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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-21
(45)【発行日】2023-03-02
(54)【発明の名称】海苔網処理船
(51)【国際特許分類】
   A01G 33/02 20060101AFI20230222BHJP
【FI】
A01G33/02 101J
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019041591
(22)【出願日】2019-03-07
(65)【公開番号】P2020141618
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】599048786
【氏名又は名称】光洋通商株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】笠井 秀城
(72)【発明者】
【氏名】笠井 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】笠井 弘子
【審査官】星野 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-332406(JP,A)
【文献】実開昭60-035163(JP,U)
【文献】実開昭58-004942(JP,U)
【文献】特開2018-068164(JP,A)
【文献】特開2004-081186(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸処理液を貯留する処理槽と、
前記処理槽の内側に設けられ、海苔網を巻き付けるロールと、
該ロールに沿って前記処理槽に設けられ、酸原液を吐出する吐出部と、
前記酸原液を前記吐出部に供給する供給装置とを備え、
前記吐出部は、前記処理槽に形成された貫通孔を備え、前記貫通孔において前記処理槽の外側から前記酸原液が供給され、また前記貫通孔において前記内側に設けられるカバー部材をさらに備え、
前記供給装置は、前記酸原液を下方から前記吐出部に供給し、
前記カバー部材は、前記貫通孔から吐出した前記酸原液が衝突するドーム状に湾曲した内面を備えることを特徴とする海苔網処理船。
【請求項2】
前記カバー部材は、前記貫通孔から吐出する前記酸原液を下方に案内する案内溝を備えることを特徴とする請求項1に記載の海苔網処理船。
【請求項3】
前記貫通孔は、前記酸処理液の液面より上方に位置することを特徴とする請求項1または2に記載の海苔網処理船。
【請求項4】
前記吐出部は、前記ロールの回転軸方向に所定間隔で配列する複数の吐出孔を備えることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の海苔網処理船。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海苔網処理船に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、海苔網を酸処理槽内に巻き取って酸処理液に浸漬させて酸処理する箱型船(海苔網処理船)において、上記酸処理槽内に酸原液を吐出する原液吐出部を酸処理槽において海苔網の進入側に設けることが開示されている。上記原液吐出部は、酸処理槽内に近接して設けられる一対のパイプである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-068316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記背景技術では、原液吐出部(吐出部)が海苔網に干渉しない位置つまり海苔網の進入側に設けられているものの、酸処理槽(処理槽)の表面に吐出部が突出物として設けられる。すなわち、従来の吐出部は、処理槽の表面から内側に突出した状態で設けられているので、例えば処理槽をより小型化した場合に海苔網に干渉する虞がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、吐出部の海苔網との干渉を従来よりも低減することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、海苔網処理船に係る第1の解決手段として、酸処理液を貯留する処理槽と、前記処理槽の内側に設けられ、海苔網を巻き付けるロールと、該ロールに沿って前記処理槽に設けられ、酸原液を吐出する吐出部と、前記酸原液を前記吐出部に供給する供給装置とを備え、前記吐出部は、前記処理槽に形成された貫通孔を備え、前記貫通孔において前記処理槽の外側から前記酸原液が供給される、という手段を採用する。
