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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-21
(45)【発行日】2023-03-02
(54)【発明の名称】再充電可能なバッテリーセル
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/056 20100101AFI20230222BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230222BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20230222BHJP
   H01M 4/40 20060101ALI20230222BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20230222BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20230222BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20230222BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20230222BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20230222BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230222BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230222BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20230222BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20230222BHJP
   H01M 4/64 20060101ALI20230222BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230222BHJP
   H01M 4/70 20060101ALI20230222BHJP
   H01M 4/74 20060101ALI20230222BHJP
   H01M 4/80 20060101ALI20230222BHJP
【FI】
H01M10/056
H01M10/052
H01M10/054
H01M4/40
H01M4/38 Z
H01M4/131
H01M4/485
H01M4/587
H01M4/133
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/58
H01M4/136
H01M4/64 A
H01M4/62 Z
H01M4/70 A
H01M4/74 C
H01M4/80 C
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2021566341
(86)(22)【出願日】2020-07-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-02
(86)【国際出願番号】 EP2020071579
(87)【国際公開番号】W WO2021019047
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-01-31
(31)【優先権主張番号】19189435.1
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521380247
【氏名又は名称】インノリス・テクノロジー・アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】INNOLITH TECHNOLOGY AG
【住所又は居所原語表記】HIRZBODENWEG 95, 4052 BASEL, SWITZERLAND
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ツィンク,ローラン
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルファルト,クラウディア
(72)【発明者】
【氏名】ビオラッツ,ハイデ
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-049159(JP,A)
【文献】特開2000-243437(JP,A)
【文献】特開2001-143750(JP,A)
【文献】特開2015-076401(JP,A)
【文献】Chul Wan Park, Seung M. Oh,Performances of Li/LixCoO2 cells in LiAlCl4・3SO2 electrolyte,Journal of Power Sources,英国,ELESVIER,1997年10月01日,vol. 68, no. 2,338-343
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/052、10/054、10/0567-10/0569
H01M4/00-4/62、4/64、4/70、4/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性金属と、放電素子(26)を有する少なくとも1つの正電極(4,23,44)と、放電素子(27)を有する少なくとも1つの負電極(5,22,45)と、ハウジング(1,28)と、電解質とを備える再充電可能なバッテリーセル(2,20,40)であって、
前記負電極(5,22,45)が、少なくとも前記再充電可能なバッテリーセルの充電状態において活物質として金属リチウムを有しており、
前記電解質が、SOをベースとし、式(I)を有する少なくとも1つの第1導電性塩を含む、再充電可能なバッテリーセル(2,20,40)。
【化1】
(式中、
-Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、元素周期表第12族の金属およびアルミニウムからなる群から選択される金属であり、
-xは、1から3の整数であり、
-置換基R,R,RおよびRは、C~C アルキルからなる群から、互いに独立して選択され、かつ、前記置換基R ,R ,R およびR のうちの少なくとも1つが、少なくとも1つのフッ素原子によって置換されており;そして
-Zは、アルミニウムまたはホウ素である。)
【請求項2】
前記金属リチウムが、前記再充電可能なバッテリーセルの充電時に前記負電極(5,22,45)の前記放電素子(27)上に堆積可能である、請求項1に記載の再充電可能なバッテリーセル(2,20,40)。
【請求項3】
前記金属リチウムが、前記再充電可能なバッテリーセルの充電状態において、前記負電極(5、22、45)の前記放電素子(27)上に位置している、請求項1または2に記載の再充電可能なバッテリーセル(2,20,40)。
【請求項4】
前記金属リチウムが、前記再充電可能なバッテリーセルの第1の充電が行われる前に、前記負電極(5、22、45)の放電素子(27)上に既に配置されている、請求項1~3の何れか1項に記載の再充電可能なバッテリーセル(2,20,40)。
【請求項5】
前記負電極(5、22、45)の前記放電素子(27)が、
-金属板または金属箔の形態において、平面的に、または
-多孔質金属構造の形態で三次元的
計されている、請求項1~4の何れか1項に記載の再充電可能なバッテリーセル(2,20,40)。
【請求項6】
前記負電極(5、22、45)の前記放電素子(27)が、
-炭素、
-リチウムと合金を形成する物質、
-炭素を含まないリチウムインターカレーション物質、および
-変換物
からなる群から選択されるリチウム貯蔵物質から、少なくとも部分的に形成される、請求項1~5の何れか1項に記載の再充電可能なバッテリーセル(2,20,40)。
【請求項7】
リチウムと活性な合金を形成する前記物質が、
-リチウム貯蔵金属および金属合金からなる群から、または
-リチウム貯蔵金属および金属合金の酸化物からなる群から
選択される、請求項6に記載の再充電可能なバッテリーセル(2,20,40)。
【請求項8】
前記正電極(4,23,44)が活物質として少なくとも1つの化合物を含有し、前記化合物がLM’M”の組成を有し、式中、
-M’は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnからなる群から選択される少なくとも1つの金属であり、
-M”は、元素周期表の第2族、第3族、第4族、第5族、第6族、第7族、第8族、第9族、第10族、第11族、第12族、第13族、第14族、第15族および第16族の元素からなる群から選択される少なくとも1つの元素であり、
-xおよびyは、互いに独立して、0より大きい数であり、
-zは、0以上の数であり、そして
-aは、0より大きい数である、請求項1~7の何れか1項に記載の再充電可能なバッテリーセル(2,20,40)。
【請求項9】
前記化合物が、LiM’M”の組成を有し、式中、M’はマンガンであり、M”はコバルトである、請求項8に記載の再充電可能なバッテリーセル(2,20,40)。
【請求項10】
前記化合物が、LiM’M”の組成を有し、M’がニッケルおよびマンガンを含み、M”がコバルトであり、LiNiy1Mny2Coの組成を有し、y1およびy2が互いに独立して0より大きい数である、請求項8または9に記載の再充電可能なバッテリーセル(2,20,40)。
【請求項11】
前記化合物が、LiM’M” z1M” z2の組成を有し、式中、M”は、元素周期表の第2族、第3族、第4族、第5族、第6族、第7族、第8族、第9族、第10族、第11族、第12族、第13族、第14族、第15族および第16族の元素からなる群から選択される少なくとも1つの元素であり、M”はリンであり、z1は0以上の数であり、z2は値1を有する、請求項8に記載の再充電可能なバッテリーセル(2,20,40)。
【請求項12】
前記化合物が、LiM’M” z1POの組成を有し、式中、M’は鉄であり、M”はマンガンである、請求項11に記載の再充電可能なバッテリーセル(2,20,40)。
【請求項13】
前記第1導電性塩の置換基R,R,RおよびRが、互いに独立して、アルキル基2-プロピル、メチルおよびエチルからなる群から選択される、請求項1~12の何れか1項に記載の再充電可能なバッテリーセル(2,20,40)。
【請求項14】
前記第1導電性塩の置換基R,R,RおよびRのうちの少なくとも1つが、少なくとも1つの化学基によって置換されており、前記化学基が、C~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、フェニルおよびベンジルからなる群から選択される、請求項1~13の何れか1項に記載の再充電可能なバッテリーセル(2,20,40)。
【請求項15】
前記第1導電性塩の置換基R,R,RおよびRのうち少なくとも1つが、CF基またはOSOCF基である、請求項1~14の何れか1項に記載の再充電可能なバッテリーセル(2,20,40)。
【請求項16】
第1導電性塩が、
【化2】
からなる群から選択される、請求項1~15の何れか1項に記載の再充電可能なバッテリーセル(2,20,40)。
【請求項17】
前記電解質が、式(I)による第1導電性塩とは異なる少なくとも1つの第2導電性塩を含む、請求項1~16の何れか1項に記載の再充電可能なバッテリーセル(2,20,40)。
【請求項18】
前記電解質の前記第2導電性塩が、アルミン酸塩、ハロゲン化物、シュウ酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、ヒ酸塩および没食子酸塩からなる群から選択される、アルカリ金属化合物である、請求項17に記載の再充電可能なバッテリーセル(2,20,40)。
【請求項19】
