(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-21
(45)【発行日】2023-03-02
(54)【発明の名称】単結晶ダイヤモンドおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/04 20060101AFI20230222BHJP
C30B 25/16 20060101ALI20230222BHJP
C30B 25/20 20060101ALI20230222BHJP
C01B 32/26 20170101ALI20230222BHJP
C23C 16/27 20060101ALI20230222BHJP
【FI】
C30B29/04 E
C30B25/16
C30B25/20
C30B29/04 R
C01B32/26
C23C16/27
(21)【出願番号】P 2019543616
(86)(22)【出願日】2018-09-14
(86)【国際出願番号】 JP2018034168
(87)【国際公開番号】W WO2019059123
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2017179057
(32)【優先日】2017-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 夏生
(72)【発明者】
【氏名】西林 良樹
(72)【発明者】
【氏名】野原 拓也
(72)【発明者】
【氏名】植田 暁彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 豊
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-277890(JP,A)
【文献】特開昭59-137396(JP,A)
【文献】特開平02-233591(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
C23C 16/00-16/56
C01B 32/00-32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を研磨することにより得られた、(110)面に平行であり、かつ表面粗さRaが5μm以下の観察面
を走査型電子顕微鏡によって撮像することにより得られる画像から特定される不純物の濃度の総計の異なるn個の種類の領域が
前記観察面に観察され、
nは2または3であり、
前記n個の種類の領域の各々の面積は、0.1μm
2以上であり、
前記観察面上の第1線、第2線および第3線の少なくとも1つは、前記n個の種類の領域の境界と4回以上交わり、
前記第1線、前記第2線および前記第3線は、<-110>方向に平行であり、長さ1mmの線分であり、
前記第1線の中点は、前記観察面の重心であり、
前記第2線の中点は、前記重心から<001>方向に300μm離れた点であり、
前記第3線の中点は、前記重心から<00-1>方向に300μm離れた点である、単結晶ダイヤモンド。
【請求項2】
前記n個の種類の領域から選択される2種類の領域のうちの一方における前記不純物の濃度の総計は、他方における前記不純物の濃度の総計の30%以上高い、請求項1に記載の単結晶タイヤモンド。
【請求項3】
前記重心を含み、かつ(-110)面に平行な面で切ったときの断面において、前記不純物の濃度の総計の異なるn個の種類の領域が観察され、
前記断面に観察される前記n個の種類の領域の境界と<110>方向とのなす角度は0°以上7°以下である、請求項1または請求項2に記載の単結晶ダイヤモンド。
【請求項4】
前記不純物は、B,P,Al,Sからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド。
【請求項5】
前記不純物はさらにNを含む、請求項4に記載の単結晶ダイヤモンド。
【請求項6】
前記単結晶ダイヤモンドに含まれる前記不純物の濃度の総計は3モルppm以上である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド。
【請求項7】
X線トポグラフィ像において転位が観察され、
前記転位の方向と<110>方向とのなす角度が0°以上20°以下である、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド。
【請求項8】
ヌープ圧痕の長い方の対角線が<001>方向に平行になるように前記観察面において測定されたヌープ硬度は100GPa以下である、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド。
【請求項9】
励起波長512nmにおけるラマン分光法により測定されるラマン散乱スペクトルにおいて、ラマンシフト850~950cm
-1のピークの絶対強度がラマンシフト1310~1340cm
-1のピークの絶対強度の10%よりも大きい、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド。
【請求項10】
室温での抵抗率が10
6Ωcm以上の第1層と、室温での抵抗率が10
6Ωcm未満の第2層とを備え、
前記第1層と前記第2層との界面と(110)面とのなす角度は、0°以上7°以下であり、
前記観察面は、前記第2層を研磨することにより得られる、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド。
【請求項11】
前記不純物は、B,P,Al,Sからなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記単結晶ダイヤモンドに含まれる前記不純物の濃度の総計は3モルppm以上であり、
ヌープ圧痕の長い方の対角線が<001>方向に平行になるように前記観察面において測定されたヌープ硬度は100GPa以下である、請求項1に記載の単結晶ダイヤモンド。
【請求項12】
(110)面に対するオフ角が0°以上7°以下の主面を有する種基板を準備する工程と、
前記主面上に、化学気相成長法により、
圧力10kPa以上の条件下で、水素ガス、メタンガスおよび不純物ガスを用いて単結晶ダイヤモンド層を成長させる工程と、
前記種基板と前記単結晶ダイヤモンド層とを分離する工程とを備え、
前記成長させる工程において、前記水素ガスに対する前記メタンガスの濃度を1モル%以上20モル%以下とし、前記メタンガスに対する前記不純物ガスの濃度を1モルppm以上50モル%以下と
し、
前記不純物ガスは、B,P,Al,Sからなる群より選択される少なくとも1種を含む、単結晶ダイヤモンドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、単結晶ダイヤモンドおよびその製造方法に関する。本出願は、2017年9月19日に出願した日本特許出願である特願2017-179057号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
従来、種基板の(110)面に単結晶ダイヤモンドを成長させる技術が開発されている(特開2007-210815号公報(特許文献1)、特表2014-500226号公報(特許文献2))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-210815号公報
【文献】特表2014-500226号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】V.Mortet et al、「Properties of boron-doped epitaxial diamond layers grown on (110) oriented single crystal substrates」、Diamond & Related Materials、2015年、第53巻、29-34頁
【発明の概要】
【0005】
