IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士通株式会社の特許一覧

特許7231826半導体装置、半導体装置の製造方法及び電子装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-21
(45)【発行日】2023-03-02
(54)【発明の名称】半導体装置、半導体装置の製造方法及び電子装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/338 20060101AFI20230222BHJP
   H01L 29/778 20060101ALI20230222BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20230222BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20230222BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20230222BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20230222BHJP
【FI】
H01L29/80 H
H01L29/78 301B
H01L29/78 301H
H01L21/205
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019080975
(22)【出願日】2019-04-22
(65)【公開番号】P2020178094
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-12-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】弁理士法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 敦史
(72)【発明者】
【氏名】小谷 淳二
【審査官】杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-042032(JP,A)
【文献】特開2002-222771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/778
H01L 29/812
H01L 21/338
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1窒化物半導体を含有する基板と、
前記基板上に設けられ、第2窒化物半導体を含有し、表面に凹凸を有する凹凸層と、
前記凹凸層上に設けられ、第3窒化物半導体を含有するチャネル層と、
前記チャネル層上に設けられ、第4窒化物半導体を含有するバリア層と
を含み、
前記凹凸層は、平坦なテラス部と、前記テラス部から陥没した凹部と、前記テラス部から突出した凸部とを含み、
前記凹凸層は、前記テラス部の上面、前記凹部の内面及び前記凸部の外面を含む前記表面のうち、前記表面の高さ方向の位置の最頻値±1nm以内の範囲にある表面部分の面積が、前記表面の全体の面積に対して46%~75%の範囲にあることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記凹凸層は、前記テラス部の前記上面、前記凹部の前記内面及び前記凸部の前記外面を含む前記表面のうち、前記表面の高さ方向の位置の最頻値+1nm以上の表面部分の面積が、前記表面の全体の面積に対して3%未満であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記凹凸層は、前記テラス部の前記上面、前記凹部の前記内面及び前記凸部の前記外面を含む前記表面のうち、前記表面の高さ方向の位置の最頻値-3nm以下の表面部分の面積が、前記表面の全体の面積に対して30%未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記表面における当該表面部分の面積及び前記全体の面積はいずれも、1μmの単位領域における面積であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第2窒化物半導体は、AlNであり、
前記第3窒化物半導体は、BAlGa1-x-yN(0≦x<1,0≦y<1,0≦x+y<1)であり、
前記第4窒化物半導体は、AlGa1-zN(0<z≦1)であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項6】
前記第1窒化物半導体は、AlNであることを特徴とする請求項5に記載の半導体装置。
【請求項7】
第1窒化物半導体を含有する基板上に、第2窒化物半導体を含有し、表面に凹凸を有する凹凸層を形成する工程と、
前記凹凸層上に、第3窒化物半導体を含有するチャネル層を形成する工程と、
前記チャネル層上に、第4窒化物半導体を含有するバリア層を形成する工程と
を含み、
前記凹凸層は、平坦なテラス部と、前記テラス部から陥没した凹部と、前記テラス部から突出した凸部とを含み、
前記凹凸層を形成する工程は、前記テラス部の上面、前記凹部の内面及び前記凸部の外面を含む前記表面のうち、前記表面の高さ方向の位置の最頻値±1nm以内の範囲にある表面部分の面積が、前記表面の全体の面積に対して46%~75%の範囲にある前記凹凸層を形成する工程を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記凹凸層を形成する工程は、前記第2窒化物半導体のV族元素であるNの原料ガスとIII族元素の原料ガスとのモル比であるV/III比を22000~67000の範囲としたエピタキシャル成長により、前記凹凸を有する前記第2窒化物半導体を形成する工程を含むことを特徴とする請求項7に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
第1窒化物半導体を含有する基板と、
前記基板上に設けられ、第2窒化物半導体を含有し、表面に凹凸を有する凹凸層と、
前記凹凸層上に設けられ、第3窒化物半導体を含有するチャネル層と、
前記チャネル層上に設けられ、第4窒化物半導体を含有するバリア層と
を含み、
前記凹凸層は、平坦なテラス部と、前記テラス部から陥没した凹部と、前記テラス部から突出した凸部とを含み、
前記凹凸層は、前記テラス部の上面、前記凹部の内面及び前記凸部の外面を含む前記表面のうち、前記表面の高さ方向の位置の最頻値±1nm以内の範囲にある表面部分の面積が、前記表面の全体の面積に対して46%~75%の範囲にある半導体装置を備えることを特徴とする電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置、半導体装置の製造方法及び電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体を用いた半導体装置として、例えば、ガリウムナイトライド(GaN)系半導体を用いた発光ダイオード(Light Emitting Diode;LED)が知られている。このようなLEDに関し、例えば、深さ0.1μm以上の凹部を形成した基板上にn型コンタクト層を成長し、その上に量子井戸構造の活性層、p型コンタクト層を順次成長する技術が知られている。このほか、実質的にn回対称の配列を有する凹凸構造を備えたウェハ上に第1半導体層を成長し、その上に発光半導体層及び第2半導体層を順次成長する技術が知られている。
【0003】
また、窒化物半導体を用いた半導体装置として、チャネル層上にバリア層を設けた高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor;HEMT)が知られている。このようなHEMTに関し、例えば、アルミニウムナイトライド(AlN)等の第1バリア層上にGaN等のチャネル層を設け、その上にAlN等の第2バリア層を設けた量子閉じ込め構造型のHEMTが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-36174号公報
【文献】国際公開第2014/192821号パンフレット
【文献】米国特許出願公開第2006/0244011号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
窒化物半導体の量子閉じ込め構造を採用するHEMT等の半導体装置では、下地のバリア層上に設けられるチャネル層表面の平坦性が低くなると、その上に上層のバリア層を設けて得られる量子閉じ込め構造において、電子の閉じ込めが弱まる場合がある。このように、チャネル層表面の平坦性が低くなり、それに起因して電子の閉じ込めが弱まってしまうと、窒化物半導体の量子閉じ込め構造を採用する半導体装置の十分な特性向上を図ることができないことが起こり得る。
【0006】
1つの側面では、本発明は、窒化物半導体を用い、優れた特性を有する半導体装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの態様では、第1窒化物半導体を含有する基板と、前記基板上に設けられ、第2窒化物半導体を含有し、表面に凹凸を有する凹凸層と、前記凹凸層上に設けられ、第3窒化物半導体を含有するチャネル層と、前記チャネル層上に設けられ、第4窒化物半導体を含有するバリア層とを含み、前記凹凸層は、平坦なテラス部と、前記テラス部から陥没した凹部と、前記テラス部から突出した凸部とを含み、前記凹凸層は、前記テラス部の上面、前記凹部の内面及び前記凸部の外面を含む前記表面のうち、前記表面の高さ方向の位置の最頻値±1nm以内の範囲にある表面部分の面積が、前記表面の全体の面積に対して46%~75%の範囲にある半導体装置が提供される。
