(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-22
(45)【発行日】2023-03-03
(54)【発明の名称】ポリイミド系共重合体およびそれを含む電子部品と電界効果トランジスタ
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20230224BHJP
C07D 319/24 20060101ALN20230224BHJP
C07D 327/06 20060101ALN20230224BHJP
C07D 339/08 20060101ALN20230224BHJP
【FI】
C08G73/10
C07D319/24
C07D327/06
C07D339/08
(21)【出願番号】P 2021092253
(22)【出願日】2021-06-01
【審査請求日】2021-06-01
(32)【優先日】2020-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】506292158
【氏名又は名称】国立台湾大学
【氏名又は名称原語表記】National Taiwan University
【住所又は居所原語表記】No. 1, Roosevelt Rd. Sec.4, Da‘an District, Taipei,Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100165663
【氏名又は名称】加藤 光宏
(72)【発明者】
【氏名】陳文章
(72)【発明者】
【氏名】上田充
(72)【発明者】
【氏名】陳俊▲カイ▼
(72)【発明者】
【氏名】林彦丞
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-181829(JP,A)
【文献】特開2009-67936(JP,A)
【文献】特開2012-181527(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0001278(KR,A)
【文献】特開2004-128467(JP,A)
【文献】NIUME, K. et al.,Heat-Resistant Polymers Containing Thianthrene Analogs Units. I. Polyimides,Journal of Polymer Science: Polymer Chemistry Edition,1979年,vol.17,pp.2371-2385
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G73/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二無水物と、2つのベンゼン環を有し、前記2つのベンゼン環の間で
2つのエーテル結合がある複素環式ジアミンの共重合体
であり、
前記共重合体は、下記式(I)、(I I)または(I I I)の構造を有することをポリイミド系共重合体。
【化1】
…式(I)、
【化2】
…式(I I)、
【化3】
…式(I I I)、
ここで、式(I)中、mおよびnは、各々独立してモル数を表し、m:nのモル比は0.5:9.5~9.5:0.5である。
前記式(II)の構造中の
【化4】
【化5】
前記式(III)の構造中の
【化6】
【化7】
PM:BPのモル比が0.5:9.5~9.5:0.5である。
【請求項2】
前記m:nのモル比は7:3~3:7である請求項1に記載のポリイミド系共重合体。
【請求項3】
誘電体および/またはフレキシブル基板としての請求項1または2に記載のポリイミド系共重合体を含むことを特徴とする、電子機器。
【請求項4】
誘電体および/またはフレキシブル基板としての請求項1または2に記載のポリイミド系共重合体を含むことを特徴とする、電界効果トランジスタ。
【請求項5】
ソースと、ドレインと、活性層と、ゲートと、をさらに含み、ボトムゲート-トップコンタクト型(bottom-gate-top-contact、BGTC)で配置されることを特徴とする、請求項4に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項6】
前記m:nのモル比は5:5である請求項4に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項7】
前記PM:BPのモル比が5:5である請求項4に記載の電界効果トランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド系共重合体およびそれを含む電子部品と電界効果トランジスタに関し、特に、二無水物と、2つのベンゼン環を有し、前記2つのベンゼン環の間で2つのエーテル結合、2つのスルフィド結合、または1つのエーテル結合および1つのスルフィド結合がある複素環式ジアミンの共重合体を含むポリイミド系共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポータブルまたはウェアラブルのフレキシブル電子機器に取り組む次世代技術が、広範な研究作業を展開されている。在来の無機材料と比較すると、有機高分子材料は、低コスト、機械的柔軟性、軽量という特長を持っている。このため有機高分子材料は、電子機器の応用において基板、誘電体、または有機電界効果トランジスタ(organic field-effect transistor、OFET)、有機薄膜太陽電池(organic photovoltaics、OPV)、有機発光ダイオード(organic light-emitting diodes、OLED)および記憶装置などを含む半導体として広く使用されている。
【0003】
現在、無機シリコンウェーハに代わるプラスチック基板を備えた高性能なフレキシブルOFETを開発するための多くの研究があり、かつフレキシブルOFETは、次の特性を持つ必要があり、すなわち、(1)製造プロセス内の高温工程に耐えられる高い耐熱性と安定性;(2)溶液工程に対する耐薬品性;(3)電流漏れを防ぐための低い表面粗さと高い寸法安定性;(4)機器/デバイスの環境安定性を確保するための低い吸水率。現在、ポリエチレンナフタレート(polyethylene naphthalate、PEN)、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate、PET)およびポリイミド(PI)などの様々な高分子材料がフレキシブルOFETに応用される基板の候補材料であると考えられ、芳香族PIは高い耐熱性と安定性、優れた機械的特性および高い耐薬品性により、基板と互換性があり、かつ将来性がある。しかし、従来のポリイミドは熱膨張係数(coefficient of thermal expansion、CTE)に対して高い線性を示し、例えば市販のポリイミドテープのKaptonは25ppm/Kであるため、熱的ミスマッチや機器内の他の無機成分との層間剥離が発生する可能性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】M.Hasegawa,Y.Hoshino,N.Katsura,J.Ishii,Polymer 2017,111,91-102.
【文献】S.Numata,K.Fujisaki,N.Kinjo,Polymer 1987,28,2282-2288.
【文献】S.Ebisawa,J.Ishii,M.Sato,L.Vladimirov,M.Hasegawa,Eur.Polym.J.2010,46,283-297.
【文献】J.F.Nobis,A.J.Blardinelli,D.J.Blaney,J.Am.Chem.Soc.1953,75,3384-3387.
【文献】K.Niume,K.Nakamichi,R.Takatuka,F.Toda,K.Uno,Y.Iwakura,J.Polym.Sci.Polym.Chem.Ed.1979,17,2371-2385.
【文献】C.A.Ramsden,J.Chem.Soc.,Perkin Trans.1 1981,2456-2463.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
文献では、熱安定性の高いポリイミド(すなわち、ガラス転移温度Tg>400℃;分解温度Td>500℃)および優れた寸法安定性(すなわち、CTE<10ppmK-1)が報告されている。Hasegawaらは、ポリイミドの熱安定性、寸法と化学構造の間の関係をまとめ、ポリイミドの面内配向(in-plane orientation)が大きいほどCTEが小さくなると結論付けた。なおポリマー骨格の直線性/剛性、ポリマー鎖間の物理的相互作用およびイミド化過程中の鎖移動度は、面内配向と密接に関連している(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。Luらは、ビスベンズイミダゾール単位を持つジアミンを開示し、分子間の相互作用を調節し、ポリイミドの固体パイルアップを改善することで、より低いCTE(<10ppmK-1)を実現した(M.Lian,X.Lu,Q.Lu,Macromolecules 2018,51,10127-10135.)。ただし空気中の水分と水素結合を形成する可能性があるため、ベンゾオキサゾールまたはベンズイミダゾールから誘導されたポリイミドの吸水率は、類似の高いレベルにある。しかしながらOFETデバイスでの応用は、通常低い吸水率が求められることに留意された。
