(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-22
(45)【発行日】2023-03-03
(54)【発明の名称】応力推定装置、応力推定方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01L 1/00 20060101AFI20230224BHJP
G01B 11/16 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
G01L1/00 B
G01L1/00 G
G01B11/16 H
(21)【出願番号】P 2019116075
(22)【出願日】2019-06-24
【審査請求日】2022-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100175019
【氏名又は名称】白井 健朗
(74)【代理人】
【識別番号】100195648
【氏名又は名称】小林 悠太
(74)【代理人】
【識別番号】100104329
【氏名又は名称】原田 卓治
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 哲也
【審査官】公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-170831(JP,A)
【文献】特開2017-036978(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0183191(US,A1)
【文献】鈴木哲也, 外4名,“モデルパイプラインに発生させた圧力波の非破壊検出に関する研究”,土木学会論文集 A2(応用力学),日本,公益財団法人 土木学会,2012年,第68巻, 第2号,p. I_727-I_734
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/00
G01L 7/00
G01B 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管体の内部を流れる流体の非定常的変化によって圧力波が生じた期間を含む撮影期間において、前記管体におけるランダムパターンが付された外周面を複数のカメラによって所定周期で撮影することで得られる画像を示す画像情報を取得する画像情報取得手段と、
前記画像情報取得手段が取得した前記画像情報に対して画像相関法で解析を行うことで前記管体の三次元の変位の時系列情報を求め、求めた前記変位の時系列情報に基づいて前記管体の所定方向におけるひずみ量の時系列情報を算出するひずみ量算出手段と、
前記ひずみ量算出手段が算出した前記ひずみ量の時系列情報から、前記所定方向における前記ひずみ量が所定値以上となる特定ひずみ量を抽出し、抽出した前記特定ひずみ量に基づいて前記管体に生じた前記所定方向における推定応力を算出する応力推定手段と、を備える、
応力推定装置。
【請求項2】
前記ひずみ量算出手段は、前記外周面が撮影された前記画像に対して予め設定した複数の抽出点において前記ひずみ量の時系列情報を算出し、
前記応力推定手段は、前記複数の抽出点において前記推定応力を算出する、
請求項1に記載の応力推定装置。
【請求項3】
前記特定ひずみ量は、前記所定方向における前記ひずみ量の最大値である、
請求項1又は2に記載の応力推定装置。
【請求項4】
前記流体が前記管体に与える圧力の時系列情報を取得する圧力取得手段をさらに備え、
前記応力推定手段は、前記推定応力としての第1推定応力に加えて、前記特定ひずみ量を示す時点における前記圧力と予め定めた基準圧力との差に基づき、前記管体に生じた前記所定方向における第2推定応力を算出する、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の応力推定装置。
【請求項5】
前記所定方向は、前記管体が延びる方向と直交する方向を含む、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の応力推定装置。
【請求項6】
前記流体は液体であり、前記圧力波は水撃作用によって生じる、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の応力推定装置。
【請求項7】
管体の内部を流れる流体の非定常的変化によって圧力波が生じた期間を含む撮影期間において、前記管体におけるランダムパターンが付された外周面を複数のカメラによって所定周期で撮影することで得られる画像を示す画像情報を取得するステップと、
取得した前記画像情報に対して画像相関法で解析を行うことで前記管体の三次元の変位の時系列情報を求め、求めた前記変位の時系列情報に基づいて前記管体の所定方向におけるひずみ量の時系列情報を算出するステップと、
算出した前記ひずみ量の時系列情報から、前記所定方向における前記ひずみ量が所定値以上となる特定ひずみ量を抽出し、抽出した前記特定ひずみ量に基づいて前記管体に生じた前記所定方向における推定応力を算出するステップと、を備える、
応力推定方法。
【請求項8】
コンピュータを、
管体の内部を流れる流体の非定常的変化によって圧力波が生じた期間を含む撮影期間において、前記管体におけるランダムパターンが付された外周面を複数のカメラによって所定周期で撮影することで得られる画像を示す画像情報を取得する画像情報取得手段、
前記画像情報取得手段が取得した前記画像情報に対して画像相関法で解析を行うことで前記管体の三次元の変位の時系列情報を求め、求めた前記変位の時系列情報に基づいて前記管体の所定方向におけるひずみ量の時系列情報を算出するひずみ量算出手段、
前記ひずみ量算出手段が算出した前記ひずみ量の時系列情報から、前記所定方向における前記ひずみ量が所定値以上となる特定ひずみ量を抽出し、抽出した前記特定ひずみ量に基づいて前記管体に生じた前記所定方向における推定応力を算出する応力推定手段、として機能させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管体に生じた応力を推定する応力推定装置、応力推定方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
