(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】表示装置製造用フォトマスクブランク、表示装置製造用フォトマスク及び表示装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/00 20120101AFI20230221BHJP
G03F 1/32 20120101ALI20230221BHJP
【FI】
G03F1/00 Z
G03F1/32
(21)【出願番号】P 2021069663
(22)【出願日】2021-04-16
(62)【分割の表示】P 2020083081の分割
【原出願日】2014-09-29
【審査請求日】2021-04-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】今敷 修久
(72)【発明者】
【氏名】吉川 裕
(72)【発明者】
【氏名】菅原 浩幸
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-075361(JP,A)
【文献】特開平07-159971(JP,A)
【文献】特開2002-189281(JP,A)
【文献】特開2004-085760(JP,A)
【文献】特開2007-212738(JP,A)
【文献】特開2010-087333(JP,A)
【文献】特開2013-250478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
G03F 1/00~1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板の主表面上に、露光光の代表波長に対する透過率T1が30~80(%)である半透光膜と、前記代表波長に対する透過率が、前記半透光膜より小さい低透光膜とを積層した、表示装置製造用フォトマスクブランクであって、
前記露光光は、i線、h線、及びg線を含み、
前記代表波長は、h線であり、
前記半透光膜は、ウェットエッチング可能な膜であって、300~2000Åの膜厚を有し、前記代表波長に対して、屈折率が1.5~
2.4であるとともに、位相シフト量が略180度であり、
前記低透光膜は、ウェットエッチングが可能であり、前記代表波長の光に対する光学濃度ODは2以上である、表示装置製造用フォトマスクブランク。
【請求項2】
透明基板の主表面上に、露光光の代表波長に対する透過率T1が30~80(%)である半透光膜と、前記代表波長に対する透過率が、前記半透光膜より小さい低透光膜とを積層した、表示装置製造用フォトマスクブランクであって、
前記露光光は、i線、h線、及びg線を含み、
前記代表波長は、h線であり、
前記半透光膜は、ウェットエッチング可能な膜であって、300~2000Åの膜厚を有し、前記代表波長に対して、屈折率が1.5~
2.4であるとともに、位相シフト量が略180度であり、
前記低透光膜は、ウェットエッチングが可能であり、前記低透光膜と上記半透光膜との積層状態で、前記代表波長の光に対する透過率T3(%)が、T3≦20であり、位相シフト量φ3が、90度以下である、表示装置製造用フォトマスクブランク。
【請求項3】
前記低透光膜は、前記半透光膜の材料に対してエッチング選択性をもつ材料からなる、請求項1または2に記載の表示装置製造用フォトマスクブランク。
【請求項4】
前記半透光膜と前記低透光膜との間に、エッチングストッパ膜が設けられている、請求項1または2に記載の表示装置製造用フォトマスクブランク。
【請求項5】
前記低透光膜は、CrもしくはCrの酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物または酸化窒化炭化物である、請求項1~4のいずれか1項に記載の表示装置製造用フォトマスクブランク。
【請求項6】
前記半透光膜は、Zr、Nb、Hf、Ta、Mo、Tiを含む遷移金属と、Siとを含む材料、又はその酸化物、窒化物、酸化窒化物、炭化物、又は酸化窒化炭化物を含む材料からなる、請求項1~5のいずれか1項に記載の表示装置製造用フォトマスクブランク。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の表示装置製造用フォトマスクブランクにおける前記半透光膜及び前記低透光膜をそれぞれパターニングすることによって、転写用パターンを備える表示装置製造用フォトマスクであって、
前記転写用パターンは、
前記透明基板が露出する透光部からなる径W1(μm)の主パターンと、
前記主パターンの近傍に配置され、前記透明基板上に前記半透光膜が形成された半透光部からなる幅d(μm)の補助パターンと、
前記転写用パターンのうち前記主パターン及び前記補助パターンが形成される以外の領域に配置され、前記透明基板上に前記半透光膜と前記低透光膜とが積層された低透光部と、を有し、
下記の式(1)及び(2)を満たす、表示装置製造用フォトマスク。
0.8 ≦ W1 ≦ 4.0 ・・・・・・・・・・・・・・(1)
【数7】
【請求項8】
前記補助パターンの形状は、前記主パターンの周囲を囲む多角形帯もしくは円形帯であるか、又は、前記多角形帯若しくは前記円形帯の一部が欠落した形状である、請求項7に記載の表示装置製造用フォトマスク。
【請求項9】
前記補助パターンの前記幅dがd≦W1を満たす、請求項7または8に記載の表示装置製造用フォトマスク。
【請求項10】
前記転写用パターンにおける前記主パターンの前記径W1が4.0(μm)以下であるとともに、前記主パターンに対応して、被転写体上に、径W2(但しW1>W2)のホールパターンを形成するものである、請求項7~9のいずれか1項に記載の表示装置製造用フォトマスク。
【請求項11】
前記径W2が3.0(μm)以下である、請求項10に記載の表示装置製造用フォトマスク。
【請求項12】
前記主パターンの前記径W1と、前記被転写体上の前記径W2との差W1-W2をバイアスβ(μm)とするとき、
0.2 ≦ β ≦1.0
である、請求項10または11に記載の表示装置製造用フォトマスク。
【請求項13】
表示装置製造用フォトマスクの製造方法であって、
請求項1~6のいずれか1項に記載の表示装置製造用フォトマスクブランクを用意する工程と、
前記低透光膜および前記半透光膜を、それぞれウェットエッチングすることにより、前記転写用パターンを形成する工程と、を含み、
前記転写用パターンは、
前記透明基板が露出する透光部からなる径W1(μm)の主パターンと、
前記主パターンの近傍に配置され、前記透明基板上に前記半透光膜が形成された半透光部からなる幅d(μm)の補助パターンと、
前記転写用パターンのうち前記主パターン及び前記補助パターンが形成される以外の領域に配置され、前記透明基板上に前記半透光膜と前記低透光膜とが積層された低透光部と、を有し、
下記の式(1)及び(2)を満たす、表示装置製造用フォトマスクの製造方法。
0.8 ≦ W1 ≦ 4.0 ・・・・・・・・・・・・・・(1)
【数7】
【請求項14】
表示装置の製造方法であって、
請求項7~12のいずれか1項に記載の表示装置製造用フォトマスクまたは請求項13に記載の製造方法によって製造された表示装置製造用フォトマスクを用意する工程と、
露光装置を用いて、前記転写用パターンを露光し、被転写体上に、ホールパターンを形成する工程と、
を含む、表示装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶や有機ELに代表される、表示装置の製造に有利に用いられるフォトマスク及びそれを用いた表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、半導体装置の製造に用いられるフォトマスクとして、主透光部(ホールパターン)の各辺に平行に、4つの補助透光部が配置され、主透光部と補助透光部の光の位相が反転するようにした位相シフトマスクが記載されている。
【0003】
特許文献2には、透明基板と、前記透明基板上に形成された半透明な位相シフト膜を有する大型位相シフトマスクが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平3-15845号公報
