(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-22
(45)【発行日】2023-03-03
(54)【発明の名称】区間支流からの流入水を勘案した本流貯水池の生態学的調節方法
(51)【国際特許分類】
E02B 3/02 20060101AFI20230224BHJP
A01K 61/10 20170101ALI20230224BHJP
E02B 5/00 20060101ALN20230224BHJP
【FI】
E02B3/02 Z
A01K61/10
E02B5/00 Z
(21)【出願番号】P 2022530343
(86)(22)【出願日】2021-04-29
(86)【国際出願番号】 CN2021090805
(87)【国際公開番号】W WO2021238567
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-01-19
(31)【優先権主張番号】202010460654.8
(32)【優先日】2020-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520414480
【氏名又は名称】中国長江三峡集団有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】522025503
【氏名又は名称】長江水利委員会長江科学院
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】許 継軍
(72)【発明者】
【氏名】戴 会超
(72)【発明者】
【氏名】楊 春花
(72)【発明者】
【氏名】尹 正杰
(72)【発明者】
【氏名】李 清清
(72)【発明者】
【氏名】劉 志武
(72)【発明者】
【氏名】蒋 定国
(72)【発明者】
【氏名】趙 汗青
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110348083(CN,A)
【文献】国際公開第02/099202(WO,A1)
【文献】特開2001-214424(JP,A)
【文献】特開2012-082646(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/02
A01K 61/10
E02B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
産卵場断面の対象魚の生態学的及び水文学的パラメータを定めるサブステップであって、産卵場の対象魚の産卵監視データと水文データにより、産卵場断面の対象魚の生態学的及び水文学的パラメータを定め、つまり、上昇流量Q
e、水位の最初増加率Z
e、ピーク流量Q
m、平均流量増加率dQ及び増水の持続時間Dの値を定めるサブステップ(1)と、
高流量波動プロセスの初日の増水率に対する区間支流からの流入水の寄与率を計算するサブステップであって、復元された長系列の水文流出データにより、下流産卵場の高流量波動プロセスの頻度を算出し、下流産卵場の高流量波動プロセスに対する上流本流と区間支流の影響を分析し、産卵場における高流量波動プロセスの初日の増水率に対する区間支流からの流入水の寄与率βを定めるサブステップ(2)と、
生態学的調節の起動時機を定めるサブステップであって、本支流の制御所の水文流出データにより、高流量波動生成プロセスをIHA法で模擬し、魚の産卵期間中、産卵場における高流量波動プロセスの初日の増水率に対する区間支流からの流入水の寄与率βがしきい値θより大きくなる場合、区間支流の上昇流量Q
e、平均流量増加率dQ及び増水の持続時間Dを生態学的調節の起動制御指標として選択し、従って支流からの流入水及び増水のプロセスにより調節の起動タイミングstを判断し、産卵場における高流量波動プロセスの初日の増水率に対する区間支流からの流入水の寄与率βがしきい値θより大きくない場合、本流の上昇流量Q
e、平均流量増加率dQ及び増水の持続時間Dを生態学的調節の起動制御指標として選択し、従って本流の増水により調節の起動タイミングstを判断するサブステップ(3)と、
を具体的に含む、高流量波動プロセスの初日の増水率に対する区間支流からの流入水の寄与率及び産卵場断面の生態学的調節の起動時機を定めるステップ1と、
