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特許7232016有機薄膜および有機薄膜の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、有機薄膜太陽電池、薄膜トランジスタ、塗料組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-21
(45)【発行日】2023-03-02
(54)【発明の名称】有機薄膜および有機薄膜の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、有機薄膜太陽電池、薄膜トランジスタ、塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   H10K 85/60 20230101AFI20230222BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20230222BHJP
   H10K 50/16 20230101ALI20230222BHJP
   H10K 50/165 20230101ALI20230222BHJP
   H10K 50/17 20230101ALI20230222BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20230222BHJP
   C07D 471/22 20060101ALN20230222BHJP
【FI】
H10K85/60
G09F9/30 365
H10K50/16
H10K50/165
H10K50/17
H10K59/10
C07D471/22
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018214631
(22)【出願日】2018-11-15
(65)【公開番号】P2020087965
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】深川 弘彦
(72)【発明者】
【氏名】清水 貴央
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 翼
(72)【発明者】
【氏名】森井 克行
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼田 健二
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 宗弘
【審査官】辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-238827(JP,A)
【文献】特表2018-505162(JP,A)
【文献】国際公開第2016/181705(WO,A1)
【文献】特開2010-150166(JP,A)
【文献】特開2003-261568(JP,A)
【文献】特開2011-184339(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0208329(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0000967(KR,A)
【文献】KANBARA, Takaki et al.,New Proton-Sponge-Like Macrocyclic Compound: Synergistic Hydrogen Bonds of Aminopyridine,Eur. J. Org. Chem.,2006年07月12日,pp.3314-3316
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 85/60
G09F 9/30
H10K 50/16
H10K 50/165
H10K 50/17
H10K 59/10
C07D 471/22
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極と陽極との間に発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記陰極と前記発光層との間に有機薄膜を有し、
前記有機薄膜は、酸解離定数pKaが1以上の有機材料である第1材料を少なくとも含む膜と、電子を輸送する第2材料を少なくとも含む膜との積層膜であり、
前記第1材料が、下記一般式(3)で表される構造を有する環状ピリジン系化合物であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子
【化1】
(一般式(3)中、Rは、同一又は異なって、水素原子又は1価の有機基を表す。n10は、同一又は異なって、0又は1の整数である。n11は、3~10の整数である。)
【請求項2】
前記環状ピリジン系化合物が、一般式(3)におけるn10が全て1のアザカリックスピリジン誘導体であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子
【請求項3】
酸化物層と、前記酸化物層上に形成された前記有機薄膜の層とからなる積層膜を有することを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子
【請求項4】
前記有機薄膜の平均厚さが5~100nmであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記陰極と前記有機薄膜との間に、無機の酸化物層を有することを特徴とする請求項または請求項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする表示装置。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜および有機薄膜の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス(以下、エレクトロルミネッセンス(電界発光)を「EL」と記す場合がある。)素子、表示装置、照明装置、有機薄膜太陽電池、薄膜トランジスタ、塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、薄く、柔軟でフレキシブルである。また、有機EL素子を用いた表示装置は、現在主流となっている液晶表示装置およびプラズマ表示装置と比べて、高輝度、高精細な表示が可能である。また、有機EL素子を用いた表示装置は、液晶表示装置に比べて視野角が広い。このため、有機EL素子を用いた表示装置は、今後、テレビや携帯電話のディスプレイ等としての利用の拡大が期待されている。
また、有機EL素子は、照明装置としての利用も期待されている。
【0003】
有機EL素子は、陰極と発光層と陽極とが積層されたものである。有機EL素子では、陽極の仕事関数と発光層の最高占有軌道(HOMO)エネルギー差は、陰極の仕事関数と発光層の最低非占有軌道(LUMO)エネルギー差と比較して小さい。したがって、発光層に、陽極から正孔を注入することと比較して、陰極から電子を注入することは困難である。このため、従来の有機EL素子では、陰極と発光層との間に、電子注入層を配置して、陰極から発光層への電子の注入を促進している。また、陰極と発光層との間に配置される層にドーパントをドーピングすることで、電子注入・輸送性を改善する取り組みもなされている(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照。)。
【0004】
有機EL素子の電子注入層としては、無機の酸化物層が挙げられる(例えば、非特許文献3参照。)。しかし、無機の酸化物層は電子注入性が不十分である。
また、無機の酸化物層の上に、さらに電子注入層を成膜することにより、有機EL素子の電子注入性を改善する技術がある。例えば、非特許文献4には、ポリエチレンイミンからなる電子注入層を有する有機EL素子が記載されている。また、非特許文献5には、アミンが電子の注入速度の改善に有効であることが記載されている。非特許文献6、7、8には、電極と有機層との界面において、アミノ基が電子注入に及ぼす効果について記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】カーステン ウェーバー(Karsten Walzer)他3名「ケミカル レビュー(Chemical Review)」第107巻、2007年、p1233-1271
【文献】ペン ウェイ、外3名「ジャーナル オブ ザ アメリカン ケミカル ソサイエティ (Journal of the American Chemical Society)」、第132巻、2010年、p8852
【文献】ジャンシャン チェン(Jiangshan Chen)外6名「ジャーナル オブ マテリアルズ ケミストリー(Journal Of Materials Chemistry)」、第22巻、2012年、p5164-5170
【文献】ヒョサン チョイ(Hyosung Choi)外8名「アドバンスト マテリアルズ(Advanced Materials)」、第23巻、2011年、p2759
【文献】ウィンファ チョウ(Yinhua Zho)外21名「サイエンス(Science)」、第336巻、2012年、p327
【文献】ヨンフーン キム(Young-Hoon Kim)外5名「アドバンスト ファンクショナル マテリアルズ(Advanced Functional Materials)」、2014年、DOI:10.1002/adfm.201304163
【文献】ステファン フォーフル、外4名「アドバンスト マテリアルズ(Advanced Materials)」、2014年、DOI:10.1002/adma.201304666
【文献】ステファン フォーフル、外5名「アドバンスト マテリアルズ(Advanced Materials)」、第26巻、2014年、DOI:10.1002/adma.201400332
【文献】ペン ウェイ、外3名「ジャーナル オブ ザ アメリカン ケミカル ソサイエティ(Journal of the American Chemical Society)」、第132巻、2010年、p8852
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の電子注入層を含む有機EL素子では、電子注入性、電子輸送性をより一層向上させることが要求されていた。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、有機EL素子の電子注入層に用いた場合に、優れた電子注入性、電子輸送性が得られる有機薄膜、およびこの有機薄膜を製造する際に好適に用いることができる塗料組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、本発明の有機薄膜を用いた有機EL素子、この有機EL素子を備えた表示装置および照明装置、本発明の有機薄膜を含む有機薄膜太陽電池および有機薄膜トランジスタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、有機EL素子の電子注入層に用いる材料として、塩基性の有機材料に着目して検討した。その結果、酸解離定数pKaが1以上の有機材料である所定の構造の環状ピリジン系化合物と、電子を輸送する材料とを含む有機薄膜を、有機EL素子の電子注入層として用いればよいことが分かった。
【0009】
すなわち、上記のpKaが1以上の有機材料は、他の材料からプロトン(H)を引き抜く能力を有する。このため、上記の有機薄膜からなる電子注入層を有する有機EL素子では、pKaが1以上の有機材料が電子を輸送する材料からプロトン(H)を引き抜くことにより、マイナス電荷が生じ、電子注入性が向上するものと推定される。
【0010】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、以下のとおりである。
[1] 酸解離定数pKaが1以上の有機材料である第1材料と、電子を輸送する第2材料とを少なくとも含む単一の膜、又は、前記第1材料を少なくとも含む膜と前記第2材料とを少なくとも含む膜との積層膜であり、前記第1材料が、下記一般式(3)で表される構造を有する環状ピリジン系化合物であることを特徴とする有機薄膜。
【0011】
【化1】
(一般式(3)中、Rは、同一又は異なって、水素原子又は1価の有機基を表す。n10は、同一又は異なって、0又は1の整数である。n11は、3~10の整数である。)
【0012】
[2] 前記環状ピリジン系化合物が、一般式(3)におけるn10が全て1のアザカリックスピリジン誘導体であることを特徴とする[1]に記載の有機薄膜。
【0013】
[3] 酸化物層と、該酸化物層上に形成された[1]又は[2]に記載の有機薄膜の層とからなる積層膜。
【0014】
[4] 陰極と陽極との間に発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記陰極と前記発光層との間に[1]又は[2]に記載の有機薄膜又は[3]に記載の積層膜を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
[5] 前記有機薄膜の平均厚さが5~100nmであることを特徴とする[4]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[6] 前記陰極と前記有機薄膜との間に、無機の酸化物層を有することを特徴とする[4]または[5]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0015】
[7] [4]~[6]のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする表示装置。
[8] [4]~[6]のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする照明装置。
【0016】
[9] [1]又は[2]に記載の有機薄膜又は[3]に記載の積層膜を含むことを特徴とする有機薄膜太陽電池。
[10] [1]又は[2]に記載の有機薄膜又は[3]に記載の積層膜を含むことを特徴とする薄膜トランジスタ。
[11] 酸解離定数pKaが1以上の有機材料である第1材料と、電子を輸送する第2材料とを少なくとも含み、前記第1材料が、下記一般式(3)で表される構造を有する環状ピリジン系化合物であることを特徴とする塗料組成物。
【0017】
【化2】
(一般式(3)中、Rは、同一又は異なって、水素原子又は1価の有機基を表す。n10は、同一又は異なって、0又は1の整数である。n11は、3~10の整数である。)
【発明の効果】
【0018】
本発明の有機薄膜は、少なくとも酸解離定数pKaが1以上の特定の環状ピリジン系化合物からなる第1材料と、電子を輸送する第2材料とを含む。このため、本発明の有機薄膜を、例えば、有機EL素子の電子注入層に用いた場合、優れた電子注入性、電子輸送性が得られ、更に、有機EL素子を長寿命化させる効果も得られる。
本発明の有機EL素子は、陰極と発光層との間に本発明の有機薄膜を有するため、有機薄膜によって優れた電子注入性、電子輸送性が得られ、更に有機EL素子を長寿命化させる効果も得られる。
また酸解離定数pKaが1以上の特定の環状ピリジン系化合物からなる第1材料と、電子を輸送する第2材料とを含む本発明の有機薄膜は、塗布および蒸着のいずれの方法によっても形成することが可能であるため、本発明の有機薄膜を含む有機EL素子を製造する場合のプロセス上の制約が少なく、有機EL素子を構成する層の材料として使用しやすいものである。
【0019】
本発明の塗料組成物は、酸解離定数pKaが1以上の特定の有機材料からなる第1材料と、電子を輸送する第2材料とを含む。したがって、本発明の塗料組成物を有機薄膜の被形成面上に塗布することにより、有機EL素子の電子注入層に好適な有機薄膜が得られる。
【0020】
本発明の表示装置および照明装置は、本発明の有機EL素子を備えているため、駆動電圧が低く、優れた特性を有する。
また、本発明の有機薄膜太陽電池および有機薄膜トランジスタは、本発明の有機薄膜を含むものであるため、優れた特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の有機EL素子の一例を説明するための概略断面図である。
図2】実施例1、2及び比較例1の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係を示したグラフである。
図3】実施例1、2及び比較例1の有機EL素子の印加電圧と電流密度との関係を示したグラフである。
図4】実施例1、2及び比較例1の有機EL素子の電流密度と外部量子効率との関係を示したグラフである。
図5】実施例3、比較例2の有機EL素子の構成を示した概略断面図である。
図6】実施例3及び比較例2の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係を示したグラフである。
図7】実施例3及び比較例2の有機EL素子の印加電圧と電流密度との関係を示したグラフである。
図8】実施例3及び比較例2の有機EL素子の電流密度と外部量子効率との関係を示したグラフである。
図9】比較例3、4の有機EL素子の構成を示した概略断面図である。
図10】実施例4、6の有機EL素子の構成を示した概略断面図である。
図11】実施例5の有機EL素子の構成を示した概略断面図である。
図12】実施例4、5及び比較例3の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係を示したグラフである。
図13】実施例4、5及び比較例3の有機EL素子の印加電圧と電流密度との関係を示したグラフである。
図14】実施例4、5及び比較例3の有機EL素子の電流密度と外部量子効率との関係を示したグラフである。
図15】実施例4、5及び比較例3の有機EL素子の経過時間に対する輝度の変化を示したグラフである。
図16】実施例6及び比較例4の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係を示したグラフである。
図17】実施例6及び比較例4の有機EL素子の印加電圧と電流密度との関係を示したグラフである。
図18】実施例6及び比較例4の有機EL素子の電流密度と外部量子効率との関係を示したグラフである。
図19】実施例6及び比較例4の有機EL素子の経過時間に対する輝度の変化を示したグラフである。
図20】実施例7及び比較例5の有機EL素子の構成を示した概略断面図である。
図21】実施例7及び比較例5の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係を示したグラフである。
図22】実施例7及び比較例5の有機EL素子の経過時間に対する輝度の変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について、詳細に説明する。
「有機薄膜」
本実施形態の有機薄膜は、酸解離定数pKaが1以上の有機材料である第1材料と、電子を輸送する第2材料とを少なくとも含む。本実施形態の有機薄膜は、第1材料と第2材料とを含む単一層の膜であってもよく、第1材料含む層と第2材料含む層とが積層された積層膜であってもよい。
本実施形態の有機薄膜における第1材料は、下記一般式(3)で表される構造を有する環状ピリジン系化合物である。
【0023】
【化3】
(一般式(3)中、Rは、同一又は異なって、水素原子又は1価の有機基を表す。n10は、同一又は異なって、0又は1の整数である。n11は、3~10の整数である。)
【0024】
本実施形態の有機薄膜を構成している第1材料は、pKaが1以上の上記有機材料であるため、第2材料からプロトン(H)を引き抜く能力を有する。第1材料は、pKaが5以上であることが好ましく、11以上であることがさらに好ましい。第1材料はpKaが高い材料である程、第2材料からプロトンを引き抜く能力がより高いものとなる。その結果、有機薄膜を、例えば、有機EL素子の電子注入層として用いた場合に、優れた電子注入性および電子輸送性が得られる。また、無機化合物の欠損箇所に好適に配位することから、外部から侵入する酸素や水との界面での反応を妨げ、素子の大気安定性を高める効果があることも確認されている。更に、素子の寿命を向上させる効果があることも確認されている。
したがって、本発明の有機薄膜は、有機化合物のみから構成される素子だけではなく、特に、有機化合物と無機化合物とで構成される素子に対しても用いることができ、電子注入性や大気安定性を高め、更に素子を長寿命化させる効果を発揮することができる。
なお、本発明において、「pKa」は通常は「水中における酸解離定数」を意味するが、水中で測定できないものは「ジメチルスルホキシド(DMSO)中における酸解離定数」を意味し、DMSO中でも測定できないものは、「アセトニトリル中の酸解離定数」を意味する。好ましくは「水中における酸解離定数」を意味する。
【0025】
上記一般式(3)におけるRが1価の有機基である場合、1価の有機基としては、後述する一般式(14)におけるX~Xの1価の置換基と同様のものが挙げられる。
それらの中でもRの1価の有機基として好ましくは、メチル基、エチル器、フェニル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、イソブチル基のいずれかである。
【0026】
上記一般式(3)におけるn11は、3~10の整数であるが、水素との相互作用の強さの点で、好ましくは、3~8であり、より好ましくは、3~6である。
【0027】
第1材料として用いられる上記一般式(3)で表される構造を有する環状ピリジン系化合物は、複数のピリジン環が直接に、又は窒素原子を介して結合し、環構造を形成した化合物である。
上記一般式(3)におけるn10は、同一又は異なって、0又は1の整数を取りうる。つまり、例えば、環状ピリジン系化合物がピリジン環を6つ有する化合物である場合、構造中の6つ存在するn10の取りうる整数は、[i](0,0,0,0,0,0)から[xii](1,1,1,1,1,1)までの組み合わせであり、環状構造であることから他には[ii](1,0,0,0,0,0)、[iii](1,1,0,0,0,0)、[iv](1,0,1,0,0,0)、[v](1,0,0,1,0,0)、[vi](1,1,1,0,0,0)、[vii](1,1,0,1,0,0)、[viii](0,0,1,1,1,1)、[ix](0,1,0,1,1,1)、[x](0,1,1,0,1,1)、[xi](0,1,1,1,1,1)が可能であり、合計12通りが許される。そしてこれらすべてが候補である。ただし、そのうち6つ又は3つが1である上記[vi]、[vii]、[xii]が好ましい。より好ましくは、n10のうち、1であるものの数がn11と同じである[xii]である。すなわち、本発明において第1材料として用いられる環状ピリジン系化合物としては、一般式(3)で表されるものの中でも、一般式(3)におけるn10が全て1のアザカリックスピリジン誘導体であることが好ましい。
【0028】
上記一般式(3)で表される構造を有する環状ピリジン系化合物の具体例としては、例えば、下記式(6-1)~(6-4)で表される化合物が挙げられる。
【0029】
【化4】
【0030】
第2材料は、電子を輸送する材料であればよく、有機材料であることが好ましい。より好ましくは、最低非占有軌道(LUMO)準位が2.0eV~4.0eVまでの有機材料、その中でも、LUMO準位が2.5eV~3.5eVのn型有機半導体材料である。例えば、有機EL素子の電子輸送層の材料として、下記に示す従来公知のいずれの材料を用いてもよいが、これらの中でも、上記LUMO準位の要件を満たす材料が好ましい。
