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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-22
(45)【発行日】2023-03-03
(54)【発明の名称】毛髪処理用組成物、及び毛髪処理方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/362 20060101AFI20230224BHJP
   A61K 8/46 20060101ALI20230224BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20230224BHJP
   A61Q 5/02 20060101ALI20230224BHJP
   A61Q 5/04 20060101ALI20230224BHJP
   A61Q 5/12 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
A61K8/362
A61K8/46
A61Q5/00
A61Q5/02
A61Q5/04
A61Q5/12
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022057769
(22)【出願日】2022-03-31
(65)【公開番号】P2022159183
(43)【公開日】2022-10-17
【審査請求日】2022-03-31
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2021059023
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522071393
【氏名又は名称】株式会社ビープロ
(73)【特許権者】
【識別番号】521135740
【氏名又は名称】株式会社ヴィオトープ摩耶
(73)【特許権者】
【識別番号】390037291
【氏名又は名称】株式会社ダイアナ
(73)【特許権者】
【識別番号】522177190
【氏名又は名称】SOファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100158366
【弁理士】
【氏名又は名称】井戸 篤史
(72)【発明者】
【氏名】田中 良宣
(72)【発明者】
【氏名】辻野 義雄
【合議体】
【審判長】阪野 誠司
【審判官】井上 典之
【審判官】野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-256289(JP,A)
【文献】特開2008-013549(JP,A)
【文献】特開2009-137887(JP,A)
【文献】国際公開第2017/041905(WO,A1)
【文献】特表2008-508262(JP,A)
【文献】特許第5112836(JP,B2)
【文献】特表2020-516610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/KOSMET(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸とチオール類とからなる複合体を有効成分とする毛髪処理用組成物であり、
前記ジカルボン酸が、ムコン酸、アジピン酸、オクテン二酸及び化粧品として許容可能なそれらの塩からなる群から選ばれる一又は複数であり、
前記チオール類が、システアミン、システイン、アミジノシステイン、ホモシステイン、及び化粧品として許容可能なそれらの塩からなる群から選ばれる一又は複数であり、
前記複合体が、前記ジカルボン酸及び前記チオール類を40~100℃で混合する混合ステップによって得られる、
毛髪処理用組成物。
【請求項2】
前記ジカルボン酸が、ムコン酸、又は化粧品として許容可能なその塩である、請求項1に記載の毛髪処理用組成物。
【請求項3】
前記チオール類が、システアミン、又は化粧品として許容可能なその塩である、請求項1又は2に記載の毛髪処理用組成物。
【請求項4】
前記ジカルボン酸と前記チオール類とを、チオール類/ジカルボン酸=0.01~100のモル比で反応させて前記複合体を得る、請求項1~いずれか一項に記載の毛髪処理用組成物の製造方法。
【請求項5】
前記モル比が、チオール類/ジカルボン酸=1以上である、請求項に記載の毛髪処理用組成物の製造方法。
【請求項6】
前記ジカルボン酸及び前記チオール類を40~100℃で混合する混合ステップによって前記複合体を得る、請求項4又は5に記載の毛髪処理用組成物の製造方法。
【請求項7】
前記混合ステップが、前記ジカルボン酸、前記チオール類、それらの溶媒、及びpH調整剤以外の作用成分を故意に含有させない環境で混合する、請求項4~6いずれか一項に記載の毛髪処理用組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1~いずれか一項に記載の毛髪処理用組成物を含有する、縮毛矯正剤、染色若しくは脱色時の髪質改善剤、ウェーブパーマ若しくはストレートパーマ時の髪質改善剤、シャンプー剤、ヘアトリートメント剤、及び/又は整髪剤。
【請求項9】
ウェーブパーマ又はストレートパーマ用第1剤又は第2剤ではない、請求項に記載のウェーブパーマ又はストレートパーマ時の髪質改善剤。
【請求項10】
請求項1~いずれか一項に記載の毛髪処理用組成物又は請求項いずれか一項に記載の製造方法で得られた毛髪処理用組成物を毛髪に塗布する塗布ステップと、
前記塗布ステップの後で、毛髪を加温する加温ステップと、を少なくとも含む、毛髪処理方法。
【請求項11】
前記加温ステップが、毛髪の表面温度が40~180℃となるように加温するステップである、
請求項1に記載の毛髪処理方法。
【請求項12】
前記加温ステップが、毛髪の表面温度が40~60℃となるように加温するステップである、
請求項1に記載の毛髪処理方法。
【請求項13】
前記毛髪処理用組成物を、ウェーブパーマ又はストレートパーマ用第1剤又は第2剤として毛髪に塗布する方法を除く、請求項1~1いずれか一項に記載の毛髪処理方法。
【請求項14】
前記毛髪処理方法が、縮毛矯正、染色及び脱色時の髪質改善、ウェーブパーマ及びストレートパーマ時の髪質改善、シャンプー、並びにヘアトリートメントからなる群より選ばれる1又は複数を目的とする、請求項1~1いずれか一項に記載の毛髪処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二官能性化合物、より好ましくは、炭素数6(C6)以上の二官能性化合物、及びチオール類からなる複合体を有効成分とする毛髪処理用組成物であり、さらに当該毛髪処理用組成物を用いた毛髪処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪の状態改善を目的として、二官能性化合物等の有機酸を含有する毛髪処理用組成物が多く開発されている。例えば、チオグリコール酸、アジピン酸等を含むパーマ剤(特許文献1参照)、チオール基を有する毛髪還元性物質、及びアジピン酸を好適とする二官能性化合物を含有する毛髪形状制御剤第1剤組成物(特許文献2参照)、アジピン酸、ムコン酸等の二官能性化合物を含む第1の組成物と、pHが異なる第2の組成物を毛髪に適用する毛髪処理方法で、実施形態では還元剤を含まない当該組成物が開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2006/011771号
【文献】特許第5112836号
【文献】国際公開第2018/191362号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
