(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-21
(45)【発行日】2023-03-02
(54)【発明の名称】通信装置、通信システム及び通信方法
(51)【国際特許分類】
H04W 24/02 20090101AFI20230222BHJP
H04W 84/18 20090101ALI20230222BHJP
H04W 84/06 20090101ALI20230222BHJP
【FI】
H04W24/02
H04W84/18
H04W84/06
(21)【出願番号】P 2021538568
(86)(22)【出願日】2019-08-05
(86)【国際出願番号】 JP2019030726
(87)【国際公開番号】W WO2021024353
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2021-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100093104
【氏名又は名称】船津 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】庄司 智也
(72)【発明者】
【氏名】中野 洋史
(72)【発明者】
【氏名】金橋 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】下尾 雄也
【審査官】▲高▼木 裕子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2018-0134222(KR,A)
【文献】特開2008-035473(JP,A)
【文献】特開2008-053998(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0017251(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24 - 7/26
H04W 4/00 - 99/00
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-4
CT WG1、4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線アドホックネットワークを構築して通信を行う通信装置であって、
当該通信装置が回転翼機に搭載されている場合に、自装置の性能及び設置状況に基づいて、予想される回線誤り率を算出する初期診断部と、
前記予想される回線誤り率に基づいて、双方向通信におけるリンク維持時間を調整する調整値を算出するリンク有効時間計算部と、
前記調整値に基づいて制御メッセージ中のリンク維持時間の情報を修正するメッセージ解析・修正部と、
前記修正された制御メッセージを受け取って、送信用又は受信用として処理する無線リンクコントロール部とを備えた通信装置。
【請求項2】
自装置の性能及び設置状況として、搭載される回転翼機の情報を含む請求項1記載の通信装置。
【請求項3】
リンク有効時間計算部が、受信信号の回線品質に応じて、調整値を算出しなおす請求項1又は2記載の通信装置。
【請求項4】
複数の通信装置が無線アドホックネットワークを構築して通信を行う通信システムであって、前記複数の通信装置には、請求項1乃至3のいずれか記載の通信装置を有する通信システム。
【請求項5】
無線アドホックネットワークを構築して通信を行う通信装置における通信方法であって、
初期診断部が、
当該通信装置が回転翼機に搭載されている場合に、自装置の性能及び設置状況に基づいて、予想される回線誤り率を算出し、
リンク有効時間計算部が、前記予想される回線誤り率に基づいて、双方向通信におけるリンク維持時間を調整する調整値を算出し、
メッセージ解析・修正部が、制御メッセージが入力されると、前記調整値に基づいて前記制御メッセージ中のリンク維持時間の情報を修正して出力し、
無線リンクコントロール部が、前記修正された制御メッセージを受け取って、送信用又は受信用として処理する通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アドホックルーティングによる無線通信システムで用いられる通信装置に係り、特に回線誤りが多い設置状況にある通信装置における通信を安定させることができる通信装置、通信システム及び通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[先行技術の説明]
アドホックルーティングは、OLSR(Optimize Link State Routing)プロトコル、AODV(Ad hoc Ondemand Distance Vector)をはじめとするアドホックルーティングプロトコルによる無線通信により、移動端末間で自律的に端末を検知して、経路の最適化を実施し、その場限りの無線ネットワークを構築するものである。
【0003】
OLSRプロトコルはIETF(International Engineering TaskForce)の MANET WG(Mobile Ad hoc NETwork Working Group)で検討されているメッシュ型(綿状リンク型)ルーティングプロトコルの1つである。
OLSRプロトコルはプロアクティブ(Proactive)型のルーティングプロトコルで、事前に制御メッセージを交換することで経路を通信前に確定するため、いつでも直ちに中継を開始することができる。
制御メッセージとしては、HelloメッセージやTC(Topology Control)メッセージがある。
【0004】
[OLSRプロトコルにおける中継動作:
図4]
OLSRプロトコルの基本動作について説明する。
まず、
図4を用いてアドホックネットワークにおける中継のイメージについて説明する。
図4は、アドホックネットワークにおける中継の概念を示す模式説明図である。
図4では、ノードAの通信エリア1と、ノードCの通信エリア2とが一部重なっており、重複するエリアにノードBが滞在している状態を示している。
つまり、通信エリア1にはノードAとノードBが滞在し、通信エリア2にはノードBとノードCが滞在している。
【0005】
この場合、ノードAから送出されたノードC宛のデータは、ノードBによって中継されて、ノードCへ送付される。
