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特許7231915フッ素含有水性樹脂粒子分散物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-21
(45)【発行日】2023-03-02
(54)【発明の名称】フッ素含有水性樹脂粒子分散物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20230222BHJP
   C08F 120/22 20060101ALI20230222BHJP
   C08L 101/04 20060101ALI20230222BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20230222BHJP
   C08F 265/04 20060101ALI20230222BHJP
【FI】
C08F2/44 C
C08F120/22
C08L101/04
C08L101/12
C08F265/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022177319
(22)【出願日】2022-11-04
【審査請求日】2022-11-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000105877
【氏名又は名称】サイデン化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠田 雅晴
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0004300(US,A1)
【文献】特開2018-080297(JP,A)
【文献】特表2017-518397(JP,A)
【文献】特開平11-256070(JP,A)
【文献】特開平05-017538(JP,A)
【文献】特開平09-125051(JP,A)
【文献】特表2017-525835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00 - 2/60
C08F 120/00 - 120/70
C08L 1/00 - 101/14
C08F 265/00 - 265/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂粒子を含有するフッ素含有水性樹脂粒子分散物であって、
疎水性単量体と親水性単量体との共重合体からなる両親媒性高分子で形成された保護層によって覆われる、少なくともフッ素含有(メタ)アクリル系単量体を構成単位として含有する樹脂粒子を含み、
前記フッ素含有水性樹脂粒子分散物の平均粒子径は20~60nmであり、
ここで、前記フッ素含有水性樹脂粒子分散物の平均粒子径は、動的光散乱法を用いて測定され、
前記両親媒性高分子は、前記両親媒性高分子の全質量に対して、前記親水性単量体としてカルボキシ基を有するカルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位を5質量%以上、20質量%以下で含有し、
前記疎水性単量体は、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、2-(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート(C6SFA)の少なくともいずれかを含み、
前記親水性単量体は、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミドの少なくともいずれかを含み、
前記フッ素含有水性樹脂粒子分散物は、乳化剤、界面活性剤、及び分散剤を含有しない、
フッ素含有水性樹脂粒子分散物。
【請求項2】
前記樹脂粒子は、前記樹脂粒子の全質量に対して、前記フッ素含有(メタ)アクリル系単量体を構成単位として40質量%以上、100質量%以下で含有する、
請求項1に記載のフッ素含有水性樹脂粒子分散物。
【請求項3】
前記フッ素含有水性樹脂粒子分散物は、前記樹脂粒子の全質量に対して、前記両親媒性高分子を30質量%以上、300質量%以下で含有する、
請求項1に記載のフッ素含有水性樹脂粒子分散物。
【請求項4】
前記両親媒性高分子は、架橋反応性を有する単量体に由来する構造単位を含む、
請求項1に記載のフッ素含有水性樹脂粒子分散物。
【請求項5】
前記架橋反応性を有する単量体は、ジアセトンアクリルアミドを含む、
請求項に記載のフッ素含有水性樹脂粒子分散物。
【請求項6】
耐水コーティング用である、
請求項1からのいずれか一項に記載のフッ素含有水性樹脂粒子分散物。
【請求項7】
疎水性単量体と親水性単量体を溶剤において溶液重合することで両親媒性高分子を合成した後、アルカリ性物質による中和後に水相に反転乳化し、前記両親媒性高分子の水性液を調製する工程と、
少なくともフッ素含有(メタ)アクリル系単量体を含む単量体成分と重合開始剤を水性分散媒において混合し、前記単量体成分の混合液を調製する工程と、
前記両親媒性高分子の水性液に対して前記混合液を添加及び混合した後、前記単量体成分を重合反応する工程と、を含み、
前記両親媒性高分子は、前記両親媒性高分子の全質量に対して、前記親水性単量体としてカルボキシ基を有するカルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位を5質量%以上、20質量%以下で含有し、
前記疎水性単量体は、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、2-(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート(C6SFA)の少なくともいずれかを含み、
前記親水性単量体は、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミドの少なくともいずれかを含む、
フッ素含有水性樹脂粒子分散物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有水性樹脂粒子分散物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
壁紙材等の防汚に優れた水性塗料として、フッ素含有(メタ)アクリル系単量体を構成単位として含む樹脂エマルションが知られている。また、フッ素の疎水性は非常に高いことが知られている。そのため、フッ素含有(メタ)アクリル系単量体の水性分散媒中の導入比率が比較的高い場合、乳化重合法で樹脂エマルションを得ることは非常に困難である。
【0003】
そこで、特許文献1は、溶液重合にて得られたフッ素含有アクリル樹脂組成物を中和し、水を添加して転相することで得られた水性エマルション中で(メタ)アクリル系単量体を重合することで含フッ素アクリル樹脂エマルションを得ている。また、特許文献2~5は、高圧ホモジナイザーや超音波分散器を用いた強制乳化によって、フッ素含有(メタ)アクリル系単量体を含む単量体成分の油滴を微小乳化し、ミニエマルション重合を行うことで含フッ素アクリル樹脂エマルションを得ている。さらに、特許文献6~7は、乳化剤及び含フッ素溶剤存在下でマイクロエマルションを合成し、常温で気体であるフッ素系単量体を加圧化で導入しながら重合する方法で粒子径30nm程度以下の超微粒子を合成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平03-269184号公報
【文献】特開平11-172190号公報
【文献】特開2000-110069号公報
【文献】特表2011-515503号公報
【文献】特開2013-224418号公報
【文献】特表平10-512303号公報
