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特許7231647ニューロン生存因子を含む構築物、及びその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】ニューロン生存因子を含む構築物、及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/864 20060101AFI20230221BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230221BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230221BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230221BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230221BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230221BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N15/12 ZNA
A61K35/76
A61K48/00
A61P27/02
A61P25/00
A61P43/00 105
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020554934
(86)(22)【出願日】2018-12-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-11
(86)【国際出願番号】 EP2018086744
(87)【国際公開番号】W WO2019122403
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-10-26
(31)【優先権主張番号】17306915.4
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520226193
【氏名又は名称】スパーリングヴィジョン
(73)【特許権者】
【識別番号】514282002
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュ ナシオナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル)
(73)【特許権者】
【識別番号】507416908
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】リュヴェイヤール,ティエリ
(72)【発明者】
【氏名】アイット-アリ マーマリ,ナジャトゥ
(72)【発明者】
【氏名】ブロン,フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】サエル,ジョゼ-アラン
(72)【発明者】
【氏名】ピュル,ジェラルディヌ
(72)【発明者】
【氏名】クルラン,エマニュエル
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/120294(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/185037(WO,A1)
【文献】Wu, Z. et al.,"Effect of genome size on AAV vector packaging",Mol. Ther.,2010年,Vol. 18,pp. 80-86
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
A61K 38/00-38/58
A61K 35/00-35/768
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アデノ随伴ベクター(adeno-associated vector;AAV)であって、
RdCVFをコードする第1の核酸を含む第1の発現カセットと、
RdCVFLをコードする第2の核酸を含む第2の発現カセットとを含み、
前記第1及び第2の発現カセットは、最大で70個の連続した同一のヌクレオチドを示す、AAV。
【請求項2】
前記第1及び第2の発現カセットは、最大で54個の連続した同一のヌクレオチドを示す、請求項1に記載のAAV。
【請求項3】
前記第1及び第2の発現カセットは、最大で9個の連続した同一のヌクレオチドを示す、請求項1に記載のAAV。
【請求項4】
前記AAVは、血清型AAV2/8である、請求項1~3のいずれか一項に記載のAAV。
【請求項5】
RdCVFをコードする前記第1の核酸は、ユビキタスプロモーターの制御下にある、請求項1~4のいずれか一項に記載のAAV。
【請求項6】
RdCVFをコードする前記第1の核酸は、CMV/CBAプロモーターの制御下にある、請求項に記載のAAV。
【請求項7】
RdCVFLをコードする前記第2の核酸は、錐体オプシンプロモーターの制御下にある、請求項1~の何れか一項に記載のAAV。
【請求項8】
前記AAVは、配列番号6、配列番号8、配列番号9、及び配列番号14からなる群のうちの一つの核酸配列を有する、請求項1~の何れか一項に記載のAAV。
【請求項9】
前記AAVは、配列番号6に記載の核酸配列を有する、請求項に記載のAAV。
【請求項10】
前記第1の核酸は、配列番号12に記載のRdCVFをコードするコドン最適化cDNAを含み、
前記第2の核酸は、配列番号13に記載のRdCVFLをコードするコドン最適化cDNAを含む、請求項1に記載のAAV。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のAAVを含む、医薬組成物。