水道やガスパイプライン等の配管の状況を検出する技術が知られている。例えば、特許文献1には、管体に取り付けたAE(Acoustic Emission)センサからの信号(AE信号)を検出し、検出したAE信号に基づいて地中埋設管の腐食を検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようにAEセンサを利用して配管の状況を検出する技術は、対象の管体を非破壊的に検査することができ有用であるが、配管の設置状況によっては管体の検査手法に制約が伴うため、他の非破壊的な手法があれば便利である。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、非破壊的な検査によって管体に生じた応力を推定することができる応力推定装置、応力推定方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る応力推定装置は、
管体の内部を流れる流体の非定常的変化によって圧力波が生じた期間を含む撮影期間において、前記管体におけるランダムパターンが付された外周面を複数のカメラによって所定周期で撮影することで得られる画像を示す画像情報を取得する画像情報取得手段と、
前記画像情報取得手段が取得した前記画像情報に対して画像相関法で解析を行うことで前記管体の三次元の変位の時系列情報を求め、求めた前記変位の時系列情報に基づいて前記管体の所定方向におけるひずみ量の時系列情報を算出するひずみ量算出手段と、
前記ひずみ量算出手段が算出した前記ひずみ量の時系列情報から、前記所定方向における前記ひずみ量が所定値以上となる特定ひずみ量を抽出し、抽出した前記特定ひずみ量に基づいて前記管体に生じた前記所定方向における推定応力を算出する応力推定手段と、を備える。
【0007】
前記ひずみ量算出手段は、前記外周面が撮影された前記画像に対して予め設定した複数の抽出点において前記ひずみ量の時系列情報を算出し、
前記応力推定手段は、前記複数の抽出点において前記推定応力を算出してもよい。
【0008】
前記特定ひずみ量は、前記所定方向における前記ひずみ量の最大値であってもよい。
【0009】
前記応力推定装置は、前記流体が前記管体に与える圧力の時系列情報を取得する圧力取得手段をさらに備え、
前記応力推定手段は、前記推定応力としての第1推定応力に加えて、前記特定ひずみ量を示す時点における前記圧力と予め定めた基準圧力との差に基づき、前記管体に生じた前記所定方向における第2推定応力を算出してもよい。
【0010】
前記所定方向は、前記管体が延びる方向と直交する方向を含んでいてもよい。
【0011】
前記流体は液体であり、前記圧力波は水撃作用によって生じるものであってもよい。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の第2の観点に係る応力推定方法は、
管体の内部を流れる流体の非定常的変化によって圧力波が生じた期間を含む撮影期間において、前記管体におけるランダムパターンが付された外周面を複数のカメラによって所定周期で撮影することで得られる画像を示す画像情報を取得するステップと、
取得した前記画像情報に対して画像相関法で解析を行うことで前記管体の三次元の変位の時系列情報を求め、求めた前記変位の時系列情報に基づいて前記管体の所定方向におけるひずみ量の時系列情報を算出するステップと、
算出した前記ひずみ量の時系列情報から、前記所定方向における前記ひずみ量が所定値以上となる特定ひずみ量を抽出し、抽出した前記特定ひずみ量に基づいて前記管体に生じた前記所定方向における推定応力を算出するステップと、を備える。
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の第3の観点に係るプログラムは、
コンピュータを、
管体の内部を流れる流体の非定常的変化によって圧力波が生じた期間を含む撮影期間において、前記管体におけるランダムパターンが付された外周面を複数のカメラによって所定周期で撮影することで得られる画像を示す画像情報を取得する画像情報取得手段、
前記画像情報取得手段が取得した前記画像情報に対して画像相関法で解析を行うことで前記管体の三次元の変位の時系列情報を求め、求めた前記変位の時系列情報に基づいて前記管体の所定方向におけるひずみ量の時系列情報を算出するひずみ量算出手段、
前記ひずみ量算出手段が算出した前記ひずみ量の時系列情報から、前記所定方向における前記ひずみ量が所定値以上となる特定ひずみ量を抽出し、抽出した前記特定ひずみ量に基づいて前記管体に生じた前記所定方向における推定応力を算出する応力推定手段、として機能させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、非破壊的な検査によって管体に生じた応力を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る応力推定システムの概略構成図である。
【
図2】応力推定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図3】(a)は、画像相関法により得た軸直角方向のひずみの時系列データを表す図であり、(b)は、
図3(a)のデータに対しノイズフィルタリングを施した後における軸直角方向のひずみの時系列データを表す図である。
【
図4】実験により得たAEパラメータとしての実効値電圧と水圧振動との関係を示す参考図である。
【
図5】実験時の管体の設定条件としてCase1~9の各条件を示す表の図である。
【
図6】(a)は、Case3における水圧の時系列データを示す図であり、(b)は、Case6において連続的水撃作用を発生させた場合の水圧の時系列データを示す図である。
【
図7】(a)は、画像解析画面に対してx,y軸を定めた図であり、(b)は、管体をx軸に沿って切り開いた場合の展開図である。
【
図8】実験におけるデータの抽出点を説明するための図である。
【
図9】(a)は、応力拡大係数とき裂近傍の応力分布の関係を示す図であり、(b)は、管体の内圧と管体に生じる応力との力のつりあい等を示す概念図である。
【
図10】(a)~(c)は、Case1~3において、実験で求めた負荷応力と軸直角方向ひずみの時間変化を示す図である。