前記電解質の前記第2導電性塩が、テトラハロアルミン酸リチウムである、請求項17または18に記載の再充電可能なバッテリーセル(2,20,40)。
【請求項20】
前記電解質が、少なくとも1つの添加剤を含む、請求項1~19の何れか1項に記載の再充電可能なバッテリーセル(2,20,40)。
【請求項21】
前記電解質の前記添加剤が、ビニレンカーボネートおよびその誘導体、ビニルエチレンカーボネートおよびその誘導体、メチルエチレンカーボネートおよびその誘導体、(ビスオキサラト)ホウ酸リチウム、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウム、シュウ酸リチウム、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、環状のエキソメチレンカーボネート類、スルトン類、環状および非環状のスルホン酸塩類、非環状の亜硫酸塩類、環状および非環状のスルフィン酸塩類、有機エステル類、無機酸類、1バールで少なくとも36℃の沸点を有する非環状および環状のアルカン類、芳香族化合物類、ハロゲン化された環状および非環状スルホニルイミド類、ハロゲン化された環状および非環状リン酸エステル類、ハロゲン化された環状および非環状ホスフィン類、ハロゲン化された環状および非環状ホスファイト類、ハロゲン化された環状および非環状のホスファゼン類、ハロゲン化された環状および非環状のシリルアミン類、ハロゲン化された環状および非環状のハロゲン化エステル類、ハロゲン化された環状および非環状のアミド類、ハロゲン化された環状および非環状の無水物類、ならびにハロゲン化された有機複素環類からなる群から選択される、請求項20に記載の再充電可能なバッテリーセル(2,20,40)。
【請求項22】
前記電解質が、電解質組成物の総重量に基づいて、
(i)5~99.4重量%の二酸化硫黄、
(ii)0.6~95重量%の第1導電性塩、
(iii)0~25重量%の第2導電性塩、および
(iv)0~10重量%の添加剤
の組成を有する、請求項1~21の何れか1項に記載の再充電可能なバッテリーセル(2,20,40)。
【請求項23】
前記第1導電性塩のモル濃度が、前記電解質の全体積を基準にして、0.01mol/L~10mol/Lの範囲内である、請求項1~22の何れか1項に記載の再充電可能なバッテリーセル(2,20,40)。
【請求項24】
前記電解質が、導電性塩1mol当たり、少なくとも0.1molのSO 含む、請求項1~23の何れか1項に記載の再充電可能なバッテリーセル(2,20,40)。
【請求項25】
前記正電極(4,23,44)が、金属酸化物、金属ハロゲン化物および金属リン酸塩からなる群から選択される少なくとも1つの金属化合物を含み、ここで前記金属化合物の金属が、元素の周期表の原子番号22から28の遷移金属である、請求項1~24の何れか1項に記載の再充電可能なバッテリーセル(2,20,40)。
【請求項26】
前記正電極(4,23,44)が、スピネル、層状酸化物、変換化合物またはポリアニオン化合物の化学構造を有する少なくとも1つの金属化合物を含む、請求項1~25の何れか1項に記載の再充電可能なバッテリーセル(2,20,40)。
【請求項27】
正電極(4,23,44)が、
-金属板または金属箔の形態において、平面的に、または、
-多孔質金属構造の形で三次元的
成されている放電素子(34)を有する、請求項1~26の何れか1項に記載の再充電可能なバッテリーセル(2,20,40)。
【請求項28】
正電極(4,23,44)および/または負電極(5)が
ッ素系バインダー、
役カルボン酸のモノマー構造単位、または前記共役カルボン酸のアルカリ塩、アルカリ土類塩、アンモニウム塩、またはこれらの組み合わせから構成されるポリマーからなるバインダー、
ノマースチレンおよびブタジエン構造単位をベースとするポリマーからなるバインダー、および、
カルボキシメチルセルロースの群から選択されるバインダー、
からなる群から選択される少なくとも1つのバインダー、を含み、
ここで、前記バインダーが、総正電極重量に基づいて、最大で20重量%の濃度で存在する、請求項1~27の何れか1項に記載の再充電可能なバッテリーセル(2,20,40)。
【請求項29】
ハウジング(1,28)内に交互に積層された複数の負電極(5,22,45)および複数の正電極(4,23,44)を備え、前記正電極および前記負電極(5,22,45)が、セパレータ(11,13,21)によってそれぞれ互いに電気的に分離されている、請求項1~28の何れか1項に記載の再充電可能なバッテリーセル(2,20,40)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SOベースの電解質を有する再充電可能なバッテリーセルに関する。
【背景技術】
【0002】
再充電可能なバッテリーセルは、多くの技術分野で非常に重要である。それらは、例えば携帯電話の操作など、比較的小さい電流強度を有する小型の再充電可能なバッテリーセルのみを必要とする用途に使用されている。また、高エネルギー用途では、より大きな再充電可能なバッテリーセルが必要とされており、車両の電気推進においては、バッテリーセルの形態におけるエネルギーの大量貯蔵が特に重要となっている。
【0003】
高エネルギー密度は、これらのタイプの再充電可能なバッテリーセルの重要な要件である。これは、前記再充電可能なバッテリーセルが単位重量および単位体積あたりにできるだけ多くの電気エネルギーを有することを意味する。この目的のためには、活性金属としてリチウムが特に有利であることがわかっている。リチウムは原子番号が最も小さい金属であるため、理論上の比容量が3.884mAh/gと最も大きい。また、最も電気陰性度の高い金属であり(標準水素電極(略称:SHE)に対して-3.10V)、正電極に対して可能な限り最も高いセル電圧を発生させる。また、リチウムは最も軽い金属(0.54g/cm)であるため、重量エネルギー密度(Wh/Kg)または比エネルギー密度(Wh/L)を可能な限り最も高くすることができる。
【0004】
再充電可能なバッテリーセルの活性金属とは、充放電時に電解質中のイオンが負電極または正電極に移動し、そこで電気化学プロセスに関与する金属のことである。この電気化学プロセスは、直接的または間接的に、外部回路への電子の放出または外部回路からの電子の吸収につながる。前記負電極の活性金属としてリチウムを有する再充電可能なバッテリーセルは、リチウム電池とも呼ばれる。
【0005】
リチウム電池の正電極が挿入電極として設計されている。本発明でいう「挿入電極」とは、リチウム電池の動作中に活物質のイオンを貯蔵および除去することができる結晶構造を有する電極を指す。これは、電極プロセスが電極の表面だけでなく、結晶構造内でも行われる可能性があることを意味する。前記正電極は、例えばコバルト酸リチウム(LiCoO)から構成される。リチウム電池を充電すると、活性金属のイオンが正電極から除去され、負電極に金属リチウムとして蓄積される。リチウム電池が放電されると、逆のプロセスが実行される。
【0006】
電解質は、各再充電可能なバッテリーセルの重要な機能要素である。それは通常、溶媒または溶媒ブレンド物、および少なくとも1つの導電性塩を含む。例えば固体電解質またはイオン液体は、溶媒を含まず、導電性塩のみを含む。前記電解質は、前記バッテリーセルの正電極と負電極に接触している。導電性塩の少なくとも1つのイオン(アニオンまたはカチオン)は、再充電可能なバッテリーセルの機能に必要な電極間の電荷輸送がイオン伝導によって行われるように、電解質中で十分に移動可能である。前記電解質は、再充電可能なバッテリーセルの特定の上部セル電圧から酸化的に電気化学的に分解される。このプロセスは、多くの場合、電解質成分の不可逆的な破壊につながり、したがって、再充電可能なバッテリーセルの故障につながる。また、特定のセル電圧以下になると、還元的なプロセスによって電解質が分解される可能性がある。これらのプロセスを回避するために、セル電圧が電解質の分解電圧以下またはそれ以上になるように、正電極および負電極が選択される。このようにして、再充電可能なバッテリーセルを可逆的に動作させることができる範囲、つまり繰り返し充電および放電することができる電圧ウィンドウが、電解質によって決定される。
【0007】
従来技術から知られているリチウム電池は、有機溶媒または溶媒ブレンド物とそれに溶解した導電性塩とからなる電解質を含有している。前記導電性塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)などのリチウム塩である。前記溶媒ブレンド物は、例えばエチレンカーボネートを含み得る。EC(炭酸エチレン):EMC(炭酸エチルメチル)が3:7で1M LiPFの組成を有する電解質LP57は、そのような電解質の例である。有機溶媒または溶媒ブレンド物のため、これらの種類のリチウム電池は、有機リチウム電池とも呼ばれる。
【0008】
有機リチウム電池を意図せずに過充電すると、電解質成分が不可逆的に分解される。正電極の表面では、有機溶媒および/または導電性塩の酸化分解が起こる。この分解の際に発生する反応熱と、その結果として発生するガス状の生成物が、その後のいわゆる「熱暴走」とその結果として生じる有機リチウム電池が破壊の原因となる。これらの有機リチウム電池の充電プロトコルの大部分は、充電終止のインデックスとしてセル電圧を用いている。この熱暴走による事故は、容量の異なる複数の有機リチウム電池を直列に接続したマルチセルバッテリーパックを使用した場合に特に発生しやすい。
【0009】
また、負電極でのリチウム電池の有機電解質の還元分解は不可逆的である。リチウムに対して、あるいは炭素に貯蔵されているリチウム(Li)に対して、熱力学的に安定な有機溶媒は存在しない。しかし、多くの溶媒は負電極の電極表面にパッシベーション膜を形成する。この膜は、溶媒と電極を空間的に分離しているが、イオン伝導性があるため、リチウムイオンの通過が可能である。このパッシベーション膜、いわゆる「固体電解質界面」(SEI)は、システムに安定性を与え、それによりリチウム電池の製造が可能になる。リチウムは、SEIの形成時にパッシベーション膜に取り込まれる。このプロセスは不可逆的であるため、容量の損失として観測される。
【0010】
この不可逆的な容量の損失は、コーティング層容量とも呼ばれ、電解質の配合および使用する電極によって異なる。有機リチウム電池では、電解質の分解およびリチウムイオンを含む層の形成が、リチウム電池のさらなる動作中に継続することが多く、容量の損失、ひいては電池の短寿命化の原因となっている。また、充電されたリチウム電池を保管する際にも容量損失が発生する可能性がある。このいわゆる自己放電には、不可逆的なプロセス(電解質の分解)と、負電極に蓄えられたリチウムが電解質溶液に移動し、次回の充電時に再び利用可能となる可逆的なプロセスとの両方に基づき得る。
【0011】
そのため、有機リチウム電池は、その安定性と長期的な動作信頼性の点で問題がある。また、特に有機溶媒または溶媒ブレンド物の可燃性により、安全上のリスクが生じる。有機リチウム電池が発火、または爆発すると、前記金属リチウムは反応性の高い物質を形成し、前記電解質中の有機溶媒が可燃性物質を形成する。このような安全上のリスクを回避するために、追加の対策が必要である。
【0012】
そこで、従来から知られているように、再充電可能なバッテリーセルに有機電解質の代わりに二酸化硫黄(SO)をベースとする電解質を使用することが考えられる。SOベースの電解質からなる再充電可能なバッテリーセルは、特に高いイオン伝導性を示す。「SOベースの電解質」とは、SOを単に低濃度の添加剤としてではなく、電解質中に構成され電荷輸送を行う導電性塩中のイオンの移動性が、少なくとも一部、大部分、あるいは完全にSOによって確保されている電解質のことである。そのため、SOは導電性塩の溶媒として機能する。導電性塩は、ガス状のSOと液体の溶媒錯体を形成し得、それによってSOが結合し、純粋なSOに比べて蒸気圧が顕著に低下する。低い蒸気圧を有する電解質が生成される。このSOベースの電解質は、上述の有機溶媒ベース電解質に比べて不燃性であるという利点がある。電解質の可燃性に起因する安全上のリスクを排除することができる。
【0013】
