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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-21
(45)【発行日】2023-03-02
(54)【発明の名称】センサ制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20230222BHJP
   G01N 27/419 20060101ALI20230222BHJP
   G01M 15/10 20060101ALN20230222BHJP
【FI】
F02D45/00 360Z
G01N27/419 327P
G01M15/10
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019070483
(22)【出願日】2019-04-02
(65)【公開番号】P2020169587
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 哲哉
【審査官】楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/042994(WO,A1)
【文献】特開2010-121951(JP,A)
【文献】特開2011-144754(JP,A)
【文献】特開2006-266094(JP,A)
【文献】特開2009-293510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
F02D 41/00~41/40
G01N 27/419
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒を有する内燃機関の駆動により排出される排気ガスの濃度を検出するガスセンサを制御するセンサ制御装置であって、
前記複数の気筒間における前記排気ガスの濃度のインバランス状態の検知が行われる際に、前記ガスセンサを制御するための第1制御用定数を第2制御用定数に切り替えて前記ガスセンサを制御する制御部を備え
前記ガスセンサは、ポンプセルと、起電力セルと、を備え、
前記ガスセンサは、前記ポンプセルに流れるポンプ電流に基づいて排気ガスの濃度を検出し、
前記制御部は、前記起電力セルにかかる電圧が予め設定された目標電圧となるように、前記ポンプ電流をフィードバック制御し、
前記第1制御用定数と前記第2制御用定数とは、前記フィードバック制御に用いる定数である、センサ制御装置。
【請求項2】
前記第1制御用定数と前記第2制御用定数とを記憶する記憶部を備える、請求項1に記載のセンサ制御装置。
【請求項3】
前記第2制御用定数は、前記第1制御用定数よりも前記インバランス状態の検知感度を高めるように設定されている請求項1又は請求項2に記載のセンサ制御装置。
【請求項4】
前記第2制御用定数は、前記第1制御用定数を用いた場合の伝達関数の周波数特性の利得よりも前記第2制御用定数を用いた場合の伝達関数の周波数特性の利得を上げるように設定されている請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のセンサ制御装置。
【請求項5】
前記第2制御用定数は、前記第1制御用定数を用いた場合の伝達関数の周波数特性の位相よりも前記第2制御用定数を用いた場合の伝達関数の周波数特性の位相を下げるように設定されている請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のセンサ制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記インバランス状態の検出が行われた後には、前記第2制御用定数を前記第1制御用定数に切り替えて前記ガスセンサを制御する請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のセンサ制御装置。
【請求項7】
複数の気筒を有する内燃機関の駆動により排出される排気ガスの濃度を検出するガスセンサを制御するセンサ制御装置のセンサ制御方法であって、前記複数の気筒間における前記排気ガスの濃度のインバランス状態の検知が行われる際に、前記ガスセンサを制御するための第1制御用定数を第2制御用定数に切り替えて前記ガスセンサを制御する制御手順を備え
