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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-21
(45)【発行日】2023-03-02
(54)【発明の名称】新規有機土壌
(51)【国際特許分類】
   A01G 24/20 20180101AFI20230222BHJP
【FI】
A01G24/20
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018100369
(22)【出願日】2018-05-25
(65)【公開番号】P2019201605
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】521102661
【氏名又は名称】一般社団法人SOFIX農業推進機構
(74)【代理人】
【識別番号】100083183
【弁理士】
【氏名又は名称】西 良久
(72)【発明者】
【氏名】久保 幹
(72)【発明者】
【氏名】荒木 希和子
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-29127(JP,A)
【文献】特開平9-94026(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
堆肥を含有する乾燥有機土壌において、乾燥有機土壌中における全炭素量が18,000~35,000 mg/kg、全窒素量が1,000~1,500 mg/kg、C/N比が16~20、総リン量が800~1,400 mg/kg、且つ総カリウム量が1,000~1,500 mg/kgである乾燥有機土壌。
【請求項2】
堆肥を含有する乾燥有機土壌が、更に土及び/又は有機資材を含有しており、前記有機資材が、大豆かす、油かす、籾殻、魚粉、米ぬか、おから、ココナッツファイバー、ピートモス、稲ワラ、水苔、水草、おが屑、チップ、わら、落ち葉、刈草、バーク、骨粉、ペプチド、クロレラ、及び竹チップからなる群から選択される少なくとも1種の未発酵資材である、請求項1に記載の乾燥有機土壌。
【請求項3】
前記堆肥が、バーク堆肥、馬糞堆肥、鶏糞堆肥、牛糞堆肥、豚糞堆肥、海藻堆肥、及び生ごみ堆肥からなる群から選択される少なくとも1種の堆肥である、請求項1または2のいずれか一項に記載の乾燥有機土壌。
【請求項4】
堆肥を含有する乾燥有機土壌の製造方法において、
乾燥有機土壌中における、全炭素量が18,000~35,000 mg/kg、全窒素量が1,000~1,500 mg/kg、C/N比が16~20、総リン量が800~1,400 mg/kg、且つ総カリウム量が1,000~1,500 mg/kgの範囲を満たすように、乾燥した堆肥を添加する工程を含む方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の乾燥有機土壌を使用することを特徴とする植物の栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な有機土壌、新規な有機土壌の製造方法及び該有機土壌を使用することを特徴とする植物の栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機土壌で栽培した農産物は、硝酸塩等の蓄積が少なく、有機農産物の需要は欧米で飛躍的に伸びている。有機農業を行う場合、有機土壌が不可欠である。特に、ハウス栽培や植物工場での栽培は、品質の高い有機土壌が求められている。
【0003】
国内では、有機土壌や培養土という形で一部市販されているが、ロット間の格差や再現性の面で大きな課題があり、家庭園芸用としてのみ使われている。一方、化学肥料を投入する化学土壌では、無機物のN, P, Kを別々に入れるため、均一で再現性のある土壌が作製可能であり、多くの種類の化学土壌が製造及び販売されている。しかしながら、農産物に硝酸塩(多量に摂取すると発がん等の危険性がある)が蓄積する傾向になるという課題がある。
【0004】
また、有機土壌中では微生物がたえず動くため、含有している有機肥料が変化しやすく、均一なものを提供しにくい。有機土壌の均一性に関しては、微生物の種類の再現性と投入有機物が無機物に変化するという不均一性に課題がある。一方、化学土壌は肥料成分として無機物を含有させており、水等で流出しない限り変化しない。したがって、化学土壌の肥料成分は安定である。
【0005】