【文献】特開2013-148892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、液晶表示装置やEL表示装置などを含む表示装置においては、より明るく、かつ省電力であるとともに、高精細、高速表示、広視野角といった表示性能の向上が望まれている。
【0006】
例えば、上記表示装置に用いられる薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、「TFT」)で言えば、TFTを構成する複数のパターンのうち、層間絶縁膜に形成されたコンタクトホールが、確実に上層及び下層のパターンを接続させる作用をもたなければ正しい動作が保証されない。その一方、表示装置の開口率を極力大きくして、明るく、省電力の表示装置とするためには、コンタクトホールの径が十分に小さいことが求められる。これに伴い、このようなコンタクトホールを形成するためのフォトマスクが備えるホールパターンの径も微細化(例えば3μm未満)が望まれている。例えば、径が2.5μm以下、更には、径が2.0μm以下のホールパターンが必要となり、近い将来、これを下回る1.5μm以下の径をもつパターンの形成も望まれると考えられる。こうした背景により、微小なコンタクトホールを確実に転写可能とする、表示装置の製造技術が必要とされている。
【0007】
ところで、表示装置に比べて、集積度が高く、パターンの微細化が顕著に進んだ半導体装置(LSI)製造用フォトマスクの分野では、高い解像性を得るために、露光装置には高NA(例えば0.2以上)の光学系を適用し、露光光の短波長化がすすめられた経緯があり、KrFやArFのエキシマレーザー(それぞれ、248nm、193nmの単一波長)が多用されるようになった。
【0008】
その一方、表示装置製造用のリソグラフィ分野では、解像性向上のために、上記のような手法が適用されることは、一般的では無かった。むしろ、LCD(liquid crystal display、液晶表示装置)用などとして知られる露光装置のNAは、0.08~0.10程度であり、露光光源もi線、h線、g線を含む、ブロード波長域を用いることで、解像性や焦点深度よりはむしろ、生産効率、コストを重視してきた傾向がある。
【0009】
しかし、上記のように表示装置製造においても、パターンの微細化要請が従来になく高くなっている。ここで、半導体装置製造用の技術を、表示装置製造にそのまま適用することには、いくつかの問題がある。例えば、高NA(開口数)をもつ高解像度の露光装置への転換には、大きな投資が必要になり、表示装置の価格との整合性が得られない。あるいは、露光波長の変更(ArFエキシマレーザーのような短波長を、単一波長で用いる)については、大面積をもつ表示装置への適用自体が困難である上、仮に適用すれば、生産効率が低下するほか、やはり相当の投資を必要とする点で不都合である。
【0010】
更に、表示装置用のフォトマスクには、後述するように、半導体装置製造用のフォトマスクと異なる、製造上の制約や特有の各種課題がある。
【0011】
上記事情から、特許文献1のフォトマスクをそのまま表示装置製造用に転用することには現実的には困難がある。また、特許文献2に記載のハーフトーン型位相シフトマスクは、バイナリマスクに比べて光強度分布が向上するとの記載があるが、更に性能向上の余地がある。
【0012】
従って、表示装置製造用マスクを用いた表示装置の製造方法において、上記課題を克服し、微細なパターンであって、被転写体上への転写を安定して行うことが望まれていた。そこで本発明は、表示装置製造用マスクの露光環境に有利に適合し、微細なパターンが安定して転写できる優れたフォトマスク及びその製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の構成を有する。本発明は、下記の構成1~14であることを特徴とするフォトマスク、下記の構成15であることを特徴とする表示装置の製造方法である。
【0014】
(構成1)
本発明の構成1は、透明基板上に形成された転写用パターンを備えるフォトマスクであって、前記転写用パターンは、径W1(μm)の主パターンと、前記主パターンの近傍に配置された、幅d(μm)の補助パターンと、前記主パターン及び前記補助パターンが形成される以外の領域に配置された低透光部と、を有し、前記主パターンを透過するi線~g線の波長範囲にある代表波長と、前記補助パターンを透過する前記代表波長との位相差が略180度であって、前記補助パターンを透過する前記代表波長の光の透過率をT1(%)とし、前記低透光部を透過する前記代表波長の光の透過率をT3(%)とし、前記主パターンの中心と、前記補助パターンの幅方向の中心との距離をP(μm)とするとき、下記の式(1)~(4)を満たすことを特徴とする、フォトマスクである。
0.8 ≦ W1 ≦ 4.0 ・・・・・・・・・・・・・・(1)
【数1】
1.0 < P ≦ 5.0 ・・・・・・・・・・・・・・・(3)
T3 < T1 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
【0015】
(構成2)
本発明の構成2は、前記補助パターンは、前記透明基板上に、前記代表波長の光に対する透過率がT1(%)の半透光膜が形成されてなることを特徴とする、構成1に記載のフォトマスクである。
【0016】
(構成3)
本発明の構成3は、前記半透光膜の前記透過率T1(%)が、下記の式(5)を満たすことを特徴とする、構成2に記載のフォトマスクである。
30 ≦ T1 ≦ 80 ・・・(5)
【0017】
(構成4)
本発明の構成4は、前記補助パターンの幅dが1(μm)以上であることを特徴とする、構成2又は3に記載のフォトマスクである。
【0018】
(構成5)
本発明の構成5は、前記主パターンは、前記透明基板の主表面の一部が露出してなり、前記補助パターンは、前記透明基板上に、前記半透光膜が形成されてなり、前記低透光部は、前記透明基板上に、前記半透光膜と、前記代表波長の光の透過率がT2(%)である低透光膜とが、この順で、または、この逆の順で積層されてなることを特徴とする、構成2~4のいずれかに記載のフォトマスクである。
【0019】
(構成6)
本発明の構成6は、前記主パターンは、前記透明基板の主表面に掘り込みが形成されてなり、前記補助パターンは、前記透明基板上に、前記半透光膜が形成されてなり、前記低透光部は、前記透明基板上に、前記半透光膜と、前記代表波長の光の透過率がT2(%)である低透光膜とが、この順で、または、この逆の順で積層されてなることを特徴とする、構成2~4のいずれかに記載に記載のフォトマスクである。
【0020】
(構成7)
本発明の構成7は、前記半透光膜は、Zr、Nb、Hf、Ta、Mo及びTiの少なくとも一つと、Siとを含む材料、又は、これらの材料の酸化物、窒化物、酸化窒化物、炭化物、又は酸化窒化炭化物を含む材料からなることを特徴とする、構成2~6のいずれかに記載のフォトマスクである。
【0021】
(構成8)
本発明の構成8は、前記補助パターンは、前記透明基板が露出してなることを特徴とする、構成1に記載のフォトマスクである。
【0022】
(構成9)
本発明の構成9は、前記主パターンは、前記透明基板の主表面に掘り込みが形成されてなり、前記補助パターンは、前記透明基板の主表面の一部が露出してなり、前記低透光部は、前記透明基板上に、前記代表波長の光の透過率がT3(%)である低透光膜が、形成されてなることを特徴とする、構成8に記載に記載のフォトマスクである。
【0023】
(構成10)
本発明の構成10は、前記主パターンは、前記透明基板の主表面の一部が露出してなり、前記補助パターンは、前記透明基板の主表面に掘り込みが形成されてなり、前記低透光部は、前記透明基板上に、前記代表波長の光の透過率がT3(%)である低透光膜が、形成されてなることを特徴とする、構成8に記載に記載のフォトマスクである。
【0024】
(構成11)
本発明の構成11は、前記主パターンに対応して、被転写体上に、転写径W2が3.0(μm)以下(但しW1>W2)のホールパターンを形成するものであることを特徴とする、構成1~10のいずれかに記載のフォトマスクである。
【0025】
(構成12)
