(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-22
(45)【発行日】2023-03-03
(54)【発明の名称】テラヘルツ波を用いた検査装置と検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3581 20140101AFI20230224BHJP
G02F 1/39 20060101ALI20230224BHJP
G02F 1/35 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
G01N21/3581
G02F1/39
G02F1/35
(21)【出願番号】P 2018163717
(22)【出願日】2018-08-31
【審査請求日】2021-07-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「ユビキタスパワーレーザーによる安全・安心・長寿社会の実現」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】南出 泰亜
(72)【発明者】
【氏名】縄田 耕二
(72)【発明者】
【氏名】瀧田 佑馬
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/208048(WO,A1)
【文献】特開2011-169637(JP,A)
【文献】特開2004-069381(JP,A)
【文献】特開平09-088558(JP,A)
【文献】特開2012-167865(JP,A)
【文献】特開2011-075583(JP,A)
【文献】特開2012-053450(JP,A)
【文献】特開2006-163026(JP,A)
【文献】特開2018-054959(JP,A)
【文献】特開2016-061754(JP,A)
【文献】中国実用新案第203881677(CN,U)
【文献】特開平10-253536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/61
G02F 1/35-1/39
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テラヘルツ波を発生させるテラヘルツ波発生装置と、
前記テラヘルツ波が導入され且つ検査対象
ガスを存在させる作用空間を有する相互作用ユニットと、
前記作用空間において前記検査対象
ガスと相互作用し前記作用空間を通過した前記テラヘルツ波に基づいて検出データを生成し、当該検出データを出力するテラヘルツ波検出装置とを備え、
前記相互作用ユニットは、前記作用空間において前記テラヘルツ波を反射させる反射面を有し、前記テラヘルツ波は、前記反射面で反射されることにより、複数回、前記作用空間を通過して、前記作用空間の外部に位置する前記テラヘルツ波検出装置へ入射するようになっ
ており、
前記相互作用ユニットは、前記作用空間を形成する空間形成体を備え、前記作用空間は、外部へ連通する導入口と排出口を有し、
前記相互作用ユニットは、前記導入口から延びる導入路を形成する導入路形成体を備え、前記導入路は、前記導入口と反対側において人が通る空間領域に開口するように配置された取込口を有し、
前記相互作用ユニットは、人が通る前記空間領域のガスを、前記検査対象ガスとして、前記取込口から前記導入路を通して前記作用空間へ流入させるガス流発生装置を備える、テラヘルツ波を用いた検査装置。
【請求項2】
テラヘルツ波を発生させるテラヘルツ波発生装置と、
前記テラヘルツ波が導入され且つ検査対象
ガスを存在させる作用空間を有する相互作用ユニットと、
前記作用空間において前記検査対象
ガスと相互作用し前記作用空間を通過した前記テラヘルツ波に基づいて検出データを生成し、当該検出データを出力するテラヘルツ波検出装置とを備え、
前記相互作用ユニットは、前記作用空間において前記テラヘルツ波を反射させる反射面を有し、前記テラヘルツ波は、前記反射面で反射されることにより、複数回、前記作用空間を通過して、前記作用空間の外部に位置する前記テラヘルツ波検出装置へ入射するようになっ
ており、
前記相互作用ユニットは、前記作用空間を形成する空間形成体を備え、前記作用空間は、外部へ連通する導入口と排出口を有し、
前記相互作用ユニットは、前記導入口から延びる導入路を形成する導入路形成体を備え、前記導入路は、前記導入口と反対側において外部に開口する取込口を有し、
前記導入路形成体は変形可能な管であり、当該管を変形させることにより、前記取込口を、鞄またはスーツケースの内部に配置可能になっており、
前記相互作用ユニットは、前記検査対象ガスを、前記取込口から前記導入路を通して前記作用空間へ流入させるガス流発生装置を備える、テラヘルツ波を用いた検査装置。
【請求項3】
前記反射面は、前記作用空間を囲むように延びて前記作用空間を区画する内周面であり、前記テラヘルツ波は、前記作用空間において前記内周面における複数位置で順に反射した後に、前記テラヘルツ波検出装置へ入射するようになっている、請求項
1又は2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記内周面は、前記内周面の中心軸方向から見た場合に円形である、請求項
3に記載の検査装置。
【請求項5】
請求項1に記載の検査装置を用いた検査方法であって、
人が通る前記空間領域のガスを、前記検査対象ガスとして、前記ガス流発生装置により前記取込口から前記導入路を通して前記作用空間へ流入させ、
前記作用空間を複数回通過して前記検査対象ガスと相互作用したテラヘルツ波に基づいて、検出データを生成し、当該検出データに基づいて、前記検査対象ガスに対象成分が含まれているかを検査する、検査方法。
【請求項6】
請求項2に記載の検査装置を用いた検査方法であって、
前記管を変形させることにより、前記取込口を、鞄またはスーツケースの内部に配置し、当該鞄またはスーツケースの内部のガスを、前記検査対象ガスとして、前記ガス流発生装置により前記取込口から前記導入路を通して前記作用空間へ流入させ、
前記作用空間を複数回通過して前記検査対象ガスと相互作用したテラヘルツ波に基づいて、検出データを生成し、当該検出データに基づいて、前記検査対象ガスに対象成分が含まれているかを検査する、検査方法。
【請求項7】
テラヘルツ波を発生させるテラヘルツ波発生装置と、前記テラヘルツ波が導入され且つ検査対象を存在させる作用空間を形成する空間形成体を備える相互作用ユニットと、前記作用空間を通過した前記テラヘルツ波に基づいて検出データを生成するテラヘルツ波検出装置とを用意し、
前記相互作用ユニットは、前記作用空間において前記テラヘルツ波を反射させる反射面を有し、前記テラヘルツ波は、前記反射面で反射されることにより、複数回、前記作用空間を通過して、前記作用空間の外部に位置する前記テラヘルツ波検出装置へ入射するようになっており、
前記空間形成体は、外部から前記作用空間に人又は物体が入る入口を形成しており、
