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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-21
(45)【発行日】2023-03-02
(54)【発明の名称】電子部品製造用キットとその利用
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/004 20060101AFI20230222BHJP
   G03F 7/027 20060101ALI20230222BHJP
   C03C 8/16 20060101ALI20230222BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20230222BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20230222BHJP
【FI】
G03F7/004 502
G03F7/004 501
G03F7/027 502
C03C8/16
H01B5/14 A
H01B5/14 B
H01B13/00 503B
H01B13/00 503D
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021051086
(22)【出願日】2021-03-25
(65)【公開番号】P2022149102
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2021-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】佐合 佑一朗
【審査官】倉本 勝利
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-285226(JP,A)
【文献】特開2003-122017(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/004
G03F 7/027
C03C 8/16
H01B 5/14
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定幅の溝部を有するガラス層を基材表面に形成する感光性ガラスペースト(A)と、前記ガラス層の溝部に導電層を形成する感光性導電ペースト(B)と、を有する電子部品製造用キットであって、
前記感光性ガラスペースト(A)は、
とSiO を主成分とするB -SiO 系ガラスを含むガラス粉末(A1)と、
メタクリロイル基(-C(=O)-C(CH )=CH )又はアクリロイル基(-C(=O)-CH=CH )を有する(メタ)アクリル系樹脂を含む光硬化性樹脂(A2)と、
アゾ系染料を含む紫外線吸収剤(A3)と、
を含み、
当該感光性ガラスペースト(A)の総重量を100質量%としたとき、前記ガラス粉末(A1)と、前記光硬化性樹脂(A2)と、前記紫外線吸収剤(A3)の各々の含有量が以下の通りであり、
前記ガラス粉末(A1) :25質量%以上70質量%以下
前記光硬化性樹脂(A2):2質量%以上30質量%以下
前記紫外線吸収剤(A3):0.2質量%以上1.5質量%以下
前記感光性導電ペースト(B)は、
金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、タングステン(W)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)からなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む導電性粉末(B1)と、
メタクリロイル基(-C(=O)-C(CH )=CH )又はアクリロイル基(-C(=O)-CH=CH )を有する(メタ)アクリル系樹脂を含む光硬化性樹脂(B2)と、
アゾ系染料を含む紫外線吸収剤(B3)と、
を含み、
当該感光性導電ペースト(B)の総重量を100質量%としたとき、前記導電性粉末(B1)と、前記光硬化性樹脂(B2)と、前記紫外線吸収剤(B3)の各々の含有量が以下の通りであり、
前記導電性粉末(B1) :74質量%以上90質量%以下
前記光硬化性樹脂(B2):0.5質量%以上15質量%以下
前前紫外線吸収剤(B3):0.001質量%以上1質量%以下
ここで、前記感光性ガラスペースト(A)は、前記ガラス層を形成するためのセラミック粉末を含有しない、電子部品製造用キット。
【請求項2】
前記B-SiO系ガラスは、酸化物換算の質量比で、前記Bを5~20質量%含有し、かつ、前記SiOを20~70質量%含有する、請求項1に記載の電子部品製造用キット。
【請求項3】
前記感光性ガラスペースト(A)の総重量を100質量%としたときの前記ガラス粉末(A1)の含有量が30質量%以上60質量%以下である、請求項1または2に記載の電子部品製造用キット。
【請求項4】
前記感光性ガラスペースト(A)の総重量を100質量%としたときの前記紫外線吸収剤(A3)の含有量が1.0質量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の電子部品製造用キット。
【請求項5】
前記アゾ系染料は、黄色系染料、赤色系染料から選択される少なくとも一種を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の電子部品製造用キット。
【請求項6】
前記感光性ガラスペースト(A)は、光重合開始剤(A4)をさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の電子部品製造用キット。
【請求項7】
前記感光性ガラスペースト(A)は、有機バインダ(A5)をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の電子部品製造用キット。
【請求項8】
前記感光性ガラスペースト(A)は、分散媒(A6)をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の電子部品製造用キット。
【請求項9】
前記分散媒(A6)は、沸点が150℃以上250℃以下の有機溶剤である、請求項8に記載の電子部品製造用キット。
【請求項10】
前記導電性粉末(B1)が銀系粒子を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の電子部品製造用キット。
【請求項11】
前記感光性導電ペースト(B)の総重量を100質量%としたときの前記紫外線吸収剤(B3)の含有量が0.001質量%以上0.2質量%以下である、請求項1~10のいずれか一項に記載の電子部品製造用キット。
【請求項12】
前記感光性導電ペースト(B)は、光重合開始剤(B4)をさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の電子部品製造用キット。
【請求項13】
前記感光性導電ペースト(B)は、有機バインダ(B5)をさらに含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の電子部品製造用キット。
【請求項14】
前記感光性導電ペースト(B)は、分散媒(B6)をさらに含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の電子部品製造用キット。
【請求項15】
所定幅の溝部を有するガラス層を基材表面に形成する感光性ガラスペーストであって、
とSiO を主成分とするB -SiO 系ガラスを含むガラス粉末(A1)と、
メタクリロイル基(-C(=O)-C(CH )=CH )又はアクリロイル基(-C(=O)-CH=CH )を有する(メタ)アクリル系樹脂を含む光硬化性樹脂(A2)と、
アゾ系染料を含む紫外線吸収剤(A3)と、
を含み、
前記感光性ガラスペースト(A)の総重量を100質量%としたとき、前記ガラス粉末(A1)と、前記光硬化性樹脂(A2)と、前記紫外線吸収剤(A3)の各々の含有量が以下の通りであり、
前記ガラス粉末(A1) :25質量%以上70質量%以下
前記光硬化性樹脂(A2):2質量%以上30質量%以下
前記紫外線吸収剤(A3):0.2質量%以上1.5質量%以下
前記ガラス層を形成するためのセラミック粉末を含有しない、感光性ガラスペースト。
【請求項16】
基材の前駆体であるグリーンシートと、
前記グリーンシート上に配置され、請求項1~14の何れか一つに記載の感光性ガラスペースト(A)が光硬化されたガラス硬化膜と、
前記グリーンシート上に配置され、請求項1~14の何れか一つに記載の感光性導電ペースト(B)が光硬化された導電硬化膜と、
を備え、
前記ガラス硬化膜に所定パターンの溝部が設けられており、当該溝部の内部に前記導電硬化膜が形成されている、複合体。
【請求項17】
基材と、
前記基材表面に配置され、請求項1~14の何れか一つに記載の感光性ガラスペースト(A)の焼成体からなるガラス層と、
前記基材表面に配置され、請求項1~14の何れか一つに記載の感光性導電ペースト(B)の焼成体からなる導電層と
を備え、
前記ガラス層に所定パターンの溝部が設けられており、当該溝部の内部に前記導電層が形成されている、複合体。
【請求項18】
請求項1~14の何れか一項に記載の電子部品製造用キットを用いて電子部品を製造する方法であって、
前記感光性ガラスペースト(A)をグリーンシート上に付与した後に、露光と現像を行うことによって、所定パターンの溝部を有するガラス硬化膜を形成する工程と、
前記ガラス硬化膜の前記溝部に前記感光性導電ペースト(B)を充填した後に、露光と現像を行うことによって導電硬化膜を形成する工程と、
前記グリーンシートと前記ガラス硬化膜と前記導電硬化膜とを焼成する工程と
を含む、電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品製造用キットに関する。具体的には、所定幅の溝部を有するガラス層を基材表面に形成する感光性ガラスペーストと、当該ガラス層の溝部に導電層を形成する感光性導電ペーストとを有する電子部品製造用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
