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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-21
(45)【発行日】2023-03-02
(54)【発明の名称】粉末油脂及びそれを用いた飲食品
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/007 20060101AFI20230222BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20230222BHJP
   A21D 2/16 20060101ALI20230222BHJP
   A21D 2/26 20060101ALI20230222BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20230222BHJP
   A23C 11/04 20060101ALI20230222BHJP
   A23L 9/20 20160101ALI20230222BHJP
   A23L 19/12 20160101ALI20230222BHJP
   A23L 23/00 20160101ALI20230222BHJP
   A23L 21/10 20160101ALI20230222BHJP
【FI】
A23D9/007
A23D9/00 514
A23D9/00 502
A21D2/16
A21D2/26
A21D13/00
A23C11/04
A23L9/20
A23L19/12 Z
A23L23/00
A23L21/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022081271
(22)【出願日】2022-05-18
【審査請求日】2022-05-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有留 瑛美
(72)【発明者】
【氏名】登坂 友美
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 宜隆
(72)【発明者】
【氏名】高松 優
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-047444(JP,A)
【文献】国際公開第2015/141763(WO,A1)
【文献】特開平07-274823(JP,A)
【文献】特開2009-278896(JP,A)
【文献】特開2016-054670(JP,A)
【文献】特開昭57-159896(JP,A)
【文献】特開平07-213232(JP,A)
【文献】七訂 食品成分表 2016 資料編,2016,女子栄養大学出版部,p.186
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
A23C
A23D
A23F
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂、糖質、及び、ホエイタンパク質を含む未乾燥の乳由来素材を配合し、
粉末油脂の全量に対する前記油脂の配合量が40質量%以上であり、
粉末油脂の全量に対する前記糖質の配合量が5質量%以上であり、
前記ホエイタンパク質を含む未乾燥の乳由来素材の配合量が、粉末油脂の全量に対して、固形分として0.01質量%以上である粉末油脂。
【請求項2】
前記油脂の配合量が40質量%以上90質量%以下である請求項1に記載の粉末油脂。
【請求項3】
前記ホエイタンパク質を含む未乾燥の乳由来素材の固形分と油脂の質量比(ホエイタンパク質を含む未乾燥の乳由来素材の固形分/油脂)が0.01×10-2~150×10-2である請求項1に記載の粉末油脂。
【請求項4】
さらに、ホエイタンパク質を含む乾燥された乳由来素材を配合した請求項1に記載の粉末油脂。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の粉末油脂を配合した飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末油脂及びそれを用いた飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末油脂は、例えば、コーヒー等の飲料に配合したり、スープ類や製菓製パン等の食品の調味材料として用いることで、飲食品に所望の風味を付与する等の目的で使用されている。
【0003】
従来、コーヒークリーマー等の粉末製品においては油脂量が20~35質量%のものが知られているが、食品に使用される粉末油脂の油分は、アプリケーションに対する機能、例えば、飲料等の素材として白色の色合いを付与すること、油脂によるコクの付与、摂取カロリーの増強、製菓製パンの生地や食感の改良等の観点からは、より高油分であることが求められている。
【0004】
近年、植物油脂等の風味が少ない油脂を用いた粉末油脂には自然な乳風味を付与することが求められており、喫食、喫飲時に、ミドルからラストに感じるミルク感だけでなく、最初(トップ)に感じる生乳感が良好であることが求められている。
【0005】
従来、粉末油脂には粉末化や分散安定化等の目的で乳由来のカゼインナトリウムを用いることが知られているが(特許文献1)、風味を付与することはできない。風味を付与するために、ホエイパウダーやバターミルクパウダー等の乾燥された乳由来素材を用いる技術が提案されているが(特許文献2)、喫食、喫飲時に最初に感じる生乳感が十分ではなく、改良の余地があった。
また、コーヒークリーマーにおいて濃縮乳(特許文献3)や全乳、スキムミルク等(特許文献4)を使用する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-294275号公報
