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特許7232508水系塗材、水系塗材キット、及び水系塗材の塗布方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-22
(45)【発行日】2023-03-03
(54)【発明の名称】水系塗材、水系塗材キット、及び水系塗材の塗布方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20230224BHJP
   E04F 13/02 20060101ALI20230224BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20230224BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230224BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230224BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230224BHJP
【FI】
C09D201/00
E04F13/02 B
C09D5/02
C09D7/61
B05D7/24 303A
B05D7/24 303E
B05D7/24 303B
B05D7/24 302U
B05D7/24 302P
C09D7/63
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019013448
(22)【出願日】2019-01-29
(65)【公開番号】P2019131804
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2018015365
(32)【優先日】2018-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101477
【氏名又は名称】アトミクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 宏憲
(72)【発明者】
【氏名】嵯峨 浩二
(72)【発明者】
【氏名】秋吉 真知子
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-323705(JP,A)
【文献】特開昭61-089270(JP,A)
【文献】特開2016-079265(JP,A)
【文献】特開平03-250054(JP,A)
【文献】特開平03-293472(JP,A)
【文献】特開2007-009130(JP,A)
【文献】特開2018-168339(JP,A)
【文献】特開2007-303197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダーとしてのエマルションと、前記バインダーと架橋反応を生じる架橋剤と、前記エマルションの安定化を阻害する水溶性塩と、を含み、
前記架橋剤は、カルボジイミド基を有する化合物、イソシアネート基を有する化合物、エポキシ基を有する化合物、アミノ基を有する化合物、及びオキサゾリン基を有する化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記水溶性塩は、酢酸アンモニウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、塩化アンモニウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸カリウム、クエン酸アンモニウム、クエン酸カリウム、コハク酸ナトリウム、コハク酸カリウム、コハク酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、及び硫酸カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、水系塗材。
【請求項2】
前記水溶性塩は、酢酸アンモニウム、酢酸マグネシウム、及び硫酸マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の水系塗材。
【請求項3】
前記水溶性塩の配合量は、前記エマルション固形分100質量%に対して、0.1質量%~20質量%である、請求項1又は2に記載の水系塗材。
【請求項4】
前記エマルションは、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を持つものからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1~3のいずれか一項に記載の水系塗材。
【請求項5】
バインダーとしてのエマルションを含む水系塗材と、前記バインダーと架橋反応を生じる架橋剤と、前記エマルションの安定化を阻害する水溶性塩と、を含み、
