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特許7231740新規なラウロラクタムの製造方法および合成装置
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  • 特許-新規なラウロラクタムの製造方法および合成装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】新規なラウロラクタムの製造方法および合成装置
(51)【国際特許分類】
   C07D 225/02 20060101AFI20230221BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230221BHJP
【FI】
C07D225/02
C07B61/00 300
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021533608
(86)(22)【出願日】2019-12-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-03
(86)【国際出願番号】 KR2019017935
(87)【国際公開番号】W WO2020130605
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-06-11
(31)【優先権主張番号】10-2018-0165237
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】501014658
【氏名又は名称】ハンワ ソリューションズ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】HANWHA SOLUTIONS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム, ジヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム, ヨンジン
(72)【発明者】
【氏名】パク, ジョンソク
(72)【発明者】
【氏名】パク, ジンホ
(72)【発明者】
【氏名】セオ, ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】ヒョン, ソンフン
(72)【発明者】
【氏名】ソン, キュホ
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-034938(JP,A)
【文献】特表2007-506705(JP,A)
【文献】国際公開第2009/069522(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)シクロドデセン(CDEN)を触媒でエポキシ化し、エポキシ化シクロドデカンを合成するステップと、
b)前記エポキシ化シクロドデカンをアルカリハライド触媒下で、転位反応によりシクロドデカノンを合成するステップと、
c)前記シクロドデカノンを含む反応混合物を分離することなく、アンモキシム化反応(ammoximation)によりシクロドデカノンオキシムを合成するステップとを含む、ラウロラクタムの製造方法。
【請求項2】
前記a)ステップの前に、シクロドデカトリエン(CDT)を部分水素化添加反応させてシクロドデセン(CDEN)を合成するステップをさらに含む、請求項1に記載のラウロラクタムの製造方法。
【請求項3】
前記シクロドデカトリエン(CDT)は、1,3‐ブタジエンをチーグラー・ナッタ触媒で環化三量化反応させて合成する、請求項2に記載のラウロラクタムの製造方法。
【請求項4】
前記部分水素化添加反応は、撹拌によって負圧と正圧が発生する撹拌機により行われる、請求項2に記載のラウロラクタムの製造方法。
【請求項5】
前記部分水素化添加反応は、塩化ルテニウム;トリフェニルホスフィン;およびホルムアルデヒドまたは一酸化炭素;錯体を含む均一系触媒の存在下で行われる、請求項2に記載のラウロラクタムの製造方法。
【請求項6】
前記a)ステップは、酸化タングステン塩および相転移剤を含む触媒を使用してエポキシ化を行う、請求項1に記載のラウロラクタムの製造方法。
【請求項7】
前記c)ステップは、エタノールを含む溶媒上で、アンモニア;過酸化水素;チタンシリカライトを含む触媒;およびアンモニウムアセテートを含む反応活性体;をシクロドデカノンと反応させてシクロドデカノンオキシムを合成する、請求項1に記載のラウロラクタムの製造方法。
【請求項8】
前記c)ステップの後、d)シクロドデカノンオキシムでベックマン転位反応によりラウロラクタムを合成するステップをさらに含む、請求項1に記載のラウロラクタムの製造方法。
【請求項9】