本支流が合流した後河川水路推移法を定め、パラメータを較正するステップであって、過去の水文データにより、上流貯水池の排水と区間支流との合流後の流量に対してムスキンゲン法で河川水路流量の計算を行い、他の小さな支流の流入を考えて、支流の流入を勘案したムスキンゲン法を採用して河川水路流量の計算を行うステップ2と、
産卵場断面の高流量波動頻度模擬モデルを築くサブステップであって、産卵場断面の高流量波動構成及び高流量波動プロセスの初日の増水率に対する区間支流からの流入水の寄与率により、本流貯水池の生態学的調節方法を定め、人工的な高流量波動頻度H、即ちmax|H|を最大化し、式中、Hは、区間支流からの流入水を勘案した生態学的調節方法によって計算された産卵場支配断面の高流量波動頻度であるサブステップ(1)と、
本流貯水池の配合区間からの流入水の生態学的調節モードを定めるサブステップであって、区間からの流入水に応じて支配断面の高流量波動頻度Hを可能な限り大きくするように本流貯水池の流出量を最適化解法で算出して、式(3)ように本流貯水池のst+j+1期間にわたる流出量Qout
st+j+1を推定し、
【数1】
式中、Qsy
st+jは産卵場の支配断面の複合流量であり、Qmj
st+jは区間支流の流量であり、stは本流又は区間支流の増水によって定められた生態学的調節の開始期間であり、つまり、魚の産卵期間中、β>θの場合、予測区間支流に増水がD日以上続き、平均流量増加がdQ以上であり、対応する上昇流量がQ
e以上である増水プロセスが現れる時、本流貯水池は、区間増水の初日に区間からの流入水を勘案した生態補償調節を始め、β≦θの場合、予測本流に増水がD日以上続き、平均流量増加がdQ以上であり、対応する上昇流量がQ
e以上である増水プロセスが現れる時、本流貯水池は、本流増水の初日に区間からの流入水を勘案した生態補償調節を開始するサブステップ(2)と、
を具体的に含む、区間支流からの流入水を勘案した本流貯水池の生態学的調節モードを定めるステップ3と、を含む、
ことを特徴とする区間支流からの流入水を勘案した本流貯水池の生態学的調節方法。
【請求項2】
ステップ1で、支流からの流入水及び増水のプロセスにより調節の起動タイミングstを判断し、つまり、区間支流に増水がD日以上続き、平均流量増加がdQ以上であり、対応する上昇流量がQ
e以上である増水プロセスが現れる時、主流貯水池は、補償調節を始めて下流産卵場で産卵魚が産卵するために必要な高流量波動プロセスの要件を満たし、本流の増水により調節の起動タイミングstを判断し、つまり、本流に増水がD日以上続き、平均流量増加がdQ以上であり、対応する上昇流量がQ
e以上である増水プロセスが現れる時、主流貯水池は、区間支流を勘案した補償調節を始めて下流産卵場で産卵魚が産卵するために必要な高流量波動プロセスの要件を満たす、
ことを特徴とする請求項1に記載の調節方法。
【請求項3】
ステップ1で、増水の持続時間Dは、魚の産卵に必要な高流量波動の75%に対応する高流量波動の持続時間であり、平均流量増加dQと上昇流量Q
eの値は、頻度法及び最大最小法に依頼し、頻度法とは、産卵期間中の本流又は区間の高流量波動の75%に従って平均流量増加dQと上昇流量Q
eの値を定めることを指し、最大最小法とは、毎年の産卵期間中の本流又は区間の最大平均流量増加及び対応の上昇流量を選択し、連続的な増水の平均流量増加及び対応の上昇流量の最小値を、連続的な増水の平均流量増加dQ及び対応の上昇流量Q
eの値として選定することを指す、
ことを特徴とする請求項1に記載の調節方法。
【請求項4】
ステップ2で、河川水路流量の計算公式は次の通りの式(1)であり、
【数2】
式中、Q
下,2は下流産卵場の支配断面の期末流量を指し、Q
上,2は上流の本支流が合流した断面の期末流量を指し、Q
上,1は上流の本支流が合流した断面の期初流量を指し、Q
下,1は下流産卵場の支配断面の期初流量を指し、Δtは計算期間であり、kは蓄流-流量関係曲線であり、xは流量比例係数であり、αは合流断面に対する区間支流からの流入水の寄与率であり、河川水路流量の演算係数d
0、d
1、d
2は、長期の長系列の測定された流量に従って最小二乗法によって較正される、
ことを特徴とする請求項1に記載の調節方法。
【請求項5】
ステップ3で、区間支流からの流入水を勘案した補償調節により、区間支流からの流入水を勘案した産卵場の支配断面の高流量波動頻度Hを算出し、産卵場断面の複合流量Qsy
st+jは、式(2)を満たす場合、1回の波動として測られ、
【数3】
式中、上昇流量Q
e、水位の最初増加率Z
e、ピーク流量Q
