(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-21
(45)【発行日】2023-03-02
(54)【発明の名称】溶融金属用部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 41/02 20060101AFI20230222BHJP
B22D 45/00 20060101ALI20230222BHJP
B22D 18/04 20060101ALI20230222BHJP
C23C 12/00 20060101ALI20230222BHJP
C23C 4/02 20060101ALI20230222BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20230222BHJP
F27D 1/00 20060101ALI20230222BHJP
F27D 1/16 20060101ALI20230222BHJP
C23C 4/10 20160101ALN20230222BHJP
【FI】
B22D41/02 Z
B22D45/00 B
B22D18/04 U
B22D18/04 V
C23C12/00
C23C4/02
C23C28/00 B
F27D1/00 N
F27D1/16 Z
F27D1/16 A
C23C4/10
(21)【出願番号】P 2018181308
(22)【出願日】2018-09-27
【審査請求日】2021-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124419
【氏名又は名称】井上 敬也
(72)【発明者】
【氏名】有賀 喜久雄
(72)【発明者】
【氏名】加藤 政仁
(72)【発明者】
【氏名】石井 彰人
(72)【発明者】
【氏名】岩元 孝史
(72)【発明者】
【氏名】梶田 慎道
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-064060(JP,A)
【文献】実開昭58-157259(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第105834399(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 35/00-47/00
B22D 17/00-17/32
B22D 18/04-18/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非鉄金属を溶解および/または精錬し収納保持するための坩堝や鋳造機用の部品として用いる溶融金属用部材であって、
カロライジング処理により内部に
アルミニウムを拡散滲透させ、
その拡散滲透したアルミニウムを選択的に酸化させたアルミナ質材の被膜層を
表面に形成してなる鉄系基材の外周に、酸化物質材、窒化物質材、炭化物質材の内の一種もしくは二種以上からなる
耐火物層が形成されていることを特徴とする溶融金属用部材。
【請求項2】
請求項1に記載された溶融金属用部材の製造方法であって、
鉄系基材を金属拡散滲透法で処理することによって、鉄系基材の内部に
アルミニウムを拡散滲透させる金属拡散滲透処理工程、
金属拡散滲透工程において内部に
アルミニウムを拡散滲透させた鉄系材を、900℃~1200℃の酸化雰囲気中で加熱することによって、鉄系基材の周面に
アルミナ質材の被膜層を形成させる酸化物被覆層形成処理工程、
酸化物被覆層形成工程において鉄系基材の表面に形成された
アルミナ質材からなる被膜層の外周に、酸化物質材・窒化物質材・炭化物質材の内の一種もしくは二種以上からなる
耐火物層を形成する
耐火物層形成処理工程とを有することを特徴とする溶融金属用部材の製造方法。
【請求項3】
耐火物層形成処理工程が、
酸化物質材・窒化物質材・炭化物質材の内の一種もしくは二種以上からなる
耐火物層の原材料を溶射法により被膜層上に被覆する方法、あるいは、前記耐火物層の原材料にバインダーを加えた混合組成物を
アルミナ質材からなる被膜層上に被覆させる方法によって、前記被膜層の外周に前記耐火物層を形成するものであることを特徴とする