【文献】特表2013-540869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1~5の手法を用いて得た各樹脂エマルションの樹脂粒子の粒子径は大きく、例えば100~200nm以上である。また、比重の大きいフッ素含有(メタ)アクリル系単量体を共重合することで得た樹脂粒子の比重は大きくなる。つまり、特許文献1~5では、比重の大きい樹脂粒子が水性エマルション中で沈降してしまうため、樹脂エマルションの長期保存安定性が十分ではないといった課題がある。また、特許文献6~7では、常温で液体であるフッ素系単量体を用いて樹脂エマルションを合成できないといった課題がある。
【0006】
そこで、本発明は、長期保存安定性に優れたフッ素含有水性樹脂粒子分散物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的を達成するために、本発明は、樹脂粒子を含有するフッ素含有水性樹脂粒子分散物であって、疎水性単量体と親水性単量体との共重合体からなる両親媒性高分子で形成された保護層によって覆われる、少なくともフッ素含有(メタ)アクリル系単量体を構成単位として含有する樹脂粒子を含み、前記フッ素含有水性樹脂粒子分散物の平均粒子径は20~60nmであり、ここで、前記フッ素含有水性樹脂粒子分散物の平均粒子径は、動的光散乱法を用いて測定され、前記両親媒性高分子は、前記両親媒性高分子の全質量に対して、前記親水性単量体としてカルボキシ基を有するカルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位を5質量%以上、20質量%以下で含有し、前記疎水性単量体は、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、2-(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート(C6SFA)の少なくともいずれかを含み、前記親水性単量体は、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミドの少なくともいずれかを含み、前記フッ素含有水性樹脂粒子分散物は、乳化剤、界面活性剤、及び分散剤を含有しない。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、長期保存安定性に優れたフッ素含有水性樹脂粒子分散物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴は任意に組み合わされてもよい。
【0010】
<フッ素含有水性樹脂粒子分散物>
本発明のフッ素含有水性樹脂粒子分散物は、疎水性単量体と親水性単量体との共重合体からなる両親媒性高分子と、前記両親媒性高分子で形成された保護層によって覆われる、少なくともフッ素含有(メタ)アクリル系単量体を構成単位として含有する樹脂粒子と、を含む。
【0011】
従来の水系樹脂エマルションは、樹脂粒子の形態がいわゆる単一型であるかコア・シェル型であるかに関わらず、樹脂粒子の周囲に、樹脂粒子に対して数質量%~十数質量%程度の乳化剤又は分散剤の層が存在することによって、樹脂粒子の安定な分散状態を保っている。
【0012】
一方で、本発明の水系樹脂エマルション(フッ素含有水性樹脂粒子分散物)は、乳化剤等を用いずに、フッ素含有(メタ)アクリル系単量体を含む単量体成分が重合した樹脂粒子を両親媒性高分子の保護層で覆うことにより、樹脂粒子の安定な分散状態を保つことを可能としている。
【0013】
本発明の水系樹脂エマルション(フッ素含有水性樹脂粒子分散物)は、以下の工程により得られる。まず、フッ素含有(メタ)アクリル系単量体を含む単量体成分の重合前に、両親媒性高分子は樹脂粒子を形成するための単量体成分を取り囲んでいる。そして、両親媒性高分子が上記の単量体成分を取り囲んだ状態で、上記の単量体成分が重合することで両親媒性高分子の保護層に覆われた樹脂粒子が形成される。これにより、水性分散媒中に均一に分散した樹脂粒子を含む水系樹脂エマルション(フッ素含有水性樹脂粒子分散物)が得られる。
【0014】
両親媒性高分子は、両親媒性高分子の全質量に対して、カルボキシ基を有するカルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位を5質量%以上、20質量%以下で含有する。そのため、保護層(すなわち、両親媒性高分子の層)は、乳化剤や分散剤のように、水系樹脂エマルション中で樹脂粒子を分散させる機能を有する。これにより、水系樹脂エマルションは、樹脂粒子を分散させるための乳化剤や分散剤を含有していなくても、保護層で樹脂粒子を覆うことで樹脂粒子を安定な分散状態に保つことが可能となる。
【0015】
(平均粒子径)
フッ素含有水性樹脂粒子分散物の平均粒子径は20~100nmであり、水性分散媒中での樹脂粒子の沈降を抑制する観点から、好ましくは20~80nmであり、より好ましくは20~60nmである。ここで、フッ素含有水性樹脂粒子分散物の平均粒子径が100nm以上である場合、フッ素含有水性樹脂粒子が水性分散媒中で沈降しやすくなるため、フッ素含有水性樹脂粒子分散物の保存安定性が低下することがある。
【0016】
なお、本明細書におけるフッ素含有水性樹脂粒子分散物の平均粒子径は、動的光散乱法により測定される微粒子の体積平均粒子径であり、粒径分布を累積分布で表したときの50%粒径(d50:メディアン径)である。50%粒径は、例えば、粒度分布測定装置(大塚電子社製、商品名「濃厚系粒径アナライザー FPAR-1000」)を用いて測定される。
【0017】
フッ素含有水性樹脂粒子分散物は、樹脂粒子の全質量に対して、両親媒性高分子を30質量%以上、300質量%以下で含有する。ここで、フッ素含有水性樹脂粒子分散物は、樹脂粒子の全質量に対して、両親媒性高分子を30質量%未満で含有する場合、樹脂粒子を安定な分散状態に保てなくなってしまう。一方で、フッ素含有水性樹脂粒子分散物は、樹脂粒子の全質量に対して、両親媒性高分子を300質量%以上で含有する場合、凝集物が生成されるため製造安定性が低下することがある。
【0018】
<両親媒性高分子>
両親媒性高分子は、疎水性単量体と親水性単量体との共重合体からなる高分子であり、有機溶剤及び水の双方に親和性を示すものである。また、両親媒性高分子は、有機溶剤と水の割合を任意に変更することで、容易にO/W型エマルション又はW/O型エマルションの乳化状態を取ることができる。
【0019】
本発明で最も好適な両親媒性高分子は、有機溶剤に対して可溶である性質と、水に対して分散する性質の両方を有する。両親媒性高分子が有機溶剤に溶解する場合、透明な液体が得られる。一方で、両親媒性高分子が水に分散する場合、両親媒性高分子の分散体が得られる。ここで、分散体は、溶液の外観が透明及び不透明に関わらず、動的光散乱法を用いた粒子径測定において、散乱光が観測されることで両親媒性高分子の粒子径を測定可能な水性液のことを指す。
【0020】
疎水性単量体と親水性単量体の種類と配合比率は、上記の両親媒性高分子の2つの性質(有機溶剤に対して可溶である性質、水に対して分散する性質)を満たす組み合わせであれば良く、特に限定されるものではない。
【0021】
(疎水性単量体)
疎水性単量体は、単独重合体の溶解度パラメータ(SP値)が11.0未満である単量体であれば良く、特に限定されるものではない。疎水性単量体は、好ましくは(メタ)アクリル系単量体である。ここで、SP値は、下記式(1)より算出される凝集エネルギー密度の平方根で定義される物性値である。
δ(SP値)=(ΣEcoh/ΣV)1/2 ・・・(1)
【0022】
SP値は、疎水性単量体の分子構造からFedorsの推算法により算出されるものであり、凝集エネルギー密度とモル分子容に基づいて計算される。ΣEcohは、物質の各官能基の凝集エネルギー密度の合計を表す。ΣVは、モル分子容の合計を表す。凝集エネルギーの単位は、一般的にJ/molであるが、本明細書ではSP値(単位:J/mol)を4.19の係数で除したSP値(cal/mol)が用いられる。原子団及び基固有の凝集エネルギー並びにモル分子容の定数として、「R.F.Fedors,Polym.Eng.Sci.,14[2],147-154(1974)」に記載の数値が用いられ得る。
