(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-21
(45)【発行日】2023-03-02
(54)【発明の名称】基板洗浄装置および基板洗浄方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20230222BHJP
【FI】
H01L21/304 643A
(21)【出願番号】P 2021154615
(22)【出願日】2021-09-22
(62)【分割の表示】P 2017241845の分割
【原出願日】2017-12-18
【審査請求日】2021-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2017000676
(32)【優先日】2017-01-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】吉田 幸史
(72)【発明者】
【氏名】樋口 鮎美
(72)【発明者】
【氏名】山口 直子
【審査官】平野 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-036012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板洗浄装置であって、
基板上に、溶媒および溶質を含む処理液を供給する処理液供給部と、
前記基板上に、除去液を供給する除去液供給部と、
前記基板上に、リンス液を供給するリンス液供給部と、
前記処理液供給部
、前記除去液供給部
および前記リンス液供給部を制御する制御部と、
を備え、
前記溶媒は揮発性を有し、
前記基板上に供給された前記処理液から前記溶媒の少なくとも一部が揮発して前記処理液が固化または硬化することにより、前記処理液がパーティクル保持層となり、
前記パーティクル保持層に含まれる前記溶質である溶質成分、または、前記溶質から導かれる溶質成分は、前記除去液に対して不溶性または難溶性であり、前記パーティクル保持層に残存する前記溶媒は、前記除去液に対して可溶性であり、
前記制御部の制御により、前記基板上に前記パーティクル保持層が形成された後、前記除去液供給部から前記パーティクル保持層に前記除去液が供給されることにより、前記パーティクル保持層は、前記除去液から受ける物理的な力により微細な断片となって前記基板上から除去され
、その後、前記パーティクル保持層を溶解させる処理を行うことなく前記基板上にリンス液が供給され、さらに前記基板の乾燥が行われることを特徴とする基板洗浄装置。
【請求項2】
基板洗浄装置であって、
基板上に、溶媒および溶質を含む処理液を供給する処理液供給部と、
前記基板上に、除去液を供給する除去液供給部と、
前記基板上に、リンス液を供給するリンス液供給部と、
前記処理液供給部
、前記除去液供給部
および前記リンス液供給部を制御する制御部と、
を備え、
前記溶媒は揮発性を有し、
前記基板上に供給された前記処理液から前記溶媒の少なくとも一部が揮発して前記処理液が固化または硬化することにより、前記処理液がパーティクル保持層となり、
前記パーティクル保持層に含まれる前記溶質である溶質成分、または、前記溶質から導かれる溶質成分は、前記除去液に対して不溶性または難溶性であり、前記パーティクル保持層に残存する前記溶媒は、前記除去液に対して可溶性であり、
前記制御部の制御により、前記基板上に前記パーティクル保持層が形成された後、前記除去液供給部から前記パーティクル保持層に前記除去液が供給されることにより、前記溶媒の一部が揮発することなく残存する前記パーティクル保持層において、前記溶質成分の分子の間に前記除去液の分子が入り込むことによって、前記基板上から前記パーティクル保持層が除去され
、その後、前記パーティクル保持層を溶解させる処理を行うことなく前記基板上にリンス液が供給され、さらに前記基板の乾燥が行われることを特徴とする基板洗浄装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の基板洗浄装置であって、
前記パーティクル保持層を加熱する加熱部、をさらに備え、
前記パーティクル保持層に含まれる前記溶質成分は、変質温度以上に加熱した場合に変質して前記除去液に対して可溶性になる性質を有し、
前記制御部の制御により、前記除去液が前記パーティクル保持層に供給される前に、前記加熱部により、前記パーティクル保持層が前記変質温度を下回る温度まで加熱されることを特徴とする基板洗浄装置。
【請求項4】
請求項3に記載の基板洗浄装置であって、
前記処理液供給部により、前記処理液が水平姿勢の前記基板の上面に供給され、
前記加熱部が、加熱された脱イオン水を前記基板の下面に供給することにより、前記パーティクル保持層を加熱することを特徴とする基板洗浄装置。
【請求項5】
請求項3に記載の基板洗浄装置であって、
前記処理液供給部により、前記処理液が水平姿勢の前記基板の上面に供給され、
前記加熱部が、加熱された脱イオン水を前記基板の上面に供給することにより、前記パーティクル保持層を加熱することを特徴とする基板洗浄装置。
【請求項6】
請求項1または2に記載の基板洗浄装置であって、
前記パーティクル保持層に含まれる前記溶質成分は、変質温度以上に加熱した場合に変質して前記除去液に対して可溶性になる性質を有し、
前記除去液供給部が、前記変質温度を下回る温度まで加熱された前記除去液を前記基板上に供給することを特徴とする基板洗浄装置。
【請求項7】
請求項1または2に記載の基板洗浄装置であって、
前記パーティクル保持層に含まれる前記溶質成分は、変質温度以上に加熱した場合に変質して前記除去液に対して可溶性になる性質を有し、
前記処理液供給部が、前記変質温度を下回る温度まで加熱された前記処理液を前記基板上に供給することを特徴とする基板洗浄装置。
【請求項8】
請求項1または2に記載の基板洗浄装置であって、
前記基板を加熱する他の加熱部、をさらに備え、
前記パーティクル保持層に含まれる前記溶質成分は、変質温度以上に加熱した場合に変質して前記除去液に対して可溶性になる性質を有し、
前記他の加熱部は、前記処理液が前記基板に供給される前に、または、供給と並行して、前記基板を前記変質温度を下回る温度まで加熱することを特徴とする基板洗浄装置。
【請求項9】
請求項1または2に記載の基板洗浄装置であって、
基板を保持する基板保持部、をさらに備え、
前記基板が前記基板保持部に保持された状態で、前記基板への前記処理液の供給から前記基板への前記除去液の供給までの工程が行われることを特徴とする基板洗浄装置。
【請求項10】
基板洗浄方法であって、
a)基板上に、溶媒および溶質を含む処理液を供給する工程と、
b)前記基板上に、除去液を供給する工程と、
c)前記基板上に、リンス液を供給する工程と、
d)前記基板を乾燥する工程と、
を備え、
前記溶媒は揮発性を有し、
前記a)工程において、前記基板上に供給された前記処理液から溶媒の少なくとも一部が揮発して前記処理液が固化または硬化することにより、前記処理液がパーティクル保持層となり、
前記パーティクル保持層に含まれる前記溶質である溶質成分、または、前記溶質から導かれる溶質成分は、前記除去液に対して不溶性または難溶性であり、前記パーティクル保持層に残存する前記溶媒は、前記除去液に対して可溶性であり、