導電性粉末と光硬化性樹脂を含有する感光性導電ペーストを用いて、電子部品の導電層を形成する手法が広く知られている。かかる手法の一例として、フォトリソグラフィ法が挙げられる(特許文献1参照)。この方法では、まず、感光性導電ペーストを基材表面に付与した後に、当該ペーストを乾燥させることによって、導電性粉末を含む膜状体(導電膜状体)を成形する。次に、所定パターンのスリット(開口部)を有するフォトマスクを導電膜状体に被せ、スリットから露出した導電膜状体の一部に光を照射する。これによって、光硬化性樹脂が硬化し、導電性粉末を含む硬化膜(導電硬化膜)が形成される。次に、フォトマスクで遮光されていた未露光部分(未硬化の導電膜状体)を現像液で除去する。これによって、露光した所定パターンの導電硬化膜のみが基材表面に残留するため、これを焼成することによって所望の導電層を形成することができる。
【0003】
ところで、近年では、電子部品の小型化に対する要求がさらに高まっている。かかる電子部品の小型化を実現するには、導電層の線幅Lと、隣接した導電層の間隔(スペース)の幅Sとの寸法関係を示すL/S(ラインアンドスペース)を小さくすることが求められる。例えば、従来一般の電子部品の導電層のL/Sは、40μm/40μm程度であったが、近年ではL/Sが30μm/30μmを下回る微細な導電層を形成することが求められている。しかし、微細な導電層を形成するためにスリットが小さなフォトマスクを使用すると、露光工程における導電膜状体への光の供給量が少なくなるため、導電膜状体の下部(基材側)まで光が到達しなくなる可能性がある。この場合、導電膜状体の下部が充分に硬化せず、現像工程において除去されてしまうため、断面視において逆台形状の導電層が形成される。このような逆台形状の導電層が形成されることは、「アンダーカット」と呼ばれており、電子部品の抵抗増大や導電層の断線などの不具合の原因となり得る。
【0004】
このようなアンダーカットを生じさせずに、微細な導電層を形成するための技術として、感光性ガラスペーストを併用したフォトリソグラフィ法が提案されている。この方法では、まず、感光性ガラスペーストを基材表面に付与してガラス膜状体を成形する。次に、所定パターンのスリットを有するフォトマスクをガラス膜状体に被せ、スリットから露出したガラス膜状体を露光させる。次に、未硬化のガラス膜状体を現像液で除去し、所定パターンの溝部を有したガラス硬化膜を基材表面に形成する。次に、このガラス硬化膜の溝部に感光性導電ペーストを充填して露光させることによって、ガラス硬化膜の溝部内に導電硬化膜を形成する。そして、これらのガラス硬化膜と導電硬化膜を焼成することによって、微細な溝部を有したガラス層と、当該ガラス層の溝部に形成された導電層とを有した電子部品を製造できる。かかる製造技術では、光透過性(透明度)が高いガラス膜状体を露光させて配線パターン(溝部のパターン)を形成するため、フォトマスクのスリットが小さくなって、紫外線の供給量が少なくなったとしても、硬化不良によるアンダーカットが生じにくい。さらに、導電性粉末を含有し、光硬化しにくい導電硬化膜を形成する際に、精密な露光と現像を行う必要がないという利点も有している。このような感光性ガラスペーストを使用した製造技術の一例が特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6694099号
【文献】特許第5195432号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記感光性ガラスペーストを利用した製造方法は、未だ改善の余地があり、精密な導電層を安定的に形成することができないため、実際の製造現場に応用することが困難であった。具体的には、ガラス硬化膜を形成するための感光性ガラスペーストは、光拡散性が強く、かつ、光透過性が高すぎるため、露光工程におけるガラス膜状体の内部で散乱光が生じてしまう可能性がある。この場合、フォトマスクで覆われた遮光部分も光硬化してしまうため、所望の溝部を正確に形成することができなくなる。
【0007】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、その目的は、微細な導電層が正確に形成された電子部品を安定的に製造する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現するべく、ここに開示される技術によって、下記構成の電子部品製造用キットが提供される。
【0009】
ここに開示される電子部品製造用キットは、所定幅の溝部を有するガラス層を基材表面に形成する感光性ガラスペースト(A)と、ガラス層の溝部に導電層を形成する感光性導電ペースト(B)と、を有する。上記感光性ガラスペースト(A)は、ガラス粉末(A1)と、光硬化性樹脂(A2)と、紫外線吸収剤(A3)と、を含み、感光性導電ペースト(B)は、導電性粉末(B1)と、光硬化性樹脂(B2)と、紫外線吸収剤(B3)と、を含む。そして、ここに開示される電子部品製造用キットでは、感光性ガラスペースト(A)の紫外線吸収剤(A3)と、感光性導電ペースト(B)の紫外線吸収剤(B3)との何れもが、アゾ系染料を含有し、感光性ガラスペースト(A)の総重量を100質量%としたときの紫外線吸収剤(A3)の含有量が0.2質量%以上である。
【0010】
ここに開示される技術は、感光性ガラスペースト(A)と感光性導電ペースト(B)を有する電子部品製造用キットを用いて、微細な導電層が正確に形成された電子部品を製造する。具体的には、上記感光性ガラスペースト(A)は、アゾ系染料を含む紫外線吸収剤(A3)を使用している。これによって、露光工程におけるガラス膜状体の内部で散乱光が生じることを防止し、遮光部分の光硬化を抑制できる。そして、本発明者らの実験によると、当該アゾ系染料を含む紫外線吸収剤(A3)の含有量を0.2質量%以上に調節することによって、現像後のガラス硬化膜の精密性が劇的に改善され、微細な溝部を明確に形成することが可能になる。
【0011】
しかし、上記精密な溝部を有するガラス硬化膜を形成することができたとしても、当該精密な溝部に沿った微細な導電層を正確に形成することは困難である。その理由は次の通りである。感光性導電ペースト(B)を溝部の内部に付与する際には、溝部を有するガラス硬化膜全体に感光性導電ペースト(B)を印刷、乾燥する。このため、ガラス硬化膜の上面にも、感光性導電ペースト(B)を乾燥させた導電膜状体が形成されることとなる。このガラス硬化膜上面の導電膜状体は、露光工程において遮光して未露光部分とすることで、現像工程において除去されることとなる。しかし、露光工程において光を照射した導電膜状体の内部で光散乱することで、ガラス硬化膜上の未露光部分の一部が光硬化し、現像工程において除去されず、ガラス硬化膜上に残渣として残ってしまうことがある。この場合には、精密な溝部がガラス硬化膜に形成されているにもかかわらず、微細な導電層を正確に形成することが困難になる可能性がある。これに対して、ここに開示される電子部品製造用キットでは、アゾ系染料を含む紫外線吸収剤(B3)を感光性導電ペースト(B)にも添加し、感光性導電ペースト(B)がガラス硬化膜上で光硬化することを防止している。
【0012】
以上の通り、ここに開示される電子部品製造用キットは、ガラス硬化膜の溝部の精密性を劇的に改善できる感光性ガラスペースト(A)と、現像時に残渣が発生しない程度にガラス硬化膜上での光硬化を防止できる感光性導電ペースト(B)とを組み合わせている。このような構成の製造用キットを使用することによって、微細な導電層が正確に形成された電子部品を安定的に製造することができる。
【0013】
ここに開示される電子部品製造用キットの好適な一態様において、ガラス粉末(A1)は、BとSiOを主成分とするB-SiO系ガラスを含む。かかるB-SiO系ガラスは、焼成用ガラスとして好適であり、基材表面への付着性に優れたガラス層を形成できる。
【0014】
なお、上記B-SiO系ガラスを使用する態様において、B-SiO系ガラスは、酸化物換算の質量比で、Bを5~20質量%含有し、かつ、SiOを20~70質量%含有することが好ましい。これによって、基材表面への付着性をさらに改善できる。
【0015】
ここに開示される電子部品製造用キットの好適な一態様では、感光性ガラスペースト(A)の総重量を100質量%としたときのガラス粉末(A1)の含有量が30質量%以上60質量%以下である。これによって、電子部品の性能と作業効率とを好適に両立させることができる。
【0016】
ここに開示される電子部品製造用キットの好適な一態様では、感光性ガラスペースト(A)の総重量を100質量%としたときの紫外線吸収剤(A3)の含有量が1.0質量%以下である。上記したように、ガラス膜状体内部での散乱光の発生を防止するには、感光性ガラスペースト(A)に0.2質量%以上の紫外線吸収剤(A3)が含まれていればよく、当該紫外線吸収剤(A3)の含有量の上限は特に限定されない。しかし、紫外線吸収剤(A3)の含有量を増加させるにつれて、ガラス膜状体に対する適切な露光時間が長くなる傾向がある。このため、製造効率の向上という観点からは、紫外線吸収剤(A3)の含有量が1.0質量%以下であることが好ましい。
【0017】
ここに開示される電子部品製造用キットの好適な一態様では、アゾ系染料は、黄色系染料、赤色系染料から選択される少なくとも一種を含む。これによって、遮光されたガラス膜状体の光硬化をより確実に防止できる。
【0018】
ここで開示される電子部品製造用キットの好ましい一態様において、感光性ガラスペースト(A)は、光重合開始剤(A4)をさらに含む。これによって、ガラス膜状体に対してより良好な光硬化を実現することができる。
【0019】
ここで開示される電子部品製造用キットの好ましい一態様において、感光性ガラスペースト(A)は、有機バインダ(A5)をさらに含む。これによって、基材表面に対するガラス膜状体の定着性を改善できる。