【0008】
また、1つの態様では、上記のような半導体装置の製造方法、上記のような半導体装置を備える電子装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
1つの側面では、窒化物半導体を用い、優れた特性を有する半導体装置を実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】半導体装置の例について説明する図である。
図2】半導体装置の形成方法の例について説明する図である。
図3】第1の実施の形態に係る半導体装置の一例について説明する図である。
図4】第1の実施の形態に係る半導体装置の形成方法の一例について説明する図である。
図5】第1の実施の形態に係る半導体装置の凹凸層について説明する図である。
図6】第1の実施の形態に係る半導体装置の凹凸層の調整について説明する図である。
図7】AlN基板の表面及びその上に成長したGaN層の表面の原子間力顕微鏡像のイメージ図である。
図8】第1の実施の形態に係る半導体装置の一例のエネルギーバンド構造について説明する図である。
図9】第2の実施の形態に係る半導体装置の形成方法の一例について説明する図(その1)である。
図10】第2の実施の形態に係る半導体装置の形成方法の一例について説明する図(その2)である。
図11】第2の実施の形態に係る半導体装置の形成方法の一例について説明する図(その3)である。
図12】第2の実施の形態に係る半導体装置の形成方法の一例について説明する図(その4)である。
図13】第2の実施の形態に係る半導体装置の形成方法の一例について説明する図(その5)である。
図14】第2の実施の形態に係る半導体装置の形成方法の一例について説明する図(その6)である。
図15】第3の実施の形態に係る半導体装置の形成方法の一例について説明する図(その1)である。
図16】第3の実施の形態に係る半導体装置の形成方法の一例について説明する図(その2)である。
図17】第3の実施の形態に係る半導体装置の形成方法の一例について説明する図(その3)である。
図18】第3の実施の形態に係る半導体装置の形成方法の一例について説明する図(その4)である。
図19】第4の実施の形態に係る半導体装置の形成方法の一例について説明する図(その1)である。
図20】第4の実施の形態に係る半導体装置の形成方法の一例について説明する図(その2)である。
図21】第4の実施の形態に係る半導体装置の形成方法の一例について説明する図(その3)である。
図22】第4の実施の形態に係る半導体装置の形成方法の一例について説明する図(その4)である。
図23】第4の実施の形態に係る半導体装置の形成方法の一例について説明する図(その5)である。
図24】第4の実施の形態に係る半導体装置の形成方法の一例について説明する図(その6)である。
図25】第5の実施の形態に係る半導体装置の一例について説明する図である。
図26】第6の実施の形態に係る半導体パッケージの一例について説明する図である。
図27】第7の実施の形態に係る力率改善回路の一例について説明する図である。
図28】第8の実施の形態に係る電源装置の一例について説明する図である。
図29】第9の実施の形態に係る増幅器の一例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
はじめに、窒化物半導体を用いた半導体装置の例について説明する。
図1は半導体装置の例について説明する図である。図1(A)には、半導体装置の一例の要部断面図を模式的に示している。図1(B)には、量子閉じ込め効果について説明するための図を模式的に示している。
【0012】
図1(A)に示す半導体装置100は、HEMTの一例である。半導体装置100は、基板101と、基板101上に設けられたチャネル層102と、チャネル層102上に設けられたバリア層103とを有する。基板101、チャネル層102及びバリア層103には、窒化物半導体が用いられる。例えば、基板101にはAlNが用いられ、チャネル層102にはGaNが用いられ、バリア層103にはAlNが用いられる。基板101には、例えば、AlN基板、又は所定の基板上に核形成層やバッファ層として機能するAlN層が設けられた基板が用いられる。バリア層103との接合界面近傍のチャネル層102内に、キャリアとなる電子が二次元電子ガス(Two Dimensional Electron Gas;2DEG)104として生成される。半導体装置100は更に、バリア層103上に設けられたゲート電極105と、その両側のバリア層103上に設けられたソース電極106及びドレイン電極107とを有する。ゲート電極105、ソース電極106及びドレイン電極107には、金属が用いられる。
【0013】
半導体装置100では、基板101及びバリア層103に、チャネル層102の窒化物半導体よりも大きなバンドギャップを有する窒化物半導体が用いられる。例えば、上記のように、基板101及びバリア層103にAlN(バンドギャップ6.2eV)が用いられ、チャネル層102にGaN(バンドギャップ3.4eV)が用いられる。このような窒化物半導体が用いられ、基板101及びバリア層103と、チャネル層102とが、ヘテロ接合される。この場合、図1(B)に示すように、基板101及びバリア層103の伝導帯と、チャネル層102の伝導帯との間には、バンドオフセットEが生じる。このバンドオフセットEにより、キャリアである電子がチャネル層102内に閉じ込められる、いわゆる閉じ込め効果(電子閉じ込め効果、量子閉じ込め効果とも言う)が得られる。基板101及びバリア層103にAlN、チャネル層102にGaNを用いると、比較的大きなバンドオフセットEが生じるため、強い閉じ込め効果が得られ、また、高次のエネルギー準位まで閉じ込め効果が得られる。
【0014】
電子の閉じ込め効果が得られる基板101、チャネル層102及びバリア層103の積層構造は、量子閉じ込め構造とも称される。上記のような窒化物半導体を用いた量子閉じ込め構造は、AlN/GaN/AlN量子閉じ込め構造等とも称される。半導体装置100は、上記のような量子閉じ込め構造を採用することで、低リーク電流、高キャリア移動度を実現しようとするものである。
【0015】
量子閉じ込め構造を採用する半導体装置の形成には、次の図2に示すような工程が含まれる。
図2は半導体装置の形成方法の例について説明する図である。図2(A)及び図2(B)にはそれぞれ、半導体装置形成の各工程の要部断面図を模式的に示している。
【0016】
図2(A)に示すような基板101、例えば、AlN上に、有機金属気相成長(Metal Organic Chemical Vapor Deposition;MOCVD、又はMetal Organic Vaper Phase Epitaxy;MOVPE)法を用いて、チャネル層102、例えば、GaNが成長される。そして、成長されたチャネル層102上に、MOVPE法を用いて、バリア層103、例えば、AlNが成長される。
【0017】
この場合、基板101のAlNと、その上に成長されるチャネル層102のGaNとの間には、比較的大きな格子定数差(約2.6%)がある。基板101のAlN上にチャネル層102のGaNを直接成長すると、それらの間の比較的大きな格子定数差により、成長モードがVolmer-Weberモードとなり、図2(B)に示すような、表面の荒れた平坦性の低いチャネル層102が成長され易い。
【0018】
このような表面の平坦性の低いチャネル層102のGaN上に、更にバリア層103のAlNを成長し、量子閉じ込め構造を形成しようとすると、ヘテロ接合界面の不良により、十分な閉じ込め効果が得られないことが起こり得る。この場合、半導体装置100を、窒化物半導体を用いた量子閉じ込め構造によって低リーク電流、高キャリア移動度が実現される、高特性のHEMTとして機能させることができなくなる可能性がある。
【0019】
以上のような点に鑑み、ここでは、以下に実施の形態として例示するような構成を採用し、窒化物半導体を用い、優れた特性を有する半導体装置を実現する。
[第1の実施の形態]
図3は第1の実施の形態に係る半導体装置の一例について説明する図である。図3には、半導体装置の一例の要部断面図を模式的に示している。
【0020】
図3に示す半導体装置10Aは、量子閉じ込め構造30を採用したHEMTの一例である。半導体装置10Aは、基板11、凹凸層20、チャネル層12、バリア層13、ゲート電極15、ソース電極16及びドレイン電極17を有する。
【0021】
基板11には、少なくともその表層に、所定の窒化物半導体、即ち、量子閉じ込め構造30の下層側のバリア層として機能する窒化物半導体、又は量子閉じ込め構造30の下層側のバリア層として機能する凹凸層20が形成(エピタキシャル成長)可能な窒化物半導体が用いられる。基板11の窒化物半導体には、例えば、AlNが用いられる。基板11には、その表層に所定の窒化物半導体が設けられていれば、その窒化物半導体とは異なる種類の窒化物半導体が更に用いられていてもよい。基板11は、窒化物半導体基板、又は所定の基板(必ずしも窒化物半導体であることを要しない)上に核形成層やバッファ層として機能する窒化物半導体層が設けられた基板である。基板11は、1種の窒化物半導体の単層構造であってもよいし、1種又は2種以上の窒化物半導体の積層構造であってもよい。基板11には、例えば、アンドープの窒化物半導体が用いられる。
【0022】
