(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-22
(45)【発行日】2023-03-03
(54)【発明の名称】合成繊維ロープおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D07B 1/02 20060101AFI20230224BHJP
D02G 3/04 20060101ALI20230224BHJP
D07B 5/06 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
D07B1/02
D02G3/04
D07B5/06
(21)【出願番号】P 2018178516
(22)【出願日】2018-09-25
【審査請求日】2021-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】591171976
【氏名又は名称】山田実業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】306039164
【氏名又は名称】株式会社テザック
(74)【代理人】
【識別番号】100129540
【氏名又は名称】谷田 龍一
(74)【代理人】
【識別番号】100082474
【氏名又は名称】杉本 丈夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 泰正
【審査官】静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】実開昭55-180798(JP,U)
【文献】実公昭49-002553(JP,Y1)
【文献】実開昭61-033899(JP,U)
【文献】特開2002-054041(JP,A)
【文献】特開平03-269187(JP,A)
【文献】特開昭63-021939(JP,A)
【文献】特開昭54-101947(JP,A)
【文献】特開平07-034365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D07B 1/00-9/00
D02G 1/00-3/48
D02J 1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強度合成繊維
と前記高強度合成繊維と異なる熱融着性繊維とを束ねて下撚りしたヤーンを複数本撚り合わせて形成されたストランドが、複数本互いに撚り合わされて形成されており、前記ストランド同士が
、前記熱融着性繊維を溶融させた熱融着性樹脂により部分的に接合されていることを特徴とする、合成繊維ロープ。
【請求項2】
前記熱融着性樹脂は、前記合成繊維ロープに質量比で4~15%含まれている、請求項1に記載の合成繊維ロープ。
【請求項3】
前記ストランドは、前記熱融着性樹脂により、前記合成繊維ロープの長さ方向において間欠的に、隣接するストランドと接合されている、請求項1または請求項2に記載の合成繊維ロープ。
【請求項4】
前記の撚り合わせにより得られた合成繊維ロープの長さが、前記高強度合成繊維の原糸の撚り合わせる前の長さの70~85%である、請求項1から3のいずれかに記載の合成繊維ロープ。
【請求項5】
延縄に用いる合成繊維ロープであって、前記高強度合成繊維が全芳香族ポリエステル繊維である、請求項1から4のいずれかに記載の合成繊維ロープ。
【請求項6】
延縄の幹縄に用いる合成繊維ロープであって、撚り合わせにより得られた合成繊維ロープの長さが、全芳香族ポリエステル繊維の原糸の撚り合わせる前の長さの75~85%である、請求項5に記載の合成繊維ロープ。
【請求項7】
延縄の枝縄に用いる合成繊維ロープであって、撚り合わせにより得られた合成繊維ロープの長さが、全芳香族ポリエステル繊維の原糸の撚り合わせる前の長さの70~80%である、請求項5に記載の合成繊維ロープ。
【請求項8】
高強度合成繊維と
前記高強度合成繊維と異なる熱融着性樹脂繊維とからなるヤーンを撚り合わせてストランドを形成し、複数本の前記ストランドを撚り合わせて合成繊維ロープ前駆体を形成したのち、この合成繊維ロープ前駆体を加熱して前記熱融着性繊維を溶融させ、この溶融物により前記ストランド同士を部分的に接合することを特徴とする、合成繊維ロープの製造方法。
