(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-21
(45)【発行日】2023-03-02
(54)【発明の名称】再充電可能なバッテリーセル用のSO2ベースの電解質および再充電可能なバッテリーセル
(51)【国際特許分類】
H01M 10/056 20100101AFI20230222BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230222BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20230222BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230222BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20230222BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20230222BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20230222BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20230222BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230222BHJP
H01M 4/64 20060101ALI20230222BHJP
H01M 4/70 20060101ALI20230222BHJP
H01M 4/74 20060101ALI20230222BHJP
H01M 4/80 20060101ALI20230222BHJP
【FI】
H01M10/056
H01M10/052
H01M10/054
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/131
H01M4/58
H01M4/136
H01M4/62 Z
H01M4/64 A
H01M4/70 A
H01M4/74 C
H01M4/80 C
(21)【出願番号】P 2021568388
(86)(22)【出願日】2020-07-30
(86)【国際出願番号】 EP2020071573
(87)【国際公開番号】W WO2021019044
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-01-31
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521380247
【氏名又は名称】インノリス・テクノロジー・アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】INNOLITH TECHNOLOGY AG
【住所又は居所原語表記】HIRZBODENWEG 95, 4052 BASEL, SWITZERLAND
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ツィンク,ローラン
(72)【発明者】
【氏名】プスツォッラ,クリスチアン
(72)【発明者】
【氏名】ブッシュ,レベッカ
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/178543(WO,A1)
【文献】特開昭59-049159(JP,A)
【文献】特開2000-243437(JP,A)
【文献】特開2001-143750(JP,A)
【文献】特開2015-076401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/052、10/054、10/0567-10/0569
H01M4/00-4/62、4/64、4/70、4/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の第1導電性塩を少なくとも1つ含有する、再充電可能なバッテリーセル用のSO
2ベースの電解質。
【化1】
(式中、
-Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、元素周期表第12族の金属およびアルミニウムからなる群から選択される金属であり、
-xは、1から3の整数であり、
-置換基R
1,R
2,R
3およびR
4は、C
1~C
4
アルキ
ルからなる群から、独立して選択され
、かつ、前記置換基R
1
,R
2
,R
3
およびR
4
のうちの少なくとも1つが、少なくとも1つのフッ素原子によって置換されており;そして
-Zは、アルミニウムまたはホウ素である)
【請求項2】
前記置換基R
1,R
2,R
3およびR
4が、独立して
、アルキル基2-プロピル、メチルおよびエチ
ルからなる群から選択される、請求項1に記載の電解質。
【請求項3】
前記置換基R
1,R
2,R
3およびR
4のうちの少なくとも1つが
、少なくとも1つの化学基によって置換されており、前記化学基が、C
1~C
4アルキル、C
2~C
4アルケニル、C
2~C
4アルキニル、フェニルおよびベンジルからなる群から選択される、請求項1または2に記載の電解質。
【請求項4】
前記置換基R
1,R
2,R
3およびR
4のうち少なくとも1つが、CF
3基またはOSO
2CF
3基である、請求項1~3の何れか1項に記載の電解質。
【請求項5】
第1導電性塩が、
【化2】
からなる群から選択される、請求項1~4の何れか1項に記載の電解質。
【請求項6】
式(I)による第1導電性塩とは異なる少なくとも1つの第2導電性塩を含む、請求項1~5の何れか1項に記載の電解質。
【請求項7】
前記第2導電性塩が、アルミン酸塩、ハロゲン化物、シュウ酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、ヒ酸塩および没食子酸塩からなる群から選択される、アルカリ金属化合
物である、請求項6に記載の電解質。
【請求項8】
前記第2導電性塩が、テトラハロゲンアルミン酸リチウ
ムである、請求項6または7に記載の電解質。
【請求項9】
少なくとも1つの添加剤を含む、請求項1~8の何れか1項に記載の電解質。
【請求項10】
前記添加剤が、ビニレンカーボネートおよびその誘導体、ビニルエチレンカーボネートおよびその誘導体、メチルエチレンカーボネートおよびその誘導体、(ビスオキサラト)ホウ酸リチウム、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウム、シュウ酸リチウム、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、環状のエキソメチレンカーボネート類、スルトン類、環状および非環状のスルホン酸塩類、非環状の亜硫酸塩類、環状および非環状のスルフィン酸塩類、有機エステル類、無機酸類、1バールで少なくとも36℃の沸点を有する非環状および環状のアルカン類、芳香族化合物類、ハロゲン化された環状および非環状スルホニルイミド類、ハロゲン化された環状および非環状リン酸エステル類、ハロゲン化された環状および非環状ホスフィン類、ハロゲン化された環状および非環状ホスファイト類、ハロゲン化された環状および非環状のホスファゼン類、ハロゲン化された環状および非環状のシリルアミン類、ハロゲン化された環状および非環状のハロゲン化エステル類、ハロゲン化された環状および非環状のアミド類、ハロゲン化された環状および非環状の無水物類、ならびにハロゲン化された有機複素環類からなる群から選択される、請求項9に記載の電解質。
【請求項11】
前記電解質組成物の総重量に基づいて、
(i)5~99.4重量%の二酸化硫黄、
(ii)0.6~95重量%の第1導電性塩、
(iii)0~25重量%の第2導電性塩、および
(iv)0~10重量%の添加剤の組成を有する、請求項1~10の何れか1項に記載の電解質。
【請求項12】
前記第1導電性塩のモル濃度が、前記電解質の全体積を基準にして、0.05mol/l~10mol/
lの範囲内である、請求項1~11の何れか1項に記載の電解質。
【請求項13】
導電性塩1molあたり、少なくとも0.1molのSO
2
を含む、請求項1~12の何れか1項に記載の電解質。
【請求項14】
請求項1~13の少なくとも1項に記載の電解質と、活性金属と、少なくとも1つの正電極(4)と、少なくとも1つの負電極(5)と、ハウジング(1)とを備える、再充電可能なバッテリーセル(2)。
【請求項15】
前記活性金属が、
-アルカリ金
属;
-アルカリ土類金
属;
-元素周期表の第12族の金
属;または
-アルミニウム
である、請求項14に記載の再充電可能なバッテリーセル(2)。
【請求項16】
前記負電極(5)
が挿入電極である、請求項14または15に記載の再充電可能なバッテリーセル(2)。
【請求項17】
前記正電極(4)が、活物質として少なくとも1つのインターカレーション化合物を含み、前記インターカレーション化合物が
、組成Li
xM’
yM”
zO
aを有し、式中、
-M’は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnの元素からなる群から選択される少なくとも1種の金属であり、
-M”は、元素周期表の第2族、第3族、第4族、第5族、第6族、第7族、第8族、第9族、第10族、第11族、第12族、第13族、第14族、第15族および第16族の元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、
-xおよびyは、0より大きく、
-zは、0以上であり、そして
-aは、0より大きい、
請求項14~16の何れか1項に記載の再充電可能なバッテリーセル(2)。
【請求項18】
前記インターカレーション化合物が、Li
xM’
yM”
zO
aの組成を有し、式中、M’は鉄であり、M”はリンであ
る、請求項17に記載の再充電可能なバッテリーセル(2)。
【請求項19】
前記インターカレーション化合物が、Li
xM’
yM”
zO
aの組成を有し、式中、M’はマンガンであり、M”はコバルトであ
る、請求項17または18に記載の再充電可能なバッテリーセル(2)。
【請求項20】
前記インターカレーション化合物が、Li
xM’
yM”
zO
aの組成を有し、式中、M’はニッケルおよびマンガンを含み、M”はコバルトである、請求項17または18に記載の再充電可能なバッテリーセル(2)。
【請求項21】