前記架橋剤は、カルボジイミド基を有する化合物、イソシアネート基を有する化合物、エポキシ基を有する化合物、アミノ基を有する化合物、及びオキサゾリン基を有する化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記水溶性塩は、酢酸アンモニウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、塩化アンモニウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸カリウム、クエン酸アンモニウム、クエン酸カリウム、コハク酸ナトリウム、コハク酸カリウム、コハク酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、及び硫酸カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、水系塗材キット。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の水系塗材を塗布することを特徴とする水系塗材の塗布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系塗材、水系塗材キット、及び水系塗材の塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、労働災害防止や環境影響を考慮して、屋外に塗布される塗料や防水材にも水系塗材が望まれている。現在、様々な建築物の屋外に水系塗材が用いられているが、硬化初期の結露や降雨等、水の影響で塗膜の流出や塗膜の割れ、膨れなどの塗膜異常を起こす例が報告されている。
【0003】
水系塗材の硬化初期の問題を解決するために、冬季には、結露が生じ始めるまでに成膜するように、塗布時間を短縮する等、塗布方法での対応や、金属塩やセメントの添加により、水系塗材の硬化を進める試みがなされている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公平6-076684号公報
【文献】特開平9-235489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、硬化促進剤として水溶性塩を使用するものであり、水分散型塗料と接触させることで硬化を速めている。しかし、この方法は瞬時に水分散型塗料の凝集を起こさせるため、塗布方法の制限を受ける。また塗布するための時間を確保するために添加量を減らす方法もあるが、その場合、充分な硬化促進効果が得られなくなる。
特許文献2は、水を吸収できる固形ポリマー粒子または無機化合物の粒子を含む速乾性の水性道路用塗料、およびその粒子を表面に塗料とともに、または塗布された塗料の上にスプレーし、水性道路用塗料の乾燥を促進する方法が開示されている。しかしこの方法は、塗膜の乾燥の促進には有効であるが、乾燥塗膜が降雨時等に水を再吸収して塗膜物性に問題を生じる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ローラーやスプレー等の一般的な塗布方法が可能であり、塗膜物性や外観等の低下がなく、結露や降雨などにより塗膜異常を生じなくなるまでの時間を大幅に短縮させる、水系塗材及びその塗布方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の水系塗材は、バインダーとしてのエマルションと、前記バインダーと架橋反応を生じる架橋剤と、前記エマルションの安定化を阻害する水溶性塩と、を含み、前記架橋剤は、カルボジイミド基を有する化合物、イソシアネート基を有する化合物、エポキシ基を有する化合物、アミノ基を有する化合物、及びオキサゾリン基を有する化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、前記水溶性塩は、酢酸アンモニウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、塩化アンモニウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸カリウム、クエン酸アンモニウム、クエン酸カリウム、コハク酸ナトリウム、コハク酸カリウム、コハク酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、及び硫酸カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む
(2)本発明の水系塗材において、前記水溶性塩は、酢酸アンモニウム、酢酸マグネシウム、及び硫酸マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
(3)本発明の水系塗材において、前記水溶性塩の配合量は、前記エマルション固形分100質量%に対して、0.1質量%~20質量%であることが好ましい。
(4)本発明の水系塗材において、前記エマルションは、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1 種の官能基を持つものが好ましい。
【0008】