前記ガスセンサは、ポンプセルと、起電力セルと、を備え、
前記ガスセンサは、前記ポンプセルに流れるポンプ電流に基づいて排気ガスの濃度を検出し、
前記センサ制御装置は、前記起電力セルにかかる電圧が予め設定された目標電圧となるように、前記ポンプ電流をフィードバック制御し、
前記第1制御用定数と前記第2制御用定数とは、前記フィードバック制御に用いる定数である、センサ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、ガスセンサの制御を行うセンサ制御装置に関する技術を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の駆動により生じる排気ガスの濃度をガスセンサで検出する技術が知られている。特許文献1は、ガスセンサの出力の周波数特性は温度に応じて変化するため、温度に応じて変更される制御定数を使用してフィードバック制御を行うガスセンサシステムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-121951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、複数の気筒を有する内燃機関について、インジェクタの故障や吸入空気の漏れ等に起因して複数の気筒間における混合気の空燃比がインバランス状態となることがある。複数の気筒間の空燃比にインバランス状態が生じると排気特性等を悪化させるため、複数の気筒間の空燃比のインバランス状態を検知する構成が設けられる。このようなインバランス状態を検知する構成を設ける場合には、排気特性等の悪化を抑制するために検知精度を向上させることが好ましい。しかしながら、インバランス状態の検知精度を向上させるためにはインバランス成分周波数の応答性を高める必要があるが、インバランス成分周波数は高周波であり、ガスセンサにより高周波成分の応答性を高めるのは容易ではないという問題がある。
【0005】
本明細書に記載された技術は、上記のような事情に基づいて完成されたものであって、インバランス状態の検知精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に記載されたセンサ制御装置は、複数の気筒を有する内燃機関の駆動により排出される排気ガスの濃度を検出するガスセンサを制御するセンサ制御装置であって、前記複数の気筒間における前記排気ガスの濃度のインバランス状態の検知が行われる際に、前記ガスセンサを制御するための第1制御用定数を第2制御用定数に切り替えて前記ガスセンサを制御する制御部を備える。
本明細書に記載されたセンサ制御方法は、複数の気筒を有する内燃機関の駆動により排出される排気ガスの濃度を検出するガスセンサを制御するセンサ制御方法であって、前記複数の気筒間における前記排気ガスの濃度のインバランス状態の検知が行われる際に、前記ガスセンサを制御するための第1制御用定数を第2制御用定数に切り替えて前記ガスセンサを制御する制御手順を備える。
複数の気筒を有する内燃機関のインバランス状態について、検知時の精度を向上させるため、センサ制御用定数(PID等)の高周波成分の応答を高めた設定値で常に制御し、センサの高周波信号を増幅する場合には、一般的なノイズも高周波成分であるためノイズ成分が増幅されてしまい、燃料フィードバック制御等の誤作動等の不具合が懸念される。
一方、上記構成によれば、インバランス状態の検知が行われる際には、制御部は、第1制御用定数を第2制御用定数に切り替えてガスセンサを制御するため、例えば、通常時(インバランス状態の非検知時)と、インバランス状態の検知時との双方で高周波成分の応答を高めた一つの制御用定数を用いてガスセンサを制御する構成と比較して、燃料フィードバック制御等の誤作動を抑制しつつ、インバランス状態の発生時における検知精度を向上させることが可能になる。
【0007】
本明細書に記載された技術の実施態様としては以下の態様が好ましい。
前記第1制御用定数と前記第2制御用定数とを記憶する記憶部を備える。