【0007】
本発明では、海苔網処理船に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記供給装置は、前記酸原液を下方から前記吐出部に供給する、という手段を採用する。
【0008】
本発明では、海苔網処理船に係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、前記貫通孔は、前記酸処理液の液面より上方に位置する、という手段を採用する。
【0009】
本発明では、海苔網処理船に係る第4の解決手段として、上記第1~第3のいずれかの解決手段において、前記吐出部は、前記ロールの回転軸方向に所定間隔で配列する複数の吐出孔を備える、という手段を採用する。
【0010】
本発明では、海苔網処理船に係る第5の解決手段として、上記第1~第4のいずれかの解決手段において、前記吐出部は、前記貫通孔において前記内側に設けられるカバー部材をさらに備える、という手段を採用する。
【0011】
本発明では、海苔網処理船に係る第6の解決手段として、上記第5の解決手段において、前記カバー部材は、前記貫通孔から吐出する前記酸原液を下方に案内する案内溝を備える、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、処理槽に設けた貫通孔から処理槽内に吐出するので、酸原液を吐出部の海苔網との干渉を従来よりも低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る海苔網処理船Aの全体構成を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態における吐出部の拡大図であり、(a)は図1におけるX-X線拡大断面図、(b)は拡大正面図である。
図3】本発明の一実施形態における吐出ユニットの構成を示す図であり、(a)は正面図、(b)は上記正面図におけるY-Y線断面図(縦断面図)である。
図4】本発明の一実施形態における吐出ユニットの変形例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態に係る海苔網処理船Aは、図1に示すように、船体1、処理槽2、ロール3、一対の吐出部4A,4B、一対のバルブ5A,5B、一対のpHセンサ6A,6B、制御器7、ポンプ8及びタンク9を備え、海苔網Wに対して酸処理を施す酸処理装置である。
【0015】
上記海苔網Wは、海苔の養殖に供される長尺状の漁業用網であり、縦横に配置された複数の線条を格子状に連結したものである。このような海苔網Wは、海苔の養殖場に複数条敷設されている。養殖対象である海苔は、海苔網Wに付着した状態で生育する。
【0016】
本実施形態に係る海苔網処理船Aは、海苔が付着した海苔網W、より正確には海苔網Wに付着している海苔を酸処理の対象としている。ここでは詳説しないが、養殖中の海苔に酸処理を施すことによって海苔の生育が促進されることが公知であり、海苔の養殖では酸処理が一般的に行われている。
【0017】
船体1は、図1に示すように、正面視で長尺矩形状の樹脂製浮体であり、船体1の長手方向の一端(先端)が台形状に成形されている。この船体1は、例えば長手方向の寸法が約3.8m、短手方向(図1における左右方向)の寸法が約1.2mの繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastic)製である。なお、この船体1は、図示しない推進装置を備えている。
【0018】
処理槽2は、図1及び図2に示すように、船体1の中央に形成された半円筒状の窪み部であり、上方が開放されている。この処理槽2は、船体1と一体に形成されたFRP等の樹脂製容器であり、周面部2aと一対の端面部2b,2cとを備えている。上記周面部2aは、半円筒形状の面部(半円筒面部)であり、端面部2b,2cは、いずれも半円形状の面部(半円面部)である。このような酸処理槽3は、所定量の酸処理液Pを貯留する開放容器である。
【0019】
この処理槽2の周面部2aには、複数の貫通孔2dが形成されている(図3(b)参照)。これら貫通孔2dは、ロール3及び酸処理液Pが設けられた処理槽2の内側と、船体1と処理槽2との空隙である処理槽2の外側とを連通させる開口である。各貫通孔2dは、処理槽2の長手方向つまりロール3の回転軸に平行な方向に沿って、またロール3を挟む処理槽2の左右に所定間隔かつ直線状に配列している。
【0020】