本開示の一態様に係る単結晶ダイヤモンドは、表面を研磨することにより得られた、(110)面に平行であり、かつ表面粗さRaが5μm以下の観察面において、不純物の濃度の総計の異なるn個の種類の領域が観察される。nは2または3である。n個の種類の領域の各々の面積は、0.1μm2以上である。観察面上の第1線、第2線および第3線の少なくとも1つは、n個の種類の領域の境界と4回以上交わる。第1線、第2線および第3線は、<-110>方向に平行であり、長さ1mmの線分である。第1線の中点は、観察面の重心である。第2線の中点は、重心から<001>方向に300μm離れた点である。第3線の中点は、重心から<00-1>方向に300μm離れた点である。
【0006】
本開示の一態様に係る単結晶ダイヤモンドの製造方法は、(110)面に対するオフ角が0°以上7°以下の主面を有する種基板を準備する工程と、主面上に、化学気相成長法により、水素ガス、メタンガスおよび不純物ガスを用いて単結晶ダイヤモンド層を成長させる工程と、種基板と単結晶ダイヤモンド層とを分離する工程とを備える。成長させる工程において、水素ガスに対するメタンガスの濃度を1モル%以上20モル%以下とし、メタンガスに対する不純物ガスの濃度を1モルppm以上50モル%以下とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る単結晶ダイヤモンドの一例を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本実施の形態に係る単結晶ダイヤモンドの一例の観察面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope(SEM))で撮影した図面代用写真を示す図である。
【
図3】
図3は、本実施の形態に係る単結晶ダイヤモンドの別の例の観察面をSEMで撮影した図面代用写真である。
【
図4】
図4は、本実施の形態に係る単結晶ダイヤモンドのさらに別の例の観察面をSEMで撮影した図面代用写真である。
【
図5】
図5は、
図2に示す観察面の一部と第1線とを示す図面代用写真である。
【
図6】
図6は、
図3に示す観察面の一部と第1線とを示す図面代用写真である。
【
図7】
図7は、
図4に示す観察面の一部と第1線とを示す図面代用写真である。
【
図8】
図8は、単結晶ダイヤモンドを(001)面に平行な面で切ったときの断面を示す模式図である。
【
図9】
図9は、単結晶ダイヤモンドにおける(-110)面に平行な面で切ったときの断面を示す模式図である。
【
図10】
図10は、観察面におけるヌープ硬度の測定方法を示す図である。
【
図11A】
図11Aは、本実施の形態に係る単結晶ダイヤモンドの製造方法の種基板準備工程を示す図である。
【
図11B】
図11Bは、本実施の形態に係る単結晶ダイヤモンドの製造方法の成長工程を示す図である。
【
図11C】
図11Cは、本実施の形態に係る単結晶ダイヤモンドの製造方法の分離工程を示す図である。
【
図12】
図12は、本実施の形態の変形例1に係る単結晶ダイヤモンドにおける観察面を模式的に示す平面図である。
【
図13】
図13は、種基板の側面を金属膜で覆わずに単結晶ダイヤモンド層を成長させたときの、種基板および単結晶ダイヤモンド層の断面図を示す。
【
図14】
図14は、本実施の形態の変形例2に係る単結晶ダイヤモンドを示す断面図である。
【
図15】
図15は、試料No.2,4,8の単結晶ダイヤモンドについて測定されたラマン散乱スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
ダイヤモンドは、高熱伝導率、高キャリア移動度、高絶縁破壊電界、低誘導損失など優れた特性を有し、特に比類ない高硬度と高耐摩耗性から切削工具や耐摩工具などに広く用いられている。従来、天然もしくは高温高圧合成法によって得られた単結晶ダイヤモンドが広く用いられてきたが、近年、化学気相成長(Chemical Vapor Deposition:CVD)法でも、厚く自立可能な単結晶ダイヤモンドの合成技術が開発されている。
【0009】
CVD法では(100)面上に単結晶ダイヤモンドを成長させやすい。そのため、一般に、種基板の(100)面に単結晶ダイヤモンドをCVD法により成長させる技術が知られている。しかしながら、切削工具では(110)面をすくい面として使用することが多い。そのため、種基板の(100)面に成長させた単結晶ダイヤモンドを切削工具として用いる場合、当該単結晶ダイヤモンドから(110)面を切り出す手間がかかる。そこで、種基板の(110)面に単結晶ダイヤモンドを成長させる技術が開発されつつある(特許文献1、特許文献2)。
【0010】
しかしながら、特許文献1,2に記載の技術では、単結晶ダイヤモンドに含まれる不純物量が少なく、高硬度な単結晶ダイヤモンドが得られるものの劈開が起こりやすく、耐欠損性が劣る。
【0011】
以上の点に鑑み、本開示は、耐欠損性に優れた単結晶ダイヤモンドおよびその製造方法を提供することを目的とする。
[本開示の効果]
上記によれば、耐欠損性に優れた単結晶ダイヤモンドおよびその製造方法を提供することができる。
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。なお、本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0013】
従来、切削工具、研磨工具、電子部品、光学部品、半導体材料、放熱部品として適用される単結晶ダイヤモンドとして、できるだけ均質な単結晶ダイヤモンドが追及されてきた。しかしながら、(110)面を主面とする単結晶ダイヤモンドでは、劈開しやすい(111)面が主面と交差する方向であるため、主面に力が加わった場合、均質な単結晶ダイヤモンドであっても欠損しやすい。本発明者らは、単結晶ダイヤモンドをあえて不均質にすることにより耐欠損性が向上することを初めて見出し、本開示の実施態様を発明するに至った。
【0014】
〔1〕本開示に係る単結晶ダイヤモンドは、表面を研磨することにより得られた、(110)面に平行であり、かつ表面粗さRaが5μm以下の観察面において、不純物の濃度の総計の異なるn個の種類の領域が観察される。nは2または3である。n個の種類の領域の各々の面積は、0.1μm2以上である。観察面上の第1線、第2線および第3線の少なくとも1つは、n個の種類の領域の境界と4回以上交わる。第1線、第2線および第3線は、<-110>方向に平行であり、長さ1mmの線分である。第1線の中点は、観察面の重心である。第2線の中点は、重心から<001>方向に300μm離れた点である。第3線の中点は、重心から<00-1>方向に300μm離れた点である。
【0015】
上記の構成によれば、単結晶ダイヤモンドの(110)面に平行な観察面において、不純物の濃度の総計の異なるn個(nは2または3)の種類の領域が混在していることになる。一般に不純物の濃度が高くなるほど硬度が低下する。そのため、不純物の濃度の総計の異なるn個の種類の領域が混在することは、硬度が異なるn個の種類の領域が混在することを意味する。硬度が異なるn個の種類の領域が混在することにより、単結晶ダイヤモンドに応力が加わったときに当該応力を緩和することができ、単結晶ダイヤモンドが劈開し難くなる。以上から、耐欠損性に優れる単結晶ダイヤモンドを実現できる。
【0016】
〔2〕n個の種類の領域から選択される2種類の領域のうちの一方における不純物の濃度の総計は、他方における不純物の濃度の総計の30%以上である。これにより、n個の種類の領域を容易に区別できる。
【0017】
〔3〕上記の単結晶ダイヤモンドにおける、観察面の重心を含み、かつ(-110)面に平行な面で切ったときの断面において、不純物の濃度の総計の異なるn個の種類の領域が観察される。当該断面に観察されるn個の種類の領域の境界と<110>方向とのなす角度は0°以上7°以下である。
【0018】
単結晶ダイヤモンドの劈開は、(111)面に沿って生じやすいことが知られている。上記の構成によれば、断面において、不純物の濃度の総計の異なるn個の種類の領域の境界は、(111)面と交差する。そのため、仮に(111)面に沿った微小な亀裂が単結晶ダイヤモンドに生じたとしても、不純物の濃度の総計の異なるn個の種類の領域の境界で当該亀裂の進行が止まり、単結晶ダイヤモンド1が劈開し難くなる。これにより、さらに耐欠損性に優れる単結晶ダイヤモンドを実現できる。
【0019】
〔4〕不純物は、B,P,Al,Sからなる群より選択される少なくとも1種を含む。これにより、観察面に不純物の濃度の総計の異なるn個の種類の領域が観察される単結晶ダイヤモンドを製造しやすくなる。
