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特許7232499半導体装置とその製造方法および光電変換装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-22
(45)【発行日】2023-03-03
(54)【発明の名称】半導体装置とその製造方法および光電変換装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0264 20060101AFI20230224BHJP
【FI】
H01L31/08 L
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018164916
(22)【出願日】2018-09-03
(65)【公開番号】P2020038890
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-08-11
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】都甲 薫
(72)【発明者】
【氏名】末益 崇
【審査官】桂城 厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-138128(JP,A)
【文献】特開2015-130451(JP,A)
【文献】特開平05-102509(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0068581(US,A1)
【文献】特開2002-299261(JP,A)
【文献】特表2011-523791(JP,A)
【文献】特開2014-144875(JP,A)
【文献】特開2009-302171(JP,A)
【文献】特開2017-041487(JP,A)
【文献】特開昭56-122171(JP,A)
【文献】特開昭59-073499(JP,A)
【文献】特開昭60-066874(JP,A)
【文献】CHU, Shirley S. et al.,Thin‐film gallium arsenide homojunction solar cells on recrystallized germanium and large‐grain germanium substrates,Journal of Applied Physics,1998年06月04日,60, 811(1986),pp.811-814,DOI:10.1063/1.337379
【文献】T, Nishida et al.,Al 誘起成長 Ge 薄膜をシードとした大粒径厚膜 Ge 層の形成,第65回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集,2018年03月20日,pp.13-285,https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2018s/subject/20p-F214-2/advanced?cryptoId=
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/119
H01L 31/18-31/20
H02S 10/00-10/40
H02S 30/00-99/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質の基材と、
前記基材の一面に形成され、Geを主成分とする第一結晶粒子を複数含む下地層と、
前記下地層の上に形成され、前記第一結晶粒子の-2%以上2%以下の格子定数を有する第二結晶粒子を複数含む機能層と、を備え、
前記下地層の厚みが1μm以下であり、
前記機能層の厚みが5μm以下であり、かつ前記第二結晶粒子の平均粒径が50μm以上であることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
非晶質の基材と、
前記基材の一面に形成され、Geを主成分とする第一結晶粒子を複数含む下地層と、
前記下地層の上に形成され、前記第一結晶粒子の-2%以上2%以下の格子定数を有する第二結晶粒子を複数含む機能層と、を備え、
前記下地層の厚みが1μm以下であり、
前記第二結晶粒子の平均粒径が1μm以上であり、
前記第二結晶粒子の粒径が、前記機能層の厚みの10倍以上であることを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
前記第二結晶粒子が、GaAsを主成分として含むことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第二結晶粒子が、In、Al、Pのうち、少なくとも一つを主成分として含むことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項5】
前記基材と前記下地層との間に、さらに導電層を備えていることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記基材が、非晶質の材料からなることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法であって、
気相成長法を用いて、前記下地層の上に前記機能層を形成する工程を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記機能層を形成する前に、
前記基材の一面に、金属元素を主成分とする金属層と、Geを主成分とするGe層と、を順に積層した第一積層体を形成する工程と、
前記第一積層体を加熱し、前記金属層と前記Ge層との層交換を行い、前記Ge層を前記下地層とした第二積層体を形成する工程と、
前記層交換後の前記Ge層上に形成されている層を除去する工程と、を有することを特徴とする請求項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記第一積層体が、前記金属層と前記Ge層との間に、さらに金属酸化物を主成分とする金属酸化物層を有することを特徴とする請求項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の半導体装置と、
前記機能層に設けられた電極と、を備えていることを特徴とする光電変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置とその製造方法および光電変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池等の光電変換装置による光電変換効率の最高値は、III-V族化合物半導体(GaAs等)を適用することによって更新され続けてきた。しかしながら、基板コストが高いことから、III-V族化合物半導体を適用した光電変換装置の応用範囲は限られている。そのため、安価な基板上に、高品質III-V族化合物半導体薄膜を形成する技術が求められている。非特許文献1、2には、ガラス基板上にGaAs膜を直接貼り合わせる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】E.U. Onyegam et al, Sol. Energy Mater. Sol. Cells 111, 206 (2013).
