(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-22
(45)【発行日】2023-03-03
(54)【発明の名称】フルオレン化合物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 43/23 20060101AFI20230224BHJP
C07C 41/30 20060101ALI20230224BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230224BHJP
【FI】
C07C43/23 D CSP
C07C41/30
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2019071954
(22)【出願日】2019-04-04
【審査請求日】2021-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】小西 孝治
(72)【発明者】
【氏名】安田 理恵
(72)【発明者】
【氏名】沖見 克英
(72)【発明者】
【氏名】宮内 信輔
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-214720(JP,A)
【文献】特開2017-119671(JP,A)
【文献】特開2017-125890(JP,A)
【文献】特開平07-149881(JP,A)
【文献】特開平08-100053(JP,A)
【文献】特開2008-069224(JP,A)
【文献】特開2009-155253(JP,A)
【文献】特開2014-189520(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 43/23
C07C 41/30
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるフルオレン化合物。
【化1】
(式中、Ar
1a、Ar
1b、Ar
2a及びAr
2bは
C
6-10
アレーン環を示し、R
1a、R
1b、R
2a及びR
2bは
直鎖状又は分岐鎖状C
1-3
アルキル基を示し、p1a、p1b、p2a及びp2bは
0~2の整数を示し、Z
1及びZ
2は
C
6-10
アレーン環を示し、A
1及びA
2は
直鎖状又は分岐鎖状C
2-4
アルキレン基を示し、m1及びm2は
1~3の整数を示し、R
3a、R
3b、R
4a及びR
4bは
直鎖状又は分岐鎖状C
1-3
アルキル基を示し、q1及びq2は0~
2の整数を示し、r1及びr2は
0~2の整数を示す。)
【請求項2】
A
1及びA
2が
C
2-3
アルキレン基、m1及びm2が
1~2の整数である請求項
1に記載のフルオレン化合物。
【請求項3】
下記式(2)で表される化合物と下記式(3a)で表される化合物との反応、又は下記式(4)で表される化合物と、アルキレンオキサイド、アルキレンカーボネート及びハロアルカノールから選択される少なくとも一種との反応により、請求項
1又は2に記載のフルオレン化合物を製造する方法。
【化2】
(式中、ZはZ
1及びZ
2と同じであり、R
4はR
4a及びR
4bと同じであり、Aは前記A
1及びA
2と同じであり、mは前記m1及びm2と同じであり、Ar
1a、Ar
1b、Ar
2a、Ar
2b、R
1a、R
1b、R
2a、R
2b、p1a、p1b、p2a、p2b、Z
1、Z
2、A
1、A
2、m1、m2、R
3a、R
3b、R
4a、R
4b、q1、q2、r1及びr2は前記
請求項1に記載の式(1)に同じである。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なフルオレン化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂(熱可塑性ポリエステル又は飽和ポリエステル樹脂)は、重合成分であるジカルボン酸成分及びジオール成分を用途に応じて組み合わせ、種々の特性を付与している。そのため、ポリエステル樹脂は、電気・電子部品、自動車部品などの工業製品から、衣類、食品容器などの日用品に至るまで様々な製品として利用されている。
【0003】
このようなポリエステルは、ガラスなどの無機材料に比べて、軽量で柔軟性にも優れており、例えば、光学レンズなどの光学部材などの用途にも利用が検討されている。しかし、車載用光学レンズなどの高温環境下での使用が想定される用途には利用できない場合もあり、より高い耐熱性を有するポリエステル樹脂(又は樹脂原料)が求められている。
【0004】
一方、特許第5598489号公報(特許文献1)には、レジスト下層膜材料として有用な化合物として、下記式で表されるビフェニル誘導体が開示されている。
【0005】
【0006】
(式中、環構造Ar1、Ar2はベンゼン環又はナフタレン環を表す。x、zはそれぞれ
独立に0又は1を表す。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1には、前記式で表されるビフェニル誘導体をレジスト下層膜材料として用いると、優れたエッチング耐性、高い耐熱性、及び高い耐溶剤性などを有するレジスト下層膜が形成できることが記載され、前記ビフェニル誘導体は、ホルムアルデヒドなどを用いてノボラック化し、ノボラック樹脂の形態で使用してもよいことが記載されている。
【0009】
しかし、特許文献1に記載の前記ビフェニル誘導体の用途がレジスト下層膜材料のノボラック樹脂に特定され、ポリエステル樹脂の重合成分などとして利用できない。
【0010】
従って、本発明の目的は、高い耐熱性を有し、ポリエステル樹脂の原料として有用な新規フルオレン化合物、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有するビフェニル誘導体と、オキシアルキレン基とを有する化合物が、高い耐熱性を有していること、ポリエステル樹脂の樹脂原料(又は重合成分)として利用できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明のフルオレン化合物(又はフルオレン誘導体)は、下記式(1)で表される。
【0013】
【0014】
(式中、Ar1a、Ar1b、Ar2a及びAr2bはアレーン環を示し、R1a、R1b、R2a及びR2bは置換基を示し、p1a、p1b、p2a及びp2bは0以上の整数を示し、Z1及びZ2はアレーン環を示し、A1及びA2はアルキレン基を示し、m1及びm2は1以上の整数を示し、R3a、R3b、R4a及びR4bは置換基を示し、q1及びq2は0~4の整数を示し、r1及びr2は0以上の整数を示す。)