このように、アドホックルーティングを用いることで、無線ネットワーク(アドホックネットワーク)内の各移動端末は直接又は間接的に他の移動端末と無線通信を行うことが可能である。
ここで、「ノード」は、無線ネットワークを形成する移動可能な通信装置である。
【0006】
[Helloメッセージによる論理接続:
図5,
図6]
次に、OLSRプロトコルのHelloメッセージによる論理接続について
図5及び
図6を用いて説明する。
図5は、Helloメッセージによる論理接続を示す説明図であり、(a)は論理接続の概念を示し、(b)は論理接続のシーケンス例を示す。
図6は、Helloメッセージのフォーマットを示す説明図である。
Helloメッセージは、各ノードの持つ情報の配信を目的として、定期的に送信されるメッセージであり、各ノードは、このメッセージを受信して、周辺情報の収集と周辺との論理接続(ローカルリンク)、MPR(Multi Point Relay)と呼ばれる中継ノードの決定を行う。
Helloメッセージは
図6に示すようなフォーマットである。
【0007】
図5(a)に示すように、ノードAの通信エリアと、ノードCの通信エリアが重複するエリアにノードBが滞在する場合、Helloメッセージの交換によってノードBをMPR(Multiple Point Relay)として選択し、メッシュリンクを確立することによって、ノードAとノードCとの間の通信が可能となる。
【0008】
図5(b)を用いて論理接続のシーケンスを説明する。尚、ここでは、ノードAとノードBとの間のシーケンスについて説明するが、ノードCとノードBとの間でも同様の処理が行われるものである。
ノードBは、初期の段階では、自分の存在をアピールするために、HelloメッセージのLinkCode(
図15の301)をUNSPEC_LINK(リンク状態不明)にして、隣接ノード(ノードA)へ向けて送信する(201)。
LinkCodeには、リンクの状態を示すLINKTYPEの情報が格納される。
【0009】
図5(b)で、隣接ノード(ノードA)は、ノードBからのHelloメッセージを受信して、この時点で送信元のノードBから自分のノードへのリンクが構築されたと認識する(202)。しかし、双方向のリンクであることがわからないため、次の送信周期にて
図6に示したLink CodeをASYM_LINK(片方向リンク)にしたHelloメッセージを、隣接ノード(ノードB)へ送信する(203)。
【0010】
そして、ノードAからのHelloメッセージを受信したノードBは、ASYM_LINKの対象に自身のノードが含まれていることから、自身が送信したUNSPEC_LINKのHelloメッセージが隣接ノード(ノードA)に受信されたことを認識し、更に、隣接ノード(ノードA)からのHelloメッセージを受信できたことから、ノードAとの間に双方向のリンクが構築されたことを認識する(204)。
ノードBは、同様にノードCとの間に双方向のリンクが構築されたことを認識する(204)。
【0011】
そして、ノードBは、次の送信周期にて、Link CodeをSYM_LINK(双方向リンク)にして、ノードA及びノードCとの間で双方向リンクを構築したことを示すHelloメッセージを、隣接ノード(ノードA)へ送信する(205)。
【0012】
これを受信したノードAは、送信元との間に双方向のリンクが構築できたことと、送信元の先に次隣接ノード(ノードC)がいることを認識する。
そして、ノードAは、次の送信周期にて、双方向のリンクが構築できたノード(ノードB)の次隣接ノード(ノードC)をNEXTHOPとして、Link CodeをSYM_LINK(対称リンク)にしたHelloメッセージを、隣接ノード(ノードB)へ送信する(206)。
【0013】
また、その際に、MPR(中継ノード)として隣接ノードの1つを選択する旨を通知するため、Link CodeをMPRLINKにしたHelloメッセージを、隣接ノード(ノードB)へ送信する。これにより、ノードAは、MPRとしてノードBを選択したことになる。
ノードBとノードCとの間でも同様のHelloメッセージの送受信が行われ、双方向リンクが確立される。
このようにして、Helloメッセージを用いた論理接続が行われる。
【0014】
[TCメッセージのフォーマット:
図7]
TCメッセージは、MPRに選択されたノードのみが送信する制御メッセージであり、ネットワーク全体の構成を通知するために用いられるものである。
TCメッセージのフォーマットについて
図7を用いて説明する。
図7は、TCメッセージのフォーマットを示す説明図である。
図7に示すように、TCメッセージは、メッセージの寿命を表す値が格納されるMsg TTL、近隣広告ノードのアドレスが格納されるAdvertised Neighbor Node等の領域を備えている。
【0015】
[TCメッセージのフラッディング:
図8,
図9]
TCメッセージのフラッディング(ブロードキャスト)について、
図8,
図9を用いて説明する。
図8は、TCメッセージのフラッディングを示す説明図であり、
図9は、TCメッセージのフラッディングの処理シーケンス例を示す説明図である。
図8では、MPRに選ばれたノードEを中心に説明する。
図8に示すように、HelloメッセージによるMPR選定で選ばれたノードEは、自身をMPRとして選んだノード(ここでは、ノードG,D,F,B,C)をAdvertised Neighbor node(近隣広告ノード、
図7参照)として、TCメッセージに含めブロードキャスト送信する(
図9の処理401)。
尚、
図8の点線は、論理接続(メッシュリンク)が確立していることを示し、矢印は、TCメッセージがブロードキャストされる様子を示している。
【0016】
ノードEからのTCメッセージを受信したノードB(MPR)は、受信したTCメッセージのAdvertised Neighbor nodeを取得し、自分自身のネットワークトポロジー情報に追加する。
ここで、ノードBは、自身もMPRであるため、受信したTCメッセージのMsg TTL(
図7参照)を1つ減らして、そのままブロードキャストする(
図9の処理402)。
【0017】
更に、ノードBは、自身をMPRとして選んだノード(ノードA,C,D,E)を近隣広告ノードとするTCメッセージをブロードキャスト送信する(