(5)本発明の水系塗材キットは、バインダーとしてのエマルションを含む水系塗材と、前記バインダーと架橋反応を生じる架橋剤と、前記エマルションの安定化を阻害する水溶性塩と、を含み、前記架橋剤は、カルボジイミド基を有する化合物、イソシアネート基を有する化合物、エポキシ基を有する化合物、アミノ基を有する化合物、及びオキサゾリン基を有する化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、前記水溶性塩は、酢酸アンモニウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、塩化アンモニウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸カリウム、クエン酸アンモニウム、クエン酸カリウム、コハク酸ナトリウム、コハク酸カリウム、コハク酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、及び硫酸カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む
(6)本発明の水系塗材の塗布方法は、前記(1)~(4)のいずれか一つに記載の水系塗材を塗布することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ローラーやスプレー等の一般的な塗布方法が可能であり、塗膜物性や外観等の低下がなく、結露や降雨などにより塗膜異常を生じなくなるまでの時間を大幅に短縮させる、水系塗材及びその塗布方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<水系塗材>
本発明の水系塗材は、バインダーとしてのエマルションと、前記バインダーと架橋反応を生じる架橋剤と、前記エマルションの安定化を阻害する水溶性塩と、を含む。
【0011】
[エマルション]
本発明の水系塗材に用いられるエマルションは、バインダーとして用いられるものであり、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を持つものが好ましく、アクリル樹脂エマルション、アクリルシリコン樹脂エマルション、アクリルウレタン樹脂エマルション、ウレタン樹脂エマルション、フッ素樹脂エマルション、エポキシ樹脂エマルション、ポリエステル樹脂エマルション、アルキド樹脂エマルション、及びメラミン樹脂エマルションからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。
これらのエマルションは、使用される部位や環境、要求性能によって選択できる。これらの中でも、耐候性、樹脂設計の自由度の高さ、コスト面等の観点から、アクリル樹脂エマルションが好ましい。
【0012】
アクリル樹脂エマルションとしては、アクリル系単量体、及びアクリル系単量体と共重合可能な単量体とをラジカル共重合により得られるものが使用できる。
使用可能な上記単量体としては、特に限定はないが、(メタ)アクリレート系単量体、芳香族炭化水素系ビニル単量体、ビニルエステルやアリル化合物、ニトリル基含有ビニル系単量体、エポキシ基含有ビニル系単量体、水酸基含有ビニル系単量体等が挙げられる。
尚、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、α位に水素原子が結合したアクリレートと、α位にメチル基が結合したメタクリレートの一方あるいは両方を意味する。
【0013】
(メタ)アクリレート系単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、iso-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0014】
芳香族炭化水素系ビニル単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン、4-ヒドロキシスチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。
ビニルエステルやアリル化合物としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ジアリルフタレート等が挙げられる。
ニトリル基含有ビニル系単量体としては、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。
エポキシ基含有ビニル系単量体としては、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
水酸基含有ビニル系単量体としては、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシスチレン、アロニクス5700(東亜合成化学(株)製)、placcelFA-1、placcelFA-4、placcelFM-1、placcelFM-4(以上、ダイセル化学(株)製)、HE-10、HE-20、HP-10、HP-20(以上、日本触媒(株)製)、ブレンマーPEPシリーズ、ブレンマーNKH-5050、ブレンマーGLM(以上、日本油脂(株)製)、水酸基含有ビニル系変性ヒドロキシアルキルビニル系モノマー等が挙げられる。
その他の単量体としては、東亜合成化学(株)製のマクロモノマーである、AS-6、AN-6、AA-6、AB-6、AK-5などの化合物、ビニルメチルエーテル、プロピレン、ブタジエン等が挙げられる。
