(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-21
(45)【発行日】2023-03-02
(54)【発明の名称】溝の塗装方法及び塗装装置
(51)【国際特許分類】
E04F 21/165 20060101AFI20230222BHJP
E04F 13/08 20060101ALI20230222BHJP
【FI】
E04F21/165 R
E04F13/08 102L
(21)【出願番号】P 2018238575
(22)【出願日】2018-12-20
【審査請求日】2020-09-24
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000004673
【氏名又は名称】パナソニックホームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】永野 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】古田 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】紺田 哲史
(72)【発明者】
【氏名】北川 聡
【合議体】
【審判長】居島 一仁
【審判官】有家 秀郎
【審判官】藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】実開平3-128465(JP,U)
【文献】特開2017-87195(JP,A)
【文献】特開2014-200737(JP,A)
【文献】特開2005-13919(JP,A)
【文献】特開2006-122733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F21/00
E04F21/08
E04F21/165
B05D7/00
B05D7/02
B05D7/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面から凹んで線状にのびる空間である溝を塗装するための方法であって、
前記溝は、溝底と、前記溝底と前記第1の面との間をのびる溝側面と、前記第1の面と前記溝側面との間の溝角部とを含み、
前記方法は、塗料と高圧空気とを噴霧可能なノズルに治具を固定して、前記治具を、前記第1の面及び/又は前記溝角部に当接させることで、前記溝底に対するノズル先端の位置を決定するノズル位置決め工程と、
前記ノズル位置決め工程の後に、前記塗料を噴霧する塗装工程とを含
み、
前記治具は、スプレーガンに固定される基部と、前記基部に対して移動可能であり、かつ、前記第1の面及び/又は前記溝角部に当接させる当接部と、前記基部に対する前記当接部の位置ずれを防ぐための位置決め手段とを含み、
前記ノズル位置決め工程は、前記当接部を前記基部に対して移動させることにより、前記治具からの前記ノズル先端の突出量を調整する工程を含む、
溝の塗装方法。
【請求項2】
前記塗装工程は、前記治具を、前記第1の面及び/又は前記溝角部に当接させながら、前記ノズルを前記溝に沿って移動させる工程を含む、請求項1記載の溝の塗装方法。
【請求項3】
前記ノズル位置決め工程は、前記ノズル先端に向かって先細状とされた前記治具を、前記溝角部に当接させるものである、請求項1又は2記載の溝の塗装方法。
【請求項4】
前記溝は、壁下地に固定された複数の仕上げ材の間に形成されている、請求項1ないし3のいずれかに記載の溝の塗装方法。
【請求項5】
前記仕上げ材は、タイルである、請求項4記載の溝の塗装方法。
【請求項6】
第1の面から凹んで線状にのびる空間である溝を塗装するために用いられる装置であって、
前記溝は、溝底と、前記溝底と前記第1の面との間をのびる溝側面と、前記第1の面と前記溝側面との間の溝角部とを含み、
前記装置は、塗料と高圧空気とを噴霧可能なノズルと、
前記ノズルに対して固定され、かつ、ノズル先端を突出させる治具とを含み、
前記治具は、
スプレーガンに固定される基部と、前記基部に対して移動可能であり、かつ、前記第1の面及び/又は前記溝角部との当接により、前記溝底に対して前記ノズル先端の位置を決定するための当接部
と、前記基部に対する前記当接部の位置ずれを防ぐための位置決め手段とを含
み、
前記治具は、
前記当接部の前記基部に対する移動量により、前記治具からの前記ノズル先端の突出量を調整可能に構成される、
溝の塗装装置。
【請求項7】
前記当接部は、前記ノズル先端に向かって先細状とされたテーパー部を有する、請求項6記載の溝の塗装装置。
【請求項8】
