(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】オーディオ機器用音響プロテクタおよび該プロテクタを備えるオーディオ機器
(51)【国際特許分類】
H04R 1/12 20060101AFI20230221BHJP
H04R 1/10 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
H04R1/12
H04R1/10 104Z
(21)【出願番号】P 2021509797
(86)(22)【出願日】2018-10-03
(86)【国際出願番号】 IB2018057666
(87)【国際公開番号】W WO2020070542
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】510042943
【氏名又は名称】サアティ エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】マッキントッシュ,ジェイソン
(72)【発明者】
【氏名】カノニコ,パオロ
【審査官】岩田 淳
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-502211(JP,A)
【文献】特開平07-123492(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0092101(US,A1)
【文献】西独国特許出願公開第02913644(DE,A1)
【文献】国際公開第2009/015210(WO,A2)
【文献】国際公開第2012/121730(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーディオ機器用の音通過プロテクタであって、
前記
音通過プロテクタは
、ドーム(7)および首部(6)を備え、該首部は、前記音通過プロテクタ(4)を音生成トランスデューサの音響ポート(5)上に保持し、該音生成トランスデューサは、人の耳に対して音を再生する目的で使用され、前記
ドーム(7)は、少なくとも曲線部(7a)と、前記首部(6)と柔軟性をもって接続する
蛇腹あるいは周辺サスペンション部(8,9)とを備え、前記
蛇腹あるいは周辺サスペンション部(8,9)は、前記
ドーム(7)の移動方向に沿って形成されることで、前記
ドーム(7)が、前記音響ポート(5)に対して、軸方向(F)に制御されて変位し、
前記ドーム(7)の曲線形状を変えずに、音の減衰や歪みを最小限に抑えながら、音を通過させ、耳垢、ほこり、屑、水といった異物が音響ポートに入り込むことを防ぐ、ことを特徴とする音通過プロテクタ。
【請求項2】
蛇腹サスペンション部(8)あるいは周辺サスペンション部(9)が、
前記ドーム(7)の音響変位を許容する、変形可能な素材からなる、ことを特徴とする、請求項1に記載の音通過プロテクタ。
【請求項3】
前記ドーム(7)の直径は、1mm~4mmであり、前記オーディオ機器
の前記音通過プロテクタの全長は、3mm~8mmである、ことを特徴とする、請求項1に記載の音通過プロテクタ。
【請求項4】
前記ドーム(7)は、放射線状プリーツ(10)を備え、音が前記ドームを通り抜けるよう
許容する、ことを特徴とする、請求項1に記載の音通過プロテクタ。
【請求項5】
支持壁(18)が前記ドーム(7)内に設けられている、ことを特徴とする、請求項1に記載の音通過プロテクタ。
【請求項6】
平面膜(19)が前記ドーム(7)上に設けられ、高周波数が通り抜けることが許容される、ことを特徴とする、請求項1に記載の音通過プロテクタ。
【請求項7】
孔あるいは溝(25)が前記首部(6)に設けられる、ことを特徴とする、請求項2に記載の音通過プロテクタ。
【請求項8】
前記音通過プロテクタは、前記首部(6)の箇所にメッシュ織物(20)を更に備え、前記首部(6)と前記音響ポート(5)の間に制御隙間を設けることで、均圧化首部とする、ことを特徴とする、請求項2に記載の音通過プロテクタ。
【請求項9】