【文献】特開2009-278896号公報
【文献】特開2014-221033号公報
【文献】特表2017-520266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3、4のコーヒークリーマーは、従来の油脂量が少ない配合において上記成分を使用しているが、高油分の粉末油脂における技術的な検討はされていない。粉末油脂中の油分が少ないとコクが不十分であるため、上記成分を使用していても、最初に感じる生乳感が満足のいくものは得られていなかった。
【0008】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、喫食、喫飲時に最初に感じる生乳感が良好な粉末油脂、及びそれを用いた飲食品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために本発明者らは鋭意検討した結果、油脂量が多い配合において、ホエイタンパク質を含む未乾燥の乳由来素材を配合することで、乾燥された乳素材では得られない最初に感じる生乳感がより発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明の粉末油脂は、油脂、及び、ホエイタンパク質を含む未乾燥の乳由来素材を配合し、粉末油脂の全量に対する前記油脂の配合量が40質量%以上であることを特徴としている。
本発明の飲食品は、前記粉末油脂を配合したものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の粉末油脂とそれを用いた飲食品は、喫食、喫飲時に最初に感じる生乳感が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の具体的な実施形態について説明する。
(粉末油脂)
本発明の粉末油脂は、油脂、及び、ホエイタンパク質を含む未乾燥の乳由来素材を配合し、粉末油脂の全量に対する前記油脂の配合量が40質量%以上である。
【0013】
本発明の粉末油脂に使用される油脂は、従来の食用油脂のように、トリグリセリドがほぼ全体を占める組成物を主な対象としている。油脂中のトリグリセリドとは、1分子のグリセロールに3分子の脂肪酸がエステル結合した構造を有するものである。トリグリセリドの1位、2位、3位とは、脂肪酸が結合した位置を表す。油脂は、1位、2位、3位の全てに飽和脂肪酸Sが結合した3飽和トリグリセリド(SSS)を含んでいてもよく、1分子のグリセロールに2分子の飽和脂肪酸Sと1分子の不飽和脂肪酸Uが結合した2飽和トリグリセリドとして、1位及び3位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ2位に不飽和脂肪酸Uが結合した対称型トリグリセリド(SUS)を含んでいてもよく、1位と2位、又は2位と3位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ3位又は1位に不飽和脂肪酸Uが結合した非対称型トリグリセリド(SSU、USS)を含んでいてもよい。また、1分子のグリセロールに2分子の不飽和脂肪酸Uと1分子の飽和脂肪酸Sが結合した2不飽和トリグリセリド(SUU、UUS、USU)を含んでいてもよく、1位、2位、3位の全てに不飽和脂肪酸Uが結合した3不飽和トリグリセリド(UUU)を含んでいてもよい。ここで、飽和脂肪酸Sは、油脂中に含まれる全ての飽和脂肪酸である。飽和脂肪酸Sとしては、特に限定されないが、例えば、酪酸(4)、カプロン酸(6)、カプリル酸(8)、カプリン酸(10)、ラウリン酸(12)、ミリスチン酸(14)、パルミチン酸(16)、ステアリン酸(18)、アラキジン酸(20)、ベヘン酸(22)、リグノセリン酸(24)等が挙げられる。なお、上記飽和脂肪酸の括弧内の数値表記は、脂肪酸の炭素数を意味する。不飽和脂肪酸Uは、油脂中に含まれる全ての不飽和脂肪酸である。また、各トリグリセリド分子に結合している2つ又は3つの不飽和脂肪酸Uは、同一の不飽和脂肪酸であってもよいし、異なる不飽和脂肪酸であってもよい。不飽和脂肪酸Uとしては、特に限定されないが、例えば、ミリストレイン酸(14:1)、パルミトレイン酸(16:1)、ヒラゴン酸(16:3)、オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、リノレン酸(18:3)、エイコセン酸(20:1)、エルカ酸(22:1)、セラコレイン酸(24:1)等が挙げられる。なお、上記不飽和脂肪酸についての括弧内の数値表記は、左側が脂肪酸の炭素数であり、右側が二重結合数を意味する。
【0014】
本発明の粉末油脂に使用される油脂は、特に限定されないが、例えば、ヤシ油、パーム核油、パーム油、菜種油、大豆油、綿実油、コーン油、ヒマワリ油、米油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、シア脂、サル脂、マンゴー油、イリッペ脂、カカオ脂等の植物性油脂や、豚脂(ラード)、牛脂、乳脂、魚油等の動物性油脂、それらの分別油、加工油(硬化及びエステル交換反応のうち1つ以上の処理がなされたもの)等が挙げられる。これらの中でも、すっきりとした風味が得られることから、ヤシ油、パーム核油、それらの分別油、加工油(硬化及びエステル交換反応のうち1つ以上の処理がなされたもの)が好ましい。
【0015】
本発明の粉末油脂は、油脂の配合量が粉末油脂の全量に対して40質量%以上である。油脂の配合量が40質量%以上であると、ホエイタンパク質を含む未乾燥の乳由来素材を配合することで、コク味と相まって、喫食、喫飲時に最初に感じる生乳感が良好となる。
【0016】
