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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-21
(45)【発行日】2023-03-02
(54)【発明の名称】ポリウレタン組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 75/06 20060101AFI20230222BHJP
   C08G 18/42 20060101ALI20230222BHJP
   C08G 18/08 20060101ALI20230222BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20230222BHJP
   C08K 5/42 20060101ALI20230222BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20230222BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20230222BHJP
   H01B 1/10 20060101ALI20230222BHJP
   H01B 1/20 20060101ALI20230222BHJP
【FI】
C08L75/06
C08G18/42
C08G18/08 038
C08K5/17
C08K5/42
H01B1/06 A
H01B13/00 Z
H01B1/10
H01B1/20 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019143245
(22)【出願日】2019-08-02
(65)【公開番号】P2021024934
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100187850
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】大久保 真
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-53265(JP,A)
【文献】特開2018-188493(JP,A)
【文献】特開2006-155968(JP,A)
【文献】特開2000-103958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分岐アルキル基を有するジオールを含むアルコールとジカルボン酸との共縮合物であり、少なくとも2個の活性水素を有するポリエステルポリオール(A)と、有機ポリイソシアネート化合物(B)との縮合物であるポリウレタンを含むポリウレタン組成物であって、さらに、式(1):
【化1】
(式中、Rは、炭素数8以上18以下のアルキル基、R2a及びR2bは、それぞれ独立して、炭素数1以上4以下のアルキル基、Rは炭素数1以上8以下のアルキル基である)
で表されるアルキル硫酸第3級アミン塩と、式(2):
【化2】
(Rは、炭素数8以上18以下のアルキル基、R5a、R5b及びR5cは、それぞれ独立して、炭素数1以上4以下のアルキル基、Rは炭素数1以上8以下のアルキル基である)
で表されるアルキル硫酸第4級アンモニウムとを、1/99以上10/90以下の質量比(アルキル硫酸第3級アミン塩/アルキル硫酸第4級アンモニウム)で含有する、ポリウレタン組成物。
【請求項2】
式(1)で表されるアルキル硫酸第3級アミン塩の含有量が、ポリエステルポリオール(A)100質量部に対して、0.05質量部以上0.5質量部以下である、請求項1記載のポリウレタン組成物。
【請求項3】
式(2)で表されるアルキル硫酸第4級アンモニウムの含有量が、ポリエステルポリオール(A)100質量部に対して、1質量部以上6質量部以下である、請求項1又は2記載のポリウレタン組成物。
【請求項4】
式(1)中のRと式(2)中のRの炭素数の差が2以下である、請求項1~3いずれか記載のポリウレタン組成物。
【請求項5】
さらに、トリフルオロメタンスルホン酸塩を含有する、請求項1~4いずれか記載のポリウレタン組成物。
【請求項6】
式(1):
【化3】
(式中、Rは、炭素数8以上18以下のアルキル基、R2a及びR2bは、それぞれ独立して、炭素数1以上4以下のアルキル基、Rは炭素数1以上8以下のアルキル基である)
で表されるアルキル硫酸第3級アミン塩と、式(2):
【化4】
