(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-21
(45)【発行日】2023-03-02
(54)【発明の名称】OCV特性推定方法、及びOCV特性推定装置
(51)【国際特許分類】
G01R 31/367 20190101AFI20230222BHJP
G01R 31/3835 20190101ALI20230222BHJP
G01R 31/388 20190101ALI20230222BHJP
H01M 6/50 20060101ALI20230222BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20230222BHJP
【FI】
G01R31/367
G01R31/3835
G01R31/388
H01M6/50
H02J7/00 M
H02J7/00 X
(21)【出願番号】P 2019055161
(22)【出願日】2019-03-22
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 洋一
(72)【発明者】
【氏名】大場 佳成
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-048787(JP,A)
【文献】特開平06-027207(JP,A)
【文献】特開2018-109532(JP,A)
【文献】国際公開第2017/221899(WO,A1)
【文献】特開平08-029506(JP,A)
【文献】特開2016-065844(JP,A)
【文献】特開2005-043339(JP,A)
【文献】特開2018-141665(JP,A)
【文献】特開2001-313043(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0181245(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 31/36-31/44、
H01M 6/24-6/52、
10/42-10/48、
H02J 7/00-7/12、
7/34-7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム一次電池を所定の放電電流で間欠放電させる放電制御工程と、
放電休止期間における前記リチウム一次電池の端子電圧を取得する電圧取得工程と、
前記放電休止期間の前記端子電圧を対数関数に近似する近似工程と、
前記対数関数に基づいて前記リチウム一次電池の開放電圧を推定するOCV推定工程と、
放電期間における前記放電電流を積算して放電深度を算出する放電深度算出工程と、を含み、
前記放電深度と前記開放電圧との対応関係をOCV特性として推定する、OCV特性推定方法。
【請求項2】
前記対数関数は、定数パラメータα、β、及び時間tを用いて、α×ln(t)+βで表される、請求項1に記載のOCV特性推定方法。
【請求項3】
前記開放電圧は、前記対数関数の前記時間tに第1所定値を代入して推定される、請求項2に記載のOCV特性推定方法。
【請求項4】
前記開放電圧は、前記対数関数の変化率が第2所定値まで低下したときの値として推定される、請求項2に記載のOCV特性推定方法。
【請求項5】
リチウム一次電池を所定の放電電流で間欠放電させる放電制御部と、
放電休止期間における前記リチウム一次電池の端子電圧を取得する電圧取得部と、
前記放電休止期間の前記端子電圧を対数関数に近似する近似部と、
前記対数関数に基づいて前記リチウム一次電池の開放電圧を推定するOCV推定部と、
放電期間における前記放電電流を積算して放電深度を算出する放電深度算出部と、を含み、
前記放電深度と前記開放電圧との対応関係をOCV特性として推定する、OCV特性推定装置。
【請求項6】
前記対数関数は、定数パラメータα、β、及び時間tを用いて、α×ln(t)+βで表される、請求項5に記載のOCV特性推定装置。
【請求項7】
前記開放電圧は、前記対数関数の前記時間tに第1所定値を代入して推定される、請求項6に記載のOCV特性推定装置。
【請求項8】
前記開放電圧は、前記対数関数の変化率が第2所定値まで低下したときの値として推定される、請求項6に記載のOCV特性推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム一次電池のOCV特性推定方法、及びOCV特性推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
