(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】殺有害生物剤を検出するための方法およびキット、ならびに殺有害生物剤を検出するためのプラスミド、バキュロウイルス、細胞、およびそれらを調製する方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/44 20060101AFI20230221BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230221BHJP
C12N 15/55 20060101ALI20230221BHJP
C12N 9/16 20060101ALN20230221BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20230221BHJP
【FI】
C12Q1/44 ZNA
C12Q1/02
C12N15/55
C12N9/16 Z
C07K19/00
(21)【出願番号】P 2021512668
(86)(22)【出願日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 US2019056657
(87)【国際公開番号】W WO2020081765
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-03-30
(32)【優先日】2018-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505008028
【氏名又は名称】中央研究院
【氏名又は名称原語表記】ACADEMIA SINICA
【住所又は居所原語表記】128 Academia Road,Section 2,Nankang Taipei,Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100111501
【氏名又は名称】滝澤 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】チャオ ユ-チャン
(72)【発明者】
【氏名】リャオ リン-リ
(72)【発明者】
【氏名】リャオ チュアン-ユ
(72)【発明者】
【氏名】ツァイ チー-シュアン
(72)【発明者】
【氏名】シュー ポール ウェイ-チェ
【審査官】幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101724649(CN,A)
【文献】特表2018-515141(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0017186(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0309037(US,A1)
【文献】Database UniProt [online], ID: A0A087ZSR6_APIME, 2018.10.10, Internet, <URL:https://www.uniprot.org/uniprot/A0A087ZSR6.txt?version=35>, [retrieved on 2022.3.17]
【文献】Database UniProt [online], ID: A0A2H1VS32_SPOFR, 2018.10.10, Internet, <URL:https://www.uniprot.org/uniprot/A0A2H1VS32.txt?version=4>, [retrieved on 2022.3.17]
【文献】Database UniProt [online], ID: Q5KTT3_BACDO, 2018.2.28, Internet, <URL:https://www.uniprot.org/uniprot/Q5KTT3.txt?version=72>, [retrieved on 2022.3.17]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C12Q 1/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
殺有害生物剤を検出するin vitroの方法であって、
(a)試料を、
細胞表面に発現しているアセチルコリンエステラーゼと接触させること、
(b)アセチルコリンエステラーゼ基質を、前記細胞と接触させること、および
(c)前記アセチルコリンエステラーゼ基質に起因する反応生成物を検出すること、
を含
み、
前記アセチルコリンエステラーゼが、
GPI係留部位が欠失しており、バキュロウイルスGP64タンパク質由来の膜貫通ドメイン(TM)および細胞質ドメイン(CTD)に置き換わっているアセチルコリンエステラーゼである、前記方法。
【請求項2】
アセチルコリンエステラーゼ基質が、アセチルコリン、アセチルチオコリン(ATCh)、プロピオニルチオコリン、またはアセチル-3-メチルコリンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(c)の前に、反応生成物を形成させるために蛍光指示薬を添加することをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
蛍光指示薬が、5,5’-ジチオ-ビス-[2-ニトロ安息香酸](DTNB)、ジチオジニコチン酸(DTNA)、2,2’-ジチオジピリジン(2-PDS)、ヒドロキシルアミン、ペルオキシダーゼと結合したコリンオキシダーゼ/フェノール/アミノアンチピリン、AuCl
4の存在下でのAu-NPシード、レゾルフィンブチレート、酢酸インドキシル、N-[4-(7-ジエチルアミノ-4-メチルクマリン-3-イル)フェニル]マレイミド、10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン(Amplex Red試薬)、量子ドット(QD)、チオールグリーン指示薬またはAbRed指示薬を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
蛍光指示薬がDTNBであるという条件で、反応生成物が2-ニトロ-5-チオ安息香酸(TNB)である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
殺有害生物剤の濃度に対するアセチルコリンエステラーゼ活性阻害の標準曲線を参照することにより、前記殺有害生物剤を定量することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
アセチルコリンエステラーゼが配列番号3のアミノ酸
配列を含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項8】
殺有害生物剤が、アセチルコリンエステラーゼをリン酸化またはカルバモイル化する化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
殺有害生物剤が有機リン酸エステル(OP)またはカルバメート(CB)を含む、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
2種以上のアセチルコリンエステラーゼが異なるウェル中の細胞上に独立に提示される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
2種以上のアセチルコリンエステラーゼの反応生成物に基づき、殺有害生物剤を同定することをさらに含む、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
2種以上のアセチルコリンエステラーゼが異なるアセチルコリンエステラーゼ変異体または異なる生物に由来するアセチルコリンエステラーゼである、請求項
10に記載の方法。
【請求項13】
フィンガープリントライブラリーとして異なる殺有害生物剤の発色パターンを記録することをさらに含む、請求項
10に記載の方法。
【請求項14】
フィンガープリントライブラリーを比較することにより、未知の殺有害生物剤の濃度および種を同定することをさらに含む、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
機械学習により、異なる発色パターンを有する殺有害生物剤の濃度および種を同定することをさらに含む、請求項
13に記載の方法。
【請求項16】
機械学習が、ロジスティック回帰分析、デシジョンツリー(Decision Tree)、サポートベクターマシン(Support Vector Machine)、RandomまたはeXtreme Gradient Boostingを含むソフトウェアにより実施される、請求項
15に記載の方法。
【請求項17】
アセチルコリンエステラーゼが異なるウェル中の細胞上に様々な活性で独立に提示される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
様々な活性を有するアセチルコリンエステラーゼを発現させるために異なる細胞濃度が使用される、請求項
17に記載の方法。
【請求項19】
殺有害生物剤を検出するためのキットであって、
細胞上で発現されるアセチルコリンエステラーゼ、および
アセチルコリンエステラーゼ基質
を含み、
前記アセチルコリンエステラーゼが、GPI係留部位が欠失しており、バキュロウイルスGP64タンパク質由来の膜貫通ドメイン(TM)および細胞質ドメイン(CTD)に置き換わっているアセチルコリンエステラーゼである、
前記キット。
【請求項20】
蛍光指示薬をさらに含む、請求項
19に記載のキット。
【請求項21】
殺有害生物剤が有機リン酸エステル(OP)またはカルバメート(CB)を含む、請求項
19に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年10月18日出願の米国仮特許出願第62/747,258号の利益を主張する。
【0002】