前記音通過プロテクタは、ホルダ(21)を更に設けることで、前記音通過プロテクタを前記音響ポート上に機械的に保持し、前記ホルダが充分な剛性を有することにより、前記音通過プロテクタが前記音響ポート(5)上に安定する、ことを特徴とする、請求項1に記載の音通過プロテクタ。
【請求項10】
前記ホルダ(21)が一つあるいはそれ以上の芯(22)を有し、それにより前記音通過プロテクタの前記ホルダ上への機械的保持を補助する、ことを特徴とする、請求項9に記載の音通過プロテクタ。
【請求項11】
前記ホルダ(21)は保持桟(23)を有し、それにより前記音通過プロテクタが必要以上に前記ホルダ上に押し付けられないよう、ストッパーの役目を果たす、ことを特徴とする、請求項9に記載の音通過プロテクタ。
【請求項12】
一つあるいはそれ以上の音響路(23)を有する前記ホルダ(21)に延長部(24)を設けることにより、前記ドーム(7)が裏返ることを防ぐ、ことを特徴とする、請求項10に記載の音通過プロテクタ。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の前記音通過プロテクタによって覆われた音響ポートを有する音生成トランスデューサを備えるオーディオ機器。
【請求項14】
補聴器であって、電気配線(3)を介しレシーバ(2)と接続し、電子機器および電源を有する本体(1)と、前記音通過プロテクタを保持する音響ポート(5)および首部(6)とを備え、前記レシーバ(2)の前記音響ポート(5)から音を出すことを許容しつつも、音響ポートにいかなる異物が進入することを防ぐ、ことを特徴とする、請求項13に記載のオーディオ機器。
【請求項15】
前記オーディオ機器は、前記音通過プロテクタを備えた携帯電話、タブレット型端末、
または携帯用
スピーカーであって、前記音通過プロテクタ内では、
前記ドームの厚みに応じて変化するドームの質量が、低周波応答を促進するバス・レフを形成するよう選択される、ことを特徴とする、請求項13に記載のオーディオ機器。
【請求項16】
前記音通過プロテクタ(4)によって覆われた音響ポート(26)を有する携帯用ラウドスピーカー(30)であって、前記音通過プロテクタ(4)は、前記ポート(26)の外端(27)、前記ポート(26)の内端(28)、あるいは、前記ポート(26)内部に取り付けられている、ことを特徴とする、請求項15に記載のオーディオ機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーディオ・トランスデューサを異物から保護しつつ、音の歪みを最小限に抑えて、音を容易に通過させるよう設計されたオーディオ機器用音響プロテクタに関する。本発明はまた、該プロテクタを備えるオーディオ機器に関する。
【背景技術】
【0002】
保護される機器の例として、着用者の聴覚損失を補うことを目的とした補聴器が挙げられる。使用者に対して増幅音を生成する、補聴器のトランスデューサ(または、スピーカー)をレシーバと称する。レシーバは、一般的に、鼓膜に向かって音を発する耳道に配置され、補聴器の筐体あるいは本体は、鼓膜の前に開放音響ポートを備える。
【0003】
CIC(completely-in-the-canal:完全に耳穴に入る)型の、既知の補聴器には、着用者の耳に着脱する際、機器の音響ポートを通って、耳垢がレシーバ内に押し込まれてしまい、レシーバの不良を引き起こすといったデメリットがあった。
【0004】
別の例として、音声会話や音楽鑑賞の場面で、使用者の耳道内に音を生成する、補聴器スピーカーに類似したトランスデューサを使用したヘッドフォンが挙げられる。この補聴器の場合、機器内のレシーバが、使用者の耳から出る耳垢で塞がれる可能性がある。
【0005】
別の例として、携帯電話等の機器と接続される、ブルートゥース(登録商標)・スピーカー等の小型の携帯スピーカーが挙げられる。こうした携帯スピーカーは、屋外や、砂、ほこり、水などが進入しうる場所で使用されることが多い。たいていの場合、小型の音響ポートは、こうした異物から充分に保護されているとは言えず、音だけを通過させつつも、機器を異物の進入から保護する必要があった。
【0006】
