(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-22
(45)【発行日】2023-03-03
(54)【発明の名称】真空脱脂洗浄装置およびそれを用いた真空脱脂洗浄方法
(51)【国際特許分類】
C23G 5/04 20060101AFI20230224BHJP
B08B 3/04 20060101ALI20230224BHJP
B08B 3/02 20060101ALI20230224BHJP
C23G 5/02 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
C23G5/04
B08B3/04 Z
B08B3/02 A
C23G5/02
(21)【出願番号】P 2019049227
(22)【出願日】2019-03-16
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】園部 勝
(72)【発明者】
【氏名】宮腰 昇
(72)【発明者】
【氏名】武部 匡彦
(72)【発明者】
【氏名】山下 篤司
(72)【発明者】
【氏名】庄司 幸広
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-226217(JP,A)
【文献】特開2010-012417(JP,A)
【文献】特開平06-306658(JP,A)
【文献】特開平05-261347(JP,A)
【文献】特開平07-275816(JP,A)
【文献】特開平03-109982(JP,A)
【文献】特開平05-267264(JP,A)
【文献】特開2001-038310(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23G 3/00-5/06
B08B 3/00-3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被洗浄物を内部に収容できる洗浄室と、前記洗浄室内を減圧雰囲気にする真空ポンプと、前記洗浄室内へ有機溶媒を供給する洗浄タンクと、を備える真空脱脂洗浄装置において、前記洗浄室には、前記被洗浄物を設置する積荷台と、前記積荷台の下方に設置されてストッパー部品および押し上げ部材をそれぞれ各端部に備えたテーブルと、前記テーブルを下方から支持して前記洗浄室内との差圧で内部が膨張するベローズと、を有して、前記ベローズの膨張により前記テーブルが持ち上がり、前記押し上げ部材が前記積荷台の端部を押し上げると共に前記ストッパー部品が前記積荷台の端部と接触することで前記積荷台が傾動する傾動機器が設置されていることを特徴とする真空脱脂洗浄装置。
【請求項2】
前記洗浄室の底部には、前記ベローズの内部に不活性ガスを導入する配管をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載の真空脱脂洗浄装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の真空脱脂洗浄装置を用いた真空脱脂洗浄方法であって、前記被洗浄物を前記洗浄室内へ搬入する第1工程と、前記第1工程後に前記洗浄室内を減圧することで前記ベローズが膨張して前記積荷台の傾動により前記被洗浄物が徐々に傾斜する第2工程と、前記第2工程後に前記被洗浄物に対して前記有機溶媒を用いて洗浄する第3工程と、前記第3工程後に前記洗浄室内から前記被洗浄物を搬出する第4工程と、を含み、前記第3工程にて前記被洗浄物を傾斜させた状態で前記有機溶媒を用いて洗浄することを特徴とする真空脱脂洗浄方法。
【請求項4】
前記第3工程では、前記被洗浄物に対して前記有機溶媒を噴霧または散水することで洗浄することを特徴とする請求項3に記載の真空脱脂洗浄方法。
【請求項5】
前記第3工程では、前記洗浄室内へ前記有機溶媒を導入して前記被洗浄物を浸漬することで洗浄することを特徴とする請求項3に記載の真空脱脂洗浄方法。
【請求項6】
前記有機溶媒中に浸漬された前記被洗浄物を上下方向に揺動することを特徴とする請求項5に記載の真空脱脂洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油分が付着した被洗浄物を減圧雰囲気下で洗浄する真空脱脂洗浄装置およびそれを用いた真空脱脂洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品などの鋼製品は、射出成型または鋳造後に余分な部分を切削加工により切断する工程を得て、製造される。その後に、切削加工により付着した潤滑材や切削油を有機溶剤で除去する(洗浄する)工程が必要になる。
【0003】
洗浄する工程で有機溶剤を使用する場合、一般的には洗浄室内が減圧された雰囲気で行なう。また、洗浄する方式は、洗浄室内の被洗浄物に対して有機溶剤を噴霧したり、散水方式(シャワー)で洗浄したり、または被洗浄物を有機溶剤中に浸漬させる方式など様々な方法がある。
【0004】
被洗浄物には種々の形態が存在するが、断面形状が複雑に入り組んだ形状の製品や開口部が狭くて内部に大きな空洞を有している様な製品である場合、切削加工中の潤滑油などの液体が製品の内部に一旦侵入すると、それらを完全に取り除くことは非常に困難である。
