(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-21
(45)【発行日】2023-03-02
(54)【発明の名称】携行型時計用磁石、特に、ネオジム-鉄-ホウ素磁石、のための耐腐食保護
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20230222BHJP
C23C 8/38 20060101ALI20230222BHJP
C04B 41/80 20060101ALI20230222BHJP
【FI】
H01F41/02 G
C23C8/38
C04B41/80 B
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021164485
(22)【出願日】2021-10-06
【審査請求日】2021-10-06
(32)【優先日】2020-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599044744
【氏名又は名称】コマディール・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドラ・アムヘルド-イダルゴ
(72)【発明者】
【氏名】アレクシ・ブールメ
(72)【発明者】
【氏名】ピエリ・ヴュイユ
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106756859(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106756857(CN,A)
【文献】特開昭61-039507(JP,A)
【文献】国際公開第2020/071446(WO,A1)
【文献】特開平04-254313(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111441017(CN,A)
【文献】特開2005-285793(JP,A)
【文献】特開2014-099988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/80-41/91
C23C 8/00-14/58
G04C 1/00-99/00
H01F 1/00- 1/117
H01F 1/40- 1/42
H01F 7/00- 7/02
H01F 41/00-41/04
H01F 41/08
H01F 41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
携行型時計用磁石を腐食から保護する方法であって、
22~24重量%のネオジム、65~67重量%の鉄、及び0.1~2重量%のホウ素を含有するネオジム-鉄-ホウ素磁石に対して、
表面処理操作を行ってから
、酸素環境において10kV~40kVの電圧で行う酸化させる処理であるイオン注入処理を行って、
不浸透性の
酸化された表面層を作り、
これによって、
前記携行型時計用磁石を製作し、前記携行型時計を使用する通常の条件下で、湿度の高い環境で前記
携行型時計用磁石が腐食することを防ぐ
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記イオン注入処理は、酸素環境において、24kV~26kVの電圧、5mA~7mAのビーム電流、及び20×10
16~30×10
16イオン/cm
2のドーズ量で行う
ことを特徴とする請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
携行型時計用磁石を腐食から保護する方法であって、
22~24重量%のネオジム、65~67重量%の鉄、及び0.1~2重量%のホウ素を含有するネオジム-鉄-ホウ素磁石に対して、
表面処理操作を行ってから
、窒素環境において10kV~40kVの電圧で行う窒化させる処理であるイオン注入処理を行って、
不浸透性の
窒化された表面層を作り、
これによって、
前記携行型時計用磁石を製作し、前記携行型時計を使用する通常の条件下で、湿度の高い環境で前記
携行型時計用磁石が腐食することを防ぐ
ことを特徴とする方法。
【請求項4】
前記
イオン注入処理は、窒素環境において、24kV~26kVの電圧、5mA~7mAのビーム電流及び20×10
16~30×10
16イオン/cm
2のドーズ量で行う
ことを特徴とする請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
前記表面処理操作は、前記
ネオジム-鉄-ホウ素磁石に対して、サンドブラストを行い、その後にアルコールですすぎ、空気で乾燥することによって行う
ことを特徴とする請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記サンドブラストは、200メッシュ~240メッシュの粒径であるアルミナ粒子を用いて、1.4×10
5~1.8×10
5Pa(1.4~1.8バール)の圧力で、流出位置とサンドブラストされる表面の間の距離が13mm~17mmであるように行う
ことを特徴とする請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
1.0mm以下の厚み及び8.0mm以下の最大寸法を有する
ネオジム-鉄-ホウ素磁石に対して
前記表面処理操作を行う
ことを特徴とする請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
0.6mm以下の厚み及び5.0mm以下の最大寸法を有する
ネオジム-鉄-ホウ素磁石に対して
前記表面処理操作を行う
ことを特徴とする請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
貫通穴が形成されており0.2mm~3.0mmである最大寸法を有する
ネオジム-鉄-ホウ素磁石に対して
前記表面処理操作を行う
ことを特徴とする請求項
7又は
8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネオジム-鉄-ホウ素の携行型時計用磁石を腐食から保護する方法に関する。このネオジム-鉄-ホウ素磁石に対して、表面処理操作を行ってからイオン注入処理を行って、酸化に対するバリアとして機能する不浸透性の表面層を作り、これによって、携行型時計を使用する通常の条件下で、湿気の多い環境における磁石の腐食を防ぐ。
【0002】
本発明は、一般用の携行型時計の場合における地球上の表面においてだけでなく、宇宙や水中において用いる特定のユーザー向けの携行型時計において、保証された使用条件下で温度と湿度が非常に大きく変動する可能性があるような、計時器、特に、携行型時計、を腐食から保護する分野に関する。