凹凸層20は、基板11上に設けられる。凹凸層20には、窒化物半導体が用いられる。凹凸層20の窒化物半導体には、例えば、AlNが用いられる。凹凸層20には、例えば、アンドープの窒化物半導体が用いられる。例えば、凹凸層20は、MOVPE法を用いて、基板11上に形成される。凹凸層20は、その表面(チャネル層12が設けられる面)に、テラス部と、テラス部から陥没した凹部と、テラス部から突出した凸部とを含む。凹凸層20の詳細については後述する。
【0023】
チャネル層12は、凹凸層20上に設けられる。チャネル層12には、窒化物半導体が用いられる。チャネル層12の窒化物半導体には、例えば、GaNが用いられる。このほか、チャネル層12の窒化物半導体には、アルミニウムガリウムナイトライド(AlGaN)や、ボロンアルミニウムガリウムナイトライド(BAlGaN)が用いられてもよい。即ち、チャネル層12の窒化物半導体には、BAlGa1-x-yN(0≦x<1,0≦y<1,0≦x+y<1)を用いることができる。チャネル層12は、1種の窒化物半導体の単層構造であってもよいし、1種又は2種以上の窒化物半導体の積層構造であってもよい。チャネル層12には、例えば、アンドープの窒化物半導体が用いられる。例えば、チャネル層12は、MOVPE法を用いて、凹凸層20上に形成される。チャネル層12は、電子走行層とも称される。
【0024】
バリア層13は、チャネル層12上に設けられる。バリア層13には、窒化物半導体が用いられる。バリア層13の窒化物半導体には、例えば、AlNが用いられる。このほか、バリア層13の窒化物半導体には、AlGaNが用いられてもよい。即ち、バリア層13の窒化物半導体には、AlGa1-zN(0<z≦1)を用いることができる。バリア層13は、1種の窒化物半導体の単層構造であってもよいし、1種又は2種以上の窒化物半導体の積層構造であってもよい。バリア層13には、例えば、アンドープの窒化物半導体が用いられる。例えば、バリア層13は、MOVPE法を用いて、チャネル層12上に形成される。バリア層13は、電子供給層とも称される。
【0025】
ここで、チャネル層12及びその上のバリア層13には、バンドギャップの異なる窒化物半導体が用いられる。チャネル層12上に、それよりもバンドギャップの大きい窒化物半導体を用いたバリア層13が設けられることで、バンドオフセットを有するヘテロ接合構造が形成される。フェルミ準位がチャネル層12とバリア層13との接合界面の伝導帯よりも上(高エネルギー側)となるようにすることで、接合界面のチャネル層12に2DEG14が生成される。チャネル層12上に、それよりも格子定数の大きい窒化物半導体を用いたバリア層13が設けられることで、バリア層13にピエゾ分極が発生する。バリア層13に用いられる窒化物半導体の自発分極、及びその格子定数に起因して発生するピエゾ分極により、接合界面のチャネル層12に高濃度の2DEG14が生成される。チャネル層12及びバリア層13には、それらの接合界面近傍に、このように2DEG14が生成されるような組み合わせの窒化物半導体が用いられる。
【0026】
更に、チャネル層12、及びその下の凹凸層20又は凹凸層20と基板11とには、バンドギャップの異なる窒化物半導体が用いられる。チャネル層12下に、それよりもバンドギャップの大きい窒化物半導体を用いた凹凸層20又は凹凸層20と基板11とが設けられることで、バンドオフセットを有するヘテロ接合構造が形成される。チャネル層12、その下側の凹凸層20又は凹凸層20と基板11、及び上側のバリア層13によって、量子閉じ込め構造30が形成される。量子閉じ込め構造30において、チャネル層12は、キャリアの電子が移動する層として機能し、下層側の凹凸層20又は凹凸層20と基板11、及び上層側のバリア層13は、チャネル層12内にキャリアの電子を閉じ込める層として機能する。量子閉じ込め構造30により、キャリアである電子の深部への拡散が制限され、チャネル層12からのリークが抑えられる、高効率、高信頼性のHEMTが実現される。チャネル層12、及びその下の凹凸層20又は凹凸層20と基板11とには、量子閉じ込め構造30が形成されるような組み合わせの窒化物半導体が用いられる。
【0027】
ゲート電極15は、例えば、バリア層13上に設けられる。ゲート電極15は、ショットキー電極又はショットキーゲート電極として機能する。ゲート電極15には、金属が用いられる。例えば、ゲート電極15として、ニッケル(Ni)とその上に設けられた金(Au)とを有する金属電極が設けられる。ゲート電極15は、蒸着法等を用いて形成される。
【0028】
尚、ゲート電極15とバリア層13との間には、酸化物、窒化物、酸窒化物等の絶縁膜が介在されてもよい。これにより、MIS(Metal Insulator Semiconductor)型のゲート構造が実現される。ゲート電極15とバリア層13との間には、GaNやAlGaN等の窒化物半導体を用いたキャップ層が介在されてもよい。
【0029】
また、ゲート電極15とバリア層13との間には、p型不純物を含有するGaNやAlGaN等の窒化物半導体を用いたキャップ層、又はインジウムガリウムナイトライド(InGaN)等の窒化物半導体を用いたキャップ層が介在されてもよい。これにより、チャネル層12内に生成される2DEG14が、ゲート電極15下方において低濃度化されるように変調され、ノーマリオフ型のHEMTが実現される。
【0030】
ソース電極16及びドレイン電極17は、例えば、ゲート電極15両側のバリア層13上に設けられる。ソース電極16及びドレイン電極17は、オーミック電極として機能するように、バリア層13上に設けられる。ソース電極16及びドレイン電極17には、金属が用いられる。例えば、ソース電極16及びドレイン電極17として、タンタル(Ta)とその上に設けられたアルミニウム(Al)とを有する金属電極が設けられる。ソース電極16及びドレイン電極17は、蒸着法等を用いて形成される。
【0031】
尚、ソース電極16及びドレイン電極17は、バリア層13上に限らず、バリア層13を貫通してその下のチャネル層12と直接接続されてもよい。また、ソース電極16及びドレイン電極17は、バリア層13を貫通し、n型不純物を含有するGaN等の窒化物半導体を用いたコンタクト層を介して間接に、チャネル層12と接続されてもよい。
【0032】
上記のような量子閉じ込め構造30を備える半導体装置10Aの形成には、次の図4に示すような工程が含まれる。
図4は第1の実施の形態に係る半導体装置の形成方法の一例について説明する図である。図4(A)及び図4(B)にはそれぞれ、半導体装置形成の各工程の要部断面図を模式的に示している。
【0033】
まず、図4(A)に示すように、基板11上に、MOVPE法を用いて、凹凸層20がエピタキシャル成長される。そして、図4(B)に示すように、エピタキシャル成長された凹凸層20上に更に、MOVPE法を用いて、チャネル層12がエピタキシャル成長される。尚、以下では、エピタキシャル成長を、単に成長とも言う。
【0034】
半導体装置10Aの形成では、このように基板11上にまず凹凸層20が成長され、その上にチャネル層12が成長されることで、表面の荒れが抑えられた、平坦性の高いチャネル層12が形成可能になっている。半導体装置10Aの形成では、平坦性の高いチャネル層12を形成するために、チャネル層12の形成前に予め、基板11上に成長される凹凸層20の凹凸形状が調整される。
【0035】
ここで、凹凸層20について説明する。
図5は第1の実施の形態に係る半導体装置の凹凸層について説明する図である。図5には、基板及びその上に設けられた凹凸層の一例の要部断面図を模式的に示している。
【0036】
凹凸層20には、その表面20a(基板11側とは反対の面)に、平坦なテラス部21と、テラス部21から陥没した凹部22と、テラス部21から突出した凸部23とが含まれる。図5では、凹凸層20の表面20aにおけるテラス部21の領域をTで、凹部22の領域をHで、凸部23の領域をPで、それぞれ表している。尚、凹凸層20の表面20aには、テラス部21、凹部22及び凸部23に限らず、その他の形状の部位が含まれてもよい。
【0037】
テラス部21には、比較的面積が大きいテラス部21や比較的面積が小さいテラス部21が含まれ得る。凹部22には、テラス部21からの深さが比較的浅い凹部22や比較的深い凹部22が含まれ得る。凸部23には、テラス部21からの高さが比較的低い凸部23や比較的高い凸部23が含まれ得る。このようなテラス部21、凹部22及び凸部23を含む凹凸層20の、その表面20aの凹凸形状が調整され、その上に成長されるチャネル層12の平坦性が高められる。
【0038】
図6は第1の実施の形態に係る半導体装置の凹凸層の調整について説明する図である。図6(A)~図6(C)にはそれぞれ、基板及びその上に設けられた凹凸層の一例の要部断面図を模式的に示している。
【0039】
図6(A)に示すように、凹凸層20は、表面20aの高さ方向の位置(表面位置)zの最頻値M±1nm以内の範囲にある部分(図6(A)の太線部分)の面積S1が、表面20aの全体の面積Sに対して所定の割合となるように、表面20aの凹凸形状が調整される。例えば、後述の表1及び図7に示すような知見に基づき、面積S1の面積Sに対する割合S1/Sが、46%~75%の範囲となるように、表面20aの凹凸形状が調整され、基板11上に凹凸層20が成長される。面積S1の面積Sに対する割合S1/Sは、基板11上に成長された凹凸層20の全体について得られるものであってもよいし、基板11上に成長された凹凸層20内の単位領域、例えば、1μmの単位領域の任意の1箇所について得られるものであってもよい。
【0040】
