(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-21
(45)【発行日】2023-03-02
(54)【発明の名称】金属積層造形用粉末およびその製造方法と、積層造形装置およびその制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B22F 1/14 20220101AFI20230222BHJP
C22C 14/00 20060101ALI20230222BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20230222BHJP
B22F 9/08 20060101ALI20230222BHJP
B22F 9/14 20060101ALI20230222BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20230222BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20230222BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20230222BHJP
B33Y 40/10 20200101ALI20230222BHJP
C22C 19/03 20060101ALI20230222BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20230222BHJP
【FI】
B22F1/14
C22C14/00 Z
B22F1/00 K
B22F1/00 M
B22F1/00 L
B22F1/00 P
B22F1/00 N
B22F1/00 S
B22F1/00 R
B22F9/08 A
B22F9/14 Z
B33Y70/00
B33Y30/00
B33Y50/02
B33Y40/10
C22C19/03 Z
B22F10/28
(21)【出願番号】P 2020547920
(86)(22)【出願日】2019-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2019010679
(87)【国際公開番号】W WO2020059183
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2020-11-13
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/034700
(32)【優先日】2018-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代型産業用3Dプリンタの造形技術開発・実用化事業(委託事業)」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】514227988
【氏名又は名称】技術研究組合次世代3D積層造形技術総合開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100134430
【氏名又は名称】加藤 卓士
(72)【発明者】
【氏名】千葉 晶彦
(72)【発明者】
【氏名】工藤 貴浩
(72)【発明者】
【氏名】台野 洋平
(72)【発明者】
【氏名】青柳 健大
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/006610(WO,A1)
【文献】特開2015-059236(JP,A)
【文献】特開平07-331301(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0216919(US,A1)
【文献】特開2017-197834(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106914626(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107507689(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105344436(CN,A)
【文献】特開2007-324270(JP,A)
【文献】千葉晶彦、青柳健大、山中謙太,電子ビーム積層造形における残留応力および「スモーク」を同時に除去するための予熱温度制御技術の探索,日本金属学会講演概要集(DVD-ROM),日本,2018年09月05日,2018年(第163回)秋期講演大会,No.298,特に、第15行-23行
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00,1/14
B22F 3/105,3/16,10/28
B33Y 40/10,50/02,70/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層造形法により金属積層造形物を造形するために用いられる金属積層造形用粉末であって、
金属合金からなる粉末粒子の表面のデンドランド組織を含む凝固組織が平坦化されており、室温(RT)で測定された、または、400℃以下に加熱されて測定された、前記金属積層造形用粉末のインピーダンスの容量成分がゼロとなる金属積層造形用粉末。
【請求項2】
100℃以上200℃以下に加熱されて測定された、前記金属積層造形用粉末のインピーダンスの容量成分がゼロとなる請求項1に記載の金属積層造形用粉末。
【請求項3】
前記金属合金は、ニッケル系合金、コバルトクロム合金、鉄系合金、アルミニウム合金、チタン合金、銅合金またはタングステン合金である請求項1または2に記載の金属積層造形用粉末。
【請求項4】
積層造形法により金属積層造形物を造形するために用いられる金属積層造形用粉末であって、
前記金属積層造形用粉末をジェットミルまたはボールミルに投入することより金属合金からなる粉末粒子の表面の酸化被膜に力学的刺激を与えたことにより
前記酸化被膜の形状が変化しており、室温(RT)で測定された、または、400℃以下に加熱されて測定された、前記金属積層造形用粉末のインピーダンスの容量成分がゼロとなる金属積層造形用粉末。
【請求項5】
200℃を超えて測定された、前記金属積層造形用粉末のインピーダンスの虚数成分が5Ω以下となる請求項4に記載の金属積層造形用粉末。
【請求項6】
金属積層造形に用いられる金属積層造形用粉末の製造方法であって、
アトマイズ法またはプラズマ回転電極法により金属粉末を作成する金属粉末作成工程と、
前記金属粉末の衝突処理を含む機械的処理を実施する機械的処理工程と、
を有し、
前記機械的処理は、前記金属粉末をジェットミルまたはボールミルに投入することより実施されて、前記金属粉末は100℃以上300℃以下に加熱され、10分以上で60分を超えない範囲で行われる金属積層造形用粉末の製造方法。
【請求項7】
敷き詰めた金属粉末を電子ビームにより選択的に溶解および凝固させて金属積層造形物を造形する金属積層造形装置であって、
金属粉末に衝突処理を含む機械的処理を施す機械的処理部と、
前記機械的処理部で処理された金属粉末を用いてパウダーベッドを生成するパウダーベッド生成部と、
前記金属粉末のインピーダンスの容量成分がゼロとなる前記金属粉末の加熱温度を取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記加熱温度に基づいて、前記機械的処理を施す必要があるか否かを判定する判定部と、
を備え、
前記機械的処理部は、前記判定部が前記機械的処理を施す必要があると判定した場合に、前記金属粉末に衝突処理を含む機械的処理を施す金属積層造形装置。
【請求項8】
前記機械的処理部は、機械的処理を施す金属粉末を100℃以上300℃以下に加熱する加熱部を有する請求項
7に記載の金属積層造形装置。
【請求項9】
前記機械的処理が、10分以上で60分を超えない範囲で行われる請求項
7または8に記載の金属積層造形装置。
【請求項10】
敷き詰めた金属粉末を電子ビームにより選択的に溶解および凝固させて金属積層造形物を造形する金属積層造形装置の制御プログラムであって、
前記金属粉末のインピーダンスの容量成分がゼロとなる前記金属粉末の加熱温度を取得する取得ステップと、
前記取得ステップにより取得した前記加熱温度に基づいて、金属粉末に衝突処理を含む機械的処理を施す必要があるか否かを判定する判定ステップと、
前記機械的処理を施す必要があると判定した場合に、前記機械的処理を施す機械的処理部に対して前記機械的処理を施すように指示する第1指示ステップと、
前記第1指示ステップに従って前記機械的処理を施された金属粉末を用いて、パウダベッド生成部にパウダーベッドの生成を指示する第2指示ステップと、
