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特許7232158酸性水溶液の製造装置及び酸性水溶液の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-21
(45)【発行日】2023-03-02
(54)【発明の名称】酸性水溶液の製造装置及び酸性水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/461 20230101AFI20230222BHJP
   C02F 1/469 20230101ALI20230222BHJP
   B01D 61/46 20060101ALI20230222BHJP
【FI】
C02F1/461 A
C02F1/461 Z
C02F1/469
B01D61/46 500
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019162099
(22)【出願日】2019-09-05
(65)【公開番号】P2021037498
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】390014579
【氏名又は名称】デノラ・ペルメレック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】小澤 学
(72)【発明者】
【氏名】錦 善則
(72)【発明者】
【氏名】加藤 昌明
(72)【発明者】
【氏名】森田 理恵
【審査官】松本 要
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-083890(JP,A)
【文献】特開平05-214573(JP,A)
【文献】特開平06-269777(JP,A)
【文献】特開2004-181339(JP,A)
【文献】特開2002-285369(JP,A)
【文献】特開2004-010904(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00- 1/78
B01D 61/00-71/82
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化物イオン及びアルカリ金属イオンを含む排水から酸性水溶液を製造する酸性水溶液の製造装置であって、
1価イオン選択透過性イオン交換膜を有し、前記排水を電気透析処理により電気透析濃縮水と電気透析希釈水とに分離する電気透析装置と、
前記電気透析濃縮水を電気分解して、酸性水溶液を製造する電気分解装置と、
前記酸性水溶液の少なくとも一部を、前記電気透析装置に供給される前記排水に循環させる第1の循環部とを備え、
前記1価イオン選択透過性イオン交換膜における陽イオン交換膜は、メタフェノールスルホン酸-フェノール樹脂、又はスチレン-ジビニルベンゼン共重合体をスルホン化反応させた樹脂であり、その樹脂表面にポリエチレンイミンを含むカチオン性高分子電解質を形成したものであり、
前記1価イオン選択透過性イオン交換膜における陰イオン交換膜は、メタフェニレンジアミン-フェノール系縮合樹脂、又はスチレン-ジビニルベンゼン共重合体をアミノ化反応させた樹脂であり、
さらに、前記酸性水溶液の少なくとも一部を前記電気分解装置に循環させる第2の循環部を備える、酸性水溶液の製造装置。
【請求項2】
前記電気分解装置は、アノードが水素ガス拡散電極である、請求項1に記載の酸性水溶液の製造装置。
【請求項3】
さらに、前記電気透析濃縮水の一部を電気分解して、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を製造する次亜塩素酸ナトリウム製造装置を備える、請求項1又は2に記載の酸性水溶液の製造装置。
【請求項4】
さらに、前記電気透析濃縮水の一部を電気分解して、過酸化水素を製造する過酸化水素製造装置を備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の酸性水溶液の製造装置。
【請求項5】
塩化物イオン及びアルカリ金属イオンを含む排水から、酸性水溶液を製造する酸性水溶液の製造方法であって、
1価イオン選択透過性イオン交換膜を有する電気透析装置を用いて、前記排水を電気透析処理により電気透析濃縮水と電気透析希釈水とに分離する電気透析工程と、
前記電気透析濃縮水を電気分解して、酸性水溶液を製造する電気分解工程と、
前記酸性水溶液の少なくとも一部を、前記電気透析工程に供給される前記排水に循環させる第1の循環工程とを有し、
前記1価イオン選択透過性イオン交換膜における陽イオン交換膜は、メタフェノールスルホン酸-フェノール樹脂、又はスチレン-ジビニルベンゼン共重合体をスルホン化反応させた樹脂であり、その樹脂表面にポリエチレンイミンを含むカチオン性高分子電解質を形成したものであり、
前記1価イオン選択透過性イオン交換膜における陰イオン交換膜は、メタフェニレンジアミン-フェノール系縮合樹脂、又はスチレン-ジビニルベンゼン共重合体をアミノ化反応させた樹脂であり、
さらに、前記酸性水溶液の少なくとも一部を前記電気分解工程で用いる第2の循環工程を有する、酸性水溶液の製造方法。
【請求項6】
前記電気分解工程を水素酸化反応によって行う、請求項5に記載の酸性水溶液の製造方法。
【請求項7】
さらに、前記電気透析濃縮水の一部を電気分解して、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を製造する次亜塩素酸ナトリウム製造工程を有する、請求項5又は6に記載の酸性水溶液の製造方法。
【請求項8】
さらに、前記電気透析濃縮水の一部を電気分解して、過酸化水素を製造する過酸化水素製造工程を有する、請求項5~7のいずれか一項に記載の酸性水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性水溶液の製造装置及び酸性水溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排水処理のプロセスでは、排水を処理するために、酸性水溶液の添加が必須となっている。例えば、排水処理のプロセスを正常に機能させるために、酸性水溶液を添加して、pHの調整が行われる。また、装置によっては、定期的に該装置を化学的、物理的に洗浄する必要があり、その際に酸性水溶液を使用する必要がある。例えば、キレート処理、イオン交換樹脂等ではそれらを定期的に酸性水溶液で洗浄して、性能を回復させる必要がある。
【0003】
一方で、上記排水処理のプロセスで使用する酸性水溶液は、外部から搬送して、貯蔵する必要があるため、経済的な負担が大きかった。
【0004】
