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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-21
(45)【発行日】2023-03-02
(54)【発明の名称】マスク用編地、マスク及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/11 20060101AFI20230222BHJP
   D01F 1/10 20060101ALI20230222BHJP
   D01F 6/38 20060101ALI20230222BHJP
   D04B 1/00 20060101ALI20230222BHJP
   D04B 1/16 20060101ALI20230222BHJP
   D04B 1/18 20060101ALI20230222BHJP
   D06M 13/463 20060101ALI20230222BHJP
   D06M 101/06 20060101ALN20230222BHJP
【FI】
A41D13/11 M
A41D13/11 D
A41D13/11 Z
D01F1/10
D01F6/38
D04B1/00 B
D04B1/16
D04B1/18
D06M13/463
D06M101:06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020126151
(22)【出願日】2020-07-27
(65)【公開番号】P2022023308
(43)【公開日】2022-02-08
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】518381846
【氏名又は名称】東洋紡せんい株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】黒田 修広
(72)【発明者】
【氏名】河端 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】藤田 匡彦
【審査官】冨江 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-154321(JP,A)
【文献】国際公開第2017/073675(WO,A1)
【文献】特表2009-505788(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D13/11
A62B18/02
D04B1/00-1/28、21/00-21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
口及び鼻孔を含む顔面の一部を覆う顔面被覆部とその左右両端側の耳掛け部を有するマスクに使用する編地であって、編地が、ダブルニット編地からなり、編地の外側面は、抗ウイルス機能を有する非弾性糸と熱融着性弾性糸とを引き揃えることによって、及び/又は抗ウイルス機能を有する非弾性糸と熱融着性弾性糸とからなる被覆弾性糸によって構成され、編地の内側面は、抗ウイルス機能を有さない非弾性糸と熱融着性弾性糸とを引き揃えることによって、及び/又は抗ウイルス機能を有さない非弾性糸と熱融着性弾性糸とからなる被覆弾性糸によって構成されていることを特徴とするマスク用編地。
【請求項2】
抗ウイルス機能を有する非弾性糸は、1~13mmol/gのH型カルボキシル基を有するアクリロニトリル系繊維を10~70質量%含有していることを特徴とする請求項1に記載のマスク用編地。
【請求項3】
抗ウイルス機能を有する非弾性糸は、ジデシルジメチルアンモニウムクロライドを0.1~10.0質量%含有する合成繊維を15~100質量%含有していることを特徴とする請求項1に記載のマスク用編地。
【請求項4】
抗ウイルス機能を有する非弾性糸は、3-(トリエトキシシリル)プロピルオクタデシルジメチルアンモニウムクロライドを0.1~10.0質量%含有するセルロース繊維を15~100質量%含有していることを特徴とする請求項1に記載のマスク用編地。
【請求項5】
JIS-L1922:2016で測定した編地の抗ウイルス活性値が2.0以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のマスク用編地。
【請求項6】
熱融着性弾性糸同士を融着させた請求項1~5のいずれかに記載のマスク用編地を、口及び鼻孔を含む顔面の一部を覆う顔面被覆部とその左右両端側の耳掛け部に使用したことを特徴とするマスク。
【請求項7】
マスク用編地が裁断して使用されており、裁断面が切れっぱなしのまま使用されていることを特徴とする請求項6に記載のマスク。
【請求項8】
マスク用編地の通気抵抗値が、カトーテック株式会社製KES-F8-AP1を用いて測定すると0.10~1.25kpa・sec/mであることを特徴とする請求項6又は7に記載のマスク。
【請求項9】
請求項1~5のいずれかに記載のマスク用編地の熱融着性弾性糸同士を150~210℃の温度で融着させた後、その編地を、口及び鼻孔を含む顔面の一部を覆う右側顔面被覆部と右耳掛け部からなる右半分体と、口及び鼻孔を含む顔面の一部を覆う左側顔面被覆部と左耳掛け部とからなる左半分体の形状にそれぞれ合わせて裁断し、それらを鼻及び口の中心を被覆する円弧状部で縫製する工程を含むことを特徴とするマスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス性及び着用快適性に優れ、裁断面のほつれを防止できる、ニット素材からなるマスク用編地、並びにそれを使用したマスク及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インフルエンザやコロナウイルスが流行している時期には、ウイルス感染予防の一つとして、外出時に衛生マスクを着用することが推奨されている。医療用でない一般の衛生マスクとして、ガーゼマスク、発泡ウレタンマスク、編物マスク等があるが、これらのマスクは、ウイルスの大きさに比べて目が粗いので、これらによってウイルスの侵入を完全に防ぐことは難しい。しかし、咳やくしゃみをしたときにウイルスをまき散らすことを軽減する効果が期待できるため、ウイルスを完全に防御できないマスクであっても積極的に使用されている。