第2材料としては、具体的には、フェニル-ディピレニルホスフィンオキサイド(POPy)のようなホスフィンオキサイド誘導体、トリス-1,3,5-(3’-(ピリジン-3’’-イル)フェニル)ベンゼン(TmPhPyB)のようなピリジン誘導体、(2-(3-(9-カルバゾリル)フェニル)キノリン(mCQ))のようなキノリン誘導体、2-フェニル-4,6-ビス(3,5-ジピリジルフェニル)ピリミジン(BPyPPM)のようなピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、バソフェナントロリン(BPhen)のようなフェナントロリン誘導体、2,4-ビス(4-ビフェニル)-6-(4’-(2-ピリジニル)-4-ビフェニル)-[1,3,5]トリアジン(MPT)のようなトリアジン誘導体、3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール(TAZ)のようなトリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル-1,3,4-オキサジアゾール)(PBD)のようなオキサジアゾール誘導体、2,2’,2’’-(1,3,5-ベントリイル)-トリス(1-フェニル-1-H-ベンズイミダゾール)(TPBI)のようなイミダゾール誘導体、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、ビス[2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト]亜鉛(Zn(BTZ))、トリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq)などに代表される各種金属錯体、2,5-ビス(6’-(2’,2’’-ビピリジル))-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロール(PyPySPyPy),等のシロール誘導体に代表される有機シラン誘導体、特願2012-228460、特願2015-503053、特願2015-053872、特願2015-081108および特願2015-081109に記載のホウ素含有化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0031】
これらの第2材料の中でも、POPyのようなホスフィンオキサイド誘導体、ホウ素含有化合物、Alqのような金属錯体、TmPhPyBのようなピリジン誘導体を用いることがより好ましい。これらの第2材料の中でも、特に、第2材料が、上記一般式(1)(14-2)(21-2)で示されるいずれか一種のホウ素含有化合物または上記一般式(2)で示されるフォスフィンオキサイド誘導体であることが好ましい。
【0032】
第2の材料に用いられるホウ素含有化合物としては、例えば、下記の一般式(14)で表されるホウ素含有化合物が挙げられる。
【0033】
【化5】
【0034】
(一般式(14)中、点線の円弧は、実線で表される骨格部分と共に環構造が形成されていることを表す。実線で表される骨格部分における点線部分は、点線で結ばれる1対の原子が二重結合で結ばれていてもよいことを表す。窒素原子からホウ素原子への矢印は、窒素原子がホウ素原子へ配位していることを表す。Q及びQは、同一又は異なって、実線で表される骨格部分における連結基であり、少なくとも一部が点線の円弧部分と共に環構造を形成しており、置換基を有していてもよい。X、X、X及びXは、同一又は異なって、水素原子、又は、環構造の置換基となる1価の置換基を表し、点線の円弧部分を形成する環構造に複数個結合していてもよい。nは2~10の整数を表す。Yは直接結合又はn価の連結基であり、n個存在するY以外の構造部分とそれぞれ独立に、点線の円弧部分を形成する環構造、Q、Q、X、X、X、Xにおけるいずれか1箇所で結合していることを表す。)
【0035】
上記一般式(14)において、点線の円弧は、実線で表される骨格部分、すなわちホウ素原子とQと窒素原子とを繋ぐ骨格部分の一部又はホウ素原子とQとを繋ぐ骨格部分の一部、と共に環構造が形成されていることを表している。これは、上記一般式(14)で表される化合物が構造中に少なくとも4つの環構造を有し、上記一般式(14)において、ホウ素原子とQと窒素原子とを繋ぐ骨格部分及びホウ素原子とQとを繋ぐ骨格部分が、該環構造の一部として含まれていることを表している。なお、Xの結合する環構造は、その環構造骨格が炭素原子以外の原子を含まず、炭素原子からなるものであることが好ましい。
上記一般式(14)において、実線で表される骨格部分、すなわちホウ素原子とQと窒素原子とを繋ぐ骨格部分及びホウ素原子とQとを繋ぐ骨格部分、における点線部分は、それぞれの骨格部分において点線で結ばれる1対の原子が二重結合で結ばれていてもよいことを表す。
【0036】
上記一般式(14)において、窒素原子からホウ素原子への矢印は、窒素原子がホウ素原子へ配位していることを表す。ここで、配位しているとは、窒素原子がホウ素原子に対して配位子と同様に作用して化学的に影響していることを意味し、配位結合(共有結合)となっていてもよく、配位結合を形成していなくてもよい。好ましくは、配位結合となっていることである。
【0037】
上記一般式(14)において、Q及びQは、同一又は異なって、実線で表される骨格部分における連結基であり、少なくとも一部が点線の円弧部分と共に環構造を形成しているものであって、置換基を有していてもよい。これは、Q及びQがそれぞれ、該環構造の一部として組み込まれていることを表している。
【0038】
上記一般式(14)において、X、X、X及びXは、同一又は異なって、水素原子、又は、環構造の置換基となる1価の置換基を表し、点線の円弧部分を形成する環構造に複数個結合していてもよい。すなわち、X、X、X及びXが水素原子である場合には、上記一般式(14)で表される化合物の構造中、X、X、X及びXを有する4つの環構造は置換基を有していないことを示し、X、X、X及びXのいずれか又は全てが1価の置換基である場合には、該4つの環構造のいずれか又はいずれもが置換基を有する。その場合には、1つの環構造の有する置換基の数は1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。
なお、本明細書中において置換基とは、炭素を含む有機基と、ハロゲン原子、ヒドロキシ基等の炭素を含まない基とを含めた基を意味している。
【0039】
上記一般式(14)において、nは2~10の整数を表し、Yは、直接結合又はn価の連結基である。すなわち、上記一般式(14)で表される化合物においては、Yが、直接結合であり、2個存在するY以外の構造部分どうしがそれぞれ独立に、点線の円弧部分を形成する環構造、Q、Q、X、X、X、Xにおけるいずれか1箇所で結合しているか、又は、Yがn価の連結基であり、上記一般式(14)におけるY以外の構造部分が複数存在し、それらが連結基であるYを介して結合することとなる。
【0040】
上記一般式(14)において、Yが、直接結合である場合、上記一般式(14)は、2個存在するY以外の構造部分の一方の、点線の円弧部分を形成する環構造、Q、Q、X、X、X、Xにおけるいずれか1箇所と、もう一方の、点線の円弧部分を形成する環構造、Q、Q、X、X、X、Xにおけるいずれか1箇所とが直接結合していることを表す。当該結合位置は特に制限されないが、Y以外の構造部分の一方のXが結合している環又はXが結合している環と、もう一方のXが結合している環又はXが結合している環とが直接結合していることが好ましい。より好ましくは、Y以外の構造部分の一方のXが結合している環と、もう一方のXが結合している環とが直接結合していることである。この場合、2個存在するY以外の構造部分の構造は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0041】
上記一般式(14)において、Yが、n価の連結基であり、上記一般式(14)におけるY以外の構造部分が複数存在し、それらが連結基であるYを介して結合している場合、Y以外の構造部分が直接結合している構造よりも、酸化に強くなり製膜性も向上することから好ましい。
【0042】
なお、Yが、n価の連結基である場合、Yは、n個存在するY以外の構造部分とそれぞれ独立に、点線の円弧部分を形成する環構造、Q、Q、X、X、X、Xにおけるいずれか1箇所で結合しているものである。これは、Y以外の構造部分が、点線の円弧部分を形成する環構造、Q、Q、X、X、X、Xにおけるいずれか1箇所でYと結合していればよく、Y以外の構造部分のYとの結合部位は、n個存在するY以外の構造部分それぞれに独立であって、全て同一部位であってもよいし、一部が同一部位であってもよいし、全て異なる部位であってもよい。
【0043】
当該結合位置は特に制限されないが、n個存在するY以外の構造部分の全てが、Xが結合している環又はXが結合している環でYと結合していることが好ましい。より好ましくは、n個存在するY以外の構造部分の全てが、Xが結合している環でYと結合していることである。
また、n個存在するY以外の構造部分の構造は、全て同一であってもよいし、一部が同一であってもよいし、全て異なっていてもよい。
【0044】
上記一般式(14)におけるYがn価の連結基である場合、該連結基としては、例えば、置換基を有していてもよい鎖状、分岐鎖状又は環状の炭化水素基、置換基を有していてもよいヘテロ元素を含む基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基が挙げられる。これらの中でも、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基といった芳香環を有する基であることが好ましい。すなわち、上記一般式(14)におけるYは、芳香環を有する基であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
更に、Yは、上述した連結基が複数組み合わさった構造を有する連結基であってもよい。
【0045】
上記鎖状、分岐鎖状又は環状の炭化水素基としては、下記式(2-1)~(2-8)のいずれかで表される基であることが好ましい。これらの中でも、下記式(2-1)、(2-7)がより好ましい。
上記へテロ元素を含む基としては、下記式(2-9)~(2-13)のいずれかで表される基であることが好ましい。これらの中でも、下記式(2-12)、(2-13)がより好ましい。
【0046】
上記アリール基としては、下記式(2-14)~(2-20)のいずれかで表される基であることが好ましい。これらの中でも、下記式(2-14)、(2-20)がより好ましい。
【0047】
上記複素環基としては、下記式(2-21)~(2-33)のいずれかで表される基であることが好ましい。これらの中でも、下記式(2-23)、(2-24)がより好ましい。
【0048】
【化6】
【0049】
上記鎖状、分岐鎖状又は環状の炭化水素基、ヘテロ元素を含む基、アリール基、複素環基が有する置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のハロゲン原子;フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5~7の環状アルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基;ニトロ基;シアノ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の炭素数1~10のアルキル基を有するジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基、カルバゾリル基等のジアリールアミノ基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等のアシル基;ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、スチリル基等の炭素数2~30のアルケニル基;エチニル基、1-プロピニル基、プロパルギル基等の炭素数2~30のアルキニル基;ハロゲン原子やアルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基等で置換されていてもよいアリール基;ハロゲン原子やアルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基で置換されていてもよい複素環基;N,N-ジメチルカルバモイル基、N,N-ジエチルカルバモイル基等のN,N-ジアルキルカルバモイル基;ジオキサボロラニル基、スタニル基、シリル基、エステル基、ホルミル基、チオエーテル基、エポキシ基、イソシアネート基等が挙げられる。なお、これらの基は、ハロゲン原子やヘテロ元素、アルキル基、芳香環等で置換されていてもよい。
【0050】
これらの中でも、Yにおける鎖状、分岐鎖状又は環状の炭化水素基、ヘテロ元素を含む基、アリール基、複素環基が有する置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基、炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基、アリール基、複素環基、ジアリールアミノ基が好ましい。より好ましくは、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、ジアリールアミノ基である。
上記Yにおける鎖状、分岐鎖状又は環状の炭化水素基、ヘテロ元素を含む基、アリール基、複素環基が置換基を有する場合、置換基が結合する位置や数は特に制限されない。
【0051】
上記一般式(14)におけるnは、2~10の整数を表すが、好ましくは、2~6の整数である。より好ましくは、2~5の整数であり、更に好ましくは、2~4の整数であり、特に好ましくは、溶媒への溶解性の観点から、2又は3である。最も好ましくは2である。すなわち、上記一般式(14)で表されるホウ素含有化合物は、二量体であることが最も好ましい。
【0052】
上記一般式(14)におけるQ及びQとしては、下記式(3-1)~(3-8);で表される構造が挙げられる。
【0053】
【化7】
【0054】
なお、上記式(3-2)は、炭素原子に水素原子が2つ結合し、更に3つの原子が結合する構造であるが、当該水素原子以外の、炭素原子に結合する3つの原子は、いずれも水素原子以外の原子である。上記式(3-1)~(3-8)の中でも、(3-1)、(3-7)、(3-8)のいずれかが好ましい。より好ましくは、(3-1)である。すなわち、Q及びQが、同一又は異なって、炭素数1の連結基を表すこともまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0055】
上記一般式(14)において、点線の円弧と、実線で表される骨格部分の一部とによって形成される環構造は、Xの結合する環構造の骨格が炭素原子からなる限り、環状構造であれば特に制限されない。
【0056】
上記一般式(14)において、Yが直接結合であって、nが2である場合、Xが結合している環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、テトラセン環、ペンタセン環、トリフェニレン環、ピレン環、フルオレン環、インデン環、チオフェン環、フラン環、ピロール環、ベンゾチオフェン環、ベンゾフラン環、インドール環、ジベンゾチオフェン環、ジベンゾフラン環、カルバゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、ベンゾチアジアゾール環、フェナントリジン環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環が挙げられ、これらはそれぞれ、下記式(4-1)~(4-36)で表される。
【0057】
これらの中でも、環構造骨格が炭素原子のみからなるものが好ましく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、テトラセン環、ペンタセン環、トリフェニレン環、ピレン環、フルオレン環、インデン環が好ましい。より好ましくは、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環であり、更に好ましくは、ベンゼン環である。
【0058】
【化8】
【0059】
上記一般式(14)において、Yが直接結合であって、nが2である場合、Xが結合している環としては、例えば、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピラジン環、ピリミジン環、キノリン環、イソキノリン環、フェナントリジン環、キノキサリン環、ベンゾチアジアゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環が挙げられる。これらはそれぞれ、下記式(5-1)~(5-17)で表される。
【0060】
なお、下記式(5-1)~(5-17)中の*印は、Xが結合している環を構成し、かつ、上記一般式(14)におけるホウ素原子とQと窒素原子とを繋ぐ骨格部分を構成する炭素原子が、*印の付された炭素原子のいずれか1つと結合することを表している。また、*印の付された炭素原子を除く位置で他の環構造と縮環していてもよい。これらの中でも、ピリジン環、ピリミジン環、キノリン環、フェナントリジン環が好ましい。より好ましくは、ピリジン環、ピリミジン環、キノリン環である。更に好ましくは、ピリジン環である。
【0061】
【化9】
【0062】
また、上記一般式(14)において、Yが直接結合であって、nが2である場合、Xが結合している環及びXが結合している環としては、上記式(4-1)~(4-33)で表される環が挙げられる。これらの中でも、ベンゼン環、ナフタレン環、ベンゾチオフェン環が好ましい。より好ましくは、ベンゼン環である。
【0063】
上記一般式(14)において、X、X、X及びXは、同一又は異なって、水素原子、又は、環構造の置換基となる1価の置換基を表す。該1価の置換基としては特に制限されないが、X、X、X及びXとしては、例えば、水素原子、置換基を有していてもよいアリール基、複素環基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アリールアルコキシ基、シリル基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ハロゲン原子、カルボキシル基、チオール基、エポキシ基、アシル基、置換基を有していてもよいオリゴアリール基、1価のオリゴ複素環基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルキルチオ基、アゾ基、スタニル基、ホスフィノ基、置換基を有していてもよいアリールホスフィノ基、置換基を有していてもよいアルキルホスフィノ基、アリールホスフィニル基、置換基を有していてもよいアルキルホスフィニル基、シリルオキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいカルバモイル基、置換基を有していてもよいアリールカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールスルホニル基、置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基、置換基を有していてもよいアリールスルフィニル基、置換基を有していてもよいアルキルスルフィニル基、ホルミル基、シアノ基、ニトロ基、アリールスルホニルオキシ基、アルキルスルホニルオキシ基;メタンスルホネート基、エタンスルホネート基、トリフルオロメタンスルホネート基等のアルキルスルホネート基;ベンゼンスルホネート基、p-トルエンスルホネート基等のアリールスルホネート基;ベンジルスルホネート基等のアリールアルキルスルホネート基、ボリル基、スルホニウムメチル基、ホスホニウムメチル基、ホスホネートメチル基、アリールスルホネート基、アルデヒド基、アセトニトリル基等が挙げられる。
【0064】
上記X、X、X及びXにおける置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のハロゲン原子;塩化メチル基、臭化メチル基、ヨウ化メチル基、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5~7の環状アルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基;ヒドロキシ基;チオール基;ニトロ基;シアノ基;アミノ基;アゾ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の炭素数1~40のアルキル基を有するモノ又はジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基、カルバゾリル基などのアミノ基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等のアシル基;ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、ブテニル基、スチリル基等の炭素数2~20のアルケニル基;エチニル基、1-プロピニル基、プロパルギル基、フェニルアセチニル等の炭素数2~20のアルキニル基;ビニルオキシ基、アリルオキシ基等のアルケニルオキシ基;エチニルオキシ基、フェニルアセチルオキシ基等のアルキニルオキシ基;フェノキシ基、ナフトキシ基、ビフェニルオキシ基、ピレニルオキシ基等のアリールオキシ基;トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、パーフルオロフェニル基等のパーフルオロ基及び更に長鎖のパーフルオロ基;ジフェニルボリル基、ジメシチルボリル基、ビス(パーフルオロフェニル)ボリル基、4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラニル基等のボリル基;アセチル基、ベンゾイル基等のカルボニル基;アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基等のカルボニルオキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メチルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基等のスルフィニル基;メチルスルホニル基、フェニルスルホニル基等のスルホニル基;アルキルスルホニルオキシ基;アリールスルホニルオキシ基;ホスフィノ基;ジエチルホスフィニル基、ジフェニルホスフィニル基等のホスフィニル基; トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、ジメチル-tert-ブチルシリル基、トリメトキシシリル基、トリフェニルシリル基等のシリル基;シリルオキシ基;スタニル基;ハロゲン原子やアルキル基、アルコキシ基等で置換されていてもよいフェニル基、2,6-キシリル基、メシチル基、デュリル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピレニル基、トルイル基、アニシル基、フルオロフェニル基、ジフェニルアミノフェニル基、ジメチルアミノフェニル基、ジエチルアミノフェニル基、フェナンスレニル基等のアリール基(置換されていてもよい芳香族炭化水素環基);ハロゲン原子やアルキル基、アルコキシ基等で置換されていてもよい、チエニル基、フリル基、シラシクロペンタジエニル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、アクリジニル基、キノリル基、キノキサロイル基、フェナンスロリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾチアゾリル基、インドリル基、カルバゾリル基、ピリジル基、ピロリル基、ベンゾオキサゾリル基、ピリミジル基、イミダゾリル基等のヘテロ環基(置換されていてもよい芳香族複素環基);カルボキシル基;カルボン酸エステル;エポキシ基;イソシアノ基;シアネート基;イソシアネート基;チオシアネート基;イソチオシアネート基;カルバモイル基;N,N-ジメチルカルバモイル基、N,N-ジエチルカルバモイル基等のN,N-ジアルキルカルバモイル基;ホルミル基;ニトロソ基;ホルミルオキシ基;等が挙げられる。
なお、これらの基は、ハロゲン原子やアルキル基、アリール基等で置換されていてもよい。更に、これらの基がお互いに任意の場所で結合して環を形成していてもよい。