負極に金属リチウムを使用するリチウム電池は、他の電池と比較して小型で出力電圧が高いため、特に小型の電子機器の電力源として広く利用されている。このようなリチウム電池は、二次電池として構成されている場合には充放電の管理のために、一次電池として構成されている場合には交換時期の管理のために、電池残量を把握することが求められる。
【0003】
ところで、一般的な二次電池は、内部起電力としての開放電圧(OCV:Open Circuit Voltage)と充電状態(SOC:State Of Charge)との関係であるSOC-OCV特性、すなわちOCV特性が、電池の劣化状態によらず一定であることが知られており、開放電圧を用いることにより電池残量としての充電状態を推定することができる。そのため、二次電池は、電池残量を推定できるよう予めOCV特性が取得されていることが多い。そして、当該OCV特性は、例えば特許文献1に開示された推定方法などにより推定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の従来技術は、非水電解質二次電池に対して充電を利用したOCV特性を推定する方法であるため、例えば充電ができないリチウム一次電池には適用することができない。そのため、リチウム一次電池に対しては、例えば、間欠的な放電により放電深度(DOD:Depth Of Discharge)を増加させながら、各放電深度DODにおける開放電圧OCVを順次測定することによりOCV特性が取得される。
【0006】
より具体的には、OCV特性は、リチウム一次電池の放電深度DODを増加させる放電期間と、放電に伴う電圧降下からの回復を待って開放状態で端子電圧を測定する放電休止期間とを繰り返す間欠放電により取得される。しかしながら、端子電圧が電圧降下から十分に回復したとみなすためには、放電深度ごとに例えば数年程度の長期間の開放期間を設ける必要があるため、現実的な測定期間でOCV特性を取得することができない。一方、現実的な測定期間でOCV特性を測定しようとすると、電圧降下からの回復期間を適宜打ち切らなければならず、OCV特性が過少評価されてしまう。
【0007】
そして、リチウム一次電池は、例えば微弱な電力を1日に数回程度しか消費しないIoT機器などの省電力デバイスにおいて使用される状況では、放電停止後の端子電圧が各放電深度において過少評価された開放電圧を上回り、場合によっては残量推定ができなくなってしまう虞が生じる。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、リチウム一次電池のOCV特性の推定における過少評価を抑制することができるOCV特性推定方法、及びOCV特性推定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
<本発明の第1の態様>
本発明の第1の態様は、リチウム一次電池を所定の放電電流で間欠放電させる放電制御工程と、放電休止期間における前記リチウム一次電池の端子電圧を取得する電圧取得工程と、前記放電休止期間の前記端子電圧を対数関数に近似する近似工程と、前記対数関数に基づいて前記リチウム一次電池の開放電圧を推定するOCV推定工程と、放電期間における前記放電電流を積算して放電深度を算出する放電深度算出工程と、を含み、前記放電深度と前記開放電圧との対応関係をOCV特性として推定する、OCV特性推定方法である。
【0010】
OCV特性推定方法は、リチウム一次電池を間欠放電させつつ放電休止期間における端子電圧の時間変化を対数関数で近似して、長期間の開放による端子電圧の予測値に基づいて各放電深度における開放電圧を推定している。これにより本発明の第1の態様に係るOCV特性推定方法によれば、リチウム一次電池のOCV特性の推定における過少評価を抑制することができる。
【0011】
<本発明の第2の態様>
本発明の第2の態様は、上記した本発明の第1の態様において、前記対数関数は、定数パラメータα、β、及び時間tを用いて、α×ln(t)+βで表される、OCV特性推定方法である。
【0012】
本発明の第2の態様によれば、リチウム一次電池の電圧回復の近似式を、電池内部のリチウムの拡散に応じた対数関数で表現することにより、端子電圧の時間変化を精度よく近似でき、少数のパラメータによる簡易的な式によって省演算量でOCV特性を推定することができる。