【0020】
〔5〕不純物はさらにNを含む。これにより、観察面に不純物の濃度の総計の異なるn個の種類の領域が観察される単結晶ダイヤモンドを製造しやすくなる。
【0021】
〔6〕単結晶ダイヤモンドに含まれる不純物の濃度の総計は3モルppm以上である。これにより、単結晶ダイヤモンドに応力が加わったときに当該応力を吸収しやすくなり、単結晶ダイヤモンドの劈開の発生をより抑制することができる。
【0022】
〔7〕上記の単結晶ダイヤモンドにおいて、X線トポグラフィ像において転位が観察される。転位の方向と<110>方向とのなす角度が0°以上20°以下である。これにより、仮に(111)面に沿った微小な亀裂が単結晶ダイヤモンドに生じたとしても、転位によって当該亀裂の進行が止まり、単結晶ダイヤモンドが劈開し難くなる。
【0023】
〔8〕上記の単結晶ダイヤモンドにおいて、ヌープ圧痕の長い方の対角線が<001>方向に平行になるように観察面において測定されたヌープ硬度は100GPa以下である。これにより、単結晶ダイヤモンドに歪が蓄積し難くなる。その結果、単結晶ダイヤモンドは、耐欠損性に優れ、切削工具として好適である。
【0024】
〔9〕上記の単結晶ダイヤモンドに対する、励起波長512nmにおけるラマン分光法により測定されるラマン散乱スペクトルにおいて、ラマンシフト850~950cm-1のピークの絶対強度がラマンシフト1310~1340cm-1のピークの絶対強度の10%よりも大きい。これにより、単結晶ダイヤモンドは、Bを不純物として十分に含み、耐欠損性および耐摩耗性に優れる。
【0025】
〔10〕上記の単結晶ダイヤモンドは、室温での抵抗率が106Ωcm以上の第1層と、室温での抵抗率が106Ωcm未満の第2層とを備える。第1層と第2層との界面は、(110)面に平行である。観察面は、第2層を研磨することにより得られる。上記の構成の単結晶ダイヤモンドは、種基板の(110)面である主面上に化学気相成長法により第1層を成長させた後、第1層の上に第2層を成長させることにより得られる。このとき、種基板に予め炭素イオンを注入することにより導電層が形成され、第1層を成長させた後に電界エッチングを行なう場合、第1層の抵抗率が106Ωcm以上であるため、電界が導電層に集中しやすくなる。そのため、第1層と種基板との分離を容易に行なうことができる。
【0026】
〔11〕上記の単結晶ダイヤモンドにおいて、不純物は、B,P,Al,Sからなる群より選択される少なくとも1種を含み、単結晶ダイヤモンドに含まれる不純物の濃度の総計は3モルppm以上である。さらに、ヌープ圧痕の長い方の対角線が<001>方向に平行になるように前記観察面において測定されたヌープ硬度は100GPa以下である。これにより、単結晶ダイヤモンドに応力が加わったときに当該応力を吸収しやすくなり、単結晶ダイヤモンドの劈開の発生をより抑制することができる。さらに、単結晶ダイヤモンドに歪が蓄積し難くなる。その結果、単結晶ダイヤモンドは、耐欠損性に優れ、切削工具として好適である。
【0027】
〔12〕本開示の単結晶ダイヤモンドの製造方法は、(110)面に対するオフ角が0°以上7°以下の主面を有する種基板を準備する工程と、主面上に、化学気相成長法により、水素ガス、メタンガスおよび不純物ガスを用いて単結晶ダイヤモンド層を成長させる工程と、種基板と単結晶ダイヤモンド層とを分離する工程とを備える。成長させる工程において、水素ガスに対するメタンガスの濃度を1モル%以上20モル%以下とし、メタンガスに対する不純物ガスの濃度を1モルppm以上50モル%以下とする。
【0028】
上記の構成の製造方法によれば、種基板の主面上に、(100)面が成長する領域と、(111)面が成長する領域とが混在して生じる。さらに(113)面が成長する領域がこれら2つの領域に混じって生じる場合もある。これらの領域に取り込まれる不純物の濃度は異なる。これにより、上記の構成の製造方法により得られた単結晶ダイヤモンドの観察面には、不純物の濃度の総計の異なるn個の種類の領域が混在して観察される。その結果、耐欠損性に優れる単結晶ダイヤモンドを製造することができる。
【0029】
〔13〕不純物ガスは、B,P,Al,Sからなる群より選択される少なくとも1種を含む。これにより、観察面に不純物の濃度の総計の異なるn個の種類の領域が観察される単結晶ダイヤモンドを製造しやすくなる。
【0030】
以下、本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す)について説明する。ただし、本実施形態はこれらに限定されるものではない。なお以下の実施形態の説明に用いられる図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わす。
【0031】
〈単結晶ダイヤモンドの構造〉
本開示において、「単結晶ダイヤモンド」とは、多結晶ダイヤモンドをほとんど含まない結晶方位の定まったダイヤモンドであり、X線回折のLaue測定において、(110)面に属する最強の回折点と比べて、多結晶に属する回折点もしくは回折リングの強度が10%以下、1%以下、もしくは0.1%以下となることにより特定される。
【0032】
図1は、本実施形態に係る単結晶ダイヤモンド1の一例を示す斜視図である。単結晶ダイヤモンド1の表面は、(110)面に対するオフ角が0°以上7°以下の主面10を含む。ここで「主面」とは、単結晶ダイヤモンド1の表面のうち、最も面積の大きい面である。なお、
図1には直方体の単結晶ダイヤモンド1が示されるが、単結晶ダイヤモンド1の形状は特に制限されない。
【0033】
単結晶ダイヤモンド1の<110>方向の厚みは、100μm以上であることが好ましく、300μm以上、500μm以上、1mm以上、2mm以上または5mm以上であることがより好ましい。これにより、単結晶ダイヤモンド1を切削工具等に適用しやすくなる。単結晶ダイヤモンド1の<110>方向の厚みの上限値は特に限定されるものではないが、CVD法の成長時間を考慮して、20mm以下であることが好ましい。
【0034】
単結晶ダイヤモンド1の表面(ここでは主面10)を研磨することにより得られた、(110)面に平行であり、かつ表面粗さRaが5μm以下の観察面10aにおいて、不純物の濃度の総計の異なるn個の種類の領域が観察される。nは2または3である。表面粗さ(算術平均粗さ)Raは、JIS B―0601(2001)に従って測定される。表面粗さRaの下限値は特に限定されず、後述する観察面10aの画像に表面の凹凸による影響が現れない程度に研磨すればよい。
【0035】
単結晶ダイヤモンド1における不純物の濃度の総計の差異は、フォトルミネッセンス(PL)の強度、カソードルミネッセンス(CL)の強度、電子顕微鏡の2次電子強度、電子顕微鏡の反射電子強度および電子顕微鏡の吸収電流強度のいずれかの違いとして示される。そのため、観察面10aのPL画像、CL画像または電子顕微鏡画像を取得することにより、不純物の濃度の総計の異なるn個の種類の領域を観察することができる。n個の種類の領域から選択される2種類の領域のうちの一方における不純物の濃度の総計は、他方における不純物の濃度の総計の30%以上である。以下、観察面10aの全域に、不純物の濃度の総計の異なる2種類の領域が観察される単結晶ダイヤモンド1について説明する。
【0036】
図2は、本実施の形態に係る単結晶ダイヤモンドの一例の観察面10aを走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope(SEM))で撮影した図面代用写真を示す図である。
図3は、本実施の形態に係る単結晶ダイヤモンドの別の例の観察面10aをSEMで撮影した図面代用写真である。
図4は、本実施の形態に係る単結晶ダイヤモンドのさらに別の例の観察面10aをSEMで撮影した図面代用写真である。
図2~4には2次電子像が示される。
【0037】
図2~4に示されるように、観察面10aには、明度が相対的に高い領域11aと、明度が相対的に低い領域12aとが観察される。領域11aおよび領域12aの各々において、不純物の濃度の変動が一定範囲(30%未満)である。領域11aおよび領域12aの各々の面積は、0.1μm
2以上である。なお、面積が0.1μm
2以下の領域については無視する。また、
図3および