【0005】
また、鋼製品を洗浄する場合には一度に多量の製品を洗浄する必要があり、多量の製品をカゴなどの容器に積み上げてからシャワーで洗浄したり、洗浄液中に浸漬することで洗浄される。その場合、鋼製品は容器内で設置される箇所により、製品間で洗浄の効果が大きく異なるという問題があった。
【0006】
これの問題に対して、例えば特許文献1ないし3では洗浄室内に容器を傾動させる装置を設置することで被洗浄物を揺動しながら洗浄する方式や洗浄室外に揺動装置を設置することで洗浄室全体を上下方向や左右方向に動かしながら洗浄する方式が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平5-261347号公報
【文献】特開平8-299925号公報
【文献】特許第5537784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1ないし3に開示された洗浄方式では、洗浄室全体を傾斜させるための大掛かりな装置が必要となり、傾斜させるための電力も過大になる。特に、被洗浄物を洗浄液中に浸漬して洗浄する場合には、洗浄室の重量だけでなく、洗浄液自体の重量も加わるので、これらの重量を傾動させることは非常に困難である。
【0009】
さらに、洗浄液として有機溶剤を使用する場合には、洗浄室を減圧された雰囲気で行なうので、モータや油圧シリンダーなど電気を動力源とする部品を洗浄室内に設置することは困難である。
【0010】
そこで、本発明は減圧された洗浄室内にて如何なる洗浄方式であっても、被洗浄物を傾斜させながら洗浄および乾燥させる真空脱脂洗浄方法および真空脱脂洗浄装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、内部が減圧された(減圧雰囲気)洗浄室内で有機溶媒により被洗浄物を洗浄する真空脱脂洗浄方法を以下の第1ないし第4工程から構成した。すなわち、被洗浄物を洗浄室内へ搬入する第1工程,その後に洗浄室内を減圧する第2工程,その後に被洗浄物に対して有機溶媒を用いて洗浄する第3工程,その後に洗浄室内から被洗浄物を搬出する第4工程を有すると共に、第3工程で被洗浄物を傾斜させた状態で有機溶媒を噴霧または散水する真空脱脂洗浄方法とした。なお、第2工程では洗浄室内を減圧しながら、被洗浄物を徐々に傾斜させても構わない。
【0012】
また、第3工程においては、有機溶剤を噴霧または散水することで被洗浄物を洗浄したり、第2工程後に洗浄室内へ有機溶媒を導入して被洗浄物を浸漬することで洗浄する方式でも構わない。
【0013】
なお、第2工程では洗浄室内を減圧しながら被洗浄物を徐々に傾斜させたり、もしくは第3工程では有機溶媒中に浸漬された被洗浄物を上下方向に揺動しながら洗浄する方法であっても構わない。
【0014】
これらの洗浄方法を行なう真空脱脂洗浄装置については、被洗浄物を内部に収容できる洗浄室、洗浄室内を減圧雰囲気にする真空ポンプ、洗浄室内へ有機溶媒を供給する洗浄タンクを備えて、洗浄室には被洗浄物を設置する積荷台を有しており、積荷台の下方にベローズが設置した真空脱脂洗浄装置とする。また、積荷台の下方には複数のベローズを設置したり、ベローズの内部に不活性ガスを導入する配管を洗浄室の底部に設けても構わない。
【発明の効果】
【0015】
本発明の真空脱脂洗浄方法は、減圧された洗浄室内にて如何なる洗浄方式であっても、被洗浄物を傾斜させながら洗浄および乾燥させるという効果を奏する。また、本発明の真空脱脂洗浄装置は従来の洗浄装置のような大掛かりな装置を用いることなく、簡易な装置(ベローズ)のみで洗浄中や乾燥中などに被洗浄物を傾動させて、複雑な形状の被洗浄物でも洗浄できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の真空脱脂洗浄方法に用いる傾動機器10の正面図である。
【
図2】本発明の真空脱脂洗浄方法に用いる傾動機器10の平面図である。
【
図3】第2実施形態の傾動機器20の正面図である。
【
図4】第2実施形態の傾動機器20の平面図である。
【
図5】被洗浄物Wを設置した場合の傾動機器30,40の正面図である。
【
図6】被洗浄物Wを設置した場合の傾動機器30,40の左側面図である。
【
図7】被洗浄物Wを設置した場合の傾動機器30,40の平面図である。
【
図8】
図1に示す傾動機器10が作動した場合の正面図である。
【
図9】本発明の真空脱脂洗浄方法における第1工程の状態を示す模式図である。
【
図10】本発明の真空脱脂洗浄方法における第2工程の状態を示す模式図である。
【
図11】本発明の真空脱脂洗浄方法における第3工程(シャワー方式)の状態を示す模式図である。
【
図12】本発明の真空脱脂洗浄方法における第3工程(浸漬方式:水平)の状態を示す模式図である。
【
図13】本発明の真空脱脂洗浄方法における第3工程(浸漬方式:傾動)の状態を示す模式図である。
【
図14】本発明の真空脱脂洗浄方法における第4工程前の状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。本発明の真空脱脂洗浄方法を実施する傾動機器(第1実施形態)10の正面図を