【0020】
ここで開示される電子部品製造用キットの好ましい一態様において、感光性ガラスペースト(A)は、分散媒(A6)をさらに含む。これによって、感光性ガラスペースト(A)に適度な粘性や流動性を付与し、ペーストの取扱性や印刷性を向上できる。
【0021】
上記分散媒(A6)を添加する態様において、当該分散媒(A6)は、沸点が150℃以上250℃以下の有機溶剤が好ましい。これによって、一定以上のペースト保存性を有した上で、容易にガラス膜状体を形成できる感光性ガラスペースト(A)を得ることができる。
【0022】
ここで開示される電子部品製造用キットの好ましい一態様において、上記導電性粉末(B1)が、銀系粒子を含む。これによって、コストと電気抵抗とのバランスに優れた電子部品を製造できる。
【0023】
ここで開示される電子部品製造用キットの好ましい一態様では、感光性導電ペースト(B)における導電性粉末(B1)の含有量が74質量%以上である。これによって、緻密かつ厚膜な導電層の形成が可能になり、低抵抗の電子部品を製造できる。なお、詳しくは後述するが、ここに開示される技術によると、上述のような高濃度の導電性粉末を含む感光性導電ペーストを使用することによる弊害も好適に防止できる。
【0024】
ここで開示される電子部品製造用キットの好ましい一態様では、感光性導電ペースト(B)の総重量を100質量%としたときの紫外線吸収剤(B3)の含有量が0.001質量%以上0.2質量%以下である。これによって、露光時間の長期化を抑制した上で、ガラス硬化膜上での導電膜状体の光硬化を好適に防止できる。
【0025】
ここで開示される電子部品製造用キットの好ましい一態様では、感光性導電ペースト(B)は、光重合開始剤(B4)をさらに含む。これによって、ガラス膜状体に対してより良好な光硬化を実現することができる。
【0026】
ここで開示される電子部品製造用キットの好ましい一態様では、感光性導電ペースト(B)は、有機バインダ(B5)をさらに含む。これによって、基材表面に対する導電膜状体の定着性を改善できる。
【0027】
ここで開示される電子部品製造用キットの好ましい一態様では、感光性導電ペースト(B)は、分散媒(B6)をさらに含む。これによって、感光性導電ペースト(B)に適度な粘性や流動性を付与し、ペーストの取扱性や印刷性を向上できる。
【0028】
また、ここで開示される技術の他の側面として、感光性ガラスペーストが提供される。かかる感光性ガラスペーストは、ガラス粉末(A1)と、光硬化性樹脂(A2)と、紫外線吸収剤(A3)と、を含む。そして、ここに開示される感光性ガラスペーストでは、紫外線吸収剤(A3)がアゾ系染料を含有し、総重量を100質量%としたときの紫外線吸収剤(A3)の含有量が0.2質量%以上である。上述した通り、かかる構成の感光性ガラスペーストを使用することによって、現像後のガラス硬化膜の精密性が劇的に改善され、微細な溝部を明確に形成することが可能になるため、精密な導電層を有する電子部品の安定的な製造に貢献できる。
【0029】
また、ここに開示される技術の他の側面として、電子部品の前駆体である複合体が提供される。かかる複合体は、基材の前駆体であるグリーンシートと、グリーンシート上に配置され、上記構成の感光性ガラスペースト(A)が光硬化されたガラス硬化膜と、グリーンシート上に配置され、上記構成の感光性導電ペースト(B)が光硬化された導電硬化膜とを備えている。そして、かかる複合体では、ガラス硬化膜に所定パターンの溝部が設けられており、当該溝部の内部に導電硬化膜が形成されている。
【0030】
さらに、ここに開示される技術の他の側面として、焼成後の電子部品が提供される。かかる電子部品は、基材と、基材表面に配置され、上記構成の感光性ガラスペースト(A)の焼成体からなるガラス層と、基材表面に配置され、上記構成の感光性導電ペースト(B)の焼成体からなる導電層とを備えている。そして、かかる電子部品では、ガラス層に所定パターンの溝部が設けられており、当該溝部の内部に導電層が形成されている。
【0031】
また、ここに開示される技術の他の側面として、電子部品の製造方法が提供される。かかる電子部品の製造方法は、上記構成の電子部品製造用キットを用いて電子部品を製造する。かかる製造方法は、感光性ガラスペースト(A)をグリーンシート上に付与した後に、露光と現像を行うことによって、所定パターンの溝部を有するガラス硬化膜を形成する工程と、ガラス層の溝部に感光性導電ペースト(B)を充填した後に、露光と現像を行うことによって導電硬化膜を形成する工程と、グリーンシートとガラス硬化膜と導電硬化膜とを焼成する工程とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】一実施形態に係る電子部品の製造方法における感光性ガラスペーストの印刷を説明する断面図である。
図2】一実施形態に係る電子部品の製造方法におけるガラス膜状体の露光を説明する断面図である。
図3】一実施形態に係る電子部品の製造方法におけるガラス硬化膜の現像を説明する断面図である。
図4】一実施形態に係る電子部品の製造方法における感光性導電ペーストの印刷を説明する断面図である。
図5】一実施形態に係る電子部品の製造方法における導電膜状体の露光を説明する断面図である。
図6】一実施形態に係る電子部品の製造方法における導電硬化膜の現像を説明する断面図である。
図7】積層チップインダクタの製造手順を説明する断面図である。
図8】積層チップインダクタの製造手順を説明する断面図である。
図9】積層チップインダクタの製造手順を説明する断面図である。
図10】積層チップインダクタの製造手順を説明する断面図である。
図11】積層チップインダクタの製造手順を説明する断面図である。
図12】積層チップインダクタの製造手順を説明する断面図である。
図13】試験例にて作製した各サンプルの光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、ここに開示される技術の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここに開示される技術の実施に必要な事柄は、本明細書により教示されている技術内容と、当該分野における当業者の一般的な技術常識とに基づいて理解することができる。ここに開示される技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施できる。また、本明細書において範囲を示す「A~B」(A,Bは任意の数字)の表記は、A以上B以下の意と共に、「好ましくはAより大きい」および「好ましくはBより小さい」の意を包含するものとする。
【0034】
なお、本明細書では、乾燥させた感光性ガラスペーストを「ガラス膜状体」といい、当該ガラス膜状体を光硬化させたものを「ガラス硬化膜」といい、当該ガラス硬化膜を焼成したものを「ガラス層」という。一方、乾燥させた感光性導電ペーストを「導電膜状体」といい、当該導電膜状体を光硬化させたものを「導電硬化膜」といい、当該導電硬化膜を焼成したものを「導電層」という。
【0035】
1.電子部品製造用キット
まず、ここに開示される電子部品製造用キットについて説明する。本明細書における「電子部品製造用キット」とは、電子部品の導電層を形成するために用いられる複数種類のペースト組成物を組み合わせたものを指す。なお、本明細書における「ペースト」とは、インクやスラリーを包含する用語である。ここに開示される電子部品製造用キットは、少なくとも、感光性ガラスペースト(A)と、感光性導電ペースト(B)を有している。以下、各々のペーストの成分について説明する。
【0036】
≪感光性ガラスペースト(A)≫
感光性ガラスペースト(A)は、所定幅の溝部を有するガラス層を基材表面に形成するためのペースト組成物である。この感光性ガラスペースト(A)は、少なくとも、ガラス粉末(A1)と、光硬化性樹脂(A2)と、紫外線吸収剤(A3)とを含有する。以下、感光性ガラスペースト(A)の含有成分について説明する。
【0037】
<ガラス粉末(A1)>
ガラス粉末(A1)は、焼成処理の際に焼失せずに残存し、焼成後の基材表面にガラス層を形成する無機成分である。このガラス粉末(A1)の好適例として、ホウ素成分(B)とケイ素成分(SiO)を主成分として含むB-SiO系ガラスが挙げられる。かかるB-SiO系ガラスを含む感光性ガラスペースト(A)を使用することによって、基材表面への定着性に優れたガラス層を形成できる。
【0038】
具体的には、ホウ素成分(B)は、焼成中の流動性を高めることに寄与するため、基材表面に対するガラス層の定着性を改善できる。なお、上記B-SiO系ガラスにおけるBの割合は、酸化物換算の質量比で1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上が特に好ましい。これによって、焼成後のガラス層の定着性をより好適に改善できる。一方、Bの含有量が過剰になると、焼成中にガラス層の形状を維持することが難しくなる可能性がある。このため、B-SiO系ガラスにおけるBの割合の上限は、25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下が特に好ましい。次に、ケイ素成分(SiO)は、焼成後のガラス層の骨格を構成する成分である。また、SiOにも基材表面への定着性を改善する機能がある。B-SiO系ガラスにおけるSiOの割合は、酸化物換算の質量比で10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、40質量%以上が特に好ましい。これによって、基材表面への定着性をさらに改善できる。また、上記SiOの割合の上限は、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、60質量%以下が特に好ましい。また、上記B-SiO系ガラスは、BとSiO以外の成分も含み得る。かかる他の成分としては、2族元素の酸化物(RO:RはMg、Ca、Sr、Ba、Ra等)、アルミニウム成分(Al)、亜鉛成分(ZnO)などが挙げられる。これらの他の成分の含有量を調節することによって、焼成後のガラス層の耐熱性や化学的耐久性などを改善できる。