前記正電極(4)が、金属酸化物、金属ハロゲン化物および金属リン酸塩からなる群から選択される少なくとも1つの金属化合物を含み、前記金属化合物の金属が
、元素の周期表の原子番号が22から28の遷移金
属である、請求項14~20の何れか1項に記載の再充電可能なバッテリーセル(2)。
【請求項22】
正電極(4)および/または負電極(5)が
、
-金属板または金属箔の形態において、平面的な形状、または
-多孔質金属構造の形態における三次元的な形状である
導電性素子(34、35)を備える、請求項14~21の何れか1項に記載の再充電可能なバッテリーセル(2)。
【請求項23】
正電極(4)および/または負電極(5)が
、
フッ素系バインダー
、
共役カルボン酸のモノマー構造単位、または前記共役カルボン酸のアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム塩、またはこれらの組み合わせから構成されるポリマーからなるバインダー
、
モノマースチレンおよびブタジエン構造単位をベースとするポリマーからなるバインダー、
および、
カルボキシメチルセルロースの群から
選択されるバインダー、
からなる群から選択される少なくとも1つのバインダーを含み、
ここで、前記バインダーが、前記正電極の総重量に基づいて
、最大で20重量
%の濃度で存在する、請求項14~22の何れか1項に記載の再充電可能なバッテリーセル(2)。
【請求項24】
ハウジング(1)内に交互に配置された複数の負電極(5)および複数の正電極(4)を備え、前記正電極(4)および前記負電極(5)が
、セパレータ(11)によって互いに電気的に分離されている、請求項14~23の何れか1項に記載の再充電可能なバッテリーセル(2)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再充電可能なバッテリーセル用のSO2ベースの電解質および再充電可能なバッテリーセルに関する。
【背景技術】
【0002】
再充電可能なバッテリーセルは、多くの技術分野で非常に重要である。それらは、例えば、携帯電話の操作など、比較的小さい電流強度を有する小型の再充電可能なバッテリーセルのみを必要とする用途に使用されている。しかし、高エネルギー用途では、より大きな再充電可能なバッテリーセルが必要とされており、車両の電気駆動においては、バッテリーセルの形態におけるエネルギーの大量貯蔵が特に重要となっている。
【0003】
高エネルギー密度は、これらのタイプの再充電可能なバッテリーセルの重要な要件である。これは、前記再充電可能なバッテリーセルが単位重量および単位体積あたりにできるだけ多くの電気エネルギーを有することを意味する。この目的のためには、活性金属としてリチウムが特に有利であることがわかっている。再充電可能なバッテリーセルの活性金属とは、充放電時に電解質中のイオンが負電極または正電極に移動する金属である。そこで電気化学プロセスに関与し、この電気化学プロセスは、直接的または間接的に、外部回路への電子の放出または外部回路からの電子の吸収につながる。活性金属としてリチウムを有する再充電可能なバッテリーセルは、リチウムイオン電池とも呼ばれる。これらのリチウムイオン電池のエネルギー密度は、電極の比容量(capacitance)を大きくするか、セル電圧を大きくするかのいずれかで増加できる。
【0004】
リチウムイオン電池の正電極と負電極の両方が挿入電極として設計されている。
【0005】
本発明でいう「挿入電極」とは、リチウムイオン電池の動作中に活物質のイオンを貯蔵および除去することができる結晶構造を有する電極を指す。これは、電極プロセスが電極の表面だけでなく、結晶構造内でも行われる可能性があることを意味する。リチウムイオン電池の負電極は、銅製の導電体上にカーボンを塗布したものである。この導電体は、炭素被膜と外部回路との間に必要な電子伝導的接続をもたらす。正電極はコバルト酸リチウム(LiCoO2)から作製され、アルミニウム製の導電体上に塗布されている。通常、両電極の厚さは100μm未満であるため、非常に薄いものとなっている。リチウムイオン電池を充電すると、活性金属のイオンが正電極から除去され、負電極に蓄積される。リチウムイオン電池が放電されると、逆のプロセスが実行される。
【0006】
電解質は、任意の再充電可能なバッテリーセルの重要な機能要素である。それは通常、溶媒または溶媒のブレンド物、および少なくとも1つの導電性塩を含む。例えば、固体電解質またはイオン液体は、溶媒を含まない。それらは、導電性塩のみを含む。前記電解質は、前記バッテリーセルの正電極と負電極に接触している。導電性塩の少なくとも1つのイオン(アニオンまたはカチオン)は、電解質中で移動可能であるので、再充電可能なバッテリーセルの機能に必要な電極間の電荷輸送がイオン伝導によって行われる。前記電解質は、再充電可能なバッテリーセルの特定の上部セル電圧で酸化的に電気化学的に分解される。このプロセスは、多くの場合、電解質成分の不可逆的な破壊につながり、したがって、再充電可能なバッテリーセルの故障につながる。また、特定のセル電圧以下になると、還元的なプロセスによって電解質が分解される可能性がある。これらのプロセスを回避するために、セル電圧が電解質の分解電圧以下またはそれ以上になるように、正電極および負電極が選択される。このようにして、電圧ウィンドウ、すなわち再充電可能なバッテリーセルを可逆的に動作させることができる範囲が、電解質によって決定される。
【0007】
従来技術から知られているリチウムイオン電池は、有機溶媒または溶媒ブレンド物とそれに溶解した導電性塩とからなる電解質を含有している。前記導電性塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)などのリチウム塩である。前記溶媒ブレンド物は、例えば、エチレンカーボネートを含み得る。有機溶媒または溶媒ブレンド物のため、これらの種類のリチウムイオン電池は、有機リチウムイオン電池とも呼ばれる。有機リチウムイオン電池を意図せずに過充電すると、電解質成分が不可逆的に分解されることが長く知られている。正電極の表面では、有機溶媒および/または導電性塩の酸化分解が起こる。この分解の際に発生する反応熱と、その結果として発生するガス状の生成物により、その後の「熱暴走」とその結果として生じる有機リチウムイオン電池の破壊がもたらされる。これらの有機リチウムイオン電池の充電プロトコルの大部分は、充電終止のインジケーターとしてセル電圧を用いている。この熱暴走による事故は、直列に接続した容量の異なる複数の有機リチウムイオン電池からなるマルチセルバッテリーパックを使用した場合に特に発生しやすい。
【0008】
そのため、有機リチウムイオン電池は、その安定性と長期的な動作信頼性の点で問題がある。また、有機溶媒または溶媒ブレンド物の可燃性により、安全上のリスクが生じる。有機リチウムイオン電池が発火、または爆発すると、前記電解質の有機溶媒が可燃性物質となる。これらの安全上のリスクを回避するために、追加の対策が必要である。これらの対策には、有機リチウムイオン電池の充放電プロセスを正確に制御することや、バッテリーの設計を最適化することなどが挙げられる。さらに、有機リチウムイオン電池には、意図せず温度が上昇することにより溶融する可能性がある部品が含まれており、有機リチウムイオン電池に、溶融したプラスチックが流れ込む可能性がある。このようにして、温度のさらなる制御されない上昇が防止される。しかし、これらの対策は、有機リチウムイオン電池を製造する際の製造コストの増加や、体積および重量の増加につながる。また、これらにより有機リチウムイオン電池のエネルギー密度が低下する。
【0009】
有機リチウムイオン電池のさらなる欠点は、残留する水により生成される加水分解生成物が、再充電可能なバッテリーセルのセル構成要素に対して非常にアグレッシブであることである。たとえば、有機セルでよく使用される導電性塩LiPF6は、微量の水と反応し、非常に反応性が高く、アグレッシブなフッ化水素(HF)が生成される。このため、有機電解質を有するこのような再充電可能なバッテリーセルを製造する際には、電解質およびセル構成要素に含まれる残留水分含有量を最小限に抑えることが重要である。これが、これらバッテリーセルが極めて低い湿度状態の下で、コストのかかる乾燥室で製造される理由である。安定性と長期的な動作の信頼性に関する上記の問題は、有機リチウムイオン電池の開発にとって特に重要である。有機リチウムイオン電池は、高いエネルギーと出力密度レベルを有する一方で、動作信頼性が非常に高く耐用年数が非常に長い、特に使用可能な充放電サイクル数が多いという特徴を有する。
【0010】
そこで、従来から知られているように、再充電可能なバッテリーセルに有機電解質の代わりに二酸化硫黄(SO2)をベースとする電解質を使用することが考えられる。SO2ベースの電解質を含む再充電可能なバッテリーセルは、高レベルのイオン伝導性を示す。「SO2ベースの電解質」とは、SO2を単に低濃度の添加剤としてではなく、電解質中に構成され電荷輸送を行う導電性塩中のイオンの移動性が、少なくとも一部、大部分、あるいは完全にSO2によって確保されている電解質のことである。そのため、SO2は導電性塩の溶媒として機能する。導電性塩およびガス状のSO2は液体の溶媒錯体を形成し得、それによってSO2が結合して純粋なSO2に比べて蒸気圧が顕著に低下し、低い蒸気圧を有する電解質が生成される。このSO2ベースの電解質は、上述の有機溶媒ベース電解質に比べて不燃性であるという利点がある。電解質の可燃性に起因する安全上のリスクを排除することができる。
【0011】
例えば、欧州特許第1201004号明細書(特許文献1)には、LiAlCl4
*SO2からなるSO2ベースの電解質と、LiCoO2からなる正電極との組み合わせが言及されている。特許文献1は、再充電可能なバッテリーセルが4.1~4.2ボルトの電位から過充電されたときに、テトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl4)から塩素(Cl2)が望ましくない形で生成されるなどの破壊的な分解反応を避けるために、追加の塩を使用することを提案している。
【0012】
また、欧州特許第2534719号明細書(特許文献2)には、導電性塩としてLiAlCl4を特に使用するSO2ベースの電解質が開示されている。前記LiAlCl4およびSO2は、式LiAlCl4
*1.5 mol SO2またはLiAlCl4
