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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-21
(45)【発行日】2023-03-02
(54)【発明の名称】上半身衣類
(51)【国際特許分類】
   A41C 3/08 20060101AFI20230222BHJP
   A41B 9/06 20060101ALI20230222BHJP
【FI】
A41C3/08
A41B9/06 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019086280
(22)【出願日】2019-04-26
(65)【公開番号】P2020180412
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2021-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】306033379
【氏名又は名称】株式会社ワコール
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100176245
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】絹笠 紗希
(72)【発明者】
【氏名】丸谷 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】中山 奈保
【審査官】津田 健嗣
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3186389(JP,U)
【文献】特開2016-053222(JP,A)
【文献】特開2017-186717(JP,A)
【文献】実開昭49-052735(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2018/0325193(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41C 1/00-5/00
A41B 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも着用者のバストを覆う前面部を有する本体部と、
前記前面部の裏面側に配置されて前記バストを覆い、伸縮性生地からなる胸当て部と、
前記胸当て部の内部または前記胸当て部と前記本体部との間に配置されて、前記着用者の左右の乳頭部を覆うパッドと、を備え、
前記パッドは、上下方向の長さがもっとも長いバスト中央部と、前記バスト中央部の幅方向の外側に位置する両側部とを有し、
前記パッドの前中心部には、前記胸当て部または前記本体部に結合された第1結合部が形成されており、
前記バスト中央部の上端部または下端部、あるいは、前記前中心部と前記上端部または前記下端部との間には、前記胸当て部または前記本体部に結合されて所定の長さを有する第2結合部が形成されており、
前記第2結合部の長さは前記第1結合部の長さよりも短く、
前記パッドの幅方向の前記両側部が前記胸当て部の幅方向の両側部に結合されておらず、前記胸当て部の前記両側部が伸縮自在になっている、上半身衣類。
【請求項2】
前記第2結合部は、前記バスト中央部の前記上端部および前記下端部に、あるいは、前記前中心部と前記上端部および前記下端部との間に形成されている、請求項1に記載の上半身衣類。
【請求項3】
前記パッドが設けられた領域は前記胸当て部が設けられた領域よりも小さい、請求項1または2に記載の上半身衣類。
【請求項4】
前記パッドは、左右の前記乳頭部を覆う一対のパッド本体部と、前記一対のパッド本体部を連結すると共に前記前中心部を含む連結部とが一体化された構造を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の上半身衣類。
【請求項5】
前記胸当て部は、前記パッドを内部に収容可能な袋状をなし、前記胸当て部のうち前記前面部に近い方の生地に前記パッドが結合されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の上半身衣類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上半身衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されたインナーウェアは、身頃部の前面部と内布との間に配置されて左右の乳頭部を覆うパットを備えている。パットは、幅方向に長く延びる帯状のシート材からなる。パットは、両乳頭部に当たる位置において上下方向の長さが大きくなっており、幅方向の中央部において、上下方向の長さが小さくなっている。パットは、身頃部の前面部および内布と、両脇下部において接合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-53222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
