(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】電池制御装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20230221BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H02J7/00 Y
H02J7/00 P
(21)【出願番号】P 2020569416
(86)(22)【出願日】2019-12-04
(86)【国際出願番号】 JP2019047426
(87)【国際公開番号】W WO2020158182
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-07-28
(31)【優先権主張番号】P 2019015907
(32)【優先日】2019-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505083999
【氏名又は名称】ビークルエナジージャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中尾 亮平
(72)【発明者】
【氏名】大川 圭一朗
(72)【発明者】
【氏名】有島 康夫
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 寛文
【審査官】山本 香奈絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-188100(JP,A)
【文献】国際公開第2016/159086(WO,A1)
【文献】特開2017-107763(JP,A)
【文献】特開2013-243869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の電圧に基づき、前記二次電池の上限電圧を推定する電池制御装置であって、
前記二次電池の電圧の時系列データに基づいて前記二次電池の電圧履歴を演算し、前記電圧履歴に基づいて前記上限電圧を演算する上限電圧演算部を備え
、
前記上限電圧演算部は、前記時系列データを所定の時間幅で平均化することにより、前記電圧履歴を演算する電池制御装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の電池制御装置において、
前記上限電圧演算部は、前記時系列データにおける前記所定の時間幅に対応する前記二次電池の電圧の単純移動平均、または前記電圧を時定数に応じて重み付け平均した指数移動平均を、前記電圧履歴として演算する電池制御装置。
【請求項3】
請求項
1または
2に記載の電池制御装置において、
前記上限電圧演算部は、時間幅が異なる複数の時間窓について前記電圧履歴をそれぞれ演算することで複数の電圧履歴を演算し、前記複数の電圧履歴に基づいて演算された複数の上限電圧のうちで最も小さい上限電圧を、前記二次電池の上限電圧として設定する電池制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載の電池制御装置において、
前記上限電圧演算部は、前記電圧履歴および前記二次電池の温度に基づいて前記上限電圧を決定する電池制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電池制御装置において、
前記上限電圧演算部は、前記電圧履歴および前記二次電池の電流に基づいて前記上限電圧を決定する電池制御装置。
【請求項6】
請求項
2に記載の電池制御装置において、
前記上限電圧演算部は、前記二次電池の電流もしくは電圧の何れか一方、または両方に基づき、前記二次電池の電圧に対する移動平均への反映度合いを調整する重み係数を決定し、決定した重み係数に基づき、前記電圧の単純移動平均もしくは指数移動平均を演算する電池制御装置。
【請求項7】
請求項
6に記載の電池制御装置において、
前記電圧に対する移動平均への反映度合いを調整する重み係数は、前記二次電池に流れる充電電流もしくは電圧のうち、1つもしくは両方が高ければ高いほど、前記電圧に対する移動平均への反映度合いを大きくする電池制御装置。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の電池制御装置において、
前記二次電池の充放電が停止した時点の前記二次電池の電圧と停止時間経過後の充放電再開時における前記二次電池の電圧のうち大きい方の電圧値を用いて、前記二次電池の停止時間経過後の充放電再開時点における前記電圧履歴の初期値を演算する電池制御装置。
【請求項9】
請求項
8に記載の電池制御装置において、
前記二次電池の停止時間が、予め定めた時間幅よりも十分長い場合、前記停止時間経過後の充放電再開時における前記二次電池の電圧を採用して、前記二次電池の停止時間経過後の充放電再開時点における前記電圧履歴の初期値を演算する電池制御装置。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか一項に記載の電池制御装置において、
前記上限電圧演算部が演算する上限電圧に基づいて、前記二次電池の充電可能な最大電流または充電可能な最大電力を演算する電池制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、ハイブリッド自動車(HEV)等に搭載される電池システムは、一般に、直列もしくは並列に接続された複数の二次電池と、各種電気部品から構成される。電気部品には、電池と負荷との電気的な接続のオンオフを制御するためのリレーや、電池の電流や電圧を測定するためのセンサ類、電池の充放電制御を行う電池制御装置などが含まれる。
【0003】
電池制御装置は、電池を適切な範囲で使用するために、電池の電圧に対する制限値(上限電圧)を設定し、この上限電圧の範囲内で電池の充放電制御を行う。これにより、電池の過充電を防止して、電池の劣化を抑制している。
【0004】
一般的に二次電池として利用されることが多いリチウムイオン電池では、特に低温時において、負極の電位(リチウム金属を基準とする電位)が低い場合、つまり電池電圧が高い場合に、負極表面にリチウム金属が析出する可能性がある。リチウム金属の析出により、充放電に用いるはずだったリチウムイオン量が減少するため、電池の充放電可能な容量が減少する。さらには、負極でリチウム金属の析出が進むと、リチウム金属がつらら状に成長して正極側と接触し、最悪の場合、内部短絡を起こす可能性がある。このため、電池制御装置では、適切に電池電圧を制限してリチウム金属の析出を防止できるように、上限電圧を設定する必要がある。
【0005】
電池の上限電圧の制御方法に関して、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1では、電池の入出力電流に基づいて負極電位差を計算し、計算した負極電位差を用いて電池の許容上限電圧を設定することで、リチウムイオン二次電池におけるリチウム金属の析出を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電池制御装置が電池に対して設定すべき上限電圧は、電池の使用状態に応じて様々に変化する。特に、リチウムイオン電池においてリチウム金属の析出を効果的に抑制しつつ、電池の充電性能を最大限に発揮できる上限電圧を設定するためには、電池の電圧履歴、すなわち現在までに電池がどのような電圧で使用されていたかが重要な要素となる。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、上限電圧の設定に際して電池の入出力電流は考慮しているが、電圧履歴については未考慮であった。このため、二次電池の劣化を効果的に抑制しつつ、二次電池の充電性能を最大限に引き出すことが可能な上限電圧を設定することができない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による電池制御装置は、二次電池の電圧に基づき、前記二次電池の上限電圧を推定するものであって、前記二次電池の電圧の時系列データに基づいて前記二次電池の電圧履歴を演算し、前記電圧履歴に基づいて前記上限電圧を演算する上限電圧演算部を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、二次電池の劣化を効果的に抑制しつつ、二次電池の充電性能を最大限に引き出すために、適切な上限電圧を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電池システムとその周辺の構成を示す図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る組電池制御部の機能構成を示す図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係る上限電圧演算部の制御ブロック図である。