図9では「以下のリンクを確認」と記載、処理403)。
【0018】
ノードBからのTCメッセージを受信したノードAは、MPRではないため、再ブロードキャストは行わず、受信したTCメッセージから近隣広告ノードの情報を取得して、自分のネットワークトポロジー情報に追加して終了する。
これらの処理は、他のMPR(例えば、ノードF)についても同様に行われる。
【0019】
[TCメッセージによる経路決定:
図10]
次に、経路決定について
図10を用いて説明する。
図10は、TCメッセージから取得したトポロジー情報に基づく経路決定の例を示す説明図であり、(a)はTCメッセージに基づいて構築されたネットワーク構成(トポロジー)を示しており、(b)はノードAからノードGまでの経路を示している。
各ノードは、自身のネットワークトポロジー情報から、各ノードへ到達する最短経路の計算を開始する。
【0020】
図10(a)に示すように、TCメッセージを受信できた各ノードは、共通のネットワークトポロジー情報(トポロジー情報、501)を保持している。
図10(a)の例では、トポロジー情報として、[E←G],[E←D],[E←F],[E←B],[E←C],[B←C],[B←D],[B←A],[B←E],[F←C],[F←E],[F←I],[C←F],[C←A]の各リンク情報が所有されている。
【0021】
各ノードは、このトポロジー情報501に基づいて、他のノードに到達する最短経路を求める。ここでは、ノードAがノードGまでの経路を求める場合を例として説明する。
トポロジー情報501より、目的のノードGとリンク(論理接続)しているのはノードEであるため、ノードAは、まず[E⇔G]の情報を抽出する。
【0022】
次に、ノードAは、ノードEとリンクしているノードの情報を抽出する。ここで、ノードAは、ノードEに到達するためのMPRとして、ノードBを選択しているため、ここでは[B⇔E]の情報が抽出される。
同様に、ノードAは、ノードBに到達するための情報として、[B⇔A]を抽出する。
【0023】
以上のことから、ノードAがノードGに到達するために必要なリンク情報は、[G⇔E⇔B⇔A]となり、
図10(b)に示すように、この情報を元に、ノードAはノードGまでの経路を決定する。
【0024】
このように、OLSRでは、HelloメッセージとTCメッセージの2つの制御メッセージを用いることで、各ノードは、メッシュネットワークに参加している全てのノードと自由に通信ができるようになる。
【0025】
[HNAメッセージによる経路通知:
図11,
図12]
また、OLSRには、HNA(Host and Network Association)メッセージと呼ばれる制御メッセージがある。
HNAメッセージは、ノードがゲートウェイとして機能する場合に使用される補助的なメッセージである。ゲートウェイとなるノードに予め有線ネットワークの情報を設定しておくことで、HNAメッセージを送信することが可能となる。
【0026】
HNAメッセージによる経路通知について
図11,
図12を用いて説明する。
図11は、HNAメッセージによる経路通知の概要を示す説明図であり、(a)はHNAメッセージによる経路通知の様子を示し、(b)は、HNAメッセージによる通知にしたがってインターネット接続する様子を示している。また、
図12は、HNAメッセージのフォーマットを示す説明図である。
HNAメッセージの送信は、TCメッセージと同様のフラッディングが用いられる。すなわち、
図11に示すHNAメッセージは、TCメッセージと同様にMPRによってブロードキャストされ、受信したMPRが再度ブロードキャストを行うことで、無線ネットワーク内の移動端末全てに通知される。
【0027】
図11の例では、ノードGの先にインターネットゲートウェイが接続されている例を示している。
図11(a)に示すように、ノードGは、インターネットゲートウェイのアドレスを予め登録している。
そして、ノードGは、HNAメッセージにより、ノードGの先にインターネットゲートウェイが存在することを通知する。
【0028】
ノードGからのHNAメッセージを受信したノードE(MPR)は、TCメッセージと同様にHNAメッセージをノードB,ノードC,ノードD,ノードFにHNAメッセージをブロードキャストする。
他のMPRのノードも同様にブロードキャストすることにより、無線ネットワーク内の全ての移動端末にゲートウェイの存在を通知できるものである。
これにより、例えば、ノードAは、ノードB,E,Gを経由して、インターネットへの接続を行うことができるものである。
【0029】
[従来の通信装置の構成:
図13]
次に、従来の通信装置の構成及び制御メッセージの中継について
図13を用いて説明する。
図13は、従来の通信装置の構成を示すシステム構成図である。
図13では、有線自律ネットワークと無線自律ネットワーク(アドホックネットワーク等)とを中継する通信装置のシステム構成を示している。
図13に示すように、従来の通信装置では、レイヤー4(L4)であるトランスポート層以上に、アドホックルーティングプロトコルを実現するネットワークモジュール90が配置され、その中に、アドホックルーティング制御部(図では「制御部」と記載)91、制御メッセージ送信部92、制御メッセージ受信部93、制御メッセージ生成部94、ルーティング情報ベース95が配置される。
【0030】
従来の通信装置では、制御メッセージ受信部93にて受信した制御メッセージをアドホックルーティング制御部91にて解析し、ルーティング情報ベース95に保存する。
その後、アドホックルーティング制御部91は、事前に設定されていた制御メッセージ送信間隔に従い、ルーティング情報ベース95から情報を抽出して制御メッセージ生成部94に渡す。制御メッセージ生成部94にて生成された制御メッセージは、制御メッセージ送信部92に渡されて、下位のレイヤーに送信される。
【0031】
また、アドホックルーティング制御部91は、ルーティング情報ベース95に保存されている情報に基づいて、レイヤー3(L3)であるネットワーク層に配置されたルーティングテーブル96に通信経路を登録する。
経路を登録する際には、宛先IPアドレス、ネットワーク識別フラグ(ネットマスク)、中継ノード(ゲートウェイ)のIPアドレス、経路の尺度(メトリック)、出力インタフェース(Ethernet(登録商標) PHY又はWireless Network PHY)などの情報が必要となる。