【0039】
なお、ガラス粉末(A1)に用いられるガラス組成物は、上述したB-SiO系ガラスに限定されず、従来公知のガラス組成物を特に制限なく使用できる。ガラス粉末(A1)に使用され得るガラス組成物の他の例として、SiO-RO系ガラス、SiO-RO-Al系ガラス、SiO-RO-Y系ガラス、SiO-RO-B系ガラス、SiO-Al系ガラス、SiO-ZnO系ガラス、SiO-ZrO系ガラス、RO系ガラス、鉛系ガラス、鉛リチウム系ガラス等が挙げられる。
【0040】
また、ガラス粉末(A1)の粒径は特に限定されないが、ミクロンサイズが好適である。例えば、ガラス粉末(A1)の凝集によるペースト製造時のロットばらつきを考慮すると、ガラス粉末(A1)のD50粒径は、0.3μm以上が好ましく、0.7μm以上がより好ましく、1.0μm以上が特に好ましい。一方、乾燥後のガラス層の表面平滑性を考慮すると、ガラス粉末(A1)のD50粒径の上限は、8μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、2μm以下が特に好ましい。なお、本明細書における「D50粒径」は、レーザ回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布において、粒径の小さい側から積算値50%に相当する粒径である。
【0041】
そして、感光性ガラスペースト(A)におけるガラス粉末(A1)の含有量は、25質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、35質量%以上がさらに好ましく、40質量%以上が特に好ましい。これによって、焼成後のガラス層の膜厚を厚くすることができるため、当該ガラス層の溝部に形成される導電層を容易に厚くすることができる。この結果、抵抗の低い導電層を形成し、電子部品の性能を向上させることができる。一方、ペースト粘度の増大を抑制して作業効率の低下を防止するという観点から、ガラス粉末(A1)の含有量の上限は、70質量%以下が好ましく、65質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましく、55質量%以下が特に好ましい。なお、本明細書における「含有量」は、特に説明がない限り、ペーストの総重量を100質量%としたときの質量比(質量%)を指すものとする。
【0042】
<光硬化性樹脂(A2)>
光硬化性樹脂(A2)は、光(紫外線)が照射されると重合反応や架橋反応等が生じて硬化する有機化合物である。ここに開示される感光性ガラスペースト(A)における光硬化性樹脂(A2)には、感光性ペーストに使用され得る従来公知の光硬化性樹脂を特に制限なく使用できる。例えば、光硬化性樹脂(A2)は、比較的に高分子(例えば、重量平均分子量が6000以上)の光硬化性ポリマーであってもよいし、比較的に低分子(例えば、重量平均分子量が6000未満)の光硬化性オリゴマーであってもよい。なお、光硬化性樹脂(A2)として、光硬化性ポリマーを使用した場合には、光硬化前の感光性ガラスペースト(A)の定着性を向上できる。なお、印刷時の基材表面への定着性を考慮すると、光硬化性樹脂(A2)の重量平均分子量Mwは、500以上が好ましく、750以上がより好ましく、1000以上がさらに好ましく、1500以上が特に好ましい。一方、光硬化性樹脂(A2)の重量平均分子量Mwの上限は、60000以下が好ましく、50000以下がより好ましく、40000以下がさらに好ましく、30000以下が特に好ましい。
【0043】
上記光硬化性樹脂(A2)の一例として、(メタ)アクリル系樹脂が挙げられる。かかる(メタ)アクリル系樹脂は、基材に対する追従性、柔軟性、耐久性に優れているため、焼成前のガラス硬化膜の剥離や破損などを抑制できる。なお、「(メタ)アクリル系樹脂」とは、(メタ)アクリロイル基を有する光硬化性樹脂である。ここで、上記「(メタ)アクリロイル基」とは、「メタクリロイル基(-C(=O)-C(CH)=CH)」および「アクリロイル基(-C(=O)-CH=CH)」を包含する用語である。当該(メタ)アクリル系樹脂の一好適例として、アルキル(メタ)アクリレートの単独重合体や、アルキル(メタ)アクリレートを主モノマーとして、当該主モノマーに共重合性を有する副モノマーを含む共重合体が挙げられる。上記単独重合体の具体例としては、例えば、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。共重合体の具体例としては、例えば、繰り返し構成単位として、メタクリル酸エステルの重合体と、アクリル酸エステルの重合体ブロックと、を含むブロック共重合体等が挙げられる。メタクリル酸エステルの具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸t-ブチル等が挙げられる。アクリル酸エステルの具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸n-ヘキシル等が挙げられる。なお、上記「(メタ)アクリレート」とは、「メタクリレート」と「アクリレート」を包含する用語である。また、光硬化性を向上する観点から、(メタ)アクリル系樹脂は、側鎖に(メタ)アクリロイル基(好ましくはアクリロイル基)を有していることが好ましい。なお、上述したような(メタ)アクリル系樹脂としては、市販されているものを特に制限なく使用することができる。かかる市販の(メタ)アクリル系樹脂としては、例えば日本化薬株式会社、共栄社化学株式会社、新中村化学工業株式会社、東亞合成株式会社のものを用いることができる。
【0044】
また、感光性ガラスペースト(A)における光硬化性樹脂(A2)の含有量は、2質量%以上が好ましく、4質量%以上がより好ましく、6質量%以上が特に好ましい。これによって、短い露光時間で基材表面に適切に定着したガラス硬化膜を形成できる。一方、光硬化性樹脂(A2)の含有量の上限は、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下が特に好ましい。これによって、遮光部分の光硬化を確実に防止し、現像後のガラス硬化膜の溝部の精密性をさらに向上できる。
【0045】
<紫外線吸収剤(A3)>
ここに開示される電子部品製造用キットの感光性ガラスペースト(A)は、紫外線吸収剤(A3)として、アゾ系染料を含有している。かかるアゾ系染料は、アゾ基(-N=N-)を介して2つの有機基が連結された芳香族化合物である。かかるアゾ系染料は、波長10nm~500nmに吸収ピークを有しているため、ガラス膜状体の内部で生じた紫外線の散乱光を適切に吸収できる。この結果、ガラス膜状体の遮光部分の光硬化を好適に防止し、露光後のガラス硬化膜に微細な溝部を正確に形成できる。さらに、アゾ系染料は、有機系染料であるため、焼成後のガラス層に残留しないという特性も有している。この結果、焼成後のガラス層に紫外線吸収剤が残留することによる電子部品の性能低下を防止できる。上記アゾ系染料としては、オイルイエロー、オイルオレンジ、オイルバイオレット、スダンブルー、スダンレッド、スダンII、スダンIII、スダンIVなどが挙げられる。これらのなかでも、紫外線の拡散光をより適切に吸収するという観点から、黄色系染料(オイルイエロー)や、赤色系染料(スダンレッド)などが特に好ましい。
【0046】
なお、感光性ガラスペースト(A)の紫外線吸収剤(A3)は、アゾ系染料以外の染料を含んでいてもよい。但し、焼成後のガラス層に染料が残留することによる性能低下を考慮すると、アゾ系染料以外の染料についても有機系染料を選択することが好ましい。かかる有機系染料としては、例えば、アミノケトン系染料、キサンテン系染料、キノリン系染料、アミノケトン系染料、アントラキノン系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系化合物、ジフェニルシアノアクリレート系、トリアジン系、p-アミノ安息香酸系染料などが挙げられる。但し、上記アゾ系染料による精密性向上効果をより適切に発揮させるという観点から、紫外線吸収剤(A3)の大部分がアゾ系染料によって構成されていることが好ましい。具体的には、紫外線吸収剤(A3)の総量に対するアゾ系染料の含有割合は、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましい。また、紫外線吸収剤(A3)は、全てがアゾ系染料(アゾ系染料の含有割合が100質量%)であってもよい。
【0047】
そして、ここに開示される感光性ガラスペースト(A)では、紫外線吸収剤(A3)の含有量が0.2質量%以上に設定されている。本発明者らの検討によると、上記アゾ系染料を含む紫外線吸収剤(A3)を0.2質量%以上添加することによって、露光工程において遮光部分が光硬化することを確実に防止し、現像後のガラス硬化膜の精密性を顕著に改善できる。なお、ガラス硬化膜の精密性をさらに向上させるという観点から、紫外線吸収剤(A3)の含有量は、0.25質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、0.35質量%以上が特に好ましい。一方、紫外線吸収剤(A3)の含有量の上限値は、特に限定されず、5質量%以下でもよいし、4質量%以下でもよいし、3質量%以下でもよいし、2質量%以下でもよい。但し、紫外線吸収剤(A3)の含有量を増加させすぎると、ガラス膜状体の硬化(ガラス硬化膜の形成)に必要な露光時間が長くなるため、製造効率が低下する原因になり得る。かかる観点から、紫外線吸収剤(A3)の含有量の上限値は、1.5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.75質量%以下がさらに好ましく、0.55質量%以下が特に好ましい。
【0048】
<光重合開始剤(A4)>