【0015】
前記式(1)において、Z1及びZ2は、C6-12アレーン環であってもよく、A1及びA2は、C2-4アルキレン基、m1及びm2は1~3の整数であってもよい。
【0016】
本発明は、前記式(1)で表される化合物を製造する方法も含み、この方法では、下記式(2)で表される化合物と、下記式(3a)で表される化合物との反応により前記式(1)で表される化合物を製造してもよく、下記式(4)で表される化合物と、アルキレンオキサイド、アルキレンカーボネート及びハロアルカノールから選択される少なくとも一種との反応により、前記式(1)で表される化合物を製造してもよい。
【0017】
【0018】
(式中、ZはZ1及びZ2と同じであり、R4はR4a及びR4bと同じであり、Aは前記A1及びA2と同じであり、mは前記m1及びm2と同じであり、Ar1a、Ar1b、Ar2a、Ar2b、R1a、R1b、R2a、R2b、p1a、p1b、p2a、p2b、Z1、Z2、A1、A2、m1、m2、R3a、R3b、R4a、R4b、q1、q2、r1及びr2は前記式(1)に同じである。)
【0019】
本発明は、ジオール成分とジカルボン酸成分との反応により得られるポリエステル樹脂も含み、前記ジオール成分は、少なくとも前記フルオレン化合物(1)を含んでいてもよい。
【0020】
なお、本願明細書及び特許請求の範囲において、置換基の炭素原子の数をC1、C6、C10などで示すことがある。例えば、炭素数が1のアルキル基は「C1アルキル」で示し、炭素数が6~10のアリール基は「C6-10アリール」で示す。
【発明の効果】
【0021】
本発明の新規なフルオレン化合物は、高い耐熱性を有しており、耐熱性の高いポリエステル樹脂の原料(又は重合成分)として利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[フルオレン化合物(1)(式(1)で表されるフルオレン骨格を有する化合物)]
本発明の新規なフルオレン化合物(フルオレン骨格を有する新規な化合物)は、前記式(1)で表される。
【0023】
前記式(1)において、Ar1a、Ar1b、Ar2a及びAr2bで表されるアレーン環(芳香族炭化水素環)としては、ベンゼン環などの単環式アレーン環、多環式アレーン環、環集合アレーン環などが挙げられる。
【0024】
多環式アレーン環としては、ナフタレン環などの縮合二環式アレーン環、アントラセン環、フェナントレン環などの縮合三環式アレーン環などの縮合多環式C10-14アレーン環が挙げられ、特にナフタレン環が好ましい。
【0025】
環集合アレーン環としては、ビフェニル環、ビナフチル環、フェニルナフタレン環などのビC6-12アレーン環が挙げられ、特にビフェニル環が好ましい。
【0026】
なお、Ar1a、Ar1b、Ar2a及びAr2bの種類は、互いに同一又は異なっていてもよく、通常、同一であることが多い。
【0027】
好ましいAr1a、Ar1b、Ar2a及びAr2bとしては、ベンゼン環、ナフタレン環などのC6-10アレーン環、さらに好ましくはベンゼン環、ナフタレン環、特にベンゼン環である。
【0028】
R1a、R1b、R2a及びR2bで表される置換基としては、ハロゲン原子;アルキル基、アリール基などの炭化水素基、シアノ基などが挙げられる。
【0029】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などが挙げられる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルキル基などが挙げられる。アリール基としては、フェニル基などのC6-10アリール基などが挙げられる。なお、R1a、R1b、R2a及びR2bで表される置換基は、同一又は異なっていてもよい。
【0030】
好ましいR1a、R1b、R2a及びR2bは、直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルキル基、シアノ基、ハロゲン原子、さらに好ましくはメチル基、エチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-3アルキル基、特にメチル基などのC1-2アルキル基である。R1a、R1b、R2a及びR2bの種類は、互いに同一又は異なっていてもよく、通常、同一であることが多い。なお、R1a、R1b、R2a又はR2bがアリール基の場合、結合する環Ar1a、Ar1b、Ar2a、Ar2bとともに前記環集合アレーン環を形成してもよい。
【0031】
R1a、R1b、R2a及びR2bの置換数p1a、p1b、p2a及びp2bは、0以上の整数の整数、例えば、0~8の整数から選択でき、好ましくは、以下段階的に、0~4、0~3、0~2、0又は1であり、特に0である。なお、置換数p1a、p1b、p2a又はp2bは、互いに同一又は異なっていてもよい。置換数p1a、p1b、p2a又はp2bが2以上である場合、2以上のR1a、R1b、R2a又はR2bの種類は、互いに同一又は異なっていてもよい。なお、R1a、R1b、R2a及びR2bの置換位置は、特に制限されず、Ar1a、Ar1b又はAr2a、Ar2bがベンゼン環であるフルオレン環の場合、例えば2~7位、好ましくは2位,3位又は7位である。
【0032】
式(1)において、中央のビフェニル環(又は後述する式(2b)に対応するビフェニル環、あるいはR3a、R3bがそれぞれ置換する2つのベンゼン環で形成されるビフェニル環)と、Ar1a及びAr2a並びにAr1b及びAr2bで形成される2つのフルオレン環(すなわち、後述する式(2a)で表されるフルオレノン類に対応するフルオレン環)との結合位置はいずれの位置(又は位置関係)であってもよい。例えば、前記結合位置は、2つのベンゼン環が1,1’位で互いに結合する前記ビフェニル環に対して、例えば、4,4’位、3,3’位、2,2’位などであってもよく、通常、4,4’位であることが多い。
【0033】
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「フルオレン骨格」(又は「フルオレン環」)は、ベンゾフルオレン骨格(ベンゾフルオレン環)、ジベンゾフルオレン骨格(ジベンゾフルオレン環)などのフルオレン骨格を内在する骨格も含む意味に用いる。
【0034】
R3a及びR3bで表される置換基としては、ハロゲン原子;アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基;アルコキシ基;アシル基;ニトロ基;シアノ基;置換アミノ基などが挙げられる。
【0035】