【0032】
設定された経路は出力インタフェースの選定に使用される。
有線自律ネットワーク97からのIPパケット971の入力があった場合、通信装置は、自身のルーティングテーブルに96に登録されている通信経路を確認する。その後、IPパケット971の宛先IPアドレスと自身のルーティングテーブル96に登録されている通信経路に合致したものがあれば、登録時に設定した出力インタフェースに対してIPパケット971を出力する。
【0033】
また、ルーティングテーブル96は、無線インタフェース98側からのIPパケット981に対しても同様に作用する。
その際、ルーティングテーブル96に登録されている経路の出力先は、有線自律ネットワークインタフェース97にも、また無線インタフェース98にもなりうる。
また、通信装置は、入力データに合致した経路の情報を一時的な記憶領域(ルーティングテーブルキャッシュ)に保管する機能を備えている。
【0034】
[回転翼を備えた移動体に搭載されている場合]
ところで、通信装置が、回転翼(ローター)を備えたヘリコプターやドローン等に搭載されている場合、通信相手との位置関係等によっては、無線信号がローターの回転によって遮断され、無線回線の通信誤りが発生し、リンクが不安定になることがある。
これにより、上述したようなアドホックルーティングプロトコルでネットワークを構築する際に、支障をきたす恐れがある。
【0035】
また、艦艇等に搭載された通信装置(通信装置#11とする)がヘリコプター等に搭載された通信装置(通信装置#12とする)とのリンクを安定させるためには、通信を行う装置間(通信装置#11と通信装置#12)において、Helloメッセージの送信頻度(送信間隔)やリンク維持時間を調整する必要があるが、通信装置#11が通信装置#12との通信に合わせて調整を行ってしまうと、他の艦艇等に搭載された別の通信装置との通信にも影響を与えることになる。
例えば、リンク維持時間を長くし、送信間隔を大きくする等の調整を行うと、システム全体としてトラフィックの増大やコンバージェンスの低下につながってしまう。
【0036】
[関連技術]
尚、無線通信ネットワークに関する関連技術としては、特許第6505868号公報「通信装置及び通信方法」(特許文献1)がある。
【0037】
特許文献1には、ネットワーク内の全ての通信端末でQoS情報を共有して、ネットワークを構成する通信装置に有線接続する端末までを含めた伝送路全体でQoS制御を実施することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0038】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0039】
しかしながら、上記従来のアドホックルーティングプロトコルを用いて送受信を行う通信装置及び通信システムでは、通信装置が回転翼を備えた移動体に搭載されている場合に、回転翼の動作によって無線信号が遮断されて、リンクが不安定になることがあるという問題点があった。
【0040】
また、回転翼を備えた移動体に搭載された通信装置との通信に合わせて、送信間隔やリンク維持時間を変更すると、他の通信装置との通信にも影響が出てしまい、好ましくないという問題点があった。
【0041】
尚、特許文献1には、制御メッセージを修正して、リンク維持時間を調整することについては記載されていない。
【0042】
本発明は上記実状に鑑みて為されたもので、他の装置との通信に影響を与えることなく、回転翼を備えた移動体に搭載された通信装置の通信リンクを安定させることができる通信装置、通信システム及び通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0043】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、無線アドホックネットワークを構築して通信を行う通信装置であって、当該通信装置が回転翼機に搭載されている場合に、自装置の性能及び設置状況に基づいて、予想される回線誤り率を算出する初期診断部と、予想される回線誤り率に基づいて、双方向通信におけるリンク維持時間を調整する調整値を算出するリンク有効時間計算部と、調整値に基づいて制御メッセージ中のリンク維持時間の情報を修正するメッセージ解析・修正部と、修正された制御メッセージを受け取って、送信用又は受信用として処理する無線リンクコントロール部とを備えたものである。
【0044】
また、本発明は、上記通信装置において、自装置の性能及び設置状況として、搭載される回転翼機の情報を含むものである。
【0045】
また、本発明は、上記通信装置において、リンク有効時間計算部が、受信信号の回線品質に応じて、調整値を算出しなおす。
【0046】
また、本発明は、複数の通信装置が無線アドホックネットワークを構築して通信を行う通信システムであって、当該複数の通信装置には、上記のいずれか記載の通信装置を有するものである。
【0047】
また、本発明は、無線アドホックネットワークを構築して通信を行う通信装置における通信方法であって、初期診断部が、当該通信装置が回転翼機に搭載されている場合に、自装置の性能及び設置状況に基づいて、予想される回線誤り率を算出し、リンク有効時間計算部が、予想される回線誤り率に基づいて、双方向通信におけるリンク維持時間を調整する調整値を算出し、メッセージ解析・修正部が、制御メッセージが入力されると、調整値に基づいて制御メッセージ中のリンク維持時間の情報を修正して出力し、無線リンクコントロール部が、修正された制御メッセージを受け取って、送信用又は受信用として処理するものである。
【発明の効果】
【0048】
本発明によれば、無線アドホックネットワークを構築して通信を行う通信装置であって、当該通信装置が回転翼機に搭載されている場合に、自装置の性能及び設置状況に基づいて、予想される回線誤り率を算出する初期診断部と、予想される回線誤り率に基づいて、双方向通信におけるリンク維持時間を調整する調整値を算出するリンク有効時間計算部と、調整値に基づいて制御メッセージ中のリンク維持時間の情報を修正するメッセージ解析・修正部と、修正された制御メッセージを受け取って、送信用又は受信用として処理する無線リンクコントロール部とを備えた通信装置としているので、回転翼機に搭載された場合など、回線誤りが発生しやすい場合に、自己解析によってValidTimeを長くするよう調整する処理を行って、アドホックルーティングプロトコルに変更を加えることなくリンク維持時間を長くして、リンクを安定して構築することができると共に、ネットワークの他の通信装置への影響を抑えることができる効果がある。
