(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】セルロースカルバマートを生産するための方法
(51)【国際特許分類】
C08B 15/06 20060101AFI20230221BHJP
【FI】
C08B15/06
(21)【出願番号】P 2020563895
(86)(22)【出願日】2019-05-21
(86)【国際出願番号】 FI2019050394
(87)【国際公開番号】W WO2019224429
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-05-06
(32)【優先日】2018-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】520102646
【氏名又は名称】アンドリッツ オサケ ユキチュア
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カントラ、ユッカ
(72)【発明者】
【氏名】ロマルク、ハンヌ
(72)【発明者】
【氏名】バルタ、クヨスティ
(72)【発明者】
【氏名】バンハタロ、カリ
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-521513(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101597336(CN,A)
【文献】欧州特許出願公開第2617708(EP,A1)
【文献】国際公開第2011/154599(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/154600(WO,A2)
【文献】国際公開第2011/154601(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースカルバマート(CCA)の生産における窒素化合物の放出を制御するための方法であって、前記方法では、微結晶性セルロースは、パルプ工場で生産された化学パルプから生産され、前記化学パルプは、高温で酸加水分解されて微結晶性セルロース(MCC)と加水分解物とを形成し、
前記MCCは、尿素と反応してセルロースカルバマートを生産し、それによってアンモニアが放出され、
前記微結晶性セルロースの生産及び前記セルロースカルバマートの生産は、煙道ガスシステムを有する前記パルプ工場に統合され、前記煙道ガスからの二酸化炭素は、放出されたアンモニアと反応して尿素を生産し、これが前記カルバマートの生産において使用される、上記方法。
【請求項2】
二酸化炭素が、石灰窯の煙道ガスから得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カルバマートの生産から放出されたアンモニア又はアンモニア含有廃水が、前記MCCの生産からの加水分解物及び/又は酸性廃水を中和するために使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記CCAの生産からの窒素含有廃水の少なくとも一部が、蒸発プラントに導かれ、乾燥窒素肥料を生産するために濃縮される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記CCAの生産からの窒素含有廃水が、前記パルプ工場の廃水処理プラントに運ばれて、栄養源として使用される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記MCCの生産からの加水分解物又は酸性廃水が、前記CCAの生産からの廃水を中和するために使用される、請求項1~5までのいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維、フィルム、又はスポンジ等などの再生セルロース製品へと更に加工できるセルロースカルバマート(CCA:cellulose carbamate)を生産するための方法に関する。より具体的には、本発明は、CCAの生産及び微結晶性セルロース(MCC:microcrystalline cellulose)の生産の両方の化学パルプ工場の系である、蒸気、水、電気、煙道ガス、廃水処理、及びサイドストリームが、各プロセスの全体的効率を改善するために利用され、CCAを生産する際の窒素化合物の放出が制御される方法で、CCAを、MCCから生産するためのプロセス全体に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースカルバマート(CCA)は、80年以上前に発明されたアルカリ可溶性セルロース誘導体である。アルカリ可溶特性に起因して、それは、再生セルロース製品にとって良い原料である。カルバマート化セルロースはまた、「CC」という略語、「セルロースの尿素誘導体」及び「セルロースアミノメタナート(cellulose aminomethanate)」という名前により文献中で言及される。