成長時における女性の体形変化は、たとえば、図6に示されるように、複数の段階(ステップ)で表すことができる。図6には、乳頭部が膨らんでいない段階(ステップS0で表される)と、乳頭部が膨らみ始めると共にバストが立体的に膨らむ3つの段階と、バストが丸い形状になって成長が落ち着く段階(ステップS4で表される)とが示されている。この中で、中央に示される3つの段階は、ジュニアステップ1,2,3等とも呼ばれ、約4年の期間を経て順に推移する。この約4年の期間は、初経を迎える時期を含み得る。ジュニアステップ1(S1)は、たとえば初経の1年以上前である。ジュニアステップ1(S1)では、乳頭部が膨らみ始める。続くジュニアステップ2(S2)では、その膨らみが横方向に広がる。一般的に、ジュニアステップ1(S1)とジュニアステップ2(S2)との間頃に初経の時期が存在すると言われる。更に続くジュニアステップ3(S3)では、バストが立体的に丸く膨らむ。
【0005】
キャミソールやタンクトップ等の従来の上半身衣類では、これらのジュニアステップ1(S1)およびジュニアステップ2(S2)において、異なる設計が採用されていた。すなわち、ジュニアステップ1(S1)およびジュニアステップ2(S2)では、バストの形状が異なる。ジュニアステップ1(S1)では、乳頭部付近のみの膨らみを保護するため、バスト部分に厚みを持たせた平面的な胸当てが設けられる。ジュニアステップ2(S2)では、乳頭部とその周辺の膨らみ(横方向の膨らみ等)を保護するため、バスト部分をやや立体的な形状とした胸当てが設けられる。このように、各ステップにおけるバストに合わせた設計がなされる。その結果、ジュニアステップ1(S1)のバストを持った着用者には、ジュニアステップ2(S2)用の上半身衣類はフィットしない傾向にある。これとは反対に、ジュニアステップ2(S2)のバストを持った着用者には、ジュニアステップ1(S1)用の上半身衣類はフィットしない傾向にある。
【0006】
一方で、ジュニアステップ1(S1)からジュニアステップ2(S2)へと移行する期間は短い。これらの両方の段階(ステップS12として仮想線で表される)およびその間の移行期におけるバスト形状に対応できる上半身衣類が望まれている。そこで本発明は、乳頭部およびバストが膨らみ始める最初の2つの段階の両方にわたって着用者のバストにフィットさせることのできる上半身衣類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る上半身衣類は、少なくとも着用者のバストを覆う前面部を有する本体部と、前面部の裏面側に配置されてバストを覆い、伸縮性生地からなる胸当て部と、胸当て部の内部または胸当て部と本体部との間に配置されて、着用者の左右の乳頭部を覆うパッドと、を備え、パッドは、上下方向の長さがもっとも長いバスト中央部と、バスト中央部の幅方向の外側に位置する両側部とを有し、パッドの前中心部には、胸当て部または本体部に結合された第1結合部が形成されており、バスト中央部の上端部または下端部、あるいは、前中心部と上端部または下端部との間には、胸当て部または本体部に結合されて所定の長さを有する第2結合部が形成されており、第2結合部の長さは第1結合部の長さよりも短く、パッドの幅方向の両側部が胸当て部の幅方向の両側部に結合されておらず、胸当て部の両側部が伸縮自在になっている。
【0008】
この上半身衣類は、着用者の左右の乳頭部を覆うパッドを備えるので、乳頭部が膨らみ始める第1段階にある着用者に適している。乳頭部を保護するパッドによれば、乳頭部の擦れを低減でき、また、衣類の表への乳頭部の透けが防がれる。パッドの前中心部が胸当て部または本体部に結合されているが、パッドの幅方向の両側部は、胸当て部の幅方向の両側部に結合されていない。そして、着用者がこの上半身衣類を着用すると、それに応じて、胸当て部の両側部が伸縮自在になっている。よって、乳頭部の周辺(すなわちバスト)が膨らみ始めた第2段階にある着用者に対しても、胸当て部の伸縮性が損なわれることなく、胸当て部がバストにフィットする。すなわち、成長においてもっとも大きい変化である、バストの横方向の変化に合わせて、胸当て部が伸長する。それと同時に、パッドは、乳頭部を覆い続ける。乳頭部およびバストが膨らみ始める最初の2つの段階は短い期間であるが、この上半身衣類は、これらの段階の両方にわたって着用者のバストにフィットさせることができる。言い換えれば、成長に伴って、適切な伸縮性を発揮することができる。また前中心部のみならず、バスト中央部の上端部または下端部付近にも、結合部が形成される。したがって、着用時その他における構造安定性に優れる。たとえば、洗濯時におけるパッドの位置の乱れ等が抑制される。