油脂の配合量は、40質量%以上であれば、特に限定されないが、例えば、粉末油脂の全量に対して40~90質量%の範囲内で目的に応じて適宜設定することができる。油脂の風味への効果と再溶解後の白濁感を効果的に付与する点から、粉末油脂の全量に対して40質量%超であることが好ましく、45質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。また、良好な乳化状態を保ち、油滴の分散効果を十分に発揮する点から、90質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがさらに好ましく、75質量%以下であることが特に好ましい。
【0017】
本発明の粉末油脂は、油脂の構成脂肪酸としてトランス脂肪酸を含んでもよく、含まなくてもよいが、トランス脂肪酸の摂取量が多くなると、血液中におけるLDLコレステロール量が増加し得る。よって、これを抑制し易い点から、本発明においては、油脂の構成脂肪酸中のトランス脂肪酸の含有量は、油脂の構成脂肪酸全体の質量に対して10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが最も好ましい。油脂におけるトランス脂肪酸の含有量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.4.4.3-2013 トランス脂肪酸含量(キャピラリーガスクロマトグラフ法)」で測定した。なお、トランス脂肪酸の含有量は、添加量既知の内部標準物質(ヘプタデカン酸)との面積比により算出できる。
【0018】
本発明の粉末油脂に使用されるホエイタンパク質を含む未乾燥の乳由来素材は、乳製品のうち、製造工程において乾燥をしないものであり、ホエイタンパク質を含むとは、カゼイン沈殿物に由来しないものをいう。ここでカゼイン沈殿物とは、主に、脱脂乳からレンネットや酸を用いてカゼインを沈殿、凝固させ、乳清から分離したものをいう。この未乾燥の乳由来素材として、具体的には、例えば、以下のものが挙げられる。
(1) 生乳、牛乳、特別牛乳又は生水牛乳を濃縮したもの、及びスクロース(しょ糖)等の糖を加えて濃縮したもの
このようなホエイタンパク質を含む未乾燥の乳由来素材としては、例えば、濃縮乳、無糖れん乳、加糖れん乳等が挙げられる。
(2) 生乳、牛乳、特別牛乳又は生水牛乳から乳脂肪分以外の成分を除去したもの
遠心分離等により乳脂肪分を分離する工程を経たもので、このようなホエイタンパク質を含む未乾燥の乳由来素材としては、例えば、生クリーム等が挙げられる。
(3) 生乳、牛乳、特別牛乳又は生水牛乳から乳脂肪分を除去したものを濃縮したもの、及びスクロース(しょ糖)等の糖を加えて濃縮したもの
遠心分離等により乳脂肪分を分離する工程を経たもので、このようなホエイタンパク質を含む未乾燥の水溶性乳由来素材としては、例えば、脱脂乳、脱脂濃縮乳、無糖脱脂れん乳、加糖脱脂れん乳等が挙げられる。
(4) 乳、バターミルク、クリーム又はこれらを混合したもののほとんどすべて又は一部のタンパク質を、酵素その他の凝固剤により凝固させた凝乳から、乳清の一部を除去したもの又はこれらを熟成したもの、あるいは、乳等を原料として、タンパク質の凝固作用を含む製造技術を用いて製造したものであって、上記と同様の化学的、物理的及び官能的特性を有するもの
乳を凝固剤によって固め、その凝乳からホエイ(乳清)の一部を分離したもので、ホエイタンパク質が残存している。このようなホエイタンパク質を含む未乾燥の水溶性乳由来素材としては、例えば、チーズ(ナチュラルチーズ、プロセスチーズ等)等が挙げられる。
(5) 乳又はこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させ、糊状又は液状にしたもの又はこれらを凍結したもの
このようなホエイタンパク質を含む未乾燥の乳由来素材としては、例えば、発酵乳等が挙げられる。
【0019】
これらの中でも、最初(トップ)の生乳感がより良好な点から、脱脂濃縮乳、濃縮乳、クリーム、ホエイチーズ、ナチュラルチーズが好ましく、脱脂濃縮乳、ナチュラルチーズがさらに好ましい。
【0020】
ホエイタンパク質を含む未乾燥の乳由来素材は、水分量が、該乳由来素材の全量に対して好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。また、好ましくは95質量%以下である。
ホエイタンパク質を含む未乾燥の乳由来素材は、タンパク質の量が、該乳由来素材から水分を除いた固形分の全量に対して好ましくは1質量%以上である。また、好ましくは45質量%以下である。
ホエイタンパク質を含む未乾燥の乳由来素材は、脂質の量が、該乳由来素材から水分を除いた固形分の全量に対して好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上である。また、好ましくは95質量%以下である。
ホエイタンパク質を含む未乾燥の乳由来素材は、炭水化物の量が、該乳由来素材から水分を除いた固形分の全量に対して好ましくは2質量%以上である。また、好ましくは80質量%以下である。
【0021】
本発明の粉末油脂におけるホエイタンパク質を含む未乾燥の乳由来素材の配合量は、特に限定されないが、例えば、粉末油脂の全量に対して、固形分として0.001~90質量%である。風味として、最初(トップ)の生乳感を向上させる点から、0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.04質量%以上がさらに好ましく、0.08質量%以上が特に好ましい。また、再溶解粒径の増大を抑制できる点から、90質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下が特に好ましい。ここで固形分とは、該乳由来素材から水分を除いたものである。