【0013】
<本発明の第3の態様>
本発明の第3の態様は、上記した本発明の第2の態様において、前記開放電圧は、前記対数関数の前記時間tに第1所定値を代入して推定される、OCV特性推定方法である。
【0014】
本発明の第3の態様によれば、放電期間後のリチウム一次電池の開放による端子電圧の予測を開放期間の長さを基準として行うことにより、十分長期の予測値として設定することができるため、推定されるOCV特性が過少評価される虞をより低減することができる。
【0015】
<本発明の第4の態様>
本発明の第4の態様は、上記した本発明の第2の態様において、前記開放電圧は、前記対数関数の変化率が第2所定値まで低下したときの値として推定される、OCV特性推定方法である。
【0016】
本発明の第4の態様によれば、放電期間後のリチウム一次電池の開放による端子電圧の予測を対数関数の変化率を基準として行うことにより、対数関数の定数パラメータの違いに拘らず端子電圧の予測値が安定したときの値を開放電圧として推定することができる。
【0017】
<本発明の第5の態様>
本発明の第5の態様は、リチウム一次電池を所定の放電電流で間欠放電させる放電制御部と、放電休止期間における前記リチウム一次電池の端子電圧を取得する電圧取得部と、前記放電休止期間の前記端子電圧を対数関数に近似する近似部と、前記対数関数に基づいて前記リチウム一次電池の開放電圧を推定するOCV推定部と、放電期間における前記放電電流を積算して放電深度を算出する放電深度算出部と、を含み、前記放電深度と前記開放電圧との対応関係をOCV特性として推定する、OCV特性推定装置である。
【0018】
OCV特性推定装置は、リチウム一次電池を間欠放電させつつ放電休止期間における端子電圧の時間変化を対数関数で近似して、長期間の開放による端子電圧の予測値に基づいて各放電深度における開放電圧を推定する。これにより本発明の第5の態様に係るOCV特性推定装置によれば、リチウム一次電池のOCV特性の推定における過少評価を抑制することができる。
【0019】
<本発明の第6の態様>
本発明の第6の態様は、上記した本発明の第5の態様において、前記対数関数は、定数パラメータα、β、及び時間tを用いて、α×ln(t)+βで表される、OCV特性推定装置である。
【0020】
本発明の第6の態様によれば、リチウム一次電池の電圧回復の近似式を、電池内部のリチウムの拡散に応じた対数関数で表現することにより、端子電圧の時間変化を精度よく近似でき、少数のパラメータによる簡易的な式によって省演算量でOCV特性を推定することができる。
【0021】
<本発明の第7の態様>
本発明の第7の態様は、上記した本発明の第6の態様において、前記開放電圧は、前記対数関数の前記時間tに第1所定値を代入して推定される、OCV特性推定装置である。
【0022】
本発明の第7の態様によれば、放電期間後のリチウム一次電池の開放による端子電圧の予測を開放期間の長さを基準として行うことにより、十分長期の予測値として設定することができるため、推定されるOCV特性が過少評価される虞をより低減することができる。
【0023】
<本発明の第8の態様>
本発明の第8の態様は、上記した本発明の第6の態様において、前記開放電圧は、前記対数関数の変化率が第2所定値まで低下したときの値として推定される、OCV特性推定方法である。
【0024】
本発明の第8の態様によれば、放電期間後のリチウム一次電池の開放による端子電圧の予測を対数関数の変化率を基準として行うことにより、対数関数の定数パラメータの違いに拘らず端子電圧の予測値が安定したときの値を開放電圧として推定することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、リチウム一次電池のOCV特性の推定における過少評価を抑制することができるOCV特性推定方法、及びOCV特性推定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明に係るOCV特性推定装置を含む測定系を示す回路図である。
【
図2】本発明に係るOCV特性推定方法の手順を示すフローチャートである
【
図3】リチウム一次電池の放電休止期間における端子電圧の時間変化を表すグラフである。
【
図4】測定された端子電圧の時間変化を近似した対数関数のグラフである。
【