(Rは、炭素数8以上18以下のアルキル基、R5a、R5b及びR5cは、それぞれ独立して、炭素数1以上4以下のアルキル基、Rは炭素数1以上8以下のアルキル基である)
で表されるアルキル硫酸第4級アンモニウムとを、1/99以上10/90以下の質量比(アルキル硫酸第3級アミン塩/アルキル硫酸第4級アンモニウム)で含有する、ポリウレタン用導電剤。
【請求項7】
さらに、トリフルオロメタンスルホン酸塩を含有する、請求項6記載のポリウレタン用導電剤。
【請求項8】
請求項6又は7記載のポリウレタン用導電剤と、分岐アルキル基を有するジオールを含むアルコールとジカルボン酸との共縮合物であり、少なくとも2個の活性水素を有するポリエステルポリオール(A)とを含む、ポリウレタン製造用ポリオール溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全靴等の靴底、静電気対策マット、台車等のキャスター、防振材等に用いられるポリウレタン組成物、該組成物に用いられるポリウレタン用導電剤、及び該導電剤を含むポリウレタン製造用ポリオール溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、樹脂本来の強度を長期間維持し、成形直後及び経時的に安定な導電性能を示すポリウレタンとして、アルキル硫酸第4級アンモニウム及びトリフルオロメタンスルホン酸塩を含有するポリウレタンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-103958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特に寒冷地や冬季は温度が低くかつ乾燥した状況となり、良好な導電性を得にくく、特に成型直後から良好な導電性を得ることは困難である。そこで、アルキル硫酸第4級アンモニウムとアルキル硫酸第3級アミン塩とを併用したところ、導電性が向上する一方で、強度保持率が低下し、紙等に接触した際に対象物を汚染する、つまりブリードアウトが生じることが判明した。
【0005】
本発明は、高い導電性と強度を維持することができ、さらに、ブリードアウトし難いポリウレタン組成物、該組成物に用いられるポリウレタン用導電剤、及び該導電剤を含むポリウレタン製造用ポリオール溶液に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
〔1〕 分岐アルキル基を有するジオールを含むアルコールとジカルボン酸との共縮合物であり、少なくとも2個の活性水素を有するポリエステルポリオール(A)と、有機ポリイソシアネート化合物(B)との縮合物であるポリウレタンを含むポリウレタン組成物であって、さらに、式(1):
【0007】
【化1】
【0008】
(式中、Rは、炭素数8以上18以下のアルキル基、R2a及びR2bは、それぞれ独立して、炭素数1以上4以下のアルキル基、Rは炭素数1以上8以下のアルキル基である)
で表されるアルキル硫酸第3級アミン塩と、式(2):
【0009】
【化2】
【0010】
(Rは、炭素数8以上18以下のアルキル基、R5a、R5b及びR5cは、それぞれ独立して、炭素数1以上4以下のアルキル基、Rは炭素数1以上8以下のアルキル基である)
で表されるアルキル硫酸第4級アンモニウムとを、1/99以上10/90以下の質量比(アルキル硫酸第3級アミン塩/アルキル硫酸第4級アンモニウム)で含有する、ポリウレタン組成物、
〔2〕 式(1):
【0011】
【化3】
【0012】
(式中、Rは、炭素数8以上18以下のアルキル基、R2a及びR2bは、それぞれ独立して、炭素数1以上4以下のアルキル基、Rは炭素数1以上8以下のアルキル基である)
で表されるアルキル硫酸第3級アミン塩と、式(2):
【0013】
【化4】
【0014】
(Rは、炭素数8以上18以下のアルキル基、R5a、R5b及びR5cは、それぞれ独立して、炭素数1以上4以下のアルキル基、Rは炭素数1以上8以下のアルキル基である)
で表されるアルキル硫酸第4級アンモニウムとを、1/99以上10/90以下の質量比(アルキル硫酸第3級アミン塩/アルキル硫酸第4級アンモニウム)で含有する、ポリウレタン用導電剤、並びに
〔3〕 前記〔2〕記載のポリウレタン用導電剤と、分岐アルキル基を有するジオールを含むアルコールとジカルボン酸との共縮合物であり、少なくとも2個の活性水素を有するポリエステルポリオール(A)とを含む、ポリウレタン製造用ポリオール溶液
