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  • 特許-太陽電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-21
(45)【発行日】2023-03-02
(54)【発明の名称】太陽電池
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/50 20230101AFI20230222BHJP
   H10K 30/40 20230101ALI20230222BHJP
   H10K 30/85 20230101ALI20230222BHJP
   H10K 30/86 20230101ALI20230222BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/40
H10K30/85
H10K30/86
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018233195
(22)【出願日】2018-12-13
(65)【公開番号】P2019134159
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2018016571
(32)【優先日】2018-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術開発/革新的新構造太陽電池の研究開発」委託研究産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【弁理士】
【氏名又は名称】梶谷 美道
(74)【代理人】
【識別番号】100125922
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 章子
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(74)【代理人】
【識別番号】100188813
【弁理士】
【氏名又は名称】川喜田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100184985
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 成康
(72)【発明者】
【氏名】松井 太佑
(72)【発明者】
【氏名】根上 卓之
(72)【発明者】
【氏名】関口 隆史
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/015831(WO,A1)
【文献】特表2016-539914(JP,A)
【文献】国際公開第2017/073472(WO,A1)
【文献】特開2017-126731(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104218109(CN,A)
【文献】BI, Dongqin et al.,HIGH-EFFICIENT SOLID-STATE PEROVSKITE SOLAR CELL WITHOUT LITHIUM SALT IN THE HOLE TRANSPORT MATERIAL,Nano,2014年06月05日,Vol. 9, No. 5,pp. 1440001-1 - 1440001-7,DOI: 10.1142/S1793292014400013
【文献】GIORDANO, Fabrizio et al.,Enhanced electronic properties in mesoporous TiO2 via lithium doping for high-efficiency perovskite solar cells,Nature Communications,2016年01月13日,Vol. 7, Article number: 10379,pp. 1-6,DOI: 10.1038/ncomms10379
【文献】LIU, Detao et al.,Efficient planar heterojunction perovskite solar cells with Li-doped compact TiO2 layer,Nano Energy,2016年11月16日,Vol. 31,pp. 462-468,DOI: 10.1016/j.nanoen.2016.11.028
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-30/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池であって、
第1電極、
第2電極、
前記第1電極および前記第2電極の間に位置する光吸収層、
前記第1電極および前記光吸収層の間に位置する第1半導体層、および
前記第2電極および前記光吸収層の間に位置する第2半導体層
を具備し、
ここで、
前記第1電極および前記第2電極からなる群から選択される少なくとも一方の電極は、透光性を有し、
前記光吸収層は、組成式AMXで表されるペロブスカイト化合物を含有し、
Aは1価のカチオンを表し、
Mは2価のカチオンを表し、かつ
Xはハロゲンアニオンを表し、
前記第1半導体層は、Liを含有し、
前記第2半導体層は、LiN(SOCFを含有し、
前記第2半導体層は、ポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリフェニルメチル)アミン]を含有し、かつ
