1.25重量%のMgFeSiノジュラライザーで処理した。MgFeSiノジュール化合金は、以下の組成を有していた:4.33重量%のMg、0.69重量%のCa、0.44重量%のRE、0.44重量%のAl、46重量%のSi、残部の通常量の鉄及び不可避不純物。0.7重量%のスチールチップをカバーとして使用した。全ての接種物の添加率は、各注ぎレードルに添加された0.2重量%であった。ノジュラライザー処理温度は1500℃であり、注ぎ温度は1373~1353℃であった。注ぎレードルを満たしてから注ぐまでの保持時間は、全ての試験について1分であった。引張サンプルを、標準的な鋳型でΦ28mm鋳造し、標準的な実践に従って切断及び調製した後、自動画像解析ソフトウェアを用いて評価した。
【0084】
接種剤は、74.2重量%のSi、0.97重量%のAl、0.78重量%のCa、1.55重量%のCe、残部の通常量の鉄及び不可避不純物の組成のベースFeSi合金を有し、本明細書で接種剤Aと示す。表4に示す組成の微粒子酸化ビスマス及び酸化アンチモンの混合物を、ベースFeSi合金粒子(接種剤A)に添加し、機械的に混合することにより、均質な混合物を得た。
【0085】
最終の鉄は、3.74重量%のC、2.37重量%のSi、0.20重量%のMn、0.011重量%のS、0.037重量%のMgの化学組成を有していた。全ての分析は、試験前に設定した限界内であった。
【0086】
微粒子Bi及び微粒子Sbの、FeSiベース合金の接種剤Aへの添加量を、先行技術による接種剤と共に表4に示す。Bi、Sb、FeS及びFeの量は、全ての試験における接種剤の総重量に基づく。
【0087】
【表4】
【0088】
図4は、接種試験からの鋳鉄におけるノジュール密度を示す。この結果は、Bi、Sb含有接種剤が、従来技術の接種剤と比較してはるかに高いノジュール密度を有するという非常に重要な傾向を示している。熱分析(本明細書で示さず)は、従来技術の接種剤と比較して、Bi、Sb含有接種剤で接種したサンプルにおいて、TElowが著しく高いという明らかな傾向を示した。
【0089】
本発明の異なる実施形態を説明してきたが、概念を組み込んでいる他の実施形態が使用され得ることが、当業者には明らかであろう。上に例示したかつ添付図面中に例示した、本発明のこれらの及び他の例は、例としてのみ意図されており、本発明の実際の範囲は、以下の特許請求の範囲から決定されるべきである。
図1
図2
図3
図4