縮毛矯正、染色及び脱色時の髪質改善、ウェーブパーマ及びストレートパーマ時の髪質改善、並びにシャンプーやヘアトリートメントを目的として、効果が長く持続し、且つ安全性が確保された毛髪処理用組成物が求められていた。特許文献1及び2では、ジカルボン酸を含有するパーマ剤第1剤が開示されているが、パーマ剤第1剤による毛髪の還元反応時の、毛髪の過収縮による損傷の抑制を目的としており、本発明が解決せんとする課題と、これら発明の課題は異なる。また、特許文献3は、実施形態では還元剤を含まない組成物が開示されており、ジカルボン酸が単独で毛髪に作用している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、発明者らが、特定のジカルボン酸とチオール類とからなる複合体により、毛髪に顕著な改善効果が得られることを見出したことにより到達したものである。すなわち、本発明は、毛髪処理用組成物であり、ジカルボン酸とチオール類とからなる複合体を有効成分とし、ジカルボン酸が、炭素数6~炭素数10のジカルボン酸、及び化粧品として許容可能なそれらの塩からなる群から選ばれる一又は複数であり、チオール類が、アミノチオール類、及び化粧品として許容可能なそれらの塩からなる群から選ばれる一又は複数である。複合体は、チオール類/ジカルボン酸=0.01~100のモル比で反応させて形成された複合体であり得る。また、チオール類/ジカルボン酸=1以上のモル比で反応させて得られた複合体でもあり得る。
【0006】
別の本発明では、ジカルボン酸とチオール類とを含有する毛髪処理用組成物であり、ジカルボン酸が、炭素数6~炭素数10のジカルボン酸、及び化粧品として許容可能なそれらの塩からなる群から選ばれる一又は複数であり、チオール類が、アミノチオール類、及び化粧品として許容可能なそれらの塩からなる群から選ばれる一又は複数である。
【0007】
さらに、本発明は、ジカルボン酸、チオール類、ジカルボン酸とチオール類とからなる複合体以外の作用成分を実質的に含有しない毛髪処理用組成物である。別の本発明は、縮毛矯正剤、染色又は脱色時の髪質改善剤、ウェーブパーマ又はストレートパーマ時の髪質改善剤、シャンプー剤、ヘアトリートメント剤、及び整髪剤(整髪料)からなる群より選ばれる一又は複数であるが、さらに別の本発明は、ウェーブパーマ又はストレートパーマ用第1剤又は第2剤ではない。
【0008】
本発明におけるチオール類は、アミノチオール類であって、具体的には、システアミン、システイン、アミジノシステイン、アミノチオフェノール、メルカプトピリジン、ホモシステイン、アミノウンデカンチオール、及び化粧品として許容可能なそれらの塩からなる群より選ばれる一又は複数であり得る。また、本発明におけるジカルボン酸は、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、ヘキセン二酸、ヘプテン二酸、オクテン二酸、ムコン酸、及び化粧品として許容可能なそれらの塩からなる群から選ばれる一又は複数であり得る。
【0009】
本発明の毛髪処理用組成物は、ジカルボン酸及びチオール類を高温下で混合する混合ステップを少なくとも含む製造方法によって得られる。ジカルボン酸とチオール類とが形成する複合体は、混合ステップによって得られる。混合ステップは、ジカルボン酸及びチオール類を60~100℃で混合する混合ステップであり得る。また、混合ステップは、ジカルボン酸、チオール類、それらの溶媒、及びpH調整剤以外の作用成分が実質的に存在しない環境で混合する混合ステップであり得る。
【0010】
さらに、本発明は、毛髪処理方法であり、上述した毛髪処理用組成物、又は上述した製造方法により製造された毛髪処理用組成物を毛髪に塗布する塗布ステップと、塗布ステップの後で、毛髪を加温する加温ステップと、を少なくとも含む。加温ステップは、毛髪の表面温度が40~60℃、80℃、100℃、120℃、140℃、160℃、又は180℃となるように加温するステップであり得る。
【0011】
本発明の別の毛髪処理方法では、毛髪処理用組成物を、ウェーブパーマ又はストレートパーマ用第1剤又は第2剤として毛髪に塗布する方法を除き、縮毛矯正、染色及び脱色時の髪質改善、ウェーブパーマ及びストレートパーマ時の髪質改善、並びにシャンプーやヘアトリートメントからなる群より選ばれる1又は複数を目的とする。本発明の毛髪処理方法は、非治療的な方法であり得る。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、従来から化粧品材料として用いられてきたジカルボン酸及びチオール類からなるため、使用者にとって安全性が確保された毛髪処理用組成物を提供することができる。本発明の毛髪処理用組成物を用いた毛髪処理方法は、縮毛矯正、染色及び脱色時の髪質改善、ウェーブパーマ及びストレートパーマ時の髪質改善、並びにシャンプーやヘアトリートメントが可能で、その効果は複数回のシャンプー洗浄後も持続する。
【0013】
毛髪の縮毛矯正時に本発明の毛髪処理用組成物を用いた場合には、毛髪の捻れがなく、柔らかい仕上がりとなる。さらに、縮毛矯正処理後も毛髪に対する縮毛矯正の効果や、毛髪の丈夫且つ柔軟な状態が維持される。染色及び脱色時に本発明の毛髪処理用組成物を用いた場合には、毛髪を、高い弾性を持ちながら、且つ柔らかく仕上げることができる。また、脱色時の毛髪へのダメージが軽減され、毛髪の捻じれが軽減される。ウェーブパーマ及びストレートパーマ時に本発明の毛髪処理用組成物を用いた場合には、毛髪を柔らかく仕上げることができ、毛髪に対するパーマの効果や、丈夫且つ柔軟な状態が維持される。シャンプーやヘアトリートメントに本発明の毛髪処理用組成物を用いた場合は、毛髪の意図しないうねりを和らげ、毛髪の弾性を高め、且つ柔らかく仕上げることができる。シャンプーにより毛髪の洗浄を複数回行った後でも、これらの効果は持続され得る。
【0014】
特に、本発明の毛髪処理方法では、毛髪処理用組成物を毛髪に塗布した後で、毛髪を加温することによって効果が得られるが、当該加温ステップが毛髪の表面温度を40~60℃とするステップであっても効果が得られる点で優位である。当該温度範囲は、毛髪を損傷する危険性が低く、家庭における日常的な整容行為における温度範囲である。したがって、本発明の組成物や方法は、専門的な機器を用いずとも、毛髪処理効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】パーマネントウェーブ剤の中間処理剤として、本発明の毛髪処理用組成物で処理した毛髪のカール形成及びその持続性の向上効果を示す写真である。
図2】エチオピア人女性の縮毛に対する本発明の毛髪処理用組成物による矯正効果を示す写真である。
図3】本発明の毛髪処理用組成物で処理したブリーチ毛のカール形成及びその持続性の向上効果を示す写真である。
図4】本発明の毛髪処理用組成物を含有するシャンプー剤で処理したブリーチ毛のカール形成を示す写真である
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を、その実施形態に基づいて詳細に説明するが、本発明は実施形態により限定されるものではない。
【0017】
本発明は、二官能性化合物、好ましくは炭素数6(C6)以上の二官能性化合物、及び、チオール類からなる複合体を有効成分とする毛髪処理用組成物である。二官能性化合物とは、官能基を2つ含む化合物の総称であり、具体的にはジカルボニル化合物であるジカルボン酸が挙げられる。本発明の毛髪処理用組成物は、組成物に含有されるジカルボン酸及びチオール類からなる複合体が有効成分として毛髪に作用する。本発明において、複合体とは、複数の分子が分子間力や共有結合によって会合又は結合した状態をいい、複数の分子からなる化合物や会合体が含まれる。本発明の毛髪処理用組成物では、チオール類とジカルボン酸とが反応して形成された複合体が有効成分として働く。
【0018】
また、本発明の一実施態様は、ジカルボン酸及びチオール類を含有する毛髪処理用組成物である。ジカルボン酸及びチオール類が形成する複合体が有効成分として毛髪に作用するが、ジカルボン酸及び/又はチオール類が単独で毛髪に作用しても良い。具体的には、本発明は、ジカルボン酸及びチオール類を含有する毛髪処理用組成物であって、ジカルボン酸は、ムコン酸、アジピン酸、オクテン二酸、及び化粧品として許容可能なそれらの塩からなる群から選ばれる一又は複数であり得る。チオール類は、アミノチオール類、及び化粧品として許容可能なそれらの塩からなる群から選ばれる一又は複数であり、システアミン又は化粧品として許容可能なその塩であり得る。
【0019】
本発明の有効成分である複合体は、ジカルボン酸とチオール類とが水やエタノール等の溶媒中、好ましくは水溶液中で反応して、形成し得る複合体である。具体的には、チオール類の有するチオール基と、ジカルボン酸が持つアルケン、又はジカルボン酸が還元されて形成されたアルケンにおける二重結合とが作用したチオール-エン反応により誘引される複合体や、ジカルボン酸とチオール類との間に形成される分子間水素結合により誘引される複合体等が挙げられる。複合体は、ジカルボン酸及びチオール類を高温下で混合する混合ステップによって得ることができる。