前記第2半導体層において、LiN(SOCFのポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリフェニルメチル)アミン]に対するモル比は、0.15以上0.26以下である、
太陽電池。
【請求項2】
前記第1半導体層はTiOを主に含む、
請求項1に記載の太陽電池。
【請求項3】
前記第1半導体層における、LiのTiに対するモル比は、0.02以上である、
請求項2に記載の太陽電池。
【請求項4】
前記第1半導体層における、LiのTiに対する前記モル比は、0.06以下である、
請求項3に記載の太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、太陽電池に関する。本開示は、特に、光吸収材料としてペロブスカイト型結晶を用いる太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ペロブスカイト太陽電池の研究開発が進められている。ペロブスカイト太陽電池は、光吸収材料として、AMX(Aは1価のカチオン、Mは2価のカチオン、Xはハロゲンアニオン)で示されるペロブスカイト型結晶、およびその類似の構造体(以下、「ペロブスカイト化合物」と呼ぶ)を用いている。
【0003】
非特許文献1には、ペロブスカイト太陽電池の光吸収材料として、CHNHPbI(以下、「MAPbI」と省略することがある)で示されるペロブスカイト化合物を用い、電子輸送材料としてTiO、正孔輸送材料としてPTAAを用いた太陽電池が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Dongqin Bi et. al., "HIGH-EFFICIENT SOLID-STATE PEROVSKITE SOLAR CELL WITHOUT LITHIUM SALT IN THE HOLE TRANSPORT MATERIAL", NANO, Brief Reports and Reviews Vol. 9, No. 5 (2014) 1440001 (7 pages)
【文献】Woon Seok Yang et. al., "High-performance photovoltaic perovskite layers fabricated through intramolecular exchange" Science, 12 Jun 2015, Vol. 348, Issue 6240, pp. 1234-1237
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の目的は、高い変換効率を有し、かつ高い耐久性を有するペロブスカイト太陽電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、第1電極、
第2電極、
前記第1電極および前記第2電極の間に位置する光吸収層、
前記第1電極および前記光吸収層の間に位置する第1半導体層、および
前記第2電極および前記光吸収層の間に位置する第2半導体層
を具備し、
ここで、
前記第1電極および前記第2電極からなる群から選択される少なくとも一方の電極は、透光性を有し、
前記光吸収層は、組成式AMXで表されるペロブスカイト化合物を含有し、
Aは1価のカチオンを表し、
Mは2価のカチオンを表し、かつ
Xはハロゲンアニオンを表し、
前記第1半導体層は、Liを含有し、
前記第2半導体層は、LiN(SOCFを含有し、
前記第2半導体層は、ポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリフェニルメチル)アミン]を含有し、かつ
前記第2半導体層において、LiN(SOCFのポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリフェニルメチル)アミン]に対するLiN(SOCFのモル比は、0.15以上0.26以下である、
太陽電池を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本開示は、高い変換効率を有し、かつ高い耐久性を有する太陽電池を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態の太陽電池の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<本開示の基礎となった知見>
本開示の基礎となった知見は以下のとおりである。
【0010】
ペロブスカイト太陽電池では、正孔輸送材料に添加剤を加えることで、正孔輸送材料の導電率を高めることができる。その結果、ペロブスカイト太陽電池の変換効率を向上できる。正孔輸送材料の添加剤として、例えば、LiN(SOCF(以下、「LiTFSI」)が広く用いられている。
【0011】
しかしながら、正孔輸送材料に添加剤を加えて正孔輸送材料の導電率を高める場合、ペロブスカイト太陽電池を長期間、太陽光に照射すると、添加剤が熱拡散によって正孔輸送材料から他の材料に移動してしまう可能性がある。その結果、ペロブスカイト太陽電池の発電性能が低下する可能性がある。
【0012】