前記検査対象としての人又は物体が前記入口から前記作用空間に入り、前記作用空間において当該人又は物体の傍を複数回通過した前記テラヘルツ波に基づいて、前記テラヘルツ波検出装置により前記検出データを生成し、当該検出データに基づいて、当該人又は物体を取り巻く空気に対象成分が含まれているかを検査する、検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ波を用いて検査対象を検査する装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テラヘルツ波は、1テラヘルツ(1012Hz)程度の周波数を有する電磁波である。テラヘルツ波は、様々な物質を透過する性質を有する。テラヘルツ波は、励起光を非線形光学結晶へ入射させることにより発生させられる。テラヘルツ波を用いて、物質を検査する装置が、例えば特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1では、発生させたテラヘルツ波を測定試料へ入射させ、測定試料を透過したテラヘルツ波に基づいて、測定試料で吸収されたテラヘルツ波のスペクトルを求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
テラヘルツ波を用いて、検査対象(例えばガス、固体等)に対象成分が含まれているかどうかを検査することができる。すなわち、テラヘルツ波を検査対象に導入し、検査対象で吸収されるテラヘルツ波のスペクトルを求め、当該スペクトルに基づいて対象成分の有無を検査することができる。この場合、対象成分の検出精度を高めることが望まれる。
【0006】
また、検査対象としてのガス(以下で検査対象ガスともいう)に対象成分が含まれているかどうかを検査する場合に、検査したい空間領域にテラヘルツ波を伝播させなくても、当該空間領域のガスをテラヘルツ波で検査できるようにすることが望まれる。例えば、人が通る空間領域(駅の改札、空港やビルのセキュリティーゲート等)にテラヘルツ波を伝播させずに、当該空間領域のガスに対象成分が存在するかを、テラヘルツ波を用いて検査することが望まれる。その際には、通行等を妨げないように、対象成分についての検査や判別を高速で行うことが望まれる。
【0007】
また、テラヘルツ波を用いて検査対象(ガス、固体等)を検査する装置は、テラヘルツ波を発生させるテラヘルツ波発生装置だけでなく、検査対象と相互作用した後のテラヘルツ波を検出するためのテラヘルツ波検出装置を備える。テラヘルツ波発生装置は、励起光源と、励起光源からの励起光によりテラヘルツ波を発生させる非線形光学結晶などを含む。テラヘルツ波検出装置は、検査対象と相互作用した後のテラヘルツ波と励起光により信号光を発生させる非線形光学結晶と、信号光を検出する検出器などを備える。このように、テラヘルツ波を用いて検査対象を検査する装置は、それぞれが複数の構成要素を含むテラヘルツ波発生装置とテラヘルツ波検出装置を備えるので、構成要素の合計数が多くなる。そのため、テラヘルツ波を検査する装置の構成をよりコンパクトにすることが望まれる。
【0008】
そこで、本発明の第1の目的は、検査対象に含まれる対象成分の検出感度を高めることにある。
本発明の第2の目的は、検査したい空間領域にテラヘルツ波を伝播させなくても、当該空間領域のガスをテラヘルツ波で高速に検査できるようにすることにある。
本発明の第3の目的は、テラヘルツ波を用いて検査する装置の構成をよりコンパクトにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した第1の目的を達成するため、本発明の第1の態様によるテラヘルツ波を用いた検査装置は、
テラヘルツ波を発生させるテラヘルツ波発生装置と、
前記テラヘルツ波が導入され且つ検査対象を存在させる作用空間を有する相互作用ユニットと、
前記作用空間において前記検査対象と相互作用(透過、反射、散乱)し前記作用空間を通過した前記テラヘルツ波に基づいて検出データを生成し、当該検出データを出力するテラヘルツ波検出装置とを備え、
前記相互作用ユニットは、前記作用空間において前記テラヘルツ波を反射させる反射面を有し、前記テラヘルツ波は、前記反射面で反射されることにより、複数回、前記作用空間を通過して、前記作用空間の外部に位置する前記テラヘルツ波検出装置へ入射するようになっている。
【0010】
上述した第1の目的を達成するため、本発明の第1の態様によるテラヘルツ波を用いた検査方法では、
(A)テラヘルツ波を発生させ、
(B)前記テラヘルツ波を、検査対象が存在している作用空間に導入して、前記作用空間において前記テラヘルツ波と前記検査対象とを相互作用させ、
(C)前記作用空間からの前記テラヘルツ波に基づいて検出データを生成し、当該検出データを出力し、
前記(B)において、前記テラヘルツ波は、前記作用空間において、反射面で反射されることにより、複数回、前記作用空間を通過する。
【0011】
上述した第2の目的を達成するため、本発明の第2の態様によるテラヘルツ波を用いた検査装置は、
テラヘルツ波を発生させるテラヘルツ波発生装置と、
前記テラヘルツ波と検査対象ガスが導入され、両者を相互作用させるための作用空間を有する相互作用ユニットと、
前記作用空間を通過した前記テラヘルツ波に基づいて検出データを生成し、当該検出データを出力するテラヘルツ波検出装置とを備え、
前記相互作用ユニットは、前記作用空間を形成する空間形成体を備え、
前記作用空間は、外部へ連通する導入口を有し、外部のガスが検査対象ガスとして前記導入口を通って前記作用空間に流入可能になっている。
【0012】
上述した第2の目的を達成するため、本発明の第2の態様によるテラヘルツ波を用いた検査方法では、
(A)テラヘルツ波を発生させ、
(B)前記テラヘルツ波を、検査対象ガスが存在している作用空間に導入して、前記作用空間において前記テラヘルツ波と検査対象ガスとを相互作用させ、
(C)前記作用空間からの前記テラヘルツ波に基づいて検出データを生成し、当該検出データを出力し、
前記作用空間は、外部へ連通する導入口を有しており、外部のガスが検査対象ガスとして前記導入口を通って前記作用空間に流入する。
【0013】
上述した第3の目的を達成するため、本発明の第3の態様によるテラヘルツ波を用いた検査装置は、
テラヘルツ波を発生させ検査対象領域に導入するテラヘルツ波発生装置と、
前記検査対象領域を通過した前記テラヘルツ波に基づいて検出データを出力するテラヘルツ波検出装置とを備え、
前記テラヘルツ波発生装置は、励起光を生成する励起光源と、前記励起光が発生用の角度位相整合条件を満たすように入射されることによりテラヘルツ波を発生する非線形光学結晶とを備え、
前記テラヘルツ波検出装置は、前記検査対象領域からの前記テラヘルツ波が検出用の角度位相整合条件を満たすように入射されることにより当該テラヘルツ波と励起光から信号光を生成する前記非線形光学結晶と、前記信号光に基づいて検出データを出力する検出器とを備え、
