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  • 特許-高珪素方向性電磁鋼板の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】高珪素方向性電磁鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 8/12 20060101AFI20230221BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20230221BHJP
   C23C 24/04 20060101ALI20230221BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20230221BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20230221BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20230221BHJP
   C22C 38/06 20060101ALN20230221BHJP
【FI】
C21D8/12 B
C21D9/46 501A
C23C24/04
C23C28/00 A
H01F1/147 175
C22C38/00 303U
C22C38/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020551578
(86)(22)【出願日】2019-03-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-08
(86)【国際出願番号】 CN2019079442
(87)【国際公開番号】W WO2019184838
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-09-24
(31)【優先権主張番号】201810272499.X
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514216801
【氏名又は名称】バオシャン アイアン アンド スティール カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(72)【発明者】
【氏名】ジャン、ファビン
(72)【発明者】
【氏名】チュウ、シュアンジェ
(72)【発明者】
【氏名】リ、グオバオ
(72)【発明者】
【氏名】シャオ、ウェン
(72)【発明者】
【氏名】リウ、バオジュン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ヨンジェ
(72)【発明者】
【氏名】シェン、カンイー
(72)【発明者】
【氏名】ハン、ダン
(72)【発明者】
【氏名】フ、ジニン
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-501371(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107338432(CN,A)
【文献】特表2006-503189(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106480400(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 8/12, 9/46
C22C 38/00-38/60
C23C 24/00-30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素の含有量が4wt%より高い高珪素方向性電磁鋼板の製造方法において、
(1)冷間圧延が行われた鋼板に対して脱炭焼鈍を行うステップと、
(2)高珪素合金粒子を完全に固態の状態で、脱炭焼鈍が行われた吹付け対象物の鋼板の表面に高速で衝突させて、吹付け対象物の鋼板表面に高珪素合金コーティングを形成するステップと、
(3)分離剤を塗布して乾燥させるステップと、
(4)焼鈍を行うステップと、
を含
前記ステップ(2)では、前記高珪素合金粒子中のSi元素の含有量が10.0~50wt%であり、
前記ステップ(2)では、前記高珪素合金粒子の粒径が1.0-80μmであり、
