(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-21
(45)【発行日】2023-03-02
(54)【発明の名称】バインダジェット法に用いる積層造形用金属粉末材料
(51)【国際特許分類】
B22F 3/02 20060101AFI20230222BHJP
B22F 10/14 20210101ALI20230222BHJP
B22F 10/16 20210101ALI20230222BHJP
B33Y 70/10 20200101ALI20230222BHJP
【FI】
B22F3/02 M
B22F10/14
B22F10/16
B33Y70/10
(21)【出願番号】P 2020050106
(22)【出願日】2020-03-03
【審査請求日】2021-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】520098730
【氏名又は名称】八賀 祥司
(72)【発明者】
【氏名】八賀 祥司
【審査官】清水 研吾
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-534524(JP,A)
【文献】特開2019-157217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F
B33Y
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パウダーベッド上に、均等厚さ50μm以下を保って敷かれた一層分の金属粉末層の上面に、バインダをジェット印刷することを繰り返し積層するバインダジェット法に用いる積層造形用金属粉末材料であって、
平均粒径3~15μm、タップ密度4.5g/cm3以上(真密度7.98g/cm3のとき)の金属粉末中に、流動化剤として
平均粒径2μm以下、嵩密度0.3g/cm3以上のメラミンシアヌレートが、金属粉末のタップ密度を金属粉末の真密度で除して求められる空隙率以下の割合で添加されていることを特徴とするバインダジェット法に用いる積層造形用金属粉末材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バインダジェット法に用いる金属粉末材料において、微細な金属粉末に流動化剤を添加し積層を容易とさせ、さらに最終焼結製品に流動化剤を残存させない積層造形用金属粉末材料に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元物体の積層造形法として、粉末冶金用の粗い金属粉末をパウダーベッド上に積層しながら、一層を積層するごとにレーザーや電子ビームを一層分の粉末に選択的に照射し溶融させ三次元形状の積層体を得る選択溶融法が開発されている。また、MIM(金属粉末射出成形)で使用される、さらに微細な金属粉末を使うバインダジェット法による焼結体の製造方法が開発され、実用化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バインダジェット法の原料粉末は、パウダーベッド上に均質な状態でかつ高い嵩密度で敷かれる必要がある。しかし、微細な金属粉末は、平均粒径が10μm程度と微細なため付着性が高く流動性が低い問題がある。これを解決するために上記文献の微細なシリカ粉末やアルミナ粉末等を流動化剤として微量添加する発明があった。しかし、この流動化剤はセラミックであるため、最終工程の1000℃を超える高温焼結でも不燃であり、結果として最終焼結製品の積層体内部に微量元素として残存し、高機能製品では要求品質仕様を満足できない課題があった。
【0005】
本発明は、微細な金属粉末の流動性を改善し成形を容易にするために流動化剤を添加し、さらに最終焼結製品の積層体内部に流動化剤を残存させない積層造形用金属粉末材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、微細な金属粉末を用いながら、流動性を確保させるために、メラミンシアヌレート粉末を流動化剤として添加することにより、バインダジェット法において原料粉末をパウダーベッド上に積層する際の粉末の動的特性を大幅に改善させること、さらに、流動化剤を最終焼結製品の積層体に残存させない方法を見出した。
【0007】
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、本発明の積層造形用金属粉末材料は、平均粒径3~15μmの主原料金属粉末中に、流動化剤として平均粒径が0.1~2μmのメラミンシアヌレートを金属粉末のタップ密度と金属粉末の真密度から求められる空隙率以下の割合で添加する。
【0008】
バインダジェット法の付加製造工程は、積層、脱脂、焼結の3工程で行われる。積層体内のメラミンシアヌレートは、最終工程の焼結工程において、300℃で揮散し不活性ガスとなる、次にバインダが500~600℃で揮散する。これら順番に発生する揮散ガスは金属粉末粒子間の隙間を通り積層体内から外へ移動し、さらに焼結炉外へ排気される。その後、SUS316Lの場合、1350℃まで昇温させることで粉末同士が固相拡散接合し焼結密度96%以上の積層体が得られる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は二つの効果を有する。流動性が悪い微細な金属粉末を用いながら流動性を確保させるために、メラミンシアヌレート粉末を流動化剤として添加することにより、バインダジェット法において原料金属粉末をパウダーベッド上に積層する際の粉末の動的特性を大幅に改善させる。さらに、流動化剤を焼結工程内で完全消失させるので、微量元素として最終焼結製品内部に残存させず、成分規格を満たし十分な機械的性質を備えた高品質なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
金属粉末のタップ密度(最大嵩密度)状態でできる最小空隙内を微細な流動化剤が分散する積層造形用金属粉末材料のクリティカル状態を
図1に示す。
【
図1】金属粉末に流動化剤を添加した模式図である。
【実施例】
【0011】
焼結温度1350℃で焼結密度96%以上が確保できるSUS316Lの微細粉末(平均粒径10μm、タップ密度4.5g/cm3、真密度7.98g/cm3)を用い、流動性を確保させるために、メラミンシアヌレート粉末(平均粒径2μm、嵩密度0.3g/cm3)を流動化剤として、金属粉末4.469gに対してメラミンシアヌレートを最大0.132gの割合で添加する。
流動化剤の添加量は次の式で求める。この値以上に添加することは粉体の流動性を向上させるが、焼結途中の変形収縮が増大するため最終焼結体の精度を低下させるため逆効果である。
流動化剤添加量 ≦ 空隙率×嵩密度
空隙率=1-粉末体積率
=1-粉末タップ密度÷粉末真密度
《計算例》
粉末体積率=4.5(g/cm3)÷7.98(g/cm3)=0.56
空隙率=1-粉末体積率=1-0.56=0.44
1cc当たり
粉末量=0.56×7.98=4.469g
流動化剤添加量≦0.44×0.3=0.132g
金属粉末4.469gに対してメラミンシアヌレートを最大0.132g添加する。
粉末のタップ密度は、JIS2512「金属粉-タップ密度測定方法」により測定する。メラミンシアヌレートは、日産化学株式会社製MC-6000相当を使用する。
【符号の説明】
1 金属粉末
2 金属粉末間の空隙とその中のメラミンシアヌレート
3 メラミンシアヌレート