*6mol SO2の錯体を形成する。正電極として、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)が用いられる。LiFePO4は、LiCoO2(4.2V)に比べて充電電圧が低い(3.7V)。この再充電可能なバッテリーでは、電解質に有害な4.1Vの電位に達しないため、望ましくない過充電反応は生じない。とりわけ、これらのSO2ベースの電解質で特に発生する欠点は、残留量の水により生成される加水分解生成物が再充電可能なバッテリーのセル構成要素と反応する。これにより、望ましくない副生成物の形成がもたらされる。SO2ベースの電解質を有するこれらのタイプの再充電可能なバッテリーセルを製造する際には、電解質およびセル構成要素に含まれる残留水分量を最小限に抑えることが重要である。
【0013】
SO2ベースの電解質により引き起こされる別の問題点は、特に有機リチウムイオン電池で知られている多くの導電性塩がSO2に溶解しないことである。測定により、例えば、フッ化リチウム(LiF)、臭化リチウム(LiBr)、硫酸リチウム(Li2SO4)、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBOB)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF6)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)、トリリチウムヘキサフルオロアルミン酸塩(Li3AlF6)、リチウムヘキサフルオロアンチモネート(LiSbF6)、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBF2C2O4)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiTFSI)、メタホウ酸リチウム(LiBO2)、アルミン酸リチウム(LiAlO2)、リチウムトリフラート(LiCF3SO3)、クロロスルホン酸リチウム(LiSO3Cl)などの多数の塩がSO2にあまり溶けないことがわかる。
【0014】
これらの塩のSO2に対する溶解度は約10-2~10-4mol/Lである(表1)。このような低い濃度では、導電率は低く、再充電可能なバッテリーセルの効率的な動作には十分ではないと考えられる。
【0015】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】欧州特許第1201004号明細書
【文献】欧州特許第2534719号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
SO2ベースの電解質とこの電解質を含む再充電可能なバッテリーセルの用途と特性の範囲をさらに改善するために、本発明の目的は、SO2ベースの電解質を規定することであり、この再充電可能なバッテリーセルは、先行技術の電解質と比較して、
-広い電気化学的ウィンドウ(electrochemical window)を有するため、正電極での酸化的な電解質の分解が起こらない。
-負電極に安定した最上層(top layer)を形成し、それによって最上層の容量が低くなり、さらなる動作中に負電極でさらなる還元性電解質の分解が起こらない。
-広い電気化学的ウィンドウのため、高電圧のカソードを有する再充電可能なバッテリーセルの動作が可能になる。
-導電性塩類の溶解度が高く、イオン伝導性と電子絶縁性に優れているため、イオン輸送を促進し、自己放電を最小限に抑える。
-セパレータ、電極材料、セルパック材料など、再充電可能なバッテリーセルの他の構成要素に対しても不活性である。
-様々な誤使用(電気的、機械的、熱的誤使用など)に対して耐性がある。
-再充電可能なバッテリーセルのセル構成要素に含まれる残留水分量に対する安定性が向上している。
【0018】
これらのタイプの電解質は、特に、再充電可能なバッテリーセルの動作中に電解質の分解を引き起こすことなく、特に非常に高いエネルギーおよび電力密度レベルと、高度な動作信頼性と、特に多い使用可能充放電サイクル数を含む長い耐用年数とを示す再充電可能なバッテリーセルに使用するために設計される。
【0019】
本発明の他の目的は、再充電可能なバッテリーセルを提供することであり、この再充電可能なバッテリーセルは、SO2をベースとする電解質を含み、先行技術の再充電可能なバッテリーセルとは対照的に、以下を提供する。
-電気的性能が向上し、特にエネルギー密度レベルが高い。
-過充電や過剰放電能が改善される。
-自己放電が少ない。
-耐用年数の向上、特に使用可能な充放電サイクル数の増加を示す。
-総重量の減少。
-より厳しい車内環境下でも操作上の安全性が向上する。
-製造コストの削減。
【課題を解決するための手段】
【0020】
その目的は、請求項1で特徴付けられる特徴を示すSO2ベースの電解質、および請求項14で特徴付けられる性質を示す再充電可能なバッテリーセルによって達成される。本発明による電解質の有利な実施形態は、請求項2~13に定義されている。請求項15~24には、本発明による再充電可能なバッテリーセルの有利なさらなる実施形態が記載されている。
【0021】
本発明による再充電可能なバッテリーセル用SO2ベースの電解質は、式(I)で表される少なくとも1つの第1導電性塩を含む。
【0022】
【0023】
式(I)において、Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、元素周期表第12族の金属およびアルミニウムからなる群から選択される金属であり、xは1~3の整数である。置換基R1,R2,R3およびR4は、C1~C10アルキル、C2~C10アルケニル、C2~C10アルキニル、C3~C10シクロアルキル、C6~C14アリールおよびC5~C14ヘテロアリールからなる群から、独立して選択される。前記中心原子Zは、アルミニウムまたはホウ素のいずれかである。
【0024】
本発明によるSO2ベースの電解質は、低濃度の、ならびに電解質中に含まれて電荷輸送を行う第1導電性塩のイオンの移動性がSO2によって少なくとも部分的に、大部分に、あるいは完全に確保される濃度の、SO2を、添加剤として含有する。第1導電性塩は、電解質に溶解し、非常に良好な溶解性を示す。それは、ガス状のSO2と液体溶媒錯体を形成することができ、その中でSO2は結合している。この場合、液体溶媒錯体の蒸気圧は純粋なSO2に比べて顕著に低下し、低い蒸気圧の電解質が生成される。
【0025】
しかし、式(I)による第1導電性塩の化学構造によっては、本発明による電解質の作製中に蒸気圧の低下が起こらない可能性があることも本発明の範囲内である。この場合、本発明による電解質を作製する際に、低温または加圧下で作業を行うことが好ましい。また、前記電解質は、化学構造が異なる式(I)の導電性塩をいくつか含んでいてもよい。
【0026】
本発明で使用される「C1-C10アルキル」という用語は、1~10個の炭素原子を有する直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基を指す。これらには、特に、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、iso-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、iso-ペンチル、2,2-ジメチルプロピル、n-ヘキシル、iso-ヘキシル、2-エチルヘキシル、n-ヘプチル、iso-ヘプチル、n-オクチル、iso-オクチル、n-ノニル、n-デシルなどが含まれる。
【0027】
本発明で使用される「C2-C10アルケニル」という用語は、2~10個の炭素原子を有する不飽和の直鎖状または分枝状の炭化水素基を指し、前記炭化水素基は少なくとも1つのC-C二重結合を有する。これらには、特に、エテニル、1-プロペニル、2-プロペニル、1-n-ブテニル、2-n-ブテニル、iso-ブテニル、1-ペンテニル、1-ヘキセニル、1-ヘプテニル、1-オクテニル、1-ノネニル、1-デセニルなどが含まれる。
【0028】
本発明で使用される「C2-C10アルキニル」という用語は、2~10個の炭素原子を有する不飽和の直鎖状または分岐状の炭化水素基を指し、前記炭化水素基は少なくとも1つのC-C三重結合を有する。これらには、特に、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-n-ブチニル、2-n-ブチニル、iso-ブチニル、1-ペンチニル、1-ヘキシニル、1-ヘプチニル、1-オクチニル、1-ノニニル、1-デシニルなどが含まれる。
【0029】
本発明で使用される「C3-C10シクロアルキル」という用語は、3~10個の炭素原子を有する環状の飽和炭化水素基を指し、これらには、特に、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロヘキシル、シクロノノニル(cyclonononyl)およびシクロデカニルが含まれる。
【0030】
本発明で使用される「C6-C14アリール」という用語は、炭素原子の6~14個の環を有する芳香族炭化水素基を指す。これらには、特に、フェニル(C6H5基)、ナフチル(C10H7基)およびアントラシル(C14H9基)が含まれる。
【0031】
本発明で使用される「C5-C14ヘテロアリール」という用語は、少なくとも1つの原子が1つの窒素原子、酸素原子または硫黄原子で置換されている、炭素原子5~14個の環を有する芳香族炭化水素基を含む。具体的には、ピロリル、フラニル、チオフェニル、ピリジニル、ピラニル、チオピラニルなどが挙げられる。上述の炭化水素基はいずれも、式(I)による酸素原子を介して中心原子に結合されている。
【0032】
先行技術の電解質に対するこのような電解質の利点は、その中に含まれる第1導電性塩が高い酸化安定度を有し、その結果、高いセル電圧でも本質的に分解が起こらないことである。この電解質は、好ましくは少なくとも4.0ボルトまで、より好ましくは少なくとも4.2ボルトの電位まで、より好ましくは少なくとも4.4ボルトの電位まで、より好ましくは少なくとも4.6ボルトの電位まで、より好ましくは少なくとも4.8ボルトの電位まで、最も好ましくは少なくとも5.0ボルトの電位まで酸化に対して耐性がある。その結果、このような電解質を再充電可能なバッテリーセルに使用した場合、再充電可能なバッテリーセルの両電極の作動電位内で電解質の分解がほとんどまたは全く生じない。このため、先行技術の電解質と比較して、電解質の寿命が大幅に延長される。また、このような電解質は、低温にも強い。電解質中に少量の水(ppmの範囲)が残留している場合、電解質または第1導電性塩が水と反応し、SO2ベースの電解質を使用した場合(先行技術の電解質と比較して)セル構成要素に対する攻撃性が著しく低い加水分解生成物を形成する。その結果、SO2ベースの電解質では、電解質中に水が存在しないことは、先行技術の電解質の場合よりも重要ではない。