前記ステップ(2)では、高珪素合金粒子を完全に固態の状態で500-900m/sの速度で脱炭焼鈍が行われた吹付け対象物の鋼板の表面に衝突させ、
前記ステップ(2)では、作動ガスの噴流によって前記高珪素合金粒子を駆動し、脱炭焼鈍が行われた吹付け対象物の鋼板の表面に衝突させ、
前記ステップ(2)では、高珪素合金粒子を完全に固態の状態で脱炭焼鈍が行われた吹付け対象物の鋼板の表面に高速で衝突させるように、ノズルを用いて前記高珪素合金粒子と作動ガスを吹付け対象物の鋼板表面に噴射し、
前記ステップ(2)では、ノズル出口の高珪素合金粒子の温度が80~500℃になるように制御し、
前記ステップ(2)では、まず、作動ガスを200-700℃に加熱し、その後、前記ノズルに送り込み、
前記ステップ(2)では、前記ノズルがラバールノズルであり、
前記ステップ(2)では、前記ノズルの出口と吹付け対象物の鋼板表面との間の距離が10-60mmであり、および
前記ステップ(2)では、吹付け対象物の鋼板の片面表面又は両面表面に高珪素合金コーティングを形成し、前記高珪素合金コーティングの厚みは次の式を満たし、
T c /T s ≧(x1-x2)/(x3-x1)
ここで、T c は、高珪素合金コーティングの厚みで、単位パラメータがμmであり、そのうち、鋼板の両面表面にともに高珪素合金コーティングが形成されている場合、前記高珪素合金コーティングの厚みは、鋼板両面のコーティング厚みの和であり、T s は、脱炭焼鈍後の吹付け対象物の鋼板の厚みで、単位パラメータがμmであり、x1は、高珪素方向性電磁鋼板の目標珪素含有量で、その単位パラメータがwt%であり、x2は、吹付け対象物の鋼板の初期珪素含有量で、その単位パラメータがwt%であり、x3は、前記高珪素合金粒子中の珪素含有量で、その単位パラメータがwt%である
ことを特徴とする高珪素方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記ステップ(2)では、前記作動ガスが窒素ガス、ヘリウムガス又は窒素ガス+ヘリウムガスであることを特徴とする請求項1に記載の高珪素方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記ステップ(1)では、脱炭焼鈍後の吹付け対象物の鋼板表面の総酸素含有量が700ppm未満、C元素含有量が50ppm未満であるように制御し、脱炭焼鈍ステップの露点範囲が40~65℃であるように制御することを特徴とする請求項1に記載の高珪素方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記ステップ(4)では、N2+H2の雰囲気において、1100℃以上の焼鈍温度で二次再結晶を完成し、その後、H2含有量が90%より高い還元性雰囲気において、1150℃以上の温度で鋼板を少なくとも20時間均一に加熱し、Si元素の均一な拡散を実現することを特徴とする請求項1に記載の高珪素方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記ステップ(4)の後、絶縁コーティングを塗布して熱延伸平坦化焼鈍を行うステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の高珪素方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電磁鋼板の製造方法に関し、特に、方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁鋼板は通常、方向性電磁鋼板と無方向性電磁鋼板に分けられる。その中で、方向性電磁鋼板は、約3wt%の珪素を含んで結晶粒の配向が(110)[001]である結晶集合組織を有し、それが圧延方向に沿って優れた磁気性能を有し、変圧器、モータ、発電機及びその他の電子装置の鉄心材料として用いることができる。
【0003】