【0015】
また、エマルションの安定性を向上させることが可能な親水性を有するビニル系単量体を使用してもよい。
前記ビニル系単量体としては、スチレンスルホン酸ナトリウム、2-スルホエチルメタクリレートナトリウム、2-スルホエチルメタクリレートアンモニウム、ポリオキシアルキレン鎖を有するビニル系単量体が挙げられる。
ポリオキシアルキレン鎖を有するビニル系単量体としては、ポリオキシアルキレン鎖を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
【0016】
ポリオキシアルキレン鎖を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、日本油脂(株)製ブレンマーPE-90、PE-200、PE-350、AE-90、AE-200、AE-350、PP-500、PP-800、PP-1000、AP-400、AP-550、AP-800、700PEP-350B、10PEP-550B、55PET-400、30PET-800、55PET-800、30PPT-800、50PPT-800、70PPT-800、PME-100、PME-200、PME-400、PME-1000、PME-4000、AME-400、50POEP-800B、50AOEP-800B、AEP、AET、APT、PLE、ALE、PSE、ASE、PKE、AKE、PNE、ANE、PNP、ANP、PNEP-600、共栄社化学(株)製ライトエステル130MA、041MA、MTG、ライトアクリレートEC-A、MTG-A、130A、DPM-A、P-200A、NP-4EA、NP-8EA、EHDG-A、日本乳化剤(株)製MA-30、MA-50、MA-100、MA-150、RMA-1120、RMA-564、RMA-568、RMA-506、MPG130-MA、Antox MS-60、MPG-130MA、RMA-150M、RMA-300M、RMA-450M、RA-1020、RA-1120、RA-1820、新中村化学工業(株)製NK-ESTER M-20G、M-40G、M-90G、M-230G、AMP-10G、AMP-20G、AMP-60G、AM-90G、LA、三洋化成(株)製エレミノールRS-30等が挙げられる。
【0017】
ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、アリル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンなどの重合性の不飽和結合を2つ以上有する単量体を使用してもよい。この場合、生成した粒子内部に架橋を有する構造となり、形成した塗膜の耐水性が向上する。
【0018】
また、トリフルオロ(メタ)アクリレート、ペンタフルオロ(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、β-(パーフルオロオクチル)エチル(メタ)アクリレートなどのフッ素含有ビニル系単量体を使用してもよい。これにより、高度な撥水・撥油を有するフッ素含有アクリル系樹脂エマルションが作製可能である。
【0019】
また、上記単量体にカルボニル基含有ビニル系単量体を使用してもよい。これにより、ヒドラジン及び/又はヒドラジド基を含有する化合物を配合した架橋型アクリル樹脂エマルションが作製可能である。
【0020】
上記アクリル樹脂エマルションは、通常の合成方法を採用することで得ることができ、エマルションの粒子径及び安定性、さらには塗料組成物中の有機溶剤含有量を低減させることを考慮すると乳化重合法が好ましい。
【0021】
前記乳化重合法には特に限定がなく、例えば、バッチ重合法、モノマー滴下重合法、乳化モノマー滴下重合法などの各種乳化重合法の中から適宜選択して採用することができる。
乳化重合に際しては、通常用いられるイオン性又は非イオン性の界面活性剤を用いることができる。
【0022】
イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレン鎖を有するアニオン性界面活性剤、スルホン酸塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0023】
ポリオキシエチレン鎖を有するアニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルサルフェート、ポリオキシエチレンアリルエーテルサルフェート、オクチルフェノキシエトキシエチルスルホネート、ポリオキシエチレントリデシルエーテルサルフェート等が挙げられる。
【0024】
スルホン酸塩としては、ラウリルスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、イソオクチルベンゼンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
アンモニウム塩としては、イミダゾリンラウレート、アンモニウムハイドロオキサイド等が挙げられる。
【0025】