オーディオ機器(レシーバおよびマイク)は、精密機器のため、異物が進入した場合、故障しやすい。異物となるものは、環境によって様々だが、音響機器において留意されるべきものとしては、ほこり、磁気片、砂といった重量のある粒子、水や粒子の混ざった水(すなわち、泥や「垢」)、皮膚組織、油分、耳垢等がある。フィルタや目の細かいメッシュにより、こうした粒子の大部分は排除されるが、好ましくない異物の中には、「開放多孔」状壁をすり抜けてしまうものもある。理想的な状況としては、全ての異物を排除しつつも、音質を損なうことなく音のみを通過させることである。
【0007】
音は、空気が前後に小さく揺れたもの(または、変位)と見なすことができる。微細な多孔開口は、音の揺れを通すため、一般的に、音響装置には多孔壁が使用される。開口が小さければ小さいほど、音が通りにくく、従って、多孔質材によって音の減衰が大きくなる。異物の進入を防ぐにあたり、孔を小さくすることは重要であるが、一般的に、異物からの保護を重視すると、消音が引き起こされることとなる。理想としては、この減衰を可能な限り抑えることにある。
【0008】
音響ポートを塞ぐ平面膜のような「完全な」壁が使用された場合、壁の一方の側から他方の側へ、音の揺れが通るように、壁自体が移動しなければならない。しかし、こうした壁は、音に好ましくない影響を及ぼす。壁の密度が空気よりも大幅に高い場合(散見されるケースではあるが)、相当の消音が引き起こされ得る。また、壁が動くことにより、音に歪みが生じ、音質が著しく劣化する。こうした歪みは、高い音圧レベルの場合に、特に顕著である。
【0009】
既述の通り、本発明が保護する機器の中には、耳道の入り口、あるいは耳道の奥に押し込まれた音響ポートを有するものがある。耳滓、一般的には耳垢や、皮膚組織が、こうしたオーディオ機器が留意すべき、主たる異物である。しかし、耳滓は、単なる「垢」だけでなく、耳道内が比較的高温の場合、耳滓は、低粘度の液状や、気体・蒸気状であり得る。低粘度の液状、あるいは蒸気状である場合、耳滓は、多孔質材を通り抜けてしまい、異物からオーディオ機器を保護する効果が比較的薄れてしまう。
【0010】
種々のヘッドフォンや補聴器において、音を生成するのに使用されるオーディオ・トランスデューサは、一般的に、「レシーバ」と称される。レシーバは、一般的に、その他多くの装置において、「ラウドスピーカー」あるいは、単に「スピーカー」と称されるが、このような機器においては、「レシーバ」と称される。こうしたレシーバは、通常、音を発する小さい筒、つまり「音響ポート」を有する。この音響ポートから出る音は、耳道に直接入り込む、あるいは、音響ポートに取り付けられた小径筒を通って送られる。
【0011】
特許文献1は、補聴器トランスデューサを保護する貫孔壁について検討している。特許文献2は、平面壁面を有する、補聴器用保護機器について記載している。特許文献3は、耳道内を部分的に閉塞する、イヤホンアダプタに関する。特許文献4は、内部支持ブリッジを備える補聴器用耳垢ガードを例示している。特許文献5および特許文献6は、両方ともラウドスピーカーシステムについて記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】欧州特許出願公開第2493216号明細書
【文献】欧州特許出願公開第0835042号明細書
【文献】米国特許出願公開第2011/268308号明細書
【文献】米国特許第5278360号明細書
【文献】米国特許第5150417号明細書
【文献】特開平11-308689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、当技術分野では、聴覚機器に入る音の減衰を、可能な限り最小限に抑え、音の大幅な歪みのない、「完全な」壁に対する需要があった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
こうした問題を、請求項1に記載のオーディオ機器用音響プロテクタによって解決する。本発明による機器の、さらに好ましい実施形態は、その他請求項によって特徴づけられる。
【0015】