ここで、処理槽2の周面部2aにおけるFRP等の樹脂材の厚さは略均等である。すなわち、処理槽2の内側面(表面)と外側面(裏面)とは略平行な関係にある。上記貫通孔2dは、このような処理槽2の周面部2aにおいて、表面と裏面とに略直交する姿勢で形成されている。
【0021】
酸処理液Pは、ロール3に巻き取られることによって処理槽2に収容された海苔網Wの海苔に酸処理を施す液体である。より具体的には、この酸処理液Pは、所定の有機酸あるいは塩酸等の酸原液Mが養殖場の海水によって希釈されたものであり、例えばpH=0.4~2.6を有する希釈酸である。このような酸処理液Pは、海苔網Wが浸漬されることによって、海苔網Wに付着した海苔に酸処理を施す。
【0022】
ロール3は、処理槽2の中央部に当該処理槽2の長手方向に沿って配置された回転体である。このロール3は、処理槽2の内側に直線状に設けられ、中心軸周りに回転(正転)することによって海苔網Wを巻き取り、中心軸周りに反転することによって海苔網Wを巻き戻す。なお、図1では、1本のロール3が示されているが、海苔網Wの幅によっては長手方向に直線状に配置された2本が設けられる。
【0023】
一対の吐出部4A,4Bは、ロール3に沿って処理槽2の左右に設けられ、酸原液Mを処理槽2内に吐出する。すなわち、一対の吐出部4A,4Bは、処理槽2の左右に二条に設けられた処理槽2の貫通孔2dに対応して設けられている。一方の吐出部4Aは、処理槽2においてロール3を挟んで一方側(図1及び図2(a)では左側)に設けられ、他方の吐出部4Bは、ロール3を挟んで他方側(図1及び図2(a)では右側)に設けられている。このような一対の吐出部4A,4Bの位置は、船体1において海苔網Wが処理槽2に進入して来る側、つまり船体1の左右側である。
【0024】
このような一対の吐出部4A,4Bは、図2(b)に示す吐出ユニットUの集合体であり、下方から酸原液Mが供給される。すなわち、各吐出部4A,4Bは、複数の吐出ユニットUが処理槽2の長手方向つまりロール3の回転軸に平行な方向に所定間隔で直線状に配列したものである。また、各吐出ユニットUつまり一対の吐出部4A,4Bは、図2(a)に示すように、処理槽2において酸処理液Pの液面よりも上方に位置している。
【0025】
このような吐出ユニットUは、図3に示すように、本体4aとカバー部材4bと3つの雄ネジ4cを備えている。本体4aは、処理槽2の貫通孔2dに係合する略筒状の部品である。この本体4aは、処理槽2の外側から貫通孔2dに固定装着されており、一端(先端)が処理槽2の内側(表面)に露出し、他端(後端)が接続チューブを介してポンプ8に接続されている。
【0026】
このような本体4aには、先端から後端に連通すると共に先端から酸原液Mを吐出する吐出孔4dが形成されている。すなわち、各々の吐出部4A,4Bは、ロール3の回転軸方向に所定間隔で配列する複数の吐出孔4dを備えている。これら吐出孔4dは、略筒状の本体4aの中心軸に符合する位置に形成されており、本体4aの後端から供給された酸原液Mを挿通させて先端から処理槽2内に吐出する。このような吐出孔4dにおける酸原液Mの吐出方向は、例えば処理槽2の内面に対して直行する方向である。
【0027】
カバー部材4bは、取付部材4eと受部材4fとが一体に接合された部品であり、処理槽2の内側(表面)に設けられている。取付部材4eは、円環状(リング状)の平板の一部を所定の角度範囲に亘って切欠いた形状であり、3箇所に雄ネジ4cが挿通するネジ挿入孔が形成されている。すなわち、カバー部材4bは、3つの雄ネジ4cによって処理槽2に対して着脱自在に設けられている。
【0028】
この取付部材4eにおける切欠部4gは、図3(a)に示すように本体4aの下方を中心とするあるいは当該中心を含む所定の角度範囲に設けられている。この角度範囲は、例えば本体4aの下方を中心とする±30°の範囲あるいは本体4aの下方を含む30°の範囲である。このような切欠部4gは、貫通孔4dから吐出する酸原液Mを下方に案内する案内溝として機能する。
【0029】
受部材4fは、円形平板を3次元的に湾曲させたドーム状の板材であり、周縁が取付部材4eの片面に接合されている。すなわち、この受部材4fは、本体4aの先端(吐出孔)に対峙する内面4h(カバー内面)が湾曲した凹面である。なお、このようなカバー部材4bは、例えばステンレス等の金属製部品である。
【0030】
このような一対の吐出部4A,4Bは、処理槽2に形成された貫通孔2dを構成要素をして含むものであり、当該貫通孔2dを介して処理槽2の外側から供給される酸原液Mを処理槽2内に吐出するものである。なお、一対の吐出部4A,4Bにおいて、処理槽2の内側(表面)に突出する部位は、カバー部材4bのみである。