をコンピュータに実行させる金属積層造形装置の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属積層造形用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野において、特許文献1には、金属粉末による3次元積層造形の技術が開示されている。特許文献1においては、合金粉末の電子ビームによる溶融において、事前に合金の融点の50%から80%の温度による予備加熱(または予備焼結)が行なわれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、電子ビーム積層造形においては、チャージアップ対策として金属粉末の予備加熱を行う。この時の予備加熱温度は、できるだけ低いことが望まれる。その理由は、予備加熱温度が高いほど予備加熱時間や造形終了後の冷却時間を要するためである。また、予備加熱温度が高いほど金属粉末同士の結合が強固となり、積層造形後の不要粉末除去が困難となるからである。しかしながら、予備加熱温度を低くし過ぎるとスモーク現象が発生して積層造形自体に失敗してしまう。
【0005】
そのため、スモーク現象を発生させないで予備加熱温度を低くするための技術が求められている。
【0006】
本発明の目的は、上述の課題を解決する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る金属積層造形用粉末は、
積層造形法により金属積層造形物を造形するために用いられる金属積層造形用粉末であって、
金属合金からなる粉末粒子の表面のデンドランド組織を含む凝固組織が平坦化されており、室温(RT)で測定された、または、400℃以下に加熱されて測定された、前記金属積層造形用粉末のインピーダンスの容量成分がゼロとなる。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る金属積層造形用粉末の製造方法は、
金属積層造形に用いられる金属積層造形用粉末の製造方法であって、
アトマイズ法またはプラズマ回転電極法により金属粉末を作成する金属粉末作成工程と、
前記金属粉末の衝突処理を含む機械的処理を実施する機械的処理工程と、
を有し、
前記機械的処理は、前記金属粉末をジェットミルまたはボールミルに投入することより実施されて、前記金属粉末は100℃以上300℃以下に加熱され、10分以上で60分を超えない範囲で行われる。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る金属積層造形装置は、
敷き詰めた金属粉末を電子ビームにより選択的に溶解および凝固させて金属積層造形物を造形する金属積層造形装置であって、
金属粉末に衝突処理を含む機械的処理を施す機械的処理部と、
前記機械的処理部で処理された金属粉末を用いてパウダーベッドを生成するパウダーベッド生成部と、
前記金属粉末のインピーダンスの容量成分がゼロとなる前記金属粉末の加熱温度を取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記加熱温度に基づいて、前記機械的処理を施す必要があるか否かを判定する判定部と、
を備え、
前記機械的処理部は、前記判定部が前記機械的処理を施す必要があると判定した場合に、前記金属粉末に衝突処理を含む機械的処理を施す。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る金属積層造形装置の制御プログラムは、
敷き詰めた金属粉末を電子ビームにより選択的に溶解および凝固させて金属積層造形物を造形する金属積層造形装置の制御プログラムであって、
前記金属粉末のインピーダンスの容量成分がゼロとなる前記金属粉末の加熱温度を取得する取得ステップと、
前記取得ステップにより取得した前記加熱温度に基づいて、金属粉末に衝突処理を含む機械的処理を施す必要があるか否かを判定する判定ステップと、
前記機械的処理を施す必要があると判定した場合に、前記機械的処理を施す機械的処理部に対して前記機械的処理を施すように指示する第1指示ステップと、
前記第1指示ステップに従って前記機械的処理を施された金属粉末を用いて、パウダーベッド生成部にパウダーベッドの生成を指示する第2指示ステップと、
をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡単な機械的処理によって、予備加熱温度を低下させてもスモーク現象が発生しない金属積層造形用粉末を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末を示す図である。
【
図2】本発明の第1実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末の表面像(SEM)を示す図である。
【
図3】本発明の第1実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末の表面分析結果(XPS)を示す図である。
【
図4A】本発明の第1実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末の抵抗値の温度変化を示す図である。
【
図4B】本発明の第1実施例に係る金属粉末の抵抗値を測定した粉末電気抵抗測定装置を示す図である。
【
図4C】本発明の第1実施例に係る金属粉末の抵抗値を測定した粉末電気抵抗測定治具と温度パターンとを示す図である。
【
図4D】本発明の第1実施例に係る金属粉末の抵抗値を測定した粉末電気抵抗測定原理を説明する図である。
【
図4E】本発明の第1実施例に係る金属粉末の抵抗値を測定した測定接続と測定回路を示す図である。
【
図5A】本発明の第1実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末のインピーダンスの変化を示す図である。
【
図5B】本発明の第1実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末のインピーダンスから求めた容量成分の変化を示す図である。
【
図5C】本発明の第1実施例に係る金属粉末のインピーダンスを測定した粉末電気抵抗測定原理を説明する図である。
【
図5D】本発明の第1実施例に係る金属粉末のインピーダンスを測定した測定接続と測定回路を示す図である。
【
図6A】本発明の第1実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末によるスモークテストの結果を示す図である。
【
図6B】本発明の第1実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末によるスモークテスト方法を説明する図である。
【
図7】本発明の第1実施例に係る機械的予備処理を行ったジェットミルの原理を示す図である。
【
図8A】本発明の第2実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末の表面像(SEM)を示す図である。
【
図8B】本発明の第2実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末のインピーダンスの変化を示す図である。
【
図8C】本発明の第2実施例に係る機械的予備処理を行ったボールミルおよびその原理を示す図である。
【
図9】本発明の実施形態で使用可能な合金粉末の例を示す図である。
【
図10A】本発明の実施形態に係る金属積層造形装置の構成を示すブロック図である。
【
図10B】本発明の実施形態に係る機械的処理部を含む積層造形装置の構成を示すブロック図である。
【
図11】本発明の実施形態に係る金属積層造形装置の情報処理装置の表示例を示す図である。
【
図12】本発明の実施形態に係る金属積層造形装置の情報処理装置の処理手順を示すフローチャートである。
【
図13】本発明の第3実施例に係る機械的予備処理を行ったボールミルおよびその動作条件を示す図である。
【
図14A】本発明の第3実施例に係る機械的予備処理前後の金属粉末(インコネル718/IN718)の表面像(SEM)を示す図である。
【
図14B】本発明の第3実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末(インコネル718/IN718)の抵抗値の温度変化およびインピーダンスの温度変化を示す図である。
【
図14C】本発明の第3実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末(インコネル718/IN718)のインピーダンスから求めた容量成分の変化を示す図である。
【
図14D】本発明の第3実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末(インコネル718/IN718)のXPS分析結果を示す図である。
【
図15A】本発明の第3実施例に係る機械的予備処理前後の金属粉末(チタン64/Ti64)の表面像(SEM)を示す図である。
【
