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  • 特許-無機酸化物中空粒子の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-21
(45)【発行日】2023-03-02
(54)【発明の名称】無機酸化物中空粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/26 20060101AFI20230222BHJP
【FI】
C01B33/26
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018222776
(22)【出願日】2018-11-28
(65)【公開番号】P2020083723
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 広樹
(72)【発明者】
【氏名】三崎 紀彦
(72)【発明者】
【氏名】館山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】末松 諒一
(72)【発明者】
【氏名】増田 賢太
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-017027(JP,A)
【文献】特開2018-065078(JP,A)
【文献】特開平03-016925(JP,A)
【文献】特開2016-129880(JP,A)
【文献】特表2007-504082(JP,A)
【文献】特開2005-206436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20-39/54
C01B 33/00-33/193
C01F 1/00-17/38
C01B 13/34
C04B 35/00-35/047
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム化合物及びケイ素化合物と、アルカリ金属化合物、2族元素化合物及びホウ素化合物から選ばれる1種又は2種以上を0.01mol/Lから飽和濃度で含有する原料無機化合物含有液を1~200mL/minで噴霧装置に送液し、平均粒子径が0.5~60μmである液滴を噴霧する噴霧工程と、
噴霧液滴を熱分解し、無機酸化物中空粒子を形成する熱分解工程と、
無機酸化物中空粒子を融点以上の温度に加熱し、粒子表面を溶融する溶融工程と、
溶融した無機酸化物中空粒子を、該無機酸化物中空粒子の融点よりも50~600℃低い温度の雰囲気下で0.01~2.0秒冷却する冷却工程と、
無機酸化物中空粒子を回収する回収工程
を含む、無機酸化物中空粒子の製造方法。
【請求項2】
全ての前記工程を一つの装置内で連続的に行う、請求項1記載の無機酸化物中空粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機酸化物中空粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中空粒子は、例えば、超音波噴霧装置やノズルを用いて加熱炉内に原料溶液を噴霧し、液滴に熱を加えて熱分解する噴霧熱分解法により製造することができる。このようにして得られた中空粒子は、粒子内部に空隙が存在するため、非中空粒子に比べて軽量性、低誘電特性、断熱・遮熱性、遮音性等の特性に優れることから、電子材料、建築材料、塗料又は樹脂のフィラーとして広く普及している。例えば、電子材料の分野においては、体積平均粒子径、最大粒子径、空隙率、BET比表面積及び純度を特定範囲内に制御することにより、高強度かつ微細で、低誘電特性に優れ、多層プリント基板等の電子材料の製造原料として有用な中空シリカ粒子が得られるとの報告がある(特許文献1)。また、建築材料の分野においては、外径、中空径及び皮の厚さを特定範囲内に制御することにより、高強度で熱遮熱性に優れ、道路用骨材として有用なセラミックス厚皮中空粒子が得られることが報告されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-136363号公報