本発明による音響プロテクタは、下記図面を参照しながら、例示される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明のプロテクタを備える、RIC(receiver-in-canal:耳穴内レシーバ)型の補聴器の一般構造を示す。
【
図2】
図2は、音響ポートの上に配置した、本発明による、
図1に示す機器のレシーバの縦断面図を示す。
【
図3】
図3は、本発明の第1実施形態による機器の断面図を示す。
【
図4a】
図4aは、本発明の第1実施形態による機器の断面図を示す。
【
図4b】
図4bは、本発明の第1実施形態による機器の断面図を示す。
【
図5a】
図5aは、本発明の第2実施形態による機器の、他の図を示す。
【
図5b】
図5bは、本発明の第2実施形態による機器の、他の図を示す。
【
図6a】
図6aは、本発明の第3実施形態による機器を示す。
【
図6b】
図6bは、本発明の第3実施形態による機器を示す。
【
図7】
図7は、本発明による機器の、他の動作を示す。
【
図8】
図8は、本発明による機器の、他の動作を示す。
【
図9】
図9は、本発明による機器の、可動ピストンドームの効果を示す。
【
図10a】
図10aは、本発明の他の実施形態による機器が備えるドームを示す。
【
図10b】
図10bは、本発明の他の実施形態による機器が備えるドームを示す。
【
図11a】
図11aは、本発明の他の実施形態による機器が備えるドームを示す。
【
図11b】
図11bは、本発明の他の実施形態による機器が備えるドームを示す。
【
図12a】
図12aは、本発明の他の実施形態による機器が備えるドームを示す。
【
図12b】
図12bは、本発明の他の実施形態による機器が備えるドームを示す。
【
図13】
図13は、本発明の他の実施形態による機器が備えるドームを示す。
【
図14】
図14は、本発明の他の実施形態による機器が備えるドームを示す。
【
図15】
図15は、本発明の他の実施形態による機器が備えるドームを示す。
【
図16】
図16は、本発明の他の実施形態による機器が備えるドームを示す。
【
図17】
図17は、本発明の他の実施形態による機器が備えるドームを示す。
【
図18】
図18は、本発明による音響プロテクタを備える、バス・レフ型スピーカーを示す。
【
図19a】
図19aは、本発明による音響プロテクタを備える、バス・レフ型スピーカーを示す。
【
図19b】
図19bは、本発明による音響プロテクタを備える、バス・レフ型スピーカーを示す。
【
図19c】
図19cは、本発明による音響プロテクタを備える、バス・レフ型スピーカーを示す。
【
図20a】
図20aは、本発明の他の実施形態による機器が備えるドームを示す。
【
図20b】
図20bは、本発明の他の実施形態による機器が備えるドームを示す。
【
図20c】
図20cは、本発明の他の実施形態による機器が備えるドームを示す。
【
図21】
図21は、本発明の他の実施形態による機器が備えるドームを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のプロテクタは、
図1の例に示されており、電子機器および電源を有する本体1を備える補聴器に取り付けられ、電気配線3を介して音生成トランスデューサ2に接続される。本発明に開示する機器は、曲線形状および不浸透性を有する音響プロテクタ4を備える。音響プロテクタ4は、下記の部位を備える(
図2および
図3)。
・プロテクタ4を音響ポート5上に保持する機能を有する首部6
・音波を音生成トランスデューサ2から鼓膜に伝える、曲線状の音放射素子、あるいはドーム7
・音放射素子7を首部6に柔軟に接続し、音放射素子を軸方向に制御して変位させるサスペンション部、あるいは蛇腹8
本発明において、「制御」は、ドームの曲線形状を変えずに、放射素子7が、
図3の矢印Fの方向(音響ポート5に対する軸方向)に移動することを指す。
【0018】
本発明の機器のプロテクタ4により、音は音響ポート5を通るが、いかなる異物も音響ポートに進入できないため、レシーバの損傷が避けられる。このドーム型が有する主要部品は、線形運動を実現するサスペンション部8の「蛇腹」構造、そして剛性を実現する音放射素子7の「ドーム」構造である。
【0019】
