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  • 特許-フードロック構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-22
(45)【発行日】2023-03-03
(54)【発明の名称】フードロック構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/10 20060101AFI20230224BHJP
   B62D 25/12 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
B62D25/10 E
B62D25/12 N
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019121882
(22)【出願日】2019-06-28
(65)【公開番号】P2021008169
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2021-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000157083
【氏名又は名称】トヨタ自動車東日本株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河邊 浩和
(72)【発明者】
【氏名】横井 悟
【審査官】藤井 浩介
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-014198(JP,A)
【文献】特開2018-167665(JP,A)
【文献】特開2007-098963(JP,A)
【文献】国際公開第2011/118016(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0181803(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/10
B62D 25/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フードアウタパネルと、前記フードアウタパネルの下面に取り付けられたフードインナパネルとを備えた車両のフードと、
前記フードインナパネルの前方かつ車幅方向中央付近に取り付けられたロックリインフォースであって、前ツバ、前壁、ハットトップ、後壁及び後ツバを備えたハット型の前後-上下断面を有し、車幅方向に延び、かつ、車幅方向端を開放された形状に形成されて、前記ハットトップを下に向けられたロックリインフォースと、
前記ロックリインフォースの前記ハットトップに取り付けられたストライカと、
を備え、
前記ロックリインフォースの前記前壁は、前記前ツバ側の部位で、前記ハットトップ側に向かうほど後に位置する後傾部と、前記後傾部の後端から前記ハットトップに向かって真下に延びて前記ハットトップの前端に接続する平坦部位と、で構成される折板構造で、
前記ロックリインフォースにおける前記後傾部の角度は、歩行者頭部保護性能試験における頭部インパクタの衝突角度と略同一の角度、または、前記衝突角度よりも後傾した角度に設定されていることを特徴とするフードロック構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のフードにおけるフードロック構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両では、歩行者保護性能の向上が求められており、公的な歩行者保護性能試験も実施されている。歩行者保護性能試験としては、具体的には、歩行者の脚部を模擬した脚部インパクタを車両に前突させる歩行者脚部保護性能試験、歩行者の頭部を模擬した頭部インパクタを車両前部のフード等に上部前方から衝突させる歩行者頭部保護性能試験などがある。
【0003】
下記特許文献1には、フードアウタパネルとフードインナパネルを結合したフードにおいて、フードインナパネルに前突時に変形する部位と、斜め前方からの衝突時に変形する部位を設けて、歩行者保護性能を高める構造が記載されている。フードインナパネルの前方かつ車幅方向中央付近には補強部材であるロックリインフォースが取り付けられ、ロックリインフォースにはボディ側と結合するストライカが取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-123959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載されているように、フードにはロックリインフォースが設けられており、ストライカの固定強度を確保している。このため、ロックリインフォース付近では、他の部位に比べて歩行者保護性能が低下する傾向にある。