図15B】本発明の第3実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末(チタン64/Ti64)の抵抗値の温度変化およびインピーダンスの温度変化を示す図である。
【
図15C】本発明の第3実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末(チタン64/Ti64)のXPS分析結果を示す図である。
【
図16A】本発明の第3実施例に係る機械的予備処理前後の金属粉末(チタンアルミニウム合金/TiAl)の表面像(SEM)を示す図である。
【
図16B】本発明の第3実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末(チタンアルミニウム合金/TiAl)の抵抗値の温度変化およびインピーダンスの温度変化を示す図である。
【
図16C】本発明の第3実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末(チタンアルミニウム合金/TiAl)のXPS分析結果を示す図である。
【
図17A】本発明の第3実施例に係る機械的予備処理前後の金属粉末(銅粉末/Cu)の表面像(SEM)を示す図である。
【
図17B】本発明の第3実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末(銅粉末/Cu)の抵抗値の温度変化およびインピーダンスの温度変化を示す図である。
【
図18】本発明の第4実施例に係る機械的予備処理を行ったボールミルおよびその異なる時間の動作条件を示す図である。
【
図19】本発明の第4実施例に係る異なる時間の機械的予備処理後の金属粉末(インコネル718/IN718)の表面像(SEM)を示す図である。
【
図20】本発明の第4実施例に係る適切な時間を超えた機械的予備処理後の金属粉末(インコネル718/IN718)の状態を示す図である。
【
図21】本発明の第4実施例に係る異なる時間の機械的予備処理後の金属粉末(インコネル718/IN718)の抵抗値の温度変化を示す図である。
【
図22】本発明の第4実施例に係る異なる時間の機械的予備処理後の金属粉末(インコネル718/IN718)のインピーダンスの温度変化を示す図である。
【
図23】本発明の第3実施例および第4実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末によるスモークテストの結果を示す図である。
【
図24】本発明の第3実施例および第4実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末によるスモークテスト方法を説明する図である。
【
図25】本発明の第3実施例および第4実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末によるスモークテスト条件を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態について例示的に詳しく説明する。ただし、以下の実施の形態に記載されている構成要素は単なる例示であり、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0014】
[金属積層造形用粉末の実施形態]
以下、本実施形態の金属積層造形用粉末について詳細に説明する。
【0015】
《本実施形態の金属粉末》
本実施形態の金属粉末は、金属積層造形の材料として使用される。例えば、ジェットエンジンやロケット用部品として使用される、ニッケル系合金のインコネル718(登録商標:Inconel 718/UNS Number N07718)の合金粉末が使用される。なお、金属粉末はニッケル系合金に限定されない。例えば、人工関節などの生体用金属部品として使用されるコバルトクロム合金、鉄やステンレスなどの鉄鋼系、アルミニウム系、チタン系、銅系などの合金や純金属においても適用され、同様の効果を奏する。
【0016】
また、金属粉末の製造方法としては、プラズマアトマイズ法やガスアトマイズ法、プラズマ回転電極法などが用いられる。
【0017】
また、上記合金粉末の粒度範囲は、10μm~200μmが好ましく、より好ましくは25μm~150μm、さらに好ましくは45μm~105μmである。
【0018】
《本実施形態の金属積層造形用粉末》
電子ビーム積層造形においては、チャージアップ対策として金属粉末の予備加熱(予備焼結)を行い、予備加熱温度は、できるだけ低いことが望まれる。その理由は、予備加熱温度が高いほど予備加熱時間や造形終了後の冷却時間を要するためである。また、予備加熱温度が高いほど金属粉末同士の結合が強固となり、積層造形後の不要粉末除去が困難となるからである。かかる予備加熱温度は、金属粉末の導電性が高いほど低下させることができる。これは、金属粉末同士の間での導電性が高くなるほど電子ビームによる焼結性が向上し、短時間で焼結し易くなることにより焼結温度が低下するためである。
【0019】
一方、予備加熱温度を低くし過ぎるとスモーク現象が発生して積層造形自体に失敗してしまう。発明者達は、スモーク現象が、電子ビーム照射時に、金属粉末表面の酸化物部分の容量成分にマイナス電荷が蓄積することによって発生する、クーロン斥力(反発力)に起因することを見つけた。
【0020】
そのため、本実施形態においては、金属合金粉末を金属粉末の衝突を含む機械的予備処理を施して、導電性が向上させると共に容量成分を室温あるいは所定温度、例えば100℃~200℃でゼロに近づけることにより、スモーク現象を発生させないで予備加熱温度を低くできる金属積層造形用粉末を製造する。
【0021】
(機械的予備処理方法)
機械的予備処理として、ジェットミルに既存の金属粉末を投入して、金属粉末を衝突させて金属粉末表面の酸化物の形状を変化させた。また、機械的予備処理として、ボールミルに既存の金属粉末を投入して、金属粉末を衝突させて金属粉末表面の酸化物の形状を変化させた。なお、機械的予備処理は、ジェットミルやボールミルによる処理に限定されない。既存の金属粉末を衝突させて、金属粉末表面の酸化物の形状を変化させる処理であればよい。例えば、ビーズミルやコロイドミルなどでもよい。なお、機械的予備処理時に金属粉末を100℃~300℃に加熱して処理するのが容量成分の削減には望ましい。
【0022】
(機械的予備処理の結果)
機械的予備処理後の金属粉末表面のSEM像によれば、機械的予備処理によって、既存の金属粉末表面にあったデンドランド組織を含む凝固組織が平坦化されていることが分かった。また、機械的予備処理後の金属粉末のインピーダンス測定の結果、金属粉末の容量成分が100℃~200℃でゼロに近付くことも分かった。すなわち、デンドランド組織を含む凝固組織が平坦化されることによって、金属粉末の容量成分が小さくなり低い温度で消滅した。さらに、機械的予備処理後の金属粉末のインピーダンス測定の結果、金属粉末の容量成分が室温(RT)においてもゼロに近付くことも分かった。
【0023】
(導電性の向上と焼却温度の低下)
本実施形態の機械的予備処理された金属積層造形用粉末は、機械的予備処理されない合金粉末と比較して、電気抵抗値/電気抵抗率が低下すると共に金属粉末の容量成分が低い温度でゼロに近付いた。したがって、本実施形態の金属積層造形用粉末は、導電性が向上して金属粉末の容量成分が低い温度でゼロに近付くことが分かり、予備加熱温度を低下させることができる。
【0024】
予備加熱温度を低下させたスモークテストにおいて、本実施形態の機械的予備処理された金属積層造形用粉末は、機械的予備処理されない合金粉末と比較して、スモークを起こす温度の下限が低下した。具体的には、本実施形態の金属積層造形用粉末では500℃未満であったが、機械的予備処理されない合金粉末では950℃を超えた。
【0025】
したがって、予備加熱温度を1150℃から600~500℃まで低下させることが可能となった。
【0026】
《本実施形態の効果》
本実施形態によれば、機械的予備処理をすることで以下の効果が期待できる。
【0027】
すなわち、予備焼結温度を低下させることが可能となる。例えば、インコネル718粉末に機械的予備処理を施した場合、スモーク現象を発生させずに通常の予備加熱温度を1150℃から600~500℃まで低下させることが可能となった。さらに、チタン64粉末やチタンアルミニウム粉末に機械的予備処理を施した場合、スモーク現象を発生させずに通常の予備加熱温度を1150℃から600~500℃まで低下させることが可能となった。
【0028】
そして、予備加熱温度を低下させることで全体の積層造形時間が短縮され、生産性が向上すると共に、予備加熱温度が低下することで積層造形後の不要粉末除去が容易となった。
【実施例】
【0029】
以下、本実施形態に従った実施例1乃至4と、比較例とについて説明する。実施例1は、ジェットミルにより機械的予備処理を施した場合である。実施例2乃至4は、ボールミルにより機械的予備処理を施した場合である。比較例は、機械的予備処理を施さない場合である。
【0030】