【
図11】(a)~(c)は、Case4~6において、実験で求めた負荷応力と軸直角方向ひずみの時間変化を示す図である。
【
図12】Case1~6において、軸直角方向の最大ひずみ観測時間で推定した応力分布を示す表の図である。
【
図13】(a)は、Case3におけるスリット近傍の応力場を示すグラフの図であり、(b)は、Case5におけるスリット近傍の応力場を示すグラフの図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0017】
本実施形態に係る応力推定装置40は、
図1に示すように、応力推定システム100に含まれる。応力推定システム100は、上水道や産業用水道等の内水圧を利用した配管施設を構成する管体1(パイプ)の検査対象領域Aにおける応力を推定し、推定した応力から管体1の損傷状況を評価するシステムである。管体1内には、上流側の圧力水槽2uから下流側の下流端水槽2dに向かって水が流れるものとする。なお、管体1は、例えば円筒状に形成されるが、その種類は任意であり、鋼管やダクタイル鋳鉄管などであればよい。
【0018】
応力推定システム100は、
図1に示すように、撮影部10と、圧力計20と、バルブ30と、応力推定装置40と、を備える。
【0019】
撮影部10は、複数のカメラ11を含んで構成され、管体1の検査対象領域Aを撮影する。カメラ11は、CCDやCMOS等からなる撮像素子や、被写体の像を撮像素子へ結像させるレンズ等を含んで構成される可視光カメラ(デジタルカメラや高速度カメラ)である。
【0020】
撮影部10は、例えば、2つのカメラ11から構成される。2つのカメラ11は、互いに間隔を空けて配置されるとともに、同一の被写体(本実施形態では、管体1の検査対象領域A)を撮影する。2つのカメラ11に対しては、同一の校正板を用いてキャリブレーションが行われている。2つのカメラ11は、検査対象領域Aのステレオ撮影を行う。2つのカメラ11は、それぞれ、撮影期間内において所定周期で撮影した検査対象領域Aの画像のデジタルデータ(画像データ)を応力推定装置40に供給する。
【0021】
2つのカメラ11による画像データは、後述のように応力推定装置40によって実行されるデジタル画像相関法(DICM:Digital Image Correlation Method)(以下、画像相関法と言う。)を用いた、管体1の外周表面(三次元表面)のひずみ測定に用いられる。本実施形態では、画像相関法を用いることから、管体1の検査対象領域Aにおける外周表面には、予めスプレー等によりランダムパターンが付されている。
【0022】
圧力計20は、管体1内の水圧を計測し、計測した水圧を示すデータを応力推定装置40に供給する。圧力計20は、例えば、管体1の検査対象領域Aの近傍に設けられている。
【0023】
バルブ30は、例えば、電磁弁や電動弁から構成され、応力推定装置40の制御により、管内1の流路を開放する開放状態と、管内1の流路を閉塞する閉塞状態とに切り替えられる。バルブ30は、管体1の検査対象領域Aよりも下流側に設けられている。なお、圧力計20及びバルブ30の少なくともいずれかは、インフラストラクチャーとして既設のものを用いてもよい。
【0024】
応力推定装置40は、コンピュータから構成され、撮影部10から取得した画像データや圧力計20から取得した水圧に基づき、管体1に生じた応力を推定する。応力推定装置40は、制御部41と、記憶部42と、を備える。なお、応力推定装置40は、互いに通信可能な複数台のコンピュータから構成されていてもよい。
【0025】
制御部41は、CPU(Central Processing Unit)、タイマ等から構成され、記憶部42に格納されている動作プログラムを実行して、撮影部10、圧力計20及びバルブ30の動作を制御する。また、制御部41は、I/F(インターフェース)や、有線又は無線による通信手段を介して、撮影部10、圧力計20及びバルブ30の各構成の動作を制御するとともに、これらの構成から各種のデータを取得する。
【0026】
記憶部42は、固定データを記憶するROM(Read Only Memory)や、各種演算結果を示すデータ等を一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)等から構成されている。記憶部42のROMには、各種の動作プログラム(後述の応力推定処理を実行するためのプログラムPGを含む)のデータ、推定応力を算出するための数式に関するデータ、算出した推定応力から管体1の損傷状況を判別するためのデータなどが予め記憶されている。
【0027】
制御部41は、以下に述べるように、画像情報取得手段、ひずみ量算出手段、応力推定手段、及び圧力取得手段として機能する。
【0028】
画像情報取得手段として機能する制御部41は、管体1の内部を流れる水の非定常的変化によって圧力波(水撃圧)が生じた期間を含む撮影期間において、管体1の検査対象領域Aを撮影部10(複数のカメラ11)によって所定周期で撮影することで得られる画像を示す画像データ(画像情報)を取得する。制御部41は、前記撮影期間内において、撮影部10に所定の周期で管体1の検査対象領域Aを撮影させ、撮影部10から前記画像データを取得する。なお、この実施形態では、制御部41は、バルブ30を開放状態から閉塞状態へ制御することにより、管体1内に水撃作用による圧力波を発生させる。ここで、水撃圧とは、有圧の導管、送管、配水管などの施設において供給される水の流れが急に阻害されて非定常的変化が生じた場合に、その運動エネルギーによって管体1への圧力が急変し、衝撃をもたらす作用である。
【0029】
ひずみ量算出手段として機能する制御部41は、取得した画像データに対して画像相関法で解析を行うことで管体1の三次元の変位の時系列情報(時系列データ)を求め、求めた変位の時系列情報に基づいて管体1の所定方向におけるひずみ量の時系列情報を算出する。