【課題を解決するための手段】
【0006】
これに鑑み本発明の主な目的は、高い熱的・機械的安定性を有するポリマーであり、電子部品/製品(例:フレキシブルまたはウェアラブルの電子機器)および有機電界効果トランジスタのフレキシブル基板とし、主に二無水物と複素環式ジアミンの重縮合反応によって調製された新規のポリイミド材料を提供することである。
【0007】
本発明の主な目的は、ポリイミド系共重合体を提供することであり、ポリイミド系共重合体は二無水物と、2つのベンゼン環を有し、前記2つのベンゼン環の間で2つのエーテル結合、2つのスルフィド結合、または1つのエーテル結合および1つのスルフィド結合がある複素環式ジアミンの共重合体を含むことを特徴とする。
【0008】
好ましい実施例において前記二無水物は、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、3,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物ジカルボン酸無水物、3,3’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、3,4’-オキシジフタル酸無水物、4,4’-ビスフェノールA二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ジエチレントリアミン五酢酸二無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物、2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、4,4’-ビスフェノールA無水ジフタル酸、5-(2,5-ジオキシテトラヒドロ)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、エチレングリコールビス(トリメリット酸無水物)およびヒドロキノンジフタル酸無水物からなる群の少なくとも1種から選択される。
【0009】
好ましい実施例において、前記二無水物は、ピロメリット酸二無水物(pyromellitic dianhydride、PMDA)および/または3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物(3,3’,4,4’-biphenyltetracarboxylic acid dianhydride、BPDA)を含む。
【0010】
好ましい実施例において、前記複素環式ジアミンは、2,6-ジアミノチアンスレン(2,6-diaminothianthrene、SSDA)、2,6-ジアミノフェノキサチイン(2,6-diaminophenoxathiin、SODA)または2,6-ジアミノジベンゾ-p-ダイオキシン(2,6-diaminodibenzo-p-dioxin、OODA)を含む。
【0011】
好ましい実施例において、前記ポリイミド系共重合体は、下記式(I)の構造を有する。
【化1】
……式(I)
式中、mおよびnは、各々独立してモル数を表し、m:nのモル比は7:3~3:7である。
【0012】
本発明の別の目的は、電子機器を提供することであり、電子機器は誘電体および/またはフレキシブル基板としての前記ポリイミド系共重合体を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の別の目的は、電界効果トランジスタを提供することであり、電界効果トランジスタは誘電体および/またはフレキシブル基板としての前記ポリイミド系共重合体を含むことを特徴とする。
【0014】
好ましい実施例において、前記電界効果トランジスタは、ソースと、ドレインと、活性層と、ゲートと、を含み、ボトムゲート-トップコンタクト型(bottom-gate-top-contact、BGTC)で配置される。
【0015】
好ましい実施例において、前記フレキシブル基板は、下記式(I)または式(II)の構造を有する。
【化2】
……式(I)
【化3】
……式(II)
ここで、前記式(I)中のmおよびnは、各々独立してモル数を表し、m:nのモル比は5:5であり;前記式(II)の構造中の
【化4】
【化5】
【0016】
好ましい実施例において、前記誘電体は、下記式(III)の構造を有する。
【化6】
……式(III)
ここで、
【化7】
【化8】
PM:BPのモル比が5:5である。
【0017】
上記のように、本発明のポリイミド系共重合体は、熱膨張係数が非常に低く、柔軟で強靱なポリイミドフィルムに作製することができる。なお、本発明のポリイミド系共重合体を含む有機電界効果トランジスタは、200℃で2時間ベークした後、または1000回繰り返し曲げた後でも、互換性のある安定したデバイス性能を示す。本発明は、従来技術に比べて多くの利点を有することが分かる。したがって、本発明の高い熱的・機械的安定性のある新規なポリイミド系共重合体は、潜在的な応用の見込みがあり、可撓性電子製品の基板として使用することができる。
【0018】
以下に、添付図面および実施例を参照しつつ本発明の技術を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の好ましい実施例を示す概略図((a)オールポリマーに基づくトランジスタデバイスの構造およびポリイミド系共重合体の基板、誘電体および半導体(活性)層の構造と厚さを示し;(b)柔軟でオールポリマーベースのFETデバイスの写真)である。
【
図2】本発明の好ましい実施例に係るジアミンモノマー合成経路のフローチャート((a)SSDA、(b)SODAおよび(c)OODA)である。
【
図3】本発明の好ましい実施例に係るDMSO-d
6の
1H NMRスペクトルを示す図((a)SSDA、(b)SODA、および(c)OODA)である。
【
図4】本発明の好ましい実施例に係るDMSO-d
6中の
13C
NMRスペクトルを示す図((a)SSDA、(b)SODA、および(c)OODA)である。
【
図5】本発明の好ましい実施例の最適化された幾何形状およびファンデルワールス体積を示す図((a)PI(SSDA-PMDA)、(b)PI(SSDA-BPDA)、(c)PI(SODA-PMDA)、(d)PI(SODA-BPDA)、(e)PI(OODA-PMDA)、および(f)PI(OODA-BPDA))である。
【
図6】本発明の好ましい実施例に係るポリイミド系共重合体合成経路のフローチャート((a)PI(M
XYDA-ArDA)で、ここでM
XYは3つの好ましい実施例のジアミンSSDA、SODAおよびOODAを表し;(b)PI(OODA-PmBn)で、ここでPMDAとBPDAのモル比(m:n)は7:3、5:5および3:7に設定された。)である。
【
図7】本発明の好ましい実施例に係る合成ポリイミド系共重合体(ポリイミン前駆体)のDMSO-d
6における
1H NMRスペクトルを示す図((a)PAA(SSDA-PMDA)、(b)PAA(SSDA-BPDA)、(c)PAA(SODA-PMDA)、(d)PAA(SODA-BPDA)、(e)PAA(OODA-PMDA)、および(f)PAA(OODA-BPDA))である。
【
図8】本発明の好ましい実施例に係る合成ポリイミド系共重合体のFT-IRスペクトルを示す図((a)PI(SSDA-PMDA)、(b)PI(SSDA-BPDA)、(c)PI(SODA-PMDA)、(d)PI(SODA-BPDA)、(e)PI(OODA-PMDA)、(f)PI(OODA-BPDA)、(g)PI(OODA-P7B3)、(h)PI(OODA-P5B5)、および(I)PI(OODA-P3B7))である。
【
図9】本発明の好ましい実施例に係る合成ポリイミド系共重合体PAA(OODA-PmBn)のDMSO-d
6における
1H NMRスペクトルを示す図(ここで、PMDAとBPDAの仕込み比はm:n=(a)10:0、(b)7:3、(c)5:5、(d)3:7、(e)0:10に設定された。)である。
【
図10】本発明の好ましい実施例に係るジアミンのDFT計算および2つのベンゼン環間の二面角の最適化を経た幾何形状を示す図((a)SSDA、(b)SODA、および(c)OODA)である。
【
図11】本発明の好ましい実施例に係る合成ポリイミド系共重合体PI(M
XYDA-ArDA)の熱特性分析を示すグラフ((a)空気気流下で測定したTGA曲線、および(b)DSC曲線)である。
【
図12】本発明の好ましい実施例に係る合成ポリイミド系共重合体PI(OODA-PmBn)の熱的および機械的特性分析を示すグラフ((a)窒素気流下でのTGA曲線、(b)空気気流下でのTGA曲線、(c)DSC曲線、(d)DMA曲線、(e)TMA曲線および(f)応力-ひずみ曲線)である。
【
図13】本発明の好ましい実施例に係る合成ポリイミド系共重合体PI(M
XYDA-ArDA)の熱的および機械的特性分析を示すグラフ((a)TGA曲線、(b)TMA曲線、(c)DMA曲線、および(d)応力-ひずみ曲線)である。
【