近年、ある電子及び電器素子の効率・感度を向上させ、及び体積を縮小し、作動周波数を高めるために、優れた高周波磁気特性を有する鉄心材料のニーズがだんだんと増えている。6.5wt%Siを含有する高珪素鋼板は、磁歪係数(λs)がゼロに近似しており、高周波条件で、鉄損が明らかに低減し、最大透磁率(μm)が高く、保磁力(Hc)が低く、高速高周波モータ及びオーディオ、高周波変圧器並びにチョークコイルと高周波での磁気遮蔽等の製造に最も適用し、モータのエネルギー消費を低減してモータ効率を向上するために用いられることもできる。しかしながら、高珪素鋼板は、従来技術における通常の熱間圧延、冷間圧延及び焼鈍工程により生産することができない。従来技術では、特許公開番号が「CN107217129A」で、公開日が2017年9月29日であり、名称が「生産性及び磁気的性質に優れた高珪素鋼板及びその生産方法」である中国特許文献には高珪素鋼板の製造方法が開示されており、該方法は、垂直の2ローラを用いて直接5mm以下厚みの高珪素鋼帯材を鋳造することで、Si含有量が4%~7%であり、Al含有量が0.5%~3%であり、Si+Al含有量が4.5%~8%であると限定し、その後、熱間圧延、冷間圧延及び焼鈍等の工程を経て最終製品を得た。特許公開番号が「CN1692164A」で、公開日が2005年11月2日であり、名称が「優れた鉄損性能を有する高珪素方向性電磁鋼板の製造方法」である中国特許文献には高珪素方向性電磁鋼板の製造方法が開示されており、該方法は、通常の方向性珪素鋼の製造方法の上で、脱炭焼鈍後の鋼板表面にスラリー状の珪素化粉末コーティング剤を塗布してから、1200℃の高温焼鈍工程において珪素拡散反応を引き起こして高珪素鋼板を得た。上記の製造方法で得られた製品が優れた磁気性能を有するものの、上記方法は、製造コストが高い又は製品品質が安定でない等の要因で大規模生産とビジネス化がとても難しい。
【0004】
これによって、コストが低く、得られた高珪素方向性電磁鋼板の品質が安定していると共に、優れた磁気性能を有する高珪素方向性電磁鋼板の製造方法を得ることが望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、コストが低く、得られた高珪素結晶粒子方向性電磁鋼板の品質が安定していると共に、優れた磁気性能を有する高珪素方向性電磁鋼板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明はSi元素の含有量が4wt%より高い高珪素方向性電磁鋼板の製造方法を提供し、
(1)冷間圧延が行われた鋼板に対して脱炭焼鈍を行うステップと、
(2)高珪素合金粒子を完全に固態の状態で脱炭焼鈍された吹付け対象物の鋼板の表面に高速に衝突させて、吹付け対象物の鋼板表面に高珪素合金コーティングを形成するステップと、
(3)分離剤を塗布して乾燥させるステップと、
(4)焼鈍を行うステップと、を含む。
【0007】
上記の製造方法において、ステップ(2)で、即ちコールドスプレー処理の過程において、高珪素合金粒子が吹付け対象物の鋼板表面に高速にぶつかる前に溶融が発生しておらず、ぶつかる過程の中で、高珪素合金粒子が吹付け対象物の鋼板表面の微小領域内に強い塑性変形が発生し、その運動エネルギーが熱エネルギーと歪みエネルギーに変換されることによって、吹付け対象物の鋼板表面に堆積して高珪素合金コーティングを形成する。ステップ(3)では、ある実施形態において、分離剤は、MgO、Al2O3又は両者の混合物を主成分とする分離剤を用いることができる。本発明に係る製造方法において、通常の結晶粒子方向性電磁鋼板製造工程のように、ケイ酸マグネシウム下地層(Mg2SiO4)を生成する必要がないため、分離剤は、通常よりも低い活性のMgOを用いることができる。
【0008】
さらに、本発明に係る高珪素方向性電磁鋼板の製造方法において、前記ステップ(2)では、前記高珪素合金粒子中のSi元素の含有量が10~50wt%である。
【0009】
本発明に係る製造方法において、本願発明者は研究を通じて、高珪素合金粒子中のSi元素の含有量が10wt%より低い場合、本発明に係る高珪素方向性電磁鋼板の生産を実現するために、高珪素合金コーティングの厚みを増やして後続の高温焼鈍での珪素の拡散時間を延ばす必要があることによって、生産効率の低下を招き、高珪素合金粒子中のSi元素の含有量が50wt%より高い場合、高珪素合金粒子の塑性変形能力が弱くなり、高珪素合金コーティングを形成する難しさが増えると発見した。それで、本願発明者は高珪素合金粒子中のSi元素の含有量を10~50wt%に限定した。
【0010】
よりさらに、本発明に係る高珪素方向性電磁鋼板の製造方法において、前記ステップ(2)では、前記高珪素合金粒子の粒径が1-80μmである。
【0011】