図4では、研磨による筋が観察されているが、当該筋についても無視する。領域11aおよび領域12aの各々の面積の上限値は特に限定されない。たとえば、
図3,4に示されるように、領域12aが観察面10aの大部分を占めてもよい。
【0038】
領域12aの不純物の濃度の総計は、領域11aの不純物の濃度の総計よりも高い。領域12aにおける不純物の濃度の総計は、領域11aにおける不純物の濃度の総計の30%以上、50%以上、100%以上、300%以上または1000%以上高いことが好ましい。領域11a,12aの各々における不純物の濃度の総計は、集束した二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometry(SIMS))や特性X線分光(Characteristic X-ray Spectrometry)によって測定される。具体的には、セクター磁場型SIMS、TOF(Time of Flight)-SIMS、SEM-WDS(Scanning Electron Microscopy-Wavelength Dispersive X-ray Spectrometry)などである。
【0039】
図2に示す観察面10aでは、領域11aと領域12aとの面積が同程度であり、領域11aおよび領域12aがタイル(四角形)状に分布している。タイル状の角部の一部が別のタイル状の角部と連結することにより、広範囲に亘る領域11aおよび領域12aが形成される。
【0040】
図3に示す観察面10aでは、領域12aの面積が領域11aの面積よりも大きくなり、領域12aの中に線状の領域11aが分散している。ここで、「線状」とは、幅に対する長さの比(長さ/幅)が2以上の帯状のものも含まれる。線状の領域11aは、<001>方向に沿って延びていることが望ましい。
【0041】
図4に示す観察面10aでは、領域12aの面積がさらに大きくなり、領域12aの中に菱形の領域11aが分散している。菱形の領域11aの長い方の対角線は、<001>方向に平行である。菱形の領域11aの長い方の対角線と短い方の対角線との比は、1~100である。
【0042】
図1に戻って、観察面10a上の第1線15、第2線16および第3線17の少なくとも1つは、不純物の濃度の総計の異なる2種類の領域11a,12aの境界と4回以上交わる。第1線15、第2線16および第3線17の少なくとも1つは、領域11a,12aの境界と20回以上交わることが好ましく、100回以上交わることがより好ましい。第1線15、第2線16または第3線17と領域11a,12aの境界との交わる回数の上限値は特に限定されないが、領域が細かすぎる場合は耐欠損性が低下するため、2000回以下が望ましい。
【0043】
第1線15、第2線16および第3線17は、それぞれ<-110>方向に平行であり、長さ1mmの線分である。第1線15の中点は、観察面10aの重心10mと一致する。第2線16の中点は、観察面10aの重心10mから<001>方向に300μm離れた点10pである。第3線17の中点は、観察面10aの重心10mから<00-1>方向に300μm離れた点10qである。
【0044】
図5は、
図2に示す観察面10aの一部と第1線15とを示す図面代用写真である。
図6は、
図3に示す観察面10aの一部と第1線15とを示す図面代用写真である。
図7は、
図4に示す観察面10aの一部と第1線15とを示す図面代用写真である。
図5~7に示されるように、第1線15は、領域11aと領域12aとの境界14と4回以上交わる。
【0045】
第1線15、第2線16および第3線17の少なくとも1つが不純物の濃度の総計の異なる2種類の領域の境界と4回以上交わることは、観察面10aにおいて、不純物の濃度の総計の異なる2種類の領域11a,12aが混在していることを意味する。一般に、単結晶ダイヤモンドでは不純物の濃度が多くなるほど硬度が低下する。そのため、領域11aと領域12aとでは硬度が異なる。硬度が異なる2種類の領域11a,12aが混在することにより、単結晶ダイヤモンド1に応力が加わったときに当該応力を吸収することができ、単結晶ダイヤモンド1が劈開し難くなる。その結果、単結晶ダイヤモンド1は、耐欠損性に優れる。
【0046】
観察面10aにおいて、領域11aの面積の合計と領域12aの面積の合計との比は、3:2~2:3であることが好ましい。これにより、単結晶ダイヤモンド1に応力が加わったときに当該応力を吸収しやすくなる。ただし、領域11aの面積と領域12aの面積との比は、単結晶ダイヤモンド1に求められる硬度に応じて適宜変更してもよい。たとえば、高い硬度が求められる場合には、領域11aの面積の合計と領域12aの面積の合計との比を3:2~5:1または5:1~999:1の範囲に設定してもよい。逆に、それほど高い硬度が求められない場合には、領域11aの面積の合計と領域12aの面積の合計との比を2:3~1:5または1:5~1:999の範囲に設定してもよい。
【0047】
図8は、単結晶ダイヤモンド1を、重心10mを含み、かつ(001)面に平行な面で切ったときの断面10bを示す模式図である。
図9は、単結晶ダイヤモンド1を、重心10mを含み、かつ(-110)面に平行な面で切ったときの断面10cを示す模式図である。断面10b,10cは、観察面10aと同様に表面粗さRaが5μm以下となるように研磨される。
図8に示されるように、断面10bにおいて、不純物の濃度の総計の異なる2種類の領域11b,12bが観察される。断面10bにおいて、領域11bと領域12bとの境界14bと<110>方向とのなす角度は0°以上7°以下であることが好ましい。同様に
図9に示されるように、断面10cにおいて、不純物の濃度の総計の異なる2種類の領域11c,12cが観察される。断面10cに観察される2種類の領域11cと領域12cとの境界14cと<110>方向とのなす角度は0°以上7°以下であることが好ましい。
【0048】
単結晶ダイヤモンドの劈開は、(111)面に沿って生じやすいことが知られている。
図9に示されるように、領域11cと領域12cとの境界14cは、(111)面と交差する。そのため、仮に(111)面に沿った微小な亀裂が単結晶ダイヤモンド1に生じたとしても、境界14cで当該亀裂の進行が止まり、単結晶ダイヤモンド1が劈開し難くなる。
【0049】
断面10cにおいて、領域11c,12cの少なくとも一方における<001>方向の長さYと<110>方向の長さZとのアスペクト比Z/Yは2以上であることが好ましい。これにより、(111)面と交差する境界14cの単位面積当たりの個数が多くなり、単結晶ダイヤモンド1の劈開の発生をより抑制することができる。同様に、断面10bにおいて、領域11b,12bの少なくとも一方における<-110>方向の長さXと<110>方向の長さZとのアスペクト比Z/Xは2以上であることが好ましい。これにより、単結晶ダイヤモンド1の劈開の発生をより抑制することができる。
【0050】
〈単結晶ダイヤモンドの不純物〉
単結晶ダイヤモンド1に含まれる不純物は、B,P,Al,Sからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、この中でもBを含むことがより好ましい。これらの元素を不純物として含むことにより、
図2~4に示されるように、観察面10aにおいて不純物の濃度の総計の異なる2種類の領域11a,12aを混在させることが容易となる。なお、単結晶ダイヤモンド1に含まれる不純物は、B,P,Al,Sからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいればよく、他の元素(たとえばN)をさらに含んでもよい。たとえば、単結晶ダイヤモンド1は、BとNとを不純物として含んでもよい。これにより、観察面に不純物の濃度の総計の異なるn個(nは2または3)の種類の領域が観察される単結晶ダイヤモンドを製造しやすくなる。
【0051】
単結晶ダイヤモンド1に含まれる単一または複数の不純物の濃度の総計は、3モルppm以上であることが好ましく、10モルppm以上、100モルppm以上、1000モルppm以上または10000モルppm以上であることがより好ましい。これにより、単結晶ダイヤモンド1に応力が加わったときに当該応力を吸収しやすくなり、単結晶ダイヤモンド1の劈開の発生をより抑制することができる。単結晶ダイヤモンド1に含まれる単一または複数の不純物の濃度の総計の上限値は、単結晶ダイヤモンド1全体の硬度を考慮して、30000モルppm以下であることが好ましい。なお、不純物の濃度の総計は、集束したSIMSによって測定される。