前記非線形光学結晶は前記テラヘルツ波発生装置と前記テラヘルツ波検出装置に共有される。
【0014】
上述した第3の目的を達成するため、本発明の第3の態様によるテラヘルツ波を用いた検査方法では、
(A)テラヘルツ波を発生させ、
(B)前記テラヘルツ波を検査対象領域に導入し、
(C)検査対象領域を通過した前記テラヘルツ波に基づいて検出データを生成し、当該検出データを出力し、
前記(A)では、励起光が発生用の角度位相整合条件を満たすように非線形光学結晶に入射されることにより、前記テラヘルツ波を発生させ、
前記(C)では、前記検査対象領域からの前記テラヘルツ波が検出用の角度位相整合条件を満たすように前記非線形光学結晶に入射されることにより、当該テラヘルツ波と励起光から信号光が生成され、前記信号光に基づいて前記検出データを生成し、
前記非線形光学結晶は前記(A)と(C)とで共用される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1の態様によると、作用空間に導入されたテラヘルツ波は反射面で反射することにより作用空間を複数回通過するので、テラヘルツ波が、作用空間において、複数回、検査対象を透過し、又は、検査対象で反射若しくは散乱されることが可能になる。このように検査対象(ガス又は固体等)とより多く相互作用したテラヘルツ波に基づいて、検査対象に含まれる対象成分の有無を検査できる。したがって、対象成分の検出感度が高められる。
【0016】
本発明の第2の態様によると、外部のガスが、検査対象ガスとして、導入口を通して作用空間に流入可能になっている。したがって、検査したい空間領域にテラヘルツ波を伝播させなくても、外部の当該空間領域のガスを検査対象ガスとして、導入口を通して作用空間に流入させて、当該空間領域のガスをテラヘルツ波で検査できる。また、テラヘルツ波による検査では、当該ガスを前処理しなくてもよいので、高速に検査を行える。
【0017】
本発明の第2の態様によると、検査対象領域へ導入するテラヘルツ波の発生と、検査対象領域を通過したテラヘルツ波による信号光生成とに、非線形光学結晶が共用される。したがって、テラヘルツ波発生と信号光生成のそれぞれに非線形光学結晶を設けなくてよいので、テラヘルツ波を用いて検査する装置の構成をよりコンパクトにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1実施形態による検査装置の構成を示す。
【
図2】第1実施形態における波数ベクトル同士の関係を示す。
【
図4】作用空間における内周面の作用の説明図である。
【
図6】本発明の第2実施形態による検査装置の構成を示す。
【
図7】第2実施形態における波数ベクトル同士の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好ましい実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0020】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態による検査装置100の構成を示す。検査装置100は、テラヘルツ波Ltを用いて検査対象ガスを検査するための装置である。すなわち、検査装置100は、テラヘルツ波Ltを発生させて検査対象ガスへ導入し、検査対象ガスを通過したテラヘルツ波Ltに基づいて検出データを生成して出力する装置である。この検出データには、検査対象ガスの成分に関する情報が含まれている。したがって、検出データに基づいて、検査対象ガスの成分を検出することができる。
【0021】
図1に示すように、検査装置100は、テラヘルツ波発生装置10と、相互作用ユニット20と、テラヘルツ波検出装置30を備える。
【0022】
(テラヘルツ波発生装置の構成)
テラヘルツ波発生装置10は、テラヘルツ波Ltを発生させ、当該テラヘルツ波Ltを相互作用ユニット20における後述の作用空間7へ導入する。テラヘルツ波発生装置10は、本実施形態では、励起光源1と非線形光学結晶3と導入光学系5を備える。
を備える。
【0023】
励起光源1は、励起光Lpを生成して、当該励起光Lpを非線形光学結晶3に入射させる。励起光Lpはポンプ光ともいう。例えば、励起光源1は、励起光Lpとして近赤外線を生成する。励起光源1が生成する励起光Lpは、所定の波長(後述の角周波数ωp1に対応)でピークが生じるスペクトルを有していてよく、例えば、単一の波長を有していてよい。また、励起光Lpはパルス光であってよい。このパルス光の時間幅は、サブナノ秒程度(例えば、1×10-10秒以上であって1×10-9秒未満の値)であってよい。励起光源1は、一例ではQスイッチNd:YAGレーザーであってよいが、これに限定されない。
【0024】
非線形光学結晶3は、以下で述べる発生用の角度位相整合条件を満たすように励起光源1から励起光Lpが入射されることにより、テラヘルツ波Ltとアイドラー光Liを発生させるものである。発生用の角度位相整合条件は、次のエネルギー保存則と運動量保存則からなる。
エネルギー保存則:ωp1=ωi1+ωT1
運動量保存則:kp1=ki1+kT1
ここで、ωp1は、励起光Lpの角周波数であり、ωi1は、アイドラー光Liの角周波数であり、ωT1は、テラヘルツ波Ltの角周波数である。また、kp1は、励起光Lpの波数ベクトルであり、ki1は、アイドラー光Liの波数ベクトルであり、kT1は、テラヘルツ波Ltの波数ベクトルである。
【0025】
図2は、
図1の一部を示す。
図2において、波数ベクトルk
p1,k
i1,k
T1の関係を示す。
図2の例では、アイドラー光Liの波数ベクトルk
i1は、アイドラー光Liが仮に反射位置Prで反射したものであるとした場合に、反射する前のアイドラー光Liの波数ベクトルである。
【0026】
一例では、
図1のように、励起光源1からの励起光Lpは、非線形光学結晶3において側面3aに入射して端面3b上の反射位置Prで全反射する。これにより、発生用の角度位相整合条件に従ったテラヘルツ波Ltとアイドラー光Liが発生する。
【0027】
非線形光学結晶3は、例えば、LiNbO
3結晶であってよい。また、非線形光学結晶3は、
図1の例では、その紙面と垂直な方向から見た場合に台形状である。この場合、
図1において、
図1の紙面と交差する、非線形光学結晶3の各面は、当該紙面に直交する平面であってよい。
【0028】
第1実施形態では、後述するシード光や共振器を用いないので、アイドラー光Liの波長は、ある程度の幅を有している。アイドラー光Liの進行方向は、その波長毎に発生用の角度位相整合条件に従うので、
図1に示すように、アイドラー光Liは、ある程度の広がりを有する。また、アイドラー光Liの各波長に応じて、発生用の角度位相整合条件に従ったテラヘルツ波Ltの波長は、ある程度の幅を有している。テラヘルツ波Ltが端面3bから射出される方向は、その波長毎に発生用の角度位相整合条件に従うので、