前記ベックマン転位反応は、イソプロピルシクロヘキサンを含む溶媒上で塩化シアヌルを含む触媒によりシクロドデカノンオキシムからラウロラクタムを合成する、請求項8に記載のラウロラクタムの製造方法。
【請求項10】
前記d)ラウロラクタムを合成するステップの後、e)ラウロラクタムを含む混合物からラウロラクタムを分離および精製するステップをさらに含む、請求項8に記載のラウロラクタムの製造方法。
【請求項11】
シクロドデカトリエンおよび水素が流入されて、シクロドデセンが合成される部分水素化反応器と、
前記部分水素化反応器からシクロドデセンまたはこれを含む混合物と触媒が投入されて、エポキシ化シクロドデカンが合成されるエポキシ化反応器と、
前記エポキシ化反応器からエポキシ化シクロドデカンまたはこれを含む混合物とアルカリハライド触媒が投入されて、シクロドデカノンが合成される転位反応器と、
前記転位反応器からシクロドデカノンまたはこれを含む混合物とアンモニアが流入されて、シクロドデカノンオキシムが合成されるオキシム化反応器と、
前記オキシム化反応器からシクロドデカノンオキシムまたはこれを含む混合物が流入されて、ラウロラクタムが合成されるベックマン転位反応器とを含む、ラウロラクタム合成装置。
【請求項12】
前記ラウロラクタム合成装置は、1,3‐ブタジエンが流入されてシクロドデカトリエンが合成され、前記部分水素化反応器に前記合成されたシクロドデカトリエンを流入させるための環化三量化反応器をさらに含む、請求項11に記載のラウロラクタム合成装置。
【請求項13】
前記部分水素化反応器の内部は、エタノールを含む溶媒上で、シクロドデカトリエンに、水素;塩化ルテニウム、トリフェニルホスフィンおよびホルムアルデヒドまたは一酸化炭素錯体を含む触媒;酢酸またはエタノールを含む触媒活性剤;が反応してシクロドデセンが合成される、請求項11に記載のラウロラクタム合成装置。
【請求項14】
前記エポキシ化反応器で前記シクロドデセンは、酸化タングステン塩および相転移剤を含む触媒によって反応が行われる、請求項11に記載のラウロラクタム合成装置。
【請求項15】
前記オキシム化反応器は、エタノールを含む溶媒上で、シクロドデカノンに、アンモニア;過酸化水素;チタンシリカライトを含む触媒;およびアンモニウムアセテートを含む反応活性剤;が反応してシクロドデカノンオキシムが合成される、請求項11に記載のラウロラクタム合成装置。
【請求項16】
前記ベックマン転位化反応器の内部は、イソプロピルシクロヘキサンを含む溶媒上で、シクロドデカノンオキシムに塩化シアヌルを含む触媒が反応してラウロラクタムが合成される、請求項11に記載のラウロラクタム合成装置。
【請求項17】
前記ラウロラクタム合成装置は、前記ベックマン転位反応器からラウロラクタムまたはこれを含む混合物が流入されて、ラウロラクタム以外の物質が分離および除去される蒸留反応器をさらに含む、請求項11に記載のラウロラクタム合成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラウロラクタムを製造する新規な方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、工業上、アミド化合物を製造する方法は、対応するオキシム化合物をベックマン転位反応を用いて変換させるものである。例えば、ラウロラクタムは、シクロドデカノンオキシムをベックマン転位反応により合成することができる。ただし、ベックマン転位反応の工程は、相当複雑なプロセスに属し、触媒として濃硫酸および発煙硫酸が使用されるが、これらは強酸として高含量が求められ、中和時に大量の硫酸アンモニウムの副生成物が発生するため、これを処理するための設備を要するという限界がある。また、ベックマン転位反応は、溶媒上で行われるが、前記溶媒は、シクロドデカノンオキシムの溶解度が大きいものでなければならず、前記触媒である濃硫酸および発煙硫酸と反応しないものに相当しなければならないため、その選択に制約がある。
【0003】
ラウロラクタムの製造のための従来方法として、特許文献1には、「液相でのラウロラクタムの連続製造法」が開示されている。かかる方法も濃硫酸を触媒として使用してベックマン転位反応の工程を経ることであるが、硫酸アンモニウムの副生成物は発生しない。ただし、廃硫酸の処理のための膨大な設備とエネルギーが求められ、残存するシクロドデカノンが副生成物を生成することがあり、これを防止するために、オキシム化反応を完結する必要がある。この場合、溶媒として使用されるイソプロピルシクロヘキサンが疎水性であるため、油/水の界面での物質移動速度が遅く、オキシム化に長時間を要する。
【0004】
一方、最近、大量の硫酸、発煙硫酸を用いない転位触媒に関する研究が活発に行われている。例えば、強酸を含む過酸化レニウムのアンモニウム塩とトリフルオロメタンスルホン酸の混合系触媒、インジウムトリフラート、イッテルビウムトリフラートがそうである。また、酸を用いない、レニウム化合物と窒素含有ヘテロ環式化合物の存在下で転位反応を行う方法などがある。しかし、この場合にも、触媒および製造方法に使用される溶媒が特殊で、その回収およびリサイクル用法が明確ではなく、工業的プロセスとして完成したものと見なすことが難しい。