【0065】
これらの中でも、X、X、X及びXとしては、水素原子;ハロゲン原子、カルボキシル基、ヒドロキシ基、チオール基、エポキシ基、アミノ基、アゾ基、アシル基、アリル基、ニトロ基、アルコキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、シリル基、スタニル基、ボリル基、ホスフィノ基、シリルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基、アルキルスルホニルオキシ基等の反応性基;炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基;炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基、炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基、アリール基、炭素数2~8のアルケニル基、炭素数2~8のアルキニル基又は該反応性基で置換された、炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基;炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基;炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基、炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基、アリール基、炭素数2~8のアルケニル基、炭素数2~8のアルキニル基又は該反応性基で置換された、炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基;アリール基;炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基、炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基、アリール基、複素環基、炭素数2~8のアルケニル基、炭素数2~8のアルキニル基又は該反応性基で置換された、アリール基;オリゴアリール基;炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基、炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基、アリール基、複素環基、炭素数2~8のアルケニル基、炭素数2~8のアルキニル基又は該反応性基で置換された、オリゴアリール基;1価の複素環基;炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基、炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基、アリール基、複素環基、炭素数2~8のアルケニル基、炭素数2~8のアルキニル基又は該反応性基で置換された、1価の複素環基;1価のオリゴ複素環基;炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基、炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基、アリール基、複素環基、炭素数2~8のアルケニル基、炭素数2~8のアルキニル基又は該反応性基で置換された、1価のオリゴ複素環基;アルキルチオ基;アリールオキシ基;アリールチオ基;アリールアルキル基;アリールアルコキシ基;アリールアルキルチオ基;アルケニル基;炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基、炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基、アリール基、複素環基、炭素数2~8のアルケニル基、炭素数2~8のアルキニル基又は該反応性基で置換された、アルケニル基;アルキニル基;炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基、炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基、アリール基、複素環基、炭素数2~8のアルケニル基、炭素数2~8のアルキニル基又は該反応性基で置換された、アルキニル基;アルキルアミノ基;炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基、炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基、アリール基、複素環基、炭素数2~8のアルケニル基、炭素数2~8のアルキニル基又は該反応性基で置換された、アルキルアミノ基;アリールアミノ基;炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基、炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基、アリール基、複素環基、炭素数2~8のアルケニル基、炭素数2~8のアルキニル基又は該反応性基で置換された、アリールアミノ基;アリールホスフィノ基;炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基、炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基、アリール基、複素環基、炭素数2~8のアルケニル基、炭素数2~8のアルキニル基又は該反応性基で置換された、アリールホスフィノ基;アリールホスフィニル基;炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基、炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基、アリール基、複素環基、炭素数2~8のアルケニル基、炭素数2~8のアルキニル基又は該反応性基で置換された、アリールホスフィニル基;アリールスルホニル基;炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基、炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基、アリール基、複素環基、炭素数2~8のアルケニル基、炭素数2~8のアルキニル基又は該反応性基で置換された、アリールスルホニル基のいずれかが好ましい。
【0066】
より好ましくは、水素原子、臭素原子、ヨウ素原子、アミノ基、ボリル基、アルキニル基、アルケニル基、ホルミル基、シリル基、スタニル基、ホスフィノ基、該反応性基で置換されたアリール基、該反応性基で置換されたオリゴアリール基、1価の複素環基又は該反応性基で置換された1価の複素環基、該反応性基で置換された1価のオリゴ複素環基、アルケニル基又は該反応性基で置換されたアルケニル基、アルキニル基又は該反応性基で置換されたアルキニル基である。
【0067】
中でも、X及びXとして更に好ましくは、水素原子、アルキル基、アリール基、含窒素複素芳香族基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基等の還元に強い官能基である。特に好ましくは、水素原子、アリール基、含窒素複素芳香族基である。
また、X及びXとして更に好ましくは、水素原子、カルバゾリル基、トリフェニルアミノ基、チエニル基、フラニル基、アルキル基、アリール基、インドリル基等の酸化に強い官能基である。特に好ましくは、水素原子、カルバゾリル基、トリフェニルアミノ基、チエニル基である。
このように、X及びXとして還元に強い官能基を有し、X及びXとして酸化に強い官能基を有するものとすると、ホウ素含有化合物全体として更に還元にも酸化にも強い化合物となるものと考えられる。
なお、上記X~X、及び、X~Xにおける置換基において、複素環基を形成する複素環としては、上記(4-10)~(4-36)で表されるものが挙げられる。オリゴ複素環基を形成するオリゴ複素環、含窒素複素芳香族基を形成する含窒素複素芳香環としては、上記(4-10)~(4-36)の中で、それぞれオリゴ複素環、含窒素複素芳香環に該当するものが挙げられる。
なお、上記一般式(14)において、X、X、X及びXが1価の置換基である場合、環構造に対するX、X、X及びXの結合位置や結合する数は、特に制限されない。
【0068】
上記一般式(14)において、Yがn価の連結基であり、nが2~10である場合、Xが結合している環としては、上記一般式(14)において、Yが直接結合であり、nが2である場合にXが結合している環と同様である。それらの環の中でも、ベンゼン環、ナフタレン環、ベンゾチオフェン環が好ましい。より好ましくは、ベンゼン環である。
【0069】
上記一般式(14)において、Yがn価の連結基であり、nが2~10である場合、Xが結合している環、Xが結合している環、及び、Xが結合している環としては、それぞれ、上記一般式(14)においてYが直接結合であり、nが2である場合にXが結合している環、Xが結合している環、及びXが結合している環として挙げられた環と同様であり、好ましい構造も同様である。
【0070】
すなわち、上記一般式(14)におけるYが直接結合であって、nが2である場合、及び、Yがn価の連結基であり、nが2~10である場合のいずれの場合においても、上記一般式(14)で表されるホウ素含有化合物が、下記一般式(15)で表されるホウ素含有化合物であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0071】
【化10】
【0072】
(一般式(15)中、窒素原子からホウ素原子への矢印、X、X、X、X、n及びYは一般式(14)と同様である。)
【0073】
第2材料に用いられるホウ素含有化合物としてはまた、下記一般式(37)で表されるホウ素含有化合物も好ましい。
【0074】
【化11】
【0075】
(一般式(37)中、点線の円弧は、同一又は異なって、実線で表される骨格部分と共に環構造が形成されていることを表す。実線で表される骨格部分における点線部分は、点線で結ばれる1対の原子が二重結合で結ばれていてもよいことを表す。窒素原子からホウ素原子への矢印は、窒素原子がホウ素原子へ配位していることを表す。R18~R21は、同一又は異なって、水素原子、環構造の置換基となる1価の置換基、2価の基、又は、直接結合を表す。R18、R19及びR21は、それぞれ、点線の円弧部分を形成する環構造に複数個結合していてもよい。R20は、ピリジン環構造に複数個結合していてもよい。R21が結合している環は、芳香族複素環である。nは、1~4の整数である。nは、0又は1である。nが1の場合、Yは、n価の連結基、又は、直接結合を表し、n個存在するY以外の構造部分とそれぞれ独立に、R18、R19、R20、又は、R21のいずれか1箇所で結合していることを表す。nが0の場合、nは、1であり、R18~R21の少なくとも1つは、環構造の置換基となる1価の置換基を表す。)
【0076】
上記一般式(37)で表されるホウ素含有化合物は、ホウ素原子に対して窒素原子が配位した構造であることに加え、上記一般式(37)で表される剛直な環構造を有することにより、高い安定性を有する化合物である。また、上記一般式(37)で表されるホウ素含有化合物は、各種溶剤への溶解性が良好であり、塗布等により良好な塗膜を容易に形成することができるものである。更に、本発明のホウ素含有化合物は、ホウ素上の置換基が特定の環構造であるため、LUMOのエネルギー準位が低くなり、有機EL素子としての性能に優れると考えられる。
先ず、上記一般式(37)におけるY以外の構造部分について説明する。
【0077】
上記一般式(37)において、点線の円弧は、実線で表される骨格部分と共に環構造が形成されていることを表している。該実線で表される骨格部分は、該実線に沿って点線が併記されている部分である。該環構造は3つあり、該環構造のそれぞれを、本明細書中、R18が結合している環、R19が結合している環、R21が結合している環と呼ぶ。
上記一般式(37)において、実線で表される骨格部分における点線部分、窒素原子からホウ素原子への矢印の意味は、上記一般式(14)おけるそれらと同じである。
【0078】
上記一般式(37)において、R21が結合している環は、芳香族複素環である。該芳香族複素環は、環内に1つ以上のヘテロ元素を有する。該ヘテロ元素は、窒素原子、硫黄原子、酸素原子であることが好ましく、窒素原子、硫黄原子であることがより好ましい。
該芳香族複素環は、単環であってもよく、縮環であってもよい。
該芳香族複素環としては、例えば、チオフェン環、フラン環、ピロール環、ベンゾチオフェン環、ベンゾフラン環、インドール環、ジベンゾチオフェン環、ジベンゾフラン環、カルバゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、ベンゾチアジアゾール環、フェナントリジン環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環が挙げられる。これらはそれぞれ、上記(4-10)~(4-36)で表される。
【0079】
上記芳香族複素環が単環(単環式芳香族複素環)であることが、上記一般式(37)で表されるホウ素含有化合物における好ましい形態の1つである。該単環式芳香族複素環は、5~7員環であることが好ましく、5員環又は6員環であることがより好ましい。該単環式芳香族複素環としては、例えば、チオフェン環、フラン環、ピロール環、チアゾール環、オキサゾール環、イミダゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環が挙げられる。これらはそれぞれ、上記式(4-10)~(4-12)、(4-19)、(4-21)、(4-23)、(4-26)~(4-29)、(4-35)、(4-36)で表される。これらの中でも、チオフェン環、ピリジン環、ピリミジン環が好ましく、チオフェン環、ピリジン環がより好ましい。
【0080】
上記一般式(37)において、R18、R19が結合している環は、芳香族性を有しない環であってもよいが、本発明のホウ素含有化合物を安定化する観点から、芳香族炭化水素環、芳香族複素環等の芳香環であることが好ましい。該芳香環としては、上記一般式(14)において、Yが直接結合であって、nが2である場合のXが結合している環と同様のものが挙げられる。
【0081】
上記一般式(37)において、R18~R21は、同一又は異なって、水素原子、環構造の置換基となる1価の置換基、2価の基、又は、直接結合を表す。該1価の置換基としては特に制限されないが、上記一般式(14)において、X、X、X及びXが1価の置換基である場合の具体例と同様の基が挙げられる。
【0082】
上記のものの中でも、R18~R21としては、上記一般式(14)におけるX、X、X及びXの好ましい基と同様の基が好ましい。
18~R21としては、より好ましくは、水素原子;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;シリル基;アルキルアミノ基;アリールアミノ基;ボリル基;スタニル基;炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基;アリール基;オリゴアリール基;1価の複素環基;1価のオリゴ複素環基;アリールホスフィニル基;アリールスルホニル基のいずれかである。
【0083】
上記2価の基としては、例えば、上述した環構造の置換基となる1価の置換基から水素原子が1つ脱離したものを使用できる。
18、R19、R21は、同一又は異なって、点線の円弧部分を形成する環構造に複数個結合していてもよい。R20は同一又は異なって、ピリジン環構造に複数個結合していてもよい。また、該1価の置換基の環構造に対する結合位置は、特に制限されない。
【0084】
上記一般式(37)において、R20、R21は、同一又は異なって、水素原子、環構造の置換基となる1価の置換基、2価の基、又は、直接結合を表す。中でも、R20及びR21の少なくとも1つが、環構造の置換基となる電子輸送性の1価の置換基であることが好ましい。R20、R21として電子輸送性の置換基を有することで、上記一般式(37)で表されるホウ素含有化合物は、電子輸送性に優れた材料となる。
上記電子輸送性の1価の置換基は、芳香環を有することが好ましい。芳香環を有する電子輸送性の1価の置換基としては、例えば、イミダゾール環、チアゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、ピラゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、ベンゾチアジアゾール環等の環内に炭素-窒素二重結合(C=N)を有する窒素原子含有複素環由来の1価の基;一つ以上の電子求引性置換基を有するベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、カルバゾール環等の環内に炭素-窒素二重結合を有しない芳香族炭化水素環または芳香族複素環由来の1価の基;ジベンゾチオフェンジオキシド環、ジベンゾホスホールオキシド環、シロール環等が挙げられる。
なお、上記電子求引性置換基としては、-CN、-COR、-COOR、-CHO、-CF、-SOPh、-PO(Ph)等が挙げられる。ここで、Rは、水素原子又は1価の炭化水素基を表す。
上記電子輸送性の1価の置換基は、中でも、環内に炭素-窒素二重結合を有する窒素原子含有複素環由来の1価の基、環内に炭素-窒素二重結合を有しない芳香族複素環由来の1価の基のように、芳香族複素環を有することが好ましい。
これらの中でも、電子輸送性の1価の置換基は、環内に炭素-窒素二重結合を有する窒素原子含有芳香族複素環を有することがより好ましい。該環内に炭素-窒素二重結合を有する窒素原子含有芳香族複素環は、ピリジン環、ピリミジン環、キノリン環であることが好ましく、ピリジン環であることがより好ましい。
また上記R20及びR21の少なくとも1つが、トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、ジメチル-tert-ブチルシリル基、トリメトキシシリル基、トリフェニルシリル基等のシリル基であることもまた本発明の好ましい形態の1つである。
【0085】
上記R18~R21における置換基としては、上記一般式(14)におけるX、X、X及びXにおける置換基と同様の基が挙げられる。
中でも、上記R18~R21における置換基が、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基といった芳香環を有する基であることが好ましい。
例えば、上記一般式(37)におけるR18~R21の少なくとも1つが、上記芳香族複素環を構成する炭素原子の1つに更に芳香環が結合したものであることが好ましい。該芳香族複素環を構成する炭素原子の1つに更に結合した芳香環としては、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基が挙げられる。該芳香族炭化水素環基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ピレニル基、フルオレニル基が好ましい。該芳香族複素環基としては、ピリジル基、キノリル基、ピリミジル基、チアゾール基、イミダゾール基が好ましい。
なお、上述した置換基は、ハロゲン原子やアルキル基、アリール基等で更に置換されていてもよく、例えば炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基で置換されていることが好ましい。更に、これらの置換基がお互いに任意の場所で結合して環を形成していてもよい。
【0086】
以下では、上記一般式(37)におけるY、n、nについて説明する。
上記nは、1~4の整数である。nは、0又は1である。nが1の場合、Yは、n価の連結基、又は、直接結合を表し、n個存在するY以外の構造部分とそれぞれ独立に、R18、R19、R20、又は、R21のいずれか1箇所で結合していることを表す。
【0087】
上記一般式(37)において、nが1である場合、nは0であり、上記一般式(37)におけるY以外の構造部分のみからなる化合物となる。この場合、R18~R21の少なくとも1つは、環構造の置換基となる1価の置換基を表す。中でも、R20及びR21の少なくとも1つが、環構造の置換基となる電子輸送性の1価の置換基を表すことが好ましい。
上記一般式(37)において、nが2である場合、上記一般式(37)におけるY以外の構造部分が2つ存在することになる。ここで、Yが2価の連結基である場合、2つ存在するY以外の構造部分が2価の連結基であるYを介して結合することになる。Yが直接結合である場合、2つ存在するY以外の構造部分が直接結合することになる。
上記一般式(37)で表される化合物において、nが3以上である場合、Yはn価の連結基であり、上記一般式(37)におけるY以外の構造部分がn個存在し、それらが連結基であるYを介して結合することとなる。
【0088】
上記一般式(37)におけるnは、好ましくは、1~3であり、より好ましくは、1~2である。すなわち、本発明のホウ素含有化合物は、単量体又は二量体であることがより好ましい。
【0089】
なお、Yがn価の連結基である場合、Yはn個存在するY以外の構造部分とそれぞれ独立に、R18、R19、R20、又は、R21のいずれか1箇所で結合しているが、これは、Y以外の構造部分のYとの結合部位は、n個存在するY以外の構造部分それぞれに独立であって、全て同一部位であってもよいし、一部が同一部位であってもよいし、全て異なる部位であってもよい、ということを意味している。当該結合位置は特に制限されないが、n個存在するY以外の構造部分の全てが、R20又はR21で結合していることが好ましい。
また、n個存在するY以外の構造部分の構造は、全て同一であってもよいし、一部が同一であってもよいし、全て異なっていてもよい。
【0090】
上記一般式(37)におけるYが、n価の連結基である場合、該連結基としては、例えば、置換基を有していてもよい鎖状、分岐鎖状又は環状の炭化水素基、置換基を有していてもよいヘテロ元素を含む基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基が挙げられる。これらの中でも、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基といった芳香環を有する基であることが好ましい。すなわち、上記一般式(37)におけるYは、芳香環を有する基であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
更に、Yは、上述した連結基が複数組み合わさった構造を有する連結基であってもよい。
【0091】
上記鎖状、分岐鎖状又は環状の炭化水素基としては、上記式(2-1)~(2-8)のいずれかで表される基であることが好ましい。これらの中でも、上記式(2-1)、(2-7)がより好ましい。
上記へテロ元素を含む基としては、上記式(2-9)~(2-13)のいずれかで表される基であることが好ましい。これらの中でも、上記式(2-12)、(2-13)がより好ましい。
【0092】
上記芳香族炭化水素環基としては、上記式(2-14)~(2-20)のいずれかで表される基であることが好ましい。これらの中でも、上記式(2-14)、(2-19)、(2-20)がより好ましい。
【0093】
上記芳香族複素環基としては、上記式(2-21)~(2-33)のいずれかで表される基であることが好ましい。これらの中でも、上記式(2-24)、(2-32)がより好ましい。
【0094】
上記鎖状、分岐鎖状又は環状の炭化水素基、ヘテロ元素を含む基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基が有する置換基としては、上述した一般式(37)において、上記R18、R19、R20及びR21が有してもよい置換基と同様のものが挙げられる。