本発明に係る製造方法において、本願発明者は研究を通じて、もし高珪素合金粒子の直径が1μmより小さければ、高珪素合金粒子粉末の製造コストが増えることになり、その表面が酸化され易く、高珪素合金粒子の直径が80μmより大きい場合、高珪素合金粒子が吹付ける過程の中で接着が発生する臨界速度に加速され難いと発見した。それで、本願発明者は珪素合金粒子の粒径を1-80μmに限定した。
【0012】
さらに、本発明に係る高珪素方向性電磁鋼板の製造方法において、前記ステップ(2)では、高珪素合金粒子を完全に固態の状態で500-900m/sの速度で脱炭焼鈍が行われた吹付け対象物の鋼板の表面に衝突させる。
【0013】
本発明に係る製造方法において、本願発明者は研究を通じて、高珪素合金粒子の衝突速度が500m/sより低い場合、エロージョンのみが発生するが、接着が発生せず、高珪素合金粒子の衝突速度が900m/sを超えた場合、高珪素合金粒子が高珪素方向性電磁鋼板に対して侵食作用が発生することになると発見した。それで、本願発明者は高珪素合金粒子の衝突速度を500-900m/sに制御した。
【0014】
さらに、本発明に係る高珪素方向性電磁鋼板の製造方法において、前記ステップ(2)では、作動ガスの噴流によって前記高珪素合金粒子を駆動し、脱炭焼鈍が行われた吹付け対象物の鋼板の表面に衝突させる。
【0015】
さらに、本発明に係る高珪素方向性電磁鋼板の製造方法において、前記ステップ(2)では、前記作動ガスが窒素ガス、ヘリウムガス又は窒素ガス+ヘリウムガスである。
【0016】
さらに、本発明に係る高珪素方向性電磁鋼板の製造方法において、前記ステップ(2)では、高珪素合金粒子を完全に固態の状態で脱炭焼鈍が行われた吹付け対象物の鋼板の表面に高速に衝突させるように、ノズルを用いて前記高珪素合金粒子と作動ガスを吹付け対象物の鋼板表面に噴射する。
【0017】
さらに、本発明に係る高珪素方向性電磁鋼板の製造方法において、前記ステップ(2)では、ノズル出口の高珪素合金粒子の温度が80~500℃になるように制御する。
【0018】
本発明に係る製造方法において、本願発明者は研究を通じて、ノズル出口の高珪素合金粒子の温度が80℃より低い場合、温度が低いので、接着を増やす効果を奏することなく、高珪素合金粒子の温度が500℃を超えた場合、高珪素合金粒子が酸化され易く、さらには最終の高珪素鋼板表面欠陥の増加を招くと発見した。それで、本願発明者はノズル出口の高珪素合金粒子の温度を80~500℃範囲内に限定した。
【0019】
さらに、本発明に係る高珪素方向性電磁鋼板の製造方法において、前記ステップ(2)では、まず、作動ガスを200-700℃に加熱し、その後、前記ノズルに送り込む。
【0020】
上記の技術手段において、ガスを加熱することで、高珪素合金粒子の速度を高めると共に、高珪素合金粒子が一定の温度を得るようにすることができ、これによって、高珪素合金粒子を吹付け対象物の鋼板に衝突させるときに塑性変形がより発生し易い。
【0021】
さらに、本発明に係る高珪素方向性電磁鋼板の製造方法において、前記ステップ(2)では、前記ノズルがラバールノズルである。
【0022】
さらに、本発明に係る高珪素方向性電磁鋼板の製造方法において、前記ステップ(2)では、前記ノズルの出口と吹付け対象物の鋼板表面との間の距離が10-60mmである。
【0023】
本発明に係る製造方法において、高珪素合金粒子の作動ガスにおける減速及び必要以上の酸化を防止するために、ノズルの出口と吹付け対象物の鋼板表面との間の距離を10-60mmに限定した。
【0024】
さらに、本発明に係る高珪素方向性電磁鋼板の製造方法において、前記ステップ(2)では、吹付け対象物の鋼板の片面表面又は両面表面に高珪素合金コーティングを形成し,前記高珪素合金コーティングの厚みは次の式を満たす。
Tc/Ts≧(x1-x2)/(x3-x1)
【0025】
ここで、Tcは、高珪素合金コーティングの厚みで、単位パラメータがμmであり、鋼板の両面表面にともに高珪素合金コーティングが形成されている場合、前記高珪素合金コーティングの厚みは、鋼板両面のコーティング厚みの和であり、Tsは、脱炭焼鈍後の吹付け対象物の鋼板の厚みで、単位パラメータがμmであり、x1は、高珪素方向性電磁鋼板の目標珪素含有量で、その単位パラメータがwt%であり、x2は、吹付け対象物の鋼板の初期珪素含有量で、その単位パラメータがwt%であり、x3は、前記高珪素合金粒子中の珪素含有量で、その単位パラメータがwt%である。