【0005】
ラウロラクタムの合成のためのシクロドデカノンオキシムは、様々な合成方法を経て製造され得る。しかし、かかる様々な合成法は、数段階の工程を経る必要があるため、全プロセスシステムを構築するにあたり、より効率的な方法を見出すための研究が必要である。
【0006】
具体的には、第1工程として、シクロドデカトリエンに水素化添加反応を行ってシクロドデカンを合成するステップ、第2工程として、シクロドデカンを空気酸化(air oxidation)させた後、加水分解(Hydrolysis)および結晶化(Crystallization)反応を経てシクロドデカノンを合成するステップを考慮することができる。しかし、前記の方法は、第1工程でシクロドデカンだけでなく、シクロドデセンがともに合成され、これを分離し、第2工程に再循環させる第3工程が伴われなければならず、第2工程でシクロドデカノンの他にシクロドデカノール(Cyclododecanol)がともに合成され、これを脱水素化(Dehydrogenation)させる第4工程が伴われなければならないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特公昭52-033118号公報(日本登録特許公報1977-033118B2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高純度のシクロドデカノン(cyclododecanone)を合成して大量に発生する副生成物処理設備の必要の問題などを解決し、全工程を簡素化し、且つ高収率、高純度のラウロラクタムを取得することができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるラウロラクタムの製造方法は、a)シクロドデセン(CDEN)を触媒でエポキシ化し、エポキシ化シクロドデカンを合成するステップと、b)前記エポキシ化シクロドデカンを触媒化反応させてシクロドデカノンを合成するステップと、c)シクロドデカノンでアンモキシム化反応(ammoximation)によりシクロドデカノンオキシムを合成するステップとを含む。
【0010】
以下、課題を解決するための手段で後述する内容は、一例として説明するものであって、これに制限解釈してはならない。
【0011】
本発明の一例において、前記ラウロラクタムの製造方法は、前記a)ステップの前に、シクロドデカトリエン(CDT)を部分水素化添加反応させてシクロドデセン(CDEN)を合成するステップをさらに含むことができる。
【0012】
本発明の一例において、前記シクロドデカトリエン(CDT)は、1,3‐ブタジエンをチーグラー・ナッタ触媒で環化三量化反応させて合成することができる。
【0013】
本発明の一例において、前記部分水素化添加反応は、撹拌によって負圧と正圧が発生する撹拌機により行われ得る。
【0014】
本発明の一例において、前記部分水素化添加反応は、塩化ルテニウム;トリフェニルホスフィン;およびホルムアルデヒドまたは一酸化炭素;錯体を含む均一系触媒の存在下で行われ得る。
【0015】
本発明の一例において、前記ラウロラクタムの製造方法の前記a)ステップは、酸化タングステン塩および相転移剤を含む触媒を使用してエポキシ化を行うことができる。
【0016】
本発明の一例において、前記b)ステップは、アルカリハライドを触媒として使用することができる。
【0017】
本発明の一例において、前記c)ステップは、エタノールを含む溶媒上で、アンモニア;過酸化水素;チタンシリカライトを含む触媒;およびアンモニウムアセテートを含む反応活性体;をシクロドデカノンと反応させてシクロドデカノンオキシムを合成することができる。
【0018】
本発明の一例において、前記ラウロラクタムの製造方法は、前記c)ステップの後、シクロドデカノンオキシムでベックマン転位反応によりラウロラクタムを合成するステップをさらに含むことができる。
【0019】
本発明の一例において、前記ベックマン転位反応は、イソプロピルシクロヘキサンを含む溶媒上で塩化シアヌルを含む触媒によりシクロドデカノンオキシムからラウロラクタムを合成することができる。
【0020】
本発明の一例において、前記ラウロラクタムを合成するステップの後、ラウロラクタムを含む混合物からラウロラクタムを分離および精製するステップをさらに含むことができる。
【0021】