【0020】
ジカルボン酸とは、2つのカルボキシ基を有する化合物を言う。本発明の毛髪処理用組成物は、ジカルボン酸の中でも、α, ω-ジカルボン酸が好ましく用いられる。炭素数6~10の直鎖又は分岐状のアルカン又はアルケンの両端にカルボキシ基が付加されたもの、さらに好ましくは、炭素数6~8の直鎖又は分岐状のアルカン又はアルケンの両端にカルボキシ基が付加されたものが用いられる。
【0021】
本発明の毛髪処理用組成物に用いられるジカルボン酸は、直鎖状の飽和ジカルボン酸及び/又は不飽和ジカルボン酸が好ましく用いられる。飽和ジカルボン酸としては、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸等が挙げられ、不飽和ジカルボン酸としては、ヘキセン二酸、ヘプテン二酸、オクテン二酸、ノネン二酸、デセン二酸、ヘキサジエン二酸、ヘプタジエン二酸、オクトジエン二酸、ノナジエン二酸、デカジエン二酸等が挙げられる。
【0022】
本発明の毛髪処理用組成物に用いられるジカルボン酸は、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、ヘキセン二酸、ヘプテン二酸、オクテン二酸、ムコン酸、及び化粧品として許容可能なそれらの塩から選ばれる一又は複数であり得るが、さらに好ましくは、アジピン酸、オクテン二酸、ムコン酸、及び化粧品として許容可能なそれらの塩からなる群から選ばれる一又は複数であり得る。これらのジカルボン酸とチオール類とからなる複合体を含有する毛髪処理用組成物には、高い毛髪処理効果が確認された。
【0023】
シス・トランス異性体が存在するジカルボン酸は、本発明の作用効果を奏する限り、いずれの異性体も用いることができる。例えば、ムコン酸は、trans, trans型、cis, trans型、cis, cis型の3種のシス・トランス異性体が存在する。ジカルボン酸としてムコン酸を用いる場合には、いずれの異性体でも本発明に用いることができるが、trans, trans型のムコン酸は、他の異性体と比較して、短い時間でチオール類との複合体形成が可能という利点を有する。
【0024】
チオール類とは、少なくとも1つのチオール基を有する化合物を言う。本発明でジカルボン酸と共に毛髪処理用組成物に用いられるチオール類は、本発明の作用効果を奏する限り限定されないが、具体的には、アミノチオールである。アミノチオールは、メルカプトアミンとも称され、1又は複数のアミノ基を有するチオール類である。
【0025】
本発明の毛髪処理用組成物に用いられるアミノチオールは、具体的にはシステアミン、システイン、アミジノシステイン、アミノチオフェノール、メルカプトピリジン、ホモシステイン、アミノウンデカンチオール、及び化粧品として許容可能なそれらの塩からなる群から選ばれる一又は複数であり得る。チオール類の中でも、システアミン、システイン等の第1級アミンを有する化合物が好ましく用いられ、システアミンがより好ましく用いられる。
【0026】
本発明の毛髪処理用組成物のpHは、弱酸性から弱アルカリ性であることが好ましく、中性領域であることがより好ましい。具体的にはpHは5~8であり、より好ましくは、pHは5.5~7.5であり、さらに好ましくは、pHは6~7である。後述する混合ステップの後で、組成物のpHを、所望のpHに調整することができる。
【0027】
また、本発明の毛髪用組成物は、染毛剤やブリーチ剤、パーマ剤に配合することもできる。その場合は、本発明の毛髪処理用組成物のpHは、中性からアルカリ性であることが好ましく、中性から弱アルカリ性であることがより好ましい。具体的にはpHは7~12であり、より好ましくは、pHは8~11である。
【0028】
本発明の毛髪処理用組成物はジカルボン酸及びチオール類が形成する複合体を有効成分とするが、ジカルボン酸とチオール類やその複合体以外の作用成分を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。ジカルボン酸とチオール類やその複合体以外の作用成分を含んでいなくても、少なくとも複合体が含まれている組成物であれば、毛髪に効果を与えることができるためである。ここで、ジカルボン酸とチオール類やその複合体以外の作用成分とは、毛髪に塗布することで毛髪に何らかの効果を与える成分を言い、具体的にはジスルフィド化合物、亜硫酸ナトリウム等のチオール類以外の還元剤、臭素酸ナトリウム、過酸化水素水等の酸化剤、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、コラーゲン、グリセリン、キシリトール、グルコース、スクロース、アミノ酸、それら誘導体、それらの塩等の保湿剤、キサンタンガム、グアガム、ペクチン等の増粘剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤等の界面活性剤等が挙げられる。ここで、ジカルボン酸とチオール類やその複合体以外の作用成分には、酸化防止剤や防腐剤、保存料、香料、着色料、pH調整剤等、毛髪に直接効果を与えることを目的としない成分は含まれない。
【0029】
本発明の別の実施形態では、ジカルボン酸及びチオール類を高温下で混合する混合ステップを少なくとも含む方法によって得られる毛髪処理用組成物である。高温下で混合することで、有効成分であるジカルボン酸及びチオール類の複合体の形成が促されるためである。
【0030】
混合ステップでは、ジカルボン酸及びチオール類の他、ジカルボン酸とチオール類との複合体形成を阻害しない溶媒(水、エタノール等)及びpH調整剤の存在は許容されるが、それ以外の作用成分が実質的に存在しない環境で、ジカルボン酸及びチオール類を混合することが好ましい。他の成分の存在下で混合すると、ジカルボン酸とチオール類との複合体の形成が阻害される可能性があるためである。
【0031】
混合ステップは、具体的には、ジカルボン酸及びチオール類が共に溶媒(水、エタノール等)に溶解した状態で、高温環境下で混合するステップである。pH調整のための酸又はアルカリを除き、ジカルボン酸とチオール類との複合体形成を阻害する成分が溶媒(水、エタノール等)中に実質的に存在していないことが望ましい。「実質的に存在していない」とは、毛髪処理用組成物の製造工程上、成分を故意に含有させないことを言い、溶媒(水、エタノール等)に当初から溶解していた物質や、製造工程中に外部雰囲気から溶媒に溶け込んだ物質の存在は許容される。
【0032】
本発明の一実施形態では、混合ステップが、ジカルボン酸、チオール類、それらの溶媒(水、エタノール等)、及びpH調整剤以外の作用成分が実質的に存在しない環境で混合する製造方法である。ここで存在が許容されない作用成分は、ジカルボン酸とチオール類との複合体の形成を阻害し得るものであり、ジカルボン酸とチオール類との複合体の形成を阻害しない成分の存在は許容される。
【0033】
混合ステップにおいて、ジカルボン酸及びチオール類を混合する温度は40~120℃であり、好ましくは60~100℃である。より好ましくは80~100℃であり、溶媒が水である場合、常圧下で沸騰状態まで加温すれば良い。高温下に置く時間は限定されないが、具体的には1分間~24時間であり、好ましくは1時間~6時間である。また、混合ステップは高圧下で実施してもよく、かかる場合には、常圧下での混合ステップと比較して、より低い温度や、より短い時間でも複合体が得られる。
【0034】
混合ステップにおいて、ジカルボン酸及びチオール類の混合溶媒のpH調整は必須ではないが、ジカルボン酸及び/又はチオール類の溶媒への溶解が不十分である場合には、pHを調整することで、溶解が促進される。ジカルボン酸は酸性を示すため、アルカリ性を示すpH調整剤の存在下で混合すればよい。混合時の溶媒のpHは限定されないが、酸性領域から弱アルカリ性領域であることが好ましく、酸性領域であることがさらに好ましい。具体的には、pHは4~9であり、4~7であり、4~6であり得る。
【0035】
本発明の毛髪処理用組成物でのジカルボン酸とチオール類の物質量(モル比)は限定されず、チオール類/ジカルボン酸=0.01~100(すなわち、ジカルボン酸の物質量に対するチオール類の物質量のモル比が0.01~100)であり得るが、チオール類/ジカルボン酸=1以上のモル比(すなわち、ジカルボン酸の物質量に対するチオール類の物質量のモル比が1以上)であることが好ましい。具体的には、チオール類/ジカルボン酸=1~100であり、1~10であり、1~5であり、1~3であり得る。チオール類の物質量が、ジカルボン酸の物質量を下回る場合には、複合体の形成が不十分で髪質改善効果が十分に発揮されないことがあるためである。