これらの中でも、Yにおける鎖状、分岐鎖状又は環状の炭化水素基、ヘテロ元素を含む基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基が有する置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基、炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基、ジアリールアミノ基が好ましい。より好ましくは、アルキル基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基、ジアリールアミノ基である。
上記Yにおける鎖状、分岐鎖状又は環状の炭化水素基、ヘテロ元素を含む基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基が置換基を有する場合、置換基が結合する位置や数は特に制限されない。
【0095】
上記一般式(14)で表されるホウ素含有化合物や、上記一般式(37)で表されるホウ素含有化合物は、Suzukiカップリング反応等の通常用いられる種々の反応を用いることにより合成できる。また、ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティー(Journal of the American Chemical Society)、2009年、第131巻、第40号、14549-14559頁に記載の手法によっても合成可能である。
【0096】
下記反応式(I)~(III)は、上記一般式(14)で表されるホウ素含有化合物や、上記一般式(37)で表されるホウ素含有化合物の合成方法の一例として、一般式(14-1)で表されるホウ素含有化合物と(14-2)で表されるホウ素含有化合物の合成方法の一例を示したものである。なお、上記一般式(14)で表されるホウ素含有化合物や、上記一般式(37)で表されるホウ素含有化合物の製造方法は、これに制限されない。下記反応式(I)~(III)中、THFはテトラヒドロフランである。下記反応式(III)中、n-BuLiはn-ブチルリチウムである。
【0097】
下記反応式(I)は、上記一般式(14)で表されるホウ素含有化合物であって、Yが直接結合であり、nが2である場合、及び、上記一般式(37)で表されるホウ素含有化合物であって、Yが直接結合であり、nが2であり、nが1である場合に該当する一般式(14-1)で表されるホウ素含有化合物の合成例を表す。
下記反応式(II)は、上記一般式(14)で表されるホウ素含有化合物であって、Yがn価の連結基であり、nが2である場合、及び、上記一般式(37)で表されるホウ素含有化合物であって、Yが2価の連結基であり、nが2であり、nが1である場合に該当する一般式(14-2)で表されるホウ素含有化合物(2,7-ビス(3-ジベンゾボロリル-4-ピリジルフェニル)-9,9‘-スピロフルオレン)の合成例を表している。
【0098】
なお、下記反応式(I)~(III)において、原料として用いる一般式(a)で表される2-(ジベンゾボロリルフェニル)-5-ブロモピリジンは、例えば、ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー(Journal of Organic Chemistry)、2010年、第75巻、第24号、8709-8712頁に記載の手法により合成可能である。また、下記反応式(I)において、原料として用いる一般式(b)で表される化合物は、一般式(a)で表される2-(ジベンゾボロリルフェニル)-5-ブロモピリジンに対して、下記反応式(III)で表されるホウ素化反応により合成できる。
【0099】
【化12】
【0100】
【化13】
【0101】
【化14】
【0102】
上記一般式(14)で表されるホウ素含有化合物は、特に、一般式(14-1)または(14-2)で表されるホウ素含有化合物であることが好ましく、一般式(14-2)で表されるホウ素含有化合物であることが最も好ましい。
【0103】
また、上記一般式(37)で表されるホウ素含有化合物が、下記式(38-1)又は下記式(38-2);
【0104】
【化15】
【0105】
(式中、窒素原子からホウ素原子への矢印、R18、R19、R20及びR21は一般式(37)と同様である。)で表されるホウ素含有化合物であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0106】
第2材料に用いられるホウ素含有化合物としてはまた、下記の一般式(39)で表されるホウ素含有化合物も好ましい。
【0107】
【化16】
【0108】
(一般式(39)中、点線の円弧は、ホウ素原子又は実線で表される骨格部分と共に環構造が形成されていることを表し、該環構造は、同一又は異なって、1つの環から構成される単環構造であってもよく、複数の環から構成される縮環構造であってもよい。実線で表される骨格部分における点線部分は、点線で結ばれる1対の原子が二重結合で結ばれていてもよいことを表す。窒素原子からホウ素原子への矢印は、窒素原子がホウ素原子へ配位していることを表す。Qは、実線で表される骨格部分における連結基であり、少なくとも一部が点線の円弧部分と共に環構造を形成しており、置換基を有していてもよい。R22及びR23は、同一又は異なって、水素原子、環構造の置換基となる1価の置換基、2価の基、又は、直接結合を表し、点線の円弧部分を形成する環構造に複数個結合していてもよい。R24及びR25は、同一又は異なって、水素原子、1価の置換基、2価の基、又は、直接結合を表す。R24とR25とは、互いに結合して二重線で表される骨格部分と共に環構造を形成していない。nは、1~4の整数である。nは、0又は1である。nが1の場合、Yは、n価の連結基、又は、直接結合を表し、n個存在するY以外の構造部分とそれぞれ独立に、R22、R23、R24、又は、R25のいずれか1箇所で結合していることを表す。)
【0109】
上記一般式(39)で表されるホウ素含有化合物は、ホウ素原子に対して窒素原子が配位した構造であることに加え、上記一般式(39)で表される剛直な環構造を有することにより、高い安定性を有する化合物である。また、上記一般式(39)で表されるホウ素含有化合物は、各種溶剤への溶解性が良好であり、塗布等により良好な塗膜を容易に形成することができるものである。更に、本発明のホウ素含有化合物は、ホウ素上の置換基が特定の環構造であるため、LUMOのエネルギー準位が低くなり、有機EL素子としての性能に優れると考えられる。
先ず、上記一般式(39)におけるY以外の構造部分について説明する。
【0110】
上記一般式(39)において、点線の円弧、実線で表される骨格部分における点線部分、及び、窒素原子からホウ素原子への矢印の意味は、上記一般式(37)におけるものと同様である。上記一般式(39)では点線の円弧とホウ素原子又は実線で表される骨格部分とで形成される環構造は2つあり、該環構造のそれぞれを、本明細書中、R22が結合している環、R23が結合している環と呼ぶ。
【0111】
上記一般式(39)において、Qは、実線で表される骨格部分における連結基であり、少なくとも一部が点線の円弧部分と共に環構造を形成しているものであって、置換基を有していてもよい。これは、Qが、該環構造の一部として組み込まれていることを表している。
上記式(39)におけるQとしては、上述した式(3-1)~(3-8)で表される構造が挙げられ、中でも、式(3-1)、式(3-7)、式(3-8)のいずれかが好ましい。より好ましくは、式(3-1)である。すなわち、Qが、炭素数1の連結基を表すこともまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0112】
上記一般式(39)において、R22が結合している環は、芳香族性を有しない環であってもよいが、芳香環であることが好ましい。また、R22が結合している環は、1つの環から構成される単環構造であってもよいが、複数の環から構成される縮環構造であることが好ましく、例えば後述する一般式(40)で表されるホウ素含有化合物のように、少なくとも3つの環から構成される縮環構造であることがより好ましい。更に、R22が結合している環は、環内にホウ素原子以外のヘテロ元素を有していてもよく、有していなくてもよい。
【0113】
上記一般式(39)において、R23が結合している環は、芳香族性を有しない含窒素複素環であってもよいが、本発明のホウ素含有化合物を安定化し、有機電界発光素子材料として優れた性能を発現する観点から、含窒素芳香族複素環であることが好ましい。該含窒素芳香族複素環としては、例えば、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピラジン環、ピリミジン環、キノリン環、イソキノリン環、フェナントリジン環、キノキサリン環、ベンゾチアジアゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環が挙げられる。これらはそれぞれ、上記式(5-1)~(5-17)で表される。なお、式(5-1)~(5-17)中の*印は、R24と結合する炭素原子が、*印の付された炭素原子のいずれか1つと結合することを表している。また、式(5-1)~(5-17)で表される環は、*印の付された炭素原子を除く位置で他の環構造と縮環していてもよい。これらの中でも、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、キノリン環、フェナントリジン環のように6員環を含む含窒素複素芳香族環が好ましい。R23が結合している環は、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、又は、キノリン環であることがより好ましく、ピリジン環であることが更に好ましい。
【0114】
上記一般式(39)において、R22及びR23は、同一又は異なって、水素原子、環構造の置換基となる1価の置換基、2価の基、又は、直接結合を表す。R24及びR25は、同一又は異なって、水素原子、1価の置換基、2価の基、又は、直接結合を表す。R22、R23における環構造の置換基となる1価の置換基、R24、R25における1価の置換基としては特に制限されないが、上記一般式(14)における、X、X、X及びXが環構造の置換基となる1価の置換基である場合の具体例と同様の置換基が挙げられ、その中で好ましい置換基もX、X、X及びXの好ましい置換基と同様である。
【0115】
上記一般式(39)において、R24とR25とは、互いに結合して二重線で表される骨格部分と共に環構造を形成していない。該環構造は、その骨格部分に配位結合を有するものを含む。
24としては、上記一般式(39)において二重線で表される骨格部分の炭素原子に直接結合する原子が酸素原子以外の原子であることが更に好ましい。
22、R23、R24、R25としては、特に好ましくは、水素原子;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;シリル基;アルキルアミノ基;アリールアミノ基;ボリル基;スタニル基;炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基;アリール基;オリゴアリール基;1価の複素環基;1価のオリゴ複素環基;アリールホスフィニル基;アリールスルホニル基のいずれかである。
【0116】
上記R22、R23、R24、R25における2価の基としては、例えば、上述した1価の置換基から水素原子が1つ脱離したものを使用できる。
22、R23は、同一又は異なって、点線の円弧部分を形成する環構造に複数個結合していてもよい。また、上記1価の置換基の環構造に対する結合位置は、特に制限されない。
【0117】
上記一般式(39)において、R23、R24、及び、R25の少なくとも1つが、環構造の置換基となる電子輸送性の1価の置換基を表すことが好ましい。R23、R24、R25として電子輸送性の置換基を有することで、本発明のホウ素含有化合物は、電子輸送性に優れた材料となる。中でも、R25が電子輸送性の置換基を有することがより好ましい。
上記電子輸送性の1価の置換基は、芳香環を有することが好ましい。例えば、R25が、芳香環を有する1価の置換基を表すことが好ましい。芳香環を有する1価の置換基としては、例えば、イミダゾール環、チアゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、ピラゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、ベンゾチアジアゾール環等の環内に炭素-窒素二重結合(C=N)を有する窒素原子含有複素環由来の1価の基;一つ以上の電子求引性置換基を有するベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、カルバゾール環等の環内に炭素-窒素二重結合を有しない芳香族炭化水素環または芳香族複素環由来の1価の基;ジベンゾチオフェンジオキシド環、ジベンゾホスホールオキシド環、ジアリールホスフィンオキシド基、シロール環等が挙げられる。
なお、上記電子求引性置換基としては、-CN、-COR、-COOR、-CHO、-CF、-SOPh、-PO(Ph)等が挙げられる。ここで、Rは、水素原子又は1価の炭化水素基を表す。
上記電子輸送性の1価の置換基は、中でも、環内に炭素-窒素二重結合を有する窒素原子含有複素環由来の1価の基、環内に炭素-窒素二重結合を有しない芳香族複素環由来の1価の基のように、芳香族複素環を有することが好ましい。
これらの中でも、電子輸送性の1価の置換基は、環内に炭素-窒素二重結合を有する窒素原子含有芳香族複素環を有することがより好ましい。該環内に炭素-窒素二重結合を有する窒素原子含有芳香族複素環は、ピリジン環、ピリミジン環、キノリン環であることが好ましく、ピリジン環であることがより好ましい。
本発明のホウ素含有化合物の電子移動度を高める観点からは、上記一般式(39)において、R23が結合している環は、含窒素芳香族複素環であり、R25が、芳香環を有する1価の置換基を表すことが特に好ましい。中でも、R23が結合している環は、ピリジン環であり、R25が、ベンゼン環を表すことが最も好ましい。
【0118】
上記R22、R23、R24及びR25における置換基としては、上述した一般式(14)のX、X、X及びXにおける置換基と同様の基が挙げられる。
中でも、上記R23、R24、R25における置換基が、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基といった芳香環を有する基であることが好ましい。
例えば、上記一般式(39)におけるR23、R24及びR25の少なくとも1つが、上記芳香族複素環を構成する炭素原子の1つに更に芳香環が結合したものであることが好ましい。該芳香族複素環を構成する炭素原子の1つに更に結合した芳香環としては、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基が挙げられる。該芳香族炭化水素環基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ピレニル基、フルオレニル基が好ましい。該芳香族複素環基としては、ピリジル基、ピロリル基、キノリル基、ピリミジル基、チアゾール基、イミダゾール基が好ましい。具体的には、R23、R24及びR25の少なくとも1つが、ビピリジンであることは電子注入性向上の観点から好適な一例である。
なお、上述した置換基は、ハロゲン原子やアルキル基、アリール基等で更に置換されていてもよく、例えば炭素数1~8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基で置換されていることが好ましい。更に、これらの置換基がお互いに任意の場所で結合して環を形成していてもよい。
【0119】
以下では、上記一般式(39)におけるY、n、nについて説明する。
上記nは、1~4の整数である。nは、0又は1である。nが1の場合、Yは、n価の連結基、又は、直接結合を表し、n個存在するY以外の構造部分とそれぞれ独立に、R22、R23、R24、又は、R25のいずれか1箇所で結合していることを表す。
【0120】
上記一般式(39)において、nが1である場合、nは0であり、上記一般式(39)におけるY以外の構造部分のみからなる化合物となる。
本発明のホウ素含有化合物の熱安定性を向上する観点からは、上記一般式(39)において、nは、2~4の整数であり、nは、1であることが好ましい。
上記一般式(39)において、nが2である場合、上記一般式(39)におけるY以外の構造部分が2つ存在することになる。ここで、Yが2価の連結基である場合、2つ存在するY以外の構造部分が2価の連結基であるYを介して結合することになる。Yが直接結合である場合、2つ存在するY以外の構造部分が直接結合することになる。
上記一般式(39)で表される化合物において、nが3以上である場合、Yはn価の連結基であり、上記一般式(39)におけるY以外の構造部分がn個存在し、それらが連結基であるYを介して結合することとなる。
【0121】
なお、Yがn価の連結基である場合、Yはn個存在するY以外の構造部分とそれぞれ独立に、R22、R23、R24、又は、R25のいずれか1箇所で結合しているが、これは、Y以外の構造部分のYとの結合部位は、n個存在するY以外の構造部分それぞれに独立であって、全て同一部位であってもよいし、一部が同一部位であってもよいし、全て異なる部位であってもよい、ということを意味している。当該結合位置は特に制限されないが、n個存在するY以外の構造部分の全てが、R23、R24、又は、R25で結合していることが好ましい。
また、n個存在するY以外の構造部分の構造は、全て同一であってもよいし、一部が同一であってもよいし、全て異なっていてもよい。
【0122】
上記一般式(39)におけるYが、n価の連結基である場合、該連結基としては、例えば、置換基を有していてもよい鎖状、分岐鎖状又は環状の炭化水素基、置換基を有していてもよいヘテロ元素を含む基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基が挙げられる。これらの中でも、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基といった芳香環を有する基であることが好ましい。すなわち、上記一般式(39)におけるYは、芳香環を有するn価の連結基を表すこともまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
更に、Yは、上述した連結基が複数組み合わさった構造を有する連結基であってもよい。
【0123】
上記鎖状、分岐鎖状又は環状の炭化水素基としては、上述した式(2-1)~(2-8)のいずれかで表される基であることが好ましい。これらの中でも、式(2-1)、(2-7)がより好ましい。
上記へテロ元素を含む基としては、上述した式(2-9)~(2-13)のいずれかで表される基であることが好ましい。これらの中でも、式(2-12)、(2-13)がより好ましい。
【0124】
上記芳香族炭化水素環基としては、上述した式(2-14)~(2-20)のいずれかで表される基であることが好ましい。これらの中でも、式(2-14)、(2-19)、(2-20)がより好ましい。
【0125】
上記芳香族複素環基としては、上述した式(2-21)~(2-33)のいずれかで表される基であることが好ましい。これらの中でも、式(2-24)、(2-32)がより好ましい。
【0126】
上記鎖状、分岐鎖状又は環状の炭化水素基、ヘテロ元素を含む基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基が有する置換基としては、上述した一般式(39)において、上記R23、R24及びR25が有してもよい置換基と同様のものが挙げられる。
これらの中でも、Yにおける鎖状、分岐鎖状又は環状の炭化水素基、ヘテロ元素を含む基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基が有する置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基、炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基、ジアリールアミノ基が好ましい。より好ましくは、アルキル基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基、ジアリールアミノ基である。
上記Yにおける鎖状、分岐鎖状又は環状の炭化水素基、ヘテロ元素を含む基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基が置換基を有する場合、置換基が結合する位置や数は特に制限されない。
【0127】
上述したように、上記一般式(39)において、R22が結合している環は、少なくとも3つの環から構成される縮環構造であることがより好ましい。すなわち、本発明のホウ素含有化合物が、下記一般式(40);
【0128】
【化17】
【0129】
(式中、点線の円弧は、同一又は異なって、実線で表される骨格部分と共に環構造が形成されていることを表す。Qは、実線で表される骨格部分における連結基であり、少なくとも一部が点線の円弧部分と共に環構造を形成しており、置換基を有していてもよい。R221及びR222は、同一又は異なって、水素原子、環構造の置換基となる1価の置換基、2価の基、又は、直接結合を表し、点線の円弧部分を形成する環構造に複数個結合していてもよい。nが1の場合、Yは、n価の連結基、又は、直接結合を表し、n個存在するY以外の構造部分とそれぞれ独立に、R221、R222、R23、R24、又は、R25のいずれか1箇所で結合していることを表す。実線で表される骨格部分における点線部分、窒素原子からホウ素原子への矢印、Q、R23、R24、R25、n、及び、nは一般式(39)と同様である。)で表されることがより好ましい。
【0130】
上記一般式(40)において、点線の円弧は、実線で表される骨格部分と共に環構造が形成されていることを表している。該実線で表される骨格部分は、該実線に沿って点線が併記されている部分である。該環構造は3つあり、該環構造のそれぞれを、本明細書中、R221が結合している環、R222が結合している環、R23が結合している環と呼ぶ。
上記一般式(40)において、実線で表される骨格部分における点線部分は、点線で結ばれる1対の原子が二重結合で結ばれていてもよいことを表す。
【0131】
上記一般式(40)において、R221、R222が結合している環は、芳香族性を有しない環であってもよいが、本発明のホウ素含有化合物を安定化する観点から、芳香族炭化水素環、芳香族複素環等の芳香環であることが好ましい。該芳香環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、テトラセン環、ペンタセン環、トリフェニレン環、ピレン環、フルオレン環、インデン環、チオフェン環、フラン環、ピロール環、ベンゾチオフェン環、ベンゾフラン環、インドール環、ジベンゾチオフェン環、ジベンゾフラン環、カルバゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、ベンゾチアジアゾール環、フェナントリジン環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環が挙げられ、これらはそれぞれ、上述した式(4-1)~(4-36)で表される。これらの中でも、ベンゼン環、ナフタレン環、ベンゾチオフェン環が好ましい。より好ましくは、ベンゼン環である。
【0132】
上記一般式(40)において、R23が結合している環は、上述した上記一般式(39)のR23が結合している環と同様である。
上記一般式(40)において、R221及びR222は、それぞれ、上述した上記一般式(39)のR22と同様である。
上記一般式(40)において、Qは、上述した上記一般式(39)のQと同様である。例えば、上記Q及びQの少なくとも一方が、炭素数1の連結基を表すことが好ましい。
【0133】