具体的に、制御部41は、撮影部10から時系列で取得した撮影期間内における複数の画像データに基づき、画像相関法を用いて、管体1の検査対象領域Aにおける外周表面の変位を求める。この際、制御部41は、2つのカメラ11の各々から取得した画像データに基づき、ステレオ視の原理により、管体1の検査対象領域Aにおける外周表面の三次元の変位を求める。例えば、制御部41は、予め定めたサブセット(複数の画素からなる計算領域)の変形後の位置を輝度値分布の相関などを用いて求める。変形後のサブセットの位置は、変形前のサブセットと同じ輝度分布を有する領域を変形例後の画像内で探し出すことによって決定する。制御部41は、時系列で取得した画像データからサブセットの移動量を求めることで、管体1の検査対象領域Aにおける外周表面の三次元変位を求める。また、制御部41は、求めた三次元の変位分布から、変位-ひずみの関係式を用い、管体1の検査対象領域Aにおける外周表面(三次元表面)のひずみ(ひずみ量)を求める。なお、変位からひずみを求める手法は任意であり、変位分布を微分する手法や、変位分布を最小二乗法により関数近似し、その関数を微分する手法や、有限要素法を用いる手法等、種々の公知の手法を用いることができる。
【0030】
この実施形態では、制御部41は、管体1の外周曲面の接線方向(後述する軸直角方向)のひずみe
yyの時系列データを、複数設定した抽出点毎に求める。
図3(a)は、制御部41が所定の抽出点において求めた、軸直角方向のひずみの時系列データの一例を示すグラフである。制御部41は、このように求めた軸直角方向にひずみに対してノイズ処理(ノイズフィルタリング)を行う。具体的に、制御部41は、求めた軸直角方向にひずみに対して、移動平均法(例えば、移動区間10項(0.5s)の単純移動平均)及びハイパスフィルタ処理(例えば0.2Hz以下をカット)のノイズ処理を実行する。
図3(b)は、
図3(a)の軸直角方向のひずみに対して、このようにノイズ処理を実行した後の軸直角方向のひずみの時系列データの一例を示すグラフである。なお、
図3(a),(b)は、後述のCase4におけるデータであり、図中のWHは、
図4に示すWHのタイミングに対応する。
【0031】
応力推定手段として機能する制御部41は、ひずみ量の時系列データから、軸直角方向のひずみeyyの最大値を抽出し、抽出した最大値に基づいて管体1に生じた軸直角方向における推定応力を算出する
具体的に、制御部41は、ノイズ処理を実行した後の軸直角方向のひずみから、管体1に生じた応力を推定する。具体的に、制御部41は、ひずみ-応力の関係式を用い、管体1のヤング率[N/mm2]に軸直角方向のひずみを乗算し、推定応力[N/mm2]を求める。この実施形態では、制御部41は、ノイズ処理後の軸直角方向のひずみの時系列データにおいて、最大となる軸直角方向のひずみから、推定応力を求める。
【0032】
また、圧力取得手段として機能する制御部41は、管体1に与える水圧の時系列データを圧力計20から取得する。そして、応力推定手段として機能する制御部41は、前述のように画像解析により得た推定応力に加えて、圧力計20から所定周期で取得した水圧の時系列データに基づいて管体1に生じた推定応力を算出する。水圧に基づく推定応力の算出手法については後述する。
【0033】
応力推定システム100の構成は以上である。続いて、応力推定装置40を用いた応力推定処理、及び、応力推定方法の一例を説明する。
【0034】
制御部41は、例えば、図示しない操作部(キーボード、タッチパネル等)になされた所定の操作を受け付けたことに応じて、
図2に示す応力推定処理を開始する。まず、制御部41は、圧力計20を制御し、管体1内の水圧の計測を開始する(ステップS1)。続いて、制御部41は、バルブ30を開放する(ステップS2)。これにより、管体1内に水が流れる。
【0035】
続いて、制御部41は、圧力計20から取得した水圧が安定したか否かを判別し(ステップS3)、水圧が安定した場合(ステップS3;Yes)、撮影部10による管体1の検査対象領域Aの撮影を開始する(ステップS4)。水圧が安定していない場合(ステップS3;No)、制御部41は、水圧が安定するまで待機する。
【0036】
なお、水圧が安定したか否かの判別手法は任意であるが、例えば、制御部41は、圧力計20から取得した水圧が閾値未満となったかや、異なる時点で取得した水圧の差が閾値未満となったかや、バルブ30の開放から予め定めた設定期間が経過したか等に基づいて水圧が安定したか否かを判別すればよい。当該閾値や設定期間は、予めROM内にデータとして格納しておけばよい。
【0037】
続いて、制御部41は、バルブ30を閉塞する(ステップS5)。これにより、管体1内に圧力波(水撃圧)を発生させる。
【0038】
続いて、制御部41は、水圧が安定したか否かを判別し(ステップS6)、水圧が安定した場合(ステップS6;Yes)、撮影部10による撮影と圧力計20による水圧の計測を終了する(ステップS7)。水圧が安定していない場合(ステップS6;No)、制御部41は、水圧が安定するまで待機する。水圧が安定したか否かの判別手法はステップS3と同様である。
【0039】
続いて、制御部41は、画像相関法に基づき管体1に生じた応力を推定する(ステップS8)。具体的には、前述のように、制御部41は、撮影部10から時系列で取得した撮影期間内における複数の画像データに基づき、画像相関法を用いて管体1の検査対象領域Aにおける外周表面の三次元の変位を求める。また、制御部41は、求めた三次元の変位分布から、軸直角方向のひずみの時系列データを複数設定した抽出点毎に求める。なお、画像相関法の画像の基準としては、例えば、ステップS3の撮影開始時の画像を基準とし、当該基準との差分に基づいて変位やひずみを求めればよい。また、制御部41は、各抽出点における軸直角方向のひずみに対し、移動平均法及びハイパスフィルタ処理を施し、ノイズ処理後の各抽出点における軸直角方向のひずみの時系列データを求める。そして、制御部41は、ノイズ処理後の軸直角方向のひずみの時系列データにおいて、最大となる軸直角方向のひずみから推定応力(以下、第1推定応力と言う。)を求める。
【0040】