【請求項12】
請求項1~10の何れか一項に記載のAAVを含む、網膜神経変性障害の治療のための医薬組成物。
【請求項13】
前記網膜神経変性障害は、網膜色素変性症、加齢性黄斑変性症、バルデー・ビードル症候群、バッセン・コーンツヴァイク症候群、ベスト病、コロイデマ(choroidema)、脳回転状萎縮、レーバー先天性黒内障、レフサム病、シュタルガルト病、又はアッシャー症候群からなる群から選択される、請求項12に記載の網膜神経変性障害の治療のための医薬組成物。
【請求項14】
前記網膜神経変性障害は、前記網膜色素変性症である、請求項13に記載の網膜神経変性障害の治療のための医薬組成物。
【請求項15】
前記AAVは、網膜下注入によって投与される、請求項12~14のいずれか一項に記載の網膜神経変性障害の治療のための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は網膜神経変性障害に関し、より詳細には、神経変性障害を治療及び/又は予防するための医薬組成物に関する。
【0002】
〔背景技術〕
神経変性障害は、ニューロン変性を特徴とする一連の重篤な消耗性健康状態を包含する。
【0003】
網膜色素変性症(retinitis pigmentosa;RP)のような桿体錐体ジストロフィーは、桿体光受容体の進行性死滅とそれに続く連続的な錐体の消失を特徴とする遺伝的に不均一な網膜変性疾患である。RPは遺伝性網膜変性症の中で最も多くみられる形態の1つで、世界中で約1:3,500の人が罹患している(1)。RPを引き起こす63以上の異なる遺伝子における変異が現在までに同定されており、これらの変異のかなりの割合は桿体特異的転写物にある。RP患者は最初、桿体機能不全の結果として薄暗い光の条件下で視力低下を呈し、黄斑錐体によって介される視力は相対的に保存される。しかしながら、疾患が進行することにつれて、初期の桿体の消失に続いて、錐体変性が起こり、対応する錐体によって介される視力に欠損が生じる。環境の多くが人工的に照明され、多くの活動が高度に鋭い色覚に依存している現代社会では、RP患者における錐体によって介される視力の保持は生活の質の有意な改善につながるのであろう。
【0004】
桿体特異的変異によって引き起こされる、RP部分集合における錐体の消失は完全には理解されていないが、いくつかの機構(必ずしも相互に排他的ではない)が提唱されている。いくつかの仮定された機構は、「隣接効果」に関係があるとしている。この「隣接効果」によると、錐体死滅は周囲の桿体の変性による内毒素の放出の結果であるか、又は桿体、網膜色素上皮(retinal pigment epithelium;RPE)若しくはミュラーグリアとの接触が無くなった結果である。あるいは、ミュラー細胞の活性化及び毒性分子の放出が寄与している可能性がある。別の仮説は、桿体の代謝負荷が失われるため、脈絡膜血液循環からRPEによって光受容体層に送達される酸素又はレチノイドの量が過剰かつ毒性である、というものである(2)。Punzoらは、マウスの網膜変性症モデルにおいて、錐体死滅の原因の一つは、インスリン/哺乳類ラパマイシン標的経路によって駆動される飢餓及び栄養失調であることの証拠を示した(3)。さらに、桿体から分泌される、錐体の生存に必要な生存因子の消失が、錐体の消失に寄与している可能性が示唆されている(4、5)。
【0005】
最後の仮説を認めるように、rd1マウスにおいて、移植された健常な網膜組織は、移植組織から離れた領域では錐体の生存を支えることが示されている(6、7)。
【0006】
国際特許出願WO2008/148860A1には、桿体由来錐体生存因子(rod-derived cone viability factor;RdCVF)及びRdCVF2と呼ばれる栄養因子のファミリーが記載されており、該栄養素は、ニューロンの生存率を高めることができ、RPなどの神経変性障害を治療及び/又は予防に有用である。
【0007】
桿体由来錐体生存因子(rod-derived cone viability factor;RdCVF)は、元々、cDNAライブラリーをスクリーニングするハイスループットな方法により、この救助効果の原因となる分子の候補として同定された(4)。桿体はRdCVFを分泌するため、桿体が死ぬにつれて、このパラクリン因子の供給源が失われ、RdCVFレベルが低下する。したがって、RdCVFの発現の消失、及びこれに似た分泌因子の発現の消失は、桿体錐体ジストロフィーで観察される、錐体変性の第二波に寄与している可能性がある。RdCVFは、培養において錐体生存を仲介することが示されており(8)、また、劣性型及び優性型の網膜色素変性症のマウスモデル及びラットモデルにおいて網膜下に注入した場合も、錐体生存を仲介することが示されている(4,9)。RdCVFをコードする遺伝子であるNxnl1が破壊されると、マウスの光受容体は、光受容体の機能不全及び錐体の消失が経時的に起こりやすくなる(10)。
【0008】
Nxnl1は、選択的スプライシングを介した2つのタンパク質アイソフォームをコードする。錐体生存を取り持つアイソフォームであるRdCVFは、より長いその対応物であるRdCVFLの切断されたチオレドキシンフォールドタンパク質であり、RdCVFLは酵素的チオールオキシドレダクターゼ活性を付与するC末端伸長を含む(11)。RdCVFのすべてのアミノ酸を含むRdCVFLは、Nxnl1遺伝子のエキソン1と2にコードされ、チオレドキシンファミリーのメンバーである(12)。チオレドキシンは、細胞内の適正な還元環境を維持すること、及びアポトーシス経路に関与すること等、多様な機能を有する。これらの機能は、チオレドキシンフォールド内に保存されたCXXC触媒部位によって媒介されるチオールオキシドレダクターゼ反応によって達成される(13)。