【0052】
〈単結晶ダイヤモンドのX線トポグラフィ像〉
単結晶ダイヤモンド1は、後述するように、種基板における(110)面とのオフ角が0°以上7°以下の主面上にCVD法にて単結晶ダイヤモンド層を成長させることにより得られる。そのため、単結晶ダイヤモンド1のX線トポグラフィー像において転位が観察され、当該転位の方向と<110>方向とのなす角度が0°以上20°以下である。すなわち、単結晶ダイヤモンド1において、転位は、<110>方向から0°以上20°以下の角度で伝搬し、劈開しやすい(111)面をまたぐように形成される。そのため、仮に(111)面に沿った微小な亀裂が単結晶ダイヤモンド1に生じたとしても、転位によって当該亀裂の進行が止まり、単結晶ダイヤモンド1が劈開し難くなる。なお、単結晶ダイヤモンド1において、転位は、完全な直線として伝搬するのではなく、揺らぎながら、全体として<110>方向から0°以上20°以下の角度で伝搬する。
【0053】
〈単結晶ダイヤモンドのヌープ硬度〉
ヌープ硬度は、圧痕(ヌープ圧痕)が細長い菱形になるヌープ圧子を用いて測定される硬度である。
図10は、観察面10aにおけるヌープ硬度の測定方法を示す図である。
図10に示されるように、ヌープ圧痕Nの長い方の対角線n1が<001>方向に平行になるように観察面10aにおいてヌープ硬度を測定する。試験荷重を4.9Nとする。高温高圧合成法により得られたIIa型の単結晶ダイヤモンドのヌープ硬度は100GPaを超える。IIa型の単結晶ダイヤモンドは、高硬度ではあるが耐欠損性が非常に悪く、切削工具として適用することが困難である。これに対し、本実施の形態に係る単結晶ダイヤモンド1では、ヌープ硬度は100GPa以下である。そのため、単結晶ダイヤモンド1は、耐欠損性に優れ、切削工具として好適である。なお、ヌープ硬度は70GPa以上であることが好ましい。これにより、切削工具としての切削性能を維持することができる。
【0054】
〈ラマン散乱スペクトル〉
単結晶ダイヤモンド1が不純物としてBを含む場合、励起波長512nmにおけるラマン分光法により測定されるラマン散乱スペクトルにおいて、ラマンシフト850~950cm-1のピークの絶対強度がラマンシフト1310~1340cm-1のピークの絶対強度の10%よりも大きいことが好ましい。
【0055】
ラマン散乱スペクトルにおいて、ダイヤモンドのピークは、ラマンシフト1333cm-1付近の1310~1340cm-1に観察されることが知られている。また、B(ホウ素)ドープダイヤモンドに特有のブロードなピークがラマンシフト850~950cm-1に観察される。ラマンシフト850~950cm-1のピークの絶対強度がラマンシフト1310~1340cm-1のピークの絶対強度の10%よりも大きいことにより、単結晶ダイヤモンド1は、Bを不純物として十分に含み、耐欠損性および耐摩耗性に優れる。なお、単結晶ダイヤモンド1の全体の硬度を考慮して、ラマンシフト850~950cm-1のピークの絶対強度は、ラマンシフト1310~1340cm-1のピークの絶対強度の300%以下であることが好ましい。
【0056】
ラマンシフト850~950cm-1のピークおよびラマンシフト1310~1340cm-1のピークの絶対強度は、ラマン散乱スペクトルのバックグラウンド処理を行なったうえで測定される。バックグラウンド処理は、ラマンシフト1310~1340cm-1のピークのバックグラウンドが0となるように実施される。
【0057】
〈単結晶ダイヤモンドの製造方法〉
次に
図11A~
図11Cを参照して、上記の単結晶ダイヤモンド1の製造方法について説明する。単結晶ダイヤモンド1の製造方法は、《種基板準備工程》と《成長工程》と《分離工程》とを備える。
図11Aは、本実施の形態に係る単結晶ダイヤモンド1の製造方法の種基板準備工程を示す図である。
図11Bは、本実施の形態に係る単結晶ダイヤモンド1の製造方法の成長工程を示す図である。
図11Cは、本実施の形態に係る単結晶ダイヤモンド1の製造方法の分離工程を示す図である。
【0058】
《種基板準備工程》
図11Aに示されるように、種基板準備工程は、(110)面に対するオフ角が0°以上7°以下の主面30aを有する種基板30を準備する工程である。種基板30は、高温高圧合成法により合成された単結晶ダイヤモンドであってもよいし、CVD法によりエピタキシャル成長された単結晶ダイヤモンドであってもよい。種基板30の欠陥密度は、10
5/cm
2以下であることが好ましい。種基板30の欠陥密度の下限は特に限定されず、理想的には0である。
【0059】
種基板30の主面30aには、300keV~3MeVのエネルギーにより1×1015~1×1019個/cm2のドーズ量で炭素イオンが注入され、導電層30bが形成される。
【0060】
種基板30の側面には、W,Nb,Ta,Fe,Ni,Coのような金属膜を形成してもよい。これにより、後の成長工程において、種基板30の側面に単結晶ダイヤモンドが成長することを抑制することができる。
【0061】
《成長工程》
次に成長工程が実施される。
図11Bに示されるように、成長工程は、種基板30の主面30a上に、化学気相成長(CVD)法により、水素ガス、メタンガスおよび不純物ガスを用いて単結晶ダイヤモンド層40を成長させる工程である。
【0062】
不純物ガスは、B,P,Al,Sからなる群より選択される少なくとも1種を含む。具体的には、不純物ガスとして、Bを含むガス(ジボラン(B2H6)、トリメチルホウ素((CH3)3B))、Pを含むガス(ホスフィン(PH3)、トリメチルホスフィン(P(CH3)3))、Sを含むガス(硫化水素(H2S))、Alを含むガス(トリメチルアルミニウム((CH3)3Al))の少なくとも1つを用いることができる。さらに、不純物ガスは、上記のいずれかのガスに加えて、窒素ガス(N2)を含んでもよい。
【0063】
《分離工程》
最後に分離工程が実施される。
図11Cに示されるように、分離工程は、種基板30と単結晶ダイヤモンド層40とを分離する工程である。種基板30から分離された単結晶ダイヤモンド層40により、上記の単結晶ダイヤモンド1が構成される。ここでは、種基板準備工程において導電層30bが形成されているため、純水中で電界エッチングすることにより、種基板30と単結晶ダイヤモンド層40とを容易に分離することができる。
【0064】
《メタンガスおよび不純物ガスの濃度》
本実施の形態では、上記の成長工程において、水素ガスに対するメタンガスの濃度を1モル%以上20モル%以下とし、メタンガスに対する不純物ガスの濃度を1モルppm以上50モル%以下とする。不純物ガスとしてBを含むガスを用いる場合、メタンガスに対する不純物ガスの濃度を100モルppm以上50モル%以下にすることが好ましい。このように、メタンガスおよび不純物ガスを従来よりも高濃度とすることにより、単結晶ダイヤモンド層40の成長面41は、以下の(α)(β)(γ)に示すような特徴を有する。
【0065】
(α)成長面41は、(110)面に対するオフ角が0°以上7°以下の主面30aに対して平行に広がる面であり、微細凹凸構造を有する。成長面41の微細凹凸構造は、主面30aに対して傾斜した、(100)面である微小面41aと(111)面である微小面41bとが主面30aに平行な方向に沿って繰り返されることにより形成される。
【0066】
(β)微小面41a,41bの各々の上には、主面30aの法線方向に沿って単結晶ダイヤモンドがエピタキシャル成長される。
【0067】
(γ)(100)面である微小面41aに対する不純物元素の取り込まれやすさと、(111)面である微小面41bに対する不純物元素の取り込まれやすさとが異なる。たとえば、Bは、微小面41aに取り込まれやすく、微小面41bに取り込まれにくい。
【0068】
上記の(α)および(γ)の特徴により、
図2~4に示されるように、観察面10aに不純物の濃度の総計の異なる領域11a,12aが観察される。不純物がBである場合、不純物の濃度の総計が相対的に低い領域11aは、微小面41bが成長した領域に対応し、不純物の濃度の総計が相対的に高い領域12aは、微小面41aが成長した領域に対応する。
【0069】