図1に示すように、テラヘルツ波Ltは、ある程度の広がりを有する。テラヘルツ波Ltの波長幅における中心波長を有するテラヘルツ波成分は、端面3bとほぼ直交する方向に端面3bから射出されてよい。
【0029】
導入光学系5は、非線形光学結晶3から射出されたテラヘルツ波Ltを作用空間7へ導入する。導入光学系5は、
図1の例では、反射ミラー5aとレンズ5bを備える。反射ミラー5aは、非線形光学結晶3からのテラヘルツ波Ltを作用空間7へ案内するように反射させる。レンズ5bは、テラヘルツ波Ltの収束度(広がり)を調節する。レンズ5bは、集光レンズであってよい。
【0030】
(相互作用ユニットの構成)
相互作用ユニット20について、
図1と
図3を参照して説明する。
図3は、
図1のIII-III断面図である。
【0031】
相互作用ユニット20は、テラヘルツ波Ltと検査対象ガスが導入される作用空間7を有する。作用空間7においてテラヘルツ波Ltと検査対象ガスとを相互作用させる。本実施形態では、相互作用ユニット20は、作用空間7においてテラヘルツ波Ltを反射させる反射面8を有する。作用空間7に導入されたテラヘルツ波Ltは、反射面8で反射されることにより、複数回、作用空間7を通過して、作用空間7の外部に位置するテラヘルツ波検出装置30へ入射するようになっている。反射面8(後述の内周面8)は、テラヘルツ波を反射する材料(例えば金属)で形成されている。
【0032】
相互作用ユニット20は、本実施形態では、空間形成体9と導入路形成体11と排出路形成体13とガス流発生装置15と整流部16を備える。
【0033】
空間形成体9は、内部に作用空間7を形成している。また、空間形成体9は、テラヘルツ波Ltが導入される導入部9aを有する。導入部9aは、テラヘルツ波Ltが透過する材料で形成されている。作用空間7は、外部へ連通する導入口7aと排出口7bを有する。外部のガスが検査対象ガスとして導入口7aを通って作用空間7に流入可能になっている。また、作用空間7のガスが、排出口7bを通って外部に流出可能になっている。導入口7aと排出口7bは、例えば、作用空間7においてテラヘルツ波Ltが通過する領域を挟むように位置している。作用空間7は、導入口7aと排出口7bの部分を除いて外部に対して密閉されていてよい。
【0034】
空間形成体9は、上述の反射面8として内周面を有する。内周面8は、作用空間7を囲むように延びて作用空間7を区画する。本実施形態では、内周面8は、内周面8の中心軸方向(
図1の紙面と垂直な方向)から見た場合に円形であり、円筒形の領域を区画している。テラヘルツ波Ltは、作用空間7において内周面8における複数位置(
図1の例では位置P1~P8)で順に反射した後に、テラヘルツ波検出装置30へ入射するようになっている。本実施形態では、作用空間7を複数回通過したテラヘルツ波Ltは、導入部9aを透過することで、作用空間7の外部に位置するテラヘルツ波検出装置30へ伝播していく。なお、本願において、「作用空間7を複数回通過する」とは、作用空間7を区画する面(内周面8及び導入部9a)上の1つの位置から当該面上の別の位置へテラヘルツ波Ltが伝播することが2回以上行われることを意味する。
【0035】
導入路形成体11は、導入口7aから延びる導入路11aを形成する。導入路11aは、導入口7aと反対側において外部に開口する取込口11bを有する。導入路形成体11は、変形可能(例えば変形自在)な管であってよい。この場合、管11は、空間形成体9に接続される。ただし、導入路形成体11は、これに限定されず、内部に導入路11aを形成したものであればよい。
【0036】
排出路形成体13は、排出口7bから延びる排出路13aを形成する。排出路13aは、排出口7bと反対側において外部に開口する送出口13bを有する。排出路形成体13は、変形可能(例えば変形自在)な管であってよい。この場合、管13は、空間形成体9に接続される。ただし、排出路形成体13は、これに限定されず、内部に排出路13aを形成したものであればよい。
【0037】
ガス流発生装置15は、外部から導入口7aを通して作用空間7へ流入するガス流を発生させる。ガス流発生装置15は、例えば送風機(ファン)であってよい。
図3の例では、送風機15は、排出路形成体13に設けられている。この場合、送風機15は、作用空間7のガスを排出口7bと排出路13aを通して送出口13bから外部へ送出することにより、外部からのガスを導入口7aを通して作用空間7へ吸引する吸引装置として機能する。なお、図示を省略するが、送風機15は、導入路形成体11(例えば取込口11b)に設けられてもよいし、作用空間7において、テラヘルツ波Ltに干渉しない領域(例えば導入口7a又は排出口7bの近傍)に設けられてもよい。
【0038】
整流部16は、作用空間7において、テラヘルツ波Ltが通過する領域(以下で、単に通過領域という)と導入口7aとの間に設けられている。整流部16は、通過領域の各位置の間で検査対象ガスの流量の差を減らす。整流部16は、例えば、多数の孔が形成された板状またはメッシュ状の部材(例えば金属メッシュ)であってよい。このような板状またはメッシュ状の部材は、作用空間7におけるテラヘルツ波Ltの伝播方向と平行に2次元的に延びて、通過領域と導入口7a側の領域とを区切るように配置されている。
【0039】
なお、相互作用ユニット20は、整流部16に加えて、整流部17を備えていてもよい。この整流部17は、作用空間7において、通過領域と排出口7bとの間に設けられている。整流部17は、通過領域の各位置の間で検査対象ガスの流量の差を減らす。このような整流部17は、整流部16と同じ構成を有していてよい。すなわち、整流部17は、例えば、多数の孔が形成された板状またはメッシュ状の部材であり。作用空間7におけるテラヘルツ波Ltの伝播方向と平行に2次元的に延びて、通過領域と排出口7b側の領域とを区切るように配置されていてよい。
【0040】
図4は、上述した内周面8の作用の説明図である。
図4における左右方向は、テラヘルツ波Ltの伝播方向に対応する。また、
図4において、破線は、テラヘルツ波Ltの伝播方向における各位置P0~P9を示す。すなわち、P0は
図1における集光レンズ5bの位置を示し、P1~P8は、
図1に示すように内周面8の位置(局所領域)を示し、P9は、後述する集光レンズ18eの位置を示す。また、
図4において、実線で示す折れ線は、テラヘルツ波Ltの伝播路を示す。
【0041】
図4に示すように、非線形光学結晶3から射出されたテラヘルツ波Ltは、位置P1~P9のうち隣接する各対の位置同士の中間で焦点を結ぶように伝播していく。従って、テラヘルツ波Ltは、その広がりが調節されながら内周面8で反射するので、内周面8で多数回反射しても、安定してテラヘルツ波検出装置30へ案内される。
【0042】
なお、各局所領域P1~P8は、内周面8の中心軸方向に見た場合、円弧の形状を有している。ただし、各局所領域P1~P8は、上述のように隣接する各対の局所領域の同士の中間で焦点をテラヘルツが結ぶようにテラヘルツを反射する他の形状を有していてもよい。この場合、内周面8は、その中心軸方向に見た場合、円形でなくてもよい。