【0026】
コーティング厚みがTc/Ts<(x1-x2)/(x3-x1)を満たす場合、鋼板と合金コーティングに含まれる総珪素含有量は、高珪素方向性電磁鋼板の目標珪素含有量より低くなり、後続の浸珪処理により望ましい高珪素鋼板を得ることも不可能であり、同時にコーティングには隙間が不可避に存在すること、及びその後の浸珪の安定性等の要素を考慮すると、Tc/Ts≧(x1-x2)/(x3-x1)が必要となる。その他の工程パラメータが安定している条件で、通常は鋼板中の実際の珪素含有量を目標珪素含有量に近づけるように、コーティング厚みTcを精確に制御する。さらに、本発明に係る高珪素方向性電磁鋼板の製造方法において、前記ステップ(1)では、脱炭焼鈍後の吹付け対象物の鋼板表面の総酸素含有量が700ppm未満、C元素含有量が50ppm未満であるように制御し、脱炭焼鈍ステップの露点範囲が40~65℃であるように制御する。
【0027】
本発明に係る製造方法において、脱炭焼鈍後の吹付け対象物の鋼板表面の総酸素含有量が700ppm未満、C元素含有量が50ppm未満であるように制御する。本願発明者は研究を通じて、脱炭焼鈍ステップの露点範囲を40~65℃に制御し、このように、脱炭効果を保証して最終製品の磁気時効を除去できると共に、鋼板表面の酸化膜の形成を抑制できることによって、高珪素合金粒子と脱炭焼鈍が行われた後の鋼板との結合に有利である一方、ステップ(4)の焼鈍プロセス過程において高珪素合金コーティングの脱炭焼鈍が行われた後の吹付け対象物の鋼板への浸珪にも有利であることを見出したのためになる。高珪素合金コーティングが形成された後、鋼板表面が具有十分な粗さを有するため、ステップ(4)の後に含有し得る絶縁コーティング塗布工程中の絶縁コーティングの塗布性を保証することができ、通常の結晶粒子方向性電磁鋼板製造プロセスにおいてのように、ケイ酸マグネシウム下塗り下地層を生成する必要がないため、吹付け対象物の鋼板表面の総酸素含有量は通常のプロセスよりも低いことができる。
【0028】
さらに、本発明に係る高珪素方向性電磁鋼板の製造方法において、前記ステップ(4)では、N2+H2の雰囲気で、1100℃以上の焼鈍温度で二次再結晶を完成し、その後、H2含有量が90%より高い還元性雰囲気で、1150℃以上の温度で鋼板を少なくとも20時間均一に加熱し、Si元素の均一な拡散を実現する。
【0029】
さらに、本発明に係る高珪素方向性電磁鋼板の製造方法において、前記ステップ(4)の後に、絶縁コーティングを塗布して熱延伸平坦化焼鈍を行うステップをさらに含む。
【0030】
本発明に係る製造方法において、ある実施形態では、最終的に優れた磁気性能を有する高珪素方向性電磁鋼板を得るように、絶縁コーティングを塗布する前に、まず、ステップ(4)を経た後の鋼板表面に残留された未反応成分を酸液で除去し、その後、リン酸塩とコロイド状二酸化珪素を含む絶縁コーティングを塗布して熱延伸平坦化焼鈍を行うことができる。
【0031】
なお、ある実施形態において、本発明に係る製造方法におけるステップ(2)を実現するコールドスプレー処理装置は、ガスタンク、ガス制御装置、粒子輸送器、ガス加熱器、温度制御機能を持つ支持ローラ、ノズル装置、粒子回収装置、鋼板温度を測定するための鋼板温度検出装置を備える。該コールドスプレー装置の具体的な処理プロセスは、次の通りである。ガスタンク中の作動ガスがガス制御装置を介してガス加熱器に輸送され、作動ガスがガス加熱器に加熱された後にノズル装置に輸送されて、ノズル装置において加速されて高速ジェットを生成する。粒子輸送器が高珪素合金粒子をノズル装置に注入した後、高珪素合金粒子が高速ジェットにおいて衝突速度まで加速され、脱炭焼鈍後の吹付け対象物の鋼板の表面に高速で衝突した後、吹付け対象物の鋼板表面に高珪素合金コーティングが形成される。脱炭焼鈍が行われた吹付け対象物の鋼板が支持ローラを通過する時に、コールドスプレー処理が行われる、即ちステップ(2)の処理工程を実現するように、ノズル装置は、一つ又は複数個が並ぶ方式で温度制御機能を持つ支持ローラの周囲に配置されても良い。又、ノズル装置は、支持ローラの周囲に固定可能であり、又は吹付け対象物の鋼板の幅方向に沿って往復運動可能である。吹付け対象物の鋼板の表面に高速で衝突した後に残った高珪素合金粒子を粒子回収装置で収集する。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る高珪素方向性電磁鋼板の製造方法は従来技術に比べて、下記の効果を奏する。