【
図6】本発明の第1の実施形態に係るサイクル試験結果の例を示す図である。
【
図7】本発明の第1の実施形態に係る上限電圧マップの概要を示す図である。
【
図8】電池の電圧挙動を再現する等価回路モデルを示す図である。
【
図9】本発明を適用して電池の充電可能電力を演算することの効果を説明する図である。
【
図10】本発明の第2の実施形態に係る組電池制御部の機能構成を示す図である。
【
図11】本発明の第2の実施形態に係る上限電圧演算部の制御ブロック図である。
【
図12】本発明の第2の実施形態に係るサイクル試験結果の例を示す図である。
【
図13】本発明の第2の実施形態に係る上限電圧マップの概要を示す図である。
【
図14】本発明の第3の実施形態に係る組電池制御部の機能構成を示す図である。
【
図15】本発明の第3の実施形態に係る上限電圧演算部の制御ブロック図である。
【
図16】本発明の第3の実施形態に係るサイクル試験結果の例を示す図である。
【
図17】本発明の第3の実施形態に係る上限電圧マップの概要を示す図である。
【
図18】本発明の第4の実施形態に係る上限電圧演算部の制御ブロック図である。
【
図19】本発明の第4の実施形態に係る重み係数マップの概要を示す図である。
【
図20】本発明の第5の実施形態に係る組電池制御部の機能構成を示す図である。
【
図21】本発明の第5の実施形態に係る上限電圧マップの概要を示す図である。
【
図22】車両休止期間中の電圧の挙動を示す例を示す図である。
【
図23】本発明の第5の実施形態に係る休止中の電圧値の考え方を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の実施形態では、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)の電源を構成する電池システムに対して本発明を適用した場合を例に挙げて説明する。ただし、以下に説明する実施形態の構成はこれに限らず、ハイブリッド自動車(HEV)、電気自動車(EV)などの乗用車や、ハイブリッド鉄道車両といった産業用車両の電源を構成する蓄電装置の蓄電器制御回路などにも適用できる。
【0012】
また、以下の実施形態では、リチウムイオン電池を採用した場合を例に挙げて説明するが、充放電可能な二次電池であれば、他にもニッケル水素電池、鉛電池、電気二重層キャパシタ、ハイブリッドキャパシタなどを用いることもできる。さらに、以下の実施形態では複数の単電池を直列に接続して組電池を構成しているが、複数の単電池を並列接続したものをさらに複数個直列に接続して組電池を構成してもよいし、直列接続した複数の単電池をさらに複数個並列に接続して組電池を構成してもよい。
【0013】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の一実施形態に係る電池システム100とその周辺の構成を示す図である。電池システム100は、リレー300,310を介してインバータ400に接続される。電池システム100は、組電池110、単電池管理部120、電流検知部130、電圧検知部140、組電池制御部150、記憶部180を備える。
【0014】
組電池110は、複数の単電池111から構成される。単電池管理部120は、単電池111の状態を監視する。電流検知部130は、電池システム100に流れる電流を検知する。電圧検知部140は、組電池110の総電圧を検知する。組電池制御部150は、組電池110の状態を検知し、状態の管理等も行う。
【0015】
組電池110は、電気エネルギーの蓄積および放出(直流電力の充放電)が可能な複数の単電池111を電気的に直列に接続して構成されている。各単電池111には、例えば出力電圧が3.0~4.2V(平均出力電圧:3.6V)のリチウムイオン電池が用いられる。なお、これ以外の電圧仕様のものでも構わない。組電池110を構成する単電池111は、状態の管理・制御を実施する上で、所定の単位数にグループ分けされている。グループ分けされた単電池111は、電気的に直列に接続され、単電池群112a、112bを構成している。単電池群112を構成する単電池111の個数は、全ての単電池群112において同数でもよいし、単電池群112毎に単電池111の個数が異なっていてもよい。
【0016】
単電池管理部120は、組電池110を構成する単電池111の状態を監視する。単電池管理部120は、単電池群112毎に設けられた単電池制御部121を備える。
図1では、単電池群112aと112bに対応して、単電池制御部121aと121bが設けられている。単電池制御部121は、単電池群112を構成する単電池111の状態を監視および制御する。
【0017】
本実施形態では、説明を簡略化するために、4個の単電池111を電気的に直列接続して単電池群112aと112bを構成し、単電池群112aと112bをさらに電気的に直列接続して合計8個の単電池111を備える組電池110とした。
【0018】
組電池制御部150には、単電池管理部120から出力される単電池111の電池電圧や温度の計測値、電流検知部130からの電流値、電圧検知部140から出力される組電池110の総電圧値、記憶部180に格納された単電池111の電池特性情報などが入力される。また、単電池管理部120は、単電池111が過充電もしくは過放電であるかの診断を行う機能や、単電池管理部120に通信エラーなどが発生した場合に異常信号を出力する機能を有しており、それらの診断結果や異常信号も組電池制御部150に入力される。さらに、上位の制御装置である車両制御部200からも信号が入力される。
【0019】
組電池制御部150は、入力された情報、および記憶部180に予め記憶されている電流制限値や単電池111の電池特性に基づいて、組電池110の充放電を適切に制御するための演算を行う。例えば、各単電池111に対する充放電電力の制限値の演算や、各単電池111の充電状態(SOC:State Of Charge)および劣化状態(SOHR:State Of Health based on Resistance)の演算や、各単電池111の電圧均等化制御を行うための演算などを実行する。組電池制御部150は、これらの演算結果や、その演算結果に基づく指令を、単電池管理部120や車両制御部200に出力する。
【0020】
記憶部180は、組電池110、単電池111、および単電池群112の電池特性に関する情報を格納する。なお、本実施形態では、記憶部180は組電池制御部150または単電池管理部120の外部に設置されている構成としたが、組電池制御部150または単電池管理部120が記憶部を備える構成とし、これに上記情報を格納してもよい。
【0021】
組電池制御部150と単電池管理部120は、フォトカプラに代表される絶縁素子170および信号通信手段160を介して信号を送受信する。絶縁素子170を設けるのは、組電池制御部150と単電池管理部120は、動作電源が異なるためである。すなわち、単電池管理部120は、組電池110から電力をうけて動作するのに対して、組電池制御部150は、車載補機用のバッテリ(例えば14V系バッテリ)を電源として用いている。絶縁素子170は、単電池管理部120を構成する回路基板に実装してもよいし、組電池制御部150を構成する回路基板に実装してもよい。システム構成によっては、絶縁素子170を省略することもできる。
