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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-21
(45)【発行日】2023-03-02
(54)【発明の名称】塗料組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20230222BHJP
   C09D 5/29 20060101ALI20230222BHJP
   C09D 5/14 20060101ALI20230222BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230222BHJP
   B01J 13/00 20060101ALI20230222BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20230222BHJP
   C09D 7/48 20180101ALI20230222BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/29
C09D5/14
C09D7/63
B01J13/00 A
C09D5/02
C09D7/48
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020018334
(22)【出願日】2020-02-05
(65)【公開番号】P2021123659
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2021-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000224123
【氏名又は名称】藤倉化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤原 誠
(72)【発明者】
【氏名】本部 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】矢部 一也
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-277653(JP,A)
【文献】特開2007-070601(JP,A)
【文献】特開2003-165954(JP,A)
【文献】特開2018-203908(JP,A)
【文献】特開2019-019269(JP,A)
【文献】特開2005-075871(JP,A)
【文献】特開2014-105228(JP,A)
【文献】特開2005-272849(JP,A)
【文献】特開昭64-016879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂エマルションと親水性コロイド形成物質と機能性添加剤とを含むエマルション添加剤の液滴と、前記液滴の表面を覆うゲル化膜とを有する機能性ゲル状粒子が、ゲル化剤を含むゲル化剤水溶液中に分散する塗料組成物の製造方法であって、
前記エマルション添加剤を、ゲル化剤を含むゲル化剤水溶液中に撹拌しながら添加して前記ゲル化膜を形成するゲル化膜形成工程を有し、
前記機能性添加剤は、耐候性付与剤、防藻剤、又は防カビ剤であり、
前記ゲル化膜形成工程において、前記エマルション添加剤は、樹脂エマルション100質量部に対して、親水性コロイド形成物質を1.0質量部以上4.0質量部以下含み、かつ、前記ゲル化剤水溶液は、樹脂エマルションを含まないことを特徴とする、塗料組成物の製造方法。
【請求項2】
前記ゲル化膜形成工程において、前記ゲル化剤水溶液は、前記ゲル化剤を前記ゲル化剤水溶液100質量%に対して0.1質量%以上3質量%以下含む、請求項1に記載の塗料組成物の製造方法。
【請求項3】
樹脂エマルションと親水性コロイド形成物質の水溶液とを混合した混合液に、機能性添加剤を含む水溶液を混合することにより、前記エマルション添加剤を調製する、請求項1又は2に記載の塗料組成物の製造方法。
【請求項4】
前記ゲル化膜形成工程の後に、さらに、樹脂エマルションを含む外相を加える、請求項1~3のいずれか一項に記載の塗料組成物の製造方法。
【請求項5】
前記外相が、耐候性付与剤、防藻剤、および防カビ剤から選択される機能性添加剤を含む、請求項4に記載の塗料組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料組成物及び塗料組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、塗料に様々な機能を付与した機能性塗料が知られている。機能性塗料としては例えば、カビや苔の繁殖を防ぐ機能を持つ塗料や、耐候性を持つ塗料等がある。