これに対して、例えば特許文献1では、塩類及び有機物を含有する有機性廃水に対して軟化処理を行ってカルシウム濃度を低減させる第1軟化処理装置と、生物処理、凝集沈殿処理、活性炭吸着処理、砂ろ過処理、精密ろ過膜処理からなる群から選ばれる1以上の処理または2以上の組み合わせからなるSS除去処理装置と、電気透析処理により電気透析濃縮水と電気透析処理水とに分離する電気透析処理装置、逆浸透膜処理により逆浸透濃縮水と逆浸透膜処理水とに分離する逆浸透膜処理装置、NF膜処理によりNF膜濃縮水とNF膜処理水とに分離するNF膜処理装置のうちの何れかの装置或いはこれらのうちの2種類以上の装置を含む塩類除去装置と、前記電気透析濃縮水、逆浸透濃縮水又はNF膜濃縮水に対して、軟化処理を行ってカルシウム濃度を低減させる第2軟化処理装置と、第2軟化処理装置で得られた第2軟化処理水を電気分解して次亜塩素酸ナトリウム溶液を生成する電解処理装置と、を備えた有機性廃水の処理装置が開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、被処理排水を前置電気透析槽の希釈液室に供給し、前置電気透析槽内でイオン交換膜を透過したイオンが中和して生成した塩を含む濃縮液を、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を隔膜とする陽極室、中央室、陰極室の3室を単位として構成される電解透析槽に供給して塩を構成する酸と塩基に分解して回収する、一価イオンの中性塩を含む排水の処理方法及び該処理方法を適用する処理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-14738号公報
【文献】特開平08-001168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、排水処理において、排水処理のプロセスで使用する酸性水溶液をオンサイトで製造、利用することができれば、該酸性水溶液を外部から搬送して、貯蔵する必要がなくなり、経済的な負担を大幅に低減することができると考えられる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、排水処理のプロセスで使用する酸性水溶液をオンサイトで製造、利用することができ、経済的な負担を大幅に低減することのできる酸性水溶液の製造装置及び酸性水溶液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用した。
すなわち、本発明の第1の態様は、塩化物イオン及びアルカリ金属イオンを含む排水から酸性水溶液を製造する酸性水溶液の製造装置であって、1価イオン選択透過性イオン交換膜を有し、前記排水を電気透析処理により電気透析濃縮水と電気透析希釈水とに分離する電気透析装置と、前記電気透析濃縮水を電気分解して、酸性水溶液を製造する電気分解装置と、前記酸性水溶液の少なくとも一部を、前記電気透析装置に供給される前記排水に循環させる第1の循環部とを備える、酸性水溶液の製造装置である。
【0010】
本発明の第1の態様に係る酸性水溶液の製造装置において、さらに、前記酸性水溶液の少なくとも一部を前記電気分解装置に循環させる第2の循環部を備えていてもよい。
【0011】
本発明の第1の態様に係る酸性水溶液の製造装置において、前記電気分解装置は、アノードが水素ガス拡散電極であってもよい。
【0012】
本発明の第1の態様に係る酸性水溶液の製造装置において、さらに、前記電気透析濃縮水の一部を電気分解して、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を製造する次亜塩素酸ナトリウム製造装置を備えていてもよい。
【0013】
本発明の第1の態様に係る酸性水溶液の製造装置において、さらに、前記電気透析濃縮水の一部を電気分解して、過酸化水素を製造する過酸化水素製造装置を備えていてもよい。
【0014】
本発明の第2の態様は、塩化物イオン及びアルカリ金属イオンを含む排水から、酸性水溶液を製造する酸性水溶液の製造方法であって、前記排水を電気透析処理により電気透析濃縮水と電気透析希釈水とに分離する電気透析工程と、前記電気透析濃縮水を電気分解して、酸性水溶液を製造する電気分解工程と、前記酸性水溶液の少なくとも一部を、前記電気透析工程に供給される前記排水に循環させる第1の循環工程とを有する、酸性水溶液の製造方法である。
【0015】
本発明の第2の態様に係る酸性水溶液の製造方法において、さらに、前記酸性水溶液の少なくとも一部を前記電気分解工程で用いる第2の循環工程を有していてもよい。
【0016】
本発明の第2の態様に係る酸性水溶液の製造方法において、前記電気分解工程を水素酸化反応によって行ってもよい。
【0017】
本発明の第2の態様に係る酸性水溶液の製造方法において、さらに、前記電気透析濃縮水の一部を電気分解して、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を製造する次亜塩素酸ナトリウム製造工程を有していてもよい。
【0018】
本発明の第2の態様に係る酸性水溶液の製造方法において、さらに、前記電気透析濃縮水の一部を電気分解して、過酸化水素を製造する過酸化水素製造を有していてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の酸性水溶液の製造装置及び酸性水溶液の製造方法によれば、排水処理のプロセスで使用する酸性水溶液をオンサイトで製造、利用することができ、経済的な負担を大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1の実施形態の酸性水溶液の製造装置100の模式図である。
図2】電気透析装置の一例である電気透析装置111を示す模式図である。
図3】電気分解装置の一例である2室電気分解装置121を示す模式図である。
図4】電気分解装置の一例である3室電気分解装置125を示す模式図である。
図5】第2の実施形態の酸性水溶液の製造装置101の模式図である。
図6】次亜塩素酸ナトリウム製造装置の一例である次亜塩素酸ナトリウム製造装置131を示す模式図である。
図7】第3の実施形態の酸性水溶液の製造装置102の模式図である。
図8】過酸化水素製造装置の一例である過酸化水素製造装置141を示す模式図である。
図9】第4の実施形態の酸性水溶液の製造装置103の模式図である。
図10】第1の実施形態の酸性水溶液の製造方法の模式図である。
図11】第2の実施形態の酸性水溶液の製造方法の模式図である。
図12】第3の実施形態の酸性水溶液の製造方法の模式図である。
図13】第4の実施形態の酸性水溶液の製造方法の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[概要]
近年、人口増加、生活水準の向上に伴い、上水使用量が増加して、水資源が不足している。また、河川や排水の水質劣化が進行して、その対策が世界各地で急務となっている。例えば、水資源の持続的な使用を目的として、再生水を利用するための事業が検討されている。
【0022】
排水処理は、一般的に、1次処理、2次処理、3次処理に分かれる。
1次処理では、大きなごみ(SS:浮遊物質;具体的には、ふん尿が混合した汚水中の固形物)を除去する処理である。
2次処理では、1次処理で取り除けなかった汚水中の有機物を微生物の働きによって除去する処理である。具体的には、簡易ばっ気処理、活性汚泥処理、メタン発酵処理等を行う。
3次処理(高度処理、後処理)では、窒素、リン、難分解性物質等を化学的、物理的、生物学的方法で除去する。
化学的処理としては、凝集剤などを用いた汚濁物質分離、オゾンなどの酸化剤により汚濁物質分解等が挙げられる。
物理的処理としては、活性炭吸着や膜処理による分離がある。
該膜処理による分離に用いられる膜としては、逆浸透膜(RO膜;Reverse osmosis membrane)、限外ろ過膜(UF膜;Ultrafiltration membrane)、精密ろ過膜(MF膜;Microfiltration membrane)等が利用されている。
【0023】
上記排水処理のプロセスでは、排水を処理するために、酸性水溶液の添加が必須となっている。例えば、排水処理のプロセスを正常に機能させるために、酸性水溶液を添加して、pHの調整が行われる。また、装置によっては、定期的に該装置を化学的、物理的に洗浄する必要があり、その際に酸性水溶液を使用する必要がある。例えば、キレート処理、イオン交換樹脂等ではそれらを定期的に酸性水溶液で洗浄して、性能を回復させる必要がある。