ここに開示される感光性ガラスペースト(A)は、光重合開始剤(A4)を含み得る。光重合開始剤(A4)は、光(例えば紫外線)の照射によって分解し、ラジカルや陽イオン等の活性種を発生させて、光硬化性樹脂(A2)の重合反応を促進する成分である。なお、光重合開始剤(A4)としては、従来公知のものの中から、光硬化性樹脂(A2)の種類等に応じて、1種を単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。光重合開始剤(A4)の一好適例として、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4-ジエチルチオキサントン、ベンゾフェノン等が挙げられる。また、感光性ガラスペースト(A)における光重合開始剤(A4)の含有量は、概ね0.01質量%~5質量%、典型的には0.05質量%~3質量%、例えば0.1質量%~2質量%であるとよい。これによって、ガラス膜状体に対してより良好な光硬化を実現することができる。
【0049】
<有機バインダ(A5)>
有機バインダ(A5)は、感光性ガラスペースト(A)と基材との接着性(基材表面への定着性)を高める有機化合物のうち、感光性(例えば光硬化性)を有しないものをいう。換言すると、上述の通り、光硬化性ポリマー等の光硬化性樹脂(A2)は、基材表面への定着性を向上するという機能も有している。このため、光硬化性樹脂(A2)のみで充分な定着性が得られる場合には、有機バインダ(A5)を添加しなくてもよい。一方、光硬化性樹脂(A2)として、光硬化性オリゴマーを使用した場合など、他の成分で充分な定着性が得られない場合には有機バインダ(A5)を添加することが好ましい。なお、有機バインダ(A5)は、水溶性の有機化合物であることが好ましい。これによって、水系の現像液を使用する現像工程において、未硬化のガラス膜状体を容易に除去することができる。
【0050】
上記有機バインダ(A5)の好適な一例として、セルロース系化合物が挙げられる。かかるセルロース系化合物は、セルロースの繰り返し構成単位であるグルコース環を有している。当該セルロース系化合物を添加することによって、無機成分(例えばガラス粉末(A1))と光硬化性樹脂(A2)とが馴染み易くなり、ペーストの保存安定性を向上できる。また、セルロース系化合物は、グルコース環に複数の水酸基を有し、良好な水溶性を示すため、水系現像液で容易に除去できる。なお、本明細書における「セルロース系化合物」は、セルロース、セルロースの誘導体、およびこれらの塩を包含する。かかるセルロース系化合物としては、従来公知のもののなかから1種を単独で、または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。セルロース系化合物の一好適例として、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロース;メチルセルロース、エチルセルロース等のアルキルセルロース;カルボキシメチルセルロース等のカルボキシアルキルセルロース;等が挙げられる。また、有機バインダ(A5)は、セルロース系化合物以外の有機化合物を含んでいてもよい。有機バインダ(A5)の他の例として、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。なお、上述したような有機バインダとしては、市販されているものを特に制限なく使用することができる。市販の有機バインダとしては、例えば新中村化学工業株式会社、三菱ケミカル株式会社のものを用いることができる。
【0051】
また、感光性ガラスペースト(A)における有機バインダ(A5)の含有量は、特に限定されず、基材表面への定着性を考慮して適宜調節することができる。例えば、有機バインダ(A5)の含有量は、1質量%以上でもよく、3質量%以上でもよく、5質量%以上でもよい。このように、一定以上の有機バインダ(A5)を添加することによって、基材表面に対する定着性が向上し、焼成前のガラス膜状体の剥離を好適に抑制できる。また、一定以上の水溶性有機バインダを含ませることによって、現像工程における未硬化のガラス膜状体の除去が容易になるため、現像時間の短縮にも貢献できる。一方、有機バインダ(A5)の含有量の上限値は、30質量%以下でもよく、20質量%以下でもよく、15質量%以下でもよい。有機バインダ(A5)の含有量を低減させるにつれてペースト粘度が低下し、基材表面への印刷性が向上する傾向がある。
【0052】
<分散媒(A6)>
また、感光性ガラスペースト(A)は、上述の各成分を分散させる分散媒(A6)を含有していてもよい。分散媒(A6)は、ペーストに適度な粘性や流動性を付与し、取扱性や印刷性等を向上させる液状成分である。なお、感光性ガラスペースト(A)における分散媒(A6)の含有量は、ペーストの粘性や流動性を考慮して適宜調節することができる。かかる分散媒(A6)の含有量は、概ね1~50質量%、典型的には5~40質量%、例えば10~30質量%とすることができる。また、分散媒(A5)としては、従来公知の液状成分を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。例えば、有機系分散媒としては、従来公知のものの中から、例えば光硬化性樹脂の種類等に応じて、1種を単独で、または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。有機系分散媒としては、例えばトルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(セロソルブ)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールフェニルエーテル、3-メチル-3-メトキシブタノール等のグリコールエーテル系溶剤;1,7,7-トリメチル-2-アセトキシ-ビシクロ-[2,2,1]-ヘプタン、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタジオールモノイソブチレート等のエステル系溶剤;ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルプロピオネート、ベンジルアルコール等のアルコール系溶剤;その他ミネラルスピリット等の高沸点を有する有機溶剤等が挙げられる。なお、感光性ガラスペースト(A)の分散媒(A6)は、その沸点を考慮して選択してもよい。例えば、沸点が150℃以上の有機溶剤を使用することによって、分散媒(A6)の自然蒸発を防止してペーストの保存性を向上することができる。一方、沸点が250℃以下の有機溶剤を使用することによって、印刷後の乾燥処理においてガラス膜状体を容易に形成できる。
【0053】
<その他の添加成分>
また、感光性ガラスペースト(A)は、ここに開示される技術の効果を著しく損なわない限りにおいて、上記した各成分(A1)~(A6)以外の成分を含有していてもよい。当該他の添加成分は、特に限定されず、従来公知の添加成分を単独で又は2種以上を適宜使用できる。かかる他の添加成分としては、重合禁止剤、ラジカル捕捉剤、酸化防止剤、可塑剤、界面活性剤、レベリング剤、増粘剤、分散剤、消泡剤、ゲル化防止剤、安定化剤、防腐剤等が挙げられる。なお、特に限定されるものではないが、かかる他の添加成分の含有量は、概ね5質量%以下、典型的には3質量%以下、例えば2質量%以下、好ましくは1質量%以下とするとよい。
【0054】
≪感光性導電ペースト(B)≫
次に、ここに開示される電子部品製造用キットの感光性導電ペースト(B)について説明する。かかる感光性導電ペースト(B)は、上記感光性ガラスペースト(A)を用いて形成したガラス層の溝部に導電層を形成するためのペースト組成物である。かかる感光性導電ペースト(B)は、少なくとも、導電性粉末(B1)と、光硬化性樹脂(B2)と、紫外線吸収剤(B3)を含有する。以下、感光性導電ペースト(B)の含有成分について説明する。
【0055】
<導電性粉末(B1)>
導電性粉末(B1)は、焼成時に焼失せずに残存し、導電層に電気伝導性を付与する無機成分である。導電性粉末(B1)の種類は、特に限定されず、従来公知の導電性材料の中から用途等に応じて1種を単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。この導電性粉末(B1)の好適例として、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、タングステン(W)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)等の金属の単体、およびこれらの混合物や合金等が挙げられる。なお、これらの好適例の中でも銀系粒子がより好適である。「銀系粒子」とは、銀(Ag)元素を含む粒子状の材料全般を包含するものである。かかる銀系粒子の一例として、銀の単体、銀合金、銀成分を含むコアシェル粒子等が挙げられる。銀合金としては、例えば、銀-パラジウム(Ag-Pd)、銀-白金(Ag-Pt)、銀-銅(Ag-Cu)等が挙げられる。また、コアシェル粒子としては、銀元素を含むコア粒子と、当該コア粒子を被覆するセラミック製のシェルとを備えた銀-セラミックのコアシェル粒子などが挙げられる。これらの銀系粒子は、コストが比較的に安く、かつ、電気伝導度が高いため、導電性能とコストとのバランスが優れた電子部品の製造に貢献できる。
【0056】
特に限定されるものではないが、導電性粉末(B1)の粒径が小さくなるに従って、ガラス硬化層の溝部への感光性導電ペースト(B)の充填が容易になり、焼成後の導電層の緻密性が向上する傾向がある。かかる観点から、導電性粉末(B1)のD50粒径の上限値は、5μm以下が好ましく、4.5μm以下がより好ましく、4μm以下が特に好ましい。一方、導電性粉末(B1)の粒径を小さくしすぎると、凝集による粗大粒子が生じやすくなり、ガラス硬化層の溝部への充填性が却って低下する可能性がある。かかる観点から、導電性粉末(B1)のD50粒径は、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、1μm以上が特に好ましい。