ハロゲン原子、アルキル基、及びアリール基としては、好ましい態様も含め、前記R1a、R1b、R2a及びR2bと同様の置換基が挙げられる。シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロへキシル基などのC5-8シクロアルキル基などが挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基などが挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-10アルコキシ基などが挙げられる。アシル基としては、アセチル基などのC1-6アシル基などが挙げられる。置換アミノ基としては、ジアルキルアミノ基、ジアシルアミノ基が挙げられ、ジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ基などのジC1-4アルキルアミノ基、ジアシルアミノ基としては、ジアセチルアミノ基などのジC1-4アシルアミノ基などが挙げられる。なお、R3a及びR3bで表される置換基は、同一又は異なっていてもよい。
【0036】
好ましいR3a及びR3bは、直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルキル基、シクロヘキシル基などのC5-8シクロアルキル基、C6-14アリール基、メトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-4アルコキシ基、さらに好ましくはメチル基、エチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-3アルキル基、特にメチル基などのC1-2アルキル基である。R3a及びR3bの種類は、互いに同一又は異なっていてもよく、通常、同一であることが多い。なお、R3a又はR3bがアリール基の場合、R3a又はR3bは結合するベンゼン環とともに前記環集合アレーン環を形成してもよい。
【0037】
R3a及びR3bの置換数q1及びq2は、0~4の整数から選択でき、好ましくは、以下段階的に、0~3、0~2、0又は1であり、特に0である。なお、置換数q1及びq2は、互いに同一又は異なっていてもよい。置換数q1又はq2が2以上である場合、2以上のR3a又はR3bの種類は、互いに同一又は異なっていてもよい。なお、R3a及びR3bの置換位置は、特に制限されない。
【0038】
環Z1及び環Z2で表されるアレーン環(芳香族炭化水素環)としては、ベンゼン環などの単環式アレーン環、多環式アレーン環、環集合アレーン環などが挙げられる。
【0039】
多環式アレーン環、及び環集合アレーン環としては、好ましい態様も含め、前記Ar1a、Ar1b、Ar2a及びAr2bと同様のアレーン環が挙げられる。
【0040】
なお、環Z1及び環Z2の種類は、互いに同一又は異なっていてもよく、通常、同一であることが多い。
【0041】
好ましい環Z1及び環Z2としては、ベンゼン環、ナフタレン環などのC6-10アレーン環、さらに好ましくはベンゼン環又はナフタレン環、特にナフタレン環である。
【0042】
Ar1a、Ar1b、又はAr2a、Ar2bがベンゼン環である場合、フルオレン環の9位に結合する環Z1及び環Z2の置換位置は、特に限定されず、例えば、環Z1及び環Z2がナフタレン環の場合、1位又は2位のいずれかの位置であってもよいが、通常、ナフタレン環の2位の位置で(又は2-ナフチルの関係で)結合している場合が多い。
【0043】
R4a及びR4bで表される置換基としては、好ましい態様も含め、前記R3a及びR3bと同様である。なお、R4a及びR4bは、同一又は異なっていてもよい。なお、R4a又はR4bがアリール基であるとき、R4a又はR4bは、環Z1、環Z2とともに前記環集合アレーン環を形成してもよい。置換数r1又はr2が2以上である場合、同一の環Z1、環Z2に置換する2以上のR4a又はR4bの種類は、互いに同一又は異なっていてもよい。
【0044】
R4a及びR4bの置換数r1及びr2は、0以上の整数、例えば0~8の整数から選択でき、好ましくは、以下段階的に、0~4、0~3、0~2、0又は1であり、特に0である。なお、置換数r1及びr2は、互いに同一又は異なっていてもよい。
【0045】
A1、A2で表されるアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基(1,2-プロパンジイル基)、トリメチレン基、1,2-ブタンジイル基、テトラメチレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C2-6アルキレン基が挙げられる。なお、A1、A2の種類は、互いに同一又は異なっていてもよく、通常、同一である。好ましいA1、A2は、直鎖状又は分岐鎖状C2-4アルキレン基、さらに好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C2-3アルキレン基、特にエチレン基である。
【0046】
オキシアルキレン基OA1及びOA2の繰り返し数(付加モル数)m1及びm2は、1以上の整数であればよく、1~10程度の範囲から選択でき、好ましくは以下段階的に、1~6、1~3、1~2であり、特に1である。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「繰り返し数(付加モル数)」は、平均値(算術平均値、相加平均値)又は平均付加モル数であってもよく、好ましい態様は、好ましい整数の範囲と同様である。また、m1、m2が2以上の場合、2以上のオキシアルキレン基OA1、OA2は、同一又は異なっていてもよい。
【0047】
前記式(1)において、基[-O-(A1O)m1-H]及び基[-O-(A2O)m2-H]の置換位置は、特に限定されず、環Z1、環Z2の適当な置換位置にそれぞれ置換していればよい。基[-O-(A1O)m1-H]及び基[-O-(A2O)m2-H]の置換位置は、環Z1、環Z2がベンゼン環である場合、フルオレン環(Ar1a、Ar1b、又はAr2a、Ar2bがベンゼン環)の9位に結合するフェニル基の2位、3位、4位のいずれか、好ましくは3位又は4位、特に4位の位置に置換している場合が多い。環Z1、環Z2がナフタレン環である場合、フルオレン環(Ar1a、Ar1b、又はAr2a、Ar2bがベンゼン環)の9位に対して1位又は2位で結合するナフチル基の5~8位のいずれかの位置に置換している場合が多く、フルオレン環(Ar1a、Ar1b、又はAr2a、Ar2bがベンゼン環)の9位に対して、ナフタレン環の1位又は2位が置換し(1-ナフチル又は2-ナフチルの関係で置換し)、この置換位置に対して、1,5位、2,6位の関係で置換しているのが好ましく、2,6位で置換しているのが特に好ましい。