なお、テラヘルツ波Ltが平行光として作用空間7に導入される場合には、各局所領域P1~P8は平面であってよい。この場合、内周面8は、その中心軸方向に見た場合、各平面P1~P8を含む多角形であってよい。
【0043】
なお、導入部9aから作用空間7へ導入されたテラヘルツ波が、作用空間7を複数回通過した後に、導入部9aを通して作用空間7の外部へ伝播するように、内周面8の形状が設定されていればよい。
【0044】
(テラヘルツ波検出装置の構成)
テラヘルツ波検出装置30は、テラヘルツ波発生装置10により発生させられ作用空間7を複数回通過したテラヘルツ波Ltに基づいて検出データを出力する。テラヘルツ波検出装置30は、本実施形態では、励起光源1と非線形光学結晶3と入射光学系18と検出器19とを備える。
【0045】
励起光源1と非線形光学結晶3は、テラヘルツ波発生装置10とテラヘルツ波検出装置30に共有されるものであり、上述した構成を有する。作用空間7からのテラヘルツ波Ltが検出用の角度位相整合条件を満たすように非線形光学結晶3に入射されることにより、非線形光学結晶3は、当該テラヘルツ波Ltと励起光源1が発生した励起光Lpとから信号光Lsを生成する。
【0046】
検出用の角度位相整合条件は、次のエネルギー保存則と運動量保存則からなる。
エネルギー保存則:ω
p2=ω
s2+ω
T2
運動量保存則:k
p2=k
s2+k
T2
ここで、ω
p2は、励起光Lpの角周波数であり上述のω
p1に等しい。当該励起光Lpは、
図1の例では、反射ミラー21で反射された励起光Lpである。ω
s2は、信号光Lsの角周波数であり、ω
T2は、テラヘルツ波Ltの角周波数であり上述のω
T1に等しい。また、k
p2は、励起光Lpの波数ベクトルであり、k
s2は、信号光Lsの波数ベクトルであり、k
T2は、非線形光学結晶3へ入射するテラヘルツ波Ltの波数ベクトルである。これらの波数ベクトルk
p2,k
s2,k
T2の関係を、
図2に示す。
【0047】
反射ミラー21は、テラヘルツ波検出装置30の構成要素であり、励起光源1から射出され反射位置Prで反射した励起光Lpを、再び反射位置Prへ反射する。反射ミラー21で反射された励起光Lpは、反射位置Prで再び反射してアイソレータ23に吸収される。なお、アイソレータ23は、励起光源1から反射位置Prへ向かう励起光Lpを透過させる。
【0048】
入射光学系18は、作用空間7からのテラヘルツ波Ltを非線形光学結晶3へ案内し、検出用の角度位相整合条件が満たされるように当該テラヘルツ波Ltを非線形光学結晶3に入射させる。
【0049】
図1の例では、入射光学系18は、作用空間7からのテラヘルツ波Ltを非線形光学結晶3における反射位置Prへ入射させる。この時、入射光学系18が当該テラヘルツ波Ltを非線形光学結晶3に入射させる方向は、非線形光学結晶3で発生したテラヘルツ波Ltが非線形光学結晶3から射出される方向と逆(正反対)である。
【0050】
入射光学系18は、例えば、
図1のように、複数の反射ミラー18a~18cと、ビームスプリッタ18dとを有するように構成されてよい。複数の反射ミラー18a~18cは、作用空間7からのテラヘルツ波Ltを順に反射してビームスプリッタ18dに入射させる。ビームスプリッタ18dは、反射ミラー18cから入射したテラヘルツ波Ltの一部を反射ミラー5aに入射させ、テラヘルツ波Ltの残りを透過させる。反射ミラー5aは、ビームスプリッタ18dからのテラヘルツ波Ltを非線形光学結晶3に入射させる。反射ミラー5aは、導入光学系5と入射光学系18に共有される。なお、入射光学系18は、テラヘルツ波Ltの収束度(広がり)を調節するレンズ18eを更に有してよい。レンズ18eは、集光レンズであってよい。
【0051】
なお、非線形光学結晶3から射出され作用空間7へ向かって反射ミラー5aで反射したテラヘルツ波Ltは、その一部がビームスプリッタ18dを透過して作用空間7へ導入され、その残りがビームスプリッタ18dで反射してアイソレータ25に吸収される。なお、アイソレータ25は、反射ミラー18cからビームスプリッタ18dへ向かうテラヘルツ波Ltを透過させる。
【0052】
検出器19は、信号光Lsに基づいて検出データを出力する。検出データは、テラヘルツ波Ltのスペクトルデータであってよい。当該スペクトルデータは、テラヘルツ波Ltの各波長成分の強度を表わす。テラヘルツ波Ltの各波長は、信号光Lsの各波長と1対1で対応する。信号光Lsが非線形光学結晶3から放出される方向は、信号光Lsの波長成分に応じて異なる。そこで、検出器19は、
図1のように、検出面に配列された多数の光検出素子19aを有する。光検出素子19aは、例えばCCD(Charge Coupled Device)であってよい。多数の光検出素子19aの位置は、それぞれ、テラヘルツ波Ltの多数の波長に対応し、この対応関係は、予め求められ検出器19に設定されている。検出器19は、各光検出素子19aが検出した信号光Lsの強度と、当該光検出素子19aに対応するテラヘルツ波Ltの波長とに基づいて、テラヘルツ波Ltのスペクトルデータを生成する。検出器19から出力された当該スペクトルデータは、例えば図示しないディスプレイに表示されてよい。
【0053】
図5は、テラヘルツ波のスペクトル特性を示す。
図5において、横軸は、テラヘルツ波の周波数を示し、縦軸は、テラヘルツ波の強度を示す。
図5におけるスペクトルAは、水蒸気が存在する空中を通過した後のテラヘルツ波のスペクトルを示し、横軸から(すなわち強度がゼロの位置)から縦軸方向に延びている細い各線分は、空気中の水蒸気によるテラヘルツ波Ltの吸収スペクトルを示す。各吸収スペクトルに対応する周波数で、スペクトルAの強度が低下している。
【0054】
図5のようなスペクトルAに対応する、水蒸気を通過する前のスペクトルは、連続する広い周波数範囲にわたって強度を有している。このような広い周波数範囲にわたって、
図1のテラヘルツ波発生装置10は、発生するテラヘルツ波Ltの周波数を変更することができる。この周波数の変更は、例えば、励起光Lpの周波数を調整することにより行われる。なお、第1実施形態では、テラヘルツ波発生装置10が発生するテラヘルツ波Ltのスペクトルは、上述のようにある程度の波長幅を有しているが、励起光源1が発生する励起光Lpの波長を変えることにより、複数回にわたって、それぞれ、中心波長が互いに異なる波長幅のテラヘルツ波Ltを発生させてよい。これらの波長幅を合わせた範囲を広い波長範囲(すなわち上記広い周波数範囲)とすることができる。
【0055】
これに対し、対象成分は、例えば、テラヘルツ波Ltのスペクトルのうち、複数(例えば多数)の特定周波数でテラヘルツ波Ltを吸収する。したがって、検出したテラヘルツ波Ltのスペクトルデータに基づいて、吸収された波長の組み合わせを検出し、当該組み合わせに基づいて、対象成分の有無を検査することができる。