【0031】
一対のバルブ5A,5Bは、図1に示すように、ポンプ8と一対の吐出部4A,4Bとの間にそれぞれ設けられており、酸原液Mの通過流量を手動調節する手動バルブである。このような一対のバルブ5A,5Bのうち、一方のバルブ5Aは、一方の吐出部4Aへの酸原液Mの供給量を調節し、他方のバルブ5Bは、他方の吐出部4Bへの酸原液Mの供給量を調節する。
【0032】
一対のpHセンサ6A,6Bは、酸処理液PのpH値を検出するセンサである。このpHセンサ6A,6Bは、処理槽2内において、ロール3の長手方向における両端部に設けられている。すなわち、一対のpHセンサ6A,6Bのうち、一方のpHセンサ6Aは、ロール3の長手方向において船体1の後端側に設けられ、他方のpHセンサ6Bは、ロール3の長手方向において船体1の先端側に設けられている。
【0033】
また、一対のpHセンサ6A,6Bは、下端部が処理槽2内において処理槽2の底面に接触しない状態つまり処理槽2の底面から若干の上方に位置している。このような一対のpHセンサ6A,6Bのうち、一方のpHセンサ6Aは、酸処理液PのpH検出値を第1検出値として制御器7に出力し、他方のpHセンサ6Bは、酸処理液PのpH検出値を第2検出値として制御器7に出力する。
【0034】
制御器7は、一対のpHセンサ6A,6Bから入力される第1、第2検出値とpH目標値とに基づいてポンプ8をフィードバック制御するPID制御装置である。この制御器7は、第1検出値と第2検出値との平均値を演算し、当該平均値とpH目標値との差分が「ゼロ」となるように操作信号を生成してポンプ8に出力する。なお、上記pH目標値は、制御器7に対して予め手動設定された設定値である。
【0035】
ポンプ8は、上記操作信号に基づいて回転数が変化する容量ポンプである。すなわち、このポンプ8は、所定の接続チューブによってタンク9及び吐出部4A,4Bに接続されており、上記操作信号に応じた流量の酸原液Mをタンク9から吐出部4A,4Bに供給する。
【0036】
タンク9は、酸原液Mを貯蔵する所定容量の容器である。このタンク9は、接続チューブによってポンプ8と接続されており、当該ポンプ8の回転数に応じた流量の酸原液Mをポンプ8に排出する。
【0037】
なお、上述した一対のpHセンサ6A,6B、制御器7、ポンプ8及びタンク9は、本発明における供給装置を構成している。すなわち、制御器7、ポンプ8及びタンク9は、一対のpHセンサ6A,6BのpH検出値に基づいて一対の吐出部4A,4Bに供給する酸原液Mの供給量を自動調節する。
【0038】
ここで、酸原液Mは、酸処理液PのpH値よりも低いpH値つまり酸処理液Pよりも高い酸性度を有する酸の水溶液である。この酸原液Mは、例えばリンゴ酸や乳酸、クエン酸等の有機酸、pH調整剤としての食品添加物の塩酸、有機酸や塩酸等の酸に浸透圧を高めるための食塩を添加したもの、あるいは所定の酸に酸処理液Pを混合したものである。また、この酸原液Mは、視認可能なように透明以外の所定色、例えばカラメルによって茶色に着色されている。
【0039】
次に、本実施形態に係る海苔網処理船Aを用いた酸処理作業について、海苔網処理船Aの動作をも含めて詳しく説明する。
【0040】
海苔網処理船Aを用いた酸処理作業では、作業者が海苔網処理船Aを操作することにより海上の海苔網Wをロール5に順次巻き取り、海苔網Wを酸処理液Pに浸漬させる。そして、作業者は、海苔網Wをロール5に巻き取ってから取所定時間が経過すると、海苔網Wをロール5から巻き戻して海上に送り出す。
【0041】
すなわち、ロール5に海苔網Wを巻き取ってから巻き戻すまでの時間は、海苔網Wが酸処理液Pに接触する酸処理時間である。作業者は、海苔網処理船Aを順次移動させることにより、海上に予め付設(定置)された複数の海苔網Wに対して所定の酸処理時間に亘る酸処理を順次行う。
【0042】
ここで、酸処理作業において各海苔網Wに対して安定した酸処理を施すためには、酸処理液PのpH値つまりpHセンサ6が検出するpH検出値をpH目標値に安定維持することが極めて重要である。pH検出値が変動すると、酸処理の効果が不十分であったり、あるいは過度の酸処理によって海苔にダメージを与えることになる。
【0043】
このような事情から、本実施形態に係る海苔網処理船Aでは、pH検出値とpH目標値とに基づいてポンプ8をフィードバック制御することにより、処理槽2内における酸処理液PのpH値(pH検出値)をpH目標値に維持させる。すなわち、制御器7は、一対のpHセンサ6A,6BのpH検出値の平均値がpH目標値に等しくなるようにポンプ8の回転数を制御する。
【0044】