本発明の構成12は、前記主パターンの前記径W1と、前記被転写体上の前記転写径W2との差W1-W2をバイアスβ(μm)とするとき、
0.2≦β≦1.0・・・(6)
であることを特徴とする構成11に記載のフォトマスクである。
【0026】
(構成13)
本発明の構成13は、前記低透光部の、前記代表波長の光に対する前記透過率T3(%)が、
T3<30・・・(7)
を満たすことを特徴とする、構成1~12いずれかに記載のフォトマスクである。
【0027】
(構成14)
本発明の構成14は、前記低透光部は、前記代表波長の光を実質的に透過しないものであることを特徴とする、構成1~12いずれかに記載のフォトマスクである。
【0028】
(構成15)
本発明の構成15は、構成1~14のいずれかに記載のフォトマスクを用意する工程と、開口数(NA)が0.08~0.20であり、i線、h線及びg線の少なくとも一つを含む露光光源をもつ露光装置を用いて、前記転写用パターンを露光し、被転写体上に、径W2が0.6~3.0(μm)のホールパターンを形成する工程とを含む、表示装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、表示装置製造用マスクの露光環境に有利に適合し、微細なパターンが安定して転写できる優れたフォトマスク及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明のフォトマスクの一例の、平面模式図である。
【
図2】本発明のフォトマスクの他の例の、平面模式図(a)~(f)である。
【
図3】本発明のフォトマスクの層構成の例(a)~(f)である。
【
図4】本発明のフォトマスクの製造工程の一例を示す断面模式図及び平面模式図である。
【
図5】比較例1-1及び1-2並びに実施例1のフォトマスクの平面模式図、寸法及び光学シミュレーションによる転写性能を示す図である。
【
図6】比較例1-1及び1-2並びに実施例1のフォトマスクを用いた場合の(a)被転写体上に形成される光強度の空間像、及び(b)それによって形成されるレジストパターンの断面形状を示す図である。
【
図7】比較例2-1及び2-2並びに実施例2のフォトマスクの平面模式図、寸法及び光学シミュレーションによる転写性能を示す図である。
【
図8】比較例2-1及び2-2並びに実施例2のフォトマスクを用いた場合の(a)被転写体上に形成される光強度の空間像、及び(b)それによって形成されるレジストパターンの断面形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
フォトマスクのもつ転写用パターンのCD(Critical Dimension、以下パターン線幅の意味で使う)が微細化すると、これを正確に被転写体(エッチング加工しようとする薄膜等、被加工体とも言う。)に転写する工程の実施はより困難になる。表示装置用の露光装置に仕様として示された解像限界は、多くの場合2~3μm程度である。これに対し、形成しようとする転写用パターンの中には、既にこれに近づくか、あるいはこれを下回る寸法のものが出現している。更に、表示装置製造用マスクは、半導体装置製造用マスクに比べて面積が大きいため、実生産上、3μm未満のCDをもつ転写用パターンを面内均一に転写することには大きな困難がある。
【0032】
従って、純粋な解像度(露光波長、露光光学系の開口数による)以外の要素を工夫することにより、実効的な転写性能を引き出すことが必要となる。
【0033】
更に、被転写体(フラットパネルディスプレイ基板)の面積が大きいため、露光によるパターン転写の工程では、被転写体の表面平坦度に起因するデフォーカスが生じやすい環境とも言える。この環境下で、露光時の焦点の裕度(DOF)を十分に確保することは、極めて有意義である。
【0034】
尚、表示装置製造用のフォトマスクは、周知のとおりサイズが大きく、フォトマスク製造工程におけるウェット処理(現像やウェットエッチング)においては、面内のあらゆる位置で、CD(線幅)の均一性を確保することは容易では無い。最終的なCD精度を、規定された許容範囲内に収めるためにも、露光工程における充分な焦点深度(DOF)の確保が肝要であり、またこれに伴って他の性能が劣化しないことが望ましい。
【0035】
本発明は、透明基板上に成膜された、半透光膜及び低透光膜をそれぞれパターニングすることによって形成された転写用パターンを備えるフォトマスクである。本発明のフォトマスクがもつ転写用パターンの平面模式図を、
図1に例示する。
【0036】
図1に示すとおり、透明基板上に形成された転写用パターンは、径W1(μm)の主パターンと、主パターンの近傍に配置された幅d(μm)の補助パターンとを含む。また、前記主パターン及び前記補助パターンが形成される以外の領域には、低透光部が形成されている。
【0037】
ここで、補助パターンを透過する、i線~g線の波長域内の代表波長の光に対する透過率をT1、低透光部を透過する、該代表波長の光に対する透過率をT3とする。また、主パターンの中心と、前記補助パターンの幅方向の中心との距離をP(μm)とする。このとき、本発明のフォトマスクは、以下の関係を満足する。
0.8 ≦ W1 ≦ 4.0 ・・・・・・・・・・・・・・(1)
【数2】
1.0 < P ≦ 5.0 ・・・・・・・・・・・・・・・(3)
T3 < T1 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
【0038】
上記の式中、T1は、好ましくは、T1≧30である。
【0039】
尚、ここでいう光透過率T1及びT3は、透明基板の透過率を基準としたときのものであり、該当する部分の層構成によって決まるものである。
【0040】
このような転写用パターンの断面模式図は、例えば、
図3(a)に示すものとすることできる。これを、本発明のフォトマスクの第1の態様とし、
図3(a)を参照して説明する。
【0041】
本態様では、主パターンは、透明基板が露出した透光部からなる。尚、主パターンに、透過率の高い膜が形成されても良い。しかしながら、最大の透過率を得られる点で、主パターンには、透過率の高い膜を形成せず、透明基板が露出した構成とすることが好ましい。
【0042】
また、本態様の補助パターンは、透明基板上に半透光膜が形成された、半透光部からなる。この半透光膜は、i線~g線の波長範囲にある代表波長の光を略180度シフトする位相シフト量を有し、代表波長に対する透過率T1(%)を有する。また、主パターン及び補助パターンを囲む部分は、透明基板上に、少なくとも低透光膜が形成された、低透光部となっている。すなわち、
図1に示す転写用パターンにおいて、主パターン及び補助パターンが形成された領域以外の領域が、低透光部となっている。
図3(a)に示すように、本態様では、低透光部は、半透光膜と低透光膜とが、透明基板上に積層している。なお、低透光部は、透明基板上に、半透光膜と、代表波長の光の透過率がT2(%)である低透光膜とが、この順で、または、この逆の順で積層されることができる。
【0043】
本発明のフォトマスクの低透光部は、露光光の代表波長に対して、所定の低い透過率をもつ。すなわち、i線~g線の波長範囲にある代表波長の光に対して、低透光部は、半透光部からなる補助パターンの透過率T1(%)より低い透過率T3(%)をもつ。従って、半透光部と低透光部の積層によって、低透光部を形成している本態様(
図3(a))においては、該積層によって、
T3 < T1
となるように、低透光膜の透過率T2(%)を選択することによって、低透光部の透過率T3(%)を調節すればよい。
【0044】
ここで、主パターンの径(W1)を、4μm以下とするとき、この主パターンに対応して、被転写体上に、径W2(μm)(但しW1>W2)をもつ微細な主パターン(ホールパターン)を形成できる。
【0045】
具体的には、W1(μm)を、下記式(1)
0.8 ≦ W1 ≦ 4.0 ・・・(1)
の関係となるようにすることが好ましい。このとき被転写体上に形成される主パターン(ホールパターン)の径W2(μm)は、3.0(μm)以下、具体的には、
0.6≦W2≦3.0
とすることができる。
【0046】