請求項2に記載の溶融金属用部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム、亜鉛、鉛、スズや銅等の融点1,100℃以下の低融点非鉄金属類の溶解、精錬、収納保持に用いる坩堝等の容器、溶湯から鋳物を造るための鋳造機用のストーク等の部材(本発明においては、それらの容器および鋳造用部材を総称して溶融金属用部材という)、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム等の低融点非鉄金属の溶解、精錬、収納保持のための坩堝や、溶湯から鋳物を造るための鋳造機用の各部材を形成するための材料として、従来、鉄系材が用いられてきた。当該鉄系材による坩堝や鋳造機用部材は、溶解時、精錬時等における熱効率(溶解効率)が高い上、耐熱衝撃性が高く、熱変化による不具合が発生しにくい等の長所があるものの、その反面、溶湯との化学反応性が高いため、反応生成物により溶湯が汚染され易く、溶湯の品質低下、引いては鋳造製品の品質低下を招き易い、という問題点を有していた。
【0003】
そのため、鉄系材からなる坩堝や鋳造機用部材の問題点を解消すべく、化学反応性が小さな黒鉛質材を主原料とし、成形性および焼結性の高い粘土質材を助材としてセラミックス結合させた黒鉛質耐火物からなる坩堝や鋳造機用部材も開発されている。ところが、黒鉛質耐火物からなる坩堝や鋳造機用部材は、熱伝導率が低いことに起因して溶解効率が低いため、作業効率が悪く、エネルギーのロスが大きい、という不具合がある。また、熱間展性が低いことに起因して耐熱衝撃性に劣るため、亀裂や割れが発生し易い上、黒鉛質材の酸化が進むと組織の脆弱化や層間剥離現象による損傷が生じてしまうため、耐用寿命が短い、という欠点もある。
【0004】
上記した黒鉛質耐火物からなる坩堝の欠点を改善するため、特許文献1の如く、黒鉛質材、炭化ケイ素材、無定形炭化ケイ素材を主耐火材とし、金属ケイ素、ケイ素鉄、弗化物、硼酸系材の混合複合化材とコールタール、ピッチ材を併用した混合原料を用い、熱間混練、熱間成形、還元焼成することにより、コールタール、ピッチを骸炭化させて諸材間の結合力を高めて、熱伝導性、耐熱性、耐食性、耐熱衝撃性を改善した坩堝が開発されている。一方、鋳造用部材における溶湯の汚染のし易さを解消すべく、炭化ケイ素と窒化ケイ素質材との複合材やサイアロン質材等のセラミックス材等からなる鋳造用部材も開発されて使用されてきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の如き、黒鉛質材、炭化ケイ素材、無定形炭化ケイ素材を主耐火材として混合複合化材とコールタール、ピッチ材を併用した混合原料からなる坩堝は、通常の黒鉛質材からなる坩堝に比べて、ある程度、溶解効率や熱衝撃性が改善されているものの、鉄系材からなる坩堝に比べて十分であるとは言い難い。また、炭化ケイ素と窒化ケイ素質材との複合材やサイアロン質材等のセラミックス材からなる鋳造用部材は、耐熱衝撃性が低く、圧モレ等によるブローホールが発生し易い等の問題点がある。
【0007】
本発明の目的は、上記従来の坩堝や鋳造用部材が有する問題点を解消し、耐化学反応性に優れており、耐熱衝撃性が高く、耐用寿命が長い上、溶融効率が良好で、省エネルギー化を図ることが可能な溶融金属用部材(坩堝や鋳造用部材等)を提供することにある。また、そのような溶融金属用部材を効率的に製造可能な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる本発明の内、請求項1に記載された発明は、非鉄金属を溶解および/または精錬し収納保持するための坩堝や鋳造機用の部品として用いる溶融金属用部材であって、カロライジング処理により内部にアルミニウムを拡散滲透させ、その拡散滲透したアルミニウムを選択的に酸化させたアルミナ質材の被膜層を表面に形成してなる鉄系基材の外周に、酸化物質材、窒化物質材、炭化物質材の内の一種もしくは二種以上からなる耐火物層が形成されていることを特徴とするものである。なお、本発明における溶融金属用部材とは、金属の溶融、精錬、収納保持に用いる坩堝(るつぼ)や、ストーク、ヒーターチューブ、測温計の保護管、ガス吹き込み用パイプ等の鋳造機用部材のことである。