【0009】
Byrneら(32)は、RdCVFの2つのアイソフォームが相補的機能を有することを示した。RdCVFをコードするアデノ随伴ウイルス(adeno-associated virus;AAV)の全身投与は錐体機能を改善し、錐体の消失を遅延させた。RdCVFLはロドプシンmRNAを増加させ、酸化ストレスを低下させた。RdCVFLは、桿体に対する光酸化損傷を防止する(36)。
【0010】
国際特許出願WO2016/185037には、RdCVF及びRdCVFLの両方をコードするAAVベクター、特に、AAV CT35が記載されており、網膜色素変性症等の病理を治療するための該ベクターの使用が記載されている。
【0011】
RdCVFとRdCVFLとの間の相乗効果が実証されている(34)。一方では、RdCVFは、網膜色素上皮(retinal pigmented epithelium;RPE)によって産生、分泌され、非細胞自律的機構によって錐体の細胞表面におけるRdCVF受容体を介して好気的解糖を刺激することによって錐体を保護する(37)。一方、RdCVFLは、そのチオールオキシドレダクターゼ機能により、細胞自律的に錐体を酸化的損傷から保護する。
【0012】
ところで、本発明者らは、このようなAAVベクターの産生が予想外にも、AAVゲノムのキャプシド形成(encapsidation)の問題を与えることを発見した。この不完全なパッケージングの問題は、完全なゲノムを有するAAV粒子の産生における欠陥をもたらす。
【0013】
これは、ヒト治療に使用するためのGMP準拠のAAVベクターの産生に制限を与える。
【0014】
したがって、網膜神経変性障害を治療するために、RdCVF因子及びRdCVFL因子の発現のための改善された構築物が依然として必要とされている。
【0015】
〔発明の概要〕
本発明者らは、RdCVFをコードする第1の核酸とRdCVFLをコードする第2の核酸とを含む単一のAAVベクターの産生には、ウイルスキャプシド内のAAV一本鎖DNAの不完全なパッケージングの問題があり得ることを見出した。この不完全なキャプシド形成は、不完全なAAVゲノムの産生につながるので、より小さなサイズのDNAとなる。
【0016】
本発明者らは驚くべきことに、この不完全なキャプシド形成が、AAVゲノム内の直接反復配列の存在に起因することを発見し、また、第1の発現カセットと第2の発現カセットとの間に共通する同一のヌクレオチドの長さを制限し、最大200の連続した同一のヌクレオチドとすることにより、AAVが完全にパッケージングされ得ることを発見した。
【0017】
したがって、本発明は、RdCVFをコードする第1の核酸を含む第1の発現カセットと、RdCVFLをコードする第2の核酸を含む第2の発現カセットとを含み、AAV粒子の産生が最適化されたAAVベクターを提供することによって、この問題に対する解決策を提供する。
【0018】
本発明に係るAAVは、最大で200個の連続した同一のヌクレオチド、好ましくは最大で190個、さらにより好ましくは最大で180個、170個、167個、165個、164個、160個、150個、140個、130個、120個、110個、100個、90個、80個、70個、60個、55個、54個、50個、40個、30個、20個、15個、10個、9個又は8個の連続した同一のヌクレオチドを示す第1及び第2の発現カセットを含む。
【0019】
本発明者らは、第1の発現カセットと第2の発現カセットとの間の直接反復配列の問題に対する、いくつかの代替的及び/又は累積的な解決策を開発した。
【0020】
したがって、一態様において、本発明は、アデノ随伴ベクター(adeno-associated vector;AAV)であって、
RdCVFをコードする第1の核酸を含む第1の発現カセットと、
RdCVFLをコードする第2の核酸を含む第2の発現カセットとを含み、
前記第1及び第2の発現カセットは、200個未満の連続した同一のヌクレオチドを示す、AAVに関する。
【0021】
別の態様において、本発明は、アデノ随伴ベクター(adeno-associated vector;AAV)であって、
RdCVFをコードする第1の核酸を含む第1の発現カセットと、
RdCVFLをコードする第2の核酸を含む第2の発現カセットとを含み、
網膜神経変性障害の治療方法に使用するためであり、
前記第1及び第2の発現カセットは、200個未満の連続した同一のヌクレオチドを示す、AAVに関する。
【0022】
本発明はまた、網膜変性疾患に罹患している患者の治療方法であって、治療有効量のアデノ随伴ベクター(adeno-associated vector;AAV)を前記患者に投与することからなる工程を含み、前記アデノ随伴ベクター(AAV)は、
RdCVFをコードする第1の核酸を含む第1の発現カセットと、
RdCVFLをコードする第2の核酸を含む第2の発現カセットとを含み、
前記第1及び第2の発現カセットは、200個未満の連続した同一のヌクレオチドを示す、方法に関する。
【0023】
本発明はまた、AAV構築物における不活性ヒトDNA配列の使用に関する。
【0024】
一態様において、本発明は、配列番号10に記載の配列を有する核酸を含むAAVであって、配列番号10に記載の配列を有する前記核酸は、発現カセットに存在しない、AAVに関する。
【0025】
〔発明の詳細な説明〕
したがって、一態様において、本発明は、アデノ随伴ベクター(adeno-associated vector;AAV)であって、
RdCVFをコードする第1の核酸を含む第1の発現カセットと、
RdCVFLをコードする第2の核酸を含む第2の発現カセットとを含み、
前記第1及び第2の発現カセットは、200個未満の連続した同一のヌクレオチドを示す、AAVに関する。
【0026】