【0057】
また、感光性導電ペースト(B)は、高濃度の導電性粉末(B1)を含有していることが好ましい。これによって、緻密かつ厚膜な導電層の形成が可能になり、低抵抗の電子部品を製造できる。なお、一般的には、高濃度の導電性粉末(B1)を含有するペーストは、乾燥後の導電膜状体の内部に光が透過しにくくなるため、膜状体の最下層まで十分に光硬化しづらくなり、現像後にアンダーカットが発生しやすくなる。しかし、ここに開示される技術によると、予め形成したガラス硬化層の溝部に感光性導電ペースト(B)を充填するのみで精密な導電層の形成が可能であるため、従来技術では使用が難しい高濃度の導電性粉末(B1)を含むペーストを使用できる。具体的には、ここに開示される技術では、感光性導電ペースト(B)における導電性粉末(B1)の含有量を74質量%以上にすることができる。また、電子部品の抵抗をさらに低減するという観点から、導電性粉末(B1)の含有量は、78質量%以上が好ましく、79質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、81質量%以上が特に好ましい。ここに開示される技術によると、このような高濃度の導電性粉末(B1)を含むペーストを使用することもできる。但し、導電性粉末(B1)の濃度を増加させすぎると、ペーストの流動性が大きく低下して、ガラス硬化膜の溝部に感光性導電ペースト(B)を隙間なく充填することが困難になる可能性がある。このため、導電性粉末(B1)の含有量は、90質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましい。
【0058】
<光硬化性樹脂(B2)>
上記感光性ガラスペースト(A)と同様に、感光性導電ペースト(B)にも光硬化性樹脂(B2)が含まれている。なお、感光性導電ペースト(B)の光硬化性樹脂(B2)は、上述した感光性ガラスペースト(A)の光硬化性樹脂(A2)と同種のものを特に制限なく使用することができるため、詳細な成分の説明を省略する。
【0059】
また、ガラス硬化膜上に付着した感光性導電ペースト(B)の光硬化を好適に防止するという観点から、感光性導電ペースト(B)は、光硬化性樹脂の含有量を感光性ガラスペースト(A)よりも少なくし、光硬化性を低下させた方が好ましい。具体的には、感光性導電ペースト(B)における光硬化性樹脂(B3)の含有量は、15質量%以下が好ましく、12質量%以下がより好ましく、9質量%以下がさらに好ましく、6質量%以下が特に好ましい。一方、露光工程において導電膜状体の露光部分に硬化不良が生じると、現像工程で溝部内の導電膜状体(硬化不良の導電硬化膜)が除去されてしまうおそれがある。かかる観点から、光硬化性樹脂(B3)の含有量の下限値は、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上がさらに好ましく、3質量%以上が特に好ましい。
【0060】
<紫外線吸収剤(B3)>
ここに開示される電子部品製造用キットでは、感光性導電ペースト(B)にも、アゾ系染料を含む紫外線吸収剤(B3)が添加されている。これによって、感光性導電ペースト(B)(導電膜状体)がガラス硬化膜上で光硬化し、導電層(導電硬化膜)の精密性を低下させることを防止できる。具体的には、ここに開示される技術では、上記感光性ガラスペースト(A)を用いて形成されたガラス硬化膜の溝部に感光性導電ペースト(B)を供給する。かかる感光性導電ペーストの供給において、感光性導電ペーストの全量をガラス硬化膜の溝部のみに充填することは困難であり、スクリーン印刷等でガラス硬化膜の上面を含めた領域に感光性導電ペーストを塗布することが通常である。ここで、光硬化性に優れた感光性導電ペーストを使用すると、露光工程において、ガラス硬化膜の上面に付着した感光性導電ペースト(導電膜状体)を遮光していたとしても、散乱光によって光硬化してしまうおそれがある。この場合、精密な溝部を形成できていたとしても、焼成後の電子部品の導電層の精密性は大きく損なわれる。これに対して、ここに開示される技術で使用される感光性導電ペースト(B)は、従来一般の感光性導電ペーストとは異なり、紫外線吸収剤(B3)によって光硬化性を低下させている。これによって、ガラス硬化膜の上面に付着した導電膜状体の光硬化を好適に防止し、微細な導電層を正確に形成することを実現している。
【0061】
また、焼成後の導電層に紫外線吸収剤が残留すると、導電性の低下などを生じさせる不純物となり、高性能の電子部品を製造することが困難になる。このため、ここに開示される技術では、感光性導電ペースト(B)側の紫外線吸収剤(B3)にも、少量で充分な硬化抑制効果を発揮し、かつ、焼成によって容易に除去されるアゾ系染料を使用している。なお、アゾ系染料や他の有機系染料については、上記感光性ガラスペースト(A)の紫外線吸収剤(A3)と同種のものを特に制限なく使用できるため、詳細な成分の説明を省略する。
【0062】
なお、感光性導電ペースト(B)の光硬化性は、上記導電性粉末(B1)の種類(色)や含有量によっても変化し得る。このため、感光性導電ペースト(B)の紫外線吸収剤(B3)の含有量は、導電性粉末(B1)の種類や含有量に応じて適宜調節することが好ましい。例えば、導電性粉末(B1)として74質量%の銀系粒子を添加した場合には、紫外線吸収剤(B3)の含有量を0.001質量%以上にすることが好ましい。これによって、ガラス硬化膜上での導電膜状体の光硬化を充分に抑制できる。なお、ガラス硬化膜上での導電膜状体の光硬化を確実に防止するという観点から、感光性導電ペースト(B)における紫外線吸収剤(B3)の含有量は、0.005質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上が特に好ましい。一方、感光性導電ペースト(B)における紫外線吸収剤(B3)の含有量の上限は、特に限定されず、1質量%以下であってもよく、0.5質量%以下であってもよい。但し、紫外線吸収剤(B3)の含有量を増加させ過ぎると、露光時間が長期化して製造効率が低下する可能性がある。このため、紫外線吸収剤(B3)の含有量は、0.2質量%以下が好ましく、0.15質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下が特に好ましい。
【0063】
<光重合開始剤(B4)>
また、上記感光性ガラスペースト(A)と同様に、感光性導電ペースト(B)にも光重合開始剤(B4)が添加されていてもよい。かかる感光性導電ペースト(B)の光重合開始剤(B4)も、感光性ガラスペースト(A)と同種のものを特に制限なく使用できる。但し、ガラス硬化膜上での導電膜状体の光硬化を適切に防止するという観点から、感光性導電ペースト(B)における光重合開始剤(B4)の含有量は、感光性ガラスペースト(A)の光重合開始剤(A4)の含有量よりも少ないことが好ましい。例えば、感光性導電ペースト(B)における光重合開始剤(B4)の含有量は、5質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましく、2質量%以下が特に好ましい。一方、より良好な光硬化を実現するという観点から、光重合開始剤(B4)の含有量は、0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましく、1質量%以上が特に好ましい。
【0064】
<有機バインダ(B5)>
有機バインダ(B5)についても、上記感光性ガラスペースト(A)の有機バインダ(A5)と同種のものを特に制限なく使用することができる。なお、ここに開示される電子部品製造用キットの感光性導電ペースト(B)に対して要求される性能は、基材表面への定着性よりも、ガラス硬化膜の溝部への充填性(ペーストの流動性)の方が重要である。このため、感光性導電ペースト(B)の有機バインダ(B5)の含有量は、感光性ガラスペースト(A)の有機バインダ(A5)よりも少なくすることが好ましい。具体的には、感光性導電ペースト(B)における有機バインダ(B5)の含有量は、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、7質量%以下が特に好ましい。一方、有機バインダ(B5)の含有量の下限値は、0質量%(有機バインダ(B5)を含まない)であってもよく、0質量%超であってもよく、1質量%以上であってもよく、2質量%以上であってもよく、3質量%以上であってもよい。
【0065】
<分散媒(B6)>
分散媒(B6)についても、感光性ガラスペースト(A)の分散媒(A6)と同種のものを特に制限なく使用できる。なお、上記した通り、ガラス硬化膜の溝部への充填を考慮すると、ここに開示される電子部品製造用キットの感光性導電ペースト(B)は、高い流動性を有していることが好ましい。例えば、感光性導電ペースト(B)における分散媒(B6)の含有量は、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、7質量%以上が特に好ましい。一方、感光性導電ペースト(B)における有機バインダ(B5)の含有量の上限値は、30質量%以下であってもよく、20質量%以下であってもよく、15質量%以下であってもよく、12質量%以下であってもよい。
【0066】
<他の添加成分>
また、感光性導電ペースト(B)は、ここに開示される技術の効果を著しく損なわない限りにおいて、上記した各成分(B1)~(B6)以外の成分を含有していてもよい。当該他の添加成分は、特に限定されず、従来公知の添加成分を単独で又は2種以上を適宜使用できる。かかる他の添加成分としては、重合禁止剤、ラジカル捕捉剤、酸化防止剤、可塑剤、界面活性剤、レベリング剤、分散剤、消泡剤、ゲル化防止剤、安定化剤、防腐剤等が挙げられる。なお、特に限定されるものではないが、かかる他の添加成分の含有量は、概ね5質量%以下、典型的には3質量%以下、例えば2質量%以下、好ましくは1質量%以下とするとよい。