再充電可能なバッテリーセルの負電極活物質として金属リチウムを使用する場合、さまざまな問題がある。リチウムは充電中に均一に堆積するのではなく、デンドライトの形態において堆積する。リチウムのデンドライトの成長が制御できないため、大きな表面積を有する反応性の高い金属が蓄積され、安全上クリティカルな状態になる可能性がある。金属リチウムの熱力学的不安定性は、リチウムと電解質との間に不可逆的かつ連続的な反応を引き起こす。その結果、リチウム金属表面には、リチウムおよび電解質成分を消費するパッシベーション層(SEI)が意図せず厚く形成される。その結果、内部抵抗が増加し、リチウム電池の寿命が短くなる。充電および放電を繰り返すと、リチウム金属アノードに大きな体積変化および形態変化が生じる可能性がある。前述のSEI膜は、このような大きな変化を完全に抑制するには、安定性が低すぎる。
【0014】
有機電解質溶液を有するリチウム電池においても、SO系電解質を有するバッテリーセルにおいても、金属リチウムアノードに関する上記のような問題の解決策が模索されている。文献[V1]:「効率的なリチウム金属電池のためのリチウムイオンの均一分布によって誘発されるデンドライトフリーのリチウム堆積」(非特許文献1)の著者らは、有機電解質を有するリチウム金属電池について報告している。多数の極性基を有する3次元ガラス繊維織物を用いてリチウムを堆積させ、デンドライトのないリチウム金属アノードを得た。
【0015】
米国特許7,901,811 B2(以下、[V2]とする)には、導電性塩であるテトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl)を含有するSO系電解質を有するリチウム金属電池が記載されている。デンドライト堆積の欠点を避けるために、固体粒子から形成された多孔質構造が提案されており、その構造は、リチウム金属セルの充電中に堆積したリチウムがディスチャージャーの表面から多孔質構造の孔に浸透し、そこで再び堆積するように設計および配置されている。
【0016】
とりわけ、これらのSOベースの電解質で特に発生する欠点は、残留量の水の存在下で形成される加水分解生成物が再充電可能なバッテリーセルのセル構成要素と反応し、望ましくない副生成物の形成がもたらされることである。このため、SOベースの電解質を有する再充電可能なバッテリーセルを製造する際には、電解質およびセル構成要素に含まれる残留水分量を最小限に抑えることに注意を払う必要がある。
【0017】
SOベースの電解質のさらなる問題点は、特に有機リチウム電池で知られている多くの導電性塩がSOに溶解しないことである。例えば測定により、SOは、フッ化リチウム(LiF)、臭化リチウム(LiBr)、硫酸リチウム(LiSO)、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBOB)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、トリリチウムヘキサフルオロアルミン酸塩(LiAlF)、リチウムヘキサフルオロアンチモネート(LiSbF)、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBF)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiTFSI)、メタホウ酸リチウム(LiBO)、アルミン酸リチウム(LiAlO)、リチウムトリフラート(LiCFSO)、クロロスルホン酸リチウム(LiSOCl)など、多くの導電性塩にとって貧溶媒であることが示された。これらの導電性塩のSOに対する溶解度は約10-2~10-4mol/Lである(表1参照)。このような低い塩濃度では、導電率は低く、再充電可能なバッテリーセルの有用な動作には十分ではないと考えられる。
【0018】
【表1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】米国特許第7,901,811号明細書
【非特許文献】
【0020】
【文献】“Dendrite-Free Lithium Deposition Induced by Uniformly Distributed Lithium Ions for Efficient Lithium Metal Batteries” Xin-Bing Cheng, Ting-Zheng Hou, Rui Zhang, Hong-Jie Peng, Chen-Zi Zhao, Jia-Qi Huang and Qiang Zhang Adv. Mater. 2016, 28, 2888-2895
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
SOベースの電解質を含む再充電可能なバッテリーセルの可能な用途と特性をさらに改善するために、本発明の目的は、SOベースの電解質を有する再充電可能なバッテリーセルを特定することであり、この再充電可能なバッテリーセルは、先行技術から知られている再充電可能なバッテリーセルと比較して、
-電気的性能が向上し、特にエネルギー密度が高い。
-負電極に安定したコーティング層を有し、それによってコーティング層の容量が低くなり、さらなる動作中に負電極でさらなる還元性電解質の分解が起こらない。
-SOベースの電解質を含み、これにより金属リチウムの堆積が可能な限り均一になる。
-導電性塩類の溶解度が高く、イオン伝導性と電子絶縁性に優れているため、イオン輸送を促進し、自己放電を最小限に抑えることができるSOベースの電解質を備える。
-セパレータ、電極材料、セルパック材料など、再充電可能なバッテリーセルの他の構成要素に対しても不活性であるSOベースの電解質を備える。
-電気的、機械的、熱的などの様々な誤使用に対して耐性がある。
-SOベースの電解質で構成されており、再充電可能なバッテリーセルのセル構成要素に含まれる残留水分量に対する安定性が向上している。
-広い電気化学的ウィンドウ(electrochemical window)を有するため、正電極での酸化的な電解質の分解が起こらない。
-過充電や深放電が改善され、自己放電が少ない。
-耐用年数の向上、特に使用可能な充放電サイクル数の増加を示す。
【0022】
このような再充電可能なバッテリーセルは、特に、再充電可能なバッテリーセルの動作中に電解質が分解することなく、非常に優れた電気エネルギーおよび性能データ、高い動作信頼性および耐用年数、特に多数の使用可能な充放電サイクルを有する。
【課題を解決するための手段】
【0023】
この目的は、請求項1の特徴を有する再充電可能なバッテリーセルによって解決される。請求項2~29では、本発明による再充電可能なバッテリーセルの有利な発展形について記載されている。
【0024】
本発明による再充電可能なバッテリーセルは、活性金属と、放電素子を有する少なくとも1つの正電極と、放電素子を有する少なくとも1つの負電極と、ハウジングと、電解質とを備えている。前記負電極は、少なくとも再充電可能なバッテリーセルの充電状態において、活物質として金属リチウムを含有している。
【0025】
前記電解質は、SOをベースとし、少なくとも1つの第1導電性塩を含む。前記第1導電性塩は、式(I)を有する。
【0026】
【化1】
【0027】
式(I)において、Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、元素周期表第12族の金属およびアルミニウムにより形成される群から選択される金属であり、xは1~3の整数である。置換基R,R,RおよびRは、C~C10アルキル、C~C10アルケニル、C~C10アルキニル、C~C10シクロアルキル、C~C14アリールおよびC~C14ヘテロアリールからなる群から、互いに独立して選択される。前記中心原子Zは、アルミニウムまたはホウ素のいずれかである。
【0028】
本発明による再充電可能なバッテリーセルに用いられるSOベースの電解質は、低濃度の添加剤としてのSOだけでなく、電解質中に含まれて電荷輸送を行う第1導電性塩のイオンの移動性がSOによって少なくとも部分的に、大部分に、あるいは完全に確保される濃度のSOを、含有する。第1導電性塩は、電解質に溶解し、その中で非常に良好な溶解性を示す。それは、ガス状のSOと液体溶媒錯体を形成することができ、その中でSOは結合している。この場合、液体溶媒錯体の蒸気圧は純粋なSOに比べて顕著に低下し、低い蒸気圧の電解質が得られる。しかし、式(I)による第1導電性塩の化学構造によっては、本発明による電解質の製造において蒸気圧の低下が起こらないことも本発明の範囲内である。最後に言及するケースでは、本発明による電解質の製造は、低温または加圧下で行われることが好ましい。また、電解質は、その化学的構造が互いに異なる、式(I)の複数の導電性塩を含んでいてもよい。
【0029】
本発明の意味において、「C-C10アルキル」という用語は、1~10個の炭素原子を有する直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基を含む。これらには、特に、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、iso-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、iso-ペンチル、2,2-ジメチルプロピル、n-ヘキシル、iso-ヘキシル、2-エチルヘキシル、n-ヘプチル、iso-ヘプチル、n-オクチル、iso-オクチル、n-ノニル、n-デシルなどが含まれる。
【0030】
本発明の意味において、「C-C10アルケニル」という用語には、2~10個の炭素原子を有する不飽和の直鎖状または分枝状の炭化水素基が含まれ、炭化水素基は少なくとも1つのC-C二重結合を有する。これらには、特に、エテニル、1-プロペニル、2-プロペニル、1-n-ブテニル、2-n-ブテニル、イソブテニル、1-ペンテニル、1-ヘキセニル、1-ヘプテニル、1-オクテニル、1-ノネニル、1-デセニルなどが含まれる。
【0031】
本発明の意味において、「C-C10アルキニル」という用語には、2~10個の炭素原子を有する不飽和の直鎖状または分岐状の炭化水素基が含まれ、炭化水素基は少なくとも1つのC-C三重結合を有する。これらには、特に、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-n-ブチニル、2-n-ブチニル、イソブチニル、1-ペンチニル、1-ヘキシニル、1-ヘプチニル、1-オクチニル、1-ノニル、1-デシニルなどが含まれる。
【0032】
本発明の意味において、「C-C10シクロアルキル」という用語には、3~10個の炭素原子を有する環状の飽和炭化水素基が含まれ、これらには、特に、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロヘキシル、シクロノニルおよびシクロデカニルが含まれる。
【0033】
本発明の意味において、「C-C14アリール」という用語は、6~14個の環状炭素原子を有する芳香族炭化水素基が含まれ、これらには、特に、フェニル(C基)、ナフチル(C10基)およびアントラシル(C14基)が含まれる。
【0034】
本発明の意味において、「C-C14ヘテロアリール」という用語は、少なくとも1つの炭化水素原子が窒素原子、酸素原子または硫黄原子で置換されている5~14個の環状炭化水素原子を有する芳香族炭化水素基を含む。具体的には、ピロリル、フラニル、チオフェニル、ピリジニル、ピラニル、チオピラニルなどが挙げられる。上述の炭化水素基はいずれも、それぞれ酸素原子を介して式(I)による中心原子に結合している。
【0035】