このような塗料を用いて形成した塗膜には、効果を長期間にわたって持続する徐放効果が求められる。
【0003】
機能性を付与する有効成分を塗料に直接含有させると、塗膜形成後すぐに有効成分が放出されてしまい、有効成分の安定放出ができないという課題があった。
【0004】
例えば特許文献1には、有効成分の徐放効果を向上させる目的で、多孔質粒子に殺虫剤等の薬剤を減圧下にて浸透させ、その後粒子の周囲をゲル化膜で覆った徐放性粒子を使用した塗膜が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-108469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法では、粒子中に有効成分を封入するための減圧工程が必要となる。このような製造方法では生産性が低くなるため、より簡易な手段で製造できる塗料組成物が求められる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、簡易な方法で製造可能であり、有効成分の長期にわたる安定放出が可能である塗料組成物及び塗料組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は以下の構成を採用した。
[1]機能性ゲル状粒子を含む塗料組成物であって、前記機能性ゲル状粒子は、エマルション添加剤を含む液滴と、前記液滴の表面を覆うゲル化膜と、を有し、前記エマルション添加剤は、樹脂エマルションと、前記樹脂エマルションの中に分散する機能性添加剤とを有し、前記機能性添加剤は、耐候性付与剤、防藻剤、又は防カビ剤である、塗料組成物。
[2]前記機能性ゲル状粒子は徐放性粒子である、[1]に記載の塗料組成物。
[3]前記機能性ゲル状粒子を分散させる外相を含み、前記外相は樹脂エマルション成分を含む、[1]又は[2]に記載の塗料組成物。
[4]前記耐候性付与剤は、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤からなる群より選択される1種以上である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の塗料組成物。
[5]機能性添加剤を含むエマルション添加剤をゲル化膜で被覆する工程を有する、[1]~[4]のいずれか1つに記載の塗料組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡易な方法で製造可能であり、有効成分の長期にわたる安定放出が可能である塗料組成物及び塗料組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、好適な実施の形態に基づき、本発明を説明する。
【0011】
<塗料組成物>
本実施形態は、機能性ゲル状粒子を含む塗料組成物である。
本実施形態において、機能性ゲル状粒子は徐放性粒子であることが好ましい。本実施形態において「徐放性粒子」とは、有効成分が実質的に継続して粒子から放出され、粒子からの有効成分の完全放出までの時間が長いことを意味する。
【0012】
≪機能性ゲル状粒子≫
本実施形態において機能性ゲル状粒子は、エマルション添加剤を含む液滴と、液滴の表面を覆うゲル化膜と、を有する。
【0013】
(液滴)
液滴は、エマルション添加剤を含む。エマルション添加剤は、樹脂エマルションと、親水性コロイド形成物質と、樹脂エマルション中に分散する機能性添加剤とを有する。
【0014】
(樹脂エマルション)
樹脂エマルションとしては、樹脂を形成材料とする懸濁粒子または乳化粒子と、これらの懸濁粒子または乳化粒子を分散させる分散媒と、を有する。
懸濁粒子または乳化粒子は、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル、ベオバ(分岐脂肪酸ビニルエステル)、天然ゴム、合成ゴム、およびこれらの共重合体からなる群から選ばれる1種以上を形成材料とする。中でも、アクリル樹脂を形成材料とする樹脂粒子が懸濁または乳化された樹脂エマルションが好ましい。
【0015】
樹脂エマルションに含まれる分散媒は、水が好ましい。
【0016】
樹脂エマルションとしては、一般に市販されている樹脂エマルションを使用することができる。
【0017】
(親水性コロイド形成物質)
親水性コロイド形成物質は、ゲル化剤と反応し、ゲル化膜を形成可能な物質である。ゲル化剤については後述する。
【0018】