本発明によるラウロラクタム合成装置は、シクロドデカトリエンおよび水素が流入されて、シクロドデセンが合成される部分水素化反応器と、前記部分水素化反応器からシクロドデセンまたはこれを含む混合物と触媒が投入されて、エポキシ化シクロドデカンが合成されるエポキシ化反応器と、前記エポキシ化反応器からエポキシ化シクロドデカンまたはこれを含む混合物と触媒が投入されて、シクロドデカノンが合成される転位反応器と、前記転位反応器からシクロドデカノンまたはこれを含む混合物とアンモニアが流入されて、シクロドデカノンオキシムが合成されるオキシム化反応器と、前記オキシム化反応器からシクロドデカノンオキシムまたはこれを含む混合物が流入されて、ラウロラクタムが合成されるベックマン転位反応器とを含む。
【0022】
本発明の一例において、前記ラウロラクタム合成装置は、1,3‐ブタジエンが流入されてシクロドデカトリエンが合成され、前記部分水素化反応器に前記合成されたシクロドデカトリエンを流入させるための環化三量化反応器をさらに含むことができる。
【0023】
本発明の一例において、前記部分水素化反応器の内部は、エタノールを含む溶媒上で、シクロドデカトリエンに、水素;塩化ルテニウム、トリフェニルホスフィンおよびホルムアルデヒドを含む触媒;およびエタノールと酢酸から選択されるいずれか一つ以上を含む触媒活性剤;が反応してシクロドデセンが合成され得る。
【0024】
本発明の一例において、前記エポキシ化反応器で前記シクロドデセンは、酸化タングステン塩および相転移剤を含む触媒によって反応が行われ得る。
【0025】
本発明の一例において、前記転位反応器で前記エポキシ化シクロドデカンは、アルカリハライドを触媒としてシクロドデカノンを合成することができる。
【0026】
本発明の一例において、前記オキシム化反応器は、エタノールを含む溶媒上で、シクロドデカノンに、アンモニア;過酸化水素;チタンシリカライトを含む触媒;およびアンモニウムアセテートを含む反応活性剤;が反応してシクロドデカノンオキシムが合成されることができる。
【0027】
本発明の一例において、前記ベックマン転位化反応器の内部は、イソプロピルシクロヘキサンを含む溶媒上で、シクロドデカノンオキシムに塩化シアヌルを含む触媒が反応してラウロラクタムが合成され得る。
【0028】
本発明の一例において、前記ラウロラクタム合成装置は、前記ベックマン転位反応器からラウロラクタムまたはこれを含む混合物が流入されて、ラウロラクタム以外の物質が分離および除去される蒸留反応器をさらに含むことができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によると、最初反応物から中間生成物を経て最終生成物であるラウロラクタムに至るまでの各工程において、目標合成物への転化率および選択度が著しく高く、高収率、高純度でラウロラクタムを取得することができる実用可能な工業的プロセスを具現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明によるラウロラクタムの製造ステップを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明について具体的に説明する。本明細書で使用される用語は、特別に定義しない場合、当該分野において通常の知識を有する者が一般的に理解する内容に解釈すべきである。本明細書の図面および実施例は、通常の知識を有する者が本発明を容易に理解し、実施するためのものであって、図面および実施例において発明の要旨を不明瞭にし得る内容は省略されてもよく、本発明は図面および実施例に限定されるものではない。
【0032】
本発明で使用される用語の単数形態は、特別な説明がない限り、複数形態も含むものと解釈し得る。
【0033】
本発明は、ラウロラクタムの製造方法、その合成装置およびこれらのうち一つ以上を含むラウロラクタムの製造システムを提供し、本発明による各工程ステップを経る場合、各ステップで合成された目標物質をはじめ、反応せずに残っている物質などを含む取得物を別の工程で分離する必要なく、そのまま以降のステップの反応物として使用することができ、ラウロラクタムを合成する最終ステップまで転化率および選択度が著しく高い効果が具現される。
【0034】
本発明によるラウロラクタムの製造方法は、a)シクロドデセン(CDEN)を触媒でエポキシ化し、エポキシ化シクロドデカンを合成するステップと、b)前記エポキシ化シクロドデカンを触媒化反応させてシクロドデカノンを合成するステップと、c)シクロドデカノンでアンモキシム化反応(ammoximation)によりシクロドデカノンオキシムを合成するステップとを含む。
【0035】
本発明のように、シクロドデセン(CDEN)をエポキシ化過程を経ることなく、すぐシクロドデカノン(CDON)に空気酸化させる方法があり得る。しかし、この場合は、収率が20%以下と非常に低く、最終生成物であるラウロラクタムの取得率が著しく低下するが、エポキシ化過程を経てエポキシ化シクロドデカンを生成した後、触媒による転位反応を経てシクロドデカノンに置換する場合、95%以上の収率でシクロドデカノンが得られる効果を達成することができる。