【0033】
本発明による電解質のこれらの利点は、式(I)に基づく第1導電性塩が、先行技術の導電性塩と比べて著しく大きいアニオンサイズを有するという欠点を上回る。このより大きいアニオンサイズにより、LiAlCl4の導電率と比較して、式(I)による第1導電性塩の導電率がより低くなる。
【0034】
本発明の別の態様によれば、再充電可能なバッテリーセルが提供される。この再充電可能なバッテリーセルは、先に記載した本発明による電解質、または以下に記載する本発明による電解質の有利な実施形態に基づく電解質を含む。さらに、本発明による再充電可能なバッテリーセルは、活性金属と、少なくとも1つの正電極と、少なくとも1つの負電極と、ハウジングとを備える。
【0035】
本発明による電解質の第1の好ましい実施形態は、置換基R1,R2,R3およびR4が、独立して、
-好ましくはC2-C4アルキルの、特に好ましくはアルキル基2-プロピル、メチルおよびエチルの、C1-C6アルキル;
-好ましくはC2-C4アルケニルの、特に好ましくはアルケニル基エテニルおよびプロペニルの、C2-C6アルケニル;
-好ましくはC2-C4アルキニルの、C2-C6アルキニル;
-C3-C6シクロアルキル;
-フェニル;および
-C5-C7ヘテロアリール
からなる群から選択されることが提供される。
【0036】
本発明による電解質のこの有利な実施形態で使用される用語「C1~C6アルキル」という用語は、1~6個の炭化水素基を有する直鎖または分岐の飽和炭化水素基が含まれ、特にメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、iso-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、iso-ペンチル、2,2-ジメチルプロピル、n-ヘキシル、iso-ヘキシルが挙げられる。ここでは、C2-C4アルキルが好ましい。C2-C4アルキルである2-プロピル、メチル、およびエチルが特に好ましい。
【0037】
本発明による電解質のこの有利な実施形態で使用される用語「C2-C6アルケニル」には、2~6個の炭素原子を有する不飽和の直鎖状または分枝状の炭化水素基が含まれ、前記炭化水素基は少なくとも1つのC-C二重結合を有する。これらは特に、エテニル、1-プロペニル、2-プロペニル、1-n-ブテニル、2-n-ブテニル、iso-ブテニル、1-ペンテニルおよび1-ヘキセニルを含み、C2-C4アルケニルが好ましい。特にエテニルおよび1-プロペニルが好ましい。
【0038】
本発明による電解質のこの有利な実施形態で使用される用語「C2-C6アルキニル」には、2~6個の炭素原子を有する不飽和の直鎖状または分枝状の炭化水素基が含まれ、前記炭化水素基は少なくとも1つのC-C三重結合を有する。これらは特に、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-n-ブチニル、2-n-ブチニル、iso-ブチニル、1-ペンチニル、1-ヘキシニルを含む。ここでは、C2-C4アルキニルが好ましい。
【0039】
本発明による電解質のこの有利な実施形態で使用される用語「C3-C6シクロアルキル」には、3~6個の炭素原子を有する環状の飽和炭化水素基が含まれる。これらは特に、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルを含む。
【0040】
本発明による電解質のこの有利な実施形態で使用される用語「C5-C7ヘテロアリール」には、フェニルおよびナフチルが含まれる。
【0041】
SO2ベースの電解質における第1導電性塩の溶解性を向上させるために、R1,R2,R3およびR4は、少なくとも1つのフッ素原子によって、および/または、少なくとも1つの化学基によって置換されており、前記化学基は、C1-C4アルキル、C2-C4アルケニル、C2-C4アルキニル、フェニルおよびベンジルからなる群から選択される。化学基C1-C4アルキル、C2-C4アルケニル、C2-C4アルキニル、フェニルおよびベンジルは、上述した炭化水素基と同様の性質または化学構造を有する。ここでいう置換とは、置換基R1,R2,R3およびR4の個々の原子または原子群が、フッ素原子および/または化学基で置換されていることを意味する。
【0042】
置換基R1,R2,R3およびR4の少なくとも1つがCF3基またはOSO2CF3基を形成するようにすることで、SO2ベースの電解質に対する第1導電性塩の特に高い溶解性を達成することができる。
【0043】
本発明による電解質の他の実施形態では、第1導電性塩は、以下からなる群から選択される。
【0044】
【0045】
電解質の導電率および/またはさらなる特性を所望の値に調整するために、前記電解質の他の有利な実施形態は、式(I)による第1導電性塩とは異なる少なくとも1つの第2導電性塩を提供する。つまり、電解質は、第1導電性塩に加えて、その化学組成および構造において第1導電性塩とは異なる1つまたはいくつかの第2導電性塩も含み得る。
【0046】
本発明による電解質の他の実施形態では、第2導電性塩は、アルカリ金属化合物、特にリチウム化合物である。
【0047】
アルカリ金属化合物またはリチウム化合物は、アルミン酸塩、ハロゲン化物、シュウ酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、ヒ酸塩、および没食子酸塩からなる群から選択される。第2導電性塩は、好ましくは、テトラハロゲンアルミン酸リチウム(lithium tetrahalogenoaluminate)であり、特にLiAlCl4である。
【0048】
さらに、別の実施形態では、電解質は、少なくとも1つの添加剤を含む。この添加剤は、好ましくは、ビニレンカーボネートおよびその誘導体、ビニルエチレンカーボネートおよびその誘導体、メチルエチレンカーボネートおよびその誘導体、(ビスオキサラト)ホウ酸リチウム、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウム、シュウ酸リチウム、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、環状のエキソメチレンカーボネート類、スルトン類、環状および非環状のスルホン酸塩類、非環状の亜硫酸塩類、環状および非環状のスルフィン酸塩類、無機酸類の有機エステル類、1バールで少なくとも36℃の沸点を有する非環状および環状のアルカン類、芳香族化合物類、ハロゲン化された環状および非環状スルホニルイミド類、ハロゲン化された環状および非環状リン酸エステル類、ハロゲン化された環状および非環状ホスフィン類、ハロゲン化された環状および非環状ホスファイト類、ハロゲン化された環状および非環状のホスファゼン類、ハロゲン化された環状および非環状のシリルアミン類、ハロゲン化された環状および非環状のハロゲン化エステル類、ハロゲン化された環状および非環状のアミド類、ハロゲン化された環状および非環状の無水物類、ハロゲン化された有機複素環類などである。
【0049】
電解質の総重量に基づく他の好ましい実施形態において、前記電解質は、
(i)5~99.4重量%の二酸化硫黄、
(ii)0.6~95重量%の第1導電性塩、
(iii)0~25重量%の第2導電性塩、および
(iv)0~10重量%の添加剤
【0050】
すでに上述したように、電解質は、式(I)による第1導電性塩と第2導電性塩だけでなく、式(I)によるいくつかの第1導電性塩およびいくつかの第2導電性塩を含み得る。
【0051】
この場合、前記パーセンテージも、いくつかの第1導電性塩およびいくつかの第2導電性塩を含む。第1導電性塩のモル濃度は、前記電解質の全体積に対して、0.05mol/l~10mol/l、好ましくは0.1mol/l~6mol/l、最も好ましくは0.2mol/l~3.5mol/lの範囲内である。
【0052】
本発明による再充電可能なバッテリーセルの他の実施形態は、前記電解質が、導電性塩1molあたり、少なくとも0.1molのSO2、好ましくは少なくとも1molのSO2、より好ましくは少なくとも5molのSO2、より好ましくは少なくとも10molのSO2、最も好ましくは少なくとも20molのSO2を含むものとすることを規定する。電解質はまた、非常に高いモル比のSO2を含み得、好ましい上限値は、導電性塩1molあたり2600molのSO2であり、導電性塩1molあたり1500、1000、500および100molのSO2の上限がこの順でさらに好ましい。「導電性塩1molあたり」という用語は、電解質に含まれるすべての導電性塩を指す。SO2と導電性塩との間にこのような濃度比を有するSO2ベースの電解質は、例えば、有機溶媒ブレンド物をベースとする先行技術の電解質よりも、より多くの量の導電性塩を溶解することができるという利点を有する。本発明の範囲内で、驚くべきことに、比較的低濃度の導電性塩を有する電解質は、蒸気圧が高いもかかわらず、特に前記再充電可能なバッテリーセルの多くの充電および放電サイクルにわたるその安定性に関して有利であることがわかった。電解質中のSO2の濃度は、その導電性に影響を与える。したがって、SO2濃度を選択することにより、電解質の導電性を、この電解質により動作する再充電可能なバッテリーセルの意図された使用に合わせて適合させることができる。
【0053】
SO2および第1導電性塩の総含有量は、電解質の重量の50重量パーセント(重量%)を超え、より好ましくは60重量%を超え、より好ましくは70重量%を超え、より好ましくは80重量%を超え、より好ましくは85重量%を超え、より好ましくは90重量%を超え、より好ましくは95重量%を超え、またはより好ましくは99重量%を超え得る。
【0054】
電解質は、再充電可能なバッテリーセルに含まれる電解質の総量を基準にして、少なくとも5重量%のSO2を含み得、20重量%のSO2、40重量%のSO2、60重量%のSO2の値が、さらに好ましい。また、電解質は、最大で95重量%のSO2を含み得、最大値は、80重量%のSO2、90重量%のSO2の順に好ましい。
【0055】