【0003】
CCAは、セルロースを、高温で尿素又は尿素ラジカルと反応させることにより製造される。典型的には、尿素が使用され、それは、反応式(1)及び(2)に従ってセルロースと反応する。カルバマート化反応では、尿素は、温度が133℃を越える場合に分解し始め、反応式(1)のように、中間生成物であるイソシアン酸及びアンモニアが形成される。イソシアン酸は更に、カルバマート基をセルロース主鎖に形成すること(2)によって、セルロースのOH基と反応する。
【化1】
【0004】
セルロースカルバマート化の間に形成されるアンモニアガスは、反応式の生成物側の飽和を防止し、且つカルバマート化の停止を防止するために除去される必要がある。
【0005】
高温により、水が蒸発し、それにより形成されたCCAは、物理的に固体形態である。それは、保管且つ輸送できる安定した材料である。これらの特性により、それが、産業上実行可能な生成物となっている。
【0006】
CCAは、クラフトパルプ、前加水分解クラフトパルプ、ソーダAQパルプ、亜硫酸パルプ、中性亜硫酸パルプ、酸性亜硫酸パルプ、又はオルガノソルブパルプなどの全てのタイプの化学セルロースパルプから製造できる。既存のカルバマート技術の一般的な特徴は、溶解グレードのパルプから出発し、DP(重合度)を低減させることによってそれを活性化するために、パルプを前処理することである。通常、DPの低下は、マーセル加工、酵素、放射線、触媒、及び/又は破砕などの機械的な手段により行われる。活性化が、セルロースのマクロファイバー構造の内部への化学的アクセスを向上させ、さらなるプロセスステップを強化するために行われる。
【0007】
米国特許第2,134,825号は、セルロース及び尿素を、アルカリ可溶性の生成物を形成するために高温で反応させるプロセスを開示する。米国特許第4404369号(FI62318)は、尿素が溶解したアンモニア溶液を利用し、セルロース及び尿素を高温で反応させて、アルカリ可溶性の生成物を形成する方法を開示する。国際公開第03099872号は、セルロースを、尿素及びアルカリの混合物を用いて最初に活性化させ、その後に、その液体を圧搾し、反応押出装置を利用することにより、カルバマート化反応を高温で行って、アルカリ可溶性の生成物を形成するプロセスを開示する。国際公開第2003064476号は、高いプロセス一貫性及び処理装置を利用し、セルロースを、尿素及び少量の過酸化物と混合する前に予備粉砕し、混合物を、高温で反応させて、アルカリ可溶性の生成物を形成するCCA生産方法を開示する。独国特許出願公開第4443547号は、第一に、塩酸を用いて、カルバマート化反応前にセルロースを加水分解し、その後、それを尿素と高温で反応させて、アルカリ可溶性の生成物を形成するセルロースカルバマートを調製するためのプロセスを開示する。
【0008】
微結晶性セルロース(MCC)は、薬剤及び食品を含む多くの工業的用途を持つ多目的な生成物である。それは、例えば、塗料、石油採掘、及び化粧品においても使用される。FAO・WHO合同専門委員会(The Food and Agriculture Organization of the United Nations and the World Health Organization Expert Committee on Food Additives)(JECFA)が、MCCの正式な定義1を発表している。
1 http://www.fao.org/fileadmin/user_upload/jecfa_additives/docs/monograph7/additive-280-m7.pdf
【0009】