また、本発明のフォトマスクは、表示装置製造に有用な微細サイズのパターンを形成する目的で使用することができる。例えば、主パターンの径W1が、3.0(μm)以下であるとき、本発明の効果がより顕著に得られる。好ましくは、主パターンの径W1(μm)を、
1.0≦W1≦3.0
とすることができる。尚、径W1と径W2との関係を、W1=W2とすることもできるが、好ましくは、W1>W2とする。すなわち、β(μm)をバイアス値とするとき、
β=W1-W2>0(μm)
であるとき、
0.2≦β≦1.0、
より好ましくは、
0.2≦β≦0.8
とすることができる。このようにするとき、後述するように、被転写体上における、レジストパターンの損失を低減するなどの、有利な効果が得られる。
【0047】
上記において、主パターンの径W1は、円の直径、又はそれに近似される数値を意味する。例えば、主パターンの形状が正多角形であるときは、主パターンの径W1は、内接円の直径とする。主パターンの形状が、
図1に示すように正方形であれば、主パターンの径W1は一辺の長さである。転写された主パターンの径W2においても、円の直径又はそれに近似される数値とする点で同様である。
【0048】
もちろん、より微細化したパターンを形成しようとするとき、W1が2.5(μm)以下、又は2.0(μm)以下とすることも可能であり、更には、W1を1.5(μm)以下として本発明を適用することもできる。
【0049】
尚、本発明のフォトマスクにおける主パターンの径W1、被転写体上の主パターンの径W2、及びバイアスの設定に関する上記の好ましい範囲は、以下の第2から第6の態様にかかる本発明のフォトマスクにおいても、同様に適用できる。
【0050】
このような転写用パターンをもつ、本発明のフォトマスクの露光に用いる露光光の代表波長に対して、主パターンと補助パターンとの位相差φが、略180度である。すなわち、主パターンを透過する、上記代表波長の光と、補助パターンを透過する、上記代表波長との位相差φ1が略180度となる。略180度とは、120~240度を意味する。好ましくは、位相差φ1は150~210度である。
【0051】
尚、本発明のフォトマスクは、i線、h線、又はg線を含む露光光を用いるときに効果が顕著であるので、i線、h線及びg線の少なくとも一つを含む露光光を用いることができる。特にi線、h線、及びg線を含むブロード波長光を露光光として適用することが好ましい。この場合、代表波長としては、i線、h線、g線のいずれかとすることができる。例えばh線を代表波長として、本発明のフォトマスクを構成することができる。
【0052】
このような位相差を形成するためには、主パターンは、透明基板主表面が露出してなる透光部とし、補助パターンは、透明基板上に半透光膜を形成してなる半透光部とし、この半透光膜の、上記代表波長に対する位相シフト量を、略180度とすれば良い。
【0053】
尚、主パターンと補助パターンとの位相差の好ましい範囲、及び、本発明のフォトマスクに適用する露光光の波長については、以下の第2から第6の態様にかかる本発明のフォトマスクにおいても、同様である。
【0054】
第1の態様のフォトマスク、すなわち、
図3(a)に示すフォトマスクにおいて、半透光部のもつ光透過率T1は、以下のようにすることができる。すなわち、半透光部に形成された半透光膜の、上記代表波長に対する透過率が、T1(%)であるとき、
30 ≦ T1 ≦ 80
とする。より好ましくは、
40 ≦ T1 ≦ 75
である。尚、透過率T1(%)は、透明基板の透過率を基準としたときの、上記代表波長の透過率とする。
【0055】
本発明のフォトマスクにおいて、主パターン及び補助パターンが形成された以外の領域に配置され、主パターン及び補助パターンの周囲に形成された低透光部は、以下のような構成とすることができる。
【0056】
低透光部は、露光光(i線~g線の波長範囲にある代表波長の光)を実質的に透過しないものであってもよい。この場合低透光膜単体で、上記代表波長を実質的に透過しないもの(すなわち遮光膜)であって、T3≦0.01すなわち光学濃度OD≧2である低透光膜を適用してもよく、又は、低透光膜と半透光膜の積層膜で、実質的な遮光膜としてもよい。
【0057】
或いは、低透光部は、所定範囲で露光光を透過するものとしても良い。但し、所定範囲で露光光を透過する場合であって、低透光部の透過率T3(%)(ここで、半透光膜と低透光膜の積層の場合には、その積層としての透過率)が、
T3 < T1
を満たすものである。好ましくは、
0 ≦ T3 < 30
より好ましくは、
0 < T3 ≦ 20
を満たす。透過率T3(%)についても、透明基板の透過率を基準としたときの、上記代表波長の透過率とする。
【0058】
また、このように低透光部が所定の透過率で露光光を透過する場合には、低透光部の透過光と、透光部の透過光との位相差φ3は、90度以下とすることが好ましく、より好ましくは60度以下である。「90度以下」とは、ラジアン表記すれば、上記位相差が「(2n-1/2)π~(2n+1/2)π(ここでnは整数)」であることを意味する。上記と同様に、露光光に含まれる代表波長に対する位相差として計算する。
【0059】
従って、この場合には本態様のフォトマスクに用いられる低透光膜の単独の性質としては、30(%)未満の透過率(T2(%))をもち(すなわち、0<T2<30)、位相シフト量(φ2)が略180度であることが好ましい。略180度とは、120~240度を意味する。好ましくは、位相差φ1は150~210度である。これによって、積層からなる低透光部の位相シフト特性については、φ3を上述の範囲とすることができる。
【0060】
ここでの透過率も、上記と同様、透明基板の透過率を基準としたときの、上記代表波長の透過率とする。
【0061】
上記転写用パターンにおいて、補助パターンの幅をd(μm)とするとき、
【数3】
が成り立つときに、発明の優れた効果が得られる。このとき、主パターンの中心と、補助パターンの幅方向の中心の距離をピッチP(μm)とし、ピッチPは、
1.0 < P ≦ 5.0
の関係が成り立つことが好ましい。
【0062】
より好ましくは、ピッチPは、
1.5 < P ≦ 4.5
とすることができる。
【0063】
本発明において、補助パターンは、設計上孤立した主パターンに対して、疑似的に密集パターン(Dense Pattern)のような光学的作用を及ぼす効果があるが、上記の関係式が充足するとき、主パターンと補助パターンとを透過した露光光が、互いに良好な相互作用を奏し、後述の実施例に示すとおりの、優れた転写性を示すことができる。
【0064】
補助パターンの幅d(μm)は、本発明のフォトマスクに適用する露光条件(使用する露光装置)において、解像限界以下の寸法であり、具体的な例としては、
d ≧ 0.7
より好ましくは、
d ≧ 0.8
さらに好ましくは、補助パターンの幅d(μm)は1(μm)以上である。
【0065】
また、d≦W1であることが好ましく、d<W1であることがより好ましい。
【0066】
また、より好ましくは、上記(2)の関係式は、下記の式(2)-1であり、更に好ましくは、下記の式(2)-2である。
【数4】
【数5】
【0067】
上述のとおり、
図1に示すフォトマスクの主パターンは正方形であるが、本発明はこれに限定されない。例えば、
図2に例示されるように、フォトマスクの主パターンは、八角形や円を含む、回転対称な形状であることができる。そして回転対称の中心を、上記Pの基準となる中心とすることができる。
【0068】
また、
図1に示すフォトマスクの補助パターンの形状は、八角形帯であるが、本発明はこれに限定されない。補助パターンの形状は、ホールパターンの中心に対して、3回対称以上の回転対象の形状に一定の幅を与えたものであることが好ましい。好ましい主パターン及び補助パターンの形状は、
図2(a)~(f)に例示された形状であって、主パターンのデザインと補助パターンのデザインとは、互いに
図2(a)~(f)の異なるものを組み合わせても良い。
【0069】