【0003】
一方、マスクを着用した後では、マスクの外側にウイルスが付着している可能性が高く、マスクの外側を無造作に触ってしまうと、ウイルスに汚染した手で顔や食べ物等を触ったりすることで感染してしまうリスクが非常に高くなる。マスクに付着したウイルスは、数日間、活性を保つ場合もあり、アルコールや界面活性剤で洗ったり、滅菌処理しないと再利用が難しかった。
【0004】
マスクに付着したウイルスを迅速に不活性化させるための方法として、マスク本体の呼吸通過箇所に用いられる繊維基材にヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウイルス剤を特定の接着剤によって付着させたマスクが提案されている(特許文献1参照)。また、表側に抗ウイルス剤を施したニット布地を、鼻部等と接する内側に抗ウイルス剤を施さないニット布地を重ねたマスク本体を有するマスクが提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
特許文献1では、活性なウイルスがマスクを通過するのを抑制する効果はあるが、マスク外側全体に抗ウイルス剤が付着していないので、マスク外側に付着したウイルスは活性がある状態を長く保ってしまう問題があった。また、抗ウイルス剤を接着剤で付着しているだけなので繰り返し洗濯で効果が低下する問題もあった。また、特許文献2では、マスク外側に抗ウイルス加工を施したニット生地を用いているが、生地2枚を重ね合わせてマスクにする必要があり、パーツが多くて材料コストが高く、縫製の手間がかかって生産性が低下する問題があった。また、耳紐には抗ウイルス加工がされていないので、マスクを外すときに耳紐からウイルスに汚染する可能性もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-101758号公報
【文献】WO2017/073675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来技術の問題に鑑みなされたものであって、その目的は、口及び鼻孔を含む顔面の一部を覆う顔面被覆部とその左右両端側の耳掛け部を有するマスクに使用する編地において、外側の抗ウイルス活性の保持、裁断面のほつれ防止(洗濯耐久性)、着用快適性(フィット性)、簡単な製造を達成したものを提供することにある。また、かかるマスク用編地を使用したマスク、及びその製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は、以下の(1)~(9)の構成を有するものである。
(1)口及び鼻孔を含む顔面の一部を覆う顔面被覆部とその左右両端側の耳掛け部を有するマスクに使用する編地であって、編地が、ダブルニット編地からなり、編地の外側面は、抗ウイルス機能を有する非弾性糸と熱融着性弾性糸とを引き揃えることによって、及び/又は抗ウイルス機能を有する非弾性糸と熱融着性弾性糸とからなる被覆弾性糸によって構成され、編地の内側面は、抗ウイルス機能を有さない非弾性糸と熱融着性弾性糸とを引き揃えることによって、及び/又は抗ウイルス機能を有さない非弾性糸と熱融着性弾性糸とからなる被覆弾性糸によって構成されていることを特徴とするマスク用編地。
(2)抗ウイルス機能を有する非弾性糸は、1~13mmol/gのH型カルボキシル基を有するアクリロニトリル系繊維を10~70質量%含有していることを特徴とする(1)に記載のマスク用編地。
(3)抗ウイルス機能を有する非弾性糸は、ジデシルジメチルアンモニウムクロライドを0.1~10.0質量%含有する合成繊維を15~100質量%含有していることを特徴とする(1)に記載のマスク用編地。
(4)抗ウイルス機能を有する非弾性糸は、3-(トリエトキシシリル)プロピルオクタデシルジメチルアンモニウムクロライドを0.1~10.0質量%含有するセルロース繊維を15~100質量%含有していることを特徴とする(1)に記載のマスク用編地。
(5)JIS-L1922:2016で測定した編地の抗ウイルス活性値が2.0以上であることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載のマスク用編地。
(6)熱融着性弾性糸同士を融着させた(1)~(5)のいずれかに記載のマスク用編地を、口及び鼻孔を含む顔面の一部を覆う顔面被覆部とその左右両端側の耳掛け部に使用したことを特徴とするマスク。
(7)マスク用編地が裁断して使用されており、裁断面が切れっぱなしのまま使用されていることを特徴とする(6)に記載のマスク。
(8)マスク用編地の通気抵抗値が、カトーテック株式会社製KES-F8-AP1を用いて測定すると0.10~1.25kpa・sec/mであることを特徴とする(6)又は(7)に記載のマスク。
(9)(1)~(5)のいずれかに記載のマスク用編地の熱融着性弾性糸同士を150~210℃の温度で融着させた後、その編地を、口及び鼻孔を含む顔面の一部を覆う右側顔面被覆部と右耳掛け部からなる右半分体と、口及び鼻孔を含む顔面の一部を覆う左側顔面被覆部と左耳掛け部とからなる左半分体の形状にそれぞれ合わせて裁断し、それらを鼻及び口の中心を被覆する円弧状部で縫製する工程を含むことを特徴とするマスクの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、着用中や着用後のマスクからのウイルスの二次感染を予防し、何度も洗濯しても抗ウイルス性の効果が持続し、着用快適性(フィット性)に優れ、構造が簡略で低コストで生産性が高いマスクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のマスク用編地を使用したマスクの一例の概略斜視図である。