【文献】特開2014-141371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、高強度の無機酸化物中空粒子が種々提案されているが、無機酸化物中空粒子を樹脂等と混練すると割れることがあり、フィラーとしての効果が低下するため、より高強度の無機酸化物中空粒子が望まれている。一方、無機酸化物中空粒子の強度を増大させる方法として、粒子密度の増加が考えられるが、中空率が低下するため、無機酸化物中空粒子の軽量性が損なわれやすい。そのため、軽量性を維持したまま、強度の高い無機酸化物中空粒子が求められている。
本発明の課題は、軽量性を維持したまま、高強度を有する無機酸化物中空粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、噴霧熱分解法の工程について種々検討した結果、原料無機化合物含有液を噴霧し液滴を熱分解して無機酸化物中空粒子を形成し、無機酸化物中空粒子を所定の温度に加熱して粒子表面を溶融させた後、軟化状態の無機酸化物中空粒子を所定の温度の雰囲気下にて冷却することで、軽量性を維持したまま、高強度の中空粒子を製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔4〕を提供するものである。
〔1〕原料無機化合物含有液の液滴を噴霧する噴霧工程と、
噴霧液滴を熱分解し、無機酸化物中空粒子を形成する熱分解工程と、
無機酸化物中空粒子を融点以上の温度に加熱し、粒子表面を溶融する溶融工程と、
溶融した無機酸化物中空粒子を、該無機酸化物中空粒子の融点よりも50~600℃低い温度の雰囲気下で冷却する冷却工程と、
無機酸化物中空粒子を回収する回収工程
を含む、無機酸化物中空粒子の製造方法。
〔2〕前記冷却工程の冷却時間が、0.01~2.0秒である、〔1〕記載の無機酸化物中空粒子の製造方法。
〔3〕全ての前記工程を一つの装置内で連続的に行う、〔1〕又は〔2〕記載の無機酸化物中空粒子の製造方法。
〔4〕前記原料無機化合物が、アルミニウム化合物、ケイ素化合物、アルカリ金属化合物、2族元素化合物、4族元素化合物及びホウ素化合物から選ばれる1種又は2種以上である、〔1〕~〔3〕のいずれか一に記載の無機酸化物中空粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、軽量性を維持したまま、高強度を有する無機酸化物中空粒子を簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の製造方法が適用可能な噴霧熱分解装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図示の便宜上、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致しない。
【0010】
本発明の無機酸化物中空粒子の製造方法は、噴霧工程と、熱分解工程と、溶融工程と、冷却工程と、回収工程を含むものである。ここで、本明細書において「中空粒子」とは、中空室を区画する殻を有する粒子をいい、単なる多孔質とは異なる。
図1は、本発明の製造方法が適用可能な噴霧熱分解装置の一例を示す模式図であり、噴霧熱分解装置10は、全ての前記工程を一つの装置内で連続的に行うことができるため、製造効率に優れ、本発明の製造方法を好適に適用することができる。
【0011】
噴霧熱分解装置10は、図1に示されるように、原料無機化合物含有液の噴霧液滴を熱分解し溶融するための反応ゾーンを有する加熱炉1を備えている。加熱炉1の下方には、前記液を噴霧するための噴霧装置2と、前記液を加熱するための加熱装置3が設置されている。噴霧装置2には、前記液を収容するための貯留槽4と、前記液を貯留槽4から噴霧装置2に圧送するための送液ポンプ5が配管を介して連結されている。加熱炉1の上方には、加熱炉1の出口と連結した、軟化状態の無機酸化物中空粒子を冷却するための冷却装置6を備えており、加熱炉1の出口と冷却装置6内にはそれぞれ熱電対7が設置されている。冷却装置6の下流側には、無機酸化物中空粒子を回収するための回収装置8とファン9が設けられている。
【0012】
以下、本発明の無機酸化物中空粒子の製造方法の各工程について詳細に説明する。
〔噴霧工程〕
噴霧工程は、原料無機化合物含有液の液滴を噴霧する工程である。