前記第2制御用定数は、前記第1制御用定数よりも前記インバランス状態の検知感度を高めるように設定されている。
このようにすれば、第1制御用定数を第2制御用定数に切り替えることによりインバランス状態の検知感度を高めることが可能になる。
【0008】
前記第2制御用定数は、前記第1制御用定数を用いた場合の伝達関数の周波数特性の利得よりも前記第2制御用定数を用いた場合の伝達関数の周波数特性の利得を上げるように設定されている。
【0009】
前記第2制御用定数は、前記第1制御用定数を用いた場合の伝達関数の周波数特性の位相よりも前記第2制御用定数を用いた場合の伝達関数の周波数特性の位相を下げるように設定されている。
【0010】
前記制御部は、前記インバランス状態の検知が行われた後には、前記第2制御用定数を前記第1制御用定数に切り替えて前記ガスセンサを制御する。
【発明の効果】
【0011】
本明細書に記載された技術によれば、インバランス状態の検知精度を向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態のセンサ制御装置を含むセンサシステムを示す図
図2】センサシステムの電気的構成を示すブロック図
図3】ガスセンサのフィードバック制御の入力と出力の関係を示すブロック図
図4A】伝達関数Cに第1制御用定数を用いた場合の伝達関数の周波数特性を示す図
図4B】伝達関数Cに第1制御用定数を用いた場合の閉ループ周波数特性を示す図
図5A】伝達関数Cに第2制御用定数を用いてゲインを上げた状態の伝達関数の周波数特性を示す図
図5B】伝達関数Cに第2制御用定数を用いた場合の閉ループ周波数特性を示す図
図6A】伝達関数Cに第2制御用定数を用いて位相を下げた状態の伝達関数の周波数特性を示す図
図6B】伝達関数Cに第2制御用定数を用いた場合の閉ループ周波数特性を示す図
図7】ECUの処理を示すフローチャート
図8】センサ制御装置の処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態1>
本実施形態のセンサ制御装置50は、車両に搭載されて内燃機関11の駆動により生じる排気ガスの濃度を検出するガスセンサ30を制御するものである。図1に示すように、ガスセンサ30、処理装置としてのECU40(Electronic Control Unit)及びセンサ制御装置50を含んでセンサシステム1が構成され、センサ制御装置50は、ガスセンサ30とECU40との間に通信線により接続されている。
【0014】
内燃機関11は、本実施形態では例えば4気筒のガソリンエンジンとされており、外部から吸入された空気が流通する吸気管12と燃料の燃焼により生じた排気ガスが流通する排気管13とが連結されている。吸気管12におけるインジェクタ27の上流側には、内燃機関11への空気の吸気量を調整するスロットル弁16と、吸入された空気の吸気圧を検出する吸気圧センサ18とが設けられている。インジェクタ27は、燃料タンクTAに接続され、内燃機関11の上流側において複数の気筒のそれぞれに設けられており、ECU40からの制御信号に応じて内燃機関11に燃料を噴射する。
【0015】
吸気管12と排気管13との間にはEGR管14が接続されている。EGR管14は、排気管13の排気ガスを吸気管12に還流させる。EGR管14には、EGR弁15が設けられており、EGR管14内を流通する排気ガスの流量がEGR弁15により調整される。内燃機関11の近傍には、冷却水19の水温を検出するための水温センサ20が配され、内燃機関11のクランク軸22には、所定のクランク角度毎にパルス信号を出力する回転角度センサ23が接続されている。回転角度センサ23により内燃機関11の回転数が検出される。吸気圧センサ18、水温センサ20及び回転角度センサ23の検出信号は、ECU40に出力される。また、EGR弁15及びスロットル弁16の開度は、ECU40からの制御信号により制御される。排気管13におけるガスセンサ30の下流側には、排気ガスに含まれる有害物質を除去するための三元触媒(図示しない)が設けられている。
【0016】