面積S1の面積Sに対する割合S1/Sが所定の割合となるようにすると、凹凸層20の表面20aに、凹凸層20に用いられるAlN等の窒化物半導体の側面(凹部22の内面や凸部23の外面)が適度な密度で存在するようになる。凹凸層20の表面20aには、平面(テラス部21の上面)のほか、このような窒化物半導体の側面にも、チャネル層12に用いられるGaN等の窒化物半導体の成長核群が形成されると考えられる。そして、凹凸層20の表面20aの窒化物半導体の平面及び側面に形成された多数の成長核群から成長する窒化物半導体同士が会合し、成長に伴って成長面内の高さの不均衡が解消され、結果的に表面の平坦性の高いチャネル層12が得られるものと考えられる。
【0041】
一方、凹凸層20の表面20aに存在する、凹凸層20の窒化物半導体の側面の密度が小さすぎる(平面の面積が大きすぎる)場合には、チャネル層12の窒化物半導体の成長核群の密度が小さくなる。比較的少数の成長核群から或る程度のサイズまで成長した窒化物半導体同士が会合して成長が進行し、その結果、表面の凹凸が大きい、平坦性の低いチャネル層12が得られてしまうものと考えられる。平坦な基板11上にチャネル層12の窒化物半導体を直接成長させるのと同様のことが起きると考えることもできる。
【0042】
また、凹凸層20の表面20aに存在する、凹凸層20の窒化物半導体の側面の密度が大きすぎる(平面の面積が小さすぎる)場合にも、チャネル層12の窒化物半導体の成長核群から成長する窒化物半導体同士の会合による成長面内高さの不均衡が解消され難い。その結果、表面の凹凸が大きい、平坦性の低いチャネル層12が得られてしまうものと考えられる。
【0043】
凸部23の密度が大きくなった場合、成長により得られるチャネル層12の表面の凹凸が大きくなり易い。これは、凸部23に形成された成長核からはチャネル層12の窒化物半導体が異常成長し易く、凸部23の密度が大きくなると、得られるチャネル層12の表面の凹凸が大きくなり易いためと考えられる。そのため、図6(B)に示すように、凹凸層20の表面20aの高さ方向の位置(表面位置)zの最頻値M+1nm以上の範囲にある部分(図6(B)の太線部分)の面積S2が、表面20aの全体の面積Sに対して所定の割合となるように、調整されることが好ましい。例えば、後述の表1及び図7に示すような知見に基づき、面積S2の面積Sに対する割合S2/Sが、3%未満となるように、表面20aの凹凸形状が調整され、基板11上に凹凸層20が成長される。面積S2の面積Sに対する割合S2/Sは、基板11上に成長された凹凸層20の全体について得られるものであってもよいし、基板11上に成長された凹凸層20内の単位領域、例えば、1μmの単位領域の任意の1箇所について得られるものであってもよい。
【0044】
更に、深い凹部22の密度が大きくなった場合も、成長により得られるチャネル層12の表面の凹凸が大きくなり易い。これは、深い凹部22が、成長されるチャネル層12の窒化物半導体で十分に埋められなかったり、深い凹部22から成長されるチャネル層12の窒化物半導体が、より浅い部位から成長されるものに比べ、成長後も窪んだまま残ったりし易いためと考えられる。そのため、図6(C)に示すように、凹凸層20の表面20aの高さ方向の位置(表面位置)zの最頻値M-3nm以下の範囲にある部分(図6(C)の太線部分)の面積S3が、表面20aの全体の面積Sに対して所定の割合となるように、調整されることが好ましい。例えば、後述の表1及び図7に示すような知見に基づき、面積S3の面積Sに対する割合S3/Sが、30%未満となるように、表面20aの凹凸形状が調整され、基板11上に凹凸層20が成長される。面積S3の面積Sに対する割合S3/Sは、基板11上に成長された凹凸層20の全体について得られるものであってもよいし、基板11上に成長された凹凸層20内の単位領域、例えば、1μmの単位領域の任意の1箇所について得られるものであってもよい。
【0045】
上記のような凹凸層20の表面20aの高さ方向の位置、即ち表面位置zは、例えば、走査型トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscope;STM)や原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)等の走査型プローブ顕微鏡(Scanning probe Microscope;SPM)を用いて測定することができる。このほか、表面位置zは、レーザー変位計を用いて測定することもできる。
【0046】
チャネル層12の下地となる表面の凹凸形状の調整について行った評価結果の一例を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1には、基板11に相当するAlN基板についてその表面の凹凸形状を異ならせたサンプルA,B,C,Dに対し、チャネル層12に相当するGaN層を同条件で成長した場合の、GaN層表面の平坦性を評価(合否判定)した結果の一例を示している。
【0049】
表1より、AlN基板の表面の高さ方向の表面位置の最頻値±1nm以内の範囲にある部分の面積S1の、表面全体の面積Sに対する割合S1/Sは、サンプルAで98.90%、サンプルBで75.20%、サンプルCで48.59%、サンプルDで46.16%であった。AlN基板の表面の高さ方向の表面位置の最頻値+1nm以上の範囲にある部分の面積S2の、表面全体の面積Sに対する割合S2/Sは、サンプルAで0.01%、サンプルBで1.90%、サンプルCで18.92%、サンプルDで2.57%であった。AlN基板の表面の高さ方向の表面位置の最頻値-3nm以下の範囲にある部分の面積S3の、表面全体の面積Sに対する割合S3/Sは、サンプルAで0.05%、サンプルBで2.74%、サンプルCで3.34%、サンプルDで30.40%であった。
【0050】
これらのサンプルA,B,C,DのAlN基板上にGaN層を成長し、その表面の平坦性を評価したところ、サンプルAで不合格、サンプルBで合格、サンプルCで不合格、サンプルDで合格という結果になった。
【0051】
サンプルAは、AlN基板の表面の高さ方向の表面位置の最頻値±1nm以内の範囲にある部分の面積S1の、表面全体の面積Sに対する割合S1/Sが、極めて高い、ほぼ平坦と見做せる基板のサンプルである。このような平坦性の高いサンプルAでは、その上に成長されるGaN層の表面の平坦性が低くなり、不合格となる。
【0052】
AlN基板の表面の高さ方向の表面位置の最頻値±1nm以内の範囲にある部分の面積S1の、表面全体の面積Sに対する割合S1/Sは、合格となったサンプルB,Dの結果より、46(46.16)%~75(75.20)%の範囲に設定することができる。
【0053】
ここで、サンプルCは、割合S1/Sがこの46%~75%の範囲内にあっても不合格となっている。これは、AlN基板の表面の高さ方向の表面位置の最頻値+1nm以上の範囲にある部分の面積S2の、表面全体の面積Sに対する割合S2/Sが、他のサンプルB,D等に比べて高いため、即ち、比較的大きな凸部が多い表面であるためと考えられる。このことから、割合S2/Sは、合格となったサンプルB,Dの結果より、3(2.57)%未満に設定することができる。尚、サンプルAは、割合S2/Sが3%未満ではあるが、割合S1/Sが高く、平坦性が高すぎるため、不合格となるものと考えられる。
【0054】
また、AlN基板の表面の高さ方向の表面位置の最頻値-3nm以下の範囲にある部分の面積S3の、表面全体の面積Sに対する割合S3/Sは、合格となったサンプルB,Dの結果より、30(30.40)%未満に設定することができる。尚、サンプルA,Cは、割合S3/Sが30%未満ではあるが、サンプルAは、割合S1/Sが高く、平坦性が高すぎるため、また、サンプルCは、割合S2/Sが高く、大きな凸部が多すぎるため、それぞれ不合格となるものと考えられる。
【0055】
図7はAlN基板の表面及びその上に成長したGaN層の表面の原子間力顕微鏡像のイメージ図である。尚、AlN基板は、上記の基板11、又は基板11上に凹凸層20が成長されたものに相当するものであり、GaN層は、上記のチャネル層12に相当するものである。
【0056】
図7(A)には、平坦性が高く、AlNの側面の密度が小さいAlN基板の表面、及びその上に成長されたGaN層の表面のイメージ図を示している。図7(C)には、平坦性が低く、AlNの側面の密度が大きいAlN基板の表面、及びその上に成長されたGaN層の表面のイメージ図を示している。図7(B)には、AlNの側面が適度な密度で存在するAlN基板の表面、及びその上に成長されたGaN層の表面のイメージ図を示している。図7(A)~図7(C)では、AlN基板及びGaN層の表面における高さ方向の表面位置が深い部分を濃色で表している。
【0057】
図7(A)及び図7(C)に示すように、AlNの側面の密度が小さすぎたり大きすぎたりすると、その上に成長されるGaN層の表面の平坦性が低くなる。図7(B)に示すように、AlNの側面が適度な密度で存在するAlN基板を用いることで、その上に、表面の平坦性の高いGaN層を成長させることができる。
【0058】
図8は第1の実施の形態に係る半導体装置の一例のエネルギーバンド構造について説明する図である。図8には、半導体装置の一例の厚さ方向のエネルギーバンド構造を模式的に示している。
【0059】
上記構成を有する半導体装置10Aにおける基板11、凹凸層20、チャネル層12及びバリア層13のエネルギーバンド構造は、図8に示すようなものになる。ここでは一例として、基板11及び凹凸層20並びにバリア層13にAlN(バンドギャップ6.2eV)が、チャネル層12にGaN(バンドギャップ3.4eV)が、それぞれ用いられた場合のエネルギーバンド構造を示している。図8に示すように、基板11及び凹凸層20並びにバリア層13の伝導帯と、チャネル層12の伝導帯との間に生じるバンドオフセットにより、キャリアである電子がチャネル層12内に閉じ込められる、上記のような量子閉じ込め構造30が実現される。