このような電解質を有する再充電可能なバッテリーセルは、従来技術で知られている電解質を有する再充電可能なバッテリーセルと比較して、そこに含まれる第1導電性塩がより高い酸化安定性を有し、その結果、より高いセル電圧でも本質的に分解を示さないという利点がある。前記電解質は、好ましくは少なくとも4.0ボルトの上限電位まで、より好ましくは少なくとも4.2ボルトの上限電位まで、より好ましくは少なくとも4.4ボルトの上限電位まで、より好ましくは少なくとも4.6ボルトの上限電位まで、より好ましくは少なくとも4.8ボルトの上限電位まで、最も好ましくは少なくとも5.0ボルトの上限電位まで、酸化に強い。このように、再充電可能なバッテリーセルにこのような電解質を用いると、作動電位内、すなわち再充電可能なバッテリーセルの両電極の充電終止電圧と放電終止電圧の間の範囲では、電解質の分解がほとんどまたはまったく起こらない。その結果、再充電可能なバッテリーセルは、本発明によれば、少なくとも4.0ボルト、より好ましくは少なくとも4.4ボルト、より好ましくは少なくとも4.8ボルト、より好ましくは少なくとも5.2ボルト、より好ましくは少なくとも5.6ボルト、最も好ましくは少なくとも6.0ボルトの充電終止電圧を有し得る。
【0036】
この電解質を含む再充電可能なバッテリーセルの耐用年数は、従来技術から知られている電解質を含む再充電可能なバッテリーセルの耐用年数よりも著しく長い。
【0037】
さらに、このような電解質を有する再充電可能なバッテリーセルは、低温にも強い。例えば-40℃の温度でも、充電した容量の61%を放電することができる。低温での電解質の導電性は、バッテリーセルを動作させるのに十分である。
【0038】
さらに、このような電解質を有する再充電可能なバッテリーセルは、水の残留量に関して高い安定性を示す。電解質中にまだ少量の水が残っている場合(ppmの範囲)、電解質または第1導電性塩は、水と加水分解生成物を形成し、これは、従来技術から知られているSOベースの電解質と比較して、セル構成要素に対して攻撃性が著しく低い。このため、電解質中に水が存在しないことは、従来技術から知られているものと比較して、SOベースの電解質において、それほど重要ではない。本発明による電解質のこれらの利点は、式(I)による第1導電性塩が、従来技術から知られている導電性塩よりも著しく大きいアニオンサイズを有するという事実から生じる欠点を上回る。このより大きいアニオンサイズにより、LiAlClの導電率と比較して、式(I)による第1導電性塩の導電率がより低くなる。
【0039】
負電極
負電極の活物質は、金属リチウムである。つまり、リチウムは、再充電可能なバッテリーの活性金属でもある。前記リチウムは、前記再充電可能なバッテリーセルが充電されると、前記負電極の放電素子に堆積する。これは、負電極が金属リチウムに加えて、放電素子も有していることを意味する。この放電素子は、負電極の活物質の必要な電子伝導性接続を可能にする役割を果たす。このため、放電素子は、負電極の電極反応に関与する活物質と接触している。再充電可能なバッテリーセルが放電されると、金属リチウムはリチウムイオンに変換され、リチウムイオンは負電極から正電極に移動する。前記正電極がインターカレーション電極として設計されている場合、バッテリーセルの非充電状態におけるリチウムイオンは、少なくとも部分的に、正のインターカレーション電極の活物質のホストマトリックスに位置している。
【0040】
本発明による再充電可能なバッテリーセルの負電極に関する有利な発展形について、以下に説明する。
【0041】
本発明による再充電可能なバッテリーセルの有利な発展形は、再充電可能なバッテリーセルの放電状態において、負電極の電子伝導性放電素子が金属リチウムを含まないことを提供する。金属リチウムは、バッテリーセルを充電する際に負電極の電子伝導性放電素子上に堆積される。この金属リチウムは、放電時には実質的に完全に溶解し、イオンの形態において正電極の活物質のホストマトリックスに入り込む。
【0042】
本発明によるバッテリーセルの更なる有利な発展形は、再充電可能なバッテリーセルの第1の充電が行われる前に、負電極の電子伝導性放電素子が既に金属リチウムを含んでいることを提供する。バッテリーセルが充電されるとき、さらなる金属リチウムが電子伝導性放電素子上に堆積される。金属リチウムは、放電時に完全にまたは部分的にのみ溶解し、イオンの形態で正電極の活物質のホストマトリックスに入り込む。一方、放電素子上に既に配置されている金属リチウムは、バッテリーセルが組み立てられる前に放電素子に塗布され、それと共にバッテリーセルに組み込まれ得る。他方、金属リチウムは、バッテリーセルが動作する前に、すなわち、先行する初期化充電プロセスによる第1の充電および放電の前に、負電極の放電素子に堆積され得る。
【0043】
本発明によるバッテリーセルの更なる有利な発展形は、バッテリーセルが初めて充電される前に、負電極の電子伝導性放電素子が金属リチウムを含まないことを提供する。金属リチウムは、バッテリーセルが充電されると、電子伝導性放電素子上に堆積する。この金属リチウムは、放電時に完全にまたは部分的に溶解し、イオンの形態において正電極活物質のホストマトリックスに入り込む。
【0044】
本発明によるバッテリーセルの更なる有利な発展形として、負電極の放電素子が少なくとも部分的にリチウム貯蔵物質から形成されていることが提供される。このような発展形では、バッテリーセルが充電されているとき、電極反応から生じるリチウムの一部は、最初に、リチウム貯蔵物質から作製される電子伝導性の放電素子に貯蔵される。その後、バッテリーセルの充電を続けると、金属リチウムが電子導電性放電素子に堆積する。金属リチウムは、放電時に完全に、または部分的にのみ溶解し、イオンの形態において正電極の活物質のホストマトリックスに入り込む。
【0045】
リチウム貯蔵物質は、例えば、挿入物質である炭素、特に炭素同素体グラファイトの形態であってもよい。また、リチウムと合金を形成する物質、例えばリチウム貯蔵金属および金属合金(例えば、Si、Ge、Sn、SnCo、SnSiなど、ここでは好ましくはケイ素)、またはリチウム貯蔵金属および金属合金の酸化物(例えば、SnO、SiO、Sn、Siなどの酸化ガラス)、または炭素を含まないリチウムインターカレーション物質、例えばチタン酸リチウム、特にLiTi12であってもよい。また、遷移金属酸化物などの変換物質も、リチウム貯蔵物質として使用され得る。
【0046】
本発明によるバッテリーセルの更なる有利な発展形として、負電極の放電素子が、金属薄板または金属薄箔の形態における平面放電素子として設計されていることが提供される。金属薄箔は、好ましくは、穿孔されたまたはメッシュ状の構造を有する。また、前記平面放電素子は、金属でコーティングされたプラスチックフィルムから構成され得る。前記金属コーティングは、0.1μm~20μmの範囲の厚さを有する。前記負電極の活物質は、好ましくは、金属薄板、金属薄箔または金属コーティングプラスチック箔の表面に塗布される。活物質は、平面放電素子の前面および/または背面に塗布され得る。このような平面放電素子は、5μm~50μmの範囲の厚さを有する。平面放電素子の厚さは、10μm~30μmの範囲であることが好ましい。平面放電素子を用いる場合、前記負電極は、少なくとも20μm、好ましくは少なくとも40μm、特に好ましくは少なくとも60μmの合計厚さを有し得る。最大厚さは、最大200μm、好ましくは最大150μm、特に好ましくは最大100μmである。片面のコーティングに基づく負電極の面積固有容量は、バッテリーセルの充電状態において平面放電素子を用いた場合、好ましくは少なくとも0.5mAh/cmであり、以下の値:1mAh/cm、3mAh/cm、5mAh/cm、10mAh/cm、15mAh/cm、20mAh/cm、25mAh/cmがこの順でさらに好ましい。
【0047】
さらに、負電極の放電素子を多孔質金属構造、特に発泡金属の形態で三次元的に設計される可能性もある。用語「三次元多孔質金属構造」とは、金属薄板や金属箔のように平面電極の長さや幅だけでなく、その厚さ方向にも延在する金属からなる任意の構造のことである。前記三次元多孔質金属構造は、負電極の活物質、すなわち金属リチウムを金属構造体の孔に堆積させることができるように、十分に多孔質である。活物質の体積量が負電極への負荷となる。放電素子が、多孔質金属構造体、特に発泡金属の形態で三次元的に設計される場合、負電極は、好ましくは少なくとも0.2mm、より好ましくは少なくとも0.3mm、より好ましくは少なくとも0.4mm、より好ましくは少なくとも0.5mm、最も好ましくは少なくとも0.6mmの厚さを有する。この場合、電極の厚さは、有機リチウム電池に使用される負電極と比べて大幅に厚い。さらなる有利な実施形態では、三次元放電素子、特に発泡金属の形態のものを使用する場合のバッテリーセルの充電状態における負電極の面積固有容量が、好ましくは少なくとも2.5mAh/cmであり、以下の値:5mAh/cm、15mAh/cm、25mAh/cm、35mAh/cm、45mAh/cmがこの順序でさらに好ましいことが提供される。
【0048】
本発明によるバッテリーセルの更なる有利な発展形では、放電素子がバインダーを含むことが提供される。前記バインダーは、好ましくはフッ素系バインダー、特にポリフッ化ビニリデンおよび/またはテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびフッ化ビニリデンから形成されるターポリマーである。しかし、それはまた、共役カルボン酸のモノマー構造単位、またはこの共役カルボン酸のアルカリ塩、アルカリ土類塩、またはアンモニウム塩、またはこれらの組み合わせから構成されるポリマーからなるバインダーであってもよい。さらに、前記バインダーは、モノマースチレンおよびブタジエン構造単位をベースとするポリマーで構成され得る。さらに、前記バインダーは、カルボキシメチルセルロースの群からのバインダーであってもよい。前記バインダーは、負電極の総重量に基づいて、好ましくは最大で20重量%、より好ましくは最大で15重量%、より好ましくは最大で10重量%、より好ましくは最大で7重量%、より好ましくは最大で5重量%、最も好ましくは最大で2重量%の濃度で負電極中に存在する。
【0049】
電解質
SOベースの電解質に関する再充電可能なバッテリーセルの有利な発展形を以下に記載する。
【0050】
再充電可能なバッテリーセルのさらに有利な実施形態では、第1導電性塩の置換基R,R,RおよびRは、互いに独立して、
-好ましくはC-Cアルキルからの、特に好ましくはアルキル基2-プロピル、メチルおよびエチルからの、C-Cアルキル;
-好ましくはC-Cアルケニルからの、特に好ましくはアルケニル基のエテニルおよびプロペニルからの、C-Cアルケニル;
-好ましくはC-Cアルキニルからの、C-Cアルキニル;
-C-Cシクロアルキル;
-フェニル;および
-C-Cヘテロアリール
によって形成される群から選択される。
【0051】
この有利な実施形態のSOベースの電解質の場合、用語「C-Cアルキル」には、1~6個の炭化水素基を有する直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基が含まれ、特にメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、iso-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、iso-ペンチル、2,2-ジメチルプロピル、n-ヘキシル、iso-ヘキシルが挙げられる。これらの中でもC-Cアルキルが好ましい。特にC-Cアルキルである2-プロピル、メチル、エチルが好ましい。
【0052】
SOベースの電解質のこの有利な実施形態の場合、用語「C-Cアルケニル」には、2~6個の炭素原子を有する不飽和の直鎖状または分枝状の炭化水素基が含まれ、炭化水素基は少なくとも1つのC-C二重結合を有する。これらは特に、エテニル、1-プロペニル、2-プロペニル、1-n-ブテニル、2-n-ブテニル、イソブテニル、1-ペンテニルおよび1-ヘキセニルを含み、C-Cアルケニルが好ましい。特にエテニルおよび1-プロペニルが好ましい。
【0053】
この有利な実施形態のSOベースの電解質の場合、用語「C-Cアルキニル」には、2~6個の炭素原子を有する不飽和の直鎖状または分枝状の炭化水素基が含まれ、炭化水素基は少なくとも1つのC-C三重結合を有する。これらは特に、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-n-ブチニル、2-n-ブチニル、iso-ブチニル、1-ペンチニル、1-ヘキシニルを含む。これらの中で好ましいのは、C-Cアルキニルである。
【0054】