(1)本発明に係る高珪素方向性電磁鋼板の製造方法は、通常の生産ラインの上で、1セットのコールドスプレー処理装置を新たに追加することで、高珪素方向性電磁鋼板を量産可能にすることができ、これによって、従来の製造方法のコストが高いという課題を解決した。
(2)本発明に係る高珪素方向性電磁鋼板の製造方法は、高珪素合金粒子を低温で固体の状態で吹付け対象物の鋼板表面に堆積させ、高珪素合金粒子の酸化や相転移などの不利な影響を著しく低減ひいては完全に除去可能であることによって、ステップ(4)の焼鈍工程中の浸珪の安定性を保証し、従来の製造方法における高珪素鋼板の品質が不安定であるという課題を解決した。
(3)本発明に係る製造方法で得られた高珪素方向性電磁鋼板は優れた磁気性能を有し、該方法は幅広い応用の将来性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1はある実施形態において本発明に係る高珪素方向性電磁鋼板の製造方法におけるコールドスプレー処理プロセスを実現するコールドスプレー処理装置の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図の簡単な説明及び具体的な実施例を参照して、本発明に係る高珪素方向性電磁鋼板の製造方法についてさらに解釈・説明するが、該解釈・説明は本発明の技術手段を限定するものではない。
【0035】
図1はある実施形態において本発明に係る高珪素方向性電磁鋼板の製造方法におけるコールドスプレー処理プロセスを実現するコールドスプレー処理装置の構造を示す図であり、図1から分かるように、本発明に係る製造方法におけるコールドスプレー処理プロセスを実現するコールドスプレー処理装置は、ガスタンク3、ガス制御装置4、粒子輸送器5、ガス加熱器6、温度制御機能を持つ支持ローラ7、ノズル装置8、粒子回収装置9、及び鋼板温度を測定するための鋼板温度検出装置10を備える。
【0036】
その具体的な作動方式は、次の通りである。冷間圧延鋼板1は脱炭焼鈍炉2の脱炭焼鈍処理が行われた後に、コールドスプレー処理装置に入って処理が行われる。ガスタンク3中の作動ガスは、ガス制御装置4(例えば、管路やバルブ)を介してガス加熱器6に輸送され、作動ガスは、ガス加熱器6に加熱された後、ノズル装置8に輸送されて、ノズル装置8において加速されて高速ジェットを生成する。粒子輸送器5は、高珪素合金粒子をノズル装置8に注入した後に、高珪素合金粒子は、高速ジェットにおいて衝突速度に加速され、脱炭焼鈍が行われた吹付け対象物の鋼板の表面に高速で衝突した後に、吹付け対象物の鋼板表面に高珪素合金コーティングが形成される。脱炭焼鈍が行われた吹付け対象物の鋼板が支持ローラ7を通過する時に、コールドスプレー処理が行われるように、ノズル装置8は、温度制御機能を持つ支持ローラ7の周囲に固定配置される。又、別のある実施形態では、ノズル装置8は吹付け対象物の鋼板の幅方向に沿って往復運動しても良い。吹付け対象物の鋼板の表面に高速で衝突した後に残った高珪素合金粒子は粒子回収装置9により収集される。鋼板は、コールドスプレー処理が行われた後、分離剤コーティングシステム11に入って後続の処理が行われる。
【実施例
【0037】
以下、本技術手段は、具体的な実施例データを用いて本願の技術手段をさらに述べて本願の有益な効果を証明する。
【0038】
実施例1-24及び比較例1-15における鋼スラブは、同一の化学元素の質量百分率を用いる。
【0039】
表1は実施例1-24及び比較例1-15の高珪素方向性電磁鋼板における鋼スラブ中の各化学元素の質量百分率を列記する。
【0040】
【表1】
【0041】
実施例1-10及び比較例1-5
実施例1-10及び比較例1-5の高珪素方向性電磁鋼板は、
(1)表1中の各化学元素の質量%を含有する鋼スラブを1050~1215℃で再加熱し、その後、1050~1150℃で熱間圧延し、焼鈍し、酸洗を行い、すぐ後で、シングルスタンド圧延機を用いて圧延するステップと、
(2)露点が40~65℃で湿っぽい窒素ガス及び水素ガスの混合雰囲気で、820~850℃の焼鈍温度で冷間圧延が行われた鋼板に対して脱炭焼鈍を行い、脱炭焼鈍後の吹付け対象物の鋼板表面の総酸素含有量が700ppm未満、C元素含有量が50ppm未満であるように制御するステップと、