また、非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコールノニルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテルなどのポリオキシエチレン類;L-77、L-720、L-5410、L-7602、L-7607(以上、ユニオンカーバイド社製)などのシリコーンを含む非イオン系の界面活性剤等が挙げられる。
【0026】
本発明においては、界面活性剤として1分子中に重合性二重結合を有する反応性界面活性剤を用いることが耐水性、耐候性の点で好ましい。また、特に分子内にポリオキシアルキレン基を有する反応性界面活性剤を用いた場合には、機械的安定性を向上させることができる。
【0027】
アクリル樹脂エマルション中の樹脂固形分濃度は、20~70質量%が好ましく、30~60質量%がより好ましく、45~60質量%が特に好ましい。
【0028】
アクリル樹脂エマルションとしては、DIC(株)製ボンコート、ウォーターゾール、日本触媒(株)製アクリセット、ユーダブル、昭和高分子(株)製ポリゾール、ヘンケルジャパン(株)製ヨドゾール、カネビノール、旭化成工業(株)製ポリトロン、ポリデュレックス、中央理化工業(株)製リカボンド、ダウ・ケミカル日本製プライマル、エラスティン、メインコート、BASFジャパン(株)製アクロナール、クラリアントポリマー(株)製モビニール、(株)カネカ製ゼムラック、カネビラック、高圧ガス工業(株)製ペガール等が挙げられる。
【0029】
[架橋剤]
本発明の水系塗材に用いられる架橋剤としては、バインダーと架橋反応を生じるものであれば特に限定されず、架橋剤は、カルボジイミド基を有する化合物、イソシアネート基を有する化合物、エポキシ基を有する化合物、アミノ基を有する化合物、及びオキサゾリン基を有する化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0030】
カルボジイミド基を有する化合物としては、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-N’-エチルカルボジイミド、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-N’-プロピルカルボジイミド、N-tert-ブチル-N’-エチルカルボジイミド等が挙げられる。
また、市販品としては、カルボジライトV-02、V-02-L2、SV-02、V-04、V-10、SW-12G、エマルジョンタイプであるE-02、E-03A、E-04(いずれも日清紡ケミカル社製)等が挙げられる。
【0031】
イソシアネート基を有する化合物としては、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、これらポリイソシアネートの誘導体等が挙げられる。
また、市販品としては、バーノックDNW-6000(DIC社製)、デュラネートWE50-100(旭化成社製)等が挙げられる。
エポキシ基を有する化合物としては、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート等のジエポキシ化合物、エポキシ基含有アクリル樹脂等が挙げられる。
アミノ基を有する化合物としては、エヘキサメチレンジアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミン、イソホロンジアミン、脂環族ポリアミン、芳香族ポリアミン等が挙げられる。
【0032】
オキサゾリン基を有する化合物としては、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリン等が挙げられる。
オキサゾリン基を有する化合物の市販品としては、エポクロスWS-500やエポクロスWS-700(いずれも日本触媒社製)等が挙げられる。
【0033】
本発明の水系塗材に用いられる架橋剤の配合量は、エマルション固形分100質量%に対して、0.1質量%~20質量%が好ましく、1質量%~10質量%がより好ましく、2質量%~4質量%が特に好ましい。
【0034】
[水溶性塩]
本発明の水系塗材に用いられる水溶性塩は、エマルションの安定化を阻害するものである。水系塗材中でエマルションは分散しているが、水溶性塩を添加することにより、エマルション粒子の電気的、構造的安定化が阻害される。エマルションの安定度低下により粒子同士が接近する。このことにより、エマルション分子同士が架橋されやすくなる。
係る水溶性塩としては、酢酸アンモニウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、塩化アンモニウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸カリウム、クエン酸アンモニウム、クエン酸カリウム、コハク酸ナトリウム、コハク酸カリウム、コハク酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、及び硫酸カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、施工方法や施工環境から必要とされる硬化性と混合安定性及び使用するバインダーとの相性によって選択する。
【0035】
本発明の水系塗材に用いられる水溶性塩の配合量は、エマルション固形分100質量%に対して、0.1質量%~20質量%が好ましく、0.2質量%~10質量%がより好ましく、0.5~5質量%が特に好ましい。