この有利な実施形態のSOベースの電解質の場合、用語「C-Cシクロアルキル」には、3~6個の炭素原子を有する環状の飽和炭化水素基が含まれる。これらは特に、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルを含む。
【0055】
SOベースの電解質のこの有利な実施形態の場合、用語「C-Cヘテロアリール」には、フェニルおよびナフチルが含まれる。
【0056】
SOベースの電解質における第1導電性塩の溶解性を向上させるために、再充電可能なバッテリーセルのさらに有利な実施形態において、置換基R,R2,R3およびRは、少なくとも1つのフッ素原子によって、および/または、少なくとも1つの化学基によって置換されており、化学基は、C-Cアルキル、C-Cアルケニル、C-Cアルキニル、フェニルおよびベンジルによって形成される群から選択される。化学基C-Cアルキル、C-Cアルケニル、C-Cアルキニル、フェニルおよびベンジルは、上述した炭化水素基と同様の性質または化学構造を有する。ここでいう置換とは、置換基R,R2,R3およびRの個々の原子または原子群が、フッ素原子および/または化学基で置換されていることを意味する。
【0057】
置換基R,R2,R3およびRの少なくとも1つがCF3基またはOSOCF基であることにより、SOベースの電解質に対する第1導電性塩の特に高い溶解性を達成することができる。
【0058】
再充電可能なバッテリーセルのさらに有利な発展形では、第1導電性塩は、以下によって形成される群から選択される。
【0059】
【化2】
【0060】
電解質の導電性および/または他の特性を所望の値に調整するために、本発明による再充電可能なバッテリーセルのさらに有利な実施形態における電解質は、式(I)による第1導電性塩とは異なる少なくとも1つの第2導電性塩を含む。つまり、電解質は、第1導電性塩に加えて、その化学組成およびその化学構造において第1導電性塩とは異なる1つまたはさらに別の第2導電性塩を含み得る。
【0061】
本発明による再充電可能なバッテリーセルのさらに有利な実施形態では、第2導電性塩は、アルカリ金属化合物、特にリチウム化合物である。アルカリ金属化合物またはリチウム化合物は、アルミン酸塩、ハロゲン化物、シュウ酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、ヒ酸塩、および没食子酸塩によって形成される群から選択される。第2導電性塩は、好ましくは、テトラハロアルミン酸リチウム(lithium tetrahaloaluminate)であり、特にLiAlClである。
【0062】
さらに、本発明による再充電可能なバッテリーセルのさらに有利な実施形態では、電解質が少なくとも1つの添加剤を含む。この添加剤は、好ましくは、ビニレンカーボネートおよびその誘導体、ビニルエチレンカーボネートおよびその誘導体、メチルエチレンカーボネートおよびその誘導体、(ビスオキサラト)ホウ酸リチウム、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウム、シュウ酸リチウム、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、環状のエキソメチレンカーボネート類、スルトン類、環状および非環状のスルホン酸塩類、非環状の亜硫酸塩類、環状および非環状のスルフィン酸塩類、無機酸類の有機エステル類、1バールで少なくとも36℃の沸点を有する非環状および環状のアルカン類、芳香族化合物類、ハロゲン化された環状および非環状スルホニルイミド類、ハロゲン化された環状および非環状リン酸エステル類、ハロゲン化された環状および非環状ホスフィン類、ハロゲン化された環状および非環状ホスファイト類、ハロゲン化された環状および非環状のホスファゼン類、ハロゲン化された環状および非環状のシリルアミン類、ハロゲン化された環状および非環状のハロゲン化エステル類、ハロゲン化された環状および非環状のアミド類、ハロゲン化された環状および非環状の無水物類、ハロゲン化された有機複素環類などである。
【0063】
電解質組成物の総重量に関連して、前記電解質は、再充電可能なバッテリーセルのさらに有利な発展形において、
(i)5~99.4重量%の二酸化硫黄、
(ii)0.6~95重量%の第1導電性塩、
(iii)0~25重量%の第2導電性塩、および
(iv)0~10重量%の添加剤
の組成を有する。
【0064】
すでに上述したように、電解質は、式(I)による第1導電性塩および第2導電性塩だけでなく、式(I)による複数の第1導電性塩および複数の第2導電性塩を含み得る。最後に示したケースでは、前記パーセンテージも、複数の第1導電性塩および複数の第2導電性塩を含む。第1導電性塩のモル濃度は、前記電解質の全体積を基準にして、0.01mol/L~10mol/L、好ましくは0.05mol/L~10mol/L、より好ましくは0.1mol/L~6mol/L、最も好ましくは0.2mol/L~3.5mol/Lの範囲内である。
【0065】
本発明による再充電可能なバッテリーセルのさらなる有利な発展形は、電解質が、導電性塩1molあたり、少なくとも0.1molのSO、好ましくは少なくとも1molのSO、より好ましくは少なくとも5molのSO、より好ましくは少なくとも10molのSO、最も好ましくは少なくとも20molのSOを含んでいることを提供する。電解質はまた、非常に高いモル比のSOを含み得、好ましい上限値は、導電性塩1mol当り2600molのSOであり、導電性塩1molあたり1500、1000、500および100molのSOの上限がこの順でさらに好ましい。「導電性塩1mol当たり」という用語は、電解質に含まれるすべての導電性塩を指す。SOと導電性塩との間にこのような濃度比を有するSOをベースとする電解質は、例えば有機溶媒ブレンド物をベースとする先行技術から知られている電解質と比較して、より多くの量の導電性塩を溶解することができるという利点を有する。本発明では、驚くべきことに、比較的低濃度の導電性塩を有する電解質は、蒸気圧が高いもかかわらず、特に前記再充電可能なバッテリーセルの多くの充電および放電サイクルにわたるその安定性に関して有利であることがわかった。電解質中のSOの濃度は、その導電性に影響を与える。したがって、SO濃度を選択することにより、電解質の導電性を、この電解質を使用して動作する再充電可能なバッテリーセルの計画された使用に合わせて調整することができる。
【0066】
SOおよび第1導電性塩の総含有量は、電解質の重量の50重量パーセント(重量%)を超え、好ましくは60重量%を超え、より好ましくは70重量%を超え、より好ましくは80重量%を超え、より好ましくは85重量%を超え、より好ましくは90重量%を超え、より好ましくは95重量%を超え、または最も好ましくは99重量%を超え得る。
【0067】
電解質は、再充電可能なバッテリーセルに構成される電解質の総量を基準にして、少なくとも5重量%のSOを含み得、20重量%のSO、40重量%のSO、60重量%のSOの値がより好ましい。また、電解質は、最大で95重量%のSOを含み得、最大値は、80重量%のSO、90重量%のSOの順に好ましい。
【0068】
電解質が、好ましくは、少なくとも1つの有機溶媒をわずかな比率だけ、あるいは全く持っていないことは、本発明の範囲内である。電解質中の有機溶媒の割合は、例えば1つの溶媒または複数の溶媒ブレンド物の形で存在するが、好ましくは、電解質の重量の最大50重量%とすることができる。電解質の重量のうち、最大で40重量%、最大で30重量%、最大で20重量%、最大で15重量%、最大で10重量%、最大で5重量%、または最大で1重量%の低い割合が特に好ましい。さらに好ましくは、電解質は有機溶媒を含まない。有機溶媒の割合が低いか、あるいは完全に含まれていないため、電解質はほとんど可燃性を有さないか、あるいは全く可燃性を有さない。これにより、このようなSOベースの電解質を用いた再充電可能なバッテリーセルの動作安全性が高まる。SOベースの電解質は、特に好ましくは本質的に有機溶媒を含まない。
【0069】
電解質組成物の総重量に関連して、電解質は、再充電可能なバッテリーセルのさらに有利な発展形において、
(i)5~99.4重量%の二酸化硫黄、
(ii)0.6~95重量%の第1導電性塩、
(iii)0~25重量%の第2導電性塩、
(iv)0~10重量%の添加剤、および
(v)0~50重量%の有機溶媒
の組成を有する。
【0070】
正電極
正電極に関する本発明による再充電可能なバッテリーセルの有利な発展形を、以下に説明する。
【0071】
本発明による再充電可能なバッテリーセルの第1の利点は、正電極が少なくとも4.0ボルトの上限電位まで、好ましくは4.4ボルトの上限電位まで、より好ましくは少なくとも4.8ボルトの上限電位まで、より好ましくは少なくとも5.2ボルトの上限電位まで、より好ましくは少なくとも5.6ボルトの上限電位まで、最も好ましくは少なくとも6.0ボルトの上限電位まで充電可能であることである。
【0072】
本発明による再充電可能なバッテリーセルのさらに有利な展開では、正電極は少なくとも1つの活物質を含む。前記物質は、活性金属のイオンを貯蔵し、バッテリーセルの動作中に活性金属のイオンを放出および取り込むことができる。
【0073】
本発明による再充電可能なバッテリーセルのさらに有利な発展形では、正電極は、少なくとも1つのインターカレーション化合物を含む。本発明の意味において、「インターカレーション化合物」という用語は、上述の挿入物質のサブカテゴリーを指す。前記インターカレーション化合物は、相互接続された空孔を有するホストマトリックスとして機能する。活性金属のイオンは、再充電可能なバッテリーセルの放電プロセス中これらの空孔に拡散し、そこに貯蔵され得る。前記活性金属のイオンが堆積する間、ホストマトリックスにはわずかな構造変化のみが発生するか、または構造変化が発生しない。
【0074】
本発明による再充電可能なバッテリーセルのさらに有利な発展形では、正電極は、活物質として少なくとも1つの変換化合物を含有している。本発明の意味において、「変換化合物」という用語は、電気化学的活性の間に他の物質を形成する物質を指し、すなわち、バッテリーセルの充電および放電中に化学結合が破壊されて、再確立される。活性金属のイオンを吸収または放出する際に、変換化合物のマトリックスに構造変化が生じる。
【0075】
本発明による再充電可能なバッテリーセルのさらに有利な発展形では、前記活物質が、LiM’M”の組成を有し、式中、
-M’は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnからなる群から選択される少なくとも1つの金属である;
-M”は、元素周期表の第2族、第3族、第4族、第5族、第6族、第7族、第8族、第9族、第10族、第11族、第12族、第13族、第14族、第15族および第16族の元素により形成される群から選択される少なくとも1つの元素である;
-xおよびyは、互いに独立して、0より大きい数である;
-zは、0以上の数である;そして
-aは、0より大きい数字である。
【0076】
組成物LiM’M”の添数yおよびzは、それぞれM’およびM”で表される金属および元素の総体に関するものである。例えばM’が2つの金属M’およびM’を有する場合、添数yには次のように適用される:y=y1+y2、式中y1およびy2は金属M’およびM’の添数を表している。添数x、y、z、aは、組成物中で電荷が中性になるように選択する必要がある。M’が2つの金属を含む化合物の例としては、M’=Ni、M’=Mn、M”=CoであるLiNiy1Mny2Coという組成のリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト酸化物がある。z=0の化合物、すなわち更なる金属或いはM”がない化合物の例としては、リチウム・コバルト酸化物LiCoがある。
【0077】
例えば、M”が2つの元素、すなわち一方が金属M”、他方がM”としてのリンから構成されている場合、添数zには次のように適用される:z=z1+z2、ここでz1とz2は金属M”とリン(M”)の添数を表す。添数x、y、zおよびaは、組成物中で電荷が中性になるように選択する必要がある。M”が金属M”、M”がリンからなる化合物の例としては、M’=Fe、M”=Mn、M”=P、z2=1のリチウム鉄マンガンリン酸塩LiFeMnz1z2が挙げられる。さらなる組成物において、M”は、2つの非金属、例えば、M”としてのフッ素およびM”としての硫黄を含むことができる。このような化合物の例としては、M’=Fe、M”=F、M”=Pのリチウム鉄フルオロ硫酸塩LiFez1z2がある。