【0022】
組電池制御部150と、単電池管理部120を構成する単電池制御部121aおよび121bとの間の通信手段について説明する。単電池制御部121aおよび121bは、それぞれが監視する単電池群112aおよび112bの電位の高い順にしたがって直列に接続されている。組電池制御部150が単電池管理部120に送信した信号は、絶縁素子170および信号通信手段160を介して単電池制御部121aに入力される。単電池制御部121aの出力は信号通信手段160を介して単電池制御部121bに入力され、最下位の単電池制御部121bの出力は絶縁素子170および信号通信手段160を介して組電池制御部150へと伝送される。本実施形態では、単電池制御部121aと単電池制御部121bの間は絶縁素子170を介していないが、絶縁素子170を介して信号を送受信することもできる。
【0023】
車両制御部200は、組電池制御部150が送信する情報を用いて、リレー300と310を介して電池システム100と接続されるインバータ400を制御する。車両走行中には、電池システム100はインバータ400と接続され、組電池110が蓄えているエネルギーを用いて、モータジェネレータ410を駆動する。
【0024】
電池システム100を搭載した車両システムが始動して走行する場合には、車両制御部200の管理のもと、電池システム100はインバータ400に接続され、組電池110が蓄えているエネルギーを用いてモータジェネレータ410を駆動し、回生時はモータジェネレータ410の発電電力により組電池110が充電される。充電によって組電池110に蓄えられたエネルギーは、次回の車両走行時に利用されるか、車両内外の電装品等を動作させるためにも利用される。
【0025】
図2は、単電池制御部121の回路構成を示す図である。単電池制御部121は、電圧検出回路122、制御回路123、信号入出力回路124、温度検知部125を備える。電圧検出回路122は、各単電池111の端子間電圧を測定する。制御回路123は、電圧検出回路122および温度検知部125から測定結果を受け取り、信号入出力回路124を介して組電池制御部150に送信する。なお、単電池制御部121に一般的に実装される、自己放電や消費電流ばらつき等に伴い発生する単電池111間の電圧やSOCばらつきを均等化する回路構成は、周知のものであると判断して記載を省略した。
【0026】
図2における単電池制御部121が備える温度検知部125は、単電池群112の温度を測定する機能を有する。温度検知部125は、単電池群112全体として1つの温度を測定し、単電池群112を構成する単電池111の温度代表値としてその温度を取り扱う。温度検知部125が測定した温度は、単電池111、単電池群112、または組電池110の状態を検知するための各種演算に用いられる。
図2はこれを前提とするため、単電池制御部121に1つの温度検知部125を設けた。単電池111毎に温度検知部125を設けて単電池111毎に温度を測定し、単電池111毎の温度に基づいて各種演算を実行することもできるが、この場合は温度検知部125の数が多くなる分、単電池制御部121の構成が複雑となる。
【0027】
図2では、簡易的に温度検知部125を示した。実際は温度測定対象に温度センサが設置され、設置した温度センサが温度情報を電圧として出力し、これを測定した結果が制御回路123を介して信号入出力回路124に送信され、信号入出力回路124が単電池制御部121の外に測定結果を出力する。この一連の流れを実現する機能が単電池制御部121に温度検知部125として実装され、温度情報(電圧)の測定には電圧検出回路122を用いることもできる。
【0028】
図3は、本発明の第1の実施形態に係る組電池制御部150の機能構成を示す図である。組電池制御部150は、車両走行中に検出された各単電池111の電流値および電圧値をもとに、組電池110における各単電池111の状態や各単電池111に入出力可能な電力を決定する部分であり、その1つの機能構成要素として、各単電池111の充電電力を制限するための充電可能電力(充電電力制限値)の演算を行う機能を有する。
図3は、この充電可能電力の演算に関する組電池制御部150の機能構成を示している。これは、本発明の一実施形態に係る電池制御装置に相当する機能を担う部分である。なお、組電池制御部150は充電可能電力の演算機能以外にも、組電池110の制御に必要な各種機能、例えば各単電池111の放電制御を行う機能や、各単電池111の電圧均等化制御を行う機能などを有しているが、これらは周知の機能であり、また本発明とは直接関係がないため、以下では詳細な説明を省略する。
【0029】
図3に示すように、組電池制御部150は、その機能として、電池状態検知部151、上限電圧演算部152、および充電可能電力演算部153の各機能ブロックを有する。組電池制御部150は、これらの機能ブロックにより、電流検知部130が検知した組電池110の電流や、電圧検知部140が検知した組電池110の電圧および温度に基づいて、各単電池111の充電可能電力を演算する。
【0030】
なお、上記では組電池制御部150が組電池110の充電可能電力を演算することとして説明したが、複数の単電池111をまとめて充電可能電力を算出してもよい。例えば、単電池群112a,112bごとに算出したり、単電池制御部120が検知する単電池111毎の電圧をもとに算出したりすることができる。これらの場合でも、組電池110と同様の処理で充電可能電力を算出できる。また、各単電池111の充電可能電力は、同様の処理によって算出できる。そのため以下では、充電可能電力の算出対象を単に「電池」と称して、組電池制御部150における充電可能電力の演算機能を説明する。
【0031】
電池状態検知部151は、組電池制御部150に入力される電池の電流、電圧、温度の情報をもとに、電池のSOCやSOHRを演算する。なお、SOCやSOHRの演算方法については、公知であるものとして説明を省略する。
【0032】
上限電圧演算部152は、電池の電圧の時系列データを入力とし、これに基づいて電池の電圧履歴を演算する。そして、電池の電圧履歴に基づいて、電池の充電時の上限電圧を演算して出力する。なお、上限電圧演算部152による上限電圧の具体的な演算方法については後述する。
【0033】
充電可能電力演算部153は、電池状態検知部151が演算した電池のSOCおよびSOHRと、組電池制御部150に入力される電池の温度と、上限電圧演算部152が演算した電池の上限電圧をもとに、電池の充電可能電力を演算して出力する。なお、充電可能電力の演算方法については後述する。
【0034】
続いて、上限電圧演算部152による上限電圧の具体的な演算方法について、
図4~
図7を参照して説明する。
【0035】
図4は、本発明の第1の実施形態に係る上限電圧演算部152の制御ブロック図である。本実施形態において、上限電圧演算部152は、電圧移動平均演算部1521、上限電圧推定部1522、および上限電圧選択部1523から構成される。
【0036】
電圧移動平均演算部1521は、電池の電圧の時系列データを入力とし、この時系列データを所定の時間幅で平均化することにより、電池の電圧履歴としての電圧移動平均値を演算する。ここでは、1つの時間窓、または時間幅が異なる複数の時間窓を設定し、これらの時間窓ごとに時系列データの移動平均値を算出することで、各時間幅に対応する電圧移動平均値を演算する。そして、得られた各電圧移動平均値の演算結果を上限電圧推定部1522へ出力する。なお、
図4の例では、n個(nは任意の自然数)の時間窓に対して電圧移動平均値をそれぞれ算出し、得られたn個の電圧移動平均値を上限電圧推定部1522へ出力している。
【0037】
上限電圧推定部1522は、電圧移動平均演算部1521が演算した電圧移動平均値に基づいて、電池の上限電圧を推定する。ここでは、電圧移動平均演算部1521が演算したn個の電圧移動平均値に対してそれぞれ上限電圧を推定することで、n個の上限電圧を推定する。