例えば、補助パターンの外周が、正方形、正6角形、正8角形、正10角形等の正多角形(好ましくは正2n角形、ここでnは2以上の整数)又は円形である場合が例示される。そして、補助パターンの形状としては、補助パターンの外周と内周とがほぼ平行である形状、すなわち、ほぼ一定幅をもつ正多角形又は円形の帯のような形状であることが好ましい。この帯状の形状を、多角形帯又は円形帯ともよぶ。補助パターンの形状としては、このような正多角形帯又は円形帯が、主パターンの周囲を囲む形状であることが好ましい。このとき、主パターンの透過光と、補助パターンの透過光との光量のバランスをほぼ同等とすることができるので、本発明の作用効果を得るための、光の相互作用が得やすい。
【0070】
特に、本発明のフォトマスクを表示装置製造用のフォトマスクとして用いる場合、すなわち、本発明のフォトマスクを表示装置製造用のフォトレジストと組み合わせて用いる場合には、被転写体上において補助パターンに対応する部分のレジスト損失を低減することが可能である。
【0071】
あるいは、補助パターンの形状は、主パターンの周囲を完全に囲まずに、上記多角形帯又は円形帯の一部が欠落した形状であっても良い。補助パターンの形状は、例えば、
図2(f)のように、四角形帯の角部が欠落した形状であっても良い。
【0072】
尚、本発明の効果を妨げない限り、本発明の主パターン、補助パターンに加えて、付加的に他のパターンを用いてもかまわない。
【0073】
本態様のフォトマスクの製造方法の一例について、
図4を参照して以下に説明する。
【0074】
図4(a)に示すように、フォトマスクブランクを用意する。
【0075】
このフォトマスクブランクは、ガラス等からなる透明基板上に、半透光膜と低透光膜とがこの順に形成されており、更に第1フォトレジスト膜が塗布されている。
【0076】
半透光膜は、透明基板の主表面上に、i線、h線、g線のいずれかを代表波長とするとき、その透過率が30~80(%)(T1(%)を透過率とするとき、30≦T1≦80)、より好ましくは、40~75(%)であり、かつ、この代表波長に対する位相シフト量が、略180度であるような膜である。このようは半透光膜により、透光部からなる主パターンと、半透光部からなる補助パターンとの間の透過光位相差を略180度とすることができる。そのような半透光膜は、i線~g線の波長範囲にある代表波長の光の位相を略180度シフトする。半透光膜の成膜方法としては、スパッタ法等公知の方法を適用することができる。
【0077】
半透光膜は、上記の透過率と位相差を充足し、かつ、以下に述べるとおり、ウェットエッチング可能な材料からなることが望ましい。但し、ウェットエッチングに際して生じる、サイドエッチングの量が大きくなりすぎると、CD精度の劣化や、アンダーカットによる上層膜の破壊など不都合が生じるため、膜厚の範囲は、2000Å以下であることが好ましい。例えば、300~2000Åの範囲、より好ましくは、300~1800Åである。ここでCDとは、Critical Dimensionであり、本明細書ではパターン線幅の意味で用いる。
【0078】
また、これらの条件を充足するためには、半透光膜材料は、露光光に含まれる代表波長(例えばh線)の屈折率が1.5~2.9であることが好ましい。より好ましくは、1.8~2.4である。
【0079】
更に、位相シフト効果を十分に発揮するためには、ウェットエッチングによるパターン断面(被エッチング面)が、透明基板主表面に対して垂直に近いことが好ましい。
【0080】
上記性質を考慮するとき、半透光膜の膜材料としては、Zr、Nb、Hf、Ta、Mo、Tiの少なくとも一つと、Siとを含む材料、又は、これらの材料の酸化物、窒化物、酸化窒化物、炭化物、又は酸化窒化炭化物を含む材料からなるとすることができる。
【0081】
フォトマスクブランクの半透光膜上には、低透光膜が形成される。成膜方法としては、半透光膜の場合と同様に、スパッタ法等公知の手段が適用できる。
【0082】
フォトマスクブランクの低透光膜は、実質的に露光光を透過しない遮光膜であることができる。又は、露光光の代表波長に対して、所定の低い透過率をもつものとすることができる。本発明のフォトマスクの製造に用いる低透光膜は、i線~g線の波長範囲にある代表波長の光に対して、半透光膜の透過率T1(%)より低い透過率T2(%)をもつ。
【0083】
低透光膜が露光光を透過することができる場合には、露光光に対する低透光膜の透過率及び位相シフト量は、本発明のフォトマスクの低透光部の透過率及び位相シフト量を達成できるものであることが求められる。好ましくは、低透光膜と上記半透光膜との積層状態で、露光光代表波長の光に対する透過率T3(%)が、T3<30、好ましくはT3≦20であり、更に、位相シフト量φ3が、90(度)以下、より好ましくは60(度)以下とする。
【0084】
低透光膜の単独の性質としては、実質的に前記代表波長の光を透過しないものであるか、又は、30(%)未満の透過率(T2(%))をもち(すなわち、0<T2<30)、位相シフト量(φ2)が略180度であることが好ましい。略180度とは、120~240度を意味する。好ましくは、位相差φ1は150~210(度)である。
【0085】
フォトマスクブランクの低透光膜の材料は、Cr又はその化合物(酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、又は酸化窒化炭化物)であっても良く、又は、Mo、W、Ta、Tiを含む金属のシリサイド、又は、該シリサイドの上記化合物であっても良い。但し、フォトマスクブランクの低透光膜の材料は、半透光膜と同様にウェットエッチングが可能であり、かつ、半透光膜の材料に対してエッチング選択性をもつ材料が好ましい。すなわち、半透光膜のエッチング剤に対して低透光膜は耐性をもち、また、低透光膜のエッチング剤に対して、半透光膜は耐性をもつことが望ましい。
【0086】
フォトマスクブランクの低透光膜上には、更に第1フォトレジスト膜が塗布される。本発明のフォトマスクは、好ましくはレーザー描画装置によって描画されるので、それに適したフォトレジストとする。第1フォトレジスト膜はポジ型でもネガ型でも良いが、以下ではポジ型として説明する。
【0087】
次に、
図4(b)に示すように、第1フォトレジスト膜に対して、描画装置を用い、転写用パターンに基づいた描画データによる描画を行う(第1描画)。そして、現像によって得られた第1レジストパターンをマスクとして、低透光膜をウェットエッチングする。これによって、低透光部となる領域が画定し、また低透光部によって囲まれた補助パターン(低透光膜パターン)の領域が画定する。ウェットエッチングするためのエッチング液(ウェットエッチャント)は、使用する低透光膜の組成に適合した公知のものを使用できる。例えば、Crを含有する膜であれば、ウェットエッチャントとして硝酸第2セリウムアンモニウム等を使用できる。
【0088】
次に、
図4(c)に示すように、第1レジストパターンを剥離する。
【0089】
次に、
図4(d)に示すように、形成された低透光膜パターンを含む全面に、第2フォトレジスト膜を塗布する。
【0090】
次に、
図4(e)に示すように、第2フォトレジスト膜に対し、第2描画を行い、現像によって形成された第2レジストパターンを形成する。この第2レジストパターンと、上記低透光膜パターンとをマスクとして、半透光膜のウェットエッチングを行う。このエッチング(現像)によって、透明基板が露出する透光部からなる、主パターンの領域が形成される。尚、第2レジストパターンは、補助パターンとなる領域を覆い、透光部からなる主パターンとなる領域に開口をもつものであるともに、該開口から、低透光膜のエッジが露出するよう、第2描画の描画データに対してサイジングを行っておくことが好ましい。このようにすることで、第1描画と第2描画との間に相互に生じるアライメントずれを吸収し、転写用パターンのCD精度の劣化を防止できる。これは、低透光膜と半透光膜の素材がもつ、互いの膜に対するエッチング選択性を利用した効果である。
【0091】
尚、本態様のフォトマスクにおいて、半透光膜と低透光膜とをエッチング選択性のない、共通のエッチング特性をもつ素材によって構成し、両膜の間に、エッチングストッパ膜を設けても良い。
【0092】
すなわち、このように第2描画の際の第2レジストパターンのサイジングを行うことにより、被転写体上に孤立ホールパターンを形成しようとする際、遮光膜と半透光膜とのパターニングに位置ずれが生じないので、