【0056】
対象成分は、検査対象ガス中に浮遊している粒子の固体成分であってもよいし、気体成分であってもよい。例えば、対象成分は、爆発性成分(NH3,NO,N2Oなど)、神経ガス(サリン,VXなど)、毒性や劇物の成分(TBM,CHCH3OH,H2S,HCl,HCN,NH3,SO2,UF6)、薬物犯罪に関する成分(麻薬、脱法ハーブ、シンナーなど)、自然災害に関する成分(例えば火山性ガス:H2S,CO2,SO2など)、環境問題に関する成分(フロンガスや温室効果ガス:HFCs,PFCs,CO2,CH4,N2O,SF6など)であってよい。
【0057】
(第1実施形態の効果)
上述した第1実施形態によると、作用空間7に導入されたテラヘルツ波Ltは反射面8で反射することにより作用空間7を複数回通過するので、作用空間7においてテラヘルツ波Ltが伝播する距離の合計を大きくすることができる。これにより、検査対象ガスに含まれる対象成分の検出感度を高めることができる。例えば、上述のように、テラヘルツ波Ltを内周面8の複数箇所(多数箇所)で反射させることにより、対象成分の高感度検出が可能となる。
【0058】
テラヘルツ波を用いた検査では、検査対象ガスが多種多様な成分を含んでいても、また、対象成分が微量であっても、検査対象ガスを前処理する必要が無いので、対象成分の有無を高速に(リアルタイムに)検査することができる。
更に、例えば、導入口7aから作用空間7へ大量の検査対象ガスを導入することにより、大量の検査対象ガスに対して対象成分の有無を検査することができる。
また、導入口7aは、取込口11bを介して間接的に外部へ連通しているので、取込口11bを、検査したい空間領域R(
図3)に配置することにより、当該空間領域Rのガスを、検査対象ガスとして作用空間7へ導入することができる。
【0059】
例えば、対象成分が、爆発性成分や毒性や劇物の成分や薬物犯罪に関する成分である場合には、ガス検出装置の取込口11bを、電車の駅における人の出入口である改札に配置したり、空港、ビル、又はビルのセキュリティーゲートに配置することができる。これにより、改札やセキュリティーゲートを通過する人やその人の衣服や持ち物からの対象成分(浮遊粒子やガス)を含む検査対象ガスを、取込口11bから作用空間7に導入して高速に検査することができる。対象成分が、自然災害に関する成分である場合には、監視が必要とされる火山(火口)の近傍に取込口11bを配置して、当該成分の有無を検査することにより火山の活動状況を監視できる。対象成分が、環境問題に関する成分である場合には、取込口11bを、当該成分の監視場所に配置することができる。
【0060】
導入路形成体11が変形可能(例えば変形自在)な管である場合には、検査を行いたい空間領域Rに合わせて当該管11を変形させることにより、管11の先端にある取込口11bを当該空間領域Rに容易に配置することができる。例えば、当該空間領域Rが、人が持ち運ぶ鞄やスーツケースの内部である場合に、セキュリティーゲートにおいて、鞄やスーツケースを開けて、その内部に管11の取込口11bを容易に配置させることができる。次いで、ガス流発生装置15により、鞄やスーツケースの内部のガスを、検査対象ガスとして作用空間7に導入できる。
【0061】
非線形光学結晶3は、テラヘルツ波発生装置10とテラヘルツ波検出装置30に共有されるので、検査装置100の構成をコンパクトにすることができる。
【0062】
[第2実施形態]
図6は、本発明の第2実施形態による検査装置100の構成を示す。第2実施形態では、テラヘルツ波発生装置10は、単一波長のテラヘルツ波Ltを発生して作用空間7へ導入するように構成されてよい。そのため、第2実施形態では、テラヘルツ波発生装置10は、第1実施形態の場合の構成に加えて、更にシード光源29を備える。第2実施形態において、説明しない点は、第1実施形態と同じであるので、その説明を省略する。
【0063】
第2実施形態では、例えば励起光源1が発生する励起光Lpの波長を一定にして、シード光源29が発生するシード光L
seedの波長を連続的に変化させることにより、非線形光学結晶3において発生するテラヘルツ波Ltの波長を連続的に変化させることができる。テラヘルツ波Ltの当該各波長を合わせた波長範囲を、広い波長範囲(例えば
図4の上記広い周波数範囲)にすることができる。このような波長範囲にわたって検査を行うために、当該波長範囲における各波長毎に、当該波長のテラヘルツ波Ltをテラヘルツ波発生装置10により作用空間7に導入し、作用空間7を複数回通過した当該テラヘルツ波Ltに基づいて、当該テラヘルツ波Ltの検出強度が検出データとしてテラヘルツ波検出装置30により生成されて出力される。このような構成を、以下において、より詳しく説明する。
【0064】
シード光源29は、単一波長のシード光L
seedを生成し、当該シード光L
seedを非線形光学結晶3へ入射させる。
図6の例では、シード光源29からのシード光L
seedは、その一部がビームスプリッタ31により反射されて、非線形光学結晶3へ入射する。
【0065】
シード光源29は、例えば、励起光Lpの周波数よりも1~3THz程度低い単一の周波数のシード光Lseedを発生させる。シード光源29は、発生させるシード光Lseedの単一周波数が可変に構成されている。例えば、シード光源29に設けた適宜の操作部を人が操作することにより、シード光源29が発生するシード光Lseedの単一周波数が変更される。シード光源29は、例えば、波長可変半導体レーザーであってよいが、これに限定されない。
【0066】
この場合、非線形光学結晶3は、次の発生用の角度位相整合条件が満たされることにより、テラヘルツ波Ltを発生させる。この発生用の角度位相整合条件は、次のエネルギー保存則と運動量保存則からなる。
エネルギー保存則:ωp1=ωseed+ωT1
運動量保存則:kp1=kseed+kT1
ここで、ωp1,ωT1,kp1,kT1は、第1実施形態の場合と同じである。ωseedは、シード光Lseedの角周波数であり、kseedは、シード光Lseedの波数ベクトルである。
【0067】
図7は、
図6の一部を示す。
図7において、波数ベクトルk
p1,k
seed,k
T1の関係を示す。
図7の例では、k
seedは、シード光L
seedが反射位置Prで反射する直前での波数ベクトルである。
【0068】
第2実施形態では、非線形光学結晶3は、発生用の角度位相整合条件を満たす励起光Lpとシード光L
seedにより、単一の波長のテラヘルツ波Ltを発生させ、当該テラヘルツ波Ltを射出する。テラヘルツ波Ltは、
図6のように、非線形光学結晶3の端面3bとほぼ直交する方向に端面3bから射出されてよい。
【0069】