この結果、一対の吐出部4A,4Bでは、各吐出ユニットUにおける本体4aの吐出孔4dから酸原液Mが処理槽2内に向かって吐出する。この酸原液Mは、処理槽2の表面を伝わって切欠き部4gから下方に流下する。酸原液Mの吐出流速にも依るが、当該吐出流速が比較的速い場合、吐出孔4dから吐出した酸原液Mは、吐出ユニットUにおけるカバー部材4bの内面4h(カバー内面)に衝突した後、ドーム状に湾曲した内面4hに沿って流下し、切欠き部4gを介して処理槽2の表面を流下することにより酸処理液P内に浸入する。
【0045】
また、このような酸処理では、酸処理液PのpH値(pH検出値)に局所的な偏差が生じると、海苔網Wの全体に対して均一な酸処理を施することができない。すなわち、1枚の海苔網Wの一部に対する酸処理が不十分となったり、あるいは1枚の海苔網Wの一部に対する酸処理が過多になったりして、1枚の海苔網Wに対する酸処理の効果が不均一となる。このような酸処理は品質の悪い酸処理である。
【0046】
本実施形態に係る海苔網処理船Aでは、酸処理の均一性を確保するために、ロール3を挟んで両側に吐出部4A,4Bを設けている。すなわち、海苔網Wがロール3に巻き取られる度に、海苔網Wと共に海水が処理槽2内に流れ込んで酸処理液PのpH値(pH検出値)がpH目標値から変位する。
【0047】
しかしながら、この海苔網処理船Aでは、ロール3を挟んで処理槽2の両側に吐出部4A,4Bを設けているので、つまり処理槽2の長手方向に直交する方向において離間した2箇所に酸原液Mを供給する。したがって、この海苔網処理船Aによれば、処理槽2の左右方向における酸処理液PのpH値(pH検出値)をpH目標値に対して均一化することが可能である。
【0048】
また、この海苔網処理船Aにおける吐出部4A,4Bは、処理槽2の長手方向つまりロール3の回転軸方向に沿って複数の吐出ユニットUが配列する構成を備えている。すなわち、この海苔網処理船Aでは、処理槽2の長手方向における複数個所に酸原液Mを供給する。したがって、この海苔網処理船Aによれば、処理槽2の長手方向における酸処理液PのpH値(pH検出値)をpH目標値に対して均一化することが可能である。
【0049】
また、この海苔網処理船Aの吐出部4A,4Bは、処理槽2の表面から突出している部位が実質的に吐出ユニットUのカバー部材4bのみである。すなわち、この海苔網処理船Aは、処理槽2に設けた貫通孔2dの外側から内側に向けいて酸原液Mを処理槽2内に吐出するので、処理槽(酸処理槽)の内側にパイプを設ける従来の海苔網処理船に比較して処理槽2の表面における突出量が極端に小さい。したがって、この海苔網処理船Aによれば、吐出部4A,4Bの海苔網Wとの干渉を従来よりも大幅に低減することが可能である。
【0050】
また、この海苔網処理船Aの吐出部4A,4Bは、処理槽2において酸処理液Pの液面よりも上方に位置しており、また酸原液Mが着色されている。すなわち、例えば吐出ユニットUにおける本体4aの吐出孔が目詰まり等によって閉塞し、酸原液Mの吐出不良が生じた場合に、作業者は当該吐出不良に速やかに築くことが可能である。したがって、この海苔網処理船Aによれば、吐出部4A,4Bの不具合に対して速やかな対策を施すことが可能である。
【0051】
また、この海苔網処理船Aにおける吐出部4A,4Bは、カバー部材4bを備えている。したがって、この海苔網処理船Aによれば、各吐出ユニットUにおける吐出孔4dから吐出した酸原液Mがロール3の方向つまり海苔網Wに向かって飛散することをより確実に防止することができる。
【0052】
また、上記カバー部材4bにおける切欠き部4gは、本体4aつまり吐出孔4dの下方のみではなく、当該下方を中心とするあるいは当該中心を含む所定の角度範囲に設けられている。すなわち、一対の吐出部4A,4Bでは、処理槽2の表面において酸原液Mを下方の狭い領域ではなく、広い領域で流下させることが可能である。したがって、この海苔網処理船Aによれば、処理槽2の表面において酸原液Mを比較的薄い層として流下させることが可能であり、よって酸原液Mの酸処理液Pへの混合性能を向上させることが可能である。
【0053】
なお、海苔網Wをロール3に巻き取る際及び海苔網Wをロール3から巻き戻す際等に処理槽2内の酸処理液Pには水流や揺動が発生する。酸処理液P中に浸入した酸原液Mは、このような酸処理液Pの水流や揺動によって攪拌され、酸処理液PのpH値を全体としてpH目標値に調整する。
【0054】
さらに、この海苔網処理船Aにおける一対の吐出部4A,4Bつまり吐出ユニットUの集合体には下方から酸原液Mが供給される。すなわち、ポンプ8が作動を停止すると、吐出部4A,4Bからの酸原液Mの吐出が速やかに停止する。したがって、この海苔網処理船Aによれば、無用な酸原液Mが酸処理液Pに流れ込むことを効果的に抑制することが可能である。