本発明者は、正孔輸送材料の添加剤としてLiTFSIを含むペロブスカイト太陽電池を85℃程度の高温条件下に放置すると、ペロブスカイト太陽電池の開放電圧(Voc)および形状因子(FF)が大きく低下するために加熱後の変換効率/初期変換効率の値(後述される実施例では、維持率という)が低下するという技術的問題を見出した。本発明者らは、この問題は以下のようにして引き起こされたと考えている。まず、高温下でペロブスカイト太陽電池が放置されると、LiTFSIが正孔輸送材料中から電子輸送材料へと拡散する。その結果、正孔輸送材料の導電率が低下する。また、電子輸送材料およびペロブスカイト発電層の界面における電荷取り出し効率も低下する。
【0013】
この問題を解決するため、本発明者は、電子輸送材料に予めLiを含有させることで、正孔輸送材料に添加されたLiTFSIの電子輸送材料側への拡散を抑制できることを見出した。これにより、LiTFSIの熱拡散に起因する正孔輸送材料の導電率の低下が抑制される。従って、ペロブスカイト太陽電池の耐久性を高めることができる。
【0014】
また、電子輸送材料に予めLiを含有させることで、太陽電池の耐久性を確保しつつ、正孔輸送材料に従来よりも高い濃度でLiTFSIを添加できる。LiTFSIの高濃度の添加は、ペロブスカイト太陽電池のさらなる高効率化を図ることが可能になる。これにより、本実施形態のペロブスカイト太陽電池は、高い耐久性および高い変換効率を有する。
【0015】
(略語の説明)
本明細書において用いられる用語「FA または「FAとは、化学式CH(NH により表されるホルムアミジニウムカチオンを意味する。例えば、FAIは、化学式CH(NHIにより表されるヨウ化ホルムアミジニウムを意味する。
【0016】
本明細書において用いられる用語「MA または「MAとは、化学式CHNH により表されるメチルアンモニウムカチオンを意味する。例えば、MAPbIは、化学式CHNHPbIにより表されるヨウ化鉛メチルアンモニウムを意味する。
【0017】
本明細書において用いられる用語「LiTFSI」は、化学式LiN(SOCFにより表されるビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムを意味する。
【0018】
本明細書において用いられる用語「PTAA」は、ポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリメチルフェニル)アミン]を意味する。
【0019】
本明細書において用いられる用語「光吸収材料」は、光を電気エネルギーに変換することができる光電変換材料を意味する。
【0020】
(実施形態)
図1は、実施形態の太陽電池100の断面図を示す。
【0021】
本実施形態の太陽電池100は、第1電極2、第1半導体層3、光吸収層5、第2半導体層6、および第2電極7を備える。光吸収層5は、第1半導体層3と接する多孔質層4をさらに有していてもよい。第1電極2、第2電極7、第1半導体層3、および第2半導体層6は、それぞれ、負極、正極、電子輸送層、および正孔輸送層として機能する。
【0022】
第1電極2および第2電極7の少なくとも一方は透光性を有する。
【0023】
光吸収層5は、第1電極2および第2電極7の間に位置し、かつ組成式AMX(Aは1価のカチオン、Mは2価のカチオン、Xはハロゲンアニオン)で表されるペロブスカイト化合物を含有する。第1半導体層3および第2半導体層6は、いずれもキャリア輸送層である。第1半導体層3は、第1電極2および光吸収層5の間に位置する。第1半導体層3は、電子輸送材料およびLiを含有する。第2半導体層6は、第2電極7および光吸収層5の間に位置する。第2半導体層6は、正孔輸送材料およびLiTFSIを含有する。
【0024】
太陽電池100は、基板1を備えていてもよい。その場合、第1電極2は基板1上に位置してもよい。
【0025】
太陽電池100の基本的な作用効果を説明する。
【0026】
太陽電池100に光が照射されると、光吸収層5が光を吸収し、励起された電子および正孔を発生させる。この励起された電子は第1半導体層3に移動する。一方、光吸収層5で生じた正孔は、第2半導体層6に移動する。第1半導体層3は第1電極2に電気的に接続され、第2半導体層6は第2電極7に電気的に接続されている。これにより、負極および正極としてそれぞれ機能する第1電極2および第2電極7とから電流が取り出される。
【0027】
第1半導体層3がLiを含有することで、第1半導体層3側のLi濃度を高めている。このため、第2半導体層6に含まれるLiTFSIが第1半導体層3側へ拡散することを抑制できる。その結果LiTFSIの拡散に起因する太陽電池100の耐久性の低下を抑制できる。
【0028】
なお、従来の太陽電池では、太陽電池を動作させる前には、電子輸送層にLiは含まれていない。正孔輸送層がLiを含む場合には、前述したように、太陽電池を高温で動作させることによって、正孔輸送層から電子輸送層に向けてLiが拡散する。ただし、正孔輸送層から電子輸送層に拡散したLiカチオンは、電子輸送層を構成する材料の結晶中に取り込まれず、Li原子として電子輸送層および光吸収層の間の界面に集中的に存在し得る。これに対し、本実施形態では、第1半導体層3に予めLiが添加されている。第1半導体層3は、例えば、電子輸送材料を含有する半導体層にLiを添加した後、半導体層に熱処理を行うことで形成される。この場合、第1半導体層3において、Li原子は、電子輸送材料の結晶構造中に位置している。具体的には、Li原子は電子輸送材料の結晶の欠陥を補償するように位置する。Li原子の結合状態は、例えば、X線光電子分光法(XPS)を用いて観測することができる。XPS測定により、Li原子が電子輸送材料に含まれる原子と結合しているか否かを判断できる。
【0029】
本実施形態では、従来のペロブスカイト太陽電池の正孔輸送層よりも高い濃度でLiTFSIを第2半導体層6に添加することが可能になる。