【0048】
前記式(1)で表される化合物として代表的には、Ar1a、Ar1b、Ar2a、Ar2a、Z1及びZ2がベンゼン環である化合物、すなわち、ビス[9-(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン-9-イル]ビフェニル類;Ar1a、Ar1b、Ar2a及びAr2aがベンゼン環であり、Z1及びZ2がナフタレン環である化合物、すなわち、ビス[9-(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン-9-イル]ビフェニル類などが挙げられる。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「(ポリ)アルコキシ」は、アルコキシ基及びポリアルコキシ基の双方を含む意味に用いる。
【0049】
前記ビス[9-(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン-9-イル]ビフェニル類としては、例えば、ビス[9-(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン-9-イル]ビフェニル、ビス[9-(アルキル-ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン-9-イル]ビフェニル、ビス[9-(アリール-ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン-9-イル]ビフェニルなどが挙げられる。
【0050】
ビス[9-(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン-9-イル]ビフェニルとしては、4,4’-ビス[9-(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン-9-イル]ビフェニル、4,4’-ビス[9-(4-(2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル)フルオレン-9-イル]ビフェニル、4,4’-ビス[9-(4-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ)フェニル)フルオレン-9-イル]ビフェニル、3,3’-ビス[9-(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン-9-イル]ビフェニル、2,2’-ビス[9-(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン-9-イル]ビフェニルなどのビス[9-(ヒドロキシ(モノないしデカ)C2-4アルコキシ-フェニル)フルオレン-9-イル]ビフェニルなどが挙げられる。
【0051】
ビス[9-(アルキル-ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン-9-イル]ビフェニルとしては、4,4’-ビス[9-(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン-9-イル]ビフェニル、4,4’-ビス[9-(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジメチルフェニル)フルオレン-9-イル]ビフェニル、4,4’-ビス[9-(4-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン-9-イル]ビフェニルなどのビス[9-(ヒドロキシ(モノないしデカ)C2-4アルコキシ-C1-4アルキル-フェニル)フルオレン-9-イル]ビフェニルなどが挙げられる。
【0052】
ビス[9-(アリール-ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン-9-イル]ビフェニルとしては、4,4’-ビス[9-(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン-9-イル]ビフェニル、4,4’-ビス[9-(4-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン-9-イル]ビフェニルなどのビス[9-(ヒドロキシ(モノないしデカ)C2-4アルコキシ-C6-10アリール-フェニル)フルオレン-9-イル]ビフェニルなどが挙げられる。
【0053】
前記ビス[9-(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン-9-イル]ビフェニル類としては、例えば、4,4’-ビス[9-(6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル)フルオレン-9-イル]ビフェニル、4,4’-ビス[9-(6-(2-ヒドロキシプロポキシ)-2-ナフチル)フルオレン-9-イル]ビフェニル、4,4’-ビス[9-(6-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ)-2-ナフチル)フルオレン-9-イル]ビフェニル、4,4’-ビス[9-(5-(2-ヒドロキシエトキシ)-1-ナフチル)フルオレン-9-イル]ビフェニル、3,3’-ビス[9-(6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル)フルオレン-9-イル]ビフェニル、2,2’-ビス[9-(6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル)フルオレン-9-イル]ビフェニルなどのビス[9-(ヒドロキシ(モノないしデカ)C2-4アルコキシ-ナフチル)フルオレン-9-イル]ビフェニルなどが挙げられる。
【0054】
これらの化合物のうち、ビス[9-(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン-9-イル]ビフェニル類が好ましく、耐熱性などの観点から、4,4’-ビス[9-(6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル)フルオレン-9-イル]ビフェニルなどの4,4’-ビス[9-(ヒドロキシ(モノないしペンタ)C2-3アルコキシ-ナフチル)フルオレン-9-イル]ビフェニルがさらに好ましい。
【0055】
(フルオレン化合物(1)の特性)