【0049】
また、本発明によれば、自装置の性能及び設置状況として、搭載される回転翼機の情報を含む上記通信装置としているので、搭載される回転翼機の仕様に応じて、適切な調整を行って、リンクを安定させることができる効果がある。
【0050】
また、本発明によれば、リンク有効時間計算部が、受信信号の回線品質に応じて、調整値を算出しなおす上記通信装置としているので、回線品質の状態に応じて、リンク維持時間をきめ細かく調整することができる効果がある。
【0051】
また、本発明によれば、無線アドホックネットワークを構築して通信を行う通信装置における通信方法であって、初期診断部が、当該通信装置が回転翼機に搭載されている場合に、自装置の性能及び設置状況に基づいて、予想される回線誤り率を算出し、リンク有効時間計算部が、予想される回線誤り率に基づいて、双方向通信におけるリンク維持時間を調整する調整値を算出し、メッセージ解析・修正部が、制御メッセージが入力されると、調整値に基づいて制御メッセージ中のリンク維持時間の情報を修正して出力し、無線リンクコントロール部が、修正された制御メッセージを受け取って、送信用又は受信用として処理する通信方法としているので、回転翼機に搭載された場合など、回線誤りが発生しやすい場合に、自己解析によってValidTimeを長くするよう調整する処理を行って、アドホックルーティングプロトコルに変更を加えることなくリンク維持時間を長くして、リンクを安定して構築することができると共に、ネットワークの他の通信装置への影響を抑えることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る通信装置のシステム構成図である。
【
図2】
図2は、本通信システムの概略を示す説明図である。
【
図3】
図3は、本通信装置の動作シーケンスを示すシーケンス図である。
【
図4】アドホックネットワークにおける中継の概念を示す模式説明図である。
【
図5】Helloメッセージによる論理接続を示す説明図である。
【
図6】Helloメッセージのフォーマットを示す説明図である。
【
図7】TCメッセージのフォーマットを示す説明図である。
【
図8】TCメッセージのフラッディングを示す説明図であり、
【
図9】TCメッセージから取得したトポロジー情報に基づく経路決定の例を示す説明図である。
【
図10】HNAメッセージによる経路通知の概要を示す説明図である。
【
図11】HNAメッセージのフォーマットを示す説明図である。
【
図12】従来の通信装置の構成を示すシステム構成図である。
【
図13】従来のネットワークにおける通信の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
[実施の形態の概要]
本発明の実施の形態に係る通信装置(本通信装置)は、初期診断部が、運用前の初期診断として、自装置の性能を含む情報や設置状況を診断し、その結果に基づいて回線誤りの値を計算し、データリンク層において、回線誤りの値に基づいてリンク維持時間を調整する調整値を算出し、受信した制御メッセージについて、ValidTime(有効期間)を、格納されている値に調整値を加算して更新、又は格納されている値に調整値を乗算して更新して、アドホックルーティングプロトコルに出力するようにしており、回転翼機に搭載され、回線誤りが発生しやすい通信装置が、自己解析によってValidTimeを調整する処理を行うので、アドホックルーティングプロトコルに変更を加えることなくリンク維持時間を長くして、リンクを安定して構築することができると共に、ネットワークの他の通信装置への影響を抑えることができるものである。
【0054】
また、本通信装置によれば、アドホックルーティングプロトコルから出力された送信すべき制御メッセージについて、ValidTimeを、元の値に調整値を加算して更新、又は元の値に調整値を乗算して更新して、無線送信するようにしており、変更されたリンク維持時間を通信相手にも通知することができ、リンクを安定させることができるものである。
【0055】
また、本発明の実施の形態に係る通信システム(本通信システム)は、本通信装置を備えた通信システムであり、本発明の実施の形態に係る通信方法(本通信方法)は、本通信装置における通信方法である。
【0056】
[実施の形態に係る通信装置の構成:
図1]
本発明の実施の形態に係る通信装置(本通信装置)の構成について
図1を用いて説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る通信装置のシステム構成図である。
図1に示すように、本通信装置は、基本的な構成は
図13に示した従来の通信装置とほぼ同様であるが、リンク維持時間を調整するための構成部分が新たに追加されているものである。
尚、以下では、アドホックルーティングプロトコルをOLSRとして仮定して記載する。
【0057】
本通信装置は、従来と同様の構成部分として、レイヤー4(L4)層以上に、アドホックルーティングプロトコルを実現するネットワークモジュール10が配置され、その中に、アドホックルーティング制御部(以下、制御部とする)11、制御メッセージ送信部12、制御メッセージ受信部13、制御メッセージ生成部14、ルーティング情報ベース15が設けられている。
【0058】
そして、レイヤー4(L4)層以上に、ネットワークモジュール10とは別に、本通信装置の特徴部分である初期診断部19が設けられ、初期診断部19には、設置情報機器識別情報ベース190が設けられている。
【0059】
また、L3層(ネットワーク層)には、通信経路の情報を記憶するルーティングテーブル20が設けられ、ルーティングテーブル20には、有線インタフェース27及び無線インタフェース28が接続されている。
【0060】
そして、本通信装置の特徴として、L2層(MAC層)に、リンク有効時間計算部16と、メッセージ解析・修正部17と、無線リンクコントロール部18とが設けられている。