また、上記の(β)および(γ)の特徴により、
図8に示されるように、断面10bに、不純物の濃度の総計の異なる領域11b,12bが観察され、領域11b,12bの境界14bと<110>方向とのなす角度が0°以上7°以下となる。同様に、
図9に示されるように、断面10cに、不純物の濃度の総計の異なる領域11c,12cが観察され、領域11c,12cの境界14cと<110>方向とのなす角度が0°以上7°以下となる。
【0070】
成長面41における微小面41aと微小面41bとの面積比は、メタンガスおよび不純物ガスの濃度と、基板温度とを変更することにより制御される。これにより、観察面10aに観察される領域11a,12aの面積比が
図4~6に示されるように制御される。
【0071】
〈他の製造方法で作製された単結晶ダイヤモンドとの比較〉
従来の高温高圧合成法により得られた単結晶ダイヤモンドでも、不純物の濃度の総計の異なる複数のセクターが観察される。たとえば、(111)セクターは(111)面が成長したセクターであり、(100)セクターは(100)面が成長したセクターである。しかしながら、セクターのサイズは、上記の観察面10aに観察される領域11a,12aに比べて非常に大きい。そのため、高温高圧合成法により得られる単結晶ダイヤモンドでは、表面を研磨して得られた(110)面に平行な観察面において、第1線15、第2線16および第3線17のいずれも、複数のセクターの境界と4回以上交わらない。
【0072】
CVD法により種基板の(100)面上に単結晶ダイヤモンド層をエピタキシャル成長させる場合、(100)面が成長した単結晶ダイヤモンドが得られる。そのため、当該単結晶ダイヤモンドでは、観察面10aの全域において不純物の濃度が均一である。すなわち、本実施の形態のように、不純物の濃度の総計の異なる領域11a,12aが観察面10aに観察されない。
【0073】
CVD法により(110)面上にエピタキシャル成長された単結晶ダイヤモンドであっても、成長工程において、メタンガスまたは不純物ガスの濃度が本実施の形態よりも低い場合には、厚い単結晶とならない。これは、(110)成長に必要な配向性にならず、安定な成長表面が得られず、多結晶化するためである。
【0074】
天然のダイヤモンドでは、不純物量のばらつきが大きく、安定した特性が得られない。
〈変形例1〉
上記では、主面10を研磨することにより得られた観察面10aの全域に、不純物の濃度の総計の異なる2種類の領域11a,12aが混在している様子が観察される単結晶ダイヤモンド1を説明した。しかしながら、観察面10aの中央付近の一部の混在区域にのみ、不純物の濃度の総計の異なる2種類の領域11a,12aが混在している様子が観察されてもよい。
【0075】
図12は、本変形例1に係る単結晶ダイヤモンドにおける観察面10aを模式的に示す平面図である。
図12に示されるように、観察面10aは、中央付近の混在区域13aと、混在区域13aの周辺に位置する均一区域13b~13eとに分けられる。混在区域13aでは、
図2~4に示されるように、不純物の濃度の総計の異なる2種類の領域11a,12aが混在している様子が観察される。一方、均一区域13b~13eの各々では不純物の濃度が均一である。混在区域13aの面積は、観察面10aの面積の10%以上であることが好ましく、観察面10aの面積の20%以上、30%以上、50%以上または80%以上がより好ましい。これにより、単結晶ダイヤモンド1の耐欠損性を向上させることができる。
【0076】
本変形例1に係る単結晶ダイヤモンドは、種基板30の側面を金属膜で覆わず、種基板30の側面にも単結晶ダイヤモンド層を成長させることにより得られる。
【0077】
図13は、種基板30の側面を金属膜で覆わずに単結晶ダイヤモンド層40を成長させたときの、種基板30および単結晶ダイヤモンド層40の断面図を示す。単結晶ダイヤモンド層40における、種基板30の主面30aの直上の成長面42は、
図11Bに示す成長面41と同様に、主面30aに対して傾斜した、微小な(100)面と(111)面とが主面30aに平行な方向に沿って繰り返される凹凸形状となる。そのため、成長面42が成長する区域40dでは、不純物の濃度の総計の異なる領域が混在する。一方、単結晶ダイヤモンド層40における、主面30aの直上以外の成長面43は、主面30aに対して傾斜しているものの、平らである。成長面43は、(100)面または(111)面である。そのため、成長面43が成長する区域40eでは、不純物の濃度が均一である。
【0078】
種基板30の主面30aを含む平面X1と、主面30aと成長面42との間の平面X2とで単結晶ダイヤモンド層40を切断することにより得られた単結晶ダイヤモンドの主面には、成長面42が成長した区域40dと、成長面43が成長した区域40eとが露出する。そのため、単結晶ダイヤモンドの主面を研磨することにより得られる観察面10aには、
図12に示されるように、不純物の濃度の総計の異なる2種類の領域が混在する混在区域13aと、不純物の濃度が均一な均一区域13b~13eとが観察される。ここで、混在区域13aは、区域40dの表面に対応し、均一区域13b~13eは、区域40eの表面に対応する。
【0079】
〈変形例2〉
上記の成長工程を、成長開始から所定時間経過するまでの第1段階と、第1段階より後の第2段階との2段階に分け、第1段階において不純物ガスの導入を制限してもよい。たとえば、第1段階では、水素ガスとメタンガスとを導入し、あるいは、水素ガスとメタンガスと二酸化炭素ガスとを導入して、単結晶ダイヤモンド層40を種基板30上に成長させる。このとき、水素ガスに対するメタンガスの濃度を1~20モル%とすればよい。二酸化炭素ガスを導入する場合には、メタンガスに対する二酸化炭素ガスの濃度を1~10モル%とすればよい。
【0080】
第2段階では、水素ガスとメタンガスと不純物ガスとを用いて単結晶ダイヤモンド層を種基板30上に成長させる。このとき、水素ガスに対するメタンガスの濃度を1モル%以上20モル%以下とし、メタンガスに対する不純物ガスの濃度を1モルppm以上50モル%以下とする。
【0081】
図14は、本変形例2に係る単結晶ダイヤモンド1を示す断面図である。
図14に示されるように、単結晶ダイヤモンド1は、室温での抵抗率が10
6Ωcm以上の第1層21と、室温での抵抗率が10
6Ωcm未満の第2層22とを備える。第1層21は、成長工程の第1段階で成長した単結晶ダイヤモンド層であり、不純物の濃度の総計が低い。そのため、第1層21における抵抗率は10
6Ωcm以上となる。第2層22は、成長工程の第2段階で成長した単結晶ダイヤモンド層であり、不純物の濃度の総計が3モルppm以上である。そのため、第2層22における抵抗率は10
6Ωcm未満となる。第2層22に不純物が含まれるため、観察面10aは、第2層22を研磨することにより得られる。なお、第1層21の抵抗率の上限値は特に限定されず、不純物のない単結晶ダイヤモンドが取り得る抵抗率以下である。第2層22の抵抗率は、第2層22に含まれる不純物の量に依存する。そのため、第2層22の抵抗率の下限値は、第2層22の不純物による硬度の低下を考慮して、1Ωcm以上であることが好ましい。
【0082】
第1層21と第2層22との界面23と(110)面とのなす角度は、0°以上7°以下である。ただし、界面23は、
図11Bに示す成長面41と同形状の微細凹凸構造を有する。界面23の微細凹凸構造の平均高さは1μm以上である。微細凹凸構造の平均高さは、JIS B0601-2001の平均高さRcに準拠して計測される。界面23は、単結晶ダイヤモンド1の断面に対するSEM画像、CL画像、ラマン画像により観察することができる。
【0083】
第2層22において、第1層21の直上の区域22aは、
図11Bに示すような成長面41が成長することにより形成される。そのため、区域22aは、不純物の濃度の総計の異なる2種類の領域が混在する混在区域となる。第1層21の側面を金属膜で覆わずに第2層22を成長させることにより、第1層21の側面上に、(100)面または(111)面が成長した区域22bが形成される。区域22bは、不純物の濃度が均一である均一区域となる。
【0084】