図14】本発明の好ましい実施例に係るDMA曲線((a)PI(SSDA-PMDA)、(b)PI(SSDA-BPDA)、(c)PI(SODA-PMDA)、(d)PI(SODA-BPDA)、(e)PI(OODA-PMDA)、(f)PI(OODA-BPDA)、(g)PI(OODA-P7B3)、(h)PI(OODA-P5B5)、および(I)PI(OODA-P3B7))である。
【
図15】本発明の好ましい実施例の(a)α-T
g、CTEおよび(b)UTS、ε
bと合成ポリイミド系共重合体PI(OODA-PmBn)のBPDA組成との間の関係を示すグラフである。
【
図16】本発明の好ましい実施例のオールポリマートランジスタデバイスに基づくFETを示すグラフ((a)伝達特性および(b)出力特性)である。
【
図17】本発明の好ましい実施例に係る誘電体PI(OODA-P5B5)の静電容量を示すグラフ((a)異なる周波数で測定したもの、(b)加熱温度において、10
4kHzで測定したもの)である。
【
図18】本発明の好ましい実施例の次の方法で製造されたPII2T系トランジスタデバイスのFET伝達特性を示す図((a)高度にnドープ(n-doped)されたシリコンウェーハを基板とし、300nm SiO
2を誘電体としたもの、(b)PI(OODA-BPDA)を基板とし、420nm PI(OODA-P5B5)を誘電体としたもの)である。
【
図19】本発明の好ましい実施例を示す図((a)繰り返し曲げの機械的耐久性試験を経た後、オールポリマートランジスタデバイスに基づくFET伝達曲線、(b)μ
hおよびIon/IoffのFET特性は繰り返し曲げ回数の違いによって変化した。)である。
【
図20】本発明の好ましい実施例を示す図((a)順方向および逆方向スキャンによるFET伝達特性を有し、(b)PI(OODA-P5B5)を基板として製造されたフレキシブルOFETのゲート電流。)である。
【
図21】本発明の好ましい実施例を示す図((a)異なるベーキング時間、200℃での熱処理後、オールポリマートランジスタに基づくFETの伝達特性曲線;異なるベーキング温度で2時間後、FETをまとめた(b)の伝達曲線および(c)特性。)である。
【
図22】本発明の好ましい実施例のPI(OODA-P5B5)に基づくOFETのFET伝達特性は(a)80℃、(b)120℃および(c)160℃で2時間熱処理されたものを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の詳細説明および技術内容を説明する。さらに、本発明内の図面上の寸法比率は、あくまでも説明の便宜上のものであり、必ずしも実際の比率に従って描かれているわけではなく、これらの図面およびその比率は本発明の範囲を限定することを意図したものではない。この点につき、予め説明しておく。
【0021】
特に他に定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術および科学用語は、本発明が属する分野の当業者が普通に理解するものと同じ意味を有する。本出願全体で使用される次の用語は、以下の意味を持つものとする。
【0022】
特に明記しない限り、「または」は「および/または」、「備える」は、描写されているコンポーネント、ステップ、操作、または要素に対する1つまたは複数の他のコンポーネント、ステップ、操作、または要素の存在または追加を除外しないことを意味する。本明細書で記載されている「含む」、「備える」、「含有する」、「包括する」、「有する」は互換性があり、制限ではない。本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用するとき、単数形「一」および「この」は、その文脈が特に明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。例えば「一」、「この」、「1つまたは複数の」、および「少なくとも1つ」という用語は、本明細書では互換的に使用されることができる。
【0023】
本発明は、ポリイミド系共重合体に関し、ポリイミド系共重合体は二無水物と、2つのベンゼン環を有し、前記2つのベンゼン環の間で2つのエーテル結合、2つのスルフィド結合、または1つのエーテル結合および1つのスルフィド結合がある複素環式ジアミンの共重合体を含むことを特徴とする。別の態様において、本発明も電子機器に関し、誘電体および/またはフレキシブル基板としての前記ポリイミド系共重合体を含むことを特徴とする。また、発明も電界効果トランジスタに関し、電体および/またはフレキシブル基板としての前記ポリイミド系共重合体を含むことを特徴とする。
【0024】
本明細書に記載の「ポリイミド系共重合体(polyimide-based copolymer)」とは、二無水物と複素環式ジアミンの共重合体を指し、ここで前記複素環式ジアミンは2つのベンゼン環を有し、前記2つのベンゼン環の間に2つのエーテル結合、2つのスルフィド結合、または1つのエーテル結合および1つのスルフィド結合があり;本明細書に記載のポリイミド系共重合体も前記共重合体の誘導体、前駆体、置換物またはその他のモノマーとの共重合体などのポリイミド関連ポリマーを含む。
【0025】
好ましい実施例において、本発明のポリイミド系共重合体は、2つのベンゼン環間に2つのエーテルまたはスルフィド結合を有する3種類のジアミン(SSDA、SODA、OODA)、PMDAおよび/またはBPDAと共重合されたポリイミドを含む。好ましい実施例において、本発明のポリイミド系共重合体は、式(I)の構造を含む。
【化9】
…式(I)
ここで、前記式(I)中のmおよびnは、各々独立してモル数を表し、m:nのモル比は例えば、0.5:9.5、1:9、1.5:8.5、2:8、2.5:7.5、3:7、3.5:6.5、4:6、4.5:5.5、5:5、5.5:4.5、6:4、6.5:3.5、7:3、7.5:2.5、8:2、8.5:1.5、9:1または9.5:0.5であるが、これらに限定されない。
【0026】
好ましい実施例において、本発明のポリイミド系共重合体は、式(I)の構造を含む。
【化10】
…式(I)
ここで、前記式(I)中のmおよびnは、各々独立してモル数を表し、m:nのモル比は7:3~3:7であることが好ましく、例えば7:3、6.5:3.5、6:4、5.5:4.5、5:5、4.5:5.5、4:6、3.5:6.5または3:7であるが、これらに限定されない。
【0027】
好ましい実施例において、本発明のポリイミド系共重合体は、式(I)の構造を含む。
【0028】
好ましい実施例において、本発明のポリイミド系共重合体は、式(I)の構造を含む。
【化11】
…式(I)
ここで、前記式(I)中のmおよびnは、各々独立してモル数を表し、m:nのモル比は5:5である。
【0029】
好ましい実施例において、本発明のポリイミド系共重合体は、式(II)の構造を含む。
【化12】
…式(II)
ここで、前記式(II)の構造中の
【化13】
【化14】
のいずれかを表す。
【0030】
好ましい実施例において、本発明のポリイミド系共重合体は、式(II)の構造を含む。
【化15】
…式(II)
ここで、前記式(II)の構造中の
【化16】
【化17】
【0031】
好ましい実施例において、本発明のポリイミド系共重合体は、ポリイミド前駆体、例えばポリ(アミック酸)(poly(amic acid),PAA)を含み、前駆体の形成がジアミンのアミン基と二無水物のカルボニル基との間の求核反応によるものである。好ましい実施例において、本発明のポリイミド系共重合体は、式(III)の構造を含む。
【化18】
…式(III)
ここで、
【化19】
【化20】
のいずれかとこれらの組み合わせを表す。
【0032】
好ましい実施例において、本発明のポリイミド系共重合体は、式(III)の構造を含む。
【化21】
…式(III)
ここで、
【化22】
【化23】
の組み合わせを表し、かつPM:BPのモル比は例えば、0.5:9.5、1:9、1.5:8.5、2:8、2.5:7.5、3:7、3.5:6.5:、4:6、4.5:5.5、5:5、5.5:4.5、6:4、6.5:3.5、7:3、7.5:2.5、8:2、8.5:1.5、9:1または9.5:0.5であるが、これらに限定されない。
【0033】
好ましい実施例において、本発明のポリイミド系共重合体は、式(III)の構造を含む。
【化24】
…式(III)
ここで、
【化25】
【化26】
かつPM:BP的モル比は5:5である。好ましい実施例において、本発明のポリイミド系共重合体は、PAA(SSDA-PMDA)、PAA(SSDA-BPDA)、PAA(SODA-PMDA)、PAA(SODA-BPDA)、PAA(OODA-PMDA)および/またはPAA(OODA-BPDA)。
【0034】