図1、平面図を
図2に示す。また、異なる形態の傾動機器(第2実施形態)20の正面図を
図3、平面図を
図4に示す。複数の傾動機器30,40を用いて被洗浄物Wを積載台50上に載置した状態の正面図を
図5、左側面図を
図6、平面図を
図7に示す。また、
図1に示す傾動機器10が作動した状態の正面図を
図8に示す。
【0018】
傾動機器(第1実施形態)10は、
図1および
図2に示すように長方形状のテーブル11とその下方に4個のベローズ(蛇腹)12a~12dがほぼ等間隔で配置されており、ベローズ12a~12dがテーブル11を支持している。また、テーブル11の両端にはストッパー部材13と押し上げ部材14が設置されている。
【0019】
また、別の実施形態である傾動機器(第2実施形態)20は、
図3および
図4に示すように
図1等に示す傾動機器(第1実施形態)10と同様に長方形状のテーブル21とその下方に3個のベローズ(蛇腹)22a~22cが等間隔で配置されている。テーブル21の両端にはストッパー部品23と2枚の押し上げ部材24(24a,24b)が並んで設置されている。
【0020】
次に、傾動装置が洗浄室内の減圧雰囲気下で作用した場合について説明する。傾動装置を洗浄室内で使用する場合には、
図5ないし
図7に示す様に傾動装置30,40上に積載台50を設置した上で被洗浄物(ワーク)Wを積載する。
【0021】
傾動装置30,40が洗浄室内において、大気圧から徐々に減圧された雰囲気になるに従い、ベローズ32,42(42a~42d)内の雰囲気は大気圧のままであるため、ベローズ32,42が徐々に膨張を始める。ベローズ32,42が膨張することでテーブル31,41が上方に持ち上がる。
【0022】
テーブル31,41が持ち上がると、テーブル31,41の端部に設置された押し上げ部材34,44が被洗浄物Wを載置した積載台50に接触すると、その積載台50が傾き始める。このときに、積載台50の端部はテーブル31,41上のストッパー部品33,43と接触しているので、積載台50が斜め方向に滑り落ちることを阻止する。
【0023】
また、各ベローズの底部に外部から窒素やアルゴン等の不活性ガスを供給できる配管(図示なし)が接続されている場合には、ベローズの膨張量(上昇量)が不足して被洗浄物Wを載置した積載台50に接触できない場合でも、不活性ガスをベローズ内に追加で供給することでベローズの上昇量を補うことができる。
【0024】
次に、これらの傾動装置(第1実施形態)10を利用した洗浄工程について、図面を用いて説明する。傾動装置(第1実施形態)10による洗浄工程の模式図を
図9~
図14に示す。まず、第1工程では、真空脱脂洗浄装置における洗浄室100内に被洗浄物(ワーク)Wを搬入する(
図9)。その際の装置内は大気圧下であるので、被洗浄物Wの搬入が完了すると、同装置内の圧力を減圧する、いわゆる真空引きを行なう。洗浄室100内の雰囲気が減圧されると(第2工程)、ベローズ42内は大気圧と同じ1気圧であるため、ベローズ42内の空気が膨張することでベローズ42が上方に伸びる(
図10)。その結果、テーブル41が上昇して積載台50が傾くので被洗浄物Wも傾斜して上面に残存していた切削油が流れ落ちる。
【0025】
次の工程(第3工程)では、被洗浄物Wが傾いた状態で洗浄室100の天井に設置された配管P1から有機溶剤Sを散水(シャワー)する(
図11)。それにより、被洗浄物Wの凹部に残存した切削油を洗い流す。その工程(第3工程)においては、有機溶剤Sの散水に替えて、被洗浄物Wを有機溶剤内に浸漬させる場合には、大気圧の状態で洗浄室内に有機溶剤Lを導入する(
図12)。その後、ベローズ42内に窒素ガスなどの不活性ガスを床下に設けられた配管P2を介して送り込むことでベローズ42を上昇させる(
図13)。
【0026】
その結果、
図11に示す状態と同様に被洗浄物Wが傾くので、被洗浄物Wの底面に滞留している気泡を外部に放出するされて、底面を有機溶剤Lに接触することで洗浄が可能となる。また、被洗浄物Wを有機溶剤L中に浸漬した状態で洗浄する場合には、窒素ガス等の導入量を変化させることで被洗浄物Wの傾きを自在に調整できる。そのため、被洗浄物Wを有機溶剤L中で揺動することで被洗浄物Wの全域にわたり有機溶剤Lと接触させることができる。
【0027】
散水や浸漬による洗浄が終了した後、洗浄室100内を大気圧に戻し、有機溶剤Lを洗浄室100外へ排出する。その後、再び洗浄室100を減圧し、傾動機器40のベローズ42を上昇させると、被洗浄物Wが傾くので、被洗浄物Wの上面に残存した有機溶剤Lを外部に排出できる(
図14)。洗浄室内における有機溶剤Lの排出が完了し、傾動機器40のベローズ42がすべて収縮することで被洗浄物Wが水平に保持されていることを確認して、洗浄室100から被洗浄物Wを搬出する(第4工程)。
【符号の説明】
【0028】
10,20,30,40 傾動機器
11,21,31,41 テーブル
12,22,32,42 ベローズ(蛇腹)
13,23,33,43 ストッパー部材
14,24,34,44 押し上げ部材
50 積載台
100 洗浄室
L,S 有機溶剤
P1,P2 配管