続いて、制御部41は、圧力計20から所定周期で取得した水圧の時系列データに基づいて、管体1に生じた応力を推定する(ステップS9)。制御部41は、後述の式(5)、(6)、(1)を用いて、検査対象領域A内において設定した複数の検査点での応力分布を算出する。制御部41は、まず、ステップS4の撮影開始時の水圧を基準とした水圧変化量ΔPを求め、式(5)を用いて、軸直角方向の応力を求める。次に、式(6)を用いて、求めた軸直角方向の応力から応力拡大係数Kを求める。そして、式(1)を用いて、複数の検査点に対応したd[mm]を代入することにより、各検査点における推定応力(以下、第2推定応力と言う。)を算出する。これらの数式を用いた、水圧に基づく応力推定手法については、後に詳細に説明する。
【0041】
そして、制御部41は、ステップS8で求めた第1推定応力と、ステップS9で求めた第2推定応力とに基づき、検査対象領域Aにおける管体1の損傷状況を評価する(ステップS10)。例えば、制御部41は、第1推定応力及び第2推定応力の少なくともいずれかが、予め定めた閾値を超えた場合に、管体1が損傷している(例えば、き裂が生じている)可能性ありと評価する。なお、制御部41は、第1推定応力と第2推定応力の単純平均や加重平均により算出した推定応力に基づいて、管体1の状況評価を行ってもよい。また、推定応力(第1推定応力と第2推定応力の少なくともいずれか)の複数段階の範囲と、管体1の複数段階の評価度とが対応して構成されたテーブルデータに基づき、制御部41は、管体1の評価を行ってもよい。複数段階の評価度としては、「異常なし」、「破損可能性あり」、「破損可能性高」などを設けることができる。閾値のデータやテーブルデータは、予め実験等を行うことにより定め、記憶部42のROMに格納しておけばよい。
【0042】
以上が応力推定処理である。なお、制御部41は、検査対象領域Aの撮影画像や、画像解析画面や、評価結果などを図示しない表示部に表示させてもよい。当該表示部は、例えば、液晶ディスプレイ(LCD)、有機ELディスプレイ(OELD)等から構成される。つまり、応力推定装置40又は応力推定システム100は、このような表示部を含んで構成されてもよい。
【0043】
以上に説明した応力推定装置40により、管体1(配管)内に発生する圧力波(水撃波)を用い、管体1の損傷状況を評価することができる。具体的には、圧力波の検出に画像相関法による3次元画像計測を利用し、可視画像の画素群の3次元的な移動量からひずみ量を算出し、算出したひずみ量から管体1における応力分布を推定することができる。なお、以上では、圧力波をバルブ30の閉塞により人為的に発生させたが、インフラストラクチャー等の既存施設において発生する圧力波を用いて、以上の手法により管体1のひずみ量や、応力分布を推定することもできる。
【0044】
ここで、上水道や産業用水に代表される内水圧を利用する配管施設は、社会基盤施設の中でも大規模地震に代表される突発的災害が発生した際に道路などと比較して復旧に困難が伴う。以上に説明した応力推定方法を用いれば、例えば、水道・産業用水施設を対象に、既存施設において発生する圧力波(水撃圧)を用いて非破壊かつ非接触検査により、管体1に発生した損傷(クラック)近傍の応力状況を同定することができる。以下では、応力推定装置40、これを利用した応力推定処理及び応力推定方法の一実施例を説明する。本願発明者は、一実施例として、以下に説明する条件により実験を行った。
【0045】
(実施例)
(対象施設)
実験対象の施設(モデルパイプライン)は、圧力水槽2u~管体1による管路~バルブ30~下流端水槽2dからなる単一管路とし、延長約900m、管体1の外径27.2mm、管厚1.5mmのものを用意した。管体1は、螺旋状に敷設し、SUS304(ステンレス鋼)で形成されたものを用いた。対象施設の圧力波伝播速度は、1,310m/sである。実験では、電磁弁かなるバルブ30から1.77m上流(
図1で、L1=1.77m)に設けた、圧電素子型の圧力計20により、管体1内の水圧変動を測定した。また、参考として、AE法による弾性波計測も同時に実施した。
【0046】
(画像取得方法)
バルブ30より24.28m~24.61m上流(
図1で、L2=24.28m、L3=24.61m)のフランジ間における管体1を検査対象領域Aとし、画像計測による管体1の変形計測を実施した。撮影による画像取得には、2台のCCDカメラから構成される撮影部10に加えて、1台の高速度カメラを使用した。CCDカメラによる画像データは、管体1の外周表面のひずみ場の解析に使用した。高速度カメラによるデータは、CCDカメラの撮影開始時間の推定に使用した。CCDカメラは、Grasshopper3 GS3-U-60S6M(PointGrey Reserch 社製)を使用し、レンズはXenoplan 2.0/28(Schneider KREUZNACH 社製)を取り付けた。CCDカメラの解像度は2736×2192pixelであり、撮影間隔は20Hzとした。カメラレンズの収差を補正するため、点間隔7mmの校正板を用いてキャリブレーションを行った。高速度カメラは、USB3.0高速度カメラk5(カトウ光研 社製)を使用し、レンズはM6Z1212-3S(computer 社製)を取り付けた。高速度カメラの解像度は640×480pixelであり、撮影間隔は250Hzとした。高速度カメラの撮影開始時間をAE計測装置内に取り込むため、 専用のトリガスイッチと同期ケーブルを使用した。
【0047】
(弾性波計測)
圧力波起源の変形により生じる弾性波を計測するため、参考として、図示しないAEセンサ及びAE計測装置を用い、AE計測も実施した。AEセンサは150kHz共振型を使用した。AEセンサの取り付けは、カップラントを使用し、き裂を模して管体1に形成したスリットSの近傍に複数配置した。計測条件はプリアンプの増幅値を40dB、AE計測装置(SAMOS PAC社製)のしきい値を30dB、計測間隔を1MHzとした。AE計測装置によるAE計測結果と、測定した水圧および画像計測との時間同期をとるため外部同期用ケーブルを使用し、高速度カメラの撮影開始時間と水圧計測値とを応力推定装置40に取り込むよう接続した。外部同期の計測間隔は10Hzとした。実験は、応力推定処理(
図2参照)におけるステップS1の前にAE計測を開始し、ステップS9の後にAE計測を終了した以外は、前述の応力推定処理と同様の手順で行った。電磁弁かなるバルブ30の閉塞後には、
図4に示すような水圧振動が生じるとともに、水圧上昇時WHにAEパラメータの1つである実効値電圧(RMS[mV])の反応が生じていることが分かる。つまり、水撃圧を受けた管体1の応答(管体1の変形等)がAE発生源であると推察できる。