このように、本通信装置では、データリンク層にリンク維持時間の調整を行うための処理部を設けたことにより、ネットワークモジュール10への変更を不要とし、ネットワーク全体への影響を抑えつつ、回転翼によるリンク不安定を解消することができるものとしている。
【0061】
[本通信装置の各部]
本通信装置の特徴部分について説明する。
[初期診断部19、設置情報機器識別情報ベース190]
初期診断部19は、設置情報機器識別情報ベース190に記憶されている情報に基づいて、自装置について初期診断及び状態監視を行って、予想される回線誤りの情報を算出するものである。
【0062】
例えば、設置情報機器識別情報ベース190には、個々の通信機器の識別番号、型番、機器の性能等、通信装置そのものに関する情報と、設置されている移動体の情報とが記憶されている。
移動体の情報としては、ヘリコプター、ドローン、艦船等があり、本通信装置では、特にヘリコプターやドローンといった回転翼(ローター)を持つ移動体(回転翼機)について、通信に影響を与える要因となる情報が記憶されている。
【0063】
具体的には、設置情報機器識別情報ベース190では、当該通信装置が搭載されている移動体が回転翼機であるかどうかの情報、回転翼機であればその種類を示す情報、更に、種々の回転翼機について、そのローターの幅や回転速度等を記憶している。
【0064】
そして、初期診断部19は、通信装置自体の性能と、当該通信装置が搭載されている移動体の情報とに基づいて、当該通信装置が回転翼機に搭載されている場合に、予想される回線誤り率(予想回線誤り率)を算出する。予想回線誤り率は、例えばビット誤り率(Bit Error Rate:BER)等で表される。
本通信装置では、算出された予想回線誤り率を用いて、リンク維持時間の調整が行われるものである。
更に、初期診断部19は、受信信号強度に対応して、良好な通信が可能となる回線品質目標を記憶している。
【0065】
また、初期診断部19は、運用中には、実際の受信信号に基づく回線誤り率(通信誤り率、フレーム誤り率、BER)と、調整されたリンク維持時間(又は後述する調整値)とを監視して、記憶している。
【0066】
[リンク有効時間計算部16]
リンク有効時間計算部16は、運用開始前に、初期診断部19から入力された予想回線誤り率に基づいて、リンク維持時間の調整値を算出する。
本通信装置では、リンク維持時間の調整を、制御メッセージに含まれるValidTimeの値を修正することで実現している。
【0067】
そして、具体的には、本通信装置では、ValidTimeの値に特定の調整値を加算して修正したり、又は、ValidTimeの値に特定の調整値を乗算して修正することにより、ValidTimeの値を大きくして、リンク維持時間を長くするようにしている。
【0068】
例えば、リンク有効時間計算部16には、予め、加算によって調整するのか、乗算によって調整するのかを示す調整方法が設定されており、当該調整方法及び計算された予想回線誤り率に基づいて調整値を算出する。
具体的には、リンク有効時間計算部16は、計算されたよそう回線誤り率と、加算か乗算かの調整方法、及び送信間隔に対応して調整値の算出を行う。
更に、リンク有効時間計算部16には、回線状態が良好な場合の調整値(デフォルト値)として、加算の場合には「0」が、乗算の場合には「1」が記憶されている。
【0069】
また、リンク有効時間計算部16は、運用開始後には、実際の受信信号から求めた受信レベル及び通信誤り率に応じて、適宜調整値の見直しを行う。
【0070】
[メッセージ解析・修正部17]
メッセージ解析・修正部17は、入力された制御メッセージのValidTimeの値を、リンク有効時間計算部16からの調整値に基づいて、修正する。
メッセージ解析・修正部17にも調整方法が設定されており、制御メッセージのValidTimeの値に調整値を加算又は乗算して修正する。
【0071】
[無線リンクコントロール部18]
無線リンクコントロール部18は、制御メッセージを修正させて、書き替え後の制御メッセージを、送信用、受信用として処理するものである。
具体的には、無線リンクコントロール部18は、送受信される制御メッセージについて、ValidTimeの値を書き替えるために、メッセージ解析・修正部17に出力し、メッセージ解析・修正部17から修正済みの制御メッセージを受け取って、受信メッセージであればネットワークモジュール10の制御メッセージ受信部13に出力し、送信メッセージであれば、Wireless MACに出力するものである。尚、送信用の制御メッセージは、ネットワークモジュール10の制御メッセージ送信部12から出力される。
【0072】
つまり、本通信装置では、制御メッセージのValidTimeの書き換えをL2層で行うことにより、ネットワークモジュール10への変更を行うことなく、回転翼機に設置された通信装置におけるリンク維持時間を長くして、安定した無線ネットワークの構築を実現できるものである。
【0073】
尚、無線リンクコントロール部18は、例えば、初期診断部19からの指示によって、ValidTimeの修正が必要な場合(回転翼機に搭載されている場合)にのみメッセージ解析・修正部17に制御メッセージを出力し、修正が不要な場合には、ネットワークモジュール10又はWireless MACにそのまま出力する。
修正が不要な場合とは、通信装置が回転翼機に搭載されていない場合や、初期診断において十分良好な回線品質が得られると判断された場合である。
【0074】
あるいは、無線リンクコントロール部18は、制御メッセージについては常にメッセージ解析・修正部17に出力し、メッセージ解析・修正部17は常に入力された制御メッセージのValidTimeを更新する動作を行うものとし、リンク有効時間計算部16の調整値を、デフォルト値とするかリンク維持時間を長くする値とするか、によって制御する構成としてもよい。
【0075】
[本通信システムの概略:
図2]
次に、本通信システムの概略について
図2を用いて説明する。
図2は、本通信システムの概略を示す説明図であり、(a)はトポロジー構成例、(b)はシーケンス概略を示している。
図2(a)に示すように、本通信システムのネットワークトポロジーとしては、通信装置#1、通信装置#2、通信装置#3が、通信装置#1を中央として並んで配列されている。