図1に例示するような転写用パターンにおいて、主パターン及び補助パターンの重心を精緻に一致させることができる。
【0093】
半透光膜用のウェットエッチャントは、半透光膜の組成に応じて適宜選択する。
【0094】
次に、
図4(f)に示すように、第2レジストパターンを剥離して、
図1に示す本発明のフォトマスクが完成する。
【0095】
表示装置用フォトマスクの製造において、透明基板上に形成された遮光膜などの光学膜をパターニングする際、適用されるエッチングとしては、ドライエッチング、及びウェットエッチングがある。いずれを採用しても良いが、本発明においてはウェットエッチングが特に有利である。これは、表示装置用のフォトマスクは、サイズが比較的大きく、更に多種類のサイズが存在するからである。このようなフォトマスクの製造の際に、真空チャンバーを用いるドライエッチングを適用すると、ドライエッチング装置の大きさや製造工程に不効率が生じることになる。
【0096】
但し、このようなフォトマスクの製造の際にウェットエッチングを適用することに伴う課題もある。ウェットエッチングは等方エッチングの性質をもつため、所定の膜を深さ方向にエッチングして溶出させようとする際には、深さ方向に対して垂直な方向にもエッチングが進行する。例えば、膜厚F(nm)の半透光膜をエッチングしてスリットを形成するとき、エッチングマスクとなるレジストパターンの開口は、所望のスリット幅より2F(nm)(すなわち、片側F(nm))だけ小さくするが、微細幅のスリットになるほど、レジストパターン開口の寸法精度を維持しにくい。このため、補助パターンの幅dは1(μm)以上、好ましくは1.3(μm)以上とすることが有用である。
【0097】
また、上記膜厚F(nm)が大きい場合には、サイドエッチング量も大きくなるため、膜厚が小さくても略180度の位相シフト量をもつ膜材料を用いることが有利であり、この結果、該波長に対して半透光膜の屈折率が高いことが望まれる。このため、上記代表波長に対する1.5~2.9、好ましくは、1.8~2.4であるような材料を用いて、半透光膜とすることが好ましい。
【0098】
ところで、
図1に示す本発明のフォトマスクとして、上記態様の他にも、異なる層構成によって同様の光学的な作用効果を奏するものがある。
【0099】
本発明の第2の態様は、
図3(b)に断面を示す層構成を有する。このフォトマスクの平面模式図は、上記第1の態様と同様に、
図1に示すとおりであるが、断面視したときの積層構造が異なる。すなわち、
図3(b)に示す低透光部においては、低透光膜と半透光膜の積層順が上下逆転しており、低透光膜が基板側に配置されている。
【0100】
この場合、本発明のフォトマスクとしての、パターンの設計やその各パラメータ、それらによる光学的な作用効果は、第1の態様のフォトマスクと同様であり、設計デザインとして、
図2に示された変形例が適用可能であることも同じである。また、用いる膜素材の物性も同じとすることができる。
【0101】
但し、第2の態様のフォトマスクにおいては、製造方法上、以下の点で第1の態様との若干の相違があり、このために、使用する膜素材においても、必ずしも第1の態様と同様である必要はない。
【0102】
例えば、第1の態様においては、
図4(a)に示すとおり、半透光膜と低透光膜を積層したフォトマスクブランクを用意し、これに対してフォトリソグラフィ工程を2回適用し、フォトマスクを製造したが、第2の態様においては、透明基板上に低透光膜のみが成膜されたフォトマスクブランクを用意する必要がある。
【0103】
そして、この低透光膜をまずエッチングし、低透光膜パターンを形成する。次いで、この低透光膜パターンが形成された基板上の全面に、半透光膜を成膜し、これをパターニングする。この場合、第1の態様と同様にウェットエッチングでパターニングが行える素材を選択することが好ましい。但し、本態様では、低透光膜と半透光膜とが互いのエッチャントに対する耐性をもつことが必須ではない。すなわち、両膜に、互いにエッチング選択性が無くてもエッチングが可能である。従って、素材の選択に関しては、第1の態様より自由度が高い。
【0104】
次に、本発明のフォトマスクの第3の態様について、
図3(c)を参照して説明する。この態様においても、平面模式図は、
図1と同様であり、また、パターンの設計やその各パラメータ、それらによる光学的な作用効果は、以下の点を除いて第1の態様のフォトマスクと同様であり、設計デザインとして、
図2に示された変形例が適用可能であることも同じである。
【0105】
図3(c)に示す第3の態様のフォトマスクが、第1及び第2の態様のフォトマスクと異なる点は、半透光膜がもつ、前記代表波長の光に対する位相シフト量が、略180度に制約されない点であり、これと関連して、主パターン部分において、透明基板が所定量掘り込まれている点である。すなわち、この態様の主パターンは、材料となった透明基板の主表面の一部が露出するかわりに、該主表面に対してエッチングにより所定量の掘り込みを形成した掘り込み面が露出している。そして、上記半透光膜が形成された補助パターンと、掘り込みが形成された主パターンとの間で、互いを透過するi線~g線の波長範囲にある代表波長の位相差が略180度に調整されている。第1及び第2の態様のフォトマスクと同様に、低透光部は、透明基板上に、半透光膜と、代表波長の光の透過率がT2(%)である低透光膜とが、この順で、または、この逆の順で積層される構造であることができる。
【0106】
第1の態様又は第2の態様においては、半透光膜の素材と膜厚とによって、透過率T1の条件と、主パターンと補助パターンとを透過する代表波長の位相差が略180度という条件とを、共に充足する必要があったが、第3の態様のフォトマスクにおいては、透過率T1の条件を優先して半透光膜の組成や膜厚を決定し、位相差の調整は、主パターンの掘り込み量によって行える利点がある。
【0107】
この点から、本態様のフォトマスクは、半透光膜がもつ上記代表波長の光に対する位相シフト量は、90度以下、又は、60度以下でも良い。主パターンの掘り込み量と、半透光膜がもつ位相シフト量との和によって、主パターンと補助パターンとを透過する代表波長の位相差が略180度となるように調整されればよい。
【0108】
また、第3の態様のフォトマスクにおいて、透明基板の掘り込み形成には、ウェット又はドライエッチングが用いられるが、より好ましくはドライエッチングを適用する。また、本態様のフォトマスクにおいても、半透光膜と低透光膜の間に、エッチングストッパ膜を設けても良い。
【0109】
例えば、透明基板上に半透光膜と低透光膜が積層されたフォトマスクブランクを用意し、まず、主パターン部分の両膜をエッチング除去し、次いで、透明基板を掘り込みエッチングする工程が適用できる。次に、第2のフォトリソグラフィ工程によって、補助パターン部分の低透光膜をエッチング除去することによって、第3の態様のフォトマスクを製造できる。この場合、膜素材としては、第1の態様と同様とすることができる。
【0110】
尚、上記第1の態様と第2の態様との関係と同様に、第3の態様のフォトマスクにおいても、半透光膜と低透光膜の積層順を上下逆転させても良い。
【0111】
次に、
図3(d)を参照して、本発明のフォトマスクの第4の態様について説明する。この態様でも平面模式図は
図1に示すとおりである。第4の態様は、第3の態様と同様に、主パターン部分の透明基板に掘り込みを形成するが、第3の態様と異なり、半透光膜を使用せず、補助パターン部分の透明基板(主表面の一部)は露出している。そして、主パターン部分の掘り込み深さの選択によって、第1~第3の態様と同様に、主パターンと補助パターンとをそれぞれ透過する代表波長の光の位相差が、略180度となっている。
【0112】
この第4の態様においては、補助パターン部分に半透光膜が存在しないので、透過率(T1)は、100(%)となる。この場合、成膜回数が減少でき、それによって、第3の態様より生産効率の向上、及び欠陥発生確率の低下といったメリットが得られる。
【0113】
この場合、T1=100(%)を、式(2)に適用し、
【数6】
すなわち、
0.5 ≦ d ≦ 1.5 ・・・(2)
となる。好ましくは、d < W1 である。
【0114】