[実施例1]
《使用した金属粉末》
本実施例においては、ガスアトマイズ法で生成したニッケル系合金のインコネル718(登録商標)の金属粉末を使用した。
図1に、SEM(Scanning Electron Microscope)像および粒子径の分布120で示している。
【0031】
《機械的予備処理》
合金粉末の機械的予備処理としては、ジェットミルによる機械的予備処理を行った。
【0032】
(ジェットミルの装置)
ジェットミルとしては、日清エンジニアリング株式会社製の気流式粉砕機スーパージェットミル(SJ-1500)を使用した。圧力は0.65MPa、金属粉末の供給速度は5kg/hrとした。なお、
図7にジェットミルの原理図を示す。投入された未機械的処理の金属粉末が、噴射される高圧ガス(
図7ではN
2ガス)で撹拌されて衝突を繰り返す。そして、機械的処理後の金属粉末が排出される。なお、金属粉末は100℃~300℃に加熱した。
【0033】
《機械的予備処理後の金属粉末表面の物理的および科学的特性》
機械的予備処理後の粉末粒子と、機械的予備処理の無い粉末粒子とのSEM像を観察し、その粒径度分布を調べた。
図1にSEM像および粒径度分布を示す。
【0034】
図1には、市販品のプラズマアトマイズ法によるインコネル718のSEM像および粒径度分布110と、上記ガスアトマイズ法によるインコネル718のSEM像および粒径度分布120と、機械的予備処理を行った後の、上記ガスアトマイズ法によるインコネル718のSEM像および粒径度分布130と、を対比して示す。
【0035】
図1によれば、機械的予備処理により粒子径が平均化しているが、全体のSEM像および粒径度分布において、予備加熱の低減に繋がると考えられる形状的な差異は見られない。すなわち、機械的予備処理(高速・高圧の気流での攪拌)で微粉が除去されている様子が見られた。また、プラズマアトマイズ粉末と比較すると粉末の形状について球形状では無く若干の変形・端面の発生が見られた。しかし、粒径度分布について、大きな差は見られずほぼ同等に揃っている。
【0036】
図2には、機械的予備処理後の粉末粒子の表面の拡大SEM像230と、機械的予備処理の無い粉末粒子の表面の拡大SEM像210,220と、を対比して示す。
【0037】
図2によれば、拡大SEM像210,220に見られるデンドランド組織(樹枝状結晶)を含む凝固組織が、拡大SEM像230においては機械的予備処理における粉末粒子の衝突により平坦化されているのが分かる。かかるデンドランド組織を含む凝固組織の平坦化(減少)は、予備加熱の低減に繋がる可能性があると考えられる。すなわち、機械的予備処理前の粉末ではデンドライド組織が見られたが、機械的予備処理後ではデンドライドが見られず表面が平らになっている様子が見られた。したがって、デンドライドの存在が影響を及ぼしている可能性がある。
【0038】
図3には、機械的予備処理後の粉末粒子の表面のXSP(X線光電子分光法:X-ray Photoelectron Spectroscopy)分析結果330と、機械的予備処理の無い粉末粒子の表面のXSP分析結果310と、を対比して示す。
【0039】
図3によれば、表面の酸化層についてプラズマアトマイズ粉末と機械的予備処理を実施した粉末で大きな違いは見られず、酸化層の化学的な変化は見られなかった。
【0040】
(物理的および科学的特性の評価)
図1乃至
図3の結果から、次のことが想定される。
図1から粒径度分布について大きな差は見られなかったこと、
図3から金属粉末表面の酸化層の化学的な変化は見られなかったこと、が分かった。このため、機械的予備処理により表面の酸化層が物理的な影響により変化しており、
図2から明らかなデンドライドの存在が影響していると判断される。
【0041】
《機械的予備処理後の金属粉末の電気的特性》
機械的予備処理後の金属粉末の電気的特性として、温度変化に対応した抵抗値(抵抗率)の変化と、インピーダンスの変化を測定した。
【0042】
(電気抵抗の測定装置)
本実施例において、金属粉末の電気抵抗を測定した装置は、次の装置である。
・粉末電気抵抗測定装置 TG26592(株式会社東栄科学産業)
・高温粉末抵抗測定用真空炉 TG26667(株式会社東栄科学産業)
図4B乃至
図4Eを参照して、本実施例における金属粉末の電気抵抗の測定を説明する。
【0043】
図4Bは、粉末電気抵抗測定装置420を示す図である。粉末電気抵抗測定装置420においては、高温粉末抵抗測定用真空炉430内に測定対象の金属粉末をセットして電気抵抗を測定する。
図4Cは、粉末電気抵抗測定治具440と温度パターン450とを示す図である。測定条件は、例えば、雰囲気圧力:0.01Pa未満、粉末充填筒内径:φ10mm、粉末高さ:10mmである。粉末電気抵抗測定装置420は、温度パターン450に示すように、金属粉末を室温(RT)から800℃に徐々に上げて所定時間保持し、徐々に下げながら電気抵抗を測定する。詳細には、(1)常温から開始し、(2)800℃まで加熱(昇温速度5℃/min)し、(3)800℃で1時間保持し、(4)常温まで冷却(冷却速度5℃/min)する。
図4Dは、粉末電気抵抗測定装置420における測定概要460および高温粉末抵抗測定用真空炉430内の構造470を示す図である。粉末電気抵抗は、DC抵抗メータにより測定される。
図4Eは、直流電気抵抗測定接続480および直流電気抵抗測定回路
図490を示す図である。
【0044】
(電気抵抗の測定結果)
図4Aは、
図4B乃至
図4Eに従い測定された電気抵抗の変化を示す図である。
【0045】
図4Aにおいて、金属粉末は室温(RT)から800℃に徐々に上がるにしたがって、電気抵抗が低下(導電性が上昇)する。そして、800℃から常温に冷却しても、電気抵抗(導電性)はほとんど変化しない。これは、金属粉末表面に形成された酸化被膜が熱的に不安定であり、加熱によって酸化被膜が不安定化され酸化物的から金属的な電気特性を有する被膜構造に遷移すると考えられる。
【0046】
そして、
図4Aから明らかなように、機械的予備処理後の金属粉末130は、加熱前の常温(RT)時から一貫して機械的予備処理の無い金属粉末110,120よりも、電気抵抗が低い(導電性が高い)ので、低温領域でも電子線照射による金属粉末の帯電性が弱まり予備加熱温度を低下することができる。
【0047】
(インピーダンスの測定装置)
本実施例において、金属粉末のインピーダンスを測定した装置は、次の装置である。
・粉末交流抵抗測定システム 29710(株式会社東栄科学産業)
・高温粉末抵抗測定用真空炉 TG26667(株式会社東栄科学産業)
図5Cおよび
図5Dを参照して、本実施例における金属粉末のインピーダンスの測定を説明する。なお、インピーダンス測定のためのAC/LRCメータ570への結線以外は電気抵抗と同様であるので、
図4B~
図4Eと同じ構成要素あるいは処理(例えば、温度パターンなど)の説明は省略する。
図5Dは、交流インピーダンス測定接続580および交流インピーダンス測定回路
図590を示す図である。
【0048】
(インピーダンスの測定結果)
図5Aは、
図5Bおよび
図5Cに従い測定されたインピーダンスの変化を示す図である。
図5Aは、いわゆる、Cole-Coleプロットである。
【0049】
機械的予備処理の無いプラズマアトマイズ法の金属粉末のCole-Coleプロット510は、200℃においては、インピーダンスは5桁台(X0000Ω)である。また、拡大プロット520によっても、300℃で3桁台(X00Ω)であり、400℃を越えて小さな値になる。一方、本実施例の機械的予備処理後のガスアトマイズ法の金属粉末は、100℃で3桁(100Ω)を切り、200℃を越えると1桁(XΩ)以下となる。
【0050】
(容量成分の算出結果)
図5Bは、
図5Aのインピーダンス測定結果から、等価回路モデル540により算出した容量成分の算出結果である。
図5Bは、機械的予備処理の無いプラズマアトマイズ法の金属粉末の容量成分550と、本実施例の機械的予備処理後のガスアトマイズ法の金属粉末の容量成分560と、を示している。
【0051】
図5Bに示されるように、等価回路モデル540の容量成分が本実施例の機械的予備処理により減少し、さらに、低温度(200℃程)でゼロに近付くので電荷が蓄積されないため、電子ビームの照射によるスモーク現象が発生しない(抑えられる)ものと予測される。
【0052】
《機械的予備処理後の金属粉末によるスモークテスト》
図6Bは、金属粉末によるスモークテスト方法を説明する図である。
【0053】
金属積層造形装置630を用い、手順640にしたがって、条件650により実施した。
【0054】
図6Aは、金属粉末によるスモークテストの結果610を示す図である。
図6Aの結果610は、機械的予備処理の無いプラズマアトマイズ法の金属粉末のスモークテスト結果と、本実施例の機械的予備処理後のガスアトマイズ法の金属粉末のスモークテスト結果と、を示している。機械的予備処理の無いプラズマアトマイズ法の金属粉末では、950℃の予備加熱によってもスモーク現象が発生している。