品質の高い売土の需要は年々高まっている。特に、家庭用園芸と施設農業においての売土需要は、非常に高い。これまで市販されている化学土壌培土の追肥は、これまでの研究により確立されており、窒素、リン酸、又はカリウムを所定の量を投入すればよい。しかしながら、軽さを追求している化学土壌売土は、使用劣化が激しく、肥料投入だけでは元に戻らず再利用は非常に難しい。このように、使用後の土壌処理は、厄介な問題であり、解決手法の開発が望まれている。
【0006】
有機土壌においても化学肥料同様、追肥が不可欠である。有機物の追肥において、投入する有機肥料の均一性(肥料成分と微生物の均一性)の確保が難しく、経験的に行われているのが現状であり、追肥の再現性が課題である。また、使用後の有機土壌の再利用において、同様の理由で初期状態に戻すことが難しい。
【0007】
このような問題を解決する手段として、特許文献1では、土壌微生物による物質循環を考慮した土壌の診断方法が報告されている。具体的には、特許文献1には、対象土壌におけるアンモニア減少率、フィチン酸からのリン酸生成活性、及び堆肥からのカリウム生成活性を用いて算出される循環活性指標、並びに土壌における土壌バクテリア数を用いて土壌診断を行うこと、並びに得られた診断結果に基づき、当該指標を改善するための処理を行うことが記載されている。
【0008】
また、特許文献2では、土壌中の全炭素、全窒素及び全リン酸の重量比を一定の範囲に調整することにより、微生物数を高レベルで維持でき、この微生物活性によって物質循環が促進され、有機物が効率良く植物が利用できる形態に変換され、有機肥料を効率良く利用できることが記載されている。
【0009】
特許文献3では、経験的に作製された従来の堆肥は、窒素成分の含有量が顕著に低く、窒素:リン:カリウムのバランスが悪くなっていたことから、高濃度の窒素成分を有する有機物(大豆カス、油カスなど)を窒素源として使用し、糞尿を含む有機物(馬糞など)と当該有機物を混合するだけでなく、更に発酵させることにより、植物の生育を促進させる高品質新規堆肥とすることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2010/107121号
【文献】特開2011-182747号公報
【文献】特開2011-184267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1~3は、有機農法又は自然農法による農作物の栽培に適した土壌の診断や作製方法に関するものであるが、均一性や再現性の点では更なる改善の余地がある。
【0012】
本発明は、再現性及び均一性に優れる新規有機土壌、新規有機土壌の製造方法及び該有機土壌を使用することを特徴とする植物の栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、水分を含まない有機土壌を作製することにより、微生物の動きを抑え(休眠状態にする)、有機土壌中の微生物を一定にすることができ(微生物活動の制御が可能となり)、均一な有機土壌を作製できるという知見を得た。また、乾燥した堆肥、有機資材、土などを調合して総炭素量、総窒素量、C/N比などの成分含有量を調整することでロット間格差が無く再現性のある土壌を製造可能であることを見出した。
【0014】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の有機土壌、新規有機土壌の製造方法及び植物の栽培方法を提供するものである。
【0015】
項1. 堆肥を含有する乾燥有機土壌において、乾燥有機土壌中における全炭素量が18,000~35,000 mg/kg、全窒素量が1,000~1,500 mg/kg、C/N比が16~20、総リン量が800~1,400 mg/kg、且つ総カリウム量が1,000~1,500 mg/kgである乾燥有機土壌。
項2.堆肥を含有する乾燥有機土壌が、更に土及び/又は有機資材を含有しており、前記有機資材が、大豆かす、油かす、籾殻、魚粉、米ぬか、おから、ココナッツファイバー、ピートモス、稲ワラ、水苔、水草、おが屑、チップ、わら、落ち葉、刈草、バーク、骨粉、ペプチド、クロレラ、及び竹チップからなる群から選択される少なくとも1種の未発酵資材である、請求項1に記載の乾燥有機土壌。
項3.前記堆肥が、バーク堆肥、馬糞堆肥、鶏糞堆肥、牛糞堆肥、豚糞堆肥、海藻堆肥、及び生ごみ堆肥からなる群から選択される少なくとも1種の堆肥である、請求項1または2のいずれか一項に記載の乾燥有機土壌。
項4.堆肥を含有する乾燥有機土壌の製造方法において、