【0060】
凹凸層20(凹凸AlN)とチャネル層12との間のバンドオフセットは、凹凸層20を設けなかった場合の基板11(AlN)とチャネル層12との間のバンドオフセットに比べて小さくなる。しかし、キャリアの電子(2DEG14)は、チャネル層12(GaN)中の分極の影響により、上層側のバリア層13(AlN)とチャネル層12との接合界面近傍に集まる。そのため、凹凸層20により低下したバンドオフセットが電子の閉じ込め効果に与える影響は小さいと言える。
【0061】
尚、チャネル層12にAlGaNやBAlGaNを用いた場合も同様であり、また、バリア層13にAlGaNを用いた場合も同様である。
以上説明したように、半導体装置10Aにおいて、チャネル層12は、凹凸形状が調整された凹凸層20上に設けられることで、表面の平坦性が高められる。そのような表面の平坦性の高いチャネル層12上に、バリア層13が設けられる。これにより、電子の閉じ込め効果の高い量子閉じ込め構造30が実現される。このような量子閉じ込め構造30を備え、高キャリア移動度で且つ低リーク電流のHEMTとして機能する、優れた特性を持った半導体装置10Aが実現される。
【0062】
[第2の実施の形態]
ここでは、上記第1の実施の形態で述べたような構成を含む半導体装置及びその形成方法の第1の例について説明する。
【0063】
図9図14は第2の実施の形態に係る半導体装置の形成方法の一例について説明する図である。図9図14にはそれぞれ、半導体装置形成の各工程の一例の要部断面図を模式的に示している。
【0064】
まず、図9に示すように、基板11上に、MOVPE法を用いて、凹凸層20、チャネル層12、バリア層13が順次エピタキシャル成長される。ここでは、基板11にAlN自立基板が用いられ、その(0001)面上に、AlNの凹凸層20、BAlGa1-x-yN(0≦x<1,0≦y<1,0≦x+y<1)のチャネル層12、AlGa1-zN(0<z≦1)のバリア層13が成長される場合を例にする。例えば、チャネル層12として、BAlGa1-x-yN(0≦x<0.2,0≦y<0.8,0≦x+y<1)が成長され、バリア層13として、AlGa1-zN(0.5≦z≦1)が成長される。チャネル層12は、量子閉じ込め効果を生じさせるため、その厚さを50nm以下とすることが好ましく、20nm以下とすることがより好ましい。このようなチャネル層12上に、例えば、厚さ8nmでバリア層13が成長される。
【0065】
MOVPE法を用いた各層の成長において、Al源には、トリメチルアルミニウム(Tri-Methyl-Aluminum;TMAl)が用いられる。ガリウム(Ga)源には、トリメチルガリウム(Tri-Methyl-Gallium;TMGa)が用いられる。ボロン(B)源には、トリエチルボロン(Tri-Ethyl-Boron;TEB)やジボラン(diborane)ガス等が用いられる。これらのうちの1種又は2種以上とアンモニア(NH)との混合ガスが用いられ、更にキャリアガスとして水素(H)又は窒素(N)が用いられて、所定の窒化物半導体が成長される。成長させる窒化物半導体に応じて、TMAl、TMGa、TEBの供給と停止(切り替え)、供給時の流量(他原料との混合比)が適宜設定される。成長圧力は、1kPa~100kPa程度、成長温度は700℃~1500℃程度とされる。
【0066】
ここで、凹凸層20のAlNの成長では、成長時に供給するNHガスとTMAlガスとのモル比(供給比)であるV/III比が、22000~67000の範囲となる条件が用いられる。尚、平坦な層の成長を目的とする場合には、V/III比が数十~数百程度に設定されることが多く、これに比べ、凹凸層20の成長には、大幅に高いV/III比の条件(22000~67000)が用いられる。
【0067】
このような高いV/III比の条件が用いられることで、上記第1の実施の形態で述べたように凹凸形状が調整された凹凸層20が成長される。即ち、表面20aの高さ方向の表面位置zの最頻値M±1nm以内の範囲にある部分の面積S1の、表面20aの全体の面積Sに対する割合S1/Sが、46%~75%の範囲となるように、表面20aの凹凸形状が調整される。また、表面20aの高さ方向の表面位置zの最頻値M+1nm以上の範囲にある部分の面積S2の、表面20aの全体の面積Sに対する割合S2/Sが、3%未満となるように、表面20aの凹凸形状が調整される。また、表面20aの高さ方向の表面位置zの最頻値M-3nm以下の範囲にある部分の面積S3の、表面20aの全体の面積Sに対する割合S3/Sが、30%未満となるように、表面20aの凹凸形状が調整される。このように表面20aの凹凸形状が調整された凹凸層20の上に、チャネル層12が成長されることで、表面の平坦性の高いチャネル層12が得られる。
【0068】
凹凸層20を成長する際のV/III比が22000を下回ると、平坦性の高い表面20aが得られ易くなる。即ち、割合S1/Sが75%を上回る可能性が高まる。凹凸層20を成長する際のV/III比が67000を上回ると、大きな凸部23や深い凹部22が得られ易くなる。即ち、割合S2/Sが3%を上回る可能性や、割合S3/Sが30%を上回る可能性が高まる。
【0069】
各層の成長後、フォトリソグラフィ技術を用いて、素子間分離領域に開口を有するレジストが設けられ、エッチング(塩素系ガスを用いたドライエッチング等)又はイオン注入により、素子間分離領域(図示せず)が形成されてもよい。
【0070】
次いで、フォトリソグラフィ技術を用いて、ソース電極16及びドレイン電極17を形成する領域に開口を有するレジストが設けられ、塩素系ガスを用いたエッチングが行われる。これにより、図10に示すように、バリア層13の一部が除去される。
【0071】
次いで、図11に示すように、バリア層13の除去後に露出するチャネル層12上に、ソース電極16及びドレイン電極17が形成される。その際は、まず、フォトリソグラフィ技術、蒸着技術及びリフトオフ技術を用いて、バリア層13から露出するチャネル層12上に、電極用金属、例えば、厚さ20nmのTaと厚さ200nmのAlとの積層体が形成される。その後、窒素雰囲気中、400℃~1000℃、例えば、550℃で熱処理が行われ、電極用金属がオーミック接続される。これにより、図11に示すように、ソース電極16(オーミック電極)及びドレイン電極17(オーミック電極)が形成される。
【0072】
次いで、図12に示すように、バリア層13、ソース電極16及びドレイン電極17の上に、パッシベーション膜40が形成される。例えば、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて、厚さ2nm~500nm、例えば、厚さ100nmのパッシベーション膜40が形成される。パッシベーション膜40の形成には、原子層堆積(Atomic Layer Deposition;ALD)法、スパッタ法等が用いられてもよい。パッシベーション膜40には、例えば、シリコン(Si)、Al、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、Ta又はタングステン(W)を含む酸化物、窒化物又は酸窒化物が用いられる。例えば、パッシベーション膜40として、窒化シリコン(SiN)が形成される。
【0073】
次いで、図13に示すように、ゲート電極15を形成する領域のパッシベーション膜40が除去されて開口部41が形成され、バリア層13の一部が露出される。その際は、まず、フォトリソグラフィ技術を用いて、ゲート電極15を形成する領域に開口を有するレジストが形成され、これをマスクとするエッチングが行われる。このエッチングにより、レジストの開口から露出するパッシベーション膜40が除去される。パッシベーション膜40のエッチングは、例えば、フッ素系又は塩素系ガスを用いたドライエッチングによって行われる。このほか、パッシベーション膜40のエッチングは、フッ酸やバッファードフッ酸等を用いたウェットエッチングによって行われてもよい。これにより、図13に示すように、ゲート電極15を形成する領域のパッシベーション膜40が部分的に除去され、開口部41が形成される。
【0074】
次いで、図14に示すように、ゲート電極15が形成される。例えば、フォトリソグラフィ技術、蒸着技術及びリフトオフ技術を用いて、パッシベーション膜40から露出するバリア層13上に、電極用金属、例えば、厚さ30nmのNiと厚さ400nmのAuとの積層体が形成される。これにより、図14に示すように、ゲート電極15(ショットキー電極)が形成される。
【0075】
図9図14に示したような工程により、基板11上に凹凸層20が設けられ、その上にチャネル層12及びバリア層13が設けられた、量子閉じ込め構造30を有する半導体装置10B(図14)が得られる。
【0076】
半導体装置10Bにおいて、チャネル層12は、凹凸形状が調整された凹凸層20上に設けられることで、表面の平坦性が高められる。これにより、電子の閉じ込め効果を強くした量子閉じ込め構造30が実現される。このような量子閉じ込め構造30を備え、高キャリア移動度で且つ低リーク電流のHEMTとして機能する、優れた特性を持った半導体装置10Bが実現される。
【0077】
尚、半導体装置10Bのゲート電極15、ソース電極16及びドレイン電極17に用いる金属の種類及び層構造は上記の例に限定されるものではなく、それらの形成方法も上記の例に限定されるものではない。ゲート電極15、ソース電極16及びドレイン電極17にはそれぞれ、単層構造が用いられてもよいし、積層構造が用いられてもよい。ソース電極16及びドレイン電極17の形成時には、それらの電極用金属の形成によってオーミック接続が実現されるようであれば、必ずしも上記のような熱処理が行われることを要しない。ゲート電極15の形成時には、その電極用金属の形成後、更に熱処理が行われてもよい。ゲート電極15は、上記のようなショットキー型のゲート構造に限らず、バリア層13との間に絶縁膜を介在させたMIS型のゲート構造とされてもよい。