なお、上記一般式(40)において、Yがn価の連結基である場合、Yはn個存在するY以外の構造部分とそれぞれ独立に、R221、R222、R23、R24、又は、R25のいずれか1箇所で結合しているが、これは、Y以外の構造部分のYとの結合部位は、n個存在するY以外の構造部分それぞれに独立であって、全て同一部位であってもよいし、一部が同一部位であってもよいし、全て異なる部位であってもよい、ということを意味している。当該結合位置は特に制限されないが、n個存在するY以外の構造部分の全てが、R23、R24、又は、R25で結合していることが好ましい。
また、n個存在するY以外の構造部分の構造は、全て同一であってもよいし、一部が同一であってもよいし、全て異なっていてもよい。
【0134】
本発明のホウ素含有化合物が、下記式(41-1)~(41-3);
【0135】
【化18】
【0136】
(式中、窒素原子からホウ素原子への矢印、点線の円弧、実線で表される骨格部分における点線部分、Q、R221、R222、R23、R24、R25、及び、Yは一般式(40)と同様である。)のいずれかで表されるホウ素含有化合物であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。これにより、熱安定性が向上する。中でも、本発明のホウ素含有化合物が、上記式(41-2)で表されることがより好ましい。
【0137】
上記一般式(39)で表されるホウ素含有化合物は、例えば、特許第5553149号公報に記載の方法に基づいて製造することができる。すなわち、下記反応式で示されるように、式(I)で表されるアルキン化合物を出発物質とし、これをハロゲン化ホウ素化合物BXと反応させて式(II)で表されるアルケン化合物を得、更に、これを式(i)又は式(ia)で表されるマグネシウム元素含有化合物と反応させて、式(III)又は式(IIIa)で表される化合物を製造する。なお、この環化する反応は、特願2013-202578号に記載の方法と同様の方法を用いている。この式(III)又は式(IIIa)で表される化合物が有するハロゲン原子Xを、t-BuLi等のリチオ化剤でハロゲン-リチウム交換を行い、求電子剤と反応させることにより水素原子や1価の置換基に置換したり、特許第5553149号公報に記載されるように水素原子又は1価の置換基に置換したりして、一般式(39)又は一般式(40)で表されるホウ素含有化合物を得ることができる。また、下記反応式中、Xは、同一又は異なって、ヨウ素原子、臭素原子、又は、塩素原子を表す。点線の円弧は、式(i)で表されるマグネシウム元素含有化合物以外の化合物では、上述した一般式(39)と同様であり、式(i)で表されるマグネシウム元素含有化合物では、式(III)で表される化合物のホウ素原子と共に環構造を形成している点線の円弧の構造部位と対応しており、該構造部位と結合している末端の2つのMgXが、互いに結合して環構造を形成しておらず、式(III)で表される化合物のホウ素原子と入れ替わるものである。また、実線で表される骨格部分における点線部分、窒素原子からホウ素原子への矢印、Q、R22、R23、R24、R25、Y、n、及び、nは、上述した一般式(39)と同様である。Q、R221、R222は、上述した一般式(40)と同様である。
【0138】
【化19-1】
【0139】
【化19-2】
【0140】
また上記一般式(39)で表されるホウ素含有化合物は、上述した式(III)又は式(IIIa)で表される化合物であって、単量体(nが1、nが0である単量体)であるものを二量体化して得ることも可能である。例えば、上記一般式(39)で表されるホウ素含有化合物は、下記反応式により得ることができる。
【0141】
【化20】
【0142】
また、第2材料に用いられるホウ素含有化合物としては、下記一般式(16)で表されるホウ素含有化合物も好ましい。
【0143】
【化21】
【0144】
(一般式(16)中、点線の円弧は、実線で表される骨格部分と共に環構造が形成されていることを表す。実線で表される骨格部分における点線部分は、点線で結ばれる1対の原子が二重結合で結ばれていてもよいことを表す。窒素原子からホウ素原子への矢印は、窒素原子がホウ素原子へ配位していることを表す。Q及びQは、同一又は異なって、実線で表される骨格部分における連結基であり、少なくとも一部が点線の円弧部分と共に環構造を形成しており、置換基を有していてもよい。X、Xは、同一又は異なって、水素原子、又は、環構造の置換基となる1価の置換基を表す。X、Xは、同一又は異なって、環構造の置換基となる電子輸送性の1価の置換基を表す。X、X、X及びXは、それぞれ点線の円弧部分を形成する環構造に複数個結合していてもよい。)
【0145】
上記一般式(16)において、点線の円弧は、実線で表される骨格部分、すなわちホウ素原子とQとを繋ぐ骨格部分の一部又は、ホウ素原子とQと窒素原子とを繋ぐ骨格部分の一部と共に環構造が形成されていることを表している。これは、一般式(16)で表される化合物が構造中に少なくとも4つの環構造を有し、一般式(16)において、ホウ素原子とQとを繋ぐ骨格部分及びホウ素原子とQと窒素原子とを繋ぐ骨格部分が、該環構造の一部として含まれていることを表している。
【0146】
上記一般式(16)において、実線で表される骨格部分、すなわちホウ素原子とQとを繋ぐ骨格部分、及び、ホウ素原子とQと窒素原子とを繋ぐ骨格部分における点線部分は、それぞれの骨格部分において点線で結ばれる1対の原子が二重結合で結ばれていてもよいことを表す。
【0147】
上記一般式(16)において、窒素原子からホウ素原子への矢印は、窒素原子がホウ素原子へ配位していることを表す。ここで、配位しているとは、窒素原子がホウ素原子に対して配位子と同様に作用して化学的に影響していることを意味する。
【0148】
上記一般式(16)において、Q及びQは、同一又は異なって、実線で表される骨格部分における連結基であり、少なくとも一部が点線の円弧部分と共に環構造を形成しているものであって、置換基を有していてもよい。これは、Q及びQがそれぞれ、該環構造の一部として組み込まれていることを表している。
【0149】
上記一般式(16)におけるQ及びQとしては、上記式(3-1)~(3-8)で表される構造が挙げられる。なお、一般式(3-2)は、炭素原子に水素原子が2つ結合し、更に3つの原子が結合する構造であるが、当該水素原子以外の、炭素原子に結合する3つの原子は、いずれも水素原子以外の原子である。上記一般式(3-1)~(3-8)の中でも、(3-1)、(3-7)、(3-8)のいずれかが好ましい。より好ましくは、(3-1)である。すなわち、Q及びQが、同一又は異なって、炭素数1の連結基を表すこともまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0150】
上記一般式(16)において、X~Xが結合している環としては、上記一般式(14)において、Yが直接結合であって、nが2である場合、Xが結合している環の具体例と同様の環が挙げられる。それらの中でも、ベンゼン環、ナフタレン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環が好ましい。より好ましくは、ベンゼン環、チオフェン環である。
【0151】
上記一般式(16)において、Xが結合している環としては、上記一般式(14)において、Yが直接結合であって、nが2である場合、Xが結合している環の具体例と同様の環が挙げられ、その中での好ましい環構造も同様である。なお、上記式(5-1)~(5-17)中の*印は、Xが結合している環を構成し、かつ、一般式(16)におけるホウ素原子とQと窒素原子とを繋ぐ骨格部分を構成する炭素原子が、*印の付された炭素原子のいずれか1つと結合することを表している。また、*印の付された炭素原子を除く位置で他の環構造と縮環していてもよい。
【0152】
すなわち、上記一般式(16)で表されるホウ素含有化合物が、下記一般式(17)で表されるホウ素含有化合物であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0153】
【化22】
【0154】
(一般式(17)中、窒素原子からホウ素原子への矢印、X、X、X及びXは一般式(16)と同様である。)
【0155】
上記一般式(17)で表されるホウ素含有化合物は、ホウ素原子に配位している窒素原子を除いて、X、X、X、Xの結合している環が炭素原子のみで構成されることとなるため、Sなどのヘテロ原子を環内に含む化合物と比べて、軌道の広がりが小さくなり、一般論としてHOMO-LUMOのエネルギーギャップが広く保たれる。よって、例えば、有機EL素子の電子注入層として好適に用いることができる。
【0156】
上記一般式(16)において、X、Xは、同一又は異なって、水素原子、又は、環構造の置換基となる1価の置換基を表す。該1価の置換基としては特に制限されないが、上記一般式(14)におけるX、X、X及びXの1価の置換基の具体例と同様のものが挙げられ、より好ましい置換基としてオリゴアリール基、1価の複素環基、1価のオリゴ複素環基も含まれる他は、好ましい置換基も同様である。
なお、上記一般式(16)において、X、X、X及びXが1価の置換基である場合、環構造に対するX、X、X及びXの結合位置や結合する数は、特に制限されない。
【0157】
上記一般式(16)において、X、Xは、同一又は異なって、環構造の置換基となる電子輸送性の1価の置換基を表す。X、Xとして電子輸送性の置換基を有することで、上記一般式(16)で表されるホウ素含有化合物は、電子輸送性に優れた材料となる。
該電子輸送性の1価の置換基としては、例えば、イミダゾール環、チアゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、ピラゾール環、ピリジン環、ピラジン環、トリアジン環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、ベンゾチアジアゾール環等の環内に炭素-窒素二重結合(C=N)を有する窒素原子含有複素環由来1価の基;一つ以上の電子求引性置換基を有するベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、カルバゾール環等の環内に炭素-窒素二重結合を有しない芳香族炭化水素環または芳香族複素環由来の1価の基;ジベンゾチオフェンジオキシド環、ジベンゾホスホールオキシド環、シロール環等が挙げられる。
【0158】
上記電子求引性置換基としては、-CN、-COR、-COOR、-CHO、-CF、-SOPh、-PO(Ph)等が挙げられる。ここで、Rは、水素原子又は1価の炭化水素基を表す。
これらの中でも、電子輸送性の1価の置換基は、環内に炭素-窒素二重結合(C=N)を有する窒素原子含有複素環に由来する基であることが好ましい。
電子輸送性の1価の置換基は、環内に炭素-窒素二重結合を有する複素芳香環化合物に由来する1価の基のいずれかであることがより好ましい。
【0159】
上記X、X、X及びXにおける置換基としては、上記一般式(14)のX、X、X及びXにおける置換基と同様である。
【0160】
上記一般式(16)で表されるホウ素含有化合物は、例えば、下記の第1工程と第2工程とを行う合成方法により合成できる。なお、下記反応式中、Zは、臭素原子又はヨウ素原子を表し、Zは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。
【0161】
【化23】
【0162】
上記一般式(16)で表されるホウ素含有化合物の合成方法において、第1工程に用いる溶媒としては、特に制限されないがヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテルなどが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
なお、上記一般式(16)で表されるホウ素含有化合物の合成方法における第1工程は、特開2011-184430号公報の記載を参照して行うことができる。
【0163】
第2工程の反応を行う温度は、0℃~40℃が好ましく、常圧、減圧、加圧のいずれの条件で反応を行ってもよい。
第2工程の反応を行う時間は、3~48時間が好ましい。
【0164】
上記一般式(16)で表されるホウ素含有化合物の合成方法では、上記第2工程の後に更に、X~Xのいずれか1つ以上の置換基を別の置換基に交換する1つ又は複数の工程を行ってもよい。例えば、X~Xのいずれかがハロゲン原子である場合は、Stillクロスカップリング反応や鈴木-宮浦クロスカップリング反応、園頭クロスカップリング反応、Heckクロスカップリング反応、桧山カップリング反応、根岸カップリング反応等を用いることで、ハロゲン原子を置換基Xに交換することができる。
また、上記カップリング反応の反応条件としては、各カップリング反応が通常行われる反応条件を適宜採用することができる。
【0165】
上記一般式(16)で表されるホウ素含有化合物は、一般式(1)で表されるホウ素含有化合物であることが最も好ましい。
【0166】
また、第2材料に用いられるホウ素含有化合物としては、下記一般式(18)で表されるホウ素含有化合物も好ましい。
【0167】
【化24】
【0168】
(一般式(18)中、点線の円弧は、実線で表される骨格部分と共に環構造が形成されていることを表す。実線で表される骨格部分における点線部分は、点線で結ばれる1対の原子が二重結合で結ばれていてもよいことを表す。窒素原子からホウ素原子への矢印は、窒素原子がホウ素原子へ配位していることを表す。Q及びQは、同一又は異なって、実線で表される骨格部分における連結基であり、少なくとも一部が点線の円弧部分と共に環構造を形成しており、置換基を有していてもよい。X、X10、X11及びX12は、同一又は異なって、水素原子、環構造の置換基となる1価の置換基、又は、直接結合を表し、点線の円弧部分を形成する環構造に複数個結合していてもよい。Aは、同一又は異なって、2価の基を表す。nを付した括弧内の構造単位は、X、X10、X11及びX12のいずれか2つで隣の構造単位と結合している。n、nは、それぞれ独立に、同一又は異なって、1以上の数を表す。)
【0169】
上記一般式(18)におけるQ、Qはそれぞれ、上記一般式(16)におけるQ、Qと同様であり、好ましい形態も同様である。すなわち、Q及びQは、同一又は異なって、炭素数1の連結基を表すことが好ましい。
上記一般式(18)において、点線の円弧、実線で表される骨格部分における点線部分、窒素原子からホウ素原子への矢印は、上記一般式(16)と同様の意味であり、点線の円弧の好ましい構造も上記一般式(16)と同様である。すなわち、一般式(18)で表されるホウ素含有化合物は、下記一般式(19)で表されるホウ素含有化合物であることが好ましい。
【0170】
【化25】
【0171】
(一般式(19)中、窒素原子からホウ素原子への矢印、X、X10、X11、X12、A、n及びnは、一般式(18)と同様である。nを付した括弧内の構造単位の隣の構造単位との結合も一般式(18)と同様である。)
【0172】
上記一般式(18)において、nは、nを付した括弧内の構造単位の数を表し、1以上の数を表す。nは、nを付した括弧内の構造単位の数を表し、1以上の数を表す。n、nは、それぞれ独立に、同一又は異なって、1以上の数を表すが、これは、以下のような意味である。n、nは、それぞれ独立した数である。このため、n、nは同じ数であってもよいし、異なる数であってもよい。
【0173】
上記一般式(18)で表されるホウ素含有化合物は、上記一般式(18)で表される繰り返し単位の構造を1つ有するものであってもよく、複数有するものであってもよい。ホウ素含有化合物が、上記一般式(18)で表される繰り返し構造を複数有する場合、ある構造におけるn、nと、隣り合う構造におけるn、nとは、同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0174】
したがって、上記一般式(18)で表されるホウ素含有化合物には、交互共重合体(上記一般式(18)で表される繰り返し構造を2つ以上有し、全ての一般式(18)で表される構造において、nが同じ数であり、nも同じ数である)、ブロック共重合体(上記一般式(18)で表される繰り返し構造を1つ有し、n、nの少なくとも1つが2以上)、ランダム共重合体(上記一般式(18)で表される繰り返し構造を2つ以上有し、該複数の一般式(18)で表される構造の中に少なくとも1つ、n、nのいずれか又は両方が他の構造におけるn、nと異なるものがある)のいずれの構造のものも含まれる。
上記一般式(18)で表されるホウ素含有化合物は、これらの中でも、交互共重合体であることが好ましい。
【0175】
上記一般式(18)において、X、X10、X11及びX12は、同一又は異なって、水素原子、環構造の置換基となる1価の置換基、又は、直接結合を表す。
上記一般式(18)では、X、X10、X11及びX12のいずれか2つが、重合体の主鎖の一部として結合を形成することになる。X~X12のうち、重合体の主鎖の一部として結合を形成するものは、直接結合となる。X、X10、X11及びX12のうち、重合に関与しないものは、水素原子又は1価の置換基となる。
、X10、X11及びX12のうち、重合に関与しない1価の基の具体例及び好ましいものは、上述した一般式(16)で表されるホウ素含有化合物のX、Xの具体例及び好ましいものと同様である。
【0176】
上記一般式(18)で表されるホウ素含有化合物において、X、X10、X11及びX12のうち、直接結合は、X、X10、X11及びX12のいずれのものであってもよいが、XとX10、又は、X11とX12とが直接結合であることが好ましい。この場合、上記一般式(18)で表されるホウ素含有化合物は、下記一般式(20)または一般式(21)で表される繰り返し単位の構造を有する重合体となる。
【0177】
【化26】
【0178】
(一般式(20)および(21)中、点線の円弧、実線で表される骨格部分における点線部分、窒素原子からホウ素原子への矢印、Q、Q、A、n及びnは、一般式(18)と同様である。一般式(20)中、X、X10は、直接結合を表し、X11、X12は、水素原子又は1価の置換基を表す。一般式(21)中、X11、X12は、直接結合を表し、X、X10は、水素原子又は1価の置換基を表す。)
【0179】
第2材料として用いるホウ素含有化合物が重合体である場合、重量平均分子量は5,000~1,000,000であることが好ましい。重量平均分子量がこのような範囲であると、第2材料と、第1材料とを含む塗料組成物を塗布する方法により有機薄膜を製造する場合に容易に薄膜化できる。重量平均分子量は、より好ましくは10,000~500,000であり、更に好ましくは30,000~200,000である。
【0180】
上記重量平均分子量は、ポリスチレン換算によるゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によって、以下の装置、及び、測定条件で測定できる。
高速GPC装置:HLC-8220GPC(東ソー社製)
展開溶媒 クロロホルム
カラム TSK-gel GMHXL ×2本
溶離液流量 1ml/min
カラム温度 40℃
【0181】
上記一般式(18)におけるAとしては、2価の基であれば、特に制限されないが、アルケニル基、アリーレン基、2価の芳香族複素環基のいずれかが好ましい。
上記アリーレン基とは、芳香族炭化水素から、水素原子2個を除いた原子団であり、環を構成する炭素数は通常6~60程度であり、好ましくは6~20である。該芳香族炭化水素としては、縮合環をもつもの、独立したベンゼン環または縮合環2個以上が直接又はビニレン等の基を介して結合したものも含まれる。
【0182】
上記アリーレン基としては、例えば、下記一般式(15-1)~(15-23)で表される基等が挙げられる。これらの中でもフェニレン基、ビフェニレン基、フルオレン-ジイル基、スチルベン-ジイル基が好ましい。
【0183】
なお、一般式(15-1)~(15-23)において、Rは、同一若しくは異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルキルオキシ基、アルキルチオ基、アルキルアミノ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアルキル基、アリールアルキルオキシ基、アリールアルキルチオ基、アシル基、アシルオキシ基、アミド基、イミド基、イミン残基、アミノ基、置換アミノ基、置換シリル基、置換シリルオキシ基、置換シリルチオ基、置換シリルアミノ基、1価の複素環基、ヘテロアリールオキシ基、ヘテロアリールチオ基、アリールアルケニル基、アリールエチニル基、カルボキシル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アリールアルキルオキシカルボニル基、ヘテロアリールオキシカルボニル基またはシアノ基を表す。
【0184】
一般式(15-1)~(15-23)では、一般式(15-1)中においてx-yで示した線のように、環構造に交差して付された線は、環構造が被結合部分における原子と直接結合していることを意味する。すなわち、一般式(15-1)においては、x-yで示される線が付された環を構成する炭素原子のいずれかと直接結合することを意味し、その環構造における結合位置は限定されない。
また、一般式(15-1)~(15-23)では、一般式(15-10)中においてz-で示した線のように、環構造の頂点に付された線は、その位置において環構造が被結合部分における原子と直接結合していることを意味する。
また、環構造に交差して付されたRの付いた線は、Rが、その環構造に対して1つ結合していてもよく、複数結合していてもよいことを意味し、その結合位置も限定されない。
【0185】
また、一般式(15-1)~(15-10)及び(15-15)~(15-20)において、炭素原子は窒素原子と置き換えられていてもよく、水素原子はフッ素原子に置換されていてもよい。
【0186】
【化27】
【0187】
【化28】
【0188】
上記2価の芳香族複素環基とは、芳香族複素環化合物から水素原子2個を除いた残りの原子団をいい、環を構成する炭素数は通常3~60程度である。該芳香族複素環化合物としては、環式構造をもつ芳香族有機化合物のうち、環を構成する元素が炭素原子だけでなく、酸素、硫黄、窒素、リン、ホウ素、ヒ素などのヘテロ原子を環内に含むものも含まれる。
【0189】
上記2価の芳香族複素環基としては、例えば、下記一般式(16-1)~(16-38)で表される複素環基等が挙げられる。
なお、一般式(16-1)~(16-38)において、Rは、上記アリーレン基の有するRと同様である。Yは、O、S、SO、SO、Se、又は、Teを表す。環構造に交差して付された線、環構造の頂点に付された線、環構造に交差して付されたRの付いた線については、一般式(15-1)~(15-23)と同様である。
また、一般式(16-1)~(16-38)において、炭素原子は窒素原子と置き換えられていてもよく、水素原子はフッ素原子に置換されていてもよい。
【0190】
【化29】
【0191】
【化30】
【0192】
上記一般式(18)におけるAとしては、上述したものの中でも(15-1)、(15-9)、(16-1)、(16-9)、(16-16)、(16-17)が好ましく、より好ましくは(15-1)、(15-9)である。この場合、上記一般式(18)で表されるホウ素含有化合物である第2材料と、第1材料とを含む塗料組成物を塗布する方法により有機薄膜を製造する場合に、優れた製膜性が得られる。
【0193】
上記一般式(18)で表されるホウ素含有化合物の製造方法は、特に制限されないが、例えば、特開2011-184430号公報に記載の製造方法により製造できる。
上記一般式(18)で表されるホウ素含有化合物は、例えば、下記一般式(22)で表される反応性基を有するホウ素含有化合物と、下記一般式(23)で表される化合物とを含む単量体成分を反応させて製造することが好ましい。
【0194】
【化31】
【0195】
(一般式(22)中、点線の円弧、実線で表される骨格部分における点線部分、窒素原子からホウ素原子への矢印、Q及びQは、一般式(18)と同様である。X’、X10’、X11’及びX12’は、同一又は異なって、水素原子又は環構造の置換基となる1価の置換基を表し、X’、X10’、X11’及びX12’のうち少なくとも2つは、下記一般式(23)のX13、X14と反応する反応性基である。)