【0038】
上限電圧選択部1523は、上限電圧推定部1522が時間幅ごとに推定したn個の上限電圧の中から、最終的に制限すべき上限電圧を選択する。ここでは、例えばn個の上限電圧のうちで最も小さい上限電圧を、最終的な上限電圧として選択する。
【0039】
図5は、電圧移動平均演算部1521における電圧移動平均値の演算方法の説明図である。
図5では、横軸を時間、縦軸を電圧として、電圧移動平均演算部1521に入力される電池電圧の時系列データの一例を電圧波形により示している。
【0040】
電圧移動平均演算部1521は、
図5に示すように、現在の時刻T1を基準に、この時刻T1までに得られた電池電圧の時系列データに対して、時間幅Twが互いに異なるn個の時間窓を設定する。そして、設定したn個の時間窓にそれぞれ含まれる時系列データの各電圧値を時間窓内で平均化することで、時間窓ごとに電圧履歴を演算する。
【0041】
具体的には、電圧移動平均演算部1521は、例えば時系列データが表す各電圧値の単純移動平均を時間窓ごとに演算することで、時系列データを平均化して電圧履歴を演算する。例えば、サンプリング周期Tsを0.1秒として検出された電池電圧の時系列データの場合、この時系列データには、時間幅Twが2秒の時間窓内には20点、時間幅Twが20秒の時間窓内には200点、時間幅Twが60秒の時間窓内には600点の電圧値のデータがそれぞれ含まれている。そのため、これらの時間窓に対応する電圧履歴としての単純移動平均は、以下の式(1)によりそれぞれ算出することができる。なお、式(1)においてVkは、時系列データにおいて当該時間窓内でk番目にサンプリングされた電圧値のデータを表している。
【0042】
【0043】
あるいは、電圧移動平均演算部1521は、所定の時定数による一次遅れフィルタを適用し、時系列データに含まれる各電圧値データの指数移動平均を時間窓ごとに演算することで、時系列データを平均化して電圧履歴を演算してもよい。例えば、上記のようにサンプリング周期Tsを0.1秒として検出された電池電圧の時系列データの場合、時間幅Twが2秒、20秒、60秒の各時間窓(フィルタ時定数)に対応する電圧履歴として、これらのフィルタ時定数に応じて重み付け平均した指数移動平均は、以下の式(2)によりそれぞれ算出することができる。なお、式(2)において、Vは現在の電圧値、すなわち時系列データにおける最新の電圧値のデータを表している。また、Vave_zは時間幅Twごとに算出された前回の電圧履歴、すなわち前回の処理時においてフィルタ時定数ごとの重み付け平均により演算された指数移動平均の値を表している。
【0044】
【0045】
電圧移動平均演算部1521は、以上説明したような処理により、電池の電圧の時系列データに対して1つまたは複数の時間窓を設定し、各時間窓に対応する電圧履歴としての電圧移動平均値を演算することができる。なお、上記では電圧移動平均値として単純移動平均および指数移動平均を演算する例を説明したが、これ以外の任意の移動平均を演算してもよい。
【0046】
上限電圧推定部1522は、予め記憶部180に格納しておいた上限電圧マップを用いて、電圧移動平均演算部1521が演算した時間幅ごとの電圧移動平均値に対応する上限電圧を推定する。本実施形態において用いられる上限電圧マップは、予め時間幅ごとに設定されている。例えば、上記の式(1)で演算された単純移動平均、または式(2)で演算された指数移動平均に対して、時間幅Twが2秒、20秒、60秒の各時間窓に対応する上限電圧マップが予め記憶部180に格納されている。上限電圧推定部1522は、これらの上限電圧マップを用いることで、時間幅ごとの電圧移動平均値に対応する上限電圧をそれぞれ推定することができる。
【0047】
上限電圧推定部1522の処理は、以下の式(3)により表される。なお、式(3)において、2secVmaxMap、20secVmaxMap、60secVmaxMapは、時間幅Twが2秒、20秒、60秒の時間窓にそれぞれ対応する上限電圧マップを表している。
【0048】
【0049】
なお、式(3)では式(1)、(2)でそれぞれ演算された単純移動平均や指数移動平均に対する上限電圧の例を説明したが、他の移動平均についても、同様にして時間幅ごとに上限電圧を推定することができる。
【0050】
上限電圧選択部1523は、上限電圧推定部1522が式(3)により推定した時間幅ごとの上限電圧から、電池の制御に活用する上限電圧を選択する。本実施例では、例えば以下の式(4)により、複数の上限電圧の中から最も小さい値を、最終的な上限電圧値として選択する。
【0051】
【0052】
次に、記憶部180に格納されて上限電圧推定部1522により参照される上限電圧マップについて説明する。本実施形態では、上限電圧マップは、電池を用いて予め実施された充放電試験の結果に基づいて作成される。例えば、充電時に到達する電池電圧や、電圧滞在時間(電池電圧がある電圧に滞在している時間)を様々に変化させた充放電サイクルを想定したサイクル試験を、電池の充放電試験として実施する。このサイクル試験の結果をもとに、上限電圧マップを構築する。
【0053】
なお、サイクル試験結果から上限電圧マップを構築する際には、リチウムイオン電池においてリチウム金属の析出が生じるかどうかを判断する必要がある。このときの指標としては、例えば、電池の容量維持率や抵抗上昇率を用いることができる。容量維持率は、新品時の電池容量に対する現在(劣化後)の電池容量の比率であり、劣化に伴って減少する。一方で、抵抗上昇率は、新品時の電池の内部抵抗に対する現在(劣化後)の内部抵抗の比率であり、劣化に伴って増加する。
【0054】
図6は、本発明の第1の実施形態に係るサイクル試験結果の例を示す図である。
図6では、充電時の電圧と電圧滞在時間をそれぞれ変化させて電池の充電と放電を繰り返すサイクル試験を実施したときの結果を示している。
図6(a)は、電圧滞在時間が長い場合の例を示し、
図6(b)は、電圧滞在時間が中程度の場合の例を示し、
図6(c)は、電圧滞在時間が短い場合の例を示している。これらの図では、横軸にサイクル数、縦軸に容量維持率をそれぞれプロットすることで、サイクル数と電池の容量維持率との関係を示している。
【0055】
図6(a)~(c)のいずれにおいても、電圧が低い場合にはサイクル数に対する容量の変化がほとんど生じないが、電圧が中程度の場合や高い場合には、サイクル数が多くなると容量が大きく低下する傾向があることが分かる。また、このときの容量の低下幅は、電圧滞在時間が長いほど大きいことが分かる。このように容量が大きく低下する条件では、いわゆる通常の劣化ではなく、電極でのリチウム金属の析出に伴う容量の劣化が生じていると推測される。このため、上限電圧マップでは、当該試験条件での電池使用が回避されるような上限電圧を設定することが好ましい。
【0056】
なお、リチウム金属の析出の有無に関する評価は、上記のような容量維持率による方法のみではなく、他の方法を用いて行ってもよい。例えば、前述のように容量維持率の代わりに抵抗上昇率で判断してもよい。また、電池を解体して、電極表面にリチウム金属が析出しているかどうかをNMR(Nuclear Magnetic Resonance)などの分析方法により評価してもよい。このような試験結果をもとに、リチウム金属が析出しない電圧値を電圧滞在時間ごとに抽出し、上限電圧マップを作成する。例えば、
図6(a)に示す電圧滞在時間が長い場合は低い電圧値を、
図6(b)に示す電圧滞在時間が中程度の場合は中程度の電圧値を、
図6(c)に示す電圧滞在時間が短い場合は高い電圧値を、上限電圧マップにおいてそれぞれ設定する。
【0057】
図7は、本発明の第1の実施形態に係る上限電圧マップの概要を示す図である。
図7では、
図6のサイクル試験結果から作成されて記憶部180に搭載される上限電圧マップの概要を示している。
図7(a)は、フィルタ時定数(時間窓)が比較的長い場合の上限電圧マップの例であり、