【0023】
疎水性単量体は、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレンを含む。疎水性単量体は、上記のうちの1種類を単独で又は2種類以上を含んでも良い。
【0024】
(親水性単量体)
親水性単量体は、単独重合体のSP値が11.0以上である単量体であれば良く、特に限定されるものではない。両親媒性高分子は有機溶剤を用いた溶液重合にて得られることから、親水性単量体は有機溶剤に可溶であることが望ましい。
【0025】
両親媒性高分子は、カルボキシ基を有するカルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位を含む。両親媒性高分子は、カルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位以外の架橋反応性を有する単量体に由来する構造単位を含む。ここで、架橋反応性を有する単量体は、ジアセトンアクリルアミドを含む。
【0026】
本明細書において、「構造単位」とは、両親媒性高分子を形成する単量体の単位を意味する。「(単量体に)由来する構造単位」とは、例えば、単量体における重合性二重結合(C=C)が開裂して単結合(-C-C-)となった構造単位等が挙げられる。また、本明細書においては、単独重合及び共重合を特に区別することなく単に「重合」と記載することがある。
【0027】
両親媒性高分子は、樹脂粒子を安定な分散状態に保つ観点から、両親媒性高分子の全質量に対して、カルボキシ基を有するカルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位を5質量%以上、20質量%以下で含有する。カルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位を5質量%以上、20質量%以下を含む両親媒性高分子の水性液(好ましくは中和された両親媒性高分子の水性液)中で樹脂粒子を形成する単量体成分を重合させることにより、樹脂粒子を覆うことができ、水性分散媒中で樹脂粒子を安定な分散状態に保つことが可能な保護層を得ることができる。
【0028】
また、両親媒性高分子が上記で規定した量のカルボキシル基含有性単量体を含むことにより、両親媒性高分子が水性液中に一部溶解し、両親媒性高分子の親水性が高まる。これにより、両親媒性高分子が樹脂粒子を形成する単量体成分を取り囲みやすくなることから、カルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位におけるカルボキシ基の一部又は全部が中和されていることが好ましい。
【0029】
両親媒性高分子における反応性基含有重合性単量体に由来する構造単位は、カルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位のみで構成されていても良い。あるいは、両親媒性高分子における反応性基含有重合性単量体に由来する構造単位は、カルボキシ基含有重合性単量体に由来する構造単位と、それ以外の反応性基含有重合性単量体に由来する構造単位とで構成されていても良い。
【0030】
親水性単量体は、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミドを含む。親水性単量体は、上記のうちの1種類を単独で又は2種類以上を含んでも良い。
【0031】
(有機溶剤)
有機溶剤は、疎水性単量体、親水性単量体、及び両親媒性高分子を溶解する特性を有していれば良く、特に限定されるものではない。有機溶剤は、疎水性単量体、親水性単量体、及び両親媒性高分子の溶解性の観点から、低級脂肪酸エステル系の有機溶剤であることが好ましい。
【0032】
低級脂肪酸エステルは、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル等を含む。有機溶剤は、上記のうちの1種類を単独で又は2種類以上を含んでも良い。
【0033】
<樹脂粒子>
樹脂粒子は、フッ素含有水性樹脂粒子分散物から形成される皮膜の耐水性を高める観点から、樹脂粒子の全質量に対して、フッ素含有(メタ)アクリル系単量体を構成単位として40質量%以上、100質量%以下で含有する。
【0034】
本明細書等における、「樹脂粒子」は、重合性単量体として少なくとも(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体成分が重合した樹脂粒子であり、少なくとも(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位を有する。本明細書等において、「(メタ)アクリル」の文言には、「アクリル」及び「メタクリル」の両方の文言が含まれることを意味する。また、同様に、「(メタ)アクリレート」の文言には、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方の文言が含まれることを意味する。樹脂粒子は、1種の重合性単量体((メタ)アクリル酸エステル)が重合した単独重合体粒子であっても良く、(メタ)アクリル酸エステルを含む2種以上の重合性単量体が共重合した共重合体粒子でも良い。
【0035】
(メタ)アクリル酸エステルは、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、フッ素含有(メタ)アクリル系単量体、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸アラルキルエステル、及び(メタ)アクリル酸アリールエステル、並びにそれら以外の他の(メタ)アクリル酸エステル等を含む。(メタ)アクリル酸エステルは、上記のうちの1種を単独で又は2種類以上を含んでも良い。(メタ)アクリル酸エステルは、樹脂粒子を形成する単量体成分として、少なくともフッ素含有(メタ)アクリル系単量体を含むことが好ましい。
【0036】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n-ウンデシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート、n-トリデシル(メタ)アクリレート、n-テトラデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、及びベヘニル(メタ)アクリレート等の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;並びにシクロヘキシル(メタ)アクリレート、4-tert-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンテニル(メタ)アクリレート等の脂環式の(メタ)アクリル酸アルキルエステル等を含む。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、上記のうちの1種を単独で又は2種類以上を含んでも良い。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、上記のうち炭素原子数が1~18(より好ましくは炭素数1~12)の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルであることが好ましい。
【0037】