図1に示される噴霧熱分解装置10においては、貯留槽4に収容された原料無機化合物含有液を送液ポンプ5により噴霧装置2へ圧送し、噴霧装置2から原料無機化合物含有液の液滴を噴霧する。
【0013】
原料無機化合物としては、無機酸化物を構成する元素を含有し、水等の溶媒に溶解する化合物であれば特に限定されないが、例えば、アルミニウム化合物、ケイ素化合物、アルカリ金属化合物、2族元素化合物、4族元素化合物、ホウ素化合物等を挙げることができる。原料無機化合物は、1種又は2種以上使用することができる。
【0014】
アルミニウム化合物、ケイ素化合物としては、中空粒子を形成したときの組成が酸化物となる無機化合物であればよい。例えば、アルミニウム化合物としては、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、アルミニウムイソプロポキシド等の無機化合物が挙げることができる。ケイ素化合物としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、オルトケイ酸テトラエチル、シリカゾル等を挙げることができる。耐熱性、無気孔化の点から、アルミニウム化合物及びケイ素化合物を併用することが好ましい。その場合、ケイ素化合物の使用量は、中空粒子を形成したときの組成中のケイ素酸化物の割合が、アルミニウム酸化物1モルに対して2モル以上となる量が好ましく、より好ましくは2~60モル、更に好ましくは2~10モルである。
【0015】
アルカリ金属化合物としては、中空粒子を形成したときの組成が酸化物となる無機化合物であればよく、例えば、ナトリウム化合物、カリウム化合物、ルビジウム化合物、セシウム化合物等を挙げることができる。アルカリ金属化合物の使用量は、中空粒子を形成したときの組成中のアルカリ金属酸化物の割合が、アルミニウム酸化物1モルに対して0~40モルとなる量が好ましく、より好ましくは0~30モル、更に好ましくは0.01~20モル、殊更に好ましくは1~10モルである。
【0016】
2族元素化合物としては、中空粒子を形成したときの組成が酸化物となる無機化合物であればよく、例えば、カルシウム化合物、ストロンチウム化合物、バリウム化合物、ラジウム化合物等を挙げることができる。2族元素化合物の使用量は、中空粒子を形成したときの組成中の2族元素酸化物の割合が、アルミニウム酸化物1モルに対して0~40モルとなる量が好ましく、より好ましくは0~30モル、更に好ましくは0.01~20モル、殊更に好ましくは1~10モルである。
【0017】
4族元素化合物としては、例えば、チタン化合物、ジルコニウム化合物、ハフニウム化合物等を挙げることができる。4族元素化合物の使用量は、中空粒子を形成したときの組成中の4族元素酸化物の割合が、アルミニウム酸化物1モルに対して0~10モルとなる量が好ましく、より好ましくは0~5モル、更に好ましくは0.01~1モルである。
【0018】
ホウ素化合物は、四ほう酸ナトリウムが好ましい。ホウ素化合物の使用量は、中空粒子を形成したときの組成中のホウ素酸化物の割合が、アルミニウム酸化物1モルに対して0~60モルとなる量が好ましく、より好ましくは0.01~30モル、更に好ましくは1~10モルである。
【0019】
原料無機化合物としては、得られる無機酸化物中空粒子の軽量性の維持、強度向上の観点から、アルミニウム化合物、ケイ素化合物、アルカリ金属化合物、2族元素化合物、4族元素化合物及びホウ素化合物から選ばれる1種又は2種以上を含有することが好ましく、アルミニウム化合物、ケイ素化合物、アルカリ金属化合物、2族元素化合物及びホウ素化合物から選ばれる1種又は2種以上を含有することがより好ましく、アルミニウム化合物及びケイ素化合物と、アルカリ金属化合物、2族元素化合物及びホウ素化合物から選ばれる1種又は2種以上を含有することが更に好ましい。
【0020】
原料無機化合物を溶解又は分散する溶媒としては、例えば、水、有機溶媒等を挙げることができる。中でも、環境への影響、製造コストの点から、水が好ましい。
【0021】
原料無機化合物含有液の濃度は各元素の総量として、得られる無機酸化物中空粒子の密度、強度等を考慮し、0.01mol/L~飽和濃度が好ましく、0.1mol/L~2.0mol/Lがより好ましい。なお、原料無機化合物含有液の濃度を高くすれば、得られる無機酸化物中空粒子の粒子径が大きくなるため、粒子径の大きい中空粒子を得るためには原料無機化合物含有液の濃度を0.3~1.5mol/Lとするのが好ましい。