乾燥有機土壌中における、全炭素量が18,000~35,000 mg/kg、全窒素量が1,000~1,500 mg/kg、C/N比が16~20、総リン量が800~1,400 mg/kg、且つ総カリウム量が1,000~1,500 mg/kgの範囲を満たすように、乾燥した堆肥を添加する工程を含む方法。
項5.請求項1~3のいずれか一項に記載の乾燥有機土壌を使用することを特徴とする植物の栽培方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の乾燥有機土壌は、微生物の動きを抑え、有機土壌中の微生物を一定にすることで、有機物の無機物への変化が抑制され、均一性に優れている。また、乾燥した堆肥、有機資材、土などを調合し、成分含有量(総炭素量、総窒素量、C/N比など)を調整して製造可能なため、ロット間格差が無く優れた製造再現性を有する。
【0017】
その上、本発明の乾燥有機土壌に、水分を除いた堆肥や有機資材を分析し、分析値に従い調合及び投入することで、効果的な追肥効果を発揮することが可能である。また、この手法を使うことにより、使用後の土壌の再利用が可能である。
【0018】
本発明の乾燥有機土壌によれば、高い収穫量が再現性を持って得られる上、乾燥したことにより軽量化されており、病原菌及び雑草を低減することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の乾燥有機土壌を用いた小松菜の栽培結果を示す写真である。左:市販化学土壌、右:本発明の乾燥有機土壌
図2】本発明の乾燥有機土壌を用いたメロンの栽培結果を示す写真である。左:市販化学土壌、中:本発明の乾燥有機土壌A、右:本発明の乾燥有機土壌B
図3】本発明の乾燥有機土壌のPCR-DGGEによる菌叢解析の結果を示す写真である。A : 本発明の乾燥有機土壌、B : 化学土壌、各レーンは製造ロットが異なる。
図4】本発明の乾燥有機土壌のPCR-DGGEのクラスター解析の結果を示す写真である。
図5】本発明の乾燥有機土壌での植物栽培による菌叢変化のPCR-DGGEによる結果を示す写真である。
図6】化学土壌での植物栽培による菌叢変化のPCR-DGGEによる結果を示す写真である。
図7】本発明の乾燥有機土壌と化学土壌における植物栽培に伴う菌数変化を示すグラフである。グラフの値は平均値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0021】
なお、本明細書において「含む、含有する(comprise)」とは、「本質的にからなる(essentially consist of)」という意味と、「のみからなる(consist of)」という意味をも包含する。
【0022】
本明細書で使用している用語の定義を以下に示す。
【0023】
「全炭素」(本明細書においてTCと呼ぶこともある)とは、土壌中の有機態炭素及び無機態炭素の総和を意味する。全炭素は全有機炭素計(TOC-V、株式会社島津製作所)及び固体試料燃焼装置(SSM-5000A、株式会社島津製作所)等により測定することができる。
【0024】
「全窒素」(本明細書においてTNと呼ぶこともある)とは、土壌中の有機態窒素及び無機態窒素の総和を意味する。全窒素はケルダール法及びインドフェノール青法等により測定することができる。
【0025】
「C/N比」とは、全炭素/全窒素(TC/TN)の質量比を意味する。
【0026】
「全リン」(本明細書においてTPと呼ぶこともある)とは、土壌中の無機態及び有機態リンの総和を意味する。全リンはケルダール法-モリブデン青吸光光度法等により測定することができる。
【0027】
「全カリウム」(本明細書においてTKと呼ぶこともある)とは、土壌中の水溶性、交換態及び固定カリウムの総和を意味する。全カリウムケルダール法-原子吸光光度法等により測定することができる。
【0028】
「有機土壌」とは、化学肥料及び農薬が使用されていない土壌を意味する。
【0029】
本発明の乾燥有機土壌は、堆肥を含有することを特徴とする。本発明の乾燥有機土壌には、堆肥に加えて、更に土、有機資材などを含有させることができる。
【0030】
堆肥としては、特に制限されず、各種公知の堆肥を使用でき、例えば、バーク堆肥などの植物堆肥、馬糞堆肥、鶏糞堆肥、牛糞堆肥、豚糞堆肥などの家畜堆肥、海藻堆肥、生ごみ堆肥などが挙げられる。堆肥は、単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