前記a)工程の後、前記b)工程が実行されることにより、前記パーティクル保持層は、前記除去液から受ける物理的な力により微細な断片となって前記基板上から除去され
、
前記b)工程の後に前記パーティクル保持層を溶解させる処理を行うことなく前記c)工程および前記d)工程が実行されることを特徴とする基板洗浄方法。
【請求項11】
基板洗浄方法であって、
a)基板上に、溶媒および溶質を含む処理液を供給する工程と、
b)前記基板上に、除去液を供給する工程と、
c)前記基板上に、リンス液を供給する工程と、
d)前記基板を乾燥する工程と、
を備え、
前記溶媒は揮発性を有し、
前記a)工程において、前記基板上に供給された前記処理液から溶媒の少なくとも一部が揮発して前記処理液が固化または硬化することにより、前記処理液がパーティクル保持層となり、
前記パーティクル保持層に含まれる前記溶質である溶質成分、または、前記溶質から導かれる溶質成分は、前記除去液に対して不溶性または難溶性であり、前記パーティクル保持層に残存する前記溶媒は、前記除去液に対して可溶性であり、
前記a)工程の後、前記b)工程が実行されることにより、前記溶媒の一部が揮発することなく残存する前記パーティクル保持層において、前記溶質成分の分子の間に前記除去液の分子が入り込むことによって、前記基板上から前記パーティクル保持層が除去され
、
前記b)工程の後に前記パーティクル保持層を溶解させる処理を行うことなく前記c)工程および前記d)工程が実行されることを特徴とする基板洗浄方法。
【請求項12】
請求項10または11に記載の基板洗浄方法であって、
前記パーティクル保持層に含まれる前記溶質成分は、変質温度以上に加熱した場合に変質して前記除去液に対して可溶性になる性質を有し、
前記基板洗浄方法は、前記a)工程と前記b)工程との間に、
c)前記パーティクル保持層を前記変質温度を下回る温度まで加熱する工程、
をさらに備えることを特徴とする基板洗浄方法。
【請求項13】
請求項12に記載の基板洗浄方法であって、
前記a)工程において、前記処理液が水平姿勢の前記基板の上面に供給され、
前記c)工程において、加熱された脱イオン水が前記基板の下面に供給されることにより、前記パーティクル保持層が加熱されることを特徴とする基板洗浄方法。
【請求項14】
請求項12に記載の基板洗浄方法であって、
前記a)工程において、前記処理液が水平姿勢の前記基板の上面に供給され、
前記c)工程において、加熱された脱イオン水が前記基板の上面に供給されることにより、前記パーティクル保持層が加熱されることを特徴とする基板洗浄方法。
【請求項15】
請求項10または11に記載の基板洗浄方法であって、
前記パーティクル保持層に含まれる前記溶質成分は、変質温度以上に加熱した場合に変質して前記除去液に対して可溶性になる性質を有し、
前記b)工程において、前記変質温度を下回る温度まで加熱された前記除去液が前記基板上に供給されることを特徴とする基板洗浄方法。
【請求項16】
請求項10または11に記載の基板洗浄方法であって、
前記パーティクル保持層に含まれる前記溶質成分は、変質温度以上に加熱した場合に変質して前記除去液に対して可溶性になる性質を有し、
前記a)工程において、前記変質温度を下回る温度まで加熱された前記処理液が前記基板上に供給されることを特徴とする基板洗浄方法。
【請求項17】
請求項10または11に記載の基板洗浄方法であって、
前記パーティクル保持層に含まれる前記溶質成分は、変質温度以上に加熱した場合に変質して前記除去液に対して可溶性になる性質を有し、
前記a)工程の前または前記a)工程において、前記基板が前記変質温度を下回る温度まで加熱されることを特徴とする基板洗浄方法。
【請求項18】
請求項10または11に記載の基板洗浄方法であって、
前記基板が同一の基板保持部に保持された状態で、前記基板への前記処理液の供給から前記基板への前記除去液の供給までの工程が行われることを特徴とする基板洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハ、液晶表示装置用ガラス基板、有機EL表示装置用ガラス基板、プラズマディスプレイ用ガラス基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用ガラス基板、太陽電池用基板等(以下、単に「基板」という。)から、基板に付着した各種汚染物や、前工程における処理液やレジスト等の残渣、各種パーティクル等(以下、単に「パーティクル」という)を除去する技術に関連する。
【背景技術】
【0002】
従来より、基板の製造工程は、基板上からパーティクルを除去する洗浄工程を含む。洗浄工程では、多くの場合、脱イオン水(以下、「DIW」と表記する。)等の洗浄液を基板に供給することにより、基板から物理的にパーティクルが除去されたり、薬液を基板に供給することにより、化学的にパーティクルが除去される。
【0003】
しかし、パターンが微細化かつ複雑化すると、パターンは物理的または化学的なダメージを受けやすくなる。そこで、例えば、特許文献1の手法では、基板上にトップコート液を供給し、トップコート液が固化または硬化する際の収縮力を利用してパーティクルを基板から引き離す。その後、トップコート膜を除去液に溶解させることにより、トップコートおよびパーティクルは基板から除去される。
【0004】
一方、特許文献2では、トップコート液により基板上に形成されたトップコート膜は、DIWにより基板から剥離される。続いて、基板上には溶解処理液が供給され。剥離されたトップコート膜は、基板上で溶解されて除去される。なお、特許文献2の第4の実施形態では、パターンが形成されていない基板の場合に、DIWにより膜を基板から剥離させ、さらにDIWを供給し続けて溶解させずに膜が除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-197717号公報
【文献】特開2015-95583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、基板上に形成した膜(以下、「パーティクル保持層」という。)を溶解しつつ基板から除去する場合、パーティクル保持層からパーティクルが脱落して基板に再付着する虞がある。また、パーティクル保持層を溶解させない場合、パーティクル保持層を基板から除去することは容易ではない。特に、特許文献2にて示唆されているように、基板上にパターンが形成されている場合、パーティクル保持層を溶解させることなく基板からパーティクル保持層を除去することは困難となる。これは、パーティクル保持層がある程度大きな塊の状態でパターン上に残るためであると考えられる。