【0078】
本発明による再充電可能なバッテリーセルのさらに有利な発展形は、M’がニッケルおよびマンガンの金属から構成され、M”がコバルトであることを提供する。これらは、式LiNiy1Mny2Co(NMC)の組成物、すなわち、層状酸化物の構造を有するリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト酸化物であり得る。これらのリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト酸化物活物質の例は、LiNi1/3Mn1/3Co1/3(NMC111)、LiNi0.6Mn0.2Co0.2(NMC622)およびLiNi0.8Mn0.1Co0.1(NMC811)である。リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト酸化物のさらなる化合物は、組成がLiNi0.5Mn0.3Co0.2、LiNi0.5Mn0.25Co0.25、LiNi0.52Mn0.32Co0.16、LiNi0.55Mn0.30Co0.15、LiNi0.58Mn0.14Co0.28、LiNi0.64Mn0.18Co0. 18、LiNi0.65Mn0.27Co0.08、LiNi0.7Mn0.2Co0.1、LiNi0.7Mn0.15Co0.15、LiNi0.72Mn0.10Co0.18、LiNi0.76Mn0.14Co0.10、LiNi0.86Mn0.04Co0.10、LiNi0.90Mn0.05Co0.05、LiNi0.95Mn0.025Co0.025、またはこれらの組み合わせが挙げられる。これらの化合物を用いて、例えば4.6ボルトを超えるセル電圧を有する再充電可能なバッテリーセル用電極を製造することができる。
【0079】
本発明による再充電可能なバッテリーセルのさらに有利な発展形は、前記活物質が、リチウムおよびマンガンに富む金属酸化物(リチウムおよびマンガンに富む酸化物物質)であることを提供する。この物質は、式:LiMnM”で表すことができる。上述の式LiM’M”のM’は、金属マンガン(Mn)を表す。ここでの添数xは1以上、添数yは添数zより大きいか、または添数z1+z2+z3などの合計よりも大きい。例えば、M”が、添字z1およびz2の2つの金属M”、M”から構成される場合(例えば、M”=Ni、z1=0.175、およびM”=Co、z2=0.1のLi1.2Mn0.525Ni0.175Co0.1)の場合、添数y:y>z1+z2には以下が適用される。添数zは0以上であり、添数aは0より大きい。添数x、y、zおよびaは組成内で電荷が中性になるように選択しなければならない。また、リチウムとマンガンを多く含む金属酸化物は、次の式:
mLiMnO・(1-m)LiM’O、0<m<1で表される。
このような化合物の例としては、Li1.2Mn0.525Ni0.175Co0.1、Li1.2Mn0.6Ni0.2、またはLi1.2Ni0.13Co0.13Mn0.54が挙げられる。
【0080】
本発明による再充電可能なバッテリーセルの更なる有利な展開として、組成物が式LiM’M”を有することが提供される。これらの化合物は、スピネル構造を有する。例えば、M’はコバルト、M”はマンガンであり得る。この場合、前記活物質はリチウムコバルトマンガン酸化物(LiCoMnO)である。LiCoMnOは、4.6ボルトを超えるセル電圧を有する再充電可能なバッテリーセルの正電極を製造するために使用され得る。このLiCoMnOは、好ましくは、Mn3+を含まない。さらなる例では、M’はニッケルであり、M”はマンガンであり得る。この場合、前記活物質はリチウムニッケルマンガン酸化物(LiNiMnO)である。2つの金属M’およびM”のモル比率は、変化し得る。リチウムニッケルマンガン酸化物は、例えば、LiNi0.5Mn1.5という組成を有し得る。
【0081】
本発明による充電可能なバッテリーセルのさらに有利な発展形では、正電極は、変換化合物を構成する少なくとも1つの活物質を含む。変換化合物は、リチウムまたはナトリウムなどの活性金属が吸収される際に、固体の酸化還元反応を起こし、物質の結晶構造が変化する。これは、化学結合の切断と再結合によって起こる。変換化合物の完全に可逆的な反応は、例えば以下のようになり得る:
タイプA:MX←→+yLi M+ zLi(y/z)
タイプB:X←→+yLi Li
【0082】
変換化合物の例としては、FeF、FeF、CoF、CuF、NiF、BiF、FeCl、FeCl、CoCl、NiCl、CuCl、AgCl、LiCl、S、LiS、Se、LiSe、Te、I、およびLiIが挙げられる。
【0083】
本発明によるバッテリーセルのさらなる有利な発展形では、化合物は、LiM’M” z1M” z2という組成を有し、ここでM”はリンであり、z2は値1を有する。LiM’M” z1M” z2の組成を有する化合物は、リチウム金属リン酸塩である。特に、この化合物は、LiFeMnz1z2という組成を有する。リチウム金属リン酸塩の例としては、リン酸鉄リチウム(LiFePO)またはリン酸鉄マンガンリチウム(Li(FeMn)PO)が挙げられる。リチウム鉄マンガンのリン酸塩の例としては、Li(Fe0.3Mn0.7)POという組成のリン酸塩が挙げられる。他の組成のリチウム金属リン酸塩も、本発明によるバッテリーセルに使用され得る。
【0084】
本発明による再充電可能なバッテリーセルのさらに有利な発展形は、正電極が少なくとも1つの金属化合物を含むことを提供する。この金属化合物は、金属酸化物、金属ハロゲン化物および金属リン酸塩によって形成される群から選択される。この金属化合物の金属は、好ましくは、元素の周期表の原子番号22から28の遷移金属、特にコバルト、ニッケル、マンガンまたは鉄である。
【0085】
本発明による再充電可能なバッテリーセルのさらに有利な発展形は、正電極が、スピネル、層状酸化物、変換化合物またはポリアニオン化合物の化学構造を有する少なくとも1つの金属化合物を含むことを提供する。
【0086】
正電極が、記載された化合物の少なくとも1つ、または化合物の組み合わせを活物質として含有していることは、本発明の範囲内である。化合物の組み合わせとは、記載された物質のうちの少なくとも2つを含む正電極を指す。
【0087】
本発明によるバッテリーセルのさらに有利な発展形は、正電極が放電素子を有することを提供する。これは、正電極が活物質に加えて放電素子を有していることを意味する。前記放電素子は、正電極の活物質の必要な導電性接続を可能にする役割を果たす。そのために、放電素子は、正電極の電極反応に関与する活物質と接触している。
【0088】
前記放電素子は、薄い金属板または薄い金属箔の形態で平面的に設計され得る。金属薄板は、好ましくは、穿孔またはメッシュ状の構造を有する。また、平面状の放電素子は、金属をコーティングしたプラスチックフィルムで構成することもできる。前記金属コーティングは、0.1μmから20μmの範囲の厚さを有する。正電極の活物質は、金属薄板、金属箔、または金属コーティングされたプラスチック箔の表面に塗布されることが好ましい。活物質は、平面放電素子の前面および/または後面に塗布することができる。このような平面放電素子は、5μmから50μmの範囲の厚さを有する。平面放電素子の厚さは、10μmから30μmの範囲が好ましい。平面放電素子を使用する場合、正電極は、少なくとも20μm、好ましくは少なくとも40μm、特に好ましくは少なくとも60μmの総厚を有し得る。最大の厚さは、最大で200μm、好ましくは最大で150μm、特に好ましくは最大で100μmである。片面の塗膜に基づく正電極の面積固有容量は、平面放電素子を用いた場合、好ましくは少なくとも0.5mAh/cmであり、以下の値:1mAh/cm、3mAh/cm、5mAh/cm、10mAh/cm、15mAh/cm、20mAh/cmがこの順でさらに好ましい。
【0089】
さらに、正電極の放電素子を多孔質金属構造、特に発泡金属の形で三次元的に設計することも可能である。三次元多孔質金属構造体は、正電極の活物質が金属構造体の細孔に取り込まれるように十分に多孔質である。正電極に取り込まれる活物質の量、あるいは塗布される活物質の量が正電極の負荷となる。放電素子が多孔質金属構造の形態、特に発泡金属の形態で3次元的に設計されている場合、正電極は好ましくは少なくとも0.2mm、より好ましくは少なくとも0.3mm、より好ましくは少なくとも0.4mm、より好ましくは少なくとも0.5mm、最も好ましくは少なくとも0.6mmの厚さを有している。さらに有利な実施形態では、三次元放電素子、特に発泡金属の形態を用いた場合の正電極の面積固有容量が、好ましくは少なくとも2.5mAh/cmであり、以下の値:5mAh/cm、15mAh/cm、25mAh/cm、35mAh/cm、45mAh/cm、55mAh/cm、65mAh/cm、75mAh/cmがこの順でさらに好ましい。放電素子が多孔質金属構造、特に発泡金属の形態で3次元的に設計されている場合、正電極の活物質量、すなわち電極の負荷は、その面積に基づいて、少なくとも10mg/cm、好ましくは少なくとも20mg/cm、より好ましくは少なくとも40mg/cm、より好ましくは少なくとも60mg/cm、より好ましくは少なくとも80mg/cm、最も好ましくは少なくとも100mg/cmである。このような正電極の負荷は、再充電可能なバッテリーセルの充電プロセスおよび放電プロセスにポジティブな効果をもたらす。
【0090】
本発明によるバッテリーセルのさらに有利な発展形では、正電極は少なくとも1つのバインダーを有する。前記バインダーは、好ましくはフッ素系バインダーであり、特にポリフッ化ビニリデンおよび/またはテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびフッ化ビニリデンから形成されるターポリマーである。しかし、共役カルボン酸のモノマー構造単位、またはこの共役カルボン酸のアルカリ塩、アルカリ土類塩、もしくはアンモニウム塩、またはこれらの組み合わせから構成されるポリマーからなるバインダーでもよい。さらに、バインダーは、モノマースチレンおよびブタジエン構造単位をベースとするポリマーで構成され得る。さらに、バインダーは、カルボキシメチルセルロースの群からのバインダーであってもよい。バインダーは、正電極の総重量に基づいて、好ましくは最大で20重量%、より好ましくは最大で15重量%、より好ましくは最大で10重量%、より好ましくは最大で7重量%、より好ましくは最大で5重量%、最も好ましくは最大で2重量%の濃度で正電極中に存在する。
【0091】
再充電可能なバッテリーセルの構造
本発明による再充電可能なバッテリーセルの有利な発展形は、その構造に関して以下に説明される。
【0092】
再充電可能なバッテリーセルの機能をさらに向上させるために、本発明による再充電可能なバッテリーセルのさらなる有利な発展形は、再充電可能なバッテリーセルが、ハウジング内に交互に積層された複数の負電極と複数の正電極とを備えることを提供する。ここで、正電極と負電極とは、セパレータによってそれぞれ互いに電気的に分離されていることが好ましい。
【0093】
前記セパレータは、不織布材料、膜、織布材料、編物材料、有機材料、無機材料、またはそれらの組み合わせから形成され得る。有機セパレータは、非置換ポリオレフィン(例えばポリプロピレンまたはポリエチレン)、部分的から完全にハロゲン置換されたポリオレフィン(例えば部分的~完全にフッ素置換、特にPVDF、ETFE、PTFE)、ポリエステル、ポリアミド、ポリスルホンから構成され得る。有機材料および無機材料を組み合わせたセパレータとしては、例えばガラス繊維に適切なポリマーコーティングを施したガラス繊維織物材料が挙げられる。コーティングは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン(ETFE)、パーフルオロエチレンプロピレン(FEP)、THV(テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、フッ化ビニリデンのターポリマー)、パーフルオロアルコキシポリマー(PFA)などのフッ素含有ポリマー、アミノシラン、ポリプロピレン、ポリエチレン(PE)を含むことが好ましい。また、セパレータは、例えばいわゆる「Z折り」の形態で、再充電可能なバッテリーセルのハウジングに折り畳まれ得る。このZ折りでは、ストリップ状のセパレータが、電極を介して、あるいは電極の周囲で、Z状に折り畳まれる。また、セパレータをセパレータ紙として形成することも可能である。