非線形光学結晶3から射出されたテラヘルツ波Ltは、第1実施形態の場合と同様に、導入光学系5により作用空間7へ導入され、内周面8における複数位置P1~P8で複数回反射され作用空間7を複数回通過し、入射光学系18により再び非線形光学結晶3へ入射させられる。これにより、検出用の角度位相整合条件に従って、第1実施形態と同様に、信号光Lsが生成されて、当該信号光Lsが検出器19に入射する。この場合、検出用の角度位相整合条件は、第1実施形態の場合と同じであり、その運動量保存則における励起光Lpと信号光Lsとテラヘルツ波Ltの波数ベクトルk
p2,k
s2,k
T2の関係を、
図7に示す。
【0070】
なお、非線形光学結晶3からの信号光Lsは、その一部がビームスプリッタ31を透過して検出器19に入射し、その残りがビームスプリッタ31で反射してアイソレータ33に吸収される。なお、アイソレータ33は、シード光源29からビームスプリッタ31へ向かうシード光Lseedを透過させる。
【0071】
第2実施形態では、検出器19は、受けた信号光Lsの強度を示す大きさの電気信号を検出データとして生成して、当該電気信号を出力してよい。この検出データは、テラヘルツ波Ltの強度を表わしている。
【0072】
第2実施形態によると、シード光源29が発生するシード光Lseedの単一の周波数を連続的に変化させ、シード光Lseedの各周波数について、検出器19は上述の電気信号を出力する。すなわち、シード光Lseedの周波数毎に、当該周波数に対応する単一の周波数のテラヘルツ波Ltが、非線形光学結晶3から射出されて、作用空間7を複数回通過し、その後、非線形光学結晶3に入射し、これにより、信号光Lsが生成され、当該信号光Lsの強度を示す大きさの電気信号が検出器19から出力される。信号光Lsの各周波数は、既知であり、発生するテラヘルツ波Ltの周波数とは、1対1で対応し、この対応関係は、予め分かっている。したがって、この対応関係と、シード光Lseedの各周波数について検出器19から出力された電気信号に基づいて、検出されたテラヘルツ波Ltのスペクトルデータを生成できる。
【0073】
上述した第2実施形態でも、第1実施形態と同様の効果が得られる。例えば、第2実施形態においても、上述した
図4のように、テラヘルツ波Ltは、その広がりが調節されながら内周面8で反射するので、内周面8で多数回反射しても、安定してテラヘルツ波検出装置30へ案内される。
【0074】
また、対象成分は、例えば、テラヘルツ波Ltのスペクトルのうち、複数の特定周波数でテラヘルツ波Ltを吸収し、且つ、これらの特定周波数でのテラヘルツ波Ltの吸収量の互いに対する比率は、特定の比率になる。
これに対して、励起光源1が発生する励起光Lpとシード光源29が発生するシード光Lseedの強度を一定にして、シード光Lseed又は励起光Lpの波長を変化させることにより、テラヘルツ波Ltの強度を一定にしつつ、その波長を変化させることができる。これにより、テラヘルツ波Ltの周波数毎に検出器19が出力した出力データに基づくスペクトルデータから、吸収された波長の組み合わせを検出し、且つ、当該各波長での吸収量の互いに対する比率を求めることができる。したがって、当該組み合わせと比率に基づいて、対象成分を検出できる。
【0075】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、本発明の第1実施形態または第2実施形態による検査装置100は、上述した複数の事項の全て有していなくてもよく、上述した複数の事項のうち一部のみを有していてもよい。
【0076】
また、以下の変更例1~12のいずれかを単独で採用してもよいし、変更例1~12の2つ以上の適切な組み合わせを任意に採用してもよい。この場合、以下で述べない点は、上述と同じである。
【0077】
(変更例1)
上述した第2実施形態において、励起光源1からの励起光Lpを非線形光学結晶3へ入射させる角度を変えることにより、非線形光学結晶3から射出されるテラヘルツ波Ltの単一周波数を変えてもよい。例えば、励起光源1からの励起光Lpを反射して非線形光学結晶3へ入射させる反射ミラー(図示せず)の角度を変えることにより、非線形光学結晶3に対する励起光Lpの入射角度を変えてよい。
【0078】
(変更例2)
上述した第2実施形態において、シード光源29の代わりに、アイドラー光Liを増幅する共振器を設けてもよい。この共振器は、例えば、
図8に示すように、アイドラー光Liを反射する第1および第2の反射ミラー27a,27bを有する。なお、
図8では、非線形光学結晶3と反射ミラー27a,27b等を図示しているが、検査装置100の他の構成要素の図示を省略している。
【0079】
非線形光学結晶3において励起光Lpにより生じるアイドラー光Liのうち、特定方向に伝播するアイドラー光Liが、第1および第2の反射ミラー27a,27bで繰り返し反射されることにより増幅される。これにより、増幅されたアイドラー光Liに対応する単一周波数のテラヘルツ波Ltが、上述した発生用の角度位相整合条件に従って、非線形光学結晶3において発生し非線形光学結晶3から射出される。
【0080】
この場合、例えば、励起光源1からの励起光Lpを非線形光学結晶3へ入射させる角度を変えることにより、非線形光学結晶3から射出されるテラヘルツ波Ltの単一周波数の変えてもよい。あるいは、励起光源1が発生する励起光Lpの波長を変化させることにより、非線形光学結晶3から射出されるテラヘルツ波Ltの波長を変えてもよい。
【0081】
(変更例3)
上述した本発明の第1又は第2の目的を達成するための検査装置100において、テラヘルツ波発生装置10は、各図に示した構成に限定されず、テラヘルツ波Ltを発生でき、当該テラヘルツ波Ltの波長を変化させることができる装置であればよい。
【0082】
(変更例4)
上述した本発明の第1の目的を達成するための検査装置100において、テラヘルツ波Ltが透過する検査対象は、上述のように検査対象ガスであってもよいし、固体、粉体、又は液体であってもよい。検査対象が固体、粉体、又は液体である場合、相互作用ユニット20は、検査対象を存在させる作用空間7を形成する空間形成体9を有しているが、上述した他の各構成要素は有していなくてもよい。また、作用空間7には、導入口7aと排出口7bが設けられていないが、例えば、空間形成体9には、作用空間7と外部とを連通する開口が形成されていてよい。この開口を通して検査対象を作用空間7に配置してよい。検査対象が、粉体又は液体である場合には、粉体又は液体を容器にいれて作用空間7に配置してよい。検査対象は、例えば、作用空間7において、テラヘルツ波Ltが反射面(内周面)8で反射して複数回通過する領域に配置されてよい。なお、上記開口は、内周面8以外の箇所に形成されていてよい。
【0083】
(変更例5)
上述した第1実施形態または第2実施形態において、テラヘルツ波Ltは、導入部9aを通して作用空間7へ導入され、同じ導入部9aを通して作用空間7の外部へ伝播するが、本発明はこれに限定されない。すなわち、空間形成体9は、導入部9aに加えて、テラヘルツ波Ltを作用空間7の外部へ伝播させる退出部を有していてもよい。退出部は、テラヘルツ波Ltが透過する材料で形成されている。この場合、テラヘルツ波Ltは、導入部9aを通して作用空間7へ導入され、作用空間7を複数回通過し、その後、退出部を通して作用空間7の外部のテラヘルツ波検出装置30へ入射する。