特に酢酸マグネシウムの配合量は、エマルション固形分100質量%に対して、0.1質量%~3質量%が好ましく、0.2質量%~2質量%がより好ましく、1質量%~2質量%が特に好ましい。
特に酢酸アンモニウムの配合量は、エマルション固形分100質量%に対して、0.1質量%~10質量%が好ましく、1質量%~5質量%がより好ましく、2質量%~4質量%が特に好ましい。
【0036】
本発明の水系塗材は、体質顔料、着色顔料、消泡剤、分散剤、増粘剤、成膜助剤等の各種補助剤を含んでもよい。
[体質顔料]
本発明の水系塗材に用いられる体質顔料としては、クレー(カオリンなど)、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、マイカ、硫酸バリウム及びシリカ等が挙げられる。
【0037】
[着色顔料]
本発明の水系塗材に用いられる着色顔料としては、例えば、ニ酸化チタン等の白色顔料;鉄黒、アニリンブラック、銅・クロムブラック、コバルトブラック、銅・マンガン・鉄ブラック等の複合酸化物系顔料などの黒色顔料;黄色酸化鉄、チタンイエロー、モノアゾイエロー、縮合アゾイエロー、アゾメチンイエロー、ビスマスバナデート、ベンズイミダゾロン、イソインドリノン、イソインドリン、キノフタロン、ベンジジンイエロー、パーマネントイエロー等の黄色顔料;パーマネントオレンジ等の橙色顔料;赤色酸化鉄、ナフトールAS系アゾレッド、アンサンスロン、アンスラキノニルレッド、ペリレンマルーン、キナクリドン系赤顔料、ジケトピロロピロール、ウォッチングレッド、パーマネントレッド等の赤色顔料;コバルト紫、キナクリドンバイオレット、ジオキサジンバイオレット等の紫色顔料;コバルトブルー、フタロシアニンブルー、スレンブルーなどの青色顔料;フタロシアニングリーンなどの緑色顔料などを挙げることができる。
光輝性顔料としては、例えば、アルミニウム粉、ブロンズ粉、銅粉、錫粉、リン化鉄、亜鉛粉等のメタリック顔料;金属酸化物コーティング雲母粉、マイカ状酸化鉄等の真珠光沢調顔料などを挙げることができる。
【0038】
[消泡剤]
本発明の水系塗材に用いられる消泡剤として、疎水性シリカ又は脂肪族アミド消泡剤、鉱油やシリコーンオイル、シリコーンエマルション、ポリオルガノシロキサン化合物等のシリコン化合物が挙げられる。
【0039】
疎水性シリカとしては、シリカを有機変性したものであり、例えば、鉱物由来あるいは合成系のシリカ微粒子の表面等にあるシラノール基にオルガノハロシラン、ジメチルシロキサン、ヘキサメチルジシラザン、ジメチルジクロロシラン、トリメトキシオクチルシラン、トリメチルシラン等を反応結合させて得られた化合物;シリカ微粒子と末端にヒドロキシル基を有するジメチルポリシロキサン又はジメチルハイドロジエンポリシロキサン等を混合して200~300℃で加熱処理してシリカ微粒子表面にアルキルポリシロキサンを結合させて得られた化合物;シリカ微粒子表面にシリコーンオイルを気相吸着することにより得られる化合物等が挙げられ、これらは1種あるいは2種以上併用して用いることができる。
【0040】
<塗布方法>
本発明の塗材の塗布方法は、上述した本発明の水系塗材を塗布する方法である。バインダーとしてのエマルション、前記バインダーと架橋反応を生じる架橋剤及び前記エマルションの安定化を阻害する水溶性塩を含む水系塗材を塗布する方法の他、施工環境や必要とする硬化性等によって、以下の実施形態で行うこともできる。
【0041】
(第一実施形態)
本実施形態の塗材の塗布方法は、 バインダーとしてのエマルションと、前記バインダーと架橋反応を生じる架橋剤及び前記エマルションの安定化を阻害する水溶性塩のうちいずれか一方と、を含む第一の水系塗材に、他方を添加して第二の水系塗材を作製する工程と、前記第二の水系塗材を塗布する工程と、を有する方法である。
本実施形態においては、エマルションに、架橋剤と水溶性塩のうちのいずれか一方を予め入れておき、使用直前に他方を入れて使用する。
【0042】
(第二実施形態)
本実施形態の塗材の塗布方法は、バインダーとしてのエマルションを含む第一の水系塗材に、前記バインダーと架橋反応を生じる架橋剤及び前記エマルションの安定化を阻害する水溶性塩を含む添加剤を添加して第二の水系塗材を作製する工程と、前記第二の水系塗材を塗布する工程と、を有する方法である。
本実施形態においては、予め架橋剤と水溶性塩を混ぜ合わせた添加剤を、使用直前にこれらをエマルションまたはエマルションを含む水系塗材に入れて使用する。なお、架橋剤と水溶性塩を混ぜ合わせた添加剤には、予め体質顔料、着色顔料、各種補助剤も配合してもよい。
【0043】
(第三実施形態)
本実施形態の塗材の塗布方法は、バインダーとしてのエマルションを含む第一の水系塗材に、前記バインダーと架橋反応を生じる架橋剤及び前記エマルションの安定化を阻害する水溶性塩をそれぞれ別々に添加して第二の水系塗材を作製する工程と、前記第二の水系塗材を塗布する工程と、を有する方法である。
【0044】
上述した第一~第三実施形態において、塗布方法としては、刷毛、ローラー刷毛、エアスプレー、エアレススプレー等を用いた公知の方法が挙げられる。
【0045】