本開示は、危険性のある殺有害生物剤、殺虫剤等を検出する分野に一般的に関する。より具体的には、本開示は、殺有害生物剤、殺虫剤等を検出するための方法およびキット、ならびに殺有害生物剤、殺虫剤等を検出するためのプラスミド、バキュロウイルス、細胞、およびそれらを調製する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
農作物の生産を脅し、および/または病気を運ぶ害虫を管理するために、殺有害生物剤または殺虫剤が農業で一般的に使用される[1]。殺虫剤を徹底利用すると、農産物中の残留物がヒトおよびその他の動物の健康に障害をもたらすおそれがあり、重大な生態毒性学上の問題を引き起こす。有機リン酸(OP)およびカルバメート(CB)殺虫剤は、その高い有効性および低い持続性に起因して最も一般的に使用される殺有害生物剤である[2]。昆虫内のアセチルコリンエステラーゼ(AChE;EC3.1.1.7)の活性部位をブロックするために、OP系およびCB系殺虫剤が開発された。AChEは、シナプス間隙内の神経伝達物質アセチルコリンの加水分解を触媒することにより、神経刺激を終結させる膜会合型酵素である。OP系およびCB系殺虫剤は、触媒三残基のセリンをリン酸化またはカルバモイル化し、したがってシナプス後膜における神経刺激の終結を阻止し、その結果アセチルコリンの蓄積および昆虫神経系の連続刺激を引き起こし、最終的に昆虫を死に至らしめる[3]。脊椎動物のAChEは構造および機能において昆虫酵素と類似しているので、OP系およびCB系殺虫剤はしたがってヒトにとっても有毒である[4]。AChEの活性部位をブロックする主要な殺有害生物剤の構造を下記に示す。
【0004】
【化1】
AChEはOP化合物およびCB化合物の標的であるので、殺虫剤残留物の検出は、したがってAChEの加水分解能力に依存し得る。神経伝達物質アセチルコリンはAChEによりチオコリンに触媒的に加水分解される。溶液中のスルフヒドリル基を推定するためのエルマン試薬DTNB(5,5’-ジチオ-ビス-[2-ニトロ安息香酸])を適用することにより、検出可能な黄色の生成物TNB(2-ニトロ-5-チオ安息香酸)が生成し、OD
412nmにおいて測定され得る[5]。OP系またはCB系殺虫剤が存在すると、AChEによるアセチルコリンの加水分解プロセスはブロックされ、黄色生成物の形成が阻害される。
【0005】
このような毒物に人々や家畜が偶発的に曝露されるのを厳密に規制および阻止するために、査察機関は、農産物が許容度を上回る残留殺有害生物剤を少しでも含有するか検査するのに十分なAChEの供給を要求する。現在のところ、最も一般的なAChE源は、イエバエの頭部から抽出され、ハエの飼育、抽出、ショ糖濃度勾配遠沈、酵素精製、および活性アッセイを必要とする[6]。これは、費用がかかり、労力を要し、また時間のかかるプロセスである。それに加えて、冗長且つやっかいな精製手順に起因して、AChE収率は低いおそれがある。さらに、精製されたAChEは粉末にしなければならない、または保存、出荷、および適用するために、プレートのウェルにコーティングされなければならない。AChEの粉末は可溶化され、残留殺虫剤の検出前に反応プレートのウェル中に適用されなければならない。したがって、殺虫剤残留物を検出するためのより良い戦略が必要とされる。
【発明の概要】
【0006】
バキュロウイルスは、農業用途および生物工学用途に対する汎用ツールである。バキュロウイルスは、野外において害虫管理するための微生物として長年役目を果たしてきた。バキュロウイルスは、工学操作されたタンパク質を製造するための主要ツールの1つとしても役目を果たしている[7]。この系は、様々な用途、例えばワクチン、実験用タンパク質、工業用タンパク質、検出キット用の試薬等に適するタンパク質を、高い収率および正しい翻訳後修飾を実現しつつ生成することができる[8]。オートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)核多角体病ウイルス(AcMNPV)は、鱗翅目の昆虫および細胞株にのみ感染するタイプバキュロウイルス種である。このウイルスは、134kbの二本鎖閉環状DNAゲノムを有し、154個を超えるポリペプチドのコード能を備える[9]。
当技術分野における必要性を考慮して、本発明者らは、組換えバキュロウイルスを使用して、細胞、例えば昆虫細胞の表面にAChEを提示させることにより、殺虫剤残留物、例えばOPおよびCBの検査においてきわめて高感受性である細胞ベースの新規検出システムを開発することとした。殺虫剤を機能的に検出するために、AChEは細胞表面に提示されるので、AChEの抽出および精製は不要で、検出システム全体に関する生産時間およびコストは抑制され得る。検出システムを最適化するために、組換えウイルス感染条件および凍結乾燥の効果を分析した。
【0007】
本出願では、本発明者らは、殺有害生物剤、例えば有機リン酸エステル(OP)およびカルバメート(CB)(農業実践において頻繁に適用される2つの主要な殺虫剤)を検出するための方法およびキットを開発する。本出願は、殺虫剤を含む殺有害生物剤を検出するための便利且つ迅速な解決策を提供する。これに加え、本発明者らは、1回の迅速分析において殺有害生物剤の種およびその濃度の両方を決定することができる方法および殺有害生物剤迅速スクリーニングシステムをさらに開発する。有利には、本方法は将来的なデータインプットにより継続的に改善され得る。
【0008】
1つの態様では、殺有害生物剤を検出するための方法であって、
(a)試料を、アセチルコリンエステラーゼを発現する細胞と接触させること、
(b)アセチルコリンエステラーゼ基質を前記細胞と接触させること、および
(c)前記アセチルコリンエステラーゼ基質に起因する反応生成物を検出すること
を含む方法が本明細書で提供される。
別の態様では、殺有害生物剤を検出するためのキットであって、細胞上で発現されるアセチルコリンエステラーゼおよびアセチルコリンエステラーゼ基質を含むキットが本明細書で提供される。
【0009】
好ましくは、アセチルコリンエステラーゼ基質は、アセチルコリン、アセチルチオコリン(ATCh)、プロピオニルチオコリン、またはアセチル-3-メチルコリンを含み得る。
好ましくは、方法は、反応生成物に蛍光指示薬を添加するステップをさらに含み得る。
好ましくは、蛍光指示薬は、5,5’-ジチオ-ビス-[2-ニトロ安息香酸](DTNB)、ジチオジニコチン酸(DTNA)、2,2’-ジチオジピリジン(2-PDS)、ヒドロキシルアミン、ペルオキシダーゼと結合したコリンオキシダーゼ/フェノール/アミノアンチピリン、AuCl4存在下でのAu-NPシード、酪酸レゾルフィン、酢酸インドキシル、N-[4-(7-ジエチルアミノ-4-メチルクマリン-3-イル)フェニル]マレイミド、10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン(Amplex Red試薬)、量子ドット(QD)、チオールグリーン指示薬またはAbRed指示薬を含み得る。
【0010】
好ましくは、アセチルコリンエステラーゼ基質がDTNBであるという条件で、反応生成物は2-ニトロ-5-チオ安息香酸(TNB)であってもよい。
好ましくは、方法は、殺有害生物剤の濃度に対するアセチルコリンエステラーゼ活性阻害の標準曲線を参照することにより、殺有害生物剤を定量するステップをさらに含み得る。
好ましくは、アセチルコリンエステラーゼは、
(i)完全長のアセチルコリンエステラーゼ、
(ii)グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)係留部位が欠失しているアセチルコリンエステラーゼ、または、
(iii)GPI係留部位が欠失しており、バキュロウイルスGP64タンパク質の膜貫通ドメイン(TM)および細胞質ドメイン(CTD)に置き換わっている、アセチルコリンエステラーゼ
であり得る。
より好ましくは、アセチルコリンエステラーゼは、配列番号1、配列番号3、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、または配列番号12のアミノ酸を含む。
【0011】
好ましくは、試料は農産物であり得る。
好ましくは、方法は、農産物をエッペンドルフチューブ内でペッスルを用いて粉砕するステップ、または農産物をQ-チップを用いてディッピングするステップをさらに含み得る。あるいは、方法は、水、PBS、DMSO、アセトン、またはエタノールを含む抽出溶液中に農産物を浸漬するステップをさらに含み得る。
好ましくは、殺有害生物剤は、アセチルコリンエステラーゼをリン酸化またはカルバモイル化する化合物を含み得る。
より好ましくは、殺有害生物剤は有機リン酸エステル系(OP系)またはカルバメート系(CB系)を含み得る。
【0012】
好ましくは、OPは、マラチオン、マラオキソン、パラオキソン、メチルパラチオン、ナレッド、ジスルホトン、トリクロルホン、トリアゾホス、ダイアジノン、ジメトエート、ホキシム、イソキサチオン、ピリダフェンチオン、ピラクロホス、テルブホス、プロフェノホス、アジンホスメチル、イソフェンホス、ピリミホスメチル、モノクロトホス、テメホス、イサゾホス、フェンチオン、キナルホス、ヘプテノホス、ホスメット、チオメトン、クロルピリホス、プロチオホス、クロルフェンビンホス、シアノホス、エチオン、メチダチオン、メカルバム、オキシデメトンメチル、デメトン-S-メチル、ホサロン、メタミドホス、ホルモチオン、ホレート、ホスファミドン、フェニトロチオン、アセフェート、オメトエート、イソチオエート、バミドチオン、フェントエート、またはジクロトホスを含み、CBは、カルボスルファン、フェノブカルブ、ピリミカルブ、カルバリル、カルボフラン、プロポクスル、ブトカルボキシム、ベンフラカルブ、ベンジオカルブ、メトルカルブ、メトミル、チオファノックス、チオジカルブ、イソプロカルブ、XMC、キシリルカルブ、メチオカルブ、オキサミル、またはホルメタナートを含み得る。
【0013】
一実施形態では、2種以上のアセチルコリンエステラーゼが、好ましくは異なるウェル中の細胞上に独立に提示されることにより、本方法またはキットにおいて適用され得る。
好ましくは、本方法は、2種以上のアセチルコリンエステラーゼの反応生成物に基づき、殺有害生物剤を同定するステップをさらに含み得る。