【0006】
本発明の目的は、従来に比べて、車両のフードにおける歩行者保護性能を高めることが可能なロックリインフォース構造を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかるフードロック構造は、フードアウタパネルと、前記フードアウタパネルの下面に取り付けられたフードインナパネルとを備えた車両のフードと、前記フードインナパネルの前方かつ車幅方向中央付近に取り付けられたロックリインフォースであって、前ツバ、前壁、ハットトップ、後壁及び後ツバを備えたハット型の前後-上下断面を有し、車幅方向に延び、かつ、車幅方向端を開放された形状に形成されて、前記ハットトップを下に向けられたロックリインフォースと、前記ロックリインフォースの前記ハットトップに取り付けられたストライカと、を備え、前記ロックリインフォースの前記前壁は、前記前ツバ側の部位で、前記ハットトップ側に向かうほど後に位置する後傾部と、前記後傾部の後端から前記ハットトップに向かって真下に延びて前記ハットトップの前端に接続する平坦部位と、で構成される折板構造で、前記ロックリインフォースにおける前記後傾部の角度は、歩行者頭部保護性能試験における頭部インパクタの衝突角度と略同一の角度、または、前記衝突角度よりも後傾した角度に設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、車両のフードにおける歩行者保護性能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態にかかる車両の簡略的な側面図である。
図2】フードインナパネルの簡略的な斜視図である。
図3】ロックリインフォースの簡略的な斜視図である。
図4】頭部インパクタの衝突時を示すフード付近の断面図である。
図5】参考形態にかかるフード付近の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照しながら、実施形態について説明する。説明においては、理解を容易にするため、具体的な態様について示すが、これらは実施形態を例示するものであり、他にも様々な実施形態をとることが可能である。
【0013】
図1は、実施形態にかかる車両10の簡略的な側面図である。図中の座標系におけるF軸は車両前方向、U軸は上方向、R軸は搭乗者の右手方向を示している(以下の図でも同様)。
【0014】
図1に例示した車両10は、SUV(Sports Utility Vehicle)と呼ばれるタイプであり、比較的大型で、車高が高く設定されている。車両10の前部には、いわゆるエンジンルーム12が設けられている。ただし、エンジンルーム12は慣用的な名称である。車両10は、エンジンルーム12に駆動源としてのエンジンを搭載したエンジン車であってもよいし、エンジンルーム12に駆動源としてのモータを格納した電気自動車であってもよいし、エンジンルーム12に他の装置等が設置されたものであってもよい。
【0015】
エンジンルーム12の上部は、フード14に覆われている。フード14は、ボンネットと呼ばれることもある。フード14は、車両の外表を形成する部材であるフードアウタパネル16と、フードアウタパネル16の下面側(エンジンルーム12側)に設けられたフードインナパネル20とを主たる部材として形成されている。フード14は、開閉可能に取り付けられており、通常は閉じられてロックされている。ロックは、フードインナパネル20の前方下部に取り付けられたストライカ40が、車両10のボディ側(フード14ではない側をいう)に取り付けられたラッチ60と嵌合することで行われる。保守点検時には、ロックが解除されて、フード14が開かれた状態におかれる。
【0016】
車両10では、歩行者保護性能試験に適合するように設計され、製造されている。歩行者保護性能試験のうち、歩行者脚部保護性能試験では、前突時における歩行者の脚部を保護することが求められる。そこで、車両10の前端付近は、比較的柔らかい部材を設置するように設計されている。フード14におけるストライカ40の取付部位は、強度が必要であり比較的硬く形成されるため、車両の前端よりもやや後ろよりに設けられている。