親水性コロイド形成物質としては、例えば、セルロース誘導体;ポリエチレンオキサイド;ポリビニルアルコール;カゼイン、デンプン、ガラクトマンノン、グアルゴム、ローカストビーンゴムなどの天然高分子などを含有する水溶液が挙げられる。親水性コロイド形成物質は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
親水性コロイド形成物質としては、グアルゴムの水溶液が好ましい。
【0020】
親水性コロイド形成物質の含有量は、樹脂エマルション100質量部に対して、0.05質量部以上5.0質量部以下が好ましく、1.0質量部以上4.0質量部以下がより好ましい。親水性コロイド形成物質の含有量を上記範囲内とすることにより、安定したゲル化膜が得られる。
【0021】
(ゲル化膜)
ゲル化膜は、液滴の表面を覆い、樹脂粒子の輪郭を形成している。ゲル化膜は、エマルション添加剤に含まれる親水性コロイド形成物質と、ゲル化剤とが反応し架橋することで形成された三次元的網状組織を含む。ゲル化膜は、エマルション添加剤よりも流動性が低下しており、液滴を内部に包含している。
【0022】
ゲル化剤としては、例えば、マグネシウムモンモリロナイト粘土、ナトリウムペンタクロロフェノール、ホウ酸塩、タンニン酸、乳酸チタン、塩化カルシウムなどが挙げられる。中でもホウ酸塩の水溶液が好ましい。ゲル化剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
(機能性添加剤)
本実施形態において、機能性添加剤は耐候性付与剤、防藻剤、又は防カビ剤である。
【0024】
耐候性付与剤としては、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤からなる群より選択される1種以上であることが好ましい。
【0025】
防藻剤又は防カビ剤としては、公知のものを使用できる。
本実施形態において防藻剤又は防カビ剤としては、例えば2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、N-n-ブチル-1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン等のイソチアゾリン系の防藻剤又は防カビ剤が使用できる。
【0026】
また、本実施形態において防藻剤又は防カビ剤としては、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素(DCMU)、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1-メチル-1-メトキシ尿素、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1-(2-メチルシクロヘキシル)、3-フェニル-1-(2-メチルシクロヘキシル)尿素、3-(フェニルジメチルメチル)-1-(4-メチルフェニル)尿素等の尿素系の防藻剤又は防カビ剤が使用できる。
【0027】
また、本実施形態において防藻剤又は防カビ剤としては、2-クロロ-4,6-ビス(エチルアミノ)-1,3,5-トリアジン、2-クロロ4-エチルアミノ-6-イソプロピルアミノ-1,3,5-トリアジン、2-メチルチオ-4,6-ビス(エチルアミノ)-S-トリアジン、2-メチルチオ-4-エチルアミノ-6-イソプロピルアミノ-S-トリアジン、2-メチルチオ-4,6-ビス(イソプロピルアミノ)-S-トリアジン、2-メチルチオ-4-t-ブチルアミノ-6-シクロプロピルアミノ-S-トリアジン、N’-t-ブチル-N-シクロプロピル-6-(メチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアミン等のトリアジン系の防藻剤又は防カビ剤が使用できる。
【0028】
また、本実施形態において防藻剤又は防カビ剤としては、テトラメチルチウラムジサルファイド、テトラエチルチウラムジサルファイド、テトライソプロピルチウラムジサルファイド、ジピロリゾルチウラムジサルファイド、ポリエチレンチウラムジサルファイド等のチウラムジサルファイド系;2-(4-チアジル)ベンズイミタゾール、2-(カルボメトキシアミノ)ベンズイミダゾール等のベンズイミダゾール系の防藻剤又は防カビ剤が使用できる。
【0029】
また、本実施形態において防藻剤又は防カビ剤としては、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルフォニル)ピリジン等のピリジン系のものが使用できる。
【0030】