m、平均流量増加率dQ及び増水の持続時間Dの値はステップ1に由来する、
ことを特徴とする請求項1に記載の調節方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水資源管理及び水生態学の技術分野、特に区間支流からの流入水を勘案した本流貯水池の生態学的調節方法に関する。
【背景技術】
【0002】
漂流卵を産む魚が産卵期間中に産卵するかどうかは、河川水路の高流量波動プロセスと密接に関連しており、産卵のほとんどは高流量波動に連れる増水中に発生する。河川の大規模な貯水池の築き上げと運営に伴い、貯水池は洪水調節や送電網のピーク調整などの総合的な活用に役に立ち、下流の河川の自然水文流出モデルを変えたことにより、河川水路の元の高流量波動の持続時間、頻度、ピーク値及びその他のパラメータに全て大きな変化があって下流域で漂流卵を産む魚の産卵に大きな影響を与える。その上に、貯水池の生態学的調節に関する目下研究及び実験のほとんどは、本流貯水池の流入量と調節規則に基づいており、往々にして支流からの流入水をおろそかにしているため、貯水池の排水プロセスが区間増水プロセスと一致せず、下流の河川水路の産卵場断面は、理想的な高流量波動に連れる増水を生み出すことができず、生態学的調節の効果を期待どおりに達成しにくい。したがって、至急必要として産卵期の魚の自然繁殖を促進する方法は、区間支流からの流入水を勘案したことに基づいて、本流貯水池の生態学的調節方式を最適化することにより、下流の河川水路の高流量波動プロセスを改善し、産卵場で漂流卵を産む魚を大量に繁殖させる必要な水文学的条件を満たし、河川の健全を維持する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、従来の貯水池操作方法により下流河川で発生する高周波・高流量波動プロセスを実現できないという問題を解決することを目的とし、長年に亘って河川の主流と支流で出会った自然な高流量波動の規則に基づいて、区間増水を勘案した本流貯水池の生態学的調節方法を提供し、本流貯水池の生態学的調節モードを最適化することにより、下流の産卵場の高流量波動プロセスを向上させ、漂流卵を産む魚を大量に繁殖させる必要な水文学的条件を改善し、漂流卵を産む魚の自然繁殖を促進する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、産卵場断面の対象魚の生態学的及び水文学的パラメータを定めるサブステップであって、産卵場の対象魚の産卵監視データと水文データにより、産卵場断面の対象魚の生態学的及び水文学的パラメータを定め、つまり、上昇流量Q
e、水位の最初増加率Z
e、ピーク流量Q
m、平均流量増加率dQ及び増水の持続時間Dの値を定めるサブステップ(1)と、
高流量波動プロセスの初日の増水率に対する区間支流からの流入水の寄与率を計算するサブステップであって、復元された長系列の水文流出データにより、下流産卵場の高流量波動プロセスの頻度を算出し、下流産卵場の高流量波動プロセスに対する上流本流と区間支流の影響を分析し、産卵場における高流量波動プロセスの初日の増水率に対する区間支流からの流入水の寄与率βを定めるサブステップ(2)と、
生態学的調節の起動時機を定めるサブステップであって、本支流の制御所の水文流出データにより、高流量波動生成プロセスをIHA法で模擬し、魚の産卵期間中、産卵場における高流量波動プロセスの初日の増水率に対する区間支流からの流入水の寄与率βがしきい値θより大きくなる場合、区間支流の上昇流量Q
e、平均流量増加率dQ及び増水の持続時間Dを生態学的調節の起動制御指標として選択し、従って支流からの流入水及び増水のプロセスにより調節の起動タイミングstを判断し、産卵場における高流量波動プロセスの初日の増水率に対する区間支流からの流入水の寄与率βがしきい値θより大きくない場合、本流の上昇流量Q
e、平均流量増加率dQ及び増水の持続時間Dを生態学的調節の起動制御指標として選択し、従って本流の増水により調節の起動タイミングstを判断するサブステップ(3)と、
を具体的に含む、高流量波動プロセスの初日の増水率に対する区間支流からの流入水の寄与率及び産卵場断面の生態学的調節の起動時機を定めるステップ1と、
本支流が合流した後河川水路推移法を定め、パラメータを較正するステップであって、過去の水文データにより、上流貯水池の排水と区間支流との合流後の流量に対してムスキンゲン法で河川水路流量の計算を行い、他の小さな支流の流入を考えて、支流の流入を勘案したムスキンゲン法を採用して河川水路流量の計算を行うステップ2と(本流と産卵場の位置を示す概略図は
