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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-22
(45)【発行日】2023-03-03
(54)【発明の名称】トルク変動抑制装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/14 20060101AFI20230224BHJP
   F16F 15/123 20060101ALI20230224BHJP
   F16F 15/10 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
F16F15/14 Z
F16F15/123 A
F16F15/10 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019033652
(22)【出願日】2019-02-27
(65)【公開番号】P2020139522
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】北田 賢司
(72)【発明者】
【氏名】河原 裕樹
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-053467(JP,A)
【文献】特開2015-083847(JP,A)
【文献】特開昭59-073662(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0108076(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/10-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に配置される第1回転体と、
前記第1回転体と回転するとともに、前記第1回転体と相対回転可能に配置される第2回転体と、
前記第1回転体と前記第2回転体との間のねじり剛性を、前記第1回転体又は前記第2回転体の回転数に応じて変化させる可変剛性機構と、
前記第1回転体と前記第2回転体とのねじれ角が第1閾値を超えたときに、前記第1回転体と前記第2回転体との間に所定のねじり剛性を付与するねじり剛性付与部材と、
を備え、
前記可変剛性機構は、
前記第1回転体又は前記第2回転体の回転による遠心力を受けて径方向に移動可能な遠心子と、
前記遠心子に作用する遠心力を受けて、前記遠心力を前記第1回転体と前記第2回転体とのねじれ角が小さくなる方向の円周方向力に変換するカム機構と、
を有し、
前記ねじり剛性付与部材は、前記カム機構に対して、径方向内側に配置される、
トルク変動抑制装置。
【請求項2】
前記ねじり剛性付与部材は、コイルスプリングである、
請求項1に記載のトルク変動抑制装置。
【請求項3】
前記ねじり剛性付与部材は、前記第1回転体に取り付けられ、
前記第2回転体は、円周方向に隙間をあけて前記ねじり剛性付与部材と対向する当接面を有する、
請求項1又は2に記載のトルク変動抑制装置。
【請求項4】
前記第2回転体は、軸方向において前記第1回転体を挟むように配置された一対のイナーシャリングである、
請求項1から3のいずれかに記載のトルク変動抑制装置。
【請求項5】
前記第1回転体と前記第2回転体とのねじれ角が前記第1閾値よりも大きい第2閾値を超えないように、前記第1回転体と前記第2回転体との相対回転を規制するストッパ機構をさらに備える、
請求項1から4のいずれかに記載のトルク変動抑制装置。
【請求項6】
前記可変剛性機構は、前記第1回転体又は前記第2回転体の回転数が高くなるにつれて、前記第1回転体と前記第2回転体との間のねじり剛性を大きくする、
請求項1から5のいずれかに記載のトルク変動抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルク変動抑制装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トルク変動抑制装置は、エンジンなどからのトルク変動を抑制するように構成されている。例えば、特許文献1に記載のトルク変動抑制装置は、エンジンの回転数に応じて、ハブフランジとイナーシャリングとの間のねじり剛性を変化させる。具体的には、トルク変動抑制装置は、エンジンの回転数が高くなるにつれて大きくなるような可変ねじり剛性を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-53467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したようにトルク変動抑制装置のねじり剛性は可変であり、エンジンなどの駆動源の回転数に追従して変化する。具体的には、駆動源の回転数が低いときはトルク変動抑制装置のねじり剛性は小さくなる。このため、駆動源の回転数が低いとき、ハブフランジとイナーシャリングとのねじれ角が大きくなり過ぎるおそれがある。トルク変動抑制装置におけるねじれ角が大きくなり過ぎると、カムフォロアがカム面を超えて移動してしまったり、遠心子がハブフランジと衝突して打音を発生したり、ストッパ機構が損傷したりする等というような問題が生じ得る。このように、トルク変動抑制装置におけるねじれ角が大きくなり過ぎると種々の問題を引き起こすおそれがある。