【0055】
一方、本実施例の機械的予備処理後のガスアトマイズ法の金属粉末では、予備加熱が450℃まではスモーク現象が発生するが、650℃になるとスモーク現象は発生せず、それ以上の温度620で、造形時の溶融温度との関係で広範囲に低い予備加熱の設定が可能となる。
図6Aには示されていないが、500℃~600℃の予備加熱においてもスモーク現象が発生しない可能性がある。
【0056】
[実施例2]
《機械的予備処理》
合金粉末の機械的予備処理としては、ボールミルによる機械的予備処理を行った。
【0057】
(ボールミルの装置)
図8Cに、遊星型ボールミル840とボールミルの原理850とを示す。
【0058】
ボールミルとしては、遊星型ボールミル Classic Line P-7(ドイツ フリッチュ社)を使用した。条件としては、ディスク回転数(公転)を800RPMとし、ポット回転数(自転)を1600RPM、ボール径はΦ5mmである。処理時間は、反時計周りの公転を15min、時計周りの公転15min、とした。なお、金属粉末は100℃~300℃に加熱されるのが望ましい。
【0059】
《機械的予備処理後の金属粉末表面の物理的特性》
図8Aは、本実施例の機械的予備処理後の金属粉末の表面像(SEM)810と拡大SEM像820を示す図である。
【0060】
拡大SEM像820において、
図2に示したように、デンドランド組織(樹枝状結晶)を含む凝固組織が機械的予備処理における粉末粒子の衝突により平坦化されているのが分かる。したがって、ボールミルによる機械的予備処理を行った金属粉末においても、実施例1と同様に、インピーダンスが小さくなることが予測できる。
【0061】
《機械的予備処理後の金属粉末表面の電気的特性》
以下の金属粉末表面の電気的特性の測定は、実施例1と同様の装置で行った。
【0062】
(インピーダンスの測定結果)
図8Bは、本実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末のインピーダンスの変化を示す図である。インピーダンス値が、機械的予備処理の無い金属粉末のインピーダンス(
図5Aの510参照)に比較して極端に小さいことが分かる。このことから、その容量成分も小さく、低い予備加熱でゼロに近付くことが予測できる。
【0063】
(容量成分の算出結果)
図8Bのインピーダンス測定結果から、
図5Bの等価回路モデル540により容量成分を算出したが、容量成分は見られなかった。
【0064】
したがって、ボールミルによる機械的予備処理によっても、ジェットミルによる機械的予備処理と同様に、予備加熱温度を低下させてもスモーク現象が発生しない金属積層造形用粉末が提供できる。
【0065】
[実施例3]
《機械的予備処理》
合金粉末の機械的予備処理としては、ボールミルによる機械的予備処理を行った。本実施例3においては、ニッケル合金のインコネル718以外に、チタン合金のチタン64(Ti64/Ti-6Al-4V)やチタンアルミニウム(TiAl)を合金粉末として用いてボールミルによる機械的予備処理を行った。
【0066】
(ボールミルの装置)
図13に、遊星型ボールミル840とボールミルによる処理条件1310とを示す。ボールミルとしては、遊星型ボールミル Classic Line P-7(ドイツ フリッチュ社)を使用した。条件としては、ディスク回転数(公転)を800RPMとし、ポット回転数(自転)を1600RPM、ボール径はΦ5mmである。処理時間は、反時計周りの公転を15min、時計周りの公転15min、の合計30minとした。なお、金属粉末は100℃~300℃に加熱されるのが望ましい。なお、実際には、ボールミル処理において特に加熱はしておらず、処理直後の容器の温度を測定したところボールの摩擦熱によって100℃以上になっている。したがって、100℃~200℃の加熱しながら機械的処理することによって、より効果的に電気抵抗および容量成分の低下効果が得られると思われる。
【0067】
<インコネル718/IN718>
インコネル718としては、Arcam社の製品を使用した。使用したインコネル718の特性を、表1に示す。
【0068】
【0069】
《機械的予備処理後の金属粉末表面の物理的特性》
図14Aは、本実施例に係る機械的予備処理前後の金属粉末(インコネル718/IN718)の表面像(SEM)を示す図である。
【0070】
図14Aにおいて、左上図がボールミル処理前のSEM画像1410であり、右上図がボールミル処理後のSEM画像1420である。左下図がボールミル処理前の拡大SEM画像1411であり、右下図がボールミル処理後の拡大SEM画像1421である。右上図および右下図に示したように、デンドランド組織(樹枝状結晶)を含む凝固組織が機械的予備処理における粉末粒子の衝突により平坦化されているのが分かる。したがって、ボールミルによる機械的予備処理を行った金属粉末において、インピーダンスが小さくなることが予測できる。
【0071】
《機械的予備処理後の金属粉末表面の電気的特性》
図14Bは、本実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末(インコネル718/IN718)の抵抗値の温度変化およびインピーダンスの温度変化を示す図である。なお、金属粉末表面の電気的特性の測定は、実施例1と同様の装置で行った。
【0072】
(抵抗値の測定結果)
図14Bのグラフ1430は、
図4B乃至
図4Eに従い測定された電気抵抗の変化を示す図である。
【0073】
図14Bのグラフ1430から明らかなように、ボールミル処理後の金属粉末(インコネル718/IN718)の抵抗率は、加熱前の常温(RT)時から一貫してボールミル処理の無い金属粉末の抵抗率よりも低い(導電性が高い)ので、低温領域でも電子線照射による金属粉末の帯電性が弱まり予備加熱温度を低下することができる。
【0074】
(インピーダンスの測定結果)
図14Bのグラフ群1440は、本実施例に係るボールミル処理前後の金属粉末(インコネル718/IN718)のインピーダンスの変化を示す図である。ここで、グラフ群1440の右上グラフ1441がボールミル処理の無い金属粉末のインピーダンス、グラフ群1440の左グラフ1442がボールミル処理後の金属粉末のインピーダンス、グラフ群1440の右下グラフ1443が左グラフ1442の原点近傍の拡大グラフである。
【0075】
グラフ群1440に示されるように、ボールミル処理後の金属粉末のインピーダンスは、ボールミル処理の無い金属粉末のインピーダンスに比較して極端に小さいことが分かる。このことから、その容量成分も小さく、低い予備加熱でゼロに近付くことが予測できる。
【0076】
(容量成分の算出結果)
図14Cは、本実施例に係るボールミル処理後のインピーダンスの測定結果から、等価回路モデルに基づいて求めた容量成分を示す図である。
【0077】
図14Cのグラフ1444は、
図14Bのグラフ1443をさらに拡大したグラフ、等価回路シミュレーション結果1451は、グラフ1444のインピーダンスの測定結果からのシミュレーション結果、等価回路モデル1452は、等価回路シミュレーション結果1451に基づく、ボールミル処理後の金属粉末(インコネル718/IN718)の等価回路モデルである。
図14Cの等価回路モデル1452から、インピーダンスの測定結果には容量成分が見られないことが分かる。
【0078】
したがって、インピーダンスの測定結果は、ボールミル処理によって、ジェットミルによる機械的予備処理と同様に、予備加熱温度を低下させてもスモーク現象が発生しない金属積層造形用粉末が提供できる。
【0079】
《機械的予備処理後の金属粉末のXPS分析結果》
図14Dは、本実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末(インコネル718/IN718)のXPS分析結果を示す図である。かかるXPS分析結果は、ボールミル処理による金属粉末(インコネル718/IN718)の材質の変化を検証するためである。
【0080】
(成分分析結果)
図14Dの成分分析結果1460によれば、ボールミル処理の前後でXPSのピーク位置の違いは見られず、ボールや容器成分の混入は無かった。
(O1sスペクトル分析結果)
図14DのO1sスペクトル分析結果1470によれば、ボールミル処理後で酸化物イオン(O
2-)が増加している様子が見られた。
(N1sスペクトル分析結果)
図14DのN1sスペクトル分析結果1480によれば、ボールミル処理後で窒化物が増加している様子が見られた。
【0081】
<チタン64/Ti64>
チタン64としては、大同特殊鋼株式会社の製品を使用した。使用したチタン64の特性を、表2に示す。
【0082】
【0083】
《機械的予備処理後の金属粉末表面の物理的特性》
図15Aは、本実施例に係る機械的予備処理前後の金属粉末(チタン64/Ti64)の表面像(SEM)を示す図である。
【0084】