図2図1のマスクの右半分体の一例の外観形状の概略平面図である。
図3】実施例1で使用したマスク用編地の編組織の一例である。
図4】実施例5で使用したマスク用編地の編組織の一例である。
図5】実施例6で使用したマスク用編地の編組織の一例である。
図6】実施例7で使用したマスク用編地の編組織の一例である。
図7】実施例8で使用したマスク用編地の編組織の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のマスク用編地を使用して作られるマスクは、口及び鼻を含む顔面の一部を覆う顔面被覆部とその左右両端側の耳掛け部を有するものであればいずれのものであってもよいが、例えば図1に示すように口及び鼻を含む顔面の一部を覆う右側顔面被覆部2とそれに続く右耳掛け部3からなる右半分体と、口及び鼻を含む顔面の一部を覆う左側顔面被覆部2´とそれに続く左耳掛け部3´からなる左半分体とからなる形状にそれぞれ合わせてマスク用編地を裁断した後、それらを鼻及び口の中心を被覆する円弧状部4で互いに縫製して作られるマスク1が好ましい。図2は、図1のマスク1の右半分体を平面図で示したものである。
【0012】
本発明のマスク用編地は、ダブルニット編地の一層から構成されており、編地の外側面も内側面も熱融着性弾性糸を使用するが、編地の外側面のみが、抗ウイルス機能を有するように設計され、編地の内側面は抗ウイルス機能を有するようには設計されていない。具体的には、本発明の編地の外側面は、抗ウイルス機能を有する非弾性糸と熱融着性弾性糸とを引き揃えることによって、及び/又は抗ウイルス機能を有する非弾性糸と熱融着性弾性糸とからなる被覆弾性糸によって構成され、編地の内側面は、抗ウイルス機能を有さない非弾性糸と熱融着性弾性糸とを引き揃えることによって、及び/又は抗ウイルス機能を有さない非弾性糸と熱融着性弾性糸とからなる被覆弾性糸によって構成されている。
【0013】
抗ウイルス機能を有する非弾性糸としては、抗ウイルス性を有する繊維を含んだ糸や、糸に洗濯耐久性のある抗ウイルス加工を施したものが挙げられる。抗ウイルス性を有する繊維としては、繊維に抗ウイルス性のある機能材を練りこんだもの、繊維にカルボキシル基やスルホン酸基を導入したもの、抗ウイルス加工剤を繊維表面に担持させたり、繊維中に吸尽させたものが挙げられる。例えば繊維に練りこんだり、担持させる物質としては、天然または合成ゼオライトのイオン交換可能な金属の一部が、銀、銅、亜鉛などの金属イオンにより置換されているゼオライトや酸化銀等を含有した溶解性ガラス、ドロマイトを焼成してから粉砕したもの等の無機物、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド(DDAC)、3-クロロー2-ヒドロキシプロピルドデシルジメチルアンモニウムクロライド(CDDA)、3-(トリエトキシシリル)プロピルオクタデシルジメチルアンモニウムクロライド、3-(トリメトキシシリル)プロピルジメチルオクタデシルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩などの有機物が挙げられる。
【0014】
抗ウイルス性を有する繊維のうち、繊維にカルボキシル基やスルホン酸基を導入したものとしては、例えば特開2017-36431に挙げられるようなH型カルボキシル基を有するアクリロニトリル系繊維が挙げられる。繊維を改質して抗ウイルス性を持たせたものは、少なくともH型カルボキシル基を有する重合体を含有するものであるが、H型スルホン酸基を含有してもよい。更に、H型カルボキシル基を有する重合体とH型スルホン酸基を有する重合体の混合物にして使用してもよい。カルボキシル基及びスルホン酸基の型がH型であると優れた抗ウイルス性能を発現するが、金属塩型のカルボキシル基やスルホン酸基が共存していてもよい。ここで、H型カルボキシル基およびH型スルホン酸基とは、それぞれCOOH及びSOHで表される官能基を表しており、金属塩型とは、これらの官能基のHの部分が金属イオンに置き換わったものを表す。
【0015】
H型カルボキシル基の量としては、実用上効果があるレベルとするため、使用する繊維重量に対して、好ましくは1mmol/g以上、より好ましくは2mmol/g以上、さらに好ましくは3mmol/g以上である。また、H型スルホン酸基の量としては、実用上の抗ウイルス効果があるレベルとするため、使用する繊維重量に対し、好ましくは0.2mmol/g以上、より好ましくは0.5mmol/g以上、さらに好ましくは1mmol/g以上とするのが望ましい。また、H型カルボキシル基の量の上限は13mmol/g、H型スルホン酸基の上限は8mmol/gである。
【0016】
かかるH型カルボキシル基及び/又はH型スルホン酸基を有する重合体の製造方法としては、特に限定されないが、例えばH型カルボキシル基を有する単量体及び/又はH型スルホン酸基を有する単量体を共重合する方法、重合体を化学変性することによりH型カルボキシル基及び/又はH型スルホン酸基を導入する方法、あるいは重合体に対してH型カルボキシル基及び/又はH型スルホン酸基を有する単量体をグラフト重合する方法等が挙げられる。共重合する方法及びグラフト重合する方法におけるH型カルボキシル基を有する単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等が挙げられる。また、H型スルホン酸基を有する単量体としては、例えば、ビニルスルホン酸、p-スチレンスルホン酸、アクリルアミド-t-ブチルスルホン酸、メタリルスルホン酸等が挙げられる。
【0017】