MCCは、全てのタイプの天然セルロースから製造できる穀粉形状のセルロース生成物である。それは、典型的には、セルロースの酸加水分解を用いることにより製造される。国際公開第2011/154601号は、繊維状セルロース系材料を酸加水分解して、微結晶性セルロースを生産するプロセスを開示する。温度は、少なくとも140℃であり、濃度は、セルロースの乾燥重量に対して少なくとも8%である。酸の量は少なく、セルロースの乾燥重量に対して0.2~2%である。国際公開第2011/154600号は、繊維状セルロース系材料を、酸を用いて高温で加水分解して、微結晶性セルロースを生産するプロセスを開示する。この文献では、その生産は、酸加水分解において使用される化学物質の少なくとも一部が、パルプ工場の統合された化学物質回収プロセスにより生産されるように、パルプ工場の生産に統合される。
【0010】
経済的な視点から、スタンドアロンプラントとしてのCCA及びMCCの両方の生産コストは、製造プロセスを化学パルプ工場に統合する場合よりも高いが、これは、統合する場合にプロセス用役系の全て(蒸気、熱、電気、水)が利用できるからである。また、廃棄物流は、パルプ工場システムで処理できる。スタンドアロンシステムでは、主要なコストは、市販の溶解セルロースの価格である。スタンドアロンの工場は、全てのサイドストリーム及び洗浄液残余を統御し、必要な全てのエネルギーを購入しなければならない。
【0011】
カルバマートセルロース技術が商業的成功を博していない1つの理由は、カルバマート化も行われている今日のビスコース繊維プラントで行われる場合、その生産に必要な投資のために、セルロースを溶解させる価格が原因でコストが高いからである。結局、繊維生産者の視点から見て、カルバマート化セルロースは市販されていない。
【0012】
化学パルプ工場は、ナトリウム及び硫黄という特定の元素のバランスが取れているクローズドプロセスシステムである。塩素及びカリウムのような一部の無機元素は、木材原料と共に工程サイクルに入る。それらは、フライアッシュがプロセスバランスから除去されるときに取り除かれる。クローズドサイクルという理由から、パルプ工場プロセスサイクルにおける、非プロセス元素又は全く新規な元素の存在を防止する又は最小化することが重要である。尿素は、CCAが生産される場合に必要であり、それゆえ、窒素がプロセスバランスへと新たに投入されることとなり、したがって窒素の量を最小化する必要がある。
【0013】
世界の繊維市場の9900万トンの主要なシェア(62%)は、合成紡織繊維として知られている、非再生可能で非生物分解性の供給原料に基づき;非生態学的な綿が24.3%;及び、危険な化学物質CS2(二硫化炭素)を使用することにより生産されるビスコースが6.6%である。
【0014】
ビスコースは、セルロース系再生繊維を生産する最も一般的に使用される方法であり、CS2を使用するビスコースプロセスは、再生繊維の総量の90%以上を占める。イオン液体を用いて生産されるリヨセルなどの製品に使用される他の方法が存在し、これらはより環境に優しいが、それらのコスト及び化学物質回収の困難さが原因で、ニッチな商品のままである。
【0015】
更に、有害な化学物質の使用及び高いコストが原因で、大部分のビスコース産業は、欧州から立ち退いた。世界での主要なビスコース生産者は中国であるが、そこでさえ、その産業は、より環境に優しいビスコース用のソリューションを捜し求めている。
【0016】
CCAは、現在のビスコース繊維生産者の視点から見て、カルバマートプロセスに移行する場合の変化がビスコース工場において小さいため、興味深い代替手段である。最も大きな利点は、もはや有害且つ毒性のCS2化学物質が使用されず、したがって労働衛生の問題の重要性がはるかに低いということである。紡績システムは、完全に開放されていてもよく、有害且つ毒性のCS2ガスが放出されない。別の大きな利点は、ビスコースの凝固速度と比較して沈殿速度が速いため、現在の紡績装置による紡績生産能力がより高いことである。
【0017】
MCCは、その高い純度及び高い反応性のため、CCA生成物のための有利な出発材料である。高い反応性は純度に由来し、この統合の場合には、カルバマート化前のMCCの決して乾燥しない状態に由来する。これらの特徴の成果は、カルバマート化合成において置換度(substitution)が高く、尿素の使用量が少ないことである。
【0018】
既知のプロセスに鑑みて、化学パルプ工場、MCC製造、及び再生セルロース製品用の原材料として使用されるCCAを生産するためのCCA製造のプロセスを含む、全プロセスの概念を作り出す必要性が存在する。有毒物の放出、及び化学パルプ工場の環境のプロセスバランスにおける1つの新しい元素である窒素を制御するための、環境に優しい構成を提供する特有の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0019】