【0094】
また、セパレータをシース(sheath)として設計することも可能であり、各正電極または各負電極がシースによって包まれていることも本発明の範囲内である。前記シースは、不織布、膜、織布材料、編物材料、有機材料、無機材料、またはそれらの組み合わせから形成され得る。
【0095】
正電極にシースがあると、再充電可能なバッテリーセル内でより均一なイオン移動とイオン分布をもたらす。特に負電極のイオン分布が均一であればあるほど、負電極に活物質の充填量が高くなり、結果として再充電可能なバッテリーセルの使用可能な容量が大きくなる。同時に、負荷の不均一性やその結果として生じる活物質の析出に伴うリスクを回避することができる。これらの利点は、再充電可能なバッテリーの正電極がシースに包まれている場合に特に有効である。
【0096】
電極およびシースの表面寸法は、好ましくは、電極のシースの外形寸法およびシースされていない電極の外形寸法が少なくとも1つの寸法で一致するように、互いに一致させることができる。
【0097】
また、シースの表面積は、好ましくは、電極の表面積よりも大きくすることができる。この場合、前記シースは、電極の境界を越えて延在する。したがって、電極の両側を覆うシースの2つの層は、エッジ接続によって正電極のエッジで互いに接続され得る。
【0098】
本発明による再充電可能なバッテリーセルのさらに有利な実施形態では、前記負電極はシースを有し、前記正電極はシースを有していない。
【0099】
本発明のさらに有利な特性について、図、実施例、実験に基づいて以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0100】
図1】本発明による再充電可能なバッテリーセルの第1実施形態の断面図である。
図2図1に示した第1実施形態の発泡金属の三次元多孔質構造の電子顕微鏡画像を詳細に示した図である。
図3】本発明による再充電可能なバッテリーセルの第2実施形態の断面図である
図4図3からの第2実施形態の詳細を示した図である。
図5】本発明による再充電可能なバッテリーセルの第3実施形態の分解図である。
図6】負電極の活物質として金属リチウムを有する試験用フルセルの充電パーセントの関数として、2回の充電/放電サイクルにおける電位プロファイルをボルト[V]で示した図であり、充電および放電電流は0.1mA/cmである。
図7】負電極の活物質として金属リチウムを有する試験用フルセルの充電パーセントの関数として、2回の充電/放電サイクルにおける電位プロファイルをボルト[V]で示した図であり、2回の充電/放電サイクルの前に初期化サイクルが行われ、充電および放電電流は0.1mA/cmである。
図8】負電極の活物質として金属リチウムを有する試験用フルセルの充電パーセントの関数として、2回の充電/放電サイクルにおける電位プロファイルをボルト[V]で示した図であり、ここで前記セルに外部圧力を加え、2回の充電/放電サイクルの前に初期化サイクルが行われ、充電および放電電流は0.1mA/cmである。
図9】実験1から第2試験用フルセルを解体して得られた負電極を示した図である。
図10】負電極の活物質として金属リチウムを有する試験用フルセルの充電パーセントの関数として、2回の充電/放電サイクルにおける電位プロファイルをボルト[V]で示した図であり、ここで2回の充電/放電サイクルの前に初期化サイクルが行われ、充電および放電電流は0.5mA/cmである。
図11】負電極の活物質として金属リチウムを有する試験用フルセルの充電パーセントの関数として、2回の充電/放電サイクルにおける電位プロファイルをボルト[V]で示した図であり、ここで2回の充電/放電サイクルの前に初期化サイクルが行われ、充電および放電電流は1.0mA/cmである。
図12】負電極の活物質として金属リチウムを有する試験用フルセルのサイクル数の関数として、サイクル効率を%で示した図であり、ここで充電および放電電流は1.0mA/cmである。
図13】負電極の活物質として金属リチウムを有する3つの試験用フルセルのサイクル数の関数として、サイクル効率を%で示した図であり、ここで2つの試験用フルセルは電解質1、1つの試験用フルセルは参照電解質を含む。
図14】電解質1の導電率([mS/cm])を、化合物1の濃度の関数として示した図である。
図15】電解質3の導電率([mS/cm])を、化合物3の濃度の関数として示した図である。
図16】電解質4の導電率([mS/cm])を、化合物4の濃度の関数として示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0101】
図1は、本発明による再充電可能なバッテリーセル2の第1実施形態を断面図で示したものである。前記再充電可能なバッテリーセル2は、プリズマティックセル(prismatic cell)として設計されており、特にハウジング1を有している。前記ハウジング1は、3つの正電極4と4つの負電極5を含む電極アレイ3を囲んでいる。正電極4および負電極5は、電極アレイ3に交互に積層されている。しかし、ハウジング1は、より多くの正電極4および/または負電極5を収容することもできる。一般的には、負電極5の数が正電極4の数よりも1つ多いと好ましい。これにより、電極スタックの外側端面が負電極5の電極面によって形成されるという結果がもたらされる。電極4,5は、電極接続部6,7を介して、再充電可能なバッテリーセル2の対応する接点9,10に接続されている。再充電可能なバッテリーセル2には、SOベースの電解質が充填されており、電解質がすべての孔または空洞、特に電極4、5の内部にできるだけ完全に浸透するようになっている。なお、図1では電解質は表示されない。本実施形態では、正電極4は、活物質としてインターカレーション化合物を含有している。このインターカレーション化合物は、LiCoMnOである。
【0102】
電極4,5は、本実施形態では平板状に設計されており、すなわち、表面積に比べて薄い厚さを有する層として設計されている。これらはそれぞれ、セパレータ11によって互いに分離されている。再充電可能なバッテリーセル2のハウジング1は、本質的には直方体として設計されており、断面図で示された電極4,5およびハウジング1の壁は、図面の平面に対して垂直に延びており、本質的に直線的で平坦である。しかし、再充電可能なバッテリーセル2は、電極が薄い層で構成され、それがセパレータ材料とともに巻かれたワインディングセルとしても設計され得る。セパレータ11は、一方では、正電極4と負電極5を空間的かつ電気的に分離し、他方では、特に活性金属のイオンに対して透過性を有している。このようにして、電気化学的に有効な大きな表面が作製され、これにより大きな電流収率が可能になる。
【0103】
また、電極4,5は、それぞれの電極の活物質の必要な電子伝導性接続を可能にする役割を果たす放電素子を有している。前記放電素子は、それぞれの電極4,5の電極反応に関与する活物質と接触している(図1には示されていない)。前記放電素子は、多孔質の発泡金属(metal foam)18の形態で設計されている。発泡金属18は、電極4,5の厚み全体にわたって延在する。正電極4および負電極5の活物質は、金属構造体の厚さ全体にわたって発泡金属の細孔を均一に満たすように、前記発泡金属18の細孔に組み込まれている。正電極4は、機械的強度を向上させるためのバインダーを含有している。このバインダーは、フルオロポリマーである。負電極5は、活物質としてリチウムを含む。
【0104】
図2は、図1からの第1実施形態の発泡金属18の三次元多孔質構造の電子顕微鏡画像を示している。指定されたスケールに基づいて、細孔Pの平均直径が100μm超であること、すなわち、比較的大きいことが分かる。この発泡金属は、ニッケル製の発泡金属である。
【0105】
図3は、本発明による再充電可能なバッテリーセル20の第2実施形態を断面図で示したものである。前記第2実施形態は、図1に示す第1実施形態とは異なり、電極アレイが正電極23と2つの負電極22から構成されている。これらはそれぞれセパレータ21によって互いに分離され、ハウジング28によって囲まれている。正電極23は、平面状の金属箔の形態における放電素子26を有し、その両面に正電極23の活物質24が塗布されている。また、負電極22は、平面金属箔状の放電素子27を有しており、この放電素子27には、負電極22の活物質25が両面に塗布されている。あるいは、エッジ電極、すなわち電極スタックを閉鎖する電極の平面放電素子は、片面にのみ活物質が塗布され得る。コーティングされていない側は、ハウジング壁に面している。電極22,23は、電極接続部29,30を介して、再充電可能なバッテリーセル20の対応する接点31,32に接続されている。
【0106】
図4は、図3からの第2実施形態において、正電極23および負電極22の放電素子26,27として機能する平面状の金属箔を示している。この金属箔は、20μmの厚さを有する有孔またはメッシュ状の構造を有している。
【0107】
図5は、本発明による再充電可能なバッテリーセル40の第3実施形態を分解図で示したものである。この第3実施形態は、正電極44がシース13によって囲まれているという点で、上記で説明した2つの実施形態とは異なる。この場合、シース13の表面積は、正電極44の表面積よりも大きく、その境界14は、図5に破線で示されている。正電極44を両側から覆うシース13の2つの層15,16は、正電極44の周縁端部で、端部接続部17によって互いに接続されている。なお、2つの負電極45は覆われていない。電極44,45は、電極接続部46,47を介して導通可能である。
【実施例
【0108】
〔実施例1〕参照電解質の調製
後述する実施例で使用する参照電解質は、欧州特許第2954588号明細書(以下、[V3]とする)に記載されている方法で調製した。まず、塩化リチウム(LiCl)を120℃で3日間、真空下で乾燥させた。また、アルミニウム粒子(Al)を450℃で2日間、真空下で乾燥させた。LiCl、塩化アルミニウム(AlCl)、およびAlを、AlCl:LiCl:Alのモル比が1:1.06:0.35となるように、ガス抜き用の開口部を有するガラス瓶に入れて混合した。その後、このブレンド物を段階的に熱処理して溶融塩を生成した。冷却後、形成された塩の溶融物をろ過し、次に室温まで冷却し、最後に、LiAlClに対するSOの所望のモル比が形成されるまで、SOを加えた。このようにして形成された参照電解質は、LiAlCl xSOという組成を有し、ここでxは供給されたSOの量に依存する。
【0109】
〔実施例2〕バッテリーセル用のSOベースの電解質の4つの実施形態1,2,3および4の調製
以下に説明する実験のために、SOベースの電解質の4つの実施形態1,2,3および4を調製した(以下、電解質1,2,3および4と称する)。この目的のために、まず、以下の文献[V4],[V5]および[V6]に記載されている製造方法を用いて、式(I)による4種類の異なる第1導電性塩を調製した。
[V4]“I.Krossing,Chem.Eur.J.2001,7,490;
[V5]S.M.Ivanova et al, Chem.Eur.J.2001,7,503;
[V6]Tsujioka et al, J.Electrochem.Soc.,2004,151,A1418”
【0110】
式(I)によるこれら4つの異なる第1導電性の塩を、以下では化合物1,2,3および4と称する。これらはポリフルオロアルコキシアルミネートのファミリーに属するもので、LiAlHおよび対応するアルコールR-OHから開始して、R=R=R=Rとなるように、以下の反応式に従ってヘキサン中で調製した。