本発明のフルオレン化合物又はフルオレン誘導体(1)は、1分子中に2つのフルオレン骨格を有しているため、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(BPEF)、9,9-ビス(6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル)フルオレン(BNEF)などの公知の9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物と比較して高い耐熱性を有している。
【0056】
本発明のフルオレン化合物(1)の5%重量減少温度は、350~500℃程度の範囲から選択でき、好ましくは380~480℃、さらに好ましくは400~450℃、特に410~430℃である。また、本発明のフルオレン化合物(1)の10%重量減少温度は、380~550℃程度の範囲から選択でき、好ましくは400~500℃、さらに好ましくは420~480℃、特に440~460℃である。なお、重量減少温度は、示差熱重量分析装置を用いて測定でき、詳細には実施例に記載の方法で測定できる。
【0057】
[フルオレン化合物(1)の製造方法]
(方法A)
本発明の新規なフルオレン化合物(1)の製造方法は、特に限定されず、例えば、下記反応式(方法A)に従って、式(2a)で表されるフルオレノン類と、式(2b)で表される有機金属試薬との反応により、式(2)で表されるビフェニル誘導体を調製し、この式(2)で表されるビフェニル誘導体と、式(3a)で表されるヒドロキシアルコキシ基を有するアレーン環とを反応させて、本発明のフルオレン化合物(1)を調製してもよい。
【0058】
【0059】
[式中、Ar1はAr1a及びAr1bと好ましい態様を含めて同じであり、Ar2はAr2a及びAr2bと好ましい態様を含めて同じであり、R1はR1a及びR1bと好ましい態様を含めて同じであり、R2はR2a及びR2bと好ましい態様を含めて同じであり、p1はp1a及びp1bと好ましい態様を含めて同じであり、p2はp2a及びp2bと好ましい態様を含めて同じであり、Mはリチウム原子、又は基[-MgX](Xはハロゲン原子を示す)を示し、ZはZ1及びZ2と好ましい態様を含めて同じであり、AはA1及びA2と好ましい態様を含めて同じであり、mはm1及びm2と好ましい態様を含めて同じであり、R4はR4a及びR4bと好ましい態様を含めて同じであり、rはr1及びr2と好ましい態様を含めて同じであり、Ar1a、Ar1b、Ar2a、Ar2b、Z1、Z2、A1、A2、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、R4a、R4b、m1、m2、p1a、p1b、p2a、p2b、q1、q2、r1、及びr2は、好ましい態様も含め、前記に同じ]
【0060】
式(2a)で表されるフルオレノン類としては、式(1)におけるAr1a及びAr2a並びに/又はAr1b及びAr2bで形成されるフルオレン骨格に対応するフルオレノン類であればよく、例えば、9-フルオレノン、ベンゾフルオレノン、ジベンゾフルオレノンなどが利用できる。
【0061】
式(2b)において、Mで表される基[-MgX]において、Xで表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などが挙げられ、通常、臭素原子であることが多い。基Mは、基[-MgX]であるのが好ましい。また、異なるベンゼン環に置換するMの種類は、互いに異なっていてもよいが、通常、同一であることが多い。また、Mの置換位置は、いずれの位置であってもよいが、通常、ビフェニル環の2,2’位、3,3’位または4,4’位であることが多く、好ましくは4,4’位である。
【0062】
式(2b)で表される有機金属試薬としては、式(2b)中のMが基[-MgX](Xはハロゲン原子を示す)で表されるグリニャール試薬(Grignard試薬)、Mがリチウム原子(Li)である有機リチウム試薬などが挙げられる。式(2b)で表されるグリニャール試薬、有機リチウム試薬などの有機金属試薬は、慣用の方法で調製でき、例えば、4,4’-ジハロビフェニルと、金属マグネシウム又は金属リチウムとの直接メタル化で調製してもよく、イソプロピルマグネシウムブロミドなどのC1-6アルキルマグネシウムハライド、メチルリチウム、ブチルリチウムなどのアルキルリチウムなどの有機金属化合物とのメタル-ハロゲン交換反応で調製してもよい。
【0063】
フルオレノン類(2a)の割合は、有機金属試薬(2b)1モルに対して、1.2~20モル程度の範囲から選択でき、好ましくは、以下段階的に、1.5~10モル、1.8~8モル、2~5モルである。
【0064】
フルオレノン類(2a)と有機金属試薬(2b)との反応は、触媒の存在下で行ってもよい。触媒としては、有機触媒であってもよいが、通常、金属化合物などの無機触媒が使用される。金属化合物としては、シアン化銅(I)、シアン化銅(II)などの金属シアン化物;塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化銅(I)、塩化銅(II)などの金属ハロゲン化物;過塩素酸リチウムなどの過ハロゲン酸金属塩などが挙げられる。これらの触媒は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。触媒の使用量は、特に制限されず、前記有機金属試薬1モルに対して、0.01~5モル程度の範囲から選択でき、好ましくは0.2~2モルである。
【0065】
フルオレノン類(2a)と有機金属試薬(2b)との反応は、溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒は、フルオレノン類(2a)と有機金属試薬(2b)との反応に不活性な溶媒であれば特に制限されず、炭化水素類、エーテル類、アミド類などの非プロトン性溶媒が挙げられる。炭化水素類としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類などが挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテルなどのジアルキルエーテル;1,4-ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類などが挙げられる。アミド類としては、N,N-ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。これらの溶媒は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0066】