前記治具は、前記ノズルを収容するように、前記当接部からノズル末端側にのびるパイプ状である、請求項6又は7記載の溝の塗装装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溝を塗装するための方法及び塗装装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1は、外壁のタイル間に形成された目地に、補修用の塗料を塗布するための方法を提案している。この方法では、塗料を収納可能な収納部と、収納部内に連通した円筒状の筒部とで構成された塗布具が用いられている。このような塗布具を用いた方法では、先ず、筒部の先端開口部が目地に向けられる。次に、収納部が押圧されて、収容部内の塗料が目地に吐出される。これにより、目地に塗料を塗布することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記方法では、筒部の先端開口部と目地底との距離を一定に保つことが困難であり、ひいては、塗料が目地からはみ出したり、又は、塗料が目地を完全に覆うことなく不足したりするなど、塗装品質の向上には改善の余地があった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、塗装品質を向上させることが可能な塗装方法及び塗装装置を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1の面から凹んで線状にのびる空間である溝を塗装するための方法であって、前記溝は、溝底と、前記溝底と前記第1の面との間をのびる溝側面と、前記第1の面と前記溝側面との間の溝角部とを含み、前記方法は、塗料を噴霧可能なノズルに対して固定された治具を、前記第1の面及び/又は前記溝角部に当接させることで、前記溝底に対するノズル先端の位置を決定するノズル位置決め工程と、前記ノズル位置決め工程の後に、前記塗料を噴霧する塗装工程とを含むことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る前記溝の塗装方法において、前記塗装工程は、前記治具を、前記第1の面及び/又は前記溝角部に当接させながら、前記ノズルを前記溝に沿って移動させる工程を含んでもよい。
【0008】
本発明に係る前記溝の塗装方法において、前記ノズル位置決め工程は、前記ノズル先端に向かって先細状とされた前記治具を、前記溝角部に当接させるものでもよい。
【0009】
本発明に係る前記溝の塗装方法において、前記溝は、壁下地に固定された複数の仕上げ材の間に形成されていてもよい。
【0010】
本発明に係る前記溝の塗装方法において、前記仕上げ材は、タイルであってもよい。
【0011】
本発明は、第1の面から凹んで線状にのびる空間である溝を塗装するために用いられる装置であって、
前記溝は、溝底と、前記溝底と前記第1の面との間をのびる溝側面と、前記第1の面と前記溝側面との間の溝角部とを含み、前記装置は、塗料を噴霧可能なノズルと、前記ノズルに対して固定され、かつ、ノズル先端を突出させる治具とを含み、前記治具は、前記第1の面及び/又は前記溝角部との当接により、前記溝底に対して前記ノズル先端の位置を決定するための当接部を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る前記溝の塗装装置において、前記当接部は、前記ノズル先端に向かって先細状とされたテーパー部を有してもよい。
【0013】
本発明に係る前記溝の塗装装置において、前記治具は、前記ノズルを収容するように、前記当接部からノズル末端側にのびるパイプ状であってもよい。
【0014】
本発明に係る前記溝の塗装装置において、前記治具は、前記治具からの前記ノズル先端の突出量を調整可能に構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
第1発明の溝の塗装方法は、塗料を噴霧可能なノズルに対して固定された治具を、前記第1の面及び/又は溝角部に当接させることで、溝底に対するノズル先端の位置を決定するノズル位置決め工程と、前記ノズル位置決め工程の後に、前記塗料を噴霧する塗装工程とを含んでいる。したがって、前記塗装工程中の前記ノズル先端と前記溝底との距離が安定し、良好な溝塗装状態が得られる。
【0016】
第2発明の溝の塗装装置は、塗料を噴霧可能なノズルと、前記ノズルに対して固定され、かつ、ノズル先端を突出させる治具とを含んでいる。前記治具は、前記第1の面及び/又は溝角部との当接により、溝底に対して前記ノズル先端の位置を決定するための当接部を含んでいる。したがって、前記塗装装置を用いて塗装する際に、前記ノズル先端と前記溝底との距離を安定させることができ、良好な溝塗装状態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の溝の塗装方法によって溝が塗装される第1の面の一例を示す斜視図である。