【0009】
パッドが設けられた領域は胸当て部が設けられた領域よりも小さくてもよい。胸当て部は、成長期に膨らみつつあるバストを覆ってバストにフィットするため、バストに対応する十分な大きさを有することが好ましい。一方で、乳頭部を覆うためのパッドが設けられる領域が小さいことで、特に胸当て部の周縁部のフィット性を阻害しない。
【0010】
第2結合部は、バスト中央部の上端部および下端部に、あるいは、前中心部と上端部および下端部との間に形成されていてもよい。
【0011】
パッドは、左右の乳頭部を覆う一対のパッド本体部と、一対のパッド本体部を連結すると共に前中心部を含む連結部とが一体化された構造を有してもよい。この場合、左右のパッド本体部が連結部を介して一体化されているので、左右のパッド本体部の位置ずれ等が生じにくい。左右のパッド本体部が、左右の乳頭部をそれぞれ確実に覆う。
【0012】
胸当て部は、パッドを内部に収容可能な袋状をなし、胸当て部のうち前面部に近い方の生地にパッドが結合されていてもよい。この場合、胸当て部のうち着用者に近い方の生地(肌側生地)がパッドに結合されておらず遊離している(浮いている)ので、結合部が肌に接触することもなく、着心地に優れる。また、胸当て部にパッドが結合されていると、結合部が本体部の表面に表れることがないので、外観(美観性)に優れる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、乳頭部およびバストが膨らみ始める最初の2つの段階の両方にわたって着用者のバストにフィットさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本開示の第1実施形態に係る上半身衣類を示す正面図である。
図2図1に示した上半身衣類を裏返して示す正面図である。
図3図1のIII-III線に沿った断面図である。
図4】前面部と胸当て部の間から胸当て部の正面を見て示す図である。
図5】第2段階の着用者が上半身衣類を着用した場合における、胸当て部の伸長状態を示す図である。
図6】成長期におけるバストの変化(複数の段階)を説明するための図である。
図7】第1変形例に係る上半身衣類を示す断面図である。
図8】第2変形例に係る上半身衣類を示す図であり、前面部と胸当て部の間から胸当て部の正面を見て示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
図1図4を参照して、第1実施形態に係る上半身衣類1について説明する。上半身衣類1は、成長期の女性の体形変化に適合するように構成された衣類である。上半身衣類1は、たとえばキャミソールである。
【0017】
図1に示されるように、上半身衣類1は、たとえば伸縮性の生地からなる本体部2を備える。全体として筒状に形成される本体部2は、着用者によって着用されることで、上半身の周方向に伸長し得る。周方向とは、着用者の胴囲に沿う方向であり、上半身衣類1を正面から見た場合(図1参照)における左右方向である。この左右方向は、本体部2の幅方向である。本明細書において、上半身衣類を構成する各部材について「幅方向」および「左右方向」との用語は、上述したのと同じ意味で用いられる。本体部2は、着用者によって着用されることで、上下方向(すなわち着用者の身長方向)に伸長してもよい。本体部2は、たとえば、編物からなる。本体部2は、たとえばフライス編地等であってよく、天竺編地もしくはスムース編地などの緯編地、又は、ラッセル編地もしくはトリコット編地などの経編地等であってよい。本体部2は、綿とポリエステル等の化学繊維とから形成されてもよいし、綿のみから形成されてもよいし、化学繊維のみから形成されてもよい。本体部2の左右方向の伸縮性は、本体部2の上下方向の伸縮性より大きくてもよい。なお、着用者の体格に比して本体部2のサイズにゆとりがあることで、本体部2が、着用者によって着用された場合にほとんど伸長しなくてもよい。
【0018】