【0022】
本発明の粉末油脂における、ホエイタンパク質を含む未乾燥の乳由来素材の固形分と油脂の質量比(未乾燥の水溶性乳由来素材の固形分/油脂)は、0.01×10-2~150×10-2が好ましい。粉末油脂の再溶解時のメディアン粒径の標準偏差を小さくし、粉末油脂の長期保管後の再溶解粒径の増大を抑制する点より、150×10-2以下が好ましく、30×10-2以下がより好ましく、20×10-2以下がさらに好ましく、10×10-2以下が最も好ましい。生乳感をより向上させる点より、0.01×10-2以上が好ましく、50×10-2以上がより好ましく、80×10-2以上がさらに好ましく、110×10-2以上が最も好ましい。粉末油脂の再溶解時のメディアン粒径の標準偏差を小さくし、粉末油脂の長期保管後の再溶解粒径の増大を抑制し、生乳感の向上も図れるという点から、0.01×10-2~30.0×10-2が好ましく、0.10×10-2~20.0×10-2がより好ましく、0.15×10-2~10.0×10-2がさらに好ましい。ここで固形分とは、該乳由来素材から水分を除いたものである。
【0023】
さらに、本発明の粉末油脂は、ホエイタンパク質を含む乾燥された乳由来素材を配合することができる。ホエイタンパク質を含む乾燥された乳由来素材を配合することで、粉末油脂の再溶解時の粒径の標準偏差を小さくすることができるため、長期保管後であっても、粉末油脂の再溶解粒径の増大を抑制でき、かつ風味として、ミドルからラストのミルク感を向上させることができる。
【0024】
ホエイタンパク質を含む乾燥された乳由来素材において、ホエイタンパク質を含むとは、カゼイン沈殿物に由来しないものをいう。ここでカゼイン沈殿物とは、主に、脱脂乳からレンネットや酸を用いてカゼインを沈殿、凝固させ、乳清から分離したものをいう。ろ過により濃縮する濃縮ミルクタンパク質はカゼインと共にホエイタンパク質を含んでいるが、カゼイン単独ではミドルからラストのミルク感が得られない。
【0025】
ホエイタンパク質を含む乾燥された乳由来素材には、生乳、牛乳、特別牛乳又は生水牛乳や、乳脂肪分を遠心分離等により除去する工程、あるいは、乳酸菌で発酵させ、又は乳に酵素若しくは酸を加えて乳清を分離する工程、あるいはこれらにろ過による濃縮を組み合わせる工程を経て、最後にほとんど全ての水分を除去し、粉末状にしたものが包含される。
【0026】
ホエイタンパク質を含む乾燥された乳由来素材としては、特に限定されないが、例えば、全脂粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、タンパク質濃縮ホエイパウダー、ホエイチーズ(WC)パウダー、ホエイプロテインコンセントレート(WPC)パウダー、ホエイプロテインアイソレート(WPI)、バターミルクパウダー、トータルミルクプロテインパウダー等が挙げられる。これらの中でも、ミドルからラストのミルク感を向上させる点から、タンパク質濃縮ホエイパウダー、ホエイパウダー、バターミルクパウダーが好ましく、タンパク質濃縮ホエイパウダー、バターミルクパウダーがより好ましい。
【0027】
ホエイタンパク質を含む乾燥された乳由来素材は、水分量が、該乳由来素材の全量に対して好ましくは15質量%未満、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0028】
本発明の粉末油脂における、ホエイタンパク質を含む乾燥された乳由来素材の配合量は、特に限定されないが、風味として、ミドルからラストのミルク感を向上させる点から、粉末油脂の全量に対して、固形分として0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましく、0.8質量%以上が特に好ましい。また、再溶解粒径の増大を抑制できる点から、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、11質量%以下がさらに好ましい。ここで固形分とは、該乳由来素材から水分を除いたものである。
【0029】
本発明の粉末油脂における、ホエイタンパク質を含む未乾燥の乳由来素材の固形分と、ホエイタンパク質を含む乾燥された乳由来素材の固形分との質量比(未乾燥の乳由来素材の固形分/乾燥された乳由来素材の固形分)は、0.01~900が好ましい。粉末油脂の再溶解時のメディアン粒径の標準偏差を小さくし、粉末油脂の長期保管後の再溶解粒径の増大を抑制する点より、900以下が好ましく、20以下がより好ましく、15以下がさらに好ましく、10以下が最も好ましい。生乳感をより向上させる点より、0.01以上が好ましく、0.09以上がより好ましい。ここで固形分とは、該乳由来素材から水分を除いたものである。
【0030】
本発明の粉末油脂は、上記成分の他に、タンパク質、糖質、及び乳化剤の少なくともいずれかを好ましく配合することができる。
【0031】
タンパク質は、油滴の分散性を高め、乳化安定剤として機能する。本発明の粉末油脂は製造時の水中油型乳化物の油滴を維持したまま粗粒化するが、タンパク質により細かい油滴が分散した構造を保持する。またタンパク質及び糖質は、粉末化基材として機能し、乾燥後の本発明の粉末油脂は、油脂が粉末化基材で覆われた(カプセル化した)形状となっている。乳化剤は、油滴の分散性や安定性をより高めることができる。
【0032】
以上に説明したホエイタンパク質を含む未乾燥のもしくは乾燥された乳由来素材に含まれるタンパク質も、上記のような機能に寄与し得るが、それ以外のタンパク質を配合することで上記のような機能を十分に発揮できる。
【0033】