電解質が、好ましくは、少なくとも1つの有機溶媒をわずかな比率だけ、あるいは全く有していないことは、本発明の範囲内である。好ましくは、電解質中の有機溶媒の割合は、例えば、1つの溶媒または溶媒ブレンド物の形で存在するが、電解質の重量の50重量%を超えないものとする。電解質の40重量%以下、30重量%以下、20重量%以下、15重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、または1重量%以下の低い割合が特に好ましい。さらに好ましい実施形態では、電解質は有機溶媒を含まない。有機溶媒の割合が低いか、あるいは完全に含まれていないため、電解質はほとんど可燃性を有さないか、あるいは全く可燃性を有さない。これにより、この種のSO2ベースの電解質を用いた再充電可能なバッテリーセルの動作安全性が高まる。本質的に有機物質を含まないSO2ベースの電解質が、特に好ましい。
【0056】
活性金属
以下では、活性金属に関する本発明による再充電可能なバッテリーセルの有利なさらなる実施形態を説明する。
【0057】
第1の有利なさらなる実施形態では、前記再充電可能なバッテリーセルは、活性金属:
-アルカリ金属、特にリチウムまたはナトリウム;
-アルカリ土類金属、特にカルシウム;
-元素周期表の第12族の金属、特に亜鉛;または
-アルミニウム
である。
【0058】
負電極
以下では、本発明による再充電可能なバッテリーセルの、負電極に関する有利なさらなる実施形態を説明する。
【0059】
再充電可能なバッテリーセルの他の有利なさらなる実施形態は、負電極が挿入電極であることを規定する。この挿入電極は、活物質としての挿入物質を含み、この挿入物質には、再充電可能なバッテリーセルの充電中に活性金属のイオンが蓄積され、再充電可能なバッテリーセルの放電中に活性金属のイオンがそこから除去され得る。つまり、電極の表面だけでなく、負電極の内部でも電極プロセスが発生し得る。例えば、リチウムをベースとする導電性塩を用いれば、再充電可能なバッテリーセルの充電中にリチウムイオンを挿入物質に蓄積し、再充電可能なバッテリーセルの放電中にリチウムイオンを前記挿入物質から除去することができる。前記負電極は、活物質または挿入物質として、特にグラファイト変形物において、カーボンを好ましくは含む。しかし、カーボンが、天然グラファイト(フレーク状または丸みを帯びたもの)、合成グラファイト(メソフェーズグラファイト)、グラファイト化メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、カーボンコーティングされたグラファイトまたはアモルファスカーボンの形態で提供されることも本発明の範囲内である。
【0060】
再充電可能なバッテリーセルの他の有利なさらなる実施形態では、負電極は、チタン酸リチウム(例えば、Li4Ti5O12)などの、カーボンを含まないリチウムインターカレーションアノード活物質を含む。
【0061】
本発明による再充電可能なバッテリーセルの他の有利なさらなる実施形態は、リチウムを有する負電極が、合金形成アノード活物質を含むことを規定する。これらは、リチウムを吸蔵する金属および合金(例えば、Si、Ge、Sn、SnCoxCy、SnSixなど)や、リチウムを吸蔵する金属および合金の酸化物(例えば、SnOx、SiOx、Sn、Siなどの酸化物ガラス)などである。
【0062】
本発明による再充電可能なバッテリーセルの他の有利なさらなる実施形態では、負電極は変換アノード活物質を含有している。前記変換アノード活物質は、例えば、マンガン酸化物(MnOx)、鉄酸化物(FeOx)、コバルト酸化物(CoOx)、ニッケル酸化物(NiOx)、銅酸化物(CuOx)などの形態の遷移金属酸化物や、水素化マグネシウム(MgH2)、水素化チタン(TiH2)、水素化アルミニウム(AlH3)、ホウ素、アルミニウムおよびマグネシウムベースの三元水素化物などの金属水素化物がある。
【0063】
本発明による再充電可能なバッテリーセルの他の有利なさらなる実施形態では、前記負電極が、金属、特に金属リチウムを含む。
【0064】
本発明による再充電可能なバッテリーセルの他の有利なさらなる実施形態では、負電極が多孔質であり、その最大空隙率は、好ましくは50%、より好ましくは45%、より好ましくは40%、より好ましくは35%、より好ましくは30%、より好ましくは20%、最も好ましくは10%である。空隙率とは、負電極の総体積に対する空洞の体積を表しており、空洞の体積は、いわゆる細孔や空洞によって形成されているものである。この空隙率により、負電極の内表面が大きくなる。さらに、これにより、負電極の密度が低下し、重量も減少する。負電極の個々の細孔は、好ましくは、動作中に電解質で完全に満たされ得る。
【0065】
本発明によるバッテリーセルの他の有利なさらなる実施形態は、負電極が導電性素子を有することを提供する。これは、負電極が、活性物質または挿入物質に加えて、導電性素子を有していることを意味する。この導電性素子は、負電極の活物質の必要な導電性接続を可能にするために使用される。そのために、前記導電性素子は、負電極の電極反応の活物質と接触している。前記導電性素子は、金属薄板または金属薄箔の形態で平面的な形状を有する。金属薄板は、好ましくは、穴あきまたはメッシュ状の構造を有する。
【0066】
前記負電極の活物質は、金属薄板または金属薄箔の表面に塗布されていることが好ましい。このような平面導電性素子は、5μm~50μmの範囲内の厚さを有する。平面導電性素子の厚さは、10μm~30μmの範囲であることが好ましい。平面導電性素子を使用する場合、負電極は、少なくとも20μm、好ましくは少なくとも40μm、最も好ましくは少なくとも60μmの、全体の厚さを有し得る。最大の厚さは、200μm以下、好ましくは150μm以下、最も好ましくは100μm以下である。負電極の面積固有容量は、平面導電性素子を用いた場合、好ましくは少なくとも0.5mAh/cm2であり、以下の値:1mAh/cm2、3mAh/cm2、5mAh/cm2、10mAh/cm2がこの順でさらに好ましい。
【0067】
さらに、導電性素子は、三次元多孔質金属構造体、特に発泡金属から構成され得る。「三次元多孔質金属構造体」とは、金属薄板または金属箔のように、電極表面領域の長さや幅だけでなく、その厚さ方向にも延在する金属製の任意の構造体を指す。この三次元多孔質金属構造体は、十分な多孔性を有しているので負電極の活物質が金属構造体の孔に取り込まれる。この活物質の取り込み量や塗布量が負電極の負荷となる。導電性素子が三次元多孔質金属構造体から、特に発泡金属の形態で構成されている場合、負電極は好ましくは少なくとも0.2mm、より好ましくは少なくとも0.3mm、より好ましくは少なくとも0.4mm、より好ましくは少なくとも0.5mm、最も好ましくは少なくとも0.6mmの厚さを有する。この場合、電極の厚さは、有機リチウムイオン電池に使用される負電極に比べて大幅に厚い。別の有利な実施形態では、三次元放電素子、特に発泡金属製のものを使用した場合の負電極の面積固有容量が、好ましくは少なくとも2.5mAh/cm2であり、以下の値:5mAh/cm2、10mAh/cm2、15mAh/cm2、20mAh/cm2、25mAh/cm2、30mAh/cm2がこの順でさらに好ましいことを規定する。
【0068】
前記導電性素子が三次元多孔質金属構造体、特に発泡金属から構成される場合、負電極の活物質の量、すなわちその表面に対する電極の負荷は、少なくとも10mg/cm2、好ましくは少なくとも20mg/cm2、より好ましくは少なくとも40mg/cm2、より好ましくは少なくとも60mg/cm2、より好ましくは少なくとも80mg/cm2、最も好ましくは少なくとも100mg/cm2である。このような負電極の負荷は、再充電可能なバッテリーセルの充電プロセスおよび放電プロセスにポジティブな効果をもたらす。
【0069】
本発明によるバッテリーセルのさらに有利な発展形では、前記負電極は少なくとも1つのバインダーを有する。このバインダーは、好ましくはフッ素系バインダーであり、特にポリフッ化ビニリデン、および/またはテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびフッ化ビニリデンから形成されるターポリマーである。しかし、それはまた、共役カルボン酸のモノマー構造単位、またはこの共役カルボン酸のアルカリ金属、アルカリ土類金属、またはアンモニウム塩、またはこれらの組み合わせから構成されるポリマーからなるバインダーであってもよい。さらに、前記バインダーは、モノマースチレンおよびブタジエン構造単位をベースとするポリマーで構成され得る。さらに、前記バインダーは、カルボキシメチルセルロースの群からのバインダーであってもよい。前記バインダーは、負電極の総重量に基づいて、好ましくは20重量%、より好ましくは15重量%、より好ましくは10重量%、より好ましくは7重量%、より好ましくは5重量%、最も好ましくは2重量%の最大濃度で負電極中に存在する。
【0070】
正電極
以下では、本発明による再充電可能なバッテリーセルの有利なさらなる実施形態について、正電極に関して説明する。
【0071】
本発明によるバッテリーセルの別の有利なさらなる実施形態では、前記正電極は、活物質として少なくとも1つのインターカレーション化合物を含む。本発明の目的のために、用語「インターカレーション化合物」は、上述の挿入物質のサブカテゴリーを意味する。
【0072】
このインターカレーション化合物はホストマトリックスとして機能し、空いたスペースが相互に接続されている。再充電可能なバッテリーセルの放電プロセスにおいて、活性金属のイオンはこれらの空隙に拡散し、蓄積され得る。活性金属のイオンが堆積する間、ホストマトリックスにはわずかな構造変化のみが発生するか、または構造変化が発生しない。好ましくは、前記インターカレーション化合物は、以下の組成LixM’yM”zOaを有し、式中、
-M’は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnの元素からなる群から選択される少なくとも1種の金属である;
-M”は、元素周期表の第2族、第3族、第4族、第5族、第6族、第7族、第8族、第9族、第10族、第11族、第12族、第13族、第14族、第15族および第16族の元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素である;
-xおよびyは、0より大きい;
-zは、0以上である;そして
-aは、0より大きい。
【0073】