ガスセンサ30は、いわゆるリニアラムダセンサであって、内燃機関11の下流側の排気管13に取り付けられ、排気ガス中の酸素濃度を広域にわたって検出する。ECU40は、CPU(Central Processing Unit)、ROM、RAMを備え、CPUがROMに記憶されたプログラムを実行し、各種センサから検出信号が入力されるとともに、インジェクタ27等を動作させるための制御信号を出力する。
【0017】
センサシステム1の電気的構成について、図2を参照しつつ説明する。
図2に示すように、ガスセンサ30は、ポンプセル31と、起電力セル32と、ヒータ33とを備える。ポンプセル31及び起電力セル32は、共に、部分安定化ジルコニアにより板状に形成された酸素イオン伝導性固体電解質体と、その表面と裏面のそれぞれに主として白金で形成された電極とを有し、いわゆる限界電流方式によって酸素濃度を検出する。ポンプセル31の電極間に流れるポンプ電流Ipは、酸素濃度が高くなるほど大きくなるため、排気ガス中の酸素濃度が高くなる(空燃比がリーン側になる)と、ポンプ電流Ipの限界電流は増加し、排気ガス中の酸素濃度が低くなる(空燃比がリッチ側になる)と、限界電流は減少する。したがって、ポンプ電流Ipを測定することで、排気ガス中の酸素濃度を検出することができる。
【0018】
ヒータ33は、アルミナを主体とする材料にて形成され、その内部には、白金を主体とする材料にて形成された発熱抵抗体を備えている。ヒータ33は、センサ制御装置50から供給される電力により、起電力セル32及びポンプセル31の温度が活性化温度となるように制御され、起電力セル32及びポンプセル31が活性化することで排気ガスの濃度を検出可能な状態となる。
【0019】
ECU40は、駆動状態判断部41と、インバランス検知部42と、入出力部45と、を備える。駆動状態判断部41は、内燃機関11の駆動に関連する状態が所定の変動範囲内にあるか否かを判断する。具体的には、内燃機関自体の駆動状態の変動や、内燃機関11の駆動に応じて動作する機器等の変動の範囲が、予めメモリに記憶されている所定の値よりも小さいか否かを判断する。本実施形態では、駆動状態判断部41は、回転角度センサ23(図1)に接続されており、回転角度センサ23により検出される回転数の変動が所定の変動範囲内にあるか否かを判断する。例えば、回転角度センサ23により検出された回転数の単位時間当たりの変化量が予めECU40のメモリに記憶されている所定の上下限値の範囲である場合に、内燃機関11の駆動に関連する状態が所定の変動範囲内にあると判断することができる。なお、内燃機関11の駆動に関連する状態が所定の変動範囲内にあるか否かは、回転角度センサ23の回転数の変動に限られない。例えば、吸気圧センサ18により検出される吸気管12の吸気圧の変動、水温センサ20により検出される冷却水10の温度の変動、インジェクタ27により噴射される燃料噴射量の変動、EGR(排気再循環。Exhaust Gas Recirculation)率の変動が所定の変動範囲内にあるか否かを判断するようにしてもよく、これらの少なくとも一つに基づいて内燃機関11の駆動に関連する状態が所定の変動範囲内にあるか否かを判断することができる。
【0020】
インバランス検知部42は、インバランス診断部43と、インバランス判定部44とを備える。インバランス診断部43は、ガスセンサ30により検出され、センサ制御装置50から入力された検出信号のサンプリングデータ等を用いて高速フーリエ変換(FFT)処理を実行し、0.5次周波数成分強度及び1次周波数成分強度のFFT強度を算出する。0.5次周波数成分及び1次周波数成分は、エンジン回転数[rpm]に対応する周波数[Hz]の1/2及び1倍の周波数に対応する周波数成分である。ガスセンサ30の応答性を高めると、インバランス状態の検知時のノイズが大きくなりやすいが、インバランス検知診断は、比較的短時間で可能とされており、ノイズの問題は生じにくくなっている。具体的には、本実施形態では、インバランス診断処理は、例えば、20サイクル(=40回転)程度で行うことでき、仮に3000rpmの場合、1回転で1/(3000/60)secであるため、20サイクルでは、1/(3000/60)×40=0.8sでインバランス状態の検知を行うことができる。
【0021】