また、本実施形態において防藻剤又は防カビ剤としては、ジンク-2-ピリチンチオール-1-オキサイド等のジンクピリチオン系の防藻剤又は防カビ剤が使用できる。
【0031】
また、本実施形態において防藻剤又は防カビ剤としては、2-(4-チオシアノメチルチオ)ベンゾチアゾール等のチアゾール系の防藻剤又は防カビ剤が使用できる。
【0032】
また、本実施形態において防藻剤又は防カビ剤としては、有機ハロゲン系、有機金属系、ハロアルキルチオ系、フェニルフェノール系の防藻剤又は防カビ剤が使用できる。
【0033】
これらの防藻剤又は防カビ剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、外装に塗布した際の透明性を向上させる観点と、防藻・防カビ効果の持続性を向上させる観点からトリアジン系とイソチアゾリン系の併用がより好ましい。ここで、「外装に塗布した際の透明性」とは、色残りしにくく、外装の意匠に影響しにくい性質を意味する。
【0034】
機能性ゲル状粒子中の機能性添加剤の含有量は、機能性ゲル状粒子中の樹脂エマルションの固形分100質量部に対し、0.1質量部以上20.0質量部以下が好ましく、0.2質量部以上15.0質量部以下がより好ましい。
機能性添加剤の含有量が上記の範囲であると、機能性添加剤の効果を十分に発揮させつつ、塗膜の強度を維持できる。
【0035】
本実施形態において、機能性ゲル状粒子は機能性添加剤を含むエマルション添加剤がゲル化膜で被覆されている。このため、機能性添加剤が粒子の外に即時に放出されず、粒子外に放出する速度を低下させることができる。そのため、機能性ゲル状粒子を含む本実施形態の塗料組成物は有効成分の長期にわたる安定放出が可能である。
【0036】
(外相)
本実施形態において、塗料組成物は機能性ゲル状粒子を分散させる外相を含むことが好ましい。
外相は、分散媒の主成分が水である樹脂エマルション成分を含むことが好ましい。本実施形態において「主成分」とは、分散媒の全量に対し、50質量%を超える割合であることを指す。
【0037】
外相が含んでいてもよい樹脂エマルション成分は、上述の液滴を構成するエマルション添加剤に含まれる樹脂エマルションと同様のものが使用できる。
【0038】
液滴に用いられる樹脂エマルションと、外相に用いられる樹脂エマルション成分とは、樹脂エマルションに分散する粒子を構成する樹脂が同じであると好ましい。
一例を挙げると、液滴に用いられる樹脂エマルションと、外相に用いられる樹脂エマルション成分とは、樹脂エマルションに分散する粒子がアクリル樹脂であることが好ましい。
【0039】
また、液滴に用いられる樹脂エマルションと、外相に用いられる樹脂エマルション成分とは、樹脂エマルションに分散する粒子が異なっていてもよい。例として、液滴にアクリル樹脂エマルションを用い、外相にアクリルシリコン樹脂エマルションを用いることが挙げられる。
【0040】
外相は、上述のゲル化剤を含んでいてもよい。また、外相は、上述の親水性コロイド形成物質を含んでもよい。
【0041】
外相中の樹脂エマルションの含有量は、液滴とゲル化剤水溶液の合計質量100質量%に対して、1質量%以上60質量%以下が好ましく、5質量%以上45質量%以下がより好ましい。樹脂エマルション成分を上記範囲内で含むことにより、塗装作業性に優れると共に、耐久性のよい塗膜が得られる。
【0042】
外相は、上述した機能性添加剤を含むことが好ましい。この場合には、液滴とゲル化剤水溶液の合計質量100質量%に対して、機能性添加剤の含有量は0.01質量%以上5質量%以下が好ましく、0.05質量%以上4質量%以下がより好ましい。
機能性添加剤の含有量が上記の範囲であると、機能性添加剤の効果を十分に発揮させつつ、塗膜の強度を維持できる。
【0043】
(任意成分)
機能性ゲル状粒子は、任意成分として体質顔料を含んでもよい。
【0044】
体質顔料は、塗料に用いられる無彩色顔料の総称である。体質顔料としては、例えば、カオリン、硫酸バリウム、含水ケイ酸マグネシウム、炭酸カルシウムを挙げることができる。体質顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
本実施形態の塗料組成物は、必要に応じて公知の添加剤を含んでもよい。公知の添加剤としては、例えば、消泡剤、粘度調整剤、造膜助剤、凍結防止剤、湿潤剤、水溶性樹脂、浸透助剤、防腐剤、抗菌剤、殺虫剤、忌避剤、撥水剤、撥油剤、親水化剤、防錆剤、難燃剤、表面調整剤、艶消剤等の添加剤が挙げられる。
また、本実施形態の塗料組成物は、エマルション塗料に相溶しない意匠材をさらに含んでいてもよい。このような意匠材としては、例えば、着色顔料、輝度顔料、遮熱顔料、骨材、艶消ビーズ、光輝材、着色樹脂チップ等が挙げられる。