土としては、特に制限されず、各種公知の土を使用でき、例えば、黒土、赤土、赤玉土、ヴェルデナイト、ゼオライト、パーライト、バーミキュライト、腐葉土、鹿沼土、砂、水苔、ピートモス、培養土、真砂土、ココナッツファイバー、くん炭、自然環境中の土壌などが挙げられる。土は、単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0032】
有機資材としては、発酵が行われていない物(未発酵資材)である限り特に限定されず、このような未発酵資材としては、例えば、大豆かす、油かす、籾殻、魚粉、米ぬか、おから、ココナッツファイバー、ピートモス、稲ワラ、水苔、水草、おが屑、チップ、わら、落ち葉、刈草、バーク、骨粉、ペプチド、クロレラ、竹チップなどが挙げられる。有機資材は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0033】
本発明の乾燥有機土壌は、乾燥状態であることを特徴とし、水分の含有率は、通常0~5質量%程度、好ましくは0~3質量%程度である。本発明の乾燥有機土壌は、乾燥した状態の材料(堆肥、土、有機資材など)を混合して作製することもできるし、又は乾燥していない状態の材料(堆肥、土、有機資材など)を混合して調製した有機土壌を乾燥して作製することもできる。有機土壌及び材料を乾燥させる方法としては、例えば、通風乾燥、天日乾燥などの自然乾燥、加熱して乾燥させる強制乾燥などが挙げられる。このように乾燥させることで、軽量化することができ、輸送コストなどを低減させることができる。また、病原菌及び雑草を低減することもできる。
【0034】
土壌微生物は生物であり、土壌中で生きており、活動している。一方、微生物は休眠状態というステージを有しており、乾燥を行うことで、この休眠状態を活用することにより、微生物活動の制御が可能となる。結果として、均一な有機土壌を得ることができる。
【0035】
本発明の乾燥有機土壌は、成分含有量が適切な範囲となるように(例えば、全炭素量、全窒素量、C/N比、総リン量、総カリウム量が後述する範囲となるように)、乾燥した堆肥、有機資材、土などの材料を適切な混合比で配合して製造することができる。ここで乾燥していない材料を配合した後に乾燥を行うこともできる。また、材料を配合する前に、堆肥、有機資材、土などの材料の成分含有量(例えば、全炭素量、全窒素量、C/N比、総リン量、総カリウム量など)の測定を実施することで、適切な混合比を求めることが可能となる。
【0036】
本発明の乾燥有機土壌は、以下の成分含有量(特に、最適値)を有していることが望ましい。
【0037】
乾燥重量あたり各成分含有量
●総炭素量(TK):18,000~35,000 mg/kg、最適値:28,000~32,000 mg/kg
●総窒素量(TN):1,000~1,500 mg/kg、最適値:1,700~1,800 mg/kg
●C/N:16~20
●総リン量(TP):800~1,400 mg/kg、最適値:1,500~1,600 mg/kg
●総カリウム量(TK):1,000~1,500 mg/kg、最適値:1,700~1,800 mg/kg
【0038】
上記の成分含有量は、5,000検体を超えるSOFIX (登録商標)データベースに基づいて求められた、生物性・化学性・物理性においてバランスの取れた成分含有量である。ここでのSOFIXとは、有機栽培をはじめとする物質循環型農業に望ましい土壌成分の量とバランスを数値化する診断指標であり、植物生長に関する成分と物質循環に関する成分を測定するものである(例えば、国際公開第2010/107121号参照)。
【0039】
このような成分含有量を指標として正確な材料の調合を行うことで、ロット間格差が無く再現性が高い土壌を作製することができる。当該有機土壌を使用することで、土壌中において、高い菌数の維持と均一な菌叢の再現が可能となる。その結果、植物の高い収穫量を再現性を持って得ることができる。
【0040】
本発明の乾燥有機土壌は、乾燥状態であるので、植物の栽培前に水を添加し、3~10日程度放置する。水の添加量は、最大保水容量の10~40容量%程度、又は含水率10~40質量%程度である。このように、水分を加えて放置することで、微生物を休眠状態から回復させることでき、微生物を増殖させることも可能である。
【0041】
また、本発明の植物の栽培方法は、上記乾燥有機土壌を使用することを特徴とする。本発明の植物の栽培方法は、例えば、乾燥有機土壌に水を添加し放置する工程、及び放置後の有機土壌に植物を植え付ける工程などを含み得る。ここでの「植え付け」には、植物の種を播くことの意味も包含する。
【0042】