【0196】
13-A-X14 (23)
(式中、Aは、一般式(18)と同様である。X13、X14は、反応性基を表す。)
【0197】
一般式(22)で表されるホウ素含有化合物と一般式(23)で表される化合物とを反応させると、重縮合反応により、一般式(18)で表されるホウ素含有重合体が合成される。
’~X12’のうち、一般式(23)のX13、X14と反応する反応性基以外の1価の置換基は、上記一般式(18)におけるX~X12の1価の置換基と同様である。
【0198】
重縮合反応し得る反応性基の組み合わせとしては、以下のいずれかのものが好ましく、一般式(22)で表されるホウ素含有化合物と一般式(23)で表される化合物とが、これらのいずれかの重縮合反応し得る反応性基の組み合わせにより、重縮合反応することが好ましい。
ボリル基とハロゲン原子、スタニル基とハロゲン原子、アルデヒド基とホスホニウムメチル基、ビニル基とハロゲン原子、アルデヒド基とホスホネートメチル基、ハロゲン原子とハロゲン化マグネシウム、ハロゲン原子とハロゲン原子、ハロゲン原子とシリル基、ハロゲン原子と水素原子。
【0199】
上記一般式(18)で表されるホウ素含有化合物を製造するために使用する単量体成分は、一般式(22)で表されるホウ素含有化合物と一般式(23)で表される化合物とを含む限り、その他の単量体を含んでいてもよい。
その他の単量体を含む場合、単量体成分全体100モル%に対して、一般式(22)で表されるホウ素含有化合物と一般式(23)で表される化合物との合計が90モル%以上であることが好ましく、より好ましくは95モル%以上であり、最も好ましくは100モル%である。すなわち、単量体成分は、一般式(22)で表されるホウ素含有化合物と一般式(23)で表される化合物のみを含むことが最も好ましい。
【0200】
上記その他の単量体としては、一般式(22)で表されるホウ素含有化合物または一般式(23)で表される化合物と反応し得る反応性基を有する化合物が挙げられる。なお、上記単量体成分として、一般式(22)で表されるホウ素含有化合物および一般式(23)で表される化合物は、それぞれ1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0201】
単量体成分中における一般式(22)で表されるホウ素含有化合物と一般式(23)で表される化合物とのモル比は、100/0~10/90であることが好ましく、より好ましくは70/30~30/70であり、最も好ましくは、50/50である。
また、重合反応の際における単量体成分の固形分濃度は、0.01質量%~溶媒に溶解する最大濃度の範囲で適宜設定することが好ましい。固形分濃度が希薄すぎると、反応の効率が悪く、濃すぎると反応の制御が難しくなる恐れがあることから、好ましい固形分濃度は0.05~10質量%である。
【0202】
上記一般式(18)で表されるホウ素含有化合物は、一般式(21-1)または(21-2)で表されるホウ素含有化合物であることが最も好ましい。上記一般式(18)で表されるホウ素含有化合物としては、特に、溶媒に溶解しやすく、第1材料と第2材料とを含む塗料組成物を容易に調製できる一般式(21-2)で表されるホウ素含有化合物が好ましい。
(一般式(21-1)中、nは、1以上の数を表す。)(一般式(21-2)中、nは、1以上の数を表す。)
【0203】
【化32】
【0204】
以上まとめると、上記一般式(14)(16)(18)で表されるホウ素含有化合物を、電子輸送性を有する第2材料として用いた場合、第1材料と第2材料とを含む塗料組成物を塗布する方法により容易に均一な有機薄膜が得られる。
また、上記一般式(14)(16)(18)で表されるホウ素含有化合物は、最低非占有軌道(LUMO)エネルギーが深いため、有機EL素子の電子注入層としての材料として好適である。したがって、これらのホウ素含有化合物を第2材料として含む有機薄膜は、特に有機EL素子の電子注入層として好適である。
【0205】
本実施形態の有機薄膜に含まれる第1材料と第2材料との比率は、特に限定されるものではなく、第1材料および第2材料それぞれに使用する化合物の種類に応じて適宜決定できる。第1材料と第2材料との比率は、質量比(第1材料:第2材料)で0.01:99.9~10:1であることが好ましい。例えば、第1材料としてジメチルアミノピリジン(DMAP)を用い、第2材料として一般式(1)で表されるホウ素含有化合物を用いた場合には、第1材料と第2材料との比率は、質量比(第1材料:第2材料)で0.5:1~40:1であることが好ましく、2:1~20:1であることがより好ましい。上記比率である場合、有機薄膜に第1材料と第2材料とが含まれていることによる電子輸送性および電子注入性の向上効果が顕著となる。
【0206】
本実施形態の有機薄膜は、第1材料と第2材料のみからなるものであってもよいし、本発明の効果が得られる範囲で、第1材料と第2材料の他の材料を含むものであってもよい。第1材料と第2材料の他の材料を含む場合、例えば、有機薄膜中の他の材料の含有量(質量%)は、第2材料の含有量(質量%)以下であることが好ましい。
【0207】
第1材料と第2材料の他の材料としては電子輸送材料を用いることが好ましい。電子輸送材料としては、例えば、有機EL素子の電子輸送層の材料として従来公知のいずれの材料を用いてもよい。具体的には、フェニル-ディピレニルホスフィンオキサイド(POPy)のようなホスフィンオキサイド誘導体、トリス-1,3,5-(3’-(ピリジン-3’’-イル)フェニル)ベンゼン(TmPyPhB)のようなピリジン誘導体、(2-(3-(9-カルバゾリル)フェニル)キノリン(mCQ))のようなキノリン誘導体、2-フェニル-4,6-ビス(3,5-ジピリジルフェニル)ピリミジン(BPyPPM)のようなピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、バソフェナントロリン(BPhen)のようなフェナントロリン誘導体、2,4-ビス(4-ビフェニル)-6-(4’-(2-ピリジニル)-4-ビフェニル)-[1,3,5]トリアジン(MPT)のようなトリアジン誘導体、3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール(TAZ)のようなトリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル-1,3,4-オキサジアゾール)(PBD)のようなオキサジアゾール誘導体、2,2’,2’’-(1,3,5-ベントリイル)-トリス(1-フェニル-1-H-ベンズイミダゾール)(TPBI)のようなイミダゾール誘導体、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、ビス[2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト]亜鉛(Zn(BTZ))、トリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq)などに代表される各種金属錯体、2,5-ビス(6’-(2’,2’’-ビピリジル))-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロール(PyPySPyPy),等のシロール誘導体に代表される有機シラン誘導体、ホウ素含有化合物等などが挙げられる。
【0208】
なお、本実施形態の有機薄膜における第1材料は、上記一般式(3)で表される環状ピリジン系化合物である。第1材料として上記の他の材料を用いた場合、有機EL素子の電子注入層として好ましくない有機薄膜となる恐れがある。
【0209】
「有機薄膜の製造方法」
次に、本実施形態の有機薄膜の製造方法について、例を挙げて説明する。
本実施形態の有機薄膜は、酸解離定数pKaが1以上の、上記一般式(3)で表される環状ピリジン系化合物からなる第1材料と、電子を輸送する第2材料とを含むものである。第1材料、第2材料ともに分子量が比較的大きいことに起因して、本実施形態の有機薄膜は塗布だけでなく、蒸着によっても形成することが可能である。このため、本実施形態の有機薄膜を含む有機EL素子を製造する場合のプロセス上の制約が少なく、有機EL素子を構成する層の材料として使用しやすいものである。
有機薄膜を蒸着により製造する場合、有機EL素子を構成する他の層を蒸着により製造する場合と同様の方法により行うことができる。このような、上記一般式(3)で表される環状ピリジン系化合物である第1材料と、電子を輸送する第2材料とを同時に又は順に有機薄膜の被形成面上に蒸着する工程を含む有機薄膜の製造方法もまた、本発明の1つである。
また、有機薄膜は塗布により製造することも可能であり、この場合も、第1材料と、電子を輸送する第2材料とを含む塗料組成物を作成して、該塗料組成物を塗布するか、又は、第1材料を含む塗料組成物、第2材料を含む塗料組成物をそれぞれ作成して、これらを順に塗布することで有機薄膜を製造することができる。
以下においては、pKaが1以上の特定の環状ピリジン系化合物からなる第1材料と、電子を輸送する第2材料とを含む塗料組成物を作成して、該塗料組成物を塗布することで有機薄膜を製造する方法について説明する。このような、上記一般式(3)で表される環状ピリジン系化合物である第1材料と、電子を輸送する第2材料とを含む塗料組成物を有機薄膜の被形成面上に塗布する工程を含む有機薄膜の製造方法もまた、本発明の1つである。
【0210】
塗料組成物は、例えば、容器に入れた溶媒中に第1材料と第2材料をそれぞれ所定量供給して撹拌し、溶解させる方法により得られる。
第1材料および第2材料を溶解するために用いる溶媒としては、例えば、無機溶媒や有機溶媒、またはこれらを含む混合溶媒等を用いることができる。
無機溶媒としては、例えば、硝酸、硫酸、アンモニア、過酸化水素、水、二硫化炭素、四塩化炭素、エチレンカーボネイト等が挙げられる。
【0211】
有機溶媒としては、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、ジイソブチルケトン、3,5,5-トリメチルシクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール(DEG)、グリセリン等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、ジエチレングリコールエチルエーテル(カルビトール)等のエーテル系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、フェニルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化合物系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル、ギ酸エチル等のエステル系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等の硫黄化合物系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル等のニトリル系溶媒、ギ酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸系溶媒のような各種有機溶媒等が挙げられ、これらの中でもメチルエチルケトン(MEK)、アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、ジイソブチルケトン、3,5,5-トリメチルシクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、シクロペンタノン等のケトン系溶媒が好ましい。
【0212】
第1材料および第2材料を含む塗料組成物を塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法等の各種塗布法を用いることができる。
【0213】
このようにして塗料組成物を塗布した後、アニール処理を施すことが好ましい。アニール処理の条件は、70~200℃で0.1~5時間、窒素雰囲気または大気下で行うことが好ましい。このようなアニール処理を施すことにより、溶媒を気化させて有機薄膜を成膜できる。
【0214】
「有機EL素子」
次に、本発明の有機EL素子について、例を挙げて詳細に説明する。
図1は、本発明の有機EL素子の一例を説明するための概略断面図である。図1に示す本実施形態の有機EL素子1は、陰極3と陽極9との間に発光層6を有する。図1に示す有機EL素子1では、陰極3と発光層6との間に、上記有機薄膜からなる電子注入層5を有している。
本実施形態の有機EL素子1は、基板2上に、陰極3と、無機の酸化物層4と、電子注入層5と、電子輸送層10と、発光層6と、正孔輸送層7と、正孔注入層8と、陽極9とがこの順に形成された積層構造を有する。
【0215】
図1に示す有機EL素子1は、基板2と発光層6との間に陰極3が配置された逆構造の有機EL素子である。また、図1に示す有機EL素子1は、有機EL素子を構成する層の一部(少なくとも無機の酸化物層4)を、無機化合物を用いて形成した有機無機ハイブリッド型の有機電界発光素子(HOILED素子)である。
図1に示す有機EL素子1は、基板2と反対側に光を取り出すトップエミッション型のものであってもよいし、基板2側に光を取り出すボトムエミッション型のものであってもよい。
【0216】
本実施形態においては、逆構造の有機EL素子を例に挙げて説明するが、本発明の有機EL素子は、基板と発光層との間に陽極が配置された順構造のものであってもよい。本発明の有機EL素子が順構造である場合も、逆構造の場合と同様に、陰極と発光層との間に上記有機薄膜を有する。また逆構造の場合、該電子注入層を有機バッファ層と呼ぶこともある。
【0217】
「基板」
基板2の材料としては、樹脂材料、ガラス材料等が挙げられる。
基板2に用いられる樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレート等が挙げられる。基板2の材料として、樹脂材料を用いた場合、柔軟性に優れた有機EL素子1が得られるため好ましい。
基板2に用いられるガラス材料としては、石英ガラス、ソーダガラス等が挙げられる。
【0218】
有機EL素子1がボトムエミッション型のものである場合には、基板2の材料として、透明基板を用いる。
有機EL素子1がトップエミッション型のものである場合には、基板2の材料として、透明基板だけでなく、不透明基板を用いてもよい。不透明基板としては、例えば、アルミナのようなセラミックス材料からなる基板、ステンレス鋼のような金属板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成した基板、樹脂材料で構成された基板等が挙げられる。
【0219】
基板2の平均厚さは、基板2の材料等に応じて決定でき、0.1~30mmであることが好ましく、0.1~10mmであることがより好ましい。基板2の平均厚さは、デジタルマルチメーター、ノギスにより測定できる。
【0220】
「陰極」
陰極3は、基板2上に直接接触して形成されている。
陰極3の材料としては、ITO(インジウム酸化錫)、IZO(インジウム酸化亜鉛)、FTO(フッ素酸化錫)、In、SnO、Sb含有SnO、Al含有ZnO等の酸化物の導電材料が挙げられる。この中でも、陰極3の材料として、ITO、IZO、FTOを用いることが好ましい。
陰極3の平均厚さは、特に制限されないが、10~500nmであることが好ましく、100~200nmであることがより好ましい。
陰極3の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定できる。
【0221】
「酸化物層」
無機の酸化物層4は、電子注入層としての機能および/または陰極としての機能を備えている。
酸化物層4は、半導体もしくは絶縁体積層薄膜の層である。具体的には、酸化物層4は、単体の金属酸化物からなる層、二種類以上の金属酸化物を混合した層と単体の金属酸化物からなる層のいずれか一方または両方を積層した層、二種類以上の金属酸化物を混合した層のいずれであってもよい。
酸化物層4を形成する金属酸化物を構成する金属元素としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、インジウム、ガリウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、ケイ素が挙げられる。
【0222】
酸化物層4が、二種類以上の金属酸化物を混合した層を含む場合、金属酸化物を構成する金属元素の少なくとも一つが、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、ジルコニウム、ハフニウム、ケイ素、チタン、亜鉛からなる層であることが好ましい。
酸化物層4が、単体の金属酸化物からなる層である場合、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛からなる群から選ばれる金属酸化物からなる層であることが好ましい。
【0223】
酸化物層4が、二種類以上の金属酸化物を混合した層と単体の金属酸化物からなる層のいずれか一方または両方を積層した層、または二種類以上の金属酸化物を混合した層である場合、酸化チタン/酸化亜鉛、酸化チタン/酸化マグネシウム、酸化チタン/酸化ジルコニウム、酸化チタン/酸化アルミニウム、酸化チタン/酸化ハフニウム、酸化チタン/酸化ケイ素、酸化亜鉛/酸化マグネシウム、酸化亜鉛/酸化ジルコニウム、酸化亜鉛/酸化ハフニウム、酸化亜鉛/酸化ケイ素、酸化カルシウム/酸化アルミニウム、から選ばれる二種の金属酸化物の組合せを積層及び/又は混合したもの、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化マグネシウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化ジルコニウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化アルミニウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化ハフニウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化ケイ素、酸化インジウム/酸化ガリウム/酸化亜鉛、から選ばれる三種の金属酸化物の組合せを積層及び/又は混合したものなどが挙げられる。
【0224】
酸化物層4は、特殊な組成として良好な特性を示す酸化物半導体であるIGZO(酸化インジウムガリウム亜鉛)および/またはエレクトライドである12CaO・7Alを含むものであってもよい。
酸化物層4の平均厚さは、特に限定されないが、1~1000nmであることが好ましく、2~100nmであることがより好ましい。
酸化物層4の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定できる。
【0225】
「電子注入層」
電子注入層5は、陰極から発光層6への電子の注入の速度・電子輸送性を改善するものである。電子注入層5は、上記有機薄膜からなる。
電子注入層5の平均厚さは、5~100nmであることが好ましく、10~50nmであることがより好ましい。電子注入層5の平均厚さが5nm以上である場合、第1材料と第2材料とを含む塗料組成物を塗布する方法、第1材料を含む塗料組成物と第2材料と含む塗料組成物とを順に塗布する方法、又は、第1材料と第2材料とをそれぞれ積層製膜する方法のいずれかを用いて、電子注入層5を形成することにより、表面の平滑な電子注入層5が得られ、有機EL素子1の製造時におけるリークを十分に防止できる。また、電子注入層5の平均厚さが100nm以下である場合、電子注入層5を設けることによる有機EL素子1の駆動電圧の上昇を十分に抑制できる。
なお、上記第1材料と第2材料とをそれぞれ積層製膜する場合、当該積層膜全体が電子注入層を構成するものであってもよいが、第2材料が電子輸送層や発光層等の電子注入層に隣接する層に含まれており、第2材料の層が電子注入層以外の層を構成するものであってもよい。例えば、第1材料が電子注入層であって、第2材料が電子輸送層に含まれる場合や、有機EL素子が電子輸送層を有さない素子であって、第1材料が電子注入層であり、第2材料の層が発光層に含まれる場合も、本発明に含まれる。
電子注入層5の平均厚さは、例えば、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定できる。
【0226】
上述したとおり、pKaが1以上の有機材料である第1材料は、他の材料からプロトン(H)を引く抜く能力を有する材料であることから、酸化物層4からの電子注入を十分に進めるため、第1材料は酸化物層4側により多く存在することが好ましい。したがって、電子注入層5は、酸化物層4側から電子輸送層10側に向かって第1材料が濃度が薄くなってゆくような濃度分布を有することが好ましい。
このような濃度分布を有する電子注入層を形成する方法としては、第1材料を含む溶液を酸化物層4上に塗布して塗膜を形成した後、第2材料を含む溶液を第1材料の塗膜上に塗布する方法が挙げられるが、濃度分布が形成できるのであれば、このプロセスに限定されるものではない。
また、上記濃度分布は、TOF-SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析法)などで測定できる。
【0227】
上記のとおり、pKaが1以上の有機材料である第1材料は、他の材料からプロトン(H)を引く抜く能力を有する材料であり、無機化合物(酸化物)の欠損箇所に好適に配位し外部から侵入する酸素や水との界面での反応を妨げることから、本発明の有機薄膜の効果を十分に発揮する点から、本発明の有機薄膜は、酸化物層上に層を形成することが好ましい。そのようにして得られる積層構造の膜、すなわち、酸化物層と、該酸化物層上に形成された本発明の有機薄膜の層とからなる積層膜もまた本発明の1つである。
有機EL素子が積層構造中に酸化物層と、該酸化物層上に形成された本発明の有機薄膜の層とを含む場合、該有機EL素子は、本発明の積層膜を含んで構成されているということができる。このような本発明の積層膜を含んで構成される有機EL素子もまた、本発明の1つである。
【0228】
「電子輸送材料」
電子輸送層10としては、電子輸送層の材料として通常用いることができるいずれの材料を用いてもよい。
具体的には、電子輸送層10の材料として、フェニル-ディピレニルホスフィンオキサイド(POPy)のようなホスフィンオキサイド誘導体、トリス-1,3,5-(3’-(ピリジン-3’’-イル)フェニル)ベンゼン(TmPhPyB)のようなピリジン誘導体、(2-(3-(9-カルバゾリル)フェニル)キノリン(mCQ))のようなキノリン誘導体、2-フェニル-4,6-ビス(3,5-ジピリジルフェニル)ピリミジン(BPyPPM)のようなピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、バソフェナントロリン(BPhen)のようなフェナントロリン誘導体、2,4-ビス(4-ビフェニル)-6-(4’-(2-ピリジニル)-4-ビフェニル)-[1,3,5]トリアジン(MPT)のようなトリアジン誘導体、3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール(TAZ)のようなトリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル-1,3,4-オキサジアゾール)(PBD)のようなオキサジアゾール誘導体、2,2’,2’’-(1,3,5-ベントリイル)-トリス(1-フェニル-1-H-ベンズイミダゾール)(TPBI)のようなイミダゾール誘導体、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、ビス[2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト]亜鉛(Zn(BTZ))、トリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)などに代表される各種金属錯体、2,5-ビス(6’-(2’,2’’-ビピリジル))-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロール(PyPySPyPy),等のシロール誘導体に代表される有機シラン誘導体、特願2012-228460、特願2015-503053、特願2015-053872、特願2015-081108および特願2015-081109に記載のホウ素含有化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