【背景技術】
【0003】
磁石は腐食しやすく、効果的な保護が難しい。
【0004】
しかし、堆積される層、特に、塗布される層は、低コストであることを必要とし、そして特に、湿度によって発生する腐食に対して良好な耐性があり、磁気的性質を低下させず、そして、ある程度の機械的強度がなければならない。これらの制約は、Al2O3、SiO2、エポキシ、又はニッケルの層を表面に堆積させる既知の手法では、依然として十分に克服できていない。
【0005】
従来技術のフランス特許文献FR2768551は、磁石の磁気的性質を向上させることを可能にする被覆層を備える平坦な磁石について記載している。この文献においては、被覆に添加剤を添加して、機械的性質又は耐食性を改善させている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、イオン注入によって、携行型時計用磁石、特に、NdFeB磁石、上に耐腐食保護層を作ることを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このために、本発明は、請求項1に記載の、耐食性の携行型時計用磁石を作る方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、ネオジム-鉄-ホウ素携行型時計用磁石を腐食から保護する方法に関する。ネオジム-鉄-ホウ素磁石に対して、表面処理操作を行ってからイオン注入処理を行って、注入されたイオンによってすべての表面結合が飽和されるように、酸化に対するバリアとして機能する不浸透性の表面層を作り、これによって、携行型時計を使用する通常の条件下で、湿気の多い環境における磁石の腐食を防ぐ。
【0009】
イオン注入技術は、表面層、特に、酸素又は窒素環境におけるイオン注入処理の場合はそれぞれ酸化物層又は窒化物層、を飽和させることによって、自然酸化に対するバリアを作るように用いられる。
【0010】
この飽和層は、電位差が10kV~40kVであるような、O2、N2の多価イオン又はその他のプラズマを加速することによって作られる。したがって、イオンは(イオンの電荷に応じて)表面上で様々な深さにて高密度化され、最表面において酸化に対するバリアを作り、これによって、注入イオンによってすべての表面結合が飽和される。
【0011】
特に、本発明に係る方法を実装するために、22~24重量%のネオジム、65~67重量%の鉄、及び0.1~2重量%のホウ素を含有するネオジム-鉄-ホウ素磁石を用意して、この磁石に対して、表面処理操作をして、その後にイオン注入処理を行って、不浸透性の酸化又は窒化された表面層を作 り、これによって、携行型時計を使用する通常の条件下で、湿気の多い環境で磁石が腐食することを防ぐ。
【0012】
上記の磁石の組成は、添加剤及び/又は微量の不純物、例えば、酸化物、を含有する。
【0013】
特に、酸素環境において、10kV~40kVの電圧で、酸化性イオン注入処理を行う。
【0014】
特に、酸化性イオン注入処理は、酸素環境において、24kV~26kVの電圧、5mA~7mAのビーム電流、及び20×1016~30×1016イオン/cm2のドーズ量で行う。
【0015】
特に、窒化イオン注入処理は、窒素環境において、10kV~40kVの電圧で行う。
【0016】
特に、窒化イオン注入処理は、窒素環境において、24kV~26kVの電圧、5mA~7mAのビーム電流、20×1016~30×1016イオン/cm2のドーズ量で行う。
【0017】
特に、表面処理操作は、磁石に対して、サンドブラストを行い、その後に、アルコールですすぎ、空気乾燥を行うことによって行う。
【0018】
特に、サンドブラストは、200メッシュ~240メッシュの粒径であるアルミナ粒子を用いて、1.4×105~1.8×105Pa(1.4~1.8バール)の圧力で、流出位置とサンドブラストされる表面の間の距離が13mm~17mmであるように行う。
【0019】
特に、この方法は、1.0mm以下の厚み及び8.0mm以下の最大寸法を有する磁石に対して行う。
【0020】
特に、この方法は、0.6mm以下の厚み及び5.0mm以下の最大寸法を有する磁石に対して行う。
【0021】
特に、この方法は、0.2mm~3.0mmである最大寸法を有する貫通穴が形成された磁石に対して行う。
【0022】
計時器のアプリケーションにおいて、外径の寸法構成が0.9mm~5.0mmのオーダーであり、内径が0.21mm~3.0mmのオーダーである貫通穴が形成され、0.15mm~0.55mmのオーダーの厚みを有する、NdFeBによって作られたトロイダル又は円筒状の磁石に対して、イオン注入処理を行って、不浸透性の酸化層又は窒化層を作り、これによって、湿気の多い環境で磁石が腐食することを防ぐ。
【0023】
この技術で処理された磁石は、加速劣化試験(60℃、相対湿度90%で7日間)の前と後に目視検査された。
【0024】
この方法は、23重量%のネオジム、66重量%の鉄、及び1重量%のホウ素を含有するネオジム-鉄-ホウ素磁石に非常に効果的である。
【0025】
当該処理がされていない同じタイプの磁石を目視検査すると、典型的にはNdFeBの物質である赤い腐食が見られる。しかし、本発明にしたがって酸素環境におけるイオン注入処理が行われる場合、この腐食は発生していない。
【0026】
酸素環境におけるイオン注入処理によって、磁石の表面に酸化バリアが作られる。当該表面は、この酸化物層がない場合と比べて、人工的な受動表面状態の存在によって腐食速度が大幅に遅くなる状態に変わる。
【0027】
イオン注入による窒化によって、磁石の表面に窒素を取り入れることができる。当該窒素は、磁石の表層上に拡散することで鉄と反応する。当該表面に窒化鉄の層が形成され、これは、酸素が部品内部に侵入することを防ぐ。
【0028】
結果を見ると、酸素又は窒素イオンの注入によって提供される保護が、NdFeB材料を腐食から保護することができることを示している(60℃、相対湿度90%で7日間)。本発明に係る方法のこれらの2つの実施形態によって得られる2つの層はそれぞれ、安定した高密度の保護を提供し、このことによって、腐食に対して効果的に保護することができる。
【0029】
このように、本発明には、以下のような相当に大きな利点がある。
- 耐食性が高い。
- 気体の消費が少ししかなく気体の排出がほとんど又はまったくないために、環境に優しい革新的な技術である。
- 処理が材料自体にて行われ、材料の表面を覆わないため、層間剥離のリスクがない。
- 再現性があり、調整が容易である。
- 磁気損失が無視できる程度しかない保護層が作られる。
- 適切な機械的強度がある保護層が作られる。