本明細書に記載の「二無水物」とは、ジアミンとイミド(imidation)化してポリイミド系共重合体を形成できる構造を指し、例えば二無水物は、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、3,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物ジカルボン酸無水物、3,3’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、3,4’-オキシジフタル酸無水物、4,4’-ビスフェノールA二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ジエチレントリアミン五酢酸二無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物、2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、4,4’-ビスフェノールA無水ジフタル酸、5-(2,5-ジオキシテトラヒドロ)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、エチレングリコールビス(トリメリット酸無水物)、およびヒドロキノンジフタル酸無水物からなる群の少なくとも1種から選択されるものであるが、これらに限定されない。好ましい実施例において、前述二無水物包括ピロメリット酸二無水物(PMDA)および/または3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物(BPDA)である。
【0035】
本明細書に記載の「複素環式ジアミン」は、2つのベンゼン環を有し、前記2つのベンゼン環間に2つのエーテル結合、2つのスルフィド結合、または1つのエーテル結合および1つのエーテル結合があり、例えば2,6-ジアミノチアンスレン(2,6-diaminothianthrene、SSDA)、2,6-ジアミノフェノキサチイン(2,6-diaminophenoxathiin、SODA)または2,6-ジアミノジベンゾ-p-ダイオキシン(2,6-diaminodibenzo-p-dioxin、OODA)であるがこれらに限定されない。
【0036】
本発明のポリイミド系共重合体は、高い熱的・機械的安定性、柔軟性および低吸水性を有し、様々な電子部品、電子機器に応用されることができ、例えば積層体、ディスプレイ用部材、タッチパネル部材、液晶ディスプレイ、および有機ELディスプレイなど(例:OLEDまたはLCD)、電子ペーパー、太陽電池などの電子機器内の可撓性デバイスの製造であり、特に、可撓性デバイスの基板として使用できる。より好ましくは、例えば有機電界効果トランジスタ(organic field-effect transistor、OFET)、有機薄膜太陽電池(organic photovoltaics、OPV)、有機発光ダイオード(organic light-emitting diodes、OLED)および記憶装置等に応用されることができる。好ましい実施例において、本発明は、前記ポリイミド系共重合体を含む電子部品、電子機器を提供する。好ましい実施例において、本発明は、誘電体および/またはフレキシブル基板としての前記ポリイミド系共重合体を含む電子機器を提供する。
【0037】
好ましい実施例において、本発明は、例えば金属酸化物半導体電界効果トランジスタ、接合型電界効果トランジスタなどであるがこれらに限定されない電界効果トランジスタ(Field effect transistor、FET)である電子機器を提供する。好ましい実施例において、本発明は、誘電体および/またはフレキシブル基板としての前記ポリイミド系共重合体を含む電界効果トランジスタを提供する。好ましい実施例において、本発明は、トップゲート型(top-gate)、ボトムゲート型(bottom-gate)、トップコンタクト型(top-contact)またはボトムコンタクト型(bottom-contact)で配置され、前記ポリイミド系共重合体を含む誘電体を備えた電界効果トランジスタを提供する。好ましい実施例において、本発明は、ソースと、ドレインと、活性層と、誘電体と、ゲートと、前記ポリイミド系共重合体を含む基板と、を備え、ボトムゲート-トップコンタクト型(bottom-gate-top-contact、BGTC)で配置された電界効果トランジスタを提供する。
【0038】
本発明の様々な態様および奏する効果を説明するため、以下に本発明の様々な態様の非限定的な実施例を提供する。
【0039】
[実施例]-フレキシブル有機電界効果トランジスタの製造
本実施例のフレキシブルトランジスタデバイスは、ボトムゲート-トップコンタクト型(bottom-gate-top-contact、BGTC)に基づいて配置(
図1a)され、ここで、例えば式(II)の構造を有する本発明のポリイミド系共重合体を基板として使用し、好ましくはPI(OODA-BPDA)またはPI(OODA-P5B5)を基板とし、PAA(OODA-P5B5)を誘電体とし、イソインジゴ-ビチオフェン(isoindigo-bithiophene)共役高分子PII2T(構造式は、下式(IV))を半導体活性層とする。
【化27】
…式(IV)
【0040】
A.実験部分
材料:ジアミンを調製するために使用されるすべての試薬および溶媒は、商業的に入手した。芳香族二無水物PMDAおよびBPDAは日本TCI社から購入し、160℃および200℃でそれぞれ24時間および12時間の真空昇華によって精製した。微量の水(≦50ppm)を含む無水N,N-ジメチルアセトアミド(N,N-dimethylacetamide、DMAc)は、米国Sigma-Aldrich社から購入した。OFETの活性層を調製するため、非対称側鎖デシルテトラデカン分岐アルキル(decyltetradecane branched alkyl)側鎖およびカルボシラン側鎖を有する半導電性イソインジゴ-ビチオフェン共役コポリマー(isoindigo-bithiophene conjugated copolymer、PII2T)を使用した。
【0041】
ジアミンモノマーの合成:先行技術文献(非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6)に開示されている方法で本実施例のジアミンモノマーSSDA、SODAおよびOODAを調製した。前記ジアミンの合成方法および構造キャラクタリゼーション(
1Hおよび
13C NMRを含む)は、
図2、
図3および
図4に示されている。
【0042】
ポリイミドの合成:2.50mmolジアミン(例:SSDA、SODAまたはOODA)を無水DMAcに溶解し、次に2.50mmolの二無水物(例:PMDAまたはBPDA)を添加した。窒素雰囲気下、室温で8時間ゆっくりと撹拌した後、粘稠なPAA溶液を形成させた。PAA溶液の粘度は、最初の30分以内に急速に増加するため、十分に撹拌できるように溶液に無水DMAcを加えることができることに留意されたい(PAA溶液の固形分を10~15重量%の範囲に維持)。その後、無水フタル酸(7.4mg、5x10-5mol)をエンドキャッパーとして前記溶液に添加し、得られた溶液を室温で30分撹拌した。ポリイミドフィルムを調製するため、PAA溶液を600μmのギャップのあるスパチュラで清潔で乾燥したガラス基板上にキャストした。ポリマー鎖をより良く整列させ、フィルムの変形を低減するため、キャストされたPAAフィルム中の溶媒を、真空下、30℃および100℃で、それぞれ15時間および2時間除去した。次に、窒素雰囲気下、200℃で2時間、300℃で2時間、350℃で連続1時間、最後に400℃で1時間といった連続熱処理を実施して、完全にイミド化されたポリイミド(MXYDA-ArDA)を得た。
【0043】
PAA(SSDA-PMDA):反応物および溶媒の使用量:SSDA(615mg、2.50mmol)、PMDA(545mg、2.50mmol)、DMAc(6.57g)。SEC(サイズ排除クロマトグラフィー、Size-Exclusion Chromatography)によって推定された分子量:Mn=30.2kDa,Mw=57.4kDa,D=1.90。赤外線スペクトル(IR)(KBr,n,cm-1):3200-3600(O-H伸縮)、1554、1662(N-H曲げ)。1H NMR(400Hz,DMSO-d6,25℃):δ(ppm)=10.76(d,J=12Hz,N-H),8.38(s,Ar-H),8.08(d,J=8Hz,Ar-H),8.03(s,Ar-H),7.80(s,Ar-H),7.60(s,Ar-H),7.56(s,Ar-H)。
【0044】
PAA(SSDA-BPDA):反応物および溶媒の使用量:SSDA(615mg,2.50mmol)、BPDA(735mg,2.50mmol)、DMAc(7.65g)。SECによって推定された分子量:Mn=35.7kDa,Mw=65.3kDa,D=1.83。IR(KBr,n,cm-1):3200-3600(O-H伸縮)、1584、1660(N-H曲げ)。1H NMR(400Hz,DMSO-d6,25℃):δ(ppm)=10.63(s,N-H)、8.26(d,J=20Hz,Ar-H),8.12(s,Ar-H),8.07(s,Ar-H),8.02(s,Ar-H),7.97(s,Ar-H),7.72(s,Ar-H),7.59(s,Ar-H),7.59(s,Ar-H)。
【0045】
PAA(SODA-PMDA):反応物および溶媒の使用量:SODA(575mg,2.50mmol)、PMDA(545 mg,2.50mmol)、DMAc(6.35g)。SECによって推定された分子量:Mn=33.9kDa,Mw=70.8kDa,D=2.09。IR(KBr,n,cm-1):3200-3600(O-H伸縮)、1602、1660(N-H曲げ)。1H NMR(400Hz,DMSO-d6,25℃):δ(ppm)=10.68(q,J=16Hz,N-H),8.37(d,J=4Hz,Ar-H),8.02(d,J=4Hz,Ar-H),7.79(d,J=4 Hz,Ar-H),7.68 (q,J=16Hz,Ar-H),7.36(m,Ar-H),7.19(m,Ar-H)。