【0036】
本発明は、前記a)ステップの前に、シクロドデカトリエン(CDT)を部分水素化添加反応させてシクロドデセン(CDEN)を合成するステップをさらに含むラウロラクタムの製造方法を提供する。
【0037】
上記で言及したように、シクロドデカトリエンを水素化添加反応させて二重結合がすべて除去されたシクロドデカンを合成し、かかるシクロドデカンを空気酸化反応(air oxidation)させた後、加水分解(Hydrolysis)および結晶化(Crystallization)反応させてシクロドデカノンを合成する従来方法の場合、工程過程でともに合成され得る副生成物を別に分離し、追加の工程を経て循環させる方法を使用しなければならないという不都合があり、この過程で反応物の転化率および要求合成物の選択度が著しく低下するという限界がある。
【0038】
しかし、前記a)ステップの前に、シクロドデカトリエン(CDT)に対して部分水素化添加反応を行った後、上述のa)ステップおよびb)ステップを経る場合、従来の方法と比較して、全プロセスが著しく簡素化するだけでなく、反応物の転化率およびラウロラクタムの選択度も著しく向上する効果が発揮される。
【0039】
前記シクロドデカトリエン(CDT)は、様々な経路を通じて合成され得る。好ましい例として、1,3‐ブタジエン(1,3‐butadiene)をチーグラー・ナッタ(Ziegler‐Natta)触媒で環化三量化(Cyclotrimerization)反応させて合成することができる。かかる方法で合成されたシクロドデカトリエンを含んでともに取得された混合物に対して前記部分水素化添加反応を行う場合、最終生成物であるラウロラクタムの選択度および転化率が著しく向上することができる。ただし、これは、好ましい一例であって、シクロドデカトリエンは、他の経路を通じて合成され得るため、本発明がこれに制限されるものではない。
【0040】
前記部分水素化添加反応は、撹拌によって負圧と正圧が発生する撹拌機を通じて行われ得る。撹拌によって負圧が発生し、正圧の気相の水素が液相のシクロドデカトリエンと接触するようにすることで強制分散させ、撹拌速度を増加させて分散効率を高めることができる。それだけでなく、前記正負圧が発生する撹拌機を使用する場合、反応器をステップ別に区分するか、酢酸やエタノールのような溶媒を追加するなどの後続措置を取らなくても高い収率と優れた選択度の生成物を取得することができる。
【0041】
ただし、これは、好ましい一例として説明したものであって、本発明は、公知の様々な方法の部分水素化添加反応方法が使用可能であり、これに制限して解釈してはならない。
【0042】
前記部分水素化添加反応に使用される触媒は、シクロドデカトリエンに水素が部分的に添加され得るようにするものであればよいが、好ましくは、塩化ルテニウム(Ruthenium chloride);トリフェニルホスフィン(Triphenyl phosphine、TPP);ホルムアルデヒドまたは一酸化炭素錯体;を含む均一系触媒の存在下で行われ得る。
【0043】
トリフェニルホスフィン(TPP)は、塩化ルテニウムに錯体を形成して部分水素化添加反応の触媒の役割を果たし、この際、前記触媒の反応をより活性化させるために酢酸またはエタノールが触媒活性剤としてさらに使用され得る。したがって、一つの二重結合を含むシクロドデセン(CDEN)への転化率およびその選択度が著しく向上することができる。ただし、これは好ましい一例であって、本発明がこれに制限されるものではない。
【0044】
前記部分水素化添加反応で、水素は、シクロドデカトリエンが充分に反応することができるように供給し続けることができる程度であればよく、好ましくは、全体の反応圧力として10~80bar、より好ましくは20~40barが維持されるように流量が制御されて水素が供給されることが一つの例示であり得る。ただし、これは好ましい一例であって、本発明がこれに制限されるものではない。
【0045】
前記部分水素化添加反応で触媒の使用含量は、シクロドデカトリエンに水素が部分添加反応することができる程度であれば制限されない。好ましくは、前記触媒は、シクロドデカトリエン100重量部に対して、0.1~15重量部使用され得、具体的には、触媒中に塩化ルテニウムは、0.0001~1重量部使用され得、触媒中にトリフェニルホスフィンは0.1~10重量部、ホルムアルデヒドは0.3~3重量部使用され得る。
【0046】
また、前記触媒活性剤は、シクロドデカトリエンに水素が部分水素添加反応をさらに活性化することができる程度であればよい。好ましくは、前記触媒活性剤は、シクロドデカトリエン100重量部に対して、0.1~3重量部使用され得、具体的には、触媒活性剤として、酢酸は、0.01~2重量部使用され得、エタノールは、0.1~3重量部使用され得る。ただし、これは好ましい一例であって、本発明がこれに制限されない。