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、パーティクル保持層を利用して基板からパーティクルを除去する技術において、パーティクル除去率を向上することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、基板洗浄装置であって、基板上に、溶媒および溶質を含む処理液を供給する処理液供給部と、前記基板上に、除去液を供給する除去液供給部と、前記基板上に、リンス液を供給するリンス液供給部と、前記処理液供給部、前記除去液供給部および前記リンス液供給部を制御する制御部と、を備え、前記溶媒は揮発性を有し、前記基板上に供給された前記処理液から前記溶媒の少なくとも一部が揮発して前記処理液が固化または硬化することにより、前記処理液がパーティクル保持層となり、前記パーティクル保持層に含まれる前記溶質である溶質成分、または、前記溶質から導かれる溶質成分は、前記除去液に対して不溶性または難溶性であり、前記パーティクル保持層に残存する前記溶媒は、前記除去液に対して可溶性であり、前記制御部の制御により、前記基板上に前記パーティクル保持層が形成された後、前記除去液供給部から前記パーティクル保持層に前記除去液が供給されることにより、前記パーティクル保持層は、前記除去液から受ける物理的な力により微細な断片となって前記基板上から除去され、その後、前記パーティクル保持層を溶解させる処理を行うことなく前記基板上にリンス液が供給され、さらに前記基板の乾燥が行われる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、基板洗浄装置であって、基板上に、溶媒および溶質を含む処理液を供給する処理液供給部と、前記基板上に、除去液を供給する除去液供給部と、前記基板上に、リンス液を供給するリンス液供給部と、前記処理液供給部、前記除去液供給部および前記リンス液供給部を制御する制御部と、を備え、前記溶媒は揮発性を有し、前記基板上に供給された前記処理液から前記溶媒の少なくとも一部が揮発して前記処理液が固化または硬化することにより、前記処理液がパーティクル保持層となり、前記パーティクル保持層に含まれる前記溶質である溶質成分、または、前記溶質から導かれる溶質成分は、前記除去液に対して不溶性または難溶性であり、前記パーティクル保持層に残存する前記溶媒は、前記除去液に対して可溶性であり、前記制御部の制御により、前記基板上に前記パーティクル保持層が形成された後、前記除去液供給部から前記パーティクル保持層に前記除去液が供給されることにより、前記溶媒の一部が揮発することなく残存する前記パーティクル保持層において、前記溶質成分の分子の間に前記除去液の分子が入り込むことによって、前記基板上から前記パーティクル保持層が除去され、その後、前記パーティクル保持層を溶解させる処理を行うことなく前記基板上にリンス液が供給され、さらに前記基板の乾燥が行われる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の基板洗浄装置であって、前記パーティクル保持層を加熱する加熱部、をさらに備え、前記パーティクル保持層に含まれる前記溶質成分は、変質温度以上に加熱した場合に変質して前記除去液に対して可溶性になる性質を有し、前記制御部の制御により、前記除去液が前記パーティクル保持層に供給される前に、前記加熱部により、前記パーティクル保持層が前記変質温度を下回る温度まで加熱される。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の基板洗浄装置であって、前記処理液供給部により、前記処理液が水平姿勢の前記基板の上面に供給され、前記加熱部が、加熱された脱イオン水を前記基板の下面に供給することにより、前記パーティクル保持層を加熱する。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項3に記載の基板洗浄装置であって、前記処理液供給部により、前記処理液が水平姿勢の前記基板の上面に供給され、前記加熱部が、加熱された脱イオン水を前記基板の上面に供給することにより、前記パーティクル保持層を加熱する。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1または2に記載の基板洗浄装置であって、前記パーティクル保持層に含まれる前記溶質成分は、変質温度以上に加熱した場合に変質して前記除去液に対して可溶性になる性質を有し、前記除去液供給部が、前記変質温度を下回る温度まで加熱された前記除去液を前記基板上に供給する。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項1または2に記載の基板洗浄装置であって、前記パーティクル保持層に含まれる前記溶質成分は、変質温度以上に加熱した場合に変質して前記除去液に対して可溶性になる性質を有し、前記処理液供給部が、前記変質温度を下回る温度まで加熱された前記処理液を前記基板上に供給する。
【0015】
請求項8に記載の発明は、請求項1または2に記載の基板洗浄装置であって、前記基板を加熱する他の加熱部、をさらに備え、前記パーティクル保持層に含まれる前記溶質成分は、変質温度以上に加熱した場合に変質して前記除去液に対して可溶性になる性質を有し、前記他の加熱部は、前記処理液が前記基板に供給される前に、または、供給と並行して、前記基板を前記変質温度を下回る温度まで加熱する。
【0016】
請求項9に記載の発明は、請求項1または2に記載の基板洗浄装置であって、基板を保持する基板保持部、をさらに備え、前記基板が前記基板保持部に保持された状態で、前記基板への前記処理液の供給から前記基板への前記除去液の供給までの工程が行われる。
【0017】
請求項10に記載の発明は、基板洗浄方法であって、a)基板上に、溶媒および溶質を含む処理液を供給する工程と、b)前記基板上に、除去液を供給する工程と、c)前記基板上に、リンス液を供給する工程と、d)前記基板を乾燥する工程と、を備え、前記溶媒は揮発性を有し、前記a)工程において、前記基板上に供給された前記処理液から溶媒の少なくとも一部が揮発して前記処理液が固化または硬化することにより、前記処理液がパーティクル保持層となり、前記パーティクル保持層に含まれる前記溶質である溶質成分、または、前記溶質から導かれる溶質成分は、前記除去液に対して不溶性または難溶性であり、前記パーティクル保持層に残存する前記溶媒は、前記除去液に対して可溶性であり、前記a)工程の後、前記b)工程が実行されることにより、前記パーティクル保持層は、前記除去液から受ける物理的な力により微細な断片となって前記基板上から除去され、前記b)工程の後に前記パーティクル保持層を溶解させる処理を行うことなく前記c)工程および前記d)工程が実行される。
【0018】
請求項11に記載の発明は、基板洗浄方法であって、a)基板上に、溶媒および溶質を含む処理液を供給する工程と、b)前記基板上に、除去液を供給する工程と、c)前記基板上に、リンス液を供給する工程と、d)前記基板を乾燥する工程と、を備え、前記溶媒は揮発性を有し、前記a)工程において、前記基板上に供給された前記処理液から溶媒の少なくとも一部が揮発して前記処理液が固化または硬化することにより、前記処理液がパーティクル保持層となり、前記パーティクル保持層に含まれる前記溶質である溶質成分、または、前記溶質から導かれる溶質成分は、前記除去液に対して不溶性または難溶性であり、前記パーティクル保持層に残存する前記溶媒は、前記除去液に対して可溶性であり、前記a)工程の後、前記b)工程が実行されることにより、前記溶媒の一部が揮発することなく残存する前記パーティクル保持層において、前記溶質成分の分子の間に前記除去液の分子が入り込むことによって、前記基板上から前記パーティクル保持層が除去され、前記b)工程の後に前記パーティクル保持層を溶解させる処理を行うことなく前記c)工程および前記d)工程が実行される。
【0019】