より好ましくは、2種以上のアセチルコリンエステラーゼは、異なるアセチルコリンエステラーゼ変異体または異なる生物に由来するアセチルコリンエステラーゼであり得る。あるいは、アセチルコリンエステラーゼは、異なるウェル中の細胞上に様々な発現レベルで独立して提示され得る。
好ましくは、本キットは蛍光指示薬をさらに含み得る。任意に、キットは、テリトレムB、塩酸ドネペジル、またはシクロペニンを含む陽性対照をさらに含み得る。
好ましくは、アセチルコリンエステラーゼは、細胞表面、バキュロウイルス、またはバキュロウイルスの包埋体上に提示され得る。
好ましくは、細胞は凍結乾燥され得る。好ましくは、細胞は懸濁物、チューブ、チップ、またはプレート内にあり得る。任意に、プレートはシングルまたはマルチウェルプレートであり得る。
【0014】
1つの態様では、
(i)完全長のアセチルコリンエステラーゼ、
(ii)グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)係留部位が欠失しているアセチルコリンエステラーゼ、または、
(iii)GPI係留部位が欠失しており、バキュロウイルスGP64タンパク質の膜貫通ドメイン(TM)および細胞質ドメイン(CTD)に置き換わっているアセチルコリンエステラーゼ、
をコードするヌクレオチド配列、
hr1-hsp70およびp10デュエルプロモーター、および
ミツバチメリチンシグナルペプチド(HM)および/または六量体ヒスチジンタグ(6H)
を含むプラスミドが本明細書で提供される。
【0015】
1つの態様では、前記プラスミドでトランスフェクトされた細胞により生み出されたバキュロウイルスが本明細書で提供される。
1つの態様では、
(i)完全長のアセチルコリンエステラーゼ、
(ii)グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)係留部位が欠失しているアセチルコリンエステラーゼ、または、
(iii)GPI係留部位が欠失しており、バキュロウイルスGP64タンパク質の膜貫通ドメイン(TM)および細胞質ドメイン(CTD)に置き換わっているアセチルコリンエステラーゼ
を細胞表面に発現する細胞であって、
前記アセチルコリンエステラーゼが、配列番号1、配列番号3、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、または配列番号12のアミノ酸を含む細胞が本明細書で提供される。
【0016】
1つの態様では、前記プラスミドを用いて細胞をトランスフェクトすること、または前記バキュロウイルスで細胞を感染させることを含む、殺有害生物剤を検出するための細胞を調製する方法が本明細書で提供される。
好ましくは、アセチルコリンエステラーゼは、ミバエ、イエバエ、ヒト、マウス、ラット、ツマジロクサヨトウ、ミジンコ、ニワトリ、ガ、アブラムシ、ミツバチ、小エビ、またはサカナ由来であり得る。
好ましくは、ヌクレオチド配列は、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)、ヒト(Homo sapiens)、ラット(Rattus norvegicus)、セイヨウミツバチ(Apis mellifera)、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)、オオミジンコ(Daphnia magna)、またはミカンコミバエ(Bactrocera dorsalis)に由来し得る。
【0017】
好ましくは、ヌクレオチド配列は、配列番号1、配列番号3、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、または配列番号12のアミノ酸をコードし得る。
好ましくは、ヌクレオチド配列は、配列番号1のアミノ酸をコードする配列番号2、または配列番号3のアミノ酸をコードする配列番号4であり得る。
好ましくは、プラスミドはレポーター遺伝子をさらに含み得る。より好ましくは、レポーター遺伝子はEGFP遺伝子およびpagプロモーターを含み得る。
好ましくは、プラスミドは、配列番号5または配列番号6の配列を含み得る。
【0018】
好ましくは、細胞はスポドプテラ・フルギペルダIPLB-Sf21(Sf21)細胞であり得る。
好ましくは、バキュロウイルスは、オートグラファ・カリフォルニカ核多角体病ウイルス(AcMNPV)またはカイコガ(Bombyx mori)核多角体病ウイルス(BmNPV)であり得る。
好ましくは、AcMNPVは、スポドプテラ・フルギペルダIPLB-Sf21(Sf21)細胞内で繁殖する。
好ましくは、細胞は鱗翅目の細胞である。
好ましくは、細胞は、イラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)BTI-TN-5B1-4 High Five(Hi5)昆虫細胞である。
好ましくは、AcMNPVの感染多重度(MOI)は、0.1~10、0.2~5、または0.5~2である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】バキュロウイルス発現ベクター系による組換え完全長AChEおよび融合AChEの構築を例証する図である。試験で使用される発現コンストラクトの略図。(a)AChE-FLは、完全長AChE(Y408F)cDNAを含有する。(b)AChE-6MCは、トランケートされたAChE(Y408F)を含有し、これによりAChE酵素の
グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)係留部位が欠失し、バキュロウイルスGP64タンパク質由来の
膜貫通ドメイン(TM)および細胞質ドメイン(CTD)に置き換わっている(すなわち、6MC)。(c)AChEを発現しない対照バキュロウイルス(Cont-bac)を生成させるための空ベクター(pABEGhhp10)。Ac-1250bpおよびAc-1433bp:組換えウイルスを生成する相同的組換え用のバキュロウイルスのゲノムに由来するラテラル配列。EGFP:EGFPレポーター遺伝子。pag:pagプロモーター。hr1-hsp70-p10:hr1-hsp70およびp10プロモーターを含有するデュエルプロモーター。HM:ミツバチメリチンシグナルペプチド。6H:六量体ヒスチジンタグ。
【
図2】細胞表面発現型AChE組換えタンパク質に関するAChE活性の決定を示す図である。0.5のMOI、および3日間のインキュベーションにより、vAChE-FL、vAChE-6MC、およびCont-bacにHi5細胞を個別に感染させた。感染細胞内で発現したAChEの活性を測定し、黄色により評価した。(a)標準溶液曲線はAChE標準溶液(Abcam社)により確立された。個々のCont-bac(b)、vAChE-FL(c)、およびvAChE-6MC(d)クローンを、基質アセチルチオコリン(ATCh)およびエルマン試薬DTNB溶液を使用して96ウェルプレート中で可視化した。
【
図3-1】細胞表面発現型AChEタンパク質に対する凍結乾燥の効果について、その評価を示す図である。0.5のMOIを用いて3日間、vAChE-FL(AChE-FL)、vAChE-6MC(AChE-6MC)、またはCont-bac(Cont)にそれぞれ感染させたHi5細胞を凍結乾燥に5時間付した。模擬:ウイルスに感染していない細胞。-lyo:凍結乾燥されない細胞。+lyo:凍結乾燥した細胞。(a)蛍光および明視野顕微鏡により検査した細胞形態。
【
図3-2】細胞表面発現型AChEタンパク質に対する凍結乾燥の効果について、その評価を示す図である。0.5のMOIを用いて3日間、vAChE-FL(AChE-FL)、vAChE-6MC(AChE-6MC)、またはCont-bac(Cont)にそれぞれ感染させたHi5細胞を凍結乾燥に5時間付した。模擬:ウイルスに感染していない細胞。-lyo:凍結乾燥されない細胞。+lyo:凍結乾燥した細胞。((b)組換えバキュロウイルス感染細胞のAChE活性を凍結乾燥有り/無しで決定した。
【
図4-1】AChE膜タンパク質を発現する組換えバキュロウイルスの最適化を示す図である。(a)示すように、様々なMOIを用いてvAChE-FL(AChE-FL)、vAChE-6MC(AChE-6MC)、および
vCont(Cont)に個別に感染させた96ウェルHi5細胞試料についてAChE活性の決定を可視化する。感染条件のいずれも三重で実施した。
【
図4-2】AChE膜タンパク質を発現する組換えバキュロウイルスの最適化を示す図である。(b)感染細胞に由来するAChE活性を定量化する。
【
図5-1】細胞表面提示型AChEによるOP系およびCB系殺虫剤残留物の検出を示す図である。Hi5細胞を、
vAChE-FL(FL)、
vAChE-6MC(6MC)、または
vCont(Cont)にそれぞれ3日間感染させた。培地を除去した後、細胞を96ウェルプレート内で5時間の凍結乾燥に付した。2つのOP系および2つのCB系殺虫剤化合物を連続稀釈し、96ウェルプレート中の感染細胞試料および100mU/mLのAChE(ST、Abcam社)に、ならびにさらに比較するためのキュベット中の市販AChE(Sichen社)に添加した。異なる殺虫剤に対するこれらAChEの感受性を決定するために、これらの試料すべてについてAChE活性を分析した。DPBS中で異なる濃度のDMSOを添加してバックグラウンド効果を確認した。テストされた殺有害生物剤は、(a)パラオキソンエチルである。ピンク色のブロックで覆われた領域は、様々な農産物から検出可能な残留殺有害生物剤の最大許容限界を示した。
【
図5-4】細胞表面提示型AChEによるOP系およびCB系殺虫剤残留物の検出を示す図である。Hi5細胞を、
vAChE-FL(FL)、
vAChE-6MC(6MC)、または
vCont(Cont)にそれぞれ3日間感染させた。培地を除去した後、細胞を96ウェルプレート内で5時間の凍結乾燥に付した。2つのOP系および2つのCB系殺虫剤化合物を連続稀釈し、96ウェルプレート中の感染細胞試料および100mU/mLのAChE(ST、Abcam社)に、ならびにさらに比較するためのキュベット中の市販AChE(Sichen社)に添加した。異なる殺虫剤に対するこれらAChEの感受性を決定するために、これらの試料すべてについてAChE活性を分析した。DPBS中で異なる濃度のDMSOを添加してバックグラウンド効果を確認した。テストされた殺有害生物剤は、(b)マラオキソンである。ピンク色のブロックで覆われた領域は、様々な農産物から検出可能な残留殺有害生物剤の最大許容限界を示した。