【0005】
そこで、本発明の課題は、トルク変動抑制装置におけるねじれ角が大きくなり過ぎることを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある側面に係るトルク変動抑制装置は、第1回転体と、第2回転体と、可変剛性機構と、ねじり剛性付与部材と、を備える。第1回転体は、回転可能に配置される。第2回転体は、第1回転体と回転するとともに、第1回転体と相対回転可能に配置される。可変剛性機構は、第1回転体と第2回転体との間のねじり剛性を、第1回転体又は第2回転体の回転数に応じて変化させる。ねじり剛性付与部材は、第1回転体と第2回転体とのねじれ角が第1閾値を超えたときに、第1回転体と第2回転体との間に所定のねじり剛性を付与する。
【0007】
この構成によれば、第1回転体と第2回転体とのねじれ角が第1閾値を超えたときに、ねじり剛性付与部材によって、第1回転体と第2回転体との間に所定のねじり剛性が付与される。このため、第1回転体と第2回転体との間の等価剛性が、可変剛性機構によって設定されたねじり剛性よりも大きくなる。すなわち、トルク変動抑制装置のねじり剛性は、駆動源の回転数に追従しなくなる。このため、駆動源の回転数が低いときであっても、第1回転体と第2回転体とのねじれ角が大きくなり過ぎることを防止することができる。
【0008】
好ましくは、可変剛性機構は、遠心子と、カム機構と、を有する。遠心子は、第1回転体又は第2回転体の回転による遠心力を受けて径方向に移動可能である。カム機構は、遠心子に作用する遠心力を受けて、遠心力を第1回転体と第2回転体とのねじれ角が小さくなる方向の円周方向力に変換する。
【0009】
好ましくは、ねじり剛性付与部材は、コイルスプリングである。
【0010】
好ましくは、ねじり剛性付与部材は、第1回転体に取り付けられる。第2回転体は、円周方向に隙間をあけてコイルスプリングと対向する当接面を有する。この構成によれば、コイルスプリングは、第1回転体と第2回転体とのねじれ角が第1閾値以下のときは、作動しない。一方、第1回転体と第2位回転体とのねじれ角が第1閾値を超えると、コイルスプリングが当接面と当接し、第1回転体と第2回転体との間に所定のねじり剛性を付与する。
【0011】
好ましくは、第1回転体と第2回転体とのねじれ角が第1閾値よりも大きい第2閾値を超えたときに、第1回転体と第2回転体との相対回転を規制するストッパ機構をさらに備える。
【0012】
好ましくは、可変剛性機構は、第1回転体又は第2回転体の回転数が高くなるにつれて、第1回転体と第2回転体との間のねじり剛性を大きくする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、トルク変動抑制装置におけるねじれ角が大きくなり過ぎることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】トルクコンバータの模式図。
図2】トルク変動抑制装置の拡大図。
図3図2のIII-III線断面図。
図4図2のIV-IV線断面図。
図5】ねじれた状態(ねじれ角θ)のトルク変動抑制装置の拡大図。
図6】ねじれた状態(ねじれ角θ1)のトルク変動抑制装置の拡大図。
図7】ねじれた状態(ねじれ角θ2)のトルク変動抑制装置の拡大図。
図8】回転数とトルク変動の関係を示すグラフ。
図9】変形例に係るトルク変動抑制装置の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るトルク変動抑制装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本実施形態に係るトルク変動抑制装置をトルクコンバータのロックアップ装置に装着した場合の模式図である。なお、以下の説明において、軸方向とはトルク変動抑制装置の回転軸Oが延びる方向である。また、円周方向とは、回転軸Oを中心とした円の円周方向であり、径方向とは、回転軸Oを中心とした円の径方向である。
【0016】
[全体構成]
図1に示すように、トルクコンバータ100は、フロントカバー11、トルクコンバータ本体12と、ロックアップ装置13と、出力ハブ14と、を有している。フロントカバー11にはエンジンからトルクが入力される。トルクコンバータ本体12は、フロントカバー11に連結されたインペラ121と、タービン122と、ステータ(図示せず)と、を有している。タービン122は出力ハブ14に連結されている。トランスミッションの入力軸(図示せず)が出力ハブ14にスプライン嵌合している。