また、反応は空気中又は不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガスなどが挙げられる。また、反応は、減圧下で行ってもよいが、通常、加圧下又は常圧で行う場合が多い。また、反応温度は、0~150℃程度の範囲から選択でき、好ましくは以下段階的に、10~100℃、20~80℃、30~60℃である。なお、反応は、溶媒の還流下で行ってもよい。
【0067】
式(3a)で表される化合物としては、フルオレン化合物(1)において、ヒドロキシアルコキシ基を有するアレーン環に対応する化合物、具体的には、アルキレングリコールモノアリールエーテル類、ジアルキレングリコールモノアリールエーテル類などが挙げられる。
【0068】
アルキレングリコールモノアリールエーテル類としては、2-フェノキシエタノール(エチレングリコールモノフェニルエーテル)、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、テトラメチレングリコールモノフェニルエーテルなどのC2-4アルキレングリコールモノフェニルエーテル(又はフェノール1モルに対してC2-4アルキレンオキサイド1モルが付加した付加体);エチレングリコールモノナフチルエーテル、プロピレングリコールモノナフチルエーテル、テトラメチレングリコールモノナフチルエーテルなどのC2-4アルキレングリコールモノナフチルエーテル(又はナフトール1モルに対してC2-4アルキレンオキサイド1モルが付加した付加体)などのC2-4アルキレングリコールモノC6-10アリールエーテルなどが挙げられる。
【0069】
ジアルキレングリコールモノアリールエーテル類としては、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノフェニルエーテルなどのジC2-4アルキレングリコールモノフェニルエーテル;ジエチレングリコールモノナフチルエーテル、ジプロピレングリコールモノナフチルエーテルなどのジC2-4アルキレングリコールモノナフチルエーテルなどが挙げられる。
【0070】
これらの式(3a)で表される化合物は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。これらの式(3a)で表される化合物のうち、好ましくはC2-4アルキレングリコールモノC6-10アリールエーテル、さらに好ましくはエチレングリコールモノナフチルエーテルなどのC2-4アルキレングリコールモノナフチルエーテルである。
【0071】
式(3a)で表される化合物の割合は、ビフェニル誘導体(2)1モルに対して、1.8~20モル程度の範囲から選択でき、好ましくは2~10モル、さらに好ましくは2.5~5モルである。
【0072】
ビフェニル誘導体(2)と式(3a)で表される化合物との反応は、触媒の存在下で行ってよく、触媒は酸触媒、塩基性触媒のいずれであってもよい。酸触媒としては、無機酸、有機酸のいずれであってもよく、無機酸としては、硫酸、塩化水素、塩酸、リン酸などが挙げられ、有機酸としては、スルホン酸、具体的には、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸などのアルカンスルホン酸、トルエンスルホン酸などのアレーンスルホン酸などが挙げられる。塩基性触媒としては、トリエチルアミンなどの第3級アミン類、ピリジン、モルホリンなどの複素環式第3級アミンなどの有機塩基;水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸マグネシウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属炭酸塩、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt-ブトキシドなどのアルカリ金属直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルコキシドなどの無機塩基などが挙げられる。これらの触媒は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0073】
触媒の使用量は、触媒の種類に応じて選択でき、ビフェニル誘導体(2)100質量部に対して、0.1~100質量部程度の範囲から選択でき、例えば1~80質量部、好ましくは10~70質量部、さらに好ましくは20~60質量部、特に30~50質量部である。
【0074】
ビフェニル誘導体(2)と式(3a)で表される化合物との反応は、溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒は、反応に不活性な溶媒であれば特に制限されず、炭化水素類、ハロゲン系溶媒、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、アミド類、スルホキシド類などが挙げられる。炭化水素類としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類などが挙げられる。ハロゲン系溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラクロロエタン、トリクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類などが挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテルなどのジアルキルエーテル;1,4-ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類などが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(エチルメチルケトン)、ジイソプロピルケトン、イソブチルメチルケトンなどのジアルキルケトンなどが挙げられる。ニトリル類としては、アセトニトリルなどが挙げられる。アミド類としては、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)などが挙げられる。スルホキシド類としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。これらの溶媒は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0075】
また、反応は空気中又は不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガスなどが挙げられる。また、反応は、減圧下で行ってもよいが、通常、加圧下又は常圧で行う場合が多い。また、反応温度は、0~150℃程度の範囲から選択でき、好ましくは以下段階的に、10~100℃、20~80℃、30~60℃である。なお、反応は、溶媒の還流下で行ってもよい。