【0010】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された溶融金属用部材の製造方法であって、鉄系基材を金属拡散滲透法で処理することによって、鉄系基材の内部にアルミニウムを拡散滲透させる金属拡散滲透処理工程、金属拡散滲透工程において内部にアルミニウムを拡散滲透させた鉄系材を、900℃~1200℃の酸化雰囲気中で加熱することによって、鉄系基材の周面にアルミナ質材の被膜層を形成させる酸化物被覆層形成処理工程、酸化物被覆層形成工程において鉄系基材の表面に形成されたアルミナ質材からなる被膜層の外周に、酸化物質材・窒化物質材・炭化物質材の内の一種もしくは二種以上からなる耐火物層を形成する耐火物層形成処理工程とを有することを特徴とするものである。
【0011】
請求項3に記載された発明は、請求項2に記載の溶融金属用部材の製造方法であって、耐火物層形成処理工程が、酸化物質材・窒化物質材・炭化物質材の内の一種もしくは二種以上からなる耐火物層の原材料を溶射法により被膜層上に被覆する方法、あるいは、前記耐火物層の原材料にバインダーを加えた混合組成物をアルミナ質材からなる被膜層上に被覆させる方法によって、前記被膜層の外周に前記耐火物層を形成するものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の溶融金属用部材を非鉄金属溶解用の坩堝として用いた場合には、鉄系金属からなる坩堝と同レベルの溶解効率を発現することができるため、溶解作業を効率的に行うことができ、省エネルギー化を図ることができる。また、請求項1に記載の溶融金属用部材は、耐化学反応性に優れているため、溶融した金属中に化学反応による汚染を生じさせたりせず、溶湯後の固化物や鋳造品の品質を高く保持することができる。さらに、請求項1に記載の溶融金属用部材は、耐熱衝撃性が高いため、亀裂発生が起こりにくく、耐用寿命が長い。また、請求項1に記載の溶融金属用部材を低圧鋳造機用のストーク(注湯管ストーク)として用いた場合には、従来の炭化ケイ素質・窒化ケイ素質からなる複合材やサイアロン質材からなるものに比べて耐熱衝撃性に優れているため、亀裂の発生による気泡の巻き込み等に起因したブローホールの発生を低減することができる。
【0013】
鉄系基材と複合耐火物層との間に接着強化層(下地層)を設けた溶融金属用部材は、被膜耐火物層との接着性が非常に高く、きわめて長期間に亘って使用することができる。
【0014】
請求項2に記載の溶融金属用部材の製造方法によれば、上記の如く、耐化学反応性および耐熱衝撃性に優れた溶融金属用部材を効率良く製造することができる。
【0015】
請求項3に記載の溶融金属用部材の製造方法によれば、上記の如く、耐化学反応性および耐熱衝撃性に優れた溶融金属用部材をきわめて短時間の内に非常に効率良く製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】坩堝の基材を示す説明図である(aは正面図であり、bはaにおけるA-A線断面図であり、cはaにおけるB-B線断面図である)。
【
図3】ストークの基材を示す説明図である(aは正面図であり、bはaにおけるA-A線断面図であり、cはaにおけるB-B線断面図である)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る溶融金属用部材およびその製造方法の一実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明においては、各成分の含有量、添加量に関する“~”は、原則的に、左側の数値以上右側の数値未満を意味するものとする。
【0018】
本発明に係る溶融金属用部材は、内部に非鉄金属を拡散滲透させ、表面に選択酸化物の被膜層を形成してなる鉄系基材の外周に、酸化物質材、窒化物質材、炭化物質材の内の一種もしくは二種以上からなる複合耐火物層が形成されたものである。
図21は、本発明に係る溶融金属用部材の一例としての坩堝の水平断面を示したものであり、本発明に係る溶融金属用部材は、
図1の如く、鉄系金属からなる基材Bと、セラミックス材からなる複合耐火物層Cとからなる多層構造体であるとともに、鉄系金属からなる基材Bの表層(表面から概ね1mm以内の深さの部分)近くに、アルミニウム、クロム、チタン等の非鉄金属が滲透しており(滲透した金属I)、なおかつ、それらの滲透した金属の一部が酸化物となって(複合耐火物層の内側において)基材の表面を覆っていることが必要である(酸化物被覆層S)。
【0019】
本発明に係る溶融金属用部材の基材は、鉄系金属製のものであれば特に限定されず、通常の鋳物、低炭素鋼、高炭素鋼、通常の合金、ステンレス鋼等からなるものを必要に応じて適宜使用することができる。
【0020】