【0078】
[第3の実施の形態]
ここでは、上記第1の実施の形態で述べたような構成を含む半導体装置及びその形成方法の第2の例について説明する。
【0079】
図15図18は第3の実施の形態に係る半導体装置の形成方法の一例について説明する図である。図15図18にはそれぞれ、半導体装置形成の各工程の一例の要部断面図を模式的に示している。
【0080】
まず、図15に示すように、上記第2の実施の形態で述べたのと同様に、基板11上に、MOVPE法を用いて、凹凸層20、チャネル層12、バリア層13が順次エピタキシャル成長される。例えば、基板11にAlN自立基板が用いられ、その(0001)面上に、AlNの凹凸層20、厚さ50nm以下のBAlGa1-x-yN(0≦x<0.2,0≦y<0.8,0≦x+y<1)のチャネル層12、厚さ8nmのAlGa1-zN(0.5≦z≦1)のバリア層13が成長される。基板11上に凹凸層20が設けられることで、その上に、表面の平坦性の高いチャネル層12が成長される。そのようなチャネル層12上に、バリア層13が成長される。これにより、電子の閉じ込め効果の高い量子閉じ込め構造30が実現される。
【0081】
そして、この例では、図15に示すように、バリア層13上に更に、キャップ層50、例えば、厚さ2nmのGaNのキャップ層50が成長される。
キャップ層50の形成後には、素子間分離領域(図示せず)が形成されてもよい。
【0082】
次いで、フォトリソグラフィ技術を用いて、ソース電極16及びドレイン電極17を形成する領域に開口を有するレジストが設けられ、塩素系ガスを用いたエッチングが行われる。これにより、図16に示すように、キャップ層50及びバリア層13の各一部が除去される。続いて、キャップ層50及びバリア層13の除去後に露出するチャネル層12上に、フォトリソグラフィ技術、蒸着技術及びリフトオフ技術を用いて、電極用金属、例えば、厚さ20nmのTaと厚さ200nmのAlとの積層体が形成される。その後、窒素雰囲気中、400℃~1000℃、例えば、550℃で熱処理が行われ、電極用金属がオーミック接続される。これにより、図16に示すように、ソース電極16(オーミック電極)及びドレイン電極17(オーミック電極)が形成される。
【0083】
次いで、図17に示すように、キャップ層50、ソース電極16及びドレイン電極17の上に、ゲート電極15を形成する領域に開口部41を有するパッシベーション膜40が形成される。例えば、まず、プラズマCVD法、ALD法、スパッタ法等を用いて、厚さ2nm~500nm、例えば、厚さ100nmのパッシベーション膜40が形成される。パッシベーション膜40には、例えば、Si、Al、Hf、Zr、Ti、Ta又はWを含む酸化物、窒化物又は酸窒化物が用いられる。例えば、パッシベーション膜40として、SiNが形成される。続いて、フォトリソグラフィ技術を用いて、ゲート電極15を形成する領域に開口を有するレジストが形成され、これをマスクとするエッチングが行われる。このエッチングにより、レジストの開口から露出するパッシベーション膜40が除去される。パッシベーション膜40のエッチングは、例えば、フッ素系又は塩素系ガスを用いたドライエッチングによって、或いはフッ酸やバッファードフッ酸等を用いたウェットエッチングによって行われる。これにより、図17に示すように、ゲート電極15を形成する領域のパッシベーション膜40が部分的に除去され、開口部41が形成される。
【0084】
次いで、図18に示すように、ゲート電極15が形成される。例えば、フォトリソグラフィ技術、蒸着技術及びリフトオフ技術を用いて、パッシベーション膜40から露出するキャップ層50上に、電極用金属、例えば、厚さ30nmのNiと厚さ400nmのAuとの積層体が形成される。これにより、図18に示すように、ゲート電極15(ショットキー電極)が形成される。
【0085】
図15図18に示したような工程により、基板11上に凹凸層20が設けられ、その上にチャネル層12及びバリア層13が設けられた、量子閉じ込め構造30を有する半導体装置10C(図18)が得られる。
【0086】
半導体装置10Cでは、ゲート電極15とバリア層13との間にキャップ層50が設けられることで、ゲートリーク電流の発生、ゲート電極15の成分のバリア層13やチャネル層12への拡散、オン抵抗の増大等が抑制される。
【0087】
半導体装置10Cにおいて、チャネル層12は、凹凸形状が調整された凹凸層20上に設けられることで、表面の平坦性が高められる。これにより、電子の閉じ込め効果を強くした量子閉じ込め構造30が実現される。このような量子閉じ込め構造30を備え、高キャリア移動度で且つ低リーク電流のHEMTとして機能する、優れた特性を持った半導体装置10Cが実現される。
【0088】
尚、半導体装置10Cのゲート電極15、ソース電極16及びドレイン電極17に用いる金属の種類及び層構造は上記の例に限定されるものではなく、それらの形成方法も上記の例に限定されるものではない。ゲート電極15、ソース電極16及びドレイン電極17にはそれぞれ、単層構造が用いられてもよいし、積層構造が用いられてもよい。ソース電極16及びドレイン電極17の形成時には、それらの電極用金属の形成によってオーミック接続が実現されるようであれば、必ずしも上記のような熱処理が行われることを要しない。ゲート電極15の形成時には、その電極用金属の形成後、更に熱処理が行われてもよい。ゲート電極15は、上記のようなショットキー型のゲート構造に限らず、バリア層13との間に絶縁膜を介在させたMIS型のゲート構造とされてもよい。
【0089】
また、キャップ層50は、ゲート電極15下に選択的に設けられてもよく、そのキャップ層50には、p型不純物を含有するGaNやAlGaN等の窒化物半導体、又はInGaN等の窒化物半導体が用いられてもよい。このような窒化物半導体が用いられることで、例えば、p型窒化物半導体の固定電荷や、バリア層13上のInGaNに発生するピエゾ分極によって、チャネル層12内に生成される2DEG14が、ゲート電極15下方において低濃度化されるように変調される。これにより、ノーマリオフ型のHEMTとして機能する半導体装置10Cが実現される。
【0090】
[第4の実施の形態]
ここでは、上記第1の実施の形態で述べたような構成を含む半導体装置及びその形成方法の第3の例について説明する。
【0091】
図19図24は第4の実施の形態に係る半導体装置の形成方法の一例について説明する図である。図19図24にはそれぞれ、半導体装置形成の各工程の一例の要部断面図を模式的に示している。
【0092】
まず、図19に示すように、上記第2の実施の形態で述べたのと同様に、基板11上に、MOVPE法を用いて、凹凸層20、チャネル層12、バリア層13が順次エピタキシャル成長される。例えば、基板11にAlN自立基板が用いられ、その(0001)面上に、AlNの凹凸層20、厚さ50nm以下のBAlGa1-x-yN(0≦x<0.2,0≦y<0.8,0≦x+y<1)のチャネル層12、厚さ8nmのAlGa1-zN(0.5≦z≦1)のバリア層13が成長される。基板11上に凹凸層20が設けられることで、その上に、表面の平坦性の高いチャネル層12が成長される。そのようなチャネル層12上に、バリア層13が成長される。これにより、電子の閉じ込め効果の高い量子閉じ込め構造30が実現される。
【0093】
そして、この例では、図19に示すように、バリア層13上に更に、プラズマCVD法、ALD法、スパッタ法等を用いて、表面保護膜60が形成される。表面保護膜60には、例えば、Si、Al、Hf、Zr、Ti、Ta又はWを含む酸化物、窒化物又は酸窒化物が用いられる。例えば、表面保護膜60として、酸化シリコン(SiO)が形成される。
【0094】
次いで、フォトリソグラフィ技術を用いて、ソース電極16及びドレイン電極17を形成する領域に開口を有するレジストが設けられ、塩素系ガスを用いたエッチングにより、表面保護膜60、バリア層13及びチャネル層12の各一部が除去される。これにより、図20に示すような溝71が形成された状態が得られる。
【0095】
次いで、図21に示すように、表面保護膜60、バリア層13及びチャネル層12の各一部を除去して形成された溝71内に露出するチャネル層12上に、MOVPE法を用いて、n型コンタクト層70が成長される。n型コンタクト層70には、例えば、Si等のn型不純物を含有するGaN(n型GaN)が用いられる。例えば、GaNの原料であるTMGaとNHとの混合ガスに、n型不純物のSiの原料であるシラン(silane)ガスを所定の流量で添加したMOVPE法により、厚さ50nm、ドーピング濃度1×1019cm-3のn型GaNが成長される。n型不純物には、Siのほか、ゲルマニウム(Ge)、酸素(O)等が用いられてもよい。n型コンタクト層70の形成後、表面保護膜60は除去される。
【0096】
n型コンタクト層70の形成後には、素子間分離領域(図示せず)が形成されてもよい。
次いで、n型コンタクト層70上、即ち、ソース電極16及びドレイン電極17を形成する領域上に、フォトリソグラフィ技術、蒸着技術及びリフトオフ技術を用いて、電極用金属、例えば、厚さ20nmのTaと厚さ200nmのAlとの積層体が形成される。その後、窒素雰囲気中、400℃~1000℃、例えば、550℃で熱処理が行われ、電極用金属がオーミック接続される。これにより、図22に示すように、ソース電極16(オーミック電極)及びドレイン電極17(オーミック電極)が形成される。
【0097】