これらの電子輸送層10の材料の中でも、特に、POPyのようなホスフィンオキサイド誘導体、Alqのような金属錯体、TmPhPyBのようなピリジン誘導体を用いることが好ましい。
【0229】
電子輸送層10の平均厚さは、特に限定されないが、10~150nmであることが好ましく、20~100nmであることが、より好ましい。
電子輸送層10の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定できる。
【0230】
「発光層」
発光層6を形成する材料としては、発光層6の材料として通常用いることのできるいずれの材料を用いてもよく、これらを混合して用いてもよい。具体的には、例えば、発光層6として、ビス[2-(2-ベンゾチアゾリル)フェノラト]亜鉛(II)(Zn(BTZ))と、トリス[1-フェニルイソキノリン]イリジウム(III)(Ir(piq))とを含むものとすることができる。
また、発光層6を形成する材料は、低分子化合物であってもよいし、高分子化合物であってもよい。なお、本発明において低分子材料とは、高分子材料(重合体)ではない材料を意味し、分子量が低い有機化合物を必ずしも意味するものではない。
【0231】
発光層6を形成する高分子材料としては、例えば、トランス型ポリアセチレン、シス型ポリアセチレン、ポリ(ジ-フェニルアセチレン)(PDPA)、ポリ(アルキルフェニルアセチレン)(PAPA)のようなポリアセチレン系化合物;ポリ(パラ-フェンビニレン)(PPV)、ポリ(2,5-ジアルコキシ-パラ-フェニレンビニレン)(RO-PPV)、シアノ-置換-ポリ(パラ-フェンビニレン)(CN-PPV)、ポリ(2-ジメチルオクチルシリル-パラ-フェニレンビニレン)(DMOS-PPV)、ポリ(2-メトキシ,5-(2’-エチルヘキソキシ)-パラ-フェニレンビニレン)(MEH-PPV)のようなポリパラフェニレンビニレン系化合物;ポリ(3-アルキルチオフェン)(PAT)、ポリ(オキシプロピレン)トリオール(POPT)のようなポリチオフェン系化合物;ポリ(9,9-ジアルキルフルオレン)(PDAF)、ポリ(ジオクチルフルオレン-アルト-ベンゾチアジアゾール)(F8BT)、α,ω-ビス[N,N’-ジ(メチルフェニル)アミノフェニル]-ポリ[9,9-ビス(2-エチルヘキシル)フルオレン-2,7-ジル](PF2/6am4)、ポリ(9,9-ジオクチル-2,7-ジビニレンフルオレニル-オルト-コ(アントラセン-9,10-ジイル)のようなポリフルオレン系化合物;ポリ(パラ-フェニレン)(PPP)、ポリ(1,5-ジアルコキシ-パラ-フェニレン)(RO-PPP)のようなポリパラフェニレン系化合物;ポリ(N-ビニルカルバゾール)(PVK)のようなポリカルバゾール系化合物;ポリ(メチルフェニルシラン)(PMPS)、ポリ(ナフチルフェニルシラン)(PNPS)、ポリ(ビフェニリルフェニルシラン)(PBPS)のようなポリシラン系化合物;更には特願2010-230995号、特願2011-6457号に記載のホウ素化合物系高分子材料等が挙げられる。
【0232】
発光層6を形成する低分子材料としては、例えば、配位子に2,2’-ビピリジン-4,4’-ジカルボン酸を持つ、3配位のイリジウム錯体、ファクトリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy))、8-ヒドロキシキノリンアルミニウム(Alq)、トリス(4-メチル-8キノリノレート)アルミニウム(III)(Almq)、8-ヒドロキシキノリン亜鉛(Znq)、(1,10-フェナントロリン)-トリス-(4,4,4-トリフルオロ-1-(2-チエニル)-ブタン-1,3-ジオネート)ユーロピウム(III)(Eu(TTA)(phen))、2,3,7,8,12,13,17,18-オクタエチル-21H,23H-ポルフィンプラチナム(II)のような各種金属錯体;ジスチリルベンゼン(DSB)、ジアミノジスチリルベンゼン(DADSB)のようなベンゼン系化合物;ナフタレン、ナイルレッドのようなナフタレン系化合物;フェナントレンのようなフェナントレン系化合物;クリセン、6-ニトロクリセンのようなクリセン系化合物;ペリレン、N,N’-ビス(2,5-ジ-t-ブチルフェニル)-3,4,9,10-ペリレン-ジ-カルボキシイミド(BPPC)のようなペリレン系化合物;コロネンのようなコロネン系化合物;アントラセン、ビススチリルアントラセンのようなアントラセン系化合物;ピレンのようなピレン系化合物;4-(ジ-シアノメチレン)-2-メチル-6-(パラ-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン(DCM)のようなピラン系化合物;アクリジンのようなアクリジン系化合物;スチルベンのようなスチルベン系化合物;2,5-ジベンゾオキサゾールチオフェンのようなチオフェン系化合物;ベンゾオキサゾールのようなベンゾオキサゾール系化合物;ベンゾイミダゾールのようなベンゾイミダゾール系化合物;2,2’-(パラ-フェニレンジビニレン)-ビスベンゾチアゾールのようなベンゾチアゾール系化合物;ビスチリル(1,4-ジフェニル-1,3-ブタジエン)、テトラフェニルブタジエンのようなブタジエン系化合物;ナフタルイミドのようなナフタルイミド系化合物;クマリンのようなクマリン系化合物;ペリノンのようなペリノン系化合物;オキサジアゾールのようなオキサジアゾール系化合物;アルダジン系化合物;1,2,3,4,5-ペンタフェニル-1,3-シクロペンタジエン(PPCP)のようなシクロペンタジエン系化合物;キナクリドン、キナクリドンレッドのようなキナクリドン系化合物;ピロロピリジン、チアジアゾロピリジンのようなピリジン系化合物;2,2’,7,7’-テトラフェニル-9,9’-スピロビフルオレンのようなスピロ化合物;フタロシアニン(HPc)、銅フタロシアニンのような金属または無金属のフタロシアニン系化合物;更には特開2009-155325号公報、特開2011-184430号公報および特願2011-6458号に記載のホウ素化合物材料等が挙げられる。
【0233】
発光層6の平均厚さは、特に限定されないが、10~150nmであることが好ましく、20~100nmであることがより好ましい。
発光層6の平均厚さは、触針式段差計により測定してもよいし、水晶振動子膜厚計により発光層6の成膜時に測定してもよい。
【0234】
「正孔輸送層」
正孔輸送層7に用いる正孔輸送性有機材料としては、各種p型の高分子材料(有機ポリマー)、各種p型の低分子材料を単独または組み合わせて用いることができる。
具体的には、正孔輸送層7の材料として、例えば、N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)、N4,N4’-ビス(ジベンゾ[b,d]チオフェン-4-イル)-N4,N4’-ジフェニルビフェニルー4,4’-ジアミン(DBTPB)、ポリアリールアミン、フルオレン-アリールアミン共重合体、フルオレン-ビチオフェン共重合体、ポリ(N-ビニルカルバゾール)、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ポリチオフェン、ポリアルキルチオフェン、ポリヘキシルチオフェン、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリチニレンビニレン、ピレンホルムアルデヒド樹脂、エチルカルバゾールホルムアルデヒド樹脂またはその誘導体等が挙げられる。これらの正孔輸送層7の材料は、他の化合物との混合物として用いることもできる。一例として、正孔輸送層7の材料として用いられるポリチオフェンを含有する混合物として、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン/スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)等が挙げられる。
【0235】
正孔輸送層7の平均厚さは、特に限定されないが、10~150nmであることが好ましく、20~100nmであることがより好ましい。
正孔輸送層7の平均厚さは、例えば、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定することができる。
【0236】
「正孔注入層」
正孔注入層8は、無機材料からなるものであってもよいし、有機材料からなるものであってもよい。無機材料は、有機材料と比較して安定であるため、有機材料を用いた場合と比較して、酸素や水に対する高い耐性が得られやすい。
無機材料としては、特に制限されないが、例えば、酸化バナジウム(V)、酸化モリブテン(MoO)、酸化ルテニウム(RuO)等の金属酸化物を1種又は2種以上を用いることができる。
有機材料としては、ジピラジノ[2,3-f:2’,3’-h]キノキサリン-2,3,6,7,10,11-ヘキサカルボニトリル(HAT-CN)や2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノ-キノジメタン(F4-TCNQ)等を用いることができる。
【0237】
正孔注入層8の平均厚さは、特に限定されないが、1~1000nmであることが好ましく、5~50nmであることがより好ましい。
正孔注入層8の平均厚さは、水晶振動子膜厚計により成膜時に測定することができる。
【0238】
「陽極」
陽極9に用いられる材料としては、ITO、IZO、Au、Pt、Ag、Cu、Alまたはこれらを含む合金等が挙げられる。この中でも、陽極9の材料として、ITO、IZO、Au、Ag、Alを用いることが好ましい。
陽極9の平均厚さは、特に限定されないが、10~1000nmであることが好ましく、30~150nmであることがより好ましい。また、陽極9の材料として不透過な材料を用いる場合でも、例えば、平均厚さを10~30nm程度にすることで、トップエミッション型の有機EL素子における透明な陽極として使用できる。
陽極9の平均厚さは、水晶振動子膜厚計により陽極9の成膜時に測定できる。
【0239】
「封止」
図1に示す有機EL素子1は、必要に応じて、封止されていてもよい。
例えば、図1に示す有機EL素子1は、有機EL素子1を収容する凹状の空間を有する封止容器(不図示)と、封止容器の縁部と基板2とを接着する接着剤とによって封止されていてもよい。また、封止容器に有機EL素子1を収容し、紫外線(UV)硬化樹脂などからなるシール材を充填することにより封止してもよい。また、例えば、図1に示す有機EL素子1は、陽極9上に配置された板部材(不図示)と、板部材の陽極9と対向する側の縁部に沿って配置された枠部材(不図示)とからなる封止部材と、板部材と枠部材との間および枠部材と基板2との間とを接着する接着剤とを用いて封止されていてもよい。
【0240】
封止容器または封止部材を用いて有機EL素子1を封止する場合、封止容器内または封止部材の内側に、水分を吸収する乾燥材を配置してもよい。また、封止容器または封止部材として、水分を吸収する材料を用いてもよい。また、封止された封止容器内または封止部材の内側には、空間が形成されていてもよい。
【0241】
図1に示す有機EL素子1を封止する場合に用いる封止容器または封止部材の材料としては、樹脂材料、ガラス材料等を用いることができる。封止容器または封止部材に用いられる樹脂材料およびガラス材料としては、基板2に用いる材料と同様のものが挙げられる。
【0242】
本実施形態の有機EL素子1において、有機薄膜として、上記一般式(3)で表される環状ピリジン系化合物からなる第1材料と、上記一般式(1)で示されるホウ素含有化合物または上記一般式(2)で示されるフォスフィンオキサイド誘導体からなる第2材料とからなるものを用いて電子注入層を形成した場合には、例えば、電子注入層として大気中で不安定な材料であるアルカリ金属を用いた場合と比較して、優れた耐久性が得られる。このため、封止容器または封止部材の水蒸気透過率が10-3~10-4g/m/day程度であれば、有機EL素子1の劣化を十分に抑制できる。したがって、封止容器または封止部材の材料として、水蒸気透過率が10-4g/m/day程度以下の樹脂材料を用いることが可能であり、柔軟性に優れた有機EL素子1を実現できる。
【0243】
「有機EL素子の製造方法」
次に、本発明の有機EL素子の製造方法の一例として、図1に示す有機EL素子1の製造方法を説明する。
図1に示す有機EL素子1を製造するには、まず、基板2上に陰極3を形成する。
陰極3は、スパッタ法、真空蒸着法、ゾルゲル法、スプレー熱分解(SPD)法、原子層堆積(ALD)法、気相成膜法、液相成膜法等により形成することができる。陰極3の形成には、金属箔を接合する方法を用いてもよい。
【0244】
次に、陰極3上に無機の酸化物層4を形成する。
酸化物層4は、例えば、スプレー熱分解法、ゾルゲル法、スパッタ法、真空蒸着法等の方法を用いて形成する。このようにして形成された酸化物層4の表面は、平滑ではなく凹凸を有するものとなる場合がある。
【0245】
次に、酸化物層4上に電子注入層5を形成する。
電子注入層5は、上述した有機薄膜の製造方法により形成できる。
【0246】
次に、電子注入層5上に、電子輸送層10、発光層6と、正孔輸送層7とをこの順で形成する。
電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7の形成方法は、特に限定されず、電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7それぞれに用いられる材料の特性に合わせて、従来公知の種々の形成方法を適宜用いることができる。
【0247】
具体的には、電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7の各層を形成する方法として、電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7となる有機化合物を含む有機化合物溶液を塗布する塗布法、真空蒸着法、ESDUS(Evaporative Spray Deposition from Ultra-dilute Solution)法などが挙げられる。これらの電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7の形成方法の中でも特に、塗布法を用いることが好ましい。なお、電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7となる有機化合物の溶媒溶解性が低い場合には、真空蒸着法、ESDUS法を用いることが好ましい。
【0248】
塗布法を用いて電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7を形成する場合には、電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7となる有機化合物をそれぞれ溶媒に溶解することにより、電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7となる有機化合物をそれぞれ含む有機化合物溶液を形成する。
【0249】
電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7となる有機化合物を溶解するために用いる溶媒としては、例えば、キシレン、トルエン、シクロヘキシルベンゼン、ジハイドロベンゾフラン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環化合物系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒等が好ましく、これらを単独または混合して用いることができる。
【0250】
電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7となる有機化合物を含む有機化合物溶液を塗布する方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法等の各種塗布法を用いることができる。これらの塗布法の中でも、膜厚をより制御しやすいという点で、スピンコート法やスリットコート法を用いることが好ましい。
【0251】
次に、正孔輸送層7上に正孔注入層8と、陽極9とをこの順に形成する。
正孔注入層8が無機材料からなるものである場合、正孔注入層8は、例えば、酸化物層4と同様にして形成できる。
正孔輸送層9が有機材料からなるものである場合、正孔注入層8は、例えば、電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7と同様にして形成できる。
陽極9は、例えば、陰極3と同様にして形成できる。
以上の工程により、図1に示す有機EL素子1が得られる。
【0252】
「封止方法」
図1に示す有機EL素子1を封止する場合には、有機EL素子の封止に用いられる通常の方法を使用して封止できる。
【0253】
本実施形態の有機EL素子1は、上述したpKaが1以上の有機材料である第1材料と、電子を輸送する第2材料とを含む有機薄膜からなる電子注入層5を有しているため、第1材料が第2材料からプロトン(H)を引き抜くことにより、マイナス電荷が生じ、優れた電子注入性が得られる。したがって、陰極3から発光層6への電子注入・電子輸送の速度が速く、駆動電圧の低い有機EL素子1となる。
また、上述したように、上述したpKaが1以上の有機材料である第1材料と、電子を輸送する第2材料とを含む有機薄膜が積層膜であって、第2材料によって形成される層が第1材料によって形成される電子注入層とは異なる層である有機EL素子1も本発明の有機EL素子の別の実施形態である。このような実施形態の有機EL素子においても、陰極3から発光層6への電子注入・電子輸送の速度が速く、駆動電圧の低い有機EL素子1となる。
【0254】
「他の例」
本発明の有機EL素子は、上述した実施形態において説明した有機EL素子に限定されるものではない。
具体的には、上述した実施形態においては、有機薄膜が電子注入層として機能する場合を例に挙げて説明したが、本発明の有機EL素子は、陰極と発光層との間に有機薄膜を有していればよい。したがって、有機薄膜は、電子注入層に限定されるものではなく、電子注入層と電子輸送層とを兼ねる層として設けられていてもよいし、電子輸送層として設けられていてもよい。
【0255】
また、図1に示す有機EL素子1においては、無機の酸化物層4、電子輸送層10、正孔輸送層7、正孔注入層8は、必要に応じて形成すればよく、設けられていなくてもよい。
また、陰極3、酸化物層4、電子注入層5、電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7、正孔注入層8、陽極9の各層は、1層で形成されているものであってもよいし、2層以上からなるものであってもよい。
【0256】
また、図1に示す有機EL素子1においては、図1に示す各層の間に他の層を有するものであってもよい。具体的には、有機EL素子の特性をさらに向上させる等の理由から、必要に応じて、電子阻止層などを有していてもよい。
【0257】
また、上述した実施形態では、基板2と発光層6との間に陰極3が配置された逆構造の有機EL素子を例に挙げて説明したが、基板と発光層との間に陽極が配置された順構造のものであってもよい。
【0258】
本発明の有機EL素子は、発光層などの材料を適宜選択することによって発光色を変化させることができるし、カラーフィルター等を併用して所望の発光色を得ることもできる。そのため、表示装置の発光部位や照明装置として好適に用いることができる。
【0259】
本発明の表示装置は、陰極と発光層との間に有機薄膜を有し、生産性に優れ、駆動電圧が低い本発明の有機EL素子を備える。このため、表示装置として好ましいものである。
また、本発明の照明装置は、生産性に優れ、駆動電圧が低い本発明の有機EL素子を備える。このため、照明装置として好ましいものである。
【0260】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の有機薄膜は、例えば、有機薄膜太陽電池、薄膜トランジスタなどのデバイスに用いることができる。
本発明の有機薄膜太陽電池は、有機薄膜を含む。例えば、有機薄膜を有機薄膜太陽電池の電子注入層に用いた場合、有機薄膜の第1材料が第2材料からプロトン(H)を引き抜くことにより、マイナス電荷が生じるため、電子輸送の速度が速く、高い発電効率が得られる。したがって、有機薄膜太陽電池として好ましいものである。
また、本発明の薄膜トランジスタは、有機薄膜を含む。例えば、薄膜トランジスタのチャネル層を有機薄膜で形成した場合、電子移動度の高いチャネル層が得られる。
また、電極上に該有機薄膜を形成した場合、接触抵抗の低減が期待できる。
【実施例
【0261】
「実施例1、2」
(有機EL素子の作製)
以下に示す方法により、図1に示す有機EL素子1を製造し、評価した。
[工程1]
基板2として、ITOからなる幅3mmにパターニングされた電極(陰極3)を有する平均厚さ0.7mmの市販の透明ガラス基板を用意した。
そして、陰極3を有する基板2を、アセトン中、イソプロパノール中でそれぞれ10分間ずつ超音波洗浄し、イソプロパノール中で5分間煮沸した。その後、陰極3を有する基板2を、イソプロパノール中から取り出し、窒素ブローにより乾燥させ、UVオゾン洗浄を20分間行った。
【0262】
[工程2]
[工程1]において洗浄した陰極3の形成されている基板2を、亜鉛金属ターゲットを持つミラトロンスパッタ装置の基板ホルダーに固定した。スパッタ装置のチャンバー内を、約1×10-4Paの圧力となるまで減圧した後、アルゴンと酸素を導入した状態でスパッタし、基板2の陰極3上に膜厚約7nmの酸化亜鉛層(酸化物層4)を作製した。なお、酸化亜鉛層を作製する際には、電極取り出しのために、ITO電極(陰極3)上の一部に酸化亜鉛が成膜されないようにした。酸化物層4を成膜した基板2に、大気下で400℃、1時間のアニールを行った。
【0263】
[工程3]
次に、酸化物層4上に電子注入層5として、以下に示す方法により、第1材料と第2材料とを含む有機薄膜を形成した。
第2材料として用いたホウ素化合物は、式(1)で示されるホウ素化合物Aであり、下記の(合成例1)~(合成例3)を行うことにより製造した。
(合成例1)
下記一般式(31)で表されるホウ素含有化合物を、以下に示す方法により合成した。
【0264】
【化33】
【0265】
アルゴン雰囲気下で、一般式(30)で表される5-ブロモ-2-(4-ブロモフェニル)ピリジン(94mg、0.30mmol)を含むジクロロメタン溶液(0.3ml)に、エチルジイソプロピルアミン(39mg、0.30mmol)を加えた。その後、0℃で三臭化ホウ素(1.0Mジクロロメタン溶液、0.9ml、0.9mmol)を加え、室温で9時間攪拌して反応させた。その後、反応溶液を0℃まで冷却し、飽和炭酸カリウム水溶液を加え、クロロホルムで抽出した。そして、有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させて濾過した。その後、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、生成した白色固体を濾取し、ヘキサンで洗浄して、上記一般式(31)で表されるホウ素含有化合物(40mg、0.082mmol)を収率28%で得た。
【0266】
得られたホウ素含有化合物の同定はH-NMRを用いて行った。
H-NMR(CDCl):7.57-7.59(m,2H),7.80(dd,J=8.4,0.6Hz,1H),7.99(s,1H),8.27(dd,J=8.4,2.1Hz,1H),9.01(d,J=1.5Hz,1H).