【0024】
一方で、上記排水処理のプロセスで使用する酸性水溶液は、外部から搬送して、貯蔵する必要があるため、経済的な負担が大きかった。
【0025】
上述した特許文献1に記載されている従来の有機性廃水の処理装置では、次亜塩素酸ナトリウムを製造することはできるが、排水処理のプロセスで使用する酸性水溶液をオンサイトで製造することはできなかった。
また、特許文献2に記載されている排水の処理装置では、酸性水溶液を外部から搬送するという問題は解決できるものの、生成した酸性水溶液を貯蔵しなければならないという問題は解決されていない。そのため、従来の処理方法では、排水処理のプロセスで使用する酸性水溶液をオンサイトで製造、利用することはできなかった。
【0026】
本実施形態の酸性水溶液の製造装置は、塩化物イオン及びアルカリ金属イオンを含む排水(以下、単に排水ともいう)から酸性水溶液を製造する酸性水溶液の製造装置であって、1価イオン選択透過性イオン交換膜を有し、前記排水を電気透析処理により電気透析濃縮水と電気透析希釈水とに分離する電気透析装置と、前記電気透析濃縮水を電気分解して、酸性水溶液を製造する電気分解装置と、前記酸性水溶液の少なくとも一部を、前記電気透析装置に供給される前記排水に循環させる第1の循環部とを備えるものである。これにより、排水処理のプロセスで使用する酸性水溶液をオンサイトで現地生成・現地消費という完結型(Zero Chemical Charge(ZCC):薬品無投入化)様式を達成することができ、経済的な負担を大幅に低減することができる。
【0027】
(酸性水溶液の製造装置)
本発明の第1の態様は、塩化物イオン及びアルカリ金属イオンを含む排水から酸性水溶液を製造する酸性水溶液の製造装置であって、1価イオン選択透過性イオン交換膜を有し、前記排水を電気透析処理により電気透析濃縮水と電気透析希釈水とに分離する電気透析装置と、前記電気透析濃縮水を電気分解して、酸性水溶液を製造する電気分解装置と、前記酸性水溶液の少なくとも一部を、前記電気透析装置に供給される前記排水に循環させる第1の循環部とを備える、酸性水溶液の製造装置である。
【0028】
<第1の実施形態の酸性水溶液の製造装置>
第1の実施形態の酸性水溶液の製造装置は、電気透析装置と、電気分解装置と、第1の循環部とを備える。
第1の実施形態の酸性水溶液の製造装置について、図1を用いて詳細に説明する。
【0029】
・排水
本実施形態の酸性水溶液の製造装置における排水(原料水)としては、少なくとも塩化物イオン及びアルカリ金属イオンを含み、再利用や河川などへの放流ができない有機性廃水が挙げられる。具体的には、海水、し尿、ゴミの埋め立て地の浸出水等の塩類濃度が高い有機性廃水等が挙げられる。これらは一般的に、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、ナトリウムイオン、シリカ(イオン状シリカ、コロイド状シリカ)、塩化物イオン、炭酸イオン等の不純物(以下、各種イオン成分ともいう)を含んでいる。
【0030】
本実施形態の効果をより一層享受できる観点から、排水の塩化物イオン濃度の下限値は0.01mg/L以上であることが好ましい。一方で、排水の塩化物イオン濃度の上限値は、特に限定されず、例えば、500mg/L以下である。
また、排水のアルカリ金属イオン濃度の下限値は0.01mg/L以上であることが好ましい。一方で、排水のアルカリ金属イオン濃度の上限値は、特に限定されず、例えば、500mg/L以下である。
【0031】
なお、本明細書において、陽イオンの濃度は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法において測定した値を意味する。具体的には、アルゴンガスのICPを光源とする発光分光分析装置(ICP-AES;SPS5520、セイコーインスツル社製)を用いて測定した値である。
一方、陰イオンの濃度は、イオンクロマトグラフ分析装置(ICA-2000;東亜ディーケーケー社製)を用いて測定した値を意味する。
【0032】
図1に示す、第1の実施形態の酸性水溶液の製造装置100は、以下の構成を有する。
排水を供給する排水流入管10が電気透析装置110の電気透析希釈室に接続されている。また、透析用水を供給する透析用水電気透析濃縮室供給管9が電気透析装置110の電気透析濃縮室に接続されている。電気透析装置110の出口側には、電気透析濃縮水供給管11及び電気透析希釈水排出管12が接続されている。電気透析装置110は、電気透析濃縮水供給管11を介して電気分解装置120に接続されている。電気分解装置120出口側には、第1の循環部13、酸性水排出管14、及び第2の循環部15が接続されている。
【0033】
電気透析装置110は、1価イオン選択透過性イオン交換膜を有し、塩化物イオン及びアルカリ金属イオンを含む排水を電気透析処理により電気透析濃縮水と電気透析希釈水とに分離する装置である。
電気透析装置110として、具体的には、図2に示す1価イオン選択透過性イオン交換膜を有する電気透析装置111が挙げられる。
1価イオン選択透過性イオン交換膜を有する電気透析装置111は、アノード112及びカソード113を備える。さらに、その間に1価陰イオン選択透過性イオン交換膜114と1価陽イオン選択透過性イオン交換膜115とをそれぞれ交互に備えることにより、電気透析希釈室116及び電気透析濃縮室117に分けられている。
【0034】
電気透析装置110の電気透析希釈室には、排水を供給する排水流入管10が接続されている。一方で、電気透析装置110の電気透析濃縮室には、透析用水を供給する透析用水電気透析濃縮室供給管9が接続されている。ここで、透析用水とは多価イオンの少ない水(例えば、水道水等)である。
多価イオンの少ない透析用水を電気透析装置の電気透析濃縮室に供給することにより、後述の電気分解装置の酸性水溶液の製造効率を向上させることができる。
【0035】
なお、第1の実施形態の酸性水溶液の製造装置100は、透析用水電気透析濃縮室供給管9を備えているが、排水の水質によっては、透析用水電気透析濃縮室供給管9を備えていなくてもよく、電気透析装置110には排水流入管10のみが接続されていてもよい。すなわち、電気透析装置110の電気透析濃縮室及び電気透析希釈室共に排水が供給されるような態様であってもよい。
【0036】
アノード112として、具体的には、酸化に安定な導電性金属基体上に触媒を焼成して、触媒層が形成された電極等が挙げられる。
該導電性金属としては、チタン等が挙げられる。
該触媒としては、白金、イリジウム、ルテニウム、ロジウム等の貴金属;チタン、タンタル等の弁金属(バルブメタル);該弁金属(バルブメタル)の酸化物などが挙げられる。
【0037】
アノード112において、該導電性金属基体の厚さは0.05~5mmが好ましい。
また、該触媒層の厚さは0.1~100μmが好ましい。
【0038】
アノード112の空隙率は10~95%が好ましい。
触媒の密着力を高めるために、該導電性金属には粗面化処理が行われていることが好ましい。該粗面化処理としては、粉末を吹き付けるブラスト処理、可溶性の酸を用いたエッチング、プラズマ溶射等が挙げられる。
【0039】
アノード112を製造する際、触媒層を形成する前に、上記導電性金属基体上に、AIP(アークイオンプレーティング)法により結晶質のタンタル及びチタン成分を含有するバルブメタル基合金よりなるAIP下地層を形成することが好ましい。該導電性金属基体上に、AIP下地層を設けた場合、金属基体の界面腐食をより一層防止することができる。また、AIP下地層に代えて、TiTaOx酸化物層よりなる下地層を形成してもよい。