第1及び第2の発現カセットが200個未満の連続した同一のヌクレオチドを示すとは、第1の発現カセットと第2の発現カセットとが共通して200個未満の連続した同一のヌクレオチドを有することを意味する。
【0027】
典型的には、第1の発現カセットと第2の発現カセットとの間で共通する連続した同一のヌクレオチドは、最大で200個、好ましくは最大で190個、さらにより好ましくは最大で180個、170個、167個、165個、164個、160個、150個、140個、130個、120個、110個、100個、90個、80個、70個、60個、55個、54個、50個、40個、30個、20個、15個、10個、9個又は8個である。
【0028】
別の態様において、本発明は、アデノ随伴ベクター(adeno-associated vector;AAV)であって、
RdCVFをコードする第1の核酸を含む第1の発現カセットと、
RdCVFLをコードする第2の核酸を含む第2の発現カセットとを含み、
網膜神経変性障害の治療方法に使用するためであり、
前記第1及び第2の発現カセットは、200個未満の連続した同一のヌクレオチドを示す、AAVに関する。
【0029】
本発明はまた、網膜変性疾患に罹患している患者の治療方法であって、治療有効量のアデノ随伴ベクター(adeno-associated vector;AAV)を前記患者に投与することからなる工程を含み、前記アデノ随伴ベクター(AAV)は、
RdCVFをコードする第1の核酸を含む第1の発現カセットと、
RdCVFLをコードする第2の核酸を含む第2の発現カセットとを含み、
前記第1及び第2の発現カセットは、200個未満の連続した同一のヌクレオチドを示す、方法に関する。
【0030】
本明細書において、用語「桿体由来錐体生存因子」(Rod-derived Cone Viability Factor;RdCVF)は、チオレドキシン様6(TXNL6)遺伝子又はヌクレオレドキシン様1(NXNL1)遺伝子によってコードされるタンパク質を意味する。それは、あらゆる動物種のRdCVFタンパク質を包含する。典型的には、本発明に係るRdCVFタンパク質は、哺乳類RdCVFタンパク質(マウス、ラット、ネコ、イヌ、非ヒト霊長類、及びヒトを含むがこれに限定されない)であり得る。
【0031】
特記しない限り、用語「RdCVF」は、NXNL1遺伝子の短いアイソフォームを指し、用語「RdCVFL」又は「RdCVF-L」は、NXNL1遺伝子の長いアイソフォームを指す。
【0032】
典型的にはマウスにおいて、短いアイソフォーム(RdCVF)はUniprot accession 番号Q91W38で参照される、109個のアミノ酸の長さのタンパク質である。マウスの長いアイソフォーム(RdCVFL)は、Q8VC33で参照される、217個のアミノ酸を長さのタンパク質である。
【0033】
本発明の一実施形態において、短いアイソフォームRdCVFは、ヒトの短いアイソフォームRdCVF(hRdCVF)であって、以下の配列を有する:
【0034】
【表1】
【0035】
したがって、短いアイソフォームRdCVFをコードする第1の核酸は、以下のヒト核酸配列を含み得る:
【0036】
【表2】
【0037】
あるいは、第1の核酸は、配列番号3とは異なるが同じアミノ酸配列をコードする核酸を含み得る。
【0038】
適した核酸配列としては、以下が挙げられるが、これに限定されない:
ヒトRdCVFをコードするcDNAの多型;
ヒトRdCVFをコードするcDNAの多型の組合せ(稀なハプロタイプ)。稀なハプロタイプcDNAの例は、配列番号11として示される;
特定のコドンが同じアミノ酸をコードするコドンに置換された、「最適化された」配列。RdCVFをコードする適したコドン最適化配列としては、配列番号12に記載の配列が挙げられるが、これに限定されない;
相同配列。例えば、本発明者らは、チンパンジーRdCVFの短いアイソフォームをコードするチンパンジーcDNA配列がヒトcDNAと同じアミノ酸配列をコードするので、使用され得ることを見出した。チンパンジーcDNAは、配列番号4に記載の配列を有する。
【0039】
本発明の一実施形態において、NXNL1遺伝子の長いアイソフォームは、ヒトの長いアイソフォームRdCVFL(hRdCVFL)であり、accession 番号Q96CM4で参照される以下の配列を有する:
【0040】
【表3】
【0041】
したがって、RdCVFLをコードする第2の核酸は、以下のヒト核酸配列を含み得る:
【0042】
【表4】
【0043】
あるいは、第2の核酸は、配列番号5とは異なるが同じアミノ酸配列をコードする核酸を含み得る。
【0044】
適した核酸配列としては、以下が挙げられるが、これに限定されない:
ヒトRdCVFをコードするcDNAの多型又はその組合せ;
特定のコドンが同じアミノ酸をコードするコドンに置換された、「最適化された」配列;RdCVFをコードする適したコドン最適化配列としては、配列番号12に記載の配列が挙げられるが、これに限定されない;
他の種の相同配列。
【0045】
RdCVFタンパク質及びRdCVFLタンパク質の配列は、Chalmelら、2007(39)及び国際特許出願WO2008/148860に記載されている。
【0046】
本明細書において、用語「アデノ随伴ベクター」又は「AAV」は、当技術分野におけるその一般的な意味を有する。
【0047】
AAVは、遺伝子送達に適したベクターとして、当技術分野で頻繁に記載されている。
【0048】
実際、AAVは非病原性であり、その血清型に応じて広範囲の組織特異性を示す。典型的には、本発明に係るAAVは、網膜細胞を標的とすることができるAAVである。
【0049】
例としてはAAV2、AAV8、AAV2/8、AAV2/5、AAV2/9、及びAAV7m8が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