次いで、図23に示すように、バリア層13、ソース電極16及びドレイン電極17の上に、ゲート電極15を形成する領域に開口部41を有するパッシベーション膜40が形成される。例えば、まず、プラズマCVD法、ALD法、スパッタ法等を用いて、厚さ2nm~500nm、例えば、厚さ100nmのパッシベーション膜40が形成される。パッシベーション膜40には、例えば、Si、Al、Hf、Zr、Ti、Ta又はWを含む酸化物、窒化物又は酸窒化物が用いられる。例えば、パッシベーション膜40として、SiNが形成される。続いて、フォトリソグラフィ技術を用いて、ゲート電極15を形成する領域に開口を有するレジストが形成され、これをマスクとするエッチングが行われる。このエッチングにより、レジストの開口から露出するパッシベーション膜40が除去される。パッシベーション膜40のエッチングは、例えば、フッ素系又は塩素系ガスを用いたドライエッチングによって、或いはフッ酸やバッファードフッ酸等を用いたウェットエッチングによって行われる。これにより、図23に示すように、ゲート電極15を形成する領域のパッシベーション膜40が部分的に除去され、開口部41が形成される。
【0098】
次いで、図24に示すように、ゲート電極15が形成される。例えば、フォトリソグラフィ技術、蒸着技術及びリフトオフ技術を用いて、パッシベーション膜40から露出するバリア層13上に、電極用金属、例えば、厚さ30nmのNiと厚さ400nmのAuとの積層体が形成される。これにより、図24に示すように、ゲート電極15(ショットキー電極)が形成される。
【0099】
図19図24に示したような工程により、基板11上に凹凸層20が設けられ、その上にチャネル層12及びバリア層13が設けられた、量子閉じ込め構造30を有する半導体装置10D(図18)が得られる。
【0100】
半導体装置10Dでは、n型コンタクト層70上にソース電極16及びドレイン電極17が設けられることで、n型コンタクト層70とソース電極16及びドレイン電極17との間のコンタクト抵抗が低減される。これにより、低抵抗のオーミック接続が実現される。
【0101】
半導体装置10Dにおいて、チャネル層12は、凹凸形状が調整された凹凸層20上に設けられることで、表面の平坦性が高められる。これにより、電子の閉じ込め効果を強くした量子閉じ込め構造30が実現される。このような量子閉じ込め構造30を備え、高キャリア移動度で且つ低リーク電流のHEMTとして機能する、優れた特性を持った半導体装置10Dが実現される。
【0102】
尚、半導体装置10Dのゲート電極15、ソース電極16及びドレイン電極17に用いる金属の種類及び層構造は上記の例に限定されるものではなく、それらの形成方法も上記の例に限定されるものではない。ゲート電極15、ソース電極16及びドレイン電極17にはそれぞれ、単層構造が用いられてもよいし、積層構造が用いられてもよい。ソース電極16及びドレイン電極17の形成時には、それらの電極用金属の形成によってオーミック接続が実現されるようであれば、必ずしも上記のような熱処理が行われることを要しない。ゲート電極15の形成時には、その電極用金属の形成後、更に熱処理が行われてもよい。ゲート電極15は、上記のようなショットキー型のゲート構造に限らず、バリア層13との間に絶縁膜を介在させたMIS型のゲート構造とされてもよい。
【0103】
また、半導体装置10Dにおいて、バリア層13上には、上記第3の実施の形態で述べたような半導体装置10Cの例に従い、窒化物半導体を用いたキャップ層50が設けられてもよい。
【0104】
[第5の実施の形態]
図25は第5の実施の形態に係る半導体装置の一例について説明する図である。図25には、半導体装置の一例の要部断面図を模式的に示している。
【0105】
図25に示す半導体装置10Eは、ショットキーバリアダイオード(Schottky Barrier Diode;SBD)の一例である。半導体装置10Eは、基板11、凹凸層20、チャネル層12、バリア層13、カソード電極18(オーミック電極)及びアノード電極19(ショットキー電極)を有する。
【0106】
半導体装置10Eの基板11、凹凸層20、チャネル層12及びバリア層13には、上記半導体装置10B(図14)等について述べたのと同様の窒化物半導体が用いられる。基板11上に凹凸層20が設けられることで、その上に、表面の平坦性の高いチャネル層12が成長される。そのようなチャネル層12上に、バリア層13が成長される。これにより、電子の閉じ込め効果の高い量子閉じ込め構造30が実現される。半導体装置10Eのカソード電極18及びアノード電極19には、金属が用いられる。カソード電極18は、オーミック電極として機能するようにチャネル層12上に設けられ、アノード電極19は、ショットキー電極として機能するようにチャネル層12上に設けられる。バリア層13、カソード電極18及びアノード電極19の上には、図25に示すように、パッシベーション膜40が設けられてもよい。
【0107】
上記構成を有する半導体装置10Eは、上記第2の実施の形態において上記図9図12について述べたような方法の例に従って、形成することができる。
即ち、まず、上記図9の例に従い、基板11上に、MOVPE法を用いて、凹凸層20、チャネル層12及びバリア層13が順次エピタキシャル成長される。
【0108】
次いで、図10の例に従い、カソード電極18及びアノード電極19を形成する領域のバリア層13が部分的に除去される。
次いで、上記図11の例に従い、チャネル層12上に電極用金属が形成され、カソード電極18及びアノード電極19が形成される。その際、カソード電極18は、オーミック電極として機能するようにチャネル層12上に形成され、アノード電極19は、ショットキー電極として機能するようにチャネル層12上に形成される。半導体装置10Eの形成では、カソード電極18及びアノード電極19についてそれぞれオーミック接続及びショットキー接続が実現されるように、形成が別々の工程で行われてもよく、また、互いに異なる種類の電極用金属が用いられてもよい。
【0109】
次いで、上記図12の例に従い、バリア層13、カソード電極18及びアノード電極19の上に、パッシベーション膜40が形成される。
例えば、このような方法が用いられ、図25に示すような構成を有する半導体装置10Eが形成される。
【0110】
半導体装置10Eによれば、量子閉じ込め構造30により、キャリアである電子の深部への拡散が制限され、チャネル層12からのリーク、即ち、リーク電流の発生が抑えられる、高効率、高信頼性のSBDが実現される。
【0111】
尚、第5の実施の形態で述べた半導体装置10Eは、上記第1の実施の形態で述べた半導体装置10Aや上記第2,第3,第4の実施の形態で述べた半導体装置10B,10C,10Dと、共通の1枚の基板上に混載されてもよい。例えば、1枚の基板上に、半導体装置10Bと半導体装置10Eとが混載された半導体装置等を得ることもできる。
【0112】
以上、第1~第5の実施の形態で述べたような構成を有する半導体装置10A,10B,10C,10D,10E等は、各種電子装置に適用することができる。一例として、上記のような構成を有する半導体装置を、半導体パッケージ、力率改善回路、電源装置及び増幅器に適用する場合について、以下に説明する。
【0113】
[第6の実施の形態]
ここでは、上記のような構成を有する半導体装置の、半導体パッケージへの適用例を、第6の実施の形態として説明する。
【0114】
図26は第6の実施の形態に係る半導体パッケージの一例について説明する図である。図26には、半導体パッケージの一例の要部平面図を模式的に示している。
図26に示す半導体パッケージ200は、ディスクリートパッケージの一例である。半導体パッケージ200は、例えば、上記第1の実施の形態で述べた半導体装置10A、半導体装置10Aが搭載されたリードフレーム210、及びそれらを封止する樹脂220を含む。
【0115】
半導体装置10Aは、リードフレーム210のダイパッド210a上にダイアタッチ材等(図示せず)を用いて搭載される。半導体装置10Aには、上記ゲート電極15に接続されたパッド15a、ソース電極16に接続されたパッド16a、及びドレイン電極17に接続されたパッド17aが設けられる。パッド15a、パッド16a及びパッド17aはそれぞれ、Al等のワイヤ230を用いてリードフレーム210のゲートリード211、ソースリード212及びドレインリード213に接続される。ゲートリード211、ソースリード212及びドレインリード213の各一部が露出するように、リードフレーム210とそれに搭載された半導体装置10A及びそれらを接続するワイヤ230が、樹脂220で封止される。
【0116】
例えば、上記第1の実施の形態で述べた半導体装置10Aが用いられ、このような構成を有する半導体パッケージ200が得られる。ここでは、半導体装置10Aを例にしたが、HEMTとして機能する他の半導体装置10B,10C,10D等を用いて、同様に高性能の半導体パッケージを得ることが可能である。
【0117】
上記のように、半導体装置10A,10B,10C,10D等では、凹凸形状が調整された凹凸層20上にチャネル層12が設けられ、その表面の平坦性が高められる。これにより、電子の閉じ込め効果を強くした量子閉じ込め構造30が実現される。このような量子閉じ込め構造30を備え、高キャリア移動度で且つ低リーク電流のHEMTとして機能する、優れた特性を持った半導体装置10A,10B,10C,10D等が用いられ、高性能の半導体パッケージ200が実現される。
【0118】