添数yおよびzは、それぞれM’およびM”で表される金属と元素の総和を意味する。例えば、M’が2つの金属M’1とM’2を含む場合、添数yは次のように適用される:y=y1+y2、ここでy1、y2は金属M’1とM’2の添数を表す。添数x、y、zおよびaは、組成物内で電荷中性を保つように選択する必要がある。
【0074】
式LixM’yM”zO4の組成物が好ましい。本発明による再充電可能なバッテリーセルの別の有利なさらなる実施形態では、M’鉄およびM”リンが、組成物LixM’yM”zO4において構成されている。この場合、前記インターカレーション化合物は、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)である。本発明による再充電可能なバッテリーセルの別の有利なさらなる実施形態は、M’マンガンおよびM”コバルトが、組成物LixM’yM”zO4中に構成されることを規定する。この場合、インターカレーション化合物は、リチウムコバルトマンガン酸化物(LiCoMnO4)である。LiCoMnO4は、セル電圧が5ボルトを超える高エネルギーセル用のいわゆる高電圧電極を作製するために使用され得る。このLiCoMnO4は、Mn3+を含まないことが好ましい。
【0075】
本発明による再充電可能なバッテリーセルの別の有利なさらなる実施形態は、M’が金属ニッケルとマンガンからなり、M”がコバルトであることを提供する。それらは、式LixNiy1Mny2CozO2(NMC)の組成物である。このようなリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物のインターカレーション化合物の例としては、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2(NMC111)、LiNi0.6Mn0.2Co2O2(NMC622)およびLiNi0.8Mn0.1Co0.1O2(NMC811)などがある。
【0076】
高電圧電極は、本発明による再充電可能なバッテリーにおいて、少なくとも4.0ボルトの上限電位まで、より好ましくは少なくとも4.2ボルトの電位まで、より好ましくは少なくとも4.4ボルトの電位まで、より好ましくは少なくとも4.6ボルトの電位まで、より好ましくは少なくとも4.8ボルトの電位まで、最も好ましくは少なくとも5.0ボルトの電位までサイクルを繰り返され得る。
【0077】
本発明による再充電可能なバッテリーセルの別の有利なさらなる実施形態は、正電極が少なくとも1つの金属化合物を含有することを提供する。この金属化合物は、金属酸化物、金属ハロゲン化物および金属リン酸塩からなる群から選択される。好ましくは、この金属化合物の金属は、元素の周期表の原子番号が22から28の遷移金属であり、特に、コバルト、ニッケル、マンガンまたは鉄が好ましい。
【0078】
本発明による再充電可能なバッテリーセルの別の有利なさらなる実施形態は、正電極が導電性素子を有することを提供する。これは、活物質に加えて、正電極が導電性素子を含むことを意味する。この導電性素子は、正電極の活物質の必要な電子伝導性接続を可能にするために使用される。この目的のために、前記導電性素子は、正電極の電極反応の活物質と接触している。
【0079】
この導電性素子は、金属薄板または金属薄箔の形態で平面的な形状を有し得る。前記金属薄箔は、好ましくは、有孔またはメッシュ状の構造を有している。
【0080】
前記正電極の活物質は、金属薄板または金属薄箔の表面に塗布されていることが好ましい。このような平面導電性素子は、5μm~50μmの範囲内の厚さを有する。平面導電性素子の厚さは、10μm~30μmの範囲であることが好ましい。平面導電性素子を使用する場合、正電極は、少なくとも20μm、好ましくは少なくとも40μm、最も好ましくは少なくとも60μmの、全体の厚さを有し得る。最大の厚さは、200μm以下、好ましくは150μm以下、最も好ましくは100μm以下である。正電極の面積固有容量は、平面導電性素子を用いた場合、好ましくは少なくとも0.5mAh/cm2であり、以下の値:1mAh/cm2、3mAh/cm2、5mAh/cm2、10mAh/cm2がこの順でさらに好ましい。
【0081】
さらに、前記正電極の導電性素子は、三次元多孔質金属構造体、特に発泡金属から構成され得る。前記三次元多孔質金属構造体は、十分な多孔性を有しているので前記正電極の活物質が金属構造体の孔に取り込まれる。この活物質の取り込み量または塗布量が正電極の負荷となる。導電性素子が三次元多孔質金属構造体、特に発泡金属からなる場合、正電極は好ましくは少なくとも0.2mm、好ましくは少なくとも0.3mm、より好ましくは少なくとも0.4mm、より好ましくは少なくとも0.5mm、最も好ましくは少なくとも0.6mmの厚さを有する。他の有利な実施形態では、三次元放電素子、特に発泡金属からなるものを使用した場合の正電極の面積固有容量が、好ましくは少なくとも2.5mAh/cm2であり、以下の値:5mAh/cm2、10mAh/cm2、15mAh/cm2、20mAh/cm2、25mAh/cm2、30mAh/cm2がこの順でさらに好ましいことを規定している。前記導電性素子が三次元多孔質金属構造、特に発泡金属からなる場合、正電極の活物質の量、すなわち電極の負荷は、その表面に対して、少なくとも10mg/cm2、好ましくは少なくとも20mg/cm2、より好ましくは少なくとも40mg/cm2、より好ましくは少なくとも60mg/cm2、より好ましくは少なくとも80mg/cm2、最も好ましくは少なくとも100mg/cm2である。
【0082】
このような正電極の負荷は、再充電可能なバッテリーセルの充電プロセスおよび放電プロセスにポジティブな効果をもたらす。
【0083】
本発明によるバッテリーセルの他の有利なさらなる実施形態では、正電極は少なくとも1つのバインダーを有する。このバインダーは、好ましくはフッ素系バインダーであり、特にポリフッ化ビニリデンおよび/またはテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびフッ化ビニリデンから形成されるターポリマーである。しかし、それはまた、共役カルボン酸のモノマー構造単位、またはこの共役カルボン酸のアルカリ金属、アルカリ土類金属、またはアンモニウム塩、またはこれらの組み合わせから構成されるポリマーからなるバインダーであってもよい。さらに、前記バインダーは、モノマースチレンおよびブタジエン構造単位をベースとするポリマーで構成され得る。さらに、前記バインダーは、カルボキシメチルセルロースの群のバインダーであってもよい。前記バインダーは、電極の総重量に対して、好ましくは20重量%、より好ましくは15重量%、より好ましくは10重量%、より好ましくは7重量%、より好ましくは5重量%、最も好ましくは2重量%の最大濃度で正電極中に存在する。
【0084】
再充電可能なバッテリーセルの設計
本発明による再充電可能なバッテリーセルの有利なさらなる実施形態は、その設計に関して以下に説明される。
【0085】
再充電可能なバッテリーセルの機能をさらに向上させるために、本発明による再充電可能なバッテリーセルの他の有利なさらなる実施形態は、再充電可能なバッテリーセルが、ハウジング内に交互に積層されたいくつかの負電極といくつかの正電極とを備えることを提供する。前記正電極と負電極とは、セパレータによって互いに電気的に分離されていることが好ましい。
【0086】
前記セパレータは、不織布材料、膜、織布もしくは編物材料、有機材料、無機材料、またはそれらの組み合わせからなり得る。有機セパレータは、非置換ポリオレフィン(例えば、ポリプロピレンまたはポリエチレン)、部分的から完全にハロゲン置換されたポリオレフィン(例えば、部分的~完全にフッ素置換、特にPVDF、ETFE、PTFE)、ポリエステル、ポリアミド、ポリスルホンから構成され得る。有機材料および無機材料を組み合わせたセパレータとしては、例えば、ガラス繊維に適切なポリマーでコーティングされたガラス繊維織物材料が挙げられる。コーティングは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン(ETFE)、パーフルオロエチレンプロピレン(FEP)、THV(テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、フッ化ビニリデンのターポリマー)、またはパーフルオロアルコキシポリマー(PFA)などのフッ素含有ポリマー、アミノシラン、ポリプロピレン(PP)またはポリエチレン(PE)を含むことが好ましい。また、再充電可能なバッテリーセルのハウジングにおけるセパレータはまた、例えば、いわゆる「Z折り」で折り畳まれ得る。このZ折りでは、ストリップ状のセパレータが、電極を介して、あるいは電極の周囲で、Z状に折り畳まれる。また、前記セパレータをセパレータ紙として設計することも可能である。
【0087】
また、セパレータをシース(sheath)として設計することも可能であり、各正電極または各負電極がシースによって包まれていることも本発明の範囲内である。このシースは、不織布、膜、織布または編物材料、有機材料、無機材料、またはそれらの組み合わせから構成され得る。
【0088】
正電極をシースが覆うと、再充電可能なバッテリーセル内でより均一なイオン移動とイオン分布がもたらされる。特に負電極のイオン分布が均一であればあるほど、活物質による負電極の充電が大きくなり、結果として再充電可能なバッテリーセルの使用可能な容量が大きくなる。同時に、充電の不均一性やその結果として生じる活物質の分離に伴うリスクを回避することができる。これらの利点は、再充電可能なバッテリーの正電極がシースに包まれている場合に特に有効である。
【0089】
電極およびシースの表面寸法は、好ましくは、シースの外形寸法および電極の外形寸法が少なくとも1つの寸法で一致するような方法で、互いに一致させることができる。
【0090】
また、シースの表面積は、好ましくは、電極の表面積よりも大きくすることができる。この場合、前記シースは、電極の限界を越えて延在する。したがって、電極の両側を覆うシースの2つの層は、エッジコネクタによって正電極のエッジで互いに接続され得る。
【0091】
本発明による再充電可能なバッテリーセルの他の有利な実施形態では、前記負電極はシースを有し、前記正電極はシースを有していない。
【0092】
本発明の他の有利な特性について、図、実施例、実験例を使用して以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【
図1】本発明による再充電可能なバッテリーセルの第1実施形態の例を断面図で示した図である。
【
図2】