本体部2は、着用者の胸部および腹部を覆う前面部3と、着用者の背部および腰部を覆う背面部4とを有する。前面部3の左右の上隅部3bと、背面部4の左右の上隅部4bとが、左右一対のストラップ6,6によって連結されている。これらのストラップ6は、たとえば長さ調整機能を備える。前面部3および背面部4は、それぞれ別体の布が左右の両側端で互いに縫着(結合)されていてもよい。前面部3および背面部4が縫着以外の手段(たとえば接着等)により結合されていてもよい。前面部3および背面部4が、筒状に編まれた一体の生地であってもよい。本体部2の構造は、従来の上半身衣類に適用されたあらゆる公知の構造と同じであってよい。上半身衣類1を平置きした場合に、背面部4の上縁4aは前面部3の上縁3aよりも上下方向において上方に位置してもよいが、この位置関係に限られない。
【0019】
本体部2の前面部3は、少なくとも着用者WのバストB(図6参照)を覆う。前面部3は、着用者の胸部を覆う上部3Aと、着用者の腹部を覆う下部3Bとを有する。前面部3の上部3Aは、上縁3aと、上隅部3bを介して上縁3aの左右の両端に接続された左右の上側縁3c,3cと、左右の上側縁3c,3cの下端に接続された左右の下側縁3d,3dとを含む。これらの上縁3aと、ストラップ6,6に連続してアームホール(又は脇刳り部)を形成する上側縁3c,3cと、着用者の脇部を覆う下側縁3d,3dとに囲まれた領域3Rが、着用者WのバストBを覆う。前面部3の下部3Bの下縁3eは、背面部4の下縁とともに筒状をなしており、着用者Wの上半身の挿入を許容すべく開放されている。
【0020】
図2および図3を参照して、前面部3の裏面側に設けられる構成について説明する。図2は、上半身衣類1を裏返して示す正面図である。図3は、図1のIII-III線に沿った断面図である。図2および図3に示されるように、上半身衣類1は、前面部3の上部3Aの裏面側に配置されて、着用者WのバストBを覆う胸当て部20を備える。図3に示されるように、胸当て部20は、外面生地21と内面生地22とを含み、これらの外面生地21および内面生地22によって袋状をなしている。外面生地21は、胸当て部20のうち前面部3に近い方の生地であり、いわば外側生地である。内面生地22は、胸当て部20のうち着用者Wに近い方の生地であり、いわば肌側生地である。内面生地22は、上半身衣類1が着用者Wによって着用されたとき、着用者WのバストBおよび乳頭部Aに直接接触する。外面生地21と内面生地22とは、間隙をもって対面している。
【0021】
外面生地21および内面生地22は、たとえば上述した上部3Aの領域3Rに対応する形状および大きさを有している。外面生地21および内面生地22が重ね合わされた状態で、下縁20eの部分を除く各辺部が、前面部3に縫着(結合)されている。すなわち、胸当て部20は、上述した領域3R(すなわち上部3A)に対応する形状および大きさを有している。胸当て部20は、上縁20aと、上縁20aの左右の両端に接続された左右の上側縁20c,20cと、左右の上側縁20c,20cの下端に接続された左右の下側縁20d,20dとを含む。胸当て部20の上縁20a、左右の上側縁20c,20c、および左右の下側縁20d,20dが、前面部3の上縁3a、左右の上側縁3c,3c、および左右の下側縁3d,3dにそれぞれ縫着されている。外面生地21および内面生地22は、たとえば連続する1枚の布からなり、下縁20eの位置で折り返されている。この場合には、外面生地21および内面生地22は、下縁20eの位置で縫着されない。なお、外面生地21および内面生地22が別体の布であり、下縁20eの位置で互いに縫着(結合)されていてもよい。外面生地21と内面生地22とは、周縁部の全体にわたって結合されている。外面生地21と内面生地22との間には、周縁部以外に結合部はなく、それらの生地が離隔可能である。外面生地21と内面生地22との間には、内部空間が形成されている。この内部空間に、後述するパッド10が配置される。すなわち、胸当て部20は、パッド10を内部に収容可能である。
【0022】
胸当て部20は、伸縮性生地からなる。外面生地21および内面生地22は、伸縮性生地からなる。外面生地21および内面生地22は、たとえばフライス編地等であってよく、天竺編地もしくはスムース編地などの緯編地、又は、ラッセル編地もしくはトリコット編地などの経編地等であってよい。外面生地21および内面生地22は、綿とポリウレタン等の化学繊維とから形成されてもよいし、綿のみから形成されてもよいし、化学繊維のみから形成されてもよい。外面生地21および内面生地22において、生地の左右方向の伸縮性は、生地の上下方向の伸縮性と同じであってもよい。生地の左右方向の伸縮性が、生地の上下方向の伸縮性より大きくてもよい。胸当て部20は、着用者WのバストBの成長に合わせて伸縮することができる。胸当て部20の左右方向の伸縮性は、成長期にある着用者WのバストBの成長に胸当て部20を追随させ、胸当て部20をバストBにフィットさせる。上述したように、たとえば図6に示されるジュニアステップ2(S2)では、バストBの膨らみが横方向に広がる。胸当て部20は、左右方向における伸縮性を備えることにより、ジュニアステップ2(S2)におけるバストBにフィットする。またジュニアステップ2(S2)では、バストBの膨らみが縦方向にも広がる。胸当て部20は、上下方向における伸縮性を備えることにより、ジュニアステップ2(S2)におけるバストBにフィットする。