【0022】
噴霧装置としては一般的な液滴を形成できれば特に限定されないが、例えば、ノズル、超音波式噴霧装置等を挙げることができる。噴霧装置は、1基又は2基以上設置することが可能である。中でも、生産性の観点から、ノズルが好ましい。ノズルとしては、例えば、2流体ノズル、3流体ノズル、4流体ノズル等を挙げることができる。なお、ノズルの方式には、空気と被噴霧液体とをノズル内部で混合する内部混合方式と、ノズル外部で空気と被噴霧液体を混合する外部混合方式があるが、いずれも採用できる。
【0023】
噴霧装置への原料無機化合物含有液の送液量は、得られる無機酸化物中空粒子の軽量性の維持、強度向上、生産性の観点から、1~200mL/minが好ましく、2~100mL/minがより好ましく、3~80mL/minが更に好ましい。
【0024】
液滴の平均粒子径は、0.5~60μmが好ましく、1~20μmがより好ましく、1~15μmが更に好ましい。なお、液滴の平均粒子径は、ノズル噴霧口の形状や空気の圧力によって調整することが可能である。
【0025】
〔熱分解工程〕
熱分解工程は、噴霧液滴を熱分解し、無機酸化物中空粒子を形成する工程である。
図1に示される噴霧熱分解装置10においては、加熱炉1下方の噴霧装置2が上向きに原料無機化合物含有液の液滴を噴霧するように配置されており、上向きに噴霧された液滴は加熱装置3により加熱され、原料無機化合物含有液の液滴から溶媒が蒸発し、液滴粒子表面に無機塩が析出して粒子内部に空隙が形成される。更に、熱を加えることで熱分解し、無機塩が酸化され無機酸化物中空粒子が形成される。
【0026】
加熱炉の形状は、加熱炉内に旋回流を発生させることができる点で、堅型円筒状が好ましい。加熱炉の大きさは、製造スケールにより適宜選択することができる。
【0027】
加熱装置は、電気抵抗熱による輻射熱やガスバーナーによる火炎を熱源とした直接加熱、また熱風等の直接加熱が挙げられる。具体的には、燃焼バーナー、熱風ヒータ、電気ヒータ等を挙げることができる。中でも、燃焼バーナーが好ましい。加熱装置は、1基又は2基以上設置することが可能である。なお、燃焼バーナー、熱風ヒータ及び電気ヒータは、一般的に販売されているものあれば、いずれも使用することができる。
【0028】
加熱装置の温度は、噴霧液滴から溶媒が蒸発する温度であれば特に限定されないが、加熱炉内で粒子が析出する必要性から、室温~1500℃の範囲内であって、0.1秒から1分程度で当該蒸発及び析出が生じる温度が好ましい。加熱装置の温度は、好ましくは100~1200℃であり、更に好ましくは150~1000℃である。
【0029】
〔溶融工程〕
溶融工程は、無機酸化物中空粒子を融点以上の温度に加熱し、粒子表面を溶融する工程である。これにより、無機酸化物中空粒子の表面が溶融され、表面に存在する孔が閉塞する。
図1に示される噴霧熱分解装置10においては、無機酸化物中空粒子の表面を溶融するために、例えば、加熱炉1内の反応ゾーンの温度が噴霧装置2の設置位置から加熱炉1の出口方向に向かって順に高くなるように加熱装置を複数基設けることができる。この場合、加熱装置は、加熱炉1の炉芯管の外周に設ければよい。これにより、加熱炉1の反応ゾーンを、熱分解ゾーン及び溶融ゾーンに区画することができる。
【0030】
溶融ゾーンの加熱装置としては、熱分解工程の加熱装置と同様に、電気式又はガス式の加熱方式を採用することができる。例えば、燃焼バーナー、熱風ヒータ、電気ヒータを1基又は2基以上設置することができる。なお、燃焼バーナー、熱風ヒータ及び電気ヒータは、一般的に販売されているものあれば、いずれも使用することができる。
【0031】
加熱装置の温度は、無機酸化物中空粒子の融点以上の温度であれば特に限定されず、無機酸化物中空粒子の種類により適宜設定することができる。溶融により無機酸化物中空粒子表面の孔を効率よく閉塞させる点から、無機酸化物中空粒子の融点よりも50℃以上高い温度が好ましく、100℃以上高い温度がより好ましく、150℃以上高い温度が更に好ましい。なお、経済性の点から、1500℃以下が好ましい。