図1に示した第1実施形態の発泡金属の三次元多孔質構造の電子顕微鏡画像を詳細に示した図である。
【
図3】本発明による再充電可能なバッテリーセルの第2実施形態の例を示した断面図である。
【
図4】
図3における第2実施形態の例の詳細を示した図である。
【
図5】本発明による再充電可能なバッテリーセルの第3実施形態の例を示した分解図である。
【
図6】化合物1または化合物3の混合電解質のいずれかを参照電解質または前記参照電解質に含むフルセルのサイクル数の関数としての放電容量を示した図である。
【
図7】本発明による電解質の3つの実施形態例1,2もしくは3のいずれか、または参照電解質で充填されたフルセルの充電率の関数として、充電および放電の電位曲線をボルト[V]で示した図である。
【
図8】本発明による電解質の第1実施形態例1を充填したフルセルの充電率の関数としての電位曲線をボルト[V]で示した図である。
【
図9】電解質の第3実施形態例3を充填したフルセルの蓄積された充電の関数として、充電/放電電流に応じた電位曲線をボルト[V]で示した図である。
【
図10】参照電解質を充填した参照フルセルと、本発明による電解質の第1実施形態例1を充填した試験用フルセルの放電容量の平均値をサイクル数の関数として示した図である。
【
図11】サイクル数にわたる、
図10における2つのフルセルの内部抵抗の経過を示した図である。
【
図12】本発明による電解質の第1実施形態例1の導電率[mS/cm]を濃度に応じて示した図である。
【
図13】負電極にトップコートを形成する際の、負電極をリチウムに対して充電したときの参照フルセルと2つの試験用フルセルの電位を、前記負電極の理論容量に関連する容量の関数として、[V]で示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0094】
図1は、本発明による再充電可能なバッテリーセル2の第1実施形態の例を断面図で示したものである。この再充電可能なバッテリーセル2は、プリズマティックセル(prismatic cell)として設計されており、特にハウジング1を有している。このハウジング1は、3つの正電極4と4つの負電極5を含む電極アレイ3を囲んでいる。正電極4および負電極5は、電極アレイ3に交互に積層されている。しかし、ハウジング1は、より多くの正電極4および/または負電極5を収容することもできる。一般的には、負電極5の数が正電極4の数よりも1つ多いと好ましい。結果として、電極スタックの前面は、負電極5の電極面によって構成される。電極4,5は、電極接続部6,7を介して、再充電可能なバッテリーセル2の対応する接点9,10に接続されている。電解質がすべての孔または空洞、特に電極4,5の内部にできるだけ完全に浸透するように、再充電可能なバッテリーセル2には、SO
2ベースの電解質が充填されている。なお、
図1では電解質は表示されない。本実施形態の例では、正電極4は、活物質としてインターカレーション化合物を含有している。このインターカレーション化合物は、LiCoMnO
4である。
【0095】
この実施形態例において、電極4,5は平板状に設計されており、すなわち、表面積に対して薄い厚さを有する層として設計されている。これらはそれぞれ、セパレータ11によって互いに分離されている。示された再充電可能なバッテリーセル2のハウジング1は、本質的には直方体の形状を有しており、断面図で示された電極4,5およびハウジング1の壁は、図面の層に対して垂直に延びており、本質的に直線的で平坦である。しかし、再充電可能なバッテリーセル2は、電極が薄い層で構成され、それがセパレータ材料とともに巻かれたワインディングセルとしても使用され得る。セパレータ11は、正電極4と負電極5を空間的かつ電気的に分離し、活性金属のイオンに対して透過性を有している。このようにして、電気化学的に有効な大きな表面が作製され、これにより大きな電力収率(power yield)が可能になる。
【0096】
また、電極4,5は、それぞれの電極の活物質の必要な電子伝導性接続を可能にする放電素子(
図1に示されていない)を有している。この導電性素子は、それぞれの電極4,5の電極反応に関与する活物質と接触している(
図1には示されていない)。前記導電性素子は、多孔質の発泡金属(metal foam)で構成されている。この発泡金属は、電極4,5の厚み全体にわたって延在する。正電極4および負電極5の活物質は、金属構造体の厚さ全体にわたって細孔を均一に満たすように、この発泡金属の細孔に組み込まれている。機械的強度を向上させるために、正電極4はバインダーも含有している。このバインダーは、フルオロポリマーである。負電極5は、リチウムイオンを吸収するために適した形態の活物質としてのカーボンを含む。負電極5の構造は、正電極4の構造と類似している。
【0097】
図2は、
図1からの第1実施形態の発泡金属18の三次元多孔質構造の詳細な電子顕微鏡画像を示している。スケールにより、細孔Pの平均直径が100μm超であること、すなわち、比較的大きいことが分かる。
【0098】
図3は、本発明による再充電可能なバッテリーセルの第2実施形態を断面図で示したものである。前記第2実施形態の例は、
図1に示す第1実施形態の例とは異なり、電極配列3が1つの正電極4と2つの負電極5から構成されている。正電極4は、平面状の金属箔の形態における導電性素子34を有し、その両面に正電極4の活物質24が塗布されている。また、負電極5は、平面金属箔状の導電性素子35を有しており、その両面に負電極5の活物質25が塗布されている。あるいは、エッジ電極、すなわち電極スタックを閉鎖する電極の平面導電性素子は、片面にのみ活物質が塗布され得る。コーティングされていない側は、ハウジング壁に面している。
【0099】
図4は、
図3の第2実施形態において、正電極4および負電極5の導電性素子34,35として機能する平面状の金属箔を示している。この金属箔は、20μmの厚さを有する有孔またはメッシュ状の構造を有している。
【0100】
図5は、本発明による再充電可能なバッテリーセル2の実施形態例を断面図で示したものである。この第3実施形態は、正電極4がシース13によって囲まれているという点で、上記で説明した2つの実施形態例とは異なる。この場合、シース13の表面積は、正電極4の表面積よりも大きく、その境界14は、
図2に破線で示されている。正電極4を両側から覆うシース13の2つの層15,16は、正電極4の周縁端部で、端部コネクタ17によって互いに接続されている。
【実施例】
【0101】
〔実施例1〕参照電解質の調製
後述する実施例で使用する参照電解質は、欧州特許第2954588号明細書に記載されている手順で調製した。まず、塩化リチウム(LiCl)を120℃で3日間、真空下で乾燥させた。また、アルミニウム粒子(Al)を450℃で2日間、真空下で乾燥させた。LiCl、塩化アルミニウム(AlCl3)、およびAlを、AlCl3:LiCl:Alのモル比が1:1.06:0.35となるように、ガス抜き用の開口部を有するガラス瓶に入れて混合した。次いで、この混合物を段階的に熱処理して溶融塩を生成した。冷却後、形成された塩の溶融物をろ過し、次に室温まで冷却した。最後に、LiAlCl4に対するSO2の所望のモル比が形成されるまで、SO2を加えた。このようにして形成された参照電解質は、LiAlCl4
*xSO2という組成を有し、ここでxは加えられたSO2の量に依存する。
【0102】
〔実施例2〕本発明による電解質の3つの実施形態1,2,および3の調製
以下に説明する実験のために、本発明による電解質の3つの実施形態例1,2および3を調製した(以下、電解質1,2および3と称する)。この目的のために、まず、以下の文献に記載されている製造プロセスの式(I)による第1の3種類の異なる導電性塩を調製した。
“I.Krossing,Chem.Eur.J.2001,7,490;
S.M.Ivanova et al, Chem.Eur.J.2001,7,503;
Tsujioka et al, J.Electrochem.Soc.,2004,151,A1418”
【0103】
式(I)によるこれら3つの異なる最初の導電性の塩を、以下では化合物1,2および3と称する。これらはポリフルオロアルコキシアルミネートのファミリーに由来するもので、LiAlH4および対応するアルコールR-OHで開始して、R1=R2=R3=R4で、以下の反応式に従ってヘキサン中で調製した。
【0104】
【0105】
以下の総計および構造式を有する化合物1、2および3を、形成した。
【0106】
【0107】
精製のために、化合物1,2および3をまず再結晶した。これにより、第1導電性塩から遊離体LiAlH4を除去した。その理由は、SO2における微量の水で、この遊離体によりスパークが形成される可能性があるためである。
【0108】
次いで、化合物1,2および3をSO2に溶解させた。化合物1,2および3はSO2によく溶解した。
【0109】
電解質1,2および3の調製を、以下のプロセスステップ1~4に従って低温または加圧下で行った。
1)ライザーパイプ付きの圧力ピストンにおけるそれぞれの化合物1,2および3を供給、
2)圧力ピストンの排気、
3)液体SO2の流入、および
4)目標量のSO2が添加されるまで、ステップ2+3を繰り返す。
【0110】
電解質1,2および3におけるそれぞれの化合物1,2および3の濃度は、実験の説明で特に記載がない限り、1mol/L(1リットルの電解質に対する物質の濃度)であった。以下に説明する実験は、電解質1,2および3、ならびに参照電解質を用いて行った。
【0111】
〔実施例3〕フルセルの作製
後述する実験で用いたフルセルは、セパレータで隔てられた2つの負電極と1つの正電極を有する再充電可能なバッテリーセルである。正電極は、活物質としてのLiFePO4、導電性媒介剤、バインダーを含んでいた。負電極は、活物質としてグラファイトおよびバインダーを含んでいた。各フルセルには、実験に必要な電解質、すなわち参照電解質、または電解質1,2もしくは3の何れかが充填された。
【0112】
各実験では、いくつか、すなわち2~4個の同一のフルセルを作成した。実験で示された結果は、同一のフルセルで得られた測定値の平均値である。
【0113】
〔実験1〕電解質1および電解質3がフルセルのサイクル挙動に及ぼす可能性のある悪影響の検討
本発明による電解質がフルセルのサイクル挙動に悪影響を及ぼさないかどうかをテストするために、まず、参照電解質中に化合物1または化合物3のいずれかを少量ずつ含む混合電解質を調製した。
【0114】