【0023】
図4は、前面部3と胸当て部20の間から胸当て部20の正面を見て示す図である。図4に示されるように、外面生地21は、主に着用者WのバストBを覆う左右のバストカバー部25,25と、バストカバー部25,25の間に位置する前中心部24と、バストカバー部25,25の幅方向の外側に位置する左右の側部26,26(両側部)とを含む。図2に示されるように、内面生地22は、主に着用者WのバストBを覆う左右のバストカバー部28と、バストカバー部28,28の間に位置する前中心部27と、バストカバー部28,28の幅方向の外側に位置する左右の側部29,29(両側部)とを含む。バストカバー部28,28は、着用者Wの左右のバストB,Bを直接覆う。バストカバー部25,25は、バストカバー部28,28を介して、着用者Wの左右のバストB,Bを覆う。
【0024】
図2図4に示されるように、胸当て部20の下縁20eには、左右方向(幅方向)に延在する伸縮性テープ23aが内蔵されている。この伸縮性テープ23aが外面生地21の下縁部に縫着されることで、下縁20eにギャザー部23が形成されている。ギャザー部23は、左右の下側縁20d,20dに達しており、これらの下側縁20d,20dに縫着(結合)されている。胸当て部20が下縁20eにギャザー部23を有することにより、下縁20eにおけるフィット感が高められている。
【0025】
図1図3に示されるように、上半身衣類1は、胸当て部20の内部に配置されて、着用者Wの左右の乳頭部A(図6参照)を覆うパッド10を備える。パッド10は、たとえば、所定の厚みを有する不織布であって、表裏を別生地でラミネートされた構造を有する。ここでいう厚みとは、上下方向および左右方向(幅方向)のいずれにも直交する方向(着用者Wを基準とする前後方向)の長さである。不織布は、たとえば、ポリエステル等の化学繊維からなる。パッド10は、内部に不織布を有し、この不織布の表裏を覆う生地として、トリコット編地を有する。パッド10の素材および構造はこれに限られず、不織布に代えて、ダブルラッセル編地やポリウレタンシートなどが用いられてもよい。乳頭部Aを保護するために適した公知の素材および構造がパッド10に採用されてもよい。たとえば、パッド10は、全体として、伸縮性をほとんど有しないか又は伸縮性をまったく有しない。
【0026】
パッド10は、左右の乳頭部Aに対応する位置に配置されて、胸当て部20に結合されている(図5参照)。パッド10は、部分的に、胸当て部20に結合されている。パッド10は、ジュニアステップ1(S1)の体形にフィットできるように、平面的な構造を有している。すなわち、パッド10は、自然状態では立体的な形状をなしていない。一方で、パッド10は、柔軟性を有しており、着用者WのバストBの膨らみに応じて立体的な形状に変形し得る。
【0027】
図1図2および図4に示されるように、パッド10は、左右の乳頭部Aを覆う左右一対のパッド本体部11,11と、これらのパッド本体部11,11の間に配置されてパッド本体部11,11を連結する連結部12とが一体化された構造を有する。連結部12は、着用者Wの胸部の前中心に対応する前中心部14を含む。各パッド本体部11は、前中心部14の幅方向の外側に位置するバスト中央部15と、バスト中央部15の幅方向の外側に位置する側部16とを含む。バスト中央部15の上下方向の長さは、パッド10の上下方向の長さの中でもっとも大きくなっている。バスト中央部15は着用者Wの乳頭部Aを覆う。バスト中央部15の上下方向の長さに比して、前中心部14の上下方向の長さは小さい。すなわち、パッド10は、前中心部14においてくびれた形状を有する。パッド10は、このような形状を有することにより、バストBの横方向の広がりにも容易に追随する。
【0028】