【0046】
PAA(SODA-BPDA):反応物および溶媒の使用量:SODA(575 mg,2.50mmol)、BPDA(735mg,2.50mmol)、DMAc(7.42g)。SECによって推定された分子量:Mn=35.8kDa,Mw=66.9kDa,D= 1.87。IR(KBr,n,cm-1):3200-3600(O-H伸縮)、1602、1656(N-H曲げ)。1H NMR(400Hz,DMSO-d6,25℃):δ(ppm)=10.66(d,J=36Hz,N-H),8.28(d,J=24Hz,Ar-H),8.14 (s,Ar-H),8.05(s,Ar-H),8.00(s,Ar-H),7.99(s,Ar-H),7.71(d,J=16 Hz,Ar-H),7.48(d,J=40Hz,Ar-H),7.19(d,J=44Hz,Ar-H)。
【0047】
PAA(OODA-PMDA):反応物および溶媒の使用量:OODA(603mg,2.50mmol)、PMDA(545mg,2.50mmol)、DMAc(6.50g)。SECによって推定された分子量:Mn=34.2kDa,Mw=57.4kDa,D= 1.68。IR(KBr,n,cm-1):3200-3600(O-H伸縮)、1546、1660(N-H曲げ)。1H NMR(400Hz,DMSO-d6,25℃):δ(ppm)=10.60(d,J=12Hz,N-H),8.36(s,Ar-H),8.00(s,Ar-H),7.76(s,Ar-H),7.48(s,Ar-H),7.25(s,Ar-H),7.06(s, Ar-H)。
【0048】
PAA(OODA-BPDA):反応物および溶媒の使用量:OODA(603mg,2.50mmol)、BPDA(735 mg,2.50mmol)、DMAc(7.58g)。SECによって推定された分子量:Mn=36.4kDa,Mw=62.9kDa,D=1.73。IR(KBr,n,cm-1):3200-3600(O-H伸縮)、1550、1602(N-H曲げ)。1H NMR(400Hz,DMSO-d6,25℃):δ(ppm)=10.55(s,N-H),8.27(d,J=20Hz,Ar-H),8.14(s,Ar-H),8.04(s,Ar-H),7.98(s,Ar-H),7.75(s,Ar-H),7.51(s,Ar-H),7.26(s,Ar-H),7.05(s,Ar-H)。
【0049】
co-PI PI(OODA-PmBn)の合成:上記に似たプロセスでPAAおよびPIフィルムを調製した。共重合の場合は、ジアミンOODAをDMAcに溶解し、次に等モル量の二無水物(PMDAおよびBPDA)を溶解し、仕込み比(m:n)は10:0、7:3、5:5、3:7および0:10であった。PMDAとBPDAとの間のモル比に基づいて、共重合されたポリイミド(co-PI)をPI(OODA-PmBn)と名付けた。
【0050】
PAA(OODA-P7B3):反応物および溶媒の使用量:OODA(603mg,2.50mmol)、PMDA(382mg,1.75mmol)、BPDA(221mg,0.750mmol)、DMAc(6.83g)。SECによって推定された分子量:Mn= 34.3 kDa,Mw=63.1kDa,D=1.84。IR (KBr,n,cm-1):3200-3600(O-H伸縮)、1552、1604(N-H曲げ)。1H NMR(400Hz,DMSO-d6,25℃):δ(ppm)=10.60(d,J=12 Hz,N-H),10.50(s,N-H),8.37(s,Ar-H),8.29(d,J=24Hz,Ar-H),8.15(s,Ar-H),8.05(s,Ar-H),8.01(s,Ar-H),7.77(s,Ar-H),7.75(s,Ar-H),7.52(s,Ar-H),7.48(s,Ar-H),7.26(s,Ar-H),7.24(s,Ar-H),7.06(s,Ar-H),7.04(s,Ar-H)。
【0051】
PAA(OODA-P5B5):反応物および溶媒の使用量:OODA(603mg,2.50mmol)、PMDA(273 mg,1.50mmol)、BPDA(367mg,1.50mmol)、DMAc(7.04g)。SECによって推定された分子量:Mn=35.8kDa,Mw=69.8kDa,D=1.95。IR(KBr,n,cm-1):3200-3600(O-H伸縮)、1551、1604(N-H曲げ)。1H NMR(400Hz,DMSO-d6,25℃):δ(ppm)=10.61(d,J=24Hz,N-H),10.51 (s,N-H),8.37(s,Ar-H),8.29(d,J=20Hz,Ar-H),8.13(s,Ar-H),8.05(s,Ar-H),8.02(s,Ar-H),7.77(s,Ar-H),7.76(s,Ar-H),7.51(s,Ar-H),7.49(s,Ar-H),7.27(s,Ar-H),7.24(s,Ar-H),7.06(s,Ar-H),7.04(s,Ar-H)。
【0052】
PAA(OODA-P3B7):反応物および溶媒の使用量:OODA(603mg,2.50mmol)、PMDA(164 mg,0.750mmol)、BPDA(514.5mg,1.75mmol)、DMAc(7.26g)。SECによって推定された分子量:Mn =35.7kDa,Mw=63.9kDa,D=1.79。IR(KBr,n,cm-1):3200-3600(O-H伸縮)、1578、1634(N-H曲げ)。1H NMR(400Hz,DMSO-d6,25℃):δ(ppm)=10.61(d,J=12Hz,N-H),10.51(s,N-H),8.39(s,Ar-H),8.30(d,J=20Hz,Ar-H),8.14(s,Ar-H),8.06(s,Ar-H),8.03(s,Ar-H),7.78(s,Ar-H),7.76(s,Ar-H),7.53(s,Ar-H),7.52(s,Ar-H),7.29(s,Ar-H),7.25(s,Ar-H),7.07(s,Ar-H),7.05(s,Ar-H)。
【0053】
キャラクタリゼーション分析:合成材料の構造特性分析のため、溶媒として重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)を使用し、Bruker DPX-300S分光器の上で400MHzの共鳴周波数で1H NMRおよび13C NMRスペクトルを記録した。FT-IRスペクトルは、Horiba FT-120フーリエ変換赤外分光光度計で得られた。融点測定装置(MPA-100)で融点を測定した。Viscotek TDL 302を使用し、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)で合成されたポリマーの分子量、すなわち、数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)の値を評価した。0.06M臭化リチウム(LiBr)および0.06Mリン酸(H3PO4)を含有するジメチルホルムアミドを1.0ml/minの流速で溶離液として使用した。オストワルド粘度を用いて30℃下で合成されたポリマーの固有粘度([η])を測定し、固有粘度値の計算式は次の式で表され、
[η]=ln ηrel/c
式中、ηrel=η/η0となり、相対粘度(ηrel)およびcは、ポリマー溶液の濃度(DMAcの中で0.5重量%)であり、ηとη0はそれぞれポリマー溶液とDMAcが30℃下で測定された粘度である。
【0054】
熱性能を特徴づけるため、TA Q50熱重量分析装置を介して窒素気流下で10℃/min-1の加熱速度でTdを得た。TA Q20示差走査熱量測定装置を介してTgを測定し、窒素雰囲気下で10℃/min-1の加熱速度で、50℃から400℃に加熱した。なお、動的機械分析を介して窒素雰囲気下で5℃/min-1の加熱速度で50℃から450℃に加熱し、正弦波負荷周波数が0.1Hz、振幅が10gfの条件で、ポリマーフィルムのTgを推定した。α-Tg値は、正接(tan delta)曲線のピーク値によって確定され、正接曲線が測定された貯蔵弾性率(E’)および損失弾性率(E’’)から算出された。PIフィルムのCTEはTA Q400熱力学分析を介して窒素雰囲気下で5℃/min-1の加熱速度で50℃から350℃に加熱した。0.05Nに設定された静的固定負荷下で測定した。2回目の加熱スキャンから50~300℃の範囲でCTE値を評価した。
【0055】
E、UTSおよびε
bの機械的特性は、機械的試験機(ユニバーサル試験機、Universal testing machine)を介して5mm min
-1のクロスヘッド速度で測定された。試験フィルムのサイズは、長さ約20mm、幅3mm、厚さ20~30μmであった。PIフィルムの厚さは、マイクロメータで測定された。PIの分子充填係数(K
P)を推定するため、室温でPIフィルムの密度(ρ)を、固体密度計(TWS-214E、MatsuHaku社製)および脱イオン水を用いて測定した。試験フィルムの重量は約100mgであった。PIフィルムのK
P値は、次の式に基づいて計算され、
K
P=N
A ×V
vdw × ρ/M、
ここでのN
Aは、アボガドロ定数、V
vdwは繰り返し単位のファンデルワールス体積、Mは繰り返し分子の分子量である。PIモデルのV
vdw値は、モノマーとダイマーの繰り返し単位で構成され(