【0067】
≪電子部品製造用キットのまとめ≫
以上、ここに開示される電子部品製造用キットの構成について説明した。上記構成の電子部品製造用キットの感光性ガラスペースト(A)は、アゾ系染料を含む紫外線吸収剤(A3)の含有量が0.2質量%以上に設定されている。これによって、ガラス膜状体内部の拡散光によって遮光部分が光硬化することを防止できるため、所定パターンの溝部が精密に形成されたガラス硬化膜を生成できる。そして、ここに開示される電子部品製造用キットでは、感光性導電ペースト(B)にも、アゾ系染料を含む紫外線吸収剤(B3)が添加されている。これによって、ガラス硬化膜上での導電膜状体(感光性導電ペースト(B)の乾燥膜)が、ガラス硬化膜の上で光硬化することを好適に防止できる。以上の通り、ここに開示される電子部品製造用キットによると、上記構成の感光性ガラスペースト(A)と感光性導電ペースト(B)を組み合わせて使用することによって、精密な溝部を有するガラス層と、当該ガラス層の精密な溝部からはみ出すことなく充填された導電層とを備えた電子部品を容易に製造できる。すなわち、ここに開示される技術によると、微細な導電層が正確に形成された電子部品を安定的に製造できる。
【0068】
なお、ここに開示される電子部品製造用キットでは、感光性ガラスペースト(A)と感光性導電ペースト(B)との間で、無機成分(ガラス粉末(A1)、導電性粉末(B1))を除く成分を共通させることができる。このように、2つのペーストの成分を揃えた場合、ガラス硬化膜の溝部への感光性導電ペースト(B)の充填性を向上できる。一方、各々のペーストの役割を考慮し、その成分を異ならせてもよい。例えば、感光性ガラスペースト(A)は、基材表面への定着性が重視される傾向がある一方で、感光性導電ペースト(B)は、流動性が重視される傾向がある。このため、感光性ガラスペースト(A)に有機バインダ(A5)を添加し、感光性導電ペースト(B)に有機バインダ(B5)を添加しないという組み合わせを採用することもできる。
【0069】
2.電子部品製造用キットの用途
上述の通り、ここに開示される電子部品製造用キットによれば、精密なパターンの導電層を有した電子部品を安定的に製造できる。以下、かかる電子部品製造用キットの用途について説明する。
【0070】
≪電子部品の種類≫
まず、ここに開示される電子部品製造用キットは、インダクタンス部品やコンデンサ部品、多層回路基板等の様々な電子部品の製造に使用できる。インダクタンス部品の典型例としては、高周波フィルタ、コモンモードフィルタ、高周波回路用インダクタ(コイル)、一般回路用インダクタ(コイル)、高周波フィルタ、チョークコイル、トランス等が挙げられる。また、かかる電子部品の形状(構造)も特に限定されず、表面実装タイプやスルーホール実装タイプ等であってもよい。また、電子部品は、複数の導電層が積層された積層型であってもよいし、単一の導電層を備えた薄膜型であってもよい。
【0071】
また、上記電子部品の一例として、セラミック電子部品が挙げられる。なお、本明細書において、「セラミック電子部品」とは、セラミック製の基材を用いた電子部品全般をいう。セラミック電子部品の典型例として、セラミック基材を有する高周波フィルタ、セラミックインダクタ(コイル)、セラミックコンデンサ、低温焼成積層セラミック基材(Low Temperature Co-fired Ceramics Substrate:LTCC基材)、高温焼成積層セラミック基材(High Temperature Co-fired Ceramics Substrate:HTCC基材)等が挙げられる。また、上記セラミック基材には、非晶質のセラミック基材(ガラスセラミック基材)、結晶質(すなわち非ガラス)のセラミック基材などが挙げられる。なお、ガラスセラミック基材を用いる場合には、上記感光性ガラスペースト(A)をPETフィルム等のキャリアシート上に板状に印刷・乾燥させた後に、当該感光性ガラスペースト(A)を光硬化させた板状のガラス硬化膜をグリーンシートとし、当該板状のガラス硬化膜を焼成することによって基材を形成してもよい。また、結晶質のセラミック基材としては、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン(チタニア)、酸化セリウム(セリア)、酸化イットリウム(イットリア)、チタン酸バリウム等の酸化物系材料;コーディエライト、ムライト、フォルステライト、ステアタイト、サイアロン、ジルコン、フェライト等の複合酸化物系材料;窒化ケイ素(シリコンナイトライド)、窒化アルミニウム(アルミナイトライド)等の窒化物系材料;炭化ケイ素(シリコンカーバイド)等の炭化物系材料;ハイドロキシアパタイト等の水酸化物系材料;等を含む基材が挙げられる。
【0072】
≪電子部品の製造方法≫
次に、ここに開示される電子部品製造用キットを用いた電子部品の製造方法の一実施形態について説明する。図1図6は、本実施形態に係る電子部品の製造方法の各工程を説明する断面図である。なお、これらの図における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は必ずしも実際の寸法関係を反映するものではない。
【0073】
<感光性ガラスペーストの印刷S10>
図1に示すように、本実施形態に係る製造方法では、上記構成の感光性ガラスペースト(A)を基材のグリーンシート10の表面に塗布(印刷)した後に、当該感光性ガラスペースト(A)を乾燥させる。これによって、グリーンシート10上にガラス膜状体20が形成される。なお、本工程における乾燥温度は、30℃~60℃程度が適当であり、乾燥時間は、5分~20分程度が適当である。なお、グリーンシート10の原料および形成手順は、従来公知のものを特に制限なく採用することができ、ここに開示される技術を限定するものではないため詳細な説明を省略する。
【0074】
<ガラス膜状体の露光S20>
次に、本実施形態では、所定パターンのスリットM1aを有したフォトマスクM1をガラス膜状体20の上に被せ、スリットM1aから露出したガラス膜状体20の一部を露光する(図2参照)。これによって、フォトマスクM1による遮光部分がガラス膜状体20のまま維持され、スリットM1aの真下の露光部分が光硬化してガラス硬化膜22となる。なお、この露光処理では、例えば10~500nmの波長範囲の光線(典型的には紫外線)を発する露光機、例えば高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等の紫外線照射灯を用いることができる。
【0075】
ここで、本実施形態に係る製造方法では、ガラス膜状体20の前駆体である感光性ガラスペースト(A)に、アゾ系染料を含む紫外線吸収剤(A3)が0.2質量%以上添加されている。これによって、紫外線がガラス膜状体20の内部で拡散することを防止し、フォトマスクM1の真下に配置された遮光部分が光硬化することを確実に防止できる。
【0076】
<ガラス硬化膜の現像S30>
次に、グリーンシート10上に、所定成分の現像液を供給して未硬化のガラス膜状体20を除去する。これによって、所定パターンの溝部24を有するガラス硬化膜22がグリーンシート10上に現像される(図3参照)。このとき、本実施形態に係る製造方法では、上述したガラス膜状体の露光S20において、フォトマスクM1による遮光部分が光硬化することが確実に防止されている。このため、本工程において、未硬化のガラス膜状体20を除去することによって、微細な溝部24が正確に形成されたガラス硬化膜22が生成される。なお、本工程における現像液には、アルカリ性の水系現像液などを使用できる。かかる水系現像液の一例として、水酸化ナトリウム水溶液や炭酸ナトリウム水溶液などを使用できる。なお、これらの水系現像液のアルカリ濃度は、例えば、0.01~0.5質量%に調整するとよい。
【0077】
<感光性導電ペーストの印刷S40>
次に、本実施形態に係る製造方法では、ガラス硬化膜22の溝部24に充填されるように感光性導電ペースト(B)を印刷し、当該感光性導電ペースト(B)を乾燥させる。これによって、ガラス硬化膜22の溝部24の内部に導電膜状体30が形成される。なお、本工程における印刷手段は、特に限定されない。例えば、図4に示すように、スクリーン印刷を使用して、ガラス硬化膜22の上面全体に感光性導電ペースト(B)を印刷するという手段が挙げられる。
【0078】
<導電膜状体の露光S50>
次に、本工程では、所定パターンのスリットM2aを有したフォトマスクM2を導電膜状体30の上に被せる(図5参照)。ここで、本工程では、溝部24に充填された導電膜状体30の上にフォトマスクM2のスリットM2aが配置され、かつ、ガラス硬化膜22上方の領域がフォトマスクM2で遮光されるように、フォトマスクM2の配置位置を調節する。そして、スリットM2aから露出した導電膜状体30の一部を露光する。これによって、溝部24に充填された導電膜状体30が光硬化して導電硬化膜32となる。
【0079】
この導電膜状体の露光S50において導電膜状体30の内部で光散乱が生じると、フォトマスクM2で覆われた未露光部分の一部が光硬化してしまうおそれがある。これに対して、本実施形態に係る製造方法では、導電膜状体30にも、アゾ系染料を含む紫外線吸収剤(B3)が添加されている。これによって、遮光部分であるガラス硬化膜22上の導電膜状体30を未露光な状態に維持しやすくなるため、後述の現像工程を実施した後にガラス硬化膜22の上面に残渣が生じることを好適に防止できる。
【0080】
<導電硬化膜の現像S60>
次に、本実施形態に係る製造方法では、所定成分の現像液を用いて、ガラス硬化膜22の上に付着した未硬化の導電膜状体30を除去する。これによって、電子部品の前駆体である複合体1が形成される。図6に示すように、かかる複合体1は、基材の前駆体であるグリーンシート10と、感光性ガラスペースト(A)が光硬化されたガラス硬化膜22と、感光性導電ペースト(B)が光硬化された導電硬化膜32とを備えている。そして、かかる複合体1では、ガラス硬化膜22に所定パターンの溝部24が精密に形成されており、当該溝部24に充填された精密な導電硬化膜32が形成されている。