また、第4の態様のフォトマスクに使用する低透光膜がもつ、上記代表波長の光に対する位相シフト量は略180度である必要はなく、90度以下であることが好ましい。より好ましくは60度以下である。
【0115】
第4の態様のフォトマスクにおいても、
図1に示すパターンの設計や、特記した以外の各パラメータ、それらによる光学的な作用効果は、第1の態様のフォトマスクと同様であり、設計デザインとして、
図2に示された変形例が適用可能であることも同じである。また、低透光膜に用いる膜素材やその物性も第1の態様と同じとすることができる。すなわち、低透光部は、透明基板上に、前記代表波長の光の透過率がT2(%)(=T3(%))である低透光膜が、形成される構造とすることができる。
【0116】
ところで、第4の態様における、主パターンと補助パターンの断面構造を逆にしたものが、第5の態様(
図3(e))である。第5の態様の主パターンは、透明基板の主表面の一部が露出しており、補助パターンは、透明基板の主表面に掘り込みが形成されている。すなわち、主パターン部分の透明基板掘り込み形成の変わりに、補助パターン部分の透明基板を掘り込むことによって、主パターンと補助パターンとを透過する、上記代表波長の光の位相差を略180度としている。この場合でも、平面視のデザインやその光学的な作用効果が第4の態様と同じであることは言うまでもない。また、その製造方法や適用する膜材などについても、特に相違はない。したがって、第5の態様の低透光部は、透明基板上に、代表波長の光の透過率がT2(%)(=T3(%))である低透光膜が、形成されている。
【0117】
図3(f)に示す、本発明の第6の態様は、第1~第5の態様において採用した構成に対し(
図3(f)では代表して、第1の態様のフォトマスク断面模式図を使用)、遮光膜パターンを付加する可能性を示すものである。これは、低透光膜が実質的な透過率をもつ場合に、考慮に値する。
【0118】
すなわち、主パターン及び補助パターンの近傍においては、逆位相の光の干渉作用を利用するが、上記から離間した低透光部の領域においては、低透光膜を透過する光の存在は不要であったり、むしろ、被転写体上に形成するレジストパターンの残膜量を減少させるデメリットをもたらすリスクがある。このリスクを排除したい場合には、主パターン及び補助パターンから離間した低透光部の領域において、遮光膜パターンを付加し完全に遮光を行うことも有用である。
【0119】
従って、本発明においては、その作用効果を損なわない限り、このような遮光膜パターンの使用を妨げない。尚、遮光膜とは、実質的に露光光(上記i線~g線範囲の代表波長の光)を透過しない、OD(光学濃度)2以上の膜をいう。その素材は、クロム(Cr)を主成分としたものが挙げられる。
【0120】
本発明は、上記した本発明のフォトマスクに、露光装置により露光して、被転写体上に、上記転写用パターンを転写し、ホールパターンを形成する工程を含む、表示装置の製造方法を含む。
【0121】
本発明の表示装置の製造方法は、まず、上述の本発明のフォトマスクを用意する。次に、開口数(NA)が0.08~0.20であり、i線、h線及びg線の少なくとも一つを含む露光光源をもつ露光装置を用いて、前記転写用パターンを露光し、被転写体上に、径W2が3.0μm以下、好ましくは0.6~3.0μmのホールパターンを形成する。なお、露光装置の露光光源は、i線、h線及びg線を含むことが好ましい。露光には、等倍露光を適用することが一般的であり、有利である。
【0122】
本発明のフォトマスクを用いて、転写用パターンを転写する際に用いる露光機としては、等倍のプロジェクション露光を行う方式であって、以下のものが挙げられる。すなわち、LCD(液晶表示装置)用(或いはFPD用、液晶用)として使用される露光機であり、その構成は、光学系の開口数(NA)が0.08~0.15(コヒレンスファクタ(σ)が0.4~0.9)であり、i線、h線及びg線の少なくとも一つを露光光に含む光源(ブロード波長光源ともいう)をもつものである。但し、開口数NAが0.10~0.20となるような露光装置においても、本発明を適用して発明の効果を得ることがもちろん可能である。
【0123】
また、使用する露光装置の光源は、変形照明(輪帯照明など)を使用しても良いが、非変形照明でも、発明の優れた効果が得られる。
【0124】
本発明は、第1~3の態様(及びこれを適用した第6の態様)のフォトマスクの原料として、透明基板上に半透光膜と低透光膜(及び必要に応じて更に遮光膜)を積層したフォトマスクブランクを使用する。そして、更に表面にレジスト膜を塗布形成して、フォトマスクの製造を行う。
【0125】
半透光膜及び低透光膜の物理的性質、膜質、及び組成については、上記に記したとおりである。
【0126】
すなわち、上記フォトマスクブランクの半透光膜は、i線~g線の波長範囲にある代表波長に対する透過率T1が30~80(%)であることが好ましい。また、前記半透光膜は、前記代表波長に対して、屈折率が1.5~2.9であり、略180度の位相シフト量をもつような膜厚とされている。このような屈折率を有する半透光膜の膜厚は、十分に薄くても所望の位相シフト量を有するため、半透光膜のウェットエッチング時間を短くすることができる。この結果、半透光膜のサイドエッチングを抑制することができる。
【0127】
また、本発明のフォトマスクのすべての態様において、低透光膜が成膜されたフォトマスクブランクを用いて製造できる。
【0128】
この低透光膜は、実質的に前記代表波長の光を透過しないものであるか、又は、30%未満の透過率をもつものが使用できる。また、低透光膜のもつi線~g線範囲内の代表波長に対する位相シフト量は、第1及び第2の態様によるフォトマスクでは略180度とし、第3、第4及び第5の態様によるフォトマスクでは、90度以下、より好ましくは60度以下とすればよい。
【実施例】
【0129】
図5に示す、3種類(比較例1-1及び1-2並びに実施例1)のフォトマスクについて、光学シミュレーションにより、その転写性能を比較し、評価した。すなわち、被転写体上に、径が2.0μmのホールパターンを形成するための転写用パターンを有する3つのフォトマスクについて、露光条件を共通に設定したときに、どのような転写性能を示すかについて、光学シミュレーションを行った。
【0130】
(比較例1-1)
図5に示すように、比較例1-1のフォトマスクは、透明基板上に形成した遮光膜パターンからなる、いわゆるバイナリマスクのパターンを有する。比較例1-1のフォトマスクでは、透明基板が露出する透光部からなる主パターンが、遮光部に囲まれている。主パターンの径W1(正方形の一辺)は2.0(μm)である。
【0131】
(比較例1-2)
図5に示すように、比較例1-2のフォトマスクは、露光光透過率(対h線)が5%であって位相シフト量が180度の半透光膜をパターニングすることにより形成された、一辺(径)(すなわちW1)が2.0(μm)の四角形の透光部からなる主パターンをもつ、ハーフトーン型位相シフトマスクである。
【0132】
(実施例1)
図5に示すように、実施例1のフォトマスクは、本発明の転写用パターンを有す。ここで主パターンは、一辺(径)(すなわちW1)が2.0(μm)の正方形とし、補助パターンは幅dが1.3(μm)の八角形帯とし、主パターン中心と、補助パターンの幅中心との距離であるピッチPは、4(μm)とした。
【0133】
補助パターンは、透明基板上に半透光膜が形成されてなる、上記第1の態様のフォトマスクを想定したものである。この半透光膜の露光光(対h線)透過率T1は、70(%)、位相シフト量は180度である。また、主パターン及び補助パターンを囲む低透光部は、実質的に露光光を透過しない遮光膜(OD>2)よりなる。
【0134】
比較例1-1及び1-2並びに実施例1のフォトマスクのいずれについても、被転写体上に、径W2が2.0μm(W1=W2である。すなわち、被転写体上に形成される径W2は、フォトマスクの転写用パターンがもつ主パターンの径W1と同一である。)のホールパターンを形成するものとする。シミュレーションで適用した露光条件は、以下のとおりである。すなわち、露光光はi線、h線、g線を含むブロード波長とし、強度比は、g線:h線:i線=1:0.8:1とした。
【0135】