上記タンパク質としては、特に限定されないが、例えば、上記ホエイタンパク質を含む未乾燥の乳由来素材やホエイタンパク質を含む乾燥された乳由来素材以外の乳タンパク、大豆タンパク、えんどうタンパク質、そら豆タンパク質、米タンパク質、小麦タンパク、コラーゲン、ゼラチン等が挙げられる。また、これらのようなタンパク質の分解物を用いることができ、本発明においては上記タンパク質の分解物もタンパク質と表記する。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
タンパク質としては、上記未乾燥の乳由来素材や乾燥された乳由来素材以外の乳タンパク質を好ましく使用できる。乳タンパク質は、牛乳等の乳由来タンパク質であり、乳由来のタンパク質は、およそ80質量%がカゼインであり、残りの20質量%は乳清タンパク質が占めている。乳タンパク質としては、特に限定されないが、例えば、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、酸カゼイン、レンネットカゼイン、それらの分解物である乳ペプチド等が挙げられる。これらの中でも、カゼイン由来の乳タンパク質が好ましく、カゼイン由来の乳タンパク質としては、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、酸カゼイン、カゼイン加水分解物(乳ペプチド)が好ましい。
【0035】
本発明の粉末油脂における上記タンパク質の配合量は、上記未乾燥の乳由来素材や乾燥された乳由来素材の種類や量にもより、特に限定されないが、例えばカゼイン由来の乳タンパク質を使用する場合、乾燥粉末化前の乳化液の粘度が高くなり過ぎず、良好な粉末油脂を得ることができる点から、粉末油脂の全量に対して30質量以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、1~10質量%がさらに好ましく、1.5~6質量%が特に好ましく、2.5~6質量%が最も好ましい。
【0036】
上記糖質としては、特に限定されないが、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等の単糖類、ラクトース、スクロース、マルトース、トレハロース等の二糖類、マルトトリオース等の三糖類、マルトペンタオース等の四糖類、オリゴ糖、デキストリン、デンプン等の多糖類、増粘多糖類、糖アルコール等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、二糖類、三糖類、多糖類が好ましく、分散性が良好な粉末油脂を得ることができる点から、デキストリンがより好ましい。
【0037】
デキストリンは、デンプンを化学的又は酵素的方法により低分子化したデンプン部分加水分解物であり、市販品等を使用できる。デンプンの原料としては、例えば、コーン、キャッサバ、米、馬鈴薯、甘藷、小麦等が挙げられる。デキストリンとして具体的には、水あめ、粉あめ、マルトデキストリン、サイクロデキストリン、焙焼デキストリン、分岐サイクロデキストリン、難消化性デキストリン等が挙げられる。デキストリンのDEは、特に限定されないが、5~40が挙げられ、乾燥粉末化前の乳化液の粘度が高くなり過ぎず、良好な粉末油脂を得ることができる点から、10~35が好ましい。DE(Dextrose Equivalent)とは、デキストリンの構成単位であるグルコース残基の鎖長の指標となるものであり、デキストリン中の還元糖の含有量(%)を示す値である。値が大きいほどデキストリンの鎖長は短くなる。DE値はウィルシュテッターシューデル法により測定することができる。
【0038】
デンプンとしては、例えば、馬鈴薯デンプン、コーンスターチ、小麦デンプン、米デンプン、甘藷デンプン、タピオカデンプン、緑豆デンプン、サゴデンプン、コーン、ワキシーコーン、馬鈴薯、タピオカ等を原料とし、これをエーテル化処理したカルボキシメチルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプンや、エステル化処理したリン酸デンプン、オクテニルコハク酸デンプン、酢酸デンプン、湿熱処理デンプン、酸処理デンプン、架橋処理デンプン、α化処理デンプン等が挙げられる。
【0039】
増粘多糖類としては、例えば、プルラン、アラビアガム、キサンタンガム、トラガントガム、ジェランガム、グアーガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、カラギーナン、寒天、LMペクチン、HMペクチン等が挙げられる。
【0040】
本発明の粉末油脂における糖質の配合量は、特に限定されないが、油脂量40質量%以上で粉末化の特性を良好なものとし、かつ喫食、喫飲時に最初に感じる生乳感が良好である点から、粉末油脂の全量に対して1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、8質量%以上が特に好ましい。また58質量%以下が好ましく、55質量%以下がより好ましく、53質量%以下がさらに好ましく、50質量%以下が特に好ましい。
【0041】
上記乳化剤としては、特に限定されないが、例えば、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル(モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル(ジアセチル酒石酸モノグリセライド、コハク酸モノグリセライド、クエン酸モノグリセライド、乳酸モノグリセライド等)、ポリグリセリン脂肪酸エステル)、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム等が挙げられる。これらの乳化剤は1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0042】