また、溶融温度が600~1200℃と低い無機酸化物であれば、加熱炉の反応ゾーンのうち熱分解ゾーンと溶融ゾーンの加熱温度を同じ温度に設定してもよい。
【0032】
〔冷却工程〕
冷却工程は、溶融した無機酸化物中空粒子を、該無機酸化物中空粒子の融点よりも50~600℃低い温度の雰囲気下で冷却する工程である。冷却工程において、溶融工程で軟化した無機酸化物中空粒子が融点よりも低い温度に速やかに冷却されるため、軽量性を維持したまま、高強度の無機酸化物中空粒子となる。
【0033】
無機酸化物中空粒子の冷却方法は、無機酸化物中空粒子を急速かつ均一に冷却できれば特に限定されないが、例えば、気体を加熱炉内外に導入する空冷方式、水を噴霧する水冷方式等が挙げられる。無機酸化物中空粒子の冷却方法は、無機酸化物中空粒子を融点よりも低い温度に速やかに冷却できれば、直接、間接問わず、いずれでも構わない。
【0034】
図1に示される噴霧熱分解装置10においては、噴霧熱分解装置10の加熱炉1の反応ゾーンの出口と、回収装置8への配管曲がり部の間に冷却装置6が設置されている。無機酸化物中空粒子の温度を管理するために、加熱炉1の出口と、冷却装置6内にそれぞれ熱電対7が設置され、加熱炉1の出口を通過した無機酸化物中空粒子の温度を取得し、取得した温度に基づいて、冷却装置6内へ吹き込む気体量や気体温度を制御することにより、冷却装置6内の雰囲気温度が無機酸化物中空粒子の融点よりも50~600℃低い温度となるように調整される。
【0035】
冷却装置内への気体の吹き込みは、例えば、加熱炉の出口付近に気体導入口を設け、この導入口に気体を冷却装置に向かって送り込めばよい。また、ノズルを使用して気体や水を送り込んでもよい。気体導入口やノズルは、1基又は2基以上設置してもよく、噴霧熱分解装置のスケールに応じて適宜設定することができる。
また、気体導入口やノズルの設置角度は、冷却装置に対して垂直でも、所定の角度を設けてもよく、適宜選択することができる。
気体としては、空気でも、不活性ガスでもよく、適宜選択することができる。
気体の温度は、無機酸化物中空粒子を速やかに所望の温度に冷却できれば特に限定されず、室温でも、室温以下に冷却してもよい。
気体の流量は、無機酸化物中空粒子を所望の温度に冷却し、かつ加熱炉の出口から回収装置8への配管方向へ無機酸化物中空粒子を移送できれば特に限定されないが、好ましくは400L/min以上であり、より好ましくは600L/min以上であり、更に好ましくは700L/min以上であり、また冷却効率の観点から、好ましくは3000L/min以下であり、より好ましくは2500L/min以下であり、更に好ましくは2000L/min以下である。気体の流量の範囲としては、好ましくは400~3000L/minであり、より好ましくは600~2500L/minであり、更に好ましくは700~2000L/minである。
【0036】
冷却時間は、得られる無機酸化物中空粒子の軽量性の維持、強度向上の観点から、好ましくは0.01秒以上であり、より好ましくは0.05秒以上であり、更に好ましくは0.1秒以上であり、また冷却効率の観点から、好ましくは2.0秒以下であり、より好ましくは1.5秒以下であり、更に好ましくは1.0秒以下である。冷却時間の範囲としては、好ましくは0.01~2.0秒であり、より好ましくは0.05~1.5秒であり、更に好ましくは0.1~1.0秒である。
【0037】
〔回収工程〕
回収工程は、冷却工程後の無機酸化物中空粒子を回収する工程である。これにより、軽量性を維持したまま、高強度の無機酸化物中空粒子を得ることができる。
無機酸化物中空粒子の回収には、粉体捕集装置を用いることができる。粉体捕集装置は、一般的に販売されているものであれば、いずれも使用することができるが、例えば、バグフィルターやサイクロン捕集装置等が挙げられる。また、無機酸化物中空粒子の回収にあたっては、フィルターを通過させることにより粒子径の調整をすることもできる。
図1に示す噴霧熱分解装置においては、回収装置8として、バグフィルターが設置されている。
【0038】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では、噴霧乾燥装置10は、図1に示されるように、噴霧装置2が加熱炉1の下部に設置されているが、加熱炉の上部に設置されていても構わない。また、噴霧乾燥装置10は、噴霧装置2、加熱炉1、冷却装置6の順に並んでいれば、縦型に限らず、横型や斜め型であってもよい。