露光装置の光学系は、NAが0.1であり、コヒレンスファクタσが0.5である。被転写体上に形成される、レジストパターンの断面形状を得るための、ポジ型フォトレジストの膜厚は、1.5μmとした。
【0136】
上記条件下、各転写用パターンの性能評価を
図5に示す。また、被転写体上に形成される、光強度の空間像と及びそれによって形成されるレジストパターンの断面形状を
図6に示す。
【0137】
(フォトマスクの光学的評価)
例えば、径の小さい微細な透光パターンを転写するには、フォトマスク透過後の露光光が、被転写体上に形成する空間像、すなわち、透過光強度曲線のプロファイルが良くなければならない。具体的には、透過光強度のピークを形成する傾斜が鋭く、垂直に近い立ち上がり方をしていること、及び、ピークの光強度の絶対値が高いこと(周囲にサブピークが形成される場合には、その強度に対し相対的に、十分に高いこと)などが肝要である。
【0138】
より定量的に、フォトマスクを、光学的な性能から評価するとき、以下のような指標を用いることができる。
【0139】
(1)焦点深度(DOF)
目標CDに対し、±10%以の範囲内となるための焦点深度の大きさ。DOFの数値が高ければ、被転写体(例えば表示装置用のパネル基板)の平坦度の影響を受けにくく、確実に微細なパターンが形成でき、そのCD(線幅)ばらつきが抑えられる。
【0140】
(2)MEEF(Mask Error Enhancement Factor)
Mask CD誤差と被転写体上に形成されたパターンのCD誤差の比率を示す数値であり、MEEFが低いほど被転写体上に形成されたパターンのCD誤差が低減できる。
【0141】
(3)Eop
表示装置製造用のフォトマスクにおいて、特に重要な評価項目に、Eopがある。これは、得ようとするパターンサイズを被転写体上に形成するために必要な露光光量である。表示装置製造においてはフォトマスクサイズが大きい(例えば、主表面の一辺が300~1400mm程度の正方形又は長方形)ため、Eop数値が低いフォトマスクを用いると、スキャン露光の速度を上げることが可能であり、生産効率が向上する。
【0142】
以上をふまえ、シミュレーション対象の各サンプルの性能を評価すると、
図5に示すとおり、実施例1のフォトマスクは、焦点深度(DOF)が、55μm以上に拡大するなど、比較例に比べて非常に優れている点で、パターンの安定した転写性を示す。これは、MEEFの値が小さいこととともに、微細なパターンのCD精度の高さをも意味する。
【0143】
更に、実施例1のフォトマスクのEopの値が非常に小さい。このことは、実施例1のフォトマスクの場合には、大面積の表示装置製造にあっても、露光時間が増大しない、又は短縮できるメリットを示している。
【0144】
また、
図6に示す透過光強度の空間像を参照すると、実施例1のフォトマスクの場合には、レジストが感光する閾値となるレベル(Eth)に対して、主パターン部のピークを高くすることが可能であり、そのピークの傾斜も、十分に立たせる(被転写体の表面に対して垂直に近づく)ことが可能であることがわかる。この点は、比較例1-1及び1-2と比較して優位である。ここでは、補助パターンを透過する光を、主パターン位置の光強度増強に利用することを通じて、Eopの増加とMEEFの低減を達成している。尚、実施例1のフォトマスクでは、主パターンの転写像位置の両側にサイドピークが生じているが、Eth以下であるため、主パターンの転写には影響が無い。
【0145】
尚、このサイドピークに由来するレジスト残膜の損失を低減する方法について、以下に説明する。
【0146】
フォトマスクに形成する転写用パターンのデザインを変更し、
図7に示す(比較例2-1、比較例2-2及び実施例2のサンプルを用いて、シミュレーションを行った。ここでは、各サンプルともに、主パターンの径W1を2.5(μm)としている点で、上記サンプル(比較例1-1、比較例1-2及び実施例1)と異なる。
【0147】
(比較例2-1)
図7に示すように、比較例2-1のフォトマスクは、透明基板上に形成した遮光膜パターンからなる、いわゆるバイナリマスクのパターンである。比較例2-1のフォトマスクでは、透明基板が露出する透光部からなる主パターンが、遮光部に囲まれている。この主パターンの径W1(正方形の一辺)は2.5(μm)である。
【0148】
(比較例2-2)
図7に示すように、比較例2-1のフォトマスクは、露光光透過率(対h線)が5%であって位相シフト量が180度の半透光膜をパターニングすることにより形成された、主パターンの径W1(正方形の一辺)が2.5(μm)の四角形の透光部からなる主パターンをもつ、ハーフトーン型位相シフトマスクである。
【0149】
(実施例2)
図7に示すように、実施例2のフォトマスクは、本発明の転写用パターンである。実施例2のフォトマスクの主パターンは、主パターンの径W1(正方形の一辺)が2.5(μm)の正方形であり、補助パターンは幅dが1.3(μm)の八角形帯であり、主パターン中心と、補助パターンの幅中心の距離であるピッチPは、4(μm)とした。ここでも、実施例2のフォトマスクは、第1の態様のフォトマスクを想定している。
【0150】
比較例2-1、比較例2-2及び実施例2のフォトマスクを用いて、被転写体上に、径が2.0μmのホールパターンを形成するものとする。すなわち、これらのフォトマスクのマスクバイアス(β=W1-W2)を0.5(μm)とした。ミュレーションで適用した露光条件は、上述の比較例1-1及び1-2並びに実施例1のフォトマスクの場合と同じである。
【0151】
図7に示されたデータから明らかなとおり、実施例2のフォトマスクを用いた場合には、優れたDOF、MEEFとともに、比較例2-1及び2-2に対して有利な性能を示した。実施例2のフォトマスクでは、特にDOFが、35μmを超える数値となっている。
【0152】
また、
図8に示す、透過光強度の空間像と、被転写体上のレジストパターン断面形状とを参照すると、更に、実施例2のサンプルのもつ優れた特性が明らかになる。
図8に示すように、実施例2のフォトマスクを用いた場合には、主パターンに対応するピークが、両サイドに形成されるサイドピークより格段に高く、レジストダメージが殆ど生じない。
【0153】
以上の結果から、本発明のフォトマスクを用いたパターン転写の場合には、マスクバイアスβが0.5(μm)程度、具体的には、0.2~1.0(μm)の範囲である転写用パターンにおいて、より実用に供しやすい、優れた転写像を得られることが明らかになった。
【0154】
以上により、本発明のフォトマスクの優れた性能が確認された。特に、本発明のフォトマスクを用いるならば、2μm以下の微細なパターンにおいて、MEEFが2.5以下の数値を得ることができることは、将来の表示装置製造における意義が大きい。
【0155】
本発明のフォトマスクの用途に特に制限は無い。本発明のフォトマスクは、液晶表示装置やEL表示装置などを含む表示装置の製造の際に、好ましく用いることができる。
【0156】
本発明のフォトマスクによれば、主パターンと補助パターンの双方を透過する露光光の相互干渉を制御し、露光時にゼロ次光を低減させ、±1次光の割合を相対的に増大させることができる。このため、透過光の空間像を大幅に改善することができる。
【0157】
このような作用効果を有利に得られる用途として、液晶やEL装置に多用されるコンタクトホールなど、孤立したホールパターンの形成のために本発明のフォトマスクを用いることが有利である。パターンの種類としては、一定の規則性をもって多数のパターンが配列することにより、これらが相互に光学的な影響を及ぼしあう密集(Dense)パターンと、こうした規則的配列のパターンが周囲に存在しない孤立パターンとを区別して呼称することが多い。本発明のフォトマスクは、被転写体上に孤立パターンを形成しようとするとき好適に適用される。
【0158】
本発明の効果を損ねない範囲で、本発明のフォトマスクには付加的な光学膜や機能膜を使用しても良い。例えば、低透光膜のもつ光透過率が、検査やフォトマスクの位置検知に支障を与える不都合を防ぐために、転写用パターン以外の領域に遮光膜が形成される構成としても良い。また、半透光膜においては、その表面に描画光や露光光の反射を低減させるための反射防止層を設けても良い。