請求項12に記載の発明は、請求項10または11に記載の基板洗浄方法であって、前記パーティクル保持層に含まれる前記溶質成分は、変質温度以上に加熱した場合に変質して前記除去液に対して可溶性になる性質を有し、前記基板洗浄方法は、前記a)工程と前記b)工程との間に、c)前記パーティクル保持層を前記変質温度を下回る温度まで加熱する工程をさらに備える。
【0020】
請求項13に記載の発明は、請求項12に記載の基板洗浄方法であって、前記a)工程において、前記処理液が水平姿勢の前記基板の上面に供給され、前記c)工程において、加熱された脱イオン水が前記基板の下面に供給されることにより、前記パーティクル保持層が加熱される。
【0021】
請求項14に記載の発明は、請求項12に記載の基板洗浄方法であって、前記a)工程において、前記処理液が水平姿勢の前記基板の上面に供給され、前記c)工程において、加熱された脱イオン水が前記基板の上面に供給されることにより、前記パーティクル保持層が加熱される。
【0022】
請求項15に記載の発明は、請求項10または11に記載の基板洗浄方法であって、前記パーティクル保持層に含まれる前記溶質成分は、変質温度以上に加熱した場合に変質して前記除去液に対して可溶性になる性質を有し、前記b)工程において、前記変質温度を下回る温度まで加熱された前記除去液が前記基板上に供給される。
【0023】
請求項16に記載の発明は、請求項10または11に記載の基板洗浄方法であって、前記パーティクル保持層に含まれる前記溶質成分は、変質温度以上に加熱した場合に変質して前記除去液に対して可溶性になる性質を有し、前記a)工程において、前記変質温度を下回る温度まで加熱された前記処理液が前記基板上に供給される。
【0024】
請求項17に記載の発明は、請求項10または11に記載の基板洗浄方法であって、前記パーティクル保持層に含まれる前記溶質成分は、変質温度以上に加熱した場合に変質して前記除去液に対して可溶性になる性質を有し、前記a)工程の前または前記a)工程において、前記基板が前記変質温度を下回る温度まで加熱される。
【0025】
請求項18に記載の発明は、請求項10または11に記載の基板洗浄方法であって、前記基板が同一の基板保持部に保持された状態で、前記基板への前記処理液の供給から前記基板への前記除去液の供給までの工程が行われる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、パーティクル除去率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】基板洗浄システムの構成を示す平面図である。
【
図4】基板洗浄装置による加熱処理を示す図である。
【
図6】PRE(パーティクル除去率)の測定結果を示す図である。
【
図11A】パーティクル保持層を示す概念図である。
【
図11B】パーティクル保持層が除去される様子を示す概念図である。
【
図12】基板洗浄装置の他の動作例の一部を示す図である。
【
図13】基板洗浄装置のさらに他の動作例の一部を示す図である。
【
図14】基板洗浄装置のさらに他の動作例の一部を示す図である。
【
図15】基板洗浄装置のさらに他の動作例の一部を示す図である。
【
図16】基板洗浄装置のさらに他の動作例の一部を示す図である。
【
図17】基板洗浄装置のさらに他の動作例の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る基板洗浄システム1の構成を示す平面図である。基板洗浄システム1は、キャリア保持部2と、基板受渡部3と、インデクサロボット101と、センターロボット102と、4つの基板洗浄装置4と、制御部10とを備える。後述するように、制御部10は基板洗浄装置4の一部として捉えられてもよい。
【0029】
キャリア90は、複数の基板9を積層して収容可能な収容器である。キャリア90は、未処理の基板9や、処理済の基板9を収容する。本実施の形態における基板9は、半導体基板であり、いわゆるウエハである。キャリア保持部2は、複数のキャリア90を支持する。
【0030】
図1において破線の矢印で概念的に示すように、インデクサロボット101は、基板9を保持した状態で旋回および進退自在のアームにより、基板9を任意の位置に搬送することが可能である。インデクサロボット101は、基板9を保持した状態で上下方向にも移動可能である。キャリア保持部2に載置されたキャリア90内の未処理の基板9は、インデクサロボット101によって、基板受渡部3のパス31に搬送される。パス31は、複数の基板9を一時的に保管するバッファとして機能する。
【0031】
パス31に載置された処理済の基板9は、インデクサロボット101によってキャリア保持部2に載置されたキャリア90内に搬送される。
図1では、図示の都合上、パス31を二点鎖線にて示している。センターロボット102は、基板9を保持した状態で旋回および進退自在のアームにより、基板9を任意の位置に搬送することが可能である。センターロボット102は、この動作により、基板受渡部3のパス31と、基板洗浄装置4との間で基板9を搬送する。
【0032】
図2は、基板洗浄装置4の構成を示す図である。基板洗浄装置4は、基板保持部42と、基板回転機構41と、基板保持部42の周囲を囲むカップ43と、供給部44と、加熱部46と、チャンバ47とを備える。少なくとも基板保持部42と、カップ43と、加熱部46とは、チャンバ47内に位置する。基板保持部42は、スピンベース421と、チャック422と、第1シャフト423とを備える。スピンベース421は、第1シャフト423の中心軸J1を中心とする円板状である。複数(例えば6個)のチャック422はスピンベース421の外周部の上面上に配置される。センターロボット102から渡された未処理の基板9は、チャック422上に載置される。基板9は水平な姿勢にて基板保持部42に保持される。
【0033】
第1シャフト423は、スピンベース421の下面に接続され、スピンベース421から下方に伸びる。第1シャフト423の中心軸J1は、基板9の中心を通る。基板回転機構41は、第1シャフト423を回転する。これにより、基板保持部42および基板9が中心軸J1を中心として回転する。本実施の形態では、基板回転機構41は、第1シャフト423を回転軸として有するモータである。基板回転機構41は、他の構造であってもよい。基板保持部42にも他の構造が採用されてよく、例えば、基板9の下面を吸着する構造であってもよい。
【0034】
加熱部46は、加熱プレート461と、第2シャフト462と、プレート昇降機構463とを備える。加熱プレート461は、中心軸J1に垂直な方向に広がる円板状である。加熱プレート461は、スピンベース421の上方に位置する。基板9がチャック422に保持された状態では、加熱プレート461は基板9とスピンベース421との間に位置する。加熱プレート461内にはヒータ464が設けられる。第2シャフト462は、加熱プレート461の中央から中心軸J1に沿って下方に伸びる。第1シャフト423は中空になっており、第2シャフト462は第1シャフト423を貫通するように第1シャフト423の内側に位置する。プレート昇降機構463は、第2シャフト462を昇降する。これにより、加熱プレート461が昇降する。
【0035】