MCCを尿素と高温で反応させることによりCCAを生産するCCAプラントは、化学パルプ工場でのプロセス部門とすることができる。CCAプラントで使用される高圧高温で酸加水分解することによりMCCを生産するMCCプラントも、化学パルプ工場でのプロセス部門とすることができる。このように、MCC及びCCAプラントの両方が、化学パルプ工場に統合される。
【0020】
MCCを尿素と高温で反応させることによりCCAを生産するCCAプラントは、セルロースカルバマートを生産するあらゆる既知の方法で動作することができるが、化学パルプ工場の環境に馴染みのない有機溶媒又は他の化学物質を使用しない方法を使用することが有利である。尿素のみ、又は尿素並びに水酸化ナトリウム及び/若しくは過酸化物を使用するCCA生産方法が、最も適切であるが、これは、化学残留物又は副生成物の全てが化学パルプ工場中で利用できるためである。
【0021】
化学パルプ工場は、セルロースカルバマートを製造するために必要である蒸気、電気、及び水などのプロセス用役を用いるCCAプラントを提供する。国際公開第2011/154600号公報に記載されているような化学パルプ工場に統合されるMCCプラントは、MCC原材料をCCAプラントに提供する。
【0022】
CCAプラントは:
・ CCAプロセスのカルバマート化反応(アンモニア)
・ 生成物の洗浄が必要な場合のCCAプロセスの洗浄(カルバマート化の未反応の尿素及び副生成物)
から廃棄物流を作り出すことがある。
【0023】
本発明は、セルロースカルバマート(CCA)の生産における窒素化合物の放出を制御するための方法を提供し、その方法では、微結晶性セルロースは、パルプ工場で生産された化学パルプから生産され、化学パルプは、高温で酸加水分解されて微結晶性セルロース(MCC)と加水分解物とを形成し、MCCは、尿素と反応してセルロースカルバマートを生産し、それによってアンモニアが放出される。微結晶性セルロースの生産及びセルロースカルバマートの生産は、煙道ガスシステムを有するパルプ工場に統合され、煙道ガスからの二酸化炭素は、放出されたアンモニアと反応して尿素を生産し、これがカルバマートの生産において使用される。
【0024】
セルロースカルバマート化反応で形成されたアンモニアガスは、尿素に戻され、カルバマート化において再度使用して、式(5)及び(6)のように、CO
2を使用することにより、CCAプロセスの化学物質の投入を最小化する。CO
2流は、化学パルプ工場の煙道ガスシステム、特に石灰窯から取ることができ、CCAプラントのカルバマート化反応器へと導かれるか、又は尿素がCCAプロセスでは製造され再使用される別個のプロセスへと導かれる。
【化2】
【0025】
尿素は、アンモニアと二酸化炭素(CO2)との間の反応により生産される。これは、アンモニア及び二酸化炭素が反応してカルバミン酸アンモニウムを形成し、その後これを脱水して尿素にする2つのステップのプロセスである。尿素生産プロセスでは、アンモニア及びCO2がガス状で導入される。両方の成分は、高圧凝縮器中で液化され、高圧反応器まで導かれ、ここで、カルバミン酸アンモニウムは、反応式(5)のように、高温、例えば180~190℃で形成される。この反応は、速く、発熱性である。
【0026】
二酸化炭素の有利な供給源は、石灰泥(CaCO3)を燃やして石灰(CaO)にする石灰窯からの煙道ガスである。石灰窯煙道ガスのCO2の分圧は、石灰窯煙道ガスが、燃料の燃焼からのCO2、更にか焼反応からのCO2を含有するので、パルプ工場での回収ボイラー及び電力ボイラーなどのボイラーの煙道ガスよりも高い。
【0027】
窒素バランスは、必要に応じてさらなる方法を使用することにより更に制御できる。未反応の尿素、カルバマート化反応で形成されたアンモニア、チオ尿素、又はカルバマート化反応からの他の副生成物などの窒素化合物を含有している廃棄物流は、それらが微生物のための栄養源として作用する化学パルプ工場の廃水処理プラント、又はバイオガスが生産される嫌気性消化システムに、完全に又は部分的に導くことができる。別の選択肢は、窒素を含有する廃棄物流を、蒸発プラントヘ完全に又は部分的に導いて、乾燥肥料を生産することである。特に、CCAからの濾液を洗浄する場合は、洗浄液は、有利には、MCCプロセスの最終的な洗浄段階に導かれ、ここから、洗浄されたMCCは、CCA段階に向かう。このプロセスの構成により、CCAプロセスへの尿素の投入量は、未反応残留物を利用することにより最小化できる。