フッ素含有(メタ)アクリル系単量体は、例えば、2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロブチル)エチル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロオクチル)エチル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロデシル)エチル(メタ)アクリレート、1H,1H,3H-テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、1H,1H,7H-ドデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、1H-1-(トリフルオロメチル)トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、1H,1H,3H-ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸フッ化アルキルエステル等を含む。フッ素含有(メタ)アクリル系単量体は、上記のうちの1種類を単独で又は2種類以上を含んでも良い。
【0038】
(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルは、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、及び(4-ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート等を含む。(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルは、上記のうちの1種類を単独で又は2種類以上を含んでも良い。
【0039】
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルは、例えば、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、2-ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、及び2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート等を含む。(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルは、上記のうちの1種類を単独で又は2種類以上を含んでも良い。
【0040】
(メタ)アクリル酸アラルキルエステルは、例えば、ベンジル(メタ)アクリレート、2-フェニルエチル(メタ)アクリレート、メチルベンジル(メタ)アクリレート、及びナフチルメチル(メタ)アクリレート等を含む。(メタ)アクリル酸アラルキルエステルは、上記のうちの1種類を単独で又は2種類以上を含んでも良い。
【0041】
(メタ)アクリル酸アリールエステルは、例えば、フェニル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート、トリル(メタ)アクリレート、及びナフチル(メタ)アクリレート等を含む。(メタ)アクリル酸アリールエステルは、上記のうちの1種類を単独で又は2種類以上を含んでも良い。
【0042】
他の(メタ)アクリル酸エステルは、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリルレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びメトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;2-クロロエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロブチル)エチル(メタ)アクリレート、及びパーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート等のハロゲン原子を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;2-(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2-(ジエチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、及び3-(ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリレート等のアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル;カルボキシエチル(メタ)アクリレート、及びカルボキシペンチル(メタ)アクリレート等のカルボキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル;グリシジル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、2-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル及びその誘導体;2-スルホエチル(メタ)アクリレート、及び3-スルホプロピル(メタ)アクリレート等のスルホン酸基を有する(メタ)アクリレート;2-(ホスホノオキシ)エチル(メタ)アクリレート等のリン酸基を有する(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸2-イソシアナトエチル等のイソシアネート基を有する(メタ)アクリレート;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等の複素環を有する(メタ)アクリレート;メトキシポリエチエレングリコール(メタ)アクリレート、及びフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルキル基又はアリール基末端ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート等を含む。他の(メタ)アクリル酸エステルは、上記のうちの1種類を単独で又は2種類以上を含んでも良い。
【0043】
樹脂粒子は、上述の(メタ)アクリル酸エステル、及び(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な他の重合性単量体を含む単量体成分が重合した樹脂粒子であっても良い。この場合、樹脂粒子は、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位と、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な他の重合性単量体に由来する構造単位を有することができる。
【0044】
他の重合性単量体は、不飽和カルボン酸系単量体であることが好ましく、樹脂粒子は、不飽和カルボン酸系単量体に由来する構造単位を含むことが好ましい。本明細書等において、不飽和カルボン酸系単量体には、不飽和カルボン酸、並びにその無水物及びモノエステルが含まれる。
【0045】
不飽和カルボン酸系単量体は、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、及びシトラコン酸等の不飽和カルボン酸;無水マレイン酸、及び無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸の無水物;マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノブチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、及びイタコン酸モノブチルエステル等の不飽和カルボン酸のモノエステルを含む。不飽和カルボン酸系単量体は、上記のうちの1種類を単独で又は2種類以上を含んでも良い。不飽和カルボン酸系単量体は、上記のうち(メタ)アクリル酸がより好ましい。
【0046】
不飽和カルボン酸系単量体以外の他の重合性単量体は、窒素原子を有する不飽和単量体、及びスチレン系単量体等を含む。不飽和カルボン酸系単量体以外の他の重合性単量体は、スチレン系単量体が好ましい。(メタ)アクリル系樹脂粒子は、スチレン系単量体に由来する構造単位を含むことが好ましい。