また、本発明においては、無機酸化物中空粒子の軽量性の維持、高強度向上、生産効率の観点から、前述した噴霧工程、熱分解工程、溶融工程、冷却工程及び回収工程を一つの装置内で連続的に行うことが好ましい。
【0039】
本発明の方法により製造される無機酸化物中空粒子は、以下の特性を具備することができる。
無機酸化物中空粒子の平均粒子径は、通常0.5~50μmであり、好ましくは0.5~20μmであり、更に好ましくは1~10μmである。ここで、本明細書において「平均粒子径」とは、JIS R 1629に準拠して試料の粒度分布を体積基準で作成したときに積算分布曲線の50%に相当する粒子径(d50)を意味する。なお、粒子径分布測定装置として、例えば、マイクロトラック(日機装株式会社製)を使用することができる。
【0040】
無機酸化物中空粒子の粒子密度は、通常0.1~2.5g/cm3であり、好ましくは0.2~1.0g/cm3であり、更に好ましくは0.3~0.6g/cm3である。ここで、本明細書において「粒子密度」とは、JIS R 1620に準拠して気体置換法により測定した値をいう。粒子密度測定装置として、例えば、乾式自動密度計「アキュピック(島津製作所製)」を使用することができる。
【0041】
無機酸化物中空粒子の50%残存強度は、通常1~1000MPaであり、好ましくは2~250MPaであり、より好ましくは5~50MPaであり、更に好ましくは12~30MPaである。ここで、本明細書において「50%残存強度」とは、粉体加圧法により測定した値をいい、具体的には後掲の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0042】
また、無機酸化物中空粒子は、形状がほぼ球状(平均円形度0.85以上)であり、かつ殻の厚みが4500nm以下のものが好ましい。 ここで、「円形度」は、走査型電子顕微鏡写真から粒子の投影面積(A)と周囲長(PM)を測定し、周囲長(PM)に対する真円の面積を(B)とすると、その粒子の円形度はA/Bとして表される。そこで、試料粒子の周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円の周囲長および面積は、それぞれPM=2πr、B=πr2であるから、B=π×(PM/2π)2となり、この粒子の円形度は、円形度=A/B=A×4π/(PM)2として算出される。100個の粒子について円形度を測定し、その平均値でもって平均円形度とする。なお、本発明の酸化物中空粒子は、各種フィラーとして混合したときの分散性、混合性など点から、平均円形度は、0.85以上、好ましくは0.90以上である。
【0043】
無機酸化物中空粒子の殻の厚みは、通常4500nm以下であり、好ましくは1~2000nmであり、より好ましくは10~500nmであり、更に好ましくは50~350nmである。なお、殻の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)像から測定できる。
【実施例
【0044】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0045】
1.融点の測定
無機酸化物中空粒子の融点は、JIS M 8801に準拠し、酸化性雰囲気にて測定した。
【0046】
2.平均粒子径の測定
無機酸化物中空粒子の平均粒子径は、粒子径分布測定装置としてマイクロトラック(日機装株式会社製)を使用し、JIS R 1629に準拠して体積基準の粒度分布を作成し、積算分布曲線の50%に相当する粒子径(d50)を求めた。
【0047】
3.粒子密度の測定
無機酸化物中空粒子の粒子密度は、JIS R 1620に準拠して乾式自動密度計「アキュピック(島津製作所製)」により測定した。
【0048】
4.粒子強度の測定
粒子強度は、次の粉体加圧法により測定した。
(1)無機酸化物中空粒子とエタノールとを重量比4:1で混合し、試料を調製した。
(2)試料を圧力成形器に入れ、油圧プレス機で所定の圧力(10MPa,20MPa,30MPa)を印加した。
(3)所定の圧力を印加した状態で1分間静置した。
(4)圧力成形器から試料を取り出し、80℃で2時間乾燥した。