一実施形態において、本発明に係るAAVは、国際特許出願WO2012/158757に記載される方法に従って得られる。
【0051】
典型的には、NXNL1遺伝子の短いアイソフォーム及び長いアイソフォームをそれぞれコードする第1及び第2の核酸は、該短いアイソフォーム及び長いアイソフォームの、標的細胞における発現を可能にするプロモーターの制御下にある。
【0052】
適したプロモーターは、CMV/CBAプロモーターのような、ユビキタスプロモーターであり得る。
【0053】
適したプロモーターは、網膜における発現、好ましくは網膜色素上皮細胞及び光受容体細胞における発現を可能にするプロモーターであり得る。
【0054】
一実施形態において、プロモーターは、網膜色素上皮細胞における遺伝子発現を可能にする。
【0055】
一実施形態において、プロモーターは、錐体光受容体における遺伝子発現を可能にする。非限定的な例の一つは、錐体オプシンプロモーターである。
【0056】
典型的には、NXNL1遺伝子の短いアイソフォームは、少なくとも網膜色素上皮細胞によって発現され、長いアイソフォームは、少なくとも錐体光受容体細胞によって発現される。
【0057】
本発明の一実施形態において、短いアイソフォーム及び長いアイソフォームの発現を駆動するために、異なるプロモーターが使用される。
【0058】
典型的には、NXNL1遺伝子の短いアイソフォームは、CMV/CBAプロモーターの制御下で発現され得、NXNL1遺伝子の長いアイソフォームは、錐体オプシンプロモーターの制御下で発現され得る。
【0059】
本発明の一実施形態において、2つの発現カセットは逆方向であり、一方の発現カセットは5’から3’であり、他方の発現カセットは3’から5’である。
【0060】
本発明者らは、この構成が不完全なパッケージングを避けるのにも適していることを見出した。
【0061】
本発明の一実施形態において、上記のアデノ随伴ベクター(adeno-associated vector;AAV)は、配列番号10のスタッファー配列をさらに含む。
【0062】
一実施形態において、本発明は、アデノ随伴ベクター(adeno-associated vector;AAV)であって、
ユビキタスプロモーター、好ましくはCMV/CBAプロモーターの制御下にある、RdCVFをコードするコドン最適化cDNAを含む第1の核酸を含む第1の発現カセットと、
錐体オプシンプロモーター(OPN1L/MW)の制御下にある、RdCVFLをコードするコドン最適化cDNAを含む第2の核酸を含む第2の発現カセットとを含む、AAVに関する。
【0063】
一実施形態において、RdCVFをコードするコドン最適化cDNAを含む第1の核酸は、配列番号12に記載の配列を有する。
【0064】
一実施形態において、RdCVFLをコードするコドン最適化cDNAを含む第2の核酸は、配列番号13に記載の配列を有する。
【0065】
一実施形態において、アデノ随伴ベクターは、配列番号6(以下の実施例の構築物3に対応する)に記載の配列を有する。
【0066】
本発明の文脈において、本明細書中で使用される用語「治療する」又は「治療」は、該用語が適用される障害もしくは健康状態、又はこのような障害若しくは健康状態の1つ以上の症状(例えば、網膜変性疾患)の回復、軽減、進行の抑制、又は予防を意味する。
【0067】
用語「網膜変性疾患」は、錐体変性に関連する全ての疾患を包含する。網膜変性疾患は、網膜色素変性症、加齢性黄斑変性症、バルデー・ビードル症候群、バッセン・コーンツヴァイク症候群、ベスト病、コロイデマ(choroidema)、脳回転状萎縮、レーバー先天性黒内障、レフサム病、シュタルガルト病、又はアッシャー症候群を含むが、これらに限定されない。
【0068】
本発明の一実施形態において、網膜変性疾患は網膜色素変性症である。
【0069】
本発明によれば、用語「患者」又は「それを必要とする患者」は、網膜変性疾患に罹患しているか、罹患している可能性が高いヒト又は非ヒト哺乳動物を意図する。
【0070】
本発明によれば、組成物の「治療有効量」は、所望の生物学的効果(ここでは、ニューロン生存を高めること)を達成するのに十分な量である。有効な投与量は、受容者の年齢、性別、健康状態、及び体重、同時治療の種類(もしあれば)、治療の頻度、及び所望の効果の性質に依存することが理解される。しかし、当業者によって理解され、当業者によって決定可能であるように、好ましい投与量は、過度の実験なしに個々の対象者に合わせることができる。
【0071】
本発明の発現ベクターは、眼内投与に適し得る。特定の実施形態において、発現ベクターは、網膜下注入によって投与される。
【0072】
一態様において、本発明はまた、アデノ随伴ベクター(adeno-associated vector;AAV)と、医薬的に許容できる担体とを含む医薬組成物であって、前記AAVは、
RdCVFをコードする第1の核酸を含む第1の発現カセットと、
RdCVFLをコードする第2の核酸を含む第2の発現カセットとを含み、
前記第1及び第2の発現カセットは、200個未満の連続した同一のヌクレオチドを示す、医薬組成物に関する。
【0073】
別の態様において、本発明は、配列番号10に記載の配列を有する核酸を含むAAVであって、配列番号10に示される配列を有する前記核酸は、発現カセットに存在しない、AAVに関する。この配列番号10の配列は、AAVにおけるスタッファーDNAの役割を有する。スタッファー配列の役割は、目的の遺伝子の代わりにプロウイルスプラスミドがキャプシド形成することを避けるために、ベクターのサイズを増加させることである。
【0074】