図5)、スロミンスキー法に従ってBondiで報告されたファンデルワールス半径を使用して計算された。密度汎関数理論を使用してB3LYP/6-311G(d,p)理論レベルでモデルの分子構造を最適化した。
【0056】
吸水試験について、まずフィルムサンプルを100℃の真空下で8時間ベークし、前記フィルムサンプルの乾燥重量W1を秤量した。試験フィルムの重量は約100mgであった。その後、フィルムサンプルを室温の水浴に24時間浸漬し、次に液滴を拭き取り、湿重量W2を秤量した。吸水率(A%)は、次の式で計算された。
A%=(W2-W1)/W1×100%
【0057】
誘電特性について、ベクトルネットワークアナライザ(R&S ZVB vector network analyzer、VNA)を介して10GHz分析周波数で比誘電率(Dk)および誘電正接(Df)を測定した。フィルムサンプルの面積は、約25cm2、厚度が約25μmであった。
【0058】
フレキシブル有機電界効果トランジスタの製造:本実施例のフレキシブルトランジスタデバイスは、PI(OODA-BPDA)またはPI(OODA-P5B5)を基板/基材、PAA(OODA-P5B5)を誘電体、PII2Tを半導体活性層としてボトムゲート-トップコンタクト型(BGTC)に基づいて配置された(
図1a)。
【0059】
調製されたPIフィルムを5cm×5cmのサイズのフレキシブル電界効果トランジスタの基板を製造するために使用し、超音波浴中で水、イソプロピルアルコールおよびアセトンで30分間注意深く洗浄した。次に、洗浄した基板を使用前に真空中で8時間乾燥させた。その後、金ゲートは、10-7torrの下で0.3~0.4nm s-1の速度で従来のマスクで堆積される。誘電体PAA(OODA-P5B5)を前述のように調製した後、希釈したPAA溶液(7.5重量%、無水DMAcを溶媒とする)を、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜のシリンジフィルターでろ過し、8000rpmの速度で60秒間ゲートを備えた基板上のスピンコーティング(以下、スピンコーティングと略称する)した。その後、PAAフィルムを真空下、100℃で2時間キャスト(cast)し、200℃、300℃、400℃でそれぞれ1時間硬化させて、十分なポリアミド化を完了した。調製されたポリマー誘電体の厚さは、420nmと推定された。活性層は、ダブルプリント(double-print)ポリマーフィルムで調製し、まずイソインジゴポリマー溶液(5mg mL-1、無水クロロホルムに溶解)をODTS(n-octadecyltrichlorosilane、n-オクタデシルトリクロロシラン)で変性されたシリコンチップ上で2000rpmの速度で30秒間スピンコーティングし、次いで真空下、160℃で30分間熱アニール処理を施した。調製されたフィルムを転写し、弾性ポリジメチルシロキサン(poly(dimethylsiloxane),PDMS)(基材/架橋剤=15:1w/w)プレートに印刷した。その後、ポリマー/PDMSマトリックスを誘電体にダブルプリントし、活性層の厚さを約50nmと確認した。最後に、長さと幅が50と1000μmのチャネルを備えたトップコンタクト型ソースおよびドレインとしてマスクを介して金を堆積し、操作条件はゲート堆積条件と同じであった。
【0060】
ケースレー4200-SCS半導体パラメータアナライザ(ケースレーインスツルメンツ社、オハイオ州クリーブランド)を介して室温下で、N2で満たされたグローブボックス内においてRemote PreAmp(4200-PA)を用いてOFET特性を検査した。ドレイン-ソース間電流(drain-to-source current,IDS
1/2)対ゲート電圧(VG)の平方根の線形グラフの傾きと切片から電荷移動度(μh)と閾値電圧(VTH)を推定し、飽和状態下の次の式で表わす通りであり、
IDS=(W×Cs×μh)×(VG-VTH)2/2L
ここでWとLはチャネルの幅と長さ、Csはポリマーの誘電体面積容量(areal capacitance)であり、ケースレー4200-SCS半導体パラメータアナライザを介して104Hzで金属-絶縁体-金属(metal-insulator-metal,MIM)配置で測定できる。
【0061】
B.結果と考察
a).ポリイミドの合成
図6aおよび
図6bに示すように、本実施例では、2つのベンゼン環間に2つのエーテルまたはスルフィド結合を有する3つのジアミン(SSDA、SODA、OODA)、PMDAまたはBPDAと共重合されたPIを調製した。ポリ(アミック酸)(poly(amic acid),PAA)前駆体の形成は、ジアミンのアミン基と二無水物のカルボニル基との間の求核反応によるものである。
図7、
図3、および
図4に示すように、合成されたジアミン(SSDA、SODA、OODA)、PAA、およびPIの構造特徴は、
1H NMRおよびFTIRを用いて特性分析を行った。付加反応による酸無水物の開環効果により、調製されたPAAは、空間配置が異なる2種類の立体異性体を有し、例えばそれぞれ10.4~10.6および10.6~10.9ppmの範囲でPMDAおよびBPDAのPAAアミド基の特徴的なシグナルが観察された(
図7)。PIにおけるPMDAとBPDAのモル組成は、アミド基<10.6ppmシグナルおよび>10.6ppmシグナルの積分値から計算された。これは、理論上の仕込み比と一致している。FT-IRスペクトルを介してPAAからPIへの変換を確認した(
図8)。伸縮されたO-H結合は、3,200~3,600cm
-1の広いバンドで消失し、イミド化が完了したことを示す。表1に合成されたPIの固有特性(例:分子量や固有粘度)をまとめた。合成されたPAAは、超高分子量(約30~40kDa)と固有粘度(高於1 dL g
-1以上)を備えているため、強靱で弾力性を持つPIフィルムを確実に形成できる。上記のすべての特性分析結果は、本実施例がターゲットポリイミドの調製に成功したことを示している。PMDAとBPDA二無水物およびOODAジアミンから合成されたコポリイミド(すなわち、PI(OODA-PmBn))の構造的特徴が
図9に示されている。
【表1】
注:
aは、SECによって確定され、D=M
w/M
nとなり;
bは、オストワルド粘度計で確定され;
cは、VNAによって10GHz下で確定され;
dは、固体密度計によって確定され;
eは、次の式で計算して得られ;
fは、吸水率試験によって確定され;詳細な手順は、実験の部分で記載されている通りである。
K
P=N
A×ΣΔV
ixρ/M
【0062】
b).分子の充填密度および吸水率
実施例PIのフィルム密度(ρ)、充填係数(K
p)および吸水率(A%)を表1に示す。ポリマー鎖のパッキングと配列を理解するため、
図10に示すように、3つのジアミンの最良の幾何学的構造を研究した。本実施例で選択されるジアミンの二面角は、SSDA(139°)<SODA(150°)<OODA(180°)の順で増加した。なお、PIのK
p値は、PI繰り返し単位の実測されたフィルム密度と計算されたファンデルワールス体積に基づいて推定された(
図5)。より高いフィルム密度(約1.5g cm
-3)とK
p値(約0.7)は、これらのPIフィルムの分子パッキングが従来のPIよりも密度が高いことを示している。既知K
p値は主にフィルム密度によって決定される。BPDAから誘導されたPIは、ジアミンの二面角の増加に伴ってKp値の増加を示し、すなわち、PI(SSDA-BPDA)<PI(SODA-BPDA)<PI(OODA-BPDA)である。対照的にPMDAを有するPIのK
pは、PI(SSDA-PMDA)<PI(OODA-PMDA)<PI(SODA-PMDA)の順であることが観察された。OODAベースのPIは、より高いK
p値を示すはずであるが、PI(OODA-PMDA)の比較的低いフィルム密度はK
pの低減に役立つ。このような結果は、PI(OODA-PMDA)の骨格が非常に硬いため、鎖のパッキングと配列の不良につながる可能性がある。一方、調製されたco-PI(共重合ポリイミド、すなわちPI(OODA-PmBn))は、より高いフィルム密度とK
p値を有することが観察された。この結果は、次の2つの側面によるものであり、すなわち、一つ目は回転可能なビフェニル構造を有するBPDA単位をPIに導入することによって、鎖の柔軟性を改善して、より優れた固体パッキングを実現できる。二つ目は、PMDAおよびBPDA単位を使用することでPIの剛性を維持できる。上記の結果は、構造の剛性と形態の柔軟性との間のバランスを通じてポリマー鎖の配列を改善できることを示している。
【0063】
同時に本発明のPIの吸水率(0.9%)は、先行技術に開示されている低CTEEベンゾオキサゾールPI(1.3%)またはベンズイミダゾールPI(5.0%)よりもはるかに低い。極性官能基(例:ベンズイミダゾールのN-H基)を含むPIは、水分子と水素結合を形成できるため、A%の増加につながる。対照的に、本発明のPIは、電子機器のフレキシブル基板として使用されるように、A%を低レベルに維持するため、剛性のポリマー主鎖のみを含む。
【0064】
c).熱的・機械的特性
表2は、熱抵抗(すなわち、T
dおよびT
g)および寸法熱安定性(すなわち、CTE)を含む本実施例のPIの熱的特性を示す。TGA、DMAおよびTMAの実験データは、
図1、
図11および
図12を参照のこと。結果からわかるように、すべての実施例のPIが優れた耐熱性(T