本発明の乾燥有機土壌を使用して栽培することができる植物としては、本発明の乾燥有機土壌で生育できるものであれば特に限定されないが、例えば次のものを挙げることができる。葉菜(例えば、はくさい、ほうれんそう、キャベツ、レタス、コマツナ、シュンギク、ねぎ、たまねぎ、ブロッコリー、アスパラガス)、根菜(例えば、にんじん、だいこん、ごぼう、さといも、長芋、れんこん、かぶ)、果菜(例えば、トマト、ミニトマト、なす、ピーマン、きゅうり、すいか、イチゴ、かぼちゃ、メロン、スイートコーン)等の蔬菜;リンゴ、ナシ、ブドウ、カキ等の果樹;大豆、枝豆、小豆、空豆、落花生、インゲン等の豆類;茶;たばこ;綿花;大麦、小麦、燕麦、ライ麦等の麦;パンジー、マリーゴールド、サルビア、ペチュニア、日々草、菊、カーネーション、薔薇、リンドウ、宿根カスミソウ、ガーベラ、スターチス、トルコギキョウ、アルストロメリア、ゆり、チューリップ、シクラメン、グラジオラス、フリージア、プリムラ、デンドロビウム、ベゴニア、シンビジウム、ポインセチア、ファレノプシス、ビオラ、デージー、スコバリア、カリブラコア等の花卉;サボテン等の多肉植物;及びセイヨウシバ、コウライシバ等の芝;緑化植物を挙げることができる。
【0043】
本発明の乾燥有機土壌を用いた上記の植物の栽培は、公知の方法に従って行うことができる。
【0044】
本発明の乾燥有機土壌は、例えば、ビニールハウス栽培、ポット栽培、植物工場、屋上緑化、壁面緑化などに使用することが可能である。ここで植物工場とは、温度、湿度、光などを人工的に調整、制御しながら、閉鎖的又は半閉鎖的な空間内で植物栽培を行う施設である。
【0045】
土壌中の菌叢を安定化させ、均一にすることにより、有機土壌の微生物再現が可能となる。微生物の動きは、「温度」、「湿度」、「有機物含量」、「pH」等の生物性、化学性、物理性の3要素で異なる。本発明で開発した有機土壌では、水分を含まない有機土壌を作製することにより、微生物の動きを抑え(休眠状態にする)、有機土壌中の微生物を一定にすることが可能となった。
【0046】
また、本発明では、有機土壌の追肥技術を研究した結果、水分を除いた材料を分析し、分析値に従い調合及び投入することで、効果的な追肥効果を発揮することを見出した。また、この手法を使うことにより、使用後の土壌を何度でも再利用が可能であることが明らかとなった。
【0047】
本発明の乾燥有機土壌によれば、微生物の動きを抑え、有機土壌中の微生物を一定にすることで、有機物の無機物への変化が抑制され、均一性に優れている。さらに、本発明の乾燥有機土壌は、乾燥した堆肥、有機資材、土などを調合し、成分含有量を調整して製造可能なため、ロット間格差が無く優れた製造再現性を有する。また、農産物毎にオーダーメードで成分調整も可能である。その上、本発明の乾燥有機土壌に、水分を除いた堆肥や有機資材を分析し、分析値に従い調合及び投入することで、効果的な追肥効果を発揮することが可能である。この手法を使うことにより、使用後の土壌の再利用が可能であり、経済的及び環境的にも優れる。本発明の乾燥有機土壌によれば、化学土壌と比較して高い収穫量を再現性を持って得られる上、乾燥したことにより軽量化されており、病原菌及び雑草が低減することもできる。
【実施例
【0048】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0049】
<実験方法>
全炭素(TC)の定量
1 gの土壌を固体試料燃焼装置SSM-5000A (株式会社島津製作所、京都)の中に入れた。二酸化炭素を除去した後、土壌を900℃に加熱し、土壌中の有機物を熱により二酸化炭素として、放出させた。放出した二酸化炭素はTOC-V (株式会社島津製作所、京都)で測定し、土壌1 gあたりの全有機炭素濃度(%)を測定した。測定値を10,000倍して土壌中の全炭素量TC (mg/kg-soil)を定量した。
【0050】
全分解溶液の作製
500 ml容試験管に土壌0.5 gと硫酸銅(II)五水和物0.5 gを加えた後、5 mLの硫酸と過酸化水素を加えた。試験管をケルダール分解装置ケルダーム(ゲルハルトジャパン株式会社、東京)に入れ、420℃で1時間加熱した。15分間放冷した後、蒸留水を加えて試験管内の溶液を希釈し、その希釈溶液をろ紙でろ過した。ろ液を蒸留水で100 mLに希釈し、全分解溶液とした。
【0051】
全窒素(TN)の定量