図7(b)は、フィルタ時定数(時間窓)が比較的長い場合の上限電圧マップの例である。これらの図に示すように、電圧移動平均値が小さい場合は上限電圧に高い値を設定する。電圧移動平均値が高くなるにつれて上限電圧が小さな値となるように、上限電圧マップを設定する。電圧移動平均値がある閾値Vth1を超えたところから、上限電圧を下げていき、最終的に別の閾値Vth2に到達したところで、各フィルタ時定数(時間窓)における上限電圧となるように上限電圧を変化させる。
【0058】
次に、組電池制御部150を構成する充電可能電力演算部153について、
図8に基づき説明する。
【0059】
図8は、電池の電圧挙動を再現する等価回路モデルを示す図である。
図8において、OCVは電池の開回路電圧を、Roは電池の部材等のオーミックな抵抗を、Rpは電気化学的な反応やリチウムイオンの拡散に伴う損失分を示す内部抵抗(分極抵抗)を、τは分極の時定数を、Vpは分極電圧をそれぞれ示している。これらの等価回路パラメータは、SOCや温度に応じて、予め実験やシミュレーションにより抽出しておき、記憶部180に格納しておく。本実施形態では、充電可能電力演算部153は、
図8の等価回路モデルを想定して、充電可能電力を演算する構成としている。
【0060】
充電可能電力演算部153は、上限電圧演算部152が決定した上限電圧と、電池状態検知部151が演算した充電状態(SOC)および内部抵抗の上昇率(SOHR)と、温度検知部125が検出した電池温度とを入力として、組電池110の充電可能電力を演算して出力する。ここで、充電可能電力は、充電時に電池に流すことができる充電可能電流と、充電可能電流が通電したときの電池の電圧との積によって演算される。充電可能電流は、電池の電圧が上限電圧に至るまでに流すことができる電流値と、電池システム100を構成する構成部材(リレー、ヒューズなど)によって決まる電流制限値とのうち、小さい方の電流値として算出できる。
【0061】
電池の電圧が上限電圧に至るまでに流すことができる電流値は、
図8の等価回路モデルにて算出される電池電圧Vが、式(4)で算出される上限電圧値Vmaxと等しいときの電流値として、以下の式(5)により算出することができる。
【0062】
【0063】
以下の式(6)により、上記の式(5)で算出される電流値Ichgと、電池システム100の構成部材等によって決まる電流制限値Ilimitとのうち、いずれか小さい方を充電可能電流Imax,chgとして選択する。なお、電流制限値Ilimitは予め定めた値であってもよいし、電池の温度等に応じて変化させてもよい。
【0064】
【0065】
上記の式(6)で算出される充電可能電流Imax,chgから、以下の式(7)により充電可能電力が演算される。式(7)において、Nは組電池110を構成する単電池111の数を示している。また、式(7)において右辺のOCV(SOC,T)以降の項は、充電可能電流を通電したときの電池電圧を演算する式に相当する。これは、
図8に示した電池の等価回路モデルにおいて、充電可能電流Imax,chgが通電したときの電池電圧を表している。
【0066】
【0067】
一般に、常温以上では、電池の内部抵抗が小さいため、前述の式(5)に基づき算出される電流値Ichgは非常に大きな値となる。その結果、式(6)では、電池システム100の構成部材などから決まる電流制限値Ilimitが充電可能電流Imax,chgとして採用されることが多い。一方、電池の内部抵抗が大きくなる低温や劣化後においては、電流値Ichgが電流制限値Ilimitを下回るようになる。そのため、式(6)では、電流値Ichgが充電可能電流Imax,chgとして採用されることが多くなり、その結果、充電可能電流や充電可能電力は、式(4)で演算される上限電圧値Vmaxに大きく依存するようになる。
【0068】
なお、上記の説明では、充電可能電力演算部153が充電可能電流と充電可能電力を両方とも演算する例を説明したが、いずれか一方のみを演算してもよい。すなわち、充電可能電力演算部153では充電可能電流の演算のみを行い、充電可能電力の演算を行わないことも可能である。
【0069】
本発明を適用して電池の充電可能電力を演算することの効果を、以下に
図9を参照して説明する。
図9では、電池をある温度で充放電させたときの電圧の時系列データの例と、この時系列データに基づいて組電池制御部150により演算される電圧履歴、上限電圧および充電可能電力の例を示している。
図9において、(a)は電圧の時系列データを、(b)は電圧履歴を表す移動平均電圧を、(c)は上限電圧を、(d)は充電可能電力をそれぞれ示している。
【0070】
電池システム100を搭載した車両がある走行パターンで走行すると、単電池制御部121により、例えば
図9(a)に示すような電圧の時系列データが取得される。組電池制御部150において、上限電圧演算部152は、この
図9(a)の電圧波形に対して、例えば時間幅Twが2秒と60秒の2種類の時間窓を設定し、前述の式(1)または式(2)に基づいて移動平均を算出する。これにより、
図9(b)に示す電圧波形のような移動平均電圧が、それぞれの電圧履歴として求められる。なお、
図9(b)において、実線は時間幅が2秒の移動平均電圧を、破線は時間幅が60秒の移動平均電圧をそれぞれ示している。
【0071】
上限電圧演算部152は、前述の式(3)に基づいて、
図9(b)の各移動平均電圧に対応した上限電圧を推定する。これにより、
図9(c)に示す電圧波形のような上限電圧が、それぞれの移動平均電圧に対して求められる。なお、
図9(c)において、実線は時間幅が2秒の移動平均電圧に対応する上限電圧を、破線は時間幅が60秒の移動平均電圧に対応する上限電圧をそれぞれ示している。
【0072】
さらに上限電圧演算部152は、前述の式(4)に基づいて、
図9(c)の各上限電圧を所定の演算周期ごとに比較してより小さい方を選択し、電池に対する最終的な上限電圧とする。そして、前述の式(5)~(7)に基づいて、この最終的な上限電圧に対応する充電可能電力を算出する。これにより、
図9(c)の各上限電圧に対して、
図9(d)に示す電圧波形のような充電可能電力が求められる。
【0073】
図9(b)と
図9(c)を比較すると、移動平均電圧が高い、つまり、電圧の高い領域での電圧滞在時間(保持時間)が長いとみなせるときは、最終的な上限電圧が低い値に設定されている。反対に、移動平均電圧が低い、つまり、電圧の高い領域での電圧滞在時間(保持時間)が短いとみなせるときは、最終的な上限電圧が高い値に設定されている。その結果、
図9(d)に示すように充電可能電力が制限される。これにより、リチウム金属の析出が懸念される高い電圧領域での滞在(保持)を回避でき、かつ、高い電圧領域での電圧滞在時間が短いときには、高い電力での電池使用を許容できていることが分かる。
【0074】
以上説明したように、本実施形態の組電池制御部150によれば、二次電池の電極表面にリチウム金属が析出するのを抑制しつつ、充電可能電力を最大限に引き出すことが可能となる。
【0075】
以上説明した本発明の第1の実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0076】
(1)組電池制御部150は、二次電池である単電池111や組電池110の充電時の上限電圧を決定し、この上限電圧に基づいて、これらの電池の充電可能電力を演算する。組電池制御部150は、電池の電圧の時系列データに基づいて電池の電圧履歴を演算し、電圧履歴に基づいて上限電圧を演算する上限電圧演算部152を備える。このようにしたので、二次電池の劣化を効果的に抑制しつつ、二次電池の充電性能を最大限に引き出すために、適切な上限電圧を設定することができる。
【0077】
(2)上限電圧演算部152において、電圧移動平均演算部1521は、電池の電圧の時系列データを所定の時間幅で平均化することにより、電圧履歴を演算する。このようにしたので、電池の電圧の時系列データから、上限電圧の演算に必要な電圧履歴を適切に求めることができる。
【0078】