【
図5-6】細胞表面提示型AChEによるOP系およびCB系殺虫剤残留物の検出を示す図である。Hi5細胞を、
vAChE-FL(FL)、
vAChE-6MC(6MC)、または
vCont(Cont)にそれぞれ3日間感染させた。培地を除去した後、細胞を96ウェルプレート内で5時間の凍結乾燥に付した。2つのOP系および2つのCB系殺虫剤化合物を連続稀釈し、96ウェルプレート中の感染細胞試料および100mU/mLのAChE(ST、Abcam社)に、ならびにさらに比較するためのキュベット中の市販AChE(Sichen社)に添加した。異なる殺虫剤に対するこれらAChEの感受性を決定するために、これらの試料すべてについてAChE活性を分析した。DPBS中で異なる濃度のDMSOを添加してバックグラウンド効果を確認した。テストされた殺有害生物剤は(c)カルボフランである。ピンク色のブロックで覆われた領域は、様々な農産物から検出可能な残留殺有害生物剤の最大許容限界を示した。
【
図5-8】細胞表面提示型AChEによるOP系およびCB系殺虫剤残留物の検出を示す図である。Hi5細胞を、
vAChE-FL(FL)、
vAChE-6MC(6MC)、または
vCont(Cont)にそれぞれ3日間感染させた。培地を除去した後、細胞を96ウェルプレート内で5時間の凍結乾燥に付した。2つのOP系および2つのCB系殺虫剤化合物を連続稀釈し、96ウェルプレート中の感染細胞試料および100mU/mLのAChE(ST、Abcam社)に、ならびにさらに比較するためのキュベット中の市販AChE(Sichen社)に添加した。異なる殺虫剤に対するこれらAChEの感受性を決定するために、これらの試料すべてについてAChE活性を分析した。DPBS中で異なる濃度のDMSOを添加してバックグラウンド効果を確認した。テストされた殺有害生物剤は(d)カルバリルである。ピンク色のブロックで覆われた領域は、様々な農産物から検出可能な残留殺有害生物剤の最大許容限界を示した。
【
図6】バキュロウイルス発現ベクター系について、7つの種に由来する組換えAChEのコンストラクトを示す図である。(a)キイロショウジョウバエ(Y408F変異体)、(b)ホモサピエンス(Hs)、(c)ラット(Rn)、(d)セイヨウミツバチ(Am)、(e)スポドプテラ・フルギペルダ(Sf)、(f)オオミジンコ(Dam)、および(g)ミカンコミバエ(Bd)に由来する組換えAChEに関する発現コンストラクトの略図。EGFP:EGFPレポーター遺伝子。pag:pagプロモーター。hr1-hsp70-p10:hr1-hsp70およびp10プロモーターを含有するデュアルプロモーター。HM:ミツバチメリチンシグナルペプチド。6H:六量体ヒスチジンタグ。
【
図7-1】多重種AChEによる殺有害生物剤の検出を示す図である。Hi5細胞を、vDmAChE(Dm)、vHsAChE(Hs)、vRnAChE(Rn)、vAmAChE(Am)、vSfAChE(Sf)、DamAChE(Dam)、およびvBdAChE(Bd)にそれぞれ感染させた。感染後3日目に採取した後、細胞をPBS中で3つの異なる濃度に稀釈した:1ウェル当たり細胞5×10
3個、1.5×10
4個、および4.5×10
4個。5つの殺有害生物剤、すなわち(a)クロルピリホス、(b)エチオンを10
-3~10
-9Mに連続稀釈し、96ウェルプレート中の感染細胞に個別に添加した。基質ATChおよびDTNB溶液を添加することにより、残存するAChE活性を測定し、412nmにおいて光学濃度を決定した。
【
図7-2】多重種AChEによる殺有害生物剤の検出を示す図である。Hi5細胞を、vDmAChE(Dm)、vHsAChE(Hs)、vRnAChE(Rn)、vAmAChE(Am)、vSfAChE(Sf)、DamAChE(Dam)、およびvBdAChE(Bd)にそれぞれ感染させた。感染後3日目に採取した後、細胞をPBS中で3つの異なる濃度に稀釈した:1ウェル当たり細胞5×10
3個、1.5×10
4個、および4.5×10
4個。5つの殺有害生物剤、すなわち(c)カルバリル、(d)カルボフランを10
-3~10
-9Mに連続稀釈し、96ウェルプレート中の感染細胞に個別に添加した。基質ATChおよびDTNB溶液を添加することにより、残存するAChE活性を測定し、412nmにおいて光学濃度を決定した。
【
図7-3】多重種AChEによる殺有害生物剤の検出を示す図である。Hi5細胞を、vDmAChE(Dm)、vHsAChE(Hs)、vRnAChE(Rn)、vAmAChE(Am)、vSfAChE(Sf)、DamAChE(Dam)、およびvBdAChE(Bd)にそれぞれ感染させた。感染後3日目に採取した後、細胞をPBS中で3つの異なる濃度に稀釈した:1ウェル当たり細胞5×10
3個、1.5×10
4個、および4.5×10
4個。5つの殺有害生物剤、すなわち(e)メトミルを10
-3~10
-9Mに連続稀釈し、96ウェルプレート中の感染細胞に個別に添加した。基質ATChおよびDTNB溶液を添加することにより、残存するAChE活性を測定し、412nmにおいて光学濃度を決定した。
【
図8-1】多重種AChEによりアッセイされた殺有害生物剤残留物の迅速同定を実現するための機械学習の使用を示す図である。(a)所定の濃度を有する各殺有害生物剤について、多重種AChEプラットフォームから得られた検出結果を収集し、21パラメーターデータセットに編成した。(b)これらのデータセットを使用して同定モデルを訓練および構築した。
【
図8-2】多重種AChEによりアッセイされた殺有害生物剤残留物の迅速同定を実現するための機械学習の使用を示す図である。所定の濃度を有する各殺有害生物剤について、多重種AChEプラットフォームから得られた検出結果を収集し、21パラメーターデータセットに編成した。(b)これらのデータセットを使用して同定モデルを訓練および構築した。(c)未知の殺有害生物剤決定因子に由来するデータセットをインプットすると、同定モデルは殺有害生物剤および濃度(d)の両方を区別し得る。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示の上記およびその他の態様が、本明細書に記載されるその他の実施形態を勘案しながら今ここにより詳載される。本発明は異なる形態で具体化され得るものと認識すべきであり、また本明細書に記載される実施形態に限定されるものと解釈してはならない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が網羅的且つ完全であり、また本開示により本発明の範囲が当業者に十分に伝わるように提供される。
【0021】
本明細書において本発明の説明で使用される専門用語は、特定の実施形態を記載する目的に限定され、また本発明を限定するように意図するものではない。本発明の説明および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」には、文脈が別途明示しない限り多重形もやはり含まれるように意図されている。
本明細書で使用する場合、用語「~を含む(comprises)」、「~を含むこと(comprising)」、「~を含む(includes)」、「~を含むこと(including)」、「~を有する(has)」、「~を有すること(having)」、「~を含有する(contains)」、「~を含有すること(containing)」、「~により特徴付けられる(characterized by)」、またはその任意の他の変形形態は、非排他的な包含を網羅するように意図されており、明確に示されたあらゆる制限の対象となる。例えば、要素の列挙を含む組成物、混合物、プロセス、または方法は、必ずしもそのような要素にのみ限定されるわけではなく、明示的に列挙されないまたはそのような組成物、混合物、プロセス、または方法に固有のその他の要素を含み得る。
【0022】
移行句「~からなる(consisting of)」は、特定されないあらゆる要素、ステップ、または成分を除外する。特許請求の範囲で使用される場合、列挙した材料(それと通常関連する夾雑物を除く)以外の材料の包含を特許請求の範囲から排除する。慣用句「~からなる(consisting of)」が、プリアンブルの直後ではなく、特許請求の範囲本文の条項中に現れた場合、当該条項に定める要素のみを制限し、その他の要素は、特許請求の範囲から全体として除外されない。
移行句「~から実質的になる(consisting essentially of)」は、組成物、方法(材料、ステップ、特性、コンポーネント、または要素を、文言上開示されたものに付加して含む)を定義するのに使用されるが、ただしこれらの追加の材料、ステップ、特性、コンポーネント、または要素が、請求項に係る発明の基本的且つ新規の特徴に対して顕著に影響を及ぼさないことを前提とする。 用語「~から実質的になる(consisting essentially of)」は、「~を含むこと(comprising)」と「~からなる(consisting of)」の間の中間的な位置を占める。
【0023】
出願者らが、非制限的用語、例えば「~を含むこと(comprising)」等を用いて発明またはその一部分を定義した場合、(別途記載がなければ)説明は、用語「~から実質的になる(consisting essentially of)」または「~からなる(consisting of)」を使用した発明がやはり記載されるものと解釈されるべきであると容易に理解されるはずである。
本明細書で使用する場合、用語「約」は、数値には、例えば数値を決定するために採用された測定デバイス、方法が有する固有の誤差変動、または試験対象において存在するばらつきが含まれることを表すのに使用される。一般的に、該用語は、状況に応じておよそ1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、もしくは20%またはそれ未満の変動を含むように意図されている。
【0024】