【請求項9】
前記熱融着性繊維を溶融させる際に、前記合成繊維ロープ前駆体を延伸しながら加熱する、請求項8に記載の合成繊維ロープの製造方法。
【請求項10】
前記ヤーンに含ませる熱融着性繊維の質量比は4~15%である、請求項8または請求項9に記載の合成繊維ロープの製造方法。
【請求項11】
前記高強度合成繊維に加える撚りは、撚り合わせにより得られた合成繊維ロープ前駆体の長さが、前記高強度合成繊維の長さの70~85%となるように撚り合わせる、請求項8または請求項9に記載の合成繊維ロープの製造方法。
【請求項12】
請求項1から7のいずれかに記載の合成繊維ロープの再生方法であって、使用により前記熱融着性樹脂による接合性能が低下した前記合成繊維ロープを加熱して、前記合成繊維ロープに含まれる前記熱融着性樹脂を溶融させ、この溶融物により前記ストランド同士を部分的に接合させることを特徴とする、合成繊維ロープの再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延縄などに用いる合成繊維ロープおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高強度合成繊維を撚り合わせて形成した合成繊維ロープは、例えば延縄漁業に用いる釣糸(延縄)などに使用される。この合成繊維ロープは高い強力を有し、しなやかで容易に巻き取ることができるうえ、軽く扱いやすい利点がある。しかしこの合成繊維ロープに捻じれが加わると、ロープを構成するストランド同士がほぐれることがあり、このほぐれた部位で折れ癖がついたり撚りが緩んだりして、例えば
図5に示すように合成繊維ロープ50の撚りが乱れ、いわゆるキンク51を発生することがある。このキンク51を生じた部位は合成繊維ロープ50の強度が著しく低下する問題がある。
【0003】
前記のストランドや合成繊維ロープを形成する際に、しっかりと撚りをかける(強撚にする)と、ストランドがほぐれにくく、前記キンクの発生を防止することができる。しかしながら、撚りを強くすると合成繊維ロープの長さ方向に対して、そのロープを構成する高強度合成繊維原糸の傾斜角度(撚り角度)が大きくなり、その高強度合成繊維本来の強力を十分に発揮することができず、とくに全芳香族ポリエステル繊維のように強度が高く高弾性率の合成繊維にあっては、より合わせる前の原糸の強力に対する、撚り合わせにより得られた合成繊維ロープの強力利用率が、大きく低下する問題がある。
【0004】
従来、複数本の高強度合成繊維を熱融着性樹脂で被覆した釣糸が提案されている(特許文献1参照、以下、従来技術という。)。この従来技術の釣糸は、各合成繊維が熱融着性樹脂で互いに接合されているので、捩れが加わってもほぐれることがなく、高強度合成繊維を強く撚り合せる必要がないので、繊維本来の強力を十分に発揮することができる。
【0005】
しかしながら、前記従来技術の釣糸は熱融着性樹脂により各繊維が接合されて一体化しているため、釣糸全体が剛直で柔軟性に劣る問題がある。このため、この釣糸を延縄の幹縄に用いた場合、投縄の際に投げにくく、巻き取る場合も嵩張る問題がある。しかも、高強度合成繊維を十分に被覆するには熱融着性樹脂を多量に用いる必要があり、製造コストが高くつくうえ、熱融着性樹脂は合成繊維ロープの強力にほとんど貢献しないため、得られた合成繊維ロープの重量が大きくなる問題がある。また製造工程においては、高強度合成繊維と熱融着性樹脂を一体にしたのち、ダイスを通すことにより余分な熱融着性樹脂を絞り出すことで高強度合成繊維の表面が熱融着性樹脂で均一に被覆されるが、絞りとられた熱融着性樹脂はロスとなって廃棄されるだけでなく、その除去作業に手間がかかる問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の技術的課題は前記の問題点を解消し、撚りが乱れにくくキンクの発生が抑制され、しかも高強度合成繊維本来の強力に対する利用率が高いうえ、しなやかで扱い易い、合成繊維ロープおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は前記の課題を解決するために、次のように構成したものである。
即ち本発明に係る合成繊維ロープは、高強度合成繊維からなるヤーンを複数本撚り合わせて形成されたストランドが、複数本互いに撚り合わされて形成されており、前記ストランド同士が熱融着性樹脂により部分的に接合されていることを特徴とする。