【0036】
本発明は、毛髪処理用組成物を毛髪に塗布する塗布ステップと、塗布ステップの後で、毛髪を加温する加温ステップと、を少なくとも含む、毛髪処理方法を提供する。本発明の毛髪処理方法の別の実施態様は、塗布ステップに続き、毛髪処理用組成物を毛髪から洗い流す洗浄ステップ、及び毛髪処理用組成物を洗い流した毛髪を加温する加温ステップを含む毛髪処理方法である。
【0037】
加温ステップにおける加温の温度は、本発明の毛髪処理用組成物の効果が得られる温度であれば限定されないが、好ましくは毛髪の表面温度が40~60℃、70℃、80℃、90℃、100℃、110℃、120℃、130℃、140℃、150℃、160℃、170℃又は180℃となるように加温するステップであり、さらに好ましくは毛髪の表面温度が40~60℃となるように加温するステップである。
【0038】
本発明の毛髪処理方法は、毛髪の表面温度が40~60℃でも効果が得られる点で優位である。当該温度範囲は、毛髪を損傷する危険性が低く、家庭における日常的な整容行為における加温における温度範囲である。したがって、本発明は、専門的な機器を用いずとも、本発明の毛髪処理効果を得ることができる。
【0039】
別の実施態様では、本発明が提供する毛髪処理方法は、縮毛矯正、染色及び脱色時の髪質改善、ウェーブパーマ及びストレートパーマ時の髪質改善、並びにシャンプーやヘアトリートメントからなる群より選ばれる1又は複数を目的とする。
【0040】
本発明の毛髪処理用組成物の一の実施態様は、毛髪処理用組成物を含有し、パーマ時の髪質改善を目的に使用される髪質改善剤である。別の実施態様では、ウェーブパーマ又はストレートパーマ用の第1剤又は第2剤ではなく、それらの中間剤として使用される髪質改善剤である。具体的には毛髪に第1剤を塗布し、毛髪に十分に還元作用が得られた後で、本発明の毛髪処理用組成物を塗布する。塗布の際、本発明の毛髪処理用組成物を単独で塗布してもよく、本発明の毛髪処理用組成物と第1剤とを混合して塗布してもよい。毛髪に塗布された状態で放置し、第1剤及び本発明の毛髪処理用組成物を洗い流し、毛髪を加温して乾かし、必要に応じてヘアアイロン等を用いてさらに加熱し、第2剤を塗布する。その結果、毛髪が柔らかい仕上がりとなり、パーマ処理後、シャンプー洗浄を繰り返しても、丈夫且つ柔軟な毛髪の状態が維持される。
【0041】
別の実施態様では、本発明は、毛髪処理用組成物を含有する縮毛矯正剤を提供する。縮毛矯正剤は、縮毛矯正時に単独で、又は縮毛矯正の第1剤と混合して毛髪に塗布し、放置し、洗い流し、毛髪を加温して乾かし、必要に応じてヘアアイロン等を用いてさらに加熱し、第2剤を塗布する。その結果、毛髪の捻れがなく、柔らかい仕上がりとなり、縮毛矯正処理後、シャンプー洗浄を繰り返しても、丈夫且つ柔軟な毛髪の状態が維持される。
【0042】
また、別の実施態様では、本発明は、毛髪処理用組成物を含有する染色又は脱色時の髪質改善剤を提供する。髪質改善剤を、酸化染料を含む第1剤及び第2剤に混合して、又は第1剤と第2剤の混合液に混合して毛髪に塗布し、放置し、洗い流し、毛髪を加温して乾かし、必要に応じてヘアアイロン等を用いてさらに加熱する。その結果、染色及び脱色時の直後の不快な匂いが抑制され、毛髪の弾力性が高く且つ柔らかく仕上げることができる。また、脱色時の毛髪に対するダメージが軽減され、毛髪の捻じれが軽減される。すなわち、本発明は、毛髪処理用組成物を含有する染毛剤、又はブリーチ剤であり得る。
【0043】
さらに別の実施態様では、本発明は、毛髪処理用組成物を含有するシャンプー剤やヘアトリートメント剤を提供する。シャンプー剤やヘアトリートメント剤を単独で、又は既存のシャンプー剤やヘアトリートメント剤と混合して毛髪に塗布し、放置し、洗い流し、毛髪を加温して乾かし、必要に応じてヘアアイロン等を用いてさらに加熱する。その結果、高い弾力性を持ち、且つ柔らかい毛髪に仕上げることができる。その後も、毛髪に対するシャンプー洗浄を行っても、毛髪の弾力性及び柔らかさが継続する。
【0044】
本発明の毛髪処理用組成物の別の実施態様においては、本発明は、毛髪処理用組成物を含有する整髪剤(整髪料)を提供する。本発明の整髪剤は、整髪された状態の毛髪の弾力性及び柔らかさを高く保持することができ、高い整髪効果を付与することができる。
【0045】
本発明の毛髪処理用組成物の別の実施態様においては、本発明は、毛髪処理用組成物を含有する養毛剤及び/又は育毛剤を提供する。本発明の養毛剤及び/又は育毛剤は、毛髪を弾力性及び柔らかさを高く保持することで、高い養毛効果及び/又は育毛効果を付与することができる。
【実施例
【0046】
実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。
【0047】
1.本発明の毛髪処理用組成物の製造
【0048】
実験例1として、ムコン酸及びシステアミンからなる複合体を含有する毛髪処理用組成物を製造した。ムコン酸は、3種の異性体のうち、trans, trans型ムコン酸を用いた。1.42 gのムコン酸を10 gの精製水に加え、pH調整のためアンモニア水3 gを加えた後、80℃まで加熱した。ムコン酸が溶解したのを確認後、システアミン0.77 gを加え、混合しながら沸騰するまで(100℃まで)加熱し、沸騰状態(100℃)を3分間維持し、ムコン酸とシステアミンとからなる複合体を得た。加温を止め、常温になるまで放置し、溶け残りがないことを確認した後に、アンモニア水でpH 7.0付近に調整し、精製水を加え、ムコン酸及びシステアミンの最終濃度が10質量%になるように調製した。
【0049】
実験例2として、アジピン酸及びシステアミンからなる複合体を含有する毛髪処理用組成物を製造した。アジピン酸1.46 gを10 gの精製水に加え、pH調整のためアンモニア水3 gを加えた後、80℃まで加熱した。アジピン酸が溶解したのを確認後、システアミン0.77 gを加え、混合しながら沸騰するまで(100℃まで)加熱し、沸騰状態(100℃)を3分間維持し、アジピン酸とシステアミンとからなる複合体を得た。加温を止め、常温になるまで放置し、溶け残りがないことを確認した後に、アンモニア水でpH 7.0付近に調整し、精製水を加え、アジピン酸及びシステアミンの最終濃度が10質量%になるように調製した。
【0050】
実験例3として、ムコン酸及びチオグリセリンを用いて毛髪処理用組成物を製造した。実験例1のシステアミンの代わりにチオグリセリン1.08gを加えた他は、同じ条件で製造した。
【0051】
実験例4として、アジピン酸及びチオグリセリンを用いて毛髪処理用組成物を製造した。実験例2のシステアミンの代わりにチオグリセリン1.08gを加えた他は、同じ条件で製造した。
【0052】
実験例5として、ムコン酸及びチオグリコール酸グリセリルを用いて毛髪処理用組成物を製造した。実験例1のシステアミンの代わりにチオグリコール酸グリセリル1.66 gを加えた他は、同じ条件で製造した。
【0053】
実験例6として、アジピン酸及びチオグリコール酸グリセリルを用いて毛髪処理用組成物を製造した。実験例2のシステアミンの代わりにチオグリコール酸グリセリル1.66 gを加えた他は、同じ条件で製造した。
【0054】
実験例7として、アジピン酸及びチオグリコール酸アンモニウムを用いて毛髪処理用組成物を製造した。実験例2のシステアミンの代わりに50重量%チオグリコール酸アンモニウム水溶液2.18 gを加えた他は、同じ条件で製造した。
【0055】
さらに、比較例1として、フマル酸及びシステアミンを用いて毛髪処理用組成物を製造した。実験例2のアジピン酸の代わりにフマル酸1.16 gを加えた他は、同じ条件で製造した。
【0056】
さらに、比較例2として、コハク酸及びシステアミンを用いて毛髪処理用組成物を製造した。実験例2のアジピン酸の代わりにコハク酸1.18 gを加えた他は、同じ条件で製造した。
【0057】
2.本発明の毛髪処理用組成物の評価(1):加温処理時のウェーブ形成力及びその持続性の評価
【0058】