【0048】
(実験ケース)
本願発明者は、
図5に表で示すように、き裂を模して管体1に施したスリットSと管体1内に発生させた水撃圧の条件を変化させた、計9パターンの実験を実施した(Case1~9)。
スリットSの条件としては、長さ50.0mmで幅1.0mmのスリットSにおいて、深さを0.5mmに設定した管体1(Case1~3)と、深さを1.0mmに設定した管体1(Case4~6)の2種類を用意した。また、比較対象としてスリットSを施していない管体1においても実験を実施した(Case7~9)。なお、スリットSの長さは、管体1の延長方向に沿う長さである。
水撃圧の条件としては、各ケースにおける管体1に対して上流端圧力を0.25MPaに保ちつつ、通水時の流速を0.20m/s、0.35m/s、0.50m/sの各値に調整することで、最大水撃圧(圧力波最大水圧)が0.52MPa(Case1,4,7)と、0.67MPa(Case2,5,8)と、0.85MPa(Case3,6,9)の各値となるように設定した。なお、実験条件の流速は、最大水撃圧が上記の各値となるよう非定常流況解析の解析結果から設定した。また、モデルパイプライン実験の弁操作(電磁弁からなるバルブ30による閉塞動作)は急閉塞であることから、最大水撃圧はJoukowskiの式でも計算することができる。
【0049】
また、管体1への水撃作用による圧力振動の例を
図6(a),(b)に示す。
図6(a)は、Case3における圧力計20による計測水圧の時系列データ(時間変化)である。
図6(b)は、Case6において、バルブ30を完全に閉塞していない状態での計測水圧の時系列データである。なお、
図6(b)は、地震等の発生によりバルブ30が完全に閉塞しない状態を模したものであり、連続的水撃作用が発生した場合を示している。両図において、T1はバルブ30の開放開始(通水開始)タイミングであり、T2はバルブ30を閉塞したタイミングである。両図において、バルブ30の閉塞直後に管体1内の水圧がバルブ30の閉塞前の約10倍まで急激に上昇し、水撃圧が発生していることが確認できる。
【0050】
(解析上の着眼点と記述方法)
管体1の変形計測における方向の定義を
図7(a),(b)に示す。
図7(a)は、一方のCCDカメラが撮影した画像から画像相関法を用いて算出した変位量を示す画像解析画面であり、
図8の解析画面(管体1の外周表面における三次元変位をステレオ法を用いて表した解析画面)で確認できるように、
図7(a)の画面における縦方向にy軸を、横方向にx軸を定めた。つまり、x軸は管体1の延長方向に沿い、y軸は管体1の径方向に沿う。
x軸に沿って管体1を切り開くと、管体1は、
図7(b)に示すように展開され、平面と見做せる。水圧を受けた管体1に働く応力やひずみはこの平面上に生じるため,画像解析画面とは別に管体1の延長方向を「軸方向」とし、この軸方向に対して直角に交わる方向を「軸直角方向」と定義する。この軸直角方向は、管体1の外周曲面の接線方向に対応する。
【0051】
管体1内を圧力波が伝播すると、スリットSの近傍において応力集中が生じると予想される。これを考慮し、
図8に示すように、データの抽出点として、応力集中が生じると予想されるスリットS両端の各々に設定した2つの抽出点P1,P2と、スリットS側部としてスリットS両端の中間に設定した1つの抽出点P3と、非欠損部としてスリットSの上流側の端からx方向に20mm、y方向に-5mmだけ移動した1つの抽出点P4と、の計4点を定めた。なお、スリットSを施していないCase7~9においても、上記の抽出点P1~P4に対応する4点においてデータを抽出した。
【0052】
(実験結果)
(管体1に作用した応力の推定)
スリットS近傍における応力分布を評価するため、各ケースで管体1に作用した軸直角方向の応力を求めた。実験では、圧力計20で計測した水圧より求めた応力を、下記の式(1)の負荷応力とし、応力拡大係数K(破壊力学指標)を推定した。ここで、K:応力拡大係数[Pa・√m]、σ
y:軸直角方向応力[N/m
2]、d:き裂(スリットS)端部からの距離[m]である。なお、式(1)は、距離dが所定範囲内においては応力拡大係数Kの推定に用いることができるが、距離dが大きすぎる場合には当該推定には適さない。参考に、応力拡大係数と、き裂近傍の応力分布との関係を
図9(a)に示す。なお、ここでは、スリットSの上流側端部から上流側に向かっての距離をdとしているが、スリットSの下流側端部から下流側に向かっての距離をdとしてもよい。
【0053】
【0054】
負荷応力の計算原理としては、管体1内に水圧が作用すると管体1には軸直角方向の応力が働き、変形が生じることを考慮する。
図9(b)のX-X’線上においては、内圧と応力による力のつりあいより、下記の式(2)が成り立つ。ここで、r
0:初期の内半径[m]、P
0:初期の水圧[Pa]、t:管厚[m]、σ
0:初期応力[N/m
2]である。
【0055】
【0056】
管体1内の水圧がP0からP0+ΔPに変化すると、応力はσ0+Δσ、内半径はr0+Δrとなり、下記の式(3)が成り立つ。ここで、Δr:内半径の変化量[m]、ΔP:水圧変化量[Pa]、Δσ:水圧変化による応力[N/m2]である。
【0057】
【0058】
Δrは、他の変化量と比べて十分に小さいため、式(3)においてΔr=0と近似すると、下記の式(4)となる。
【0059】
【0060】
また、式(4)に、式(2)におけるσ0を代入して整理すると、下記の式(5)となる。
【0061】
【0062】
式(5)は、管体1の軸直角方向において、水圧の上昇時には引張の応力が作用し、水圧が下降すると圧縮の応力が働くことを示している。
図9(b)のX-X’線上に働くΔσは、下記の式(6)に用いられる負荷応力σとして働き、上記の式(1)に従ってX-X’線上のき裂(スリットS)端部近傍において応力集中が生じる。
【0063】
【0064】