【0009】
合成繊維ロープを構成するストランド同士が熱融着性樹脂により互いに接合されているため、合成繊維ロープの撚りが大きく乱れることがなく、キンクの発生が良好に防止される。そして、合成繊維ロープの撚りが簡単に乱れるおそれがないので、ストランドを強く撚り合せる必要がなく、合成繊維ロープを構成する高強度合成繊維全体の強力に対する合成繊維ロープの強力の比率(以下、強力利用率ともいう。)を高く維持することができる。しかも熱融着性樹脂はストランド同士を部分的に接合しているので、前記従来技術のように高強度合成繊維の表面を覆う必要がなく、熱融着性樹脂の使用を少量に抑えて安価に実施することができる。各ストランドは互いに部分的に接合していることから、合成繊維ロープ全体としてしなやかで柔軟性があり、延縄に用いた場合でも、投縄しやすく、十分小径に巻き取ることができ、しかも熱融着性樹脂の使用を少量に抑えることができるので安価に実施できるうえ、合成繊維ロープを軽量にできて取り扱い易い。
【0010】
前記合成繊維ロープに含まれる前記融着性樹脂は、特定の質量比に限定されないが、例えば合成繊維ロープに質量比で3~20%含まれていると、合成繊維ロープの撚りの乱れやキンクの発生を十分に抑止しながら軽量で柔軟性にすぐれた合成繊維ロープを安価に実施できて好ましい。
【0011】
前記ストランドは、撚りが乱れにくくキンクの発生が抑制される程度に、前記熱融着性樹脂により部分的に接合されておればよく、例えば、前記合成繊維ロープの長さ方向において間欠的に、隣接するストランドと接合されていることができる。この場合、その接合部の間隔は、必ずしも一定間隔である必要はないが、例えばストランドの撚りの1ピッチ間に1箇所以上、好ましくは複数個所で他のストランドと接合されていると、合成繊維ロープの撚りの乱れを良好に防止できて好ましい。
【0012】
前記高強度合成繊維からなるヤーンを撚り合わせる際や、形成されたストランドを互いに撚り合わる際には、ヤーンやストランドが螺旋状に配置されるため、得られた合成繊維ロープの長さは、もとの高強度合成繊維の撚りをかけない状態(引き揃えた状態)での長さよりも短くなる。そこで、この撚りの強さは、その高強度合成繊維の撚り合わせる前の長さに対する得られた合成繊維ロープの長さの比率(以下、縮み率ともいう。)で表すことができ、撚りを強くかけるほど縮み率が低い値となり、撚りが甘くなるほど縮み率が高い値となる。
【0013】
本発明では、ヤーンやストランドにかける撚りは、特定の強さに限定されないが、前記の撚り合わせにより、得られた合成繊維ロープの長さが、前記高強度合成繊維の撚り合わせる前の原糸の長さの65~85%であると、合成繊維ロープを構成する高強度合成繊維の強力を十分に利用することができて好ましい。
【0014】
前記高強度合成繊維は、例えば全芳香族ポリエステル繊維(ポリアリレート繊維)、アラミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、などを挙げることができるが、これら特定の材質に限定されない。また、前記熱融着性樹脂は特定の材質に限定されず、例えば熱融着性ポリアミド樹脂などを挙げることができる。
前記合成繊維ロープは特定の用途に限定されないが、延縄の幹縄や枝縄に好適である。前記合成繊維ロープを延縄に用いる場合には、前記高強度合成繊維が全芳香族ポリエステル繊維であると、甘撚にすることで強力利用率の低下を効果的に抑制でき、全芳香族ポリエステル繊維の高い強度と高い弾性率を有効に生かすことができて好ましい。
【0015】
前記合成繊維ロープを延縄の幹縄に用いる場合、撚り合わせにより得られた合成繊維ロープの長さが、全芳香族ポリエステル繊維の原糸の撚り合わせる前の長さの75~85%であると、撚りの乱れやキンクの発生を良好に抑制しながら柔軟性にすぐれて扱い易く、しかも高強度合成繊維の強力利用率を高く維持できて好ましい。
【0016】
前記合成繊維ロープが延縄の枝縄に用いる場合、撚り合わせにより得られた合成繊維ロープは、全芳香族ポリエステル繊維の原糸の撚り合わせる前の長さの65~75%であると、撚りの乱れやキンクの発生を良好に抑制しながら、投縄の際に幹縄に絡まない程度の硬さを備えて扱い易く、しかも高強度合成繊維の強力利用率を高く維持できて好ましい。