(5)密度測定機(アキュピック,島津製作所製)で、加圧後の無機酸化物中空粒子の密度を測定した。
【0049】
そして、加圧前後の無機酸化物中空粒子の密度から、下記式により、所定圧力ごとの残存率を算出し、残存率と印加圧力のグラフより、50%残存時の圧力を読み取った。
【0050】
残存率P[%]=(1-ρ/y)/ρ×(1/x-1/y)×100
【0051】
〔式中、ρは、加圧後の密度を示し、yは、中空殻の真密度を示し、xは、加圧前の密度を示す。〕
なお、中空殻の真密度は、空隙部分を取り除くために、箱型電気炉にて融点以上で6時間加熱、冷却した後、密度測定機で測定した。
【0052】
実施例1
図1に示す噴霧熱分解装置を用いて無機酸化物中空粒子の製造を行った。この噴霧熱分解装置は、長さ3000mm、内径300mmである炉芯管とその外周にヒータを有する加熱炉と、その下流に回収装置を備え、加熱炉の反応ゾーンの出口と、回収装置側の配管曲がり部との間に空冷による冷却装置を設置した。冷却装置内に熱電対Aを設置し、加熱炉の反応ゾーン出口に熱電対Bを設置した。また、加熱炉の出口付近に気体導入口を設け、この導入口から冷却装置に向かって空気を吹き込む機構を設けた。
原料無機化合物(コロイダルシリカ、オルトケイ酸テトラエチル、硝酸アルミニウム九水和物、硝酸マグネシウム六水和物、硝酸カルシウム四水和物、四ほう酸ナトリウム十水和物)を蒸留水30リットル中に、表1に示すモル比になるように溶解し、原料無機化合物含有液を調製した。原料無機化合物含有液を貯留槽に投入し、貯留槽から原料無機化合物含有液を送液ポンプで2流体ノズルに送液してミスト状に噴霧し、加熱炉の反応ゾーン内(1000℃)で加熱した。なお、2流体ノズルの運転条件は、ノズルエアー量を100L/min、送液量を67mL/minとした。反応ゾーン出口付近に設けた気体導入口から25℃の空気を880L/minの速度で冷却装置内に向かって吹き込み、冷却装置内にて軟化状態の無機酸化物中空粒子を急冷し、その後バグフィルターを用いて無機酸化物中空粒子を回収した。なお、反応ゾーン出口付近の温度(熱電対A)は1000℃であり、冷却装置内の雰囲気温度(熱電対B)は798℃であった。無機酸化物中空粒子の製造条件及び分析結果を表2に示す。なお、表2中、冷却時間とは、冷却装置内を無機酸化物中空粒子が通過した時間である。
【0053】
【表1】
【0054】
実施例2
反応ゾーン出口付近に設けた導入口から25℃の空気を1680L/minの速度で冷却装置内に向かって吹き込み、冷却装置内の雰囲気温度(熱電対B)を260℃に調整したこと以外は、実施例1と同様の操作により無機酸化物中空粒子を製造した。無機酸化物中空粒子の製造条件及び分析結果を表2に示す。
【0055】
比較例1
反応ゾーン出口付近に設けた導入口から空気の吹き込みを行わなかったこと以外は、実施例1と同様の操作により無機酸化物中空粒子を製造した。なお、冷却装置内の雰囲気温度(熱電対B)は964℃であった。無機酸化物中空粒子の製造条件及び分析結果を表2に示す。
【0056】
比較例2
反応ゾーン出口付近に設けた導入口から25℃の空気を320L/minの速度で冷却装置内に向かって吹き込み、冷却装置内の雰囲気温度(熱電対B)を887℃に調整したこと以外は、実施例1と同様の操作により無機酸化物中空粒子を製造した。無機酸化物中空粒子の製造条件及び分析結果を表2に示す。
【0057】
比較例3
反応ゾーン出口付近に設けた導入口から25℃の空気を2050L/minの速度で冷却装置内に向かって吹き込み、冷却装置内の雰囲気温度(熱電対B)を235℃に調整したこと以外は、実施例1と同様の操作により無機酸化物中空粒子を製造した。無機酸化物中空粒子の製造条件及び分析結果を表2に示す。なお、無機酸化物中空粒子の一部がひび割れたため、粒子強度の測定を断念した。
【0058】
【表2】
【0059】
表2から、溶融により軟化状態の無機酸化物中空粒子を、該無機酸化物中空粒子の融点よりも50~600℃低い温度の雰囲気下で速やかに冷却することで、軽量性を維持したまま、高強度を有する無機酸化物中空粒子を製造できることがわかる。
【符号の説明】
【0060】
1 加熱炉
2 噴霧装置
3 加熱装置
4 貯留槽
5 送液ポンプ
6 冷却装置
7 熱電対
8 回収装置
9 ファン
10 噴霧熱分解装置
図1