【
図4】ノズル及び治具の一例を示す分解断面図である。
【
図5】ノズル先端の突出量の調整方法の一例を説明する図である。
【
図6】本発明の他の実施形態の治具の一例を示す部分側面図である。
【
図7】本発明のさらに他の実施形態の治具の一例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。なお、各図面は、発明の内容の理解を高めるためのものであり、誇張された表示が含まれる他、各図面間において、縮尺等は厳密に一致していない点が予め指摘される。
【0019】
図1は、本発明の溝の塗装方法(以下、単に「塗装方法」ということがある)によって溝が塗装される第1の面の一例を示す斜視図である。
図2は、
図1の部分断面図である。
【0020】
図1に示されるように、本実施形態の第1の面2は、住宅、ビル等の建物の壁下地3に固定された複数の仕上げ材5の外面(即ち、壁面)5aである場合が例示される。なお、第1の面2は、例えば、鉄筋コンクリート等の外壁(図示省略)の表面であってもよいし、空気調和機の室外機や貯湯タンク等の外板部品の表面であってもよい。
【0021】
第1の面2には、第1の面2から凹んで線状にのびる空間6sである溝6が形成されている。ここで、線状は、直線状に限定されるものではなく、例えば、曲線状や、折線状(ジグザグ状)などが含まれる。
【0022】
本実施形態の仕上げ材5としては、タイル5Aである場合が例示されるが、このような態様に限定されない。仕上げ材5は、例えば、石材や、陶板などであってもよい。本実施形態の仕上げ材5は、屋外に配置される外装材として構成されているが、屋内に配置される内装材として構成されてもよい。
【0023】
本実施形態の仕上げ材5は、モルタル、樹脂モルタル、又は、弾性接着剤7等を介して、壁下地3に固着されている。弾性接着剤7としては、例えば、変成シリコーン系やウレタン系の弾性接着剤等、種々のものを採用することができる。
【0024】
図2に示されるように、本実施形態の溝6は、仕上げ材5、5の間に形成された目地として構成されている。溝幅(目地幅)wについては、特に限定されない。本実施形態の溝幅wは、3~8mm程度に設定されている。なお、溝6は、仕上げ材5、5の間に形成される目地に限定されるわけではなく、例えば、仕上げ材5の表面を凹ませて形成された化粧目地であってもよい。
【0025】
溝6は、溝底8と、溝側面9と、溝角部10とを含んで構成されている。本実施形態の溝底8は、第1の面(本例では、壁面)2から壁の厚さ方向の内側に形成されている。溝側面9は、溝底8と第1の面2との間をのびている。溝角部10は、第1の面2と溝側面9との間に形成されている。この溝角部10には、例えば、面取(図示省略)が設けられていても良い。
【0026】
本実施形態の溝底(本例では、目地底)8は、弾性接着剤7(弾性接着剤7の硬化物)で形成されている。なお、仕上げ材5がモルタルや樹脂モルタル等で固着される場合には、これらの硬化物で溝底8が形成されていてもよい。
【0027】
ところで、建物の第1の面2の美観を向上させるために、溝(目地)6の色替えが行われている。また、溝底8を形成する弾性接着剤7(弾性接着剤7の硬化物)の経年劣化に伴って、溝6の補修が行われている。このような溝6の色替えや補修には、例えば、アクリル塗料、ウレタン塗料、フッ素塗料、無機塗料、及び、アクリルシリコーン塗料などの着色用の塗料や、耐候性を有する塗料(例えば、フッ素塗料、無機塗料、アクリルシリコーン塗料などのクリア塗料)などを用いた溝6の塗装が行われる。
【0028】
図1に示されるように、溝6の塗装には、塗装装置(以下、単に「装置」ということがある。)11が用いられる。本実施形態の装置11は、塗料供給手段12と、ノズル13と、治具14とを含んで構成されている。
図3は、装置11の一例を示す側面図である。
図4は、ノズル13及び治具14の一例を示す分解断面図である。
図4では、治具14を片側断面図として示している。
【0029】
図3に示されるように、塗料供給手段12は、ノズル13に塗料を供給するためのものである。本実施形態の塗料供給手段12には、公知のスプレーガン15が用いられている。なお、塗料供給手段12は、スプレーガン15に限定されるわけではなく、特許文献1の塗布具のように、押圧されて塗料を吐出する収納部等であってもよいし、例えば、塗料と噴射剤とを充填されたエアゾール缶(スプレー缶)であってもよい。本実施形態の塗料には、一般的な装飾用の塗料(着色塗料)だけでなく、コーティング材のような単なる保護皮膜などに使われる材料(クリア塗料等)も含まれる。
【0030】