供給部44は、処理液供給部441と、除去液供給部442と、リンス液供給部443とを備える。処理液供給部441は、処理液供給源451と、第1ノズル452と、図示しない第1ノズル移動機構とを備える。除去液供給部442は、除去液供給源453と、第2ノズル454と、図示しない第2ノズル移動機構とを備える。リンス液供給部443は、リンス液供給源455と、第2ノズル454と、第2ノズル移動機構と、下ノズル456とを備える。第2ノズル454と第2ノズル移動機構とは、除去液供給部442とリンス液供給部443との双方に含まれる。
【0036】
第1ノズル移動機構は、第1ノズル452を、基板9の上面91に対向する対向位置と、水平方向において基板9から離れた待機位置とに選択的に配置する。第2ノズル移動機構は、第2ノズル454を、基板9の上面91に対向する対向位置と、水平方向において基板9から離れた他の待機位置とに選択的に配置する。下ノズル456は、加熱プレート461の中央に設けられ、基板9の下面92に対向する。第2シャフト462内にはリンス液供給源455に接続される流路465が設けられる。
【0037】
処理液供給源451と第1ノズル452との間、除去液供給源453およびリンス液供給源455と第2ノズル454との間、リンス液供給源455と下ノズル456との間には、適宜、弁が設けられる。各弁の開閉や第1および第2ノズル移動機構は、制御部10により制御される。制御部10が弁を制御することにより、第1ノズル452からの処理液の吐出、第2ノズル454からの除去液の吐出、第2ノズル454からのリンス液の吐出、および、下ノズル456からのリンス液の吐出が制御される。
【0038】
制御部10は、基板回転機構41、基板保持部42、加熱部46等の制御も行う。したがって、制御部10の機能の一部は、基板洗浄装置4に含まれると捉えられてよい。制御部10の一部は、各基板洗浄装置4の専用の構成要素としてチャンバ47内に設けられてもよい。
【0039】
図3は、基板洗浄装置4における基板9の洗浄の流れを示す図である。
図3に示す動作は、制御部10が基板回転機構41、加熱部46、処理液供給部441、除去液供給部442、リンス液供給部443等を制御することにより行われる。
【0040】
まず、キャリア90内の未処理の基板9が、インデクサロボット101およびセンターロボット102により基板洗浄装置4内へと搬送される。基板洗浄装置4では、チャック422により基板9の外縁部が保持され、基板9の一方の主面である上面91が上方を向く。
【0041】
処理液供給部441は、水平姿勢の基板9の上面に処理液を供給する(ステップS11)。具体的には、第1ノズル452が基板9の上面91の中央まで移動し、第1ノズル452から上面91の中央に向けて処理液が吐出される。処理液は、液柱状またはノズルから自然に落下する液滴状にて基板9に供給される。本実施の形態における処理液は、溶質としてポリマーを含み、溶媒として揮発性を有する有機系の液体を含む。ここで、「揮発性を有する」とは、水と比較して揮発性が高いことを意味する。処理液が供給される際には、基板回転機構41により基板9は、例えば、10~数10rpmにて基板保持部42と共に中心軸J1を中心として回転し、処理液は基板9の上面91にて広がる。その後、基板9は500~1500rpmにて高速回転し、余剰の処理液は基板9から飛散してカップ43にて受けられる。
【0042】
処理液が上面91上に均一に広がり、さらに溶媒がある程度揮発すると、処理液は固化または硬化して固体状の層となる。その結果、基板9上のパーティクルは層中に保持される。以下、処理液が固体状に変化した層を「パーティクル保持層」と呼ぶ。
【0043】
ここで、「固化」とは、例えば分子間や原子間に作用する力等により溶質が固まることを指す。「硬化」とは、例えば重合や架橋等の溶質の化学的変化により固まることを指す。したがって、「固化または硬化」とは、様々な要因により「固まること」を表現している。なお、パーティクルを保持できる程度に処理液は固化または硬化すればよく、溶媒は完全に気化する必要はない。
【0044】
好ましくは、溶媒の揮発に従って、処理液は収縮しつつパーティクル保持層となる。これにより、基板9上のパーティクルはパーティクル保持層から受ける力により、基板9の表面から分離される。
【0045】
次に、加熱部46により基板9が加熱される(ステップS12)。加熱によってパーティクル保持層はさらに収縮すると考えられる。基板9の加熱は、パーティクル保持層の加熱でもある。ステップS12は、必ずしも行われる必要はない。ステップS12が行われない場合は、基板9が基板保持部42に保持された状態が、所定時間維持される。
【0046】
基板9の加熱が行われる場合、加熱プレート461内のヒータ464により加熱プレート461の温度が予め定められた値まで上昇する。
図4に示すように、プレート昇降機構463により加熱プレート461は上昇し、加熱プレート461の上面は基板9の下面92に接触して基板9を持ち上げる。これにより、基板9は加熱プレート461から熱を受けて加熱される。基板9の加熱は、加熱プレート461が基板9の下面92に近接することにより行われてもよく、加熱プレート461と基板9の下面92との接触と近接との双方の状態を利用して行われてもよい。
【0047】
ステップS11の処理液供給とステップS12の加熱とは並行して行われてもよい。すなわち、加熱は、処理液の固化または硬化後に行われてもよく、溶媒の揮発中に行われてもよい。パーティクル保持層の形成時に、通常、処理液に含まれる溶媒の一部のみが揮発するが、処理液から溶媒がほぼ完全に揮発してもよい。すなわち、溶媒の少なくとも一部が揮発することにより、処理液の溶質成分が固化または硬化する。
【0048】
以下の説明では、パーティクル保持層における処理液の溶質に対応する成分を「溶質成分」という。溶質成分は、処理液の溶質そのものであってもよいし、溶質から導かれるもの、例えば、化学的変化等の結果得られるものであってもよい。本実施の形態では、パーティクル保持層の溶質成分は、変質温度以上に加熱されると変質して水溶性になる。しかし、ステップS12では、制御部10の制御により、パーティクル保持層は、加熱部46により、変質温度を下回る温度までしか加熱されない。これにより、溶媒の揮発が促進される一方で、溶質成分は、変質せずに非水溶性を維持する。変質温度は溶質の種類毎に異なり、後述の実験例に示すように、変質温度は実験を通して特定可能である。パーティクル保持層の加熱が行われない場合も同様に、溶質成分は変質することなく非水溶性が維持される。
【0049】
パーティクル保持層上には、DIW(脱イオン水)が供給される(ステップS13)。本実施の形態では、DIWの供給は、リンス液供給部443により行われるが、リンス液供給部443と同構造のDIW供給部が別途設けられてもよい。パーティクル保持層にDIWが供給されることにより、パーティクル保持層の親水性が高められる。DIWの供給では、第2ノズル454は回転する基板9の上面91の中央に移動し、DIWは、第2ノズル454から上面91の中央に供給される。DIWは、スプレー状ではなく、液柱状またはノズルから自然に落下する液滴状にて基板9に供給される。回転する基板9から飛散するDIWはカップ43にて受けられる。ステップS13では、第2ノズル454は水平方向に揺動してもよい。なお、パーティクル保持層へのDIWの供給は省略されてもよい。
【0050】