【0030】
従来のペロブスカイト太陽電池では、正孔輸送材料に高い濃度でLiTFSIを添加することは困難であった。例えば、非特許文献1および非特許文献2には、正孔輸送材料としてPTAAを用い、かつPTAAにLiTFSIを添加することが開示されている。PTAAの繰り返しユニット(分子量285)に対するLiTFSIのモル比(以下、「PTAAに対するLiTFSIのモル比」という)は、非特許文献1では0.086、非特許文献2では0.126であり、いずれも0.15未満に抑えられている。これは、LiTFSIの添加量が多すぎると、余剰のLiTFSIが拡散し、太陽電池の耐久性を低下させる可能性があるからと考えられる。具体的には、例えば、余剰のLiTFSIが正孔輸送材料から拡散することにより、正孔輸送層の導電率が低下することが考えられる。また、例えば、拡散したLiTFSIが電子輸送層の表面に吸着し、電子輸送層への電子の注入効率が低下することが考えられる。あるいは、例えば、LiTFSI自身(またはLiTFSIに保持されている水分子)がペロブスカイト化合物と反応し、ペロブスカイト化合物が分解することが考えられる。
【0031】
これに対し、本実施形態による太陽電池においては、第2半導体層6から第1半導体層3へのLiTFSIの拡散を抑制できる。これにより、太陽電池の耐久性の低下を抑えることができる。さらに、第2半導体層6に含有されるLiTFSIの濃度をさらに増加させることができる。本実施形態による太陽電池では、第2半導体層6は正孔輸送材料としてPTAAを含有し、かつ第2半導体層6におけるPTAAに対するLiTFSIのモル比は0.15以上である。LiTFSIの濃度を増加させることで、第2半導体層6の導電率をさらに高くできる。この結果、太陽電池100の第1半導体層3側(すなわち、n側)での電子取り出し速度および第2半導体層6側(すなわち、p側)の正孔取り出し速度を高めることが可能になる。その結果、本実施形態による太陽電池は高い効率で光を電気エネルギーに変換する。このようにして、高い耐久性を確保しつつ、変換効率をより効果的に高めることが可能になる。
【0032】
本実施形態の太陽電池100は、例えば、以下の方法によって作製することができる。まず、基板1の表面に第1電極2を化学蒸着法またはスパッタ法により形成する。次に、第1電極2の上に第1半導体層3をスパッタ法によって形成する。第1半導体層3の上に、塗布法によって多孔質層4を形成する。続いて、多孔質層4の上に光吸収層5を塗布法によって形成する。この後、光吸収層5上に、塗布法によって第2半導体層6を形成する。最後に、第2半導体層6上に第2電極7を設ける。このようにして本実施形態による太陽電池100が作製される。
【0033】
以下、太陽電池100の詳細が説明される。
【0034】
<基板1>
基板1は、太陽電池100の各層を保持する。基板1は、透明な材料から形成することができる。例えば、ガラス基板またはプラスチック基板(プラスチックフィルムを含む)を用いることができる。第2電極7が透光性を有している場合には、基板1を透明でない材料を用いて形成することができる。例えば、金属、セラミックス、または光透過性の小さい樹脂材料を用いることができる。
【0035】
第1電極2が十分な強度を有している場合、第1電極2によって各層を保持することができるので、必ずしも基板1を設けなくてもよい。
【0036】
<第1電極2>
第1電極2は、透光性を有する。第1電極2は、例えば、可視光から近赤外線の光を透過する。第1電極2は、例えば、透明であり導電性を有する金属酸化物及び/又は金属窒化物を用いて形成することができる。このような材料としては、例えば、
(i) リチウム、マグネシウム、ニオブ、フッ素のうち少なくとも1種をドープした酸化チタン、
(ii) 錫、シリコンのうち少なくとも1種をドープした酸化ガリウム、
(iii) シリコン、酸素のうち少なくとも1種をドープした窒化ガリウム、
(iv) インジウム-錫複合酸化物、
(v) アンチモン、フッ素の少なくとも1種をドープした酸化錫、
(vi) ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムの少なくとも1種をドープした酸化亜鉛、及び、
(vii) これらの複合物
が挙げられる。
【0037】
また、第1電極2は、透明でない材料を用いて、光が透過するパターン状に形成することができる。光が透過するパターンとしては、例えば、線状(ストライプ状)、波線状、格子状(すなわち、メッシュ状)、またはパンチングメタル状(すなわち、多数の微細な貫通孔が規則的または不規則に配列された様子をいう。)のパターンが挙げられる。これらのパターンを有すると、電極材料が存在しない開口部分を光が透過することができる。透明でない電極材料として、例えば、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム、チタン、鉄、ニッケル、スズ、亜鉛、またはこれらのいずれかを含む合金を挙げることができる。また、導電性を有する炭素材料を用いることもできる。
【0038】
第1電極2の光の透過率は、例えば50%以上であってもよく、80%以上であってもよい。第1電極2が透過すべき光の波長は、光吸収層5の吸収波長に依存する。第1電極2の厚さは、例えば、1nm以上1000nm以下である。
【0039】
<第1半導体層3>