【0046】
<塗料組成物の製造方法>
上述した塗料組成物は、以下の製造方法で製造することができる。
【0047】
まず、上述した樹脂エマルションと親水性コロイド形成物質の水溶液とを混合し、混合液を調製する。親水性コロイド形成物質の水溶液の濃度は、0.5質量%以上7質量%以下が好ましく、1.0質量%以上5質量%以下がより好ましい。
【0048】
別途、機能性添加剤と水と、必要に応じて分散剤とを混合し、混合液を調製する。次いで、上記2種の混合液を混合してエマルション添加剤を調製する。
【0049】
次いで、ゲル化剤と水と、必要に応じて親水性コロイド形成物質とを混合したゲル化剤水溶液を調製し、ゲル化剤水溶液を分散機で撹拌しながら、ゲル化剤水溶液に上記エマルション添加剤を添加する。
【0050】
エマルション添加剤をゲル化剤水溶液中で撹拌すると、エマルション添加剤に含まれる親水性コロイド形成物質と、ゲル化剤水溶液に含まれるゲル化剤とが反応し、架橋することで三次元的網状組織(ゲル化膜)を形成する。
また、エマルション添加剤は、ゲル化剤との反応によって凝集しながら、撹拌により細分化される。細分化の過程においても、継続的に親水性コロイド形成物質とゲル化剤とが反応し、三次元的網状組織(ゲル化膜)を形成する。
これにより、機能性添加剤を含むエマルション添加剤がゲル化膜で被覆された機能性ゲル状粒子を得ることができる。
【0051】
ゲル化剤水溶液の濃度は0.05質量%以上5質量%以下が好ましく、0.1質量%以上3質量%以下がより好ましい。ゲル化剤水溶液におけるゲル化剤の含有量を上記範囲内とすることにより、安定してゲル化膜が得られる。
【0052】
このように、親水性コロイド形成物質とゲル化剤とが反応しながら、エマルション添加剤の凝集体が細分化されることにより、ゲル化剤水溶液に機能性ゲル状粒子が分散する塗料組成物が得られる。
【0053】
塗料組成物が外相としての樹脂エマルションを含む場合には、上述の工程で得られた塗料組成物に、さらに樹脂エマルションを加えて撹拌するとよい。
【0054】
塗料組成物は、粘度を調整する等の目的で水を添加してもよい。
【0055】
本実施形態の塗料組成物は、上記のように簡易な工程で製造することができる。
【0056】
[用途]
このようにして得られた塗料組成物の用途については特に制限はなく、モルタル、コンクリート、窯業系素材、プラスチック、金属、木材、紙など、種々の対象物に塗布することが可能である。塗布時における塗料組成物の塗布量には特に制限はないが、通常、200~600g/m(wet)となる量を塗布することが好ましい。また、塗装方法にも制限はなく、刷毛、こて、ローラー、スプレーなどの公知の塗布方法で塗布することができ、常温乾燥、加熱乾燥させることができる。
【0057】
[塗装品]
上述の塗料組成物を対象物に塗布することで、塗料組成物から形成された塗膜を有する塗装品が得られる。
【0058】
塗装品は、塗装の対象物の表面に、予め下塗り塗料を塗布してベースコートを施しておき、その上に本実施形態の塗料組成物を用いて塗膜を形成したものであってもよい。
【0059】
以上のような構成の塗料組成物によれば、機能性添加剤が長期間にわたって安定的に放出されるため、機能性添加剤の効果を長期間維持できる塗料組成物とすることができる。
【実施例
【0060】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【0061】
(実施例1~12、比較例1~12)
≪塗料組成物の製造≫
アクリル樹脂エマルション21.1質量部と、非イオン性グアルゴム誘導体の4%水溶液11.1質量部とを混合し、混合液aを調製した。非イオン性グアルゴム誘導体は、上述した実施形態における「親水性コロイド形成物質」に該当する。
【0062】
別途、表1~4にそれぞれ示す機能性添加剤と、アニオン性高分子分散剤0.6質量部と、水5.9質量部と、顔料5.6質量部とを混合し、混合液bを調製した。
【0063】
混合液aに混合液bを加えて撹拌し、エマルション添加剤を得た。実施例1~12、比較例1~12でそれぞれ調整した各エマルション添加剤の配合は、表1~4に記載のとおりである。表1~4中の数値は、質量部を表す。
【0064】
次いで、表1~4に示す配合で調製したゲル化剤水溶液をディゾルバ(株式会社日本精機製作所製、回転数1000rpm)で撹拌しながら、エマルション添加剤を加えた。撹拌により細分化されたエマルション添加剤の平均粒子径が0.5mm~1.0mmになるまで撹拌し、機能性ゲル状粒子を得た。機能性ゲル状粒子の平均粒子径は、無作為に機能性ゲル状粒子を20個取り出し、長径をノギスで想定した各測定値を算術平均することで求めた。