本変形例2によれば、抵抗率が106Ωcm以上である第1層21が種基板30に接する。そのため、炭素イオンの注入により種基板30に導電層30bを形成し、電界エッチングにより第1層21と種基板30とを分離する際に、導電層30bに電界が集中する。これにより、第1層21を種基板30から分離する分離工程に要する時間を短くすることができる。
【0085】
なお、本変形例2において、成長工程の第1段階および第2段階を行なった後に分離工程を行なってもよく、成長工程の第1段階を行なった後に分離工程を行ない、その後に成長工程の第2段階を行なってもよい。
【0086】
〈変形例3〉
上記では、観察面10aに不純物の濃度の総計の異なる2種類の領域11a,12aが観察される単結晶ダイヤモンド1について説明した。しかしながら、観察面10aに不純物の濃度の総計の異なる3種類の領域が観察されてもよい。当該3種類の領域の各々の面積は0.1μm2以上である。このとき、最も不純物の濃度の高い領域の不純物の濃度の総計は、2番目に不純物の濃度が高い領域の不純物の濃度の総計の30%以上、50%以上、100%以上、300%以上または1000%以上高いことが好ましい。また、2番目に不純物の濃度の高い領域の不純物の濃度の総計は、最も不純物の濃度が低い領域の不純物の濃度の総計の30%以上、50%以上、100%以上、300%以上または1000%以上高いことが好ましい。
【0087】
不純物ガスの種類およびメタンガスの濃度を調整することにより、
図11Bに示す微小面41a,41bの他に、種基板30の主面30aに対して傾斜した(113)面である第3の微小面が主面30aに平行な方向に沿って繰り返される成長面41が形成される。このとき、(100)面である微小面41aと(111)面である微小面41bと(113)面である微小面とに対する不純物の取り込み量が異なる。その結果、観察面10aに不純物の濃度の総計の異なる3種類の領域が観察される。
【実施例】
【0088】
以下、実施例を挙げて本開示をより詳細に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。試料No.1~10の単結晶ダイヤモンドは実施例であり、試料No.11~13の単結晶ダイヤモンドは比較例である。
【0089】
〈試料No.1の単結晶ダイヤモンド〉
高温高圧合成法により得られた、(110)面に対するオフ角が2°の主面を有する種基板を準備した。種基板のサイズは、12mm×6mm×2mmである。種基板の主面を、平均粒径9~35μmのダイヤモンド砥粒をメタルで固定した砥石を用いて研磨した後、酸(王水)と有機溶剤(エタノール)とで洗浄した。その後、種基板の主面に、3MeVのエネルギーで炭素イオンを注入することにより、導電層を形成した。
【0090】
次に、マイクロ波プラズマCVD装置を用いて、種基板の主面上に厚さ800μmの単結晶ダイヤモンド層を成長させた。成長用のガスとして、水素ガス、メタンガス、および不純物ガスとしてのジボラン(B2H6)を用いた。水素ガスの流量を500sccm、メタンガスの流量を25sccmとした。つまり、水素ガスに対するメタンガスの濃度を5モル%とした。メタンガスに対する不純物ガスの濃度を800モルppmとした。また、成長時の圧力を50kPaとし、成長時の温度(つまり種基板の温度)を830℃とした。
【0091】
最後に、電解エッチングにより種基板の導電層を分解除去することにより、単結晶ダイヤモンド層を種基板から分離することにより、試料No.1の単結晶ダイヤモンドを作製した。
【0092】
〈試料No.2の単結晶ダイヤモンド〉
メタンガスに対する不純物ガスの濃度を5000モルppmとし、成長時の温度を800℃とした点を除いて試料No.1と同じ条件で試料No.2の単結晶ダイヤモンドを作製した。
【0093】
〈試料No.3の単結晶ダイヤモンド〉
水素ガスに対するメタンガスの濃度を3モル%(メタンガスの流量:15sccm)とし、メタンガスに対する不純物ガスの濃度を300モルppmとし、成長時の圧力を10kPaとし、成長時の温度を1110℃とした点を除いて試料No.1と同じ条件で試料No.3の単結晶ダイヤモンドを作製した。
【0094】
〈試料No.4の単結晶ダイヤモンド〉
水素ガスに対するメタンガスの濃度を10モル%(メタンガスの流量:50sccm)とし、メタンガスに対する不純物ガスの濃度を200モルppmとし、成長時の圧力を55kPaとし、成長時の温度を1200℃とした点を除いて試料No.1と同じ条件で試料No.4の単結晶ダイヤモンドを作製した。
【0095】
〈試料No.5の単結晶ダイヤモンド〉
不純物ガスとしてホスフィン(PH3)を用い、メタンガスに対する不純物ガスの濃度を10モルppmとした点を除いて試料No.1と同じ条件で試料No.5の単結晶ダイヤモンドを作製した。
【0096】
〈試料No.6の単結晶ダイヤモンド〉
不純物ガスとして硫化水素(H2S)を用い、メタンガスに対する不純物ガスの濃度を10モルppmとした点を除いて試料No.1と同じ条件で試料No.6の単結晶ダイヤモンドを作製した。
【0097】
〈試料No.7の単結晶ダイヤモンド〉
不純物ガスとしてトリメチルアルミ((CH3)3Al)を用い、メタンガスに対する不純物ガスの濃度を50モルppmとした点を除いて試料No.1と同じ条件で試料No.7の単結晶ダイヤモンドを作製した。
【0098】
〈試料No.8の単結晶ダイヤモンド〉
不純物ガスとしてジボラン(B2H6)および窒素(N2)を用い、メタンガスに対する不純物ガスの濃度を1000モルppmとした点を除いて試料No.1と同じ条件で試料No.8の単結晶ダイヤモンドを作製した。なお、メタンガスに対するジボランの濃度を1000モルppmとし、メタンガスに対する窒素の濃度を20モルppmとした。
【0099】
〈試料No.9の単結晶ダイヤモンド〉
種基板に炭素イオンの注入を行なわず、メタンガスに対する不純物ガスの濃度を2000モルppmとし、成長時の温度を850℃とし、レーザーを用いて種基板と単結晶ダイヤモンド層とを分離した点を除いて試料No.1と同じ条件で試料No.9の単結晶ダイヤモンドを作製した。具体的には、種基板と単結晶ダイヤモンド層との界面付近にNd:YAGレーザーを照射して切断し、平均粒径9~35μmのダイヤモンド砥粒をメタルで固定した砥石を用いて切断面を研磨した。
【0100】
〈試料No.10の単結晶ダイヤモンド〉
高温高圧合成法により得られた、(110)面に対するオフ角が2°の主面を有する種基板を準備した。種基板のサイズは、10mm×5mm×2mmである。種基板の主面を、平均粒径9~35μmのダイヤモンド砥粒をメタルで固定した砥石を用いて研磨した後、酸(王水)と有機溶剤(エタノール)とで洗浄した。その後、種基板の主面に、3MeVのエネルギーで炭素イオンを注入することにより、導電層を形成した。
【0101】
次に、マイクロ波プラズマCVD装置を用いて、種基板の主面上に厚さ300μmの第1層を成長させた。第1層の成長用のガスとして、水素ガス、メタンガス、および二酸化炭素(CO2)ガスを用いた。水素ガスの流量を500sccm、メタンガスの流量を25sccmとした。つまり、水素ガスに対するメタンガスの濃度を5モル%とした。メタンガスに対する二酸化炭素ガスの濃度を10モル%とした。また、第1層の成長時の圧力を12kPaとし、成長時の温度を1200℃とした。
【0102】
第1層を成長させた後、電解エッチングにより種基板の導電層を分解除去することにより、第1層を種基板から分離した。その後、種基板から分離された第1層を酸(王水)と有機溶剤(エタノール)とで洗浄した。
【0103】
次に、マイクロ波プラズマCVD装置を用いて、第1層の主面上に厚さ500μmの第2層を成長させた。第2層の成長用のガスとして、水素ガス、メタンガス、および不純物ガスとしてのジボラン(B2H6)を用いた。水素ガスの流量を500sccm、メタンガスの流量を25sccmとした。つまり、水素ガスに対するメタンガスの濃度を5モル%とした。メタンガスに対する不純物ガスの濃度を6000モルppmとした。また、第2層の成長時の圧力を50kPaとし、成長時の温度を850℃とした。これにより、第1層と第2層とからなる試料No.10の単結晶ダイやモンドを作製した。
【0104】
〈試料No.11の単結晶ダイヤモンド〉
水素ガスに対するメタンガスの濃度を5モル%とし、メタンガスに対する不純物ガスの濃度を2000モルppmとし、成長時の圧力を50kPaとし、成長時の温度を730℃とした点を除いて試料No.9と同じ条件で試料No.11の単結晶ダイヤモンドを作製した。