本実験では、圧力計20の計測水圧と式(5)に基づいて、負荷応力σを求めた。具体的には、予め定めた基準水圧に対しての水圧変化量ΔPを式(5)に代入して算出したΔσを負荷応力σとした。式(5)に代入した水圧変化量ΔPは、撮影部10による撮影開始時の水圧を基準とし、当該基準との差により得た。画像相関法による管体1の変形計測についても、撮影部10による撮影開始時の画像を基準とし、当該基準との差分により解析を行った。水圧に基づいて計算する応力と画像解析で得られるひずみの整合をとるため、上記の水圧変化量ΔPを計算に用いた。
【0065】
各ケース(Case1~6)において、水圧に基づいて算出した負荷応力σと、画像相関法を用いた画像解析によるスリットS端部の軸直角方向ひずみe
yyの測定結果を、
図10(a)~(c)、
図11(a)~(c)に示す。
図中の「e
yy-max観測時間」は、スリットS端部における軸直角方向e
yyのひずみ量が最大となる観測時間を示す。また、「P
max観測時間」は、圧力計20が計測した最大水圧の観測時間を示す(Case1,2,5,6)。なお、水撃圧の作用中に軸直角方向ひずみe
yyに顕著なピークが確認できる場合は、P
max観測時間の代わりに、当該ピークを示す時間を「e
yy観測時間」として示した(Case3,4)。これらは、後に述べる、スリットS端部における応力分布の評価の際に対象とした時間である。なお、Case7~9の測定結果については、スリットSを形成していない管体1であり、顕著なひずみ量のピークが現れないため、本稿においては割愛した。
図10(a)~(c)、
図11(a)~(c)の測定結果を検討した結果、特にCase6において、水圧に基づいて求めた負荷応力σ(約7[N/mm
2])と画像解析より求めた管体変形(e
yy)との密接な関連が示唆された。
【0066】
(スリットS近傍における応力分布の評価)
続いて、圧力計20で計測した水圧に基づき推定した応力と、画像相関法を用いた画像解析に基づき推定した応力との比較評価を行った。
【0067】
水圧に基づく応力分布の推定には、式(6)を用いて応力拡大係数Kを求めた後、式(1)を用いてスリットS近傍における応力σ
yの分布を計算した。式(6)の負荷応力σは水圧より計算した軸直角方向の応力を用いた。具体的には、前述のように、基準水圧からの水圧変化量ΔPを式(5)に代入してΔσを算出し、これを負荷応力σとした。そして、この負荷応力σを式(6)に代入し、応力拡大係数Kを求めた。そして、求めた応力拡大係数Kを式(1)に代入することで、任意に設定したスリットS端部からの距離d(距離dは、前述のステップS9で説明した任意の検査点に対応する。)における軸直角方向応力σ
yを求めた。なお、これと同様の手法により、前述のステップS9の処理を実行する制御部41は、圧力計20で計測した水圧に基づいて推定応力を算出する。応力σ
yの分布は、スリットSの端より0.1mm~10mm(d=0.1×10
-3m~10×10
-3m)の範囲で、0.1mm間隔で計算した。
画像解析により特定された軸直角方向の最大ひずみ観測時間(e
yy-max観測時間)において、水圧に基づいて算出した負荷応力、応力拡大係数、及び最大応力の値を
図12に示す。
【0068】
画像解析による応力分布の計算には、ひずみ-応力の関係式を用いた。計算に用いた管体1のヤング率は193×10
3[N/mm
2]である。ひずみは、上流側のスリットSの端(
図8におけるP1)から上流側に10mmまでの範囲で、0.2mm間隔で抽出点を設定し、抽出点毎にノイズ処理を行った軸直角方向ひずみe
yyを使用した。
図13(a),(b)に、軸直角方向最大ひずみ観測時間(e
yy-max観測時間)における応力分布(図中、「管体変形より求めた応力」)の一例を示す(Case3,5)。
【0069】
図12に示すように、水圧に基づく応力推定では、Case4以外のケース(Case1~3,5,6)でスリットS近傍における応力の増大(応力集中)が確認された。
一方、画像相関法を用いた画像解析による応力推定では、特に、
図13(a)に示すCase3におけるスリットS端上での応力(
図13(a)で、d=0のときの「管体変形より求めた応力」参照。)が15.845[N/mm
2]となり、
図13(b)に示すCase5におけるスリットS端上での応力(
図13(b)で、d=0のときの「管体変形より求めた応力」参照。)が11.847[N/mm
2]となり、それぞれ、計算で求めた最大応力(
図12参照)に近い値となった。なお、図示しないが、Case2におけるスリットS端上における応力は12.233[N/mm
2]であり、これも計算で求めた最大応力(
図12参照)に近い値となった。
【0070】
以上の手法により、3次元画像解析によってeyyを算出し、eyy-max観測時間において、スリットS(クラック)先端における応力集中を、非破壊、非接触の検査により同定が可能となることが分かる。これを踏まえ、画像解析により、管体1の検査対象領域Aにおける任意の抽出点で軸直角方向の応力eyyを推定すれば、前述の応力推定処理のステップS10で説明したように、管体1の損傷状況の評価も行うことが可能となる。
【0071】
本発明は以上の実施形態及び図面によって限定されるものではない。本発明の要旨を変更しない範囲で、適宜、変形(構成要素の削除も含む)を加えることが可能である。以下に変形の一例を説明する。
【0072】
(変形例)
以上では、検査対象の管体1に水が流れる例を説明したが、検査対象の管体1は、水以外の液体や混合液体、ガス等の気体を流すものであってもよい。つまり、検査対象の管体1は流体を流すものであればよい。水撃作用は、液体だけでなく気体においても同様な現象が起こるため、上記の応力推定装置40を利用して、管体1に生じる応力を推定することが可能である。
【0073】
以上では、円筒状の管体1について説明したが、管体1の形状は筒状であれば任意であり、例えば角筒状であってもよい。また、以上では、画像相関法を用いるにあたって、管体1の検査対象領域Aにおける外周表面にスプレーによりランダムパターンを付す例を説明したが、管体1自体が、その外周面にランダムな模様を有している場合には、スプレーを利用しなくともよい。さらには、管体1の外周表面に光を投影することでランダムパターンを付してもよい。
【0074】