【0047】
窒素原子を有する不飽和単量体は、例えば、アクリロニトリル及びメタクリロニトリル等のシアノ基を有する不飽和単量体;(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-[2-ジメチルアミノエチル](メタ)アクリルアミド、N-[3-ジメチルアミノプロピル](メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、4-アクリロイルモルホリン、及び4-メタクリロイルモルホリン等のアクリルアミド系単量体;N-ビニルアセトアミド、及びN-ビニル-N-メチルアセトアミド等のビニル基を有するアセトアミド系単量体;N-ビニル-2-ピロリドン、4-ビニルピリジン、1-ビニルイミダゾール、2-ビニル-2-オキサゾリン、及び2-イソプロペニル-2-オキサゾリン等のビニル基を有する含窒素複素環式化合物等を含む。窒素原子を有する不飽和単量体は、上記のうちの1種類を単独で又は2種類以上を含んでも良い。
【0048】
スチレン系単量体は、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-,m-,p-メチルスチレン、o-,m-,p-エチルスチレン、4-tert-ブチルスチレン、o-,m-,p-ヒドロキシスチレン、o-,m-,p-メトキシスチレン、o-,m-,p-エトキシスチレン、o-,m-,p-クロロスチレン、o-,m-,p-ブロモスチレン、o-,m-,p-フルオロスチレン、及びo-,m-,p-クロロメチルスチレン等を含む。スチレン系単量体は、上記のうちの1種類を単独で又は2種類以上を含んでも良い。スチレン系単量体は、好ましくはスチレンである。
【0049】
他の重合性単量体は、前述の不飽和カルボン酸系単量体、窒素原子を有する不飽和単量体、及びスチレン系単量体以外に、例えば、ビニル系単量体、不飽和アルコール、ビニルエーテル系単量体、ビニルエステル系単量体、エポキシ基を有する不飽和単量体、及びスルホン酸基を有する不飽和単量体等を含む。
【0050】
ビニル系単量体は、例えば、塩化ビニル及びフッ化ビニル等を含む。
【0051】
不飽和アルコールは、例えば、ビニルアルコール及びアリルアルコール等を含む。
【0052】
ビニルエーテル系単量体は、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、及びジエチレングリコールモノビニルエーテル等を含む。
【0053】
ビニルエステル系単量体は、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、及びバーサチック酸ビニル等を含む。
【0054】
エポキシ基を有する不飽和単量体は、アリルグリシジルエーテル等を含む。
【0055】
スルホン酸基を有する不飽和単量体は、例えば、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、及び2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等を含む。他の重合性単量体は、上記のうちの1種類を単独で又は2種類以上を含んでも良い。
【0056】
さらに、樹脂粒子を形成する単量体成分は、重合性単量体として、架橋剤としての機能を有し得る単量体(架橋性単量体)を含むことができる。架橋性単量体は、重合性不飽和結合を2以上有する単量体を含む。架橋性単量体は、例えば、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレ-ト、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、及びグリセリンジ(メタ)アクリレート等の2官能(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等の多官能(メタ)アクリレート;アリル(メタ)アクリレート;ジビニルベンゼン;並びにジアリルフタレート等を含む。架橋性単量体は、上記のうちの1種類を単独で又は2種類以上を含んでも良い。
【0057】
架橋性単量体は、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、及び3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤を含む。架橋性単量体は、上記のうちの1種類を単独で又は2種類以上を含んでも良い。
【0058】
(フッ素含有水性樹脂粒子分散物の製造方法)
フッ素含有水性樹脂粒子分散物(以下、分散物)は、両親媒性高分子の水性液に対して、フッ素含有(メタ)アクリル系単量体を含む単量体成分を添加し、ソープフリーマイクロエマルション重合を行うことにより製造される。分散物は、両親媒性高分子で形成された保護層によって覆われた、フッ素含有(メタ)アクリル系単量体を構成単位として含む樹脂粒子を含む。
【0059】
本明細書において、「ソープフリー」とは、乳化剤、界面活性剤、及び分散剤を使用しないことを意味する。また、「マイクロエマルション重合」とは、単量体を油相成分としてマイクロエマルションを作製した後に重合反応を行う重合方法を意味する。「マイクロエマルション」とは、平均粒子径100nm以下の樹脂粒子が、強い撹拌を受けることなく容易に分散するエマルションのことをいう。以下、フッ素含有水性樹脂粒子分散物の製造方法(製造工程1~3)を説明する。
【0060】
(製造工程1:両親媒性高分子の水性液の調製)
両親媒性高分子の水性液は、製造工程1を行うことにより得られる。すなわち、製造工程1は、疎水性単量体と親水性単量体を溶剤において溶液重合することで両親媒性高分子を合成した後、アルカリ性物質による中和後に水相に反転乳化し、両親媒性高分子の水性液を調製する工程を含む。
【0061】
溶剤は、好ましくは非反応性の溶剤である。溶剤は、例えば、ベンゼン、トルエン、及びキシレン等の芳香族炭化水素;ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、及びオクタン等の脂肪族炭化水素;カプリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、及びベヘニルアルコール等の炭素原子数8以上(より好ましくは8~22)の高級アルコール;酢酸エチル、酢酸プロピル、及び酢酸ブチル等のエステル系溶剤;メチルイソブチルケトン、及びメチルブチルケトン等のケトン系溶剤等を含む。溶剤は、上記のうちの1種類を単独で又は2種類以上を含んでも良い。上記の工程において溶剤を除去した後、両親媒性高分子の水性液を得るために、溶剤は、沸点が100℃未満の溶剤又は水と共沸可能な溶剤であることが好ましい。
【0062】
溶剤の使用量は、両親媒性高分子の合成に使用する疎水性単量体と親水性単量体との合計である単量体成分100質量部に対して、0~300質量部であることが好ましく、30~200質量部であることがより好ましく、50~150質量部であることがさらに好ましい。
【0063】
溶剤中で疎水性単量体と親水性単量体の単量体成分を重合する場合、この重合は、油溶性重合開始剤の存在下で行われ得る。油溶性重合開始剤は、後述の油溶性有機過酸化物や油溶性アゾ化合物等を含むことができる。両親媒性高分子を合成する際の油溶性重合開始剤の使用量は、両親媒性高分子の合成に使用する疎水性単量体と親水性単量体との合計である単量体成分100質量部に対して、0.01~3.0質量部であることが好ましく、0.03~2.0質量部であることがより好ましく、0.1~1.0質量部であることがさらに好ましい。
【0064】