【0084】
なお、導入部9aから作用空間7へ導入されたテラヘルツ波が、作用空間7を複数回通過した後に、上記退出部を通して作用空間7の外部へ伝播するように、内周面8の形状が設定されていればよい。
【0085】
(変更例6)
上述した本発明の第3の目的を達成するための検査装置100において、相互作用ユニット20は、設けられていなくてもよい。すなわち、テラヘルツ波発生装置10で発生したテラヘルツ波Ltが、検査対象(ガス、固体、粉体、又は液体)と相互作用し、その後、同じ非線形光学結晶3に入射するようになっていればよい。このように非線形光学結晶3に入射するテラヘルツ波Ltは、検査対象領域における検査対象を透過し、又は、検査対象で反射若しくは散乱したものであってよい。テラヘルツ波Ltは、検査対象を透過し、又は、検査対象で反射若しくは散乱する時に、検査対象と相互作用する。すなわち、テラヘルツ波Ltの一部の周波数成分が検査対象に吸収される。
【0086】
(変更例7)
上述した第1実施形態または第2実施形態において、非線形光学結晶3と励起光源1一方または両方は、テラヘルツ波発生装置10とテラヘルツ波検出装置30に共有されていなくてもよい。例えば、テラヘルツ波発生装置10とテラヘルツ波検出装置30は、それぞれ別々の非線形光学結晶を有していてもよい。この場合、テラヘルツ波検出装置30の当該非線形光学結晶には、テラヘルツ波発生装置10の励起光源1からの励起光Lpが適宜の光学系により案内されて入射されてもよいし、励起光源1とは別に設けた励起光源からの励起光Lpが入射されてもよい。これにより、テラヘルツ波検出装置30において信号光Lsを発生させる。
【0087】
(変更例8)
上述した第1実施形態または第2実施形態において、導入路形成体11と排出路形成体13の一方または両方が省略されてもよい。導入路形成体11と排出路形成体13の両方を省略する場合、送風機15は、導入口7a又は排出口7bに設けられてもよいし、作用空間7において、テラヘルツ波Ltに干渉しない領域に設けられてもよい。
【0088】
(変更例9)
上述した第1実施形態または第2実施形態において、テラヘルツ波Ltが、作用空間7において反射面(内周面)8で反射する回数は、1回であっても複数回(多数回)であってもよい。また、テラヘルツ波Ltが、内周面8で1回又は複数回反射して作用空間7を複数回通過し、テラヘルツ波検出装置30で検出されれば、内周面8の形状は上述の形状に限定されない。
【0089】
(変更例10)
ガス流発生装置15は設けられなくてもよい。すなわち、検査対象ガス(例えば火山性ガス)が、自然に、導入口7aを通して作用空間7へ流入し、排出口7bを通して外部へ流出する場所(例えば屋外)に相互作用ユニット20を設置する場合には、ガス流発生装置15は設けられなくてもよい。
【0090】
(変更例11)
上述した第2実施形態において、テラヘルツ波検出装置30は、非線形光学結晶3を有していなくてもよい。この場合、作用空間7からのテラヘルツ波Ltは、検出器19に入射される。検出器19は、入射したテラヘルツ波Ltの強度を示す電気信号を生成して出力する。このような検出器19は、例えば、吸収体と熱電変換素子を備える。吸収体は、テラヘルツ波Ltを吸収することにより発熱する。熱電変換素子は、吸収体に取り付けられ吸収体で発生した熱量に応じた大きさの上記電気信号を検出データとして生成して出力する。
【0091】
(変更例12)
図9は、変更例12による検査装置100の構成を示す。
図10は、
図9のX-X矢視図である。
図9のように、空間形成体9には、外部から作用空間7へ検査対象Tが入る入口9bと、作用空間7から外部へ検査対象Tが出る出口9cとが形成されている。入口9bと出口9cは、内周面8においてテラヘルツ波Ltが反射する各位置P1~P8からずれて位置している。また、
図10に示すように、空間形成体9は、作用空間7を区画する面12を有し、この面12は水平面であってよい。変更例12では、ガス流発生装置15は設けられなくてよい。
【0092】
変更例12では、作用空間7に存在させる検査対象Tは、ガス以外のものであってよく、例えば、人又は物体である。検査対象Tは、
図9の破線矢印Aが示すように、入口9bから作用空間7に入り、その後、出口9cから作用空間7の外部へ出ていく。例えば、検査対象Tは、搬送装置(例えばベルトコンベア)により、入口9bから作用空間7に入り出口9cから作用空間7の外部へ出ていくように搬送されてもよい。この搬送装置は、作用空間7内におけるテラヘルツ波Ltの伝播経路に干渉しないように設けられる。検査対象Tが人である場合には、人は、歩いて、入口9bから作用空間7に入り出口9cから作用空間7の外部へ出てよい。人は
図12の水平面12を歩行してよい。
【0093】
また、例えば、検査対象Tは、作用空間7に入った後、作用空間7の中央部で一旦停止する。この中央部は、
図9において円形である内周面8の中心軸上に位置する。検査対象Tが作用空間7の中心部で停止した状態で、テラヘルツ波発生装置10によりテラヘルツ波Ltを発生させることにより、当該テラヘルツ波Ltが、(検査対象Tを透過せずに)検査対象Tの近傍を、多数回(
図9では9回)通過する。したがって、検査対象Tを取り巻く空気に、対象成分(浮遊粒子やガス)が含まれていないかを高感度に検査できる。すなわち、検査対象Tを取り巻く空気には、検査対象Tから生じた成分が含まれているので、当該成分が対象成分であるかを高感度に検査できる。
【0094】
なお、入口9bと出口9cの両方を兼ねる1つの出入口が空間形成体9に形成されていてもよい。この場合、変更例12の他の点は、上述と同じである。また、
図9は、第1実施形態の検査装置100に対して変更例12を採用した構成を示すが、第2実施形態の検査装置100に対して、上述した変更例12を採用してもよい。
【符号の説明】
【0095】
1 励起光源、3 非線形光学結晶、3a 側面、3b 端面、5 導入光学系、5a 反射ミラー、5b レンズ、7 作用空間、7a 導入口、7b 排出口、8 反射面(内周面)、9 空間形成体、9a 導入部、9b 入口、9c 出口、10 テラヘルツ波発生装置、11 導入路形成体(管)、11a 導入路、11b 取込口、13 排出路形成体(管)、13a 排出路、13b 送出口、15 ガス流発生装置(送風機)、16 整流部、17 整流部、18 入射光学系、18a~18c 反射ミラー、18d ビームスプリッタ、18e 集光レンズ、19 検出器、19a 光検出素子、20 相互作用ユニット、21 反射ミラー、23 アイソレータ、25 アイソレータ、27a,27b 反射ミラー、29 シード光源、30 テラヘルツ波検出装置、31 ビームスプリッタ、33 アイソレータ、100 検査装置、Pr 反射位置、Li アイドラー光、Lp 励起光、Lt テラヘルツ波、Ls 信号光、T 検査対象