本発明に係る溶融金属用部材は、上記した鉄系金属からなる基材(鉄系基材)に、以下の3つの処理を順に施すことによって得ることができる。
1)鉄系基材を金属拡散滲透法で処理することによって、鉄系基材の内部にアルミニウム、クロム、チタン等の非鉄金属を拡散滲透させる金属拡散滲透処理、
2)金属拡散滲透処理において内部に非鉄金属を拡散滲透させた鉄系材を、900℃~1200℃の酸化雰囲気中で加熱することによって、鉄系基材の周面に選択酸化物の被膜層を形成させる酸化物被覆層形成処理、
3)酸化物被覆層形成処理において鉄系基材の表面に形成された選択酸化物からなる被膜層の外周に、酸化物質材・窒化物質材・炭化物質材の内の一種もしくは二種以上からなる複合耐火物層を形成する複合耐火物層形成処理
【0021】
以下、それらの3つの処理の内容について詳細に説明する。
【0022】
<1.金属拡散滲透処理(カロライジング処理)>
この金属拡散滲透処理を鉄系基材に施すためには、たとえば、鋼製ケース内に、鉄系基材とともに、Fe-Al質の合金粉末、およびNH4Cl粉末等を埋め込み、密閉して炉内に入れて、900℃~1,200℃で加熱する方法等を採用することができる。かかる処理は、鉄系基材の内部で、以下のような化学反応を生じさせるものである。
(1)NH4Cl→NH3+HCl(2NH3←→N2+3H2)
(2)2Al+6HCl→2AlCl3+3H2
(3)2AlCl3+3Me→3MeCl2+2Al(置換反応)
【0023】
上記したような化学反応を鉄系基材の内部で生じさせることによって、鉄系基材の内部にAl等の非鉄金属を滲透させることが可能になり、鉄系基材の耐熱性を向上させることが可能となる。なお、この金属拡散滲透処理における加熱温度は、950℃~1,150℃であるとより好ましく、1,000℃~1,100℃であると特に好ましい。
【0024】
<2.酸化物被覆層形成処理(選択酸化処理)>
上記した金属拡散滲透処理(カロライジング処理)により、アルミニウム等の非鉄金属を滲透せしめた鉄系基材を、酸化雰囲気中で900℃~1,200℃の範囲内で加熱処理するものである。そのような加熱処理を施すことによって、鉄系基材の表面にカロライジング処理により滲透した金属の酸化物(主に、アルミナ質材)からなる被膜層を形成することが可能になる。そして、そのような被膜層を鉄系基材の表面に形成することによって、鉄系基材の耐熱性をより高めることが可能になるととともに、後に鉄系基材に積層する耐火セラミックス材層との接着性を飛躍的に向上させることが可能となる。なお、この酸化物被覆層形成処理における加熱温度は、950℃~1,150℃であるとより好ましく、1,000℃~1,100℃であると特に好ましい。
【0025】
<3.複合耐火物層(稼働層)形成処理>
上記の如く金属拡散滲透処理(カロライジング処理)および酸化物被覆層形成処理を施すことによって酸化物被膜材の形成された鉄系基材の表面に、酸化物質材、窒化物質材、炭化物質材の内の一種もしくは二種以上からなる複合耐火物層を形成することによって、最終的な溶融金属用部材を多層構造体とする処理である。複合耐火物層形成用の酸化物質材としては、アルミナ質材、ムライト質材、ジルコン質材、酸化クロム質材等を用いることができ、窒化物質材としては、窒化ケイ素質材等を用いることができ、炭化物質材としては、炭化ケイ素質材、炭化硼素質材等を用いることができる。なお、市販の酸化物質材、窒化物質材、炭化物質材に含まれる成分を表1に示す。
【0026】
【0027】
複合耐火物層の形成方法は、特に限定されないが、金属拡散滲透処理および酸化物被覆層形成処理後の鉄系基材の外周に、酸化物質材、窒化物質材、炭化物質材の内の一種もしくは二種以上(耐火セラミックス材)に、コロイダルシリカ等のバインダーおよび/またはトリエタノールアミン等の解膠材を加えた耐火材(複合耐火物層形成組成物)を、前述した耐火物層形成処理法(第0025段落参照)によって形成し、その耐火材を形成した鉄系基材を800℃~1,300℃の温度で5時間~15時間に亘って加熱する方法を用いると、鉄系基材と複合耐火物層との接着性を効率的に高めることが可能となるので好ましい。なお、溶射法によって鉄系基材の外周に耐火物層を設ける方法等があるが、かかる方法を用いる場合には、その後の加熱処理を省略することができる。
【0028】