【0040】
アノード112として、より具体的には、PtとIr酸化物からなる触媒を形成したTiメッシュ電極等を用いることができる。
【0041】
カソード113としては、アノード112と同様に、酸化に安定な導電性金属基体上に触媒を焼成して、触媒層が形成された電極等が挙げられる。
該導電性金属としては、チタン、ニッケル、鉄、ステンレス、カーボン等が挙げられる。
該触媒としては、白金、イリジウム、ルテニウム、ロジウム等の貴金属;チタン、タンタル等の弁金属(バルブメタル);該弁金属(バルブメタル)の酸化物などが挙げられる。
また、カソード113としては、白金めっきを施した導電性金属を用いてもよい。
【0042】
1価陰イオン選択透過性イオン交換膜114として、具体的には、陰イオン交換膜の表面に緻密な構造の膜を形成したものが挙げられる。該膜によって、多価イオンの移動がふるい効果により制限されるため、多価イオンの輸率が減少する。
陰イオン交換膜として、具体的には、メタフェニレンジアミン-フェノール系縮合樹脂、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体をアミノ化反応させた樹脂等が挙げられる。
【0043】
1価陰イオン選択透過性イオン交換膜114の市販例としては、ACS(アストム社製)等を用いることができる。
【0044】
1価陽イオン選択透過性イオン交換膜115として、具体的には、陽イオン交換膜の表面に緻密な構造の膜を形成したものが挙げられる。該膜によって、多価イオンの移動がふるい効果により制限されるため、多価イオンの輸率が減少する。
陽イオン交換膜として、具体的には、メタフェノールスルホン酸-フェノール樹脂、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体をスルホン化反応させた樹脂等が挙げられる。
また、1価陽イオン選択透過性イオン交換膜115としては、ポリエチレンイミンを含むカチオン性高分子電解質をカチオン交換膜表面に形成したものであってもよい。この場合、多価カチオンほど斥力効果により表面の移動が束縛を受け、一価カチオン選択性が発現する。
【0045】
1価陽イオン選択透過性イオン交換膜115の市販例としては、CIMS(アストム社製)等を用いることができる。
【0046】
酸性水溶液の製造装置100は、1価イオン選択透過性イオン交換膜を有する電気透析装置110を備えることにより、排水中の1価のアニオン(塩化物イオン)の濃度を高くすることができるため、後述する電気分解装置120において、酸性水溶液をより効率よく製造できる。また、電気分解装置120に付着しやすい多価イオンを予め除去することができる。
【0047】
電気透析装置110により製造される電気透析希釈水は電気透析希釈水排出管12を通り排出される。
一方、電気透析装置110により製造される電気透析濃縮水は電気透析濃縮水供給管11を通り、電気分解装置120に供給される。
【0048】
電気分解装置120は、上記の電気透析濃縮水を電気分解して酸性水溶液とアルカリ性水溶液とを製造する装置である。
電気分解装置120として、具体的には、図3に示す2室電気分解装置121、図4に示す3室電気分解装置125等が挙げられる。
【0049】
図3に示す2室電気分解装置121はアノード122及びカソード123を有し、隔膜124によってアノード室及びカソード室に分けられている。
【0050】
アノード122としては、上述した電気透析装置110のアノード112と同様のものが挙げられる。その中でも、水素ガス拡散電極を用いることが好ましい。
水素ガス拡散電極を用いることにより、塩素の発生をより抑制することができる。
【0051】
水素ガス拡散電極は、水素を酸化しやすい触媒粒子及び該触媒粒子の担体となるカーボン粒子からなるガス電極である。
触媒粒子として、具体的には、白金、ルテニウム等が挙げられる。
【0052】
水素ガス拡散電極の具体的な態様としては、支持体と給電部を備える電極が挙げられる。
水素ガス拡散電極の支持体としては、触媒粒子を有する導電性のカーボン材料(シート、クロス、ペーパー等)上に疎水性樹脂を固定したものが挙げられる。
給電部としては、酸性に耐久性のある材料で作製した金属メッシュ等の多孔性板が挙げられる。上記支持体と給電部とは、圧着により接合されている。
【0053】
カソード123としては、上述した電気透析装置110のカソード113と同様のものが挙げられる。
【0054】
隔膜124として、具体的には、イオン交換膜、多孔性を有する樹脂フィルム及び多孔性を有するセラミックフィルム等が挙げられる。その中でも、多孔性を有する樹脂フィルム及び多孔性を有するセラミックフィルムのような中性膜を備えることが好ましい。多孔性を有する樹脂フィルムの市販品例としては、ユアサメンブレンシステム社製のY9201等が挙げられる。
【0055】
図4に示す3室電気分解装置125はアノード126及びカソード127を有し、アノード126側の陰イオン交換膜128、及びカソード127側の陽イオン交換膜129によってアノード室1、中間室2、カソード室3に分けられている。
3室電気分解装置125においては、電気分解は中間室2のみで行われ、中間室2で発生したイオンが、両側のアノード室1、及びカソード室3に移動する。
【0056】
電気透析濃縮水から電気分解により、アノード室1では、酸性水溶液、カソード室3では、塩基性水溶液が製造される。3室電気分解装置125は、上記2室電気分解装置121とは異なり、酸性水溶液及び塩基性水溶液に塩水が混ざらないというメリットを有する。
なお、3室電気分解装置125におけるアノード126及びカソード127としては、それぞれ2室電気分解装置121におけるアノード122及びカソード123と同様のものが挙げられる。
【0057】
電気分解装置120を用いて、例えば、ナトリウムイオン及び塩化物イオンを含む排水を電気分解すると、下記式(1)に示す反応が進行して、水酸化ナトリウム水溶液(アルカリ性水溶液)及び塩酸(酸性水溶液)が得られる。
NaCl+2HO=NaOH+HCl+H+1/2O・・・(1)
【0058】
また、アノードが水素ガス拡散電極である電気分解装置120を用いた場合は、アノードでは、下記式(2)に示す水素酸化反応が起こる。また、全反応は下記式(3)に示す通りである。
=2H+2e・・・(2)
NaCl+HO=NaOH+HCl・・・(3)
【0059】
原料水素ガスはカソードで発生する高純度の電解水素ガスを用いる。塩素発生電位より卑な電位に保持することで塩素発生を抑制することができる。
【0060】
電気分解装置120で製造される酸性水溶液(例えば、塩酸)は、第1の循環部13及び排水流入管10を介して、電気透析装置110に供給される排水に循環される。
電気分解装置120で製造される酸性水溶液を、排水に循環させ、排水のpHを調整することができる。
例えば、上述した電気透析装置110に供給される排水が、既に炭酸カルシウムを除去する晶析装置や、重金属を水酸化物として沈殿除去するアルカリ沈殿装置により、処理されている場合もある。その場合、該排水はアルカリ性(pH11以上程度)であるため、電気分解装置120で製造される酸性水溶液を、排水に循環させ、排水のpHを調整することが好ましい。具体的には、排水のpHが10以下となるように調整することが好ましく、排水のpHが3~9となるように調整することがより好ましい。