【0017】
歩行者保護性能試験のうち、歩行者頭部保護性能試験では、車両10のフード14等に歩行者の頭部が衝突した場合の衝撃を緩和することが求められている。図1では、試験方法に従って、フード14に、歩行者の頭部を模擬した頭部インパクタ100を衝突させる様子を示している。頭部インパクタ100は、衝突角度(頭部インパクタ100が進入する角度であり、ここでは地面となす角度として定義する)を所定の値θとするように設定されて、図示を省略した試験機から発射される。頭部インパクタ100を衝突させる位置は、地面からのWAD(Wrap Around Distance)が所定の値Dである部位に設定される。車両10では車高が比較的高いため、衝突位置はストライカ40の取付部位付近に相当しており、衝撃緩和を図る必要性が高い。
【0018】
頭部インパクタ100は、半球の形状に形成されており、内部には衝突荷重を検知するセンサが内蔵されている。歩行者頭部保護性能試験では、測定される荷重等が所定の基準を満たすことが要求されている。このため、フード14は、衝突エネルギを十分に吸収し、頭部インパクタ100への反力を弱めるように形成される。
【0019】
図2は、フードインナパネル20を上面側(フードアウタパネル16の側)から図示した簡略的な斜視図である。フードインナパネル20は、例えば、鋼板をプレス加工することで形成される。フードインナパネル20の外形は、フードアウタパネル16よりも若干小さいが、ほぼ似た形状に形成されている。フードインナパネル20は、フードアウタパネル16の下面(エンジンルーム12の側の面)に取り付けられる。フードインナパネル20の面内には、例えば上記特許文献1のように、様々な凹凸形状が形成され、フード14の強度の調整を行っているが、図2では図示を省略している。
【0020】
図2には、前方中央に位置する貫通孔22と、その後方に配置された8つの貫通孔24が設けられている。貫通孔22は、次に説明するロックリインフォースを設置するために設けられている。貫通孔22は、上面視した場合には車幅方向を長辺とする長方形の形状である。前述した通り、フードインナパネル20の面内には凹凸形状が設けられるため、貫通孔22もその凹凸を考慮して設けられる。8つの貫通孔24は、凹凸形状と同じく、主としてフード14の強度調整のために設けられている。
【0021】
図3は、ロックリインフォース30の簡略的な斜視図である。図3は、図2と同じ方向から図示を行ったものである。ロックリインフォース30は、例えば、強度が高い比較的厚めの鋼板をプレス加工することで形成されている。ロックリインフォース30は、前後-上下断面(図のF軸とU軸で張られる面で切った断面)が前ツバ、前壁、ハットトップ、後壁及び後ツバを含む略ハット型の形状となるように形成されている(断面図である図4も参照されたい)。
【0022】
前ツバに相当するのは、ロックリインフォース30の前端の平坦部位30aである。平坦部位30aは、ほぼ水平(R軸及びF軸で張られる面内に拡がる)に形成されている。前壁に相当するのは、平坦部位30b、30cである。平坦部位30bは、下に向かうほど(U軸の負方向に向かうほど)、後に位置する(F軸の負方向に位置する)角度で形成された後傾部となっている。平坦部位30cは、ほぼ真下に向かって延びている。ハットトップに相当するのは平坦部位30dである。平坦部位30dは、ほぼ水平に形成されている。後壁に相当するのは、平坦部位30e、30f、30gである。このうち平坦部位30e、30gはほぼ真上に向かって延びており、平坦部位30fは上に向かうほど後ろに位置する後傾部となっている。後ツバに相当するのは後端の平坦部位30hである。平坦部位30hはほぼ水平に形成されている。
【0023】
ロックリインフォース30は、車幅方向(R軸に沿った方向)には、ほぼ一様な形状で延びている。また、ロックリインフォース30の両端には壁は設けられておらず、ハットの側面は開放された状態にある。このため、ロックリインフォース30は、両端に壁がある場合に比べて潰れやすい構造となっている。
【0024】
続いて、図4を参照して、詳細な構造について説明する。図4は、フード14の前方付近における前後-上下断面での断面図であり、図2及び図3におけるAA断面に対応している。この断面は、車幅方向における車両中心位置を通る面であり、ストライカ40を含む面となっている。