また、SBDとして機能する半導体装置10E等を用いてディスクリートパッケージを得ることもできる。上記のように、半導体装置10E等では、凹凸形状が調整された凹凸層20上にチャネル層12が設けられ、その表面の平坦性が高められる。これにより、電子の閉じ込め効果を強くした量子閉じ込め構造30が実現される。このような量子閉じ込め構造30を備え、高キャリア移動度で且つ低リーク電流のSBDとして機能する、優れた特性を持った半導体装置10E等が用いられ、高性能の半導体パッケージ200が実現される。
【0119】
[第7の実施の形態]
ここでは、上記のような構成を有する半導体装置の、力率改善回路への適用例を、第7の実施の形態として説明する。
【0120】
図27は第7の実施の形態に係る力率改善回路の一例について説明する図である。図27には、力率改善回路の一例の等価回路図を示している。
図27に示す力率改善(Power Factor Correction;PFC)回路300は、スイッチ素子310、ダイオード320、チョークコイル330、コンデンサ340、コンデンサ350、ダイオードブリッジ360及び交流電源370(AC)を含む。
【0121】
PFC回路300において、スイッチ素子310のドレイン電極と、ダイオード320のアノード端子及びチョークコイル330の一端子とが接続される。スイッチ素子310のソース電極と、コンデンサ340の一端子及びコンデンサ350の一端子とが接続される。コンデンサ340の他端子とチョークコイル330の他端子とが接続される。コンデンサ350の他端子とダイオード320のカソード端子とが接続される。また、スイッチ素子310のゲート電極には、ゲートドライバが接続される。コンデンサ340の両端子間には、ダイオードブリッジ360を介して交流電源370が接続され、コンデンサ350の両端子間から直流電源(DC)が取り出される。
【0122】
例えば、このような構成を有するPFC回路300のスイッチ素子310に、HEMTとして機能する上記半導体装置10A,10B,10C,10D等が用いられる。
上記のように、半導体装置10A,10B,10C,10D等では、凹凸形状が調整された凹凸層20上にチャネル層12が設けられ、その表面の平坦性が高められる。これにより、電子の閉じ込め効果を強くした量子閉じ込め構造30が実現される。このような量子閉じ込め構造30を備え、高キャリア移動度で且つ低リーク電流のHEMTとして機能する、優れた特性を持った半導体装置10A,10B,10C,10D等が用いられ、高性能のPFC回路300が実現される。
【0123】
また、PFC回路300のダイオード320やダイオードブリッジ360には、SBDとして機能する上記半導体装置10E等が用いられてもよい。上記のように、半導体装置10E等では、凹凸形状が調整された凹凸層20上にチャネル層12が設けられ、その表面の平坦性が高められる。これにより、電子の閉じ込め効果を強くした量子閉じ込め構造30が実現される。このような量子閉じ込め構造30を備え、高キャリア移動度で且つ低リーク電流のSBDとして機能する、優れた特性を持った半導体装置10E等が用いられ、高性能のPFC回路300が実現される。
【0124】
[第8の実施の形態]
ここでは、上記のような構成を有する半導体装置の、電源装置への適用例を、第8の実施の形態として説明する。
【0125】
図28は第8の実施の形態に係る電源装置の一例について説明する図である。図28には、電源装置の一例の等価回路図を示している。
図28に示す電源装置400は、高圧の一次側回路410及び低圧の二次側回路420、並びに一次側回路410と二次側回路420との間に設けられるトランス430を含む。
【0126】
一次側回路410には、上記第7の実施の形態で述べたようなPFC回路300、及びPFC回路300のコンデンサ350の両端子間に接続されたインバータ回路、例えば、フルブリッジインバータ回路440が含まれる。フルブリッジインバータ回路440には、複数(ここでは一例として4つ)のスイッチ素子441、スイッチ素子442、スイッチ素子443及びスイッチ素子444が含まれる。
【0127】
二次側回路420には、複数(ここでは一例として3つ)のスイッチ素子421、スイッチ素子422及びスイッチ素子423が含まれる。
例えば、このような構成を有する電源装置400の、一次側回路410に含まれるPFC回路300のスイッチ素子310、及びフルブリッジインバータ回路440のスイッチ素子441~444に、HEMTとして機能する上記半導体装置10A,10B,10C,10D等が用いられる。例えば、電源装置400の、二次側回路420のスイッチ素子421~423には、シリコンを用いた通常のMIS(Metal Insulator Semiconductor)型電界効果トランジスタが用いられる。
【0128】
上記のように、半導体装置10A,10B,10C,10D等では、凹凸形状が調整された凹凸層20上にチャネル層12が設けられ、その表面の平坦性が高められる。これにより、電子の閉じ込め効果を強くした量子閉じ込め構造30が実現される。このような量子閉じ込め構造30を備え、高キャリア移動度で且つ低リーク電流のHEMTとして機能する、優れた特性を持った半導体装置10A,10B,10C,10D等が用いられ、高性能の電源装置400が実現される。
【0129】
また、一次側回路410に含まれるPFC回路300のダイオード320やダイオードブリッジ360には、上記第7の実施の形態で述べたように、SBDとして機能する上記半導体装置10E等が用いられてもよい。優れた特性を有する半導体装置10E等が用いられ、高性能のPFC回路300が実現され、そのようなPFC回路300が用いられ、高性能の電源装置400が実現される。
【0130】
[第9の実施の形態]
ここでは、上記のような構成を有する半導体装置の、増幅器への適用例を、第9の実施の形態として説明する。
【0131】
図29は第9の実施の形態に係る増幅器の一例について説明する図である。図29には、増幅器の一例の等価回路図を示している。
図29に示す増幅器500は、ディジタルプレディストーション回路510、ミキサー520、ミキサー530、及びパワーアンプ540を含む。
【0132】
ディジタルプレディストーション回路510は、入力信号の非線形歪みを補償する。ミキサー520は、非線形歪みが補償された入力信号SIと交流信号とをミキシングする。パワーアンプ540は、入力信号SIが交流信号とミキシングされた信号を増幅する。増幅器500では、例えば、スイッチの切り替えにより、出力信号SOをミキサー530で交流信号とミキシングしてディジタルプレディストーション回路510に送出することができる。増幅器500は、高周波増幅器、高出力増幅器として使用することができる。
【0133】
このような構成を有する増幅器500のパワーアンプ540に、HEMTとして機能する上記半導体装置10A,10B,10C,10D等が用いられる。
上記のように、半導体装置10A,10B,10C,10D等では、凹凸形状が調整された凹凸層20上にチャネル層12が設けられ、その表面の平坦性が高められる。これにより、電子の閉じ込め効果を強くした量子閉じ込め構造30が実現される。このような量子閉じ込め構造30を備え、高キャリア移動度で且つ低リーク電流のHEMTとして機能する、優れた特性を持った半導体装置10A,10B,10C,10D等が用いられ、高性能の増幅器500が実現される。
【0134】
また、増幅器500にダイオードが用いられる場合、そのダイオードには、半導体装置10E等のSBDが用いられてもよい。上記のように、半導体装置10E等では、凹凸形状が調整された凹凸層20上にチャネル層12が設けられ、その表面の平坦性が高められる。これにより、電子の閉じ込め効果を強くした量子閉じ込め構造30が実現される。このような量子閉じ込め構造30を備え、高キャリア移動度で且つ低リーク電流のSBDとして機能する、優れた特性を持った半導体装置10E等が用いられ、高性能の増幅器500が実現される。
【0135】
上記半導体装置10A,10B,10C,10D,10E等を適用した各種電子装置(上記第6~第9の実施の形態で述べた半導体パッケージ200、PFC回路300、電源装置400及び増幅器500等)は、各種電子機器に搭載することができる。例えば、コンピュータ(パーソナルコンピュータ、スーパーコンピュータ、サーバ等)、スマートフォン、携帯電話、タブレット端末、センサ、カメラ、オーディオ機器、測定装置、検査装置、製造装置といった、各種電子機器に搭載することが可能である。
【符号の説明】
【0136】
10A,10B,10C,10D,10E,100 半導体装置
11,101 基板
12,102 チャネル層
13,103 バリア層
14,104 2DEG
15,105 ゲート電極
15a,16a,17a パッド
16,106 ソース電極
17,107 ドレイン電極
18 カソード電極
19 アノード電極
20 凹凸層
20a 表面
21 テラス部
22 凹部
23 凸部
30 量子閉じ込め構造
40 パッシベーション膜
41 開口部
50 キャップ層
60 表面保護膜
70 n型コンタクト層
71 溝
200 半導体パッケージ
210 リードフレーム
210a ダイパッド
211 ゲートリード
212 ソースリード
213 ドレインリード
220 樹脂
230 ワイヤ
300 PFC回路
310,421,422,423,441,442,443,444 スイッチ素子
320 ダイオード
330 チョークコイル
340,350 コンデンサ
360 ダイオードブリッジ
370 交流電源
400 電源装置
410 一次側回路
420 二次側回路
430 トランス
440 フルブリッジインバータ回路
500 増幅器
510 ディジタルプレディストーション回路
520,530 ミキサー
540 パワーアンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29