これにより、1価陰イオン選択透過性イオン交換膜114及び1価陽イオン選択透過性イオン交換膜115の劣化をより防止することができる。
【0061】
なお、本明細書において、各種水溶液のpHは、各種水溶液の25℃におけるpHをpHメーター(D74、堀場製作所社製)で測定した値を意味する。
【0062】
また、電気分解装置120で製造される酸性水溶液(例えば、塩酸)は、第2の循環部15を介して、電気分解装置120の停止時に、電気分解装置120内を洗浄する際に利用される。なお、電気分解装置120は、該酸性水溶液を貯蔵する貯蔵槽を備えていてもよい。
【0063】
なお、図1示す第1の実施形態の酸性水溶液の製造装置の模式図において、酸性水溶液の製造装置100は、上記第2の循環部15を備えているが、備えていなくてもよい。
【0064】
また、電気分解装置120は、電気分解装置120で製造されるアルカリ性水溶液を利用するために、他の装置と接続されていてもよい。他の装置としては、例えば、アルカリ性水溶液を利用して、炭酸カルシウムを除去する晶析装置や、重金属を水酸化物として沈殿除去するアルカリ沈殿装置等が挙げられる。
【0065】
以上説明した第1の実施形態の酸性水溶液の製造装置100は、上述した電気透析装置110と、電気分解装置120と、第1の循環部13とを備える。排水のpHを調整して、該電気透析装置が有する1価イオン選択透過性イオン交換膜の劣化を防止するために必要な酸性水溶液を、オンサイトで電気分解装置120で製造し、第1の循環部13を介して電気透析装置110で利用することができるため、酸性水溶液を外部から搬送して、貯蔵する必要がなくなり、経済的な負担を大幅に低減することができる。
【0066】
<第2の実施形態の酸性水溶液の製造装置>
第2の実施形態の酸性水溶液の製造装置は、第1の実施形態の酸性水溶液の製造装置にさらに次亜塩素酸ナトリウム製造装置を備える。すなわち、第2の実施形態の酸性水溶液の製造装置は、電気透析装置と、電気分解装置と、第1の循環部と、次亜塩素酸ナトリウム製造装置とを備える。
第2の実施形態の酸性水溶液の製造装置について、図5を用いて詳細に説明する。
【0067】
図5に示す、第2の実施形態の酸性水溶液の製造装置101は、以下の構成を有する。
排水を供給する排水流入管10が電気透析装置110の電気透析希釈室に接続されている。また、透析用水を供給する透析用水電気透析濃縮室供給管9が電気透析装置110の電気透析濃縮室に接続されている。電気透析装置110の出口側には、第1の電気透析濃縮水供給管11、電気透析希釈水排出管12、及び第2の電気透析濃縮水供給管16が接続されている。電気透析装置110は、電気透析濃縮水供給管11を介して電気分解装置120に接続されている。電気分解装置120出口側には、第1の循環部13、酸性水排出管14、及び第2の循環部15が接続されている。また、電気透析装置110は、第2の電気透析濃縮水供給管16を介して次亜塩素酸ナトリウム製造装置130と接続されている。次亜塩素酸ナトリウム製造装置130の出口側には、次亜塩素酸ナトリウム水溶液排出管17が接続されている。
【0068】
次亜塩素酸ナトリウム製造装置130は、電気透析濃縮水の一部を電気分解して、次亜塩素酸ナトリウムを製造する装置である。
次亜塩素酸ナトリウム製造装置130として、具体的には、図6に示す1室電気分解装置131が挙げられる。1室電気分解装置131は、アノード132及びカソード133を備える。
なお、次亜塩素酸ナトリウム製造装置131におけるアノード132及びカソード133としては、それぞれ2室電気分解装置121におけるアノード122及びカソード123と同様のものが挙げられる。
【0069】
次亜塩素酸ナトリウム製造装置130において、下記式(4)に示す反応が起こり、排水中に含まれる塩化物イオンから次亜塩素酸ナトリウムを製造することができる。
2Cl=Cl+2e
2NaOH+Cl→NaCl+NaClO+HO・・・(4)
【0070】
上記次亜塩素酸ナトリウムは、例えば、排水処理を行った処理水の消毒剤として利用することができる。そのため、次亜塩素酸ナトリウム水溶液排出管17を排水処理を行った排水を排出する管に接続すれば、該次亜塩素酸ナトリウムをオンサイトで利用することができる。
【0071】
なお、第2の実施形態の酸性水溶液の製造装置101は、透析用水電気透析濃縮室供給管9を備えているが、排水の水質によっては、透析用水電気透析濃縮室供給管9を備えていなくてもよく、電気透析装置110には排水流入管10のみが接続されていてもよい。すなわち、電気透析装置110の電気透析濃縮室及び電気透析希釈室共に排水が供給されるような態様であってもよい。
【0072】
また、第2の実施形態の酸性水溶液の製造装置101は、電気分解装置120で製造される酸性水溶液(例えば、塩酸)を、電気分解装置120内を洗浄するために循環させる、第2の循環部15を備えているが、備えていなくてもよい。
【0073】
以上説明した第2の実施形態の酸性水溶液の製造装置101は、上述した第1の実施形態の酸性水溶液の製造装置100の効果に加えて、処理水の消毒剤として用いる次亜塩素酸ナトリウム水溶液をオンサイトで次亜塩素酸ナトリウム製造装置130において製造することができる。また、製造された次亜塩素酸ナトリウム水溶液を処理水に添加することで該次亜塩素酸ナトリウム水溶液を消毒剤として利用することができる。
【0074】
<第3の実施形態の酸性水溶液の製造装置>
第3の実施形態の酸性水溶液の製造装置は、第1の実施形態の酸性水溶液の製造装置にさらに過酸化水素製造装置を備える。すなわち、第2の実施形態の酸性水溶液の製造装置は、電気透析装置と、電気分解装置と、第1の循環部と、過酸化水素製造装置とを備える。
第3の実施形態の酸性水溶液の製造装置について、図7を用いて詳細に説明する。
【0075】
図7に示す、第3の実施形態の酸性水溶液の製造装置102は、以下の構成を有する。
排水を供給する排水流入管10が電気透析装置110の電気透析希釈室に接続されている。また、透析用水を供給する透析用水電気透析濃縮室供給管9が電気透析装置110の電気透析濃縮室に接続されている。電気透析装置110の出口側には、第1の電気透析濃縮水供給管11、電気透析希釈水排出管12、及び第3の電気透析濃縮水供給管18が接続されている。電気透析装置110は、電気透析濃縮水供給管11を介して電気分解装置120に接続されている。電気分解装置120出口側には、第1の循環部13、酸性水排出管14、及び第2の循環部15が接続されている。また、電気透析装置110は、第3の電気透析濃縮水供給管18を介して過酸化水素製造装置140と接続されている。過酸化水素製造装置140の出口側には、過酸化水素排出管19が接続されている。
【0076】
過酸化水素製造装置140は、前記電気透析濃縮水の一部を電気分解して、過酸化水素を製造する装置である。
【0077】
過酸化水素製造装置140としては、例えば、図8に示すガス拡散電極を有する2室電気分解装置141が挙げられる。
ガス拡散電極を有する2室電気分解装置141は、アノード142及びカソード143を有し、隔膜144によってアノード室145、カソード室146に分けられている。
【0078】
アノード142として、具体的には、上述した電気透析装置110のアノード112と同様のものが挙げられる。
【0079】
カソード143として、具体的には、原料である酸素ガスの物質移動に優れた多孔性の酸素ガス拡散電極を用いることが好ましい。
多孔性の酸素ガス拡散電極として、より具体的には、粒径が数10μm程度の黒鉛粉末を触媒とし、フッ素樹脂液を混合したシートをカーボンクロス、カーボンペーパーなどの通気性に優れた伝導性の支持体に、ホットプレスにより固定した、酸素ガス拡散電極が好ましい。