本実施形態のスプレーガン15は、本体部16、トリガー17、塗料供給部18、空気供給部19及び吐出口20を含んで構成されている。塗料供給部18には、例えば、塗料が溜められたタンク(図示省略)に接続されている。空気供給部19には、例えば、高圧空気を供給可能なコンプレッサ(図示省略)に接続されている。吐出口20には、ノズル13が固定されている。
【0031】
ノズル13は、塗料25(
図2に示す)を噴霧可能なものである。本実施形態のノズル13は、公知の二重管ニードルノズルとして構成されている。
図4に示されるように、本実施形態のノズル13のノズル末端13e側には、塗料供給手段12の吐出口20に取り付けられる取付部23が設けられている。
【0032】
ノズル13の長さL2及び外径D2については、適宜設定することができる。本実施形態の長さL2、例えば、80~120mm程度に設定されている。ノズル13(取付部23を除く)の外径D2は、例えば、1.5~2.0mm程度に設定されている。取付部23の最大径D3は、例えば、6.0~9.0mm程度に設定されている。
【0033】
図2に示されるように、ノズル13は、スプレーガン15のトリガー17(
図3に示す)が引かれることによって、ノズル先端(噴出口)13sから、高圧空気(図示省略)とともに塗料25が噴霧される。塗料25の塗装幅W1は、ノズル先端13sと溝底8との間の距離L1に比例して大きくなる。従って、塗装品質を向上させるには、距離L1を一定に保って、ノズル先端13sを移動させるのが望ましい。
【0034】
ノズル先端13sと溝底8との間の距離L1については、適宜設定することができる。距離L1は、塗料25の塗装幅W1と溝幅wとを一致するように、例えば、第1の面2から溝底8までの溝深さD1(
図2に示す)の20%~80%程度に設定されるのが望ましい。
【0035】
治具14は、溝底8に対するノズル先端13sの位置を決定するためのものである。
図3に示されるように、本実施形態の治具14は、基部28と、当接部29と、位置決め手段30とを含んで構成されている。
【0036】
本実施形態の治具14は、ノズル13を収容するように、当接部29からノズル末端13e側にのびるパイプ状に形成されている。本実施形態の治具14は、ステンレス等の金属で形成されているが、例えば、樹脂(アクリル等)等によって形成されてもよい。
【0037】
図4に示されるように、基部28は、パイプ状に形成されている。基部28の一方側(ノズル先端側)には、第1開口部31が設けられている。基部28の他方側(ノズル末端側)には、第2開口部32が設けられている。基部28の長さL4は、ノズル13の長さL2よりも小さい。基部28の長さL4は、例えば、ノズル13の長さL2の70%~90%程度に設定される。
【0038】
本実施形態の基部28は、本体部33と、膨出部34とを含んで構成されている。本実施形態では、本体部33と膨出部34とが一体に固定されているが、分離可能に取り付けられていてもよい。
【0039】
本実施形態の本体部33は、円筒状に形成されており、ノズル13の長手方向に沿って延びている。本体部33の一方側(ノズル先端側)の外面には、第1ネジ部(雄ネジ部)35が形成されている。この第1ネジ部35は、当接部29の第2ネジ部(雌ネジ部)36、及び、位置決め手段30の第3ネジ部(雌ネジ部)37がねじ込み(螺合)可能に形成されている。
【0040】
膨出部34は、本体部33の他端側(ノズル末端側)に配されている。膨出部34の他方側(ノズル末端側)の外面には、第4ネジ部(雄ねじ部)38が形成されている。この第4ネジ部38は、スプレーガン15の本体部16の吐出口20側に形成された第5ネジ部(雌ねじ部)39にねじ込み(螺合)可能に形成されている。本実施形態の膨出部34は、作業者が握りやすい多角柱状(本例では、六角柱状)に形成されている。このため、作業者は、第4ネジ部38を第5ネジ部39に容易にねじ込むことができる。
【0041】
基部28の内部には、第1空間41と第2空間42とが形成されている。第1空間41と第2空間42とは、ノズル13の長手方向で連通している。
【0042】
第1空間41は、本体部33及び膨出部34の一端側(ノズル先端側)の内部に形成されている。第1空間41は、第1開口部31に連通している。第1空間41の内径D5は、ノズル13(取付部23を除く)の外径D2よりも大きく設定されており、例えば、1.6~2.1mm程度に設定されている。
【0043】
第2空間42は、膨出部34の他端側(ノズル末端側)の内部に形成されている。第2空間42は、第2開口部32に連通している。第2空間42の内径(図示省略)は、ノズル13の取付部23の最大径D3よりも大きく設定されており、例えば、7.0~10.0mm程度に設定される。
【0044】