図15Aにおいて、左上図がボールミル処理前のSEM画像1510であり、右上図がボールミル処理後のSEM画像1520である。左下図がボールミル処理前の拡大SEM画像1511であり、右下図がボールミル処理後の拡大SEM画像1521である。右上図および右下図に示したように、デンドランド組織(樹枝状結晶)を含む凝固組織が機械的予備処理における粉末粒子の衝突により平坦化されているのが分かる。したがって、ボールミルによる機械的予備処理を行った金属粉末において、インピーダンスが小さくなることが予測できる。
【0085】
《機械的予備処理後の金属粉末表面の電気的特性》
図15Bは、本実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末(チタン64/Ti64)の抵抗値の温度変化およびインピーダンスの温度変化を示す図である。なお、金属粉末表面の電気的特性の測定は、実施例1と同様の装置で行った。
【0086】
(抵抗値の測定結果)
図15Bのグラフ1530は、
図4B乃至
図4Eに従い測定された電気抵抗の変化を示す図である。
【0087】
図15Bのグラフ1530から明らかなように、ボールミル処理後の金属粉末(チタン64/Ti64)の抵抗率は、加熱前の常温(RT)時から一貫してボールミル処理の無い金属粉末の抵抗率と同程度あるいはよりも低い(導電性が高い)ので、低温領域でも電子線照射による金属粉末の帯電性が弱まり予備加熱温度を低下することができる。
【0088】
(インピーダンスの測定結果)
図15Bのグラフ群1540は、本実施例に係るボールミル処理前後の金属粉末(チタン64/Ti64)のインピーダンスの変化を示す図である。ここで、グラフ群1540の右上グラフ1541がボールミル処理の無い金属粉末のインピーダンス、グラフ群1540の左グラフ1542がボールミル処理後の金属粉末のインピーダンス、グラフ群1540の右下グラフ1543が左グラフ1542の原点近傍の拡大グラフである。
【0089】
グラフ群1540に示されるように、ボールミル処理後の金属粉末のインピーダンスは、ボールミル処理の無い金属粉末のインピーダンスに比較して極端に小さいことが分かる。このことから、その容量成分も小さく、低い予備加熱でゼロに近付くことが予測できる。
【0090】
《機械的予備処理後の金属粉末のXPS分析結果》
図15Cは、本実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末(チタン64/Ti64)のXPS分析結果を示す図である。かかるXPS分析結果は、ボールミル処理による金属粉末(チタン64/Ti64)の材質の変化を検証するためである。
【0091】
(成分分析結果)
図15Cの成分分析結果1560によれば、ボールミル処理の前後でXPSのピーク位置の違いは見られず、ボールや容器成分の混入は無かった。
(O1sスペクトル分析結果)
図15CのO1sスペクトル分析結果1570によれば、ボールミル処理後で酸化物イオン(O
2-)が増加している様子が見られた。
(N1sスペクトル分析結果)
図15CのN1sスペクトル分析結果1580によれば、ボールミル処理後で窒化物が増加している様子が見られた。
【0092】
<TiAl>
TiAlとしては、大同特殊鋼株式会社の製品を使用した。使用したTiAlの特性を、表3に示す。
【0093】
【0094】
《機械的予備処理後の金属粉末表面の物理的特性》
図16Aは、本実施例に係る機械的予備処理前後の金属粉末(チタンアルミニウム合金/TiAl)の表面像(SEM)を示す図である。
【0095】
図16Aにおいて、左上図がボールミル処理前のSEM画像1610であり、右上図がボールミル処理後のSEM画像1620である。左下図がボールミル処理前の拡大SEM画像1611であり、右下図がボールミル処理後の拡大SEM画像1621である。右上図および右下図に示したように、デンドランド組織(樹枝状結晶)を含む凝固組織が機械的予備処理における粉末粒子の衝突により平坦化されているのが分かる。したがって、ボールミルによる機械的予備処理を行った金属粉末において、インピーダンスが小さくなることが予測できる。
【0096】
《機械的予備処理後の金属粉末表面の電気的特性》
図16Bは、本実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末(チタンアルミニウム合金/TiAl)の抵抗値の温度変化およびインピーダンスの温度変化を示す図である。なお、金属粉末表面の電気的特性の測定は、実施例1と同様の装置で行った。
【0097】
(抵抗値の測定結果)
図16Bのグラフ1630は、
図4B乃至
図4Eに従い測定された電気抵抗の変化を示す図である。
【0098】
図16Bのグラフ1630から明らかなように、ボールミル処理後の金属粉末(チタンアルミニウム合金/TiAl)の抵抗率は、加熱前の常温(RT)時から一貫してボールミル処理の無い金属粉末の抵抗率と同程度あるいはよりも低い(導電性が高い)ので、低温領域でも電子線照射による金属粉末の帯電性が弱まり予備加熱温度を低下することができる。
【0099】
(インピーダンスの測定結果)
図16Bのグラフ群1640は、本実施例に係るボールミル処理前後の金属粉末(チタンアルミニウム合金/TiAl)のインピーダンスの変化を示す図である。ここで、グラフ群1640の右上グラフ1641がボールミル処理の無い金属粉末のインピーダンス、グラフ群1640の左グラフ1642がボールミル処理後の金属粉末のインピーダンス、グラフ群1640の右下グラフ1643が左グラフ1642の原点近傍の拡大グラフである。
【0100】
グラフ群1640に示されるように、ボールミル処理後の金属粉末のインピーダンスは、ボールミル処理の無い金属粉末のインピーダンスに比較して極端に小さいことが分かる。このことから、その容量成分も小さく、低い予備加熱でゼロに近付くことが予測できる。
【0101】
《機械的予備処理後の金属粉末のXPS分析結果》
図16Cは、本実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末(チタンアルミニウム合金/TiAl)のXPS分析結果を示す図である。
【0102】
(成分分析結果)
図16Cの成分分析結果1660によれば、ボールミル処理の前後でXPSのピーク位置の違いは見られず、ボールや容器成分の混入は無かった。
(O1sスペクトル分析結果)
図16CのO1sスペクトル分析結果1670によれば、ボールミル処理後で酸化物イオン(O
2-)が増加している様子が見られた。
(N1sスペクトル分析結果)
図16CのN1sスペクトル分析結果1680によれば、ボールミル処理後で窒化物が増加している様子が見られた。
【0103】
<Cu>
Cu粉末としては、福田金属箔粉工業株式会社の製品を使用した。使用したCu粉末の特性を、表4に示す。
【0104】
【0105】
《機械的予備処理後の金属粉末表面の物理的特性》
図17Aは、本実施例に係る機械的予備処理前後の金属粉末(銅粉末/Cu)の表面像(SEM)を示す図である。
【0106】
図17Aにおいて、左図がボールミル処理前のSEM画像1710であり、右図がボールミル処理後のSEM画像1720である。右図に示したように、デンドランド組織(樹枝状結晶)を含む凝固組織が機械的予備処理における粉末粒子の衝突により平坦化されているのが分かる。したがって、ボールミルによる機械的予備処理を行った金属粉末において、インピーダンスが小さくなることが予測できる。
【0107】
《機械的予備処理後の金属粉末表面の電気的特性》
図17Bは、本実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末(チタンアルミニウム合金/TiAl)の抵抗値の温度変化およびインピーダンスの温度変化を示す図である。なお、金属粉末表面の電気的特性の測定は、実施例1と同様の装置で行った。
【0108】
(抵抗値の測定結果)
図17Bのグラフ1730は、
図4B乃至
図4Eに従い測定された電気抵抗の変化を示す図である。
【0109】
図17Bのグラフ1730から明らかなように、ボールミル処理後の金属粉末(銅粉末/Cu)の抵抗率は、加熱前の常温(RT)時から一貫してボールミル処理の無い金属粉末の抵抗率と同程度あるいはよりも低い(導電性が高い)ので、低温領域でも電子線照射による金属粉末の帯電性が弱まり予備加熱温度を低下することができる。
【0110】
(インピーダンスの測定結果)
図17Bのグラフ群1740は、本実施例に係るボールミル処理前後の金属粉末(銅粉末/Cu)のインピーダンスの変化を示す図である。ここで、グラフ群1740の右上グラフ1741がボールミル処理の無い金属粉末のインピーダンス、グラフ群1740の左グラフ1742がボールミル処理後の金属粉末のインピーダンス、グラフ群1740の右下グラフ1743が左グラフ1742の原点近傍の拡大グラフである。
【0111】