【0017】
また本発明に係る合成繊維ロープの製造方法は、高強度合成繊維と熱融着性樹脂繊維とからなるヤーンを撚り合わせてストランドを形成し、複数本の前記ストランドを撚り合わせて合成繊維ロープ前駆体を形成したのち、この合成繊維ロープ前駆体を加熱して前記熱融着性繊維を溶融させ、この溶融物により前記ストランド同士を部分的に接合することを特徴とする。
【0018】
前記ヤーンに含まれる熱融着性繊維は、ストランドを形成する際に撚り合わされるので、ストランドにおいて螺旋状に配置されており、このストランドがさらに複数本撚り合わされるので、この熱融着性繊維は、ストランドの表面で隣接するストランドと部分的にしか接することができない。このストランドを撚り合わせた状態で加熱により前記融着性繊維を溶融させると、前記部分的に接している部位とその近傍で、互いに隣接するストランド同士が接合される。この結果、前記の撚りを甘くしても、容易に撚りが乱れることがない合成繊維ロープを得ることができる。
【0019】
前記合成繊維ロープ前駆体に含まれる前記熱融着性繊維を溶融させる方法は特定の加熱方法に限定されないが、前記合成繊維ロープ前駆体を延伸しながら加熱すると、より好ましい。この場合には、加熱時に合成繊維ロープ前駆体を延伸することで、合成繊維ロープ前駆体に含まれる高強度合成繊維の長さのムラを低減させることができ、各繊維に均一に力がかかるようにすることで、得られた合成繊維ロープの強力を高めることができる。また前記延伸処理により、溶融した熱融着性樹脂が高強度合成繊維間に適度に入り込みやすくなり、周囲の高強度合成繊維同士を効果的に接合できるうえ、高強度合成繊維間の摩擦や磨耗を軽減することができる利点がある。
【0020】
前記ヤーンに含ませる熱融着性繊維の質量比は、特定の範囲に限定されないが、例えば3~20%であると、容易に撚りが乱れずにしかも軽量で柔軟性の良好な合成繊維ロープを安価に得ることができて好ましい。また前記の撚り合わせの強さは任意に設定できるが、強撚するほど高強度合成繊維の強力利用率が低下するので、例えば、前記撚り合わせにより得られた合成繊維ロープ前駆体の長さが、前記高強度合成繊維の撚り合わせる前の長さの65~85%となるように撚り合せると好ましい。
【0021】
また本発明に係る合成繊維ロープの再生方法は、前記合成繊維ロープの再生方法であって、使用により前記熱融着性樹脂による接合性能が低下した前記合成繊維ロープを加熱して、前記合成繊維ロープに含まれる前記熱融着性樹脂を溶融させ、この溶融物により前記ストランド同士を部分的に接合させることを特徴とする。
【0022】
前記合成繊維ロープに含まれる前記熱融着性樹脂は、ストランド同士を部分的に接合しているが、使用によりその接合部の接合力が低下して一部が剥がれる場合があり、合成繊維ロープの撚りが乱れ易くなる場合がある。このように接合性能が低下した合成繊維ロープは、熱融着性樹脂を含んでいるので、上記の再生により、前記熱融着性樹脂の溶融物により前記ストランド同士が部分的に接合することで、初期の性能に復元させた合成繊維ロープを得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は前記のように構成され作用することから、しなやかでありながら、高強度合成繊維の強力利用率が高く、しかも撚りが乱れにくくキンクの発生が抑制された、合成繊維ロープおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態の合成繊維ロープを用いた延縄漁業における漁船後部の概略構成図である。
【
図2】本発明の実施形態の合成繊維ロープを示し、
図2(a)は合成繊維ロープの側面図であり、
図2(b)は
図2(a)のB部の拡大図であり、
図2(c)は合成繊維ロープの模式的断面図である。
【
図3】本発明の実施形態の製造過程における、合成繊維ロープ前駆体を示し、
図3(a)は一部をほぐした状態の合成繊維ロープ前駆体の側面図であり、
図3(b)は合成繊維ロープ前駆体を構成するヤーンの切断端部の模式的斜視図である。
【
図4】本発明の実施例の合成繊維ロープの物性を、比較例と対比して示す対比表である。
【