本発明の毛髪処理用組成物の評価を行った。ヒトの健常な毛髪30~40本(平均長さ25 cm)を一束にし、プラスチック製の測定用くしに毛髪の束をジグザグ巻きにして固定した。キルビー法(参考文献:Donald H. Kirby, Drug and Cosmetic Industry, 80 (3), 314-315, 397-400 (1957))に従い、毛髪を10質量%のチオグリコール酸アンモニウム水溶液のパーマ剤第1剤(pH 9.2)に10分間浸漬し、その後40℃の流水で30秒濯いだ。その後、毛髪を、実験例1、実験例2、又は比較例1の各毛髪処理用組成物に2分間浸漬し、取り出し、タオルで毛髪上の水分を拭き取った。
【0059】
測定用くしに固定された毛髪に、40℃、60℃、又は80℃の加温処理を施した。ヘアドライヤーを用いて、測定用くしに固定された毛髪の表面温度が40℃、60℃、又は80℃となるよう熱風を3分間あて、その後、15~20℃の常温で7分間放置した。毛髪を、6質量%の臭素酸ナトリウム水溶液からなる第2剤に10分間浸漬し、取り出した毛髪を測定用くしから外し、15~20℃で放置して乾燥させた。
【0060】
毛髪における各条件のウェーブ形成力を測定した。ウェーブ形成力は、各温度で処理した毛髪上に形成された、一のウェーブのピークと、当該ウェーブに隣接するウェーブとのピーク間の距離で表される。当該距離が短い方が、毛髪上のウェーブ形成力が強いことを示す。
【0061】
同時に、毛髪処理直後の毛髪の触感を評価し、スコア化した。処理前から悪化している場合を0、処理前と変化がない場合を1、処理前と比べて若干の改善が見られる場合を2、処理前と比べて明らかに良好である場合を3、処理前と比べて顕著に良好である場合を4とした。
【0062】
さらに、シャンプー洗浄に対するウェーブ形成の持続性の評価を下記の方法で行った。ウェーブ形成された毛髪を、ラウレス硫酸ナトリウムを主成分とするシャンプーを2重量%含む水溶液(以下、「シャンプー水溶液」と称する。)でもみ洗いし、40℃の流水で30秒間濯いだ後にタオルで毛髪上の水分を拭き取り、30 cm以上の距離からヘアドライヤーで80℃の熱風をあてて乾燥させた。この処理を繰り返し、ウェーブ形成直後に得られた触感が変化するか否かを検証すると共に、ウェーブ形成力が失われるシャンプー洗浄回数を明らかにした。ウェーブのピーク間距離が、形成直後の2倍以上となった時点で、ウェーブ形成力が失われたと判定した。
【0063】
シャンプー洗浄に対する持続性が高い場合には、毛髪を加速劣化条件で処理した。すなわち、毛髪を、シャンプー水溶液に40℃で2時間浸漬させ、40℃の流水で30秒間濯いだ後にタオルで毛髪上の水分を拭き取り、30 cm以上の距離からヘアドライヤーで80℃の熱風をあてて乾燥させた。この処理が、上記のシャンプー洗浄28回と同等の効果を毛髪に対して及ぼすことを確認した。そこで、毛髪に対し、この加速劣化処理と、前述の通常のシャンプー洗浄処理を組み合わせ、ウェーブ形成力が失われるシャンプー洗浄回数を明らかにした。
【0064】
評価結果を表1に示す。実験例1、実験例2及び比較例1では、いずれの条件でも20 mm以下の良好なウェーブ形成力が確認された。比較例1では毛髪の表面温度を60℃とする加温処理で29回・毛髪の表面温度を80℃とする加温処理で57回のシャンプー洗浄に対してその効果が持続したが、実験例1では毛髪の表面温度を60℃とする加温処理で38回以上、実験例2は毛髪の表面温度を40℃とする加温処理で38回以上のシャンプー洗浄に対する持続性が確認された。すなわち、実験例1及び実験例2では、毛髪の表面温度を40~60℃とする加温処理において得られた持続性は、比較例1が40~60℃の加温処理において得られた持続性よりも高く、比較例で80℃の加温処理で得られた持続性と匹敵した。
【0065】
また、実験例と比較例のウェーブ形成直後の触感を検討した。いずれの条件でも毛髪の触感は、処理前と比べて改善が見られた。しかし、比較例1では、毛髪の表面温度が60℃以下の処理では、毛髪の触感は永続的ではなく、シャンプー洗浄により失われる半永続的なものであり、表面温度を80℃とする処理でなければ、触感は永続的ではなかった。その一方で、実験例1では毛髪の表面温度を60℃とする加温処理で、実験例2では毛髪の表面温度を40℃及び60℃とする加温処理で、シャンプー洗浄に対して、永続的な触感が得られた。したがって、実験例1及び実験例2は、比較例1よりも低い温度処理で、顕著な毛髪処理効果が得られることが分かった。
【0066】
【表1】
【0067】
3.本発明の毛髪処理用組成物の評価(2):常温処理時でのウェーブ形成力及びその持続性の評価
さらに、毛髪を常温で処理した場合のウェーブ形成力及びその持続性を評価した。「2.」と同じ方法で、測定用くしに固定された毛髪を実験例1~7、又は比較例1・2の各毛髪処理用組成物に2分間浸漬した。ブランクテストでは、毛髪を精製水に2分間浸漬した。毛髪を取り出し、タオルで毛髪上の水分を拭き取った。測定用くしに固定された毛髪を、15~20℃で10分間放置し、6質量%の臭素酸ナトリウム水溶液からなる第2剤に10分間浸漬し、取り出した毛髪から測定用くしを外し、15~20℃で乾燥させた。
【0068】
評価結果を表2及び表3に示す。実験例1~6では、いずれの条件でも20 mm以下の良好なウェーブ形成力が毛髪に確認され、それぞれ5~10回のシャンプー洗浄後もウェーブが維持されていた。毛髪の触感は、実験例3及び4では処理前との変化は見られなかったが、実験例1及び2、並びに実験例5及び6では処理前からの改善が見られた。各実験例で得られた毛髪の触感は、半永続的であった。
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
4.本発明の毛髪処理用組成物の評価(3):カール形成力及びその持続性の評価
ヒトの健常な毛髪30~40本(平均長さ25 cm)を、10質量%のチオグリコール酸アンモニウム水溶液のパーマ剤第1剤(pH 9.2)に10分間浸漬し、40℃の流水で30秒濯いだ。その後、毛髪を、実験例1、実験例2、実験例3、実験例4、実験例5、実験例6又は実験例7の各毛髪処理用組成物に2分間浸漬した。ブランクテストの毛髪は精製水に2分間浸漬した。40℃の流水で30秒間濯ぎ、余分な水分をタオルで拭き取った。直径25 mmの円柱状ヘアアイロンに3巻した毛髪を、毛髪の表面温度が180℃になってからヘアアイロンで2分間加温してカールを形成した後、ヘアアイロンから外し、常温で7分間放置した。その後、6質量%の臭素酸ナトリウム水溶液からなるパーマ剤第2剤に毛髪を10分間浸漬し、取り出した後に常温で乾燥させた。
【0072】
毛髪上に形成されたカールの直径又は円周を測定し、これをカール形成力として評価した。測定値が小さい方が、毛髪上のカール形成力が強いことを示す。また、上述と同じ方法で、シャンプー洗浄に対するカール形成の持続性を調べると共に、毛髪処理直後の毛髪の触感の評価をし、スコア化した。
【0073】
評価結果を表4及び表5に示す。実験例3では毛髪上にカール形成力は確認されなかったが、実験例1・2及び実験例4~7ではカール形成力が確認された。特に、実験例1及び2のカール形成力は、それぞれ85回以上のシャンプー洗浄後も維持されており、高い持続性を持っていた。いずれの条件でもカール形成直後の触感には改善が見られたが、実験例1及び2では特に顕著に触感が改善した。
【0074】
実験例1及び実験例2で得られた毛髪の触感は永続的であり、他の実験例・比較例と比較しても、その効果の持続性は顕著であった。実験例1及び実験例2における触感は、100回以上のシャンプー洗浄に対しても全く劣化することがなかった。
【0075】
【表4】
【0076】
【表5】
【0077】
さらに、実験例1、実験例2、比較例1若しくは比較例2の各組成物、さらにブランクテストとして実験例や比較例に替えて精製水で上述に記載と同等の条件で処理した直後の毛髪の写真を図1Aに、87回相当のシャンプー処理、すなわち加速劣化処理3回と通常のシャンプー3回で処理した後の毛髪の写真を図1Bに示す。毛髪に対する加熱には、直径25 mmのヘアアイロンに代え、直径15 mmの熱ロッドを用いた。
【0078】
図1Aに示すように、実験例1(図中「実1」と示した。)、実験例2(図中「実2」と示した。)、比較例1(図中「比1」と示した。)、及び比較例2(図中「比2」と示した。)では、ブランクテスト(図中「ブランク」と示した。)と比較して、処理直後の毛髪上のカール形成力は顕著に強かった。比較例1及び比較例2は、87回相当のシャンプーで毛先のまとまりが失われた一方で、実験例1及び実験例2で処理した毛髪は、87回相当のシャンプー後も、シャンプー前と同等の品質を維持した。