次に、除去液供給部442により基板9上のパーティクル保持層に除去液が供給される(ステップS14)。具体的には、第2ノズル454が基板9の上面91の中央に移動し、例えば、500~800rpmにて基板9が回転する状態で第2ノズル454から除去液が上面91の中央に供給される。除去液は、スプレー状ではなく、液柱状またはノズルから自然に落下する液滴状にて基板9に供給される。除去液は基板9の外縁部から飛散し、カップ43にて受けられて回収される。本実施の形態では、除去液としてSC-1洗浄にて使用される水溶液(以下、「SC-1液」という。)、すなわち、アンモニアおよび過酸化水素の水溶液が用いられる。除去液としては、アンモニア水溶液が用いられてもよい。
【0051】
ここで、既述のように、パーティクル保持層の溶質成分は非水溶性である。すなわち、本実施の形態では溶質成分は除去液に対して不溶性である。一方、パーティクル保持層に残存する溶媒は水溶性である。すなわち、本実施の形態では溶媒は除去液に対して可溶性である。したがって、パーティクル保持層の溶質成分を変質させる工程を敢えて経ることなくパーティクル保持層に除去液を供給することにより、パーティクル保持層は、その溶質成分が除去液に溶解することなくパーティクルを保持したまま、残存する溶媒と共に基板9上から除去される。このとき、パーティクル保持層に残存する溶媒の影響により、溶質成分は無数の微細な固まりの状態で除去されると推定される。その結果、後述するように、パーティクル保持層からパーティクルが基板9上に放出されることはなく、高いパーティクル除去率が得られる。なお、パーティクル保持層の溶質成分が除去液で除去可能であれば、溶媒はパーティクル保持層に残存していなくてもよい。
【0052】
基板9上にはリンス液供給部443によりさらにリンス液が供給される(ステップS15)。本実施の形態では、リンス液としてDIWが使用される。DIWは、第2ノズル454から回転する基板9の上面91の中央に供給される。リンス液は、スプレー状ではなく、液柱状またはノズルから自然に落下する液滴状にて基板9に供給される。このとき、下ノズル456から基板9の下面92の中央にDIWが同時に供給される。基板9から飛散するDIWはカップ43にて受けられる。ステップS14およびS15では、第2ノズル454は水平方向に揺動してもよい。DIWの供給を停止して基板9がさらに回転することにより、基板9の乾燥が行われる(ステップS16)。基板9の乾燥は、乾燥したガスの供給や減圧、加熱等の他の手法により行われてもよい。
【0053】
基板洗浄装置4では、基板9が同一の基板保持部42に保持された状態で、基板9への処理液の供給から基板9への除去液の供給までの工程が行われる。すなわち、基板9はチャンバ47から搬出されることなくこれらの処理が行われる。これにより、基板洗浄装置4を設置するスペースを小さく抑えることができる。なお、本実施の形態では、乾燥までの工程も基板9が基板保持部42に保持された状態で行われる。基板保持部42に保持された状態で基板9に処理が行われることは、基板9に対する処理がチャンバ47内で行われることを意味する。
【0054】
なお、上記一連の処理では、基板9は変質温度までは加熱されない、または、基板9は加熱されないため、基板9を変質温度を上回る温度まで加熱する場合と比べて、同一のチャンバ内で処理を行う基板洗浄装置4の設計が容易となる。また、同一のチャンバ内で一連の処理を行うことにより、基板9にパーティクルが付着する可能性を低減することができる。
【0055】
図5は、本実施の形態にて形成されるパーティクル保持層の溶質成分が、加熱により水溶性に変化する性質を説明するための図である。
図5は、QCM(Quartz Crystal Microbalance)法による測定結果を示す。実験では、水晶振動子上に金の膜を形成し、その上にパーティクル保持層を形成した。そして、パーティクル保持層をSC-1液に浸漬し、振動子による振動を与えた。QCM法では、金の膜に付着しているパーティクル保持層の質量が大きいほど、振動周波数は大きくなる。
【0056】
符号811、812、813、814にて示す線は、それぞれパーティクル保持層を250℃、200℃、150℃、100℃に加熱した場合の結果を示し、符号815にて示す線は、加熱なしの場合の結果を示す。パーティクル保持層の変質温度は約200℃であり、パーティクル保持層を250℃および200℃に加熱した場合に周波数が高くなっており、パーティクル保持層がSC-1液中に溶解していることが判る。加熱が150℃以下の場合は、パーティクル保持層は金の膜上に付着した状態が維持され、溶解していないことが判る。
【0057】
図6は、Si基板上にSiO
2のパーティクルを付着させ、
図3に示す洗浄を行った場合の所定の粒径以上のパーティクルの除去率を測定した結果を示す図である。以下、パーティクル除去率を「PRE」と表記する。正確には、
図3に示す工程に前処理等の工程が追加される。左から順に、ステップS12での加熱なし(室温)、60℃、80℃、100℃、150℃、200℃の加熱を行った場合を示す。室温は、例えば、20℃以上30℃以下である。破線はSC-1液のみで洗浄を行った場合のPREを示し、39%である。
【0058】
いずれの場合も、SC-1液のみでの洗浄に比べて高いPREが得られることが判る。なお、200℃に加熱した場合はパーティクル保持層の溶質成分は溶解しており、150℃に加熱した場合よりも僅かではあるがPREは低下している。
【0059】
図7は、Si基板上にPSL(ポリスチレンラテックス)のパーティクルを付着させ、
図6と同様の洗浄を行った場合の所定の粒径以上のPREを測定した結果を示す図である。左から順に、ステップS12での加熱なし(室温)、100℃の加熱を行った場合を示す。なお、PSL粒子を付着させる際に、パーティクル保持層は120℃まで加熱されている。破線はSC-1液のみで洗浄を行った場合のPREを示し、0.8%である。いずれの場合も、SC-1液のみでの洗浄に比べて非常に高いPREが得られることが判る。
【0060】
図8は、SiN基板上にSiO
2のパーティクルを付着させ、
図6と同様の洗浄を行った場合の所定の粒径以上のPREを測定した結果を示す図である。左から順に、ステップS12での加熱なし(室温)、60℃、100℃、150℃、200℃の加熱を行った場合を示す。破線はSC-1液のみで洗浄を行った場合のPREを示し、39.9%である。
【0061】
いずれの場合も、SC-1液のみでの洗浄に比べて高いPREが得られることが判る。なお、200℃に加熱した場合はパーティクル保持層の溶質成分は溶解しており、150℃に加熱した場合よりも大きくPREは低下している。
【0062】
図9は、SiN基板上にPSLのパーティクルを付着させ、
図6と同様の洗浄を行った場合の所定の粒径以上のPREを測定した結果を示す図である。左から順に、ステップS12での加熱なし(室温)、60℃、100℃、150℃の加熱を行った場合を示す。破線はSC-1液のみで洗浄を行った場合のPREを示し、0.5%である。いずれの場合も、SC-1液のみでの洗浄に比べて非常に高いPREが得られることが判る。
【0063】
図6ないし
図9から、本実施の形態の洗浄方法により、基板9の種類に依存することなく高いPREを得られることが判る。
【0064】