【0080】
過酸化水素製造装置140におけるアノード142とカソード143の電極間距離は0.2~5mmが好ましい。
隔膜144としては、上述した2室電気分解装置121における隔膜124と同様のものが挙げられる。
【0081】
上述したカソード触媒を形成させたガス拡散電極の背後から酸素を含有するガスを供給しながら電解すると、下記式(5)に示す反応により、過酸化水素(イオン)が製造される。
+HO+2e=HO +OH ・・・(5)
【0082】
上記過酸化水素は、例えば、飲料水製造の最終段階のUV処理工程において併用することで、AOP(促進酸化処理、Advanced Oxidation Process)が進行し、水質の向上に寄与する。また、排水をオゾンにより処理する場合、オゾンによる酸化処理が過度となった際に、例えば、一般的に排水中に含まれる臭化物イオンの酸化により生成する臭素酸の分解にも利用できる。
さらに、次亜塩素酸ナトリウム水溶液による消毒処理を行う場合、過剰な次亜塩素酸ナトリウムを除去する際に、過酸化水素を用いることもできる。
上記処理を行う装置又は該装置により処理を行った処理水の排出管に、過酸化水素排出管19を接続させることにより、上述した過酸化水素製造装置140により製造された過酸化水素を利用することができる。
【0083】
なお、第3の実施形態の酸性水溶液の製造装置102は、透析用水電気透析濃縮室供給管9を備えているが、排水の水質によっては、透析用水電気透析濃縮室供給管9を備えていなくてもよく、電気透析装置110には排水流入管10のみが接続されていてもよい。すなわち、電気透析装置110の電気透析濃縮室及び電気透析希釈室共に排水が供給されるような態様であってもよい。
【0084】
また、第3の実施形態の酸性水溶液の製造装置102は、電気分解装置120で製造される酸性水溶液(例えば、塩酸)を、電気分解装置120内を洗浄するために循環させる、第2の循環部15を備えているが、備えていなくてもよい。
【0085】
以上説明した第3の実施形態の酸性水溶液の製造装置102は、上述した第1の実施形態の酸性水溶液の製造装置100の効果に加えて、排水の処理工程において一般的に用いられる過酸化水素をオンサイトで過酸化水素製造装置140において製造することができる。また、製造された過酸化水素を処理水に添加することで該過酸化水素を利用することができる。
【0086】
<第4の実施形態の酸性水溶液の製造装置>
第4の実施形態の酸性水溶液の製造装置は、第1の実施形態の酸性水溶液の製造装置にさらに次亜塩素酸ナトリウム製造装置及び過酸化水素製造装置を備える。すなわち、第4の実施形態の酸性水溶液の製造装置は、電気透析装置と、電気分解装置と、第1の循環部と、次亜塩素酸ナトリウム製造装置と、過酸化水素製造装置とを備える。
第4の実施形態の酸性水溶液の製造装置について、図9を用いて詳細に説明する。
【0087】
図9に示す、第4の実施形態の酸性水溶液の製造装置103は、以下の構成を有する。
排水を供給する排水流入管10が電気透析装置110の電気透析希釈室に接続されている。また、透析用水を供給する透析用水電気透析濃縮室供給管9が電気透析装置110の電気透析濃縮室に接続されている。電気透析装置110の出口側には、第1の電気透析濃縮水供給管11、電気透析希釈水排出管12、第2の電気透析濃縮水供給管16及び第3の電気透析濃縮水供給管18が接続されている。電気透析装置110は、電気透析濃縮水供給管11を介して電気分解装置120に接続されている。電気分解装置120出口側には、第1の循環部13、酸性水排出管14、及び第2の循環部15が接続されている。また、電気透析装置110は、第2の電気透析濃縮水供給管16を介して次亜塩素酸ナトリウム製造装置130と接続されている。次亜塩素酸ナトリウム製造装置130の出口側には、次亜塩素酸ナトリウム水溶液排出管17が接続されている。さらに電気透析装置110は、第3の電気透析濃縮水供給管18を介して過酸化水素製造装置140と接続されている。過酸化水素製造装置140の出口側には、過酸化水素排出管19が接続されている。
【0088】
なお、第4の実施形態の酸性水溶液の製造装置103は、透析用水電気透析濃縮室供給管9を備えているが、排水の水質によっては、透析用水電気透析濃縮室供給管9を備えていなくてもよく、電気透析装置110には排水流入管10のみが接続されていてもよい。すなわち、電気透析装置110の電気透析濃縮室及び電気透析希釈室共に排水が供給されるような態様であってもよい。
【0089】
また、第4の実施形態の酸性水溶液の製造装置103は、電気分解装置120で製造される酸性水溶液(例えば、塩酸)を、電気分解装置120内を洗浄するために循環させる、第2の循環部15を備えているが、備えていなくてもよい。
【0090】
以上説明した第4の実施形態の酸性水溶液の製造装置103は、上述した第1の実施形態の酸性水溶液の製造装置100の効果に加えて、処理水の消毒剤として用いる次亜塩素酸ナトリウム水溶液及び排水の処理工程において一般的に用いられる過酸化水素をオンサイトで製造することができる。また、製造された次亜塩素酸ナトリウム水溶液及び過酸化水素をオンサイトで利用することができる。
【0091】
(酸性水溶液の製造方法)
本発明の第2の態様は、塩化物イオン及びアルカリ金属イオンを含む排水から、酸性水溶液を製造する酸性水溶液の製造方法であって、前記排水を電気透析処理により電気透析濃縮水と電気透析希釈水とに分離する電気透析工程と、前記電気透析濃縮水を電気分解して、酸性水溶液を製造する電気分解工程と、前記酸性水溶液の少なくとも一部を、前記電気透析工程に供給される前記排水に循環させる第1の循環工程とを有する、酸性水溶液の製造方法である。
【0092】
<第1の実施形態の酸性水溶液の製造方法>
第1の実施形態の酸性水溶液の製造方法は、電気透析工程210と、電気分解工程220と、第1の循環工程とを有する。
第1の実施形態の酸性水溶液の製造方法の模式図は、図10に示す通りである。
【0093】
[電気透析工程]
電気透析工程210は、塩化物イオン及びアルカリ金属イオンを含む排水を電気透析処理により電気透析濃縮水と電気透析希釈水とに分離する工程である。
具体的には、上述した電気透析装置(図2)のように多数の電気透析膜を配列し、交互に形成した電気透析濃縮室と電気透析希釈室とを備える電気透析装置に排水を供給して、通電することにより濃縮室には各種イオン成分が高濃度に含まれる電気透析濃縮水を得ることができ、希釈室には各種イオン成分が低濃度に含まれる電気透析希釈水を得ることができる。
【0094】
電気透析条件としては、温度は25~60℃が好ましく、電流密度としては1~10A/dmが好ましい。
【0095】
本実施形態の酸性水溶液の製造方法は、電気透析工程210を有することにより、排水中の塩化物イオンの濃度を高くすることができるため、後述する電気分解工程において、酸性水溶液をより効率よく製造できる。また、電気分解工程に用いる電気分解装置に付着しやすい多価イオンを予め除去することができる。
【0096】
[電気分解工程]
電気分解工程220は、排水の一部を電気分解して酸性水溶液とアルカリ性水溶液とを得る工程である。
具体的には、電子伝導性を有する1対の電極(陽極;アノード、陰極;カソード)と、イオン伝導性を有する電解質に、電圧をかけることでアノードでは酸化反応、カソードでは還元反応を起こして、酸性水溶液とアルカリ性水溶液とを得る方法である。
【0097】