【0079】
5.本発明の毛髪処理用組成物の評価(4):縮毛矯正力及びその持続性の評価
日本人女性の縮毛30本~40本(平均の長さ25 cm)を、10質量%のチオグリコール酸アンモニウム水溶液のパーマ剤第1剤(pH 9.2)に10分間浸漬し、40℃の流水で30秒濯いだ。その後、毛髪を実験例1又は実験例2の毛髪処理用組成物に2分間浸漬し、さらに40℃の流水で30秒間濯ぎ、余分な水分をタオルで拭き取った。平型アイロンを用いて、毛髪の根元から捻じれを取るように、少しずつ引っ張りながら、1分間を要して毛髪の根元から毛先までを真っ直ぐに矯正した。さらに、根元から毛先までを3秒間かけ均一な速度でアイロンを1回通し、再度、毛髪の根元から熱を加え、常温で7分間放置した。その後、毛髪を6質量%の臭素酸ナトリウム水溶液からなるパーマ剤第2剤に10分間浸漬し、取り出した後に常温で乾燥させた。
【0080】
その結果、実験例1及び2で処理した毛髪は柔らかい仕上がりとなった。特に、実験例2では、柔らかさと丈夫さを兼ね備え、毛髪の表面に艶が出ていた。シャンプー洗浄に対する縮毛矯正力の持続性を測定したところ、実験例1及び2とも85回以上の高い持続性が確認された。
【0081】
さらに、別の縮毛矯正試験結果を図2に示す。強い縮れの傾向があるエチオピア人女性の毛髪に対し、10質量%のチオグリコール酸アンモニウム水溶液のパーマ剤第1剤(pH 9.2)に30分間浸漬し、40℃の流水で30秒濯いだ。その後、毛髪を、実験例1、実験例2、又は比較例2の各毛髪処理用組成物に3分間浸漬した。ブランクテストとして、実験例や比較例に替えて精製水を用いて、同条件で毛髪を処理した。40℃の流水で毛髪を30秒間濯ぎ、余分な水分をタオルで拭き取った。低温のドライヤーでさらに水分を取り、180℃のアイロンで毛髪をゆっくり伸ばした。
【0082】
図2Aはエチオピア人女性の縮毛(20-30本, 平均長さ15cm)の処理前の状態、図2Bは処理後の毛髪の状態を示す写真である。比較例2(図中「比2」と示した。)は、ブランクテスト(図中「ブランク」と示した。)に用いた毛髪と状態が変わらないが、実験例1(図中「実1」と示した。)及び実験例2(図中「実2」と示した。)は、縮毛がまっすぐに伸びた。特に実験例1は、毛先のまとまりがよく、理想的な縮毛矯正効果が確認された。
【0083】
6.本発明の毛髪処理用組成物の評価(5):毛髪に対する各処理温度におけるヘアトリートメント剤としての評価
実験例1及び2の組成物の、ヒトの健常毛又はブリーチ毛に対するヘアトリートメント効果を検証した。ヒトの健常毛又はブリーチ毛30本~40本(平均長さ25 cm)を一束とし、実験例1、実験例2又は比較例2の組成物を、ジカルボン酸及びチオール類の濃度が0.5質量%となるよう希釈した液体(pH 7)に3分間浸漬し、余分な水分を拭き取った。その毛髪を、毛髪の表面温度を20℃、60℃、80℃、又は120℃とする処理を行った。
【0084】
毛髪を20℃とする処理では、毛髪を15 mmの熱ロッドに隙間なく巻き付け、20℃(室温)で10分間放置し、余分な水分があればタオルで拭き取り、さらに1分放置した後で毛髪を熱ロッドから外した。毛髪を60℃又は80℃とする処理では、毛髪を15 mmの熱ロッド隙間なく巻き付け、毛髪表面が60℃又は80℃となるように10分間加温し、さらに1分放置して熱ロッドを冷ました後で毛髪を熱ロッドから外した。毛髪を120℃とする処理では、直径25 mmの円柱状ヘアアイロンに毛髪を3巻きし、毛髪が10分間約180℃になるよう加温してカールを形成した後、ヘアアイロンから外し、常温で1分間放置した。
【0085】
各毛髪は、40℃のシャンプー水溶液に10秒浸け、その後40℃の流水で10秒濯いでからタオルで水分を拭き取った。この毛髪に対する効果は、カール形成率、カール形成の持続性、及び触感を含む総合的な所見で評価した。カール形成率は、カールが形成された状態での毛束の根元側の曲がり始めの位置を起点に、毛束のうち毛先が2番目に長い毛髪の先端までの距離を(カール径)を測定し、さらに、毛束を伸ばした状態で起点から当該毛髪の先端までの距離を測定し(毛髪長)、カール形成率を(毛髪長-カール径)/毛髪長×100として算出した。
【0086】
カール形成の持続性の評価は、シャンプー水溶液に毛束を浸し、水で流して、タオルにて余分な水分を拭き取り、室温での放置により乾燥させる処理を1回とし、形成されたカールが維持されなくなる(毛束が1回転しなくなる)処理回数を測定した。さらに、ブリーチ毛を80℃とした条件では、前述の触感スコアにより評価した。
【0087】
健常毛を用いた評価結果を表6に、ブリーチ毛を用いた評価結果を表7に示す。実験例1及び実験例2では、毛髪の表面温度を40~180℃とする処理で、比較例よりも高いカール形成率が測定された。また、実験例1及び実験例2では、毛髪の表面温度を20~80℃とする処理で、少なくとも2回以上のシャンプー行為に対するカール形成の持続性が確認されたが、比較例2では、いずれの温度条件でも1回のシャンプー洗浄でカール形成が失われた。また、実験例1及び実験例2は、ブリーチ毛に対する触感を向上させた。以上のように、本発明の組成物を含有するヘアトリートメント剤の効果が明らかとなった。
【0088】
【表6】
【0089】
【表7】
【0090】
表7に記載した条件のうち、60℃処理直後のブリーチ毛の写真を図3Aに、処理後にシャンプーしたブリーチ毛の写真を図3Bに示す。実験例1(図中、「実1」と示した。)、実験例2(図中、「実2」と示した。)、及び比較例2(図中、「比2」と示した。)に加え、比較例1(図中、「比1」と示した。)を処理に用いた。ブランクテスト(図中、「ブランク」と示した。)には、実験例や比較例に替えて精製水を用いた。ブランクテストのブリーチ毛は、ブリーチによるダメージが見られた。実験例1及び実験例2で処理したブリーチ毛は、柔らか且つ丈夫であり、シャンプー後もカールが維持されていた。その一方で、比較例1及び比較例2では、シャンプーによりブリーチ毛上のカールが消失した。
【0091】
7.本発明の毛髪処理用組成物の評価(6):各温度条件の混合ステップで得られた組成物のヘアトリートメント剤としての評価
【0092】
ジカルボン酸とチオール類とを20℃(常温)、60℃、又は80℃で混合する混合ステップで得られた組成物(実験例8~14)と、100℃で混合する工程で得られた組成物(実験例1及び2)のヘアトリートメント剤としての効果を検証した。
【0093】
実験例8~11では、ムコン酸及びシステアミンを用いて毛髪処理用組成物を製造した。1.42 gのムコン酸を10 gの精製水に加え、0.77 gのシステアミンを加えた。実験例8及び9は20℃(常温)で、実験例10は60℃、実験例11は80℃になるよう加温し、それぞれ混合した。ムコン酸とシステアミンが水に完全に溶解したところで実験例10及び11は加温を止め、常温に戻るまで放置した。精製水及び必要に応じてアンモニア水を添加してpH 7付近に調整し、精製水を加え、ムコン酸及びシステアミンの最終濃度が10%重量になるように調整した。20℃で撹拌する条件ではpH 7とすることが困難であったため、pH 6.5に調整したものを実験例8、pH 8に調整したものを実験例9とした。
【0094】
実験例12~14では、アジピン酸及びシステアミンを用いて毛髪処理用組成物を製造した。1.46 gのアジピン酸を10 gの精製水に加え、システアミン0.77 gを加えた。実験例12は20℃(常温)で、実験例13は60℃、実験例14は80℃になるよう加温し、それぞれ混合した。アジピン酸とシステアミンが水に完全に溶解したところで実験例13及び14は加温を止め、常温に戻るまで放置した。アンモニア水でpH 7.0付近に調整し、精製水を加え、アジピン酸及びシステアミンの最終濃度が10質量%になるように調製した。
【0095】