に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のポリウレタン組成物は、高い導電性と強度を維持することができ、さらに、ブリードアウトし難いという優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のポリウレタン組成物は、アルキル硫酸第3級アミン塩とアルキル硫酸第4級アンモニウムとを含有している点に大きな特徴を有している。
アルキル硫酸第4級アンモニウムは、ポリウレタンの表面にブリードアウトして、体積抵抗値を小さくするものと推察される。しかしながらその一方で、アルキル硫酸第4級アンモニウムの分子同士が相互作用をしてポリウレタン中で集合体を形成し、ブリードアウトを抑制していると考えられる。ここで第3級アミン塩を併用しアルキル硫酸第4級アンモニウムの集合体に第3級アミン塩を含むことにより、集合体の構造が乱されブリードアウトがし易くなると考えられる。さらに、過剰に第3級アミン塩を併用すると、ブリードアウトが過大となり、ポリウレタンが吸湿しやすくなり、加水分解を促進することによる強度保持率の低下や、紙等に接触した際に汚染が生じると考えられる。本発明では、第4級アンモニウム塩と第3級アミン塩を特定の比率で配合することで、体積抵抗値の低下と、強度保持及びブリードアウト抑制との両立を達成することができた。
本発明のポリウレタン組成物は、安全性に優れ、金属腐食性のない原料を用いて得られるものであり、さらに、ポリウレタン、特にポリウレタンフォームの樹脂本来の強度を長期間維持することができ、特に初期導電性能の発現性に優れ、経時的に安定な導電性能、すなわち優れた帯電防止能を有するものである。
【0017】
アルキル硫酸第3級アミン塩は、式(1):
【0018】
【化5】
【0019】
(式中、Rは、炭素数8以上18以下、好ましくは炭素数10以上18以下のアルキル基、R2a及びR2bは、それぞれ独立して、炭素数1以上4以下のアルキル基、Rは炭素数1以上8以下、好ましくは炭素数1以上4以下のアルキル基、より好ましくはエチル基のアルキル基である)
で表される化合物である。具体的には、エチル硫酸N,N-ジメチル-N-ステアリルアミン塩、メチル硫酸N,N-ジメチル-N-ラウリルアミン塩、エチル硫酸N,N-ジメチル-N-ラウリルアミン塩及びメチル硫酸-N,N,-ジメチル-N-セチルアミン塩等が挙げられる。
【0020】
式(1)で表されるアルキル硫酸第3級アミン塩、例えば、塩交換法、例えば適当な溶媒中でアルキル硫酸金属塩、例えばアルキル硫酸ナトリウムに当量の第3級アミンの強酸塩、例えば第3級アミンの塩酸塩を反応させ、発生する強酸の金属塩をろ過することによって得られる。
【0021】
式(1)で表されるアルキル硫酸第3級アミン塩の含有量は、後述のポリエステルポリオール(A)100質量部に対して、導電性の観点から、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上であり、そして、強度保持及びブリードアウトを抑制する観点から、好ましくは0.8質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下である。
【0022】
なお、式(1)で表されるアルキル硫酸第3級アミン塩以外の他の3級アミン塩を含有することができるが、帯電防止効果発現の観点及びブリードが激しくなる観点から、他の3級アミン塩は、好ましくは1質量%未満、より好ましくは含有しない。他の3級アミン塩としては、例えば、n-アルキル-ジメチルアミン塩、ピリジンの臭化水素塩等が挙げられる。
【0023】
アルキル硫酸第4級アンモニウムは、式(2):
【0024】
【化6】
【0025】
(Rは、炭素数8以上18以下、好ましくは炭素数10以上18以下のアルキル基、R5a、R5b及びR5cは、それぞれ独立して、炭素数1以上4以下のアルキル基、Rは炭素数1以上8以下、好ましくは炭素数1以上4以下のアルキル基、より好ましくはエチル基である)
で表されるである。具体的には、エチル硫酸-N-エチル-N,N-ジメチル-N-ステアリルアンモニウム、メチル硫酸-N,N,N-トリメチル-N-ラウリルアンモニウム、エチル硫酸-N-エチル-N,N-ジメチル-N-ラウリルアンモニウム及びメチル硫酸-N,N,N-トリメチル-N-セチルアンモニウム等が挙げられる。
【0026】
式(2)で表されるアルキル硫酸第4級アンモニウムは、例えば、適当な溶媒中で対応する第3級アミンに当量のジアルキル硫酸を滴下反応させることによって得られる。
【0027】
式(2)で表されるアルキル硫酸第4級アンモニウムの含有量は、後述のポリエステルポリオール(A)100質量部に対して、導電性の観点から、好ましくは5質量部以上、より好ましくは6質量部以上であり、そして、強度保持及びブリードアウト抑制の観点から、好ましくは8質量部以下である。