特に、サスペンション部8は、トランスデューサ2から鼓膜への音伝動に欠かせない、放射素子7の軸方向移動を実現するよう、機能する。音放射素子7の曲線形状は、変形およびそれによる音の歪みを回避しつつ、音伝動中に素子の外形を維持するのに不可欠である。
【0020】
図5に示す実施形態によると、周辺部9が蛇腹部の代わりに用いられている。ここで、機器が、より小径の音響ポートと接続できるよう、首部は、より細くなっている。
【0021】
ドームの直径は、1mm~4mmであることが好ましく、機器の全長は、3mm~8mmであることが好ましい。素材としては、シリコンや特定の「ゴム」素材といった、弾性変形可能なものとする。ただし、蛇腹8や周辺部9のみ、変形可能である必要があり、ドーム7および/または首部6には、ポリエチレンテレフタレートといった、より硬度の高い素材が用いられる。
図4a、
図4b、
図5a、および
図5bに、上述した二点の寸法に関する詳細を示す。また、添付した
図6aおよび
図6bに示すように、音が本発明の機器を通るよう、円型ドーム7に放射線状プリーツ10を設けることも可能である。
【0022】
各部位の理想とする一般設計に関しては、下記に説明する。
【0023】
<蛇腹/周辺部の理想形>
蛇腹8または周辺部9により、ドーム7が移動し、ドームを「公称」位置に戻すばね挙動が生まれる。蛇腹/周辺部の「ばね定数」は、ドームの推定音響変位範囲に対し、可能な限り一定であることが重要である。ドーム内の変位対圧力低下をプロットすると、この二つの量は、線形関係を有することが求められる。この線形からずれた場合、ドームを通る音信号に非線形の歪みが生じる。蛇腹/周辺部にあたる部分は、線形範囲を最大化するよう、設計される。
図7において、軸11および12は、それぞれ、圧力と変位を示し、直線13は、低変位の場合の線形挙動を、線14は、歪みにつながる大きな変位があった場合の、非線形挙動を示す。
【0024】
線の傾斜もまた重要である。一般的に、その他の部位の形状との最適化は図らなければならないものの、ドームの移動しやすさの観点から、急な傾斜が望ましい。
図8では、緩やかな傾斜15が、一般的には好ましくないとされる、硬さのある蛇腹の場合を示し、急な傾斜16が、一般的には好ましいとされる、基準に合った蛇腹の場合を示している。圧力範囲は、最大約140dB(SPL)であり、変位は、最大約0.05mmである。
【0025】
図21に示す実施形態において、本発明のプロテクタ4は、楕円形を有し、同軸上に交互に曲がる、複数の屈曲部8aからなるサスペンション部8を備える。
【0026】
<ドーム型の理想形>
ドーム7が移動すると、ドームが移動した分に比例して、ドームの直径と同じ大きさの円形と、略等しい分の空気の体積が移動する。ここでの「円形」領域は、ドームにおける有効「可動ピストン」と称される。
図9では、ドーム7の有効可動ピストン17が示される。平面状の板であった場合、非線形の歪みがうまれ、ドームの大きさは、首部の大きさ程度に制限されてしまう。しかし、本発明の機器のプロテクタ4におけるドーム7は、(表面上の均等圧力に対して)設計され得る最も高い剛性を有する構造を有し、剛性挙動による非線形の変位挙動を引き起こさずに、首部よりも実際は大きく作製される。
【0027】
ドーム7を大きく作製することが重要であり、ドームが大きければ大きいほど、同等の空気容積変位量を得るにあたり、より少ない移動で済む。つまり、蛇腹の非線形剛性挙動が最小限に抑えられる。また、ドームの音響インピーダンスは、音響直径の二乗分の一に比例するため、ドームが大きければ大きいほど、音響インピーダンス(dがドームの直径であるとき、音響インピーダンス=1/d2)は小さくなる。音響インピーダンスが大きければ大きいほど、ドーム内の消音は顕著になる。
【0028】
したがって、ドームは、その剛性構造を可能な限り大きくすることで、蛇腹における非線形剛性挙動による歪みを押さえ、音響インピーダンスを低減させ、機器内での消音を避ける。
【0029】
完全なドーム型である必要はなく、従来の「アーチ型」であっても、ドームと同様の機能を果たす。アーチ型も、構造全体に負荷を分散させ、強い構造を実現するためである。