実験例8~14に加えて、ムコン酸とシステアミンとを100℃で混合して得られた複合体を含む実験例1、アジピン酸とシステアミンとを100℃で混合して得られた複合体を含む実験例2の組成物のヒトの健常毛又はブリーチ毛に対するヘアトリートメント効果を検証した。各実験例の組成物を、ジカルボン酸及びチオール類の濃度が0.5質量%となるよう希釈した液体を用いた。健常毛及びブリーチ毛をとし、毛髪は表面温度が80℃となるよう加温し、その他は5.と同じ方法で評価した。健常毛を用いた評価結果を表8に、ブリーチ毛を用いた評価結果を表9に示す。ムコン酸をを用いた組成物(実験例8~11及び1)では、60℃以上の混合で得られた実験例を用いた場合に毛髪の触感が優れ、アジピン酸を用いた組成物(実験例12~14及び2)では、60℃以上の混合で得られた実験例を用いた場合にカールの持続性及び毛髪の触感が優れた。以上のように、温度が高い混合ステップで得られた実験例ほど、カールの持続性や触感スコアは優れる傾向が見られたことから、混合ステップの温度が高いほど、複合体形成が促進されていることが示唆された。
【0096】
【表8】
【0097】
【表9】
【0098】
8.本発明の毛髪処理用組成物の評価(7)
【0099】
実験例2及び実験例12のウェーブ形成力及びその持続性、並びにカール形成力及びその持続性を評価した。評価方法は、上述した方法と同一であり、ウェーブ形成力及びその持続性は毛髪の表面温度を40℃とする加温で、カール形成力及びその持続性は毛髪の表面温度を180℃とする加温で、それぞれ比較した。
【0100】
結果を表10に示す。実験例2は、ウェーブ形成時及びカール形成時の触感が良好で、複数回のシャンプー洗浄後も持続性が見られた。一方で、実験例12は、実験例2と比べて、ウェーブの形成時及びカール形成時の触感が劣り、シャンプー洗浄後の持続性は低かった。
【0101】
【表10】
【0102】
9.本発明の毛髪処理用組成物の評価(8):デジタルパーマ(熱ロッドを用いたパーマ)におけるパーマ剤第1剤としての評価
【0103】
実験例15として、アジピン酸及びシステアミンを40℃で混合して毛髪用組成物を製造した。1.46 gのアジピン酸を10 gの精製水に加え、システアミン0.77 gを加え、40℃で混合し、溶け切ったところで常温に戻るまで放置した。アンモニア水でpH 6.5付近に調整し、精製水を加え、アジピン酸及びシステアミンの最終濃度が10質量%になるように調製した。実験例15の組成物に加え、20℃(常温)で混合した実験例12、60℃で混合した実験例13、80℃で混合した実験例14、100℃で混合した実験例2の組成物を含有するパーマ剤第1剤の効果を評価した。
【0104】
各実験例の組成物に対し、10質量%のチオグリコール酸アンモニウムが入った水溶液を用いて、アジピン酸及びシステアミンの濃度が0.5質量%となるよう希釈し、且つpHを9として、これらをパーマ剤第1剤とした。ヒトの健常な毛髪30~40本(平均長さ25 cm)を各第1剤に10分間浸し、40℃の流水で20秒間濯ぎ、毛髪を60℃に加温した熱ロッドに4回転巻きつけ、乾燥を防ぐために周囲をフェルトで巻いた状態で10分間放置した。その後、毛髪を6質量%の臭素酸ナトリウム水溶液からなるパーマ剤第2剤に10分間浸漬し、取り出した後に熱ロッドから毛髪を外し、常温で乾燥させた。
【0105】
評価結果を表11に示す。実験例12及び15では、毛髪表面のキューティクルに小さなダメージが確認されたが、実験例13・14及び2では、ダメージはなく、触り心地は良好であり、実験例15及び実験例2で処理した毛髪上には艶も見れた。また、実験例13・14及び2で処理した毛髪のカール形成力は直径30 mm未満であり、それぞれ33回以上のシャンプー洗浄に対する持続性が確認された。以上のように、アジピン酸及びシステアミンを60~100℃で混合して得られた複合体を含む実験例13・14及び2の毛髪処理用組成物は、20~40℃で混合した実験例12及び15と比較して、パーマ剤第1剤としての用途で、毛髪に対する顕著な髪質改善効果が確認された。
【0106】
【表11】
【0107】
10.本発明の毛髪処理用組成物の評価(9):本発明の毛髪処理用組成物を含有するシャンプー剤の評価
【0108】
実験例の毛髪処理用組成物を含有するシャンプー剤の効果を検証した。ラウロイルメチルアラニンTEAを6重量%、ラウリルベタインを3重量%、コカミドメチルMEAを1重量%、コカミドDEAを1重量%、ポリクオタニウム-10を0.3重量%含み、さらに実験例1又は実験例2をそれぞれ4重量%含有するシャンプー剤原液を作製した。ブランクテストには、実験例に替えて精製水を含有するシャンプー剤原液を用いた。
【0109】
約40℃の温水に対し、温水の約10重量%のシャンプー剤原液をそれぞれ加え、泡立つまで撹拌し、これをシャンプー剤とした。ヒトのブリーチ毛30本~40本(平均長さ25 cm)を一束とした毛髪をシャンプー液に浸し、10秒後に取り出して、手で毛束を約10秒間揉み込み、約40℃の流水で約10秒間濯いだ。毛髪の水分をタオルで拭き取り、冷風のヘアドライヤーで乾かした。
【0110】
直径25 mmの円柱状ヘアアイロンに毛髪を3周巻きつけ、毛髪の表面温度が180℃になってから2分間加温し、カールを形成した。さらに、カールが形成された毛髪を約40℃の流水で約10秒間洗い流し、毛髪の水分をタオルで拭き取り、毛髪が乾いたら、上述と同様の方法でカール形成率を測定し、これをシャンプー1回目のカール形成率とした。さらに、それぞれの毛髪に対して、同じシャンプー剤を用いて同様のシャンプー処理を追加で2回行い、シャンプー2回目及び3回目のカール形成率を測定した。
【0111】
結果を表12に示す。実験例1又は実験例2を含有するシャンプー剤を用いた毛髪には、顕著なカールが形成された。実験例1又は実験例2を含有するシャンプー剤では、シャンプーの回数が増えるにつれて、毛髪に形成されたカールは強くなった。一方、実験例を精製水に置き換えたシャンプー剤を用いた場合には、カールがほとんど形成されなかった
【0112】
また、実験例1又は実験例2を含有するシャンプー剤を用いた毛髪は、艶を持ち柔らかであった。これらの毛髪は、ヘアアイロンで加熱した後の手触りが特に良好であり、ブリーチによる毛髪上のダメージが感じられなかった。
【0113】
【表12】
【0114】
さらに、本発明の実験例を含有するシャンプー剤の効果の別の検証結果を示す。上述と同様の方法で、実験例1、又は実験例2を含有するシャンプー剤原液に加え、比較例1を含有するシャンプー剤原液を作製した。ブランクテストとして実験例や比較例に替えて精製水を含有するシャンプー剤原液を用いた。毛髪を、約40℃の温水に対し、温水の約10重量%のシャンプー剤原液をそれぞれ加え、泡立つまで撹拌し、これをシャンプー剤とした。ヒトのブリーチ毛30本~40本(平均長さ25 cm)を一束とした毛髪をシャンプー液に浸し、10秒後に取り出して、約40℃の流水で約10秒間濯いだ。
【0115】
毛髪を、直径25 mmのヘアカーラーに巻きつけ、毛髪表面が約60℃となるようヘアドライヤーで3分間加温した。毛髪をヘアカーラーから注意深く取り出し、約40℃の温水のシャワーで優しく流し、タオルで水分を拭き取り、放置した。
【0116】
毛髪のカール形成率を表13に、毛髪の状態の写真を図4に示す。実験例1を含有するシャンプー剤(図中「実1」と示した。)、及び実験例2を含有するシャンプー剤(図中「実2」と示した。)を用いた毛髪は、ブランクテスト(図中「ブランク」と示した。)の毛髪や比較例1を含有するシャンプー剤(図中「比1」と示した。)を用いた毛髪と比較して、カール形成率が極めて高く、温水シャワー後もカールが維持された。
【0117】
【表13】
【0118】
11.本発明の毛髪処理用組成物の評価(10):ジカルボン酸とチオール類との組み合わせの検証
【0119】
ムコン酸及びシステアミンからなる複合体を含有する実験例11、とアジピン酸及びシステアミンからなる複合体を含有する実験例14を用いた。さらに、オクテン二酸の一種である(E)-Oct-4-ene-1,8-dioic acid及びシステアミンからなる複合体を含有する実験例16を製造した。実験例11のムコン酸の代わりに(E)-Oct-4-ene-1,8-dioic acidを1.73 gを加えた他は同じ条件で製造した。
【0120】
さらに、ムコン酸及びチオ乳酸を用いて実験例17、ムコン酸及びチオリンゴ酸を用いて実験例18をそれぞれ製造した。実験例17は、実験例11のシステアミンの代わりにチオ乳酸を1.06 g加えた他は同じ条件で製造した。実験例18は、実験例11のシステアミンの代わりにチオリンゴ酸を1.50 g加えた他は同じ条件で製造した。
【0121】