全分解溶液中のアンモニウムイオン濃度をインドフェノール法で定量した。全分解溶液1.0 mLにフェノールニトロプルシッド溶液(表1) 400μLを加え静かに混和し、次亜塩素酸ナトリウム溶液(表2) 600μLを加え撹拌し45分間静置した。静置後、分光光度計(U-1900、株式会社日立ハイテクノロジーズ、東京)で、吸光度635 nmを測定し、アンモニア態窒素濃度を定量した。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
全リン(TP)の定量
試験管に全分解溶液1.0 mLを入れ、モリブデン酸アンモニウム-アスコルビン酸混合溶液(5 : 1)(表3及び表4) 100μL加え、撹拌後、30℃で30分間静置した。その後、分光光度計U-1900 (株式会社日立ハイテクノロジーズ、東京)で吸光度710 nmを測定し、水溶性リン酸の定量を行った。
【0055】
【表3】
【0056】
【表4】
【0057】
全カリウム(TK)の定量
全分解溶液を適宜希釈し、原子吸光光度計(Z-2300、株式会社日立ハイテクノロジーズ、東京)を用いて測定した。測定条件は、表5の様に、燃料ガスとしてアセチレンを、助燃ガスとして空気を用い、圧力はともに0.5 MPaで測定した。
【0058】
【表5】
【0059】
環境DNA (eDNA)の抽出(eDNA法)
サンプル1 gを50 mL遠心管へ測り取り、DNA抽出緩衝液(表6) 8.0 mL及び20%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)溶液1.0 mLを加えた。撹拌機に遠心管をセットし、攪拌(1,500 rpm, 20 min, 室温)した。遠心管からサンプル混合液1.5 mLを2.0 mLチューブに分取し、遠心分離機(KUBOTA 3700、久保田商事株式会社、東京)で遠心分離(8,000 rpm, 20℃, 10 min)した。水層700μLを有機溶媒耐性のある1.7 mLチューブに分取し、クロロホルム・イソアミルアルコール(24:1, v/v) 700μLを加えて緩やかに攪拌した後、遠心分離(14,000 rpm, 20℃, 10 min)した。水層500μLを1.5 mLチューブに分取し、2-プロパノールを300μL加えて緩やかに攪拌した後、遠心分離(14,000 rpm, 20℃, 20 min)した。水層を除去し、70%(v/v)エタノール1.0 mLを加え、遠心分離(14,000 rpm, 20℃, 5 min)した。水層を除去し、アスピレーター(AS-01, AS ONE, 大阪)で30分間減圧乾燥した。10:1 TE緩衝液(表7)を50μL加えて懸濁させ、これをeDNA抽出液とした。
【0060】
【表6】
【0061】
【表7】
【0062】
土壌細菌数の定量
蒸留水にアガロース1%(w/v)、50×TAE緩衝液2%(v/v)(表8)を加えて加熱して溶解させ、1%アガロースゲルを作製した。Smart Ladder (株式会社ニッポンジーン、富山) 1.5μL及びeDNA溶液10μLとLoading Dye (東洋紡株式会社、大阪) 2μLを混合したものを、アガロースゲルのウェルにアプライした。泳動用緩衝液には1×TAE緩衝液を用いて、電気泳動装置(Mupid-exU, Mupid-2plus, ADVANCE, 東京)でアガロースゲル電気泳動(100 V, 30 min)を行った。アガロースゲルをエチジウムブロマイド溶液の20,000倍希釈液に15分間浸して染色し、蒸留水に5分間浸して洗浄を行った。
【0063】
トランスイルミネーター(ATTO, アトー株式会社)を用いてアガロースゲルにUVを照射し、KODAK 1D Image Analysis software (KODAK、東京)によってアガロースゲルのDNAバンドの蛍光強度測定を行った。DNAバンドの蛍光強度に対するDNA量の検量線を作成し、これを基に各サンプルDNA溶液のDNAバンドの蛍光強度からDNA量を求めた。eDNA量からDAPI染色による総細菌数に換算する検量線によって土壌総細菌数を求めた。定量したeDNA量を関係式Y = 1.7 × 108 X (R2 = 0.96)[Y: 土壌総細菌数(cells/g-soil),X: eDNA量(μg/g-soil)]を用いて土壌総細菌数を算出した。
【0064】
【表8】
【0065】
PCRによる16S rRNA遺伝子の解析
eDNA抽出液を適宜希釈し、表の組成(表9及び表10)と条件(表11)でPCRによる16S rRNA遺伝子の増幅を行った。ここで、化学土壌由来のeDNA抽出液はPCRの増幅効率が悪かったため、有機土壌由来のeDNA抽出液は35サイクル、化学土壌由来のeDNA抽出液は40サイクルとした。増幅後、1.5%アガロースゲルを用いて100 bp DNA Ladder H3 RTU (Gene DireX)とPCR産物を電気泳動し、増幅したDNA断片の有無と長さを確認した。