【0028】
式(1)中のRと式(2)中のRの炭素数の差は2以下であることが好ましい。より好ましくは式(1)中のRと式(2)中のRの同一である
【0029】
式(1)で表されるアルキル硫酸第3級アミン塩と式(2)で表されるアルキル硫酸第4級アンモニウムとの質量比(アルキル硫酸第3級アミン塩/アルキル硫酸第4級アンモニウム)は、導電性の観点から、1/99以上であり、好ましくは2/98以上であり、そして、強度保持及びブリードアウト抑制の観点から、10/90以下であり、好ましくは5/95以下である。
【0030】
また、ポリウレタン組成物中の式(1)で表されるアルキル硫酸第3級アミン塩と式(2)で表されるアルキル硫酸第4級アンモニウムの合計含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上であり、そして、好ましくは7質量%以下、より好ましくは4質量%以下である。
【0031】
また、本発明のポリウレタン組成物は、導電性の観点から、トリフルオロメタンスルホン酸塩を含んでいてもよい。
【0032】
トリフルオロメタンスルホン酸塩としては、トリフルオロメタンスルホン酸アルカリ金属塩、トリフルオロメタンスルホン酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。
【0033】
トリフルオロメタンスルホン酸アルカリ金属塩としては、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム等が挙げられる。
【0034】
トリフルオロメタンスルホン酸アルカリ土類金属塩としては、トリフルオロメタンスルホン酸マグネシウム、トリフルオロメタンスルホン酸カルシウム、トリフルオロメタンスルホン酸ストロンチウム、トリフルオロメタンスルホン酸バリウム等が挙げられる。
【0035】
トリフルオロメタンスルホン酸塩は、1種であっても、2種以上であってもよく、上記例示の中では、トリフルオロメタンスルホン酸アルカリ金属塩が好ましく、トリフルオロメタンスルホン酸リチウムがより好ましい。
【0036】
トリフルオロメタンスルホン酸塩の含有量は、式(1)で表されるアルキル硫酸第3級アミン塩と式(2)で表されるアルキル硫酸第4級アンモニウムの合計100質量部に対して、好ましくは3質量部以上、より好ましくは5質量部以上であり、そして、成型直後と安定化後の導電性を両立させる観点から、好ましくは100質量部以下、より好ましくは50質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下、さらに好ましくは20質量部以下である。
【0037】
また、ポリウレタン組成物中のトリフルオロメタンスルホン酸塩の含有量は、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上であり、そして、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.6質量%以下である。
【0038】
ポリウレタン組成物がトリフルオロメタンスルホン酸塩を含有する場合の、式(1)で表されるアルキル硫酸第3級アミン塩、式(2)で表されるアルキル硫酸第4級アンモニウム、及びトリフルオロメタンスルホン酸塩の合計含有量は、ポリウレタン組成物中、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上であり、そして、引張強度や伸び等のポリウレタン物性の観点から、好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0039】
本発明のポリウレタン組成物は、少なくとも2個の活性水素を有するポリエステルポリオール(A)と有機ポリイソシアネート化合物(B)との縮合物であるポリウレタンを含むが、前記のアルキル硫酸第3級アミン塩、アルキル硫酸第4級アンモニウム、及びトリフルオロメタンスルホン酸塩は、少なくとも2個の活性水素を有するポリエステルポリオール(A)と有機ポリイソシアネート化合物(B)とを縮合させる際に添加して、本発明の組成物に含有させることが好ましい。具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとの混合物、あるいは軟質塩ビ等用の可塑剤等の溶媒に、ポリエステルポリオール(A)、アルキル硫酸第3級アミン塩、アルキル硫酸第4級アンモニウム、及びトリフルオロメタンスルホン酸塩を溶解させて活性水素を有する化合物を含有する溶液に添加し、有機ポリイソシアネート化合物(B)と反応させる方法等が挙げられる。