【0076】
反応終了後、フルオレン化合物(1)は、慣用の分離方法、例えば、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0077】
(方法B)
フルオレン化合物(1)の製造方法は、前記方法Aに限定されず、方法Aで調製したビフェニル誘導体(2)と、下記式(3b)で表される化合物とを反応させて、下記式(4)で表される化合物を調製し、この式(4)で表される化合物と、式(1)におけるアルキレン基A1、A2(又はオキシアルキレン基OA1、OA2)に対応する化合物とを反応させて調製してもよい。
【0078】
【0079】
(式中、Z、R4、r、Ar1a、Ar1b、Ar2a、Ar2b、Z1、Z2、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、R4a、R4b、p1a、p1b、p2a、p2b、q1、q2、r1、及びr2は、好ましい態様も含め、前記に同じ。)
【0080】
式(3b)で表される化合物としては、式(4)で表される化合物において、ヒドロキシ基を有するに対応するアレーン環Z1及びZ2に対応する化合物、具体的には、フェノール類、ナフトール類、フェニルフェノール類などのヒドロキシC6-12アレーン類などが挙げられる。
【0081】
フェノール類としては、フェノール;クレゾール、エチルフェノールなどのC1-6アルキル-フェノール;キシレノールなどのジC1-6アルキル-フェノールなどが挙げられる。ナフトール類としては、1-ナフトール、2-ナフトールなどのナフトール;メチルナフトール、エチルナフトールなどのC1-6アルキル-ナフトール;ジメチルナフトールなどのジC1-6アルキル-ナフトールなどが挙げられる。フェニルフェノール類としては、フェニルフェノール;メチルフェニルフェノールなどのモノ又はジC1-6アルキル-フェノールなどが挙げられる。これらの式(3b)で表される化合物は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0082】
ビフェニル誘導体(2)と、式(3b)で表される化合物との反応条件は、好ましい態様も含め、前記方法Aにおけるビフェニル誘導体(2)と、式(3a)で表される化合物と同様である。
【0083】
式(1)におけるアルキレン基A1、A2(又はオキシアルキレン基OA1、OA2)に対応する化合物としては、アルキレンオキサイド、アルキレンカーボネート、ハロアルカノールなどが挙げられる。アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどのC2-4アルキレンオキサイドなどが挙げられる。アルキレンカーボネートとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのC2-4アルキレンカーボネートなどが挙げられる。ハロアルカノールとしては、3-クロロプロパノールなどのハロC1-4アルカノールなどが挙げられる。これらの化合物は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0084】
なお、式(4)で表される化合物と、アルキレンオキサイド又はアルキレンカーボネートを反応させると、式(4)で表される化合物のヒドロキシ基を介して(ポリ)オキシアルキレン単位を導入できる。アルキレンカーボネートを使用する場合、アルキレンカーボネートが付加したのち、脱炭酸反応が生じることにより、オキシアルキレン単位(アルコキシ単位)が導入される。
【0085】
アルキレン基A1、A2(又はオキシアルキレン基OA1、OA2)に対応する化合物の割合は、付加させるオキシアルキレン基OA1、OA2の数に応じて調整でき、式(4)で表される化合物のヒドロキシ基1モルに対して、1.5~30モル程度の範囲から選択でき、好ましくは1.8~20モル、さらに好ましくは2~10モルである。
【0086】
式(4)で表される化合物と、アルキレン基A1、A2(又はオキシアルキレン基OA1、OA2)に対応する化合物との反応は、触媒の存在下で行ってよく、触媒としては、塩基性触媒、酸触媒のいずれであってもよいが、通常、塩基性触媒が使用される場合が多い。塩基性触媒としては、トリエチルアミンなどの第3級アミン類、ピリジン、モルホリンなどの複素環式第3級アミンなどのアミン類、酢酸ナトリウム、酢酸カルシウムなどの酢酸アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩などの有機塩基;水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属炭酸塩などの無機塩基などが挙げられる。これらの触媒は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0087】
触媒の使用量は、触媒の種類に応じて調整でき、式(4)で表される化合物100質量部に対して、0.1~100質量部程度の範囲から選択でき、例えば1~80質量部、好ましくは10~70質量部、さらに好ましくは20~60質量部である。
【0088】
式(4)で表される化合物と、アルキレン基A1、A2(又はオキシアルキレン基OA1、OA2)に対応する化合物との反応は、溶媒の存在下で行ってもよく、溶媒としては、前記方法Aにおいて、ビフェニル誘導体(2)と、式(3a)で表される化合物との反応の項に記載の溶媒と同様の溶媒が挙げられる。
【0089】
また、反応は空気中又は不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガスなどが挙げられる。また、反応は、減圧下で行ってもよいが、通常、加圧下又は常圧で行う場合が多い。また、反応温度は、0~150℃程度の範囲から選択でき、好ましくは以下段階的に、10~100℃、20~80℃、30~60℃である。なお、反応は、溶媒の還流下で行ってもよい。
【0090】
反応終了後、フルオレン化合物(1)は、慣用の分離方法、例えば、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0091】
[フルオレン化合物(1)の用途]
本発明のフルオレン化合物(1)は、特許文献1に記載の化合物と異なり、アルコール性ヒドロキシル基を有している。そのため、ポリエステル樹脂の原料に利用でき、前記フルオレン化合物(1)の高い耐熱性を利用して、耐熱性を有するポリエステル樹脂を調製できる。
【0092】