【文献】J.J.J. Yang et al, J. Appl. Phys. 51, 3794 (1980).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ガラス等の基板へのGaAs膜の貼り合わせ技術は、プロセスコストが高く、また、大面積のガラス基板に対しては適用しにくいため、産業上の応用は難しい。また、公知の成膜法により、ガラス基板に直接GaAs膜を形成することは可能であるが、形成されたGaAs膜は、光電変換装置に適用可能な品質を有していない。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、基材の大きさによらず、低コストで形成することが可能であり、かつ光電変換装置に適用可能な品質を有する半導体膜を備えた、半導体装置とその製造方法および光電変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用している。
【0007】
(1)本発明の一態様に係る半導体装置は、非晶質の基材と、前記基材の一面に形成され、Geを主成分とする第一結晶粒子を複数含む下地層と、前記下地層の上に形成され、前記第一結晶粒子の-2%以上2%以下の格子定数を有する第二結晶粒子を複数含む機能層と、を備え、前記第二結晶粒子の平均粒径が1μm以上である。
【0008】
(2)前記(1)に記載の半導体装置において、前記第二結晶粒子は、GaAsを主成分として含んでもよい。
【0009】
(3)前記(1)に記載の半導体装置において、前記第二結晶粒子は、In、Al、Pを主成分として含んでもよい。
【0010】
(4)前記(1)~(3)のいずれか一つに記載の半導体装置において、前記基材と前記下地層との間に、さらに導電層を備えていてもよい。
【0011】
(5)前記(1)~(4)のいずれか一つに記載の半導体装置において、前記基材は、非晶質の材料からなることが好ましい。
【0012】
(6)本発明の一態様に係る半導体装置の製造方法は、前記(1)~(5)のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法であって、気相成長法を用いて、前記下地層の上に前記機能層を形成する工程を有する。
【0013】
(7)前記(6)に記載の半導体装置の製造方法において、前記機能層を形成する前に、前記基材の一面に、金属元素を主成分とする金属層と、Geを主成分とするGe層と、を順に積層した第一積層体を形成する工程と、前記第一積層体を加熱し、前記金属層と前記Ge層との層交換を行い、前記Ge層を前記下地層とした第二積層体を形成する工程と、前記層交換後の前記Ge層上に形成されている層を除去する工程と、を有していてもよい。
【0014】
(8)前記(7)に記載の半導体装置の製造方法において、前記第一積層体が、前記金属層と前記Ge層との間に、さらに金属酸化物を主成分とする金属酸化物層を有していてもよい。
【0015】
(9)本発明の一態様に係る光電変換装置は、前記(1)~(5)のいずれか一つに記載の半導体装置と、前記機能層に設けられた電極と、を備えている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の半導体装置は、基材上に、Geを主成分とする結晶粒子を複数含む多結晶膜を、下地層として備えている。下地層上に形成される機能層を構成する結晶粒子は、下地層の結晶粒子の形状を引き継いで形成されており、1μm以上の粒径を有する。この粒径は、既存の結晶成長技術等を用いて基材上に直接形成した場合に比べてはるかに大きく、高い分光感度を有する機能層を実現するものである。したがって、本発明の半導体装置は、機能層として、光電変換装置に適用可能な品質を有する半導体膜を備えたものとなっている。
【0017】
さらに、本発明の半導体装置においては、基材が非晶質であり、機能層が、Geの多結晶粒子からなる下地層を介して形成されるものである。したがって、本発明の半導体装置は、その製造過程において貼り合わせ技術を適用する必要がないため、機能層を構成する半導体膜を、基材の大きさによらず、また、単結晶の高価な基材を用いない分、低コストで形成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第一実施形態に係る半導体装置の斜視図である。
図2】(a)~(d)図1の半導体装置の製造過程における被処理体の斜視図である。
図3】本発明の実施例1、比較例1、2の半導体装置における、機能層のラマンスペクトルを示すグラフである。
図4】(a)~(c)本発明の実施例1、比較例1、2の半導体装置における、機能層の表面形状を示すSEM画像である。
図5】(a)~(d)本発明の実施例1、比較例1、2の半導体装置における、機能層を構成する結晶粒子の分布を示すEBSD画像である。
図6】本発明の実施例1、比較例1、2の半導体装置をそれぞれ適用した、太陽電池の分光感度測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を適用した実施形態に係る、半導体装置とその製造方法および光電変換装置について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0020】