図5】本発明に係るOCV特性推定方法、及び実測値に基づく方法によりそれぞれ取得されたOCV特性を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、本発明は以下に説明する内容に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において任意に変更して実施することが可能である。また、実施の形態の説明に用いる図面は、いずれも構成部材を模式的に示すものであって、理解を深めるべく部分的な強調、拡大、縮小、又は省略などを行っており、構成部材の縮尺や形状等を正確に表すものとはなっていない場合がある。
【0028】
また、一般的に電池残量を表す表記としては二次電池における充電状態SOC(State Of Charge)が使用されるが、本発明が対象とする電池が一次電池であることから、100[%]-SOCと同等の意味である放電深度(DOD:Depth Of Discharge)との表現を使用する。
【0029】
図1は、本発明に係るOCV特性推定装置1を含む測定系を示す回路図である。本実施形態におけるOCV特性推定装置1は、OCV特性推定の対象とする電池と同じ型式の未使用のリチウム一次電池2、及び負荷3が接続されることにより、リチウム一次電池2を放電させてDODを0%から100%まで増加させながら、対象電池のOCV特性を推定する。
【0030】
ここで、本実施形態におけるリチウム一次電池2は、二酸化マンガン(MnO2)からなる正極と、リチウムからなる負極とがセパレータを介して配置され、有機溶媒に塩類を溶解した電解液が含浸されてなり、例えばコイン形やボタン型、円筒形に生成された一次電池である。また、リチウム一次電池2は、本実施形態においては、定格容量が1600mAhであるものとして説明する。
【0031】
リチウム一次電池2は、端子間が開放状態のときの開放電圧(OCV:Open Circuit Voltage)を内部起電力として出力すると共に、放電時に電圧降下をもたらす内部抵抗Rを有する等価回路としてモデル化することができる。このため、リチウム一次電池2の端子電圧VLは、放電電流iを用いて下記の式(1)で表される。
VL=OCV-i×R・・・(1)
【0032】
負荷3は、例えば抵抗素子であり、OCV特性の推定においてリチウム一次電池2の電力を消費するために設けられる放電抵抗である。
【0033】
そして、OCV特性推定装置1は、例えば予め記憶されたプログラムを実行可能な公知のマイコン制御回路又は汎用計算機からなり、機能的なモジュールとして、放電制御部10、電圧取得部11、近似部12、OCV推定部13、及び放電深度算出部14を含む。
【0034】
放電制御部10は、リチウム一次電池2の負荷3への放電を制御し、所定の放電電流iで放電させる放電期間と当該放電を休止させる放電休止期間とを繰り返すことによりリチウム一次電池2を間欠放電させる。
【0035】
電圧取得部11は、上記した間欠放電のそれぞれの放電休止期間において、リチウム一次電池2の端子電圧VLを取得する電圧計である。
【0036】
近似部12は、上記したそれぞれの放電休止期間において、電圧取得部11が取得した端子電圧VLの時間変化に対し、例えば最小二乗法を用いてフィッティングすることにより対数関数に近似する。
【0037】
OCV推定部13は、近似部12において近似された対数関数に基づいて、詳細を後述するように、リチウム一次電池2のそれぞれの放電休止期間において、OCVの値を推定する。
【0038】
放電深度算出部14は、リチウム一次電池2の放電期間における放電電流iを積算することにより、リチウム一次電池2のDODをそれぞれの放電休止期間ごとに算出する。
【0039】
続いて、OCV特性推定装置1が行うリチウム一次電池2のOCV特性推定方法について説明する。
図2は、本発明に係るOCV特性推定方法の手順を示すフローチャートである。
図2の手順は、例えばOCV特性推定装置1において記憶されるプログラムとして実行することができる。
【0040】
OCV特性推定方法が開始されると、放電制御部10は、リチウム一次電池2を所定の放電電流iで放電させる制御を行う(ステップS1)。例えば、リチウム一次電池2は、80mAの放電電流iで15分間の放電期間に亘り放電制御される。
【0041】
また、放電期間が経過すると、放電制御部10は、リチウム一次電池2の放電を停止させ(ステップS2)、リチウム一次電池2を開放状態とする。ここでは、リチウム一次電池2の放電休止期間を16hとしている。尚、後述するように、OCV特性推定装置1は、リチウム一次電池2のDODを0%から100%まで放電させる間に、ステップS1の放電期間とステップS2の放電休止期間とを繰り返すサイクルによって間欠放電を行う(放電制御工程)。