また、上述の化学変性する方法としては、例えば化学変性処理すればカルボキシル基を得られるような官能基を有する単量体よりなる重合体を得た後に、加水分解によって塩型またはH型カルボキシル基に変性し、塩型カルボキシル基の場合にはイオン交換樹脂等でH型カルボキシル基に変換する方法が挙げられる。このような方法をとることのできる単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基を有する単量体、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ノルマルプロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ノルマルブチル、(メタ)アクリル酸ノルマルオクチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸の誘導体;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物;(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、モノエチル(メタ)アクリルアミド、N-t-ブチル(メタ)アクリルアミド等のアミド化合物等が例示できる。
【0018】
抗ウイルス機能を有する非弾性糸としては、上述のようなH型カルボキシル基を1~13mmol/g有するアクリロニトリル系繊維を10~70質量%の割合で含有しているものが挙げられる。含有量が10質量%未満では、マスクとして抗ウイルス性を十分に発揮しにくくなり、70質量%を超えると、抗ウイルス性は十分であるが、製造コストが高くなりやすい。より好ましくは20~60質量%、更に好ましくは30~55質量%である。このH型カルボキシル基を1~13mmol/g有するアクリロニトリル系繊維が同時にH型スルホン酸基を0.2~8mmol/g有する場合も本発明で使用することができ、この場合も上記と同じ混率で非弾性糸中に含まれることが好ましい。
【0019】
抗ウイルス加工剤を繊維表面に担持させたものとしては、セルロース繊維の場合は、3-(トリエトキシシリル)プロピルオクタデシルジメチルアンモニウムクロライド、3-(トリメトキシシリル)プロピルジメチルオクタデシルアンモニウムクロライドが、ポリエステルやポリアミド繊維などの合成繊維の場合は、ジデシルジメチルアンモニウムクロライドが抗ウイルス加工剤として好ましい。抗ウイルス加工剤は、純分として、繊維質量に対して0.1~10.0質量%付着させることが好ましい。より好ましくは0.5~5.0質量%である。更に好ましくは0.8~3.0質量%である。付着量が上記範囲を超えると皮膚への刺激性が高くなりやすく、上記範囲未満では抗ウイルス性が発揮されにくい。
【0020】
抗ウイルス機能を有する非弾性糸は、上述の抗ウイルス性のアクリロニトリル繊維を10~70質量%含有するか、又は上述の3-(トリエトキシリル)プロピルオクタデシルジメチルアンモニウムクロライドを含有するセルロース繊維もしくはジデシルジメチルアンモニウムクロライドを含有する合成繊維を15~100質量%含有することが好ましい。
【0021】
本発明のマスク用編地の外側面において、抗ウイルス機能を有する非弾性糸は、外側面を構成する糸の40質量%以上であることが好ましく、編地全体の15質量%以上、さらには20~60質量%含むことが好ましい。含有量が上記範囲未満であると、十分な抗ウイルス性が得られ難くなり、編地全体として上記範囲を超えると編地の表裏のバランスが低下して、カーリングしやすくなったりしてマスクの保形性が低下しやすくなる。
【0022】
本発明のマスク用編地に用いる抗ウイルス機能を有さない非弾性糸や、抗ウイルス機能を有する非弾性糸に混合する抗ウイルス性を持たない繊維に用いられる繊維材料としては、従来使用されている各種の天然繊維や化学繊維が挙げられる。天然繊維としては、綿、麻等の植物繊維、毛、絹等の動物繊維が挙げられるが、綿が好適である。化学繊維としては、合成繊維、半合成繊維、再生繊維が挙げられる。合成繊維としては、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリオレフィン系、ポリアクリロニトリル系繊維等が挙げられるが、ポリエチレンテレフタレート繊維、ナイロン6繊維、ポリプロピレン繊維が好ましい。半合成繊維としては、ジアセテート、トリアセテートが挙げられる。再生繊維としては、ビスコースレーヨン、ハイウェットモジュラスレーヨン、ポリノジック、キュプラ、有機溶剤紡糸セルロース(リヨセル、バンブー繊維等)が挙げられる。本発明では、上記繊維を単独または複数組み合わせて糸条にして編物にする。糸条としては、フィラメントでも紡績糸でもそれらの複合糸でも構わない。また、これらの糸条を交編して用いてもよい。なお本発明において抗ウイルス性機能を有さない非弾性糸とは、JIS L1922:2016による抗ウイルス性試験で抗ウイルス活性値が2.0未満のものをいう。
【0023】
抗ウイルス機能を有する非弾性糸、及び抗ウイルス機能を有さない非弾性糸の総繊度は、55~200dtex、紡績糸の場合は、英式綿番手で100~30番手とすることが好ましい。より好ましくは、総繊度は、60~150dtex、紡績糸で70~40番手である。
【0024】
本発明のマスク用編地は、上述の抗ウイルス機能を有する非弾性糸など以外に熱融着性弾性糸を使用する。本発明の編地が使用することを意図されるマスクは、顔面被覆部と耳掛け部、耳紐とマスクが一体となっているため適度な伸縮性が必要であり、またマスクを装着したときに肌とマスク端辺との間に隙間を作らず肌の局面に沿って密着させるために伸縮性であることが必要である。このために本発明のマスク用編地において熱融着性弾性糸が用いられる。かかる弾性糸にはポリエーテル系ポリウレタン繊維やポリエステル系ポリウレタン繊維を用いればよいが、本発明ではより簡易に製造するためにマスク本体の切断面を処理せずに、切れっぱなしのまま使用できるようにするため、熱融着性の弾性糸を使用する。かかる弾性糸としては、例えば特開2006-307409号に挙げられるような、フロー温度法により測定した融点が165~200℃の熱融着性ポリウレタン繊維を使うのが好ましい。かかる繊維としては、旭化成せんい社製「ロイカSF」、日清紡績社製「モビロンR」等が挙げられる。この熱融着性ポリウレタン繊維は、熱処理したときの融着力が高いので、編地の製造中にポリウレタン繊維を融着させることで、切れ端がホツレ易い組織であってもホツレ難くなるため、生地の端部を始末したり、ヘムを付けなくても切れっぱなしのまま使用することができる。マスク半分体の端部を切れっぱなしにしたことで、端部の厚みが変わらず、また端部の伸縮性を制限することがないため、フィット性及び着用感も良くなり、また製造コストも安くすることができる。熱融着性弾性糸の総繊度は、好ましくは10~110dtex、より好ましくは20~60dtexである。