【0047】
前記部分水素化添加反応で合成される物質に対する選択度および前記合成のための原料の転化率は、95~99.9%、より好ましくは98~99.9%であってもよい。
【0048】
本発明によるラウロラクタムの製造方法において、前記a)ステップは、酸化タングステン塩および相転移剤を含む触媒を使用してエポキシ化することができる。相転移触媒により収容層に存在する過酸化水素から酸素を受け、有機層に存在するシクロドデセンに伝達する方式の酸化が行われる。
【0049】
前記酸化タングステン塩の場合、タングステン酸(HWO)、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸リチウムからなる群から選択されるいずれか一つであってもよく、好ましくは、タングステン酸を使用することができる。ただし、これは好ましい一例であって、本発明はこれに制限されない。前記相転移触媒の場合、水層と有機層との物質移動に寄与するものであれば制限されず、好ましくはトリオクチルアミン(trioctylamine)を含むことができる。
【0050】
前記エポキシ化反応において、触媒の使用含量は、シクロドデセンからエポキシ化が生じる程度であれば制限されないが、好ましくは、シクロドデセン100重量部に対して、0.002~10重量部使用され得、具体的には、酸化タングステン塩の場合、0.001~10重量部、相転移触媒の場合、0.001~10重量部使用され得る。ただし、これは好ましい一例であって、本発明はこれに制限されない。
【0051】
前記エポキシ化反応で合成されるエポキシ化シクロドデカンは、シクロドデセンからの転化率が95~99.9%、より好ましくは98~99.9%であってもよい。
【0052】
本発明によるラウロラクタムの製造方法において、前記b)ステップは、アルカリハライドを触媒として使用し、好ましくはリチウムハライドであってもよい。より好ましくは、リチウムブロマイドが使用され得る。ただし、これは、本発明の一例に相当するものであって、これに制限されるものではない。前記アルカリハライドを触媒として使用することで、エポキシドのケトン管能基への再配列が行われる。
【0053】
前記アルカリハライド触媒の使用含量は、エポキシ化シクロドデカンから転位反応が行われ、ケトン管能基を形成する程度であれば制限されないが、好ましくは、エポキシ化シクロドデカン100重量部に対して、0.01~10重量部使用され得る。ただし、これは好ましい一例であって、本発明はこれに制限されない。
【0054】
本発明によるラウロラクタムの製造方法において、前記c)ステップは、エタノールを含む溶媒上で、アンモニア;過酸化水素;チタンシリカライトを含む触媒;およびアンモニウムアセテートを含む反応活性体;をシクロドデカノンと反応させてシクロドデカノンオキシムを合成することができる。
【0055】
前記エタノールの使用含量は、シクロドデカノンが充分に溶解され、オキシム化反応を行うことができる程度であれば制限されない。好ましくは、アンモニアの場合、全圧力が1.3~2.5barになるように使用することができ過酸化水素の場合、10~40分間、0.5~3.5mL/minで使用され得る。ただし、これは好ましい一例であって、本発明はこれに制限されない。
【0056】
前記オキシム化反応を誘導するための触媒としては、公知の様々な化合物が使用され得、好ましくは、チタンシリカライト(Titanium silicalite)が例示され得る。その使用含量は、オキシム化反応が行われ得る程度であればよく、具体的には、シクロドデカノン100重量部に対して、1~80重量部であってもよい。ただし、これは好ましい一例であって、本発明はこれに制限されない。
【0057】
前記オキシム化反応のために反応活性剤がさらに使用されてもよく、好ましくは、アンモニウムアセテートが例示され得る。その使用含量は、オキシム化反応が行われ得る程度であればよく、具体的には、シクロドデカノン100重量部に対して、3~30重量部であってもよい。ただし、これは好ましい一例であって、本発明はこれに制限されない。
【0058】
前記オキシム化反応において、反応温度および反応時間は、シクロドデカノンがオキシム化反応を行うことができる程度であればよく、具体的には、それぞれ50~100℃および15~70分が例示され得る。ただし、これは好ましい一例であって、本発明はこれに制限されない。
【0059】
本発明は、前記c)ステップの後、d)シクロドデカノンオキシムでベックマン転位反応によりラウロラクタムを合成するステップをさらに含むラウロラクタムの製造方法を提供する。
【0060】