図1)、
産卵場断面の高流量波動頻度模擬モデルを築くサブステップであって、産卵場断面の高流量波動構成及び高流量波動プロセスの初日の増水率に対する区間支流からの流入水の寄与率により、本流貯水池の生態学的調節方法を定め、人工的な高流量波動頻度H、即ちmax|H|を最大化し、式中、Hは、区間支流からの流入水を勘案した生態学的調節方法によって計算された産卵場支配断面の高流量波動頻度であるサブステップ(1)と、
本流貯水池の配合区間からの流入水の生態学的調節モードを定めるサブステップであって、区間からの流入水に応じて支配断面の高流量波動頻度Hを可能な限り大きくするように本流貯水池の流出量を最適化解法で算出して、式(3)ように本流貯水池のst+j+1期間にわたる流出量Qout
st+j+1を推定し、
【数1】
式中、Qsy
st+jは産卵場の支配断面の複合流量であり、Qmj
st+jは区間支流の流量であり、stは本流又は区間支流の増水によって定められた生態学的調節の開始期間であり、つまり、魚の産卵期間中、β>θの場合、予測区間支流に増水がD日以上続き、平均流量増加がdQ以上であり、対応する上昇流量がQ
e以上である増水プロセスが現れる時、本流貯水池は、区間増水の初日に区間からの流入水を勘案した生態補償調節を始め、β≦θの場合、予測本流に増水がD日以上続き、平均流量増加がdQ以上であり、対応する上昇流量がQ
e以上である増水プロセスが現れる時、本流貯水池は、本流増水の初日に区間からの流入水を勘案した生態補償調節を開始するサブステップ(2)と、
を具体的に含む、区間支流からの流入水を勘案した本流貯水池の生態学的調節モードを定めるステップ3と、を含む区間支流からの流入水を勘案した本流貯水池の生態学的調節方法を提供する。
【0005】
さらに、ステップ1で、支流からの流入水及び増水のプロセスにより調節の起動タイミングstを判断し、つまり、区間支流に増水がD日以上続き、平均流量増加がdQ以上であり、対応する上昇流量がQe以上である増水プロセスが現れる時、主流貯水池は、補償調節を始めて下流産卵場で産卵魚が産卵するために必要な高流量波動プロセスの要件を満たし、本流の増水により調節の起動タイミングstを判断し、つまり、本流に増水がD日以上続き、平均流量増加がdQ以上であり、対応する上昇流量がQe以上である増水プロセスが現れる時、主流貯水池は、区間支流を勘案した補償調節を始めて下流産卵場で産卵魚が産卵するために必要な高流量波動プロセスの要件を満たす。
【0006】
さらに、ステップ1で、増水の持続時間Dは、魚の産卵に必要な高流量波動の75%に対応する高流量波動の持続時間であり、平均流量増加dQと上昇流量Qeの値は、頻度法及び最大最小法に依頼し、頻度法とは、産卵期間中の本流又は区間の高流量波動の75%に従って平均流量増加dQと上昇流量Qeの値を定めることを指し、最大最小法とは、毎年の産卵期間中の本流又は区間の最大平均流量増加及び対応の上昇流量を選択し、連続的な増水の平均流量増加及び対応の上昇流量の最小値を、連続的な増水の平均流量増加dQ及び対応の上昇流量Qeの値として選定することを指す。
【0007】
さらに、ステップ2で、河川水路流量の計算公式は次の通りの式(1)であり、
【数2】
式中、Q
下,2は下流産卵場の支配断面の期末流量を指し、Q
上,2は上流の本支流が合流した断面の期末流量を指し、Q
上,1は上流の本支流が合流した断面の期初流量を指し、Q
下,1は下流産卵場の支配断面の期初流量を指し、Δtは計算期間であり、kは蓄流-流量関係曲線であり、xは流量比例係数であり、αは合流断面に対する区間支流からの流入水の寄与率であり、河川水路流量の演算係数d
0、d
1、d
2は、長期の長系列の測定された流量に従って最小二乗法によって較正される。
【0008】
さらに、ステップ3で、区間支流からの流入水を勘案した補償調節により、区間支流からの流入水を勘案した産卵場の支配断面の高流量波動頻度Hを算出し、産卵場断面の複合流量Qsy
st+jは、式(2)を満たす場合、1回の波動として測られ、
【数3】
式中、上昇流量Q
e、水位の最初増加率Z
e、ピーク流量Q
m、平均流量増加率dQ及び増水の持続時間Dの値はステップ1に由来する。
【発明の効果】
【0009】