【0028】
廃水又はアンモニアガスなどのCCAプラントからのアルカリ廃棄物流は、MCCプラントへと処理され、
・ MCC反応器からの酸性加水分解物、
・ 洗浄機からの酸性洗浄濾液、
・ 凝縮システムからの酸性凝縮液、又は、
・ 他の酸性プロセス流
を中和するためにそこで使用されてもよい。
【0029】
窒素を含有するこれらの中和された廃棄物流は更に、それらが微生物のための栄養源として作用する化学パルプ工場の廃水処理プラント、又はバイオガスを生産するための嫌気性消化に導くことができる。MCCプラントからの同じ酸性流も、同じ中和及び処理が行われるCCAプラントに導くことができる。
【0030】
セルロースカルバマート化反応で形成されたアンモニアガス(反応式(1))は、反応式(3)及び(4)のように、パルプ工場煙道ガスシステムで利用されて、NOx排出を最小化することができる。アンモニアは、利用される場合、ガス状又は溶解液状であってもよい。
【化3】
【0031】
二酸化炭素の排出は、地球温暖化に対する主要な要因であると考えられている。したがって、パルプ工場の煙道ガスからCO2を捕らえて、それを尿素のための供給原料として利用することが有利である。
【0032】
化学パルプ工場は、MCCが生産されるMCCプラントへの漂白繊維状セルロース系材料を生産する。繊維状セルロース系材料は、軟材又は硬材などの木質植物材料に由来するものであってもよい。繊維状セルロース系化学パルプは、クラフトパルプ、前加水分解クラフトパルプ、ソーダAQパルプ、亜硫酸パルプ、中性亜硫酸パルプ、酸性亜硫酸パルプ、又はオルガノソルブパルプであってもよい。綿、草、バガス、穀類のわら、亜麻、麻、サイザル麻、マニラ麻、又は竹などの非木材のリグノセルロース系プラント材料から得られる繊維状セルロース系材料を使用することも可能である。
【0033】
[CCAの生産の例]
国際公開第2011/154600号及び国際公開第2011/154601号に開示されている方法に従って化学パルプから製造したMCCを、国際公開第2003064476号に開示されている方法に従って、異なる窒素含有レベル(0.6%~1.3%)まで、様々な尿素濃度を使用することによりカルバマート化した。
【0034】
要約すると、漂白針葉樹クラフトパルプを、反応器中で、硫酸(H
2SO
4)を用いて加水分解した。加水分解の環境は、1.5%の酸量、10%のパルプ濃度(pulp consistency)、30分の反応時間、及び160℃の温度であった。生産したMCCを、希釈増粘洗浄を使用して3回洗浄し、最終的に45%の濃度まで遠心分離した。カルバマート化を、45%の乾燥材料含有量を有する湿潤MCCに尿素を投与することにより開始した。尿素の量は、MCCの乾燥含有量に対して4~10%であった。その後、材料を、スクリーンコンパクター(screen compactor)で均質化した。その反応を、保持時間及び温度が3.5時間及び135℃のオーブンで完了させた。最終的なCCAを洗浄し、乾燥させた。生産したセルロースカルバマートの窒素含有量及びDPを、表1に示す。カルバマート基の存在である波数1713cm
-1のピークが、異なる試料おいて、
図1に示すFTIR図に示される。
【表1】
【0035】
本発明は、添付された図面を参照して、より詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】生産したセルロースカルバマートのFTIRスペクトルを示す。1713cm
-1が、セルロース構造中のカルバマート基の存在を表す。
【
図2】両方のプロセスを化学パルプ工場に統合することによるMCCからのCCAの生産の概略図である。
【0037】
図2の数字(行)及び文字は、以下の流れ及びプロセス段階を指す:
A. 化学パルプ工場
B. 微結晶性セルロース(MCC)プラント
C. セルロースカルバマート(CCA)プラント
1. 化学パルプを生産するために必要な原材料、化学物質、及びプロセス用役
2. 化学パルプ、硫酸などの化学物質、水、蒸気、電気
3. 微結晶性セルロース(MCC)、中和のための酸の流れ(加水分解物又は濾液)
4. セルロースカルバマート
5. 尿素
6. 中和又はMCCプラントの最終的な洗浄段階へのアルカリ廃水/蒸気