前記d)ステップにおいて、ベックマン転位反応が行われるために様々な触媒を使用することができる。好ましくは、塩化シアヌル(Cyanuric chloride)などを含む触媒であり、塩化亜鉛(Zinc chloride)などを助触媒として前記触媒とともに使用することが好ましい。塩化シアヌルおよび塩化亜鉛の使用含量は、シクロドデカノンオキシムをベックマン転位反応が行われるようにする程度であればよく、具体的には、シクロドデカノンオキシム100重量部に対して、互いに独立して、0.001~0.1重量部が例示され得る。しかし、これは好ましい一例であって、本発明がこれに制限されないことは言うまでもない。
【0061】
前記d)ステップにおいて、溶媒は、シクロドデカノンオキシムをベックマン転位反応させるためのものであれば如何なるものでもよく、好ましくは、イソプロピルシクロヘキサン(Isopropylcyclohexane)が例示され得る。使用含量は、シクロドデカノンオキシムをベックマン転位反応させてラウロラクタムを合成することができる程度であれば制限されない。
【0062】
前記d)ステップにおいて、反応温度および反応時間は、シクロドデカノンオキシムがベックマン転位反応を行う程度であればよく、好ましくは、それぞれ、70~130℃および1~20分が例示され得る。しかし、これは好ましい一例であって、本発明がこれに制限されないことは言うまでもない。
【0063】
前記d)ステップで取得するものは、目標物質であるラウロラクタムの他にも、溶媒および反応せずに残っている物質などを含むことができるため、かかる混合物からラウロラクタムを分離および精製するステップを経ることが好ましい。
【0064】
したがって、本発明によるラウロラクタムの製造方法は、前記d)ステップの後、e)ラウロラクタムを含む混合物からラウロラクタムを分離および精製するステップをさらに含むことができる。この際ラウロラクタムの分離および精製する方法は、公知の様々な方法を使用することができる。
【0065】
前記d)ステップで合成される物質に対する選択度および前記合成のための原料の転化率は、95~99.9%であり、好ましくは98~99.9%であってもよい。
【0066】
また、本発明は、上述のラウロラクタムの製造方法によるラウロラクタム合成装置を提供することができる。この場合、前記ラウロラクタムの製造方法で言及した内容と実質的に同一の技術的思想に相当するため、使用される物質、反応条件などは、上述の内容と実質的に同様に解釈すべきであることは言うまでもない。
【0067】
本発明によるラウロラクタム合成装置は、シクロドデカトリエンおよび水素が流入されて、シクロドデセンが合成される部分水素化反応器と、前記部分水素化反応器からシクロドデセンまたはこれを含む混合物と触媒が投入されて、エポキシ化シクロドデカンが合成されるエポキシ化反応器と、前記エポキシ化反応器からエポキシ化シクロドデカンまたはこれを含む混合物と触媒が投入されて、シクロドデカノンが合成される転位反応器と、前記転位反応器からシクロドデカノンまたはこれを含む混合物とアンモニアが流入されて、シクロドデカノンオキシムが合成されるオキシム化反応器と、前記オキシム化反応器からシクロドデカノンオキシムまたはこれを含む混合物が流入されて、ラウロラクタムが合成されるベックマン転位反応器とを含むことができる。
【0068】
本発明の一例によるラウロラクタム合成装置は、1,3‐ブタジエンが流入されてシクロドデカトリエンが合成され、前記部分水素化反応器に前記合成されたシクロドデカトリエンを流入させるための環化三量化反応器をさらに含むことができる。
【0069】
本発明の一例において、前記部分水素化反応器の内部は、エタノールを含む溶媒上で、シクロドデカトリエンに、水素;塩化ルテニウムと、トリフェニルホスフィンと、ホルムアルデヒドまたは一酸化炭素錯体を含む触媒;酢酸またはエタノールを含む触媒活性剤;が反応し、シクロドデセンが合成され得る。
【0070】
本発明の一例において、前記エポキシ化反応器において、前記シクロドデセンは酸化タングステン塩および相転移剤を含む触媒によって反応が行われ得る。
【0071】
また、前記転位反応器において、前記エポキシ化シクロドデカンは、アルカリハライドを触媒としてシクロドデカノンを合成することができる。
【0072】
本発明の一例において、前記オキシム化反応器は、エタノールを含む溶媒上で、シクロドデカノンに、アンモニア;過酸化水素;チタンシリカライトを含む触媒;およびアンモニウムアセテートを含む反応活性剤;が反応し、シクロドデカノンオキシムが合成され得る。
【0073】
本発明の一例において、前記ベックマン転位化反応器の内部は、イソプロピルシクロヘキサンを含む溶媒上で、シクロドデカノンオキシムに塩化シアヌルを含む触媒が反応し、ラウロラクタムが合成され得る。
【0074】
本発明の一例によると、前記ラウロラクタム合成装置は、前記ベックマン転位反応器からラウロラクタムまたはこれを含む混合物が流入されて、ラウロラクタム以外の物質が分離および除去される蒸留反応器をさらに含むラウロラクタム合成装置を提供することができる。
【0075】