<第一実施形態>
図1は、本発明の一実施形態に係る半導体装置100の構成を、模式的に示す斜視図である。半導体装置100は、主に、基材101と、基材の一面101aに形成された下地層102と、下地層102の上に形成された機能層103と、を備えている。
【0021】
基材101としては、非晶質の材料等の安価な材料で構成されるものが用いられる。基材101の形状としては、下地層102および機能層103を搭載できるような、平坦な一面を有していればよく、この一面以外は凹凸構造、曲面を有していてもよい。また、厚さについても制限はなく、板体(基板)であってもよいし、膜体(薄膜)であってもよい。
【0022】
下地層102は、Ge(ゲルマニウム)を主成分とする(好ましくは90%以上含む)第一結晶粒子102Aを複数含む多結晶膜である。下地層102があることにより、直上の層(機能層103)を構成する第二結晶粒子の平均粒径を制御することができる。第一結晶粒子102Aの平均粒径は、直上に形成される結晶粒子の粒径を考慮し、1μm以上であることが好ましく、50μm以上であればより好ましい。なお、下地層102の厚さは、10nm~1μmであることが好ましい。
【0023】
機能層103は、第二結晶粒子103Aを複数含む多結晶膜である。第二結晶粒子103Aは、第一結晶粒子102Aと格子整合しやすい範囲、すなわち、第一結晶粒子102Aの-2%以上2%以下の格子定数を有する。第二結晶粒子103Aの格子定数がこの範囲にあることにより、下地層102と機能層103との間の歪みを抑えた積層状態が保たれている。第二結晶粒子103Aは、1μm以上であれば好ましく、50μm以上であればより好ましい。なお、機能層103の厚さは、500nm~5μmであることが好ましい。
【0024】
第二結晶粒子103Aとしては、主にIII-V族化合物半導体からなるもの、具体的には、GaAsを主成分として含むもの、例えば、GaAs、InGaAs、AlGaAs、GaAsP、GaAsSb等が挙げられる。その他にも、In、Al、Pを主成分として含むもの、例えば、AlAs、InGaP等が挙げられる。
【0025】
下地層102が単結晶膜である場合、その上に形成される機能層103も単結晶膜となるため、2つの層は、熱膨張係数の違いに起因した応力によって割れやすいことが問題となる。これに対し、本実施形態では、下地層102、機能層103が、ともに多結晶膜であるため、2つの層は、それぞれの層の結晶粒子同士の境界において応力が緩和されることにより、割れにくい構造となっている。
【0026】
基材101と下地層102との間には、さらに導電層を備えていてもよい。導電層の材料としては、下地層を構成するGeと反応しにくく、また、拡散しにくい元素であることが好ましく、例えば、ITO、AZO、TiN等が挙げられる。導電層を備えている場合には、光励起キャリアを取り出しやすくする効果が得られる。
【0027】
図2(a)~(d)は、半導体装置100の製造過程における被処理体の斜視図である。半導体装置100の製造方法の一例について、図2(a)~(d)を用いて説明する。
【0028】
(第一積層体形成工程)
まず、図2(a)に示すように、基材の一面101aに、Al、Au、Ag等の金属元素を主成分とする金属層104、AlOx(xは実数)、GeOx、SiO等の金属酸化物元素を主成分とする金属酸化物層105と、Geを主成分とする非晶質のGe層106、を順に積層してなる第一積層体107を形成する。金属層104、金属酸化物層105、Ge層106の形成は、スパッタリング法、蒸着法、化学的気相法(CVD)法等の、公知の成膜方法を用いて行うことができる。なお、金属酸化物層105は、例えば、Ge層を形成する前に、形成された金属層104を、一旦、大気に曝すことにより、公知の成膜方法を用いずに形成することもできる。本実施形態においては、金属層104とGe層106との間に、金属酸化物層105を有する場合について例示しているが、後述するように、この層は必須の構成ではない。
【0029】
(第二積層体形成工程)
次に、第一積層体107に対し、約50~500℃、約0.1~500時間の加熱処理を行う。この加熱処理によって、非晶質のGe層106を構成するGe原子が、金属層104内の結晶粒界等に沿って拡散する。加熱を続けると、Ge原子の拡散領域が、金属層104の積層方向と略垂直な方向(面内方向)に広がる。そして、金属層104内の金属元素は、面内方向に広がって拡散するGe原子によって、基材101から離れる方向に押し上げられる。
【0030】
この現象は、加熱により高まったGe層106を構成するGe原子の拡散速度と、Ge原子が結晶化する速度の関係に起因して、発生すると考えられる。すなわち、高まったGe原子の拡散速度が結晶化する速度を上回ると、Ge原子は、始めに金属層104内に拡散し、その後に結晶化する。
【0031】