【0105】
〈試料No.12の単結晶ダイヤモンド〉
公知の高温高圧合成法により作製されたIb型の単結晶ダイヤモンドを試料No.12の単結晶ダイヤモンドとした。
【0106】
〈試料No.13の単結晶ダイヤモンド〉
公知の高温高圧合成法により作製されたIIa型の単結晶ダイヤモンドを試料No.13の単結晶ダイヤモンドとした。
【0107】
以下の表1に、試料No.1~13の単結晶ダイヤモンドの作製条件の一覧を示す。
【0108】
【0109】
〈評価〉
試料No.1~8の単結晶ダイヤモンドは、電界エッチングによる分離工程を経て作製される。試料No.3~7の単結晶ダイヤモンドは、試料No.1,2,8の単結晶ダイヤモンドと比較して、成長工程に用いられた不純物ガスの濃度が低い。そのため、試料No.3~7の単結晶ダイヤモンドの抵抗率(電気抵抗率)は、試料No.1,2,8の単結晶ダイヤモンドの抵抗率よりも高かった。これにより、試料No.3~7の単結晶ダイヤモンドを作製する際の電界エッチングにおいて、種基板の導電層に電界が集中しやすくなる。その結果、試料No.3~7の単結晶ダイヤモンドを作製する際の分離工程に要する時間は、試料No.1,2,8の単結晶ダイヤモンドを作製する際の分離工程に要する時間の40%以下であった。
【0110】
試料No.10の単結晶ダイヤモンドでは、不純物ガスを導入せずに成長させた第1層を種基板から電界エッチングにより分離した。第1層の抵抗率は107Ωcmであった。そのため、電界エッチングにより第1層を種基板から分離するのに要する時間は、試料No.3~7の単結晶ダイヤモンドを作製する際の分離工程に要する時間よりもさらに短かった。なお、試料No.10の単結晶ダイヤモンドの第2層の抵抗率は、5Ωcmであった。
【0111】
試料No.1~11の単結晶ダイヤモンドは、(110)面に対するオフ角が2°の主面を有する種基板の当該主面上に成長した単結晶である。そのため、試料No.1~11の単結晶ダイヤモンドの主面を研磨することにより、(110)面に平行であり、かつ表面粗さRaが5μmの観察面を容易に露出させることができた。なお、試料No.10の単結晶ダイヤモンドについては、第2層の表面を研磨することにより、観察面を露出させた。試料No.12,13の単結晶ダイヤモンドについても、表面を研磨することにより、(110)面に平行であり、かつ表面粗さRaが5μmの観察面を露出させた。
【0112】
試料No.1~13の単結晶ダイヤモンドの各々の観察面のSEM画像を取得し観察した。具体的には、観察面に不純物の濃度の総計の異なる2種類または3種類の領域が観察されたか否かを確認した。不純物の濃度の総計の異なる2種類または3種類の領域が観察面に観察された場合、観察面において、不純物の濃度の総計の異なる2種類または3種類の領域が混在している混在区域の面積の割合を測定した。さらに、観察面における第1線、第2線および第3線の各々が不純物の濃度の総計の異なる2種類または3種類の領域の境界と交わる回数の最大値を計測した。
【0113】
試料No.1~13の単結晶ダイヤモンドの各々の観察面においてナノSIMSを用いて不純物の濃度を測定した。具体的には、観察面に不純物の濃度の総計の異なる2種類または3種類の領域が観察された場合には、各領域における不純物の濃度の総計を測定した。さらに、試料No.1~13の単結晶ダイヤモンドの各々の不純物の濃度の全体平均値(単一または複数の不純物の濃度の総計)を測定した。
【0114】
表2に、観察面に観察される不純物の濃度の総計の異なる領域に関する測定結果および不純物の濃度の総計の測定結果を示す。
【0115】
【0116】
表2に示されるように、試料No.1~10の単結晶ダイヤモンドでは、観察面に不純物の濃度の総計の異なる2種類の領域が観察された。さらに、観察面の第1~3線のいずれも不純物の濃度の総計の異なる2種類の領域の境界と200回以上交わった。つまり、試料No.1~10の単結晶ダイヤモンドでは、不純物の濃度の総計の異なる2種類の領域が混在する混在区域が観察された。
【0117】
試料No.1,3~9の単結晶ダイヤモンドでは観察面の全域が混在区域となった。これに対し、試料No.2,10の単結晶ダイヤモンドでは観察面の20%を混在区域が占めた。
【0118】
一方、試料No.11の単結晶ダイヤモンドでは、観察面に不純物の濃度の総計の異なる2種類の領域が観察されたものの、第1~3線が不純物の濃度の総計の異なる2種類の領域の境界と交わる回数の最大値は3回であった。これは、低温にすることで(110)配向成長したため、不純物が均一になったためである。
【0119】
試料No.12の単結晶ダイヤモンドでは、観察面の全域において不純物の濃度が均一であり、不純物の濃度の総計の異なる領域が観察されなかった。なお、試料No.12の単結晶ダイヤモンドに含まれる不純物は窒素であった。
【0120】
試料No.13の単結晶ダイヤモンドでは、不純物の濃度の総計の異なる領域として、(100)セクターと(111)セクターとが観察面に観察された。しかしながら、観察面の第1~3線のいずれもセクターの境界と2回だけ交わり、不純物の濃度の総計の異なる領域が混在する混在区域は確認されなかった。なお、試料No.13の単結晶ダイヤモンドに含まれる不純物は窒素であった。
【0121】
試料No.1~13の単結晶ダイヤモンドの各々の観察面に対して、ヌープ圧痕の長い方の対角線が<001>方向に平行な場合のヌープ硬度を測定した。ヌープ硬度を測定する際の試験荷重を4.9Nとした。
【0122】
試料No.1~13の単結晶ダイヤモンドの各々について、X線トポグラフィー画像を取得し、転位方向を確認した。さらに、不純物ガスとしてジボランを用いた試料No.1~4,8~10,13の単結晶ダイヤモンドの各々について、512nmで励起したラマン散乱スペクトルを測定した。測定したラマン散乱スペクトルに対して、ラマンシフト1310~1340cm
-1のピークのバックグラウンドがゼロとなるように、バックグラウンド処理を行なった。バックグラウンド処理が施されたラマン散乱スペクトルにおいて、ラマンシフト850~950cm
-1のピークの絶対強度I1と、ラマンシフト1310~1340cm
-1のピークの絶対強度I2との比(I1/I2)を計測した。
図15は、試料No.2,4,8の単結晶ダイヤモンドについて測定されたラマン散乱スペクトルを示す。
【0123】
試料No.1~13の単結晶ダイヤモンドの各々をカッター刃の形状に加工し、被切削材(ワーク)の切削加工を行なって耐欠損性を評価した。カッターとして住友電工ハードメタル株式会社製RF4080Rを用い、ワイパーチップとして住友電工ハードメタル株式会社製SNEW1204ADFR-WSを用いた。旋盤として株式会社森精機製のNV5000を用い、切削速度2000m/min、切込量0.05mm、送り量0.05mm/刃とし、アルミ材A5052であるワークを30km切削した後のカッター刃の5μm以上の欠損数を計測した。欠損数が少ないほど耐欠損性が高いことを示す。
【0124】
表3に、転位方向、ヌープ硬度、ラマン散乱の強度比(I1/I2)、欠損数の測定結果を示す。
【0125】
【0126】
表3に示されるように、試料No.1~10の単結晶ダイヤモンドの欠損数が0個であるのに対し、試料No.11~13の単結晶ダイヤモンドの欠損数が4個以上である。このことから、試料No.1~10の単結晶ダイヤモンドは、耐欠損性に優れることがわかる。
【0127】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
【0128】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0129】
1 単結晶ダイヤモンド、10,30a 主面、10a 観察面、10b,10c 断面、10m 重心、11a,11b,11c,12a,12b,12c 領域、13a,14a 混在区域、13b,13e 均一区域、14,14b,14c 境界、15 第1線、16 第2線、17 第3線、21 第1層、22 第2層、23 界面、30 種基板、30b 導電層、40 単結晶ダイヤモンド層、40d,40e 区域、41,42,43 成長面、41a,41b 微小面、N ヌープ圧痕、n1 対角線。