第1半導体層3は、半導体を含む。特に、バンドギャップが3.0eV以上の半導体が望ましい。バンドギャップが3.0eV以上の半導体で第1半導体層3を形成することにより、可視光および赤外光を光吸収層5まで透過させることができる。半導体の例としては、有機または無機のn型半導体が挙げられる。
【0040】
有機のn型半導体としては、例えば、イミド化合物、キノン化合物、フラーレンおよびその誘導体が挙げられる。また無機のn型半導体としては、例えば、金属酸化物、金属窒化物、ペロブスカイト酸化物が挙げられる。金属元素の酸化物としては、例えば、Cd、Zn、In、Pb、Mo、W、Sb、Bi、Cu、Hg、Ti、Ag、Mn、Fe、V、Sn、Zr、Sr、Ga、Crの酸化物が挙げられる。TiOが望ましい。金属窒化物の例は、GaNである。ペロブスカイト酸化物の例としては、SrTiO、CaTiOが挙げられる。
【0041】
また、第1半導体層3は、バンドギャップが6eVよりも大きな物質によって形成されていてもよい。バンドギャップが6eVよりも大きな物質としては、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン化物(例えば、フッ化リチウム、フッ化カルシウム)、酸化マグネシウムのようなアルカリ金属酸化物、二酸化ケイ素が挙げられる。この場合、第1半導体層3の電子輸送性を確保するために、第1半導体層3の厚さは、例えば10nm以下である。
【0042】
第1半導体層3は、上記の半導体から形成される1つの層から形成されてもよく、あるいは、互いに異なる材料から形成される複数の層を含んでもよい。
【0043】
本実施形態では、第1半導体層3はLiを含有する。第1半導体層3は、例えば、電子輸送材料を含む半導体層にLiを付与した後、熱処理(焼成)を行うことで形成されてもよい。あるいは、第1半導体層3は、Liを含む化合物および電子輸送材料の原料の混合物を焼成することで形成されてもよい。
【0044】
第1半導体層3は、化学式TiOにより表される酸化チタンを主に含有していてもよい。この場合、第1半導体層3に含まれるLiのTiに対するモル比は、例えば、0.02以上であってもよい。酸化チタンにより、第2半導体層6に含有されるLiTFSIの第1半導体層3側への拡散をより効果的に抑制できる。第1半導体層3におけるLiのTiに対するモル比は、例えば、0.06以下であってもよい。Liが第1半導体層3中に過剰に存在すると、LiOから形成される絶縁層が形成される可能性がある。したがって、第1半導体層3におけるLiのTiに対するモル比が0.06以下である場合には、LiOの形成を抑制できる。このようにして、光吸収層5から第1半導体層3に効果的に電荷が注入される。
【0045】
<多孔質層4>
多孔質層4は、光吸収層5を形成する際の土台となる。多孔質層4は、光吸収層5の光吸収、および、光吸収層5から第1半導体層3への電子移動を阻害しない。
【0046】
多孔質層4は、多孔質体を含む。多孔質体としては、例えば、絶縁性または半導体の粒子が連なった多孔質体が挙げられる。絶縁性の粒子の材料としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素の粒子を用いることができる。半導体粒子の材料としては、無機半導体を用いることができる。無機半導体としては、金属酸化物(金属ペロブスカイト酸化物を含む)、金属硫化物、金属カルコゲナイドを用いることができる。金属酸化物の例としては、Cd、Zn、In、Pb、Mo、W、Sb、Bi、Cu、Hg、Ti、Ag、Mn、Fe、V、Sn、Zr、Sr、Ga、Si、Crの酸化物が挙げられる。TiOが望ましい。ペロブスカイト酸化物の例としては、SrTiO、CaTiOが挙げられる。金属硫化物の例としては、CdS、ZnS、In、PbS、MoS、WS、Sb、Bi、ZnCdS、CuSが挙げられる。金属カルコゲナイドの例としては、CdSe、InSe、WSe、HgS、PbSe、CdTeが挙げられる。
【0047】
多孔質層4の層さは、0.01μm以上10μm以下が望ましく、0.1μm以上1μm以下がさらに望ましい。また、多孔質層4の表面粗さは大きい方が望ましい。具体的には、実効面積/投影面積で与えられる表面粗さ係数が10以上であることが望ましく、100以上であることがさらに望ましい。なお、実効面積とは、物体の実際の表面積のことである。投影面積とは、物体を真正面から光で照らしたときに、後ろにできる影の面積である。実効面積は、物体の投影面積および厚さから求められる体積と、物体を構成する材料の比表面積および物体の嵩密度とから計算することができる。表面積は、例えば、窒素吸着法によって測定される。
【0048】
多孔質層4は、Liを含んでいてもよい。これにより、第2半導体層6に含まれるLiTFSIの第1半導体層3側への拡散をより効果的に抑制できる。
【0049】
なお、本実施形態による太陽電池100は、多孔質層4を有していなくてもよい。
【0050】
<光吸収層5>
光吸収層5は、組成式AMXで表されるペロブスカイト化合物を含有する。Aは1価のカチオンである。1価のカチオンAの例としては、アルカリ金属カチオンまたは1価の有機カチオンが挙げられる。さらに具体的には、メチルアンモニウムカチオン(CHNH )、ホルムアミジニウムカチオン(NHCHNH )、セシウムカチオン(Cs)が挙げられる。Mは2価のカチオンである。2価のカチオンMの例としてはPbカチオンまたはSnカチオンが挙げられる。Xはハロゲンアニオンのような1価のアニオンである。
【0051】
ペロブスカイト化合物のために慣用的に用いられている表現に従い、本明細書においては、A、M、およびXは、それぞれ、Aサイト、Mサイト、およびXサイトとも言う。