d>500℃およびT
g>400℃)と高い寸法安定性(CTE<30ppmK
-1)を示している。
【表2】
注:
aは、窒素気流下で5%重量減少のTGA測定によって確定され;
bは空気気流下で5%重量減少のTGAによって確定され;
cは、DSCによって確定され;
dは、DMAによって確定され;
eは、TMAによって確定され;
fは、引張弾性率(E)がUTMによって確定される。
【0065】
図13aに示すように、窒素気流下で測定された実施例のPIのT
d値は、骨格および固体パッキングに沿った最も弱い結合の強度に密接に関連している。したがって、強靱なリンクを有するBPDAを含むPIのT
dは、PMDAを含むPIよりも低くなり、例えばPI(SSDA-PMDA)、PI(SSDA-BPDA)、PI(SODA-PMDA)、およびPI(SODA-BPDA)のT
d値はそれぞれ531℃、525℃、548℃、538℃であるが、PI(OODA-BPDA)のT
d(546℃)はPI(OODA-BPDA)のT
d(533℃)よりも高くなっている。これは、PI(OODA-BPDA)(K
p=0.702)は、高剛性の骨格を持つPI(OODA-PMDA)(K
p=0.684)よりも鎖のパッキングが密であるためである。なお、BPDAから誘導されたPIのT
d値は、SSDA<SODA<OODAの順に増加し、この現象が次の2つの要因によるものであり、すなわち(1)OODAの最大二面角の平面構造形態による密な鎖パッキングは、比較的高いK
p値(0.702)でも確認でき;(2)C-O結合(358kJ mol
-1)の結合エネルギーはC-S結合(259kJ mol
-1)の結合エネルギーよりも高く、ポリマー鎖のパッキングと結合エネルギーが高いほど、PI(OODA-BPDA)のT
d値が最も高くなる。逆に、PI(SODA-PMDA)は、PMDAから誘導されたPIの中で最も高いT
d,を示し、これは骨格の比較高い剛性によりPI(OODA-PMDA)の充填密度が低いことによるものである。表2および
図12aに示すように、PI(OODA-P3B7)、PI(OODA-P5B5)、およびPI(OODA-P7B3)といったPI(OODA-PmBn)シリーズの場合、これらのco-PIのT
d値は類似し、それぞれ532℃、538℃、および536℃であった。この結果は、これらのco-PI間で類似したフィルム密度とK
p値があることによるものである。窒素気流中のPIのT
dと比較して、空気気流下で測定されたT
d,air(co-PIの場合は
図11aと
図12b)はそれぞれ15~20℃低下し、このような結果は各PIに類似の酸化作用があることを示している。
【0066】
実施例のPIのTg値は、DSC(Co-PIの場合は
図11bと
図12c)およびDMA(Co-PIの場合は
図13bと
図12d)から得られた。DSC分析によると、400℃未満の曲線には変曲点がなかった。DMA分析によると、
図14のtan delta(δ)曲線のピークは広すぎてα-T
gを確定できなかった。ただし、これらの結果は、すべての実施例のPIのT
g値が非常に高く、400℃よりも高いはずであることを示している。
【0067】
次に、TMAで熱寸法安定性の主な指標CTEを検査した。表2は、
図13cと
図12e(co-PIの場合)から得られたPIのCTE値をまとめたものである。表に示すように、PI(SSDA-PMDA)、PI(SSDA-BPDA)、PI(SODA-PMDA)、PI(SODA-BPDA)、PI(OODA-PMDA)およびPI(OODA-BPDA)的CTE値はそれぞれ19、30、14、24、7.3および11ppmK
-1であった。PIの3つのシリーズの中で、PI(OODA-PMDA)およびPI(OODA-BPDA)は、400℃でのT
gが高く、CTEが非常に低いため、電子デバイス/機器に最適な基板の選択肢になっている。OODAジアミンから誘導されるPIは、ベンズイミダゾールおよびベンゾオキサゾール系ジアミンから誘導される従来のPIに匹敵する熱的および機械的特性を持っている。ジアミン部分の二面角の増加に伴い、同じ二無水物から誘導されたPIのCTEは、SSDA>SODA>OODAの順に減少し、これは骨格の構造的剛性とより高い共面性により、高温下では鎖の動きが制限され、PI主鎖の面内配向の程度が高くなると、面内(in-plane)CTEが低下することになる。BPDAの回転可能なリンクにより、BPDAを含むPIのCTE値は高くなる可能性があるが、PI(OODA-PMDA)およびPI(OODA-BPDA)のCTE値の差(約3ppmK
-1)は他のPIのほど顕著することはなかった。この現象は、PI(OODA-PMDA)の鎖パッキングと機械的特性が比較的低いことにより、CTEが高くなる可能性がある。ただし、PI(OODA-PmBn)シリーズは、加熱時に寸法安定性の改善を示し、PI(OODA-P7B3)、PI(OODA-P5B5)およびPI(OODA-P3B7)のCTE値が7.1、5.5、9.2ppmK
-1であった。それにもかかわらず、PI(OODA-P5B5)は、
図15aに示すように、すべてのPI系コポリマーの中で最も低いCTE(5.5ppmK
-1)を示した。この現象は、上記のPI(OODA-P5B5)は最も高いK
p値を有することによるものであり、ポリマー鎖のパッキングと配列がより良好であることを示している。したがって、PMDAとBPDAの共重合を通じて、実施例のPI系コポリマーにおけるPI(OODA-P5B5)のCTEは最小値に達し、剛性骨格とより良い鎖のパッキングとの間で最良のバランスを達成した。
【0068】
d).機械的特性
表2に応力-ひずみ曲線(co-PIの場合は、
図13dと
図12f)から得られたPI系共重合体の機械的特性をまとめた。棒状のPI(OODA-PMDA)を除いて、実施例のPIはすべて高い機械的特性(すなわち、極限引張強さ(ultimate tensile strength,UTS)>100MPa、破断時伸び(ε
b)>3%)を示した。
図13dに示すように、PI(SSDA-PMDA)、PI(SSDA-BPDA)、PI(SODA-PMDA)およびPI(SODA-BPDA)のUTS(MPa)とε
b(%)は、それぞれ(96、2.8)、(129、3.3)、(105、3.2)および(144、3.7)であった。BPDAベースのPIは、PMDAよりもUTSとε
bの値が高くなっている。SODAを含み適度な二面角を有するPIは、より高いUTSおよびε
b値を同時に得ることができ、この現象はポリマーの主鎖/骨格の剛性と強靭性との間のバランスによるものである。co-PI PI(OODA-PmBn)の応力-ひずみ曲線の要約データを
図15bに示している。BPDAのモル比が0%から50%に増加すると、UTSおよびε
bは最大値に達した。含有するBPDAが増加すると、調製されたPIフィルムは脆性から延性へ遷移する。ポリマーの配列と鎖の剛性が改善したため、co-PI PI(OODA-P5B5)は特にUTS(131MPa)およびε
b(3.7%)の値が最も高くなり、ポリマーの主鎖/骨格の剛性と強靭性との間のバランスにより、PI(OODA-P5B5)の高い機械的特性が生じた。
【0069】
e).誘電特性
下記のクラウジウス-モッソッティ方程式(Clausius-Mossotti equation)では、ポリマーの鎖分極率および自由体積が2つの重要な変数であり、モル極性(P)およびモル体積(V)を介して評価することで、比誘電率(Dk)を確定した。
Dk=(1+2P/V)/(1-P/V)
【0070】
表1から分かるように、実施例PIのDkは、以下のジアミンの順序(OODA、SODA、およびSSDA)に伴って増加した。PI(SSDA-PMDA)およびPI(SSDA-BPDA)のDk値はそれぞれ3.66と3.59であった。対照的に、PI(OODA-PMDA)およびPI(OODA-BPDA)のDkは3.28と3.19であった。硫黄原子の分極率は酸素原子の分極率よりも高いため、SSDAベースのPIはより高い比誘電率を示している。なお、PMDAベースのPIと比較して、実施例内のBPDAベースのPIは、BPDAベースのPI主鎖の回転可能なブリッジング単位がポリマーの自由体積を増加させるため、比較的低いDkを示している。その結果、クラウジウス-モッソッティ方程式を用いてモル体積の増加、Dkの減少を観察できる。OODAおよびPMDAから誘導されたPIと比較して、SSDAおよびBPDAから誘導されたPIの誘電正接(dissipation factor,Df)は比較的低く、すなわちPI(SSDA-PMDA)、PI(SSDA-BPDA)、PI(OODA)-PMDA)およびPI(OODA-BPDA)がそれぞれ0.007、0.006、0.008および0.007であった。PI(SSDA-BPDA)の低いDf値は、繰り返し単位内のイミン基の重量分率が低いことによるものである。
【0071】
f).フレキシブルOFETの製造および特性分析
基板としてのPIの利点を十分に活用するため、
図1および
図16に示すように、オールポリマーベースのフレキシブルトランジスタデバイス/機器を製造し、特性分析を行った。トランジスタデバイスの構造を
図1aおよび