【0267】
(合成例2)
上記一般式(31)で表されるホウ素含有化合物を用いて、下記一般式(16-40)で表されるホウ素含有化合物を、以下に示す方法により合成した。
【0268】
【化34】
【0269】
50mLの2口フラスコにマグネシウム(561mg,23.1mmol)を入れ、反応容器内を窒素雰囲気にした。その後、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)(10mL)を入れ、ヨウ素をひとかけら投入し、着色がなくなるまで攪拌した。次いで、反応容器内に2,2’-ジブロモビフェニル(3.0g,9.6mmol)のシクロペンチルメチルエーテル溶液(9mL)を滴下し、室温で12時間、50℃で1時間攪拌し、Grignard試薬を調製した。
【0270】
別の200mLの3つ口フラスコに、上記一般式(31)で表されるホウ素含有化合物(3.71g,7.7mmol)を入れて窒素雰囲気下にし、トルエン(77mL)を入れた。これを-78℃にて攪拌しながら上記Grignard試薬をキャヌラーで一度に加えた。10分間攪拌した後、室温まで昇温し、さらに12時間攪拌した。この反応溶液に水を加え、トルエンで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させて濾過した。その後、ろ液を濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィーで精製することにより上記一般式(16-40)で表されるホウ素含有化合物3.0g(収率82%)得た。
【0271】
得られたホウ素含有化合物の同定はH-NMRを用いて行った。
H-NMR(CDCl):6.85(d,J=7.04Hz,2H),7.05(t,J=7.19Hz,2H),7.32(t,J=7.48Hz,2H),7.47(s、1H)7.49-7.57(m、1H),7.74-7.84(m,3H),7.90-8.00(m,2H),8.07-8.20(m,1H).
【0272】
(合成例3)
一般式(16-40)で表されるホウ素含有化合物を用いて、下記一般式(1)で表されるホウ素化合物Aを、以下に示す方法により合成した。
【0273】
【化35】
【0274】
50mLの二口フラスコに、一般式(16-40)で表されるホウ素含有化合物(2.50g,5.26mmol)、一般式(32)で表される6-トリ(n-ブチルスタニル)-2,2’-ビピリジン(5.62g,12.6mmol)、Pd(PPh(610mg,0.53mmol)、トルエン(26mL)を入れた。その後、フラスコ内を窒素雰囲気とし、120℃で24時間攪拌し、反応させた。その後、反応溶液を室温まで冷却して濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィーで精製することにより一般式(1)で表されるホウ素化合物Aを2.0g(収率60%)得た。
【0275】
得られたホウ素化合物Aの同定はH-NMRを用いて行った。
H-NMR(CDCl):6.6.96(d,J=6.8Hz,2H),7.04(t,J=7.2Hz,2H),7.29-7.35(m,4H),7.49(d,J=7.8Hz,1H),7.73-7.85(m,7H),8.01(d,J=0.8Hz,1H),8.16(d,J=8.4Hz,1H),8.23(d,J=8.6Hz,1H),8.30-8.42(m,5H),8.60(d,J=8.0Hz,1H),8.66-8.67(m,2H),8.89(d,J=8.0Hz,1H).
【0276】
次に、以下に示す方法により、第1材料と第2材料とを含む有機薄膜を、酸化物層4上に電子注入層5として形成した。
まず、ホウ素化合物と環状ピリジン系化合物(重量比1:0:03)をシクロペンタノンに溶解し(濃度は1重量%)、塗料組成物を得た。次に、[工程2]で作製した陰極3および酸化物層4の形成されている基板2をスピンコーターに設置した。そして、塗料組成物を酸化物層4上に滴下しながら、基板2を毎分3000回転で30秒間回転させて塗膜を形成した。その後、ホットプレートを用いて窒素雰囲気下で120℃、2時間のアニール処理を施し、電子注入層5を形成した。得られた電子注入層5の平均厚さは30nmであった。
第1材料である環状ピリジン系化合物として、実施例1では下記化合物1を、実施例2では下記化合物2を用いた。
【0277】
【化36】
【0278】
[工程4]
次に、電子注入層5までの各層が形成された基板2を、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。また、下記一般式(24)で示されるビス[2-(2-ベンゾチアゾリル)フェノラト]亜鉛(II)(Zn(BTZ))と、下記一般式(25)で示されるトリス[1-フェニルイソキノリン]イリジウム(III)(Ir(piq))と、下記一般式(26)で示されるN,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)と、下記一般式(27)で示されるN4,N4’-ビス(ジベンゾ[b,d]チオフェン-4-イル)-N4,N4’-ジフェニルビフェニルー4,4’-ジアミン(DBTPB)と、下記一般式(28)で示される1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレン-2,3,6,7,10,11-ヘキサカルボニトリル(HAT-CN)と、Alとを、それぞれアルミナルツボに入れて蒸着源としてセットした。
【0279】
【化37】
【0280】
そして、真空蒸着装置のチャンバー内を1×10-5Paの圧力となるまで減圧して、抵抗加熱による真空蒸着法により、電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7、正孔注入層8、陽極9を連続して形成した。
【0281】
まず、Zn(BTZ)からなる厚み10nmの電子輸送層10を形成した。続いて、Zn(BTZ)をホスト、Ir(piq)をドーパントとして30nm共蒸着し、発光層6を成膜した。この時、ドープ濃度は、Ir(piq)が発光層6全体に対して6質量%となるようにした。次に、発光層6まで形成した基板2上に、DBTPBを10nm、α-NPDを30nm成膜し、正孔輸送層7を形成した。さらに、HAT-CNを10nm成膜し、正孔注入層8を形成した。次に、正孔注入層8まで形成した基板2上に、真空蒸着法によりアルミニウムからなる膜厚100nmの陽極9を成膜した。
【0282】
なお、陽極9は、ステンレス製の蒸着マスクを用いて蒸着面が幅3mmの帯状になるように形成し、作製した有機EL素子の発光面積を9mmとした。
【0283】
[工程5]
次に、陽極9までの各層を形成した基板2を、凹状の空間を有するガラスキャップ(封止容器)に収容し、紫外線(UV)硬化樹脂からなるシール材を充填することにより封止し、実施例1、2の有機EL素子を得た。
【0284】
「比較例1」
環状ピリジン系化合物を用いないこと以外は実施例1、2と同様にして、比較例1の有機EL素子を作製した。
【0285】
このようにして得られた実施例1、2および比較例1の素子に対して、ケースレー社製の「2400型ソースメーター」を用いて電圧を印加し、コニカミノルタ社製の「LS-100」を用いて輝度を測定し、印加電圧と輝度の関係を調べた。また、印加電圧と電流密度の関係を調べた。更に得られた輝度-電圧-電流値の相関より、電流密度と外部量子効率との関係を算出した。
これらの結果を図2~4に示す。
【0286】
図2~4からわかるとおり、環状ピリジン系化合物を電子注入層にドープした実施例1、2の素子では、比較例1の素子に比べ、低い印加電圧で高い輝度が得られており、外部量子効率も高い。これは、環状ピリジン系化合物がn型のドーパントとして働いた結果、電子注入性・輸送性が改善した結果であると考えられる。
【0287】
「実施例3」
(有機EL素子の作製)
以下に示す方法により、図5に示す有機EL素子を製造し、評価した。なお正孔輸送層7、及び、発光層3の成膜は真空蒸着法により行い、正孔注入層8のみ塗布法により成膜した。
[工程1]
基板2として、ITOからなる幅3mmにパターニングされた電極(陽極)を有する平均厚さ0.7mmの市販の透明ガラス基板を用意した。
そして、陽極9を有する基板2を、アセトン中、イソプロパノール中でそれぞれ10分間ずつ超音波洗浄し、イソプロパノール中で5分間煮沸した。その後、陽極を有する基板2を、イソプロパノール中から取り出し、窒素ブローにより乾燥させ、UVオゾン洗浄を20分間行った。
【0288】
[工程2]
[工程1]において洗浄した陽極が形成されている基板に、PEDOT/PSSからなる厚み30nmの正孔注入層8を形成した。続いて、α-NPDからなる厚み40nmの正孔輸送層7を形成し、その上にAlq3からなる厚み10nmの発光層6を成膜した。次に、下記式(29)のTmPPyTzと上記化合物1を共蒸着することで形成される厚み30nmの電子注入層5を形成した。この時、ドープ濃度は、化合物1が電子注入層5全体に対して10質量%となるようにした。電子注入層5まで形成した基板2上に、真空蒸着法によりアルミニウムからなる膜厚100nmの陰極3を成膜した。
【0289】
【化38】
【0290】
[工程3]
次に、陰極3までの各層を形成した基板を、凹状の空間を有するガラスキャップ(封止容器)に収容し、紫外線(UV)硬化樹脂からなるシール材を充填することにより封止し、実施例3の有機EL素子を得た。
【0291】
「比較例2」
環状ピリジン系化合物(化合物1)を用いないこと以外は実施例3と同様にして、比較例2の有機EL素子を作製した。
【0292】
このようにして得られた実施例3の素子および比較例2の素子に対して、実施例1の素子と同様の方法により、印加電圧と輝度の関係、印加電圧と電流密度の関係を調べ、電流密度と外部量子効率との関係を算出した。
これらの結果を図6~8に示す。
【0293】
図6~8からわかるとおり、環状ピリジン系化合物を電子注入層にドープした実施例3の素子では、比較例2の素子に比べ、低い印加電圧で高い輝度が得られており、外部量子効率も高い。これは、環状ピリジン系化合物がn型のドーパントとして働いた結果、電子注入性・輸送性が改善した結果であると考えられる。
【0294】
「比較例3」
[工程2]を以下の[工程2-1]のように変更した以外は実施例3と同様にして、図9に示す構造の比較例3の有機EL素子を作製した。なお正孔輸送層7、及び、発光層3の成膜は真空蒸着法により行い、正孔注入層8のみ塗布法により成膜した。
[工程2-1]
[工程1]において洗浄した陽極が形成されている基板に、ヘレウス社製Clevious HIL1.5からなる厚み30nmの正孔注入層8を形成した。続いて、a-NPDからなる厚み40nmの正孔輸送層7を形成し、Zn(BTZ)2とIr(piq)3を6重量%ドープした層からなる厚み25nmの発光層6を成膜した。次に、30nmのC60からなる電子輸送層10を真空蒸着法により形成した。次に、LiFを1nm蒸着し電子注入層5を形成した。さらに、真空蒸着法によりアルミニウムからなる膜厚100nmの陰極3を成膜した。
【0295】
「実施例4」
[工程2]を以下の[工程2-2]のように変更した以外は実施例3と同様にして、図10に示す構造の実施例4の有機EL素子を作製した。なお正孔輸送層7、及び、発光層3の成膜は真空蒸着法により行い、正孔注入層8のみ塗布法により成膜した。
[工程2-2]
[工程1]において洗浄した陽極が形成されている基板に、ヘレウス社製Clevious HIL1.5からなる厚み30nmの正孔注入層8を形成した。続いて、a-NPDからなる厚み40nmの正孔輸送層7を形成し、Zn(BTZ)2とIr(piq)3を6重量%ドープした層からなる厚み25nmの発光層6を成膜した。次に、30nmのC60からなる電子輸送層10を真空蒸着法により形成した。次に上記化合物1を1nm蒸着することで中間層11を形成し、LiFを1nm蒸着し電子注入層5を形成した。さらに、真空蒸着法によりアルミニウムからなる膜厚100nmの陰極3を成膜した。
【0296】
「実施例5」
[工程2]を以下の[工程2-3]のように変更した以外は実施例3と同様にして、図11に示す構造の実施例5の有機EL素子を作製した。なお正孔輸送層7、及び、発光層3の成膜は真空蒸着法により行い、正孔注入層8のみ塗布法により成膜した。
[工程2-3]
[工程1]において洗浄した陽極が形成されている基板に、ヘレウス社製Clevious HIL1.5からなる厚み30nmの正孔注入層8を形成した。続いて、a-NPDからなる厚み40nmの正孔輸送層7を形成し、Zn(BTZ)2中にIr(piq)3を6重量%ドープした層からなる厚み25nmの発光層6を成膜した。次に、C60中に上記化合物1を10重量%ドープした層からなる厚み30nmの電子輸送層10を成膜した。次に、LiFを1nm蒸着し電子注入層5を形成した。さらに、真空蒸着法によりアルミニウムからなる膜厚100nmの陰極3を成膜した。
【0297】
このようにして得られた比較例3および実施例4、5の素子に対して、実施例1の素子と同様の方法に、印加電圧と輝度の関係、印加電圧と電流密度の関係を調べ、電流密度と外部量子効率との関係を算出した。また、ケースレー社製の「2400型ソースメーター」を用いて電圧を印加し、コニカミノルタ社製の「LS-100」を用いて輝度を測定し、初期輝度を1000cd/mとして連続駆動し、経過時間に対する輝度の変化を調べた。
これらの結果を図12~15に示す。
【0298】
図12~15から以下のことがわかった。
比較例3は、基板上に陽極が形成された、いわゆる順構造の有機EL素子を一般的な作り方で作製したものであり、電子輸送材料であるC60上に電子注入材料であるLiFを蒸着し、素子を作製している。LiF等アルカリ金属は電子注入性に優れるものの、例えばLiイオンとして素子内に拡散し、その拡散がOLEDの安定性を低下させることが広く知られている。
一方、実施例4ではC60とLiFの間に化合物1の超薄膜を挿入している。化合物1を挿入したことで駆動電圧の増加は観測されず、比較例3とほぼ同等の初期特性が得られている。一方、駆動寿命には大きな差が観測され、実施例4の方が大幅に長い寿命が得られていることがわかる。また、C60と化合物1を混合して電子輸送層を形成した実施例5でも、比較例3と比べ大幅に寿命が長いことがわかった。
したがって、化合物1はアルカリ金属を用いたOLEDの長寿命化にも有効であることがわかった。
【0299】
「比較例4」
[工程2-1]において、C60の代わりに下記式(33)のTmPyPBを用いて真空蒸着法により電子輸送層10を形成したこと以外は比較例3と同様にして、図9に示す構造の比較例4の有機EL素子を作製した。
【0300】
「実施例6」
[工程2-2]において、C60の代わりに下記式(33)のTmPyPBを用いて真空蒸着法により電子輸送層10を形成したこと以外は実施例4と同様にして、図10に示す構造の実施例6の有機EL素子を作製した。
【0301】
【化39】
【0302】
このようにして得られた比較例4の素子および実施例6の素子に対して、実施例1の素子と同様の方法により、印加電圧と輝度の関係、印加電圧と電流密度の関係を調べ、電流密度と外部量子効率との関係を算出した。また、実施例4の素子等と同様の方法により、初期輝度を1000cd/mとして連続駆動し、経過時間に対する輝度の変化を調べた。
これらの結果を図16~19に示す。
【0303】
図16~19から以下のことがわかった。
実施例6および比較例4は、C60を用いた実施例4と比較例3と同様の比較を、電子輸送層にTmPyPBを用いて行ったものである。
実施例6ではTmPyPBとLiFの間に化合物1の超薄膜を挿入した一方、比較例4では比較例3同様に一般的な構造で素子を作製した。化合物1を挿入したことで駆動電圧の増加は観測されず、比較例4とほぼ同等の初期特性が得られている。一方、駆動寿命には大きな差が観測され、実施例6の方が大幅に長い寿命が得られていることがわかる。
したがって、化合物1は電子輸送層の材料として有機化合物を用いたOLEDの長寿命化にも有効であることがわかった。
【0304】
「実施例7」
以下の方法により、図20に示す実施例7の有機EL素子を作製した。
[工程1]、[工程2]
実施例1、2の[工程1][工程2]と同様にして、基板2の陰極3上に膜厚7nmの酸化亜鉛層(酸化物層4)を作製した。
[工程3]
続いて、TmPPyTz中に化合物1を10重量%ドープした膜厚10nmの電子注入層5を真空蒸着法により成膜した。次に真空蒸着法により、Zn(BTZ)2中にIr(piq)3を6重量%ドープした層からなる厚み25nmの発光層6を成膜し、a-NPDからなる厚み50nmの正孔輸送層7を形成し、HAT-CNからなる厚み10nmの正孔注入層8を形成した。さらに、真空蒸着法によりアルミニウムからなる膜厚100nmの陽極9を成膜した。
【0305】
「比較例5」
[工程3]において、電子注入層5を真空蒸着法により成膜した膜厚10nmのTmPPyTz膜としたこと以外は、実施例7と同様にして比較例5の有機EL素子を作製した。
【0306】
このようにして得られた実施例7及び比較例5の素子に対して、実施例1の素子と同様の方法で、印加電圧と輝度の関係を調べた。また、ケースレー社製の「2400型ソースメーター」を用いて電圧を印加し、コニカミノルタ社製の「LS-100」を用いて輝度を測定し、初期輝度を1000cd/mとして連続駆動し、経過時間に対する輝度の変化を調べた。
これらの結果を図21、22に示す。
【0307】
図21からわかるように、実施例7の素子の方が低電圧で駆動できていることから、逆構造OLED内に蒸着で化合物1をドープした電子注入層を形成した場合にも、本発明の効果が得られることが確認できた。また図22からわかるように、この素子は駆動寿命も長いことが確認された。
【符号の説明】
【0308】
1:有機EL素子、2:基板、3:陰極、4:酸化物層、5:電子注入層、6:発光層、7:正孔輸送層、8:正孔注入層、9:陽極、10:電子輸送層。
図1
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