【0081】
かかる複合体1を焼成することによって、ガラス硬化膜22が焼結されてガラス層となると共に、導電硬化膜32が焼結されて導電層となり、電子部品が製造される。このようにして製造された電子部品は、精密な溝部を有するガラス層と、当該精密な溝部に沿って形成された導電層とを有している。なお、かかる複合体1を焼成する際の焼成温度(焼成処理における最高温度)は、600℃~1000℃程度が好ましい。
【0082】
≪積層チップインダクタの製造≫
また、ここに開示される技術によると、上述した単一の導電層を備えた薄膜型の電子部品だけでなく、複数の導電層が積層された電子部品(積層チップインダクタ)を容易に製造できる。以下、積層チップインダクタを製造する手順について説明する。
【0083】
積層チップインダクタを製造する際には、まず、上述した手順に従って、グリーンシート10の上にガラス硬化膜22と導電硬化膜32が形成された複合体1(図6参照)を作製する。そして、図7に示すように、上記複合体1のガラス硬化膜22と導電硬化膜32の上面を覆うように、感光性ガラスペースト(A)を印刷し、乾燥と露光を実施する。これによって、ガラス硬化膜22によって導電硬化膜32が覆われた第1層L1が形成される。
【0084】
次に、導穿孔機などを用いて、第1層L1の上面をなすガラス硬化膜22にビアホール26を形成し、導電硬化膜32の一部の上面を露出させる(図8参照)。そして、当該ビアホール26に感光性導電ペースト(B)を充填した後に乾燥と露光を行う。これによって、第1層の導電硬化膜32と接続されたビア36が形成される(図9参照)。このときには、ビアホール26内の導電膜状体(乾燥後の感光性導電ペースト(B))のみが露光するようにフォトマスクを使用することが好ましい。
【0085】
そして、上述した「感光性ガラスペースト(A)の印刷S10」~「ガラス硬化膜の現像S30」の工程を再度実施し、第1層L1の上面に、溝部24を有するガラス硬化膜22を形成する(図10参照)。次に、上述した「感光性導電ペースト(B)の印刷S40」~「導電硬化膜の現像S60」の工程を再度実施し、ガラス硬化膜22の溝部24の内部に導電硬化膜32を形成する(図11参照)。これによって、第1層L1の上面に、ガラス硬化膜22と導電硬化膜32とを有した第2層L2が形成される。かかる第2層L2の導電硬化膜32は、ビア36を介して、第1層L1の導電硬化膜32と接続される。
【0086】
積層チップインダクタの製造では、上述した各工程を繰り返すことによって、精密な溝部24を有するガラス硬化膜22と、当該溝部に形成された導電硬化膜32とを備えた複数の層(図12では、第1層L1~第4層L4)を備えた積層体100を作製する。また、この積層体100は、第1層L1~第4層L4の各層の導電硬化膜32がビア36を介して接続される。この積層体100に外部電極形成用のペーストを付与した後で、焼成処理を実施することによって、精密な導電層を有した積層チップインダクタが製造される。
【0087】
[試験例]
以下、ここに開示される技術に関する試験例を説明する。なお、以下の説明は、ここに開示される技術を試験例に示されるものに限定することを意図したものではない。
【0088】
1.感光性ガラスペーストの調製
(1)サンプル1
サンプル1として、ガラス粉末と、光硬化性樹脂と、光重合開始剤と、分散媒とを混合した感光性ガラスペーストを調製した。なお、サンプル1では、平均粒子径が2μmのガラス粉末(SiO-B-Al-KO系ガラス)を準備した。また、光硬化性樹脂として、ウレタンアクリレートオリゴマー(多官能ウレタン(メタ)アクリレート)を準備した。次に、有機バインダとして、メチルセルロース系水溶性樹脂と、水溶性アクリル樹脂(メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体)を準備した。さらに、光重合開始剤として、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オンを準備した。また、分散媒として、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートと、エチレングリコールモノブチルエーテルとを混合した混合溶媒を準備した。そして、上記用意したガラス粉末と、光硬化性樹脂と、有機バインダと、光重合開始剤とを、分散媒に溶解させることによって、感光性ガラスペーストを調製した。なお、本サンプルでは、感光性ガラスペーストの総量(100質量%)に対するガラス粉末の含有量が52質量%となり、光硬化性樹脂の含有量が6質量%となり、有機バインダの含有量が13質量%となり、光重合開始材の含有量が3質量%となり、残部が混合溶媒となるように各成分の添加量を調節した。
【0089】
(2)サンプル2~6
紫外線吸収剤を添加したことを除いて、サンプル1と同じ組成の感光性ガラスペーストを調製した。なお、サンプル2~6では、紫外線吸収剤として、黄色のアゾ系染料であるオイルイエロー(オリヱント化学工業株式会社製、型番:OilYellow3G)を使用した。また、サンプル2~6では、当該オイルイエローの添加量が異なっている。各サンプルにおけるオイルイエローの含有量(質量%)を表1に示す。なお、オイルイエローの添加に伴う増加分は、分散媒の含有量を減らすことによって調整した。
【0090】
(3)サンプル7~8
白色染料であるベンゾトリアゾール(株式会社ADEKA製、型番:LA-24)を紫外線吸収剤として添加した点を除いて、サンプル1と同じ組成の感光性ガラスペーストを調製した。なお、サンプル7~8では、上記ベンゾトリアゾールの添加量が異なっている。各サンプルにおけるベンゾトリアゾールの含有量(質量%)を表1に示す。
【0091】
2.評価試験
本試験では、上記サンプル1~8の感光性ガラスペーストを用いて、所定パターンの溝部を有するガラス硬化膜を形成し、形成後のガラス硬化膜の精密性を評価した。まず、本試験では、形成後のガラス硬化膜の精密性を目視で容易に評価するために、印刷対象としてPETフィルムを用いた。そして、スクリーン印刷を用いて、感光性ガラスペースト(サンプル1~8)をPETフィルム上に4cm×4cmの大きさで塗布した後に、45℃で15分間乾燥することによってガラス膜状体を形成した。そして、所定パターンのスリットを有するフォトマスクをガラス膜状体の上に被せた後に、露光機(照度50mJ/cm、露光量100mJ/cm)を用いて光を照射し、フォトマスクのスリットの真下に配置されたガラス膜状体を硬化させてガラス硬化膜を形成した。なお、本試験で使用したフォトマスクは、L/S(ライン/スペース)が20μm/20μmに設定されたものである。
【0092】
次いで、PETフィルム上のガラス膜状体とガラス硬化膜に、0.1質量%のアルカリ性のNaCO水溶液(現像液)を、ブレイクポイント(B.P.)+5秒に到達するまで吹き付けた(現像工程)。なお、上記B.P.とは、上記現像液によって遮光部分のガラス膜状体が除去されたことを目視で確認できるまでの時間を指す。本試験におけるB.P.は、27秒間であった。そして、遮光部分のガラス膜状体を除去した後に純水での洗浄処理を実施して室温で乾燥した。これによって、所定パターンの溝部を有するガラス硬化膜を形成した。
【0093】
次に、本試験では、PETフィルム上に形成されたガラス硬化膜を光学顕微鏡で観察した。各サンプルの光学顕微鏡写真を図13に示す。そして、20視野の顕微鏡観察において、ガラス硬化膜の溝部および外縁が精密に形成されているか否かを評価した。当該評価の結果を、表1中の「精密性評価」の欄に示す。なお、本評価における評価基準は下記の通りである。
「○」:全ての視野において、ガラス硬化膜の外縁が明確に形成され、かつ、隣接したガラス硬化膜が溝部によって確実に仕切られていた。
「×」:溝部が形成されず、隣接したガラス硬化膜が接触した領域が確認された。
【0094】
【表1】
【0095】
まず、表1および図13に示すように、サンプル1では、現像後のガラス硬化膜に溝部が全く形成されておらず、かつ、ガラス硬化膜の外縁も多数の凹凸が形成された不明確なものであった。このように、ガラス膜状体にフォトマスクを被せて露光したにも関わらず、当該フォトマスクのパターンが反映されたガラス硬化膜が形成されないのは、ガラス膜状体の内部で散乱光が生じ、遮光部分に光が到達したためと解される。
【0096】
次に、サンプル2~6に示すように、様々な添加量でアゾ系染料(オイルイエロー)を添加したところ、その添加量が0.2質量%以上に達した時点で、現像後のガラス硬化膜の精密性が劇的に改善されるという結果が得られた。一方、サンプル7、8に示すように、アゾ系染料でない紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール)を用いた場合には、その添加量を大幅に増加させた場合でも、ガラス硬化膜同士が接触した領域が生じ、精密な溝部を形成することができなかった。かかる実験結果から、アゾ系染料を含有した紫外線吸収剤を0.2質量%以上含む感光性ガラスペーストを使用することによって、精密な溝部を有するガラス硬化膜を形成できることが分かった。そして、かかるガラス硬化膜の上面に感光性導電ペーストを付与し、ガラス硬化膜の上面における導電膜状体の光硬化を防止できれば、精密な導電層を有する電子部品を安定的に製造できると解される。
【0097】
以上、本発明を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、本発明はその主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【符号の説明】
【0098】
1 複合体
10 グリーンシート
20 ガラス膜状体
22 ガラス硬化膜
24 溝部
30 導電膜状体
32 導電硬化膜
36 ビア
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13