具体的には、本発明のフルオレン化合物(1)は、2つのヒドロキシ基を有しているため、ポリエステル樹脂のジオール成分(重合成分)として使用できる。そのため、ポリエステル樹脂の調製において、ジオール成分は、少なくとも前記フルオレン化合物(1)を含んでいてればよい。
【実施例】
【0093】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における各評価方法は以下のとおりである。
【0094】
(耐熱性(重量減少温度))
示差熱重量分析装置(日立ハイテクサイエンス製、「TG/DTA6200」)を用いて、下記の条件で5%重量減少温度及び10%重量減少温度を測定した。
【0095】
測定温度範囲:30~520℃
昇温温度:10℃/分
ガス雰囲気:窒素雰囲気下。
【0096】
(加熱残分)
180℃まで加熱し、重量変化がなくなって1分間放置した時の重量減少を測定した。
【0097】
(純度)
液体クロマトグラフィー(LC、株式会社島津製作所製、「LC-2010A」)を用い、アセトニトリル/水(体積比)=70/30→95/5→70/30を溶出液として測定した。
【0098】
(分子量)
液体クロマトグラフィー質量分析装置(LCMS、株式会社島津製作所製、「Ninetex XB-C18」)を用い、アセトニトリル/水(体積比)=50/50→80/20→95/5→50/50を溶出液として測定した。
【0099】
(屈折率)
屈折計(アタゴ社製、「DR-M2」)を用いて、測定温度25℃、波長589nmに対する屈折率を測定した。
【0100】
[実施例1]
(ビフェニル誘導体の合成)
4,4’-ジブロモビフェニル160.68g(0.52モル)を、1Lの脱水THF(テトラヒドロフラン)に溶解させ、ビフェニル溶液を調製した。窒素気流下、マグネシウム25.0g(1.03モル)、塩化リチウム21.83g(0.52モル)を仕込んだフラスコ内に、前記ビフェニル溶液のうち150mLと、少量のジブロモエタンとを加え、反応を開始した。反応開始後、発熱を維持したまま、前記ビフェニル溶液850mLをセパラブルフラスコ内に滴下した。滴下終了後、THF500mLを加え、還流下で8時間熟成して、下記式(2b-1)で表されるグリニャール試薬を調製した。
【0101】
【0102】
続いて、フラスコ内の温度を55℃まで冷却後、脱水THF400mLに溶解した9-フルオレノン141.33g(0.78モル)を2時間かけてフラスコ内に滴下した。滴下終了後、還流下で5.5時間熟成後、氷浴でフラスコを冷却し、飽和塩化アンモニウム水溶液1Lとイオン交換水1Lとを加えて反応を終了させた。反応終了後、反応液は白色の析出物が生じ、懸濁液となった。反応液に、メチルイソブチルケトン(MIBK)150mLを追加し、懸濁液の状態で分液ロートに移し替え、水層を抜き出し、さらにイオン交換水500mLで分液水洗を行った後、有機層を減圧濃縮した。減圧濃縮した有機層をジイソプロピルエーテルで再結晶させ、生じた白色の結晶を濾別し、乾燥することで、下記式(2-1)で表されるビフェニル誘導体を得た。
【0103】
【0104】
(ビフェニルジフルオレンのNEO付加体の合成)
前記反応により得られたビフェニル誘導体10g(19.4mmol)、NEO(エチレングリコールモノナフチルエーテル、又はナフトールのエチレンオキサイド付加体)10.95g(58.2mmol)、ジクロロメタン75gを300mLのセパラブルフラスコに入れ、10℃で撹拌した。10℃以下で撹拌しながら、メタンスルホン酸4.4g(45.8mmol)をゆっくりと滴下した。滴下終了後、室温で撹拌し、さらに40℃まで加温して還流状態で3時間反応させた。反応終了後、室温まで冷却し、反応液をメタノール/蒸留水(体積比)=4/1の混合液中に少量ずつ滴下し、室温で撹拌した。その後、混合液内に生じた結晶を桐山ロートで濾別し、乾燥することで、下記式(1-1)で表されるビフェニルジフルオレンのNEO付加体(又は4,4’-ビス[9-(6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル)フルオレン-9-イル]ビフェニル)15.3g(収率92%)を得た。
【0105】
【0106】
以下に得られたビフェニルジフルオレンのNEO付加体の1H NMR、加熱残分、純度、分子量及び屈折率を示す。
【0107】
1H NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm)=4.00(4H、d)、4.17(4H、d)、7.08(4H、m)、7.09-7.56(26H、m)、7.62(2H、d)、7.80(4H、d)。
【0108】
加熱残分(180℃):99.4%
純度:94%
重量平均分子量:855
屈折率(589nm、25℃):1.68。
【0109】
[比較例1]
9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(BPEF)の耐熱性を評価した。
【0110】
[比較例2]
9,9-ビス(6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル)フルオレン(BNEF)の耐熱性を評価した。
【0111】
実施例1及び比較例1~2の耐熱性評価結果を表1に示す。
【0112】
【0113】
表1から明らかなように、比較例1及び2に比べ、実施例1では、5%重量減少温度及び10%重量減少温度が高く、実施例1で得られたビフェニルジフルオレンのNEO付加体は、高い耐熱性を有していることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明は、新規なフルオレン化合物は、ポリエステル樹脂の重合成分(又は樹脂原料、モノマー)、試薬などとして有用である。前記化合物を重合成分として用いたポリエステル樹脂は、高い耐熱性を有している。そのため、ポリエステル樹脂(又はその樹脂組成物)は、例えば、塗料、インキ、接着剤、粘着剤、樹脂充填剤、帯電防止剤、電子機器などの保護膜、電気・電子材料、電気・電子部品又は機器、機械部品又は機器、光学部材などに好適に利用できる。電気・電子材料としては、帯電トレイ、導電シート、キャリア輸送剤、発光体、有機感光体、感熱記録材料、ホログラム記録材料などが挙げられ、電気・電子部品又は機器としては、インクジェットプリンタ、デジタルペーパ、有機半導体レーザ、色素増感型太陽電池、フォトクロミック材料、有機EL素子などが挙げられ、機械部品又は機器としては、自動車、航空・宇宙材料、センサ、摺動部材などが挙げられ、光学部材としては、光学フィルム(又は光学シート)、光学レンズ、光ファイバー、光ディスクなどが挙げられる。特に、ポリエステル樹脂は、光学的特性に優れているため、光学用途の成形体(光学部材)を構成(又は形成)するのに有用である。