特許請求の範囲における用語「or」の使用は、代替するもののみを指すことが明示されない限り、または(代替するもののみと「および/または」とを指すという定義を本開示が支持するものの)代替するものは相互排他的である場合に該当しない限り、「および/または」を意味するために使用される。
別途定義されなければ、本明細書で使用されるすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する当業者により一般的に理解される意味と同一の意味を有する。本明細書で引用されるすべての公開資料、特許出願、特許、およびその他の参考資料は、参考資料が提示されている文および/またはパラグラフに関連する教示に関して参考としてそのまま組み込まれている。
【0025】
本明細書で使用する場合、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)とは、神経伝達物質アセチルコリンの加水分解を触媒することにより神経シグナルを終結させるα/βフォールドヒドロラーゼタンパク質スーパーファミリー内のセリンヒドロラーゼを意味する。1つの実施形態では、AChEは、キイロショウジョウバエ(配列番号1)、ホモサピエンス(配列番号7)、ラット(配列番号8)、セイヨウミツバチ(配列番号9)、スポドプテラ・フルギペルダ(配列番号10)、オオミジンコ(配列番号11)、またはミカンコミバエ(配列番号12)に由来し、それから最適化される。関連する態様では、これらAChE等価物の誘導体、断片、およびバリアントも、本出願の方法、キット、およびプラスミドにおいてやはり想定される。
【0026】
1つの実施形態では、変異体は、従来型オリゴヌクレオチドの目標を定めたin vitro変異誘発システム、例えばEckstein et al., Nucleic Acids Research (1985) 13:8749-8785により記載されるシステム等を使用する部位特異的変異誘発(または発展法、例えば、Devlin et al., Science (1990) 249:404-406、およびScott & Smith, Science (1990) 249:386-390を参照)により調製可能である。(米国特許第6,001,625号も参照)。当技術分野において公知であるその他の従来式のPCR技術も使用され得る。
1つの実施形態では、置換用の残基の選択は、Biosymソフトウェアを備えるEvansおよびSutherland PS390プラットフォーム上で、Sussmanらにより公表されたAChEの結晶構造を使用する分子モデルに基づく。
【0027】
本明細書で使用する場合、「試料」は、その文法的変形形態を含め、農産物から得られる材料を意味する。例えば、そのような試料として、農産物の一部分、例えば殺有害生物剤または殺虫剤により汚染されている可能性のある皮が挙げられるが、ただしこれに限定されない。
本出願の反応生成物の蛍光または色を分析することにより、様々なクラスの殺有害生物剤または殺虫剤、例えばアセチルコリンエステラーゼをリン酸化またはカルバモイル化する化合物、例えば有機リン酸エステル(OP)またはカルバメート(CB)等について、それらを区別する方法が記載される。
【0028】
1つの実施形態では、AChEは、AChE阻害を検出するためのチップ、チューブ、またはプレート上に固定化され、または凍結乾燥され得る。プレートは、シングルまたはマルチウェルプレートであり得る。
本出願はキットも提供する。そのようなキットは、細胞上で発現されたアセチルコリンエステラーゼおよびアセチルコリンエステラーゼ基質を含む。細胞上で発現されたアセチルコリンエステラーゼは、懸濁液、チューブ、プレート、ガラスバイアル、またはジャー、プラスチックパック等中にあり得る。1つの実施形態では、細胞上で発現されたアセチルコリンエステラーゼは、懸濁液、チューブ、チップ、またはプレート中にあり得る。細胞上で発現されたアセチルコリンエステラーゼは、凍結乾燥され得るが、またマイクロタイタープレートまたはチップ内に収納され得る。例えば、固定化の方法として、Taylorら(米国特許第5,192,507号)に記載されるような方法を挙げることができるが、ただしこれに限定されない。その他の実施形態では、本キットは、酵素を収納するプラスチック、ガラス製のコンテナ、または金属チューブを含み得るが、またチューブは、一方の端部にインレット手段および他方の端部にアウトレット手段を有し得る。
【0029】
本キットは陰性対照試料をさらに含み得る。そのような陰性対照試料は、殺有害生物剤、殺虫剤等を含有しない、または極少量の殺有害生物剤、殺虫剤等を含有する。本キットは、殺有害生物剤、殺虫剤等、例えばテリトレムB、塩酸ドネペジル、またはシクロペニンの量(陽性結果とみなされる)に等しいまたはそれを上回る、ある量の殺有害生物剤、殺虫剤等を一般的に含む陽性対照試料も含み得る。本キットは、化学物質、例えばバッファーまたは賦形剤等、および試料取扱い手段、例えばピペット、反応バイアル、容器、チューブ、またはフィルター等も含み得る。
それに加えて、本キットは、別紙指示書または任意のコンテナ手段または任意のその他の包装を含み得る。これらの指示書は、検出方法を実施するための条件、例えば混合比、量、インキュベーション時間等、およびスペクトルチャートを含む、本方法の結果を評価するための基準を通常定める。
【0030】
一実施形態では、アセチルコリンエステラーゼを発現する2種以上の細胞のセットが、殺有害生物剤の検出に適用され、前記2種以上の細胞のセットは、試料と接触すると異なる量の反応生成物を生成する。
一態様では、2種以上の細胞のセット内で異なる量のAChEを発現させるために、2種以上の細胞のセットが異なるバキュロウイルスクローンを用いて構築される。例えば、1つの細胞のセットがバキュロウイルスAクローンを用いて構築され、他の細胞のセットがバキュロウイルスBクローンを用いて構築され、バキュロウイルスAを用いて構築された細胞のセットはバキュロウイルスBを用いて構築された細胞のセットよりも多くのAChEを発現する。
別の態様では、2種以上の細胞のセット内で異なるAChEを発現させるために、異なるAChEを用いて2種以上の細胞のセットが構築される。例えば、異なるAChEは、感受性または非感受性AChEであり得る、あるいは異なるAChEは、異なる起源、例えば脊椎動物もしくは無脊椎動物、またはミバエ、イエバエ、ヒト、マウス、ラット、ツマジロクサヨトウ、ミジンコ、ニワトリ、ガ、アブラムシ、ミツバチ、小エビ、もしくはサカナに由来し得る。
【0031】
好ましい実施形態では、1つの細胞のセットがバキュロウイルスAクローンを用いて構築され、他の細胞のセットがバキュロウイルスBクローンを用いて構築され、バキュロウイルスAを用いて構築された細胞のセットは、バキュロウイルスBを用いて構築された細胞のセットよりも多くのAChEを発現する。1つの実施形態では、2つの細胞のセットが試料と接触するとき、3つのシナリオ、すなわち(1)バキュロウイルスAを用いて構築された細胞のセット内のアセチルコリンエステラーゼ活性およびバキュロウイルスBを用いて構築された細胞のセット内のアセチルコリンエステラーゼ活性の両方が試料により阻害されず、試料は殺有害生物剤により汚染されていないことを示すシナリオ、(2)バキュロウイルスAを用いて構築された細胞のセット内のアセチルコリンエステラーゼ活性は阻害されないが、しかしバキュロウイルスBを用いて構築された細胞のセット内のアセチルコリンエステラーゼ活性は阻害され、試料中の殺有害生物剤は許容レベルを下回ることを示すシナリオ、ならびに(3)バキュロウイルスAを用いて構築された細胞のセット内のアセチルコリンエステラーゼ活性およびバキュロウイルスBを用いて構築された細胞のセット内のアセチルコリンエステラーゼ活性の両方が試料により阻害され、試料は殺有害生物剤により汚染されており、また許容レベルを上回ることを示すシナリオが存在する。
【0032】
1つの実施形態では、2種以上のAChEが、殺有害生物剤を検出、定量、または同定するために、異なるウェル内の異なる細胞上に独立に提示され得る。例えば、異なる濃度の殺有害生物剤が活性または発現の異なるAChEにより測定され得るように、様々なアセチルコリンエステラーゼを発現する細胞が、殺有害生物剤濃度を反映するより強いおよびより弱い反応色を呈するように適用され得る。
【0033】
代表的な実施形態として、1、2、3、4、および5ユニットのAChEを有する細胞が、殺有害生物剤または殺虫剤の検出用として適用され得る。エルマン法(Ellman’s method)を適用した場合、黄色の検出は、OP系またはCB系殺虫剤の不存在またはその濃度が検出限界未満であることに対応する。下記の表に示すように、殺有害生物剤または殺虫剤は2ユニットのAChEにより検出されたが、しかし3ユニットのAChEでは検出されなかった。すなわち、殺有害生物剤または殺虫剤の濃度は、AChEのユニットと特定の殺有害生物剤または殺虫剤の濃度とを対応させることにより作成された標準曲線を参照しながら半定量され得る。例えば、殺有害生物剤Aの濃度は、1.4×10-7Mよりも高いまたはそれに等しいが、しかし1.6×10-7よりも低い。
【0034】
【0035】
あるいは、異なるAChE変異体または異なる生物に由来するAChEが、上記方法またはキットに適用され得る。換言すれば、様々な感受性を有するAChEが異なるウェル上に表示され得る。したがって、殺有害生物剤は、上記議論の通り、AChEパネルのシリーズにより検出、定量、または同定され得る。
さらなる苦労を労せずとも、当業者は、上記説明に基づき、本発明をその全体について利用することができると考えられる。下記の具体例は、したがって単に例証的であり、またどのようなことがあっても本開示の残りの部分を制限するものではないと解釈される。本明細書で引用されたすべての公開資料は参照により組み込まれている。
【実施例】
【0036】
材料および方法
化学物質および試薬
アセチルコリンエステラーゼアッセイキット(標準AChE)をAbcam社から購入した。殺有害生物剤残留物の迅速バイオアッセイ試薬キット(Rapid Bioassay of Pesticides Residues Reagent Kit)(市販AChE)をSichen社から購入した。