【0025】
本発明のマスク用編地では、編地の外側面は、抗ウイルス機能を有する非弾性糸と熱融着性弾性糸とを引き揃えることによって、及び/又は抗ウイルス機能を有する非弾性糸と熱融着性弾性糸とからなる被覆弾性糸によって構成され、編地の内側面は、抗ウイルス機能を有さない非弾性糸と熱融着性弾性糸とを引き揃えることによって、及び/又は抗ウイルス機能を有さない非弾性糸と熱融着性弾性糸とからなる被覆弾性糸によって構成される。引き揃えは、構成される糸をよらないで合わせることによって行うことができる。一方、被覆弾性糸は、後述するように基本的に他の構成糸を巻き付けることなどによって複合することによって得られることができる。
【0026】
本発明のマスク用編地では、被覆弾性糸は、熱融着性弾性糸(弾性繊維)と、他の抗ウイルス機能を有する又は有さない非弾性糸(短繊維や長繊維)とを複合した弾性糸である。被覆弾性糸の具体例としては、長繊維と弾性繊維を合撚したフィラメント・ツイスティッド・ヤーン(FTY)、エアーで繊維同士を交絡させたエアー混繊糸、仮撚加工と同時混繊する仮撚複合糸等がある。短繊維と弾性繊維を複合したものとしては、コアスパンヤーン(CSY)、プライヤーン(PLY)等が挙げられる。
【0027】
本発明のマスク用編地では、被覆弾性糸は、FTYの形態で使用することが特に好ましい。そうすることにより、エアー混繊糸やコアスパンヤーンのような複合形態に比べて被覆弾性糸の中で弾性繊維が拘束され難く、伸長回復応力を下げたり、伸長回復性を高めやすくなる。FTYは、ポリウレタン弾性繊維やポリエチレン系弾性繊維のような弾性繊維に他の素材をコイル状に巻きつけたものである。例えば、弾性繊維を芯として一方向に被覆されているシングルカバードヤーン(SCY)と、下巻き、上巻きを逆方向に被覆されているダブルカバードヤーン(DCY)がある。本発明では、リング撚糸機やダブルツイスターを使って合撚したものもFTYとして扱うが、SCYやDCYにした方が被覆性がよく、また弾性繊維を拘束し難いため、より好適である。被覆弾性糸の総繊度は20~150dtexとすることが好ましい。より好ましくは、30~100dtexである。FTYの総繊度は、弾性繊維がドラフトされて複合糸とし、巻上げた状態での実繊度を指す。
【0028】
本発明のマスク用編地は、マスク製造時の熱処理により熱融着性弾性糸同士を融着させることで、編地の切断面を纏ったり、折り返して縫製したり、ヘムを付けなくとも、複数回洗濯と着用を繰り返してもホツレ難くすることができる。融着処理は、乾熱や湿熱の熱処理にて行なうことができる。熱処理は、例えば150~210℃で15秒~3分間程度で行えばよいが、熱処理を染色加工工程で行う場合は、拡布で処理ができる熱風乾燥機やベーキング加工機、テンター、HTSスチーマ等を使用することができる。縫製工程で行う場合は、プレス機やヒートシーラー、ヒートカッターなどでも行うことができる。
【0029】
本発明のマスク用編地の厚みは、特に限定されないが、0.01~3mmであることが好ましい。特に、好ましくは0.05~2mm程度である。厚みが上記範囲よりも薄い場合には扱いにくく、顔面へマスクを装着する際などに破断し易くなる。一方、厚みが上記範囲よりも厚い場合には、蒸れやすくなったり、夏場に暑苦しくなったりして着用感が悪くなりやすくなる。また、マスク用編地の目付も特に限定されるものではないが、10~300g/mとすることが好ましく、更には100~275g/mとすることがより好ましい。マスク本体の密度は、コース密度30~75個/inch、ウエール密度30~75個/inchが好ましい。上記範囲を超えると、通気抵抗が高くなり過ぎて息苦しくなり、上記範囲未満であると、咳やくしゃみをした時のウイルス拡散を防止する効果が低下しやすい。
【0030】
本発明のマスク用編地は、ダブルニットを採用する。ダブルニットには、リブ編、両面編、及びそれらのジャガード編、レースが挙げられる。具体的にはフライス編(ゴム編)、インターロック編、片袋編、畔編、モックロディ、ポンチローマ、ミラノリブ、ダブルピケ、スーパーローマ、ブリスター、シングルピケ、タックリップル、ウエルトリップル、両面パイル編、等の編組織を有するものが挙げられる。また、本発明では、これら組織の少なくとも一部に前述の弾性糸を用いている。弾性糸は、ベア使いで非弾性糸と引き揃え(プレーティング)したり、被覆弾性糸にして交編して用いることができる。好ましくはスパンデックスをベア使いとして、ベアモックロディ、ベアポンチローマ等のベア組織とすることが好ましい。また、本発明では,図3~7のように抗ウイルス機能を有する非弾性糸を組織の外側面にのみ交編するように用いることが好ましい。こうすることで、抗ウイルス機能を有する非弾性糸が肌面に存在しないため、抗菌性が強い抗ウイルス物質が口、鼻に直接接触せず、健康への悪影響を心配せずに使用することができる。
【0031】
本発明のマスク用編地は、JIS-L1922:2016で測定すると抗ウイルス活性値が2.0以上、さらには3.0以上を達成することができる。また、抗ウイルス性の洗濯耐久性は、繊維評価技術協議会が指定する「JAFET標準配合洗剤」(ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルファオレフィンスルホン酸ナトリウムを配合)を用いて、JIS-L 1930(繊維製品の家庭洗濯試験方法)の装置及び材料に規定するC形基準洗濯機-垂直軸・上部投入形(パルセータ式)に準じる全自動洗濯機にて、JIS-L0217 103法にて洗濯を行い、洗濯10回後の抗ウイルス性で評価することができる。また、本発明のマスク用編地は、カトーテック株式会社製KES-F8-AP1を用いて測定した通気抵抗値の値が0.10~1.25、さらには0.2~1.0kPa・sec/mkpa・sec/mを達成することができる。