【0111】
【化3】
【0112】
その結果、以下に示す化合物1,2,3および4を、合計および構造式を使用して形成した。
【0113】
【化4】
【0114】
化合物1,2,3および4をまず再結晶して精製した。その結果、第1導電性塩から遊離体LiAlHを、除去した。これは、SOに微量の水が存在する可能性があり、前記遊離体によりスパークが形成される可能性があるためである。
【0115】
次いで、化合物1,2,3および4をSOに溶解させた。化合物1,2,3および4はSOによく溶解した。
【0116】
電解質1,2,3および4の調製を、以下のプロセスステップ1~4に従って低温または加圧下で行った。
1)ライザーパイプ付きの圧力ピストンにおけるそれぞれの化合物1,2,3および4の受け入れ、
2)圧力ピストンの排気、
3)液体SOの流入、および
4)目標量のSOが添加されるまで、ステップ2+3を繰り返す。
【0117】
電解質1,2,3および4における化合物1,2,3および4の各濃度は、実験の説明で特に断りがない限り、0.6mol/L(1リットルの電解質を基準としたモル濃度)であった。以下に説明する実験は、電解質1,2,3および4および参照電解質を用いて行った。
【0118】
〔実施例3〕テスト用フルセルの作製
後述する実験で用いた試験用フルセルは、セパレータで隔てられた2つの負電極と1つの正電極を有する再充電可能なバッテリーセルである。正電極には、活物質、導電性媒介剤、バインダーが含まれていた。正電極の活物質については、それぞれの実験で命名している。負電極は活物質として金属リチウムを含み、これは負電極の放電素子上に堆積させたもの、または既に存在していたものであった。正電極と負電極の放電素子はニッケル製であった。試験用フルセルには、それぞれ実験に必要な電解質、すなわち参照電解質、または電解質1,2,3もしくは4が充填されていた。
【0119】
各実験では、いくつかの、つまり2~4つの同一のテスト用フルセルを作成した。実験で示された結果は、同一の試験用フルセルについて得られた測定値からの各平均値である。
【0120】
〔実施例4〕試験用フルセルでの測定
コーティング層の容量:
最初のサイクルで負電極にコーティング層を形成するために消費される容量は、バッテリーセルの品質の重要な基準となる。このコーティング層は、試験用フルセルが初めて充電されたときに負電極上に形成される。このコーティング層の形成のためにリチウムイオンが不可逆的に消費されるため(コーティング層容量)、試験用フルセルでは、後続のサイクルで使用できるサイクル容量が少なくなる。コーティング層容量(%)は、負電極にコーティング層を形成するために使用された理論の%であり、以下の式に従って算出される。
【0121】
コーティング層容量(理論上のパーセント)=(Qlad(×mAh)-Qent(y mAh))/QNEL
【0122】
ladは、それぞれの実験で指定された充電量をmAhで表し、Qentは、試験用のフルセルを連続して放電したときに得られた充電量をmAhで表す。QNELは、使用した負電極の理論容量である。理論容量は、例えばグラファイトの場合、372mAh/gの値に計算される。
【0123】
公称容量は、正電極の理論容量からコーティング層の容量(=Qlad(×mAh)-Qent(y mAh))を差し引くことによって得られる。
【0124】
放電容量:
試験用フルセルでの測定では、例えば放電容量をサイクル数から求める。この目的のために、試験用フルセルは、一定の充電電流強度で、一定の上限電位まで充電される。対応する上限電位は、充電電流が、一定の値まで低下するまで保持される。その後、一定の放電電位まで、一定の放電電流強度で放電を行う。この充電方法は、いわゆるI/U充電である。このプロセスは、所望のサイクル数に応じて繰り返される。
【0125】
実験では、上限電位または放電電位とそれぞれの充電または放電電流の強度が示されている。充電電流が低下したはずの値も実験で説明されている。
【0126】
「上限電位」という用語は、「充電電位」、「充電電圧」、「充電終止電圧」、および「上限電位限界」という用語の同義語として用いられる。これらの用語は、バッテリーチャージャーを使用してセルまたはバッテリーを充電する際の電圧/電位を表す。バッテリーは、好ましくは、C/2の電流レートで、22℃の温度で充電される。1Cの充放電レートでは、定義上、セルの公称容量が1時間で充電または放電される。充電率がC/2の場合、充電時間は2時間となる。
【0127】
「放電電位」という用語は、「より低いセル電圧」という用語と同義に用いられる。これは、バッテリーチャージャーを使用してセルまたはバッテリーが放電されるまでの電圧/電位を表す。
【0128】
バッテリーは、好ましくは、C/2の電流レートで、22℃の温度で放電される。放電容量は、放電電流と、放電終了の基準が満たされるまでの時間から求められる。関連する図は、放電容量の平均値を、サイクル数の関数として示している。これらの放電容量の平均値は、公称容量のパーセンテージとして表される。
【0129】
放電容量Qentと充電容量Qladの比は、サイクル効率Z=Qent/Qladとなる。充電容量は、充電パラメータによって規定される。放電容量は、上記のとおり各サイクルにおいて決定される。
【0130】
〔実験1〕0.1mA/cmの充電および放電電流を用いた試験用フルセルのサイクル
負電極の活物質として金属リチウムを用いて、実施例3による試験用フルセルの実験を行った。試験用フルセルには、実施例2で説明した電解質1を充填した。正電極は、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物を活物質として含有した。2回の充電/放電サイクルを行い、放電容量を測定した。2回の充電/放電サイクルは、第1試験用フルセルで直接行った。2回の充電/放電サイクルの前に、第2試験用フルセルを用いて初期化サイクルを行った。金属リチウムは、12mAで3分間堆積させ、さらに0.1mA/cmで充電終了まで堆積させた。この後、放電を行った。その後、2回の充電/放電サイクルを開始した。3つ目の試験用フルセルを用いて、外圧の影響を調べた。この目的のために、テスト用フルセルのハウジングを外側から約50N/cmの圧力で規定通りに押し付けた。次に、第2試験用フルセルで説明したように初期化サイクルを行い、その後、2回の充電および放電サイクルを行った。試験用フルセルは、0.1mA/cmの電流で4.4ボルトの電位まで、8mAh/cmの充電容量に達するまで充電された。その後、2.9ボルトの電位に達するまで0.1mA/cmの電流で放電を行った。
【0131】
図6,7および8はそれぞれ、3つの試験用フルセルの充電時と放電時の電位(ボルト)を、最大充電に関連する充電量(%)の関数として示したものである。また、図中の各試験用フルセルについて、2サイクルのサイクル効率も示されている。
【0132】
3つのテスト用フルセルとも、サイクル1およびサイクル2で同様の電位プロファイルを示している。サイクル効率は、すべての試験用フルセルで90%超であり、初期化サイクルを実施した試験用フルセルではやや良好であった。
【0133】
〔実験2〕リチウム堆積の形態
実験1の第2試験用フルセルを数サイクル後に解体し、堆積した金属リチウムの形態を判別した。図9は、均一でコンパクトなリチウムの体積が確認できる、この負電極を示す。リチウムが点状に堆積することはなく、電極全体が均一に覆われていることがわかる。このようにリチウムが良好に堆積していることから、使用した電解質1におけるリチウムのサイクル安定性が良好であることがわかる。
【0134】
〔実験3〕0.5mA/cmおよび1.0mA/cmの充電および放電電流を使用した試験用フルセルのサイクル
さらに、より高い電流での充電および放電を調べるために、実験1と同様に2つの試験用フルセルを作製した。最初の試験用フルセルでは、0.5mA/cmの充電および放電電流で2回の充電および放電サイクルが行われた。第2試験用フルセルでは、充電および放電電流は1.0mA/cmであった。前記セルは、21回充電および放電された。充電/放電サイクルの前に、両方の試験用フルセルに対して初期化サイクルが実行された。試験用フルセルは、0.5 mA/cmまたは1.0 mA/cmの電流で4.4ボルトの電位まで、8 mAh/cmの充電容量に達するまで充電された。その後、2.9ボルトの電位に達するまで0.5mA/cmまたは1.0mA/cmの電流で放電させた。
【0135】
図10および図11はそれぞれ、充電および放電時の2つの試験用フルセルの電位(V)を、最大充電に関連する充電(%)の関数として示している。また、図10および図11には、2つのサイクルのサイクル効率も、各試験用フルセルに対して示されている。どちらのフルセルも、サイクル1とサイクル2で同様の電位プロファイルを示している。サイクル効率は、両方のテストフルセルで97%超であり、1mA/cmの電流で作動させた試験用フルセルでやや良好であった。このテスト用フルセル(1mA/cm)を用いて、さらにサイクルを実施した。図12は、サイクル効率(%)をサイクル数の関数として示している。サイクル効率は安定したプロファイルを示し、21サイクル目でも約95%を達成している。
【0136】
〔実験4〕電解質1を有する試験用フルセルのサイクル効率と参照電解質を有する試験用フルセルとの比較
電解質1を用いた試験用フルセルと参照電解質を用いた試験用フルセルのサイクル効率を比較するために、まず、参照電解質を用いた試験用フルセルを作製した。試験用セルは、正電極の活物質としてリン酸鉄リチウムを、負電極の活物質として金属リチウムを含んでいた。この試験用セルは、組成LiAlClx6SOの参照電解質を含んでいた。
リチウムの腐食、すなわち電解質中の損失を防ぐために、急速充電および放電レートは7.5mAh/cmを選択した。この速度で試験用フルセルを3.6Vの電位まで充電し、2.5Vの電位まで放電させた。
【0137】
比較のために、いずれも電解質1を含んだ、実験1からの第2試験用フルセル(充電/放電電流0.1mA/cm)と、実験3からの第2試験用フルセル(充電/放電電流1mA/cm)とを用いた。
【0138】
図13は、0.1mA/cmの充電/放電電流を用いた試験用フルセルの最初の4回の充放電サイクル、1mA/cmの充電/放電電流を用いた試験フルセルの最初の7回の充放電サイクル、参照電解質を有する試験用フルセルの最初の7回の充電/放電サイクルのサイクル数の関数としてサイクル効率を%で示したものである。電解質1を有する試験用フルセルのサイクル効率は、非常に安定したプロファイルを示している。第1試験用フルセルは4サイクル後に98%のサイクル効率を達成し、第2試験用フルセルは7サイクル後に92%のサイクル効率を達成した。参照電解質を使用した試験用フルセルは、はるかに悪い挙動を示している。7サイクル目のサイクル効率は約68%にとどまっている。
【0139】
〔実験5〕電解質1,3および4の導電率の測定
導電率を測定するために、化合物1,3および4の濃度を変えて電解質1,3および4を調製した。電解質の導電率は、各化合物の濃度ごとに導電率測定法を用いて測定した。温度調整後、2電極センサーを溶液中に接触させ、0~50mS/cmの測定範囲で測定した。測定中、センサーがSOを含む電解質溶液と反応する可能性があることがわかった。
【0140】
図14は、化合物1の濃度の関数としての電解質1の導電率を示している。化合物1の濃度が0.6mol/L~0.7mol/Lで導電率が最大となり、約37.9mS/cmの値を示している。これに対し、従来の有機電解質であるLP30(1M LiPF/EC-DMC(1:1重量比))は、約10mS/cmの導電率しかなかった。
【0141】
図15(電解質3)および図16(電解質4)は、濃度を変えて測定した電解質3および電解質4に対する導電率の値を示している。電解質4では、導電性塩の濃度が1mol/Lのときに最大18mS/cmの導電率が得られている。電解質3は、導電性塩の濃度が0.6mol/Lのときに0.5mS/cmと最も高い導電率を示している。電解質3の方が導電率は低いものの、実験4と同様に、試験用フルセルの充放電は十分に可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16