(3)高珪素合金粒子を完全に固態の状態で、500-900m/sの速度で、脱炭焼鈍が行われた吹付け対象物の鋼板の表面に衝突させるように、内表面が円錐形であるラバールノズルを用いて高珪素合金粒子と加熱された400℃の作動ガス(窒素ガス)を吹付け対象物の鋼板表面に噴射し、ここで、高珪素合金粒子中のSi元素の含有量が10~50wt%であり、高珪素合金粒子の粒径が1-80μmであり、ノズル出口の高珪素合金粒子の温度が300℃であるように制御し、ノズルの出口と吹付け対象物の鋼板表面との間の距離が25mmであるように制御するステップと、
(4)MgO分離剤を塗布して乾燥させるステップと、
(5)焼鈍:N2+H2の雰囲気において、1100℃以上の焼鈍温度で二次再結晶を完成し、その後、H2含有量が90%より高い還元性雰囲気で、1150℃以上の温度で鋼板を少なくとも20時間均一に加熱するステップと、
(6)酸液を用いて焼鈍後の鋼板表面に残留された未反応成分を除去し、その後、リン酸塩とコロイド状二酸化珪素を含む絶縁コーティングを塗布して熱延伸平坦化焼鈍を行い、製品鋼板を得るステップと、を用いて製造される。
【0042】
表2-1、表2-2及び表2-3は実施例1-10及び比較例1-5の高珪素方向性電磁鋼板の製造方法の具体的な工程パラメータを列記する。
【0043】
【表2-1】
【0044】
【表2-2】
【0045】
ここで、x1は高珪素方向性電磁鋼板の目標珪素含有量で、その単位パラメータがwt%であり、x2は吹付け対象物の鋼板の初期珪素含有量で、その単位パラメータがwt%であり、x3は前記高珪素合金粒子中の珪素含有量で、その単位パラメータがwt%である。
【0046】
【表2-3】
【0047】
実施例1-10及び比較例1-5の高珪素方向性電磁鋼板に対して性能測定を行い、鉄損P10/400、磁束密度B8及び磁歪λ10/400を測定し、測定結果は表3に示される。
【0048】
【表3】
【0049】
表3から分かるように、実施例1-10のいずれも珪素含有量が4wt%より高い高珪素方向性電磁鋼板を得ることができる。測定結果は、通常の珪素含有量の製品鋼板に比べて、高珪素鋼板は珪素含有量の向上によりB8が相対的に低いが、高珪素鋼板の高周波磁気性能にとても優れており、高周波鉄損P10/400が5.7~7.5W/kgに介在し、磁歪λ10/400が0.4×10-6未満であることを表明している。比較例1-5は要求を満たす高珪素方向性電磁鋼板を得ることができない。
【0050】
吹付けが行われた鋼板の品質と性能を検証するために、本技術手段は実施例11-20及び比較例6-12を設置した。実施例11-20及び比較例6-12では、下記のステップを用いて高珪素方向性電磁鋼板において吹付け処理を行った。
(1)表1中の各化学元素質量%を含有する鋼スラブを1050~1215℃で再加熱し、その後、1050~1150℃で熱間圧延し、焼鈍して、酸洗を行い、すぐ後で、シングルスタンド圧延機を用いて冷間圧延し、0.285mmの冷間圧延鋼板を得た。
(2)露点が40~65℃で湿っぽい窒素ガス及び水素ガスの混合雰囲気で、820~850℃の焼鈍温度で冷間圧延が行われた鋼板に対して脱炭焼鈍を行い、脱炭焼鈍後の吹付け対象物の鋼板表面の総酸素含有量が700ppm未満、C元素含有量が50ppm未満であるように制御して、0.285mmの脱炭焼鈍鋼板を得た。
(3)高珪素合金粒子を完全に固態の状態で、500-900m/sの速度で、脱炭焼鈍が行われた吹付け対象物の鋼板の表面に衝突させるように、内表面が円錐形であるラバールノズルを用いて高珪素合金粒子と加熱された作動ガス(例えば、窒素ガス)を吹付け対象物の鋼板表面に噴射し、ここで、高珪素合金粒子中のSi元素の含有量が37.9wt%であり、高珪素合金粒子の粒径が20μmであり、ノズル出口の高珪素合金粒子の温度が80-500℃であるように制御し、ノズルの出口と吹付け対象物の鋼板表面との間の距離が10-60mmであるように制御し、最終的に得られた高珪素方向性電磁鋼板中のSi含有量が6.5 wt%であることが望ましい。
【0051】
表4-1及び表4-2は実施例11-20及び比較例6-12の吹付けた後と吹付ける前のステップの具体的な工程パラメータを列記する。
【0052】
【表4-1】
【0053】
【表4-2】
【0054】