電気分解工程220は、例えば、上述した2室電気分解装置(図3)及び3室電気分解装置(図4)を用いて行うことができる。
【0098】
電気分解工程220において、例えば、ナトリウムイオン及び塩化物イオンを含む排水を電気分解すると、下記式(6)に示す反応が進行して、水酸化ナトリウム水溶液(アルカリ性水溶液)及び塩酸(酸性水溶液)が得られる。
NaCl+2HO=NaOH+HCl+H+1/2O・・・(6)
【0099】
例えば、後述する2室電気分解装置(図3)では、酸性水溶液としては、塩酸と塩水との混合物、アルカリ性水溶液としては、水酸化ナトリウムと塩水との混合物とが得られる。
一方、後述する3室電気分解装置(図4)では、カソード室には水酸化ナトリウム水溶液、アノード室には塩酸が得られる。
この反応で得られる塩酸は、上述した電気透析工程210に供給する排水に混合され、pHを調整させるために用いられる。
【0100】
また、アノードが水素ガス拡散電極である電気分解装置を用いた場合は、アノードでは下記式(7)に示す水素酸化反応が起こる。また、全反応は下記式(8)に示す通りである。
=2H+2e・・・(7)
NaCl+HO=NaOH+HCl・・・(8)
【0101】
原料水素ガスはカソードで発生する高純度の電解水素ガスを用いる。塩素発生電位より卑な電位に保持することで塩素発生を抑制することができる。
【0102】
電気分解工程220において、上述した水素酸化反応によって、酸性水溶液とアルカリ性水溶液とを製造することにより、塩素の発生をより抑制することができる。
【0103】
[第1の循環工程]
第1の循環工程は、電気分解工程220によって製造される酸性水溶液の少なくとも一部を、電気透析工程に供給される排水に循環させる工程である。
電気透析工程に供給される排水は、電気分解工程220で得られる酸性水溶液により、該排水のpHが調整されている。
例えば、上述した電気透析工程210に供給される排水が、既に炭酸カルシウムを除去する晶析装置や、重金属を水酸化物として沈殿除去するアルカリ沈殿装置により、処理されている場合もある。その場合、該排水はアルカリ性(pH11以上程度)であるため、電気分解工程で製造される酸性水溶液を、排水に循環させ、排水のpHを調整することが好ましい。具体的には、排水のpHが10以下となるように調整することが好ましく、排水のpHが3~9となるように調整することがより好ましい。
これにより、電気透析工程に用いられる電気透析装置が有する1価陰イオン選択透過性イオン交換膜及び1価陽イオン選択透過性イオン交換膜の劣化をより防止することができる。
【0104】
[洗浄工程]
本実施形態の酸性水溶液の製造方法は、洗浄工程を有していてもよい。洗浄工程は、上記酸性水溶液の少なくとも一部を用いて、上述した電気分解工程220で使用する装置(電気分解装置)を洗浄する工程である。電気分解装置の長時間の連続稼働によって、硬度成分が電気分解装置の装置内の隔膜やカソードに析出して、電気分解装置の性能低下を招く。そのため、間欠的に電気分解装置を停止して、電気分解工程220で得られた酸性水溶液で洗浄することが好ましい。洗浄を行う頻度は、水質、運転条件にもよるが、数時間から数十時間ごとに、数十分から数時間実施することが好ましい。
【0105】
以上説明した第1の実施形態の酸性水溶液の製造装置は、上述した電気透析工程と、電気分解工程220と、第1の循環工程とを有する。排水のpHを調整して、該電気透析工程で用いる1価イオン選択透過性イオン交換膜の劣化を防止するために必要な酸性水溶液を、オンサイトで電気分解工程220で製造し、第1の循環工程によって該電気透析工程で利用することができるため、酸性水溶液を外部から搬送して、貯蔵する必要がなくなり、経済的な負担を大幅に低減することができる。
【0106】
<第2の実施形態の酸性水溶液の製造方法>
第2の実施形態の酸性水溶液の製造方法は、電気透析工程210と、電気分解工程220と、第1の循環工程と、次亜塩素酸ナトリウム製造工程230とを有する。
第2の実施形態の酸性水溶液の製造方法の模式図は、図11に示す通りである。
【0107】
[次亜塩素酸ナトリウム製造工程]
次亜塩素酸ナトリウム製造工程230は、電気透析濃縮水の一部を電気分解して、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を製造する工程である。
アノード触媒を適宜選択することにより、下記式(4)のような反応が起こり、排水中に含まれる塩化物イオンから次亜塩素酸ナトリウムを製造することができる。
2Cl=Cl+2e
2NaOH+Cl→NaCl+NaClO+HO・・・(4)
【0108】
該次亜塩素酸ナトリウムは、処理水の消毒剤として利用することができる。
そのため、第2の実施形態の酸性水溶液の製造方法では、上述した第1の実施形態の酸性水溶液の製造方法の効果に加えて、処理水の消毒剤として用いる次亜塩素酸ナトリウム水溶液をオンサイトで次亜塩素酸ナトリウム製造工程において製造し、処理水に添加することで該次亜塩素酸ナトリウム水溶液を消毒剤として利用することができる。
次亜塩素酸成分はアルカリ域では次亜塩素酸イオンとして、酸性域では次亜塩素酸として安定に存在し、電気分解する溶液のpHを変えることでいずれも製造することができる。殺菌力は後者においてより高まることが知られている。本発明における次亜塩素酸ナトリウムは、それらを総称している。
【0109】
<第3の実施形態の酸性水溶液の製造方法>
第3の実施形態の酸性水溶液の製造方法は、電気透析工程210と、電気分解工程220と、第1の循環工程と、過酸化水素製造工程240とを有する。
第3の実施形態の酸性水溶液の製造方法の模式図は、図12に示す通りである。
【0110】
[過酸化水素製造工程]
過酸化水素製造工程240、電気透析濃縮水の一部を電気分解して、過酸化水素を製造する工程である。
【0111】
過酸化水素製造工程は、例えば、上述した過酸化水素製造装置を用いて行うことができる。
過酸化水素は、例えば、飲料水製造の最終段階のUV処理工程において併用することで、AOP(促進酸化処理、Advanced Oxidation Process)が進行し、水質の向上に寄与する。また、排水をオゾンにより処理する場合、オゾンによる酸化処理が過度となった際に、例えば、排水中に含まれる臭化物イオンの酸化により生成する臭素酸の分解にも利用できる。
さらに、次亜塩素酸ナトリウム水溶液による消毒処理を行う場合、過剰な次亜塩素酸ナトリウムを除去する際に、過酸化水素を用いることもできる。
【0112】
以上説明した第3の実施形態の酸性水溶液の製造方法は、上述した第1の実施形態の酸性水溶液の製造方法の効果に加えて、排水の処理工程において一般的に用いられる過酸化水素をオンサイトで過酸化水素製造装置において製造することができる。また、製造された過酸化水素を処理水に添加することで該過酸化水素を利用することができる。
【0113】
<第4の実施形態の酸性水溶液の製造方法>
第4の実施形態の酸性水溶液の製造方法は、電気透析工程210と、電気分解工程220と、第1の循環工程と、次亜塩素酸ナトリウム製造工程230と、過酸化水素製造工程240とを有する。
第4の実施形態の酸性水溶液の製造方法の模式図は、図13に示す通りである。
【0114】
第4の実施形態の酸性水溶液の製造方法は、上述した第1の実施形態の酸性水溶液の製造方法の効果に加えて、処理水の消毒剤として用いる次亜塩素酸ナトリウム水溶液及び排水の処理工程において一般的に用いられる過酸化水素をオンサイトで製造することができる。また、製造された次亜塩素酸ナトリウム水溶液及び過酸化水素をオンサイトで利用することができる。