図5】従来技術の合成繊維ロープを示し、キンクが発生した状態の合成繊維ロープの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。なお、以下の実施の形態は本発明を具体化した例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
【0026】
図1に示すように、例えば鮪延縄漁などの延縄漁業では、船体20の後部から釣糸である延縄21が投縄機22により投縄される。この延縄21は、投縄機22から繰り出される幹縄23と、その幹縄23に順次結束された多数本の枝縄24からなり、各枝縄24には先端の釣針に餌25が装餌されている。幹縄23には、枝縄24の5~30本毎にフロート26が浮縄27を介して取り付けてあり、延縄21全体の沈下が防止されている。前記の延縄21の幹縄23および枝縄24、および前記の浮縄27に、本発明の実施形態の合成繊維ロープ1が用いられている。
【0027】
図2(a)~(c)に示すように、この合成繊維ロープ1は複数本、例えば3本のストランド2を、例えば左撚(Z撚り)に撚り合わせて形成してあり、各ストランドは複数本、例えば3本のヤーン3を、前記の撚り方向とは逆向きの、例えば右撚(S撚り)に撚り合わせて形成してある。
【0028】
前記のヤーン3は、高強度合成繊維のマルチフィラメントからなり、熱融着性樹脂を質量比で3~20%、より好ましくは4~15%含んでおり、この熱融着性樹脂により前記ストランド2同士が部分的に接合されている。
ここで、前記の「ストランド2同士が部分的に接合されている」とは、ストランド2の表面であって隣り合うストランド2と接触している部位のうち、一部では接合されているが、他の部位では隣り合うストランド2と接していても接合されていない状態をいう。例えばその接合部位は、合成繊維ロープ1の長さ方向に間欠的に形成することができる。
【0029】
前記高強度合成繊維は、全芳香族ポリエステル繊維(ポリアリレート繊維)、アラミド繊維(芳香族ポリアミド繊維)、或いは、超高分子量ポリエチレン繊維である。また、前記熱融着性樹脂は、例えば熱融着性ポリアミド樹脂などを挙げることができるが、溶融することで前記高強度合成繊維を互いに接合できる樹脂であればよく、特定の材質に限定されるものではない。
【0030】
前記ストランド2やヤーン3を撚り合せる際、撚りの強さは特定の値に限定されないが、一般に撚りが弱い(甘撚にする)と撚りが乱れてキンクを生じ易く、逆に撚りが強い(強撚にする)と高強度合成の本来の強度を十分に発揮することができず、高強度合成全体の強力(理論値)に対する合成繊維ロープの強力(実測値)の比率(強力利用率)が低下する。しかし本発明では、ストランド2同士が前記熱融着性樹脂により部分的に接合されているので甘撚にしても撚りが乱れてキンクを生じるおそれがなく、甘撚にすることで強力利用率を、例えば35%以上に、高く維持することができる。
【0031】
前記の撚りの強さは、撚りをかけることにより、用いた高強度合成繊維の撚り合わせる前の長さに比べて得られた合成繊維ロープの長さが短くなる比率(縮み率)を挙げることができる。本発明では、撚り合わせにより得られた合成繊維ロープの長さが、前記高強度合成繊維の長さの65~85%となるように撚り合せると好ましい。
【0032】
以下、前記の合成繊維ロープ1の製造方法について説明する。
最初に、
図3(a)に示すように、高強度合成繊維の原糸4と熱融着性樹脂繊維5とを撚り合せて、合成繊維ロープ前駆体1aを形成する。
【0033】
即ち、先ず複数本の高強度合成繊維のマルチフィラメント原糸4と、1本または複数本の熱融着性樹脂繊維5とを、軽く撚り合わせ(下撚りともいう)、1本のヤーン3を形成する。次に、このヤーン3を複数本、例えば3本を撚り合わせ(中撚りともいう)、1本のストランド2を形成する。そしてさらに、このストランド2を複数本、例えば3本を撚り合わせ(上撚りともいう)、これにより前記の合成繊維ロープ前駆体1aを形成する。
【0034】
得られた合成繊維ロープ前駆体1aを構成する前記各ストランド2には、それぞれ前記ヤーン3が螺旋状に配置されており、その各ヤーン3に前記熱融着性樹脂繊維が螺旋状に配置されている。この結果、前記各ストランド2の表面またはその近傍の高強度合成繊維間の一部に、前記熱融着性樹脂繊維5が適度に位置している。
【0035】