乳化剤の配合量は、特に限定されないが、粉末油脂の製造時、保管時、使用時の乳化安定性を保持する点から、油脂の全量に対して0.05質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1.5質量%以上であることがさらに好ましく、2.5質量%以上が特に好ましい。また、乳化剤によるえぐみの発生を抑制する点から、油脂の全量に対して30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下が特に好ましい。
【0043】
本発明の粉末油脂には、本発明の効果を損なわない範囲内において、前記の成分以外の他の成分を配合することができる。このような他の成分としては、特に限定されないが、例えば、油脂の劣化を抑制する酸化防止剤、乳タンパクを配合した場合に再溶解時の分散性を高めるリン酸塩や、着色料、フレーバー等が挙げられる。
【0044】
(粉末油脂の製造方法)
本発明の粉末油脂の製造方法は、特に限定されない。好ましくは、本発明の粉末油脂は、油脂、ホエイタンパク質を含む未乾燥の乳由来素材、水、及び必要に応じて他の成分を配合して水中油型乳化物を調製し、その後水中油型乳化物を乾燥粉末化することによって製造することができる。
【0045】
水中油型乳化物を乾燥粉末化する方法としては、一般的に知られている噴霧乾燥法、真空凍結乾燥法、真空乾燥法等を用いることができる。これらの中でも、噴霧乾燥法によって得られる噴霧乾燥型粉末油脂が好ましい。
【0046】
水中油型乳化物は、水相と、油脂を含む油相を混合して調製することができる。例えば、次の乳化工程及び均質化工程によって調製することができる。
【0047】
乳化工程では、各原材料を乳化機の撹拌槽に投入して撹拌混合する。水とその他の原材料の配合比は、特に限定されないが、例えば、油脂、及び、ホエイタンパク質を含む未乾燥の乳由来素材を含む原材料(更にその他の成分を配合する場合にはそれらも含む。)を前記のような配合範囲とし、これらの合計量100質量部に対して水50~200質量部の範囲内にすることができる。各原材料の配合手順は、特に限定されないが、例えば、ホエイタンパク質を含む未乾燥の乳由来素材や、ホエイタンパク質を含む乾燥された乳由来素材、タンパク質、糖質等を配合する場合にはこれらの水溶性成分を水に室温で分散後、加熱下に攪拌し、あるいは当該水溶性成分を加熱した水に分散、攪拌して完全に溶解させ水相とした後、撹拌槽に設置されたホモミキサー等の攪拌装置で攪拌しながら、加熱溶解させた油相を滴下して乳化することができる。乳化剤を配合する場合には、通常は、油溶性乳化剤は油相に、水溶性乳化剤は水相に配合する。
【0048】
均質化工程では、乳化工程において得られた乳化液を圧力式ホモジナイザーに供給することによって油滴サイズが微細化される。例えば、市販の圧力式ホモジナイザーを用いて、30~250kgf/cm2程度の圧力をかけて均質化し、油滴サイズを微細化することができる。なお、乾燥粉末化前において加熱殺菌工程を設けてもよい。
【0049】
次に、噴霧乾燥法によって乾燥粉末化する場合には、均質化した乳化液を高圧ポンプで噴霧乾燥機の入口に供給し、高温熱風を吹き込み、噴霧乾燥機の槽内に上方から噴霧する。噴霧乾燥された粉末は槽内底部に堆積される。噴霧乾燥機としては、例えば、ロータリーアトマイザー方式やノズル方式で噴霧するスプレードライヤーを用いることができる。噴霧乾燥された粉末は、噴霧乾燥機の槽内底部に堆積されるので、該粉末を取り出すことによって、粉末油脂を製造することができる。
【0050】
本発明の粉末油脂は、食用油脂がカプセル化されているため、べとつきがなく、計量等もしやすい。また他の粉体類とも容易に混合することができ、ケーキングや油染みを生じないため、混合量の制約がない。そして微細な食用油脂が粉末化基材によりカプセル化されているため、直接空気に接する面積が少なく、油脂の劣化が遅くなり保存性にも優れている。
【0051】
このような本発明の粉末油脂は水中油型乳化物を乾燥したものであり、水に添加すると元の水中油型乳化物となり、油滴が再分散した状態となる。再溶解時の油滴のメディアン径は、好ましくは0.3~2μmであり、より好ましくは0.5~1.5μmである。
【0052】
ここで、油滴のメディアン径は、次のいずれかの方法で測定することができ、本発明の粉末油脂は、以下の方法で測定されたメディアン径が、前記の範囲内にあることが好ましい。
粉末油脂を水に分散させて、水分散液中の油滴の粒度分布をレーザー回折散乱法によって測定し、粒度分布からメディアン径を算出する。
このメディアン径は、島津製作所製SALD-2300湿式レーザー回折装置等の粒度分布測定装置により体積基準として測定する。
【0053】
油滴のメディアン径が前記の範囲内であると、本発明の粉末油脂の配合では、飲料用やスープ類用として用いた場合には、白濁度が向上し、製菓製パン等の食品用として用いた場合には、生地への分散性が非常に良くなる。
【0054】
(用途)
本発明の粉末油脂の用途は、特に限定されず、例えば、飲食品に配合することができる。飲食品として具体的には、例えば、飲料(コーヒー飲料、茶飲料等)、スープ類(コーンポタージュ等)、焼成品(菓子、パン類等)、惣菜類、デザート類(冷菓等)、麺類等が挙げられる。本発明の粉末油脂を飲食品に配合する場合、これらの中でも、風味としてトップの生乳感が求められる、加熱処理される飲食品(コーヒー飲料、茶飲料、スープ類、焼成品等)が好ましい。
【実施例
【0055】
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、表1A~1Gに示す配合量は質量%を示す。ホエイタンパク質を含む未乾燥の乳由来素材、及びホエイタンパク質を含む乾燥された乳由来素材の配合量は、水分を除いた固形分として示している。
【0056】
(粉末油脂の製造)