【0030】
ドーム壁の厚さは、ドームの素材による。一般的に、ドームが高い音響圧力に潰されないよう、充分な厚さをもたせつつ、高周波の音響インピーダンスを増加させ、減衰を加速させないよう、大型化を避けることが求められる。最適な厚さ範囲は、ドームの厚さによる。シリコンからなるドームの場合、厚さは、0.5/1,000インチ~10/1,000インチが適している。
【0031】
<ドーム型の変形例>
蛇腹およびドームの素材要件は、互いに大きく異なり、互いに異なる素材で作られることが望まれる。蛇腹は、柔軟性を必要とし、一方で、ドームは剛性と軽量を必要とする。シリコンまたはゴム素材が、蛇腹に相応しい選択であるが、カプトンやポリエチレンテレフタレートのような、薄く、剛性を有する素材が、ドームには最も相応しい選択である。したがって、可能であるならば、二つのことなる素材を用いた作製が望ましい。
【0032】
図20a、
図20b、および
図20cに示す実施形態によると、本発明のプロテクタが長方形を有する例が示されており、ここでは、ドーム7がR角7aを有する四角形のベースを備えている。これは、本発明において、ドームが完全な円形を有することは必須ではないことを示すためであり、ドーム7には、少なくとも曲線部7aが存在すればよい。
【0033】
<補強リブ>
ドーム7は、剛性を有しながらも軽量化が図られていなければならない。ドームを、内側まで同じ素材を使用した本体で作製した場合、剛性が高められる一方で、重量も増加してしまう。ドーム内に、支持壁18を設ける設計は、それを解決する折衷案と言えよう。これは、ドームの底部を示す
図10aおよび
図10bに例示されている。
【0034】
<ドームの掃除>
音響ドームを掃除する必要があるが、掃除用機器をドームに被せた場合、ドームが裏返しになり、元のドーム型に戻ることが困難になってしまう可能性がある。前述のX字状壁支持18により、ドームの裏返しを防ぐ。あるいは、ドームの変位を防ぐためのものをドーム内に差し入れることも考えられる。これについては、下記の「ホルダ」に関する記述において説明する。
【0035】
<高周波>
ドーム7の質量によって、ドームの高周波応答が制限される。薄膜の場合、質量は少なくなるが、非線形剛性曲線がきつくなり、低域の周波数が通れなくなるちょうどよいバランスとしては、
図11aおよび
図11bに示すように、ドーム上に平面膜19を載置し、高域の周波数を通れるようにすることである。ここで、少なくともR角7aの存在がドーム7の構造に保持されている。
【0036】
<均圧化>
本発明が保護するオーディオ機器が、気密性のあるものでありながら、本発明内の静圧力と気圧とを均一にする手段が設けられていない場合、気圧の変化による問題が引き起こされ得る。
【0037】
均圧化を実現するにあたり、いくつかの手段が考えられる。一つは、非常に小さい孔をドームにあけることである。孔をあける際に生じうる、本発明の音響性能への影響を回避するため、この孔の大きさは、直径100ミクロン未満としなければならない。
【0038】
あるいは、発砲テフロン(登録商標)のような、通気度がかなり低い異素材によって、前述の「平面膜」を形成してもよい。
【0039】
あるいは、
図12aおよび
図12bの首部6に、小溝25を設けることで、均圧化を図ってもよい。この溝が長ければ長いほど、低周波音響挙動への影響が押さえられ、ドーム内への異物の進入可能性が低くなる。
【0040】
あるいは、首部6の箇所にメッシュ織物20を設け、首部とレシーバ音響ポートの間に小さな制御隙間を設けることで、均圧化首部としてもよい(
図13)。
【0041】
<ホルダ>
本発明のプロテクタを音響ポート上に保持することが重要である。首部が、ドームと同じ、弾性素材で形成されている場合、首部は、充分な圧締力を有しないため、本発明を音響ポート上に保持することができない。プロテクタをポート上に保持する補助として、ホルダ21に「芯」22を設け、それにより、機械的に機器を保持してもよい(
図14)。ホルダは、剛性プラスチックのような高い剛性を有する素材から形成されていてもよく、その場合、音響ポート上で摺動しても、簡単に滑り落ちることはない。本発明がホルダから滑り落ちないよう、芯をホルダに設け、本発明内の体積と合わせることで、本発明が一定の場所にとどまるよう補助する。