【0017】
[ロックアップ装置13]
ロックアップ装置13は、クラッチ部や、油圧によって作動するピストン等を有し、ロックアップオン状態と、ロックアップオフ状態と、を取り得る。ロックアップオン状態では、フロントカバー11に入力されたトルクは、トルクコンバータ本体12を介さずに、ロックアップ装置13を介して出力ハブ14に伝達される。一方、ロックアップオフ状態では、フロントカバー11に入力されたトルクは、トルクコンバータ本体12を介して出力ハブ14に伝達される。
【0018】
ロックアップ装置13は、入力側回転体131と、ダンパ132と、トルク変動抑制装置10と、を有している。
【0019】
入力側回転体131は、軸方向に移動自在なピストンを含み、フロントカバー11側の側面に摩擦部材133が固定されている。この摩擦部材133がフロントカバー11に押し付けられることによって、フロントカバー11から入力側回転体131にトルクが伝達される。
【0020】
ダンパ132は、入力側回転体131と、後述するハブフランジ2との間に配置されている。ダンパ132は、複数のトーションスプリングを有しており、入力側回転体131とハブフランジ2とを円周方向に弾性的に連結している。このダンパ132によって、入力側回転体131からハブフランジ2にトルクが伝達されるとともに、トルク変動が吸収、減衰される。
【0021】
[トルク変動抑制装置10]
図2は、トルク変動抑制装置10の正面図である。なお、図2では、一方(手前側)のイナーシャリングが取り外されている。図3図2のIII-III線断面図であり、図4図2のIV-IV線断面図である。図2ではトルク変動抑制装置10の一部を示しているが、全体としては、円周方向の複数の箇所(例えば4ヶ所)に、図2に示した部分が等角度間隔で設けられている。以下では、そのうちの1ヶ所について説明する。
【0022】
図2図4に示すように、トルク変動抑制装置10は、ハブフランジ2(第1回転体の一例)、一対のイナーシャリング3(第2回転体の一例)、可変剛性機構4、及びコイルスプリング5(ねじり剛性付与部材の一例)を有している。
【0023】
<ハブフランジ2>
ハブフランジ2は、回転可能に配置される。ハブフランジ2は、入力側回転体131と軸方向に対向して配置されている。ハブフランジ2は、入力側回転体131と相対回転可能である。ハブフランジ2は、出力ハブ14に連結されている。すなわち、ハブフランジ2は、出力ハブ14と一体的に回転する。
【0024】
ハブフランジ2は、環状に形成されている。ハブフランジ2の内周部が出力ハブ14に連結されている。ハブフランジ2は、外周部において、径方向外側に開口する凹部21が形成されている。凹部21は、径方向外方に開くように形成され、所定の深さを有している。
【0025】
<イナーシャリング3>
イナーシャリング3は、ハブフランジ2とともに回転可能で、かつハブフランジ2に対して相対回転可能である。すなわち、イナーシャリング3は、ハブフランジ2に弾性的に連結されている。イナーシャリング3は、環状のプレートである。詳細には、イナーシャリング3は、連続した円環状に形成されている。イナーシャリング3は、トルク変動抑制装置10の質量体として機能する。
【0026】
一対のイナーシャリング3は、ハブフランジ2を挟むように配置されている。一対のイナーシャリング3は、軸方向においてハブフランジ2の両側に所定の隙間をあけて配置されている。すなわち、ハブフランジ2と一対のイナーシャリング3とは、軸方向に並べて配置されている。イナーシャリング3は、ハブフランジ2の回転軸と同じ回転軸を有する。
【0027】
一対のイナーシャリング3は、リベット31によって互いに固定されている。したがって、一対のイナーシャリング3は、互いに、軸方向、径方向、及び円周方向に移動不能である。
【0028】
イナーシャリング3は、一対の当接面32を有している。この当接面32は、円周方向において、コイルスプリング5と隙間をあけて対向している。詳細には、イナーシャリング3は、円周方向に延びる窓部33を有している。この窓部33は、イナーシャリング3を軸方向に貫通している。この窓部33を画定する内壁面のうち、円周方向を向く一対の面のそれぞれが当接面である。
【0029】
<可変剛性機構4>
可変剛性機構4は、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間のねじり剛性を、ハブフランジ2又はイナーシャリング3の回転数に応じて変化させるように構成されている。なお、本実施形態では、可変剛性機構4は、上記ねじり剛性を、ハブフランジ2の回転数に応じて変化させるように構成されている。詳細には、可変剛性機構4は、ハブフランジ2の回転数が高くなるにつれて、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間のねじり剛性を大きくする。
【0030】