【0042】
また、電圧取得部11は、それぞれの放電休止期間におけるリチウム一次電池2の端子電圧VLを取得することにより(ステップS3)、各サイクルにおいて放電休止期間の直前の放電期間において生じた電圧降下から端子電圧VLが復帰する時間変化を取得する(電圧取得工程)。
【0043】
すなわち、電圧取得部11は、例えば、各サイクルにおいて放電休止期間が経過したか否かを判定し(ステップS4)、放電休止期間が経過するまでの期間においては(ステップS4でNo)、ステップS3における端子電圧VLの取得を継続する。そして、電圧取得部11は、例えば10分おきに端子電圧VLを取得することで端子電圧VLの時間変化を測定し、放電休止期間が経過した段階で端子電圧VLの取得を終了する。尚、電圧取得部11は、例えば放電休止期間において所定のデータ数だけ端子電圧VLが測定された場合や、放電休止期間のうちの所定の測定時間が経過した時点で端子電圧VLの測定を打ち切ってもよい。
【0044】
ここで、端子電圧V
Lの時間変化を具体的に例示する。
図3は、リチウム一次電池2の放電休止期間における端子電圧V
Lの時間変化を表すグラフである。より具体的には、
図3においては、リチウム一次電池2のDODが20%の場合に測定された放電休止期間の端子電圧V
Lの時間変化をA1で表し、同様にDODが50%、80%の場合をA2、A3でそれぞれ表している。
図3に見られるように、端子電圧V
Lは、DODの上昇(A1→A2→A3)により電圧値が低下する傾向にあるものの、時間変化としてはいずれも概ね対数関数に従って電圧が回復する。
【0045】
そこで、近似部12は、端子電圧VLの時間変化を対数関数に近似する(ステップS5、近似工程)。より具体的には、近似部12は、放電休止時点から経過した時間tに対する端子電圧VLを、例えば最小二乗法により定数パラメータα及びβを含む下記の式(2)で表される対数関数の近似式にフィッティングする。
VL=α×Ln(t)+β・・・(2)
【0046】
図4は、測定された端子電圧V
Lの時間変化を近似した対数関数のグラフである。
図4においては、リチウム一次電池2のDODが20%の場合の近似曲線をB1で表し、同様にDODが50%、80%の場合をB2、B3でそれぞれ表している。より具体的には、それぞれの近似曲線は、以下の式(3)乃至(5)で表される対数関数である。ここで、
図4においては、時間tについて0≦t≦25000の範囲で対数関数を表している。
B1:V
L=0.0204×Ln(t)+2.9734・・・(3)
B2:V
L=0.0172×Ln(t)+2.9183・・・(4)
B3:V
L=0.0222×Ln(t)+2.7349・・・(5)
【0047】
対数近似が完了すると、OCV推定部は、近似で得られた対数関数に基づいて、リチウム一次電池2のOCVを推定する(ステップS6、OCV推定工程)。例えば、OCV推定部は、上記の近似により得られた対数関数の時間tに第1所定値を代入することにより、端子電圧VLを実測していない時間tの範囲においても、端子電圧VLの予測値としてOCVを推定することができる。
【0048】
ここで、第1所定値とは、リチウム一次電池2の上記した放電休止期間よりも長い時間として予め任意に設定される時間tの値である。これにより、OCV推定部は、端子電圧VLの回復過程における実測値ではなく、端子電圧VLに見込まれる長期の電圧回復の予測値としてOCVを推定することができる。
【0049】
また、OCV推定部は、上記の第1所定値のような時間tについての基準を設定する替わりに、対数関数の変化率が第2所定値まで低下したときの端子電圧VLの値としてOCVを推定してもよい。すなわち、近似により得られた対数関数は、時間tの増大と共に変化率が鈍化していくため、対数関数の当該変化率が予め任意に設定された第2所定値よりも低下した時点の端子電圧VLをOCVとして推定してもよい。この場合には、第2所定値は、近似により得られた対数関数のt=16hにおける変化率よりも低くなるように設定される。
【0050】