【0065】
次いで、得られた機能性ゲル状粒子に、表1~4に示す配合で調整した外相を加えて撹拌し、実施例1~12、比較例1~12の塗料組成物を得た。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
【表4】
【0070】
使用した各材料は、以下のとおりである。
【0071】
アクリル樹脂エマルション:プライマルAC38、日本アクリル化学社製、固形分41%
防藻剤:HF-260K、ナガセケムテックス株式会社製、有効成分30%
防カビ剤:ACTICIDE OTW、THOR JAPAN 株式会社、有効成分30%
紫外線吸収剤1:Tinuvin 400DW、BASF JAPAN 株式会社、有効成分40%
紫外線吸収剤2:Tinuvin 477DW、BASF JAPAN 株式会社、有効成分40%
光安定剤:Tinuvin 123、BASF JAPAN 株式会社、有効成分100%
非イオン性グアルゴム誘導体:MEYPRO HPG 8111、デュポン社製
顔料:タイペークCR95(酸化チタン)、石原産業株式会社
アニオン性高分子分散剤:オロタン731、ダウケミカル社製
含水ケイ酸マグネシウム:タルクSSS、日本タルク社製
重ホウ酸アンモニウム:米山化学工業社製
ナトリウムカルボキシメチルセルロース:CMC-1170、ダイセル化学工業社製
アルカリ可溶型増粘剤:SNシックナー636、サンノプコ社製、有効成分30%
【0072】
上記表1~4中の「アクリル樹脂」は、本発明における「樹脂固形分」に該当する。上記「アクリル樹脂に対する顔料の体積比」体積比を求めるうえで、アクリル樹脂の比重は1.2として計算した。
【0073】
<カビ又は藻の発生評価>
試験片上に塗料組成物を300g/m塗布した後、乾燥した。その後、6月間~18月間屋外に暴露し、カビ又は藻の発生の有無を確認した。
試験片は、寸法70mm×150mm×1mmのアルミ板を用いた。
カビ又は藻の発生について、下記の評価方法に従って評価した。その結果を表5~6に記載する。
【0074】
[評価方法]
-:試験片上にカビもしくは藻の発生なし
+:試験片上の1/4以下にカビもしくは藻が発生した
++:試験片上の1/2以下にカビもしくは藻が発生した
+++:試験片上の3/4以下にカビもしくは藻が発生した
【0075】
【表5】
【0076】
【表6】
【0077】
機能性添加剤の含有量が同等の実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、実施例3と比較例3とを比べると、いずれも実施例の方が藻の発生が抑制されていた。
また、機能性添加剤の含有量が同等の実施例4と比較例4、実施例5と比較例5、実施例6と比較例6とを比べると、いずれも実施例の方がカビの発生が抑制されていた。
【0078】
<黄変評価>
試験片(寸法70mm×150mm×1mmのアルミ板)上に塗料組成物を300g/m塗布した後、乾燥した塗膜を用いて評価を行った。黄変評価として色度(b*)の値により評価した。測色計(MINOLTA製CM-2500d)を用いて、実施例7~12、比較例7~12の塗膜の色度(b*)を測定した。その結果を表7~8に示す。
【0079】
<色差評価>
メタルハライドランプを用い、245mm離れた位置から試験片の塗膜に75W/cmの光を所定時間照射した。光照射後の試験片について、塗膜の色差(ΔE*)を測定した。
その結果を表7~8に示す。
表7~8中、250時間照射した場合においては、色差(ΔE*)が0.6までを合格とした。
表7~8中、500時間照射した場合においては、色差(ΔE*)が1.0までを合格とした。
表7~8中、1000時間照射した場合においては、色差(ΔE*)が5.0までを合格とした。
【0080】
【表7】
【0081】
【表8】
【0082】
機能性添加剤の含有量が同等である、実施例7と比較例7、実施例8と比較例8、実施例9と比較例9、実施例10と比較例10、実施例11と比較例11、実施例12と比較例12をそれぞれ比べると、いずれも実施例は比較例よりもb*の値が小さく、かつ、色差(ΔE*)の値が小さかった。
【0083】
これは、比較例と異なり実施例は、機能性添加剤がゲル化膜で被覆されているため、塗膜への機能性添加剤の色(黄味)の影響が小さくなっていることを意味する。また、機能性添加剤がゲル化膜で被覆されていることで、機能性添加剤が徐々に放出され、紫外線吸収剤、光安定剤の効果が長期にわたって発揮されていたことを意味する。