【0052】
Aサイト、Mサイト、およびXサイトは、いずれも、複数種類のイオンによって占有されていてもよい。
【0053】
光吸収層5の厚さは、例えば100nm以上1000nm以下である。光吸収層5は、溶液による塗布法を用いて形成することができる。
【0054】
<第2半導体層6>
第2半導体層6は、LiTFSIおよびPTAAを含有する。PTAAに対するLiTFSIのモル比は、後述される。第2半導体層6は、有機半導体または無機半導体によって構成される。第2半導体層6は、互いに異なる材料からなる複数の層を含んでいてもよい。
【0055】
有機半導体としては、フェニルアミン誘導体(これはその骨格に3級アミンを含む)、トリフェニルアミン誘導体(これはその骨格に3級アミンを含む)、およびチオフェン構造を含むPEDOT化合物、などが挙げられる。有機半導体の分子量は、特に限定されないが、高分子体であってもよい。
【0056】
代表的な有機半導体の例としては、
(i) spiro-OMeTAD (2, 2’, 7, 7’-tetrakis-(N, N-di-p-methoxyphenylamine) 9, 9’-spirobifluorene)、
(ii) PTAA (ポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリメチルフェニル)アミン]、poly[bis(4-phenyl)(2,4,6-trimethylphenyl)amine])、
(iii) PHT (Poly(3-hexylthiophene-2,5-diyl))、
(iv) PEDOT (poly(3,4-ethylenedioxythiophene))、または
(v) 銅フタロシアニン (CuPC)
が挙げられる。
【0057】
無機半導体としては、CuO、CuGaO、CuSCN、CuI、NiOx、MoOx、V、酸化グラフェンのようなカーボン系材料が挙げられる。
【0058】
第2半導体層6の厚さは、1nm以上1000nm以下であることが望ましく、10nm以上500nm以下であることがより望ましい。この範囲内であれば、十分な正孔輸送性を発現できる。また、低抵抗を維持できるので、高効率に光発電を行うことができる。
【0059】
第2半導体層6の形成方法としては、塗布法又は印刷法を採用することができる。塗布法としては、例えば、ドクターブレード法、バーコート法、スプレー法、ディップコーティング法、スピンコート法が挙げられる。印刷法としては、例えば、スクリーン印刷法が挙げられる。また、必要に応じて、複数の材料を混合して膜を形成し、次いで加圧又は焼成して第2半導体層6を作製してもよい。第2半導体層6の材料が有機の低分子体又は無機半導体である場合には、真空蒸着法などによって、第2半導体層6を作製することも可能である。
【0060】
第2半導体層6は、支持電解質及び溶媒を含んでいてもよい。支持電解質及び溶媒は、第2半導体層6中の正孔を安定化させる効果を有する。
【0061】
支持電解質としては、例えば、アンモニウム塩、アルカリ金属塩が挙げられる。アンモニウム塩としては、例えば、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、六フッ化リン酸テトラエチルアンモニウム、イミダゾリウム塩及びピリジニウム塩が挙げられる。アルカリ金属塩としては、例えば、LiPF、LiBF、過塩素酸リチウム及び四フッ化ホウ素カリウムが挙げられる。
【0062】
第2半導体層6に含まれる溶媒は、イオン伝導性に優れるものが望ましい。水系溶媒及び有機溶媒のいずれも使用できるが、溶質をより安定化するため、有機溶媒が望ましい。具体例としては、tert-ブチルピリジン、ピリジン、n-メチルピロリドンなどの複素環化合物溶媒が挙げられる。
【0063】
溶媒としてイオン液体を、単独で、又は他種の溶媒に混合して用いてもよい。イオン液体は、揮発性が低く、難燃性が高い点で望ましい。
【0064】
イオン液体としては、例えば、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラシアノボレートなどのイミダゾリウム系、ピリジン系、脂環式アミン系、脂肪族アミン系、アゾニウムアミン系のイオン液体を挙げることができる。
【0065】
第2半導体層6は、添加剤として、LiTFSIを含む。第2半導体層6は、例えば、上記の半導体材料、添加剤、および支持電解質を溶媒に溶かして得られた溶液を光吸収層5上に塗布することで形成されうる。このため、添加剤として、上記の溶媒に溶け、かつ、半導体材料と複合体を形成しても沈殿しない材料を選択することが望ましい。LiTFSIは、これらの条件を満たす材料のなかでも、特に高い効率が得られる材料である。
【0066】
第2半導体層6は、PTAAを主に含んでもよい。PTAAのHOMOエネルギー準位は光吸収層5に含有されるペロブスカイト化合物の価電子帯準位に比較的近いため、光吸収層5からPTAAに容易に正孔は移動する。これにより、太陽電池100中で高い正孔移動度が得られるため、太陽電池100の高効率化を図ることができる。また、PTAAは高い熱安定性を有する。このため、第2半導体層6の半導体材料(つまり、正孔輸送材料)としてPTAAを用いると、太陽電池100の変換効率および耐久性をさらに向上できる。
【0067】