【0032】
本発明の編地によって作られるマスクは、例えば円弧状部4が外方へ膨らんで円弧状に湾曲した形状を有するため、右半分体2と左半分体2´の2枚を円弧状部4で接合した後、右半分体2と左半分体2´を広げた際に接合された円弧状部4がマスク外方へ膨出するようになる。また、接合された円弧状部4は、マスク1の左右中間位置にあり、マスク1を顔面に装着した際に鼻と口に対応する位置にあるため、外方への膨出によりマスク1が鼻の位置で外方へ膨らんだ状態となり、鼻柱の付近でマスクの縁が顔面に密着しやすくなり、前記マスク1の周縁が顔面に密着すると共に、鼻孔や口周囲に空間が形成されて呼吸がしやすくなる。
【0033】
円弧状部4における右半分体2と左半分体2´の接合は、縫製、溶着、接着等の方法によって行うことができるが、好ましくは縫製で行うのがよい。縫製する場合は、本縫いミシン、インターロックミシン、オーバーロックのいずれの方法でも使うことができるが、上記のロックミシンには多く縫い方があるため適宜選択して用いればよい。ミシン糸は、カタン糸、ポリエステルミシン糸、フィラメント糸等があり、番手の種類も多いが、マスク半分体の素材の種類や伸度、使っている糸に応じて適宜選択すればよい。接着による場合は、繊維素材に応じた接着剤を用いればよく、また接着テープを用いることもできる。接合を溶着によって行う場合は、熱溶着、振動溶着、超音波溶着、レーザー溶着等がある。なお、本発明では、菌やウイルスへのフィルター性を高めたり、機能性を付与するために、フィルターや機能材を収容するポケットを口鼻に当たる部位に取り付けてもよい。
【実施例
【0034】
次に、本発明の効果を実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中の特性値の評価は、以下の方法に依った。
【0035】
<厚み>
JIS-L1096:2010 8.4厚さの試験方法に準拠して測定した。
【0036】
<目付>
JIS-L1096:2010 8.3単位面積当たりの質量の試験方法に準拠して測定した。
【0037】
<密度>
JIS-L1096:2010 8.6密度に準拠して測定した。編物の密度は8.6.2に基づいて測定した。
【0038】
<通気抵抗値>
恒温室内で、カトーテック社製KES-F8通気抵抗測定器を用い、編地の通気抵抗を測定した。測定回数は測定箇所を変え、N=5とし、その平均値を得た。
【0039】
<フリーカット特性>
ウェール方向に対して、40°の切り込みを3cm、編始め、編終わりの両方向に交互に5箇所入れ、タテ方向の裁断面を合わせて筒状に縫製した後、JIS-L 0217-103法に準拠して、以下のように洗濯時間のみ300分として洗濯を行った。
洗濯(300分)→遠心脱水→すすぎ(2分)→遠心脱水→すすぎ(2分)→遠心脱水その後、平干しで風乾し、裁断した編地の端のほつれの程度を以下の基準で評価した。3級以上を端面が切れっぱなしでも使えるものと判断した。
ほつれ評価基準
5級:傷みが認められず、洗濯前との差がない
4級:傷みが認められないが、洗濯前に比べへたっている部分がある
3級:やや傷みが認められるが、糸端の飛び出しがない
2級:痛みが認められ、糸端が飛び出している
1級:痛みが激しく、裁断面の編地組織が崩れている
【0040】
<抗ウイルス性試験>
編地の抗ウイルス性は、JIS-L1922:2016抗ウイルス性試験に基づいてプラーク測定法(3.11)にて評価した。また、洗濯耐久性は、繊維評価技術協議会が指定する「JAFET標準配合洗剤」(ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルファオレフィンスルホン酸ナトリウムを配合)を用いて、JIS-L1930(繊維製品の家庭洗濯試験方法)の装置及び材料に規定するC形基準洗濯機-垂直軸・上部投入形(パルセータ式)に準じる全自動洗濯機にて、JIS-L0217 103法にて洗濯を行い、洗濯10回後の抗ウイルス活性値を評価した。抗ウイルス活性値が2.0以上の場合に抗ウイルス性が良好、3.0以上で優良と判断した。
【0041】
<フィット性(着用快適性)>
被検者に通勤及びオフィスでの事務仕事で10時間、マスクを着用してもらい、会話で口を動かしたときの、しゃべり易さやマスクのズレ難さを総合的にフィット感として評価した。市販のガーゼマスクをフィット性1として、最高ランク5の5段階評価を行った。被検者は20才代の男性3人で行ない、3人の評価の平均値をフィット性とした。
【0042】
<実施例1>
熱融着性弾性糸として日清紡製「モビロンR」22dtex又は28dtexを用いた。抗ウイルス機能を有する非弾性糸として、日本エクスラン工業製のアクリル系繊維「バイアブロック(登録商標)」(N120、2.0dtex、繊維長37mm)を30重量%と木綿を70質量%で混綿した英式綿番手58/1のリング紡績糸(撚り係数3.5)(「バイアブロック」の混紡糸58/1)を用いた。抗ウイルス機能を有さない非弾性糸として、綿100%のリング紡績糸の英式綿番手80/1(綿80/1)を用いた。これらの糸を用いて、福原精機製ダブルニット丸編機(釜径:33インチ、ゲージ:28本/インチ)を使用して、ベアモックロディを編成した。この時の組織を図3に示すが、編機のシリンダー側にて、「バイアブロック」の混紡糸58/1と「モビロンR」22dtexをプレーティング組織として編成(F3,F6)し、ダイヤル側にて綿80/1と「モビロンR」22dtexとをプレーティング組織として編成(F2,F5)して、繋ぎ糸として「モビロンR」28dtexとポリエステルフィラメント22dtexのFTY混繊糸を用いてインターロックゲーティングで編成した(F1,F4)。
【0043】