インバランス判定部44は、インバランス診断部43から出力されるFFT強度を予めメモリに記憶されている所定の閾値と比較し、インバランス状態の有無を判定し、判定したインバランス状態の有無の情報を出力する。
【0022】
センサ制御装置50は、ASIC(Application Specific integrated circuit,特定用途向け集積回路)で実現されており、図2に示すように、基準電圧生成部51、電流供給部52、AD変換部53、PID制御部55(「制御部」の一例)、電流DA変換部58、Rpvs演算部59、デューティ演算部60、ヒータ駆動部61及び入出力部62を備える。また、センサ制御装置50は、ポンプセル31の正極側に電気的に接続されるポンプ電流端子TIp、起電力セル32の負極側とポンプセル31の正極側とに電気的に接続される共通端子TCOM、起電力セル32の負極側に電気的に接続される電圧検出端子TVs、及びヒータ端子THを備える。
【0023】
基準電圧生成部51は、共通端子TCOMに印加される基準電圧を発生させる。本実施形態では、基準電圧は2.7Vとされている。電流供給部52は、電圧検出端子TVsを介して起電力セル32に微小電流Icpを供給することにより、図示しない基準電極側へ酸素イオンを移動させて、ガス検出の基準となる酸素濃度雰囲気を基準電極に生成する。これにより、基準電極は排気ガス中の酸素濃度を検出するための基準となる酸素基準電極として機能する。更に、電流供給部52は、起電力セル32の内部抵抗値を検出するためのパルス電流Irpvsを、電圧検出端子TVsを介して起電力セル32に供給する。
【0024】
AD変換部53は、電圧検出端子TVsから入力されるアナログ信号の電圧値をデジタル信号へ変換し、PID制御部55とRpvs演算部59とに出力する。PID制御部55は、AD変換部53から入力されるデジタル信号に基づいて、電圧検出端子TVsにおける電圧と、共通端子TCOMにおける電圧との電圧差が、予め設定された目標電圧(例えば、450mV)となるように、ポンプ電流Ipを調整するフードバック制御を行う。
【0025】
PID制御部55は、第1制御用定数PID1と、第2制御用定数PID2とが記憶される記憶部56とを備える。第1制御用定数PID1と、第2制御用定数PID2とは、ガスセンサ30を制御するためのPID制御(Proportional-Integral-Differential Controller)に用いられる伝達関数の制御用定数であり、予め記憶部56に記憶されている。第1制御用定数PID1と第2制御用定数PID2との関係は、ガスセンサ30を制御するための伝達関数に用いた場合に、第2制御用定数PID2については、第1制御用定数PID1よりも複数の気筒間の空燃比のインバランス状態の検知感度が高くなる制御用定数とされている。具体的には、本実施形態では、第2制御用定数PID2については、第1制御用定数PID1よりも周波数特性のゲインを上げるようにPIDの値が設定されている。
【0026】
より詳しくは、センサ制御装置50は、図3に示すように、制御対象としてのガスセンサ30に対して制御回路により伝達関数C(s)を用いたフィードバック制御を行っている。
なお、図3の伝達関数C(s)のPID制御(PID演算)部分の伝達関数CPID(s)は、
PID(s)=K+K/s+Ks=K{1+(1/Ts)+Ts}
であり、K:比例定数、K:積分定数、K:微分定数、s:ラプラス演算子、T=K/K:積分時間、T=K/K:微分時間とされる。
そして、第1制御用定数PID1と第2制御用定数PID2とは、図3の伝達関数C(s)のPID制御(PID演算)部分の伝達関数CPID(s)における比例定数K、積分定数K、微分定数Kを異なる定数(値)に切り替えたものである。
【0027】
図2に示すように、PID制御部55は、ECU40から入力される制御用定数の切り替えの指示信号S1,S3に応じて、PID制御(PID演算)に用いられる伝達関数CPID(s)の第1制御用定数PID1と第2制御用定数PID2とを切り替える。ここで、図4A図5A図6Aは、伝達関数Cの周波数特性を示し、図4B図5B図6Bは、閉ループ周波数特性を示す。各図中、ゲイン(利得)を実線で示し、位相(Phase)を破線で示す。図4A図4Bは、第1制御用定数PID1を用いた場合の伝達関数Cの周波数特性、閉ループ周波数特性であり、図5A図5Bは、第1制御用定数PID1よりもゲインを上げるように設定された第2制御用定数PID2を用いた場合の伝達関数Cの周波数特性、閉ループ周波数特性であり、図6A図6Bは、第1制御用定数PID1よりも位相を下げるように設定された第2制御用定数PID2を用いた場合の伝達関数Cの周波数特性、閉ループ周波数特性である。