【0066】
【表9】
【0067】
【表10】
【0068】
【表11】
【0069】
PCR-DGGEによる菌叢解析
DCode System (Bio-Rad、カリフォルニア州)を用いて、PCR-DGGE分析を行った。40%アクリルアミド(表12)、尿素、ホルムアミド、50×TAE緩衝液を用いて変性剤濃度勾配27.5%~67.5%のアクリルアミドゲル(表13)を作製した。アクリルアミドのウェルに1×TAE緩衝液を入れた後、上記16S rRNA遺伝子のPCR産物23μLとLoading Dye (東洋紡株式会社、大阪) 10μLを混合した溶液をアプライした。ゲルのゆがみや異なる泳動間でバンドの比較を行うため、ゲルの両端にはDGGE Marker II (NIPPON GENE、東京)を5μLずつアプライした。7.0 Lの1×TAE緩衝液を電気泳動用タンクに入れ、電気泳動温度制御モジュール(Bio-Rad、カリフォルニア州)を被せて水温を60℃にした。
【0070】
アクリルアミドゲルがセットされたサンドイッチコアユニットを電気泳動タンク(Bio-Rad、カリフォルニア州)に入れ、パワーサプライヤー(Power Pac、Bio-Rad、カリフォルニア州)で電流を流し電気泳動した(60℃、15 hr、70V)。電気泳動後、アクリルアミドゲルを蒸留水に30分間浸し、変性剤を蒸留水中に溶出した。その後、蒸留水で5,000倍に希釈したエチジウムブロマイドで染色(30 min)後、トランスイルミネーター(ATTO, アトー株式会社)を用いて、UV照射し、DNAバンドを確認した。
【0071】
【表12】
【0072】
【表13】
【0073】
細菌叢のクラスター解析
PCR-DGGEにより検出したバンドパターンをFPQuest Software (Bio-Rad、カリフォルニア州)を用いて、細菌叢の相同性(0.0%~100.0%)を算出した。相同性の解析には、Pearsonの相関係数を用いて算出し、値が高いほどバンドパターンが類似していることを示す。異なる泳動間のゲルは、マーカーを基準としてソフトウェア上でゲル間のずれを補正し、バンドパターンの解析を行った。
【0074】
小松菜、クローバー、及びシュンギクの栽培
小松菜(Brassica rapa var. perviridis、タキイ種苗株式会社、京都)、クローバー(Trifolium repens、タキイ種苗株式会社、京都)、及びシュンギク(Glebionis coronaria、タキイ種苗株式会社、京都)の栽培は、土壌2 kgをワグネルポットに入れ、苗5株を定植した。実験は、3連で行い、計15株を栽培した。なお、苗は播種後10日生育させたものを用いた。定植後、植物育成室(明条件 : 16 h、22℃ 暗条件 : 8 h、18℃)で4週間生育させた。その後、背丈、湿重量を測定した。水は、保水量が30%程度になるように行った。
【0075】
メロンの栽培
メロン(Reticulatus Group、株式会社萩原農場、奈良)は、温室で栽培した。土壌10Lに苗を定植し、3か月栽培した。水は、保水量が30%程度になるように行った。
【0076】
<結果>
本発明の乾燥有機土壌の作製
有機土壌を用いた実験の再現性を得るため、5,000検体を超えるSOFIXデータベースに基づいた生物性・化学性・物理性においてバランスの取れた標準土壌の作製を行った。土壌製造は、市販の資材を乾燥させ、SOFIX (土壌肥沃度指標)分析、MQI (堆肥品質指標)分析、OQI (有機資材品質指標)分析を行い、下記に示す最適値になるように資材を混合して作製した。
【0077】
本発明の乾燥有機土壌(乾燥重量あたり)の各成分の好ましい含有量
●総炭素量(TC):18,000~35,000 mg/kg、最適値:28,000~32,000 mg/kg
●総窒素量(TN):1,000~1,500 mg/kg、最適値:1,700~1,800 mg/kg
●C/N:16~20
●総リン量(TP):800~1,400 mg/kg、最適値:1,500~1,600 mg/kg
●総カリウム量(TK):1,000~1,500 mg/kg、最適値:1,700~1,800 mg/kg
【0078】
本発明の乾燥有機土壌は、分析値に従い正確に調合できるため、再現性をもって成分調整が可能である。また、本発明の乾燥有機土壌に水分を最大保水容量の30%に調整し室温で1週間放置後、SOFIX分析を行い、パターン判定を行ったところ、「特A」評価になった。この評価は、ロットを変えて調製した本発明の乾燥有機土壌においても「特A」評価が得られ、再現性があることが確認された。