このようにして、Ge層106内のGe原子が、金属層104内のほとんどの金属元素と置き換わり、結晶化することにより、金属層104とGe層106との層交換が行われる。その結果として、図2(b)に示すように、多結晶で構成されるGe層106Aを下地層102とした、第二積層体107Aを形成することができる。なお、加熱処理前のGe層106が単結晶膜あるいは多結晶膜である場合、Ge層106はエネルギー的に安定しているため、当該層交換が行われない。
【0032】
第一積層体形成工程で形成した金属酸化物層105は、層交換の際に、Ge層の結晶粒子の拡散速度を下げて、核の発生を遅らせることにより、最終的に形成される下地層102の結晶粒子の大粒径化を促進する効果を奏する。金属酸化物層105の厚さは、0.110nm程度であることが好ましい。
【0033】
なお、第一積層体形成工程において、形成された金属層を大気に曝すことなく、連続してGe層を形成する場合には、金属酸化物層105が形成されないことになる。しかしながら、この場合にも、当該層交換を行うことができ、金属酸化物層を形成した場合ほどではないが、所定の大粒径の結晶粒子からなる下地層を形成することができる。したがって、金属酸化物層105は、本実施形態の製造方法において必須の層ではない。さらに、この場合、金属層104上に金属酸化物層105を形成しない分、あるいは、金属層104を大気に曝さない分、製造に要する時間を短縮し、コストを低減することができ、相対的に製造効率を高めることができる。
【0034】
第二積層体形成工程の層交換によって下地となるGe層106Aの厚さは、第一積層体形成工程において形成された金属層104の厚さと同程度となる。したがって、第一積層体形成工程で形成する金属層104の厚さによって、最終的に形成される下地層102の厚さを調整することができる。下地層102の厚さは、10nm以上1μm以下であることが好ましい。
【0035】
(金属層除去工程)
次に、図2(c)に示すように、前工程の層交換によって基材側に移動して再形成されたGe層(下地層102)が露出するように、層交換後のGe層上に形成されている層(ここでは金属層104Aおよび金属酸化物層105)を、公知のエッチング法(ドライエッチング、ウェットエッチング等)、あるいは公知の研磨法を用いて除去する。
【0036】
(機能層形成工程)
次に、気相成長法(分子線エピタキシー法(MBE法)、化学気相成長法等)を用いて、露出した下地層102の上に、第二結晶粒子103Aを複数含む機能層103を形成する。第二結晶粒子103Aとしては、第一結晶粒子102Aと格子整合しやすい範囲、すなわち、第一結晶粒子102Aの-2%以上2%以下の格子定数を有するものを用いる。機能層形成工程を経ることによって、本実施形態の半導体装置100を得ることができる。
【0037】
以上のように、本実施形態に係る半導体装置100は、基材101上に、Geを主成分とする結晶粒子を複数含む多結晶膜を、下地層102として備えている。下地層102上に形成される機能層103を構成する結晶粒子は、下地層102の結晶粒子の形状を引き継いで形成されており、1μm以上の粒径を有する。この粒径は、既存の結晶成長技術等を用いて基材101上に直接形成した場合に比べてはるかに大きく、高い分光感度を有する機能層を実現するものである。したがって、本実施形態の半導体装置100は、機能層102として、光電変換装置に適用可能な品質を有する半導体膜を備えたものとなっている。
【0038】
さらに、本実施形態の半導体装置100においては、基材101が非晶質であり、機能層102が、Geの多結晶粒子からなる下地層101を介して形成されるものである。したがって、本実施形態の半導体装置100は、その製造過程において貼り合わせ技術を適用する必要がないため、機能層102を構成する半導体膜を、基材101の大きさによらず、また、単結晶の高価な基材を用いない分、低コストで形成することが可能である。
【0039】
なお、本実施形態に係る半導体装置100は、機能層103に電極を設けることによって、光電変換装置(素子)として動作させることができる。機能層103にp型半導体領域とn型半導体領域とを形成し、p型半導体領域、n型半導体領域のそれぞれに電極を設けたものを、光電変換装置として動作させることもできる。光電変換装置としては、例えば、太陽電池、受光センサ等が挙げられる。
【実施例
【0040】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0041】
(実施例1)
上記実施形態に係る半導体装置100を、次の手順で製造した。まず、第一積層体形成工程において、石英ガラス基板(基材)上に、Al誘起層交換法を用いて、主にAlからなる金属層104、主にAlOxからなる金属酸化物層105、主に非晶質のGeからなるGe層106を順に形成し、第一積層体107を得た。金属層104、金属酸化物層105、Ge層106の厚さを、それぞれ、約50nm、約1nm、約50nmとした。
【0042】