本発明において言及している「反応器」としては、公知の様々な反応器が使用可能であり、その規格、サイズは、工程の規模、環境に応じて適宜調節され得るため制限されない。また、各反応器に物質が流入されるか物質を流入させるための様々な流入管、流出管などが備えられ得、これらの流入量、流出量を調節するための様々な装置およびこれらを制御するために様々な装置を使用することは、当業者にとって適宜調節され得る事項である。
【実施例
【0076】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、これらは、本発明をより詳細に説明するためのものであって、本発明の権利範囲は下記の実施例によって限定されるものではない。
【0077】
[実施例1]
シクロドデセン合成工程
高速撹拌回分式(Batch)反応器(500mL、800rpm)を用いて、シクロドデカトリエン(CDT)200g、RuCl40mg、トリフェニルホスフィン(TPP)5.56g(110:1=TPP:Ru)、35%ホルマリン3.44g(TPP:ホルマリン=1;2)、酢酸(Acetic acid)0.5g、エタノール10.54gを反応器に入れ、反応器を締結した。次に、5kg/cmの窒素(N)を用いて3回パージ(purge)、水素気体(H)を用いて3回パージした後、反応器圧力を10bargに満たす。このときから反応器の温度を25℃から145℃まで約40分間上げ、反応器の圧力が下がり始めると、反応器の圧力を20barに上げ、160℃まで約10分間昇温し、反応が行われる間にこれを維持した。反応は、計6時間行い、この場合、圧力を維持し続けるために水素を供給し続けた。反応が完了した後、最終シクロドデカトリエンの転化率は98.2%、シクロドデセン選択度は98.5%であった。
【0078】
エポキシ化シクロドデカン合成工程
高速撹拌回分式(Batch)反応器(100mL)にシクロドデセン25g、タングステン酸(HWO)0.075g、HPO0.06g、Tri‐n‐octyl amine 0.105g、HO1.4g、50%H1.02gを入れた。100℃で計4時間反応を行い、反応の間に1500rpmで反応器の内容物を撹拌しながら、ポンプを通じて1分当たり85μlの過酸化水素を注入した。反応が完了した後、最終シクロドデセンの転化率は98%、エポキシ化シクロドデカンの選択度は99%であった。
【0079】
シクロドデカノン合成工程
グローブボックス(Glovebox)を用いて、不活性条件(inert condition)で、50mL丸底フラスコに5gのエポキシ化シクロドデカン、0.085gのリチウムブロマイド(LiBr)を入れた。また、窒素風船を作ってフラスコに連結させた後、シリコーンオイルで満たされているオイルバス(oil bath)に入れて200℃に加熱しながら撹拌した。反応が完了するまでかかった時間は120分であり、反応が完了した後、シクロドデカノンへの転化率は99%以上、選択度は95%以上であった。
【0080】
シクロドデカノンオキシム合成工程
撹拌機がある圧力反応器(2l)に前記シクロドデカノン合成工程で最後に取得した混合物(シクロドデカノンを含む)73g、エタノール(Ethanol)535g、アンモニウムアセテート(Ammonium acetate)8.5g、チタンシリカライト触媒粉末(Titanium silicalite、TS‐1)30gを入れて、80℃に加熱した。次いで、NHガス(Ammonia gas)を1.8bargになるまで注入し、NHが溶液によく溶解されるように、500rpmで30分間撹拌した。次いで、30重量%濃度の過酸化水素水溶液を2.45mL/minの流量で撹拌しながら注入した。
【0081】
反応完了時間は25分であり、シクロドデカノンの転化率は99%以上、シクロドデカノンオキシムの選択度は99%以上、過酸化水素の反応率は78%であった。
【0082】
ラウロラクタム合成工程
100mL丸底フラスコに、前記シクロドデカノン合成工程で取得した混合物(シクロドデカノンオキシム)3g、イソプロピルシクロヘキサン(isopropylcyclohexane)12g、塩化シアヌル(cyanuric chloride)0.045g、塩化亜鉛(zinc chloride)0.03gを投入した。また、ヒーティングマントルを用いて温度を95℃に調節し、200rpm以上で撹拌して反応させた。反応完了時間は5分であり、シクロドデカノンオキシムの転化率は99%以上、ラウロラクタムの選択度は99%以上であった。
【0083】
実施例1は、各工程で取得した合成物を含む混合物をそのまま反応物として次の工程に使用したにもかかわらず、反応物の転化率および目標合成物であるラウロラクタムの選択度が、それぞれ、すべて99%以上であることを示す。従来方法に比べてより簡素化したにもかかわらず、転化率と選択度のすべてにおいて99%以上と確認され、工程効率が非常に優れることが分かる。
図1