(第四実施形態)
本実施形態の塗材の塗布方法は、 バインダーとしてのエマルションを含む水系塗材に、前記バインダーと架橋反応を生じる架橋剤及び前記エマルションの安定化を阻害する水溶性塩を衝突混合させて塗布する方法である。
【0046】
塗布方法としては、エアスプレー、エアレススプレー等を用いた公知の方法が挙げられる。
【0047】
上述した第一~第四実施形態において、塗布量は塗材の固形分濃度や密度、素材や既存塗膜あるいは中塗材層の種類、模様の有無及び塗材の用途によって、適宜変更することが好ましい。通常、刷毛、ローラー刷毛、エアスプレー、エアレススプレーで施工するためには、塗材粘度を70~130KUにし、塗布量は目的に応じて0.2~2.5kg/mを数回に分けて塗布することが望ましい。
【0048】
<水系塗材キット>
本発明の水系塗材キットは、バインダーとしてのエマルションを含む水系塗材と、前記バインダーと架橋反応を生じる架橋剤と、前記エマルションの安定化を阻害する水溶性塩と、を含む。
エマルション、架橋剤、及び水溶性塩を別々に含むキットは、上述した塗布方法のどの実施形態にも好適に用いることができる。
【実施例
【0049】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
1.水系塗材の調製1
アクリルエマルション組成物(固形分49%)47.9質量%、アクリルウレタンエマルション組成物(固形分50%)6.8質量%、二酸化チタン7.6質量%、炭酸カルシウム30.3質量%および消泡剤、分散剤、増粘剤等の補助剤4.9質量%、着色トナー0.5質量%、水2.0質量%の配合割合にて調整した第一の水系塗材を用い、これに表1に示す配合割合(質量%)にて調整し、第二の水系塗材とした。
【0051】
2.硬化促進に対する効果
<低温下での状況1>
環境試験室(5℃、50%)の環境下で7×15cmブリキ板にすきま間隔20mil(1mil≒25μm)アプリケーターで塗膜を作製し、規定時間養生後に試験板を水に立て掛けて半没させた。24時間後に塗膜を引き上げ、塗膜の状態を確認した。なお養生時には試験機器による風が当たらないように段ボールによる風防を施した。結果を表1~表3に示す。なお、カルボジイミドとしてカルボジライトSV―02(固形分40%)、アミンとしてサンマイドWH-900(固形分)、イソシアネートとしてデュラネートWE50-100(固形分100%)を用いた。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
表1~表3中、評価基準は、以下のとおりである。
指触乾燥(乾燥)
○:指触乾燥をしている
×:指触乾燥をしていない
耐水試験(耐水)
○:溶出等なし(塗膜が基材に残っている状態)
△:塗膜の一部が溶出または膨れやたるみが発生。(塗膜の一部が基材に残っている状態)
×:塗膜が完全に溶出(基材に塗膜が全く残っていない状態)
【0056】
表1~表3に示すとおり、塩と架橋剤を組み合わせて使用することで、単体よりも指触乾燥や耐水性が向上した。塩を酢酸アンモニウム、硫酸マグネシウムいずれにおいても効果が確認された。架橋剤についても、カルボジイミドやアミン、イソシアネートで実施したところ、いずれも効果が確認された。
【0057】
3.水系塗材の調製2
表4に示す配合割合(質量%)にて水系塗材を調製した。
4.硬化促進に対する効果
<低温下での状況2>
環境試験室(5℃、50%)の環境下で7×15cmブリキ板にすきま間隔20milアプリケーターで塗膜を作製し、規定時間養生後に試験板を水に立て掛けて半没させた。24時間後に塗膜を引き上げ、塗膜の状態を確認した。なお養生時には試験機器による風が当たらないように段ボールによる風防を施した。結果を表4に示す。なお、カルボジイミドとしてカルボジライトSV-02およびカルボジライトV-10(固形分40%)を用いた。
【0058】
【表4】
【0059】
表4中、評価基準は、表1~表3に示すものと同様である。
表4に示すとおり、カルボジイミドについて2グレードで実施したが、いずれも指触乾燥や耐水性向上の効果が確認された。
【0060】
5.温冷繰り返し試験、耐疲労性試験
調製した水系塗材の温冷繰り返し試験を、JIS A 6909建築用仕上塗材における温冷繰り返し試験にて試験した。
また、調製した水系塗材の耐疲労性試験を、建築工事標準仕様書・同解説 JASS8 防水工事におけるメンブレン防水層の性能評価試験 疲労試験にて試験した。結果を表5に示す。
【0061】
【表5】
【0062】
塩(酢酸アンモニウムや硫酸マグネシウム)とカルボジイミドを併用した実施例1、実施例2の水系塗材は、繰り返しの湿潤、冷却、加温による耐性や下地の動きに対する性能も、未添加品である比較例1の水系塗材と大差ないことが確認された。
【0063】
6.混合安定性 表6に示す配合割合にて、水系塗材を調整し、23℃で粘度変化を確認した。
【0064】
【表6】
【0065】
表6に示すとおり、塩(酢酸アンモニウム)及びカルボジイミドを併用した、実施例10の水系塗材は、24時間後においても粘度上昇が小さく、通常の施工方法で施工が可能であった。一方比較例5のように、硫酸マグネシウムを過剰に添加すると塗材はすぐにゲル化し、使用できなくなる。