OCV推定部におけるOCVの推定が完了すると、放電深度算出部14は、ステップS1における放電によって変化した後のリチウム一次電池2のDODを算出する(ステップS7、放電深度算出工程)。より具体的には、放電深度算出部14は、DODが0%の状態からのリチウム一次電池2の放電電流iを積算することにより、リチウム一次電池2の定格容量に対する放電電荷量に基づいて各サイクルにおけるDODを算出する。尚、DODの算出においては、放電電流i及び放電時間が放電制御部10により制御されるため、これらの値を固定値とする本実施形態のような場合には、サイクルごとに放電電荷量を算出せずとも予め算出したDODの増加幅で求めることができる。
【0051】
そして、OCV特性推定装置1は、算出されたDODが100%になったか否か、すなわちリチウム一次電池2の電力を使いきったか否かを判定する(ステップS8)。そして、DODが100%に満たない間は(ステップS8でNo)、ステップS1に戻り上記のシーケンスを繰り返すことにより、放電期間と放電休止期間とを繰り返す間欠放電を通して各サイクルにおけるOCVとDODとを取得する。
【0052】
また、OCV特性推定装置1は、算出されたDODが100%に達した場合には(ステップS8)、上記の一連のサイクルを終了する。これにより、0%≦DOD≦100%の範囲におけるOCVとDODとの対応関係、すなわち、リチウム一次電池2のOCV特性が推定されたことになる。
【0053】
図5は、本発明に係るOCV特性推定方法、及び実測値に基づく方法によりそれぞれ取得されたOCV特性を表すグラフである。より具体的には、
図5において、本発明のOCV特性推定方法により推定されたOCV特性をC1で表し、放電休止から16h経過した時点の端子電圧V
LをOCVとみなした場合のOCV特性をC2で表している。
【0054】
また、リチウム一次電池2に対して、放電電流iを20mAとする4秒間の放電期間と1分間の放電休止期間とを繰り返すIoT機器による運用を想定した放電制御を実施した場合の、DODが20%、40%、60%、80%における端子電圧VLの測定値を白丸で示している。
【0055】
ところで、特にIoT機器のような省電力デバイスにおいてリチウム一次電池2が使用される状況では、放電電流i、放電期間、及び放電休止期間の組み合わせにより端子電圧V
Lが高めに測定されることがある。この場合、
図5に見られるように、端子電圧V
Lの実測値をOCVとみなしたC2のOCV特性は、放電期間の電圧降下から電圧の回復が不十分な状態において測定された端子電圧V
Lとして取得されているため、測定された端子電圧V
Lを下回ることが生じ得る。
【0056】
リチウム一次電池2と同じ型式の電池の使用時においては、運用段階で得られる測定データ、すなわち
図5の白丸で表されるような端子電圧V
Lに基づいて公知の逐次最小二乗法等のアルゴリズムにより電池のOCVを推定した上で、予め取得されたリチウム一次電池2のOCV特性に照らしてDODが推定されることになる。
【0057】
しかしながら、リチウム一次電池2のOCVは、上記の式(1)から明らかなように、実際には端子電圧V
Lを下回ることがない。このため、
図5におけるC2のように、測定された端子電圧V
Lよりも低いOCV特性が予め取得されている場合には、真のDODの値よりも過剰に低く推定されるか、又は計算エラーによりDODを推定することができない虞が生じる。
【0058】
これに対し、本発明に係るOCV特性推定方法により推定されたC1のOCV特性は、放電期間の電圧降下から長期間に亘り開放した端子電圧VLの予測値に基づいて推定されているため、測定された端子電圧VLを下回る虞が低減される。このため、IoT機器のような省電力デバイスにおいてOCV特性に基づくDOD推定を行う場合であっても、DODが真値に対して過剰に低く推定される虞、及び計算エラーによりDODを推定できなく虞を低減することができる。
【0059】
以上のように、本発明に係るOCV特性推定方法は、リチウム一次電池2を間欠放電させつつ放電休止期間における端子電圧VLの時間変化を対数関数で近似して、長期間の開放による端子電圧VLの予測値に基づいて各DODにおけるOCVを推定している。これにより本発明に係るOCV特性推定方法によれば、リチウム一次電池2のOCV特性の推定における過少評価を抑制することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 OCV特性推定装置
2 リチウム一次電池
3 負荷
10 放電制御部
11 電圧取得部
12 近似部
13 OCV推定部
14 放電深度算出部