この生機を乾熱185℃,1分間のプレセットすることで、熱融着性弾性糸を融着させた。その後、綿の丸編みの一般的な工程条件にて、精練・漂白したのち、最後にファイナルセットしてオフホワイトで仕上げた。仕上がった編地は、密度54コース/インチ、56ウエール/インチ、目付252g/m、厚み0.91mmであった。また、通気抵抗値は、0.76kPa、抗ウイルス活性値は、3.1、フリーカット性は、4級であった。この編地から、図1に示すように、円弧状部4の長さを18cmとした右半分体2,3、左半分体2´,3´を裁断した後、これらを切れっぱなしのまま円弧状部4で合わせて、ポリエステルミシン糸#50(255dtex)を用いて縫合することでマスクを製作した。マスクのフィット性の評価は、5であった。
【0044】
<実施例2>
実施例1と同じベアモックロディ(釜径33インチ、ゲージ:28本/インチ)にて、生地表面として「バイアブロック」の混紡糸58/1と「モビロンR」22dtexをプレーティング組織として編成(F3、F6)し、肌側のダイヤル側と繋ぎ糸は「モビロンR」28dtexとポリエステルフィラメント22dtexのFTY混繊糸を用いてインターロックゲーティングで編成した(F1,F2,F4,F5)。この生機を乾熱185℃,1分間のプレセットすることで、熱融着性弾性糸を融着させた。その後、綿の丸編みの一般的な工程条件にて、精練・漂白したのち最後にファイナルセットしてオフホワイトで仕上げた。編地の密度は56コース/インチ、56ウエール/インチ、目付247g/m、厚み0.89mmであった。通気抵抗値は0.68kPa、抗ウイルス活性値は3.3、フリーカット性は4級であった。この編地を実施例1と同様にしてマスクを作製した。マスクのフィット性の評価は、5であった。
【0045】
<実施例3>
抗ウイルス機能を有する非弾性糸として、実施例1の「バイアブロック」の混紡糸58/1の代わりに、2ヒーターのポリエステル仮撚加工糸(110dtex48フィラメント(f)のポリエチレンテレフタレート繊維)に大阪化成(株)製マルカサイドV1(主成分DDAC)を繊維重量に対して7%(owf)付着させて乾燥後、180℃×1分乾熱処理したものを用いた以外は、実施例1と同様にして生機を作製して、仕上げた。編地の密度は57コース/インチ、56ウエール/インチ、目付266g/m、厚み0.92mmであった。通気抵抗値は0.96kPa、抗ウイルス活性値は2.8、フリーカット性は4級であった。この編地を実施例1と同様にしてマスクを作製した。マスクのフィット性の評価は、5であった。
【0046】
<実施例4>
実施例3で作成した抗ウイルス機能を有する非弾性糸のポリエステル仮撚加工糸を日清紡製「モビロンR」22dtexにカバーリングしてFTYを作成した。このFTYを、抗ウイルス機能を有する非弾性糸として使用した以外は実施例1と同様の編機にてベアモックロディ組織を製編した。表面にはこのFTYを編成(F3、F6)し、肌側のダイヤル側と繋ぎ糸は「モビロンR」28dtexとポリエステルフィラメント22dtexのFTYを用いてインターロックゲーティングで編成した(F1,F2,F4,F5)。この生機を乾熱185℃,1分間のプレセットすることで、熱融着繊維を融着させた。その後、綿の丸編みの一般的な工程条件にて、精練・漂白したのち最後にファイナルセットしてオフホワイトで仕上げた。編地の密度は56コース/インチ、54ウエール/インチ、目付227g/m、厚み0.83mmであった。通気抵抗値は0.36kPa、抗ウイルス活性値は2.9、フリーカット性は3級であった。この編地を実施例1と同様にしてマスクを作製した。マスクのフィット性の評価は、5であった。
【0047】
<実施例5>
抗ウイルス機能を有する非弾性糸として、実施例1の「バイアブロック」の混紡糸58/1の代わりに、綿100%の英式番手80/1リング紡績糸に、3-(トリエトキシシリル)プロピルオクタデシルジメチルアンモニウムクロライドを1%owf、クロロプロピルトリメトキシシランを0.05%owf付着させて乾燥後、150℃×1分乾熱処理したものを用いた。抗ウイルス機能を有さない非弾性糸として、綿100%のリング紡績糸の英式綿番手80/1(綿80/1)を抗ウイルス加工を施さずに用いた。これらの糸を用いて、福原精機製ダブルニット丸編機(釜径:33インチ、ゲージ:28本/インチ)使用して、ベアポンチローマを編成した。この時の組織を図4に示すが、編機のシリンダー側にて、上述のようにして作製した抗ウイルス機能を有する非弾性糸と「モビロンR」22dtexをプレーティング組織として編成(F3)し、ダイヤル側にて綿80/1と「モビロンR」22dtexとをプレーティング組織として編成(F4)して、繋ぎ糸として「モビロンR」28dtexとポリエステルフィラメント22dtexのFTY混繊糸を用いてインターロックゲーティングで編成した(F1,F2)。この生機を実施例1と同様にして仕上げた。編地の密度は55コース/インチ、56ウエール/インチ、目付228g/m、厚み0.88mmであった。通気抵抗値は0.63kPa、抗ウイルス活性値は2.2、フリーカット性は4級であった。この編地を実施例1と同様にしてマスクを作製した。マスクのフィット性の評価は、4であった。
【0048】
<実施例6>
抗ウイルス機能を有する非弾性糸として、実施例1の「バイアブロック」の混紡糸58/1を用い、熱融着性弾性糸として、日清紡製「モビロンR」22dtexを用いた。繋ぎ糸と肌面には「モビロンR」28dtexにポリエステルフィラメント22dtex12fをカバーリングしたFTYを用い、福原精機製ダブルニット丸編機(釜径:33インチ、ゲージ:28本/インチ)使用して、ベアミラノリブを編成した。この時の組織を図5に示すが、編機のシリンダー側にて、「バイアブロック」の混紡糸58/1と「モビロンR」22dtexをプレーティング組織として編成(F1)し、ダイヤル側にて「モビロンR」28dtexとポリエステルフィラメント22dtexのFTYを単独で編成(F2)し、繋ぎ糸は「モビロンR」28dtexとポリエステルフィラメント22dtexのFTYを用いてリブゲーティングで編成した(F3)。この生機を乾熱185℃,1分間のプレセットすることで、熱融着性弾性糸を融着させた。その後、綿の丸編みの一般的な工程条件にて、精練・漂白したのち最後にファイナルセットしてオフホワイトで仕上げた。編地の密度は68コース/インチ、47ウエール/インチ、目付225g/m、厚み0.83mmであった。通気抵抗値は0.28kPa、抗ウイルス活性値は2.4、フリーカット性は4級であった。この編地を実施例1と同様にしてマスクを作製した。マスクのフィット性の評価は、3であった。