架橋反応性高分子の合成後の中和に使用するアルカリ性物質は、例えば、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノールなどのアミン類;および、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物;などを含む。アルカリ性物質は、上記のうちの1種類を単独で又は2種類以上を含んでも良い。アルカリ性物質の使用量は、両親媒性高分子の水性液のpHが5.0~9.0、より好ましくは5.5~8.5、さらに好ましくは6.0~8.0の範囲内となるように適宜変更され得る。
【0065】
溶剤中で疎水性単量体と親水性単量体の単量体成分を重合する際に、連鎖移動剤が用いられ得る。連鎖移動剤は、例えば、チオグリコール酸オクチル、チオグリコール酸メトキシブチル、メルカプトプロピオン酸オクチル、メルカプトプロピオン酸メトキシブチル、ステアリルメルカプタン、ラウリルメルカプタンなどのメルカプタン類、α-メチルスチレンダイマーなどを含む。連鎖移動剤は、上記のうちの1種類を単独で又は2種類以上を含んでも良い。
【0066】
両親媒性高分子を得る際の重合温度は、重合開始剤の種類に応じて、40~100℃であることが好ましく、50~90℃であることがより好ましい。また、重合時間は、1~24時間であることが好ましく、3~12時間であることがより好ましい。
【0067】
反転乳化の際に使用する水相は、後述の水性分散媒と同様の液状媒体であって良く、少なくとも脱イオン水であることが好ましい。反転乳化により、両親媒性高分子の水性液が得られる。両親媒性高分子の水性液は、架橋反応性高分子が分散している水分散液でも良く、架橋反応性高分子が溶解している水溶液でも良く、水中に両親媒性高分子の一部が分散し、かつ他の一部が溶解している形態であっても良い。
【0068】
製造工程1は、上記の反転乳化の後に、溶剤を除去することを含むことが好ましい。両親媒性高分子、溶剤、及び水を含有する液を、例えば、減圧、加熱、又はそれらの両方の処理を行うことで、溶剤を除去することが可能である。溶剤を除去する際の温度は、40~90℃であることが好ましく、40~80℃であることがより好ましく、50~70℃であることがさらに好ましい。減圧条件は、-0.45~0.75MPaであることが好ましい。
【0069】
(製造工程2:フッ素含有(メタ)アクリル系単量体を含む混合液の調製)
フッ素含有(メタ)アクリル系単量体の混合液は、製造工程2を行うことにより得られる。すなわち、製造工程2は、少なくともフッ素含有(メタ)アクリル系単量体を含む単量体成分と重合開始剤を水性分散媒において混合し、単量体成分の混合液を調製する工程を含む。
【0070】
フッ素含有(メタ)アクリル系単量体の混合液は、少なくとも水を含む液状媒体である水性分散媒を含有する。水性分散媒は、水のみ、及び、水と混じり合うことができる有機溶剤の組み合わせであっても良い。水は、脱イオン水(イオン交換水)であることが好ましい。有機溶剤は、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチルカルビトール、及びN-メチルピロリドン等であるが、これらに限定されない。
【0071】
(製造工程3:フッ素含有(メタ)アクリル系単量体の重合)
フッ素含有水性樹脂粒子分散物は、製造工程3を行うことにより得られる。すなわち、製造工程3は、両親媒性高分子の水性液に対して混合液を添加及び混合した後、単量体成分を重合反応する工程を含む。
【0072】
フッ素含有水性樹脂粒子分散物は、樹脂粒子を安定な分散状態に保つ観点から、樹脂粒子の全質量に対して、両親媒性高分子を30質量%以上、300質量%以下で含有する。
【0073】
ソープフリーマイクロエマルション重合を行う際、水溶性重合開始剤及び油溶性重合開始剤等の重合開始剤が用いられ得る。本製造方法では、重合安定性の観点から、ソープフリーマイクロエマルション重合は、油溶性重合開始剤の存在下で行われることが好ましい。これにより、両親媒性高分子の水性液に分散したモノマー滴(フッ素含有(メタ)アクリル系単量体を含む単量体成分の油相滴)に溶解した油溶性重合開始剤からラジカルを発生させることができる。このラジカルは上記単量体成分の重合を進行させることができ、油相中でラジカルが発生することによる一種の懸濁重合が行われる。
【0074】
(油溶性重合開始剤)
油溶性重合開始剤は、例えば、4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシピバレート、ベンゾイルパーオキサイド、o-メチルベンゾイルパーオキサイド、ビス-3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、及びt-ブチルパーオキサイドなどの油溶性有機過酸化物、例えば、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)などの油溶性アゾ化合物を含む。油溶性重合開始剤は、好ましくは、油溶性アゾ化合物である。油溶性重合開始剤は、上記のうちの1種類を単独で又は2種類以上を含んでも良い。
【0075】
油溶性重合開始剤の使用量は、樹脂粒子の合成に使用する単量体成分100質量部に対して、0.01~3.0質量部であることが好ましく、0.03~2.0質量部であることがより好ましく、0.1~1.0質量部であることがさらに好ましい。
【0076】
両親媒性高分子の水性液への単量体成分や重合開始剤の添加方法は、特に限定されず、例えば、一括添加法、連続添加法、及び多段添加法等の方法であって良く、これらの添加方法は適宜組み合わせて用いられても良い。
【0077】
ソープフリーマイクロエマルション重合時の重合温度は、重合開始剤の種類に応じて、40~100℃であることが好ましく、50~90℃であることがより好ましく、55~85℃であることがさらに好ましい。また、ソープフリーマイクロエマルション重合時の重合時間は、1~24時間であることが好ましく、3~12時間であることがより好ましく、5~10時間であることがさらに好ましい。
【0078】
(架橋剤)
本発明のフッ素含有水性樹脂粒子分散物は、両親媒性高分子からなる保護層の反応性基と反応しうる基を2以上有する架橋剤をさらに含有することができる。フッ素含有水性樹脂粒子分散物に対して架橋剤を含有させることで、両親媒性高分子の保護層を架橋させて三次元網目構造を形成することができる。これにより、両親媒性高分子の保護層を硬化させることができ、機械的物性及び耐久性がより向上したフッ素含有水性樹脂粒子分散物から形成される皮膜を形成することができる。
【0079】
架橋剤は、両親媒性高分子の保護層の反応性基の種類に合わせて適宜選択され得る。例えば、反応性基がカルボニル基である場合には、多官能ヒドラジド化合物などを架橋剤として用いることが好ましい。反応性基がカルボキシ基である場合には、多官能エポキシ化合物、多官能カルボジイミド化合物、メチロールメラミンなどのメラミン系架橋剤、多官能オキサゾリン化合物、多価金属などを架橋剤として用いることが好ましい。反応性基がリン酸基又はリン酸エステル基である場合には、水酸基を多く有する化合物を架橋剤として用いることが好ましい。反応性基が水酸基である場合には、多官能イソシアネート化合物、そのブロック化イソシアネート、酸無水物などを架橋剤として用いることが好ましい。反応性基がグリシジル基である場合には、多官能カルボキシ基含有化合物、ポリアミン、酸無水物などを架橋剤として用いることが好ましい。反応性基がイソシアネート基又はブロック化イソシアネート基である場合には、ポリオール、ポリアミン、ポリカルボン酸化合物などを架橋剤として用いることが好ましい。反応性基がアルコキシシリル基である場合には、ポリアルコキシシリル基化合物などを架橋剤として用いることが好ましい。反応性基が(メタ)アクリロイル基である場合には、多価不飽和化合物などを架橋剤として用いることが好ましい。
【0080】
<フッ素含有水性樹脂粒子分散物の用途>