通常、バクテリオファージラムダDNAに対応するスタッファーがAAVにおいて使用される。しかし、スタッファーとして最も一般的に用いられるバクテリオファージラムダの配列は、オープンリーディングフレームであるnin領域を含んでいる。このようなスタッファーは、ヒトとの系統発生的距離のために不活性であると考えられているが、Chengら(38)は、nin領域が強い転写活性を有し得るため、このようなスタッファーが予想されるほど不活性ではないことを実証している。したがって、このようなスタッファーを有するAAVをヒト患者に投与すると、バクテリオファージラムダDNAの転写のリスクがある。
【0075】
したがって、新しい不活性スタッファーを開発することが重要であった。本発明者らは、AAV構築物のサイズを増加させるために、バクテリオファージラムダスタッファーの代わりに、配列番号10に記載の配列を有する核酸を、「スタッファー」DNAとして予想外に使用され得ることを見出した。配列番号10に記載の配列を有する該核酸は、不活性であるという大きな利点を有する。これは、この配列が非翻訳配列であり、miRNA標的ではなく、非テロメア配列であり、DNA複製起点を含まず、ヌクレオチド反復を含まないためである。この配列が何らかの機能的活性を持つとしても、AAVにおいてスタッファーとして用いた場合には転写のリスクはない。
【0076】
配列番号10に記載の配列は、図3に記載されるような徹底的なプロセスを通して選択された。これは、セントロメア、遺伝子、偽遺伝子、複製起点、マイクロRNA標的配列、又は反復の要素を含まないヒトゲノム領域において同定することからなるバイオインフォマティクス的アプローチである。これらの遺伝子座の中から配列番号10を選択した。
【0077】
本発明を、以下の実施例及び図面を用いてさらに説明する。
【0078】
〔図面の簡単な説明〕
図1:本発明に係る好ましい構築物の模式図:
図1Aは、WO2016/185037号に記載の比較例(したがって、本発明に係る構築物ではない)である構築物CT35を示す。図1B図1C及び図1Dは、それぞれ、本発明に係る構築物3(C03)、6(C06)及び11(C11)を示す。
【0079】
図2:変性ゲル電気泳動により解析した、AAVゲノムの一本鎖DNAのサイズ
異なる構築物のAAVゲノムの一本鎖DNAのサイズを、変性条件下でゲル電気泳動によって分析した。
【0080】
RdCVF及びRdCVFLの両方を発現する構築物3(C03)(7v7.AAV2-CMV/CBAorig-RdCVF-5’_1.7.OPN1L/MW-RdCVFL)
RdCVF及びRdCVFLの両方を発現するCT35(AAV2-CMV/CBA-RdCVF-CMV/CBA-RdCVFL)(配列番号15)
RdCVFのみを発現するCT37(AAV2-CMV/CBA-RdCVF+スタッファー)(配列番号16)。
【0081】
図3:不活性「スタッファー」DNAの選択プロセスの模式図
図4:パッケージングの比較
図4A:AAV CT35の別の表示。RdCVF及びRdCVFLの両方を発現するこのAAVでは、第1及び第2の発現カセットは、プロモーター[CMV/CBAデルタ390]の直接反復のために、390の連続した同一のヌクレオチドを有する。
【0082】
図4B:カセット[CMV/CBAデルタ390-RdCVF]の排除、又はカセット[CMV/CBAデルタ390-RdCVFL]との組換えを生じさせる、2つのコピー[CMV/CBAデルタ390]の間の組換えの模式図。
【0083】
図4C:豚色素上皮の初代細胞におけるCT35(AAV-CMV/CBA-RdCVF CMV/CBA-RdCVFL)の形質導入。ウサギポリクローナル抗RdCVF抗体を用いた、RdCVF及びRdCVFLのウェスタンブロット分析(4)。
【0084】
図4D:AAV C06の別の表示及び組換えの模式図。このAAVにおいて、第1及び第2の発現カセットは、167の連続した同一のヌクレオチドの直接反復を共通して有する。
【0085】
図4E:AAV C03の別の表示。
【0086】
図4F:キャプシド形成したAAV C06、C03、CT35、及びCT37(キャプシドタンパク質プラスDNA)のゲノム完全性解析。
【0087】
図4G及び図4H:C03及びC06について、完全にキャプシド形成したAAVを含むキャプシド(full)の割合、不完全にキャプシド形成したAAVを含むキャプシド(中間)の割合、及びAAVを含まないキャプシド(empty;DNAなし)の割合を示す表。表4Gは、キャプシドタンパク質及びDNA(AAVゲノム)の両方について得られた検出結果を示す。表4Hは、DNAのみについて得られた検出結果を示す。
【0088】
〔実施例〕
実施例1
以下、本発明に係る、適した構築物の非限定的な例を提供する。
【0089】
構築物3(C03):7v7.AAV2-CMV/CBAorig-RdCVF-5’_1.7.OPN1L/MW-RdCVFL
図1Bに示すように、この構築物において、ヒトRdCVFのcDNA配列を(第1の最適化プロセスv1を使用して)コドン最適化し、ユビキタスプロモーターCMV/CBA下に置いた。ヒトRdCVFLのcDNAも(異なる最適化プロセスv2を用いて)コドン最適化し、錐体オプシンプロモーターの制御下に置いた。第1の発現カセットと第2の発現カセットとで共通して有する直接反復は、9ヌクレオチド長である。
【0090】
AAVベクターは、配列番号6に記載の配列を有する。
【0091】
構築物6(C06):
AAV2_CMV/CBA_orig_RdCVF_chimp_5p_1.7_OPN1LMW_RdCVFL
図1C及び図4Dに示すように、この構築物において、チンパンジーRdCVFのcDNA配列を第1の発現されたカセットにおいて使用し、ユビキタスプロモーターCMV/CBA下に置いた。ヒトRdCVFLのcDNAを錐体オプシンプロモーターの制御下に置いた。第1の発現カセットと第2の発現カセットとで共通して有する直接反復は、167ヌクレオチド長である。
【0092】
AAVベクターは、配列番号7に記載の配列を有する。
【0093】
構築物7(C07):