7. MCCプラントから、廃水処理プラント、又はパルプ工場でバイオガス生産のための嫌気性消化プラントへの、加水分解物、酸性濾液、凝縮液、清浄凝縮液、及び窒素含有中和濾液
8. パルプ工場からCCA生産への蒸気、水、電気、及びCO
2(尿素回収)
9. 廃水処理プラント又は嫌気性消化プラントへの窒素含有廃水、NOx排出を低減させるための煙道ガスシステムへのアンモニア
10. 必要に応じて、新たな酸、典型的には硫酸
【0038】
木材チップなどの原材料、及び化学物質、典型的には蒸解化学物質、並びにプロセス用役を、化学パルプ、典型的にはクラフトパルプがそれ自体公知の手法で生産される化学パルプ工場Aに導入する(行1)。
【0039】
微結晶性セルロース(MCC)生産用のプラントを、パルプ工場に統合する。化学パルプ(行2)、典型的には漂白クラフトパルプを、MCCプラントに導き、ここで、高温での酸性条件下で加水分解する。加水分解に必要な酸、典型的には硫酸を、パルプ生産のガスから回収した硫黄化合物を使用することにより生産できる。したがって、新たな硫酸の必要性を、低減させることができる。加水分解で生産された微結晶性セルロースを洗浄し、酸性加水分解物をMCCから除去する。
【0040】
セルロースカルバマート(CCA)生産用のプラントを、MCCプラント及びパルプ工場に統合する。CCAを、高温でMCCを尿素と反応させることにより生産する。MCCの乾燥物質含有量は、約40~70%であり、それを、(行5からの)尿素と効果的に混合する。その後、最終的なカルバマート化反応を、130~160℃の温度で、蒸気加熱混合反応器で行った。アンモニアが、反応で生成される。ごく一部の尿素は反応せず、洗浄によりCCA生成物から除去することができる。CCA生成物を冷却し、洗浄し、乾燥させ、その後、さらなる処理へと導く(行4)。
【0041】
カルバマート化プロセスから放出されるアンモニアを、蒸気を用いて反応器から洗い除き、それを使用して尿素を生産し、カルバマート化プロセスに再利用する。行5を介して外部供給源から供給される尿素の量は、内部で尿素を生産することにより低減させることができる。これを、パルプ工場からの煙道ガスの二酸化炭素とアンモニアを反応させることにより実施する。二酸化炭素のための有利な供給源は、石灰泥(CaCO3)を燃やして石灰(CaO)にする石灰窯からの煙道ガスである。尿素再生プラントは、好ましくは、CCAプラントの一部である。
【0042】
二酸化炭素は、好ましくは、煙道ガスから取り込まれる。これは、モノエタノールアミン(MEA)吸収法及び圧力スイング吸着(PSA)法などの慣例の周知の方法を使用することにより実施できる。
【0043】
尿素の生産は、アンモニア及び二酸化炭素が反応してカルバミン酸アンモニウムを形成し、その後脱水して尿素にする2つのステップのプロセスである。アンモニア及びCO2を、ガス状で導入する。両方の成分を、高圧凝縮器中で液化し、高圧反応器まで導き、ここで、反応式(5)のように、カルバミン酸アンモニウムを高温、例えば180~190℃で形成する。この反応は、速く、発熱性である。第2の反応(6)は吸熱性であり、完了には至らない。尿素及びカルバミン酸アンモニウムを含む溶液が得られる。溶液中に存在するカルバミン酸アンモニウムを、回収ユニットでCO2及びNH3に分解し、尿素合成反応器へと再利用する。尿素プロセス溶液を、カルバマート化反応器へと導く。
【0044】
未反応の尿素などの窒素化合物を含む廃棄物流(行9)を、完全に又は部分的に、化学パルプ工場の廃水処理プラントヘと導くことができる。これらの廃棄物流を、任意選択的に又は代替的に蒸発プラントヘと導き、乾燥肥料を生産できる。
【0045】
廃水などのCCAプラントからのアルカリ廃棄物流(行6)を、MCCプラントへと処理され、
・ MCC反応器からの酸性加水分解物、
・ 洗浄機からの酸性洗浄濾液、
・ 凝縮システムからの酸性凝縮液、又は、
・ 他の酸性プロセス流、
を中和するためにそこで使用してもよい。
【0046】
窒素を含有するこれらの中和された廃棄物流(行7)を更に、それらが微生物のための栄養源として作用する化学パルプ工場の廃水処理プラント、又はバイオガスを生産するための嫌気性消化に導くことができる。MCCプラントからの同じ酸性流(行3)も、同じ中和及び処理が行われるCCAプラントに導くことができる。
【0047】
新規な方法は、利用可能なアンモニア及び二酸化炭素を利用し、そうして、統合されたCCA、MCCプラント及びパルプ工場からのそれらの排出を制御する効率的な手法を提供する。