本発明のフッ素含有水性樹脂粒子分散物は、基材の耐水コーティング用として用いられる。フッ素含有水性樹脂粒子分散物は、耐水性に優れた皮膜を形成可能であるため、例えば、塗料、インク、接着剤、粘着剤、及びコーティング剤等の皮膜形成材料に好適に利用されうる。フッ素含有水性樹脂粒子分散物を用いて皮膜を形成する際には、皮膜を形成する基材に、フッ素含有水性樹脂粒子分散物を塗布し、乾燥させることで皮膜を形成することができる。塗布方法は、例えば、ロールコート法、バーコート法、スクリーンコート法、ダイコート法、スピンコート法、ナイフコート法、ブレードコート法、グラビアコート法、及びスプレーコート法等を含む。基材は、例えば、各種プラスチック、木材、ガラス、金属、及び紙等を含むが、これらに限られるものではない。
【0081】
<フッ素含有水性樹脂粒子分散物等の製造>
表1は、両親媒性高分子の水性液の製造に係る原料配合を示す。表2は、実施例1~6のフッ素含有水性樹脂粒子分散物の製造に係る原料配合と試験結果を示す。表3は、比較例1~3の含フッ素アクリル樹脂組成物の製造に係る原料配合と試験結果を示す。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
(製造例A-1 両親媒性高分子の水性液(A)の製造)
表1の製造例A-1の原料配合に基づいて、撹拌機、温度計、還流冷却器、及び滴下ロートを取り付けた四ツ口セパラブルフラスコに、酢酸ブチル100.6質量部、ブチルアクリレート(BA)36.5質量部、メチルメタクリレート(MMA)47.5質量部、アクリル酸(AAc)10質量部、2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)1質量部、ダイアセトンアクリルアミド(DAAM)5質量部、及びN-ドデシルメルカプタン(L-SH)1質量部を仕込み、窒素雰囲気下に撹拌しながら50℃に昇温した。
【0086】
アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.4質量部をセパラブルフラスコ内に添加し、直ちに85℃まで昇温した。セパラブルフラスコ内の温度を85℃に維持しながら、3時間重合した後に、25%アンモニア水12質量部と脱イオン水(DIW)40質量部の溶液を30分かけて添加した。30分撹拌した後、脱イオン水(DIW)240質量部を1時間かけて添加し連続相を水相に反転させた。
【0087】
次に、セパラブルフラスコ内の内温50~70℃、-0.45~0.75MPaの減圧下で酢酸ブチルを水とともに留去し、両親媒性高分子の水性液(A-1)を得た。両親媒性高分子の水性液(A-1)は、固形分30.0%の半透明液体であった。両親媒性高分子の平均粒子径は18nmであった。
【0088】
(製造例A-2 両親媒性高分子の水性液(A)の製造)
表1の製造例A-2の原料配合と、製造例A-1と同様の製造工程に基づいて、製造例A-2の両親媒性高分子の水性液を製造した。なお、C6SFAモノマーは、2-(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレートを表す。
【0089】
(実施例1 フッ素含有水性樹脂粒子分散物の製造)
表2の実施例1の原料配合に基づいて、撹拌機、温度計、還流冷却器、及び滴下ロートを取り付けた四ツ口セパラブルフラスコに、両親媒性高分子(A-1)333.3質量部(有効成分100.0質量部)及び脱イオン水366.3質量部を仕込んだ。窒素雰囲気下に撹拌しながら、2-(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート(C6SFAモノマー)80.0質量部、メチルメタクリレート(MMA)20.0質量部、及びアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.4質量部からなる単量体混合液を、両親媒性高分子(A-1)の混合液に対して30分かけて添加した。
【0090】
続いて、セパラブルフラスコ内の内温を70℃に昇温し、8時間かけて重合反応を行った後、室温まで冷却しフッ素含有水性樹脂粒子分散物を得た。フッ素含有水性樹脂粒子分散物の固形分は25.0%であった。フッ素含有水性樹脂粒子分散物の平均粒子径は21nmであった。
【0091】
(実施例2~6 フッ素含有水性樹脂粒子分散物の製造)
表2の実施例2~6の原料配合と、実施例1と同様の製造工程に基づいて、実施例2~6のフッ素含有水性樹脂粒子分散物を製造した。なお、ビスコート3Fは、2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレートのことを表す。
【0092】
(比較例1 含フッ素アクリル樹脂組成物の製造)
表3の比較例1の原料配合に基づいて、撹拌機、温度計、還流冷却器、及び滴下ロートを取り付けた四ツ口セパラブルフラスコに、脱イオン水229.4質量部及び反応性アニオン乳化剤としてアリルオキシメチルアルキルオキシポリオキシエチレンのスルホネート塩(商品名「アクアロンKH-10」、第一工業製薬(株)製)0.4質量部を仕込み、撹拌しながら内温を80℃まで昇温させた。
【0093】
一方、上記セパラブルフラスコとは別に、2-(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート(C6SFAモノマー)40.0質量部、メチルメタクリレート(MMA)33.0質量部、ブチルアクリレート(BA)25.0質量部、及びアクリル酸(AAc)2.0質量部の単量体成分、並びに反応性アニオン乳化剤としてアリルオキシメチルアルキルオキシポリオキシエチレンのスルホネート塩(商品名「アクアロンKH-10」、第一工業製薬(株)製)7.6質量部、及び脱イオン水49.2質量部を、ホモディスパーで乳化させ、単量体乳化液を調製した。
【0094】
次に、セパラブルフラスコ内の内温を80℃に維持しながら、そのセパラブルフラスコ内の脱イオン水に、10質量%濃度の過硫酸アンモニウム1部を添加し、直ちに、調製した単量体乳化液を滴下ロートから3時間かけて均一に滴下し、これと同時に、1質量%過硫酸アンモニウム水溶液20質量部を、3時間かけて均一に滴下した。滴下終了後、80℃で3時間維持した後、室温まで冷却し、25%アンモニア水1.7質量部にて中和し、含フッ素アクリル樹脂組成物を得た。得られた含フッ素アクリル樹脂組成物の固形分は21.5%であり、理論値(25.0%)よりも低く、重合時に多量の凝集物が生成した。含フッ素アクリル樹脂組成物の平均粒子径は151nmであった。
【0095】
(比較例2 含フッ素アクリル樹脂組成物の製造)
表3の比較例2の原料配合に基づいて、比較例1で用いた単量体成分を、2-(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート(C6SFAモノマー)20.0質量部、メチルメタクリレート(MMA)38.0質量部、ブチルアクリレート(BA)40.0質量部、及びアクリル酸(AAc)2.0質量部とした以外は、比較例1と同様の条件にて含フッ素アクリル樹脂組成物を得た。含フッ素アクリル樹脂組成物の固形分は24.0%であり、理論値よりも低く、重合時に凝集物が生成した。含フッ素アクリル樹脂組成物の平均粒子径は110nmであった。
【0096】
(比較例3 含フッ素アクリル樹脂組成物の製造)
表3の比較例3の原料配合に基づいて、撹拌機、温度計、還流冷却器、及び滴下ロートを取り付けた四ツ口セパラブルフラスコに、脱イオン水229.4質量部及び反応性アニオン乳化剤としてアリルオキシメチルアルキルオキシポリオキシエチレンのスルホネート塩(商品名「アクアロンKH-10」、第一工業製薬株式会社製;以下の反応性アニオン乳化剤も同じである。)0.4質量部を仕込み、撹拌しながら液温を80℃まで昇温させた。
【0097】
一方、上記フラスコとは別に、2-(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート(C6SFAモノマー)40.0質量部、メチルメタクリレート(MMA)10.0質量部からなる単量体成分(合計50.0質量部)、並びに反応性アニオン乳化剤3.6質量部、及び脱イオン水24.7質量部を、ホモディスパーで乳化させ、1段階目の単量体乳化液を調製した。