AAV2_rev_CMV/CBA_orig_RdCVF_chimp_5p_1.7_OPN1LMW_RdCVFL
この構築物は、第1の発現カセットが逆方向に配置されていることを除いて、構築物6と同様である。
【0094】
AAVベクターは、配列番号8に記載の配列を有する。
【0095】
構築物8(C08):
AAV2_CMV/CBA_orig_RdCVF_chimp_rev_5p_1.7_OPN1LMW_RdCVFL-hGH
この構築物は、第2の発現カセットが逆方向に配置されていることを除いて、構築物6と同様である。
【0096】
AAVベクターは、配列番号9に記載の配列を有する。
【0097】
構築物11(C11):
AAV2_CMV/CBA_orig_RdCVF_rare_haplotype_human_5p_1.7_OPN1LMW_RdCVFL
図1Dに示すように、この構築物において、第1の発現カセットは、ユビキタスプロモーターCMV/CBA下にある、多型の組合せ(稀なハプロタイプ)であるヒトRdCVFをコードするcDNAを含む。第2の発現カセットは、錐体オプシンプロモーターの制御下にあるヒトRdCVFLのcDNAを含む。第1の発現カセットと第2の発現カセットとで共通して有する直接反復は、54ヌクレオチド長である。
【0098】
AAVベクターは、配列番号14に記載の配列を有する。
【0099】
実施例2:同一のヌクレオチドの長い伸長を示すAAV構築物は、不完全なパッケージングが起きる。
【0100】
材料及び方法
ウイルスベクターの産生
マウスRdCVF、RdCVFL、又はeGFPをコードするcDNAを持つAAVベクターをプラスミドコトランスフェクション法(31)により産生した。組換えAAVを、塩化セシウム又はイオジキサノール勾配超遠心によって精製した。ウイルス溶離液を緩衝液交換し、PBS中でAmicon Ultra-15 Centrifugal Filter Unitsを用いて濃縮し、標準曲線に対する定量PCRによって滴定した。
【0101】
変性ゲル電気泳動
ゲノムDNAを抽出し、変性ゲル電気泳動に供した。核酸のサイズをDNAラダーと比較した。
【0102】
結果
図2及び図4Fは、WO2016/185037に開示された構築物CT37が、したがって本発明に係る構築物ではないことを示す。RdCVFのみを発現するこの比較例は、その産生が、予想されるサイズである約5000bpのDNAを生じるので、完全なパッケージングが起きる。
【0103】
図2及び図4Fに示されるように、390個の連続した同一のヌクレオチドの反復を含むCT35(図4A)は、その産生が、4804bpのAAVゲノムのではなく、異常なAAVゲノムサイズを生じるので、不完全なパッケージングが起きる。
【0104】
従って、RdCVFをコードする第1の核酸及びRdCVFLをコードする第2の核酸をAAVにおいて発現することは、ウイルスキャプシド内にAAV一本鎖DNAの不完全なキャプシド形成を導き得ることが十分に実証されている。
【0105】
対照的に、RdCVF及びRdCVFLの両方を発現し、167ヌクレオチド長のみの直接反復を含む、本発明に係る構築物C06は、予想されるサイズである4942bpでバンドを示す。この結果は、構築物C06の場合の完全なキャプシド形成を実証する。
【0106】
同様に、9個の連続した同一のヌクレオチドの反復を含む構築物C03は、予想されるサイズである4926bpで単一のバンドを示す。
【0107】
2つの発現カセットの間で共通して有される連続した同一のヌクレオチドの数を少なくすることは、RdCVFをコードする核酸及びRdCVFLをコードする核酸の両方を含むAAVの完全なキャプシド形成の割合を増加させることを可能にすることが示される。
【0108】
したがって、本発明者らは、第1及び第2の発現カセットに含まれる連続した核酸が200個以下である場合に、完全なパッケージングが得られることを実証した。
【0109】
この現象をさらに調査するために、Burnhamら(35)に従って分析的超遠心を使用して、異なる構築物を比較した(図4G及び図4H)。C03及びC06についての結果は、変性ゲルにおいて観察された追加的なバンドが、中間の沈降係数を有する、高い割合のAAV粒子のバンドと一致し、fullとemptyの間の粒子を表し、したがって、不完全にパッケージングされたAAVを含む粒子に対応することを示す。変性ゲル電気泳動で得られた結果によれば、構築物C06は18%の完全な(full)キャプシド形成を示し、構築物C03は分析的超遠心法において適した結果をもたらし、高い割合の完全な(full)AAV粒子(58%)を示す(図4H)。
【0110】
このことから、2つの発現カセットの間で共通して有される連続した同一のヌクレオチドの数が200個を超えない場合には、完全なゲノムを有する粒子の割合が高くなることが確認される。
【0111】
実施例3:RdCVFとRdCVFLとの組合せは相乗効果をもたらす。
【0112】
以下の構築物を産生し、AAV2ベクターに導入した。
【0113】
プロウイルスプラスミドp618及びその要素は、WO2012158757A1として公開された国際特許出願及び文献(33)に記載されている。
【0114】
2xRdCVF:プラスミドp857及びAAV CT39
P857/CT39は、網膜色素変性症(RP)患者において十分な錐体保護を得るために、RdCVFの発現レベルをCT37(RdCVF-スタッファー)と比較して高めるように設計された。
【0115】
RdCVF-RdCVFL:プラスミドp853及びAAV CT35
このベクターは、RdCVFの短いアイソフォーム及び長いアイソフォームを共発現することができる。
しかしながら、その産生において、治療薬としての使用を制限する、異常な不完全なパッケージング事象が起きる。
【0116】
実施例4:ファージラムダスタッファーを置換するための不活性DNAの選択