実施例及び比較例では次の手順により粉末油脂を作製した。油脂を70℃に調温後、配合に含む場合には乳化剤を添加し油相を調製した。水を60℃に調温後、ホエイタンパク質を含む未乾燥の乳由来素材、カゼインナトリウム、糖質、配合に含む場合にはホエイタンパク質を含む乾燥した乳由来素材を添加し、水相を調製した。
水相を60℃に維持し、水相をホモミキサーで攪拌しながら油相の全量を添加し、水中油型に乳化させた。これにより、表1A~1Gの全配合100質量部に対し、50質量部の水が入った乳化液を得た。
その後、得られた乳化液を、圧力式ホモジナイザーを用いて150kg/cm2の圧力で処理し、均質化した。
この均質化した乳化液を、ノズル式スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥することにより粉末化して粉末油脂を得た(噴霧乾燥条件:入口温度210℃)。なお、表1A~1Gはスプレードライ後の粉末油脂の配合組成を示している。これらの粉末油脂は、以下の飲食品の原料に用いた。
【0057】
以下の各官能評価において、パネルは、五味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準嗅覚テスト、日本電色工業製SE6000等の色差測定装置による色差ΔE=0.8の識別テストを実施し、その
各々のテストで適合と判断された20~50代の男性8名、女性12名を選抜した。
【0058】
[生乳感の評価]
実施例及び比較例の粉末油脂を、25℃で1日保管後、パネル20名で試食し、トップに感じる生乳感について、下記の基準で評価した。
◎+:20名中18名以上が、良好であると評価した。
◎:20名中16名~17名が、良好であると評価した。
〇+:20名中14名~15名が、良好であると評価した。
〇:20名中12名~13名が、良好であると評価した。
〇-:20名中10名~11名が、良好であると評価した。
△:20名中7名~9名が、良好であると評価した。
×:20名中6名以下が、良好であると評価した。
【0059】
[ミルク感の評価]
実施例及び比較例の粉末油脂を、25℃で1日間保管後、上記パネル20名で試食し、ミドルからラストに感じるミルク感について、下記の基準でその風味を評価した。
◎:20名中16名以上が、良好であると評価した。
〇:20名中10名~15名が、良好であると評価した。
×:20名中9名以下が、良好であると評価した。
【0060】
[再溶解時の乳化安定性]
実施例及び比較例の粉末油脂を溶解させた際の油滴径(メディアン径)を島津製作所製SALD-2300湿式レーザー回折装置を用いて測定し、再溶解時の乳化安定性について以下の基準に基づき評価した。
◎+:メディアン径(粉)が1.0μm未満であり、標準偏差が0.3未満である。
◎:メディアン径(粉)が1.0μm未満であり、標準偏差が0.3以上0.6未満である。
○+:メディアン径(粉)が1.0μm以上2.0μm未満であり、標準偏差が0.3未満である。
○:メディアン径(粉)が1.0μm以上2.0μm未満であり、標準偏差が0.3以上0.6未満である。
×:メディアン径(粉)が2.0μm以上であるか、又は、標準偏差が0.6以上である。
【0061】
(食パンの作製)
実施例及び比較例の粉末油脂を使用した食パンを、下記の配合と工程により作製し、25℃で1日保管後、パネル20名で試食し、下記の基準で評価した。
・中種配合
強力粉 70質量部
イースト 2.5質量部
イーストフード 0.1質量部
水 40質量部
・中種工程
ミキシング 低速3分 中低速1分(フック使用)
捏上温度 24℃
発 酵 発酵室温27℃ 湿度75% 4時間
・本捏配合
強力粉 30質量部
上白糖 6質量部
食塩 1.8質量部
脱脂粉乳 2質量部
粉末油脂 6質量部
水 25質量部
・本捏工程(本捏配合の全素材及び中種生地全量を添加)
ミキシング 低速3分 中低速8分
捏上温度 28℃
フロアータイム 28℃ 20分
生地分割 230g
ベンチタイム 28℃ 20分
成 型 モルダーで5mmに延ばしロール型に成型
U型にしてプルマン型に6本詰め
ホイロ 室温38℃ 湿度80% 40分
焼 成 200℃ 40分
【0062】
[食パンの風味]
実施例及び比較例の粉末油脂を使用した食パンを25℃で1日保管後、上記生乳感、ミルク感の評価と同様の基準により、評価した。
【0063】
(パウンドケーキの作製)
実施例及び比較例の粉末油脂を使用したパウンドケーキを、下記の配合と工程により作製し、25℃で1日保管後、上記パネル20名で試食し、下記の基準で評価した。
粉末油脂、マーガリン、上白糖をボールに入れ、10コートミキサーを用いて高速で撹拌し、比重0.75に調整した。全卵を徐々に加えて混ぜ合わせた。薄力粉、ベーキングパウダーを投入し、低速で1分間攪拌した(最終比重0.85)。生地をパウンド型に350g入れ、175℃のオーブンで45分間焼成した。
(パウンドケーキの配合)
薄力粉 100質量部
上白糖 100質量部
全卵 100質量部
ベーキングパウダー 1質量部
粉末油脂 15質量部
マーガリン 92.5質量部
【0064】
[パウンドケーキの風味]
実施例及び比較例の粉末油脂を使用した食パンを25℃で1日保管後、上記生乳感、ミルク感の評価と同様の基準により、評価した。
【0065】
(アイスボックスクッキーの作製)
ミキシングボールに、ショートニング及び上白糖を投入し、ビーターでミキシングした。全卵を少しずつ添加後、さらに粉末油脂、薄力粉を添加混合し、クッキー生地を得た。
得られた生地を冷蔵庫で1時間リタードした後、丸型に成型し、冷凍庫で静置した。クッキー生地を厚さ10mmにスライスし、オーブンで焼成した。2枚の天板を使用し、上段を180℃、下段を150℃に設定して16分間焼成してアイスボックスクッキーを得た。
(アイスボックスクッキーの配合)