図10は、PREのさらに他の測定結果を示す図である。符号821にて示す線は、パターンを有しない基板に厚さ30nmのパーティクル保持層を形成した場合の、加熱温度とPREとの関係を示す。符号822にて示す線は、パターンを有する基板に厚さ30nmのパーティクル保持層を形成した場合の、加熱温度とPREとの関係を示す。符号831にて示す線は、パターンを有しない基板に厚さ75nmのパーティクル保持層を形成した場合の、加熱温度とPREとの関係を示す。符号832にて示す線は、パターンを有する基板に厚さ75nmのパーティクル保持層を形成した場合の、加熱温度とPREとの関係を示す。いずれの場合も、パーティクルとしてSiO
2粒子が用いられた。
【0065】
図10から、加熱温度が200℃の場合、150℃の場合よりもPREが低下することが判る。特に、基板上にパターンが形成されている場合、200℃に加熱されてパーティクル保持層が除去液に対して可溶性になると、PREが急激に低下する。なお、
図10では、150℃よりも加熱温度が低い場合、PREは低下しているが、これは溶媒の揮発が不十分であった可能性がある。
【0066】
以上のことから、パーティクル保持層の溶質成分の除去液に対する不溶性を敢えて維持することにより、溶質成分を溶解させる場合よりもPREを向上することができるといえる。また、変質させずになるべく高い温度で加熱することにより、効率よくパーティクル保持層を固化また硬化させることができ、高いPREを短時間で実現することができる。この手法は、パターンが形成された基板9の洗浄に特に適している。また、従来のSC-1液のスプレーを用いる物理洗浄に比べてパターンに与えるダメージは小さい。
【0067】
図11Aは、基板9上に形成されたパーティクル保持層901を示す概念図である。パーティクル保持層901は、基板9上に付着しているパーティクル902の周囲を囲むようにしてパーティクル902を保持する。処理液から溶媒が揮発して溶質成分が収縮することにより、パーティクル保持層901は、基板9の表面からパーティクル902を引き離す。なお、溶媒の揮発による溶質成分の収縮のみならず、他の要因により溶質成分自体がさらに収縮する性質を有することが好ましい。他の要因としては、例えば、溶質成分自体の自然収縮、加熱による収縮、化学的変化が挙げられる。
【0068】
既述のように、パーティクル保持層901の溶質成分は除去液に対して不溶性であるため、除去液を基板9に供給することにより、
図11Bに示すように、パーティクル保持層901は除去液から受ける物理的な力により、微細な断片903となって基板9から除去されると考えられる。これにより、パーティクル902はパーティクル保持層901から放出されることなく基板9から除去される。特に、溶媒が除去液に対して可溶性であるため、基板9とパーティクル保持層901との間に残存する溶媒が、基板9からのパーティクル保持層901の容易な剥離を実現していると考えられる。
【0069】
変質温度を有しないパーティクル保持層を溶解させずに基板から剥離する場合、特開2015-95583号公報に記載のように、パターンを有する基板からパーティクル保持層の剥離が困難になる。これは、パーティクル保持層が大きな塊のまま基板上に残留することが原因であると考えられる。しかし、このような問題は、変質温度を有するパーティクル保持層(正確には、溶質成分)の場合には現れないことが発明者により発見された。この場合、パーティクル保持層は、溶解させなくても肉眼で観察不可能な程度の微細な破片となって基板上から除去されると考えられる。そのため、パターンを有する基板であってもパーティクルを効率よく除去することができる。
【0070】
なお、除去液はノズルから弱い勢いで吐出されるため、除去液は液柱または大きな液滴として基板9上に供給される。したがって、従来のように勢いよくスプレー状に洗浄液を基板9に供給する場合と比べてパターン与えるダメージは小さい。
【0071】
上記実施の形態では、変質温度まで加熱した場合に除去液に対して可溶性となる処理液を、敢えて加熱することなく、または、変質温度未満かつ室温を超える温度まで加熱して利用することにより、高いPREを実現している。この効果は、熱により変質するパーティクル保持層が除去液で除去できるという性質を利用している。
【0072】
一方、パーティクル保持層の溶質成分が除去液に対して不溶性であるにも関わらず除去液で微細な断片となって基板から除去できるという性質は、他の要因により実現されてもよい。例えば、除去液に対して可溶性の溶媒の一部が揮発することなくパーティクル保持層に残存する場合、溶質成分の分子の間に溶媒の分子が入り込むことによって、不溶性の溶質成分の除去液による除去、すなわち、パーティクル保持層(正確には、溶質成分)の除去液による除去が実現されてもよい。この場合、溶質成分が加熱することにより除去液に対して可溶性となる性質は必ずしも必要ではない。
【0073】
図2に示す基板洗浄装置4の加熱部46は、加熱プレート461により基板9の加熱、すなわち、パーティクル保持層の加熱を行うが、パーティクル保持層の加熱には他の様々な手法が採用可能である。例えば、基板9はランプからの光の照射により加熱されてもよい。加熱される面は、基板9の上面91でも下面92でもよい。基板9の上面91に加熱されたプレートが近づけられることによりパーティクル保持層の加熱が行われてもよい。また、以下に説明するように加熱されたDIWや他の液を基板9に供給することにより、パーティクル保持層の加熱が行われてもよい。
【0074】
次に、基板洗浄装置4の他の幾つかの動作例について説明する。好ましい一の動作例では、
図3のステップS12に代えて、
図12のステップS12aにて示すように、水平姿勢の基板9の下面に加熱されたDIWを供給することにより、基板9の加熱、すなわち、パーティクル保持層の加熱が行われる。パーティクル保持層は、室温よりも高く、かつ、100℃未満の温度まで加熱される。パーティクル保持層の加熱により、パーティクル保持層に収縮が生じる。この動作例の場合、加熱部46として、下ノズル456から吐出されるDIWを予め加熱するヒータが設けられ、ヒータおよび下ノズル456が加熱部46として機能する。
【0075】
DIWにより基板9の加熱を行う場合、加熱プレート461は省略可能である。基板9の下面に加熱されたDIWを供給することにより、洗浄対象である上面に影響を与えることなく、簡単な構造で基板9を加熱することができる。基板洗浄装置4の動作は、基板9の下面に加熱したDIWを供給してパーティクル保持層の加熱が行われる点を除いて、
図3と同様である。なお、好ましくは、ステップS13の常温のDIWの供給は行われるが、省略されてよい。
【0076】
図13のステップS12bにて示すように、基板9の加熱は、水平姿勢の基板9の上面に加熱されたDIWを供給することにより行われてもよい。ステップS12bは、
図3のステップS12およびS13を合わせた工程となる。この動作例の場合、加熱部46として、第2ノズル454から吐出されるDIWを予め加熱するヒータが設けられる。ヒータおよび第2ノズル454は加熱部46として機能する。DIWにより基板9の加熱を行うため、加熱プレート461は省略可能である。基板9の上面に加熱されたDIWを供給することにより、パーティクル保持層に残留する溶媒の除去および加熱によりパーティクル保持層の収縮が生じると考えられる。
【0077】