パッド10は、前面部3の上部3Aよりも小さい。パッド10は、胸当て部20よりも小さい。パッド10は、前面部3の上部3Aの周縁部(上縁3a、上側縁3cおよび下側縁3d)、および、胸当て部20の周縁部(上縁20a、上側縁20c、上側縁20cおよび下側縁20d)から離間しており、これらの周縁部よりも(正面から見て)内側に配置されている。パッド10が設けられた領域は、胸当て部20が設けられた領域よりも小さい。このように、パッド10は、着用者Wの左右の乳頭部Aを覆って乳頭部Aを保護すること意図して、少なくとも左右の乳頭部Aを覆うことができる領域に配置されている。一方で、成長期のバストBにフィットさせるために設けられた伸縮性を有する胸当て部20とは異なり、パッド10は、バストB全体を覆うことを意図しておらず、胸当て部20よりも小さい最小限の領域に設けられている。パッド10は、左右方向の伸縮性を若干有してもよいが、左右方向の伸縮性を有していなくてもよい。バスト中央部15の上下方向の長さが、たとえば、胸当て部20の上下方向の長さの半分以下であってもよい。
【0029】
図1図4に示されるように、パッド10の前中心部14が、胸当て部20に結合されている。パッド10の前中心部14は、外面生地21の前中心部24に対して縫着されている。これにより、前中心部14には前中心結合部30(第1結合部)が形成されている。前中心結合部30は、前中心部14の上下方向の全域に対し、一直線状に形成されている。すなわち、前中心結合部30は、前中心部14を上下に横断している。なお、前中心結合部30は、前中心部14の上下方向の一部にのみ形成されてもよい。
【0030】
一方で、パッド10の幅方向の両側部16,16は、胸当て部20の幅方向の両側部26,26に対して縫着されていない(結合されていない)。これにより、胸当て部20の両側部26,26は、着用者Wによる上半身衣類1の着用に応じて、パッド10に引っ張られることなく伸縮自在になっている。
【0031】
上半身衣類1では、パッド10のバスト中央部15の上端部15aおよび下端部15bが、胸当て部20に結合されている。これらの上端部15aおよび下端部15bは、外面生地21のバストカバー部25の上端部および下端部に対して縫着されている。これにより、上端部15aには上端結合部31a(第2結合部)が形成され、下端部15bには下端結合部31b(第2結合部)が形成されている。これらの上端結合部31aおよび下端結合部31bは、左右方向に延びるように一直線状に形成され、所定の長さを有している。上端結合部31aおよび下端結合部31bは、バスト中央部15の上下方向の長さが小さくなり始める辺りで終端する。上端結合部31aは、バスト中央部15の上縁が下降し始める辺りで終端する。下端結合部31bは、バスト中央部15の下縁が上昇し始める辺りで終端する。言い換えれば、上端結合部31aおよび下端結合部31bは、乳頭部Aを覆う位置よりも左右方向の外側に突出しないか、又は突出したとしても僅かな長さしか突出しない。
【0032】
このように、パッド10は、前中心部14と、バスト中央部15の上端部15aまたは下端部15bとの間の少なくとも一部において、胸当て部20の外面生地21に結合されていてもよい。結合部の長さは、パッド10の構造(位置)安定性を保つために最小限とされており、たとえば、前中心結合部30の上下方向の長さより短い。
【0033】
パッド10は、前中心部14(連結部12)において一箇所のみ、各バスト中央部15(パッド本体部11)において上下に二箇所のみ、胸当て部20の外面生地21に結合されている。図3に示されるように、前中心結合部30と上端結合部31aとの間、および、前中心結合部30と下端結合部31bとの間では、パッド10は外面生地21に結合されておらず、外面生地21から遊離している。そしてパッド本体部11の側部16においては、パッド10はどこにも結合されておらず遊離している。そのため、パッド10は、伸縮性の胸当て部20の横方向の伸縮を阻害しにくくなっている。なお、パッド10の裏面側は、胸当て部20の内面生地22には結合されていないため、全域において遊離している。言い換えれば、内面生地22は、どこにもパッド10に結合されておらず、パッド10に拘束されることなく伸縮自在になっている。
【0034】
上半身衣類1の製造方法について説明すると、まず、前面部3となる生地、背面部4となる生地、および胸当て部20となる生地(外面生地21および内面生地22)を用意する。パッド10は、上述した所定の形状を有する平面状の部材である。外面生地21に対してパッド10を縫着する。この際、外面生地21の前中心部24に前中心部14を合わせると共に、パッド10の上下方向の位置を適切な位置(乳頭部Aに対応する位置)に合わせる。その上で、パッド10の前中心部14と、左右の上端部15aおよび下端部15bとを外面生地21に縫着する。その後、外面生地21の下縁20eにギャザー部23を形成して、外面生地21に対して内面生地22を折りたたみ、胸当て部20の形状を作る。そして、胸当て部20の上縁20a、上側縁20cおよび下側縁20dと、前面部3の上縁3a、上側縁3cおよび下側縁3dとを位置合わせして縫着する。さらに、胸当て部20が縫着された前面部3に対して、背面部4および一対のストラップ6,6を縫着する。