上記のように構成された基部28は、先ず、スプレーガン15に取り付けられたノズル13のノズル先端13sが、基部28の第2開口部32から挿入されて、第2空間42及び第1空間41に案内される。次に、膨出部34の第4ネジ部38が、スプレーガン15の第5ネジ部(雌ねじ部)39にねじ込まれる。これにより、
図3に示されるように、基部28は、ノズル13の一部を収容しつつ、スプレーガン15に固定される。
図4に示されるように、基部28は、その長さL4がノズル13の長さL2よりも小さいため、スプレーガン15に固定された状態で、ノズル先端13sを、第1開口部31から突出させることができる。
【0045】
本実施形態の当接部29は、パイプ状に形成されている。当接部29の一方側(ノズル先端側)には、第3開口部43が設けられている。当接部29の他方側(ノズル末端側)には、第4開口部44が設けられている。当接部29の長さL7は、例えば、ノズル13の長さL2の15%~25%程度に設定される。
【0046】
本実施形態の当接部29は、本体部45と、テーパー部46とを含んで構成されている。本実施形態では、本体部45とテーパー部46とが一体に固定されているが、分離可能に取り付けられていてもよい。
【0047】
本実施形態の本体部45は、作業者が握りやすい多角柱状(本例では、六角柱状)に形成されており、ノズル13の長手方向に沿って延びている。
図2に示されるように、本体部45の幅W8は、溝幅wよりも大に設定されており、例えば、9.0~13.0mm程度に設定される。
【0048】
図2及び
図4に示されるように、本実施形態のテーパー部46は、本体部45のノズル先端13s側に形成されており、ノズル先端13sに向かって先細状とされている。本実施形態のテーパー部46の外面は、平滑な円錐面として形成されている。
図4に示されるように、テーパー部46の角度θ8は、適宜設定することができる。本実施形態の角度θ8は、30~70度に設定されている。
【0049】
当接部29の内部には、第3空間47と第4空間48とが形成されている。第3空間47と第4空間48とは、ノズル13の長手方向に連通している。
【0050】
本実施形態の第3空間47は、テーパー部46のノズル先端13s側の内部に形成されている。第3空間47は、第3開口部43に連通している。第3空間47の内径(図示省略)は、ノズル13(取付部23を除く)の外径D2よりも大きく設定されており、例えば、1.6~2.1mm程度に設定されている。
【0051】
本実施形態の第4空間48は、テーパー部46のノズル末端13e側の内部、及び、本体部45の内部に形成されている。第4空間48は、第4開口部44に連通している。第4空間48の内面には、本体部33の第1ネジ部(雄ネジ部)35をねじ込み可能な第2ネジ部(雌ネジ部)36が形成されている。
【0052】
位置決め手段30は、基部28に対する当接部29の位置ずれを防ぐためのものである。本実施形態では、位置決め手段30と当接部29とが、ダブルナットとして構成されている。位置決め手段30の内面には、本体部33の第1ネジ部(雄ネジ部)35をねじ込み可能な第3ネジ部(雌ネジ部)37が形成されている。
図3に示されるように、位置決め手段30は、第1ネジ部35において、当接部29に対してノズル末端13e側に配される。本実施形態の位置決め手段30は、作業者が握りやすい多角柱状(本例では、六角柱状)に形成されている。
【0053】
図4に示されるように、上記のように構成された当接部29及び位置決め手段30は、先ず、位置決め手段30の第3ネジ部37に、基部28の第1ネジ部(雄ネジ部)35がねじ込まれる。次に、当接部29の第2ネジ部(雌ネジ部)36に、基部28の第1ネジ部(雄ネジ部)35がねじ込まれる。これにより、
図3に示されるように、当接部29及び位置決め手段30は、基部28を介してスプレーガン15に取り付けられる。
【0054】
本実施形態では、ノズル先端13sが第3開口部43から突出するまで、
図4に示した当接部29の第2ネジ部36に、基部28の第1ネジ部35をねじ込みながら、基部28に対して、当接部29をノズル末端13e側へと移動させる。これにより、
図3に示されるように、治具14は、ノズル13に対して固定され、かつ、ノズル先端13sを突出させることができる。当接部29の移動が終了した後に、位置決め手段30を当接部29に密着させることで、当接部29の位置ずれを防ぐことができる。
【0055】
図3に示されるように、本実施形態の治具14は、ノズル13の大部分を収容することができるため、曲がりやすく折れやすいノズル13を保護することができる。