(3)上限電圧演算部152において、電圧移動平均演算部1521は、電池の電圧の時系列データにおける所定の時間幅に対応する各電圧の単純移動平均、または各電圧を時定数に応じて重み付け平均した指数移動平均を、電圧履歴として演算する。このようにしたので、電池の電圧の時系列データを時間幅に応じて適切に平均化し、電圧履歴として用いることができる。
【0079】
(4)上限電圧演算部152は、電圧移動平均演算部1521により、時間幅が異なる複数の時間窓について電圧履歴をそれぞれ演算することで複数の電圧履歴を演算し、これら複数の電圧履歴に基づいて上限電圧推定部1522により演算された複数の上限電圧のうちで最も小さい上限電圧を、上限電圧推定部1522により電池の上限電圧として設定する。このようにしたので、電圧滞在時間を考慮して最適な上限電圧を設定することができる。
【0080】
(5)組電池制御部150は、上限電圧演算部152が決定した上限電圧に基づいて、電池の充電可能電流または充電可能電力を演算する充電可能電力演算部153を備える。このようにしたので、上限電圧に応じた充電可能電流や充電可能電力を定めて電池の充電制御に利用することができる。
【0081】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。金属リチウムの析出の有無は、電池の温度にも大きく依存するため、本実施形態では、電池の電圧履歴に加えて、さらに電池の温度を考慮して上限電圧を演算する例を説明する。なお、本実施形態に係る電池システムの構成は、組電池制御部150に替えて組電池制御部150aを有する点以外は、第1の実施形態で説明した
図1の電池システム100と同様である。以下では、この組電池制御部150と150aの差分点を中心に、本実施形態の内容を説明する。
【0082】
図10は、本発明の第2の実施形態に係る組電池制御部150aの機能構成を示す図である。本実施形態における組電池制御部150aは、
図3の上限電圧演算部152に替えて上限電圧演算部152aを有しており、組電池制御部150が取得した電池の電圧と温度がこの上限電圧演算部152aに入力される点以外は、第1の実施形態における組電池制御部150と同様の機能構成である。
【0083】
上限電圧演算部152aは、第1の実施形態における上限電圧演算部152と同様に、電池の電圧の時系列データを入力とし、これに基づいて電池の電圧履歴を演算する。そして、電池の電圧履歴と温度に基づき、電池の充電時の上限電圧を演算して出力する。
【0084】
図11は、本発明の第2の実施形態に係る上限電圧演算部152aの制御ブロック図である。本実施形態における上限電圧演算部152aは、
図4の上限電圧推定部1522に替えて上限電圧推定部1522aを有しており、電池状態検知部151が演算した電池の温度がこの上限電圧推定部1522aに入力される点以外は、第1の実施形態における上限電圧演算部152と同様の機能構成である。
【0085】
上限電圧推定部1522aは、第1の実施形態における上限電圧推定部1522と同様に、電圧移動平均演算部1521が演算した電圧移動平均値に基づいて、電池の上限電圧を推定する。このとき上限電圧推定部1522aは、電圧移動平均演算部1521が演算した時間幅ごとのn個の電圧移動平均値と、単電池管理部120から上限電圧演算部152aに入力される電池の温度とに基づき、予め記憶部180に格納しておいた上限電圧マップを参照して、n個の電圧移動平均値に対してそれぞれ上限電圧を推定する。
【0086】
本実施形態において用いられる上限電圧マップは、予め時間幅と温度の組み合わせごとに設定されており、電池を用いて予め実施された充放電試験の結果に基づいて作成される。例えば、充電時に到達する電池電圧や電圧滞在時間、電池温度を様々に変化させた充放電サイクルを想定したサイクル試験を、電池の充放電試験として実施する。このサイクル試験の結果をもとに、上限電圧マップを構築する。
【0087】
図12は、本発明の第2の実施形態に係るサイクル試験結果の例を示す図である。
図12では、充電時の電圧と電圧滞在時間の組み合わせを変化させて電池の充電と放電を繰り返すサイクル試験を、異なる温度でそれぞれ実施したときの結果を示している。
図12(a)は、極低温(例えば-30℃)の例を示し、
図12(b)は、低温(例えば0℃)の例を示し、
図12(c)は、常温(例えば25℃)の例を示している。これらの図では、横軸にサイクル数、縦軸に容量維持率をそれぞれプロットすることで、サイクル数と電池の容量維持率との関係を示している。
【0088】
図12(a)~(c)のいずれにおいても、電圧が低く電圧滞在時間が短い場合にはサイクル数に対する容量の変化がほとんど生じないが、電圧が低く電圧滞在時間が長い場合や、電圧が高く電圧滞在時間が長い場合には、サイクル数が多くなると容量が大きく低下する傾向があることが分かる。また、このときの容量の低下幅は、電池温度が低いほど大きいことが分かる。このように容量が大きく低下する条件では、いわゆる通常の劣化ではなく、電極でのリチウム金属の析出に伴う容量の劣化が生じていると推測される。このため、上限電圧マップでは、当該試験条件での電池使用が回避されるような上限電圧を設定することが好ましい。
【0089】
図13は、本発明の第2の実施形態に係る上限電圧マップの概要を示す図である。
図13では、
図12のサイクル試験結果から作成されて記憶部180に搭載される上限電圧マップの概要を示している。
図13(a)は、フィルタ時定数(時間窓)が比較的長い場合の上限電圧マップの例であり、
図13(b)は、フィルタ時定数(時間窓)が比較的短い場合の上限電圧マップの例である。これらの図に示すように、電圧移動平均値が小さい場合は上限電圧に高い値を設定し、電圧移動平均値が高くなるにつれて上限電圧が小さな値となるように、上限電圧マップを設定する。また、温度が低くなるほど上限電圧は、全体的に小さくなる。この傾向を考慮しつつ、電圧移動平均値に応じた上限電圧を、実験結果から得た上限電圧を逸脱しないよう、実験及びシミュレーションなどにより、適切に設定する。
【0090】
以上説明した本発明の第2の実施形態によれば、上限電圧演算部152aは、電圧履歴および電池の温度に基づいて上限電圧を決定する。このようにしたので、電池の温度を考慮して、さらに適切な上限電圧を設定することができる。結果として、電池温度が変わってもリチウム金属の析出を防止しつつ、電池の充電性能を最大限活用することが可能となる。
【0091】
<第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。リチウム金属の析出の有無は、充電時における電流値にも大きく依存するため、本実施形態では、電池の電圧履歴、温度に加えて、さらに電池に流れる電流を考慮して上限電圧を演算する例を説明する。なお、本実施形態に係る電池システムの構成は、組電池制御部150に替えて組電池制御部150bを有する点以外は、第1及び第2の実施形態で説明した
図1の電池システム100と同様である。以下では、この組電池制御部150、150aの差分点を中心に、本実施形態の内容を説明する。
【0092】
図14は、本発明の第3の実施形態に係る組電池制御部150bの機能構成を示す図である。本実施形態における組電池制御部150bは、上限電圧演算部152bへ電流が入力として追加されている点以外は、第1の実施形態における組電池制御部150と同様の機能構成である。
【0093】
図14は、本発明の第3の実施形態に係る組電池制御部150bの機能構成を示す図である。本実施形態における組電池制御部150bは、
図3の上限電圧演算部152に替えて上限電圧演算部152bを有しており、組電池制御部150が取得した電池の電圧と温度に加え、電池に流れる電流値が、この上限電圧演算部152bに入力される点以外は、第1の実施形態における組電池制御部150と同様の機能構成である。
【0094】
上限電圧演算部152bは、第1の実施形態における上限電圧演算部152と同様に、電池の電圧の時系列データを入力とし、これに基づいて電池の電圧履歴を演算する。そして、電池の電圧履歴と電流、温度に基づき、電池の上限電圧を演算して出力する。