次に、得られた前記合成繊維ロープ前駆体1aを引っ張りながら(延伸処理を加えながら)、熱風や加熱ダイス等の既知の加熱手段により、熱融着性樹脂の融点よりも高温に、例えば100℃~180℃程度に加熱する。この加熱により、前記熱融着樹脂繊維を溶融させ、この熱融着性樹脂の溶融物を介してその周囲の高強度合成繊維同士を接合する。このとき、前記ストランド2の表面またはその近傍で前記熱融着性樹脂繊維5が位置していた部位では、その部位の周囲に前記溶融物が拡がるので、この部位で他のストランド2と接していると、前記の溶融した熱融着性樹脂を介してこれらのストランド2・2同士が互いに接合される。このとき前記高強度合成繊維は、上記の延伸処理により長さのムラが低減される。また前記溶融した熱融着性樹脂は、上記の延伸処理により高強度合成繊維間に適度に入り込むことができ、これにより高強度合成繊維間の摩擦や磨耗を軽減することができる。なお上記の延伸処理は、高強度合成繊維の種類によっても異なるが、たとえば低伸度(高弾性率)の全芳香族ポリエステル繊維の場合、長さが2~5%伸びる程度が好ましい。
【0036】
次に、前記合成繊維ロープ1を、前記延縄に用いる場合の具体例について説明するが、本発明がこれらの実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0037】
(実施例1)
高強度合成繊維として、株式会社クラレ製の全芳香族ポリエステル繊維「ベクトラン(商標名)」(太さ1650dt)と、熱融着性樹脂として、東レ株式会社製の熱融着性ポリアミド繊維「エルダー(商標名)」(太さ330dt、融点110℃)を用い、前記全芳香族ポリエステル繊維を5本と前記熱融着性ポリアミド繊維を2本とを束ねて軽く下撚り(Z撚り)してヤーンを形成した。次にこのヤーン3本を撚り合わせ(中撚り、S撚り)てストランドを形成した。さらに、得られたストランド3本を撚り合わせ(上撚り、Z撚り、撚りピッチ13.97mm)て、合成繊維ロープ前駆体を形成した。なお撚りピッチとは、1本のストランドが合成繊維ロープ前駆体の中心軸の周りを1回転する間に中心軸方向に進む距離をいう。その後、この合成繊維ロープ前駆体を延伸しながら、120℃~180℃に加熱して前記熱融着性ポリアミド繊維を溶融させ、各ストランド同士を部分的に接合させて合成繊維ロープからなる幹縄を得た。得られた幹縄の撚りピッチは14.29mmであり、従って延伸により合成繊維ロープの長さが2.3%伸長していた。
【0038】
得られた実施例1の幹縄の重量は540m当り5500gであり、1本の強力は800kgfであった。この幹縄に捻りを加えても撚りが乱れることがなく、キンクの発生は皆無であった。
なお、1本の幹縄に用いた原糸は、1650dtの全芳香族ポリエステル繊維が(5×3×3)本と、330dtの熱融着性ポリアミド繊維が(2×3×3)本であるので、撚り合わせる前の状態では1000m当り8019gとなる。得られた実施例1の幹縄の8019g相当の長さは、約787mとなるので、前記撚り合わせにより短くなった比率(縮み率)は78.7%であった。一方、前記全芳香族ポリエステル繊維の理論上の強度は0.02070kgf/dtであるので、用いた全芳香族ポリエステル繊維全体の強力(理論値)は1537kgfである。従って、得られた実施例1の幹縄は強力利用率が52%であった。
【0039】
(実施例2)
全芳香族ポリエステル繊維「ベクトラン(商標名)」を3本と熱融着性ポリアミド繊維「エルダー(商標名)」を1本とを束ね、軽く下撚り(Z撚り)してヤーンを形成した。次にこのヤーン3本を撚り合わせ(中撚り、S撚り)てストランドを形成し、さらに、得られたストランド3本を撚り合わせ(上撚り、Z撚り、撚りピッチ9.36mm)て合成繊維ロープ前駆体を形成したのち、実施例1と同様に、この合成繊維ロープ前駆体に延伸・加熱処理を施して撚りピッチ9.68mmの合成繊維ロープからなる枝縄を得た。上記延伸による伸びは、3.4%であった。
【0040】
得られた実施例2の枝縄は、重量が500m当り3300gであり、縮み率は72.0%であった。また、実施例2の枝縄は、強力が360kgfであり、強力利用率は39.0%であった。そしてこの実施例2の枝縄においても、捻りを加えても撚りが乱れることがなく、キンクの発生は皆無であった。
【0041】
(比較例1)