実験例11、14、及び16の組成物を用いて、ヒトの健常毛又はブリーチ毛に対するヘアトリートメント効果を検証した。ヒトの健常毛又はブリーチ毛30本~40本(平均長さ25cm)を一束とし、実験例の組成物を、ジカルボン酸及びチオール類の濃度が0.5質量%となるよう希釈した液体(pH 7)に3分間浸漬し、余分な水分を拭き取った。毛髪を15 mmの熱ロッド隙間なく巻き付け、毛髪表面が80℃となるように10分間加温し、さらに1分放置して熱ロッドを冷ました後で毛髪を熱ロッドから外した。
【0122】
各毛髪は、40℃のシャンプー水溶液に10秒浸け、その後40℃の流水で10秒濯いでからタオルで水分を拭き取った。この毛髪に対する効果は、カール形成率、カール形成の持続性、及び触感を含む総合的な所見で評価した。カール形成率は、カールが形成された状態での毛束の根元側の曲がり始めの位置を起点に、毛束のうち毛先が2番目に長い毛髪の先端までの距離を(カール径)を測定し、さらに、毛束を伸ばした状態で起点から当該毛髪の先端までの距離を測定し(毛髪長)、カール形成率を(毛髪長―カール径)/毛髪長×100として算出した。
【0123】
カール形成の持続性の評価は、シャンプー水溶液に毛束を浸し、水で流して、タオルにて余分な水分を拭き取り、室温での放置により乾燥させる処理を1回とし、形成されたカールが維持されなくなる(毛束が1回転しなくなる)処理回数を測定した。
【0124】
健常毛を用いた評価結果を表14に、ブリーチ毛を用いた評価結果を表15に示す。実験例11、14、及び16は、いずれも毛髪の状態は良好であり、毛髪上には持続性の高いカールが形成された。
【0125】
【表14】
【0126】
【表15】
【0127】
また、実験例11、実験例17、実験例18とブランクテスト(精製水)とを用いて、上記と同様の方法でヘアトリートメント剤としての評価を行った。結果を表16に示す。実験例11では、実験例17及び18と比較して、顕著な効果が見られた。
【0128】
【表16】
【0129】
さらに、ムコン酸を用いた実験例11、アジピン酸を用いた実験例14、及び(E)-Oct-4-ene-1,8-dioic acidを用いた実験例16と、フマル酸を用いた比較例1とを用いて、「10.」と同じ方法で、ヒトのブリーチ毛に対する効果を比較した。実験例11、実験例14、実験例16、又は比較例1の各組成物を含有するシャンプー原液を作製し、ブランクテストとして実験例や比較例に替えて精製水を含有するシャンプー剤原液を用いた。毛髪を、約40℃の温水に対し、温水の約10重量%のシャンプー剤原液をそれぞれ加え、泡立つまで撹拌し、これをシャンプー剤とした。ヒトのブリーチ毛30本~40本(平均長さ25 cm)を一束とした毛髪をシャンプー液に浸し、10秒後に取り出して、約40℃の流水で約10秒間濯いだ。
【0130】
毛髪を、直径25 mmのヘアカーラーに巻きつけ、毛髪表面が約60℃となるようヘアドライヤーで3分間加温した。毛髪をヘアカーラーから注意深く取り出し、約40℃の温水のシャワーで優しく流し、タオルで水分を拭き取り、放置し、カール形成率を測定した。結果を表17に示す。実験例11、14、及び16の組成物を用いた場合には、比較例1に比べ、顕著に高いカール形成率が得られた。
【0131】
【表17】
【0132】
12.本発明の毛髪処理用組成物の評価(11):混合ステップにおけるpHが、組成物のヘアトリートメント効果に与える影響
【0133】
実験例19として、ムコン酸及びシステアミンを用いて毛髪処理用組成物を製造した。ムコン酸は、3種の異性体のうち、trans, trans型ムコン酸を用いた。1.42 gのムコン酸を10 gの精製水に加え、アンモニア水を加えてpHを4.2とした。さらに、80℃まで加熱し、ムコン酸が溶解したのを確認後、システアミン0.77 gを加え、混合しながら沸騰するまで(100℃まで)加熱し、沸騰状態(100℃)を3分間維持して複合体を得た。加温を止め、常温になるまで放置し、溶け残りがないことを確認した後に、アンモニア水でpH 7.0付近に調整し、精製水を加え、ムコン酸及びシステアミンの最終濃度が10質量%になるように調製した。
【0134】
実験例20として、ムコン酸及びシステアミンを含有する毛髪処理用組成物を製造した。ムコン酸は、3種の異性体のうち、trans, trans型ムコン酸を用いた。1.42 gのムコン酸を10 gの精製水に加え、アンモニア水を加えてpHを9.0とした。さらに、80℃まで加熱し、ムコン酸が溶解したのを確認後、システアミン0.77 gを加え、混合しながら沸騰するまで(100℃まで)加熱し、沸騰状態(100℃)を3分間維持した。加温を止め、常温になるまで放置し、溶け残りがないことを確認した後に、アンモニア水でpH 7.0付近に調整し、精製水を加え、ムコン酸及びシステアミンの最終濃度が10質量%になるように調製した。
【0135】
実験例19及び20の組成物を用いて、ヒトの健常毛に対するヘアトリートメント効果を検証した。ヒトの健常毛又はブリーチ毛30本~40本(平均長さ25cm)を一束とし、実験例及び比較例の組成物を、ジカルボン酸及びチオール類の濃度が0.5質量%となるよう希釈した液体(pH 7)に3分間浸漬し、余分な水分を拭き取った。毛髪を15 mmの熱ロッド隙間なく巻き付け、毛髪表面が60℃となるように10分間加温し、さらに1分放置して熱ロッドを冷ました後で毛髪を熱ロッドから外した。毛髪は、40℃のシャンプー水溶液に10秒浸け、その後40℃の流水で10秒濯いでからタオルで水分を拭き取り、カール形成率を算出した。評価結果を表18に示す。実験例19と実験例20の効果を比較すると、実験例19の方がカールの持続性が高かった。したがって、酸性領域での混合によって得られた複合体が、より高いヘアトリートメント効果を奏することが示された。
【0136】
【表18】
【0137】
13.本発明の毛髪処理用組成物の評価(12)
【0138】
実験例21として、システアミン及びムコン酸を2:1のモル比で混合して毛髪処理用組成物を製造した。ムコン酸は、3種の異性体のうち、trans, trans型ムコン酸を用いた。1.42 gのムコン酸を10 gの精製水に加え、アンモニア水を加えて溶解させた。80℃まで加熱し、ムコン酸が溶解したのを確認後、システアミン塩酸塩2.27 gを加え、混合しながら沸騰するまで(100℃まで)加熱し、沸騰状態(100℃)を1時間維持して、ムコン酸とシステアミンを反応させた。加温を止め、常温になるまで放置し、溶け残りがないことを確認した後に、アンモニア水でpH 7.0付近に調整し、精製水を加え、ムコン酸及びシステアミンの最終濃度が10質量%になるように調製した。
【0139】
実験例22は、ムコン酸とシステアミンとの反応時間を6時間とした他は、実験例21と同じ条件で製造した。実験例23は、trans, trans型ムコン酸に替えてcis, cis型ムコン酸を用いた他は実験例21と同じ条件で製造した。実験例24は、trans, trans型ムコン酸に替えてcis, cis型ムコン酸を用いた他は実験例22と同じ条件で製造した。
【0140】
実験例25は、システアミン及びムコン酸を3:1のモル比で混合して得られた毛髪処理用組成物であり、1.42 gのcis, cis型ムコン酸に対し、システアミン塩酸塩3.40 gを加えた他は、実験例24と同じ条件で製造した。実験例26は、システアミン及びムコン酸を1:1のモル比で混合して得られた毛髪処理用組成物であり、1.42 gのcis, cis型ムコン酸に対し、システアミン塩酸塩1.13 gを加えた他は、実験例24と同じ条件で製造した。実験例27は、システアミン及びムコン酸を1:2のモル比で混合して得られた毛髪処理用組成物であり、1.42 gのcis, cis型ムコン酸に対し、システアミン塩酸塩0.57 gを加えた他は、実験例24と同じ条件で製造した。
【0141】
実験例21~27の組成物を用いて、「12.」と同じ方法で、ヒトの健常毛に対するヘアトリートメント効果を検証した。各実験例の製造条件、及びカール形成率を表19に示す。いずれの異性体のムコン酸を用いた実験例でも良好なヘアトリートメント効果が得られたが、trans, trans-ムコン酸を用いた場合には、短い反応時間であっても高い効果を奏する複合体が得られることが示された。また、システアミン:ムコン酸を1:1~3:1のモル比で混合した場合に、高い効果を奏する複合体が得られた。しかし、3:1のモル比で混合した実験例25を使用した場合、毛髪上にチオールに由来する悪臭が残り、実験例25で処理した毛髪の手触りは実験例24又は実験26と比較して、やや悪かった。
【0142】
【表19】
図1
図2
図3
図4