可変剛性機構4は、遠心子41、及びカム機構42を有している。遠心子41は、ハブフランジ2に取り付けられている。詳細には、遠心子41は、ハブフランジ2の凹部21内に配置されている。遠心子41は、凹部21内において、径方向に移動可能に配置されている。遠心子41は、ハブフランジ2の回転による遠心力を受けて径方向に移動可能である。
【0031】
詳細には、遠心子41は、複数のガイドローラ411を有している。遠心子41が径方向に移動することによって、ガイドローラ411は凹部21の内壁面上を転がる。これによって、遠心子41は径方向にスムーズに移動できる。
【0032】
遠心子41はカム面412を有している。カム面412は、正面視(図2のように、軸方向に沿って見た状態)において、径方向内側に窪む円弧状に形成されている。なお、カム面412は、遠心子41の外周面である。この遠心子41のカム面412は、後述するように、カム機構42のカムとして機能する。
【0033】
カム機構42は、遠心子41に作用する遠心力を受けて、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間にねじれ(円周方向における相対変位)が生じたときには、遠心力をねじれ角が小さくなる方向の円周方向力に変換するように構成されている。
【0034】
カム機構42は、カムフォロア421と、遠心子41のカム面412とから構成されている。なお、遠心子41のカム面412がカム機構42のカムとして機能する。カムフォロア421は、リベット31の胴部に取り付けられている。すなわち、カムフォロア421はリベット31に支持されている。なお、カムフォロア421は、リベット31に対して回転可能に装着されているのが好ましいが、回転不能に装着されていてもよい。カム面412は、カムフォロア421が当接する面であり、軸方向視において円弧状である。ハブフランジ2とイナーシャリング3とが所定の角度範囲で相対回転した際には、カムフォロア421はこのカム面412に沿って移動する。
【0035】
カムフォロア421とカム面412との接触によって、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間にねじれ角(回転位相差)が生じたときに、遠心子41に生じた遠心力は、ねじれ角が小さくなるような円周方向の力に変換される。
【0036】
<コイルスプリング>
コイルスプリング5は、ハブフランジ2に取り付けられている。コイルスプリング5は、円周方向において伸縮する。すなわち、コイルスプリング5は、円周方向において所定の剛性、すなわち、所定のバネ定数を有する。
【0037】
コイルスプリング5は、ハブフランジ2とイナーシャリング3とのねじれ角が第1閾値θ1以下であるときは、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間にねじり剛性を付与しない。すなわち、上記ねじれ角が第1閾値θ1以下の場合、コイルスプリング5は、イナーシャリング3の当接面32と円周方向において間隔をあけた状態となっており、当接面32と当接していない。このため、コイルスプリング5は機能せず、自由長の状態となっている。
【0038】
一方、ハブフランジ2とイナーシャリング3とのねじれ角が第1閾値θ1を超えたとき(図6参照)、コイルスプリング5は、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間に所定のねじり剛性を付与する。すなわち、コイルスプリング5の一方の端面は、イナーシャリング3の当接面32と当接し、ハブフランジ2とイナーシャリング3とを円周方向において弾性的に連結する。
【0039】
<ストッパ機構>
トルク変動抑制装置10は、ストッパ機構6をさらに備えている。ストッパ機構6は、ハブフランジ2とイナーシャリング3との相対回転角度範囲を規制する。詳細には、ストッパ機構6は、ハブフランジ2とイナーシャリング3とのねじれ角が第2閾値θ2を超えないように、ハブフランジ2とイナーシャリング3との相対回転を規制するように構成されている。
【0040】
ストッパ機構6は、ストップピン61及び長孔62を有する。ストップピン61は、イナーシャリング3に固定されている。ストップピン61は、一対のイナーシャリング3を互いに連結する。長孔62は、円周方向に延びている。長孔62は、ハブフランジ2に形成されている。長孔62は、隣り合う凹部21間に配置されている。ストップピン61は、長孔62内を軸方向に貫通している。なお、ストップピン61はハブフランジ2に固定されており、長孔62がイナーシャリング3に形成されていてもよい。
【0041】
[トルク変動抑制装置の作動]
図2及び図5を用いて、トルク変動抑制装置10の作動について説明する。
【0042】
ロックアップオン時には、フロントカバー11に伝達されたトルクは、入力側回転体131及びダンパ132を介してハブフランジ2に伝達される。
【0043】