【0035】
本実施形態の上半身衣類1は、着用者Wの左右の乳頭部Aを覆うパッド10を備えるので、乳頭部Aが膨らみ始めるジュニアステップ1(S1)(図6参照)にある着用者Wに適している。乳頭部Aを保護するパッド10によれば、乳頭部Aの擦れを低減でき、また、上半身衣類1の表への乳頭部Aの透けが防がれる。パッド10の前中心部14が胸当て部20に結合されているが、パッド10の幅方向の両側部16,16は、胸当て部20の幅方向の両側部26,26に結合されていない。着用者Wがこの上半身衣類1を着用すると、それに応じて、胸当て部20の両側部26,26が伸縮自在になっている。よって、乳頭部Aの周辺(すなわちバストB)が膨らみ始めたジュニアステップ2(S2)にある着用者Wに対しても、胸当て部20の両側部26,26は、パッド10に引っ張られず、突っ張らない。これにより、胸当て部20の両側部26,26の伸縮性が損なわれることがなく、胸当て部20全体でも伸縮性が損なわれにくくなっている。その結果、胸当て部20がバストBにフィットする。すなわち、成長においてもっとも大きい変化である、バストBの横方向の変化に合わせて、胸当て部20が伸長する。それと同時に、パッド10は、乳頭部Aを覆い続ける。乳頭部AおよびバストBが膨らみ始める最初の2つの段階(図6に仮想線で示されるステップS12)は短い期間であるが、この上半身衣類1は、これらの段階の両方にわたって着用者WのバストBにフィットさせることができる。言い換えれば、成長に伴って、適切な伸縮性を発揮することができる。
【0036】
本実施形態の上半身衣類の更なる効果としては、このような成長期の子(子は思春期であることが多い)を持つ親にとって、パッド付きキャミソール等の上半身衣類を購入するタイミングを計ることは難しい。上半身衣類1を早めに子に着用させることで、ジュニアステップ1(S1)の到来を逃すことがなく、成長に適した衣類の選択が可能である。また成長期の着用者本人にとっても、ジュニアステップ1(S1)は、初経よりも早く到来することがあるので、その到来に気づきにくく、パッド付きキャミソール等の上半身衣類を購入すべきタイミングを逃しやすい。上半身衣類1を早めに着用することで、ジュニアステップ1(S1)の到来を逃すことがなく、成長に適した衣類の選択が可能である。さらには、この上半身衣類をジュニアステップ1(S1)およびジュニアステップ2(S2)の両方にわたって着用できることは、短い期間内に上半身衣類を買い替える必要もなく、着用者にとって、経済的にも有利である。
【0037】
パッド10が設けられた領域は胸当て部20が設けられた領域よりも小さい。胸当て部20は、成長期に膨らみつつあるバストBを覆ってバストBにフィットするため、バストBに対応する十分な大きさを有することが好ましい。一方で、乳頭部Aを覆うためのパッド10が設けられる領域が小さいことで、特に胸当て部20の周縁部のフィット性を阻害しない。パッドは、多くの場合、胸当て部より剛性が高い。たとえば、剛性の高いパッドを胸当て部と同程度の大きさにした場合には、バストBの上下や脇側などの膨らみがない部分に対して浮きが生じ、胸当て部がバストBにフィットしにくくなる。本実施形態の小さなパッド10によれば、胸当て部20がパッド10と共にバストBにフィットし得るので、胸当て部20全体のフィット性に優れている。
【0038】
パッド10は、前中心部14とバスト中央部15の上端部15aまたは下端部15bとの間の少なくとも一部において、胸当て部20に結合されている。この場合、前中心部14のみならず、バスト中央部15の上端部15aまたは下端部15b付近にも、上端結合部31aまたは下端結合部31bが形成される。したがって、着用時その他における構造安定性に優れる。たとえば、洗濯時におけるパッド10の位置の乱れ等が抑制される。一方で、上述した両側部26,26の伸縮性は損なわれることがない。
【0039】
パッド10は、一対のパッド本体部11,11と連結部12とが一体化された構造を有する。左右のパッド本体部11が連結部12を介して一体化されているので、左右のパッド本体部11の位置ずれ等が生じにくい。左右のパッド本体部11が、左右の乳頭部Aをそれぞれ確実に覆う。
【0040】
胸当て部20は、パッド10を内部に収容可能な袋状をなし、胸当て部20のうち前面部3に近い外面生地21にパッド10が結合されている。胸当て部20のうち着用者Wに近い方の生地(肌側生地である内面生地22)がパッド10に結合されておらず遊離している(浮いている)ので、前中心結合部30等が肌に接触することもなく、着心地に優れる。また、胸当て部20にパッド10が結合されていると、前中心結合部30等が前面部3(本体部2)の表面に表れることがないので、外観(美観性)に優れる。