次に、この第一積層体107に対して、約350℃で約100時間の加熱処理を行い、金属層104とGe層106との層交換を行い、第二積層体107Aを得た。層交換後のGe層106Aは、粒径が約50μm以上の結晶粒子からなり、約50nmの厚さを有する多結晶膜となった。
【0043】
次に、層交換後の金属層104A、金属酸化物層105を、希釈フッ酸(約1.5%)によるウェットエッチングを行って除去し、Ge層106Aを露出させた。
【0044】
次に、露出したGe層106A上、すなわち下地層102上に、分子線エピタキシー法を用いて、主にGaAsの結晶粒子からなる機能層103を形成し、本実施形態の半導体装置100を得た。機能層103は、下地層102上の結晶粒子の形状を引き継ぎ、粒径が約50μm以上の結晶粒子からなり、約500nmの厚さを有する多結晶膜となった。
【0045】
(比較例1)
基材の上に、分子線堆積を用いて直接、機能層を形成することにより、半導体装置を製造した。下地層の形成を行わない点以外の製造手順については、実施例1と同様とした。
【0046】
(比較例2)
基材としてGe(111)の単結晶基板を用い、その上に、分子線エピタキシー法を用いて直接、機能層を形成することにより、半導体装置を製造した。基材の種類、機能層の形成方法を変えたこと以外の製造手順については、実施例2と同様とした。
【0047】
図3は、実施例1、比較例1、2の半導体装置における、機能層のラマンスペクトルを示すグラフである。グラフの横軸はラマンシフト[cm-1]を示し、縦軸はスペクトル強度を示している。3つのスペクトルが、ほぼ同じ位置にピークを有していることから、いずれの半導体装置においても、GaAsの結晶粒子からなる機能層が適切に形成されていることが分かる。
【0048】
図4(a)~(c)は、それぞれ実施例1、比較例1、2の半導体装置における、機能層の表面形状を示すSEM画像である。3つの機能層の表面が、面内方向においてほぼ一様な形状を示していることから、いずれの半導体装置においても、機能層が連続膜によって形成されていることが分かる。
【0049】
図5(a)~(c)は、それぞれ実施例1、比較例1、2の半導体装置における、機能層を構成する結晶粒子の厚み方向の結晶方位を示すEBSD画像である。図5(d)は、実施例1の同機能層を構成する結晶粒子の面内方向の結晶方位を示すEBSD画像である。
【0050】
図5(a)では、結晶粒子が(111)方位に優先配向している様子が見られる。さらに、図5(d)では、大粒径(数μm~数十μm単位)の複数の結晶粒子が多く見られる。これらの結果から、実施例1の機能層は、複数の大粒径の結晶粒子からなる、多結晶膜となっていることが分かる。これは、実施例1の機能層が、複数の結晶粒子からなる多結晶膜の下地層の上に形成されており、機能層を構成する結晶粒子の形状が、下地層の結晶粒子の形状を引き継いだものになっているためであると考えられる。
【0051】
図5(b)では、粒径が1μm未満の複数の小粒径の結晶粒子が見られ、それらの同定は困難である。比較例2の機能層の結晶粒子の粒径が、実施例1の同粒径より小さいのは、基材と機能層の間に下地層を挟んでいないためであると考えられる。
【0052】
図5(c)では、結晶粒子同士の粒界が見られないことから、比較例1の機能層は、一様な単結晶膜となっていることが分かる。これは、比較例1の機能層が、単結晶基板の上に形成されており、機能層を構成する結晶粒子の形状が、単結晶基板の結晶粒子の形状を引き継いだものになっているためであると考えられる。
【0053】
実施例1、比較例1、2の半導体装置について、機能層のそれぞれに電極を設け、それらの分光感度測定を行った。
【0054】
ここでは、分光感度を、単位時間当たりにおいて、機能層に照射された光子の数に対する、機能層から発生する電子の数の比率[%]として定義される、外部量子効率で表すものとする。図6は、分光感度測定の結果を示すグラフである。グラフの横軸は、太陽電池に入射する光の波長[nm]を示し、縦軸は外部量子効率[%]を示している。
【0055】
比較例1の太陽電池では分光感度がほとんど得られていないのに対し、実施例1の太陽電池では、2V印加時に約90%の高い分光感度が得られている。これは、実施例1の光電変換を担う機能層が、比較例1の機能層に比べて、大粒径化した結晶粒子で構成されているためであると考えられる。
【0056】
また、実施例1の太陽電池では、基材として非晶質の基板を用いているのにも関わらず、単結晶基板を用いた比較例2の太陽電池を上回る高い分光感度が得られていることが分かる。この結果は、十分な分光感度を有する太陽電池を、高価な単結晶基板を用いずに、低コストで実現し得ることを示している。
【符号の説明】
【0057】
100・・・半導体装置
101・・・基材
101a・・・基材の一面
102・・・下地層
102A・・・第一結晶粒子
103・・・機能層
103A・・・第二結晶粒子
104、104A・・・金属層
105・・・金属酸化物層
106、106A・・・Ge層
107・・・第一積層体
107A・・・第二積層体
図1
図2
図3
図4
図5
図6