グラフ群1740に示されるように、ボールミル処理後の金属粉末のインピーダンスは、ボールミル処理の無い金属粉末のインピーダンスに比較して極端に小さいことが分かる。このことから、その容量成分も小さく、低い予備加熱でゼロに近付くことが予測できる。
【0112】
<他の金属粉末>
その他の金属粉末としては、鉄系(Fe)粉末やタングステン(W)粉末を使用して機械的予備処理を行い、抵抗値の温度変化およびインピーダンスの温度変化の測定を行った。いずれも、抵抗値の温度変化およびインピーダンスの温度変化において、同様の改善傾向が見られた。使用したタングシテン(W)粉末の特性を、表5に示す。
【0113】
【0114】
[実施例4]
《機械的予備処理》
合金粉末の機械的予備処理としては、ボールミルによる機械的予備処理を行った。本実施例4においては、ニッケル合金のインコネル718を用いてボールミルによる処理時間を変えて機械的予備処理を行った。インコネル718としては、Arcam社の製品を使用した。製品の特性は、表1に示した。
【0115】
(異なる時間の動作条件)
図18は、本実施例に係る機械的予備処理を行ったボールミル840およびその異なる時間の動作条件1810を示す図である。なお、処理時間以外の条件は、実施例3と同様である。
【0116】
《機械的予備処理後の金属粉末表面の物理的特性》
図19は、本実施例に係る異なる時間の機械的予備処理後の金属粉末(インコネル718/IN718)の表面像(SEM)を示す図である。
図19には、10分処理後のSEM画像1910と、30分処理後のSEM画像1920と、60分処理後のSEM画像1930と、が示されている。
【0117】
図19に示したように、SEM画像1910および1920においては、デンドランド組織(樹枝状結晶)を含む凝固組織が機械的予備処理における粉末粒子の衝突により平坦化されているのが分かる。したがって、ボールミルによる機械的予備処理を行った金属粉末において、インピーダンスが小さくなることが予測できる。しかしながら、SEM画像1930においては、金属粉末(インコネル718/IN718)が崩れて凝集していることが分かる。
【0118】
図20は、本実施例に係る適切な時間を超えた機械的予備処理後の金属粉末(インコネル718/IN718)の状態2010を示す図である。すなわち、ボールミル840による60分処理後の金属粉末(インコネル718/IN718)の状態2010を示す図であり、800rpmで処理時間を60分まで長くボールミル処理をしてしまうと粉砕ボールおよびミル容器と粉末が合金化してしまう様子が見られた。したがって、本条件によるボールミル処理は60分を超えないことが好ましく、30分当たりがより好ましいと思われる。
【0119】
《機械的予備処理後の金属粉末表面の電気的特性》
(抵抗値の測定結果)
図21は、本実施例に係る異なる時間の機械的予備処理後の金属粉末(インコネル718/IN718)の抵抗値の温度変化を示す図である。
図21は、異なる時間の機械的予備処理後に、
図4B乃至
図4Eに従い測定された電気抵抗の変化を示す図である。
【0120】
図21から明らかなように、ボールミル処理後の金属粉末(インコネル718/IN718)の抵抗率は、10分および30分のいずれのボールミル処理後も、加熱前の常温(RT)時から一貫してボールミル処理の無い金属粉末の抵抗率と同程度あるいはよりも低い(導電性が高い)ので、低温領域でも電子線照射による金属粉末の帯電性が弱まり予備加熱温度を低下することができると思われる。しかし、60分の処理後には、予備加熱による抵抗率低下の効果が小さくなっている。
【0121】
(インピーダンスの測定結果)
図22は、本実施例に係る異なる時間の機械的予備処理後の金属粉末(インコネル718/IN718)のインピーダンスの温度変化を示す図である。
図22には、10分処理後のインピーダンス測定結果2210と、30分処理後のインピーダンス測定結果2220と、60分処理後のインピーダンス測定結果2230と、が示されている。
【0122】
そして、インピーダンス測定結果2210の右上グラフ2211がボールミル処理の無い金属粉末のインピーダンス、左グラフ2212がボールミル処理後の金属粉末のインピーダンス、右下グラフ2213が左グラフ2212の原点近傍の拡大グラフである。また、インピーダンス測定結果2220の右上グラフ2221がボールミル処理の無い金属粉末のインピーダンス、左グラフ2222がボールミル処理後の金属粉末のインピーダンス、右下グラフ2223が左グラフ2222の原点近傍の拡大グラフである。また、インピーダンス測定結果2230の右上グラフ2231がボールミル処理の無い金属粉末のインピーダンス、左グラフ2232がボールミル処理後の金属粉末のインピーダンス、右下グラフ2233が左グラフ2232の原点近傍の拡大グラフである。
【0123】
いずれのインピーダンス測定結果2210~2230に示されるように、ボールミル処理後の金属粉末のインピーダンスは、ボールミル処理の無い金属粉末のインピーダンスに比較して極端に小さいことが分かる。このことから、その容量成分も小さく、低い予備加熱でゼロに近付くことが予測できる。
【0124】
《ボールミルの処理時間の考察》
本実施例における、表面のSEM画像、ボールミル処理後の粉末の状態、抵抗値の測定結果、および、インピーダンスの測定結果から複合的に判断すると、本条件によるボールミル処理は10分以上で60分を超えないことが好ましく、30分当たりがより好ましいと思われる。なお、ボール寸法、回転数、温度などの動作条件により好ましい時間帯が変わるものと考えられる。
【0125】
《機械的予備処理後の金属粉末によるスモークテスト》
(スモークテスト結果)
図23は、第3実施例および第4実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末によるスモークテストの結果2310を示す図である。
【0126】
図23に示すように、第3実施例および第4実施例に係るボールミル処理による機械的予備処理前には、700℃以上の予備加熱がなければスモーク現象を抑制でできなかったが、第3実施例および第4実施例に係るボールミル処理による機械的予備処理後には、室温(RT)においてもスモーク現象の発生はなかった。したがって、溶融ビームの条件によっては、室温で予備加熱無しであってもスモークが発生しないという結果が得られた。しかしながら、溶融条件で一番厳しいと思われる条件を想定すると、現状の溶融条件では600~500℃まで予備加熱を実施することが望ましい。以下、この結果を得たスモークテストについて説明する。
【0127】
(スモークテスト方法および条件)
図24は、第3実施例および第4実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末によるスモークテスト方法を説明する図である。
【0128】
図24のスモークテスト・システム2410は、スモークテスト対象の積層造形用金属粉末へのビーム照射を制御するビーム照射制御部と、ビーム照射された積層造形用金属粉末の状態を観察する金属粉末観察部と、を備える。ビーム照射制御部は、造形データを生成する造形装置(PC)と、造形装置からのビームオン指令に対応してビームの出力を制御するビーム出力制御基板と、ビーム出力制御基板からのビーム出力信号によりビームを出力するビーム出力部と、を含む。また、金属粉末観察部は、スモークテスト中の積層造形用金属粉末を撮像する高速度カメラと、ビーム出力制御基板からの制御信号に同期して高速度カメラによる撮像タイミングを制御するオシロスコープと、高速度カメラを制御して撮像画像を取得して記憶するカメラ制御・記憶装置(PC)と、を含む。なお、
図24のスモークテスト・システムは一例であって、これに限定されるものではない。
【0129】
図25は、第3実施例および第4実施例に係る機械的予備処理後の金属粉末によるスモークテスト条件を示す図である。すなわち、
図24のスモークテスト・システム2410における動作条件を含むスモークテスト条件である。
【0130】
図25には、高速度カメラのカメラ条件2510と、スモークテスト対象の積層造形用金属粉末を配置する配置部の構造2520と、ビーム出力制御基板からのビームオン信号2530と、が示されている。
【0131】
《本実施例の効果》
本実施例によれば、簡単な機械的処理によって、予備加熱温度を低下させてもスモーク現象が発生しない金属積層造形用粉末を提供することができる。
【0132】
例えば、ジェットミルによる機械的予備処理を行うことによって、電気抵抗およびインピーダンスを低下させ、容量成分がゼロに近付く温度を下げることにより、予備加熱温度を低下させてもスモーク現象が発生しない金属積層造形用粉末を提供する。また、ボールミルによる機械的予備処理を行うことによって、電気抵抗およびインピーダンスを低下させ、容量成分がゼロに近付く温度を下げることにより、予備加熱温度を低下させてもスモーク現象が発生しない金属積層造形用粉末を提供する。
【0133】