なお、DIWの供給によりパーティクル保持層の溶質成分の一部が基板9上から除去される可能性があるが、通常、DIWではパーティクル保持層の完全な除去は生じないことから、DIWはステップS14における除去液としての機能は有しない。基板9の加熱は、水平姿勢の基板9の上面および下面に加熱されたDIWを供給することにより行われてもよい。この動作も、
図3のステップS12およびS13を合わせた工程である。
【0078】
図14のステップS14aにて示すように、
図3のステップS14に代えて、除去液供給部442により、加熱された除去液が基板9上に供給されてもよい。すなわち、変質温度を下回る温度まで加熱された除去液が、水平姿勢の基板9の上面に供給される。ステップS14aは、
図3のステップS12におけるパーティクル保持層の加熱工程を兼ねる。したがって、通常は、ステップS12は省略される。しかし、ステップS12が行われた上で、ステップS14aが行われてもよい。
【0079】
加熱された除去液の供給が行われる場合、ステップS13のDIWの供給は行われなくてもよく、行われてもよい。ステップS14aのみではパーティクル保持層の加熱が十分でない場合、
図12および
図13に示したステップS12aおよび/またはS12bによる加熱されたDIWの供給がステップS14aの前に行われてもよい。加熱された除去液の供給により、パーティクル保持層の加熱と除去液の供給とを同時に行うことができる。
【0080】
図15ないし
図17は、パーティクル保持層を形成する段階でパーティクル保持層を加熱する例を示す図である。
図3のステップS11に代えて行われる
図15のステップS11aでは、処理液供給部441により、加熱された処理液が基板9上に供給される。すなわち、水平姿勢の基板9の上面上に変質温度を下回る温度まで加熱された処理液が供給される。これにより、パーティクル保持層の形成と並行して溶媒が揮発し、パーティクル保持層の収縮によるパーティクルの基板9からの分離が促進される。
【0081】
図3のステップS11に代えて行われる
図16のステップS11bでは、基板9の加熱と処理液の供給とが並行して行われる。すなわち、パーティクル保持層の形成とパーティクル保持層の加熱とが同時に行われる。パーティクル保持層が形成されつつ溶媒の揮発および加熱によりパーティクル保持層は収縮する。基板9の変質温度未満の加熱は、例えば、
図2の加熱部46を用いて行われる。加熱は、既述のように基板9の上面や下面にランプからの光を照射したり、基板9の上面に加熱されたプレートを近づけたり、基板9の下面に加熱されたDIWを供給する等の他の手法により行われてもよい。
【0082】
図3のステップS11に代えて行われる
図17のステップS11cおよびS11dでは、基板9の加熱が行われた後、処理液の供給が行われる。換言すれば、処理液の供給の前に変質温度を下回る温度まで基板9が加熱される。ステップS11cにおける基板9の変質温度未満の加熱は、例えば、
図2の加熱部46を用いて行われる。加熱は、
図12や
図13に示すように、加熱されたDIWの供給により行われてもよく、既述のように、基板9の上面や下面にランプからの光を照射したり、基板9の上面に加熱されたプレートを近づける等の他の手法により行われてもよい。なお、処理液の供給前または供給途上に基板9を加熱する工程と、加熱された処理液を基板9に供給する工程の双方が行われてもよい。
【0083】
図15ないし
図17に示すように、パーティクル保持層の形成とほぼ同時にパーティクル保持層の加熱が行われる場合、原則として、ステップS12によるパーティクル保持層の加熱や加熱されたDIWまたは除去液の供給は不要である。しかし、これらの工程は行われてもよい。もちろん、ステップS13にて常温のDIWが基板9の上面に供給されてもよい。
【0084】
図3のステップS12においてパーティクル保持層の加熱を行う構成である加熱部と、
図16のステップS11bおよび
図17のステップS11cにおいてパーティクル保持層の加熱を行う加熱部とは、異なるものであってもよい。例えば、ステップS11bまたはS11cでは加熱プレート461にて基板9が加熱され、ステップS12では加熱されたDIWにより基板9が加熱されてもよい。換言すれば、除去液が基板9に供給される前に基板9を加熱する加熱部と、処理液が基板9に供給される前に、または、供給と並行して基板9を加熱する他の加熱部とは、異なっても同一でもよい。
【0085】
上記基板洗浄システム1および基板洗浄装置4では様々な変形が可能である。
【0086】
処理液供給部441による処理液の供給は、ノズルからの吐出以外の方法により行われてよい。除去液供給部442やリンス液供給部443による除去液やリンス液の供給も、ノズルからの吐出以外の方法により行われてよい。好ましくは、基板9の表面のパターンにダメージを与えにくい手法が採用される。
【0087】
基板9の加熱によるパーティクル保持層の加熱として、さらに他の手法を採用することが可能である。例えば、高温のガスが基板9の上面91や下面92に供給されることにより、基板9が加熱されてもよい。
【0088】
基板9の加熱は専用の他のチャンバ内で行われてもよい。さらには、パーティクル保持層の形成、加熱、パーティクル保持層の除去は、それぞれ異なるチャンバ内で行われてもよい。
【0089】
上記実施の形態では、パーティクル保持層の溶質成分は、変質温度まで加熱されることにより、非水溶性から水溶性に変化するが、除去液に対して不溶性から可溶性に変化するのであれば、様々な溶質成分および除去液が利用されてよい。溶媒も、除去液に対して可溶性であれば、水溶性には限定されない。
【0090】
パーティクル保持層の加熱温度は、変質温度未満であればよく、パーティクル保持層が若干水溶性に変化する温度であってもよい。パーティクル保持層の溶質成分は、除去液に対して完全に不溶性である必要はなく、難溶性であってもよい。
【0091】
処理液に含まれる揮発性を有する溶媒は、好ましくは有機系、すなわち、有機化合物であるが、他の揮発性を有する物質が含まれていてもよい。上記実施の形態では、溶質は、ポリマーであるが、ポリマー以外の有機化合物であってもよい。さらには、有機化合物と他の物質との混合物であってもよいし、有機系以外の化合物であってもよい。
【0092】
除去液はSC-1液には限定されない。除去されたパーティクル保持層の再付着を防止するためには、SC-1液またはアンモニア水溶液が好ましいが、他の除去液が使用されてもよい。
【0093】
基板洗浄装置4における洗浄工程には、上記実施の形態にて示した工程に他の工程が追加されてよい。例えば、各工程に前処理や後処理が追加されてよい。
【0094】
基板洗浄システム1にて洗浄される基板9はSi基板やSiN基板には限定されず、他の半導体基板であってもよい。基板9は半導体基板には限定されず、液晶表示装置用ガラス基板、有機EL表示装置用ガラス基板、プラズマディスプレイ用ガラス基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用ガラス基板、太陽電池用基板等の他の基板であってもよい。
【0095】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0096】
4 基板洗浄装置
9 基板
10 制御部
42 基板保持部
46 加熱部
441 処理液供給部
442 除去液供給部
901 パーティクル保持層
S11~S14,S11a,S11b,S11c,S12a,S12b,S14a ステップ