本発明者らは、十分なサイズを有するAAV構築物を得るために従来使用されているファージラムダスタッファー配列の代わりに、より安全な代替物として使用され得る核酸配列を同定するためのスクリーニングプロセスを開発した。
【0117】
セントロメア、既知遺伝子、偽遺伝子、反復、miRNA標的、及び、複製起点などの望ましくない配列を排除するために、ヒトゲノム全体のスクリーニングを行った。この独創的なスクリーニングプロセスの結果、ヒト第15染色体からの不活性配列である配列番号10が選択された。
【0118】
実施例5:組換え分析
図4Cのウサギポリクローナル抗RdCVF抗体を用いたウェスタンブロット分析は、RdCVF及びRdCVFLの発現を示す。両タンパク質は構築物CT35において検出され、このことは、CT35は相同体組換えが起きないことを示している。
【0119】
参考文献
本出願全体を通して、様々な参考文献が、本発明が関係する技術水準を記載している。これらの参考文献の開示は、参照により本開示に組み込まれる。
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【図面の簡単な説明】
【0120】
図1A図1:本発明に係る好ましい構築物の模式図: 図1Aは、WO2016/185037号に記載の比較例(したがって、本発明に係る構築物ではない)である構築物CT35を示す。図1B図1C及び図1Dは、それぞれ、本発明に係る構築物3(C03)、6(C06)及び11(C11)を示す。
図1B図1:本発明に係る好ましい構築物の模式図: 図1Aは、WO2016/185037号に記載の比較例(したがって、本発明に係る構築物ではない)である構築物CT35を示す。図1B図1C及び図1Dは、それぞれ、本発明に係る構築物3(C03)、6(C06)及び11(C11)を示す。
図1C図1:本発明に係る好ましい構築物の模式図: 図1Aは、WO2016/185037号に記載の比較例(したがって、本発明に係る構築物ではない)である構築物CT35を示す。図1B図1C及び図1Dは、それぞれ、本発明に係る構築物3(C03)、6(C06)及び11(C11)を示す。
図1D図1:本発明に係る好ましい構築物の模式図: 図1Aは、WO2016/185037号に記載の比較例(したがって、本発明に係る構築物ではない)である構築物CT35を示す。図1B図1C及び図1Dは、それぞれ、本発明に係る構築物3(C03)、6(C06)及び11(C11)を示す。
図2図2:変性ゲル電気泳動により解析した、AAVゲノムの一本鎖DNAのサイズ 異なる構築物のAAVゲノムの一本鎖DNAのサイズを、変性条件下でゲル電気泳動によって分析した。 RdCVF及びRdCVFLの両方を発現する構築物3(C03)(7v7.AAV2-CMV/CBAorig-RdCVF-5’_1.7.OPN1L/MW-RdCVFL) RdCVF及びRdCVFLの両方を発現するCT35(AAV2-CMV/CBA-RdCVF-CMV/CBA-RdCVFL)(配列番号15) RdCVFのみを発現するCT37(AAV2-CMV/CBA-RdCVF+スタッファー)(配列番号16)。
図3図3:不活性「スタッファー」DNAの選択プロセスの模式図
図4A図4:パッケージングの比較 図4A:AAV CT35の別の表示。RdCVF及びRdCVFLの両方を発現するこのAAVでは、第1及び第2の発現カセットは、プロモーター[CMV/CBAデルタ390]の直接反復のために、390の連続した同一のヌクレオチドを有する。
図4B図4:パッケージングの比較 図4B:カセット[CMV/CBAデルタ390-RdCVF]の排除、又はカセット[CMV/CBAデルタ390-RdCVFL]との組換えを生じさせる、2つのコピー[CMV/CBAデルタ390]の間の組換えの模式図。
図4C図4:パッケージングの比較 図4C:豚色素上皮の初代細胞におけるCT35(AAV-CMV/CBA-RdCVF CMV/CBA-RdCVFL)の形質導入。ウサギポリクローナル抗RdCVF抗体を用いた、RdCVF及びRdCVFLのウェスタンブロット分析(4)。
図4D図4:パッケージングの比較 図4D:AAV C06の別の表示及び組換えの模式図。このAAVにおいて、第1及び第2の発現カセットは、167の連続した同一のヌクレオチドの直接反復を共通して有する。
図4E図4:パッケージングの比較 図4E:AAV C03の別の表示。
図4F図4:パッケージングの比較 図4F:キャプシド形成したAAV C06、C03、CT35、及びCT37(キャプシドタンパク質プラスDNA)のゲノム完全性解析。
図4G図4:パッケージングの比較 図4G及び図4H:C03及びC06について、完全にキャプシド形成したAAVを含むキャプシド(full)の割合、不完全にキャプシド形成したAAVを含むキャプシド(中間)の割合、及びAAVを含まないキャプシド(empty;DNAなし)の割合を示す表。表4Gは、キャプシドタンパク質及びDNA(AAVゲノム)の両方について得られた検出結果を示す。表4Hは、DNAのみについて得られた検出結果を示す。
図4H図4:パッケージングの比較 図4G及び図4H:C03及びC06について、完全にキャプシド形成したAAVを含むキャプシド(full)の割合、不完全にキャプシド形成したAAVを含むキャプシド(中間)の割合、及びAAVを含まないキャプシド(empty;DNAなし)の割合を示す表。表4Gは、キャプシドタンパク質及びDNA(AAVゲノム)の両方について得られた検出結果を示す。表4Hは、DNAのみについて得られた検出結果を示す。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図4H
【配列表】
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