【0028】
図5Aに示すように、第1制御用定数PID1よりも伝達関数の周波数特性のゲインを上げる第2制御用定数PID2を用いた場合(図5Aの破線矢印に示すように、図4AのグラフG1Aに対して1目盛分だけゲインを上げたグラフG21A)には、図5Bの破線で囲んだ部分に示すように、図4BのグラフG1Bに対してグラフG21Bは応答性が向上している。したがって、伝達関数に第2制御用定数PID2を用いることにより、第1制御用定数PID1を用いる場合よりもインバランス状態の検出感度が高められることがわかる。
【0029】
ここで、インバランス状態の検出感度を高めるためには、第2制御用定数PID2について、伝達関数の周波数特性のゲインを上げるように設定する構成に限られない。具体的には、例えば、他の実施形態として、図6A図6Bに示すように、第2制御用定数PID2は、第1制御用定数PID1よりも伝達関数の周波数特性の位相を下げるように設定された第2制御用定数PID2を用いた場合(図6Aの破線矢印に示すように、図4AのグラフP1Aに対して0.5目盛分だけ位相を下げたグラフP22A)には、図6B(破線で囲んだ部分)に示すように、図4BのグラフP1Bに対してグラフP22Bは応答性が向上している。このように位相を下げるように設定された第2制御用定数PID2を用いることによってもインバランス状態の検出感度が高められることがわかる。なお、伝達関数の周波数特性の位相を下げる場合、図6Bに示すように、所定の周波数の範囲(破線で囲んだ部分)で応答性を向上させることができるものの、点GTのようにゲインが大きくなりすぎる箇所が生じてガスセンサ制御系が発振する可能性があるため、上記した伝達関数の周波数特性のゲインを上げるように設定された第2制御用定数PID2を用いる構成の方がより好ましい。
【0030】
電流DA変換部58は、PID制御部55から入力されるデジタル信号の電流値を、ポンプ電流Ipに変換する。Rpvs演算部59は、電流供給部52がパルス電流Irpvsを供給しているときにAD変換部53から入力されるデジタル信号に基づいて、起電力
セル32の内部抵抗値Rpvsを算出するための演算を実行し、この内部抵抗値Rpvsを示すデジタル信号をデューティ演算部60へ出力する。
【0031】
デューティ演算部60は、Rpvs演算部59から入力されるデジタル信号に基づいて、起電力セル32の温度を予め設定された目標温度に維持するために必要なヒータ33の発熱量を算出する。そしてデューティ演算部60は、算出したヒータ33の発熱量に基づいて、ヒータ33に供給する電力のデューティ比を算出し、算出したデューティ比に応じたPWM(Pulse Width Modulation)制御信号をヒータ駆動部61へ出力する。ヒータ駆動部61は、デューティ演算部60から入力されるPWM制御信号に基づいてヒータ33を発熱させる。
【0032】
ECU40の処理について図7を参照しつつ説明する。
ECU40には、回転角度センサ23により駆動状態判断部41に回転数に応じた検出信号が常時入力されている。図7に示すように、ECU40の駆動状態判断部41は、入力された検出信号により、単位時間当たりの回転数の変動が所定の範囲内(駆動状態が所定の変動範囲内)であるか否かを判断する(S11)。回転数の変動が所定の変動範囲内ではない場合には(S11で「NO」)、燃料の噴射量等の駆動状態の変動が大きくなっており、仮に複数の気筒のインバランス状態の検知を行ったとしても精度の高いインバランス状態の検知を行うことができないため、処理を終了する。
【0033】
一方、単位時間当たりの回転数の変動が所定の範囲内である場合には(S11で「YES」)、センサ制御装置50に対して、当該センサ制御装置50に設定されている伝達関数の第1制御用定数PID1について第2制御用定数PID2への切り替えを指示する指示信号S1を出力する(S12)。