なお、複合耐火物層は、鉄系基材(金属拡散滲透処理、酸化物被覆層形成処理を施した鉄系基材)の全体に設ける(積層する)ことも可能であるし、少なくとも溶湯スラグの接する部位を含めた一部に設けることも可能である。また、形成する複合耐火物層の厚みは、特に限定されないが、1.0~10.0mmの範囲内に調整すると、最終的に得られる溶融金属用部材の熱効率(溶解効率)や耐食性、耐熱衝撃性を効果的に向上させることができるので好ましい。
【0029】
上記の如く、複合耐火物層を鉄系基材(金属拡散滲透処理および酸化物被覆層形成処理後の鉄液基材)上に積層することによって、鉄系材基材の高い熱伝導性を保持したまま、溶解させるアルミニウム等の低融点非鉄金属との化学反応性を小さくすることができ、溶湯の汚染を防止することが可能になる上、鉄系基材の問題点である耐化学的反応性を飛躍的に高めることができる。
【0030】
また、複合耐火物層形成処理に用いる耐火材の種類は、特に限定されないが、窒化ケイ素質材と炭化ケイ素質材との複合材、あるいは、窒化ケイ素質材や炭化ケイ素質材に、含ジルコニア質材、ムライト質材およびアルミナ質材を加えた複合材を用いると、酸化物被覆層が形成された鉄系基材と耐火物層との接着性がきわめて良好なものとなり、耐用寿命が飛躍的に向上するので特に好ましい。
【0031】
また、本発明に係る溶融金属用部材は、上記した金属拡散滲透処理および酸化物被覆層形成処理後の鉄系基材と、複合耐火物層との接着力を高めるために、金属拡散滲透処理および酸化物被覆層形成処理後の鉄系基材の外周に下地層を形成し、しかる後に、その下地層の上に、複合耐火物層を形成したものとすることも可能である。
【0032】
当該下地層を形成するための材料は、コロイダルアルミナ、コロイダルシリカ、コロイダルジルコニア等のコロイド状無機物を主成分(硬化剤)とし、アルミナ、ムライト、ジルコン、酸化クロム等の酸化物、炭化ケイ素、炭化硼素等の炭化物、窒化ケイ素等の窒化物、硼化物、低融点セラミックス等のセラミックス材の内の一種または二種以上を混合してなる複合材を好適に用いることができる。また、複合材の組成は、特に限定されないが、複合体中におけるコロイド状無機物以外の耐火酸化物材の割合(固形分の重量比)を、10wt%~30wt%の範囲内に調整すると、鉄系基材と複合耐火物層との接着性、下地層と複合耐火物層との接着性がきわめて良好なものとなるので好ましい。
【0033】
下地層の形成方法としては、金属拡散滲透処理および酸化物被覆層形成処理後の鉄系基材の外周に、上記した複合材に解膠材としてトリエタノールアミンを加えたもの(液状体)を塗布して乾燥させた後に、複合耐火物層を形成する(すなわち、複合耐火物層形成用組成物を塗布して加熱する)方法を好適に採用することができる。なお、形成する下地層の厚みは、特に限定されないが、0.1~1.0mmの範囲内に調整すると、複合耐火物層との接着性を高めることができるので好ましい。
【0034】
また、本発明に係る溶融金属用部材は、坩堝や鋳造機用部材(ストーク等)に限定されず、アルミニウム等の低融点非鉄金属の溶解、精錬、収納、保持に供するものであれば特に限定されない。また、本発明に係る溶融金属用部材を坩堝とする場合には、内面および/または外面に線状やドット状等の凹凸を形成して比表面積を大きくすることによって熱伝導率を高めることも可能である。
【実施例】
【0035】
以下、本発明に係る溶融金属用部材およびその製造方法について実施例により詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更することが可能である。
【0036】
<坩堝の実施例および比較例>
本発明に係る溶融金属用部材を坩堝とした場合の実施例および比較例を以下に示す。それらの実施例・比較例における物性、特性の評価方法は以下の通りである。
【0037】
<溶解効率>
[溶解所要時間]
実施例1~4および比較例1,2で得られた坩堝に非鉄金属(アルミニウム)を収納し、その坩堝を坩堝炉内で加熱した際に、アルミニウムが完全に溶融し溶湯温度700℃となるまでの時間を計り、溶解所要時間(分)とした。
【0038】
[溶解所要時間比]
比較例1で得られた坩堝(基材:黒鉛質材)の溶解所要時間を100としたときの実施例1~4および比較例2の各溶解所要時間の比率を百分率で算出し、溶解所要時間比(%)とした。
【0039】
<耐用寿命>
[耐用日数]
実施例1~4および比較例1,2で得られた坩堝を用いて非鉄金属(アルミニウム 100kg)の溶融、排出を毎日4回ずつ繰り返して実施し、当該坩堝が損傷(亀裂等が発生)するまでの日数をカウントし、耐用日数とした。