【0025】
フード14は、車両の外板を構成するフードアウタパネル16と、その下面側に位置するフードインナパネル20を結合して形成されている。フードアウタパネル16は、例えば、鋼板をプレス加工して形成されており、デザインを考慮した滑らかな形状となっている。フードインナパネル20は、上述の通り、凹凸形状に作られている。フードインナパネル20における貫通孔22の周囲の部位20aは、相対的に下方向に位置するように形成されており、フードアウタパネル16との間には若干の距離が開けられている。また、フードインナパネル20における前端付近の部位20bと、貫通孔24付近の部位20cは、相対的に上方向に位置するように形成されており、複数箇所においてフードアウタパネル16とスポット溶接あるいは接着剤等により結合される。
【0026】
フードインナパネル20における貫通孔22の付近では、フードアウタパネル16との間に、デントリインフォース28が設けられている。デントリインフォース28は、鋼板などをプレス加工して形成されている。デントリインフォース28は、貫通孔22の前方と後方において、フードインナパネル20の側に近接し、貫通孔22の上部においてフードアウタパネル16に近接する立体的な形状となっている。デントリインフォース28は、貫通孔22の上部において、必要に応じて接着剤等によりフードアウタパネル16に結合される。フードインナパネル20の貫通孔22の付近では、フード14の曲げ変形に対する強度が比較的弱い。また、ロックリインフォース30には、フード14の開閉時などに大きな力が加わる場合がある。そこで、デントリインフォース28を設けて、貫通孔22の付近におけるフード14の曲げ変形に対する強度を高めている。
【0027】
ロックリインフォース30は、フードインナパネル20に取り付けられている。具体的には、前ツバに相当する平坦部位30aの下面(ハットトップ側の面)と、後ツバに相当する平坦部位30hの下面が、フードインナパネル20におけるフードアウタパネル16側の面に取り付けられている。さらに詳細には、平坦部位30aは、フードインナパネル20における貫通孔22の前側の外縁部に取り付けられ、平坦部位30hは、後側の外縁部に取り付けられている。取り付けにあたっては、デントリインフォース28とともに、スポット溶接が行われる。すなわち、平坦部位30aの下面側にはフードインナパネル20が重ねられ、上面側にはデントリインフォース28が重ねられてスポット溶接50が行われる。また、平坦部位30hの下面側にはフードインナパネル20が重ねられ、上面側にはデントリインフォース28が重ねられてスポット溶接50が行われる。
【0028】
ロックリインフォース30における前壁に相当する平坦部位30bは、貫通孔22を貫いて下方に突出している。この平坦部位30bは、水平面に対して後傾角度φだけ後傾した後傾部である(後傾角度φは、後傾が大きくなるほど、つまり水平に近づくほど、値が小さくなることに注意されたい)。また、後壁に相当する平坦部位30gも、貫通孔22を貫いている下方に突出している。こうして、トップハットに相当する平坦部位30dを含むロックリインフォース30が、フードインナパネル20の下方に突出した状態で固定されている。
【0029】
ロックリインフォース30の内側(フードアウタパネル16の側)には、平坦部位30c、30d、30eに囲まれた付近に、ブラケット38が設けられている。ブラケット38は、ロックリインフォース30の平坦部位30dを強化して、ストライカ40を固定するために設けられている。
【0030】
ストライカ40は、例えば、鉄、アルミ合金等の金属棒を曲げ加工して略U字型に形成した部材である。ストライカ40は、平坦部位30dの下面側に突出するように取り付けられている。具体的には、ストライカ40の2本の脚が平坦部位30d及びブラケット38を貫通して配置され、アーク溶接52によって固定される。ストライカ40は、その下部に配置されるボディ側のラッチ60と嵌合して、フード14のロックを行う。
【0031】