【0041】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られない。たとえば、図7に示されるように、袋状の胸当て部20ではなく、前面部3の裏面側に取り付けられた1枚の胸当て部20Aを備える上半身衣類1Aであってもよい。この場合、胸当て部20Aと前面部3との間に、パッド10Aを収容するための内部空間が形成される。パッド10Aは、第1実施形態のパッド10と同様の構成を有する。胸当て部20Aは、上述した胸当て部20の外面生地21または内面生地22と同様の構成を有する。パッド10Aは、前面部3に対して縫着(結合)されている。パッド10Aの結合部位は、たとえば第1実施形態と同じである。この上半身衣類1Aによっても、上半身衣類1と同様の作用・効果が奏される。ただし、上半身衣類1Aでは、前中心結合部30等が縫着ラインである場合、そのラインが前面部3(本体部2)の表面に表れる。
【0042】
また図8に示されるように、左右のパッド本体部11Bが別体とされたパッド10Bを備える上半身衣類であってもよい。この場合、連結部12が設けられていない。各パッド10Bの前中心部14Bが胸当て部20に(または図7に示される1枚の胸当て部20の場合、前面部3に)縫着される。これにより、左右一対の前中心結合部30Bが形成されている。このような上半身衣類によっても、上半身衣類1と同様の作用・効果が奏される。この上半身衣類では、上記の上半身衣類1,1Aとは異なり、胸当て部20の前中心部24および前中心部27も、左右方向に伸縮する。
【0043】
また、上半身衣類は、キャミソール以外の衣類であってもよい。たとえば、上半身衣類は、前面部3および背面部4が肩部の領域まで延在しておりストラップ部を含んだタンクトップ等であってもよい。上半身衣類は、ブラジャーであってもよい。上半身衣類は、伸縮性の生地からなるハーフトップタイプのブラジャーであってもよい。その場合において、前面部3の下縁3eに、胸当て部20の下縁20eが縫着(接合)されていてもよい。上半身衣類は、長袖ニットシャツであってもよいし、半袖ニットシャツであってもよい。本発明がいずれの形態の上半身衣類に適用される場合でも、上記に開示された実施形態および変形例のそれぞれが有する種々の構造および構成が採用されてよい。
【0044】
本体部は、伸縮性を有しない又は伸縮性をほとんど有しない生地からなってもよい。本体部は、織物からなってもよい。本発明では、少なくとも胸当て部が、伸縮性を有する。本体部が伸縮性を有しない又は伸縮性をほとんど有しない生地からなる場合でも、前面部3の上部3Aのみが、左右方向および上下方向の伸縮性を備えてもよい。
【0045】
パッド10は、胸当て部20のうち着用者Wに近い方の生地(肌側生地である内面生地22)に結合されてもよい。すなわち、前中心結合部30および前中心結合部30Bが、内面生地22の前中心部27に形成されてもよい。前中心結合部30および前中心結合部30Bが、縫着による結合ではなく、接着、融着または溶着等による結合部位であってもよい。
【0046】
上端結合部31aおよび下端結合部31bのいずれか一方が省略されてもよい。前中心結合部30,30Bのみが形成され、バスト中央部15には結合部が形成されなくてもよい。
【0047】
パッド10の周縁部の少なくとも一部が、胸当て部20の周縁部の少なくとも一部に重なっていてもよい。パッド10が設けられた領域が、胸当て部20が設けられた領域と同じか又は略同じであってもよい。パッド10が、左右方向および/または上下方向において、幾らかの伸縮性を有してもよい。ただし、胸当て部20の伸縮性と比べた場合には、パッド10の伸縮性は低くなっている。
【符号の説明】
【0048】
1,1A,1B…上半身衣類、2…本体部、3…前面部、3A…上部、3B…下部、4…背面部、10,10A,10B…パッド、11,11B…パッド本体部、12…連結部、14,14B…前中心部、15…バスト中央部、15a…上端部、15b…下端部、16…側部(両側部)、20…胸当て部、21…外面生地、22…内面生地、23…ギャザー部、24…前中心部、25…バストカバー部、26…側部(胸当て部の両側部)、27…前中心部、28…バストカバー部、29…側部(胸当て部の両側部)、30,30B…前中心結合部、31a…上端結合部、31b…下端結合部、A…乳頭部、B…バスト、S1…ジュニアステップ1、S2…ジュニアステップ2、S3…ジュニアステップ3、W…着用者。
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8