この目的のために、95重量%(wt%)の参照電解質と、5wt%の化合物1または5wt%の化合物3とから構成される混合電解質を調製した。2つの混合電解質を、純粋な参照電解質(100重量%)と比較した。この目的のために、実施例3によるフルセルでの実験が行われた。フルセルには、異なる電解質が充填された。フルセルを50mAで3.6Vの電位まで充電し、電流が40mAに低下するまで3.6ボルトの電位を維持した。放電は50mAの電流で2.5Vの電位まで行った。500回の充電/放電サイクルを行った。
図6は、3つの放電曲線、すなわち、サイクル数の関数としての放電容量を示す。どの電解質もほぼ同じ放電容量を示している。
【0115】
このことから、電解質1および3、ならびに式(I)による第1導電性塩は、サイクル挙動に深刻な悪影響を及ぼさないことが結論付けられる。
【0116】
〔実験2〕本発明によるバッテリーセルにおける電解質の機能
実施例1で調製した参照電解質と、実施例2で調製した電解質1,2または3を用いて、実施例3によるフルセルで実験を行った。参照電解質および電解質1,2および3は、それぞれ導電塩の濃度が0.6mol/lであった。4つのフルセルに電解質を充填した。3.6Vの電位になるまで50mAで充電し、電流が40mAに低下するまで3.6Vの電位を維持した。
【0117】
2.5Vの電位まで50mAの電流で、放電を実行した。
図7の上段は、左のY軸の目盛りを基準にした充電曲線を示している。下段は、右のY軸のスケールを基準にした放電曲線を示している。電解質1,2および3では、フルセルで再び充電と放電が可能であった。
【0118】
〔実験3〕電解質1,2および3の高電圧耐性の検証
電解質1,2および3の高電圧能力を実証するために、実施例3によるフルセルでの実験を行った。フルセルには、電解質1リットルに基づき第1導電性塩として化合物1を1mol/lの濃度で含有している、実施例2に記載した電解質1を充填させた。
【0119】
図8は、先に記載したフルセルの電位曲線を、フルセルの最大充電量に対するパーセント充電量を超えるボルト[V]で示したものである。フルセルを、5Vの電位まで50mAのアンペア数で充電した。この電位は、充電電流が40mAに低下するまで維持された。その後、50mAのアンペア数で2.5Vの放電電位まで放電を行った。
図6に、本実験3で得られたフルセルの充放電曲線を示す。サイクル効率は99.5%超であった。これは、電解質の二次反応や過充電反応に容量が使われなかったことを意味する。電解質1は、この電位範囲では安定である。このことから、第1導電性塩を含む電解質は、第1導電性塩が分解することなく、高いセル電圧が発生する高エネルギーセルにも用いることができることが分かる。
【0120】
〔実験4〕サイクル効率
充電の上限電位を3.6ボルトから5.0ボルトまで0.2ボルト刻みで増加させた点が異なるが、充電/放電実験3を繰り返した。これは、8サイクル実行されたことを意味する。表2に、それぞれのケースで達成されたサイクル効率を示す。
【0121】
【0122】
達成されたサイクル効率は各充電電位で同一であり、5.0ボルトまでの全電位範囲において電解質1の安定した挙動を示している。
【0123】
〔実験5〕
本発明による電解質3を、サイクル実験において、参照電解質と比較した。この目的のために、実施例3に記載した3つのフルセルを使用した。それぞれ1つのフルセルに参照電解質を充填し、2つのフルセルに電解質3を充填した。フルセルは、3.6ボルトの電位まで充電され、2.5ボルトまで放電された。参照電解質を充填したフルセルは100mAの電流で動作させ、より低い導電率に適合させた電解質3を充填した2つのフルセルは、それぞれ10mAと5mAで1回充電または放電させた。
図9は、得られた充電/放電曲線を示す。すべてのフルセルで、安定した充電と安定した放電が行われていることがわかる。低電流では、電解質3の到達可能容量が増加する。
【0124】
〔実験6〕参照電解質と電解質1を用いたフルセルの放電容量と内部抵抗の比較
この実験では、先行技術の参照電解質に代わるものとして、本発明による電解質の使用を検討した。
【0125】
また、実施例3に記載したフルセルを用いて実験を行った。このフルセルには、参照電解質(以下、参照フルセル)または先に記載した本発明による電解質1(以下、試験用フルセル)が充填されていた。このように、参照フルセルと試験用フルセルは、使用する電解質の種類のみが異なっている。
【0126】
形成サイクルから開始して、いくつかのサイクル実験を行った。表3に、2つのフルセルの充電および放電時に使用した充電および放電電流と、最終的な充電および放電電圧を示す。なお、最終充電電圧における充電電流の限界値(Icutoff)は、3.6Vである。2つのフルセルの充電と放電の間に10分の中断があった。
【0127】
【0128】
図10は、2つのフルセルの放電容量の平均値をサイクル数の関数として示したものである。長いダッシュを付した破線は、試験用フルセルの放電容量について得られた平均値を示している。この目的のために、3回の同一測定から得られた平均値が使用された。短い線の破線は、参照フルセルの放電容量を示す。この目的のために、2つの同一の測定から得られた平均値を使用した。
【0129】
これらの平均放電容量値は、公称容量に対するパーセンテージで表される。公称容量は、正電極の理論容量から、負電極にコーティングを形成するために第1サイクルで消費される容量を引くことによって得られる。この最上層は、フルセルが初めて充電されるときに負極上に形成される。リチウムイオンはこのコーティングの形成に不可逆的に消費されるため、それぞれのフルセルはその後のサイクルに利用できるサイクル容量が少なくなる。
【0130】
両方のフルセルの放電容量の開始値は公称容量の約90%である。両方のフルセルは、サイクル数全体で放電容量の低下を示している。参照フルセルの容量低下は500サイクルまで19%で、残りの容量は71%であった。テスト用のフルセルでは、放電容量が22%低下し、500サイクル後の残りの容量は68%であった。両方の曲線の容量の進行は、300サイクル以降はほぼ平行であり、さらに着実に進行していることを示している。フルセルの挙動は類似しており、本発明による電解質が参照電解質の代替として使用できることを示している。
【0131】
実験6では、2つのフルセルの内部抵抗の推移もサイクル数で記録された。
図11に、参照フルセルと試験用フルセルの結果を示す。内部抵抗は、設計上、フルセル内部での損失要因となっている。参照フルセルの内部抵抗は0.2オームをわずかに超えている。試験用フルセルでは、初期に約0.95オームと高い内部抵抗を示し、約200サイクル以降は0.8オームの値で安定している。
【0132】
本発明に従って使用される大きなアニオンを有する電解質におけるリチウムイオン伝導はやや困難であるため、これらの結果は出願人の予想に沿ったものである。
【0133】
〔実験7〕導電率の測定
化合物1の濃度を変えて電解質1を調製することにより導電率を測定した。化合物1の濃度ごとに、導電率測定法を用いて電解質1の導電率を測定した。温度調整後、2電極センサーを溶液に接触させ、0~50mS/cmの範囲で測定を行った。表4に、様々な濃度、対応するSO2含有量、および測定された導電率の値を示す。
【0134】
【0135】
図12は、化合物1の濃度の関数としての電解質1の導電率を示している。化合物1の濃度が0.6mol/Lで最大導電率24.7mS/cmの値を示している。これに対し、LP30(1M LiPF
6/EC-DMC(1:1重量比))などの先行技術の有機電解質は、約10mS/cmの導電率しかなかった。
【0136】
〔実験8〕負電極のコーティング層形成に消費される容量の測定
この実験では、負電極上に最上層を形成するための第1サイクルで消費される容量を調査した。この最上層は、フルセルが初めて充電されるときに負電極上に形成される。リチウムイオンはこのコーティング形成のために不可逆的に消費されるため、フルセルがその後のサイクルに利用できるサイクル容量は少なくなる。
【0137】
この実験では、参照電解質、電解質1、電解質3について、それぞれフルセルで調査した。この設計は、実施例3で説明した設計に対応していた。
【0138】
第1の実験で使用した参照電解質の組成は、LiAlCl4
*xSO2であり、xは1.5を超える。第2、第3の実験では、電解質1、3について調査した。
【0139】
図13は、リチウムに対して負電極を充電するときのフルセルの電位(ボルト)を、負極の理論容量に関連する容量の関数として示したものである。点線は参照電解質についての結果を示し、点線または実線は本発明による電解質1および3についての結果を示している。3つの曲線は、上記のフルセルを用いたいくつかの実験の平均化された結果を示している。まず、フルセルを、125mAh(Q
cha)の容量に達するまで、15mAの電流で充電した。次に、2.5ボルトの電位に達するまで15mAで放電した。このとき、放電容量(Q
dis)を求めた。
【0140】
負電極上に最上層を形成するために使用された理論の%単位の容量は、次の式に従って計算される。
カバー層の容量=(Qcha(125mAh)-Qdis(×mAh))/QNEL
【0141】
QNELは、使用される負電極の理論容量である。グラファイトの場合、理論容量は372mAh/gとなる。絶対容量損失は電解質1、3でそれぞれ7.58%、11.51%、参照電解質で6.85%であった。最上層の形成のための容量は、本発明による両方の電解質について、参照電解質よりもわずかに高い。絶対容量損失について7.5%~11.5%の範囲の値は、最大5ボルトの高電圧カソードを使用する可能性と組み合わせると良好な結果である。
【0142】
〔実験9〕低温での挙動
本発明による電解質の低温挙動を参照電解質と比較して決定するために、実験1に記載されているように、2つのフルセルに、一方は参照電解質、他方は電解質1を充填した。
【0143】
両方のフルセルを20℃で充電し、再び放電した。達成された放電容量は100%と評価された。10℃の温度ステップで、フルセルの温度を下げ、再び充電/放電サイクルを実施した。得られた放電容量を、20℃での放電容量に対する%で表記した。その結果を表5に示す。
【0144】
【0145】
電解質1を使用したフルセルは、優れた低温挙動を示す。-10℃では、容量の61%に達している。-20℃では、容量はまだ31%に達する。また、-30℃でも少量の放電が可能である。一方、参照電解質を有するフルセルは、-10℃までしか放電容量を示さない。その後、21%の容量が達成される。