図4には、頭部インパクタ100も図示している。頭部インパクタ100は、衝突角度θをもつ進入線102に沿って進入し、フードアウタパネル16の外表面における衝突開始位置Pに衝突を開始した段階にある。衝突開始位置Pは、フードアウタパネル16の傾斜角と、頭部インパクタ100の衝突角度θによって決まる。図示した例では、衝突開始位置Pにおける法線104が水平面となす法線角度はηである。図4の例では、ロックリインフォース30の後傾部である平坦部位30bの後傾角度φと、頭部インパクタ100の衝突角度θと、衝突開始位置Pにおける法線104の法線角度ηは、φ<θ<ηの関係にある。
【0032】
頭部インパクタ100は、衝突開始時点から、フードアウタパネル16に力の単位でみれば衝突荷重を与え、エネルギの単位でみれば衝突エネルギを与える。そして、フードアウタパネル16では、頭部インパクタ100に反力を与えるとともに、変形を起こしながら衝突エネルギを吸収していく。
【0033】
頭部インパクタ100がフードアウタパネル16に与える荷重の方向は、フードアウタパネル16の変形を考慮するとかなり複雑である。しかし、頭部インパクタ100が衝突角度θで進入したことから、衝突角度θに比較的近くなると考えられる。また、フードアウタパネル16で完全弾性衝突を起こしたと仮定すると、フードアウタパネル16は法線角度ηの方向の力を受けるが、衝突は完全弾性衝突ではないから、荷重方向はηよりも小さくなると考えられる。
【0034】
ところで、フードアウタパネル16に与えられた衝突荷重は、フードアウタパネル16の下面側において、フードインナパネル20及びデントリインフォース28に伝達され、さらにスポット溶接50を介して、ロックリインフォース30に伝達さる。衝突荷重は、さらに、ロックリインフォース30からストライカ40に伝達され、ラッチ60を介してボディ側にも伝達される。しかし、ストライカ40及びラッチ60はロックにおける若干の遊びを除けば、硬く形成されており、ほとんど変形することはない。このため、衝突エネルギ吸収は、フードアウタパネル16、フードインナパネル20、デントリインフォース28、及びロックリインフォース30が変形することで行われる。
【0035】
このうち、フードアウタパネル16、フードインナパネル20、及びデントリインフォース28は、比較的薄い鋼板を用いて形成されており、変形しやすい。これに対し、ロックリインフォース30は、比較的厚い鋼板を用いて強固に形成されているため、変形をおこしにくい。しかし、歩行者の頭部を十分に保護するためには、ロックリインフォース30がある程度変形することが望ましいと言える。
【0036】
ロックリインフォース30は、実験的には、図4において、前壁に相当する平坦部位30b、30cが矢印70の方向に開き、後壁に相当する平坦部位30e、30f、30gが矢印72の方向に開いた場合に、比較的変形が起こりやすい。このうち、後壁では、矢印72の方向は、頭部インパクタ100の移動方向に近いため、平坦部位30e、30f、30gは容易に矢印72の方向に開く。しかし、前壁では、矢印70の方向は、頭部インパクタ100の移動方向に対して直角に近いため、平坦部位30b、30cの動きの制御が求められることになる。特に、前壁の動きは、スポット溶接50を受けた平坦部位30aから、平坦部位30aと連続する平坦部位30bへと伝達される段階が特に重要になると考えられる。
【0037】
そこで、実施形態では、ロックリインフォース30の前壁における平坦部位30bの後傾角度φが衝突開始位置Pの法線角度ηよりも小さくなること(言い換えれば、平坦部位30bが衝突開始位置Pの法線角度ηよりも後傾すること)、すなわち次式を満たすことを条件として設定している。
φ < η ・・・条件1
【0038】
このように設定することで、衝突荷重が法線104の方向に入力された場合にも、平坦部位30bは、矢印70の方向に変形し、ロックリインフォース30が潰れやすくなることが期待できる。
【0039】
ただし、上述のように、衝突荷重は法線角度ηよりも小さくなると考えられることから、条件1よりも厳しい条件として、平坦部位30bの後傾角度φが衝突角度θと同じか衝突角度θよりも小さいこと(言い換えれば、平坦部位30bが衝突角度θと同じかそれ以上後傾すること)、すなわち次式を満たすことを条件として設定してもよい。
φ ≦ θ ・・・条件2
【0040】
また、条件1と条件2の間の条件として、平坦部位30bの後傾角度φを、衝突角度θよりも大きく法線角度ηよりも小さいθ+Δθとすること、すなわち、次式を満たすようにしてもよい。
φ ≦ θ+Δθ ・・・条件3
【0041】
ここで、Δθは、θ<θ+Δθ<ηを満たす値である。条件3を別の表現で記せば、平坦部位30bが衝突角度θと略同一かそれ以上後傾することと言うことができる。