本発明には以下の利点がある。(1)区間支流からの流入水を勘案することにより、従来の調節方法による下流河川の高流量波動プロセスの頻度不足の問題を解決し、下流の河川水路の高流量波動プロセスを有効的に改善し、産卵場で漂流卵を産む魚を大量に繁殖させる必要な水文学的条件を満たす。(2)産卵場断面の高流量波動頻度模擬モデルを築くことにより、さまざまな調節方案の下流産卵場断面の高流量波動プロセスを迅速に模擬し、最適化解法で本流貯水池の最良の生態学的調節モードを算出する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】2000年に朱沱発電所における3つの条件下での波動流量プロセスを示す図である。
【
図3】2010年に朱沱発電所における3つの条件下での波動流量プロセスを示す図である。
【
図4】1986年に朱沱発電所における3つの条件下での波動流量プロセスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施状態を添付の図面と相まって以下に詳細に説明し、本発明の技術的解決策を明確かつ完全に説明するが、それらは、本発明を限定するものではなく、単なる一例であることに加えて、説明により本発明の利点をより明確になり、理解しやすくなるようにさせる。
【0012】
本発明は、金沙江の下流に沿う向家堤から重慶までの流路区間で漂流卵を産む魚の生態学的調節を例として、本発明によって提供された方法を詳細に説明し、他の河川の生態学的調節を導く重要性も備える。
【0013】
宜賓から重慶までの金沙江に沿う四川-重慶の流路区間は、長江の上流にある希少な固有の魚の国立自然保護区である。その流路区間は、長さが約387kmであり、上流に溪洛渡や向家堤等の水力発電所があり、この区間に泯江や赤水河や沱江等のより大きな支流がある。その流路区間に住む代表的な漂流卵を産む魚には、金鰍(カタクチイワシ)及び長薄鰍(ドジョウ)が含まれ、それらの産卵場はその流路区間の下流の沱江発電所の付近にある。2012年に向家堤及び溪洛渡の水力発電所を次々と作り上げて使用したのに伴い、下流の四川-重慶の流路区間の流出法則を大幅に変え、特に保護区における産卵期の5-7月の生態学的及び水文学的プロセスに大きな影響を与え、漂流卵を産む魚の自然繁殖に不利になる。
【0014】
本発明の実施例によって提供された区間支流からの流入水を勘案した本流貯水池の生態学的調節方法、次のステップを含む。
【0015】
ステップ1:産卵場断面の生態学的調節の起動指数と区間からの流入水の寄与率を定める。
【0016】
1.産卵場断面の生態学的及び水文学的パラメータを定める。
産卵場での現在入手可能な2009~2015年の魚の産卵監視データと水文データによると、朱沱発電所は、それぞれ5月と6月中旬~7月上旬に高流量波動プロセスを一回生成しないと、漂流卵を産む魚の産卵を満たすことができない。具体的な生態学的及び水文学的要件は次の通りである:本流の朱沱発電所での高流量の日流量伸び、即ち平均流量増加率の値dQは、5月に700であり、6月中旬~7月に760である。高流量波動の増水の持続時間、即ち増水の持続時間の値Dは、5月に2であり、6月中旬~7月に3である。初日の増加率、即ち水位の最初増加率の値Zeは、5月に900であり、6月中旬~7月に1200である。上昇流量の値Qeは、5月に3900であり、6月中旬~7月に6500である。ピーク流量の値Qmは、5月に6200であり、6月中旬~7月に14000である。
【0017】
2.高流量波動プロセスの初日の増水率に対する区間支流からの流入水の寄与率を計算する。
支流中の泯江は、広い流域面積を有し、1954年から2012年の4~7月までの流入水量は、朱沱発電所の34.93%を占めている。長江本流の朱沱発電所において247回の高流量波動が発生するとともに、泯江の高場発電所において240回の高流量波動が発生し、朱沱発電所の高流量波動の97.17%を占めた。計算によると、4月から7月にかけて朱沱発電所の高流量波動に連れる初日の増水率に対する泯江の平均寄与率βは36.7%である。長年の測定データは、泯江に毎年朱沱発電所の高流量波動に出会った少なくとも1つの高流量波動があることを示し、朱沱発電所の高流量波動に連れる初日の増水率に対する寄与率は大きくなる。
【0018】
3.生態学的調節の起動時機を定める。