実施例1と異なり熱融着性ポリアミド繊維は用いずに、実施例1で用いた高強度合成繊維「ベクトラン(商標名)」を5本を束ねて軽く下撚り(Z撚り)してヤーンを形成した。次にこのヤーン3本を撚り合わせ(中撚り、S撚り)てストランドを形成し、さらに、得られたストランド3本を撚り合わせ(上撚り、Z撚り、撚りピッチ13.48mm)て、加熱処理を施すことなく、合成繊維ロープからなる幹縄を得た。
【0042】
得られた比較例1の幹縄は、重量が500m当り5300gであり、縮み率は70.0%であった。また、比較例1の幹縄は、強力が470kgfであり、強力利用率は30.6%であった。そしてこの比較例1の幹縄は、実施例1と比べて強く撚ってあるにもかかわらず、捻りを加えると撚りが乱れやすく、キンクを発生する場合があった。
【0043】
(比較例2)
実施例2と異なり熱融着性ポリアミド繊維は用いずに、実施例2で用いた高強度合成繊維「ベクトラン(商標名)」を3本を束ねて軽く下撚り(Z撚り)してヤーンを形成した。次にこのヤーン3本を撚り合わせ(中撚り、S撚り)てストランドを形成し、さらに、得られたストランド3本を撚り合わせ(上撚り、Z撚り、撚りピッチ9.09mm)て、加熱処理を施すことなく、合成繊維ロープからなる枝縄を得た。
【0044】
得られた比較例2の枝縄は、重量が900m当り5760gであり、縮み率は69.6%であった。また、比較例2の枝縄は、強力が280kgfであり、強力利用率は30.4%であった。そしてこの比較例2の枝縄は、実施例2と比べて強く撚ってあるにもかかわらず、捻りを加えると撚りが乱れやすく、キンクを発生する場合があった。
【0045】
得られた各実施例と比較例の製造条件と物性値を、
図4の対比表に示す。この対比表から明らかなように、本発明の実施例では、撚りが乱れにくくキンクの発生が抑制されており、しかも比較例に比べて甘撚に形成されて強力利用率が高い。さらに、実施例1の幹縄にあっては、熱融着性樹脂を含ませているにも関わらず、甘撚にされているので縮み率が大きく(縮み量が少なく)、比較例1に比べて合成繊維ロープの単位長さ当たり重量が軽量に形成されている。
【0046】
以上、本発明の実施形態や各実施例について説明したが種々の改変が可能である。例えば、上記の各実施例では高強度合成繊維として全芳香族ポリエステル繊維を用い、熱融着性樹脂として熱融着性ポリアミド繊維を用いて延縄を形成する場合について説明した。しかし本発明では、他の材質の高強度合成繊維や熱融着性樹脂を組み合わせて用いることができ、また得られた合成繊維ロープを他の用途に用いることも可能である。また撚りの強さや用いる原糸の本数なども、用いる高強度合成繊維の材質や用途に応じて任意に設定することができる。
【0047】
また上記の実施形態や各実施例では、前記合成繊維ロープ前駆体を加熱することにより、前記熱融着性繊維を溶融させてストランド同士を部分的に接合した。しかし本発明では、使用により前記熱融着性樹脂による接合性能が低下した前記合成繊維ロープを、加熱処理もしくは延伸加熱処理を施すことにより、前記合成繊維ロープに含まれる前記熱融着性樹脂を溶融させ、この溶融物により前記ストランド同士を部分的に接合させてもよく、これにより、初期の性能に復元させた合成繊維ロープを得ることができる。
【0048】
また、上記の実施例では延縄の幹縄と枝縄に用いる場合について説明したが、浮縄のほか、曳縄、竿釣り用釣糸(1本釣を含む)、立て縄、パヤオ(浮き漁礁)の係留用のロープなど、他の漁業用ロープ全般にも有効であり、さらに、高い強力と扱い易さが要求される、登山用のロープやザイル、高圧電線の誘引用ロープなど、他の用途の合成繊維ロープに用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の合成繊維ロープは、撚りが乱れにくくキンクの発生が抑制されるうえ、高強度合成繊維に対する強力利用率が高く、しかもしなやかで扱い易いので、特に延縄漁業に用いる釣糸である延縄の幹縄や枝縄に好適であるが、他の漁業用ロープ全般や、登山用のロープやザイル、高圧電線の誘引用ロープなど、高い強力と扱い易さが有給される他の用途の合成繊維ロープにも好適に用いられる。
【符号の説明】
【0050】
1…合成繊維ロープ
1a…合成繊維ロープ前駆体
2…ストランド
3…ヤーン
4…高強度合成繊維の原糸
5…熱融着性樹脂繊維