【0042】
後傾角度φの下限は特に限定されるものではないが、設計上の態様を考えれば、少なくとも水平よりも大きくすること、すなわち、次式を満たすようにすることが考えられる。
0°< φ ・・・条件4
【0043】
なお、図4の例では、前壁に相当する部分は後傾部である平坦部位30bと、非後傾部である平坦部位30cの二つから構成されるものとした。この構成に代えて、前壁を後頚部のみで形成するようにしてもよい。また、例えば、前壁をある程度の曲率を有する曲面としてもよい。いずれにせよ、前壁のうち前ツバに接続されている部位(言い換えれば、前壁のうち前ツバと近接している部位)について、上記条件を満たすような後傾角度φで後傾させることで、目的を達成することが可能となる。
【0044】
また、図4の例では、頭部インパクタ100の衝突開始位置Pを平坦部位30a付近であるとした。衝突開始位置Pが異なると、ロックリインフォース30への荷重伝達の流れが変化する。しかし、その場合にも、頭部インパクタ100の荷重が全体として、頭部インパクタ100の衝突角度θあるいは新たな衝突開始位置Pの法線角度に大きく依存することになる。したがって、衝突開始位置Pが多少変わっても上の条件を維持することが可能である。また、頭部インパクタ100の衝突開始位置Pが図4の例から大きくずれた場合には、ロックリインフォース30の存在は、衝撃吸収の障害とはならない。したがって、上述の条件を設定しておけば、衝突開始位置Pが様々に変化しても十分な歩行者保護性能を得ることができる。
【0045】
ここで、具体的な数値の例について説明する。例えば、歩行者頭部保護性能試験において、子供用の頭部インパクタ100を衝突させる場合にθ=50°の設定がなされたとする。この場合、条件2に従えば、後傾角度φは、φ≦50°となる。また、条件3は、例えばΔθ=5°とすればφ≦55°であり、Δθ=3°とすればφ≦53°であり、Δθ=1°とすればφ≦51°である。
【0046】
あるいは、歩行者頭部保護性能試験において、大人用の頭部インパクタ100を衝突させる場合にθ=65°の設定がなされたとする。この場合、条件2に従えば、後傾角度φは、φ≦65°となる。また、条件3は、例えばΔθ=5°とすればφ≦70°であり、Δθ=3°とすればφ≦68°であり、Δθ=1°とすればφ≦66°である。歩行者頭部保護性能試験では、頭部インパクタの衝突角度θは国や、時代によって異なることも考えられる。しかし、試験の設定は、実際のデータ等を勘案して行われるため、その国や時代に応じた試験に適合させることで、歩行者頭部保護性能を高めることが可能となる。
【0047】
最後に、図5を参照して参考形態について説明する。図5は、図4に対応する図であり、図4と同一の構成には同一の符号を付して説明を簡略化ないし省略する。
【0048】
図5では、図4に示したロックリインフォース30に代えて、ロックリインフォース130を使用している。ロックリインフォース130は、前ツバとしての平坦部位130aが若干幅広になっている。そして、前壁としての平坦部位130bの後傾角度φ’の角度が衝突開始位置Pにおける法線角度ηよりも大きくなっている(平坦部位130bの後傾は小さくなっている)。ただし、フードインナパネル20における貫通孔22の大きさは、条件を揃えるために、変更していない。
【0049】
ロックリインフォース130では、衝突荷重を受けた場合に、前壁部分に矢印170の方向に変形させる荷重が働く。上述の通り、この場合には、実験的に、ロックリインフォース130が潰れにくく、衝突エネルギを十分に吸収できない。したがって、頭部インパクタ100への反力が大きくなってしまう。
【符号の説明】
【0050】
10 車両、12 エンジンルーム、14 フード、16 フードアウタパネル、20 フードインナパネル、20a、20b、20c 部位、22、24 貫通孔、28 デントリインフォース、30 ロックリインフォース、30a、30b、30c、30d、30e、30f、30g、30h 平坦部位、38 ブラケット、40 ストライカ、50 スポット溶接、52 アーク溶接、60 ラッチ、70、72 矢印、100 頭部インパクタ、102 進入線、104 法線、130 ロックリインフォース、130a、130b 平坦部位、170 矢印、P 衝突開始位置、η 法線角度、θ 衝突角度、φ、φ' 後傾角度。
図1
図2
図3
図4
図5