金沙江の屏山発電所(現在の向家堤発電所)と泯江の高場発電所の1954年~2012年の水文流出プロセスに対して、IHA法で高流量波動生成プロセスを模擬する。4月から7月にかけて朱沱発電所の高流量波動に連れる初日の増水率に対する平均寄与率(36.7%)はしきい値(30%)より大きくなるため、生態学的調節の開始期間は、泯江における増水によって判断される。つまり、予測区間における泯江は、5月に増水が2日以上続き、平均流量増加が290m3/s以上であり、対応する上昇流量が1413m3/s以上である増水プロセスが現れ、6月中旬~7月上旬に、増水が2日以上続き、平均流量増加が495m3/s以上であり、対応する上昇流量が2330m3/s以上である増水プロセスが現れる。上記の生態学的調節の起動時機要件を満たすと、金沙江の本流にある溪洛渡及び向家堤貯水池は、泯江増水の初日に生態学的補償調節を開始する。
【0019】
ステップ2:本支流が合流した後河川水路推移法を定め、パラメータを較正する。
【0020】
1954年から2012年の4~7月までの向家堤発電所(旧屏山発電所)や高場発電所や朱沱発電所の毎日の流出データに基づいて、家堤発電所と高場発電所から金沙江と泯江との合流点までの距離は差が大きくないため、下部断面の朱沱発電所における流量をムスキンゲン(Muskingen)モデルで計算する場合、向家堤発電所(旧屏山発電所)及び高場発電所における流出を直接加算して上部断面の流量とする。金沙江と泯江を除いて、朱沱発電所の上流に赤水河や沱江や横江などの支流があり、側枝の流入を勘案したムスキンゲンモデルに対して最小二乗法でd0、d1及びd2を計算し、d0=0.150,d1=0.495、d2=0.437、及びR=0.994(適合相関係数)を得、フィッティング効果は良好である。
【0021】
ステップ3:区間支流からの流入水を勘案した本流貯水池の生態学的調節方法を定める。
【0022】
1.産卵場断面の高流量波動頻度模擬モデルを築く。
産卵場の朱沱発電所における人工的な高流量波動頻度H、即ちmax|H|を最大化する。式中、Hは、支流の泯江からの流入水を勘案した生態学的調節方法によって計算された産卵場支配断面の高流量波動頻度である。産卵場断面の複合流量Qsyst+jは、式(2)を満たす場合、1回の波動として測られる。
【0023】
【0024】
式中、本流の朱沱発電所での高流量の日流量伸びの値dQは、5月に700であり、6月中旬~7月に760である。高流量波動の増水の持続時間の値dayは、5月に2であり、6月中旬~7月に3である。初日の増加率の値Zeは、5月に900であり、6月中旬~7月に1200である。上昇流量の値Qeは、5月に3900であり、6月中旬~7月に6500である。ピーク流量の値Qmは、5月に6200であり、6月中旬~7月に14000である。
【0025】
2.本流貯水池の配合区間からの流入水の生態学的調節モードを定める。
区間からの流入水に応じて支配断面の高流量波動頻度Hを可能な限り大きくするように本流貯水池の流出量を最適化解法で算出して、式(3)ように本流貯水池のst+j+1期間にわたる流出量Qoutst+j+1を推定する。
【0026】
【0027】
式中、Qsyst+jは産卵場の支配断面の複合流量であり、Qmjst+jは区間支流である泯江の流量であり、stは泯江の増水によって定められた生態学的調節の開始期間である。つまり、予測区間における泯江は、5月に増水が2日以上続き、平均流量増加が290m3/s以上であり、対応する上昇流量が1413m3/s以上である増水プロセスが現れ、6月中旬~7月上旬に、増水が2日以上続き、平均流量増加が495m3/s以上であり、対応する上昇流量が2330m3/s以上である増水プロセスが現れる場合、金沙江の本流にある溪洛渡及び向家堤貯水池は、泯江増水の初日に生態学的補償調節を開始する。
【0028】
朱沱発電所の2000年、2010年及び1986年を、それぞれ豊水年、平水年及び渇水年とし、上記のモデルに従って、主流貯水池の流出量を最適化解法で計算して生態学的調節モードを取得する。
【0029】
自然状況、慣例調節及び区間支流からの流入水を勘案した生態学的調節モードという三つの場合、朱沱発電所の産卵場の支配断面の高流量波動頻度H
0、H
1、Hを順番に算出する。具体的に、長系列の水文データに基づいて自然条件下での産卵場の支配断面から流入水の複合規律を分析して自然条件下での産卵場の支配断面の高流量波動頻度H
0を算出し、主流貯水池の慣例調節規則により、慣例調節の産卵場の支配断面の高流量波動頻度H