ショートニング 135質量部
上白糖 120質量部
全卵 75質量部
粉末油脂 60質量部
薄力粉 300質量部
【0066】
[アイスボックスクッキーの風味]
実施例及び比較例の粉末油脂を使用したアイスボックスクッキーを25℃で1日保管後、上記生乳感、ミルク感の評価と同様の基準により、評価した。
【0067】
(マッシュポテトの作製)
乾燥マッシュポテト、粉末油脂、加熱した水を下記配合で混合しマッシュポテトを作製した。
(マッシュポテトの配合)
乾燥マッシュポテト 20質量部
粉末油脂 10質量部
水 80質量部
【0068】
[マッシュポテトの風味]
実施例及び比較例の粉末油脂を使用したマッシュポテトを放熱後、上記生乳感、ミルク感の評価と同様の基準により、評価した。
【0069】
(コーンポタージュの作製)
下記に示す配合で、実施例及び比較例の粉末油脂と各成分を混合し撹拌しながら80℃に加熱しコーンポタージュを作製した。
(コーンポタージュの配合)
スイートコーン缶詰 100質量部
牛乳 300質量部
粉末油脂 50質量部
食塩 少々
コショウ 少々
【0070】
[コーンポタージュの風味]
実施例及び比較例の粉末油脂を使用したコーンポタージュを25℃で1日保管後、上記生乳感、ミルク感の評価と同様の基準により、評価した。
【0071】
[白濁感]
コーンポタージュの液色を目視し、以下の基準で白濁感を評価した。
◎+:非常に濃く白濁している。
◎:濃く白濁している。
○+:白濁している。
○:薄く白濁している。
×:あまり白濁していない。
【0072】
(ホワイトソースの作製)
焙煎小麦粉20.0質量部、脱脂粉乳26.5質量部、食塩3.5質量部、加工でん粉2.0質量部、粉末チーズ1.5質量部、チキンエキス0.7質量部、酵母エキス0.5質量部、香辛料0.3質量部、粉末油脂45質量部を混合した。混合物20質量部に対して、水80質量部を添加し、95℃になるまで撹拌しながら加熱し、ホワイトソースを作製した。
【0073】
[ホワイトソースの風味]
実施例及び比較例の粉末油脂を使用したホワイトソースを放熱後、上記生乳感、ミルク感の評価と同様の基準により、評価した。
【0074】
[白濁感]
得られたホワイトソースをビンに充填し、オートクレーブにより120℃、30分間レトルト加熱処理した。レトルト加熱処理後のホワイトソースの白濁感を目視により、上記白濁感の評価と同様の基準により、評価した。
【0075】
(コーヒーの作製)
下記の配合比率で、コーヒー抽出液に砂糖、実施例及び比較例の粉末油脂を入れ、加温
溶解した後、加熱した水を注ぎ、完全に溶解してコーヒーを作製した。
(コーヒーの配合)
コーヒー抽出液※ 6質量部
砂糖 5質量部
粉末油脂 1質量部
水 88質量部
※20質量%濃度になるよう湯にコーヒー粉末(市販品)を溶かし、リン酸水素2ナトリウムでpH6.8に調整した。
【0076】
[コーヒーの風味]
実施例、比較例の粉末油脂を使用したコーヒーを25℃で1日保管後、上記生乳感、ミルク感の評価と同様の基準により、評価した。
【0077】
[白濁感]
コーヒーの液色を目視し、上記白濁感の評価と同様の基準により、評価した。
【0078】
(高カロリーゼリーの作製)
90℃まで加熱した水にゼラチンを入れ完全に溶解した後、60℃に調温し、粉末油脂、上白糖を下記配合で混合し、10℃まで冷却しゲル組成物を作製した。
(高カロリーゼリーの配合)
粉末油脂 25質量部
上白糖 15質量部
ゼラチン 1.5質量部
水 58.5質量部
【0079】
[高カロリーゼリーの風味]
実施例及び比較例の粉末油脂を使用した高カロリーゼリーを10℃で1日保管後、上記生乳感、ミルク感の評価と同様の基準により、評価した。
【0080】
[白濁感]
高カロリーゼリーの液色を目視し、上記白濁感の評価と同様の基準により、評価した。
【0081】
上記の評価結果を表1A~1Gに示す。表1A~1Gにおいて、各項目全ての評価が◎+、◎、○+、〇、○-のいずれかである場合には発明の課題を解決していると判断し、△、×が1つでも含まれる場合は発明の課題を解決していないと判断した。
【0082】
【表1A】
【0083】
【表1B】
【0084】
【表1C】
【0085】
【表1D】
【0086】
【表1E】
【0087】
【表1F】
【0088】
【表1G】
【0089】
表1Gより、ホエイタンパク質を含む未乾燥の乳由来素材を配合したが油脂の含有量が少ない比較例1の粉末油脂とそれを用いた飲食品は、喫食、喫飲時に最初に感じる生乳感が得られなかった。ホエイタンパク質を含む未乾燥の乳由来素材を配合せず、ホエイタンパク質を含む乾燥された乳由来素材のみ配合した比較例2~8も、ミドルからラストのミルク感が向上したものの、喫食、喫飲時に最初に感じる生乳感が得られなかった。
これに対して、表1A~1Fより、油脂、及び、ホエイタンパク質を含む未乾燥の乳由来素材を含有し、粉末油脂の全量に対する油脂の含有量が40質量%以上である各実施例の粉末油脂とそれを用いた飲食品は、喫食、喫飲時に最初に感じる生乳感が得られた。またコーヒー飲料やスープ類のような飲食品に白濁感を効果的に付与することができた。
さらに、ホエイタンパク質を含む未乾燥の乳由来素材に加え、ホエイタンパク質を含む乾燥された乳由来素材を配合した粉末油脂は、再溶解時の乳化安定性が良く、風味として、喫食、喫飲時に最初に感じる生乳感が良好でありながら、これを損なわずにミドルからラストのミルク感を向上させることができた。
【要約】
【課題】喫食、喫飲時に最初に感じる生乳感が良好な粉末油脂、及びそれを用いた飲食品を提供する。
【解決手段】本発明の粉末油脂は、油脂、及び、ホエイタンパク質を含む未乾燥の乳由来素材を配合し、粉末油脂の全量に対する前記油脂の配合量が40質量%以上であることを特徴としている。
【選択図】なし