【0049】
<実施例7>
抗ウイルス機能を有する非弾性糸として、実施例1の「バイアブロック」の混紡糸58/1を用いた。熱融着性弾性糸として、旭化成(株)製の弾性糸「ロイカSF」22dtex、及び「ロイカSF」22dtexにポリエステルフィラメント22dtex12fをカバーリングしたFTYを用い、福原精機製ダブルニット丸編機(釜径:33インチ、ゲージ:22本/インチ)を使用して、ベア片袋を編成した。この時の組織図を図6に示すが、編機シリンダー側にて、「バイアブロック」の混紡糸58/1と「ロイカSF」22dtexをプレーティング組織として編成(F1)し、両面にはリブ組織として「ロイカSF」22dtexにポリエステルフィラメント22dtex12fをカバーリングしたFTYを用いた(F2)。この生機を乾熱185℃,1分間のプレセットすることで、熱融着性弾性糸を融着させた。その後、綿の丸編みの一般的な工程条件にて、精練・漂白したのち最後にファイナルセットしてオフホワイトで仕上げた。編地の密度は52コース/インチ、45ウエール/インチ、目付198g/m、厚み0.81mmであった。通気抵抗値は0.23kPa、抗ウイルス活性値は2.4、フリーカット性は3級であった。この編地を実施例1と同様にしてマスクを作製した。マスクのフィット性の評価は、3であった。
【0050】
<実施例8>
熱融着性弾性糸として日清紡製「モビロンR」22dtex又は28dtexを用いた。抗ウイルス機能を有する非弾性糸として、日本エクスラン工業製のアクリル系繊維「バイアブロック(登録商標)」(N120、2.0dtex、繊維長37mm)を30重量%と木綿を70質量%で混綿した英式綿番手58/1のリング紡績糸(撚り係数3.5)(「バイアブロック」の混紡糸58/1)を用いた。抗ウイルス機能を有さない非弾性糸として、綿100%のリング紡績糸の英式綿番手80/1(綿80/1)を用いた。これらの糸を用いて、福原精機製ダブルニット丸編機(釜径:33インチ、ゲージ:28本/インチ)を使用して、ベアリバーシブルを編成した。この時の組織を図7に示すが、編機のシリンダー側にて、「バイアブロック」の混紡糸58/1と「モビロンR」22dtexをプレーティング組織として編成(F3,F6)し、ダイヤル側にて綿80/1と「モビロンR」22dtexとをプレーティング組織として編成(F2,F5)して、繋ぎ糸として「モビロンR」28dtexとポリエステルフィラメント22dtexのFTY混繊糸を用いてインターロックゲーティングで編成した(F1,F4)。この生機を乾熱185℃,1分間のプレセットすることで、熱融着性弾性糸を融着させた。その後、綿の丸編みの一般的な工程条件にて、精練・漂白したのち最後にファイナルセットしてオフホワイトで仕上げた。編地の密度は56コース/インチ、56ウエール/インチ、目付247g/m、厚み0.89mmであった。通気抵抗値は0.65kPa、抗ウイルス活性値は3.1、フリーカット性は4級であった。この編地を実施例1と同様にしてマスクを作製した。マスクのフィット性の評価は、4であった。
【0051】
<比較例1>
市販のガーゼマスクを購入して実施例のマスクとの性能比較に用いた。
ガーゼマスクの構造を分析したところ、英式綿番手40/1を経緯に用いて、経密度58本/inch,緯密度42本/inchに織り上げたものを精練漂白したものを4枚重ねして、耳掛けとしてマスクゴムを取り付けたものであった。ガーゼマスクの本体は経9.5cm×緯13.5cmの長方形であり、解れ易い布端が露出しないように折り返して縫製されていた。また、抗ウイルス加工は施されていない。この織物を評価したところ、通気抵抗値は2.20kPa、抗ウイルス活性値は0.4、フリーカット性は2級であった。マスクのフィット性の評価は、1であった。
【0052】
実施例1~8及び比較例1の評価結果を、以下の表1にまとめて表す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1から、本発明の構成要件を満たす実施例1~8はいずれも、低い通気抵抗値(呼吸の容易さ)と、高い抗ウイルス活性値(抗ウイルス性)と、優れたフリーカット性(裁断面のほつれ防止)と、優れたフィット性(着用快適性)を示すことが明らかである。また、これらの効果は、実施例1と比べて抗ウイルス機能を有さない非弾性糸の種類を変更した実施例2、抗ウイルス機能を有する非弾性糸の種類を変更した実施例3~5、編組織の種類を変更した実施例6~8(実施例7では、熱融着性弾性糸の種類も変更した)でも、実施例1と同レベルであった。これに対して、市販のガーゼマスクである比較例1は、通気抵抗値が高いため息苦しくなるおそれがあり、また抗ウイルス活性値が低くて抗ウイルス性に劣り、さらにフリーカット性も低くて、フィット性にも劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のマスク用編地は、外側の抗ウイルス活性の保持、裁断面のほつれ防止(洗濯耐久性)、着用快適性(フィット性)、簡単な製造を達成することができる。また、かかるマスク用編地から製造されたマスクは、着用中や着用後のマスクからのウイルスの二次感染を予防し、何度も洗濯しても抗ウイルス性の効果が持続し、着用快適性(フィット性)に優れ、構造が簡略で低コストで生産性が高い。従って、本発明は極めて有用である。
【符号の説明】
【0056】
1 マスク
2 右側顔面被覆部
2´ 左側顔面被覆部
3 右耳掛け部
3´ 左耳掛け部
4 円弧状部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7