阻害アッセイ用の有機リン酸エステル化合物(パラオキソンエチル、マラオキソン、クロルピリホス、およびエチオン)、およびカルバメート化合物(カルバリル、カルボフラン、およびメトミル)を、Sigma-Aldrich社から購入した。4化合物すべてを、ジメチルスルホキシド(DMSO)(Ameresco社)中、1mMのストック溶液として使用する前に調製した。アッセイ内の異なる濃度の各化合物溶液を、最終DMSO濃度を2%未満に維持しつつ、DMSO中での連続希釈によりさらに調整した。ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)をCorning社から購入した。使用される化学物質は、いずれも分析グレードのものであった。
【0037】
細胞株およびウイルス
組換えバキュロウイルス(AcMNPV)生成用のスポドプテラ・フルギペルダIPLB-Sf21(Sf21)細胞を、10%ウシ胎仔血清(FBS)を含有するTC100昆虫培地(US Biological社)中、26℃で増殖させた。最大組換えタンパク質発現用のイラクサギンウワバBTI-TN-5B1-4 High Five(Hi5)細胞を、ESF921(商標)昆虫細胞培養培地(Expression Systems社)中、26℃で増殖させた。vAChE-FL、vAChE-6MC、またはAChE cDNAを有さない対照ウイルス(vCont)を含む組換えバキュロウイルスを、TransIT(登録商標)-昆虫トランスフェクション試薬(Insect Transfection Reagent)(Mirus社)を使用して、FlashBAC(商標)で改変されたAcMNPVゲノム(Mirus社)を、トランスファーベクタープラスミドと共にSf21細胞中に同時トランスフェクトすることにより生成させた。組換え体を繁殖させ、連続希釈により単離した。定量的PCR(qPCR)および50%組織培養感染量(TCID50)の両方により、ウイルスクローン力価を測定した。
【0038】
プラスミドの構築
AChE配列は、変異Y408F[11]を有するキイロショウジョウバエ[10]に由来し、その配列はBio Basic Inc.社により合成された。プラスミドpABEGhhp10は、アミノ末端にミツバチメリチンシグナルペプチドおよびカルボキシル末端にGP64膜貫通ドメインおよびCTDドメインを有するトランスファーベクターである(6MC)。プラスミドpABEGhhp10は、EGFP蛍光タンパク質の発現を推進するpagプロモーターを担持し、p10プロモーターの下流に外来配列の挿入を可能にする。AChE Y408F配列を、KODホットスタートマスターミックス(Hot Start Master Mix)(Merck社)および2つの特異的オリゴヌクレオチドプライマーを使用して、ポリメラーゼ連鎖反応において増幅させた。6MCを有さないFLコード領域挿入断片を増幅するのに使用したプライマーはHAChEifp(5’-CACCATCACCATCACGTCATCGATCGCCTGGTT-3’、配列番号13)、およびAChE2rp(5’-CGGATCAATTAATTAGAACACGCGCTTAGTTCTC-3’、配列番号14)であった。C末端GPI係留トランケート化AChE 6MCコード領域挿入断片を増幅するのに使用したプライマーは、HAChEifp(5’-CACCATCACCATCACGTCATCGATCGCCTGGTT-3’、配列番号13)、およびAChEdeGPIrp(5’-ATGACCAAACATGAAATCTCCGTCACATGTGCC-3’、配列番号15)であった。プラスミドpABEGhhp10を、KODホットスタートマスターミックス(Merck社)および2つの特異的オリゴヌクレオチドプライマーを使用して、ポリメラーゼ連鎖反応において増幅させた。FLコード領域ベクター断片を増幅するのに使用したプライマーは、pABhhp10HM6H2fp(5’-ACTAAGCGCGTGTTCTAATTAATTGATCCGGGTTATTAGTACATTTAT-3’、配列番号16)、およびHAChEvrp(5’-CAGGCGATCGATGACGTGATGGTGATGGTGATGC-3’、配列番号17)であった。6MCコード領域ベクター断片を増幅するのに使用したプライマーは、pABhhp10HM6Hfp(5’-ACATGTGACGGAGATTTCATGTTTGGTCATGTAGTTAACTTTGT-3’、配列番号18)、およびHAChEvrp(5’-AGGCGATCGATGACGTGATGGTGATGGTGATGC-3’、配列番号17)であった。In-fusion HD Cloning Kit(Takara Bio USA,Inc.社)を使用することにより、挿入断片をベクター断片と融合させた。変換およびコロニー採集の後、プラスミドを増幅、抽出し、配列分析により検証した。得られた完全長AChE、AChE-6MCを含有するプラスミド、およびAChE挿入を有さない対照ウイルスを、FL、6MC、およびContとしてそれぞれ省略した。得られたプラスミドをpAChE-FL(配列番号5)、pAChE-6MC(配列番号6)、およびpCont-Bacと命名し、また得られた組換えバキュロウイルスをvAChE-FL、vAChE-6MC、およびCont-Bacと命名した。一実施形態では、AChE-FLは配列番号1のアミノ酸を含む。好ましい実施形態では、AChE-FLは、配列番号2のヌクレオチド配列によりコードされる。別の実施形態では、AChE-6MCは配列番号3のアミノ酸を含む。別の好ましい実施形態では、AChE-6MCは配列番号4のヌクレオチド配列によりコードされる。
【0039】
これに加えて、ヒト(HsAChE)、ラット(RnAChE)、セイヨウミツバチ(AmAChE)、スポドプテラ・フルギペルダ(SfAChE)、オオミジンコ(DamAChE)、およびミカンコミバエ(BdAChE)に由来するAChE配列を、Bio Basic Inc.社により合成した。組換えバキュロウイルス用のトランスファーベクターを生成するために、上記記載の全AChE配列をベクターpABEGhhp10中にクローン化した。得られた組換えバキュロウイルスを、vHsAChE、vRnAChE、vAmAChE、vSfAChE、vDamAChE、およびvBdAChEとそれぞれ呼ぶことにし、得られた組換えプラスミドを、pHsAChE、pRnAChE、pAmAChE、pSfAChE、pDamAChE、およびpBdAChEとそれぞれ呼ぶことにした。一実施態様では、pAChE-FLから生成したバキュロウイルスをvDmAChEと命名した。一実施形態では、HsAChEは、配列番号7のアミノ酸を含む。RnAChEは、配列番号8のアミノ酸を含む。AmAChEは、配列番号9のアミノ酸を含む。SfAChEは、配列番号10のアミノ酸を含む。DamAChEは、配列番号11のアミノ酸を含む。BdAChEは、配列番号12のアミノ酸を含む。
【0040】
AChEの発現およびAChE提示細胞の収集
一次ウイルスストック(V0)を、flashBAC(商標)ULTRA(Mirus Bio社)およびDNA-Cellfectin(登録商標)(Invitrogen社)混合物を用いたSf21細胞のトランスフェクションから取得し、単一ウイルス(V1)の力価をストックウイルス溶液の連続希釈により改善し、またプラーク精製により単離した。繁殖させた単一ウイルス(V2)を、Sf21細胞のV1ウイルス感染を用いて増幅させた。96ウェルマイクロプレート中のHi5細胞(細胞4×105個/mL)をV2ウイルスに感染させ、26℃で3~4日間増殖させた。Hi5細胞を、0.1~10、好ましくは1~5、0.2~5、または0.5~2の感染多重度(MOI)で感染させた。例えば、MOIは、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10であり得る。バイオマーカーとして蛍光、例えばEGFPレポーターの発現を使用することにより、AChEを発現する組換えバキュロウイルスをスクリーニングした。AChEの発現をAChE活性により決定した。感染から3日後に、細胞スクレーパーにより感染細胞を培養プレートまたはフラスコから削り取り、DPBSに懸濁した。細胞カウンターにより細胞数をカウントし、いくつかの異なる濃度に稀釈した。好ましい実施形態では、AChE提示細胞の種類に関する96ウェルプレートアッセイにおいて使用される最終濃度は、細胞5×103個、1.5×104個、および4.5×104個/ウェルであり得る。さらに、AChE提示細胞を収集する場合、培地を96ウェルマイクロプレートから慎重に除去した。マイクロプレート中の感染細胞は、残留する湿気を取り除くために、5時間凍結乾燥プロセスに置かれた。乾燥したマイクロプレートを密閉し、4℃に保った。
【0041】
AChE活性および阻害アッセイ
AChE活性をエルマン法により決定した。各96ウェルに対して、3mMのATChを50μlおよび3mMのエルマン試薬DTNB溶液を50μl添加した。室温で10分インキュベートした後、412nmにおける平均吸収を決定した。各殺有害生物剤によるAChE活性の阻害を決定するために、殺有害生物剤、例えばクロルピリホス、エチオン、カルバリル、カルボフラン、およびメトミル等のストック溶液を、1%のDMSOを含むDPBS中で10-3M~10-9Mの範囲の濃度に稀釈した。次に稀釈した溶液を、7つの組換えウイルス(vDmAChE、vHsAChE、vRnAChE、vAmAChE、vSfAChE、DamAChE、およびvBdAChE)に感染させたHi5細胞を含む96ウェルマイクロプレート中に個別に添加した。10分間インキュベートした後、基質ATChおよびDTNB溶液を反応混合物に添加した。室温で10分インキュベートした後、残留活性を、マイクロプレートリーダーを用いて412nmにおいて決定した。
【0042】
アセチルコリンエステラーゼストック溶液を、アッセイバッファー中、1:50の比で50ユニット/mLに稀釈し、1000mU/mLのアセチルコリンエステラーゼ標準溶液を生成した。次に、各標準の平均吸収を決定するために、1000mU/mLのアセチルコリンエステラーゼ標準溶液を、300、100、30、10、3、1、および0mU/mLにさらに稀釈した。各標準の読み取りをアセチルコリンエステラーゼの量の関数としてプロットして標準曲線を確立し、各テスト試料中の対応するAChEの量を、求めた直線式より計算した。AChE活性阻害(%)を計算するのに、Cont-Bac感染細胞(表面でAChEを発現しない)は、陰性対照として機能した一方、Abcam社の精製タンパク質、Sichen社の市販タンパク質、殺有害生物剤インキュベーション無しのvAChE-FLおよびvAChE-6MC感染細胞は陽性対照として機能した。陽性対照の活性は100%とみなした。AChEの残存活性を下記の式により評価する:
AChE活性阻害(%)=〔(ΔA0-ΔAS)/ΔA0〕×100
式中、ΔA0は、陽性対照の吸収の変化を表し、ΔASは、殺有害生物剤を適用してインキュベートした溶液の吸収の変化を表わす。阻害活性曲線により確立された直線式に基づき、AChEのIC50の数値(活性を50%阻害するのに必要とされる濃度)を計算した[12]。
【0043】
多重種AChEから決定されたAChE活性を使用する機械学習
多重種AChE検出プラットフォームに適用された殺有害生物剤および濃度を区別するために、Extreme Gradient Boosting(XGBoost)モデルを開発した。XGBoostモデルを訓練およびテストするために、所定の濃度を有する殺有害生物剤毎に多重種AChE検出から得られた光学濃度データを、7つのAChEに由来する読み取りおよび3つの細胞濃度を含む21パラメーターデータセットに編成した。実験を3回繰り返して得られた合計120個のデータセットを、訓練セット(106)とテストセット(14)に分割した。サイキット・ラーン(scikit-learn)を使用するPython内でモデルを構築するために、106個の訓練セットを使用した。テストデータセットを使用してアウトカムモデルを確認し、同定の正確性を評価した。
【0044】
結果
昆虫細胞表面発現用として高感受性AChE変異体および異なる種に由来する7つのAChEを合成した
キイロショウジョウバエ由来のAChEを、本出願における酵素として選択し、この酵素をコードするオリゴヌクレオチド(バキュロウイルス-昆虫系に対してコドン最適化されている)を合成した。酵素感受性を高めるためにY408F変異を合成遺伝子に導入したが、それは酵素感受性の最大12倍の増加を示した[11]。この組換え酵素を発現させるために2つのコンストラクトを生成した(
図1)。コンストラクトpAChE-FLは、完全長AChE(Y408F)、タンパク質分泌用のN末端ミツバチメリチンシグナルペプチド(HM)、および六量体ヒスチジンタグ(6H)を含み、これらはいずれも、hr1-hsp70(すなわち、hr1エンハンサー配列と融合したhsp70プロモーター)およびp10プロモーターを含有するデュエルプロモーターの下に置かれる(
図1、パート(a))。
C-末端GPI係留部位が欠失し、バキュロウイルスGP64タンパク質由来のTMおよびCTDと融合し、同一の発現ベクターpABEGhhp10(図1、パート(c))の下に置かれている他のコンストラクト、pAChE-6MC(図1パート(b))も生成される。GP64のTMおよびCTD
で置換すれば、バキュロウイルスのエンベロープおよび昆虫細胞の表面への組換えタンパク質の係留が改善することが報告されている
12-14。
【0045】
キイロショウジョウバエY408変異体以外に、6つの異なる種に由来するAChE(
図6)を本出願における多重酵素として選択した。本明細書では、明確に区別するために、多重酵素の実施形態において、キイロショウジョウバエY408変異体をDmAChEと呼ぶことにした(
図6、パート(a))。他の6つのAChEを、HsAChE、RnAChE、AmAChE、SfAChE、DamAChE、およびBdAChEを含む、その種の名称の略号により命名した。これら6つの酵素をコードするオリゴヌクレオチドを、バキュロウイルス-昆虫系に対してコドンを最適化して合成し、AChE-FLに対する戦略と同一の戦略を使用して、ベクターpABEGhhp10中にクローン化した。
【0046】
昆虫細胞表面発現型AChEは酵素活性を示した
2つの組換えバキュロウイルスvAChE-FLおよびvAChE-6MCをそれぞれ生成して、AChE-FLおよびAChE-6MCを発現させた。空ベクターpABEGhhp10も、陰性対照として組換えウイルスを生成するのに使用され、Cont-bacと命名された(
図1、パート(c))。High Five(Hi5)細胞は一般的に使用される昆虫細胞においてより高レベルの組換えタンパク質を発現することができたので、Hi5昆虫細胞を酵素発現用として使用した。さらに、細胞を無血清培地内で順応させ、したがって、最終酵素反応は血清干渉がない状態で実施され得る。96ウェルプレート内で、0.5のMOIを用いてHi5細胞を感染させるために、20個の単一ウイルスのそれぞれをvAChE-
FLおよびvAChE-
6MCから選択し、4つの
単一ウイルスをCont-bac用として選択し、感染後3日目(dpi)にそのAChE活性をアッセイした。酵素活性の標準曲線を確立するために、AChE標準溶液を0~1000mU/mLの範囲に稀釈した(
図2、パート(a))。Cont-bac感染細胞は基質アセチルコリンおよび発色剤DTNB溶液(
図2、パート(b))と反応した後、ほとんど透明な色を呈したように、vAChE-FL(
図2、パート(c))およびvAChE-6MC(
図2、パート(d))単一ウイルスに感染した細胞は、いずれも目視可能な黄色を呈し、平均60~80mU/mLの酵素活性にそれぞれ変換された。各コンストラクトにおいて最高活性を示す1つの単一ウイルスを次の実験用として選択した。
【0047】
細胞表面発現型AChEは凍結乾燥プロセスに耐える
細胞表面に提示されたAChEは高い酵素活性を示したが、細胞含有培地は輸送に不便である。この問題を解決するために、培地を除去し、なおもウェルに付着している細胞を凍結乾燥プロセスに付した。本発明者らの細胞表面発現型AChEが凍結真空乾燥プロセスに耐えることができるか知るために、Hi5細胞を、0.5のMOIを用いて、AChE-FL、AChE-6MC、またはCont-Bacをそれぞれ発現するウイルスに3日間感染させ、次に96ウェルプレート上の細胞試料を凍結乾燥に付した。凍結乾燥の前後両方において、顕微鏡検査により細胞形態を観察した。3つのウイルスコンストラクト、vAChE-FL、vAChE-6MC、およびCont-Bacのすべては、EGFPレポーター遺伝子を駆動するpagプロモーターを含有するので、これら3ウイルスに感染した細胞は、模擬的感染細胞が蛍光を示さないのに対して緑色蛍光を示す(
図3、パート(a))。凍結乾燥の後、該細胞試料のいずれも収縮した細胞形態を示したが、しかしこれら3つの感染細胞はなおも強い緑色蛍光を維持した(
図3、パート(a))。これら細胞試料のAChE活性を分析し、凍結真空乾燥プロセスは、AChE-FLおよびAChE-6MCについて酵素活性を失活させることもなく、またCont-Bacのバックグラウンドの読み取りを増加させることもなかったことが判明した(
図3、パート(b))。
【0048】
高AChE活性は、低MOIを用いたウイルス感染によりなおも達成され得る。
凍結乾燥条件を決定した後、本発明者らのAChE発現細胞試料についてウイルス感染条件の最適化を目指した。Hi5細胞を、組換えウイルスvAChE-FL、vAChE-6MC、およびCont-Bacに、0.1、0.5、1、2、および10のMOIを用いて、三重で個別に感染させた。3dpiにおいて、すべての感染細胞試料を凍結乾燥に付し、次にAChEの活性を決定した(
図4、パート(a))。vAChE-FLに感染した細胞試料のいずれも、vAChE-6MCに感染した試料よりもわずかに高いAChE活性を示したが、両ウイルスに関する感染細胞は、MOIが高いほどAChE活性は減少するという傾向を示し、これはvAChE-6MCに感染した細胞に特に当てはまる(
図4、パート(b))。Cont-bac感染細胞の場合、決定されたすべてのMOIは活性において有意差を示さなかった(
図4、パート(b))。これらの結果に基づき、MOI=0.1を、AChEを提示させるための標準的感染条件として使用した。
【0049】
AChE-FLおよびAChE-6MCの細胞表面提示は、OP系およびCB系殺虫剤を検出するための好都合なプラットフォームとなり得る
本出願の一実施形態に基づく細胞ベースのAChEがOP系およびCB系殺虫剤を判別するその能力を評価するために、2つのOP系(例えば、パラオキソンエチルおよびマラオキソン)および2つのCB系(例えば、カルボフランおよびカルバリル)殺虫剤化合物を本発明者らの系においてテストし、検出能力を標準として用いた精製AChE(Abcam社)と比較した(
図5)。組換えバキュロウイルスvAChE-FLおよびvAChE-6MCによりAChEを細胞表面提示させた場合、それらはAChEを細胞上に適切に提示でき、正確且つ容易にOP系およびCB系殺有害生物剤を検出するのに好都合であることが明らかとなった。比較する際には、Sichen Inc.社より販売されている台湾において最も一般的なAChE殺虫剤診断キットを使用した試験結果も含まれ、すべてのテスト試料のIC50についても計算した(表1)。Sichen社の場合、AChEをハエから得ており、また測定にはキュベット(1mL)も使用しなければないので、したがって多量のAChEが使用されるはずである。さらに、Sichen社は、分光光度計を使用して発色反応を測定するように提案している。しかしながら、本出願においては、ハエを飼育する必要がなく、またAChEを精製する必要もない。検出には、100μLの溶液しか必要とせず、且つ取扱いが容易な96ウェルプレートが適用され、残留殺有害生物剤を検出する場合、肉眼により読み取り可能である。
【0050】
【0051】
結論として、農産物中の殺虫剤残留物を好都合に検査するために、細胞ベースの検出システムが開発された。これは、わずらわしいハエの飼育、アセチルコリンエステラーゼの精製、キュベットアッセイ、および分光光度計での決定を不要とする、殺虫剤残留物をより良好に検出するための従来法に取って代る新規技術である。したがって、本明細書における開示は、OP系およびCB系殺虫剤の検出について、これまで実現することが困難であった好都合且つ迅速な解決策を提供する。AChE-FLおよびAChE-6MCは、異なる残留殺有害生物剤の検出において大雑把に1対数単位の差異を示したが、これら2つを組み合わせることで、過量投与から移行した残留殺有害生物剤の範囲から許容される範囲までカバーされるはずであり、またより良好な読み取りおよび検出のための前例のない簡易システムが実現する。