図2(a)において、実線は制御メッセージのやり取りを示し、点線はアドホックリンクを示している。
そして、通信装置#1が本通信装置である場合を例として説明する。
【0076】
図2(b)に示すように、通信装置#1は、まず、運用前に自装置の機器情報や設置状況の情報を設置情報機器識別情報ベース190から取得して、初期診断を行う(S1)。
具体的には、自装置が回転翼機に搭載されているか否か、回転翼機に搭載されている場合には、ローターの幅や回転速度の情報を取得して、予想される回線誤り率を算出する。
そして、通信装置#1は、算出された回線誤り率に基づいて、リンク維持時間の調整値を算出しておく(S2)。調整値は、通常、リンク維持時間を長くするよう調整する値である。また、ここで、良好な通信を実現する回線品質目標を設定しておく。
【0077】
そして、通信装置#1は、通信装置#2からHelloメッセージを受信する(S3)と、
図6に示したメッセージフォーマット中のValidTimeについて、格納されている値に調整値を加算して修正、更新し、リンク維持時間を調整する(S4)。又は、通信装置#1は、ValidTimeに格納されている値に調整値を乗算して修正する。
【0078】
また、通信装置#1は、通信装置#3からHelloメッセージを受信する(S5)と、同様にValidTimeの値に調整値を加算したり、乗算したりして修正、更新する(S6)。
これにより、回転翼等による通信障害が発生したとしても、自装置のネットワークモジュール10内では、修正されたValidTimeの値に基づいて処理を行うため、制御メッセージを無効とせずにリンクを維持することができるものである。
【0079】
そして、通信装置#2、通信装置#3に対して、Helloメッセージを送信する際には、メッセージ中のValidTimeについて、格納されている値に調整値を加算、又は乗算して修正、更新し、リンク維持時間を調整し(S7)、通信装置#2、通信装置#3にHelloメッセージを送信する(S8,S9)。
これにより、相手先の通信装置においても、長くなったValidTimeの値に基づいて処理が行われ、リンクを維持することができ、安定した双方向リンクを実現できるものである。
【0080】
特に、本通信システムでは、ValidTimeの値の修正を、本通信装置である通信装置#1のみで行って、相手先の通信装置#2、#3については特別な処理を行わずにリンク維持時間を長くすることができるものである。そのため、通信装置#2、#3が別の通信装置と行う通信に影響を与えることはなく、ネットワーク全体のトラフィックが増大するといった問題は発生しない。
【0081】
そして、処理S8で通信装置#2に送信したHelloメッセージに対して、通信装置#2から応答のHelloメッセージを受信する(S10)。処理S10で受信したHelloメッセージについても、処理S4と同様に通信装置#1でValidTimeの修正を行う。
同様に、処理S9で送信したHelloメッセージに対して、通信装置#3から応答のHelloメッセージを受信する(S11)。処理S11で受信した応答メッセージ内のValidTimeの値も、処理S6と同様に通信装置#1で修正を行う。
【0082】
その後、通信装置#1は、通信装置#2、#3とそれぞれ通信を行いつつ、定期的に受信信号のパケット誤り率等の回線品質を示す情報を算出して、回線状態を監視する(S12)。
そして、回線品質がS2で設定された回線品質目標を満たし、良好であると判断された場合には、当該通信相手との制御メッセージのValidTimeの値を修正しないようにする。
このようにして、本通信システムの動作が行われる。
【0083】
[本通信装置の動作シーケンス:
図3]
次に、本通信装置の動作シーケンスについて
図3を用いて説明する。
図3は、本通信装置の動作シーケンスを示すシーケンス図である。
図3に示すように、まず、初期診断部19が、機器の情報や設置状況に基づいて予想通信誤り率を算出し、自己診断結果としてリンク有効時間計算部16に通知する(S21)。
更に、初期診断部19は、予め設定されている受信レベル(RSSI:Received Signal Strength Indicator;受信信号強度)に対する回線品質目標をリンク有効時間計算部16に通知する(S22)。
【0084】
リンク有効時間計算部16は、初期診断部19から通知された予想受信誤り率に基づいて維持時間の調整値を算出して、メッセージ解析・修正部17に通知する(S23)。
一方、Wirelesss MACは、L1層からMACフレームを受信すると(S24)、MACフレーム(U-Plane)を取り出して、無線リンクコントロール部18に出力する(S25)。
尚、Wireless MACは、メッセージ受信時に受信レベルを取得し、通信誤り率を算出する。
【0085】
無線リンクコントロール部18は、入力された制御メッセージ(アドホックルーティングメッセージ)をメッセージ解析・修正部17に出力する(S26)。
メッセージ解析・修正部18は、入力された制御メッセージのValidTimeを、処理S23で通知された調整値を用いて、現在の格納値に加算したり、現在の格納値を積算して修正して、修正済みの制御メッセージを無線リンクコントロール部18に返却する(S27)。
【0086】
無線リンクコントロール部18は、修正済みの制御メッセージを、アドホックルーティングプロトコルへ通知する。
これにより、自装置のアドホックルーティングプロトコルに特別な変更を加えることなく、リンク維持時間を長くすることができ、回転翼による障害で通信が途絶えるのを防ぐことができるものである。
【0087】
そして、送受信の運用中には、リンク有効時間計算部16は、メッセージ解析・修正部17及び無線リンクコントロール部18を介して、Wireless MACに受信レベルとフレーム誤り率(回線誤り率、通信誤り率)を要求する(S29)。
【0088】
リンク有効時間計算部16は、Wireless MACから受信レベル及びフレーム誤り率を取得すると(S30)、取得したフレーム誤り率と処理S23の調整値によって調整された維持時間の修正結果を初期診断部19に通知する(S31)。
初期診断部19は、例えば、時系列にフレーム誤り率と調整された維持時間とを記憶しておき、システムやユーザに通知するようにしてもよい。
【0089】