第2半導体層6において、PTAAに対するLiTFSIのモル比は、0.15以上0.26以下である。後述される実施例に含まれる試料5、6、および12において実証されているように、万一、当該モル比が0.15未満である場合には、初期変化効率が高々16.5%という低い値になる。一方、試料11を試料9および試料10と比較すると明らかなように、当該モル比が0.28以上である場合には、初期変換効率は急速に悪化し、高々15.9%という低い値になる。
【0068】
試料6~試料7において実証されているように、万一、第1半導体層3がLiを含まない場合には、維持率が高々73%という低い値になる。
【0069】
このように、高い初期変換効率および高い維持率のためには、以下の要件(i)および要件(ii)が充足されることが必要とされる。
(i) 第1半導体層3がLiを含有すること
(ii) 第2半導体層6において、PTAAに対するLiTFSIのモル比は、0.15以上0.26以下であること。
【0070】
<第2電極7>
第2電極7は、導電性を有する。第2電極7は、透光性を有してもよい。第2電極7は、第1電極2と同様に形成され得る。
【0071】
なお、第1電極2および第2電極7のうち、少なくとも光を入射させる側の電極が透光性を有していればよい。従って、第2電極7が透光性を有する場合、第1電極2は透光性を有していなくてもよい。
【0072】
本実施形態の太陽電池100の構成は、図1に示す例に限定されない。図1では、基板1上に、第1電極2、第1半導体層3、光吸収層5、第2半導体層6および第2電極7がこの順で配置されているが、基板1上に、第2電極7、第2半導体層6、光吸収層5、第1半導体層3および第1電極2がこの順で配置されていてもよい。
【0073】
(実施例)
以下、本開示の太陽電池を実施例によって具体的に説明する。ここでは、試料1~試料12の太陽電池を作製し、特性を評価した。
【0074】
[試料1]
図1に示される太陽電池100を作製した。
【0075】
試料1の太陽電池の作製方法は、以下の通りである。
【0076】
まず、第1電極2として機能する導電層を表面に有するガラス基板(日本板硝子製)を用意した。ここでは、第1電極2は、インジウムドープSnO層であった。ガラス基板は、1ミリメートルの厚みを有していた。第1電極2の表面抵抗は10Ω/sq.であった。
【0077】
次に、第1電極2上に、厚さが約10nmの酸化チタン層をスパッタ法で形成した。このようにして、第1電極2上に第1半導体層3を形成した。
【0078】
平均1次粒子径が30nmの高純度酸化チタン粉末をエチルセルロース中に分散させ、酸化チタンペーストを作製した。得られた酸化チタンペーストを第1半導体層3の上にスクリーン印刷法により塗布して乾燥させた。続いて、酸化チタンペーストを500℃の温度で30分間、空気中で焼成することによって、厚さが0.2μmの多孔質酸化チタン層から構成された多孔質層4を形成した。
【0079】
これとは別に、LiTFSI(10mg)をアセトニトリル(1mL)に溶解し、Li含有溶液を調製した。Li含有溶液を多孔質層4に滴下し、次いでスピンコート法でLi含有溶液を第1半導体層3および多孔質層4に浸透させた。続いて、第1半導体層3および多孔質層4を、500℃の温度で30分間、空気中で焼成した。このようにして、多孔質層4および第1半導体層3にリチウムを添加させた。
【0080】
次に、N,N-ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」という)とジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」という)とを4:1の割合(体積比)で混合し、混合溶媒を調製した。以下の試薬(I)~(VI)を、混合溶媒に以下の濃度を有するように溶解させた。このようにして、第1混合溶液を調製した。
(I) PbI(0.92mol/L)、
(II) PbBr(0.17mol/L)、
(III) FAI(0.83mol/L)、
(IV) MABr(0.17mol/L)、
(V) CsI(0.05mol/L)、および
(VI) RbI(0.05mol/L)
【0081】
この第1混合溶液を、多孔質層4の上にスピンコート法により塗布した。続いて、基板1をホットプレート上に設置し、100℃で熱処理を行うことにより、光吸収層5を形成した。なお、光吸収層5は、化学式(FAPbI0.83(MAPbI0.17により表されるペロブスカイト化合物を主として含有していた。
【0082】
さらに、PTAAを10mg/mLの濃度で含有するトルエン溶液(1mL)に、tert-ブチルピリジン(tBP)5μLおよびLiTFSIを1.8mol/Lの濃度で含むアセトニトリル溶液3μLとを加えることで、第2混合溶液を作製した。第2混合溶液を、光吸収層5上にスピンコート法で塗布することによって、第2半導体層6を形成した。
【0083】
続いて、第2半導体層6上に金を80nm蒸着して、第2電極7を形成した。このようにして、試料1の太陽電池を得た。
【0084】
なお、上述した全ての工程は、露点が-40℃以下のドライルーム中で行った。
【0085】
[試料2]
(i) Li含有溶液に含有されるLiTFSIの量が10mgではなく3mgであったこと、および、
(ii) アセトニトリル溶液の量が3μLではなく4.8μLであったこと
以外は、試料1と同様の方法で試料2の太陽電池を作製した。
【0086】
[試料3]
アセトニトリル溶液の量が3μLではなく4.8μLであったこと以外は、試料1と同様の方法で試料3の太陽電池を作製した。
【0087】
[試料4]
(i) Li含有溶液に含有されるLiTFSIの量が10mgではなく30mgであったこと、および