【0040】
[耐用寿命比]
比較例1で得られた坩堝(基材:黒鉛質材、金属拡散滲透処理なし、酸化物被覆層形成処理なし、複合耐火物層形成処理なし)の耐用日数を100としたときの実施例1~4および比較例2の各坩堝の耐用日数の比率を百分率で算出し、耐用寿命比(%)とした。
【0041】
[実施例1]
鉄系材(鋳物)によって
図1の如き形状(上部の内径φ=362mm、下部の内径φ=336mm×内部の高さ615mmの湯飲み状)を有する坩堝の容器本体(鉄系基材)を形成した。しかる後、その容器本体に金属拡散滲透処理(カロライジング処理)を施すことによって容器本体の表層付近にアルミ拡散滲透層を形成した。すなわち、容器本体をFe-Al合金粉およびNH
4Cl粉からなる調合剤とともに鋼製ケース内に埋め込み、その鋼製ケースを密閉し、その密閉された鋼製ケースを炉内にて1,100℃で10時間に亘って加熱した。
【0042】
しかる後、そのカロライジング処理後の容器本体を、酸化雰囲気中で1,100℃で10時間に亘って加熱することによって、金属拡散滲透処理によって容器本体の表層に滲透した滲透材(Al)を選択酸化した(酸化物被覆層形成工程)。
【0043】
さらに、その滲透材を選択酸化した容器本体の外周に、厚さ3mmの複合耐火物層を形成した(複合耐火物層形成工程)。すなわち、滲透材を選択酸化した容器本体の外周(容器本体の内部の表面をも含む外周)に、以下の組成からなる複合耐火物層形成用組成物(窒化ケイ素質材からなるセラミック材)を被覆させて、多層構造体(
図1参照)とした後、その多層構造体を1,000℃で6時間に亘って加熱することによって、実施例1の坩堝を得た。そして、その実施例1の坩堝の溶解効率および耐用寿命を、上記した方法によって評価した。評価結果を坩堝の製造方法、性状とともに表2に示す。
・窒化ケイ素質材:100重量部
・炭化硼素質材:2重量部
・コロイダルシリカ:3重量部
・トリエタノールアミン:0.3重量部
【0044】
[実施例2]
滲透材を選択酸化した容器本体の外周に被覆させる複合耐火物層形成用組成物を以下の組成を有するもの(窒化ケイ素質材・炭化ケイ素質材、および炭化硼素質材の複合材)に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2の坩堝を得た。そして、その実施例2の坩堝の溶解効率および耐用寿命を、上記した方法によって評価した。評価結果を坩堝の製造方法、性状ととともに表2に示す。
・窒化ケイ素質材:30重量部
・炭化ケイ素質材:70重量部
・炭化硼素質材:2重量部
・コロイダルシリカ:3重量部
・トリエタノールアミン:0.3重量部
【0045】
[実施例3]
滲透材を選択酸化した容器本体の外周に被覆させる複合耐火物層形成用組成物を以下の組成を有するもの(窒化ケイ素質材・炭化ケイ素質材・炭化硼素質材、ジルコン質材、ムライト質材、アルミナ質材の複合材)に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例3の坩堝を得た。そして、その実施例3の坩堝の溶解効率および耐用寿命を、上記した方法によって評価した。評価結果を坩堝の製造方法、性状ととともに表2に示す。
・窒化ケイ素質材:30重量部
・炭化ケイ素質材:40重量部
・炭化硼素質材:2重量部
・ジルコン質材:10重量部
・ムライト質材:10重量部
・アルミナ質材:10重量部
・コロイダルシリカ:3重量部
・トリエタノールアミン:0.3重量部
【0046】
[実施例4]
実施例1と同様に拡散滲透処理(カロライジング処理)および酸化物被覆層形成処理を施した坩堝の容器本体に、以下の組成からなる下塗り層形成用組成物(液状体)を、塗布することによって被覆させた。
・ムライト質材:50重量部
・アルミナ質材:50重量部
・コロイダルシリカ:20重量部
・トリエタノールアミン:2重量部
【0047】
しかる後、その下塗り層を塗布した容器本体の外周に、実施例3と同様な複合耐火物層形成用組成物(窒化ケイ素質材・炭化ケイ素質材・炭化硼素質材、ジルコン質材、ムライト質材、アルミナ質材の複合材)を形成することによって被覆させて多層構造体とし、その多層構造体を1,000℃で6時間に亘って加熱することによって、実施例4の坩堝を得た。そして、その実施例4の坩堝の溶解効率および耐用寿命を、上記した方法によって評価した。評価結果を坩堝の製造方法、性状とともに表2に示す。