1を算出し、区間支流からの流入水を勘案した補償調節により、区間支流からの流入水を勘案した産卵場の支配断面の高流量波動頻度Hを算出する。計算結果を表1~3に、波動プロセスを
図2~4に示す。
【0030】
2000年:自然条件下では、朱沱発電所に2つの高流量波動が発生し、慣例調節方案に高流量波動が発生せず、生態学的調節方案は2つの高流量波動の発生を保証することに加えて、高流量波動のさまざまな指標は、魚の産卵のための連続的な増水プロセスの要件を満たし、朱沱発電所での高流量波動の頻度を保持し、つまり、H0=2、H1=0、H=2になる。
【0031】
2010年:自然条件下では、朱沱発電所に3つの高流量波動が発生し、5月~7月上旬に亘って慣例調節方案に高流量波動が発生せず、生態学的調節方案は2つの高流量波動の発生を保証することに加えて、高流量波動のさまざまな指標は、魚の産卵のための連続的な増水プロセスの要件を満たし、朱沱発電所で高流量に連れる1日平均の増加は、自然条件下での1日平均の増加よりも全般的に高くなり、つまり、H0=3、H1=0、H=2になる。
【0032】
1986年:自然条件下では、朱沱発電所に4つの高流量波動が発生し、慣例調節方案に1つの高流量波動が発生し、生態学的調節方案は、2つの生態学的調節を始め、朱沱発電所で4つの高流量波動プロセスを生成することに加えて、高流量波動のさまざまな指標は、魚の産卵のための連続的な増水プロセスの要件を満たし、つまり、H0=4,H1=1,H=4になる。
【0033】
要約すると、慣例調節と比較して、本発明によって提供された本流貯水池の生態学的調節方案は、高流量波動プロセスの頻度を有効的に増加し、産卵場に漂流卵を産む魚の自然繁殖にとって有益である。
【0034】
表1:2000年(豊水年)の朱沱発電所における高流量波動の特性指標の統計表
【0035】
【0036】
表2:2010年(平水年)の朱沱発電所における高流量波動の状況の統計表
【0037】
【0038】
表3:1986年(渇水年)の朱沱発電所における高流量波動の状況の統計表
【0039】
【0040】
上記は本発明の特定の実施形態に過ぎないが、本発明の保護範囲はそれに限定されない。当業者から容易に案出される、本発明によって開示された技術的範囲内の変更又は置換は、本発明の保護範囲内に含まれる。したがって、本発明の保護範囲は、特許請求の保護範囲に従うべきである。
【0041】
(付記)
(付記1)
産卵場断面の対象魚の生態学的及び水文学的パラメータを定めるサブステップであって、産卵場の対象魚の産卵監視データと水文データにより、産卵場断面の対象魚の生態学的及び水文学的パラメータを定め、つまり、上昇流量Q
e、水位の最初増加率Z
e、ピーク流量Q
m、平均流量増加率dQ及び増水の持続時間Dの値を定めるサブステップ(1)と、
高流量波動プロセスの初日の増水率に対する区間支流からの流入水の寄与率を計算するサブステップであって、復元された長系列の水文流出データにより、下流産卵場の高流量波動プロセスの頻度を算出し、下流産卵場の高流量波動プロセスに対する上流本流と区間支流の影響を分析し、産卵場における高流量波動プロセスの初日の増水率に対する区間支流からの流入水の寄与率βを定めるサブステップ(2)と、
生態学的調節の起動時機を定めるサブステップであって、本支流の制御所の水文流出データにより、高流量波動生成プロセスをIHA法で模擬し、魚の産卵期間中、産卵場における高流量波動プロセスの初日の増水率に対する区間支流からの流入水の寄与率βがしきい値θより大きくなる場合、区間支流の上昇流量Q
e、平均流量増加率dQ及び増水の持続時間Dを生態学的調節の起動制御指標として選択し、従って支流からの流入水及び増水のプロセスにより調節の起動タイミングstを判断し、産卵場における高流量波動プロセスの初日の増水率に対する区間支流からの流入水の寄与率βがしきい値θより大きくない場合、本流の上昇流量Q
e、平均流量増加率dQ及び増水の持続時間Dを生態学的調節の起動制御指標として選択し、従って本流の増水により調節の起動タイミングstを判断するサブステップ(3)と、
を具体的に含む、高流量波動プロセスの初日の増水率に対する区間支流からの流入水の寄与率及び産卵場断面の生態学的調節の起動時機を定めるステップ1と、
本支流が合流した後河川水路推移法を定め、パラメータを較正するステップであって、過去の水文データにより、上流貯水池の排水と区間支流との合流後の流量に対してムスキンゲン法で河川水路流量の計算を行い、他の小さな支流の流入を考えて、支流の流入を勘案したムスキンゲン法を採用して河川水路流量の計算を行うステップ2と、