図1bに示し、BGTC型で作製され、フレキシブル基板11と、ゲート12と、誘電体13と、活性層14と、ソース15と、ドレイン16と、を備えた有機電界効果トランジスタ100であり、前記活性層がPII2T(上記式(IV))であり、フレキシブル基板が上記式(II))を有する本発明のPI系共重合体である。他の組成のPIと比較して、PI(OODA-P5B5)は最も高い熱安定性および機械的耐久性を持っているため、合成共重合体PI(OODA-P5B5)を例示的なフレキシブル有機電界効果トランジスタ(OFET)デバイスの基板および誘電体として使用した。調性された厚さ約25μmのPI(OODA-P5B5)フィルムは、十分な硬さを有し、OFETの基板として使用できる。PI(OODA-P5B5)誘電体は、PAA溶液を厚さ約420nmのPI基板上にスピンコーティングすることによって作製された。PI(OODA-P5B5)のCTE値が最も低い(5.5ppmK
-1)ため、比誘電率は非常に低く(3.19)、200℃に加熱しても6.7nFcm
-2の安定した静電容量を持ち(
図17)、PI誘電体の優れた熱安定性と比較的低い比誘電率により、熱処理後にデバイスに電流が漏れるのを防ぐことができる。なお、PAAの親水性カルボン酸基は、誘電体フィルムの品質を改善させ、表面粗さを低減することができる。前述の原因により、本実施例は、OFETデバイスに応用するため、例示的な基板および誘電体材料としてPI(OODA-P5B5)を選択した。非対称側鎖エンジニアリングを有するPII2Tを活性層として使用した。活性層として、高い機械的耐久性、優れた半導体性能を持っているため、フレキシブルOFETデバイスへの応用に適している。
【0072】
PIベースのOFETデバイスは、PI(OODA-P5B5)基板および誘電体を使用して製造された。-30Vのドレイン電圧(V
D)を用いて、OFETデバイスのpチャネル(p-channel)伝達特性を分析した。PIベースのOFETの伝達および出力特性を
図16aおよび
図16bに示している。出力特性は、明確に定義された直線性と飽和状態を表し、かつ伝達特性に時計回りの電流ヒステリシスは観察されなかった。ドレイン電流(I
D)の平方根とゲート電圧(V
G)の-2~-12Vの線形当てはめによって確定される正孔移動度(μ
h)は、0.35cm
2V
-1s
-1という高い値を示している。PIベースのOFETデバイスのI
on/I
offおよびV
TH値は、それぞれ2.4×10
3および-2.4Vであった。PI(OODA-BPDA)を基板として使用したPIベースのOFETでも類似の電気的特性を観察でき(
図18a)、そのμ
h値は0.32cm
2 V
-1 s
-1で、I
on/I
offが3.8×10
3であり、V
TH値が-1.3Vであった。デバイス特性をさらに研究するため、高濃度nドープシリコン(n-doped Si)チップを基材とし、300nmのSiO
2を誘電体として従来の電界効果トランジスタ(FET)を製造し、そのドレイン電圧V
D=-100Vの時μ
hは0.43cm
2 V
-1 s
-1であり、オン/オフ電流比が2×10
6であり、比較的高い閾値電圧が-29Vであった(
図18b)。これらの結果は、シリコンベースのOFETと比較して、PI(OODA-BPDA)およびPI(OODA-P5B5)基板を使用したフレキシブルFETは匹敵できる性能を持つことを示している。さらに、ポリマー誘電体に由来する低V
TH(<-3V)により、FETはフレキシブル電子機器の応用にも非常に有用になる。
【0073】
フレキシブルトランジスタの信頼性を評価するため、機械的耐久性試験の下で繰り返し曲げを通じてOFET特性分析を行った。
図19aは、繰り返し曲げでの対応する伝達特性曲線を示している。デバイスの特性は、
図19bと表3にまとめられている。伝達特性曲線に基づいて計算された対応するμ
hs(cm
2 V
-1 s
-1)およびV
THs(V)は、50回と1000回の繰り返し曲げの前後でそれぞれ(0.35、-2.4)、(0.34、-2.1)および(0.34、-2.2)であった。なお、1000回の繰り返し曲げ後に明らかな磁気ヒステリシス/ヒステリシス現象は観察されなかった(
図20a)。以上の結果は、機械的耐久性試験で安定したOFET性能、およびフレキシブル電子製品の高い実現可能性を示している。
【表3】
注:
a電荷移動度μ
hの単位は、cm
2 V
-1 s
-1であり;
bオン/オフ電流比I
on/I
offの単位は、無次元であり;
c閾値電圧V
THの単位は、Vである。
【0074】
オールポリマーデバイスの熱安定性に基づいて特性分析を行い、対応するFET伝達特性曲線を
図21および
図22に示す。80℃、120℃、160℃および200℃の高温下でデバイスをベークした。FETの特性は
図21cと表4にまとめられている。図に示すように、80℃、120℃および160℃で2時間加熱した後、対応するμ
hはほぼ同じで、200℃で2時間加熱しただけでわずかに減少した。なお、デバイスは、80℃で1時間加熱した後、μ
hが徐々に増加(0.35から0.36cm
2 V
-1 s
-1)し、性能が低下しておらず、これは熱アニール処理後の半導体層のソリッドステートスタックがより優れていることによるものである。なお、200℃で2時間加熱した後、伝達特性は明らかなヒステリシスを示さず(
図18a)、熱安定性試験でOFETの性能が安定していることを示している。作製したPI系共重合体基板の高い寸法安定性は、面外(out-of-plane)しわの防止と200℃加熱時の性能維持に重要な役割を果たした。上記の結果は、CTEの低いPI系共重合体基板から作製されたフレキシブルトランジスタが優れた熱安定性と機械的耐久性を示し、フレキシブル電子製品での実際の応用に適していることを示している。
【表4】
注:
a電荷移動度μ
hの単位は、cm
2 V
-1 s
-1であり;
bオン/オフ電流比I
on/I
offの単位は、無次元であり;
c閾値電圧V
THの単位は、Vである。
【0075】
C.結論
実施例および様々な試験の検証を通して、芳香族二無水物および二本鎖複素環(エーテル(-O-)および/またはスルフィド(-S-)結合を含む)類化合物を含む3つのジアミンから、高熱的・機械的特性のPI系共重合体を開発した。これらのPI系共重合体は、500℃時に非常に高いTdを示し、Tgが400℃を超えると示した。 PIのTg値は、ジアミンの二面角が増加するにつれて増加し、この現象は鎖の剛性の増加とポリマー鎖配列の緻密化によるものである。なお、骨格の共面性が高いため、高温では鎖の動きが制限され、PI(OODA-PMDA)とPI(OODA-BPDA)のCTEはそれぞれ7.0と11ppmK-1と低くなっている。さらに、水素が水分子と結合するのを妨げる化学構造を有するため、本発明のPI系共重合体は、低い吸水率(約0.9%)を有する。実施例のCo-PI(例としてPI(OODA-P5B5)を使用)は、より高いガラス転移温度(400℃まで明確に観察されない)と熱分解温度(538℃)、非常に低いCTE(5.5ppm/K)、および良好な機械的耐久性(UTSは131MPa、εbは3.8%、Eは3.48)を示してOFETフレキシブル基板の要件を満たす。PI(OODA-P5B5)基板を使用したオールポリマートランジスタは、μhが0.35cm2 V-1 s-1,2.4×103の高いオン/オフ電流比、および-2.4Vの小さなVTHを示し、使用するシリコンウェーハと一致する。なお、200℃で2時間ベークした後または1000回の繰り返し曲げ試験後でも、実施例の電子機器の性能は同等のレベルにあり、これは本発明に開示されるフレキシブル電子機器が実際の応用において、非常に高い実現可能性と潜在能力を持っていることを示している。
【0076】
上記をまとめると、本発明は、電子部品/製品および有機電界効果トランジスタのフレキシブル基板として使用することができる新規のポリイミド系材料を提供し、ポリイミド系材料は二無水物および複素環式ジアミンの重縮合反応を通じて調製された。本発明のポリイミド系材料は、7.3ppm K-1という非常に低い膨張係数を有する柔らかくて強靭なポリイミドフィルムに作ることができる。なお、PMDAとBPDAおよびOODAによって調製されたポリイミド(OODA-PmBn)共重合体は、5.5ppmK-1(PI(OODA-P5B5))の非常に低い膨張係数を持ち、400℃の高温でTgは観察されなかった。これは、適切な鎖剛性とポリマーの鎖のパッキングによるもので、より良い面内配向を実現した。本発明の有機電界効果トランジスタは、200℃で2時間ベークした後、または1000回繰り返し曲げた後でも、互換性のある安定したデバイス性能を示す。上記をまとめると、本発明の新規の高い熱的・機械的安定性のあるポリイミドは、潜在的な応用の見込みがあり、フレキシブル電子製品の基板として使用することができる。
【0077】
以上本発明につき好適な実施例を挙げて種々説明した。例示的な実施例が本明細書に開示されているが、他の変化も可能であることを理解されたい。そのような変化は、本出願の例示的な実施形態の精神および範囲から逸脱していると見なされるべきではなく、当業者にとって自明なすべての修正や潤飾は、添付の特許請求の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0078】
100 電界効果トランジスタ
11 フレキシブル基板
12 ゲート
13 誘電体
14 活性層
15 ソース
16 ドレイン