トルク伝達時にトルク変動がない場合は、図2に示すような状態で、ハブフランジ2及びイナーシャリング3は回転する。この状態では、カム機構42のカムフォロア421はカム面412のもっとも径方向内側の位置(円周方向の中央位置)に当接する。また、この状態では、ハブフランジ2とイナーシャリング3とのねじれ角は実質的に0である。
【0044】
なお、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間のねじれ角とは、図2及び図5では、遠心子41及びカム面412の円周方向の中央位置と、カムフォロア421の中心位置と、円周方向のずれを示すものである。
【0045】
トルクの伝達時にトルク変動が存在すると、図5に示すように、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間には、ねじれ角θが生じる。図5は+R側にねじれ角+θが生じた場合を示している。
【0046】
図5に示すように、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間にねじれ角+θが生じた場合は、カム機構42のカムフォロア421は、カム面412に沿って相対的に図5における右側に移動する。このとき、遠心子41には遠心力が作用しているので、遠心子41に形成されたカム面412がカムフォロア421から受ける反力は、図5のP0の方向及び大きさとなる。この反力P0によって、円周方向の第1分力P1と、遠心子41を径方向内側に向かって移動させる方向の第2分力P2と、が発生する。
【0047】
そして、第1分力P1は、カム機構42及び遠心子41を介してハブフランジ2を図5における右方向に移動させる力となる。すなわち、ハブフランジ2とイナーシャリング3とのねじれ角θを小さくする方向の力が、ハブフランジ2に作用することになる。また、第2分力P2によって、遠心子41は、遠心力に抗して内周側に移動させられる。
【0048】
なお、逆方向にねじれ角が生じた場合は、カムフォロア421がカム面412に沿って相対的に図5の左側に移動するが、作動原理は同じである。
【0049】
以上のように、トルク変動によってハブフランジ2とイナーシャリング3との間にねじれ角が生じると、遠心子41に作用する遠心力及びカム機構42の作用によって、ハブフランジ2は、両者のねじれ角を小さくする方向の力(第1分力P1)を受ける。この力によって、トルク変動が抑制される。
【0050】
以上のトルク変動を抑制する力は、遠心力、すなわちハブフランジ2の回転数によって変化するし、回転位相差及びカム面412の形状によっても変化する。したがって、カム面412の形状を適宜設定することによって、トルク変動抑制装置10の特性を、エンジン仕様等に応じた最適な特性にすることができる。
【0051】
例えば、カム面412の形状は、同じ遠心力が作用している状態で、ねじれ角に応じて第1分力P1が線形に変化するような形状にすることができる。また、カム面412の形状は、回転位相差に応じて第1分力P1が非線形に変化する形状にすることができる。
【0052】
上述したように、トルク変動抑制装置10によってトルク変動を抑制する力は、ハブフランジ2の回転数によって変化する。具体的には、エンジンなどの駆動源が高回転のとき、ハブフランジ2も高回転であるため、遠心子41に作用する遠心力は大きい。このため、可変剛性機構4によるねじり剛性も大きくなり、ハブフランジ2とイナーシャリング3とのねじれ角は小さくなる。一方、エンジンなどの駆動源が低回転のとき、ハブフランジ2も低回転であるため、遠心子41に作用する遠心力は小さい。このため、可変剛性機構4によるねじり剛性も小さくなり、ハブフランジ2とイナーシャリング3とのねじれ角は大きくなる。
【0053】
このように、可変剛性機構4によるねじり剛性は、ハブフランジ2の回転数に追従して変化する。ハブフランジ2が低回転数のとき、可変剛性機構4によるねじり剛性は小さくなるので、ハブフランジ2とイナーシャリング3とのねじれ角が第1閾値θ1を超えやすくなる。
【0054】
図6に示すように、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間のねじれ角が第1閾値θ1を超えた場合、当接面32がコイルスプリング5の一方の端面と当接する。このため、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間にコイルスプリング5のバネ定数がねじり剛性として付与される。すなわち、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間のねじり剛性は、可変剛性機構4によるねじり剛性と、コイルスプリング5によるねじり剛性との等価剛性となる。
【0055】