【0055】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態では、ロール3が直線状に1本あるいは2本並ぶタイプの海苔網処理船Aについて説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明は、特許文献1に開示されているように複数のロールが平行対峙するタイプの海苔網処理船にも適用可能である。この場合にも、一対の吐出部は、ロールに巻き取られる海苔網が処理槽に進入して来る側つまり船体の左右側に設けられる。
【0056】
(2)上記実施形態では、本体4aとカバー部材4bと3つの雄ネジ4cを備える吐出ユニットUを採用したが、本発明はこれに限定されない。上述した吐出ユニットUの構成は、あくまで一例である。例えば、本発明のカバー部材の形状は上述したカバー部材4bの形状に限定されず、取付部材が楕円形や矩形の一部を切り欠いた形状であったり、受部材が楕円形や矩形であってもよい。
【0057】
また、取付部材における切欠部(案内溝)の形状も上述した形状に限定されず、他の形状であってもよい。また、上述したカバー部材4bは、取付部材4eと受部材4fとが一体に接合された金属製部品であるが、取付部材4eと受部材4fとが一体に形成された樹脂成型部品であってもよい。
【0058】
(3)さらに、図4に示すようなカバー部材4iを備える吐出ユニットU’を採用してもよい。このカバー部材4iは、吐出部毎に単一カバーとして設けられるものである。すなわち、カバー部材4iは、処理槽2の左側に配列する複数の本体4a(吐出孔4d)と処理槽2の右側に配列する複数の本体4a(吐出孔4d)とに対して個別に設けられるものであり、処理槽2の左右に直線状に配列する複数の本体4a(吐出孔4d)を全体として覆うように長尺状に形成されている。このような吐出ユニットU’によれば、上述したカバー部材4bよりも使用個数が大幅に低下するので、交換等のメンテナンスが容易である。
【0059】
(4)上記実施形態では、一対の吐出部4A,4Bを設けたが、本発明はこれに限定されない。必要に応じて一対の吐出部4A,4Bのいずれか一方のみを設けてもよい。また、上述したカバー部材4b,4iについては必要に応じて省略してもよい。また、各吐出部4A,4Bにおける吐出孔4dの個数つまり処理槽2の貫通孔2aの個数については、処理槽2の形状や大きさ等に基づいて適宜設定すればよい。
【0060】
(5)上記実施形態では、各々の吐出部4A,4Bについて、複数の吐出ユニットUを直線状に配列させたが、本発明はこれに限定されない。複数の吐出ユニットUの配列形態については、必要に応じて直線以外の形態であってもよい。また、複数の吐出ユニットUの配列形態は、直線状の配列形態であってもロール3に対して平行である必要はなく、ロール3に対して傾斜していてもよい。
【0061】
(6)上記実施形態では、図2(b)に示したように、吐出ユニットUの下方から酸原液Mを供給したが、本発明はこれに限定されない。このような吐出ユニットUへの酸原液Mの供給形態は、上述したように酸処理液Pに対する酸原液Mの供給量の適正化を目的としているので、このような適正化に配慮する必要がない場合には吐出ユニットUと同一の高さから酸原液Mを供給してもよく、また極端には吐出ユニットUよりも高い位置から酸原液Mを供給してもよい。
【0062】
(7)上記実施形態では、吐出ユニットUにおける酸原液Mの吐出方向を処理槽2の内面に対する直行方向に設定したが、本発明はこれに限定されない。酸原液Mの吐出方向については、上記直行方向に対して傾斜した方向、例えば下方に傾斜した方向に設定してもよい。
【0063】
(8)上記実施形態では、一対の吐出部4A,4Bつまり各吐出ユニットUを処理槽2において酸処理液Pの液面よりも上方に位置するように設けたが、本発明はこれに限定されない。必要に応じて一対の吐出部4A,4Bつまり各吐出ユニットUを酸処理液Pの液面よりも下方つまり酸処理液P中に設けてもよい。
【符号の説明】
【0064】
A 海苔網処理船
W 海苔網
M 酸処理液
U,U’ 吐出ユニット
1 船体
2 処理槽
2a 周面部
2b,2c 端面部
2d 貫通孔
3 ロール
4A,4B 吐出部
4a 本体
4b,4i カバー部材
4c 雄ネジ
4d 吐出孔
4e 取付部材
4f 受部材
4g 切欠部(案内溝)
4h 内面
5A,5B バルブ
6A,6B pHセンサ
7 制御器
8 ポンプ
9 タンク
図1
図2
図3
図4