【実施例
【0115】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0116】
・被処理水について
被処理水としては、表1に示す各種イオン成分(ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩化物イオン、重炭酸イオン及びシリカ)を含む試験用水(模擬排水)を用いて各例の酸性水溶液の製造を行った。
【0117】
<実施例1>
図1に示す電気透析装置と、電気分解装置とを備える酸性水溶液の製造装置を用いて、酸性水溶液の製造を行った。
【0118】
[電気透析工程]
1価イオン選択透過性イオン交換膜を組み込んだ小型の電気透析セル(アストム社製S3、濃縮室数10区画、電極面積55cm)に、該電気透析セルの希釈室には、8Lの試験用水(後述する電気分解工程で得られる塩酸を使用してpHを6.6に調整した)、該電気透析セルの濃縮室には、0.5Lの水道水を満たし、各室の流量を5mL/minに固定して、電圧10Vを与えて電気透析工程を行った。
その結果表1に示す、電気透析濃縮水、電気透析希釈水が得られた。なお、電流値は0.25A程度であった。
【0119】
[電気分解工程]
電気分解装置としては、陽極(アノード)としてPtとIr酸化物からなる触媒を形成したTiメッシュと、陰極(カソード)としてNiメッシュと、隔膜としてY9201(隔膜:ユアサメンブレンシステム社)とを備え、電極間距離を2mmの隔膜を有する2室電気分解セル(電解面積は10cm)を用いた。
上記電気透析濃縮水を2室電気分解セルのアノード室に流量5mL/minで供給し、上記電気透析濃縮水を2室電気分解セルのカソード室に流量2.5mL/minで供給した。電流密度5A/dmで電気分解を行った。セル電圧は6Vであった。
その結果、2室電気分解セルのアノード室には、表1で酸性水溶液として示す、0.7g/Lの塩酸が得られた(pH1.7)。また、2室電気分解セルのカソード室には、表1でアルカリ性水溶液として示す、4g/Lの水酸化ナトリウム水溶液、及び2.5g/Lの炭酸ナトリウム水溶液が得られた(pH12.8)。
【0120】
[原料水及び各種処理水のpHの測定方法]
表1に示す原料水及び各種処理水のpHは、25℃のpHをpHメーター(D74、堀場製作所社製)で測定した値である。
【0121】
[各種イオン成分の含有量の測定方法]
表1に示す原料水及び各種処理水(電気透析濃縮水、電気透析希釈水、酸性水溶液、アルカリ性水溶液)の各種イオン成分の濃度の分析方法は、陽イオンの濃度は、アルゴンガスのICPを光源とする発光分光分析装置(ICP-AES;SPS5520、セイコーインスツル社製)を用いて測定した値である。
一方、陰イオンの濃度は、イオンクロマトグラフ分析装置(ICA-2000;東亜ディーケーケー社製)を用いて測定したである。
【0122】
[塩酸、水酸化ナトリウム水溶液及び炭酸ナトリウム水溶液の生成量の測定方法]
塩酸は濃度が既知の水酸化ナトリウム水溶液により定量した。水酸化ナトリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液は濃度が既知の塩酸による2段滴定によりそれぞれ定量した。
【0123】
【表1】
【0124】
<実施例2>
電気分解装置(2室電気分解セル)の陽極(アノード)として、Pt/C粉末触媒とフッ素樹脂液を混合した触媒層をカーボンペーパー上に1mg/cmの量にてホットプレスにより固定した水素ガス拡散電極を用い、アノードの裏側に形成されたガス室に、電気分解反応を行う理論混合量より1.2倍過剰な水素ガスを供給したこと以外は、実施例1と同様の方法により酸性水溶液の製造を行った。得られた塩酸及び水酸化ナトリウムの生成量は実施例1と同程度であったが、遊離塩素は発生しなかった。
【0125】
<実施例3>
図7に示す電気透析装置と、電気分解装置と、過酸化水素製造装置を備える酸性水溶液の製造装置を用いて、酸性水溶液の製造を行った。
電気透析装置及び電気透析工程、並びに、電気分解装置及び電気分解工程は、実施例1と同様であり、2室電気分解セルのアノード室には0.7g/Lの塩酸が得られた(pH1.7)。また、2室電気分解セルのカソード室には、4g/Lの水酸化ナトリウム、2.5g/Lの炭酸ナトリウムが得られた(pH12.8)。
【0126】
[過酸化水素製造工程]
過酸化水素製造装置としては、陽極(アノード)としてPtとIr酸化物からなる触媒を形成したTiメッシュと、陰極(カソード)として黒鉛粉末触媒とフッ素樹脂液を混合した触媒層をカーボンペーパー上に10mg/cmの量にてホットプレスにより固定した酸素ガス拡散電極と、隔膜としてY9201(隔膜:ユアサメンブレンシステム社)とを備え、電極間距離を2mmの隔膜を有する2室電気分解セル(電解面積は10cm)を用いた。
上記電気透析濃縮水を2室電気分解セルのアノード室に流量5mL/minで供給し、上記電気透析濃縮水を2室電気分解セルのカソード室に流量2.5mL/minで供給した。電流密度5A/dmで電気分解を行った。セル電圧は5.5Vであった。
その結果、1.1g/L(Hとして)の過酸化水素が得られた。
【0127】
[過酸化水素の生成量の測定方法]
過酸化水素水溶液に硫酸チタンを加えることにより、過酸化水素とチタンとの錯化合物を形成し、該錯化合物のUV吸収スペクトルを吸光度として、島津製作所社製のUV-2550により測定することにより、過酸化水素の生成量を求めた。
【0128】
なお、pH、酸性水溶液及びアルカリ性水溶液の生成量の測定方法は上述した実施例1の測定方法と同様である。
【0129】
<比較例1>
1価イオン選択透過性イオン交換膜の代わりに1価イオン選択透過性のない公知のイオン交換膜を組み込んだ小型の電気透析セル(アストム社製S3、濃縮室数10区画、電極面積55cm)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で酸性水溶液の製造を行った。
その結果、セル電圧が急激に増加し、電気分解を継続することができなかった。
【0130】
実施例1及び2では、電気透析装置に供給する排水のpHを調整するための酸性水溶液をオンサイトで排水から電気分解装置で製造できることが確認できる。
さらに、実施例3では、該酸性水溶液に加えて、排水から過酸化水素をオンサイトで製造できることが確認できる。
【0131】
一方で、比較例1の1価イオン選択透過性のないイオン交換膜を有する電気透析装置を用いた場合、カソード及び1価イオン選択透過性のないイオン交換膜に多量のカルシウム、マグネシウム成分が析出してしまい、酸性水溶液を継続して得ることはできないことが確認できる。
【0132】
以上より、本実施形態の酸性水溶液の製造装置及び該装置を用いた酸性水溶液の製造方法によれば、排水処理のプロセスで使用する酸性水溶液をオンサイトで製造、利用することができ、経済的な負担を大幅に低減することができることが確認できる。
【符号の説明】
【0133】
100、101、102、103・・・酸性水溶液の製造装置
110、111・・・電気透析装置
120・・・電気分解装置
13・・・第1の循環部
121・・・2室電気分解装置
125・・・3室電気分解装置
130、131・・・次亜塩素酸ナトリウム製造装置
140、141・・・過酸化水素製造装置
210・・・電気透析工程
220・・・電気分解工程
230・・・次亜塩素酸ナトリウム製造工程
240・・・過酸化水素製造工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13