産卵場断面の高流量波動頻度模擬モデルを築くサブステップであって、産卵場断面の高流量波動構成及び高流量波動プロセスの初日の増水率に対する区間支流からの流入水の寄与率により、本流貯水池の生態学的調節方法を定め、人工的な高流量波動頻度H、即ちmax|H|を最大化し、式中、Hは、区間支流からの流入水を勘案した生態学的調節方法によって計算された産卵場支配断面の高流量波動頻度であるサブステップ(1)と、
本流貯水池の配合区間からの流入水の生態学的調節モードを定めるサブステップであって、区間からの流入水に応じて支配断面の高流量波動頻度Hを可能な限り大きくするように本流貯水池の流出量を最適化解法で算出して、式(3)ように本流貯水池のst+j+1期間にわたる流出量Qout
st+j+1を推定し、
【数6】
式中、Qsy
st+jは産卵場の支配断面の複合流量であり、Qmj
st+jは区間支流の流量であり、stは本流又は区間支流の増水によって定められた生態学的調節の開始期間であり、つまり、魚の産卵期間中、β>θの場合、予測区間支流に増水がD日以上続き、平均流量増加がdQ以上であり、対応する上昇流量がQ
e以上である増水プロセスが現れる時、本流貯水池は、区間増水の初日に区間からの流入水を勘案した生態補償調節を始め、β≦θの場合、予測本流に増水がD日以上続き、平均流量増加がdQ以上であり、対応する上昇流量がQ
e以上である増水プロセスが現れる時、本流貯水池は、本流増水の初日に区間からの流入水を勘案した生態補償調節を開始するサブステップ(2)と、
を具体的に含む、区間支流からの流入水を勘案した本流貯水池の生態学的調節モードを定めるステップ3と、を含む、
ことを特徴とする区間支流からの流入水を勘案した本流貯水池の生態学的調節方法。
【0042】
(付記2)
ステップ1で、支流からの流入水及び増水のプロセスにより調節の起動タイミングstを判断し、つまり、区間支流に増水がD日以上続き、平均流量増加がdQ以上であり、対応する上昇流量がQe以上である増水プロセスが現れる時、主流貯水池は、補償調節を始めて下流産卵場で産卵魚が産卵するために必要な高流量波動プロセスの要件を満たし、本流の増水により調節の起動タイミングstを判断し、つまり、本流に増水がD日以上続き、平均流量増加がdQ以上であり、対応する上昇流量がQe以上である増水プロセスが現れる時、主流貯水池は、区間支流を勘案した補償調節を始めて下流産卵場で産卵魚が産卵するために必要な高流量波動プロセスの要件を満たす、
ことを特徴とする付記1に記載の調節方法。
【0043】
(付記3)
ステップ1で、増水の持続時間Dは、魚の産卵に必要な高流量波動の75%に対応する高流量波動の持続時間であり、平均流量増加dQと上昇流量Qeの値は、頻度法及び最大最小法に依頼し、頻度法とは、産卵期間中の本流又は区間の高流量波動の75%に従って平均流量増加dQと上昇流量Qeの値を定めることを指し、最大最小法とは、毎年の産卵期間中の本流又は区間の最大平均流量増加及び対応の上昇流量を選択し、連続的な増水の平均流量増加及び対応の上昇流量の最小値を、連続的な増水の平均流量増加dQ及び対応の上昇流量Qeの値として選定することを指す、
ことを特徴とする付記1に記載の調節方法。
【0044】
(付記4)
ステップ2で、河川水路流量の計算公式は次の通りの式(1)であり、
【数7】
式中、Q
下,2は下流産卵場の支配断面の期末流量を指し、Q
上,2は上流の本支流が合流した断面の期末流量を指し、Q
上,1は上流の本支流が合流した断面の期初流量を指し、Q
下,1は下流産卵場の支配断面の期初流量を指し、Δtは計算期間であり、kは蓄流-流量関係曲線であり、xは流量比例係数であり、αは合流断面に対する区間支流からの流入水の寄与率であり、河川水路流量の演算係数d
0、d
1、d
2は、長期の長系列の測定された流量に従って最小二乗法によって較正される、
ことを特徴とする付記1に記載の調節方法。
【0045】
(付記5)
ステップ3で、区間支流からの流入水を勘案した補償調節により、区間支流からの流入水を勘案した産卵場の支配断面の高流量波動頻度Hを算出し、産卵場断面の複合流量Qsy
st+jは、式(2)を満たす場合、1回の波動として測られ、
【数8】
式中、上昇流量Q
e、水位の最初増加率Z
e、ピーク流量Q
m、平均流量増加率dQ及び増水の持続時間Dの値はステップ1に由来する、
ことを特徴とする付記1に記載の調節方法。