以上では、制御部41の制御でバルブ30を閉塞することにより、水撃作用による圧力波を管体1内に発生させた例を示したが、これに限られない。既存の配管施設で、制御部41の制御に依らず発生する圧力波を用いてもよい。例えば、制御部41は、定期的に撮影部10に管体1の検査対象領域Aを撮影させ、軸直角方向のひずみeyyが予め定めた閾値を超えた場合におけるデータを解析して応力を推定してもよい。また、制御部41は、定期的に撮影部10に管体1の検査対象領域Aを撮影させるとともに、既設の圧力計20から取得した水圧や、管体1に設けたAEセンサからのAE信号に基づき、水撃波の発生を特定した場合に、軸直角方向のひずみeyyから応力を推定するようにしてもよい。
【0075】
以上では、ひずみ量算出手段として機能する制御部41が管体1の軸直角方向のひずみeyyを算出する例を示したが、軸直角方向以外の方向におけるひずみを算出し、当該ひずみを管体1の状況評価に用いてもよい。また、ひずみ量算出手段として機能する制御部41がひずみの時系列データに対して実行するノイズ処理は、公知の処理から適したものを任意に選択することができ、例えば、加重移動平均や指数移動平均などを用いてもよい。
【0076】
以上では、応力推定手段として機能する制御部41が、画像解析に基づく第1推定応力に加え、圧力計20から取得した水圧に基づく第2推定応力を算出した例を示したが、これに限られない。応力推定手段として機能する制御部41は、少なくとも、画像解析に基づく第1推定応力を算出すればよい。
【0077】
以上では、応力推定手段として機能する制御部41が、ひずみ量の時系列データから抽出した、軸直角方向のひずみeyyの最大値に基づいて管体1に生じた軸直角方向における推定応力を算出する例を示したが、これに限られない。制御部41は、ひずみ量の時系列データから、予め定めた所定値を超えた、1又は複数時点におけるひずみ量を特定ひずみ量として抽出し、当該特定ひずみ量に基づいて推定応力を算出してもよい。この特定ひずみ量は、概ね最大値と見做せる値であればよく、最大値を含む近傍の値であってもよいし、最大値の次に大きい値などであってもよい。こうすれば、例えば、ひずみ量の時系列データにおける最大値がエラー値である場合に当該エラー値を排除することができる。
【0078】
以上に説明した各処理を実行するプログラムPGは、記憶部42に予め記憶されているものとしたが、着脱自在の記録媒体により配布・提供されてもよい。また、プログラムPGは、応力推定装置40と接続された他の機器からダウンロードされるものであってもよい。また、応力推定装置40は、他の機器と電気通信ネットワークなどを介して各種データの交換を行うことによりプログラムPGに従う各処理を実行してもよい。
【0079】
[1]以上に説明した応力推定装置40は、制御部41の機能として、画像情報取得手段と、ひずみ量取得手段と、応力推定手段と、を備える。画像情報取得手段は、管体1の内部を流れる流体の非定常的変化によって圧力波が生じた期間を含む撮影期間において、管体1におけるランダムパターンが付された外周面(例えば、検査対象領域A)を複数のカメラ11によって所定周期で撮影することで得られる画像を示す画像情報を取得する。ひずみ量算出手段は、画像情報取得手段が取得した画像情報に対して画像相関法で解析を行うことで管体1の三次元の変位の時系列情報を求め、求めた変位の時系列情報に基づいて管体1の所定方向におけるひずみ量(例えば、軸直角方向のひずみeyy)の時系列情報を算出する。応力推定手段は、ひずみ量算出手段が算出したひずみ量の時系列情報から、前記所定方向におけるひずみ量が所定値以上となる特定ひずみ量(例えば、軸直角方向の最大ひずみeyy-max)を抽出し、抽出した特定ひずみ量に基づいて管体1に生じた前記所定方向における推定応力を算出する。
この応力推定装置40によれば、撮影部10からの画像データ(画像情報)を解析するだけでよいため、簡易な構成で、非破壊・非接触の検査によって管体1に生じた応力を推定することができる。
【0080】
[2]ひずみ量算出手段は、管体1の外周面が撮影された画像に対して予め設定した複数の抽出点(例えば、
図8に示す抽出点P1~P4や、当該抽出点から任意の距離だけ移動した点)においてひずみ量の時系列情報を算出し、応力推定手段は、前記複数の抽出点において推定応力を算出してもよい。
[3]特定ひずみ量は、前記所定方向におけるひずみ量の最大値(軸直角方向の最大ひずみe
yy-max)であってもよい。
【0081】
[4]応力推定装置40は、制御部41の機能として、流体が管体1に与える圧力の時系列情報を取得する圧力取得手段をさらに備えていてもよい。そして、応力推定手段は、画像解析に基づいて算出した推定応力(第1推定応力)に加えて、特定ひずみ量を示す時点における圧力と予め定めた基準圧力との差(ΔP)に基づき、管体1に生じた前記所定方向における第2推定応力を算出してもよい。
このように第1推定応力に加えて、第2推定応力も算出する構成によれば、より良好に管体1の状況を評価することができる。
【0082】
[5]前記所定方向は、管体1が延びる方向と直交する方向(管体1の軸直角方向)を含んでいてもよい。
[6]流体は液体であり、圧力波は水撃作用によって生じるものであってもよい。
【0083】
[7]以上に説明した応力推定装置40を利用した応力推定方法は、前記画像情報取得手段によって前記画像情報を取得するステップと、前記ひずみ量算出手段によって管体1の所定方向におけるひずみ量(例えば、軸直角方向のひずみeyy)の時系列情報を算出するステップと、前記応力推定手段によって管体1に生じた前記所定方向における推定応力を算出するステップと、を備える。
[8]以上に説明したプログラムPGは、コンピュータを、前記画像情報取得手段、前記ひずみ量算出手段、前記応力推定手段、として機能させる。
以上に説明した応力推定手法やプログラムPGによれば、撮影部10からの画像データ(画像情報)を解析するだけでよいため、簡易な構成で、非破壊・非接触の検査によって管体1に生じた応力を推定することができる。
【0084】
以上の説明では、本発明の理解を容易にするために、公知の技術的事項の説明を適宜省略した。
【符号の説明】
【0085】
100…応力推定システム
10…撮影部、11…カメラ
20…圧力計、30…バルブ
40…応力推定装置
41…制御部、42…記憶部、PG…プログラム
1…管体(パイプ)、A…検査対象領域、S…スリット
2u…圧力水槽、2d…下流端水槽