また、リンク有効時間計算部16は、Wireless MACから取得した受信レベル及び受信誤り率を、処理S22で通知された回線品質目標と比較して、調整値を見直し、メッセージ解析・修正部17に通知する(S32)。
【0090】
具体的には、受信誤り率の値が回線品質目標の値より小さく、回線状態が良好であれば、リンク有効時間計算部16は、調整値をデフォルト値に戻す。
また、リンク有効時間計算部16は、取得した回線状態が良好でない場合には、取得した受信誤り率に基づいて調整値を算出しなおす。
尚、処理S29~処理S32は、運用中のデータパケットの受信に伴う処理であり、例えば、定期的に行われる。
【0091】
そして、無線リンクコントロール部18は、アドホックルーティングプロトコルから制御メッセージが入力されると(S33)、メッセージ解析・修正部17にメッセージを一旦出力し(S34)、メッセージ解析・修正部17が制御メッセージ中のValidTimeを、処理S32で通知された調整値を用いて修正し、修正済みの制御メッセージを無線リンクコントロール部18に返却する(S35)。
【0092】
無線リンクコントロール部18は、Wireless MACにMACフレーム(U-Plane)を送信し(S36)、Wireless MACは、MACフレームを生成して、L1層に出力する。
このようにして、本通信装置における動作が行われるものである。
【0093】
[実施の形態の効果]
本通信装置によれば、初期診断部19が、運用前の初期診断として、自装置の性能を含む情報や設置状況を診断し、その結果に基づいて予想回線誤り率を計算し、リンク有効時間計算部16が、当該予想回線誤り率に基づいてリンク維持時間を調整する調整値を算出し、無線リンクコントロール部18が、受信した制御メッセージを一旦メッセージ解析・修正部17に出力して、メッセージ解析・修正部17が、リンク有効時間計算部16からの調整値に基づいてValidTimeを調整して修正して、無線リンクコントロール部18が、修正済みの制御メッセージを受け取ってアドホックルーティングプロトコルに出力するようにしているので、回転翼機に搭載され、回線誤りが発生しやすい通信装置が、自己解析によってValidTimeを長くするよう調整する処理を行うことで、アドホックルーティングプロトコルに変更を加えることなくリンク維持時間を長くして、リンクを安定して構築することができると共に、ネットワークの他の通信装置への影響を抑えることができる効果がある。
【0094】
また、本通信装置によれば、無線リンクコントロール部18が、アドホックルーティングプロトコルから出力された送信すべき制御メッセージが入力されると、メッセージ解析・修正部17に出力して、メッセージ解析・修正部17が、リンク有効時間計算部16からの調整値に基づいてValidTimeを調整して修正して、無線リンクコントロール部18が、修正済みの制御メッセージを受け取ってWireless MACに出力するようにしているので、変更されたリンク維持時間を通信相手にも通知することができ、リンクを安定させることができる効果がある。
【0095】
また、本通信装置によれば、処理診断部14が、回転翼機に搭載されていることを示す情報、ローターの幅、回転速度等の情報に基づいて予想回線誤り率を算出し、リンク有効時間計算部16が、予想回線誤り率に基づいて調整値を算出しているので、事前に取得できる情報のみに基づいて運用開始時のリンク維持時間を長くすることができ、回転翼機に搭載された通信装置のリンクを安定させることができる効果がある。
【0096】
また、本通信装置によれば、メッセージ解析・修正部17が、制御メッセージのValidTimeに格納された値に調整値を加算したり、ValidTimeに格納された値に調整値を乗算することによってリンク維持時間を調整するようにしており、状況に応じて適宜調整方法を選択することができ、きめ細かい調整が可能となる効果がある。
【0097】
更に、本通信装置によれば、リンク有効時間計算部16が、運用開始後にも例えば定期的に回線誤り率を取得して、回線状態が良好になった場合には調整値をデフォルト値に戻したり、回線状態がより悪化した場合には、取得した回線誤り率に基づいて調整値を算出しなおすようにしており、状態に応じてきめ細かい制御を行うことができる効果がある。
【0098】
また、本通信装置では、初期診断部19が予想回線誤り率を算出して、リンク有効時間計算部16が当該予想回線誤り率に応じて調整値を算出するようにしたが、予想回線誤り率を算出せず、回線誤りに影響を与える種々の要因(ローターの幅や回転速度等)の値に応じて、それぞれ重み付け係数を設定しておき、通信装置が搭載された回転翼機によって特定される要因について、デフォルトの調整値に重み付け係数を乗じる、といった方法で調整値を算出してもよい。
【0099】
例えば、ローターカットによる通信誤り率が2.0×10-3であれば、ValidTimeを9倍にする、といった調整を行う。
【0100】
更に、上述した例では、回転翼機に搭載された本通信装置がリンク維持時間の調整を行う場合について記載したが、制御メッセージ中に、搭載されている移動体の情報や回線誤りに影響を与える種々の要因の情報を含んで送受信する構成とすれば、通信相手側の装置においてリンク維持時間を調整することも可能である。
つまり、通信を行う2つの通信装置の内、1つが本通信装置であれば、安定したリンクを形成することが可能となるものである。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、アドホックルーティングによる無線通信システムで用いられ、他の装置との通信に影響を与えることなく、回転翼を備えた移動体に搭載された通信装置の通信リンクを安定させることができる通信装置、通信システム及び通信方法に適している。
【符号の説明】
【0102】
10,90…ネットワークモジュール、 11,91…制御部、 12,92…制御メッセージ送信部、 13,93…制御メッセージ受信部、 14…制御メッセージ生成部、 15,95…ルーティング情報ベース、 16…リンク有効時間計算部、 17…メッセージ解析・修正部、 18…無線リンクコントロール部、 19…初期診断部、 20,96…ルーティングテーブル、 27,98…有線インタフェース、 28,98…無線インタフェース、 190…設置情報機器識別情報ベース