【0048】
[比較例1]
黒鉛質材(カーボンボンド)によって実施例1の坩堝(容器基材)と同一の形状(上部の内径φ=362mm、下部の内径φ=336mm×内部の高さ615mmの湯飲み状)を有する比較例1の坩堝を形成した(容器基材)。そして、その比較例1の坩堝の溶解効率および耐用寿命を、上記した方法によって評価した。評価結果を坩堝の製造方法、性状とともに表2に示す。
【0049】
[比較例2]
鋳鉄材(FCD)によって実施例1の坩堝(容器基材)と同一の形状(上部の内径φ=362mm、下部の内径φ=336mm×内部の高さ615mmの湯飲み状)を有する比較例2の坩堝を形成した(容器基材)。そして、その比較例2の坩堝の溶解効率および耐用寿命を、上記した方法によって評価した。評価結果を坩堝の製造方法、性状とともに表2に示す。
【0050】
<ストークの実施例および比較例>
次に、本発明に係る溶融金属用部材をストークとした場合の実施例および比較例を示す。それらの実施例・比較例における物性、特性の評価方法は以下の通りである。
【0051】
<耐用寿命>
[耐用日数]
実施例5および比較例3で得られたストークを、溶融させた非鉄金属(アルミニウム 100kg)の透過、排出の用途に毎日4回ずつ繰り返して使用し、当該ストークが損傷(亀裂等が発生)するまでの日数をカウントし、耐用日数とした。
【0052】
[耐用寿命比]
比較例3で得られたストーク(基材:SiC-Si3N4)の耐用日数を100としたときの実施例5のストークの耐用日数の比率を百分率で算出し、耐用寿命比(%)とした。
【0053】
[実施例5]
鉄系材(STPA-12)によって
図3の如き形状(外径φ=131mm、内径φ=101mm×高さ515mmの筒状)を有するストーク本体(鉄系基材)を形成した。しかる後、そのストーク本体に、実施例2と同様に、金属拡散滲透処理、酸化物被覆層形成処理を施した後に、実施例2と同様な方法で、ストーク本体の表面(内側および外側)に、最終的な厚みが3mmとなるように複合耐火物層を形成することによって、外径φ=137mm、内径φ=95mm×高さ515mmの大きさを有する筒状の実施例5のストークを得た。そして、その実施例5のストークの耐用寿命を、上記した方法によって評価した。評価結果を表2に示す。
【0054】
[比較例3]
鉄系材(SiC-Si3N4)によって実施例5と同様なフランジ部を有する長尺な筒状のストーク本体を形成した。そして、その外周に、以下の組成からなる複合耐火物層を形成することによって多層構造体とした後、その多層構造体を1,000℃で6時間に亘って加熱することによって、実施例5と同様な形状(外径φ=137mm、内径φ=95mm×高さ515mmの筒状)を有する比較例3のストークを得た。なお、焼成工程においては、焼成後のストークにおける複合耐火物層の厚みが約5.0mmになるように調整した。そして、その比較例3のストークの耐用寿命を、上記した方法によって評価した。評価結果を表2に示す。
・炭化ケイ素質材:75重量部
・窒化ケイ素質材:25重量部
・コロイダルシリカ:3重量部
・トリエタノールアミン:0.3重量部
【0055】
【0056】
表2から、実施例1~4の坩堝は、溶融所要時間が短く、溶融所要時間比が小さい上、耐用日数が長く、耐用寿命比率が大きいことが分かる。それに対して、黒鉛質材で形成された比較例1の坩堝や、金属拡散滲透処理、酸化物被覆層形成処理、および複合耐火物層形成処理が施されていない比較例2の坩堝は、溶融所要時間が長く、耐用日数が短いことが分かる。また、表2から、実施例5のストークは、金属拡散滲透処理、酸化物被覆層形成処理、および複合耐火物層形成処理が施されていない従来のストーク(比較例3のストーク)に比べて耐用日数が長く、耐用寿命比率が大きいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の溶融金属用部材は、上記の如く優れた効果を奏するものであるから、坩堝や鋳造機用部材等の部材として好適に用いることができる。また、本発明の溶融金属用部材の製造方法は、金属の溶解効率が良好で耐用寿命の長い溶融金属用部材を製造するための方法として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0058】
M・・坩堝(溶融金属用部材)
B・・鉄系基材
S・・酸化物被覆層
C・・複合耐火物層
I・・基材中に滲透した金属