【0052】
多重種AChEプラットフォームは様々なOP系およびCB系殺有害生物剤に対して顕著な感受性を示した
6つのAChE(vHsAChE、vRnAChE、vAmAChE、vSfAChE、
vDamAChE、およびvBdAChE)に関する組換えバキュロウイルスを生み出した後、Hi5細胞をvDmAChEおよびこれらのウイルスにそれぞれ感染させた。感染から3日後、感染細胞を細胞スクレーパーにより培養プレートまたはフラスコから削り取り、DPBSに懸濁した。AChE酵素濃度を調整するために、各96ウェルに添加される細胞数を変化させた。最初の細胞数を細胞カウンターによりカウントし、希釈または濃縮により3つの異なる細胞濃度を調整した。
図7では、細胞5×10
3個、1.5×10
4個、および4.5×10
4個/ウェルの細胞濃度を使用した結果を示した。殺有害生物剤を添加した後、AChE活性が阻害されれば、黄色の発色(412nmにおける吸収により決定可能である)の減少を引き起こす。異なる初期濃度を有する7つのAChEは、クロルピリホスおよびエチオンを含むOP、ならびにカルバリル、カルボフラン、およびメトミル殺有害生物剤を含むCBに対して様々な感受性を示した(
図7)。
【0053】
機械学習アプローチは多重種AChEによりアッセイされた殺有害生物剤残留物の迅速な識別を可能にする
多重種AChEはテストされた殺有害生物剤に対して異なる感受性を示したので、所定の濃度を有する殺有害生物剤に関するアウトカム光学濃度データは、7つのAChEおよび3つの細胞濃度から得られる21の読み取りを含む同定パネルとなり得る(
図8、パート(a))。殺有害生物剤同定モデルを開発するために、実験を3回繰り返して得られた合計120個のデータセットを使用した。XGBoostにより構築されたモデルを訓練するために、106個の訓練セットをアルゴリズムにインプットし、同定の正確性を評価するために14個のテストセットを使用した(
図8、パート(b))。モデルは、より多くの決定要素をインプットすること、および正確性を改善することにより継続して訓練され得る。
【0054】
結論として、残留殺有害生物剤および濃度の両方を区別することができる、新規の多重種AChE式殺有害生物剤決定法用の方法およびキットが開発された。機械学習を組み合わせることで、特定の殺有害生物剤を濃度と共に迅速に同定することが可能になり、また該システムはより多くの訓練データを付加することによりさらに最適化され得る。
【0055】
考察
OP系およびCB系殺虫剤は、農学品種に適用される一般的な化学殺有害生物剤であり、作物汚染を頻繁に引き起こし、またヒトの健康を脅す。本出願において、バキュロウイルスを使用して、OP系およびCB系殺虫剤に対して高感受性のAChE変異体を細胞表面に提示させることにより、これら殺虫剤を好都合に検出するための、測定を支援する分光光度計の必要の有無にかかわらない新規決定プラットフォームが、開発された。いくつかの条件、例えばウイルス感染のためのMOIおよび凍結乾燥等も、システムを最適化するために検討された。注目すべきことには、GP64のTMおよびCTDに置き換えることで、殺虫剤残留物に対する表面提示型AChEの感受性が改善することが判明した。
【0056】
天然基質のアセチルコリンに加えて、AChEは、チオコリンのエステル、例えばアセチルチオコリン(ATCh)、プロピオニルチオコリン、およびアセチル-3-メチルコリン等を含む、多くのその他のエステルを加水分解するのにも使用可能である15。AChEは、アセチルコリン、コリン、エゼリン、キニジン、テトラメチルアンモニウムイオン、p-カルボキシフェニルトリメチルアンモニウムヨウ化物、トリメチル(p-アミノフェニル)塩化アンモニウム塩酸塩、ネオスチグミン、エチオナミド、ジメトエート、ホスファチジルセリン、プロスチグミン、アンモニウム塩、および様々な有機リン酸エステル系、有機塩素系、およびカルバメート系殺有害生物剤により阻害される。いくつかの分光測定ベースのアッセイ法が、UV-Visアッセイ、蛍光アッセイ、および質量分析スペクトル分析アッセイを含め、幅広く使用されている16。該試験で使用される最も汎用な方法は、エルマン法である。AChEは、ATChを触媒的に加水分解してチオコリンを生成し、チオコリンはDTNBと反応して412nmにおいて測定可能である黄色のTNBを生成する。代替法は、DTNBに代わりジチオジニコチン酸(DTNA)または2,2’-ジチオジピリジン(2-PDS)を使用する。反応の生成物は344nmにおいて測定可能である17。エルマン法以外に、AChEの活性および阻害のその他アッセイ法もまた、以下に説明するような本発明者らの表面提示式検出システムに適用され得る。基質アセチルコリンの検出に基づく比色分析法は、ヒドロキシルアミンとの反応で、測光法によりモニタリング可能なFe3+を担持するアセチルヒドロキサム酸をもたらす18。コリンは、ペルオキシダーゼと結合したコリンオキシダーゼ/フェノール/アミノアンチピリン系(500nmに最大吸収を有するピンク色の生成物を生成する)を使用することによってもやはり検出され得る19。AuCl4の存在下でAu NPシードの触媒的凝集拡大を刺激するためにチオコリンを使用するナノテクノロジーベースのセンシング法は、570nmに最大吸収を有する青色を誘発する20。2つの蛍光誘発性基質、酪酸レゾルフィンおよび酢酸インドキシルは非蛍光化合物であるが、これらはコリンエステラーゼにより、580nmおよび470nmに最大吸収をそれぞれ有するきわめて蛍光性の物質に加水分解され得る21。蛍光誘発性の化合物N-[4-(7-ジエチルアミノ-4-メチルクマリン-3-イル)フェニル]マレイミドもまた、チオコリンと反応して473nmで蛍光発光する濃い青色の蛍光生成物を生成することができる22。AChEはアセチルコリンをコリン変換し、その後コリンはChOにより酸化されてベタインおよびH2O2となる。西洋ワサビペルオキシダーゼの存在下、後者は、蛍光誘発性プローブであるAmplex Red試薬(10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン)と反応して、571nmおよび585nmで蛍光発光するきわめて蛍光性の生成物レゾルフィンを生成する(Molecular Probes,Inc.社)。半導体ナノ粒子である量子ドット(QD)は、QD発光を消光させるH2O2とも反応することができるという固有の蛍光特性を有する。そのサイズ制御された蛍光特性および高い蛍光量子収率により、量子ドットは、570nmで蛍光発光するバイオセンシングにとって優れた光学標識となっている23。蛍光チオールグリーン指示薬またはAbRed指示薬を含む2つのアセチルコリンエステラーゼアッセイキットが、蛍光発光Ex/Em=490/520nmおよび540/590nmをそれぞれ用いたAChE活性検出用として設計されている(Abcam,Inc.社)。
【0057】
本出願に基づく表面提示型AChEの殺虫剤残留物を検知する能力を決定した。AChE-FLに対するパラオキソンエチル、マラオキソン、カルボフラン、およびカルバリルのIC50は、それぞれ4.9×10-7、5.6×10-7、4.8×10-5、6.8×10-6Mであり、またAChE-6MCに対するそれは、それぞれ5.5×10-8、6.2×10-8、4.5×10-6、6.5×10-7Mであった。Abcam社AChEと同一の活性ユニットを有するSichen社の市販キットとを比較すると、上記殺虫剤に対して、それぞれ5.1×10-7、8.2×10-7、5.4×10-7、6.5×10-6M、およびそれぞれ2.3×10-6、9.5×10-7、2.8×10-6、5.9×10-6MのIC50を示した。これらの結果は、野菜およびくだもの中の殺虫剤残留物に対する、簡便、迅速、且つ実用的で、しかもコストが手頃なテスト法としての本分析プラットフォームを保証する。
【0058】
結果は、GP64のTMおよびCTDがなくても、昆虫細胞表面に外来膜タンパク質はなおも提示可能であるという戦略も明らかにした。しかしながら、外来タンパク質のTMおよびCTDをGP64のそれと置換すれば、提示されたタンパク質が安定化する可能性があり、したがって該タンパク質は、物理的または化学的処理、例えば洗浄または薬物添加ステップ等に耐えることができる。とはいえ、いずれにしても、やっかいで費用のかかるプロセスである膜タンパク質精製に費やされる甚大な努力が省かれる。標的タンパク質の甚大な喪失を頻繁に引き起こす。このプラットフォームは、これまでのシステム対していくつかの長所を有する。第1番目に、ここで適用されるAChEは、ハエ脳から得られたAChEよりもはるかに敏感な変異体である。第2番目に、AChEを提示した昆虫細胞は96ウェルマイクロプレートの底部に付着しており、したがってバイオセンサーに一般的に必要とされる固定化プロセスは不要であり、やっかいな精製プロセスも不要である。第3番目に、昆虫細胞上に提示されるAChEは、出荷に好都合なようにフリーズドライされ得る。第4番目に、機器、例えば分光光度計等が不要である。第5番目に、コストは、すべての公知システムの中でもおそらくは最も低い。結論として、本発明者らは、OP系およびCB系殺有害生物剤残留物の将来的迅速決定にとって有望である高感受性昆虫細胞表面提示式AChEプラットフォームを開発し、表面提示型膜タンパク質の性能を改善するための実用的戦略を提案した。
【0059】
当業者にとって、様々な改変および変更が開示された実施形態に対してなし得ることは明白である。本明細書および実施例は例示限定とみなされ、本開示の真の範囲は下記の特許請求の範囲およびその等価物により示されることが意図されている。
参考資料
以下に列挙するおよび本明細書で引用された参考資料は、本明細書が明示的に別途規定しない限り、本明細書により参考として本明細書に組み込まれている。
【0060】
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【配列表】