なお、本実施例では、ジェットミルとボールミルとによる機械的予備処理を示したが、金属粉末を衝突させてインピーダンス、特にその容量成分を低減させることができる機械的処理であれば、ジェットミルとボールミルとに限らず同様の効果を奏すものである。
【0134】
[金属積層造形用粉末の他の実施形態]
上記実施例においては、合金粉末として、ニッケル系合金のインコネル718(登録商標:Inconel 718/UNS Number N07718)、チタン系合金のチタン64やTiAlなど、を使用したが、合金粉末はこれに限定されない。
【0135】
図9に、本発明を適用可能な他の合金粉末の例900を示す。これら他の合金粉末は、他のニッケル系合金や、ニッケルを所定比率含有する他の金属系合金、例えば、コバルト系合金や鉄系合金、銅合金、タングステン合金などを含む。
【0136】
[金属積層造形装置の実施形態]
本発明の実施形態に係る金属積層造形装置について説明する。本実施形態に係る金属積層造形装置は、本実施形態の機械的予備処理を行う機能を有する。
【0137】
《金属積層造形装置の構成》
図10Aは、本実施形態に係る金属積層造形装置1000の構成を示すブロック図である。
【0138】
金属積層造形装置1000は、情報処理装置1010と、積層造形装置1020と、機械的処理部1030と、を備える。なお、機械的処理部1030は、積層造形装置1020に含まれてもよい。機械的処理部1030は加熱部1031を有する。
【0139】
情報処理装置1010は、通信制御部1011と、入出力インタフェース1012と、表示部1013と、操作部1014と、記憶媒体1015と、を備える。また、情報処理装置1010は、予備処理判定部1016と、予備処理指示部1017と、予備加熱判定部1018と、予備加熱設定部1019と、を備える。
【0140】
通信制御部1011は、積層造形装置1020の造形制御部1021および機械的処理部1030との通信を制御する。入出力インタフェース1012は、表示部1013、操作部1014、記憶媒体1015、との入出力をインタフェースする。なお、表示部1013と操作部1014は、タッチパネルとして合体していてもよい。予備処理判定部1016は、走査部1014から入力された金属粉末の特性情報から機械的処理部1030による機械的予備処理が必要であるか否かを判定する。予備処理指示部1017は、機械的予備処理が必要である場合に、機械的処理部1030による機械的予備処理の実行を指示する。予備加熱判定部1018は、本金属積層造形装置1000が予備加熱の温度調整が可能であれば、走査部1014から入力された金属粉末の特性情報や、予備処理判定部1016からの機械的予備処理の実行情報から、予備加熱の温度を調整するか否かを判定する。予備加熱設定部1019は、予備加熱の温度を調整すると判定されると、積層造形装置1020の造形制御部1021に予備加熱の温度調整を指示する。
【0141】
積層造形装置1020は、造形制御部1021と積層造形部1022とを有する。造形制御部1021は、情報処理装置1010からの積層造形データを含む積層造形指示に従って、積層造形部1022の各構成要素の動作を制御する。積層造形部1022は、造形制御部1021のシーケンス制御に従って、金属粉末の供給、パウダーベッドの生成、電子ビームによる照射、造形プラットフォームの制御、を繰り返して、積層造形物の造形を実現する。
【0142】
機械的処理部1030は、例えば、上記実施例で使用されたジェットミルやボールミルであってよい。機械的処理部1030は、積層造形部1022のホッパーに接続される。
【0143】
(機械的処理部を含む積層造形装置)
図10Bは、本実施形態に係る機械的処理部1030を含む積層造形装置1020の構成を示すブロック図である。なお、
図10Aと同様の構成要素には同じ参照番号を付して、重複する説明を省略する。
【0144】
図10Bにおいて、金属粉末提供路1010は、機械的処理部1030による機械的予備処理が必要でない場合に、提供された金属粉末を機械的処理無しにそのまま積層造形部1022のホッパーに送る供給路を示している。
【0145】
(情報処理装置の表示例)
図11は、本実施形態に係る金属積層造形装置1000の情報処理装置1010の表示例を示す図である。
図11の表示例は、
図10Aの表示部1013および操作部1014により実現される。
【0146】
金属積層造形装置1000に金属積層造形を指示するオペレータは、表示画面1100から、使用する金属粉末の特性を設定する。表示画面1100には、金属粉末の製造会社や製品名などが入力されて、既知で特性が登録されている場合はその特性を読み出すことができる。
【0147】
オペレータは、登録されてない特性入力を設定することができる。特性入力には、粒径などとともに、本実施例に従って測定された電気抵抗値や、インピーダンスから算出された容量成分がゼロに近付く温度が入力可能である。かかる電気抵抗値や容量成分がゼロに近付く温度に基づいて、情報処理装置1010は金属粉末に機械的予備処理を施すか否かを判定する。あるいは、予備加熱温度が調整可能であれば、金属粉末の特性および/または積層造形時の溶融温度に対応して予備加熱温度を調整する。
【0148】
なお、金属粉末の特性情報は、記憶媒体1015や通信制御部1011から入力することにより、より大量のデータを瞬時に読み込むことが可能である。
【0149】
《情報処理装置の処理手順》
図12は、本実施形態に係る金属積層造形装置1000の情報処理装置1010の処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートは、情報処理装置1010を制御するCPUによりRAMを使用して実行され、
図10Aの情報処理装置1010の機能構成部を実現する。
【0150】
情報処理装置1010は、ステップS1201において、金属粉末の電気的特性が入力されたか否かを判定する。金属粉末の電気的特性が入力されたと判定されると、情報処理装置1010は、ステップS1203において、金属粉末の電気的特性から予備加熱を下げてもスモーク現象が発生しない良質な金属粉末であるか否かを判定する。良質な金属粉末であると判定されなかった場合、あるいは、金属粉末の電気的特性が入力されなかったと判定された場合は、情報処理装置1010は、ステップS1205において、機械的予備処理を行うように指示する。
【0151】
一方、良質な金属粉末であると判定された場合、あるいは、機械的予備処理が行われた場合は、情報処理装置1010は、ステップS1207において、本金属積層造形装置1000において予備加熱を調整可能であるか否かを判定する。予備加熱を調整可能であると判定すると、情報処理装置1010は、ステップS1209において、予備加熱を調整する。特に、予備加熱を積層造形において低減可能な温度に低減する。そして、情報処理装置1010は、ステップS1211において、調整された予備加熱で積層造形処理を実行させる。予備加熱を調整可能でないと判定されると、情報処理装置1010は、ステップS1211において、あらかじめ設定された予備加熱で積層造形処理を実行させる。
【0152】
情報処理装置1010は、ステップS1213において、積層造形処理の完了を待って、ステップS1211の積層造形処理を繰り返す。
【0153】
本実施形態の金属積層造形装置によれば、使用する金属粉末を予備加熱が低くて済む金属粉末に改善することで、効率的な金属積層造形を実現することができる。すなわち、予備加熱温度を低下させることで全体の積層造形時間が短縮され、生産性が向上すると共に、予備加熱温度が低下することで積層造形後の不要粉末除去が容易となる。
【0154】
[他の実施形態]
なお、上記実施形態の金属積層造形装置では、機械的予備処理を行うか否かを金属粉末の特性により判定したが、処理を簡単にするために、全ての金属粉末に対して機械的予備処理を施す構成であってもよい。
【0155】
また、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。また、それぞれの実施形態に含まれる別々の特徴を如何様に組み合わせたシステムまたは装置も、本発明の範疇に含まれる。
【0156】
また、本発明は、複数の機器から構成されるシステムに適用されてもよいし、単体の装置に適用されてもよい。さらに、本発明は、実施形態の機能を実現する情報処理プログラムが、システムあるいは装置に直接あるいは遠隔から供給される場合にも適用可能である。したがって、本発明の機能をコンピュータで実現するために、コンピュータにインストールされるプログラム、あるいはそのプログラムを格納した媒体、そのプログラムをダウンロードさせるWWW(World Wide Web)サーバも、本発明の範疇に含まれる。特に、少なくとも、上述した実施形態に含まれる処理ステップをコンピュータに実行させるプログラムを格納した非一時的コンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)は本発明の範疇に含まれる