【0040】
なお、本発明では、さらに、式(1)で表されるアルキル硫酸第3級アミン塩と、式(2)で表されるアルキル硫酸第4級アンモニウムとを含有する、ポリウレタン用導電剤を提供する。かかる導電剤は、ポリウレタン組成物に用いる前記のアルキル硫酸第3級アミン塩とアルキル硫酸第4級アンモニウムと同様に、アルキル硫酸第3級アミン塩/アルキル硫酸第4級アンモニウムを1/99以上10/90以下の質量比(アルキル硫酸第3級アミン塩/アルキル硫酸第4級アンモニウム)で含有し、また、さらに、トリフルオロメタンスルホン酸塩を含有することが好ましい。
【0041】
また、本発明の導電剤と前記ポリエステルポリオール(A)とを含むポリウレタン製造用ポリオール溶液を予め調製し、ポリウレタンを製造する際に、さらに有機ポリイソシアネート化合物(B)と混合して、ポリオール(A)と有機ポリイソシアネート化合物(B)を縮合させてもよい。
【0042】
少なくとも2個の活性水素を有するポリエステルポリオール(A)は、加水分解によるポリウレタンの劣化をより少なくする観点から、分岐アルキル基を有するジオールを含むアルコールとジカルボン酸との共縮合物である。
【0043】
分岐アルキル基を有するジオールとしては、1,2-プロピレングリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール等が挙げられる。脂肪族ジオールの炭素数は、好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、そして、好ましくは10以下、より好ましくは7以下である。
【0044】
ポリエステルポリオールは、有機ポリイソシアネート化合物(B)の原料としてポリウレタンに含まれている場合もあり、分岐アルキル基を有するジオールの含有量は、ポリウレタンを構成するアルコール中、好ましくは40モル%以上、より好ましくは50モル%以上である。分岐アルキル基を有するジオール以外のアルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン等が挙げられる。
【0045】
ジカルボン酸としては、アジピン酸、コハク酸、マレイン酸、フタル酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸等が挙げられ、これらの酸のアルキルエステル又は無水物であってもよい。脂肪族ジカルボン酸の炭素数は、好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、そして、好ましくは12以下、より好ましくは10以下である。
【0046】
ポリエステルポリオール(A)の数平均分子量は、好ましくは500以上、より好ましくは1000以上であり、そして、好ましくは3000以下、より好ましくは2500以下である。ここで、数平均分子量は水酸基価と設計官能基数から算出される値である。
【0047】
有機ポリイソシアネート化合物(B)としては、ポリウレタンの原料として公知のものを特に限定することなく用いることができ、例えば、トリレンジイシシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、及びそれらのイソシアネートを末端に有するプレポリマー及びカルボジイミド変性イソシアネート等が挙げられる。これらの中では、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートとポリオールとのプレポリマー、又はジフェニルメタンジイソシアネートのカルボジイミド変性体が好ましい。
【0048】
ポリエステルポリオール(A)と有機ポリイソシアネート化合物(B)との縮合は、少なくとも前記のアルキル硫酸第3級アミン塩及びアルキル硫酸第4級アンモニウムを用いる以外は常法により行うことができ、発泡剤、触媒、整泡剤等の従来公知のものを適宜使用することができる。
【0049】
発泡剤としては、一般に水を使用する。水の他に、HFCやHFO、メチレンクロライド、ペンタン等の低沸点の有機溶剤も発泡助剤として使用することが出来る。
【0050】
触媒としては、スタナスオクトエート、ジブチル錫ジラウレート等の有機錫化合物、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン、N-エチルモルフォリン、ジメチルエタノールアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、パルミチルジメチルアミン等のアミン類等が挙げられる。