図2に示されるように、本実施形態の治具14は、テーパー部46を、溝角部10に当接させることができる。この溝角部10へのテーパー部46の当接により、治具14は、溝底8に対してノズル先端13sの位置を決定することができる。これにより、本実施形態では、装置11を用いて塗装する際に、ノズル先端13sと溝底8との距離L1を安定させることができるため、塗料25が溝6からはみ出したり、又は、塗料25が溝6を完全に覆うことなく不足したりするのを防ぐことができる。したがって、装置11は、良好な溝塗装状態を得ることができる。
【0056】
本実施形態のテーパー部46の外面は、平滑な円錐面として形成されている。このため、本実施形態の装置11は、テーパー部46と溝角部10との接触領域を小さくして、テーパー部46と溝角部10との間の摩擦を小さくすることができる。これにより、本実施形態の装置11は、テーパー部46を溝角部10に当接させながら、溝6に沿ってノズル13をスムーズに移動させることができる。
【0057】
図5は、ノズル先端13sの突出量L10の調整方法の一例を説明する図である。治具14は、当接部29の基部28に対する移動量(即ち、基部28の第1ネジ部35への当接部29のねじ込み量)により、治具14からのノズル先端13sの突出量L10を調整可能に構成されている。したがって、
図2に示されるように、治具14は、第1の面2から溝底8までの溝深さD1等に応じて、ノズル先端13sの突出量L10を容易に調節することができる。
【0058】
当接部29のテーパー部46は、溝角部10への当接によって摩耗しやすい。このような摩耗が進行すると、テーパー部46は、溝角部10との間の摩擦が大きくなりやすい。このため、当接部29は、テーパー部46を交換可能なように、テーパー部46を本体部45から分離可能に取り付けられるのが望ましい。これにより、摩耗したテーパー部46が適宜交換されることで、テーパー部46を平滑な面に維持することができるため、テーパー部46と溝角部10との摩擦が大きくなるのを防ぐことができ、ノズル13を溝6に沿ってスムーズに移動させることができる。また、テーパー部46は、溝角部10との摩擦を小さくしつつ、摩耗を抑えることが可能な樹脂等によって形成されてもよい。
【0059】
次に、本実施形態の塗装方法について説明する。
本実施形態の塗装方法では、先ず、
図2に示されるように、溝底8に対するノズル先端13sの位置を決定するノズル位置決め工程が実施される。
【0060】
本実施形態のノズル位置決め工程では、
図3に示されるように、先ず、上述の手順に基づいて、塗料供給手段12(本例では、スプレーガン15)に、ノズル13が取り付けられる。次に、ノズル位置決め工程では、塗料供給手段12に、治具14が固定される。これにより、治具14は、塗料供給手段12を介して、ノズル13に対して固定される。
【0061】
次に、ノズル位置決め工程は、
図2に示されるように、ノズル先端13sに向かって先細状とされた治具14(当接部29のテーパー部46)を、溝角部10に当接させる。これにより、ノズル位置決め工程では、ノズル先端13sを溝6の空間6s内に配置して、溝底8に対するノズル先端13sの位置(ノズル先端13sと溝底8との間の距離L1)を決定することができる。
【0062】
治具14からのノズル先端13sの突出量L10は、当接部29のテーパー部46を、溝角部10に当接させたときに、ノズル先端13sと溝底8との間の距離L1が上述の範囲になるように調節されるのが望ましい。調節方法(
図5に示す)の詳細については、上述のとおりである。これにより、本実施形態の塗装方法は、後述の塗装工程において、塗料25が溝6からはみ出したり、又は、塗料25が溝6を完全に覆うことなく不足したりするのを防ぐことができる。
【0063】
次に、本実施形態の塗装方法では、ノズル位置決め工程の後に、塗料25を噴霧する塗装工程が実施される。塗装工程では、先ず、治具14を溝角部10に当接させたまま、
図3に示したスプレーガン15のトリガー17が引かれる。これにより、塗装工程では、塗料25の噴霧が開始される。
【0064】
本実施形態の塗装工程は、塗料25の噴霧が開始された後に、治具14(テーパー部46)を溝角部10に当接させながら、
図1に示されるように、ノズル13を溝6に沿って移動させる工程を含んでいる。この工程では、治具14を溝角部10に当接させた状態で、スプレーガン15のトリガー17(
図3に示す)を引いたまま、治具14(テーパー部46)を溝角部10に沿って摺動させている。これにより、塗装工程では、溝底8に対するノズル先端13sの位置を維持しながら、ノズル13を溝6に沿って移動させることができる。したがって、本実施形態の塗装工程では、塗料25が溝6からはみ出したり、又は、塗料25が溝6を完全に覆うことなく不足したりするのを防ぎながら、広範囲の溝6を塗装することができるため、作業者の熟練を必要とすることなく、塗装品質を向上させることができる。