【0079】
上記SOFIXとは、有機栽培をはじめとする物質循環型農業に望ましい土壌成分の量とバランスを数値化する診断指標であり、植物生長に関する成分と物質循環に関する成分を測定するものである(例えば、国際公開第2010/107121号参照)。また、上記「特A」評価とは、総細菌数、全炭素量、全窒素量、窒素循環活性評価値、リン循環評価値、C/N比の6項目がすべて基準値内に入る土壌である。
【0080】
以下の実験では、牛糞堆肥、ピートモス、大豆かす、油カス、骨粉、黒土、真砂土、及びバーミキュライトを配合して上記の最適値になるように作製した乾燥有機土壌を使用した。また、この乾燥有機土壌に含水率30%となるように水分を与え、室温で1週間放置後に植物の栽培を開始した。
【0081】
本発明の乾燥有機土壌における植物栽培
作製した本発明の乾燥有機土壌を用い、小松菜を栽培した。栽培は、植物工場(22℃:12時間、18℃:12時間、湿度60%)で1か月間栽培した。実験は、ワグネルポット(1/5000 1アール)を用い、各ポットに5株定植し、3ポットで行った(合計15株)。対照区として、市販土壌(花ちゃん培養土、株式会社花ごころ、名古屋)を用いた。図1に生育の様子を示す。また、それぞれの生育結果を表14に示す。生育結果において、統計学的有意差が認められた。
【0082】
【表14】
【0083】
同様に、メロンを栽培した。メロン栽培は、温室で行い、約3か月間生育させた。本発明の乾燥有機土壌AとBは、成分比は同じであるが、Aの方が成分量を多くしたものである。メロン栽培した結果を図2に示す。
【0084】
本発明の乾燥有機土壌での植物栽培は、小松菜栽培やメロン栽培共に化学土壌と比べて生育が良く、有機土壌でも安定した良好な生育を示すことが明らかとなった。メロン果実の収量は、化学土壌、本発明の乾燥有機土壌A、本発明の乾燥有機土壌Bがそれぞれ1.2 kg、1.6 kg、1.5 kgであった。
【0085】
本発明の乾燥有機土壌の菌叢解析
有機土壌の作製は経験に基づく要因が多く、再現性に課題がある。特に、重要な微生物叢の再現性が不安定である。そこで本発明の乾燥有機土壌の微生物安定性を調べるため、菌叢を解析した。具体的には、7ロットの化学土壌と本発明の乾燥有機土壌を作製した。各土壌のベース土壌は同じものを用い、肥料成分だけが異なるように調製した。土壌作製ロットごとに、最大保水容量の30%になるように水を投入、良く撹拌し、室温で1週間放置した(水は、蒸発分を補った)。その後、PCR-DGGEの手法により、菌叢を解析した(図3及び4)。
【0086】
本発明の乾燥有機土壌は、化学土壌に比べて明らかにバンド数が多く、菌叢が豊かであった。また、化学土壌は、ロット間によって菌叢がかなり変化しているのに対し本発明の乾燥有機土壌の方の製造ロット間の格差はほとんどなく、均一な菌叢を形成している結果となった。また、1か月後においても、ほとんど菌叢の変化がなかった。したがって、本発明の乾燥有機土壌の菌叢形成や菌叢の安定性の再現性はあると判断した。
【0087】
各土壌の1週間後の総細菌数は、本発明の乾燥有機土壌において、平均で約8億個/g-土壌に対し、化学土壌では0.5億個/g-土壌であった。
【0088】
本発明の乾燥有機土壌における植物栽培による菌叢変化
本発明の乾燥有機土壌と化学土壌において、植物栽培による菌叢の変化について解析した。植物は、小松菜、クローバー、及びシュンギクを用いた。各2週間及び4週間栽培後の菌叢解析を行った(図5及び6)。
【0089】
有機標準土壌においては、若干の変化があったが、ほぼ同様の菌叢を維持していた。一方、化学土壌は、植物種毎に菌叢が異なり、4週間栽培後では大きく変化し、菌叢が減少していた。このように、本発明の乾燥有機土壌は、植物栽培を行っても菌叢は安定しており、連作障害にも対応できることが示唆された。
【0090】
次に、本発明の乾燥有機土壌と化学土壌の菌数の経時変化を解析した(図7)。その結果、本発明の乾燥有機土壌は、安定して菌数を維持しているのに対し、化学土壌では菌数がほとんど検出限界以下であった。このように、本発明の乾燥有機土壌は、菌叢、菌数ともに安定しており、再現性の高い有機土壌であることが明らかになった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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