【0034】
次に、センサ制御装置50から伝達関数の制御用定数の切り替えの完了信号S2を受信するのを待つ(S13で「NO」)。センサ制御装置50から伝達関数の制御用定数の切り替えの完了信号S2を受信すると(S13で「YES」)、インバランス診断用演算を行う(S14)。インバランス診断用演算では、インバランス検知部42は、ガスセンサ30により検出された空燃比の検出信号に基づいて高速フーリエ変換処理を実行し、0.5次周波数成分強度及び1次周波数成分強度を算出する。
【0035】
次に、算出した0.5次周波数成分強度及び1次周波数成分強度を予めメモリに記憶されている閾値と比較する(S15)。0.5次周波数成分強度及び1次周波数成分強度が閾値以上である場合には(S15で「YES」)、複数の気筒間で空燃比のインバランス状態が発生している可能性が高いため、インバランス状態であることを示す検知信号を外部等に出力する(S16)。なお、インバランス状態であることを示す検知信号が出力されると、例えば外部等の図示しない警告灯を表示させることができる。一方、0.5次周波数成分強度及び1次周波数成分強度が閾値以上でない場合(S15で「NO」)にはインバランス状態の検知信号を出力しない(又はインバランス状態ではないことを示す検知信号を出力する)。
次に、センサ制御装置50に対して伝達関数の第2制御用定数PID2を、第1制御用定数PID1に切り替える指示信号S3を出力し(S17)、処理を終了する。なお、センサ制御装置50における第1制御用定数PID1への切り替え後に、センサ制御装置50から切り替えが完了したことを示す信号S4を受けて処理を終了するようにしてもよい。
【0036】
センサ制御装置50の処理について図8を参照しつつ説明する。
センサ制御装置50は、図8に示すように、ECU40から制御用定数の切替指示の信号S1があるまで(S21で「NO」)、伝達関数として第1制御用定数PID1を用いてガスセンサ30のフィードバック制御を行う。そして、ECU40から制御用定数の切替指示の信号S1を受信すると(S21で「YES」)、第2制御用定数PID2を記憶部56から読み出し、伝達関数の第1制御用定数PID1を第2制御用定数PID2に切り替え(S22)、ECU40に対して切り替えが完了したことを示す信号S2を出力する。なお、このとき現在設定されている制御用定数に関する情報(例えばPID2を使用することを示す情報や、変更された伝達関数の情報)を記憶部56に記憶してもよい。
【0037】
そして、ECU40から制御用定数を元に戻す切り替えの指示信号S3を受信するまで(S23で「NO」)、第2制御用定数PID2を用いてガスセンサ30の制御を行う。ECU40から制御用定数を元に戻す切り替えの指示信号S3を受信すると(S23で「YES」)、伝達関数の第2制御用定数PID2を第1制御用定数PID1に切り替え(S24)、処理を終了する。なお、第2制御用定数PID2から第1制御用定数PID1への切り替え後に、ECU40に対して切り替えが完了したことを示す信号S4を出力してもよい。
【0038】
本実施形態によれば、以下の作用、効果を奏する。
本実施形態のセンサ制御装置50は、複数の気筒を有する内燃機関11の駆動により排出される排気ガスの濃度を検出するガスセンサ30を制御するセンサ制御装置50であって、複数の気筒間における排気ガスの濃度のインバランス状態の検知が行われる際に、ガスセンサ30を制御するための第1制御用定数PID1を第2制御用定数PID2に切り替えてガスセンサ30を制御するPID制御部55(制御部)を備える。
複数の気筒を有する内燃機関11のインバランス状態について、検知時の精度を向上させるため、センサ制御用定数(PID等)の高周波成分の応答を高めた設定値で常に制御し、センサの高周波信号を増幅する場合には、一般的なノイズも高周波成分であるためノイズ成分が増幅されてしまい、燃料フィードバック制御等の誤作動等の不具合が懸念される。