【0065】
ノズル先端13sの移動速度(送り速度)については、適宜設定することができる。作業効率と塗装品質との両立の観点より、作業者によって施工される場合において、移動速度は、例えば、0.1~0.4m/秒程度に設定されるのが望ましい。
【0066】
本実施形態の塗装方法では、溝6を塗装するのに先立ち、溝6を清掃する工程が実施されるのが望ましい。これにより、本実施形態の塗装方法では、溝6に付着した汚れを除去した後に、溝6を塗装することができる。溝6の清掃には、例えば、高圧エアブローや、高圧洗浄機等が用いられるのが望ましい。
【0067】
図2に示されるように、これまでの実施形態では、治具14を溝角部10に当接させることで、溝底8に対するノズル先端13sの位置が決定されたが、このような態様に限定されない。例えば、治具14を第1の面2に当接させることで、溝底8に対するノズル先端13sの位置が決定されてもよい。
図6は、本発明の他の実施形態の治具14の一例を示す部分側面図である。この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0068】
この実施形態の治具14には、テーパー部46(
図2に示す)が設けられていない。
このような治具14が用いられることにより、この実施形態では、当接部29(本体部45)のノズル先端13s側の端部29sを、第1の面2に当接させることで、溝底8に対してノズル先端13sの位置を決定することができる。これにより、装置11を用いて塗装する際に、ノズル先端13sと溝底8との距離L1を安定させることができ、良好な溝塗装状態を得ることができる。
【0069】
この実施形態の塗装工程では、治具14を第1の面2に当接させながら、
図1に示されるように、ノズル13を溝6に沿って移動させる工程が実施される。これにより、塗装工程では、溝底8に対するノズル先端13sの位置を維持しながら、ノズル13を溝6に沿って移動させることができるため、塗装品質を向上させることができる。
【0070】
この実施形態の治具14には、当接部29のノズル先端13s側の端部29sに、ノズル先端13s側に突出するガイド部50がさらに含まれてもよい。このガイド部50の幅D11は、溝幅wよりも小であり、かつ、ノズル13の外径D2(
図4に示す)よりも大きい。これにより、ガイド部50は、当接部29の端部29sを第1の面2に当接させた状態において、溝6の空間6s内に配される。
【0071】
このようなガイド部50は、ノズル13を溝6に沿って移動させる際に、ノズル13が溝6の幅方向に位置ずれしても、ノズル13が溝側面9に接触するのを防ぐことができる。さらに、ガイド部50は、溝側面9に当接することで、ノズル13を溝6に沿って案内することができる。したがって、この実施形態では、前実施形態と同様に、作業者の熟練を必要とすることなく、塗装品質を向上させることができる。
【0072】
また、ガイド部50の幅D11を溝幅wと同一又はやや小さくして、治具14を第1の面2及び溝角部10に当接させることで、溝底8及び溝側面9に対するノズル先端13sの位置が決定されてもよい。これにより、作業者の熟練を必要とすることなく、塗装品質を向上させることができる。
【0073】
図3及び
図4に示されるように、これまでの実施形態の治具14は、塗料供給手段12を介して、ノズル13に対して固定されたが、このような態様に限定されない。例えば、治具14は、ノズル13に固定されてもよい。
図7は、本発明のさらに他の実施形態の治具14の一例を示す側面図である。
【0074】
この実施形態の治具14は、当接部29のみから構成されている。この実施形態の当接部29は、本体部45と、テーパー部46とを含んで構成されている。この当接部29は、ノズル13に固定されている。治具14からのノズル先端13sの突出量L10は、当接部29のテーパー部46を、溝角部10に当接させたときに、ノズル先端13sと溝底8との間の距離L1が上述の範囲になるように調節されるのが望ましい。
【0075】
この実施形態では、ノズル先端13sに向かって先細状とされた治具14(テーパー部46)を、溝角部10(
図2に示す)に当接させることで、溝底8(
図2に示す)に対するノズル先端13sの位置を決定することができるため、良好な溝塗装状態を得ることができる。さらに、この実施形態の治具14の構造は、これまでの実施形態の治具14の構造に比べて簡素化できるため、治具14を低コストで製造することができる。
【0076】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【符号の説明】
【0077】
2 第1の面
6 溝
8 溝底
10 溝角部
13 ノズル
14 治具
25 塗料