【0095】
図15は、本発明の第3の実施形態に係る上限電圧演算部152bの制御ブロック図である。本実施形態における上限電圧演算部152bは、
図4の上限電圧推定部1522に替えて上限電圧推定部1522bを有している点に加え、電池に流れる電流値をもとに、電流移動平均演算部1524をさらに有している。組電池制御部150が取得した電池の温度と、電流移動平均演算部1524が演算した電流移動平均値がこの上限電圧推定部1522bに入力される点以外は、第1の実施形態における上限電圧演算部152と同様の機能構成である。
【0096】
上限電圧推定部1522bは、第1の実施形態における上限電圧推定部1522と同様に、電圧移動平均演算部1521が演算した電圧移動平均値に基づいて、電池の上限電圧を推定する。このとき上限電圧推定部1522bは、電圧移動平均演算部1521が演算した時間幅ごとのn個の電圧移動平均値と、単電池管理部120から上限電圧演算部152aに入力される電池の温度と、電流移動平均演算部1524が演算する電流移動平均値に基づき、予め記憶部180に格納しておいた上限電圧マップを参照して、n個の電圧移動平均値に対してそれぞれ上限電圧を推定する。
【0097】
電流移動平均演算部1524は、電流値をもとに以下の式(8)もしくは式(9)に基づき演算される。式(8)もしくは式(9)に含まれるTwは、電流移動平均演算用のフィルタ時定数(時間窓)である。電流移動平均演算用のフィルタは、例えば、電圧移動平均演算用のフィルタ時定数(時定数)と同様の値を設定してもよい。もしくは、金属リチウムの析出は、電極電解質界面のリチウムイオン濃度が影響するため、これを考慮するため、電極電解質界面のリチウムイオン濃度変化(拡散)が線形拡散であることを前提に、拡散の挙動を再現するような値を設定してもよい。
【0098】
【数8】
【数9】
ここで、Iaveは電流移動平均値、Iave_zは電流移動平均値の前回値を示している。
【0099】
本実施形態において用いられる上限電圧マップは、予め時間幅、温度と電流移動平均値の組み合わせごとに設定されており、電池を用いて予め実施された充放電試験の結果に基づいて作成される。例えば、充電時に到達する電池電圧や電圧滞在時間、電池温度、さらに、充電電流値を様々に変化させた充放電サイクルを想定したサイクル試験を、電池の充放電試験として実施する。このサイクル試験の結果をもとに、上限電圧マップを構築する。
【0100】
図16は、本発明の第3の実施形態に係るサイクル試験結果の例を示す図である。
図16では、充電時の電圧と電圧滞在時間の組み合わせを変化させて電池の充電と放電を繰り返すサイクル試験を、充電時に流す電流値を様々に変化させて、それぞれ実施したときの結果を示している。
図16(a)は、大きな充電電流値で試験した場合の結果例を示し、
図16(b)は、小さな充電電流値で試験した場合の結果例を示している。これらの図では、横軸にサイクル数、縦軸に容量維持率をそれぞれプロットすることで、サイクル数と電池の容量維持率との関係を示している。
【0101】
図16(a)(b)のいずれにおいても、電圧が低く電圧滞在時間が短い場合にはサイクル数に対する容量の変化がほとんど生じないが、電圧が低く電圧滞在時間が長い場合や、電圧が高く電圧滞在時間が長い場合には、サイクル数が多くなると容量が大きく低下する傾向があることが分かる。また、このときの容量の低下幅は、電池に流れる充電電流が大きいほど大きいことが分かる。このように容量が大きく低下する条件では、いわゆる通常の劣化ではなく、電極でのリチウム金属の析出に伴う容量の劣化が生じていると推測される。
図16には記載していないが、本サイクル試験に対し、電池温度も水準に加え、データを解析すると、電圧、温度、電流すべての条件に応じて、金属リチウムの析出有無を確認することが可能となる。上限電圧マップは、リチウム金属の析出条件から電池使用が回避されるような上限電圧を設定することが好ましい。
【0102】
図17は、本発明の第3の実施形態に係る上限電圧マップの概要を示す図である。
図17では、
図16のサイクル試験結果から作成されて記憶部180に搭載される上限電圧マップの概要を示している。
図17(a)は、フィルタ時定数(時間窓)が比較的長く、かつ、電流移動平均値が小さい場合の上限電圧マップの例であり、
図17(b)は、フィルタ時定数(時間窓)が比較的短く、電流移動平均値が小さい場合の上限電圧マップの例であり、
図17(c)は、フィルタ時定数(時間窓)が比較的長く、かつ、電流移動平均値が大きい場合の上限電圧マップの例であり、
図17(d)は、フィルタ時定数(時間窓)が比較的短く、電流移動平均値が大きい場合の上限電圧マップの例である。これらの図に示すように、電圧移動平均値が小さい場合は上限電圧に高い値を設定し、電圧移動平均値が高くなるにつれて上限電圧が小さな値となるように、上限電圧マップを設定する。電流移動平均値については、電流移動平均値が大きければ大きいほど、上限電圧が小さい値となるように上限電圧を設定する。また、実施形態2と同様に、温度が低くなるほど上限電圧は、全体的に小さくなる。この傾向を考慮しつつ、電圧移動平均値に応じた上限電圧を、実験結果から得た上限電圧を逸脱しないよう、実験及びシミュレーションなどにより、適切に設定する。
【0103】
以上説明した本発明の第3の実施形態によれば、上限電圧演算部152bは、電圧履歴および電池の温度と電池に流れる電流値に基づいて上限電圧を決定する。このようにしたので、電池の電流値(電流移動平均値)を考慮して、さらに適切な上限電圧を設定することができる。結果として、充放電中の電流値が様々に変わってもリチウム金属の析出を防止しつつ、電池の充電性能を最大限活用することが可能となる。
【0104】
<第4の実施形態>
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。第3の実施形態にて、リチウム金属の析出の有無は、充電時における電流値にも大きく依存するため、これを反映した例を述べたが、本実施形態では、より簡便な方法で、電流値に対する依存性を考慮する方法について述べる。なお、本実施形態に係る電池システムの構成は、組電池制御部150bにおける上限電圧演算部152bに替えて、上限電圧演算部152cを有する点以外は、第1~3の実施形態で説明した
図1の電池システム100と同様である。以下では、この上限電圧演算部152bとの差分点を中心に、本実施形態の内容を説明する。
【0105】
図18に本発明の第4の実施形態における上限電圧演算部152cについて説明する。上限電圧演算部152bとの違いは、電流移動平均値演算部1524が削除され、上限電圧推定部1522bへの入力となる電流移動平均値が削除されている代わりに、電流値を入力として追加した、電圧移動平均値演算部1521aを有している点である。
【0106】
第1~3の実施形態の説明でも述べたように、リチウム金属の析出は、電池の電圧や電池に流れる電流に応じて異なる。電圧は高ければ高いほど、電流値は大きければ大きいほど、析出は発生しやすくなる。そこで、本実施形態では、電圧移動平均の演算に、取得した電圧値、電流値に応じた重み係数を設ける。つまり、新規に取得した電圧値が高い値で、かつ、そのとき流れていた電流値が大きいような場合、取得した電圧値の平均化への反映度合いが大きくなるように重みをつける。
【0107】
具体的な処理内容を式(10)~(14)に基づき述べる。式(10)は電流、電圧による重みを単純移動平均に適用した場合の例で、いわゆる重み付け平均である。取得した電圧値とそのとき流れた電流値をもとに、予め定めた重み係数マップ(weightMap)から重み係数を演算し、時間窓内のすべての重み係数の和で規格化する(式(11)(12))。この結果を用いて重み付け平均により、各時間窓毎の電圧移動平均値を演算する。
【0108】
【0109】