【0051】
整泡剤としては、ポリジメチルシロキサン、ポリシロキサン-ポリアルキレンオキシドブロック共重合体等の市販のポリウレタンフォーム用のシリコーン系化合物、界面活性剤等が挙げられる。
【実施例
【0052】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。また、以下の例中の「部」は特記しない限り質量基準である。実施例及び比較例に使用した化合物を以下に示す。
【0053】
<A成分:ポリエステルポリオール>
ポリ-3-メチル-1,5-ペンタンジオールアジペート(OHV:56mgKOH/g、数平均分子量:2000)
【0054】
<B成分:有機ポリイソシアネート化合物>
ジフェニルメタンジイソシアネート及びポリエチレンアジペート(OHV:56mgKOH/g、数平均分子量:2000)基体末端イソシアネートプレポリマー(NCO%:18%)
【0055】
<P成分:アルキル硫酸第3級アミン塩>
P-1:エチル硫酸N,N-ジメチル-N-ラウリルアミン塩
P-2:エチル硫酸N,N-ジメチル-N-ステアリルアミン塩
【0056】
<Q成分:アルキル硫酸第4級アンモニウム>
Q-1:エチル硫酸-N-エチル-N,N-ジメチル-N-ラウリルアンモニウム
Q-2:エチル硫酸-N-エチル-N,N-ジメチル-N-ステアリルアンモニウム
【0057】
<T成分:トリフルオロメタンスルホン酸塩>
T-1:トリフルオロメタンスルホン酸リチウム
T-2:トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム
【0058】
実施例1~7及び比較例1~3
A成分100部に対し、表1、2に示すP成分、Q成分、及びT成分(実施例6、7及び比較例3のみ)と鎖延長剤としてエチレングリコール8部とを事前に混合したもの、発泡剤として水0.5部、触媒としてトリエチレンジアミン0.4部、及び整泡剤としてシリコーン系界面活性剤〔東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製、商品名:SRX253〕1.0部を配合してプレミックスし、A成分溶液を調製した。これに、表1、2に示すB成分を混合してホモミキサーを用いて8000r/minで5秒間攪拌した後、40℃の調温したアルミ製のモールド(内径:縦300mm×横10mm×厚さ約5mm)に注入し、硬化させて試験片を作製し、以下の試験に供した。なお、A成分及びB成分に際しては原料温度、調製温度、混合後の管理温度全て40℃で調温した。発泡は、混合後さらに40℃で1日放置した後25℃の雰囲気で行った。
【0059】
〔導電性〕
試験片の体積抵抗値を、レジストメーターを使用して測定した。測定は、成形直後の代表値として1日後、安定後の代表値として7日後に行った。
【0060】
〔強度〕
試験片を、恒温恒湿器中(温度80℃・相対湿度95%)に7日間放置した。放置前後に強度(引張強さ)測定を行い、その強度保持率[〔恒温恒湿器中放置後の強度/放置前の強度〕×100]%で算出した。なお、放置後のサンプルは25℃に調温された室内で自然乾燥させた後、引張強さを測定した。引張強さは、ダンベル状3号形試験片を用いてJIS K6251;2017に従って測定した。
【0061】
〔耐ブリードアウト〕
試験片を、恒温恒湿器中(温度40℃・相対湿度65%)に7日間放置した後、さらに室温で1日放置し、この試験片をリサイクルコピー用紙(坪量:64g/m、古紙パルプ70%+森林認証パルプ30%)に0.03kg/cmの荷重で押しつけた。試験片の押しつけによる紙の汚染の程度を目視により観察し、液体のブリードアウトにより紙にまだら模様ができていなければ「〇」、できていれば場合を「×」と評価した。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
以上の結果より、実施例1~7のポリウレタン組成物は、比較例1~3のポリウレタン組成物と対比して、導電性及び強度保持に優れ、ブリードアウトも抑制されていることが分かる。なかでも、トリフルオロメタンスルホン酸塩を含有した実施例6、7のポリウレタン組成物は、実施例2のポリウレタン組成物と対比して、体積抵抗値の低下が顕著であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のポリウレタン組成物は、安全靴等の靴底、静電気対策マット、台車等のキャスター、防振材等に用いられるものである。