このように、ハブフランジ2とイナーシャリング3とのねじれ角が第1閾値θ1を超えると、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間のねじり剛性はハブフランジ2の回転数に追従しなくなる。すなわち、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間のねじれ剛性は、可変剛性機構4によるねじれ剛性よりも大きくなり、ハブフランジ2とイナーシャリング3とは互いにねじれにくくなる。したがって、トルク変動抑制装置10におけるねじれ角が大きくなり過ぎることを防止することができる。
【0056】
この図6の状態からハブフランジ2とイナーシャリング3とがさらにねじれて、図7に示すように、ハブフランジ2とイナーシャリング3とのねじれ角が第2閾値θ2となると、ストッパ機構6が作動する。すなわち、ストップピン61が長孔62の内壁面と当接し、ハブフランジ2とイナーシャリング3との相対回転が規制される。これにより、ハブフランジ2とイナーシャリング3とのねじれ角は第2閾値θ2を超えない。なお、このねじれ角が第2閾値θ2になる前にコイルスプリング5が作動することによって、ストッパ機構6が作動する頻度が低減する。
【0057】
[特性の例]
図8は、トルク変動抑制装置10の特性の一例を示す図である。横軸は回転数、縦軸はトルク変動(回転速度変動)である。特性Q1はトルク変動を抑制するための装置が設けられていない場合、特性Q2はカム機構を有さない従来のダイナミックダンパ装置が設けられた場合、特性Q3は本実施形態のトルク変動抑制装置10が設けられた場合を示している。
【0058】
この図8から明らかなように、可変剛性機構を有さないダイナミックダンパ装置が設けられた装置(特性Q2)では、特定の回転数域のみについてトルク変動を抑制することができる。一方、可変剛性機構4を有する本実施形態(特性Q3)では、すべての回転数域においてトルク変動を抑制することができる。
【0059】
[変形例]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0060】
<変形例1>
本実施形態では、ねじり剛性付与部材としてコイルスプリングを例示しているが、ねじり剛性付与部材はコイルスプリングに限定されない。例えば、ねじり剛性付与部材として、ゴム部品などの他の弾性部材を用いることができる。このねじり剛性付与部材は、例えば円周方向に伸縮可能である。
【0061】
<変形例2>
上記実施形態では、コイルスプリング5は、ハブフランジ2に取り付けられているが、コイルスプリング5の配置はこれに限定されない。例えば、図9に示すように、コイルスプリング5は、イナーシャリング3に取り付けられていてもよい。そして、ハブフランジ2、またはハブフランジ2と一体的に回転する部材(例えばタービン122)が、当接面を有していてもよい。なお、図9に示した変形例では、タービン122はハブフランジ2と一体的に回転する。そして、タービン122は、当接爪122aを有している。当接爪122aは、タービンシェルからフロントカバー11側(図9の左側)に向かって延びている。この当接爪122aは、当接面を有している。この当接面は、円周方向に間隔をあけてコイルスプリング5と対向している。なお、この場合、イナーシャリング3が本発明の第1回転体に相当し、ハブフランジ2及びハブフランジ2と一体的に回転する部材(タービン)が第2回転体に相当する。
【0062】
<変形例3>
遠心子41は、ハブフランジ2ではなく、イナーシャリング3に取り付けられていてもよい。この場合、カムフォロア421は、ハブフランジ2に取り付けられている。
【0063】
<変形例4>
上記実施形態では、第1回転体の一例としてハブフランジ2を例示しているが、第1回転体はこれに限定されない。例えば、トルク変動抑制装置を本実施形態のようにトルクコンバータに取り付ける場合、トルクコンバータ100のフロントカバー11又は入力側回転体131などを第1回転体とすることができる。また、上記実施形態では、第1回転体の一例としてハブフランジ2を例示し、第2回転体の一例としてイナーシャリング3を例示しているが、イナーシャリング3が第1回転体の一例であり且つハブフランジ2が第2回転体の一例であってもよい。
【0064】
<変形例5>
上記実施形態ではコイルスプリング5はハブフランジ2に取り付けられているが、コイルスプリング5はイナーシャリング3に取り付けられていてもよい。この場合、ハブフランジ2に一対の当接面32が形成されている。
【0065】
<変形例6>
上記実施形態では、トルク変動抑制装置10を、トルクコンバータ100に取り付けているが、クラッチ装置などの他の動力伝達装置にトルク変動抑制装置10を取り付けることもできる。
【符号の説明】
【0066】
2 ハブフランジ
3 イナーシャリング
32 当接面
4 可変剛性機構
41 遠心子
42 カム機構
5 コイルスプリング
6 ストッパ機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9