式(13)は電圧移動平均の演算に、指数移動平均を適用した場合の重み付け平均式である。取得した電圧値とそのとき流れた電流値をもとに、予め定めた重み係数マップ(weightMap)から重み係数を演算し(式(14))、各時間窓毎の電圧移動平均値を演算する。
【0110】
【0111】
図19には、式(12)(14)に記載のweightMapの例を図示した。電流と電圧に応じたマップとなっており、電圧値が高ければ高いほど、電流値が大きければ大きいほど(充電側を+)重み係数を大きく設定する。上述した式(10)もしくは(13)に基づき演算した電圧移動平均値を用いて、上限電圧を推定する。電圧移動平均値を用いた各種演算は、実施形態1~2で述べた内容と同様であるため、説明は省略する。
図19のマップは、第3の実施形態にて紹介した、金属リチウム析出条件の電流依存性を考慮して定めればよい。
【0112】
以上説明した本発明の第4の実施形態によれば、電圧移動平均演算部1521aは、電池の電流および電圧に基づき設定した重み係数を設定し、重み係数を反映した電圧の移動平均処理により、電流値の影響を考慮した電圧移動平均値を算出できる。このようにしたので、電池の電流値を考慮して、電流値が高いときの電圧値に対して、移動平均演算への重みを大きくすることで、電流が高い状態が維持した場合でも、早めに上限電圧を制限することができる。結果として、結果として、リチウム金属の析出において、重要な要因である電流、電圧が様々に変わってもリチウム金属の析出を防止しつつ、電池の充電性能を最大限活用することが可能となる。
【0113】
<第5の実施形態>
次に、本発明の第5の実施形態について
図20から
図23に基づき説明する。本実施形態では、電動車両システムに搭載する上で課題となる、車両システム休止期間中の電圧をどのように扱うかについて述べる。車両システム休止期間中は、電池電圧を測定することができないため、式(1)(2)に記載したような電圧移動平均演算を継続することができない。このため、車両システム起動時に、時定数毎に、休止期間中の電圧の変化を加味して、電圧履歴(電圧移動平均値)の初期値を定める演算ロジックが必要になる。そこで、本実施形態では、車両休止時間と前回走行終了時の電圧移動平均値および電圧値と、今回起動時の電圧値をもとに、今回起動時の電圧移動平均値の初期値を適切に定める手法について述べる。
【0114】
図20は、本発明の実施形態における組電池制御手段150cの制御ブロック図である。実施形態1~4との主な差分は、上限電圧演算部152cに車両休止時間、前回走行終了時の電圧、前回走行終了時の移動平均電圧を入力して追加している点である。なお、車両放置時間は、図示しないが、時間を計測可能なデバイス、例えば、RTC(Real Time Clock )を活用し、計測する。また、前回走行終了時の電圧、前回走行終了時の移動平均電圧は、前回走行終了時に記憶部180に格納され、次回起動時に読みだされる構成とする。これ以外の組電池制御部150cの構成は、実施形態1~4と同様である。
【0115】
次に、上限電圧演算部152cについて
図21に基づき述べる。実施形態1~3との主な差分は、電圧移動平均演算部1521の代わりに電圧移動平均演算部1521bを有する点である。電圧移動平均演算部1521bは、入力として車両休止時間、前回走行終了時の電圧移動平均値、前回走行終了時の電圧が追加されている。
【0116】
電圧移動平均演算部1521bにおける処理内容について
図22および
図23に基づき述べる。
図22は、本実施形態で解決する課題を説明する図である。充放電が終了し、車両システムが停止し、休止後に車両が起動すると、再び充放電が再開する。休止期間中は、電池システムは電圧を計測することが出来ない一方で、電池電圧は、充放電に伴い発生した電池の分極電圧(電池の電気化学的反応に伴う過電圧やリチウムイオンの拡散に伴う過電圧であり、
図8のVpに相当する)が緩和する、つまり、
図8に示した開回路電圧(OCV)へと近づく。このため、
図22に示すように休止時間の経過に伴い電圧は変化する。
【0117】
図23に本実施形態における車両起動時の電圧移動平均値の初期値の考え方を示す。
図23に示したように、休止期間中の電圧として、車両起動時に休止期間中の電圧を休止前後に取得した値、つまり、前回走行終了時の電圧と今回起動時における電圧値の何れかを採用する。その際、金属リチウムの析出抑制の観点から、安全サイドな値となるよう、前回走行終了時の電圧と今回起動時における電圧値のうち、大きな値を採用し、これが休止期間中常時、維持したものとして、電圧移動平均値の初期値を決定する。
【0118】
電圧移動平均値の初期値は、前回走行終了時の電圧移動平均値、休止期間中の電圧と車両休止時間に基づき、式(15)により求めることができる。
【0119】
【数15】
式(15)におけるPrevVaveは、前回走行終了時の電圧移動平均値、RestTimeは休止時間、Vrestは休止期間中の電圧値を示している。式(15)に記載のVrestに、上述した、前回走行終了時の電圧と今回起動時の電圧値のうち、大きな値を設定する。
【0120】
なお、車両放置時間が時間窓毎に設定されているフィルタ時定数に対して十分長い場合、つまり、電圧移動平均値の初期値がVrestとして扱えるような場合は、Vrestに今回起動時の値を設定し、式(15)による演算を実行する、もしくは、電圧移動平均値の初期値として、Vrestを設定する。
【0121】
また、式(15)は指数移動平均による演算を考慮した電圧履歴の初期値決定方法について述べたが、単純移動平均による演算においても同様の考え方で初期値演算に反映できる。つまり、時間窓に対応した数分の電圧配列(式(1)中のVk)に、車両休止時間に対応した時間の要素数分、電圧配列の中から古い時刻に取得した値から順番に設定したVrestの値に入れ替えればよい。
【0122】
電圧履歴(電圧移動平均値)の初期値を演算したあとは、式(1)及び式(2)で記載した平均化処理を再開し、充放電中の電圧移動平均値を演算するとともにこれをもとに上限電圧を推定する。
【0123】
以上説明した本発明の第5の実施形態によれば、電圧移動平均演算部1521bは、電圧の計測ができない、車両休止時間における電圧の挙動を考慮して、金属リチウムの析出を抑制する方向に、電圧履歴の初期値を設定できる。このようにしたので、結果として、金属リチウムの析出を電池の電流値を考慮して、さらに適切な上限電圧を設定することができる。
【0124】
なお、以上説明した各実施形態では、二次電池としてリチウムイオン電池を用いた場合の例を説明したが、他の二次電池を用いた場合にも、同様の充放電制御が可能である。すなわち、リチウムイオン電池に限らず、他の任意の二次電池についても、本発明を適用することで、その二次電池の劣化を効果的に抑制しつつ、二次電池の充電性能を最大限に引き出すために、適切な上限電圧を設定することができる。
【0125】
また、以上説明した各実施形態や各種変形例はあくまで一例であり、発明の特徴が損なわれない限り、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。また、上記の各実施形態は、任意に組み合わせて使用することもできる。さらに、上記では種々の実施形態や変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0126】
100:電池システム
110:組電池
111:単電池
112:単電池群
120:単電池管理部
121:単電池制御部
122:電圧検出回路
123:制御回路
124:信号入出力回路
125:温度検知部
130:電流検知部
140:電圧検知部
150:組電池制御部
151:電池状態検知部
152:上限電圧演算部
153:充電可能電力演算部
154:電力制限率演算部
155:電力制限率反映部
160:信号通信手段
170:絶縁素子
180:記憶部
200:車両制御部
300~330:リレー
400:インバータ
410:モータジェネレータ
1521:電圧移動平均演算部
1522:上限電圧推定部
1523:上限電圧選択部
1524:電流移動平均演算部