ここで、x1は高珪素方向性電磁鋼板の目標珪素含有量で、その単位パラメータがwt%であり、x2は吹付け対象物の鋼板の初期珪素含有量で、その単位パラメータがwt%であり、x3は前記高珪素合金粒子中の珪素含有量で、その単位パラメータがwt%である。
【0055】
実施例11-20及び比較例6-12の高珪素方向性電磁鋼板の高珪素合金コーティングの品質は表5に示される。
【0056】
【表5】
【0057】
表5から分かるように、実施例11-20のいずれも要求を満たす高珪素合金コーティングを得ることができ、比較例6-12は要求を満たす高珪素合金コーティングを得ることができない。
【0058】
実施例21-24及び比較例13-15の高珪素方向性電磁鋼板は、以下のステップを用いて製造される。
(1)表1中の各化学元素質量%を含有する鋼スラブを1050~1215℃で再加熱し、その後、1050~1150℃で熱間圧延し、焼鈍して、酸洗を行い、すぐ後で、シングルスタンド圧延機を用いて冷間圧延し、目標厚みの鋼板を得た。
(2)露点が40~65℃で湿っぽい窒素ガス及び水素ガスの混合雰囲気で、820~850℃の焼鈍温度で冷間圧延が行われた鋼板に対して脱炭焼鈍を行い、脱炭焼鈍後の吹付け対象物の鋼板表面の総酸素含有量が700ppm未満、C元素含有量が50ppm未満であるように制御する。
(3)高珪素合金粒子を完全に固態の状態で、650m/sの速度で、脱炭焼鈍が行われた吹付け対象物の鋼板の表面に衝突させるように、内表面が円錐形であるラバールノズルを用いて高珪素合金粒子と加熱された作動ガス(例えば、窒素ガス)を吹付け対象物の鋼板表面に噴射し、高珪素合金粒子中のSi元素の含有量が37.9wt%であり、高珪素合金粒子の粒径が20μmであり、ノズル出口の高珪素合金粒子の温度が250℃であるように制御し、ノズルの出口と吹付け対象物の鋼板表面との間の距離が25mmであるように制御する。
(4)MgO分離剤を塗布して乾燥させる。
(5)焼鈍:N2+H2の雰囲気で、1100℃以上の焼鈍温度で二次再結晶を完成し、その後、H2含有量が90%より高い還元性雰囲気で、1150℃以上の温度で鋼板を少なくとも20時間均一に加熱する。
(6)酸液を用いて焼鈍後の鋼板表面に残留された未反応成分を除去し、その後、リン酸塩とコロイド状二酸化珪素を含む絶縁コーティングを塗布して熱延伸平坦化焼鈍を行い、製品鋼板を得た。
【0059】
表6-1、表6-2及び表6-3は実施例21-24及び比較例13-15の高珪素方向性電磁鋼板の製造方法の具体的な工程パラメータを列記する。
【0060】
【表6-1】
【0061】
【表6-2】
【0062】
ここで、x1は高珪素方向性電磁鋼板の目標珪素含有量で、その単位パラメータがwt%であり、x2は吹付け対象物の鋼板の初期珪素含有量で、その単位パラメータがwt%であり、x3は前記高珪素合金粒子中の珪素含有量で、その単位パラメータがwt%である。
【0063】
【表6-3】
【0064】
実施例21-24及び比較例13-15の高珪素方向性電磁鋼板の製品鋼板中のSi元素の含有量は表7に示される。
【0065】
【表7】
【0066】
表7から分かるように、実施例21-24のいずれもSi含有量が要求を満たす高珪素方向性電磁鋼板を得ることができ、比較例13と14の製品鋼板中の珪素含有量が4wt%より低く、比較例15の脱炭焼鈍後の吹付け対象物の鋼板表面のC含有量が50ppmより高く、比較例13-15のいずれも要求に適合する高珪素方向性電磁鋼板を得ることができない。
【0067】
なお、本発明の保護範囲における従来技術部分は本願の明細書に例示される実施例に限定されず、本発明の技術的手段と矛盾しないあらゆる従来技術は、先行特許文献、先行公開出版物、先行公開使用等を含むが、これらに限定されなく、いずれも本発明の保護範囲内に含まれてもよい。
【0068】
この他、本願の各技術的特徴の組合せ方式は本願の特許請求の範囲に記載の組合せ方式又は具体的な実施例に記載の組合せ方式に限らず、互いに矛盾しない限り、本願に記載のすべての技術的特徴を任意に組み合わせる又は結合することができる。
【0069】
さらになお、以上列挙された実施例は単に本発明の具体的な実施例だけである。明らかに、本発明は上記実施例に限らず、それを基に行われる類似変更や変形は当業者が本発明に開示された内容から直接取得できる又はとても容易に想到できるものであり、いずれも本発明の保護範囲に属すべきであることに留意されたい。
図1