(ii) アセトニトリル溶液の量が3μLではなく4.8μLであったこと
以外は、試料1と同様の方法で試料4の太陽電池を作製した。
【0088】
[試料5]
アセトニトリル溶液の量が3μLではなく0.6μLであったこと以外は、試料1と同様の方法で試料5の太陽電池を作製した。
【0089】
[試料6]
(i) 多孔質層4および第1半導体層3にLiを添加しなかったこと、および、
(ii) アセトニトリル溶液の量が、3μLではなく0.6μLであったこと
以外は、試料1と同様の方法で試料6の太陽電池を作製した。
【0090】
[試料7]
(i) 多孔質層4および第1半導体層3にLiを添加しなかったこと、および、
(ii) アセトニトリル溶液の量が、3μLではなく4.8μLであったこと
以外は、試料1と同様の方法で試料7の太陽電池を作製した。
【0091】
[試料8]
(i) 多孔質層4および第1半導体層3にLiを添加しなかったこと、および、
(ii) アセトニトリル溶液の量が、3μLではなく6.0μLであったこと
以外は、試料1と同様の方法で試料8の太陽電池を作製した。
【0092】
[試料9]
アセトニトリル溶液の量が、3μLではなく6.0μLであったこと以外は、試料1と同様の方法で試料9の太陽電池を作製した。
【0093】
[試料10]
アセトニトリル溶液の量が、3μLではなく5.6μLであったこと以外は、試料1と同様の方法で試料10の太陽電池を作製した。
【0094】
[試料11]
アセトニトリル溶液の量が、3μLではなく5.2μLであったこと以外は、試料1と同様の方法で試料11の太陽電池を作製した。
【0095】
[試料12]
アセトニトリル溶液の量が、3μLではなく1.6μLであったこと以外は、試料1と同様の方法で試料12の太陽電池を作製した。
【0096】
[太陽電池の初期変換効率および維持率の算出]
太陽電池の初期変換効率および維持率の算出においては、ソーラーシミュレータが用いられた。ソーラーシミュレータの出力は100mW/cmに設定され、かつ疑似太陽光を太陽電池に照射した。照射により、太陽電池は加熱された。
【0097】
試料1~試料12の太陽電池の初期変換効率が算出された。用語「初期変換効率」は、太陽電池を作製した直後に測定された太陽電池の光電変換効率を意味する。
【0098】
試料1~7および試料11の太陽電池の変換効率の維持率が算出された。維持率は、以下の数式(MI)に基づいて算出された。
(維持率)=(加熱後の変換効率)/(初期変換効率) (MI)
【0099】
用語「加熱後の変換効率」とは、太陽電池に摂氏85度の温度で300時間の間、疑似太陽光を照射した後に測定された光電変換効率を意味する。
【0100】
Tiに対するLiのモル比は、誘導結合プラズマ発光分光分析法(以下、「ICP-AES法」という)に基づいて測定された。
【0101】
PTAAに対するLiTFSIのモル比は、第2半導体層における、PTAAに対する、LiTFSIのモル比である。
【0102】
維持率が高いほど、耐久性が高いことは言うまでもないだろう。
【0103】
表1は、算出されたこれらの結果を示す。
【0104】
【表1】
【0105】
試料5、試料2~試料4、および試料9を、それぞれ、試料6、試料7、および試料8と比較すれば明らかなように、第1半導体層3にLiを添加することで、PTAAに対するLiTFSIのモル比にかかわらず、維持率を向上できる。試料1~試料4において実証されているように、PTAAに対するLiTFSIのモル比を0.15以上に増加させても、太陽電池は80%以上の高い維持率を有する。これは、第1半導体層3にLiを添加したことで、第2半導体層6からのLiTFSIの第1半導体層3側への拡散が抑制されたからと考えられる。
【0106】
第2半導体層6において、PTAAに対するLiTFSIのモル比が0.15以上0.26以下であれば、初期変換効率を高くできる。一方、当該モル比が0.28以上である場合には、当該モル比が0.26である場合と比較して、初期変換効率は急速に低下する。これは、LiTFSIの一部が光吸収層5のペロブスカイト材料と反応し、ペロブスカイト材料の一部が分解したために、光吸収層5の光吸収特性が低下したからと推測される。
【0107】
また、試料1~試料4および試料9~試料11の太陽電池では、第1半導体層3および多孔質層4の両方がLiを含むが、多孔質層4はLiを含有しなくてもよい。言い換えれば、第1半導体層3はLiを含むが、多孔質層4がLiを含まなくてもよい。例えば、第1半導体層3が酸化チタンから形成され、多孔質層4が酸化アルミニウムから形成され、そして第1半導体層3のみがLiを含み得る。第1半導体層3の形成後にLi含有溶液をスピンコート法により第1半導体層3に塗布して第1半導体層3にLiを添加する。その後に多孔質層4を形成してもよい。第1半導体層3の形成方法も上記実施例で説明した方法に限定されない。例えば、Li含有化合物および電子輸送材料の原料を含有する混合物を焼成して、Liを含む第1半導体層3を形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本開示の一実施形態の太陽電池は、太陽光、人工照明などの光を電気に変換する発電システム用のデバイスとして広く用いられる。一方で、光を電気に変換する機能から、フォトディテクター、イメージセンシングなどの光センサにも適用され得る。
【符号の説明】
【0109】
1 基板
2 第1電極
3 第1半導体層
4 多孔質層
5 光吸収層
6 第2半導体層
7 第2電極
100 太陽電池
図1