【0042】
本発明がホルダ21内に押し込まれた際、保持桟23が設けられていることで、本発明は保持芯22を超えて摺動することがなくなる(
図15)。
【0043】
前述したとおり、「X字状」支持構造18をドーム7に設けることで、ドーム型が崩れたり、掃除中に裏返ったりすることを防いでいたが、ホルダ21の延長部24を使用することで、ドームが掃除中に裏返ることを防いでもよい。音がドーム状延長部を通り抜けられるよう、この延長部には、穿孔を設ける必要がある(
図16)。これら三つの追加部分を有するホルダを
図17に示す。
【0044】
<変形例>
素材の表面は、水をはじくよう、防水加工が施されていてもよく、あるいは、油をはじくような加工がなされていてもよい。
【0045】
<適用例>
現時点で想定される、本発明の主たる用途としては、耳道に挿入して使用するヘッドセットや補聴器に、耳垢が入らないよう保護する目的が挙げられる。
【0046】
しかしながら、音響ドームは、異物のポートへの進入を防ぐ目的で使用され、構造物を通ってポートから音を出す仕組みの、多種多様なオーディオ機器のポートに使用される。携帯電話やタブレット型端末にも適用可能である。他の適用例として、携帯ラウドスピーカーのバス・レフ型ポートも挙げられる。バス・レフ型ポートの場合、変化するドームの質量は、実際、低周波応答を可能にする程度の大きさにすることができる。
【0047】
例えば、携帯電話やタブレット型端末のような携帯オーディオ機器のラウドスピーカーや、ブルートゥース(登録商標)接続のスピーカーは、多くの場合、内部部品に通ずる音響ポートを有し、内部部品は、ほこり、汚れ、水といった異物によって損傷し得る。こうした音響ポートは、補聴器や耳に挿入して使用するヘッドフォンで使用されるポートに比べて、一般的に大きく作られている。本発明の特許は、大型化して、このような音響ポートの保護に使用することも可能である。
図18および
図19は、本発明をバス・レフ型スピーカーにおけるポートの一つに適用した例を示す。
【0048】
特に、
図18、
図19a、
図19b、および
図19cに示すように、オーディオ機器は、音響ポート26を有する携帯スピーカー30であり、音響ポートは、ポート26の外端27、ポート26の内端28、あるいはポート26の内部に取り付けられたプロテクタ4に覆われている。これらの図面での実用例は、バス・レフ型の設計を示し、ここでは、ポート内の空気の音響質量が、背後の空気量の圧縮率と共振し、低周波数を促進する。ドーム7の質量は、充分な大きさを有するため、ポート26の音響挙動を向上し、ポート26の長さを抑えることが出来る。例えば、長さ60mm、直径10mmのポート内の空気が、同じ直径を有するプロテクタ及び変化するドーム質量(8mg)に置き換えられる。長いポートを必要としないため、機器の省スペースを実現する。
【0049】
実際、本発明のプロテクタは、ポートのいずれか一端、あるいは、ポートの途中に取り付けることが可能である。特定の周波数応答を可能とするよう、ポートは音響質量を有して設計される場合もある。多くの場合、この音響質量を有するためには、ポートの長さは、望ましい長さよりも長くしなければならない。本発明では、ドームの質量が変化するよう設計し、音響質量の一部あるいは全体を生成することが可能である。これにより、音響ポートの長さを短くすることができる。こうしたポートは、一般的に3mm~30mmの範囲の大きさを有する。
【0050】
<アプリケータ>
音響ドームは、補聴器につける、いわゆる既知の「耳垢ガード」の代替であってもよい。こうした耳垢ガードは、一般的に、取外しや、新しい耳垢ガードの取付けを容易にする「アプリケータ」を必要とする。音響ドームも、取外し・取付けを補助するアプリケータを必要とする。
【0051】
<使い捨ての可否>
使い捨て可能な耳垢ガードの場合、音響ドームは使い捨て可能である。
【0052】
<掃除の可否>
洗浄液や綿棒のようなもので掃除が可能であるという点が、耳垢ガードを外した後の音響ドームにおける主な利点である。