一方、上記実施形態によれば、インバランス状態の検知が行われる際には、PID制御部55は、第1制御用定数PID1を第2制御用定数PID2に切り替えてガスセンサ30を制御するため、例えば、通常時(インバランス状態の非検知時)とインバランス状態の検知時との双方で高周波成分の応答を高めた一つの制御用定数を用いてガスセンサ30を制御する構成と比較して、燃料フィードバック制御等の誤作動を抑制しつつ、インバランス状態の発生時における検知精度を向上させることが可能になる。
【0039】
また、第2制御用定数PID2は、第1制御用定数PID1よりもインバランス状態の検知感度を高めるように設定されている。
このようにすれば、第1制御用定数PID1を第2制御用定数PID2に切り替えることによりインバランス状態の検知感度を高めることが可能になる。
【0040】
また、PID制御部55は、インバランス状態の検知が行われた後には、第2制御用定数PID2を第1制御用定数PID1に切り替えてガスセンサ30を制御する。
このようにすれば、第2制御用定数PID2の使用時間が長くなることによる燃料フィードバック制御等の精度低下を抑制することができる。
【0041】
また、PID制御部55は、内燃機関11の状態が所定の変動範囲内にある場合に、第1制御用定数PID1を第2制御用定数PID2に切り替えてガスセンサ30を制御する。
このようにすれば、例えば内燃機関11の駆動に関連する状態の変動が大きい場合に制御用定数の切り替えが行われる構成と比較して、内燃機関11の燃料フィードバック制御等に与える影響を少なくすることができる。
【0042】
<他の実施形態>
本明細書に記載された技術は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本明細書に記載された技術の技術的範囲に含まれる。
(1)ガスセンサ30は、ポンプセル31と起電力セル32との2セルで構成されるガスセンサとしたが、これに限られず、ポンプセルと起電力セルとで一つのセンサ素子を構成する1セルのガスセンサを用いてもよい。
【0043】
(2)上記実施形態でソフトウェアによって実現されていた構成の一部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。例えば、PID制御部55は、デジタル処理によりPID演算を行う構成としたが、これに限られず、例えば、抵抗素子、コイル、コンデンサ等を用いたアナログ回路により制御用定数を切り替える(変更する)構成としてもよい。例えば、アナログ回路について第1制御用定数PID1を生成可能な第1抵抗器と、第1抵抗器と抵抗値が異なり、第2制御用定数PID2を生成可能な第2抵抗器とを設け、第1抵抗器と第2抵抗器との一方をスイッチで切り替えることにより第1制御用定数PID1と第2制御用定数PID2とを切り替えるようにしてもよい。また、PID制御部55による演算は、PIDの全ても用いなくてもよく、例えば、P演算、PI演算、PD演算等を行ってもよい。また、制御用定数としてPID以外の定数を用いてもよい。
【0044】
(3)第1制御用定数PID1と第2制御用定数PID2との切り替えは、内燃機関11の駆動に関連する状態の変動に関わらず、インバランス状態の検知が行われる際に行うようにしてもよい。例えば、予め設定されているインバランス状態の検知が行われるタイミング(時間)で第1制御用定数PID1と第2制御用定数PID2との切り替えを行う構成としてもよい。
【0045】
(4)ガスセンサ30として酸素センサを用いる形態を説明したが、酸素以外のガス(例えば、NOxなど)を検出するガスセンサとしてもよい。
(5)記憶部56は、PID制御部55に備えられる構成としたが、これに限られず、PID制御部55以外に、第1制御用定数PID1と第2制御用定数PID2とが記憶される記憶部を備える構成としてもよい。
【0046】
(6)センサ制御装置50とECU40とを別々に構成したが、ECU40の回路構成の一部又は全部をセンサ制御装置内に含めて構成してもよい。
【符号の説明】
【0047】
1:センサシステム,11:内燃機関,30:ガスセンサ,40:ECU,42:インバランス検知部,50:センサ制御装置,55:PID制御部(制御部),56:記憶部,PID1:第1制御用定数,PID2:第2制御用定数
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8