【0098】
次に、上記フラスコ内の液温を80℃に維持しながら、そのフラスコ内に、10質量%過硫酸アンモニウム水溶液1.0質量部を添加し、直ちに、調製した1段階目の単量体乳化液を滴下ロートから1時間かけて均一に滴下し、これと同時に、1質量%過硫酸アンモニウム水溶液10.0質量部を、1時間かけて均一に滴下した。さらに1時間重合した後に1段階目の乳化重合液を得た。
【0099】
続けて、予め調製した2段階目の単量体乳化液と1質量%過硫酸アンモニウム水溶液10質量部とを同時に、1時間かけて上記1段階目の乳化重合液に滴下した。2段階目の単量体乳化液には、メチルメタクリレート(MMA)20.0質量部、ブチルアクリレート(BA)25.0質量部、アクリル酸(AAc)2.0質量部、2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)0.5質量部、及びダイアセトンアクリルアミド(DAAM)2.5質量部からなる単量体成分(合計50.0質量部)、反応性アニオン乳化剤4質量部、及び脱イオン水24.5質量部からなる単量体乳化液を使用した。滴下終了後の重合液を80℃で3時間維持した後、室温(約25℃)まで冷却し、重合液に25質量%アンモニア水1.7質量部を添加して中和して、比較例3の含フッ素アクリル系樹脂組成物を得た。含フッ素アクリル系樹脂組成物の固形分は23.8%であり、理論値(25.0%)よりも低く、重合時に多量の凝集物が生成した。含フッ素アクリル系樹脂組成物の平均粒子径は144nmであった。
【0100】
<試験方法>
実施例1~6のフッ素含有水性樹脂粒子分散物及び比較例1~3の含フッ素アクリル系樹脂組成物を用いて、以下の試験例1~4の試験を行うことで、性能評価を行った。
【0101】
(試験例1 平均粒子径の測定)
フッ素含有水性樹脂粒子分散物の平均粒子径(d50)、及び、含フッ素アクリル系樹脂組成物の平均粒子径(d50)は、粒度分布測定装置(大塚電子社製、商品名「濃厚系粒径アナライザー FPAR-1000」)を用いて測定された。
【0102】
(試験例2 製造安定性の評価)
フッ素含有水性樹脂粒子分散物及び含フッ素アクリル系樹脂組成物の製造後に凝集物の生成状況を目視で確認した。以下の評価基準に基づいて、フッ素含有水性樹脂粒子分散物及び含フッ素アクリル系樹脂組成物を製造する際の製造安定性を評価した。
(評価基準)
〇:凝集物の生成はほとんどみられない。
△:少量の凝集物が生成されている。
×:多量の凝集物が生成されている。
【0103】
(試験例3 保存安定性の評価)
フッ素含有水性樹脂粒子分散物及び含フッ素アクリル系樹脂組成物のそれぞれをガラス製のバイアル瓶にそれぞれ入れて、40℃にて静置した。静置して1週間後のバイアル瓶内の内容物の状態(すなわち、沈降物の有無)を目視で確認した。以下の評価基準に基づいて、フッ素含有水性樹脂粒子分散物及び含フッ素アクリル系樹脂組成物を製造する際の保存安定性を評価した。
(評価基準)
〇:沈降物がみられない。
×:沈降物がみられる。
【0104】
(試験例4 水接触角の測定)
フッ素含有水性樹脂粒子分散物又は含フッ素アクリル系樹脂組成物の20gに対して5%アジピン酸ジヒドラジド水溶液1.25gを添加した混合物を、ガラス板上にアプリケーターを用いて100μmの厚みで塗布し、60℃にて20分乾燥させて試験板を得た。得られた試験板の表面に、2μLの水滴を滴下し、全自動接触角計(協和界面化学(株)製、装置名:DMo-701)を用い、液適法にて、水接触角を測定した。
【0105】
<試験結果>
表2~3を参照しつつ、実施例1~6及び比較例1~3の試験結果について説明する。まず、実施例1~6は、全評価項目(平均粒子径、製造安定性、保存安定性、水接触角)において優れた性能を有していた。一方で、比較例1~3は、一部の評価項目に対する性能しか満足していなかった。以下、実施例1と比較例1~3との比較について説明する。
【0106】
(実施例1と比較例1の比較)
実施例1の製造安定性及び保存安定性は、比較例1(両親媒性高分子を含まない場合)よりも向上した。比較例1は、ホモディスパーで乳化させた反応性アニオン乳化剤含有の単量体乳化液を重合している。そのため、比較例1の含フッ素アクリル系樹脂組成物の平均粒子径(151nm)は、本発明で規定した平均粒子径(20~100nm)よりも大きい。平均粒子径が大きい粒子ほど水性分散媒中で沈降しやすくなるため、比較例1の製造安定性及び保存安定性は低下している。一方で、実施例1は、乳化剤等の代替として両親媒性高分子の水性液に対して単量体混合液を添加・混合した後に重合(本明細書におけるソープフリーマイクロエマルション重合)を行っているため、フッ素含有水性樹脂粒子分散物の平均粒子径を小さくすることができる。また、実施例1のフッ素含有水性樹脂粒子分散物の平均粒子径は非常に小さいため、水性分散媒中での樹脂粒子の沈降が抑制されている。これにより、実施例1の製造安定性及び保存安定性は優れている。
【0107】
(実施例1と比較例2の比較)
実施例1の製造安定性及び保存安定性は、比較例2(フッ素含有(メタ)アクリル系単量体を少量含む場合)よりも向上した。比較例2は、本発明で規定したフッ素含有(メタ)アクリル系単量体の配合量(樹脂粒子の全質量に対して40質量%以上、100質量%以下)よりも少量を含フッ素アクリル系樹脂組成物に含有させているが、含フッ素アクリル系樹脂組成物の平均粒子径を小さくすることができない。そのため、比較例2の製造安定性及び保存安定性は低下している。実施例1の説明は上記と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0108】
(実施例1と比較例3の比較)
実施例1の製造安定性及び保存安定性は、比較例3(2段階重合を行う場合)よりも向上した。比較例3は、乳化剤存在下で疎水性の高いフッ素含有(メタ)アクリル系単量体を含む単量体乳化液を重合した後に、その他の単量体を構成単位として含む単量体乳化液を添加・混合し、さらに重合している。比較例3は、実施例1と同様に2段階重合を行っているが、含フッ素アクリル系樹脂組成物の平均粒子径を小さくすることができない。そのため、比較例3の製造安定性及び保存安定性は低下している。実施例1の説明は上記と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0109】
以上の通り、本発明のフッ素含有水性樹脂粒子分散物は、長期保存安定性に優れるといった顕著な効果を有する。また、一般的にフッ素樹脂の屈折率は、アクリル樹脂の屈折率と比較して低い。このため、フッ素樹脂とアクリル樹脂の複合材を形成した場合、複合材の透明性が低下することがある。しかし、本発明のフッ素含有水性樹脂粒子分散物の平均粒子径は非常に小さいため、可視光が複合材(すなわち、フッ素含有水性樹脂粒子分散物から形成される皮膜)を透過することができる。このように、本発明のフッ素含有水性樹脂粒子分散物は、複合材(上記の皮膜)の透明性を高めるといった効果も有する。
【0110】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【要約】
【課題】本発明は、長期保存安定性に優れたフッ素含有水性樹脂粒子分散物を提供することを目的とする。
【解決手段】
両親媒性高分子と樹脂粒子を含有するフッ素含有水性樹脂粒子分散物は、疎水性単量体と親水性単量体との共重合体からなる両親媒性高分子と、前記両親媒性高分子で形成された保護層によって覆われる、少なくともフッ素含有(メタ)アクリル系単量体を構成単位として含有する樹脂粒子と、を含む。前記フッ素含有水性樹脂粒子分散物の平均粒子径は20~100nmである。ここで、前記フッ素含有水性樹脂粒子分散物の平均粒子径は、動的光散乱法を用いて測定される。

【選択図】なし